説明

ポリマーフィルムの製造方法

【課題】生産性を向上させて平面性に優れるポリマーフィルムを製造する。
【解決手段】有機溶媒とセルロースアシレートとを含む原料ドープに添加剤を入れて、基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープを調製する。このうち少なくとも2種類以上は粘度に差異を持たせる。走行する流延バンド85上に流延ダイ89から各ドープを共に流延し、基層120a、外気に面するエア面層121a、支持体面層122aからなる3層の流延膜70を形成する。基層120aの膜厚t1、支持体面層122aの膜厚t2、エア面層121aの膜厚t3をt2≦t3≦t1とする。流延バンド85から剥ぎ取った流延膜70の両側端部を把持手段で把持し、幅方向に延伸しながら乾燥させる。エア面層のレベリング効果を向上させ、かつ流延膜を効果的に乾燥することで、生産性を向上させて平面性に優れるフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の主要部材である光学フィルムとして好適に用いられるポリマーフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムは、透明度が高いこと、加工性や取り扱い性に優れること、また、小型・軽量化が可能であること等の利点から、例えば、液晶表示装置の偏光板を保護する偏光板保護フィルムや視野角拡大フィルム等として広く利用されている。中でも、ポリマーとしてセルロースアシレートや環状ポリオレフィンを使用したフィルムは、原料単価が安く、広視野角や高透過率である等の優れた光学特性を有するので高機能・低コスト化を実現させ得る光学フィルムとして注目度が高い。
【0003】
ポリマーフィルムを製造する際には、主に溶液製膜方法が用いられている。溶液製膜方法とは、走行する支持体上に、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等のポリマーと有機溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体より剥ぎ取って有機溶媒を含んだフィルム、すなわち湿潤フィルムとしてから乾燥させてフィルムとする方法である。なお、以下の説明では、ポリマーフィルムを単にフィルムと称する。
【0004】
近年、液晶表示装置等の画像表示装置における小型・薄型化の加速、また、その需要の著しい増大に伴い、溶液製膜方法には、平面性に優れるセルロースアシレートフィルムを生産性を向上させて製造することができる技術の構築が望まれている。そこで、溶液製膜方法では、より優れた生産性でフィルムを製造するために、様々な工夫が行なわれている。例えば、乾燥風を吹き付ける等して流延膜が自己支持性を持つまで乾燥する方法が挙げられる。この方法によれば、流延膜を支持体から安定して容易に剥ぎ取ることができるので、生産性が向上する。また、流延膜の乾燥速度を向上させて製造時間を短縮化することにより、生産性の向上を図る方法も挙げられる。しかし、乾燥速度の向上を目的として乾燥風の吹き付ける強さを変えれば、流延膜の表面に凹凸が発生し、フィルムの平面性を低下させるので問題である。
【0005】
平面性に優れるフィルムを製造するには、支持体上に粘度の異なる2種類以上のドープを共に流延する方法であり、粘度の低いドープで支持体から最も遠くに存在し、外気に面する層を形成し、この層と支持体との間に存在する層を高粘度のドープで形成する方法が既に知られている。なお、本発明では、上記のうち外気に面する層をエア面層、エア面層と支持体との間に存在する層を基層と称する。このように低粘度のドープから形成されたエア面層では、表面張力で平滑化しようとするレベリング効果が向上するため、凹凸の発生が抑制され平面性に優れるフィルムが得られる。
【0006】
そこで、生産性を向上させて平面性に優れるフィルムを製造する方法として、例えば、特許文献1には、エア面層を形成するためのドープの粘度を20Pa・s以下、気層を形成するためのドープの粘度を30Pa・s以上60Pa・s以下、更に、各ドープを共流延した後から20秒以内に風速10m/秒以上の乾燥風を吹き付ける方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−276037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のように、粘度の低いドープでエア面層を形成するだけでは、流延膜の表面における凹凸の発生を十分に抑制することが難しく、近年、求められている平面性のレベルを満足するフィルムを得ることができない。また、流延膜を支持体から剥ぎ取る際に、剥取性が低下して支持体上に流延膜の一部が剥げ残ることがある。この場合、生産性の低下を引き起こすだけでなく、フィルムの表面に上記の剥げ残りが触れると平面性が低下するので問題である。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決することを目的として、流延膜の表面における凹凸の発生を効果的に抑制し、平面性に優れるフィルムを製造することができる方法を提供することを第1の目的とする。また、流延膜と支持体との剥取性を向上させることにより、フィルムの平面性が低下するのを抑制し、生産性を向上させた方法の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリマーフィルムの製造方法は、走行する支持体上に、ポリマー及び有機溶媒を含む原料ドープに添加剤を入れた混合物であり、基層を形成させるための基層用ドープと、基層の表面のうち支持体側に接した支持体面層を形成させるための支持体面層用ドープと、基層の表面のうち支持体面層とは反対側に存在し、外気に面したエア面層を形成させるためのエア面層用ドープと、を共に流延して複層構造の流延膜を形成する流延膜形成工程と、流延膜を支持体より剥ぎ取って溶媒を含んだ湿潤フィルムとする剥取工程と、把持手段により湿潤フィルムの両側端部を把持した後、把持手段の移動にしたがい湿潤フィルムを搬送する間に、把持手段の幅を変更して湿潤フィルムを幅方向に延伸させ、かつ乾燥手段により乾燥する把持乾燥工程と、を有し、基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープ、のうち少なくとも2種類以上は異なる粘度とし、流延膜を構成する基層の厚みt1(μm)と、支持体面層の厚みt2(μm)と、エア面層の厚みt3(μm)との関係を、t2≦t3≦t1とすることを特徴とする。
【0010】
流延膜の厚みに対するt3の割合を、3%以上40%以下とすることが好ましい。
【0011】
基層用ドープの粘度η1(Pa・s)と、支持体面層用ドープの粘度η2(Pa・s)と、エア面層用ドープの粘度η3(Pa・s)との関係を、η3≦η2≦η1とすることが好ましい。
【0012】
ポリマーは、重合度が250以上450以下のセルロースアシレートであることが好ましい。また、η3が、5Pa・s≦η3≦30Pa・sを満たすこと好ましい。
【0013】
エア面層用ドープの重量Aと、このドープに含まれる有機溶媒の重量Bとは、16≦{(A−B)/A}×100≦21を満たすことが好ましい。
【0014】
原料ドープは、添加剤を入れた後にインラインミキサーで攪拌混合することが好ましい。
【0015】
インラインミキサーは、原料ドープが流れる配管の直径方向に伸びるように設けられ、添加剤の投入口となるスリット状の添加口を備えることが好ましい。
【0016】
添加口は、配管の径方向に平行となる長さLが配管の内径の20%以上80%以下であることが好ましい。
【0017】
スリットの隙間Cが、0.1mm以上前記配管の内径の1/10mm以下であることが好ましい。
【0018】
添加口からインラインミキサーまでの距離Dを、1mm以上250mm以下とすることが好ましい。
【0019】
配管内を流れる添加剤の流速V1及び原料ドープの流速V2は、1≦V1/V2≦5を満たすことが好ましい。
【0020】
流延は、基層用ドープと支持体面層用ドープとエア面層用ドープとを、支持体上に同時あるいは逐次に流出することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流延膜の表面における凹凸の発生を抑制しながら流延膜を十分に乾燥させることができるので、生産性を大幅に向上させて平面性に優れたフィルムを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るドープについて説明する。このドープとは、ポリマーや有機溶媒及び添加剤を攪拌混合させて得られる混合物である。
【0023】
ドープの調製に用いられるポリマーは、特に限定されず、溶液製膜方法によりフィルムとすることができる公知のもので良い。中でも、偏光板用の保護フィルムや、光学補償フィルム等の光学用途に広く用いられているセルロースアシレートが好ましい。セルロースアシレートは、透明度の高いフィルムを製造することを目的として、セルロースをアセチル化することにより得られるものであり、特に、トリアセチルセルロース(TAC)が好適に用いられる。また、ポリマーとして環状ポリオレフィンも好ましく使用することができる。環状ポリオレフィンは、透明性に優れると同時に、光学特性の耐湿熱安定性が優れたポリマーフィルムを製造することができる。
【0024】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0025】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートが好ましい。このようなセルロースアシレートを用いれば、有機溶媒に対する溶解度が高いドープを得ることができる。特に、非塩素系有機溶媒を用いれば、溶解度が非常に高く、低粘度であり、濾過装置により濾過する場合の濾過効率に優れたドープを得ることができる。
【0026】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでも良い。ここで、リンター綿から得られたものを使用すると、製造時に光学特性を制御し易く、不純物が少なく透明度が高いフィルムを得ることができる。このようなフィルムは、光学フィルムとして好適に用いられる。
【0027】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0028】
本発明では、エア面層を形成するためのエア面層用ドープと、基層を形成するための基層用ドープと、支持体層を形成するための支持体層用ドープとが使用され、各ドープの粘度は所定の範囲で調節される。ドープの粘度を調節する方法は、特に限定されるものではないが、異なる重合度のポリマーを使用することでも粘度を調節する方法が好適に用いられる。ポリマーの重合度の違いはドープの粘度に影響し、重合度の高いポリマーからは高粘土のドープ、重合度の低いポリマーからは低粘度のドープが得られる。このため、多量の溶媒で希釈させることにより粘度を下げる方法に比べて、乾燥時間の短縮化を図り生産性を向上させることができる。
【0029】
具体的には、ポリマーとして、その重合度が250以上450以下のセルロースアシレートを用いることが好ましい。この中で、基層用ドープ及び支持体面層用ドープには、重合度が300以上450以下のセルロースアシレートが好適であり、エア面層用ドープには重合度が250以上350以下のセルロースアシレートが好適である。この場合、エア面層用ドープには、基層用ドープ及び支持体面用ドープよりも重合度が低いポリマーを選択する。これにより、低粘度のドープでエア面層を形成させてレベリング効果を向上させることにより、平面性の低下を抑制する。また、高粘度のドープを基層用ドープとすることで、共流延時のドープの流れが安定する。なお、ドープの粘度を調節する方法としては、例えば、ポリマーと混合させる有機溶媒の量を制御して、ドープ中に存在する有機溶媒以外の含有物である固形分の濃度を調整する方法も挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを有機溶媒に溶解または分散させた混合物を意味する。
【0030】
本発明においては、環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィン構造を有する重合体樹脂を表す。本発明に用いる環状オレフィン構造を有する重合体樹脂の例には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などがある。本発明において好ましく用いられる重合体樹脂は、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種以上含む付加(共)重合体環状ポリオレフィンおよび必要に応じ、一般式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンである。また、一般式(III)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体も好適に使用することができる。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
化1〜化3における各式において、mは0〜4の整数を表す。R〜Rは水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、X〜X、Y〜Yは水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、−(CH)COOR11、−(CH)OCOR12、−(CH)NCO、−(CH)NO、−(CH)CN、−(CH)CONR1314、−(CH)NR1314、−(CH)OZ、−(CH)W、またはX及びY、或いはX及びY、或いはX及びYから構成された(−CO)O、(−CO)NR15を示す。なお、R11、R12、R13、R14、R15は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、Zは炭化水素基またはハロゲンで置換された炭化水素基、WはSiR163-p(R16は炭素数1〜10の炭化水素基、Dはハロゲン原子、−OCOR16または−OR16、pは0〜3の整数を示す)、nは0〜10の整数を示す。
【0035】
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−007732号公報、特表2002−504184号公報、US2004229157A1号、WO2004/070463A1号等の各公報に開示されており、ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合することによっても得ることができる。ここで必要に応じて、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、次のようなジエン化合物とを付加重合して得ることもできる。ジエン化合物としては、共役ジエン、非共役ジエン、線状ジエン化合物等が挙げられる。ここで、共役ジエンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。非共役ジエンとしては、例えば、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。線状ジエン化合物としては、例えば、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。ノルボルネン系付加(共)重合体は、市販品を用いれば良く、特に限定されるものではない。具体的には、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)の違いに応じて複数のグレードが入手可能である。具体的には、例えば、APL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)あるいはAPL6015T(Tg145℃)等が挙げられる。また、ポリプラスチック(株)よりTOPAS8007、同6013、同6015等のペレットが発売されている。更に、Ferrania社よりAppear3000が発売されている。
【0036】
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号、特開平7−196736号、特開昭60−26024号、特開昭62−19801号、特開2003−1159767号、特開2004−309979号等の各公報に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより作られたものを用いることができる。本発明に用いるノルボルネン系重合体において、R〜Rは水素原子又は−CH3が好ましく、X、及びYは水素原子、Cl、−COOCHが好ましく、その他の基は適宜選択される。このノルボルネン系樹脂は、市販品を用いることもできる。具体的には、JSR(株)からアートン(Arton)GあるいはアートンFという商品名で発売されており、日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250、或いはゼオネックス280という商品名で市販されている。
【0037】
本発明において好適な環状ポリオレフィン系樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した質量平均分子量(Mw)は、がポリスチレン分子量換算で5000〜1000000であることが好ましく、10000〜500000であることがより好ましく、50000〜300000であることがさらに好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn;MnはGPCにより測定した数平均分子量)は10以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは3.0以下である。ガラス転移温度(Tg;DSCにより測定)は50〜400℃であることが好ましく、より好ましくは80〜350℃、さらに好ましくは100〜330℃の範囲にある。
【0038】
ドープの有機溶媒としては、セルロースアシレート或いは、環状ポリオレフィンを溶解することができる化合物を用いることが好ましい。例えば、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。
【0039】
有機溶媒は疎水性のものが好ましく、ジクロロメタンがもっとも好ましい。また、前述したハロゲン化炭化水素としては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。セルロースアシレートの溶解度や、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、さらには、フィルムの機械強度、光学特性等の観点から、ジクロロメタンに炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類を混合したものが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0040】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。なお、これらのエーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよいし、エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も有機溶媒として用いることができる。また、有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。そして、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合には、その炭素原子数が、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0041】
なお、ドープを調製する際のポリマーとしてトリアセチルセルロース(TAC)を使用する場合には、後述する原料ドープ中のTAC濃度(重量濃度)が、5〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは、TAC濃度が15〜30重量%であり、特に好ましくは、17〜25重量%である。このようなTACフィルムを製造する溶液製膜法での流延用ドープの製造方法(例えば、素材、原料の溶解方法および添加方法、濾過方法、脱泡等)は、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0042】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0043】
次に、本発明に関わるフィルムの製造方法について説明する。以下の説明では、先ず、ポリマーとしてセルロースアシレートを使用してドープを調製する方法を説明する。なお、ここに示す形態は本発明に係る一例であり、本発明を限定するものではない。
【0044】
本実施形態では、図1に示すドープ製造設備10により、ポリマーと有機溶媒とを含む原料ドープを調製した後に、これに所望の添加剤を適宜入れてエア面層用ドープ、基層用ドープ、基層と支持体との間に配される支持体層用ドープを調製する。このドープ製造設備10には、ドープの有機溶媒となる溶剤を貯留する溶媒タンク11と、セルロースアシレートが入れられているホッパ13と、セルロースアシレートと溶剤とを混合して混合液17とする混合タンク15と、混合液17を加熱して溶解度を向上させる加熱装置22と、混合液17の温度を調節して原料ドープ20とする温調装置23とが備えられている。また、原料ドープ20を濾過するための第1濾過装置25、第2濾過装置26と、濾過した後の原料ドープ20を貯留するためのストックタンク28と、原料ドープ20の濃度を調整するためのフラッシュ装置31と、フラッシュ装置31内で発生した揮発溶剤を回収する回収装置32と、回収した溶剤を再生する再生装置33とが備えられている。なお、以下の説明では、エア面層用ドープ、基層用ドープ、支持体面層用ドープを纏めて流延用ドープと称する。
【0045】
混合タンク15には、その外面を包み込むようにして設けられたジャケット35と、モータ37により回転する第1攪拌機38と、モータ39により回転する第2攪拌機40とが取り付けられている。第1攪拌機38としては、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機40としては、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。ジャケット35は、その内部に伝熱媒体を流し温度を調整することで、混合タンク15の内部を所定の温度範囲に制御するためのものである。
【0046】
加熱装置22は、温度制御可能なジャケット付き配管が好ましく用いられ、混合液17中の固形分の溶解度を向上させる。加熱装置22は、溶解度を向上させる上で、混合液17を加圧するための加圧手段を備えているものが好ましい。加熱装置22による混合液17の加熱温度は、0〜97℃とすることが好ましい。これにより、混合液17に対して熱ダメージを与えずに、効果的に溶解度を向上させることができる。本発明において、加熱装置22による加熱とは、室温以上の温度に混合液17を加熱するということではなく、混合液17の温度を上昇させると言う意味である。例えば、混合液17の温度が−7℃のときには、0℃にする場合が挙げられる。
【0047】
混合液17の溶解度を向上させるには、加熱装置22による加熱溶解に代えて混合液17を冷却する冷却溶解法も好適である。冷却溶解法を用いる場合には、混合液17を−100〜−10℃の範囲で冷却する。各原料の性状等に応じて、加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択しながら実施すれば、混合液17の溶解度を効果的に制御することができるので好ましい。
【0048】
温調装置23は、混合液17を略室温とするためのものである。本実施形態では、温調装置23を出た後の液を原料ドープ20と称する。原料ドープ20とは、溶剤にセルロースアシレートを含むポリマーを溶解又は分散させた液である。このとき、ポリマーは完全に溶解していることが好ましい。
【0049】
第1濾過装置25及び第2濾過装置26の内部には、所望の平均孔径のフィルタが備えられており、フィルタに通された原料ドープ20中から不溶解物が取り除かれる。微小な不溶解物を捕捉する上で、フィルタの平均孔径は100μm以下とすることが好ましい。フィルタの平均孔径は特に限定されないが、フィルタの平均孔径が小さすぎると、濾過に要する時間が長くなり、作業性が低下し、フィルタの平均孔径が大きすぎると、原料ドープ中に含まれる微小な不溶解物を捕捉することが難しいので、作業時間等を考慮しながら適宜選択する。また、第1濾過装置25、第2濾過装置26により原料ドープ20を濾過する際の濾過流量は、濾過に時間をかけ過ぎずに作業を進める上で、50L/時以上とすることが好ましい。
【0050】
ストックタンク28には、その外面を包み込むジャケット43と、モータ45により回転する攪拌機46とが取り付けられている。ストックタンク28は、混合タンク15と同様にジャケット43の内部に所定の温度に調整された伝熱媒体が流され、その内部温度が調整される。ストックタンク28では、モータ45で攪拌機46を常時回転させて、原料ドープ20を攪拌することにより、その中に異物が凝集するのを抑制し、均一な状態を保持する。
【0051】
ストックタンク28には、原料ドープ20に適宜添加剤を入れて流延用ドープを調製するための第1〜第3送液ラインL1〜L3が接続されている。第1送液ラインL1は基層用ドープを、第2送液ラインL2は支持体面層用ドープを、第3送液ラインL3はエア面層用ドープをそれぞれ調製するためのものである。また、各送液ラインL1〜L3の片端はフィルム製造設備50内に備えられる流延ダイに接続されており、調製した基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープがフィルム製造設備50へ送られる仕組みになっている。
【0052】
第1〜第3送液ラインL1〜L3には、所望の液が貯留された第1〜第3タンク52,55,58が接続されている。上記の液は、予め所望とする添加剤を溶剤に溶解又は分散させた添加剤溶液である。添加剤は、特に限定されるものではなく、所望とする層の特性に応じて適宜選択され、好適には、紫外線吸収剤、可塑剤、レタデーション制御剤、劣化防止剤、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)や、マット剤(例えば、二酸化ケイ素など)等が用いられる。ただし、添加剤の種類は特に限定されず、溶液製膜方法で公知であるものの中から適宜選択して用いれば良い。また、上記の溶剤も特に限定されるものではないが、ドープの調製に用いたものと同じにすれば、原料ドープ20に対する相溶性が良好なので好ましい。なお、以下の説明では、第1〜第3タンク52,55,58に貯留されている液を、第1液52a、第2液55a、第3液58aと順に称する。
【0053】
なお、添加剤は溶液として用いる必要はなく、添加剤が常温で液体の場合にはそのままの状態で用いれば良い。また、添加剤溶液は、流延用ドープに対して同じものを用いる必要はなく、流延用ドープの種類に応じて適宜選択すれば良い。例えば、エア面層と支持体面層とにのみマット剤を含む液を入れれば、剥取性の向上及び製品としてロール状に巻き取る場合、その接触面における接着が防止される。一方で、基層ではマット剤の凝集が生じないので高い透明度を示す。
【0054】
マット剤として作用する微粒子としては、二酸化ケイ素誘導体が好適に用いられる。二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素であり、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。このように微粒子として二酸化ケイ素誘導体であり、さらにはその表面がアルキル化処理されたものを使用すると、アルキル化処理という疎水化処理が施されているために、溶媒に対しての分散性がよい。したがって、微粒子同士の凝集を抑制してフィルムを製造することができるので、面状欠陥が少なく、かつ透明度が高いフィルムを製造することが可能となる。
【0055】
なお、アルキル化処理された微粒子の表面に導入されるアルキル基は、炭素数が1〜20とする。より好ましくは、導入されるアルキル基の炭素数が、1〜12であり、特に好ましくは、炭素数が1〜8である。このようなアルキル基が導入された微粒子では、微粒子同士の凝集をより抑制し、かつ分散性を向上させることができる。上記のように表面に炭素数が1〜20のアルキル基を有する微粒子は、例えば、二酸化ケイ素の微粒子をオクチルシランで処理することにより得ることができる。また、表面にオクチル基を有する二酸化ケイ素誘導体の一例としては、アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明では、これも好ましく用いることができる。
【0056】
原料ドープの固形分に対する微粒子の含有量は0.2%以下となるようにすることが好ましい。微粒子の含有量は、原料ドープを調製に使用する溶剤に対する微粒子の添加量を決定して調整すれば良い。このように含有量を制御しながら微粒子を添加させた原料ドープでは、微粒子の凝集による異物の発生を抑制することができるために高い透明度を示す。なお、微粒子は、その平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
【0057】
なお、本発明に用いることができる添加剤としては、上記のほかにも、例えば、光学異方性コントロール剤、染料等が挙げられるが、これらの添加剤に関しては、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用させることができる。
【0058】
各送液ラインL1〜L3において、添加剤溶液が入れられる地点よりも下流側には、第1〜第3スタティックミキサー53,55,59が取り付けられており、このミキサーで添加剤溶液が入れられた原料ドープ20は攪拌混合されて、所望とする流延用ドープ、すなわち基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープが得られる。
【0059】
ドープ製造設備10を構成する各装置や部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管により接続されている。また、各配管の適当な箇所には、ポンプP1〜P8と、バルブV1、V2とが取り付けられている。ただし、ポンプやバルブは、必要に応じて設置数及び配置箇所等を変更することができるものであり、本実施形態に限定されるものではない。
【0060】
次に、上記のドープ製造設備10により流延用ドープを調製する手順について説明する。
【0061】
バルブV1が開かれ溶媒タンク11から混合タンク15へ適量の溶剤が送られ、ホッパ13から混合タンク15へ適量のセルロースアシレートが送られる。この後、混合タンク15では、第1攪拌機38及び第2攪拌機40を適宜回転させて各種原料を混合する。このとき、混合タンク15の内部温度は、ジャケット35の内部に温度が調節された伝熱媒体を通過させることにより−10〜55℃の範囲で保温される。なお、混合タンク15に送液するドープ原料の順番を、溶剤、セルロースアシレートの順としたが、この順番に限定されるものではなく、例えば、セルロースアシレート、溶剤の順としても良い。
【0062】
ポンプP1により流量が調整されながら混合液17は加熱装置22へ送られ、所定の温度に加熱される。加熱により溶解度が高められた混合液17は、温調装置23に送られ略室温とされる。以上により、原料ドープ20が調製される。原料ドープ20は、平均孔径が100μm以下のフィルタを備える第1濾過装置25で濾過されることで、不溶解物が取り除かれる。ここで、原料ドープ20が所望の濃度を満たす場合には、ストックタンク28へ送られ、流延に供されるまでの間、貯留される。
【0063】
ただし、上記のように混合液17を作ってから所望の濃度の原料ドープ20を調製する方法では、所望とする原料ドープ20の濃度が高いほど調製に要する時間が長くなるため、製造コストの増大を引き起こす等の問題が生じる。そこで、このような問題を回避するために、目的とする濃度よりも低濃度の原料ドープ20を調製した後、所望の濃度となるように濃縮させることが好ましい。本実施形態でも、この方法を採用し、以下に、濃縮方法の詳細を説明する。
【0064】
先ず、所望の濃度よりも低濃度の原料ドープ20を調製する。原料ドープ20の調製方法は上述した通りである。次に、原料ドープ20を第1濾過装置25で濾過した後、バルブV2を介してフラッシュ装置31に送り込み、ここで原料ドープ20に含まれる溶媒の一部を蒸発させる。これにより、原料ドープ20を濃縮して所望の濃度に調整することができる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮液化した後、回収装置32で回収し、さらに再生装置33で再生する。この再生した溶媒を、混合液17を調整する際に使用すると、原料コストを削減できる等の効果を得ることが可能となる。
【0065】
濃縮した原料ドープ20は、ポンプP2によりフラッシュ装置31から抜き出された後、第2濾過装置26に送り込まれて含有する異物が除去される。そして、ストックタンク28に送り込まれて貯留される。なお、第2濾過装置26で濾過する際の原料ドープ20の温度は0〜200℃であることが好ましい。また、原料ドープ20をフラッシュ装置31から抜き出す際には、原料ドープ20の中に発生した気泡を抜くため、泡抜き処理を施すことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の方法を適用することができ、例えば、超音波照射法が挙げられる。
【0066】
ストックタンク28では、攪拌機46の回転により原料ドープ20を常時攪拌させる。ストックタンク28は、貯留する原料ドープ20の温度を略一定に保持するために、ジャケット43の内部に温度を調節した伝熱媒体を流して、その内部温度を好適に調整する。なお、本実施形態は、1台の製造設備で原料ドープを調製する形態を示したが、本発明はここに示す形態に限定されるものではなく、例えば、異なる種類のポリマー等を用いる場合には、別々にドープ製造設備を設けて、個々にドープを調製することもできる。
【0067】
原料ドープ20に所望とする添加剤溶液を入れ、流延用ドープを調製する。なお、流延用ドープを調製する一連の手順は同じであるため、以下の説明では、第1送液ラインL1において基層用ドープを調製する方法を代表して説明し、エア面層用ドープ及び支持体面層用ドープに関わる手順は省略する。
【0068】
ポンプP3により流量が調整されて、ストックタンク28から第1送液ラインL1の中に適量の原料ドープ20が送られる。第1タンク52から第1送液ラインL1中の原料ドープ20に対して第1液52aが送られる。第1液52aの流量はポンプP4により調節される。
【0069】
図2に示すように、配管60内に取り付けられた第1スタティックミキサー53は、第1スタティックミキサー53を構成するエレメント62、63が交互に配置された構造を有する。エレメント62、63は、長方形の板を180°ねじって形成されたものであり、エレメント62とエレメント63とは、ねじられる方向が逆にされている。また、エレメント62、63は、板の側端部が直交するようにそれぞれ90°ずらされた状態で配管60の長手方向に配置されている。
【0070】
第1スタティックミキサー53の上流側には、第1液52aが流される添加用配管65が配置されている。添加用配管65は、配管60を貫通する円管状のパイプ66と、このパイプ66の先端に取り付けられる添加ノズル68からなる。また、この添加ノズル68の先端には、スリット状の添加口69が形成されている。
【0071】
図3に示すように、添加ノズル68は、先端部にかけて配管60の直径方向に広がるように形成されており、添加ノズル68及び添加口69の長手方向と、添加ノズル68に最も近いエレメント62の側端部62aとが直交するように配置されている。添加口69から配管60内の原料ドープ20に対して第1液52aが入れられる。これにより、エレメント62により攪拌が始まるスタティックミキサーの先頭部から原料ドープ20に効率良くかつ安定して添加剤溶液を入れることができ、更にエレメント62の回転により原料ドープ20と第1液52aとを効率よく攪拌混合することができる。また、スタティックミキサーのエレメント数を減らして、工程の小型化及びコストの削減が可能となる。
【0072】
原料ドープ20に対して第1液52aをより安定して入れるために、添加口69からエレメント62の側端部62aとの間の距離Dを1mm以上250mm以下とすることが好ましい。より好ましくは、距離Dを2mm以上250mm以下とする。距離Dが近すぎると、原料ドープの抵抗で添加ノズル68が詰まってしまう恐れがあり、逆に遠すぎると第1スタティックミキサー53の中心に第1液52aを添加することができなくなる恐れがある。
【0073】
配管60の幅方向に対して第1液52aを均一に入れる上で、図4に示すように、添加口69のスリットの長さLを、配管60の内径W(mm)に対して20%〜80%とすることが好ましい。上記の割合は、(L/W)×100で表される値である。ここで、上記の割合が20%未満だと添加口69の幅が短いために攪拌効率が低下する。その一方で、上記の割合が80%を超えると、配管60とエレメント62との隙間に添加剤溶液が入る恐れがある。また、添加口69のスリットの隙間Cを0.1mm以上(配管60の内径Wの1/10)以下とすると、より確実にかつ効率良く原料ドープに添加剤溶液を入れることができるので好ましい。
【0074】
原料ドープ20中に添加剤溶液である第1液52aを均一に分散させるため、第1液52aの流速V1(m/sec.)と、原料ドープの流速V2(m/sec.)とは、1≦V1/V2≦5であることが好ましい。V1は添加用配管65に送られる第1液52aの流速であり、V2は配管60内に送られる原料ドープ20の流速である。V1及びV2は、各配管内に設置した流速計により測定することが可能である。ここで、V1/V2の値が1未満であり、より小さくなるほど、送液方向に液切れが発生する恐れがあり、逆に、V1/V2が5を超えて大きくなるほど、第1スタティックミキサー53を添加剤溶液52aが勢いよく通過してしまう恐れがある。なお、上記の流速は、流量計によりポンプP3、P4による流量を測定しながら、各測定値に応じて適宜調節すれば良い。
【0075】
第1液52aの粘度をN1(Pa・s)、原料ドープの粘度をN2(Pa・s)とするとき、N1は1×10−4Pa・s〜1×10−1Pa・s、N2は5Pa・s〜5×10Pa・sであることが好ましい。その粘度比であるN2/N1は、1000≦N2/N1≦1000000とすることが好ましい。粘度は、公知の粘度計で測定すれば良い。上記の粘度N1及びN2は、第1液52aに限らず、第2液、第3液にも共通させる。上記の範囲の中から添加剤溶液の粘度を選択し、原料ドープに加えることで、添加後の原料ドープの粘度を任意に調節することができる。
【0076】
また、配管60を流れる原料ドープ20のせん断速度V3(sec−1)は、0.1(sec−1)〜30(sec−1)とすることが好ましい。せん断速度V3が0.1(sec−1)未満では混合が進まない恐れがあり、逆に30(sec−1)を超えて大きすぎるとドープ用配管60での圧損が高くなり、20×9.8Nの耐圧では耐えられない恐れがある。同様の理由から、原料ドープに関しては流体の流れの状態を示すレイノズル数ReがRe≦200であることが好ましい。
【0077】
以上により、ポリマーと溶媒と添加剤とを含み、これらが均一に混合された基層用ドープが得られる。なお、第2送液ラインL2、第3送液ラインL3では、同じ手順及び条件により均質な支持体面層用ドープ、エア面層用ドープが調製される。
【0078】
なお、本実施形態では、インラインミキサーとして、長方形の板をねじって形成されたエレメントを備えたスタティックミキサーを用いる例で説明をしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のタイプのインラインミキサーを用いてもよい。インラインミキサーとしては、例えば、短冊状の複数の板を格子状に組み合わせることで形成されたエレメントを備えたスルーザーミキサーを用いるといったことが考えられる。
【0079】
また、環状ポリオレフィンを使用してドープを調製しても良い。この場合には、使用する溶剤を適宜選択することにより高濃度のドープが得られるという特徴がある。したがって、濃縮という手段に頼らずとも高濃度でしかも安定性の優れた環状ポリオレフィンドープを得ることができる。なお、溶解性の観点からは、前述した通り低い濃度のドープを調製し、固形分を溶解させた後に濃縮手段で濃縮してもよい。環状ポリオレフィンドープの製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく特に限定されるものではないが、通常、3Pa・s以上1000Pa・s以下の範囲に調製されることが好ましく、5Pa・s以上500Pa・s以下がより好ましく、10Pa・s以上200Pa・s以下が特に好ましい。
【0080】
ただし、種々の添加剤を原料ドープに添加する方法としては、本実施形態以外にも、これらの材料が固体の場合には、ホッパ等を用いて各送液ラインに送り込んでも良い。また、原料ドープに複数種類の上記材料を添加したい場合には、予め、所望の材料を溶剤に溶解させた溶液を調製した後に、タンクを利用して各送液ラインに送り込んでも良い。各材料が常温で液体の場合には、溶剤を使用せずに各送液ラインへそのまま送り込んでも良い。なお、添加剤は、原料ドープを調製する時点で添加しても良い。
【0081】
次に、上記の流延用ドープを用いてフィルムを製造する方法について説明する。図5は、本実施形態に用いるフィルム製造設備50の概略図である。
【0082】
フィルム製造設備50には、支持体上に流延用ドープを流延して流延膜70を形成させる流延室72と、この流延膜70を支持体から剥ぎ取り形成した溶媒を含んだフィルム、すなわち湿潤フィルム75を搬送させる渡り部77と、湿潤フィルム75の両側端部を保持し搬送する間に乾燥させてフィルム76とするテンタ78と、フィルム76の乾燥をより促進させる乾燥室80と、フィルム76を冷却させる冷却室81と、フィルム76をロール状に巻き取る巻取室82とが備えられている。
【0083】
流延室72の内部には、回転ローラ86a、86bに巻き掛けられ、支持体として作用する流延バンド85が配されている。また、流延バンド85の直上の所定の位置には、ドープ製造設備10から流延用ドープが供給されるフィードブロック88と、流延用ドープの流延口となるスリットが形成された流延ダイ89とを備える。その他にも、乾燥風を送り出して流延バンド85上に形成された流延膜70を乾燥させる送風装置90と、回転ローラ86a、86bの内部に伝熱媒体を送り、流延バンド85の表面温度を調整する伝熱媒体循環装置91と、凝縮器(コンデンサ)92と、回収装置93と、剥取ローラ95とが備えられている。流延室72の外部には、その内部温度を調整する温調設備97が取り付けられている。
【0084】
流延ダイ89には、流延用ドープを安定して流延させるために用いる減圧チャンバ98が取り付けられている。また、送風装置90の流延ダイ89側には、遮風板90aが取り付けられており、送風装置90から送りだされる乾燥風で流延膜70の平面が波打つのを防止する。
【0085】
流延バンド85は、回転ローラ86bに接続させた駆動装置(図示しない)により無端で走行させる。流延バンド85の移動速度(流延速度)は、10〜200m/分であることが好ましい。また、回転ローラ86a、86bの内部には、予め伝熱媒体流路(図示しない)が形成されている。伝熱媒体循環装置91から流路の中に温度の調整された伝熱媒体が送られる。伝熱媒体を循環させることにより、流延バンド85の表面温度が−20〜40℃の範囲内で略一定となるように、各回転ローラ86a、86bの表面温度が所定の範囲で調節される。
【0086】
流延バンド85の幅は、特に限定されるものではないが、流延するドープの幅に対して、1.1〜2.0倍のものを用いることが好ましい。また、その長さは、20〜200mであり、厚みは0.5〜2.5mmであることが好ましい。その他にも、流延バンド85としては、全体の厚みムラが0.5%以下であり、表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されているものを用いることが好ましい。これにより、表面に傷を付けることなく流延膜70を形成することができるので、平面性に優れる流延膜70を得ることが出来る。なお、流延バンド85は、耐久性や耐熱性および、流延膜70の剥ぎ取り易さ等を考慮すると、ステンレス製であることが好ましく、中でも、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることが好ましい。
【0087】
流延室72の内部温度は流延膜70の乾燥に相応しい温度範囲となるように、常時温調設備97により調整されている。凝縮器(コンデンサ)72は、流延膜70から蒸発した多量の溶媒ガスを凝縮液化させるためのものであり、液化させた溶媒ガスは回収装置93に回収された後に、再生装置(図示しない)で不純物が除去されて再生溶媒とされる。ドープの調製時にこの再生溶媒を再利用すると原料コストが削減できる。
【0088】
流延ダイ89は、コートハンガー型のものが好適に用いられる。流延ダイ89の幅は、特に限定されるものではないが、流延用ドープの流延幅に対して、1.05〜1.5倍の範囲のものであり、最終製品となるフィルム76の幅に対して1.01〜1.3倍程度が好ましい。また、流延用ドープの流延を円滑に行なうために、その表面粗さは、0.05μm以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。材質は、耐久性や耐腐食性を考慮して、ジクロロメタンやメタノールと水との混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないものを用いることが好ましく、ステンレス製であることが好ましい。より好ましい流延ダイ89は、本実施形態のように、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製である。ただし、電解質水溶液での強制腐食試験により、SUS316製と略同等の耐腐食性を有するものであれば好ましく用いることが出来るために、特に限定されるものではない。その他にも、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下である素材からなる流延ダイ89を用いると、熱ダメージを考慮する必要が低減されるので好ましい。
【0089】
流延ダイ89は、鋳造後1ヵ月以上経過したものを研削加工して作製することが好ましい。これにより、流延ダイ89の内部に円滑かつ一様に流延用ドープを流すことが出来るので、すじ等を発生させずに平面性に優れる流延膜70を形成することが可能となる。ただし、より優れた上記効果を得るために、流延ダイ89の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下であり、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。また、スリットのクリアランスは、自動調整により0.5〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いることが好ましい。さらに、流延ダイ89のリップ先端の接液部の角部分において、Rがスリット全巾に亘り50μm以下のものを用いることが好ましい。なお、流延ダイ89の内部の剪断速度は、1〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
【0090】
更に、流延ダイ89は温調機が取り付けられているものを使用し、流延用ドープを流延する間、その内部温度を所定の範囲に保持することが好ましい。また、流延ダイ89の幅方向に、所定の間隔で厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによる自動厚み調整機構とを取り付けて、さらに、予め設定されたプログラムでヒートボルトを制御することにより、ドープ製造設備10から流延用ドープを送り出す際に使用するポンプ(図示しない)の送液量を調整することが好ましい。フィルム製造設備50内部の任意の位置に厚み計(例えば、赤外線厚み計)を設けて、プロファイルに基づく調整プログラムによりフィードバック制御を行っても良い。なお、流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向での厚みの最小値と最大値との差が3μm以下であり、厚み精度が±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0091】
流延ダイ89のリップ先端には、耐摩耗性の向上等を目的として、硬化膜が形成されていることが好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、セラミックスコーティングやハードクロムめっき、および窒化処理方法等が挙げられる。ただし、硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削加工が可能であり、低気孔率、かつ脆性および耐腐食性に優れるとともに、流延ダイ89に対しては密着性に優れるが、一方でドープに対しては密着性に劣るものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)やAl、TiN、Cr等が挙げられる。中でも、WCを用いることが好ましい。なお、WCのコーティングは、溶射法で行うことが出来る。
【0092】
また、スリットの両端に溶媒供給装置(図示しない)を取り付けて、ドープを可溶化させる溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5重量部、メタノール13重量部、n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部及びスリットと外気との両気液界面に供給することが好ましい。これにより、流延用ドープをスリットから流延している間、流延用ドープが局所的に乾燥固化することがない。可溶化溶媒の供給量は、特に限定されるものではないが、スリット端部の片側ごとに、0.1〜1.0mL/分の範囲で供給すると、流延膜70の内部への異物の混入を防止することが出来るので好ましい。なお、可溶化溶媒を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いることが好ましい。
【0093】
減圧チャンバ98は、スリットから流延バンド85までの間にある流延用ドープの流れである流延ビードの背面を減圧させるためのものである。流延ビードの背面の減圧度は、特に限定されるものではないが、(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10Pa)以下とすることが好ましい。これにより、風の影響を受けて流延ビードの表面に波うちが発生するのを抑制し、安定した流延ビードを形成させることができる。このため、形成される流延膜70は、しわやつれ等がなく、平面性に優れる。
【0094】
渡り部77には、複数のローラと所望の温度に調整された乾燥風を湿潤フィルム75に吹き付けて乾燥を促進させるための乾燥装置100とが備えられている。テンタ78には、レールの配置にしたがって走行し、多数のクリップが取り付けられたチェーンと、乾燥装置(ともに図示しない)とが備えられている。また、テンタ78の下流には、フィルム76の両側端部を切断するための耳切装置102が設けられている。
【0095】
乾燥室80には、複数のローラ105と吸着回収装置106とが備えられている。乾燥室80は、温度調整装置(図示しない)により、その内部温度が所定の範囲で調整されている。冷却室81は、フィルム76を略室温となるまで冷却させるためのものである。冷却室81の下流には、強制除電装置(除電バー)107とナーリング付与ローラ108とが設けられている。また、巻取室82には、巻取ローラ110とプレスローラ111とが備えられている。
【0096】
次に、上記のフィルム製造設備50によりフィルム76を製造する手順について説明する。
【0097】
ドープ製造設備10で調製された流延用ドープ、すなわち基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープは、各送液ラインL1〜L3を通じてフィードブロック88に送られる。フィードブロック88の内部には各ドープの流路が形成されており、この流路は、所望とする流延膜の構造に応じて位置が調節されている。所定の配置に合流させた各ドープは流延ダイ89に送られ、流延ダイ89から走行する流延バンド85上に共に流延される。流延に関する詳細は、後で別図を示して説明する。
【0098】
流延バンド85上に形成された流延膜70に対して、送風装置90の送風口90bから所望の温度に調整した乾燥風が送られる。乾燥風は、流延膜70の表面に対する乾燥風の影響を軽減し、厚みムラやしわ等の発生を抑制するために、流延膜70の搬送方向に向かって略平行に送られる。流延膜70から蒸発した溶媒ガスは凝縮器92により凝縮液化された後、回収装置93で回収される。回収された溶媒は再生装置(図示しない)により再生されてドープ調製用として再利用される。
【0099】
自己支持性を持つまで乾燥が進められた流延膜70は、剥取ローラ95で支持された状態で流延バンド85から剥ぎ取られ湿潤フィルム75が形成される。形成直後の湿潤フィルム75の残留溶媒量は、10〜200重量%であることが好ましい。本発明における残留溶媒量とは、流延膜、湿潤フィルム、フィルム等に含まれる溶媒の量である。この残留溶媒量は乾量基準でのものであり、サンプリング時におけるサンプルの重量をx、そのサンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
【0100】
渡り部77に送られた湿潤フィルム75は、多数のローラで支持し搬送される間に、乾燥装置100から送られる乾燥風により乾燥が促進される。この乾燥風の温度は、20〜250℃で略一定とすることが好ましいが、流延用ドープに使用するポリマーや添加剤等を含む原料の種類や製造速度等を考慮して上記の範囲内で任意に決定すればよい。
【0101】
渡り部77では、複数のローラのうち下流側すなわち渡り部77の出口付近に配されるローラの回転速度を上流側すなわち渡り部77の入口側に配されるローラの回転速度よりも速くして、湿潤フィルム75に適度の張力を付与すれば、しわやつれ等の発生を抑制することができるので好ましい。このように高残留溶媒量である湿潤フィルム75に張力を付与すれば、分子配向が容易に調整されるので、フィルムのレタデーション値を好適に制御することができる。
【0102】
テンタ78に送られた湿潤フィルム75は、その両側端部がクリップ(図示しない)で把持される。固定された状態で湿潤フィルム75は搬送される間に、乾燥装置(図示しない)から供給される乾燥風により乾燥が進められフィルム76が形成される。テンタ78では、湿潤フィルム75を搬送する間に、上記のクリップによる把持幅を変更して、フィルムを幅方向に延伸させる。これにより、湿潤フィルム75の幅方向の分子配向が制御され、乾燥後に得られるフィルム76のレタデーション値を所望の値に調整することができる。また、ここで幅方向に付与する張力を調節することにより、湿潤フィルム75を延伸させてその膜厚を調節することが可能である。
【0103】
テンタ78の内部は、複数の区画に分けられていることが好ましく、各区画の温度は、上記の乾燥装置により異なる温度に調整されていることが好ましい。このように湿潤フィルム75を段階的に乾燥させれば、溶媒が急激に蒸発して湿潤フィルム75の形状が変化するのが抑制され、平面性に優れるフィルム76が得られる。本実施形態では、湿潤フィルム75の把持手段として複数のクリップを有するクリップ型テンタを示したが、クリップに代えてピンとし、このピンを湿潤フィルム75の両側端部に突き刺して固定した後、搬送する間に幅方向に延伸させることもできる。
【0104】
湿潤フィルム75を幅方向に延伸または緩和させる処理は、渡り部77でも行なうことができる。渡り部77での延伸緩和方法は、例えば、前述したようにローラの回転速度を制御すれば良い。このとき、渡り部77及びテンタ78では、湿潤フィルム75の流延方向および幅方向の少なくとも1方向を、延伸前の幅に対して0.5〜300%の割合で延伸させることが好ましい。なお、渡り部77或いはテンタ78において湿潤フィルム75に張力を付与している間は、乾燥温度を略一定に保持することが好ましい。これにより、乾燥温度の違いにより延伸程度に差が生じるのを防止することができる。
【0105】
耳切装置102に送られたフィルム76は、その両側端部が切断除去される。これによりテンタ78で傷付いた箇所が取り除かれて平面性に優れるフィルム76が得られる。なお、フィルム76の両側端部を切断する本処理は省略することもできるが、流延室72から巻取室82までのいずれかで行うことが好ましい。切断されたフィルム76の両側端部はクラッシャ103に送られて、チップ状に粉砕される。
【0106】
この後、フィルム76は乾燥室80に送り込まれる。乾燥室80の内部温度は、特に限定されるものではないが、フィルム76の膜面付近の温度が60〜145℃となるように調整されることが好ましい。上記の膜面温度は、フィルム76の搬送路の上方に温度計を設置することで知ることができる。このような乾燥室80では、多数のローラ105でフィルム76を支持し搬送させる間に、フィルム76を構成するポリマーの熱ダメージを抑制しながらも効果的に溶剤を蒸発させてフィルム76の乾燥を十分に促進させることができる。また、本実施形態では、フィルム76から蒸発した揮発溶剤を含むガスを、吸着回収装置106により回収する。このガスは、中から溶剤成分が取り除かれた後に、再度、乾燥室80に乾燥空気として送られる。これにより、エネルギーコストの削減による製造コストの低減化が可能となる。
【0107】
なお、耳切装置102と乾燥室80との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて、フィルム76を予備乾燥すると、乾燥室805においてフィルム76の膜面温度が急激に上昇することによる形状変化を抑制することができる等の効果を得ることができるので好ましい。
【0108】
十分に乾燥させたフィルム76は冷却室81に送られ、略室温となるまで徐々に冷やされる。徐々に冷却することで、表面におけるしわやつれの発生が抑制される。なお、乾燥室80と冷却室81との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム76を調湿した後、冷却室81に送ると、フィルム76の表面に対して優れたしわ伸ばし効果を得ることができるので好ましい。
【0109】
略室温とされたフィルム76は強制除電装置107に送られ、その帯電圧が所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整される。なお、図5では、強制除電装置107の設置箇所を、冷却室81の下流側とする形態を示しているが、この位置に限定されるものではない。更に、フィルム76はナーリング付与ローラ108によりその両側端部に対してエンボス加工が施される。このようにナーリングを付与すると、フィルム76の平面性を向上させる効果が得られる。
【0110】
最後に、巻取室82において、巻取ローラ110にフィルム76が巻き取られロール状のフィルム製品が製造される。巻き取り時のフィルム76には、プレスローラ111で中心方向の押圧が付与される。しわやつれを発生させずに巻取るために、巻取開始時から終了時までの間で、巻き取り時の張力は徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取るフィルム76は、搬送方向に少なくとも100m以上とすることが好ましく、幅方向が1400〜2500mmであることが好ましい。ただし、本発明は、2500mmより大きい場合にも効果を得ることができる。
【0111】
なお、完成したフィルム76の厚みは、20〜100μmであることが好ましい。より好ましくは、厚みが20〜80μmであり、特に好ましくは、30〜70μmである。ただし、本発明は、完成したフィルム76の膜厚に、特に限定されるものではない。
【0112】
次に、本発明の特徴部について説明する。本発明では、図6に示すように、流延ダイ89から流延バンド85の上には、基層用ドープ120、エア面層用ドープ121、支持体面層用ドープ122が共に流延される。これらのドープのうち少なくとも2種類以上は異なる粘度とする。流延膜70は、基層120aと、エア面層121aと、支持体面層122aとから構成された3層構造を有する。各層の間には、基層120aの厚みt1(μm)、支持体面層122aの厚みt2(μm)、エア面層121aの厚みt3(μm)とするとき、t2≦t3≦t1の関係を成立させる。このようにフィルムの主要部である基層120aを最も厚くし、エア面層121aの膜厚を略同等以下とすれば、流延ビードを安定して形成することができ、かつエア面層121aにおける高いレベリング効果を発現させて、エア面層121aでの凹凸の発生を効果的に抑える。また、エア面層121aより膜厚が略同等以下の支持体層122aを形成することで、乾燥不足が解消されて剥げ残りの発生が抑制される。したがって、生産速度を低下させずに平面性に優れるフィルムを製造することができる。ここで、t1<t3だと、乾燥時間が長くなり生産性が低下する。なお、剥取性向上を主目的として形成させる支持体層122aの厚みは膜化できる範囲であれば良いのでt3<t2である必要はなく、t3が薄すぎればレベリング効果は得られないので不適である。
【0113】
ここで、エア面層121aの厚みが薄いと、レベリングの効果が落ちてしまうため、流延膜70の厚み、すなわちt1+t2+t3に対するt3の割合を3%以上40%以下とすることが好ましい。より好ましくは、t3の割合が5%以上30%以下である。流延膜70を構成する各層の厚みは、ドープの流量や流延幅を調節することにより制御可能である。
【0114】
エア面層における良好なレベリング効果の確保、並びに、安定した流延ビードを形成させる上で、基層用ドープ120の粘度をη1(Pa・s)、支持体面層用ドープ122の粘度をη2(Pa・s)、エア面層用ドープ121の粘度をη3(Pa・s)との間には、η3≦η2≦η1の関係が成立することが好ましい。ただし、粘度の組合せ等は特に限定されず、例えば、η3≦η2かつη2=η1でも良いし、η3=η2かつη2≦η1でも良い。更に、η3が、5Pa・s≦η3≦30Pa・sを満たせば、エア面層121aのレベリング効果をより向上させることができる。より好ましくは、10Pa・s≦η3≦20Pa・sである。
【0115】
また、エア面層用ドープは、このドープの重量をAとし、有機溶媒の重量をBとするとき、16≦{(A−B)/A}×100≦21を満たすことが好ましい。より好ましくは、16≦{(A−B)/A}×100≦19である。ここで、(A−B)は、ドープ中に含まれるポリマーや添加剤の固形分量とみなすことができる。このため、上記の範囲を満足するドープは、粘度が小さく、流延ダイから吐出させる際に生じる圧力損失が低減されるので、安定した流延ビードが形成される。また、吐出の際に流延ビードに生じるシャークスキンと呼ばれる微小な厚みムラの発生が抑制され、平面性に優れる流延膜を形成させることが可能となる。このようにして形成された流延膜は、表面の流動性が高いために、一旦風の外乱等により表面に波打ち等の凹凸ムラが生じても、表面張力による平滑化、すなわちレベリング効果により平面性が矯正される。ただし、上記の値が16重量%未満の場合は、粘度が小さすぎるために、乾燥風の流れにより表面に強い凹凸ムラが生じてしまい、レベリングでは平滑化しきれず平面性が低下するおそれがある。一方で、固形分濃度が21重量%を超えると、粘度が高すぎるために、吐出時において先ほどのシャークスキンが悪化するのに加えて、レベリング効果が落ちるために平面性が低下する。
【0116】
上記の様に、フィルムの平面性を左右するエア面層用ドープの粘度を最も低くすると共に、基層用ドープの粘度及び厚みを最も高くすれば、粘度の高いドープを多量に流延して流延ビードの形成を安定化させつつ、支持体上での流延膜の乾燥を速める効果がより向上する。加えて、エア面層での乾燥風の影響を低減し、レベリング効果を高めることで流延膜の平面性の低下をより効果的に抑制することができる。また、このように流延膜の平面性を向上させれば、面状が良好なフィルムを製造することができる他に、製膜途中のテンタにより湿潤フィルムを幅方向に延伸させる際に生じる延伸ムラを抑制する効果も得られる。
【0117】
ただし、流延用ドープを流延する方法は特に限定されず、複数のドープを共に流延することができる公知の方法を用いれば良い。本実施形態のように2種類以上のドープを同時に流延させても良いし、図7に示すように、複数のドープを逐次に流延させても良い。この場合、流延バンド85の上方には、ドープの数に応じた複数の流延ダイ150〜153が設けられる。各流延ダイ150〜153にはドープ製造設備から支持体面層用ドープ、基層用ドープ、エア面層用ドープが適宜送られ、流延バンド85の上に支持体面層用ドープから逐次流延される。これにより、支持体面層の上に基層、エア面層が順重ねられ、3層構造の流延膜160が形成される。なお、同時或いは逐次に流延させる方法を組み合わせても良い。また、流延ダイは、フィードブロックを取り付けたものでも良いし、マルチマニホールド型でも良い。
【0118】
流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0119】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能およびそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0120】
[表面処理]
このセルロースアシレートフィルムにおいては、少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。そして、この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0121】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていてもよい。
【0122】
さらに、セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、および光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。また、機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0123】
本発明により得られるフィルムの用途について説明する。本発明により得られるフィルムは、高レタデーション値を有すると共に、透明度が高い。そのため、特に、偏光板保護フィルムとして有用である。なお、このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることができる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載も、本発明に適用させることができる。
【0124】
以下、本発明に係る実施例について説明する。ただし、ここに示す実施例が本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0125】
下記に示す原料を混合して、基層用ドープ、支持体面層用ドープ、エア面層用ドープの3種類を調製した。なお、各実施例では、対応するドープ製造設備において、第1溶媒が入れられた溶媒タンク11以外に、下記の第2溶媒が入れられた第2の溶媒タンクを用意した。
【0126】
図1に示すドープ製造設備により下記の原料を混合したドープAをエア面層用ドープとした。ジクロロメタンとメタノールとは、予め下記の配合比で混合させた混合溶媒を使用した。また、レタデーション制御剤及び微粒子を上記の混合溶媒の一部と混合させたものを第3液58aとした。
【0127】
〔ドープA〕
・セルローストリアセテート(酢化度60.2%、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度 250mPa・s) 100重量部
・TPP 7.6重量部
・BDP 3.8重量部
・ジクロロメタン(第1溶媒) 474重量部
・メタノール(第2溶媒) 65重量部
・化4に示すレタデーション制御剤 7重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0128】
【化4】

【0129】
先ず、溶媒タンク11から混合タンク15に適量の混合溶媒を送り、ホッパ13からはセルローストリアセテートを送った。混合タンク15では、各種材料を攪拌混合させて混合液17を得た。次に、混合液17を加熱装置22に送り、溶媒に対するセルロースアシレートの溶解度を向上させた後に、温調装置23により略室温として濃縮前の原料ドープを得た。フラッシュ装置31で原料ドープ中の溶媒を蒸発させて濃縮し、所望の濃度の原料ドープ20を得た。
【0130】
濃縮した原料ドープ20を、ポンプP2によりフラッシュ装置31から抜き出した後、超音波照射法により泡抜き処理を施した。そして、第2濾過装置26により不溶解物を除去した後にストックタンク28へと送り、貯留した。
【0131】
次に、ストックタンク28から第3送液ラインL3に送った原料ドープ20に対し、ポンプP8で流量を調節しながら第3液58aを送った。そして、第3スタティックミキサー59によりこれを攪拌混合して均質なエア面層用ドープを調製した。エア面層用ドープ121は、その粘度η3を15Pa・sとした。また、エア面層用ドープにおいて、ドープの重量に対する溶媒の割合、すなわち固形分濃度Xは18重量%であった。この固形分濃度Xは、ドープの重量をAとし、有機溶媒の重量をBとするとき(A−B)/A}×100で算出される。
【0132】
上記と同じく図1に示すドープ製造設備10により下記の原料を混合したドープBを基層用ドープ及び支持体面層用ドープとした。ここでエア面層用ドープと同様にして算出される各ドープ中の固形分濃度X´を22重量%として、互いにエア面層用ドープよりも粘度が高くなるようドープの粘度を調節した。なお、下記のうちレタデーション制御剤及び微粒子は添加剤溶液として用いた。
【0133】
〔ドープB〕
・ セルローストリアセテート(置換度2.81、酢化度60.2%、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度 400mPa・s) 100重量部
・TPP 7.6重量部
・BDP 3.8重量部
・ジクロロメタン(第1溶媒) 371重量部
・メタノール(第2溶媒) 51重量部
・化4に示すレタデーション制御剤 7重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0134】
次に、図5に示すフィルム製造設備50で、上記により調製した基層用ドープ、エア面層用ドープ、支持体面層用ドープを製膜化してフィルム76を製造した。
【0135】
ドープを流延する際には、図6に示すように、走行する流延バンド85の上に流延ダイ89から上記3種類のドープを共に流延した。ここで、粘度の異なる各ドープの流延量を調整することにより基層を最も厚くする一方、支持体面層よりもエア面層を厚くし、結果的に延伸後のフィルムの膜厚が80μmとなるように流延膜70を形成させた。なお、流延膜70における各層の厚みは、乾燥してフィルムとした場合、溶媒の揮発により薄くはなるが総膜厚に対する各層の比率は保持される。
【0136】
次に、この流延膜70を流延バンド85から剥ぎ取り湿潤フィルム75とした後、渡り部77及びテンタ78で乾燥させてフィルム76とした。フィルム76を乾燥室80に送り、多数のローラ105に巻き掛けながら搬送する間に乾燥を十分に促進させた。最後に、巻取室82の巻取ローラ110で巻取りフィルム76製品とした。完成したフィルム76の残留溶媒量は0.4重量%であり、膜厚は80μmであった。
【0137】
実施例1では、流延用ドープを調製する際に、添加剤が含まれる各液の流速V1と、各配管内を流れる原料ドープの流速V2との流速比をV1/V2=3、配管内を流れる原料ドープのせん断速度V3を1.3(sec−1)、原料ドープに関するレイノズル数Reを5とした。また、各スタティックミキサーは、スリット状の添加口を備え、エレメント数が42である形態を使用し、その添加口からスタティックミキサーまでの距離Dを10mmとした。なお、上記の条件を満たすものをドープ調製方法Aと称する。また、実施例1において、流延膜の膜厚等に関する諸条件を表1に纏めて示す。
【実施例2】
【0138】
実施例2では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を15Pa・s、Xを17重量%とし、表1に示すように流延膜の各層の膜厚を変更した。なお、上記以外のフィルム製造条件は全て実施例1と同じである。
【実施例3】
【0139】
実施例3では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を20Pa・s、Xを19重量%とし、表1に示すように流延膜の各層の膜厚を変更して、100μmのフィルムを形成させた以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム76を製造した。
【実施例4】
【0140】
実施例4では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を50Pa・s、Xを20重量%とし、表1に示すように流延膜の各層の膜厚を変更した以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム76を製造した。
【実施例5】
【0141】
実施例5では、流延用ドープを調製する際にドープ調製方法Bを用いる以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム76を製造した。ここでドープ調製方法Bとは、ノズルの形態がスリット状でなく円菅である以外は、ドープ調製方法Aと同じである。
【実施例6】
【0142】
〔ドープC〕
実施例6では、図1に示すドープ製造設備により下記の原料を混合してドープCを調製し、これをエア面層用ドープとした。
【0143】
〔環状ポリオレフィン重合体P−1の合成〕
精製トルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部を反応釜に投入した。次いでトルエン中に溶解したエチルヘキサノエート−Ni25mmol%(対モノマー質量)、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロン0.225mol%(対モノマー質量)及びトルエンに溶解したトリエチルアルミニウム0.25mol%(対モノマー質量)を反応釜に投入した。室温で攪拌しながら18時間反応させた。反応終了後過剰のエタノール中に反応混合物を投入し、重合物沈殿を生成させた。沈殿を精製し得られた重合体(P−1)を真空乾燥で65℃24時間乾燥した。
【0144】
実施例1と同様に、図1の装置により下記に示すドープを調製した。最初に、溶媒タンク11から適量のジクロロメタンを混合タンク15に送ると共に、第2の溶媒タンクから、適量のメタノールを混合タンク15へと送った。また、ホッパ13からは、P−1を送り込んだ。この後、混合タンク15では、各種材料を攪拌混合させて混合液17を得た。次に、混合液17を超音波照射法により泡抜き処理を施した後、第2濾過装置26により濾過して不純物を除去した後に、ストックタンク28へと送り、ここに貯留した。
【0145】
次に、原料ドープ20の一部を第3送液ラインL3に送り込んだ。続けて、この原料ドープ20に向かって第3タンク58からポンプP8により第3液58aを送り出し、図2に示すようにスリット状の添加口69からドープ用配管60内を流れる原料ドープ20に第3液58aを投入した。そして、これを第3スタティックミキサー59により攪拌混合して均質なエア面層用ドープを調製した。ここで、エア面層用ドープ121の粘度η3を14Pa・sとし、Xを20重量%とした。
【0146】
〔環状ポリオレフィンドープC組成〕
・環状ポリオレフィンP−1 100重量部
・ジクロロメタン 370重量部
・メタノール 29重量部
・シリカ粒子(一次平均粒径16nm、aerosil R972 日本アエロジル(株)) 1重量部
【0147】
同様の方法により下記の原料を混合して調製したドープDを基層用ドープ及び支持体面層用ドープとした。なお、粘度η1、η2を65Pa・sとし、Xを25重量%とした。
【0148】
〔環状ポリオレフィンドープD組成〕
・環状ポリオレフィンP−1 100重量部
・ジクロロメタン 276重量部
・メタノール 23重量部
・シリカ粒子(一次平均粒径16nm、aerosil R972 日本アエロジル(株))
1重量部
【0149】
上記により調製した基層用ドープ、エア面層用ドープ、支持体面層用ドープを、図2に示すフィルム製造設備50により製膜化してフィルム76を製造した。先ず、図6に示すように、走行する流延バンド85上に流延ダイ89から上記3種類のドープを共に流延した。そして、各ドープの流延量を調整することにより、完成したフィルムにおいて基層が最も厚く、ついでエア面層、支持体層と厚みが薄くなるように、また、延伸後のフィルムの膜厚が80μmとなるように膜厚を制御して流延膜70を形成させた。なお、完成したフィルムのt2´が3μm、t3´が10μmとなるように支持体層用ドープ、エア面層用ドープの各流量を調節した。
【0150】
次に、この流延膜70を流延バンド85から剥ぎ取り湿潤フィルム75とした後、渡り部77及びテンタ78で乾燥させてフィルム76とした。この後、続けて、フィルム76を乾燥室80に送り込み、多数のローラ105に巻き掛けながら搬送する間に乾燥を十分に促進させた。最後に、巻取室82の巻取ローラ110で巻取りフィルム76製品とした。完成したフィルム76の残留溶媒量は0.4重量%であり、膜厚は80μmであった。
【実施例7】
【0151】
実施例7では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、表2の粘度および固形分濃度を調整しエア面層用ドープ121を用いて、完成したフィルムにおけるエア面層の厚みt3´が10μmとなるように流延膜を形成した以外は、全て実施例4と同様にしてフィルム76を製造した。
【実施例8】
【0152】
実施例8では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、表2の粘度および固形分濃度を調整しエア面層用ドープ121を用いて、完成したフィルムにおけるエア面層の厚みt3´が25μmとなるように流延膜を形成した以外は、全て実施例4と同様にしてフィルム76を製造した。
【実施例9】
【0153】
実施例9では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を65Pa・s、エア面層用ドープのXを25重量%とし、表2に示すように完成したフィルムにおけるエア面層の厚みt3´が10μmとなるように流延膜を形成した以外は、全て実施例4と同様にしてフィルム76を製造した。
【実施例10】
【0154】
実施例10では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を10Pa・s、エア面層用ドープ中の固形分濃度Xを19重量%とし、表2に示すように完成したフィルムにおけるエア面層の厚みt3´が25μmとなるように流延膜を形成した以外は、全て実施例4と同様にしてフィルム76を製造した。
【0155】
〔比較例1〕
比較例1では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を4Pa・s、エア面層用ドープ中の固形分濃度Xを14重量%とし、表1に示すように流延膜の各層の膜厚を変更した以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム76を製造した。
【0156】
〔比較例2〕
比較例2では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3を10Pa・s、エア面層用ドープ中の固形分濃度Xを17重量%とし、表1に示すように流延膜の各層の膜厚を変更した以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム76を製造した。
【0157】
〔比較例3〕
比較例3では、第3液58aにおける溶剤の量を調整することにより、エア面層用ドープの粘度η3が20Pa・s、エア面層用ドープ中の固形分濃度Xが21重量%であり、表2に示すように流延膜の厚みが80μm、完成したフィルムにおけるエア面層の厚みt3´が1μmとなるように流延膜を形成した以外は、全て実施例4と同様にしてフィルム76を製造した。
【0158】
各実施例及び比較例では、支持体から流延膜を剥ぎ取る際の剥取性、並びに製造したフィルムの平面性を下記の方法により評価した。
【0159】
〔流延膜の剥取性〕
流延膜を剥ぎ取った後の流延バンドの表面を目視により観察し、流延バンドの表面に生産性の低下を引き起こすほどの流延膜の剥げ残りが確認されない場合を○、製造上問題はないが、流延バンドの表面に若干の剥げ残りが確認された場合を△、生産性の低下を引き起こすほど流延バンドの表面に剥げ残りが確認された場合を×として、支持体から流延膜を剥ぎ取る際の剥取性を3段階評価した。
【0160】
〔フィルムの平面性〕
製造したフィルムの表面を目視により観察し、表面に凹凸ムラがなく平面性に優れた製品とみなされるものを◎、若干の凹凸ムラが確認できるが製品として問題のないレベルのものを○、ある程度の凹凸ムラが確認され製品として使用するには問題があるものを△、多量の凹凸ムラが確認され製品として使用することができないものを×として、フィルムの平面性を4段階評価した。
【0161】
各実施例及び比較例に係るエア面層用ドープ等の条件並びに、上記の評価結果を表1に纏めて示す。
【0162】
【表1】

【0163】
【表2】

【0164】
以上の結果から、本発明によると液晶表示装置の光学補償フィルム等に使用する上で満足のいく優れた平面性を有するポリマーフィルムを製造することができることを確認した。また、支持体から流延膜を剥ぎ取る際の剥取性も良好であることから、上記のようなポリマーフィルムを優れた生産性を実現させて製造することができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本実施形態で用いるドープ製造設備の一例の概略図である。
【図2】スタティックミキサーを用いて原料ドープに添加剤を添加させる際の一例の説明図である。
【図3】本発明に係る配管及び添加剤ノズル近傍の一例の概略図である。
【図4】配管の径方向から見た配管及び添加剤ノズル近傍の断面図である。
【図5】本実施形態で用いるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図6】流延ダイ近傍の一例の概略図である。
【図7】本発明に関わる共流延の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0166】
10 ドープ製造設備
50 フィルム製造設備
52a 第1液
53 第1スタティックミキサー
70 流延膜
85 流延バンド
120 基層用ドープ
121 エア面層用ドープ
122 支持体面層用ドープ
120a 基層
121a エア面層
122a 支持体面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する支持体上に、ポリマー及び有機溶媒を含む原料ドープに添加剤を入れた混合物であり、
基層を形成させるための基層用ドープと、前記基層の表面のうち前記支持体側に接した支持体面層を形成させるための支持体面層用ドープと、前記基層の表面のうち前記支持体面層とは反対側に存在し、外気に面したエア面層を形成させるためのエア面層用ドープと、を共に流延して複層構造の流延膜を形成する流延膜形成工程と、
前記流延膜を前記支持体より剥ぎ取って溶媒を含んだ湿潤フィルムとする剥取工程と、
把持手段により前記湿潤フィルムの両側端部を把持した後、前記把持手段の移動にしたがい前記湿潤フィルムを搬送する間に、前記把持手段の幅を変更して前記湿潤フィルムを幅方向に延伸させ、かつ乾燥手段により乾燥する把持乾燥工程と、
を有し、
前記基層用ドープ、前記支持体面層用ドープ、前記エア面層用ドープ、のうち少なくとも2種類以上は異なる粘度とし、
前記流延膜を構成する前記基層の厚みt1(μm)と、前記支持体面層の厚みt2(μm)と、前記エア面層の厚みt3(μm)との関係を、t2≦t3≦t1とすることを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記流延膜の厚みに対する前記t3の割合を、3%以上40%以下とすることを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記基層用ドープの粘度η1(Pa・s)と、前記支持体面層用ドープの粘度η2(Pa・s)と、前記エア面層用ドープの粘度η3(Pa・s)との関係を、η3≦η2≦η1とすることを特徴とする請求項1または2記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーは、重合度が250以上450以下のセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記η3が、5Pa・s≦η3≦30Pa・sを満たすことを特徴とする請求項4記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記エア面層用ドープの重量Aと、このドープに含まれる前記有機溶媒の重量Bとは、16≦{(A−B)/A}×100≦21を満たすことを特徴とする請求項1ないし5いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記原料ドープは、前記添加剤を入れた後にインラインミキサーで攪拌混合することを特徴とする請求項1ないし6いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記インラインミキサーは、前記原料ドープが流れる配管の直径方向に伸びるように設けられ、前記添加剤の投入口となるスリット状の添加口を備えることを特徴とする請求項7記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記添加口は、前記配管の径方向に平行となる長さLが前記配管の内径の20%以上80%以下であることを特徴とする請求項8記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記スリットの隙間Cが、0.1mm以上前記配管の内径の1/10mm以下であることを特徴とする請求項8または9記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記添加口から前記インラインミキサーまでの距離Dを、1mm以上250mm以下とすることを特徴とする請求項8ないし10いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記配管内を流れる前記添加剤の流速V1及び前記原料ドープの流速V2は、1≦V1/V2≦5を満たすことを特徴とする請求項8ないし11いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記流延は、前記基層用ドープと前記支持体面層用ドープと前記エア面層用ドープとを、前記支持体上に同時あるいは逐次に流出することを特徴とする請求項1ないし12いずれかひとつ記載のポリマーフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−283763(P2007−283763A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70815(P2007−70815)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】