説明

ポリマーブレンド用ポリエステル

【課題】ポリ乳酸は生分解性プラスチックとされているが、土中では長期間(数年以上)まったく生分解性を示さない他、硬いがもろく、成形時に分解して分子量低下を伴い、物性低下が著しくみられる。
このためこれら欠点を是正して実用性のあるプラスチックとするために、生分解性プラスチックである脂肪族ポリエステルのポリマーブレンド、或は可塑剤添加等幾多の努力が払われてきた。
然し、まだ十分とはいえない現状である。
【解決の手段】従来試みられることが無かった環状脂肪族構造をもったグリゴールと脂肪族ジカルボン酸とから合成されたポリエステルが、それ自体生分解であるが、ポリ乳酸とのポリマーブレンドは相溶性が良く均一ポリマーとなり、土中生分解性も著しく改善される。加えて、ポリ乳酸のもろさ、熱分解し易くて物性低下を招き易い欠点の改良にも有用であることを見出したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチック、特にポリ乳酸と併用してその物性改良に有用なポリエステルに関するものである。
ポリ乳酸は単独では、硬いがもろく、成形中に分子量低下を起し易く成形し難いタイプである上に、ポリ乳酸自身は生分解し難い種類に属し、例えば厚さ100μ位のフィルムを土中に埋めても数年間は何ら外観変化を示さない。但し、高温コンポスト中(60〜80℃くらいの内温となる)では加水分解を伴って分解し、最終的には結果として生分解に至る。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ乳酸を実用化するために、膨大な努力が払われてきた。中でも中心となったのは、生分解性プラスチックである脂肪族ポリエステルを併用し、一種のポリマーブレンド的な方法で、その物性、成形性を改良する試みである。
その幾つかは、実用性のあるものとして、市販に移されているものもある段階に達している。
然し、これらポリエステルでも、相溶性、物性改良の点で完全なタイプはほとんどないといっても過言ではない程である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする問題点は、ポリ乳酸と相溶性があり、ポリ乳酸の持つ各種の欠陥を大幅に是正して実用性のある材料とすることである。
ポリマーブレンドで物性を改良するのには、必ずしも相溶性のあることを必要とせず、海島構造を形成してそれらの間に何らかの相互作用があればよいとされている。
亦、島相の粒子の大きさも問題である。
事実、ほとんどの生分解性を示す脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸とは相溶性を持たないブレンド型といって良い。
【0004】
然し、用途によっては、例えばフィルムなど、相溶性のあるポリエステルで、物性低下のない種類も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高分子量のポリ乳酸と任意の割合で相溶性のある生分解性ポリエステルについて検討を重ねた結果、意外にも環状脂肪族(以下脂環式と略称)構造をもったグリコールを用いることにより、目的を達成できることを知り本発明を完成することが出来た。
即ち、1,4シクロヘキサンジメタノール(下式)の利用である。

【0006】
1,4シクロヘキサンジメタノール(以下1,4CHDM)とコハク酸とをエステル化したポリエステルは公知である。生分解性も確認されている。
然し、前記のポリエステルがポリ乳酸と頗る良好な相溶性を示し、ポリ乳酸の諸欠点を解消出来ることは知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1,4CHDMとコハク酸のポリエステルは、1,4CHDMの種類、即ちトランスとシスの構成割合によって、融点他物性が異なることが知られている。尤もコハク酸のみでなく、一般に多塩基酸(又はその酸無水物)について言えることである。
即ち、トランス型は高融点で結晶性が高く、シス型は低融点のポリエステルを与える。
現段階では、市販されている1,4CHDMのトランス/シス比はほぼ75/25とされており、本発明ではこれをそのまま用いる。
【0008】
即ち、本発明は、1,4CHDMと脂肪族ジカルボン酸(又はその酸無水物)とのポリエステルを、ポリ乳酸と併用して、ポリ乳酸に実用可能な性能を付与することである。
【0009】
脂肪族ジカルボン酸(又はその酸無水物)の例としては、特に制限を加える必要はないが、例えばコハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドテカン酸などがあげられるこれらの併用は自由である。
【0010】
環状脂肪族ジカルボン酸(以下脂環式酸)は利用可能であるが、脂環式酸と1,4CHDMとの併用系では生分解を著しく遅くするので、脂肪族ジカルボン酸との併用が望ましい。
脂環式酸の例としては、例えば1,4シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などがあげられる。
【0011】
芳香族ジカルボン酸の利用は、30モル(%)以下の少量使用であれば、高温コンポスト中の分解は期待されるが、土中埋没では事実上生分解を示さなくなる。
【0012】
多価アルコールは、1,4CHDMの他に脂肪族多価アルコールを併用することは自由に出来、融点は低下するが、生分解性のコントロールが可能となる。但し、一般にポリ乳酸との相溶性は低下する。
【0013】
また、脂環式多価アルコールに、例えばハイドロキノンの水素添加を行った例もあるが、コスト的に著しく高価なものとなり、実用性に乏しい。
【0014】
3官能以上の多価アルコール、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリット等は多価アルコールの全体の使用割合を100モル(%)とした場合、0.1モル(%)以上5モル(%)以下の使用割合で、ポリエステル分子中に分岐構造を形成させることが出来、フィルム等の成形性の向上に有用なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば1,4CHDMとコハク酸とから合成された数平均分子量約15,000のポリエステルは、室温では白色ワックス状で融点は120℃前後であるが、それ自身でもフィルム形成性、射出成形性があって、ポリ乳酸とのポリマーブレンドでは、ポリ乳酸の欠点であった成形性の不良、もろさの改良等に頗る有用なものとなる。
【0016】
本発明によるポリエステルとポリ乳酸との混合割合は特に制限される必要はなく、ポリ乳酸10モル(%)以上90モル(%)以下、より望ましくは30モル(%)以上である。
【0017】
ポリ乳酸の土中埋没では分解せず、1,4CHDMを用いたポリエステルは、コハク酸使用の場合、ほぼ6ヶ月後に大小の孔があいて分解を始め、1年後には消失するが、本発明のポリエステルとポリ乳酸とのポリマーブレンドは、それら構成成分の使用割合にもよるが、ポリ乳酸の欠点であった土中分解性の不良は大幅に改良され、例えばポリ乳酸80モル(%)、1,4CHDMとコハク酸のポリエステル20モル(%)の場合は、ほぼ6ヶ月後には分解の徴候を示すに至る。
【0018】
本発明によるポリマーブレンドは、その実用化に当たって、所望のフィラー、補強剤、着色剤、安定剤、離型剤等を併用できることはもちろんである。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0019】
ポリエステルAの合成
撹拌機、温度計、ガス導入管、分溜コンデンサーを付した1l四ツ口フラスコに、1,4シクロヘキサンジメタノール(米国イーストマン・ケミカル社製、トランス/シス≒75/25)を310g、コハク酸236g、テトライソプロポキシドチタン1g、を仕込み、窒素ガス気流下200〜210℃で酸価4.9迄エステル化を進めた後、撹拌機、ガス導入管、分溜コンデンサーを密栓型と減圧型のコンデンサー付装置に変え、0.5〜1.0Torr、220〜230℃の加温、減圧下で合計10時間の脱グリゴール反応を行った。数平均分子量13,900、白色ワックス状で、融点118〜120℃のポリエステル(A)が得られた。ポリ乳酸は市販されている三井化学(株)の“LACEA”を用いた。ポリエステル(A)20重量(%)、LACEA80重量(%)を50g、バッチ式加圧ニーダー(容量60ml)を使用、195℃×44r.p.m.30分の加熱混練を行った後、プレス成形してテストピースとした。ポリ乳酸単独使用も含め物性測定の結果を表−1に示す。
【表−1】

【実施例2】
【0020】
実施例1と同様の装置に、1,4シクロヘキサンジメタノール248g、1.4−ブタンジオール41g、アジピン酸292g、テトライソプロポキシチタン1gを仕込み、同様な條件でエステル化を行って、酸価5.3とした後、装置を減圧型に変え、0.5〜1.0Torrの減圧下215〜220℃、10時間の脱グリコール反応を行った。数平均分子量14,700のポリエステル(B)が得られた。融点97〜100℃、白色ワックス状固体。ポリ乳酸LACEA10重量部をクロロホルム90重量部に溶解した溶液に、ポリエステル(B)30重量部をクロロホルム70重量部に溶解した溶液を、ポリ乳酸が90重量(%)ポリエステル(B)が10重量(%)から、それぞれが50重量(%)ずつになるように加えた。結果は表−2にみられるように、いずれも透明溶液となり、相溶性の良いことが証明された。
【表−2】

【0021】
別に実施例1と同様の装置にて、ポリ乳酸70重量(%)、ポリエステル(B)30重量(%)を加熱、溶融して均一ポリマーブレンドとした。淡白色半透明で次の物性値が得らられた。
ガラス転移温度 57℃
アイゾット衝撃値(kg/m) 37.1
曲げ強さ (kg/mm) 11.1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と相容性のあるポリエステルの成分として、脂環式構造をもった多価アルコールを使用することよりなるポリマーブレンド用ポリエステル。
【請求項2】
脂環式構造をもった多価アルコールが、1,4シクロヘキサンジメタノールであることを特長とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脂環式構造をもった多価アルコールとエステル化してポリエステルとする多塩基酸(又はその酸無水物)が脂肪族ジカルボン酸であることを特長とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
脂肪族ジカルボン酸が、特にコハク酸(又はその酸無水物)であることを特徴とする請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2006−257375(P2006−257375A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116228(P2005−116228)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504007992)
【Fターム(参考)】