説明

ポリマー合成装置

【課題】本発明の課題は、溶融状態の原料からポリマーを合成する装置であって、高品質のポリマーを合成することができる装置を提供することである。
【解決手段】ラクチド供給装置1から送られたラクチドをラクチド溶融装置2で加熱して溶融し、触媒供給装置3で触媒が添加される。溶融ラクチドはラクチド供給装置4を通して横型反応槽5に供給され、ヘッド差により流れながら重合反応が進行する。排出された反応液は縦型反応槽6の上部に供給され、内部を重力により流れ、重合反応が進行する。その後、反応液は残存ラクチド除去装置7に輸送され、未反応のラクチドを除去した後、排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態のポリマー原料からポリマーを合成するためのポリマー合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開環重合反応により合成されるポリマーの合成においては、温度履歴の長時間化や重合に伴う反応熱の蓄積により、ポリマーが一部熱分解して着色するなどの品質の劣化が問題となることがある。
【0003】
開環重合反応により合成されるポリマーの1つであるポリ乳酸はバイオマスである乳酸を原料として作られる無色透明なポリエステルである。乳酸からポリ乳酸を合成する方法の一つに、乳酸を縮合してオリゴマーを生成させ、これに酸化アンチモン等の触媒を添加して解重合することによりラクチドを生成させ、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。この場合においても、開環重合の際、反応熱に伴う温度上昇により、ポリ乳酸が一部熱分解して着色することがある。この着色はポリ乳酸の特徴の一つである無色透明性を損なうため、抑制することが望まれる。
【0004】
このため、特許文献1に記載される発明では、ラクチドの開環重合を行う反応槽を複数個用意し、これらを直列的に接続して原料の供給と重合物の排出を同時に行う連続方式を採用すると共に、各反応槽での温度、触媒量、滞留時間を変えて運転することにより、温度履歴による熱分解を低減しようと試みている。しかし本方式では、(1)特に重合度及び粘度が低い重合物と重合度及び粘度の高い重合物とが混ざり合うことによる滞留時間のばらつきに由来する温度履歴の長時間化、(2)開環重合に伴う反応熱の蓄積に伴う熱分解の加速といった、着色を増大させる要因が解消されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平8−259676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、溶融状態の原料からポリマーを合成する装置であって、高品質のポリマーを合成することができる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、反応初期段階において、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された少なくとも1つの堰を有する反応槽で開環重合反応を行うことによって重合度及び粘度の異なる重合物の混合を抑制できること、反応最終段階において、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽で開環重合反応を行うことによって反応熱の除去効率を高めることができることを見いだした。そして、上記反応槽の少なくとも1個を特定の配置で含む複数の反応槽が直列的に接続された反応装置において開環重合反応を行うことによって、重合物の熱分解に伴う着色を抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
一実施形態において本発明は、反応装置を含むポリマー合成装置であって、反応装置が直列的に接続された2個以上の反応槽を含み、その第1段目の反応槽が、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された堰を有する、前記ポリマー合成装置に関する。
【0009】
別の実施形態において本発明は、反応装置を含むポリマー合成装置であって、反応装置が直列的に接続された2個以上の反応槽を含み、その最終段の反応槽が、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する、前記ポリマー合成装置に関する。
【0010】
別の実施形態において本発明は、反応装置を含むポリマー合成装置であって、反応装置が、(1)直列的に接続された2個以上の反応槽を含み、(2)前段に存在する少なくとも1つの反応槽が、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された少なくとも1つの堰を有し、(3)後段に存在する少なくとも1つの反応槽が、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する、前記ポリマー合成装置に関する。
【0011】
別の実施形態において本発明は、堰が貫通孔を有する上記ポリマー合成装置に関する。
【0012】
別の実施形態において本発明は、反応装置に含まれる反応槽内の温度が後段になるほど高く、滞留時間が後段になるほど短いことを特徴とする、上記のいずれかに記載のポリマー合成装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高品質のポリマーを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポリマー合成装置は、重合反応に伴い反応熱が発生するポリマーの重合反応に好適に用いられる。そのようなポリマーには、開環重合反応又は付加重合反応によって生成するポリマーが含まれる。開環重合反応によって生成するポリマーについては、環式ポリマー原料、特に環式二量体の開環重合反応によって合成されるポリマー、特にポリエステルの重合反応に好適に用いられる。例えば、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体、ポリグリコール酸、グリコール酸を主成分とする共重合体等が挙げられる。また、本発明の装置が好適に用いられる付加重合反応によって生成するポリマーとしては、ポリスチレン、ポリビニレンカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエタクリル酸メチル、ポリ酢酸セルロース、ポリ酢酸ビニル等、及びこれらを含む共重合体が挙げられる。
【0015】
本発明の装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸の合成に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明の装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸の合成に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものも包含する。ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸など、ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明のポリマー合成装置は、ポリマー原料を溶融状態で重合させてポリマーを連続的又は間欠的に合成するための装置であり、溶融状態にある原料及び触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、重合反応を行うものである。原料とは、重合反応によりポリマーを合成するための構成要素となる、モノマー、環式モノマー、モノマーの環式2量体及びオリゴマー等を意味する。ポリ乳酸の合成においては、原料としてラクチドを使用し、溶融状態にある原料ラクチド及び触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、ラクチドの開環重合反応を行うことにより、ラクチドを溶融状態で重合させてポリ乳酸を連続的又は間欠的に合成する。本明細書において、反応液とは、溶融したポリマー原料、溶融原料と触媒の混合物、溶融原料と触媒と各種重合度の重合物との混合物など、ポリマーの合成行程で流通する溶融物や生成物などをすべて包含するものとする。
【0018】
本発明において、連続的又は間欠的に合成するとは、当技術分野において通常用いられる意味を有し、原料の供給と生成物であるポリマーの排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料の供給を連続的又は間欠的に行い、ポリマーを連続的又は間欠的に排出する場合を含むものである。
【0019】
原料が溶融状態にある場合は、溶融原料にそのまま触媒を添加して反応装置に供給し、重合反応に付すことができるが、原料が粉体状などの固形状である場合は、原料溶融装置によって原料を加熱することにより、予め原料を溶融する。原料溶融装置における加熱温度は、原料の融点以上であれば特に制限されない。従って、原料がラクチドである場合、95℃以上であれば特に限定されないが、通常95〜160℃、好ましくは110〜130℃である。160℃以下の温度とすることにより、ラクチドの熱による劣化を防止することができる。
【0020】
重合反応のための触媒としては、当業者であれば、合成するポリマーによって好適なものを適宜選択できる。例えば、ラクチドの開環重合に用いられる触媒としては、従来公知のポリ乳酸の重合用触媒を用いることができ、例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。
【0021】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
【0022】
触媒は、当技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融原料に添加することができる。溶融原料に触媒を添加してから反応装置に供給してもよいし、又は反応装置に直接触媒を添加してもよい。
【0023】
本発明において、原料を重合するための反応装置は、直列的に接続された2個以上の反応槽を含み、該反応槽内で溶融原料及び触媒を含む反応液を加熱することにより重合反応を行うものである。反応装置に含まれる反応槽の数は、2個以上であればよく、通常2〜4個、好ましくは2〜3個、より好ましくは2個である。
【0024】
以下に、重合反応のための反応装置の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態においては、重合反応を実施するための反応装置として、直列的に接続された2個以上の反応槽を含むとともに、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された少なくとも1つの堰を有する反応槽を少なくともその第1段目に含む反応装置を使用する。
【0025】
以下、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を横型反応槽と称する。この実施形態において、反応装置は、少なくとも第1段目に横型反応槽を有するが、第2段目以降の段にさらに横型反応槽を有していてもよい。第1段目以外の反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、第1段目に横型反応槽を含む反応装置を使用するものであるが、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以前の段に含む反応装置を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。
【0026】
地面に対して実質的に水平とは、攪拌装置の回転軸が厳密に水平であることを意図するものではなく、地面、すなわち、地平線と回転軸とのなす角度が、通常−5°〜5°、好ましくは−1°〜1°、より好ましくは0°であることを意味する。
【0027】
横型反応槽の形状は、撹拌装置を、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは地面と実質的に水平な中心軸を有する円筒状である。そして、該横型反応槽は、撹拌装置回転軸方向の一端に溶融原料を含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に水平方向に移っていくことになる。供給口は、撹拌装置の軸より上側に位置するのが好ましく、排出口は撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましい。
【0028】
横型反応槽に設置される撹拌装置としては、地面に対して実質的に水平方向に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への反応液の付着を防止することができるため、セルフクリーニング作用の観点から好ましい。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機を使用する場合は、各回転軸の攪拌翼が互い違いに設置されているのが好ましく、また、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。
【0029】
回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。従って、撹拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に水平に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
【0030】
横型反応槽における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。反応槽を実質的に一定の温度で加熱することが好ましい。
【0031】
横型反応槽内に供給された溶融原料は当初、上記加熱方法より加熱されて重合するが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。すなわち、上記加熱方法は、冷却方法としても作用しうる。そのため重合反応によって反応熱が発生するようなポリマーの場合には、熱を効果的に逃がすことができ、有利である。
【0032】
必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。そのために複数個の熱媒ジャケットを利用することが考えられる。反応槽内部は、例えば、堰間の領域に基づいて区分けすることができる。これにより例えば、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。熱媒加熱装置で加熱した熱媒を供給口付近に供給することによって反応槽内部に温度勾配を設定することもできる(例えば、図3の左側の反応槽を参照)。熱媒温度が低くなると、一部溶融物が固化して反応槽内面に付着する可能性があるが、この場合は、反応槽に設置された撹拌装置により付着物を引き剥がすことができる。
【0033】
横型反応槽は、その槽内に設置された堰を有する。この堰は、反応槽供給口から排出口に向けて反応液が急速に流れるのを阻害するように設置される。堰の形状は、反応液の流れを阻害可能な形状であればよく、反応槽の形状に基づいて決定することができ、好ましくは板状である。堰の設置方法についても特に制限されないが、例えば、堰が板状である場合は、地面に対し垂直に近い角度となるように設置される。また、攪拌装置回転軸と垂直な反応槽断面における下側、例えば下側半分又は1/3を遮るように、反応槽の底部内壁に設置される。ここで、地面に対し垂直に近い角度とは、地面と板状の堰とのなす角度が、85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。
【0034】
堰の材質としては、断熱性を有するものを使用するのが好ましい。
ポリマーの流通性を高める観点から、堰には貫通孔を設置する場合もあり、貫通孔は、反応槽の底部に近い部分、好ましくは反応槽底部内壁との境目に存在する。貫通孔の数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個である。上記のような貫通孔を設けることにより、反応液を適度な速度で流通させることができる。
【0035】
堰の設置位置及び間隔等は、当業者であれば反応条件等に基づき適宜決定することができる。例えば、ポリマーの粘度分布が同程度になる領域を分けるように堰の設置位置を決定することができる。また、反応槽内の堰の設置位置を決めた後、所定の流量で反応液が貫通孔を通過する際の抵抗が、堰の前後における反応液ヘッド差による駆動力よりも小さくなるように貫通孔の孔径を決定することができる。
【0036】
2つの堰間の領域は、単一の混合セルと同様に作用し、攪拌装置によって攪拌されることにより反応液が均一化される。これにより、粘度の低い原料溶融物や重合度の低い低粘度の重合物が、重合度の高い高粘度の重合物よりも速く流れて両者が混ざり合う影響を抑制することができる。第2段目以降に横型反応槽を設ける場合においては、重合物の粘度の上昇がある程度期待できるため、堰を省略してもよい。
【0037】
横型反応槽における供給口と排出口において、ヘッド差を設けることにより、反応液が供給口から排出口へと移動するための駆動力を与えることができる。反応液は、上記貫通孔を通って流れるか、あるいは堰よりも高い位置にある反応液がヘッド差により後段の領域に流れることにより、横型反応槽を排出口方向へ流れることができる。
【0038】
横型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、横型反応槽の容量に対し、通常10〜70%、好ましくは40〜50%まで液が張り込まれる量で供給される。また、堰の高さを超えない量で供給するのが好ましい。未反応のラクチドが急速に流れるのを、効果的に抑制できるからである。
【0039】
横型反応槽には、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプ等にフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法、横型反応槽上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測することにより測定する方法、横型反応槽上部に筒状のコンデンサーを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる(図1)。
【0040】
第1段目の横型反応槽における反応条件については、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常140〜180℃、好ましくは160〜170℃、滞留時間は、通常5〜15時間、好ましくは7〜10時間である。第1段目の横型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常5万〜20万、好ましくは15万〜20万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
【0041】
第1段目の反応槽を横型反応槽とすることにより、及び第1段目の反応槽内に上記のような堰を設けることにより、粘度が低い溶融原料並びに重合度・粘度の低い重合物が、ある程度重合反応が進んだ重合物と混合するのを抑制し、反応槽内でのピストンフロー性を確保することができる。そして、反応液が未反応のまま次の行程に移動することを防止でき、第1段目の反応槽において十分な反応を行うことができる。従って、滞留時間のばらつきに由来する温度履歴の長時間化が防止されるため、熱分解による重合物の劣化が抑制され、高品質のポリマーを得ることができる。
【0042】
本発明の別の実施形態においては、重合反応を行うための反応装置として、直列的に接続された2個以上の反応槽を含むとともに、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽を少なくともその最終段に含む反応装置を使用する。
【0043】
以下、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を縦型反応槽と称する。この実施形態において、反応装置は、少なくとも最終段に縦型反応槽を有するが、最終段以外の段にさらに縦型反応槽を有していてもよい。最終段以外の反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、最終段に縦型反応槽を含む反応装置を使用するものであるが、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以降の段に含む反応装置を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。
【0044】
地面に対して実質的に垂直とは、攪拌装置の回転軸が厳密に垂直であることを意図するものではなく、地面、すなわち、地平線と回転軸とのなす角度が、通常85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。
【0045】
横型反応槽と同様に、上記回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。従って、撹拌装置の回転運動の回転中心が地面に対して実質的に垂直に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
【0046】
縦型反応槽の形状は、撹拌装置を、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは攪拌装置の回転軸と実質的に平行に中心軸を有する円筒状である。そして、該縦型反応槽は、攪拌装置回転軸方向の一端に前段の反応槽からの反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に垂直方向に移っていくことになる。供給口は反応槽の上部に存在し、排出口は反応槽の下部に存在するのが好ましい。重合反応の進展に伴い重合物の比重が大きくなっていくため、上部に供給口を設けることにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを抑制することができる。
【0047】
縦型反応槽に設置される撹拌装置としては、地面に対して実質的に垂直に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機であって、各回転軸の攪拌翼が互い違いになるように設置されているものが好ましい。また、この場合、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への重合物等の付着を防止することができ、セルフクリーニング作用の観点から、重合反応が進み重合物の粘度が上昇している後段の反応槽においては特に有利に使用される。
【0048】
縦型反応槽における加熱方法としては、横型反応槽の場合と同様に、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0049】
縦型反応槽内に供給された溶融原料は当初、上記加熱方法より加熱されて重合反応が進むが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。従って、横型反応槽の場合と同様に、必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。これにより例えば、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。除熱がさらに必要な場合には、例えば、縦型反応槽内部にフィン(反応槽側面の凹凸)を設置することより、除熱効率をさらに向上させることもできる。また、熱媒加熱装置で加熱した熱媒を排出口付近に供給することにより、ポリマーを保温し、冷えすぎを防止する態様も考えられる(例えば、図3の右側の反応槽を参照)。
【0050】
重合反応後段においては高温で反応を行うのが好ましいため、温度上昇に伴う重合物の劣化が問題となるが、最終段に縦型反応槽を用いることで、温度上昇を抑制することができ、重合物が劣化し着色する影響を低減することができる。
【0051】
縦型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、縦型反応槽の容量に対し、通常20〜100%、好ましくは60〜100%まで液が張り込まれる量で供給される。従って、反応液が反応槽容量の通常半量程度しか導入されない従来の横型反応槽と比較して、反応液が反応槽内壁と接する面積が大きく、伝熱面積を広く取ることができる(図2)。原料の重合に伴う反応熱を伝熱により除去することで反応液の温度上昇を低減することができ、重合反応の後段において、生成した重合物の熱分解に伴う劣化を効果的に抑制し、着色を防止することができる。特にラクチドの開環重合においては、ポリ乳酸の着色を効果的に防止することができる。また、縦型反応槽の形状を、側面に凹凸を有する形状とすることにより、伝熱面積をさらに増加させることができ、熱除去効率を向上させることもできる。側面に凹凸を設ける上記態様においては、攪拌翼を反応槽の凹部分と噛み合うように設置することにより、反応槽内壁にこびりついた高粘度の重合物を掻き取ることができる(例えば、図3の右側の反応槽を参照)。
【0052】
縦型反応槽においても横型反応槽と同様に、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプにフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法、横型反応槽上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測する事により測定する方法、横型反応槽上部に筒状のコンデンサーを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる(図1)。
【0053】
最終段の縦型反応槽における反応条件についても、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常180〜220℃、好ましくは190〜210℃、滞留時間は、通常1〜7時間、好ましくは3〜5時間である。最終段の縦型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常10万〜50万、好ましくは20〜30万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態においては、重合反応、特に開環重合反応を行うための反応装置として、直列的に接続された2個以上の反応槽を含むとともに、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された少なくとも1つの堰を有する反応槽をその前段に少なくとも1つ含み、その回転軸が地面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽をその後段に少なくとも1つ含む反応装置を使用する。すなわち、直列的に接続された2個以上の反応槽を含む反応装置が、堰を有する横型反応槽を前段に少なくとも1つ含み、さらに縦型反応槽を後段に少なくとも1つ含む。堰を有する前段横型反応槽、及び後段縦型反応槽については、上記で説明したのと同様である。また、上記2つの反応槽以外の反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。
【0055】
ここで、堰を有する横型反応槽を前段に少なくとも1つ含むとは、反応装置に含まれる複数の反応槽のうち、半分より前の段、好ましくは第1〜3段目、より好ましくは第1段目に堰を有する横型反応槽が少なくとも1つ存在することを意味する。同様に、縦型反応槽を後段に少なくとも1つ含むとは、半分より後ろの段、好ましくは最後から第1〜3段目、より好ましくは最終段に縦型反応槽が少なくとも1つ存在することを意味する。ただし、堰を有する横型反応槽の後段に、少なくとも1つの縦型反応槽が存在する。2つの反応槽を含み、前段が堰を有する横型反応槽であり、後段が縦型反応槽である反応装置が最も好ましい。低コストであるとともに、合計の反応時間を短くすることで重合物の劣化を抑制できるからである。
【0056】
この実施形態では、堰を有する横型反応槽と縦型反応槽とを組み合わせることにより、反応の初期段階にある前段の横型反応槽においては、重合度及び粘度の異なる重合物の混合を抑制し温度履歴の長期化を防止するとともに、重合反応の最終段階にある後段の縦型反応槽においては、重合が進んだ高粘度の重合物における反応熱の除去効率を高めることができる。反応の初期段階では、重合物の熱分解による着色の影響があまり問題とならないため、横型反応槽としても問題はなく、反応の最終段階では、反応物は高重合度及び高粘度であるため、粘度の低い低重合度の重合物が急速に流れるということがないため縦型反応槽としても問題はない。性質及び効果の異なる上記横型反応槽と縦型反応槽とを好適に組み合わせた反応装置を使用することにより、重合物の熱分解に伴う劣化を抑制し、着色を非常に効果的に防止することが可能になる。
【0057】
前段の横型攪拌槽及び後段の縦型反応槽における反応条件についても、上記と同様の条件で反応を行うことができる。
【0058】
さらに、上記のいずれの実施形態においても、反応装置に含まれる反応槽内の温度が後段になるほど高く、該反応槽内の滞留時間が後段になるほど短くなるように設定することが好ましい。反応の初期段階では、熱分解の影響が比較的小さい低温での重合反応を長時間実施することで重合反応をできるだけ進め、重合反応の進捗が遅くなってきた後段では、より高温の条件で重合反応を進めることで、高温条件での反応時間を短縮し、重合物の劣化を抑制することにより着色の少ない高品質のポリマーを得ることができる。この態様においては、例えば、第1段目の反応槽内の温度を、140〜180℃、好ましくは160〜170℃とし、最終段の反応槽内の温度を180〜220℃、好ましくは190〜210℃とし、第1段目から最終段に向けて、順次温度が上がるように温度を設定する。
【0059】
本発明のポリマー合成装置においては、重合のための反応装置の後段に残存原料除去装置を設置して、反応装置から排出される反応液から未反応の原料を除去することができる。残存原料除去装置では、溶融状態を維持しつつ負圧環境を作ることにより、未反応の原料、例えばラクチドが除去される。
【0060】
さらに、本発明の合成方法を経て得られた重合物には、通常、水冷及びチップカッターによるペレット化処理等が施されるが、これらの処理は省略することができる。
【0061】
本発明のポリマー合成装置に使用される、原料溶融装置、触媒供給装置、横型反応槽及び又は縦型反応槽を含む反応装置、残存原料除去装置等の装置にはそれぞれ、窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管及び排気管が設置されていることが好ましい。そして、合成プロセスの運転は基本的に、プロセス内の全装置が窒素パージされた後に開始されるのが好ましい。これにより、酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐことができる。また、原料溶融装置、触媒供給装置、原料供給装置、横型反応槽、縦型反応槽等は、大気圧程度の圧力で運転するのが好ましい。そうすることにより、溶融原料の揮発を低減することができる。
【0062】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
図4に、本発明のポリマー合成装置の一実施例として、ポリ乳酸合成装置の実施例を示す。本実施例では、ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、ラクチド供給装置4、横型反応槽5、縦型反応槽6、残存ラクチド除去装置7、送液ポンプ8−13、バルブ14−29を備える合成装置によってポリ乳酸の合成を行う。本実施例は、反応装置として横型反応槽5と縦型反応槽6の2つが直列的に接続されている反応装置を用いる例である。送液ポンプ8−13については、輸送する液の粘度が低く、重力を利用して送液できる場合等については、一部省略することができる。また、バルブ14−25についても必要に応じて省略することができる。
【0064】
ラクチド供給装置1は、粉体状のラクチドをラクチド溶融装置2に供給する。ラクチド供給装置1の輸送方式として、例えばスクリューフィーダーによる輸送、超音波振動による輸送、ガス流による輸送等の方式がある。ラクチド溶融装置2では送られてきたラクチドを加熱して溶融する。その際の温度は、ラクチドの融点以上で、望ましくは熱による劣化が起こらないよう160℃以下の範囲とする。ラクチド溶融装置2で生成した溶融ラクチドは送液ポンプ8により触媒供給装置3に輸送される。触媒供給装置3では溶融ラクチドに触媒が供給される。触媒が添加された溶融ラクチドは送液ポンプ9によりラクチド供給装置4に供給される。ラクチド供給装置4では溶融ラクチドの温度をラクチドの融点以上で、望ましくは160℃以下の範囲に保持する。ラクチド供給装置4は本質的にその後段の反応槽5、6に対するバッファータンクであり、必要なければ省いても構わない。ラクチド供給装置4の溶融ラクチドは送液ポンプ10により横型反応槽5に供給される。なお、ラクチド供給装置4を省略する場合は送液ポンプ10も省略される。送液ポンプ8−10の前後の送液配管は、温度低下に伴うラクチドの凝固、閉塞を回避するため、全て、加熱・保温等によりラクチドの融点以上で、望ましくは160℃以下の範囲に保持される。
【0065】
横型反応槽5内では、溶融ラクチドが供給口と排出口の間のヘッド差により流れ、重合反応が進行する。横型反応槽5において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱される。
【0066】
堰を有する横型反応槽5の拡大図を図5に示す。横型反応槽5内部には貫通孔30を有する堰31が設置されている。堰間の領域32では攪拌により反応液が均一化される(この領域は単一の混合セルと見なすことができる)。そして、堰よりも高い位置にある反応液のみがヘッド差により後段の混合セルに流れることができる。横型反応槽5内部の反応液は重力及び送液ポンプ11により縦型反応槽6に輸送される。送液ポンプ11については、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。また、横型反応槽5から重力で反応液を抜き出すことが可能な場合は送液ポンプ11を省略することができる。送液ポンプ11前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては反応液が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。横型反応槽5内部では必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、液面の高さが所定値となるよう、計測信号を送液ポンプ10、又は送液ポンプ11にフィードバックし、反応液の輸送量を調節する。
【0067】
反応液は、縦型反応槽6の上部に設置された供給口に輸送され、重力により縦型反応槽6下部の排出口を目指して流れ、重合反応が進行する。これにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを防止することができる。横型反応槽5において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱される。
【0068】
縦型反応槽6では横型反応槽5と比べて伝熱面積が大きく取れるため、加熱、除熱の効率が大きい。このため、最終段に縦型反応槽6を用いることで、反応熱に伴う温度上昇で重合物が劣化する影響を低減することができる。縦型反応槽6では、高粘度重合物の攪拌に適している、攪拌翼が設置された回転軸を2本持った攪拌装置(以下、2軸攪拌装置と呼ぶ)を用いる。2軸撹拌装置を有する縦型反応槽の拡大図を図6に示す。縦型反応槽6内部の反応液は重力及び送液ポンプ12により残存ラクチド除去装置7に輸送される。送液ポンプ12として、送液ポンプ11と同様、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。送液ポンプ12前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては重合物が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。縦型反応槽6内部には、横型反応槽5の場合と同様、必要に応じて反応液の液面を計測する装置を設置し、液面の高さが所定値となるよう、計測信号を送液ポンプ11、又は送液ポンプ12にフィードバックし、反応液の輸送量を調節する。
【0069】
残存ラクチド除去装置7では溶融状態を維持しつつ負圧環境を作り、未反応のラクチドを除去処理する。処理後の反応液は送液ポンプ13により排出される。送液ポンプ13としては、送液ポンプ11と同様、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。排出された重合物は通常、水冷、チップカッターによるペレット化処理が施される。
【0070】
ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、ラクチド供給装置4、横型反応槽5、縦型反応槽6、残存ラクチド除去装置7にはそれぞれ、窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管、排気管が設置されている。これは酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐためである。プロセスの運転は基本的に、プロセス内の全装置を窒素パージした後に開始されるのが望ましい。また、ラクチド供給装置1、ラクチド溶融装置2、触媒供給装置3、ラクチド供給装置4、横型反応槽5、縦型反応槽6は大気圧程度の圧力で運転する。これは溶融ラクチドの揮発を低減するためである。
【0071】
(実施例2)
実施例1で示した合成装置によって、ポリ乳酸を合成した。ラクチド溶融装置2の温度を120℃に設定し、横型反応槽5に、触媒、重合開始剤を分散した溶融ラクチド(分子量144)を120℃で供給した。横型反応槽5内において、反応液を平均温度170℃、滞留時間10時間に保持した。滞留時間の前半においては、反応槽外周部のジャケットからの熱伝導により加熱され、後半においては、重合に伴う反応熱に伴い重合物自身の温度が上昇したが、一部の反応熱は反応槽の内壁を介して熱伝導により除去された。横型反応槽から排出されたポリ乳酸は、重合反応度(転化率)が55%(重合反応度=1−残存ラクチド濃度/初期ラクチド濃度として算出)、重量平均分子量17万、粘度250Pa・s程度であった。
【0072】
この重合物を、次に縦型反応槽6に供給した。縦型反応槽6において、重合物は平均温度190℃、滞留時間5時間に保持した。滞留時間の間、重合に伴う反応熱に伴い重合物自身の温度が上昇したが、一部の反応熱は反応槽の内壁を通して熱伝導により除去された。なお、重合反応の進展に伴い、単位体積当たりの発熱率は低下するため、発熱率が熱伝導による熱の除去率を上回る間は重合物自身の温度は上昇するが、下回るようになると重合物自身の温度は低下する。縦型反応槽6から排出されるポリ乳酸は、重合反応度で90%、重量平均分子量27万、粘度2500Pa・s程度であった。
【0073】
得られたポリ乳酸の色相(b)を色彩色度計で測定したところ、b=4であった。以上から、本発明の方法により、b=4以下の着色が少なく高品質のポリ乳酸が得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明にかかる反応槽内において、反応液液面の計測手法を示す図である。
【図2】本発明で用いられる横型反応槽及び縦型反応槽における、反応液と反応槽内壁との接触面積の考え方を示す図である。
【図3】堰を有する横型反応槽及び側面に凹凸を有する形状の縦型反応槽を含む2段の反応装置の一実施形態を示す図である。
【図4】本発明のポリ乳酸の重合方法の一実施例を示す図である。
【図5】堰を有する横型反応槽5の拡大図を示す図である。
【図6】2軸撹拌装置を有する縦型反応槽6の拡大図を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1・・・ラクチド供給装置、2・・・ラクチド溶融装置、3・・・触媒供給装置、
4・・・ラクチド供給装置、5・・・横型反応槽、6・・・縦型反応槽、
7・・・残存ラクチド除去装置、8−13・・・送液ポンプ、14−29・・・バルブ
30・・・貫通孔、31・・・堰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応装置を含むポリマー合成装置であって、
反応装置が直列的に接続された2個以上の反応槽を含み、その第1段目の反応槽が、その回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された堰を有し、反応槽内部が複数個の領域に区分けされており、反応槽内の反応液が熱媒により加熱され、区分けされた領域ごとに熱媒温度を変えることができるよう構成されている、前記ポリマー合成装置。
【請求項2】
反応槽外周部に複数個の熱媒ジャケットが設置されており、それによって区分けされた領域ごとに熱媒温度を変えることができる、請求項1に記載のポリマー合成装置。
【請求項3】
反応液が、攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通すことにより伝熱により加熱される、請求項1に記載のポリマー合成装置。
【請求項4】
区分けされた領域において、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度が高く設定され、反応液温度が高くなる領域では熱媒温度が低く設定される、請求項1に記載のポリマー合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−285680(P2008−285680A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176417(P2008−176417)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【分割の表示】特願2004−28517(P2004−28517)の分割
【原出願日】平成16年2月4日(2004.2.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】