説明

ポリマー微粒子及びその製造方法

【課題】ある程度大きな粒径を有しながら、高い圧縮回復率を有するポリマー微粒子を、シード粒子の使用を必要としない簡易なプロセスで製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジビニルベンゼンを含むエチレン性不飽和単量体、ラジカル重合開始剤及びこれらが溶解した溶剤を含有する反応液中でエチレン性不飽和単量体をラジカル重合させて、エチレン性不飽和単量体の重合体を含むポリマー微粒子を反応液中に生成させる工程と、ポリマー微粒子を160〜200℃に加熱する工程と、を備える、ポリマー微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、架橋度が高く優れた耐熱性および耐薬品性を有するポリマー微粒子は、各種スペーサー、導電性微粒子等の電気・電子材料分野をはじめ、樹脂フィルムの滑り特性の改質剤、クロマトグラフィー用担体、生物医薬用素子等の種々の分野で応用され、実用化されている。一般に、これらのポリマー微粒子は、懸濁重合法、乳化重合法、膨潤重合法、分散重合法などの方法により製造されている。
【0003】
懸濁重合では、架橋性モノマーの油滴を機械的な力によって水性媒体中に懸濁させて重合することにより、架橋したポリマー微粒子を製造することができる。
【0004】
乳化重合では、通常、架橋性モノマーを2.0質量%程度までしか使用できず、また、得られる粒子径の範囲は0.1〜1.0μmであり1μmを超える粒子径のものは得られないと言われている。特許文献1では、特殊なシード粒子を用いることにより、架橋性モノマーを20.0質量%以上使用しても安定に乳化重合できる方法が開示されているが、製造できる粒子径の範囲は通常の乳化重合と同じ0.1〜1.0μmである。このように、乳化重合では、1μmを超える粒子径を有する架橋されたポリマー微粒子を得ることは困難である。
【0005】
特許文献2には、重合の第1段階において、膨潤助剤として機能する、水に対する溶解度が10−2g/L(10−3質量%)より小さい有機化合物をシードポリマーに吸収させ、その後の第2段階で、水にある程度可溶なモノマーをシードポリマーに対して容量で20〜300倍、最大で1000倍程度吸収させてモノマー膨潤粒子を形成させ、その形状を保持したまま重合する膨潤重合法が開示されている。この方法によれば、架橋性モノマーを多く使用することが可能となる結果、1μm以上の大きさで均一な粒子径分布を有する架橋したポリマー微粒子を製造することができる。
【0006】
特許文献3には、架橋性ビニルモノマーを20質量%以上用いた分散重合法によるポリマー微粒子の製造方法が開示されている。この方法によれば、数ミクロンの粒径を有する単分散粒子を製造することがある程度可能である。
【0007】
特許文献4は、分散重合法に類似した沈殿重合法を行なう際に、親水性官能基または活性水素基を有する不飽和単量体を架橋性モノマーと共重合することによって架橋ポリマー粒子を製造する方法を報告している。この方法であれば、ミクロンサイズの単分散粒子を効率良く得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−315454号公報
【特許文献2】特開昭54−126288号公報
【特許文献3】特開平6−122703号公報
【特許文献4】特開2006−282772号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science. Part A: Polymer Chemistry、(米国)、1993年、31巻、p.3257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4に開示される方法を初めする従来の方法で合成した比較的大きな粒径を有するポリマー微粒子は、圧縮回復率がそれほど高くはないという問題があった。ポリマー微粒子を導電体で被覆して得られる導電性微粒子を異方導電性フィルムにおいて用いた場合、ポリマー微粒子の圧縮回復率が低いと配線を安定的に繋ぐことが困難である。
【0011】
また、特許文献2に開示されるようなシード粒子を用いた方法の場合、膨潤助剤の水に対する溶解度が著しく低いため、これを水中に拡散させてシード粒子へ吸収させる工程に長時間を要するという問題他がある。
【0012】
そこで、本発明は、ある程度大きな粒径を有しながら、高い圧縮回復率を有するポリマー微粒子を、シード粒子の使用を必要としない簡易なプロセスで製造する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ジビニルベンゼンを含むエチレン性不飽和単量体、ラジカル重合開始剤及びこれらが溶解した溶剤を含有する反応液中でエチレン性不飽和単量体をラジカル重合させて、エチレン性不飽和単量体の重合体を含むポリマー微粒子を反応液中に生成させる工程と、ポリマー微粒子を160〜200℃に加熱する工程と、を備える、ポリマー微粒子の製造方法に関する。
【0014】
上記本発明によれば、ある程度大きな粒径を有しながら、高い圧縮回復率を有するポリマー微粒子を、シード粒子の使用を必要としない簡易なプロセスで製造することが可能である。反応液中でポリマー微粒子が生成した段階では、ジビニルベンゼン等に由来するビニル基が多く残存しており、その後の160〜200℃の加熱により後架橋が進行して、架橋したポリマー微粒子が得られる。
【0015】
本発明に係る製造方法は、反応液中の溶剤をこれとは異なる第二の溶剤に置換して、ポリマー微粒子及びこれが分散した前記第二の溶媒を含有する分散液を得る工程を更に備えることが好ましい。この場合、前記分散液中でポリマー微粒子が160〜200℃に加熱される。より好ましくは、反応液からポリマー微粒子を取り出し、取り出されたポリマー微粒子を第二の溶剤に分散させる方法により、反応液中の溶剤が第二の溶剤に置換される。
【0016】
溶剤を置換してからポリマー微粒子を加熱することで、ポリマー微粒子の二次粒子の生成を抑制して、実質的に単分散のポリマー微粒子を容易に得ることが可能になる。また、反応液からポリマー微粒子を一旦取り出すことにより、残存するラジカル重合開始剤及びエチレン性不飽和単量体が除去され、二次粒子の形成を防止することができ、後架橋のための加熱を安定して行うことが可能となる。
【0017】
エチレン性不飽和単量体は、エチレン性不飽和単量体全量を基準として10質量%以上のジビニルベンゼンを含むことが好ましい。
【0018】
ラジカル重合開始剤の分解温度は40〜160℃であることが好ましい。ラジカル重合開始剤の分解温度が40〜160℃であると、ビニル基の自己反応が抑制され、主に開始剤からのラジカル反応に基づいてポリマー微粒子を成長させることが可能となる。
【0019】
本発明はまた、上記本発明に係る製造方法により得ることのできる、ポリマー微粒子に関する。
【0020】
本発明に係るポリマー微粒子は、ある程度大きな粒径を有しながら、高い圧縮回復率を有する。また、本発明に係るポリマー微粒子は、シード粒子の使用を必要としない簡易なプロセスで製造されることが可能である。
【0021】
上記ポリマー微粒子の50%圧縮回復率は50〜80%であることが好ましい。
【0022】
また、上記ポリマー微粒子の平均粒子径が0.1〜10μmであり、粒子径のCV値が10%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ある程度大きな粒径を有しながら、高い圧縮回復率を有するポリマー微粒子を、シード粒子の使用を必要としない簡易なプロセスで製造する方法が提供される。
【0024】
特に、溶剤の置換をともなう場合、粒子径分布が狭く、実質的に単分散の粒度分布を有するポリマー微粒子を容易に得ることができる。例えば懸濁重合の場合、架橋性モノマーの油滴を機械的な力により分散させるため、得られるポリマー微粒子の粒子径分布は、1〜50μmと広いものになり、分級操作が必要になる。また、シード粒子を用いる場合、シード粒子に吸収されずに残留した油滴が、モノマー重合後、粗大粒子となる場合があり、分級工程が必要となるという欠点もある。その他の従来の方法でも、粒径が2.5μmを越えるようなポリマー微粒子を製造する場合、粒子同士の凝集や融着が増大し、単分散性の粒子を得ることが非常に難しくなる。しかも、親水性や水溶性の重合性モノマーを共重合させる場合は、さらに凝集や融着が激しくなり、単分散性の制御が一層困難になる。これに対して、本発明によれば、粒径分布の狭いポリマー微粒子を容易に高い歩留まりで得ることができる。
【0025】
本発明に係る製造方法により得られるポリマー微粒子は、圧縮破壊変形率の点でも優れる。また、加熱の条件を適宜変更することにより、同一組成でポリマー微粒子の硬さをコントロールすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ポリマー微粒子の後架橋の過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
本実施形態に係るポリマー微粒子の製造方法は、ジビニルベンゼンを含むエチレン性不飽和単量体、ラジカル重合開始剤及びこれらが溶解した溶剤を含有する反応液中でエチレン性不飽和単量体をラジカル重合させて、エチレン性不飽和単量体の重合体を含むポリマー微粒子を反応液中に生成させる工程(第一の工程)と、ポリマー微粒子を160〜200℃に加熱する工程(第二の工程)とを備える。第一の工程における反応液中でのラジカル重合は、沈殿重合として行われることが好ましい。
【0029】
エチレン性不飽和単量体は、ジビニルベンゼンの他に、ジビニルベンゼンと共重合する他のビニル単量体を含んでいてもよい。この単量体は、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する架橋性ビニル単量体であってもよいし、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を1個有する非架橋性ビニル単量体であってもよい。エチレン性不飽和単量体中のジビニルベンゼンの含有量は、特に限定されるものではないが、エチレン性不飽和単量体全量を基準として好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜97質量%、更に好ましくは40〜97質量%である。
【0030】
架橋性ビニル単量体の具体例としては、ジビニルビフェニル;ジビニルナフタレン;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、末端アクリル変性ブタジエンオリゴマー、末端アクリル変性ウレタンオリゴマー、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,7−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオール系ジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジアリルフタレートおよびその異性体、トリアリルイソシアヌレートおよびその誘導体が挙げられる。これらの架橋性ビニル単量体は単独又は2種以上混合して用いることができる。通常市販のジビニルベンゼンは55〜96重量%程度の純度でエチルスチレン等の不純物をかなり含んでいる。また、主成分であるジビニルベンゼン自体もパラ体とメタ体との混合物である。
【0031】
非架橋性ビニル単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、スチレンスルホン酸、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、α−メチル−p−t−アミロキシスチレン、p−t−アミロキシスチレン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマーが挙げられる。これらの非架橋性ビニル単量体は単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0032】
ポリマー微粒子を製造するにあたって、エチレン性不飽和単量体は、2種類以上のビニル単量体を含むことが好ましい。複数種のビニル単量体を用いることで、耐熱性、耐薬品性、耐候性、硬度、弾性力などの、化学的、機械的特性を向上させたり、適宜調節したりし易くなる。
【0033】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、公知のラジカル重合開始剤から適宜選択して用いることができる。具体例としては、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種類以上組み合わせて使用することができる。ラジカル重合開始剤の分解温度は40〜160℃であることが好ましい。
【0034】
ラジカル重合開始剤の配合量は、通常、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。これにより、生成するポリマー微粒子中にビニル基を容易に残存させることができる。同様の観点から、ラジカル重合開始剤の配合量は1〜2質量部であるこが好ましく、ラジカル重合開始剤がアゾビスイソブチロニトリルであることが好ましい。
【0035】
第一の工程で用いられる媒体としての溶剤は、エチレン性不飽和単量体(原料モノマー)は溶解するが生成するポリマー微粒子は溶解しないものから選択される。この溶剤は、一般的な溶媒の中から、使用する原料等に応じて適宜混合し、使用することができる。使用可能な溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、(アルキル)セロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル類;ペンタン、2−メチルブタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、デカン、ノナン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン、ジシクロヘキシル、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の脂肪族又は芳香族炭化水素類;四塩化炭素、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、テトラブロムエタン等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル、ジメチルエーテル、トリオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メチラール、ジエチルアセタール等のアセタール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸類;ニトロプロペン、ニトロベンゼン、ジメチルアミン、モノエタノールアミン、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン等の硫黄、窒素含有有機化合物類が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。アセトニトリルを用いることがポリマー微粒子の凝集防止の点から好ましい。
【0036】
ポリマー微粒子の生成後、反応液からポリマー微粒子を取り出し、取り出されたポリマー微粒子を第二の溶剤に分散させる方法により、反応液中の溶剤がこれとは異なる第二の溶剤に置換される。ポリマー微粒子は、ろ過により反応液中から取り出すことができる。
【0037】
第二の工程において用いられる第二の溶剤は、常温で液体であり、沸点もしくは分解温度が160℃以上200℃以下であることが好ましい。第二の溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトン、グリセリン、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1.3−ブタンジオール、n−ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン、n−オクタン、n−ドデカン等の炭化水素類、リノール酸等の脂肪酸類、ポリエチレングリコール、ジメチルシリコーン等の高分子類が挙げられる。これらの溶剤は単独又は2種以上混合して用いることができる。第二の溶剤は常温で液体であることから、加熱前に超音波等でポリマー微粒子の分散が可能であるため、均一な加熱処理を行なうことができる。
【0038】
第二の工程において、ポリマー微粒子が好ましくは160〜200℃に加熱される。加熱の温度はより好ましくは170〜180℃である。これら温度が160℃未満であると、得られるポリマー微粒子の圧縮回復率及び圧縮破壊変形率の向上の効果が小さくなる傾向がある。
【0039】
図1は、第二の工程としての熱処理によるポリマー微粒子の後架橋の過程を示す模式図である。図1の(a)に示されるポリマー微粒子10には、複数の架橋点1が含まれるとともに、ジビニルベンゼン等に由来するビニル基が存在する。熱処理によって、ポリマー鎖が交差する領域Aに存在する残存ビニル基が反応して、新たな架橋点2が形成される(図1の(b))。すなわち、ポリマー微粒子10の架橋度が大きくなる。その結果、ポリマー微粒子10の圧縮回復率及び圧縮破壊変形率が向上する。このように、架橋したポリマー微粒子10は、シード重合で合成される粒子のようにコアとシェルの2層構造となっておらず、通常1層構造を持っている。
【0040】
第二の工程は、気相中で行うこともできる。この場合、例えば、空気、チッ素等の不活性ガス気流下、もしくは減圧下でポリマー微粒子が加熱される。
【0041】
以上のような方法により、50%圧縮変形回復率が50%以上のポリマー微粒子が得られる可能性が高く、場合によっては70%以上の50%圧縮変形回復率を有するポリマー微粒子を製造することも可能である。50〜65%の50%圧縮変形回復率を有するポリマー微粒子を得ることもできる。
【0042】
圧縮回復率は、ポリマー微粒子を中心から圧縮した後、逆に荷重を減らして行く際の、荷重値と圧縮変位との関係を測定して得られる値である。荷重を反転させる点から最終除荷値までの変位をL1とし、反転の点から初期荷重値までの変位をL2とするとき、両者の比(L1/L2)を%で表した値が圧縮回復率である。荷重を反転させる点における変位が粒子直径の50%のとき圧縮変形回復率を、50%圧縮変形回復率という。
【0043】
20℃で測定したときの50%圧縮変形回復率は、45%以上であることが好ましい。50%圧縮変形回復率が45%以上であると、当該ポリマー微粒子と当該ポリマー微粒子を覆う導電層とから構成される導電性粒子を形成し、これを異方導電性接着剤に用いたときに、電極間の接触不良が起こり難い。同様の観点から、50%圧縮変形回復率は50%以上であることがより好ましい。
【0044】
上述の実施形態に係る製造方法によれば、50%圧縮変形回復率が50%以上のポリマー微粒子が得られる可能性が高く、場合によっては70%以上の50%圧縮変形回復率を有するポリマー微粒子を製造することも可能である。50〜65%の50%圧縮変形回復率を有するポリマー微粒子を得ることもできる。
【0045】
高い50%圧縮変形回復率を有するポリマー微粒子は、弾力性に優れる可能性が高い。このため、当該ポリマー微粒子と当該ポリマー微粒子を覆う導電層とから構成される導電性粒子を異方導電性材料に用いたときに、電極間の接続に用いる基板を傷つけたり、貫通したりする可能性が低く、また、高圧縮変形させても高精度のギャップ保持性や安定した接続信頼性が発揮される可能性が高い。
【0046】
ポリマー微粒子の圧縮変形率は、180〜190℃で測定したときに55〜80%であることが好ましい。ここで、圧縮破壊変形率とは、粒子の中心部を真上から押し込んだ際に粒子が形状を保てなくなり破壊する時点の変形率のことを示す。この圧縮破壊変形率が低いと、当該ポリマー微粒子と当該ポリマー微粒子を覆う導電層とから構成される導電性粒子を異方導電性フィルムに用いたときに、配線との接触面積が小さくなるために導通が低くなる傾向がある。
【0047】
ポリマー微粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.2〜30μm、更に好ましくは0.3〜20μm、より一層好ましくは0.5〜5μmである。ポリマー微粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、微粒子が凝集し易くなる可能性がある。
【0048】
ポリマー微粒子の粒子径(直径)のCV値は、15%以下であることが好ましい。CV値が15%を超えると、ポリマー微粒子の用途性能が低下(例えばポリマー微粒子を用いて導電性粒子を形成した際の接続信頼性、生体検査素子としての定量性等が低下)することがある。粒子径のCV値は、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、より一層好ましくは4%以下である。
【0049】
上記CV値は、下記計算式により求められる値のことをいう。
CV値(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100
【0050】
上記平均粒子径およびCV値(%)は、走査電子顕微鏡(S−4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製、以下、SEMという)を用い、測定可能な倍率(300〜200000倍)でポリマー微粒子(n=100)の写真を撮影し、粒子を二次元化した状態で測定した粒子径の平均値およびそれより算出されるCV値(%)である。
【0051】
本実施形態に係るポリマー微粒子は、上述のような特徴を有することから、電材分野だけでなく、塗料、コーティング剤、光拡散剤、化粧料、医薬又は生体検査素子、農薬、建築材料等、広範囲の分野で用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1
100mL三口フラスコに、下記に示した各化合物を一括して仕込み、70℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約12時間撹拌して、ジビニルベンゼン−エチルビニルベンゼン共重合体微粒子(ポリマー微粒子)の分散液を得た。
(1)エチレン性不飽和単量体
DVB−80(アルドリッチ、ジビニルベンゼン(DVB)80質量%、エチルビニルベンゼン(EVB)19質量%含有):2.3g
(2)溶剤
アセトニトリル(和光純薬):60.7g
(3)ラジカル重合開始剤
アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬):DVBとEVBの合計量に対して2質量%
【0054】
次に、得られた分散液を、吸引ろ過設備を用いてろ過した。ろ過により取り出されたポリマー微粒子を、テトラヒドロフラン(THF)(和光純薬)で3〜5回程度洗浄した後、真空乾燥した。乾燥後のポリマー微粒子の粒子径をSEM観察により測定したところ、平均粒子径が3.4μmの球状の単分散粒子であった。粒子径のCV値は1.5%であった。
【0055】
上記のポリマー微粒子1gをγ−ブチロラクトン(和光純薬)20gに添加して分散液を調整し、得られた分散液を180℃、200℃の順で加熱した。この熱処理により残存ビニル基の後架橋を行った。熱処理後の残存ビニル基の量を赤外分光法を用いたKBr錠剤法により定量したところ、DVBモノマのビニル基のピークを基準(100%)として1.5%残存していた。
【0056】
実施例2
エチレン性不飽和単量体としてDVB−960(新日鉄化学工業、DVB96質量%、EVB3質量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして沈殿重合を行い、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子の平均粒子径と粒子径のCV値はそれぞれ3.5μm、1.4%であった。このポリマー微粒子をγ−ブチロラクトンに分散し、空気中と窒素雰囲気下で180℃に加熱した。実施例1と同様の方法により残存ビニル基を定量したところ、1.2%であった。
【0057】
実施例3
エチレン性不飽和単量体としてDVB−960を1.61gと、アクリル酸ブチル(BA)(和光純薬)を0.58g用いたこと以外は実施例1と同様にして沈殿重合を行い、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子の平均粒子径と粒子径のCV値はそれぞれ3.5μm、1.6%であった。このポリマー微粒子をγ−ブチロラクトンに分散し、窒素雰囲気下で180℃に6時間加熱した。実施例1と同様の方法により残存ビニル基を定量したところ、1.4%であった。
【0058】
実施例4
エチレン性不飽和単量体としてDVB−960を1.2gと、アクリル酸エチル(EA)(和光純薬)を0.6gと、1,9−ノナンジオールジメタクリレート(新中村化学)を0.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして沈殿重合を行い、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子の平均粒子径と粒子径のCV値はそれぞれ3.8μm、3.0%であった。このポリマー微粒子をγ−ブチロラクトンに分散し、窒素雰囲気下で180℃に加熱した。実施例1と同様の方法により残存ビニル基を定量したところ、1.1%であった。
【0059】
実施例5
実施例1と同様にしてアセトニトリル中にポリマー微粒子を生成させた分散液に、溶剤としてγ−ブチロラクトン(和光純薬)をアセトニトリルに対して倍の量を添加し、180℃に加熱した。加熱によりポリマー微粒子の平均粒子は3.6μmに増加し、小粒子(二次粒子)の生成のために、粒子径のCV値が13%と高くなった。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、1.5%であった。
【0060】
比較例1
実施例1で合成したポリマー微粒子をγ−ブチロラクトン中で熱処理することなくそのまま用いた。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、14%であった。
【0061】
比較例2
実施例1で合成したポリマー微粒子をγ−ブチロラクトン中で120℃に加熱した。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、7%であった。
【0062】
比較例3
エチレン性不飽和単量体としてスチレン(ST)(和光純薬)を2.3g用いたこと以外は実施例1と同様にして沈殿重合を行い、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子の平均粒子径と粒子径のCVはそれぞれで3.2μm、3.4%あった。得られたポリマー微粒子をγ−ブチロラクトンに分散し、実施例1と同様にして窒素雰囲気下で180℃に加熱した。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、0.2%であった。
【0063】
比較例4
実施例1と同様にアセトニトリル中でポリマー微粒子を生成させた後、溶剤を置換せずアセトニトリル中でポリマー微粒子を80℃に6時間加熱した。粒子径、CV値に変化は見られなかった。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、13%であった。
【0064】
参考例
エチレン性不飽和単量体としてDVB−960を4.9gと、メタクリル酸(MA)(和光純薬)を2.1gを用い、溶剤としてアセトニトリル70g、開始剤AIBNを0.6g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリマー微粒子を得た。実施例1と同様の方法により残存ビニル基の量を定量したところ、1.0%であった。
【0065】
ポリマー微粒子の機械強度測定
測定機器として、フィッシャースコープH100C(フィッシャーインスツルメント製)を用いた。室温の試料台上でポリマー微粒子の中心方向に対し圧縮速度0.33mN/秒で荷重を50%の変位まで負荷し、5秒間保持した後、0.33mN/秒で除荷した。このとき得られた荷重と変位の関係に基づいて、50%圧縮回復率を求めた。また、180〜190℃での圧縮変形破壊率は、試料台の上にホットプレートを置き、負荷、除負荷における圧縮速度1mN/秒で50mNまで荷重を加える方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
粒度分布測定による分散性評価
実施例1〜4で得られたポリマー粒子を、公知の超音波分散設備を使用して水に分散させて、1質量%のポリマー微粒子水分散液を調製した。この分散液中のポリマー微粒子約2万個の粒度分布を、粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス製)を用いて顕微鏡観察により測定した。分散液中のポリマー微粒子は上記とほぼ同様の平均粒子径となり、その粒度分布はシャープな一山の単分散となることが確認された。
【0067】
【表1】

【0068】
エチレン性不飽和単量体の組成が同じである実施例1、5、比較例1、2、4を比較すると、実施例1、5は比較例1、2、4と比較してより高い50%圧縮回復率及び圧縮破壊変形率を示した。特に、溶剤置換を行った実施例1〜4は、二次粒子の生成が無く、水への分散性も優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るポリマー微粒子は、耐熱性、耐薬品性、反応性、溶液分散性にも優れているため、液晶用スペーサー、導電性微粒子およびそれを用いた導電材料,静電荷現像剤,銀塩フィルム用表面改質剤,磁気テープ用フィルム改質剤,感熱紙走行安定剤,トナー等の電気・電子工業分野、インク,接着剤,粘着剤,光拡散剤,塗料,紙コーティング・情報記録紙等の紙用コーディング剤などの化学分野、芳香剤,低収縮化剤,紙、歯科材料,樹脂改質剤等の一般工業分野、液状またはパウダー状化粧品に添加される滑り剤や体質顔料等の化粧品分野、生体および抗原抗体反応検査用粒子等の生物・医療分野、医薬および農薬分野、建築分野、自動車分野等の広範囲の分野において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1,2…架橋点、10…ポリマー微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニルベンゼンを含むエチレン性不飽和単量体、ラジカル重合開始剤及びこれらが溶解した溶剤を含有する反応液中で前記エチレン性不飽和単量体をラジカル重合させて、前記エチレン性不飽和単量体の重合体を含むポリマー微粒子を前記反応液中に生成させる工程と、
前記ポリマー微粒子を160〜200℃に加熱する工程と、
を備える、ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応液中の前記溶剤をこれとは異なる第二の溶剤に置換して、前記ポリマー微粒子及びこれが分散した前記第二の溶剤を含有する分散液を得る工程を更に備え、
前記分散液中で前記ポリマー微粒子を160〜200℃に加熱する、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応液から前記ポリマー微粒子を取り出し、取り出された前記ポリマー微粒子を前記第二の溶剤に分散させる方法により、前記反応液中の前記溶剤が前記第二の溶剤に置換される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体が、前記エチレン性不飽和単量体全量を基準として10質量%以上のジビニルベンゼンを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ラジカル重合開始剤の分解温度が40〜160℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得ることのできる、ポリマー微粒子。
【請求項7】
50%圧縮回復率が50〜80%である、請求項6に記載のポリマー微粒子。
【請求項8】
平均粒子径が0.1〜10μmであり、粒子径のCV値が10%以下である、請求項6又は7に記載のポリマー微粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−116539(P2010−116539A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182797(P2009−182797)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】