説明

ポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法

【解決手段】熱可塑性樹脂製のコアの外周にシリコーンゴム組成物を被覆、硬化させて碍子又は碍管の形状に成形したポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法であって、上記シリコーンゴム組成物として、
(イ)有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物、
(ロ)シリカ微粉末、
(ハ)水溶性Naイオン含有量が0.01重量%以下であり、30重量%水スラリーが6.5≦pH≦8.0でかつ電気電導度50μs/cm以下である水酸化アルミニウム
を含有してなる高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物を使用するポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法。
【効果】本発明によれば、過酷な大気汚染、塩害あるいは気候に晒された条件下でも、耐吸水性、耐電気特性、耐候性、撥水性、防汚性、耐電圧性、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージョン性等の高電圧電気特性に優れた碍子を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低吸水率で優れた電気特性を有する加熱硬化型シリコーンゴムを与える高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物をプラスチック製コアの外周に被覆、硬化させてなるポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送・配電線等に用いる碍子、変電所等に用いる碍管に使用される高電圧電気絶縁体は、一般に磁器製又はガラス製である。しかし、これらは重量が重く又壊れ易い欠点があった。更に海岸沿いの地域や工業地帯のように汚染を受け易い環境下では、絶縁体の表面を微粒子や塩類、塵等が付着することにより、漏れ電流が発生したり、フラッシュオーバーにつながるドライバンド放電等が起こり易いという問題があった。
【0003】
そこで、これらの磁器製又はガラス製の絶縁体の欠点を改良するために従来より種々の解決法が提案されている。例えば、米国特許第3511698号公報(特許文献1)には、硬化性樹脂からなる部材と白金触媒含有オルガノポリシロキサンエラストマーとからなる耐候性の高電圧電気絶縁体が提案されている。また、特開昭59−198604号公報(特許文献2)には、一液性の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物をガラス製又は磁器製の電気絶縁体の外側表面に塗布することにより、湿気、大気汚染、紫外線等の野外におけるストレスの存在下においても前記電気絶縁体の有する高性能を維持させる技術が提案されている。
【0004】
更に、特公昭53−35982号公報(特許文献3)、米国特許第3965065号公報(特許文献4)及び特開平4−209655号公報(特許文献5)には、加熱硬化によりシリコーンゴムとなるオルガノポリシロキサンとアルミニウム水和物との混合物を100℃よりも高い温度で30分以上加熱することによって、電気絶縁性が改良されたシリコーン組成物が得られることが提案され、また特開平7−57574号公報(特許文献6)には、シリコーンゴムにメチルアルキルポリシロキサン油を配合することにより、経時での接触角回復特性が得られ、閃絡防止に効果があることが提案されている。
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、いずれも使用されているシリコーンゴム材料の高電圧電気特性能が不十分であり、かつ電気絶縁性能を向上するために多量のアルミニウム水酸化物を使用しなければならず、そのためゴムの機械的強度が弱くなるという欠点が生じる。更に長時間の暴露試験では汚れが付き易くなり、それが原因で破壊に至る可能性もある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第3511698号公報
【特許文献2】特開昭59−198604号公報
【特許文献3】特公昭53−35982号公報
【特許文献4】米国特許第3965065号公報
【特許文献5】特開平4−209655号公報
【特許文献6】特開平7−57574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、加熱硬化後に過酷な大気汚染あるいは気候に晒される条件下での耐候性、耐電圧性、耐トラッキング性、耐アーク性及び耐エロージョン性等の高電圧電気絶縁特性に優れたシリコーンゴムを与える高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物をガラス繊維強化プラスチックなどの熱可塑性樹脂製のコアの外周に、被覆、硬化させて、碍子、碍管等の形状に成形された高電圧電気絶縁体(いわゆるポリマー碍子)の高電圧電気絶縁特性を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物に、シリカ微粉末と、水溶性Naイオン含有量が0.01重量%以下であり、30重量%水スラリーが6.5≦pH≦8.0でかつ電気電導度50μs/cm以下である水酸化アルミニウムとを添加することにより、低吸水性、特に浸水後の電気特性に優れ、また耐候性、耐電圧性、耐トラッキング性、耐エロージョン性、耐アーク性等の高電圧電気絶縁特性に優れたシリコーンゴムを与えるシリコーンゴム組成物が得られることを知見した。またこの場合、このような高純度の水酸化アルミニウムを表面に疎水性を与える表面処理剤で疎水化処理を施した水酸化アルミニウムを添加することにより、上記効果がより顕著に発揮されることを知見した。即ち、水酸化アルミニウムは、元来製造工程上からくるイオン成分、特に水溶性のNaイオンを含有しており、このNaイオンが電気特性に悪影響を及ぼしていることを見出すと共に、このイオン成分を除去し、上記性状とした水酸化アルミニウム、特に上記のように疎水化処理を施した水酸化アルミニウムを用いることにより、本発明の目的を効果的に達成したものである。
【0009】
従って、本発明は、熱可塑性樹脂製のコアの外周にシリコーンゴム組成物を被覆、硬化させて碍子又は碍管の形状に成形したポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法であって、上記シリコーンゴム組成物として、
(イ)有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物
100重量部、
(ロ)シリカ微粉末 1〜100重量部、
(ハ)水溶性Naイオン含有量が0.01重量%以下であり、30重量%水スラリーが6.5≦pH≦8.0でかつ電気電導度50μs/cm以下である水酸化アルミニウム
30〜500重量部
を含有してなる高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物を使用することを特徴とするポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法を提供する。この場合、(ハ)成分の水酸化アルミニウムが、極性溶媒により洗浄、精製されたもの又は高純度アルミン酸ナトリウム溶液から析出されたものであることが好ましく、また、(ハ)成分の水酸化アルミニウムが、表面に疎水性を与える表面処理剤で疎水化処理を施されたものであることが好ましい。この場合、上記表面処理剤がシラン系カップリング剤又はその部分加水分解物であることが好ましく、更に、高電圧電気絶縁特性を改善する方法が、絶縁破壊電圧の低下を防止する方法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過酷な大気汚染、塩害あるいは気候に晒された条件下でも、耐吸水性、耐電気特性、耐候性、撥水性、防汚性、耐電圧性、耐トラッキング性、耐アーク性、耐エロージョン性等の高電圧電気特性に優れた碍子を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物の第一成分は、有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物である。
【0012】
有機過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物としては、
(I)下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(但し、R1は置換又は非置換の一価炭化水素基であるが、R1の0.01〜20モル%はアルケニル基である。aは1.9〜2.4の正数である。)
で示される1分子中に少なくとも平均2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
(II)有機過酸化物
を主成分とするオルガノポリシロキサン組成物が好適に使用される。
【0013】
上記式(1)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンにおいて、R1は、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは1〜8の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、3−クロロプロピル基、シアノエチル基等のハロゲン置換、シアノ基置換炭化水素基などが挙げられる。なお、各置換基はそれぞれ異なっていても同一であってもよいが、R1中の0.01〜20モル%、より好ましくは0.1〜10モル%がアルケニル基であることが好ましく、また分子中に少なくとも平均2個のアルケニル基を有していることが必要である。なおまた、R1は上記のいずれでもよいが、アルケニル基としてはビニル基、他の置換基としてはメチル基、フェニル基の導入が好ましい。また、aは1.9〜2.4、好ましくは1.95〜2.2の範囲の正数である。
【0014】
上記式(1)のオルガノポリシロキサンは、その分子構造が直鎖状であっても、あるいはR1SiO3/2単位やSiO4/2単位を含んだ分岐状であってもよいが、通常は主鎖部分が基本的にR12SiO2/2のジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がR13SiO1/2のトリオルガノシロキシ単位で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが一般的である。また、分子中のアルケニル基は分子鎖末端あるいは分子鎖途中のケイ素原子のいずれに結合したものであっても、また、両方に結合したものであってもよいが、硬化性、硬化物の物性等の点から少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するものであることが好ましい。
【0015】
上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは平均重合度が50〜100000、特に100〜20000であることが好ましく、また25℃における粘度が100cps以上、通常100〜10000000cps、特に500〜1000000cps、更には800〜500000cpsであることが好ましい。
【0016】
上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、公知の方法によって製造することができ、具体的にはオルガノシクロポリシロキサンとヘキサオルガノジシロキサンとをアルカリ又は酸触媒の存在下に平衡反応を行うことによって得ることができる。
【0017】
また、有機過酸化物は、上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの架橋反応を促進するための触媒として使用されるものであり、具体例としては次に示す化合物を挙げることができる。
【0018】
【化1】

【0019】
有機過酸化物の添加量は触媒量であり、硬化速度に応じて適宜選択することができるが、通常は上記式(1)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン100部(重量部、以下同様)に対して0.1〜10部、好ましくは0.2〜3部の範囲である。
【0020】
なお、上記有機過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、基本的にシリカ微粉末、その他の無機充填剤は配合されない。
【0021】
次に、付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物としては、
(I)上記式(1)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(III)下記平均組成式(2)
2bcSiO(4-b-c)/2 (2)
(但し、式中R2は炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基である。また、bは0.7〜2.1、好ましくは1〜2、cは0.002〜1、好ましくは0.01〜0.5で、かつb+cは0.8〜3、好ましくは1.5〜2.6を満足する正数である。)
で示されるケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個、好ましくは3個以上有する常温で液体のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(IV)付加反応触媒
を主成分とするオルガノポリシロキサン組成物が好適に使用される。
【0022】
上記式(1)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、上記有機過酸化物硬化型のオルガノポリシロキサン組成物で説明したものと同様のものが使用される。
【0023】
また、上記式(2)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、R2はR1と同様であるが、脂肪族不飽和結合を有しないものであることが好ましい。bは0.7〜2.1、好ましくは1〜2、cは0.002〜1、好ましくは0.01〜0.5で、かつb+cは0.8〜3、好ましくは1.5〜2.6を満足する正数である。
【0024】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、付加反応触媒の存在下に前記(I)成分の主剤に対する架橋剤として作用するものであり、1分子中に少なくとも平均2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有するものであり、このSiH基は分子鎖末端あるいは分子鎖途中のいずれに位置するものであっても、また両方に位置するものであってもよい。
【0025】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルハイドロジェン環状ポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンポリシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンポリシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンポリシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンポリシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体などを挙げることができる。
【0026】
上記式(2)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その分子構造が直鎖状であっても、環状あるいは分岐状であってもよいが、常温で液体であることが必要であり、その粘度は25℃において0.1〜10000cps、特に0.5〜5000cpsであることが望ましく、また分子中のSiH基の数が平均で通常2.01〜300個、好ましくは2.5〜100個程度のものであればよい。
【0027】
なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、公知の方法によって製造することができる。
【0028】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、通常(イ)成分のオルガノポリシロキサン100部に対して0.1〜300部、好ましくは0.3〜200部、特に0.5〜100部の範囲である。
【0029】
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)が(I)成分のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基に対してモル比で0.5〜5モル/モル、好ましくは0.8〜3モル/モルとなるように配合することもできる。
【0030】
また、付加反応触媒としては、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等が挙げられる。この付加反応触媒の添加量は触媒量であり、通常(I)成分に対して白金、パラジウム又はロジウム金属として0.1〜500ppm、特に1〜100ppmである。
【0031】
上記付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、基本的にシリカ微粉末、その他の無機充填剤は配合されないが、上記主成分以外に任意成分としてエチニルシクロヘキサノール等のアセチレンアルコール化合物などの付加反応制御剤等を本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。
【0032】
次に、(ロ)成分のシリカ微粉末としては、その種類に特に限定はなく、従来のシリコーンゴム組成物に使用されているものを使用できる。このようなシリカ微粉末としては、例えばBET法による比表面積が50m2/g以上、特に50〜400m2/gの沈澱シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカや、平均粒径が50μm以下、特に0.1〜20μmの粉砕石英、珪藻土などが好適に使用される。シリカ微粉末は、ゴムの補強材として必要なものである。
【0033】
なお、これらのシリカ微粉末はそのまま用いてもよいが、ヘキサメチルジシラザン等の有機シラザン類、トリメチルクロロシラン等のシランカップリング剤、ポリメチルシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理し、疎水性シリカ微粉末として用いてもよいし、配合時に疎水化処理してもよい。なお、この表面処理剤としての有機シラザン類、シランカップリング剤、有機ケイ素化合物としては後述する(ハ)成分の水酸化アルミニウムの疎水化処理に使用する表面処理剤として例示したものと同じものを採用することもできる。
【0034】
(ロ)成分の配合量は、(イ)成分100部に対して1〜100部が好適であり、1部未満では機械的強度が弱くなり、100部を超えると(ハ)成分の水酸化アルミニウムの充填が困難となり作業性が悪くなる。好ましくは2〜50部がよい。
【0035】
次に(ハ)成分の水酸化アルミニウムはAl23・3H2O又はAl(OH)3で表されるもので、これは電気特性や耐熱性を改良するものであるが、この場合、通常使用されている未処理の水酸化アルミニウムでは、製造工程上水溶性のイオン成分、特に水溶性Naイオン分が残存するため吸水特性、電気特性に悪影響を及ぼしている。これら悪影響のあるイオン成分を取り除くことが、長期的に使用するにあたり水分の侵入を防ぎ、また侵入しても電気的特性を低下することなく維持できるものであり、必要不可欠である。この未処理の水酸化アルミニウムを脱イオン水、メタノール、エタノール、ブタノール等の低分子アルコール類、低分子エーテル類、または水溶性Naイオンとその他不用なイオン成分を取り除くことのできる極性溶媒で洗浄、精製して用いることにより上記目的を達成できる。或いは、上記未処理の水酸化アルミニウムを精製して用いる代わりに、高純度アルミン酸ナトリウム溶液から析出した高純度水酸化アルミニウムを用いることもできる。
【0036】
精製された又は高純度水酸化アルミニウムは、水溶性Naイオン含有量が0.01重量%以下であり、即ち0〜0.01重量%であり、通常は1ppb〜0.01重量%、好ましくは0.1ppm〜0.005重量%であり、30重量%水スラリーが6.5≦pH≦8.0、好ましくは7.0≦pH≦8.0でかつ電気電導度50μs/cm以下、即ち0〜50μs/cm、好ましくは0.01〜10μs/cmであることが特徴である。
【0037】
水溶性Naイオン含有量が、0.01重量%を超えると組成物の吸水率が高くなり、長期にわたる使用で侵入した水分により電気特性が低下する。30重量%水スラリーのpHが6.5未満でも、8.0を超えても同様に電気特性が低下するし、電気電導度が50μs/cmを超えても同じである。Naイオン含有量、電気電導度の下限値については、いずれも0(ゼロ)であることが理想的であるが、精製工程の煩雑さ、精製限界などを考慮して、実際的には上記の下限値を採用し得るものである。
【0038】
なお、上記未処理の水酸化アルミニウムの精製方法としては、未処理の水酸化アルミニウム100部に対し極性溶媒を200部以上で希釈し、室温から各極性溶媒の沸点までの温度で3時間以上撹拌洗浄し、上記条件が満たされるまで繰り返す方法が好適であり、通常はこの操作を3回程繰り返せばよい。その後150℃以下の温度で乾燥して使用する。
【0039】
極性溶媒は、特に好ましくは脱イオン水が好ましいが、その他の極性溶媒を併用すると特に好ましく、この場合不用な有機物も除去できる。
【0040】
また、高純度アルミン酸ナトリウム溶液から析出した高純度の水酸化アルミニウムとしては、H320,H320I,HS320,HS330(昭和電工(株)製商品名)などの市販品を用いることができる。
【0041】
上記水酸化アルミニウムは、0.3μm以下の微細な粒子が多くあると、比表面積が大きくなり、吸湿・吸水し易くなるおそれがあり、電気特性に悪影響を及ぼす場合があるため、水酸化アルミニウムの平均粒径は、特に制限されないものの、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1.5〜50μm、特に2〜20μmである。この平均粒径は、例えばレーザー光回折による粒度分布計などを用いて重量平均値等として求められる。この場合、沈殿析出により得られた粒子は微細な粒子ができにくいため、好ましい。
【0042】
上記精製された又は高純度水酸化アルミニウムはそのまま用いてもよいが、疎水化処理することが好ましい。この水酸化アルミニウムに疎水性を与える表面処理剤として、シラン系カップリング剤又はその部分加水分解物、有機シラザン類、チタネート系カップリング剤、オルガノポリシロキサンオイル或いはオルガノハイドロジェンポリシロキサンオイル等が挙げられる。
【0043】
使用される表面処理剤において、シラン系カップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルアミノシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン及びγ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシランなどの加水分解性基又は原子を1個以上、好ましくは2〜3個有するオルガノシラン化合物が例示されるが、シラン系であれば特に限定はなく使用でき、また上記シランの部分加水分解物も使用できる。
【0044】
使用される有機シラザン類としてはヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン等のヘキサオルガノジシラザンや、オクタメチルトリシラザン等のトリシラザンなどが例示される。
【0045】
使用されるチタネート系カップリング剤としては、テトラiプロピルチタネート、テトラnブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムラクテート及びオクチレングリコールチタネート、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、ビス(ジオチクルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート等が例示される。
【0046】
使用されるオルガノポリシロキサンオイルとしては、環状、鎖状、分岐状、網目状のいずれでもよく、粘度0.65〜100000センチストークス(25℃)のものが好適に使用される。
【0047】
使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンオイルとしては、分子構造が環状、鎖状、分岐状、網目状のいずれでもよいが、ケイ素原子に結合した一価炭化水素基としてメチル基のみあるいはメチル基とフェニル基とを有する不活性なオルガノポリシロキサンが好ましく、下記平均組成式(3)で示されるものが望ましく使用される。
【0048】
【化2】

【0049】
なお、式中rは0〜50、sは1〜50の範囲である。rが50を超えると粘度が高く処理しにくくなる。sが50を超えても同様に粘度が高く、表面が濡れ難く好ましくない。
【0050】
処理剤としては、シラン系カップリング剤が好ましく、中でも加水分解性基を有するケイ素化合物が有効である。これらを用いることにより、吸水率も更に低下し、電気特性も向上するし、長期又は浸水後の心材との接着性がよく、また耐トラッキング性も向上する。シラン系カップリング剤では特にメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランが好ましく、またヘキサメチルジシラザンも好適に用いられる。
【0051】
処理剤の配合量は、水酸化アルミニウム100部に対して0.3部未満では、処理剤としての効果がなく、50部を超えると工程上無駄となりコスト的にも不利である。従って、0.3〜50部となるような量であり、好ましくは0.3〜30部、より好ましくは0.3〜20部、特に0.5〜10部となる量である。
【0052】
処理法は、水酸化アルミニウムに直接処理しても、他の成分と混練しながら処理してもどちらでもよいが、一般的周知の技術により処理することができ、好ましくは予め直接処理したものが好ましい。例えば、常圧で密閉された機械混練装置に或いは流動層に水酸化アルミニウムと処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温或いは熱処理にて混練処理する。場合により触媒を使用して処理を促進してもよいが、混練後乾燥することにより調製することができる。
【0053】
この(ハ)成分の水酸化アルミニウムとしては、水溶性Naイオン含有量及び30重量%水スラリーのpH、電気電導度を上述した値に特定したものを用いる以外は、水酸化アルミニウムの性状は特に限定されるものではないが、平均粒径が1〜100μm、好ましくは1.5〜50μm、特に2〜20μm、BET比表面積が0.1〜20m2/g、特に0.2〜10m2/gのものが好適に用いられる。
【0054】
(ハ)成分の配合量は、(イ)成分100部に対して30〜500部であり、30部未満では硬化後の組成物が必要な高電圧電気特性、特には耐アーク性や耐トラッキング性を得られないものとなり、500部を超えると充填が困難となり加工性が悪くなり、またゴム物性も低下する。好ましくは50〜300部がよい。
【0055】
本発明のシリコーンゴム組成物には、上記した成分以外に撥水性を付与する目的でフリーのシリコーンオイル、例えば直鎖状のジメチルポリシロキサン、水酸基含有ジメチルポリシロキサンを添加することができ、また目的に応じて各種の添加剤、例えば酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化マンガン等の金属酸化物、カーボン等を添加することができ、また目的とする特性を損なわない限り顔料、耐熱剤、難燃剤、可塑剤、反応制御剤等を添加してもよい。なお、これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0056】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上記した(イ)〜(ハ)成分、任意成分を常温で均一に混合するだけでも得ることが可能であるが、必要に応じて(II)、(III)、(IV)成分を除きプラネタリーミキサーやニーダー等で100〜200℃の範囲で2〜4時間熱処理し、その後(II)、(III)、(IV)成分を混合して硬化成型してもよい。成型方法は、混合物の粘度により自由に選択することができ、注入成型、圧縮成型、射出成型、押出成型、トランスファー成型等いずれの方法を採用してもよい。その硬化条件は、通常80〜200℃で3分〜3時間加熱する条件とすることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部であり、%はいずれも重量%である。
【0058】
水酸化アルミニウムの精製方法
平均粒径8μm、BET比表面積2m2/gの未処理の水酸化アルミニウムを100部に対して200部の脱イオン水で煮沸撹拌しながら3時間洗浄した後、濾過するという工程を2回繰り返した後、105℃×5時間で乾燥、粉砕して精製水酸化アルミニウムを得た。
【0059】
この精製した水酸化アルミニウムが30%となるように純水を加え、そのスラリーのpH、電気電導度を測定したところ、pH=7.0、電気電導度0.43μs/cmであった。更にその抽出水から炎光法によりNa定量分析(%:水酸化アルミニウム中)を行った。その結果を高純度アルミン酸ナトリウムから析出した水酸化アルミニウム(析出水酸化アルミニウム)、未処理の一般の標準水酸化アルミニウムと比較したものと併せて表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
〔実施例1〕
表2に示すように、(イ)成分中の(I)成分(a)として両末端がそれぞれジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が10000cpsのジメチルポリシロキサン、(ロ)成分のシリカ微粉末として湿式シリカ(ニプシルLP、日本シリカ工業社製、BET比表面積180m2/g)、(ハ)成分の水酸化アルミニウムは上記精製品を配合し、150℃でプラネタリーミキサーにて2時間撹拌混合し、その後に室温に冷却後、残りの(イ)成分中の(III)成分として下記平均式(4)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン、(IV)成分として塩化白金酸の1%2−エチルヘキサノール溶液、更に反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノールを加え、均一に混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を120℃で10分間加熱硬化してそれぞれ80mm×80mm×2mm(厚み)のシリコーンゴムシート及び1mm(厚み)のゴムシートを得た。2mmシートより初期重量を測定後、純水に25℃で100時間浸漬した後の重量を測定し、その重量変化率を吸水率として表2に示す。1mmシートよりJIS K6911に準じて初期の体積抵抗、誘電率、誘電損失、絶縁破壊電圧を測定し、同様に純水に25℃で100時間浸漬した後の体積抵抗、誘電率、誘電損失、絶縁破壊電圧を測定した結果を表2に示す。
【0062】
【化3】

【0063】
〔実施例2〕
(イ)成分中の(I)成分(b)として両末端がそれぞれトリビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が30000cpsのジメチルポリシロキサンと、実施例1に記載の(ロ)成分を同様にして加熱混合し、実施例1に記載の(ハ)成分とジクミルパーオキサイドを加え、室温にて均一になるまで混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を165℃で10分間加熱硬化させた後、更に200℃で4時間二次硬化させ、それぞれ実施例1と同様のシートを得た。同様の測定をした結果を表2に示す。
【0064】
〔比較例1,2〕
上記した未処理の水酸化アルミニウムをそのまま使用した以外は、表2に示す成分を使用し、実施例1と同様にしてシリコーンゴムシートを得た。同様の測定をした結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2の結果により、本発明の高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物は、浸漬後の低吸水性、耐電気特性、耐電圧性に優れているもので、長期の風雨、その他厳しい環境下においても水の侵入を抑制し、電気特性を維持できるものであることが認められる。
【0067】
〔実施例3〕
表3に示すように、(イ)成分中の(I)成分(a)として両末端がそれぞれジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が5000cpsのジメチルポリシロキサン、(ロ)成分のシリカ微粉末として湿式シリカ(ニプシルLP、日本シリカ工業社製、BET比表面積180m2/g)、(ハ)成分の水酸化アルミニウムは上記精製水酸化アルミニウムをメチルトリメトキシシラン(水酸化アルミニウム100部に対して1部混合し、100℃で1時間熱処理した)で疎水化処理したものを配合し、室温でプラネタリーミキサーにて1時間撹拌混合し、その後に残りの(イ)成分中の(III)成分として上記平均式(4)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン、(IV)成分として塩化白金酸の1%2−エチルヘキサノール溶液、更に反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノールを加え、均一に混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を120℃で10分間加熱硬化してそれぞれ80mm×80mm×2mm(厚み)のシリコーンゴムシート及び1mm(厚み)のゴムシートを得た。2mmシートより初期重量を測定後、純水に25℃で200時間浸漬した後の重量を測定し、その重量変化率を吸水率として表3に示す。1mmシートよりJIS K6911に準じて初期の体積抵抗、誘電率、誘電損失、絶縁破壊電圧を測定し、同様に純水に25℃で200時間浸漬した後の体積抵抗、誘電率、誘電損失、絶縁破壊電圧を測定した結果を表3に示す。
【0068】
〔実施例4〕
(イ)成分中の(I)成分(b)として両末端がそれぞれトリビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が5000cpsのジメチルポリシロキサンと、実施例3に記載の(ロ)成分を同様にして加熱混合し、実施例3に記載の(ハ)成分とジクミルパーオキサイドを加え、室温にて均一になるまで混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を165℃で10分間加熱硬化させた後、更に200℃で4時間二次硬化させ、それぞれ実施例3と同様のシートを得た。同様の測定をした結果を表3に示す。
【0069】
〔実施例5〕
実施例3に記載の(ハ)成分に上記析出水酸化アルミニウムのメチルトリメトキシシラン処理品(処理方法は、実施例3と同様にした)を用いた以外は実施例3と同様の成分を同様の方法で室温にて均一になるまで混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を120℃で10分間加熱硬化させ、それぞれ実施例3と同様のシートを得て、同様の測定をした結果を表3に示す。
【0070】
〔実施例6〕
実施例3に記載の(ハ)成分に上記析出水酸化アルミニウムのエチルトリメトキシシラン処理品(処理方法は、実施例3と同様にした)を用いた以外は実施例3と同様の成分を同様の方法で室温にて均一になるまで混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物を120℃で10分間加熱硬化させ、それぞれ実施例3と同様のシートを得て、同様の測定をした結果を表3に示す。
【0071】
〔比較例3〕
実施例3に記載の(ハ)成分の未処理の一般の水酸化アルミニウムのメチルトリメトキシシラン処理品(処理方法は、実施例3と同様にした)を用いた以外は表2に示す成分を使用し、実施例3と同様にしてシリコーンゴムシートを得て、同様の測定をした結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3の結果により、本発明の高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物は、浸漬後の低吸水性、耐電気特性、耐電圧性に優れているもので、純水に200時間浸漬した後でも水の侵入を抑制し、電気特性を維持できるものであることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製のコアの外周にシリコーンゴム組成物を被覆、硬化させて碍子又は碍管の形状に成形したポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法であって、上記シリコーンゴム組成物として、
(イ)有機過酸化物硬化型又は付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物
100重量部、
(ロ)シリカ微粉末 1〜100重量部、
(ハ)水溶性Naイオン含有量が0.01重量%以下であり、30重量%水スラリーが6.5≦pH≦8.0でかつ電気電導度50μs/cm以下である水酸化アルミニウム
30〜500重量部
を含有してなる高電圧電気絶縁体用シリコーンゴム組成物を使用することを特徴とするポリマー碍子の高電圧電気絶縁特性を改善する方法。
【請求項2】
(ハ)成分の水酸化アルミニウムが、極性溶媒により洗浄、精製されたもの又は高純度アルミン酸ナトリウム溶液から析出されたものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
(ハ)成分の水酸化アルミニウムが、表面に疎水性を与える表面処理剤で疎水化処理を施されたものである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記表面処理剤がシラン系カップリング剤又はその部分加水分解物である請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項5】
高電圧電気絶縁特性を改善する方法が、絶縁破壊電圧の低下を防止する方法である請求項1乃至4のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2007−180044(P2007−180044A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30517(P2007−30517)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【分割の表示】特願平10−26654の分割
【原出願日】平成10年1月23日(1998.1.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】