ポリマー粒子製造方法及びその重合装置
【課題】モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整し、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能なポリマー粒子製造方法を提供する。
【解決手段】モノマーの重合率が40%に至る前において、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整することによりポリマー粒径を目標粒径に制御し、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持してモノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御する。
【解決手段】モノマーの重合率が40%に至る前において、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整することによりポリマー粒径を目標粒径に制御し、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持してモノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化重合によりポリマー粒子を生成するポリマー粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乳化重合法を使用して各種のポリマー粒子を製造する製造方法が提案されており、例えば、特開2001−294603号公報には、モノマー、触媒及び乳化剤の連続投入開始時点から一定時間経過後にその時点の反応熱を計測し、その反応熱から製品ポリマーの粒径を予測するとともに、製品ポリマーの予測粒径が所定の範囲にない場合には、ポリマー、触媒及び乳化剤の投入量を調整して製品ポリマーの最終粒径を目標値に近づける半回転式乳化重合プロセスにおけるポリマー粒子の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2001−294603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に記載されたポリマー粒子の製造方法では、生成されるポリマー粒子の粒径を大きくする場合には、重合速度を遅くするため乳化剤濃度を低くするものであるが、逆にポリマー粒子の粒径を小さくする場合には、重合速度を早くするために乳化剤濃度を高くする必要がある。
このように、ポリマー粒子の粒径を小さくすべく乳化剤濃度を高くした場合には、乳化剤に起因して後々の不純物が含有されることとなり、この結果、製品ポリマーの特性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0004】
本発明者等は、前記従来技術の問題点につき鋭意検討した結果、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させてモノマーの乳化重合を行う際に、モノマーの重合率が40%に至る前においては、重合速度を決定する重合条件(重合温度、重合開始剤濃度)と生成されるポリマー粒子の粒径との間に相関関係が存在するものの、モノマーの重合率が40%を超えた後にはポリマー粒子の粒径は重合条件とは関係なく略一定に維持されることを発見し、本発明をなすに至ったものである。
即ち、本発明は前記従来技術の問題点を解消するためになされたものであり、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整し、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能なポリマー粒子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため請求項1に係るポリマー粒子製造方法は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造するポリマー粒子製造方法において、前記モノマーの重合率が40%に至る前に、モノマーの重合速度を制御することにより前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、前記モノマーの重合率が40%を超えた後に、前記ポリマー粒径を所定粒径に維持しつつ、モノマーの重合完了時間を制御することを特徴とする。
【0006】
請求項2に係るポリマー粒子製造方法は、請求項1のポリマー粒子製造方法において、前記乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、前記粘度の上昇が略停止して安定した時点で、前記モノマー重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る重合装置は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造する重合装置において、第1重合速度及び第2重合速度を設定する重合速度設定手段と、前記反応液におけるモノマーの重合率を検出する重合率検出手段と、前記重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には前記重合速度設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行って前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後に第1重合速度から第2重合速度に切り換えてモノマーの重合を行ってポリマー粒径を所定粒径に維持しつつモノマーの重合完了時間を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る重合装置は、請求項3の重合装置において、前記重合率検出手段は、前記反応液中に浸漬されるとともに反応液の粘度を測定する粘度測定手段を含み、前記制御手段は、前記モノマーの重合が進行するに従って前記粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断し、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係るポリマー粒子製造方法では、モノマーの重合率が40%に至る前において、重合速度を制御することよりポリマー粒子のポリマー粒径が所定粒径にされ、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に維持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0010】
また、請求項2に係るポリマー粒子製造方法では、乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、粘度の上昇が略停止して安定した時点で、モノマー重合率が40%を超えたものと判断するので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0011】
請求項3に係る重合装置では、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には重合条件設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行ってポリマー粒子のポリマー粒径が所定粒径にされ、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に維持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に第1重合速度に制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を第2重合速度に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0012】
請求項4に係る重合装置では、制御手段を介して、モノマーの重合が進行するに従って粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断され、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断されるので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るポリマー粒子製造方法について、本発明を具体化した実施形態に基づき説明する。
本実施形態にて使用される乳化重合系は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合してなる反応液から構成される。
ここに、乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムやラウリル硫酸アンモニウムが使用される。また、重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、カリウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、アミンの塩酸塩を水溶性セグメントとして有する水溶性アゾ化合物が使用される。
【0014】
モノマーとしては、2−ヘキシルアクリレート及び/又はブチルアクリレートを50〜100重量部とアクリル酸を0〜50重量部とを加えて使用される。
【0015】
前記した乳化重合系を構成する各化合物は、乳化分散混合機で乳化分散され、その得られた混合物の全量が反応容器に仕込まれる。そして、撹拌しながら窒素雰囲気下で重合開始剤によりモノマーの重合反応が行われる。
【0016】
ここに、前記乳化重合系において、モノマーの重合率が0%から40%に至る範囲で、モノマーの重合速度を変化させた時に、モノマーの重合速度と重合されるポリマー粒子のポリマー粒径との関係について調べてみた。その結果が図1に示されている。図1はモノマーの重合率が0%〜40%の範囲におけるモノマーの重合速度(%/min)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【0017】
図1において、横軸は重合速度(%/min)、縦軸はポリマー粒子のメジアン径(μm)を示し、図1にて各プロットを外挿して得られるグラフG1から理解されるように、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲においては、モノマーの重合速度が小さい程ポリマー粒径は大きくなり、一方、モノマーの重合速度が大きい程ポリマー粒径は小さくなる。このように、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲では、モノマーの重合速度とポリマー粒径との間に明確な相関関係が存在する。
【0018】
また、モノマーの重合率(%)とポリマー粒径との関係について調べてみると、図2に示す結果が得られた。図2はモノマーの重合率が0%〜100%の範囲におけるモノマーの重合率(%)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【0019】
図2において、横軸は重合率(%)、縦軸はポリマー粒子のメジアン径(μm)を示し、図2にて各プロットを外挿して得られるグラフG2に示されるように、ポリマー粒径は、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲内では、重合率が増加するにつれて漸減していき、重合率が40%を超えた後においては、略一定の値となる。
【0020】
更に、モノマーの重合率が40%を超えた後に、モノマーの重合速度を変化させ、その重合速度の変化がポリマー粒径に影響を与えるかどうかにつき調べた。その結果が図3、図4に示されている。図3はモノマーの重合率が40%を超えた後に、3つの重合速度で重合を行った時の重合率の変化状態を示すグラフ、図4は3つの重合速度に対応するポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0021】
図3において、横軸は時間(min)、縦軸は重合率(%)を示す。グラフG3は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を50℃に保持した場合の重合率変化曲線であり、グラフG4は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を45minの時点で50℃から48℃に低下させて重合速度を小さくした場合の重合率変化曲線であり、グラフG5は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を45minの時点で50℃から40℃に低下させて重合速度を更に小さくした場合の重合率変化曲線である。
時間に対する重合率の上昇率は、最も重合温度が高く重合速度が大きいグラフG3で最も大きく、次いで、重合温度に基づく重合速度の大きい順に、グラフG4、グラフG5の順となっている。
【0022】
図4において、横軸は頻度(%)、縦軸は粒径(μm)を示し、グラフG6はグラフG3に対応するポリマー粒径の変化、グラフG7はグラフG4に対応するポリマー粒径の変化、及び、グラフG8はグラフ5に対応するポリマー粒径の変化を示している。
各グラフG6、G7、G8は、いずれにおいてもポリマー粒径が略同様の分散状態を示し、その値も略一定値になることを示している。このことは、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、重合速度を変化させた場合においても、ポリマー粒子のポリマー粒径は、略一定の値になることを意味している。従って、モノマーの重合率が40%に至る前までに、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整してポリマー粒径を制御しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後に重合速度を変化させてもポリマー粒径は略一定値に保持されることから、モノマーの重合率が40%を超えた後に自由に重合速度を調整することにより、トータルの重合時間をコントロールすることができる。
【0023】
また、モノマーの重合率が40%を超える時点を把握すべく、モノマーの重合率と反応液の粘度との関係を調べた。その結果が図5に示されている。図5はモノマーの重合率と反応液の粘度との関係を示すグラフである。
図5にて各プロットを外挿して得られるグラフG9に示すように、モノマーの重合率が20%までの間は反応液の粘度は徐々に大きくなり、重合率が20%を超えると粘度は急激に上昇していく。そして、重合率が40%を超えた後80%に至るまでの間において粘度は、略一定値を示し、また、重合率が80%を超えた後に急激に上昇していく。
このように、重合率が40%を超えた時点で粘度の上昇が収まり、一定値を示すことから、反応液の粘度を連続的にモニタし、略一定値になった時点で重合率が40%に達したことを把握することができる。
【0024】
前記した事実を勘案すれば、乳化重合系において各種の重合制御を行うことができる。以下、例示として、2つの重合制御方法について図6乃至図9に基づき説明する。
先ず、モノマーの重合率が40%に至る前に、重合速度を制御してポリマー粒径を所望の値になるように重合を行い、重合率が40%を超えた後においては、重合速度を変化させてトータル重合時間をコントロールする場合について、図6、図7に基づき説明する。図6は2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフ、図7は2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0025】
図6において、横軸は時間(min)、縦軸は重合率(%)を示し、グラフG10は、重合率40%に至る前に一定の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
また、グラフG11は、重合率40%に至る前にグラフG10の場合と同一の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)から低下させて重合速度を小さくした場合の重合率の変化を示す。
【0026】
ここに、グラフG10の場合には、重合開始から120min程度で重合反応は終了しているが、グラフG11の場合には、重合率が40%を超えた後に重合速度を低下させていることから、重合反応時間は190min程度を要している。
【0027】
また、図7において、横軸は粒径(μm)、縦軸は頻度(%)を示し、グラフG12はグラフG10に対応するポリマー粒径の変化、グラフG13はグラフG11に対応するポリマー粒径の変化を示している。
各グラフG12、G13は、いずれにおいてもポリマー粒径が略同様の分散状態を示し、その値も略一定値になることを示している。
【0028】
前記したように、モノマーの重合率が40%に至る前までに、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整してポリマー粒径を制御しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後に重合速度を変化させてもポリマー粒径は略一定値に保持されることから、モノマーの重合率が40%を超えた後に自由に重合速度を調整することにより、トータルの重合時間をコントロールすることができる。
【0029】
次に、モノマーの重合率が40%に至る前に、重合速度を変化させてポリマー粒径を変化させるとともに所望の値になるように重合を行い、重合率が40%を超えた後においては、重合速度を一定にしてトータル重合時間を同一にコントロールする場合について、図8、図9に基づき説明する。図8は2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフ、図9は2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0030】
図8において、横軸は時間(hour)、縦軸は重合率(%)を示し、グラフG14は、溶存酸素濃度を低くし、一定の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
また、グラフG15は、溶存酸素濃度を高くし重合率が40%に至る前で30%になった後に重合開始剤濃度を追加投入してグラフG14の場合よりも小さい重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
【0031】
ここに、グラフG14の場合には、重合率が40%に至る前に一定の重合速度に対応するポリマー粒径が得られるが、グラフG15の場合には、重合率が40%に至る前における重合速度は小さいことから、グラフG14の場合よりも大きなポリマー粒径が得られる。そして、重合率が40%付近になった時点で、両者は略同一となり、この後は同一の重合速度で重合が行われていき、トータル重合時間は同一となる。
【0032】
また、図9において、横軸は粒径(μm)、縦軸は頻度(%)を示し、グラフG16はグラフG14に対応するポリマー粒径の変化、グラフG17はグラフG15に対応するポリマー粒径の変化を示している。
グラフG16では、前記したように重合速度が大きいことからポリマー粒径は小さくなり、一方、グラフG17では、重合速度は小さいことからポリマー粒径は大きくなる。
このように、ポリマー粒径を変化させつつトータル重合時間が同一となるように制御することができる。
【0033】
続いて、前記した乳化重合方法を自動的に行う重合装置について説明する。
先ず、重合装置の概略構成について図10に基づき説明する。図10は重合装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
図10において、重合装置1は、水・乳化剤・重合開始剤・モノマーを混合してなるモノマー混合物(反応液)からポリマーを合成する撹拌槽2、供給装置3を介して撹拌槽2に投入される重合開始剤を貯留する開始剤貯留タンク4、ポリマー製造時における撹拌槽2内の温度・重合開始剤の投入量等の各種製造条件等を入力設定する操作部5、及び、操作部5にて入力設定された各種製造条件に基づき供給装置3を制御して撹拌槽2への重合開始剤投入量を制御したり、重合装置1全体を制御する制御部6を備えている。
【0034】
撹拌槽2内には、撹拌槽2内のモノマー混合物の温度を検出する温度センサ7及びモノマー混合物の粘度を常時検出する粘度センサ8が配設されている。温度センサ7及び粘度センサ8は、制御部6に接続されており、温度センサ7、粘度センサ8にて検出された温度データ及び粘度データは、制御部6にインプットされる。また、撹拌槽2内には、モータ9を介して回転軸10の回りに回転される撹拌翼11が配置されている。更に、撹拌槽2には、コンデンサ12が配設されている。
開始剤貯留タンク4には、予め実験により求められた所定量の重合開始剤が貯留されている。
【0035】
操作部5からは、後述するように、モノマーの重合率が40%以下の場合(以下、重合前期とする)における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式、モノマーの重合率が40%を超えた場合(以下、重合後期とする)における重合速度式、基本重合条件(重合温度、開始剤濃度、モノマー仕込み量)、重合温度の上限及び下限値、目標ポリマー粒径、重合後期における目標重合速度(%/min)等の各種重合条件データが入力される。
また、操作部5から入力された各種の重合条件データは、制御部6に付設されているメモリに記憶される。
【0036】
また、撹拌槽2には、その外壁を被覆するようにジャケット13が取り付けられている。ジャケット13の下方に形成された入口には配管14が接続されており、かかる配管14には、入口側温度センサ15、熱交換器16、ポンプ17が介装されている。
【0037】
ジャケット13の上方に形成された出口には配管18が接続されており、かかる配管18には、出口側温度センサ19、2つの電磁バルブ20、21が介装されている。電磁バルブ21は、配管25を介してポンプ17に接続されている。電磁バルブ21には、専用チラー22が接続されており、専用チラー22には供給管23を介して工場循環水が供給される。また、専用チラー22は、配管24を介してポンプ17に接続されている。
尚、入口側温度センサ15及び出口側温度センサ19は、共に制御部6に接続されており、入口側温度センサ15、出口側温度センサ19にて検出された温度データは、制御部6にインプットされる。
【0038】
供給管23から供給された工場循環水は、専用チラー22で冷却され、その冷却水は、配管24、ポンプ17、熱交換器16を介してジャケット13に供給される。撹拌槽2は、ジャケット13に供給された冷却水により冷却される。尚、ジャケット13に供給される冷却水の温度は、入口側温度センサ15を介して検出され、その検出温度データが制御部6にインプットされる。
ジャケット13に供給された冷却水は、配管18、電磁バルブ20、配管25、ポンプ17等を経由する循環路を介してジャケット13内を循環する。尚、循環される冷却水の温度は、出口側温度センサ19を介して検出され、その検出温度データは制御部6にインプットされる。
尚、冷却数の温度を上昇させる場合には熱交換器16が作動され、冷却水が昇温される。
【0039】
ここで、重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式について図11に基づき説明する。図11は開始剤濃度とポリマー粒径との相関を示すグラフである。
かかる相関式は、事前に実験を行い、実験により得られた開始剤濃度(wt%)とポリマー粒径(μm)との関係を図11に示すようにプロットし、各プロットを外挿して相関式を求める。このように求めた相関式によりポリマー粒径は、下記数1のように表される。
【数1】
このように得られた相関式は、制御部6のメモリに記憶される。
【0040】
次に、重合後期における重合速度式について図12に基づき説明する。図12はアレニウスプロットを行って求めた反応速度定数と温度との関係を示すグラフである。
先ず、乳化重合における重合後期の重合速度式は、Smith-Ewart理論に基づき、下記数2のように表される。
【数2】
【0041】
前記数2についてアレニウスプロットを行い、反応速度定数と温度との関係を求めると、図12に示すように、lnk=−4810.7/T + 13.037、及び、k=exp(−4810.7/T + 13.037)となり、これより反応速度定数kについては、y=−4810.7x + 13.037と表される。
【0042】
また、開始剤濃度[I]は、時間t、温度T、初期開始剤濃度[I0]の関数として下記数3のように表される。
【数3】
また、半減期については下記数4のように表される。
【数4】
従って、前記した数2は、以下数5のように表される。
【数5】
【0043】
続いて、前記のように構成される重合装置1において、モノマーから自動的にポリマーの重合を行う手順について図13及び図14に基づき説明する。図13及び図14は重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【0044】
先ず、ステップ(以下、Sと略記する)1において、重合温度の上限及び下限値の範囲、基本重合条件(重合温度、開始剤濃度、モノマー仕込み量)、及び、前記のように求められた重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式(数1)、重合後期における重合速度式(数5)が操作部5を介して入力され、制御部6のメモリに記憶される。
ここに、重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径については、前記数1、数2を求めた際のセンター値(本実施形態では、開始剤濃度:0.015[wt%]、重合温度:45℃)とされる。
また、重合温度の上限及び下限値の範囲については、前記数1、数2を求めるにつき使用した実験条件の上限値及び下限値、又は、製品特性と重合温度との関係が顕著な場合には、製品特性を満たすにつき要求される重合温度範囲が使用される。
【0045】
続くS2においては、操作部5を介して、作業者により目標ポリマー粒径、及び、重合後期における目標重合速度(%/min)が入力され、制御部6のメモリに記憶される。
【0046】
S3では、数1で表される相関式から、目標ポリマー粒径を得るための初期開始剤濃度I0が算出される。また、S4では、基本重合条件に基づいて撹拌槽2内の反応液が45℃となるように、ジャケット13等を介して昇温が開始される。
【0047】
また、S5において、初期開始剤濃度I0を満たす開始剤量がモノマー仕込量から計算され、(I0×仕込量)が撹拌槽2に投入される。S6では、開始剤投入時において粘度センサ8を介して検出された反応液の初期粘度値μi及び開始剤投入時間tiがメモリに記録される。そして、重合反応中には、粘度センサ8を介して反応液の粘度がモニタされる。
【0048】
そして、S7においては、検出粘度μが4×初期粘度値μi以上(μ≧4μi)となり、且つ、検出粘度μの値が安定(μの時間変化≒0)したかどうか判断される。具体的には、μ≧4μiとなり、且つ、1分前のμの値と比較してその差が5%以下になったかどうか判断される。μ≧4μiとなり、且つ、1分前のμの値と比較してその差が5%以下になった場合には、前記図5にて説明したように、モノマーの重合率が40%に到達したものと判断される。
S7における判断がNOの場合(S7:NO)には、前記条件が満足されるまで待機する。一方、S7における判断がYESとなった場合(S7:YES)には、開始剤投入時間をt1として記録するとともに、S9乃至S17における処理・判断により、重合後期における各種重合条件が設定される。
【0049】
重合後期における重合条件の設定するについて、図14に示すように、先ず、S8において、S7で判断がYESとなった時点における残存開始剤濃度[It]が数3、数4を使用して求められる。具体的には、時間tに(t1−ti)、温度Tに45℃、初期開始剤濃度に数1にて求められたI0を代入して求められる。
【0050】
続くS9では、重合後期における重合速度式(数5)中における[I0]に[It]が代入され、S10では、−d[M]/dtに目標重合速度、[M]に残存モノマー濃度(重合率が40%であることから、全仕込みモノマーの60%が残存しているものとして算出される)を代入し、これらを満たす重合後期において要求される重合温度T1[K]が算出される。
【0051】
また、S11では、要求温度T1が重合温度の上限値及び下限値の範囲内であるかどうか判断される。その判断がYESである場合(S11:YES)には、S12にて重合後期に要求される要求温度T1として制御部6に出力される。この後S17に移行する。
これに対して、S11における判断がNOの場合(S11:NO)には、S13において、要求温度T1が許容上限温度以上であるかどうか判断される。S13における判断がNOの場合(S13:NO)には、S14にて許容下限温度が要求温度T1として制御部6に出力される。この後S17に移行する。
【0052】
これに対して、S13における判断がYESの場合(S13:YES)には、S15にて許容上限温度値及び要求温度T1が数5に代入され、重合後期に要求される開始剤濃度が算出される。この後S16において、重合後期に要求される開始剤濃度から既に消費された開始剤量([It]×モノマー仕込量)を差し引いた開始剤量を重合後期に追加すべき開始剤量とし、且つ、許容上限温度を重合後期に要求される要求温度T1として制御部6に出力される。これにより、要求温度が許容上限温度以上である場合の開始剤量の補正が行われる。この後S17に移行する。
【0053】
S17においては、前記にて求められた重合後期における要求温度に基づきジャケット13等を介して撹拌槽2が温調される。更に、S18にて、前記のように求められた重合後期における重合条件に従って、モノマーの重合反応が進行されていく。
【0054】
以上詳細に説明した通り本実施形態に係るポリマー粒子製造方法では、モノマーの重合率が40%に至る前において、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整することによりポリマー粒径が目標粒径に制御され、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0055】
また、乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、粘度の上昇が略停止して安定した時点で、モノマー重合率が40%を超えたものと判断するので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0056】
更に、本実施形態に係る重合装置1では、粘度センサ8を介して検出される反応液の粘度値が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断するとともに、各種の重合条件(S1乃至S4)により決定される重合速度でモノマーの重合を行ってポリマー粒子のポリマー粒径が目標粒径にされ、また、粘度センサ8を介して検出される反応液の粘度値の上昇が停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断する(S7:YES)とともに、この後においてはポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に所望の重合速度に制御してポリマー粒子の粒径を目標粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を種々変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0057】
また、モノマーの重合が進行するに従って粘度センサ8を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断され、粘度センサ8を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断されるので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0058】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】モノマーの重合率が0%〜40%の範囲におけるモノマーの重合速度(%/min)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【図2】モノマーの重合率が0%〜100%の範囲におけるモノマーの重合率(%)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【図3】モノマーの重合率が40%を超えた後に、3つの重合速度で重合を行った時の重合率の変化状態を示すグラフである。
【図4】3つの重合速度に対応するポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図5】モノマーの重合率と反応液の粘度との関係を示すグラフである。
【図6】2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフである。
【図7】2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図8】2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフである。
【図9】2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図10】重合装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図11】開始剤濃度とポリマー粒径との相関を示すグラフである。
【図12】アレニウスプロットを行って求めた反応速度定数と温度との関係を示すグラフである。
【図13】重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【図14】重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 重合装置
2 撹拌槽
4 開始剤貯留タンク
5 操作部
6 制御部
8 粘度センサ
13 ジャケット
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化重合によりポリマー粒子を生成するポリマー粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乳化重合法を使用して各種のポリマー粒子を製造する製造方法が提案されており、例えば、特開2001−294603号公報には、モノマー、触媒及び乳化剤の連続投入開始時点から一定時間経過後にその時点の反応熱を計測し、その反応熱から製品ポリマーの粒径を予測するとともに、製品ポリマーの予測粒径が所定の範囲にない場合には、ポリマー、触媒及び乳化剤の投入量を調整して製品ポリマーの最終粒径を目標値に近づける半回転式乳化重合プロセスにおけるポリマー粒子の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2001−294603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に記載されたポリマー粒子の製造方法では、生成されるポリマー粒子の粒径を大きくする場合には、重合速度を遅くするため乳化剤濃度を低くするものであるが、逆にポリマー粒子の粒径を小さくする場合には、重合速度を早くするために乳化剤濃度を高くする必要がある。
このように、ポリマー粒子の粒径を小さくすべく乳化剤濃度を高くした場合には、乳化剤に起因して後々の不純物が含有されることとなり、この結果、製品ポリマーの特性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0004】
本発明者等は、前記従来技術の問題点につき鋭意検討した結果、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させてモノマーの乳化重合を行う際に、モノマーの重合率が40%に至る前においては、重合速度を決定する重合条件(重合温度、重合開始剤濃度)と生成されるポリマー粒子の粒径との間に相関関係が存在するものの、モノマーの重合率が40%を超えた後にはポリマー粒子の粒径は重合条件とは関係なく略一定に維持されることを発見し、本発明をなすに至ったものである。
即ち、本発明は前記従来技術の問題点を解消するためになされたものであり、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整し、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能なポリマー粒子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため請求項1に係るポリマー粒子製造方法は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造するポリマー粒子製造方法において、前記モノマーの重合率が40%に至る前に、モノマーの重合速度を制御することにより前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、前記モノマーの重合率が40%を超えた後に、前記ポリマー粒径を所定粒径に維持しつつ、モノマーの重合完了時間を制御することを特徴とする。
【0006】
請求項2に係るポリマー粒子製造方法は、請求項1のポリマー粒子製造方法において、前記乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、前記粘度の上昇が略停止して安定した時点で、前記モノマー重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る重合装置は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造する重合装置において、第1重合速度及び第2重合速度を設定する重合速度設定手段と、前記反応液におけるモノマーの重合率を検出する重合率検出手段と、前記重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には前記重合速度設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行って前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後に第1重合速度から第2重合速度に切り換えてモノマーの重合を行ってポリマー粒径を所定粒径に維持しつつモノマーの重合完了時間を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る重合装置は、請求項3の重合装置において、前記重合率検出手段は、前記反応液中に浸漬されるとともに反応液の粘度を測定する粘度測定手段を含み、前記制御手段は、前記モノマーの重合が進行するに従って前記粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断し、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係るポリマー粒子製造方法では、モノマーの重合率が40%に至る前において、重合速度を制御することよりポリマー粒子のポリマー粒径が所定粒径にされ、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に維持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0010】
また、請求項2に係るポリマー粒子製造方法では、乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、粘度の上昇が略停止して安定した時点で、モノマー重合率が40%を超えたものと判断するので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0011】
請求項3に係る重合装置では、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には重合条件設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行ってポリマー粒子のポリマー粒径が所定粒径にされ、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に維持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に第1重合速度に制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を所定粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を第2重合速度に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0012】
請求項4に係る重合装置では、制御手段を介して、モノマーの重合が進行するに従って粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断され、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断されるので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るポリマー粒子製造方法について、本発明を具体化した実施形態に基づき説明する。
本実施形態にて使用される乳化重合系は、水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合してなる反応液から構成される。
ここに、乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムやラウリル硫酸アンモニウムが使用される。また、重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、カリウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、アミンの塩酸塩を水溶性セグメントとして有する水溶性アゾ化合物が使用される。
【0014】
モノマーとしては、2−ヘキシルアクリレート及び/又はブチルアクリレートを50〜100重量部とアクリル酸を0〜50重量部とを加えて使用される。
【0015】
前記した乳化重合系を構成する各化合物は、乳化分散混合機で乳化分散され、その得られた混合物の全量が反応容器に仕込まれる。そして、撹拌しながら窒素雰囲気下で重合開始剤によりモノマーの重合反応が行われる。
【0016】
ここに、前記乳化重合系において、モノマーの重合率が0%から40%に至る範囲で、モノマーの重合速度を変化させた時に、モノマーの重合速度と重合されるポリマー粒子のポリマー粒径との関係について調べてみた。その結果が図1に示されている。図1はモノマーの重合率が0%〜40%の範囲におけるモノマーの重合速度(%/min)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【0017】
図1において、横軸は重合速度(%/min)、縦軸はポリマー粒子のメジアン径(μm)を示し、図1にて各プロットを外挿して得られるグラフG1から理解されるように、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲においては、モノマーの重合速度が小さい程ポリマー粒径は大きくなり、一方、モノマーの重合速度が大きい程ポリマー粒径は小さくなる。このように、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲では、モノマーの重合速度とポリマー粒径との間に明確な相関関係が存在する。
【0018】
また、モノマーの重合率(%)とポリマー粒径との関係について調べてみると、図2に示す結果が得られた。図2はモノマーの重合率が0%〜100%の範囲におけるモノマーの重合率(%)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【0019】
図2において、横軸は重合率(%)、縦軸はポリマー粒子のメジアン径(μm)を示し、図2にて各プロットを外挿して得られるグラフG2に示されるように、ポリマー粒径は、モノマーの重合率が0%〜40%の範囲内では、重合率が増加するにつれて漸減していき、重合率が40%を超えた後においては、略一定の値となる。
【0020】
更に、モノマーの重合率が40%を超えた後に、モノマーの重合速度を変化させ、その重合速度の変化がポリマー粒径に影響を与えるかどうかにつき調べた。その結果が図3、図4に示されている。図3はモノマーの重合率が40%を超えた後に、3つの重合速度で重合を行った時の重合率の変化状態を示すグラフ、図4は3つの重合速度に対応するポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0021】
図3において、横軸は時間(min)、縦軸は重合率(%)を示す。グラフG3は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を50℃に保持した場合の重合率変化曲線であり、グラフG4は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を45minの時点で50℃から48℃に低下させて重合速度を小さくした場合の重合率変化曲線であり、グラフG5は重合開始剤を0.07重量部投入して重合温度を45minの時点で50℃から40℃に低下させて重合速度を更に小さくした場合の重合率変化曲線である。
時間に対する重合率の上昇率は、最も重合温度が高く重合速度が大きいグラフG3で最も大きく、次いで、重合温度に基づく重合速度の大きい順に、グラフG4、グラフG5の順となっている。
【0022】
図4において、横軸は頻度(%)、縦軸は粒径(μm)を示し、グラフG6はグラフG3に対応するポリマー粒径の変化、グラフG7はグラフG4に対応するポリマー粒径の変化、及び、グラフG8はグラフ5に対応するポリマー粒径の変化を示している。
各グラフG6、G7、G8は、いずれにおいてもポリマー粒径が略同様の分散状態を示し、その値も略一定値になることを示している。このことは、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、重合速度を変化させた場合においても、ポリマー粒子のポリマー粒径は、略一定の値になることを意味している。従って、モノマーの重合率が40%に至る前までに、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整してポリマー粒径を制御しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後に重合速度を変化させてもポリマー粒径は略一定値に保持されることから、モノマーの重合率が40%を超えた後に自由に重合速度を調整することにより、トータルの重合時間をコントロールすることができる。
【0023】
また、モノマーの重合率が40%を超える時点を把握すべく、モノマーの重合率と反応液の粘度との関係を調べた。その結果が図5に示されている。図5はモノマーの重合率と反応液の粘度との関係を示すグラフである。
図5にて各プロットを外挿して得られるグラフG9に示すように、モノマーの重合率が20%までの間は反応液の粘度は徐々に大きくなり、重合率が20%を超えると粘度は急激に上昇していく。そして、重合率が40%を超えた後80%に至るまでの間において粘度は、略一定値を示し、また、重合率が80%を超えた後に急激に上昇していく。
このように、重合率が40%を超えた時点で粘度の上昇が収まり、一定値を示すことから、反応液の粘度を連続的にモニタし、略一定値になった時点で重合率が40%に達したことを把握することができる。
【0024】
前記した事実を勘案すれば、乳化重合系において各種の重合制御を行うことができる。以下、例示として、2つの重合制御方法について図6乃至図9に基づき説明する。
先ず、モノマーの重合率が40%に至る前に、重合速度を制御してポリマー粒径を所望の値になるように重合を行い、重合率が40%を超えた後においては、重合速度を変化させてトータル重合時間をコントロールする場合について、図6、図7に基づき説明する。図6は2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフ、図7は2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0025】
図6において、横軸は時間(min)、縦軸は重合率(%)を示し、グラフG10は、重合率40%に至る前に一定の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
また、グラフG11は、重合率40%に至る前にグラフG10の場合と同一の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)から低下させて重合速度を小さくした場合の重合率の変化を示す。
【0026】
ここに、グラフG10の場合には、重合開始から120min程度で重合反応は終了しているが、グラフG11の場合には、重合率が40%を超えた後に重合速度を低下させていることから、重合反応時間は190min程度を要している。
【0027】
また、図7において、横軸は粒径(μm)、縦軸は頻度(%)を示し、グラフG12はグラフG10に対応するポリマー粒径の変化、グラフG13はグラフG11に対応するポリマー粒径の変化を示している。
各グラフG12、G13は、いずれにおいてもポリマー粒径が略同様の分散状態を示し、その値も略一定値になることを示している。
【0028】
前記したように、モノマーの重合率が40%に至る前までに、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整してポリマー粒径を制御しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後に重合速度を変化させてもポリマー粒径は略一定値に保持されることから、モノマーの重合率が40%を超えた後に自由に重合速度を調整することにより、トータルの重合時間をコントロールすることができる。
【0029】
次に、モノマーの重合率が40%に至る前に、重合速度を変化させてポリマー粒径を変化させるとともに所望の値になるように重合を行い、重合率が40%を超えた後においては、重合速度を一定にしてトータル重合時間を同一にコントロールする場合について、図8、図9に基づき説明する。図8は2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフ、図9は2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【0030】
図8において、横軸は時間(hour)、縦軸は重合率(%)を示し、グラフG14は、溶存酸素濃度を低くし、一定の重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
また、グラフG15は、溶存酸素濃度を高くし重合率が40%に至る前で30%になった後に重合開始剤濃度を追加投入してグラフG14の場合よりも小さい重合速度でモノマーの重合反応を行い、重合率が40%を超えた後に重合温度を一定温度(例えば、50℃)を維持しつつ重合を行った場合の重合率の変化を示す。
【0031】
ここに、グラフG14の場合には、重合率が40%に至る前に一定の重合速度に対応するポリマー粒径が得られるが、グラフG15の場合には、重合率が40%に至る前における重合速度は小さいことから、グラフG14の場合よりも大きなポリマー粒径が得られる。そして、重合率が40%付近になった時点で、両者は略同一となり、この後は同一の重合速度で重合が行われていき、トータル重合時間は同一となる。
【0032】
また、図9において、横軸は粒径(μm)、縦軸は頻度(%)を示し、グラフG16はグラフG14に対応するポリマー粒径の変化、グラフG17はグラフG15に対応するポリマー粒径の変化を示している。
グラフG16では、前記したように重合速度が大きいことからポリマー粒径は小さくなり、一方、グラフG17では、重合速度は小さいことからポリマー粒径は大きくなる。
このように、ポリマー粒径を変化させつつトータル重合時間が同一となるように制御することができる。
【0033】
続いて、前記した乳化重合方法を自動的に行う重合装置について説明する。
先ず、重合装置の概略構成について図10に基づき説明する。図10は重合装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
図10において、重合装置1は、水・乳化剤・重合開始剤・モノマーを混合してなるモノマー混合物(反応液)からポリマーを合成する撹拌槽2、供給装置3を介して撹拌槽2に投入される重合開始剤を貯留する開始剤貯留タンク4、ポリマー製造時における撹拌槽2内の温度・重合開始剤の投入量等の各種製造条件等を入力設定する操作部5、及び、操作部5にて入力設定された各種製造条件に基づき供給装置3を制御して撹拌槽2への重合開始剤投入量を制御したり、重合装置1全体を制御する制御部6を備えている。
【0034】
撹拌槽2内には、撹拌槽2内のモノマー混合物の温度を検出する温度センサ7及びモノマー混合物の粘度を常時検出する粘度センサ8が配設されている。温度センサ7及び粘度センサ8は、制御部6に接続されており、温度センサ7、粘度センサ8にて検出された温度データ及び粘度データは、制御部6にインプットされる。また、撹拌槽2内には、モータ9を介して回転軸10の回りに回転される撹拌翼11が配置されている。更に、撹拌槽2には、コンデンサ12が配設されている。
開始剤貯留タンク4には、予め実験により求められた所定量の重合開始剤が貯留されている。
【0035】
操作部5からは、後述するように、モノマーの重合率が40%以下の場合(以下、重合前期とする)における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式、モノマーの重合率が40%を超えた場合(以下、重合後期とする)における重合速度式、基本重合条件(重合温度、開始剤濃度、モノマー仕込み量)、重合温度の上限及び下限値、目標ポリマー粒径、重合後期における目標重合速度(%/min)等の各種重合条件データが入力される。
また、操作部5から入力された各種の重合条件データは、制御部6に付設されているメモリに記憶される。
【0036】
また、撹拌槽2には、その外壁を被覆するようにジャケット13が取り付けられている。ジャケット13の下方に形成された入口には配管14が接続されており、かかる配管14には、入口側温度センサ15、熱交換器16、ポンプ17が介装されている。
【0037】
ジャケット13の上方に形成された出口には配管18が接続されており、かかる配管18には、出口側温度センサ19、2つの電磁バルブ20、21が介装されている。電磁バルブ21は、配管25を介してポンプ17に接続されている。電磁バルブ21には、専用チラー22が接続されており、専用チラー22には供給管23を介して工場循環水が供給される。また、専用チラー22は、配管24を介してポンプ17に接続されている。
尚、入口側温度センサ15及び出口側温度センサ19は、共に制御部6に接続されており、入口側温度センサ15、出口側温度センサ19にて検出された温度データは、制御部6にインプットされる。
【0038】
供給管23から供給された工場循環水は、専用チラー22で冷却され、その冷却水は、配管24、ポンプ17、熱交換器16を介してジャケット13に供給される。撹拌槽2は、ジャケット13に供給された冷却水により冷却される。尚、ジャケット13に供給される冷却水の温度は、入口側温度センサ15を介して検出され、その検出温度データが制御部6にインプットされる。
ジャケット13に供給された冷却水は、配管18、電磁バルブ20、配管25、ポンプ17等を経由する循環路を介してジャケット13内を循環する。尚、循環される冷却水の温度は、出口側温度センサ19を介して検出され、その検出温度データは制御部6にインプットされる。
尚、冷却数の温度を上昇させる場合には熱交換器16が作動され、冷却水が昇温される。
【0039】
ここで、重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式について図11に基づき説明する。図11は開始剤濃度とポリマー粒径との相関を示すグラフである。
かかる相関式は、事前に実験を行い、実験により得られた開始剤濃度(wt%)とポリマー粒径(μm)との関係を図11に示すようにプロットし、各プロットを外挿して相関式を求める。このように求めた相関式によりポリマー粒径は、下記数1のように表される。
【数1】
このように得られた相関式は、制御部6のメモリに記憶される。
【0040】
次に、重合後期における重合速度式について図12に基づき説明する。図12はアレニウスプロットを行って求めた反応速度定数と温度との関係を示すグラフである。
先ず、乳化重合における重合後期の重合速度式は、Smith-Ewart理論に基づき、下記数2のように表される。
【数2】
【0041】
前記数2についてアレニウスプロットを行い、反応速度定数と温度との関係を求めると、図12に示すように、lnk=−4810.7/T + 13.037、及び、k=exp(−4810.7/T + 13.037)となり、これより反応速度定数kについては、y=−4810.7x + 13.037と表される。
【0042】
また、開始剤濃度[I]は、時間t、温度T、初期開始剤濃度[I0]の関数として下記数3のように表される。
【数3】
また、半減期については下記数4のように表される。
【数4】
従って、前記した数2は、以下数5のように表される。
【数5】
【0043】
続いて、前記のように構成される重合装置1において、モノマーから自動的にポリマーの重合を行う手順について図13及び図14に基づき説明する。図13及び図14は重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【0044】
先ず、ステップ(以下、Sと略記する)1において、重合温度の上限及び下限値の範囲、基本重合条件(重合温度、開始剤濃度、モノマー仕込み量)、及び、前記のように求められた重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径との相関式(数1)、重合後期における重合速度式(数5)が操作部5を介して入力され、制御部6のメモリに記憶される。
ここに、重合前期における開始剤濃度とポリマー粒径については、前記数1、数2を求めた際のセンター値(本実施形態では、開始剤濃度:0.015[wt%]、重合温度:45℃)とされる。
また、重合温度の上限及び下限値の範囲については、前記数1、数2を求めるにつき使用した実験条件の上限値及び下限値、又は、製品特性と重合温度との関係が顕著な場合には、製品特性を満たすにつき要求される重合温度範囲が使用される。
【0045】
続くS2においては、操作部5を介して、作業者により目標ポリマー粒径、及び、重合後期における目標重合速度(%/min)が入力され、制御部6のメモリに記憶される。
【0046】
S3では、数1で表される相関式から、目標ポリマー粒径を得るための初期開始剤濃度I0が算出される。また、S4では、基本重合条件に基づいて撹拌槽2内の反応液が45℃となるように、ジャケット13等を介して昇温が開始される。
【0047】
また、S5において、初期開始剤濃度I0を満たす開始剤量がモノマー仕込量から計算され、(I0×仕込量)が撹拌槽2に投入される。S6では、開始剤投入時において粘度センサ8を介して検出された反応液の初期粘度値μi及び開始剤投入時間tiがメモリに記録される。そして、重合反応中には、粘度センサ8を介して反応液の粘度がモニタされる。
【0048】
そして、S7においては、検出粘度μが4×初期粘度値μi以上(μ≧4μi)となり、且つ、検出粘度μの値が安定(μの時間変化≒0)したかどうか判断される。具体的には、μ≧4μiとなり、且つ、1分前のμの値と比較してその差が5%以下になったかどうか判断される。μ≧4μiとなり、且つ、1分前のμの値と比較してその差が5%以下になった場合には、前記図5にて説明したように、モノマーの重合率が40%に到達したものと判断される。
S7における判断がNOの場合(S7:NO)には、前記条件が満足されるまで待機する。一方、S7における判断がYESとなった場合(S7:YES)には、開始剤投入時間をt1として記録するとともに、S9乃至S17における処理・判断により、重合後期における各種重合条件が設定される。
【0049】
重合後期における重合条件の設定するについて、図14に示すように、先ず、S8において、S7で判断がYESとなった時点における残存開始剤濃度[It]が数3、数4を使用して求められる。具体的には、時間tに(t1−ti)、温度Tに45℃、初期開始剤濃度に数1にて求められたI0を代入して求められる。
【0050】
続くS9では、重合後期における重合速度式(数5)中における[I0]に[It]が代入され、S10では、−d[M]/dtに目標重合速度、[M]に残存モノマー濃度(重合率が40%であることから、全仕込みモノマーの60%が残存しているものとして算出される)を代入し、これらを満たす重合後期において要求される重合温度T1[K]が算出される。
【0051】
また、S11では、要求温度T1が重合温度の上限値及び下限値の範囲内であるかどうか判断される。その判断がYESである場合(S11:YES)には、S12にて重合後期に要求される要求温度T1として制御部6に出力される。この後S17に移行する。
これに対して、S11における判断がNOの場合(S11:NO)には、S13において、要求温度T1が許容上限温度以上であるかどうか判断される。S13における判断がNOの場合(S13:NO)には、S14にて許容下限温度が要求温度T1として制御部6に出力される。この後S17に移行する。
【0052】
これに対して、S13における判断がYESの場合(S13:YES)には、S15にて許容上限温度値及び要求温度T1が数5に代入され、重合後期に要求される開始剤濃度が算出される。この後S16において、重合後期に要求される開始剤濃度から既に消費された開始剤量([It]×モノマー仕込量)を差し引いた開始剤量を重合後期に追加すべき開始剤量とし、且つ、許容上限温度を重合後期に要求される要求温度T1として制御部6に出力される。これにより、要求温度が許容上限温度以上である場合の開始剤量の補正が行われる。この後S17に移行する。
【0053】
S17においては、前記にて求められた重合後期における要求温度に基づきジャケット13等を介して撹拌槽2が温調される。更に、S18にて、前記のように求められた重合後期における重合条件に従って、モノマーの重合反応が進行されていく。
【0054】
以上詳細に説明した通り本実施形態に係るポリマー粒子製造方法では、モノマーの重合率が40%に至る前において、重合温度、重合開始剤濃度等に基づく重合速度を調整することによりポリマー粒径が目標粒径に制御され、モノマーの重合率が40%を超えた後においては、ポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に重合速度を制御してポリマー粒子の粒径を所望粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を自在に変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0055】
また、乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、粘度の上昇が略停止して安定した時点で、モノマー重合率が40%を超えたものと判断するので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0056】
更に、本実施形態に係る重合装置1では、粘度センサ8を介して検出される反応液の粘度値が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断するとともに、各種の重合条件(S1乃至S4)により決定される重合速度でモノマーの重合を行ってポリマー粒子のポリマー粒径が目標粒径にされ、また、粘度センサ8を介して検出される反応液の粘度値の上昇が停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断する(S7:YES)とともに、この後においてはポリマー粒径は重合速度とは関係なく一定に保持されるので、モノマーの重合率が40%に至る前に所望の重合速度に制御してポリマー粒子の粒径を目標粒径に調整しておけば、モノマーの重合率が40%を超えた後にポリマー粒子の粒径を目標粒径に維持しつつ、乳化剤濃度を高くすることなく重合速度を種々変更してモノマーの重合完了時間を制御することが可能となる。
【0057】
また、モノマーの重合が進行するに従って粘度センサ8を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断され、粘度センサ8を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断されるので、モノマーの重合率が40%になる時点を反応液の粘度変化に基づき判断することが可能となる。
【0058】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】モノマーの重合率が0%〜40%の範囲におけるモノマーの重合速度(%/min)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【図2】モノマーの重合率が0%〜100%の範囲におけるモノマーの重合率(%)とポリマー粒径(メジアン径(μm))との関係を示すグラフである。
【図3】モノマーの重合率が40%を超えた後に、3つの重合速度で重合を行った時の重合率の変化状態を示すグラフである。
【図4】3つの重合速度に対応するポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図5】モノマーの重合率と反応液の粘度との関係を示すグラフである。
【図6】2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフである。
【図7】2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図8】2つの重合過程において時間に対する重合率の変化を示グラフである。
【図9】2つの重合過程におけるポリマー粒径の変化を示すグラフである。
【図10】重合装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図11】開始剤濃度とポリマー粒径との相関を示すグラフである。
【図12】アレニウスプロットを行って求めた反応速度定数と温度との関係を示すグラフである。
【図13】重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【図14】重合装置にてポリマーの重合を行う際の重合制御手順のフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 重合装置
2 撹拌槽
4 開始剤貯留タンク
5 操作部
6 制御部
8 粘度センサ
13 ジャケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造するポリマー粒子製造方法において、
前記モノマーの重合率が40%に至る前に、モノマーの重合速度を制御することにより前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、
前記モノマーの重合率が40%を超えた後に、前記ポリマー粒径を所定粒径に維持しつつ、モノマーの重合完了時間を制御することを特徴とするポリマー粒子製造方法。
【請求項2】
前記乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、
前記粘度の上昇が略停止して安定した時点で、前記モノマー重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のポリマー粒子製造方法。
【請求項3】
水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造する重合装置において、
第1重合速度及び第2重合速度を設定する重合速度設定手段と、
前記反応液におけるモノマーの重合率を検出する重合率検出手段と、
前記重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には前記重合速度設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行って前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後に第1重合速度から第2重合速度に切り換えてモノマーの重合を行ってポリマー粒径を所定粒径に維持しつつモノマーの重合完了時間を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする重合装置。
【請求項4】
前記重合率検出手段は、前記反応液中に浸漬されるとともに反応液の粘度を測定する粘度測定手段を含み、
前記制御手段は、前記モノマーの重合が進行するに従って前記粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断し、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする請求項3に記載の重合装置。
【請求項1】
水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造するポリマー粒子製造方法において、
前記モノマーの重合率が40%に至る前に、モノマーの重合速度を制御することにより前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、
前記モノマーの重合率が40%を超えた後に、前記ポリマー粒径を所定粒径に維持しつつ、モノマーの重合完了時間を制御することを特徴とするポリマー粒子製造方法。
【請求項2】
前記乳化重合の進行に伴って反応物の粘度を連続的に測定し、
前記粘度の上昇が略停止して安定した時点で、前記モノマー重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする請求項1に記載のポリマー粒子製造方法。
【請求項3】
水、乳化剤、重合開始剤及びモノマーを混合した反応液を乳化分散させるとともにモノマーの乳化重合を行ってポリマー粒子を製造する重合装置において、
第1重合速度及び第2重合速度を設定する重合速度設定手段と、
前記反応液におけるモノマーの重合率を検出する重合率検出手段と、
前記重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%に至る前には前記重合速度設定手段に設定された第1重合速度でモノマーの重合を行って前記ポリマー粒子のポリマー粒径を所定粒径にし、重合率検出手段により検出されるモノマーの重合率が40%を超えた後に第1重合速度から第2重合速度に切り換えてモノマーの重合を行ってポリマー粒径を所定粒径に維持しつつモノマーの重合完了時間を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする重合装置。
【請求項4】
前記重合率検出手段は、前記反応液中に浸漬されるとともに反応液の粘度を測定する粘度測定手段を含み、
前記制御手段は、前記モノマーの重合が進行するに従って前記粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度が上昇している間はモノマーの重合率が40%以下にあるものと判断し、粘度測定手段を介して測定される反応液の粘度の上昇が略停止して安定した時点でモノマーの重合率が40%を超えたものと判断することを特徴とする請求項3に記載の重合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−270018(P2009−270018A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122240(P2008−122240)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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