説明

ポリマー組成物の疲労寿命を設定する方法

本発明は、以下のステップを含む、ポリマー組成物の疲労寿命を評価する方法に関する:i)ポリマー組成物を提供するステップ;ii)前記組成物から切り出した複数の軸対称試験チューブを製造するステップ;iii)前記試験チューブに、複数の負荷および除荷サイクルを含む1軸牽引疲労試験を受けさせるステップであって、試験チューブの形状によって、試験チューブ切断の区域にて材料に3軸応力を受けさせて、特に海底用途のための可撓性パイプの圧力シースのための応力条件をシミュレートすることが可能である、ステップ;およびiv)前記ポリマー組成物の破裂までのサイクル数を設定するステップ。本発明は、加圧および/または腐食性流体を運搬するためのパイプまたは導管を製造する設定方法によって選択された前記ポリマー組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物の疲労寿命を評価するプロセスに関する。評価プロセスによって選択されたポリマー組成物によって、海底石油産業で直面するような、きわめて厳しい使用条件に耐えることができるパイプまたは他の製品を製造することが可能である。本発明は、疲労寿命を評価するプロセスによって選択されたこのポリマー組成物を有する、石油液体を輸送するためのパイプにも関する。
【背景技術】
【0002】
海底に位置する油脈の開発によって、使用される機器および材料、特にそれゆえ抽出された炭化水素の輸送に使用される導管またはパイプは、厳しい条件にさらされる。実際に、炭化水素は一般に、高温(最高135℃)および高圧(1000バール超)にて輸送される。したがって、設備の動作中には、使用される材料の機械的強度(耐圧性、耐摩耗性)、耐熱性および耐化学薬品性の厳しい問題に直面する。このような導管およびパイプは特に、高温油に、ガスに、周囲の塩水に、およびこれらの生成物の少なくとも2つの混合物に、25年に及び得る期間にわたって耐性でなければならない。
【0003】
従来、これらのパイプは、インターロックストリップなどのらせん状に巻いた型付け金属テープによって形成された、油および水に対して不浸透性でない金属内層を含む。パイプに形状を与えるこの金属内層は、不浸透性を与えることを目的としたポリマー層を用いて、一般に押出しによってコーティングされる。金属繊維およびゴムの層などの他の保護および/または補強層も不浸透性ポリマー層の周囲に配置され得る。
【0004】
60℃より低い動作温度では、ポリマーはHDPE(高密度ポリエチレン)である。60℃〜90℃の温度では、ポリアミドが使用される;圧力があまり高くないときは、90℃まで架橋ポリエチレン(PEX)を使用することもできる。90℃を超える温度、特に100℃〜130℃では、フルオロポリマー、例えばPVDF(ポリビニリデンフルオリド)またはビニリデンフルオリド(VDF)のコポリマーが一般に使用される。
【0005】
ポリアミドおよび特にポリアミドPA−11ならびにフルオロポリマーおよび特にポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)は、その良好な熱挙動、特に溶媒に対するその耐化学薬品性、悪天候および放射(UVなど)に対するその耐性、ガスおよび液体に対するその不浸透性ならびにその電気絶縁品質のために公知である。これらは特に、海底または陸上に位置する油脈から抽出された炭化水素の輸送を目的とするパイプまたは導管の製造に使用される。
【0006】
他の要件は、上述の要件に加えて、石油開発の前後に追加される。それゆえパイプまたは導管が配管または除去されているときに(巻き戻しまたは巻き取り)、これらは、これらのパイプまたは導管が配管される深さに応じて変化する、かなり低い値(例えば−35℃)に到達し得る温度にてこれらが耐える必要がある衝撃、および実質的な変形を受けることがある。パイプを損傷することなく巻き取る(巻き戻す)ために、約7%の変形能が好ましい。最後に、パイプまたは導管が長い耐用寿命を有するように、およびパイプまたは導管の再使用の可能性があるように、パイプまたは導管の特性を長期にわたってほぼ一定に維持することが重要である。
【0007】
これらの要件すべてを短期および長期の両方で試行および満足するために、各種の種類のパイプがすでに提案されており、これらは一般に、機械的剛性を保証するが、輸送される流体に対して不浸透性でない1個以上の金属部品、例えばらせん状鋼鉄バンドと、特に抽出された流体および海水に対する不浸透性ならびに熱遮蔽を与える、ポリマー組成物に基づく各種の層も含む。これらのポリマー組成物は例えば、ポリエチレンに基づき得るが、この選択によってパイプの使用温度が最高でも60℃に制限される。ポリマー組成物は、例えば130℃に到達し得るより高い最高使用温度に好適であり、ポリマー組成物に優れた耐化学薬品性を与えるPVDF(ポリビニリデンフルオリド)などのフルオロポリマーにも基づき得る。しかしPVDFは非常に剛性であり、この理由のために、VDFのホモポリマーは、VDFのコポリマーとのブレンドとして調合または使用されることが多い。
【0008】
最後に、パイプまたは導管の製造中に追加の要件が発生する。それゆえ、ポリマー組成物の加工性が可能な限り容易であることが明らかに望ましく、それには変換プロセス(通常は押出し)に好適な粘度が必要である。
【0009】
このために、使用される組成物は低すぎる粘度(例えば(230℃、5kgによる)15g/10分未満の標準ASTM D−1238に従うメルトフローインデックス)を有さないことが好ましい。
【0010】
したがってポリマー組成物の選択は、損傷を伴わずに製造条件、処理条件、海底に可撓性パイプを配管するための条件および良好な使用条件に耐えるために非常に重要である。可撓性ホースの構造は複雑である。ポリマー層および金属部品(枠組み、らせん状補強材など)の並置によって、特に可撓性ホースが曲げられるときに、使用されたポリマーが局所的な3軸変形および応力を受ける。このことは、可撓性ホースの処理および配管のための各種の操作の間に繰り返し発生する。このことは、特に動的用途、例えば海底を表面に連結して(「立ち上がり管)、膨潤を受ける可撓性ホースでの使用中にも当てはまる。
【0011】
出願人は、上に挙げた基準を満足して、好都合な技術的特徴、特に例えば500回を超える高い破壊サイクル数(NCF)によって表される3軸応力下での耐疲労性を有するポリマー組成物を選択可能にする、ポリマー組成物の疲労寿命を評価するプロセスを開発した。
【0012】
耐疲労性に基づく新たな基準によって、海底可撓性パイプの圧力シースおよび中間シースまたは外部シースとしての使用に適合するポリマー組成物および材料を、より良好に設計することが可能となる。このことは、VDFのホモポリマーもしくはコポリマーまたはそのブレンドからなる圧力シースの場合に特に当てはまる。本発明による評価プロセスは、使用中の海底可撓性ホースの圧力シースの応力をシミュレートする局所的3軸応力を構成する負荷および除荷サイクルを受ける、切欠き軸対称試験試料片を使用する。
【0013】
[従来技術]
国際公開第2006/045753号は、VDFのホモポリマー、フッ素化熱可塑性コポリマーおよび可塑剤を含むフッ素化ポリマー組成物について記載しており、前記組成物は、5℃未満の延性−脆性遷移温度を有する。機械的特性を予測するためのキャラクタリゼーションパラメータは、溶解および溶融状態で測定された相対粘度として表された分子量、ならびに切欠き試験試料片に対するシャルピー衝撃として測定されたポリマー組成物の延性−脆性遷移温度である。弾性率Eならびに降伏点伸びおよび破断時伸びなどの機械的特性も測定される。
【0014】
国際公開第2006/097678号は、ポリアミド12(PA−12)からなる層を含有する多層可撓性パイプについて記載している。本出願で言及されている、機械的特性を予測するための唯一のキャラクタリゼーションパラメータは、溶解状態で測定された相対粘度として表される分子量である。.
【0015】
欧州特許第1342754号は、ポリアミド、可塑剤およびNBRまたはH−NBRエラストマーを含む海底油田およびガス田の開発に使用できるパイプ用の組成物について記載している。分子量のみがサイズ排除クロマトグラフィーによって決定される。
【0016】
欧州特許第0608939号は、炭化水素を輸送するパイプの製造を目的とするポリマー組成物について記載している。ポリマー組成物は、PVDFホモポリマー、VDFの熱可塑性コポリマーおよび可塑剤に基づく。降伏点伸びおよび破断時伸び、ならびにアイゾッド衝撃強度などの機械的特性が測定される。
【0017】
各種の応力を受ける試験試料片を使用する疲労試験を用いて、各種の材料(金属またはポリマー材料)の機械的特性を調査することが公知である。Tao G.およびXia Z.(Polymer Testing 24,2005,844−855)による論文は、エポキシ型のポリマー材料に対する1軸および2軸疲労試験を行うことができるようにする方法について記載している。使用される試験試料片は、1軸または管状である。2軸応力は、引張荷重およびねじり荷重を試験試料片に加えることによって得られる。これらの方法は非破壊的であり、デジタル画像相関技法に基づいた制御システムの開発を可能にする。
【0018】
これらの文書のいずれも、製造、設置および使用の間にこれらのパイプ中のこれらの組成物の機械的強度を予測できるようにする特定の疲労試験を満足する、特に炭化水素または油を輸送するパイプの製造を目的としたポリマー組成物の疲労寿命の決定について記載または示唆していない。
【発明の概要】
【0019】
さらに精密には、本発明の1つの主題は、以下のステップを含むポリマー組成物の疲労寿命を評価するプロセスである:
(i)ポリマー組成物を提供するステップ;
(ii)前記組成物から複数の切欠き軸対称試験試料片を製造するステップ;
(iii)前記試験試料片に、特に海底用途での可撓性パイプの圧力シースの応力条件をシミュレートする3軸応力をその中で誘起する、試験試料片の複数回の1軸負荷および除荷サイクルを含む引張疲労試験を受けさせるステップ;および
(iv)前記ポリマー組成物について破壊サイクル数を決定するステップ。
【0020】
驚くべきことに、切欠き軸対称試験試料片に対する疲労時の動作により、引張試験機を使用することのみによって多軸疲労応力を試験される材料に受けさせることが可能であり、これにより実験室での試験がはるかに容易に行えるようになることが見出されている。これは試験試料片の切欠き軸対称形状によって可能となる。それゆえ試験試料片の負荷は1方向であるが、試験試料片の形状によって試験試料片の切欠き区域での材料に3軸応力を誘起することが可能であり、これにより、特に海底用途での可撓性パイプの圧力シースの応力条件をシミュレートすることが可能となる。
【0021】
本発明によるプロセスで使用した各試験試料片は、最大直径dおよび曲率半径Rを有する湾曲切欠きを有する、縦軸zに対して軸対称である。各試験試料片は、その切欠き部に最小半径aを有し、a/R比は0.05〜10に及び、dは2aより大きく、好ましくは2a+0.5R〜2a+2Rに及ぶ。
【0022】
引張疲労試験は、縦軸に沿った試験試料片の伸びからなり、正弦波信号は−15℃〜23℃、好ましくは−15℃〜5℃、好都合には−15℃〜−5℃に及ぶ温度にて0.05Hz〜5Hz、好ましくは0.5Hz〜2Hzに及ぶ周波数を有し、同一の引張疲労サイクルの最大伸びは0.05R〜1R、好ましくは0.075R〜0.4Rから選択される。
【0023】
500超の、好ましくは1000超の、好都合には5000超の、さらに好ましくはなお10000超の複数の試験試料片の平均破壊サイクル数(NCF)を有する組成物が選択される。
【0024】
本発明の第1の実施形態により、同一の引張サイクルの最小伸びは、0以上0.25Rまで、好ましくは0.08Rまでである。
【0025】
別の実施形態により、切欠きの曲率半径Rが0.5mm〜10mm、好ましくは3mm〜5mmに及ぶため、各試験試料片は、その切欠き部において、0.5mm〜5mm、好ましくは1.5mm〜2.5mmに及ぶ最小半径a;および2mm〜30mm、好ましくは6mm〜10mmに及ぶ最大半径dを有する。
【0026】
また別の実施形態により、縦軸zに沿った最大伸びは、0.2mm〜4mm、好ましくは0.3mm〜1.6mmに及ぶ。
【0027】
また別の実施形態により、サイクルの最小伸びと最大伸びとの間の比は、0から0.8まで、好ましくは0.5までおよび好都合には0.25までから選択される。
【0028】
本発明によるプロセスによって評価されるポリマー組成物は、130℃以下のガラス転移温度(T)を有する、少なくとも1つの半結晶性熱可塑性ポリマーを含む。
【0029】
一実施形態により、決定プロセスから得られたポリマー組成物は、フッ素化ポリマーを含む。
【0030】
別の実施形態により、決定プロセスから生じたポリマー組成物は、VDFのホモポリマーまたはコポリマーを含む。
【0031】
本発明は、1個以上の金属部品、また本発明によるプロセスによって選択されたポリマー組成物を含む少なくとも1つの層、および場合によりポリマー組成物のポリマー材料とは異なるポリマー材料の1つ以上の層を含む、可撓性金属導管にも関する。
【0032】
本発明の別の主題は、特に海底用途を目的とする可撓性パイプの圧力シースの組成物となるポリマー材料の3軸応力をシミュレートするための切欠き軸対称試験試料片の使用に関し、ここで各試験試料片は、試験試料片の複数回の負荷および除荷サイクルを含む引張疲労試験を受ける。
【0033】
本発明によるポリマー組成物は、130℃以下の、好ましくは110℃以下のガラス転移温度(T)を有する、少なくとも1つの半結晶性熱可塑性ポリマーを含む。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定され得る。
【0034】
本発明のポリマー組成物は、さらに添加剤も含有し得る。添加剤として、可塑剤、衝撃改質剤およびその混合物が選択され得る。
【0035】
130℃以下のガラス転移温度(T)を有する半結晶性熱可塑性ポリマーは特に、制限なく:
−ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン;
−熱可塑性ポリウレタン(TPU);
−ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート;
−シリコーンポリマー;
−少なくとも50mol%の式(I)のモノマーを含む、および好ましくは式(I)のモノマーからなるフルオロポリマー:
CFX=CHX’ (I)
(式中、XおよびX’は独立して、水素もしくはハロゲン原子(特にフッ素または塩素)またはペルハロゲン化(特にペルフッ素化)アルキルラジカル、および好ましくはX=FおよびX’=Hを表す)例えば、好ましくはα形のポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリドと例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンと、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)、またはテトラフルオロエチレン(TFE)、またはペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のいずれかとのコポリマー(これらのポリマーの一部は特に、Kynar(登録商標)という名称でARKEMAによって販売されている);および
−その混合物;から選択され得る。
【0036】
本発明によるPVDFに関して、これはビニリデンフルオリド(式CH=CFのVDF)のホモポリマーまたはPVDFコポリマー、すなわち重量で少なくとも50重量%のVDFおよびVDFと共重合可能な少なくとも1つの他のモノマーを含むVDFのコポリマーである。VDF含有率は、高温にて十分な機械強度(すなわち130℃にて良好な耐クリープ性)を確保するために、80重量%超、またはさらに良好には90%であるべきである。
【0037】
コモノマーは、例えばビニルフルオリド;トリフルオロエチレン(VF3);クロロトリフルオロエチレン(CTFE);1,2−ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル、例えばペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)およびペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE);ペルフルオロ(1,3−ジオキソール);ペルフルオロ(2,2−ジメチル1,3−ジオキソール)(PDD)から選択されるフルオロモノマーであり得る。任意のコモノマーは好ましくは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(VF3)およびテトラフルオロエチレン(TFE)から選択される。コモノマーは、エチレンまたはプロピレンなどのオレフィンでもあり得る。好ましいコモノマーはHFPである。
【0038】
本発明による可塑剤に関して、このことは一般的な方式で「Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering」,Wiley and Sons(1989),568−569頁および588−593頁に記載されている。可塑剤は、ビニリデンフルオリドホモポリマーまたはコポリマーと適合性でなければならない。好ましくは、良好な低温特性を保証するために、これは「低温」可塑剤、すなわち−30℃にて固化しない可塑剤である。米国特許第3541039号または同第4584215号に記載された可塑剤またはその混合物から可塑剤を選択することが可能である。
【0039】
一例として、本発明で使用できる可塑剤は、セバシル酸ジブチル(式C−COO−(CH−COO−CのDBS)、フタル酸ジオクチル(DOP)またはNBSA(N−n−ブチル−ブチルスルホンアミド)であり得る。本発明でまた使用できる高性能可塑剤は、ポリマー性ポリエステル、例えばアジピン酸、アゼライン酸またはセバシン酸およびジオールに由来する可塑剤、およびその混合物であるが、しかしその数平均分子量が少なくともおよそ1500、好ましくは少なくとも1800であり、およそ5000を超えず、好ましくは2500g/mol未満であるという条件である。分子量が高すぎるポリエステルは特に、より低い衝撃強度を有するポリマー組成物を生じる。商標RHEOPLEX 904でCIBAによって販売されている、平均分子量2050g/molを有するアジピン酸のポリエステルも使用することができる。本発明のための1つの高性能可塑剤は、PVDFによって容易に包含されるDBSである。
【0040】
衝撃改質剤に関して、本発明に従って、コア−シェル型の衝撃改質剤を選択することが可能である;これは軟質ポリマーからなる少なくとも1つの内層およびアクリル酸ポリマーに基づくシェル(すなわちアクリル酸シェルとも呼ばれる外層)を含む。アクリル酸ポリマーは、メタクリル酸および/またはアクリル酸モノマーを含有するポリマーを意味する。衝撃改質剤は粒子の形であり、その平均直径は一般に、最大限で1μm、好ましくは50〜400nmである。
【0041】
ポリマー組成物の製造
本発明により使用されるポリマー組成物は、合成:重合によって直接製造され得る。この場合、本発明によるポリマー組成物は、130℃以下のガラス転移温度(T)を有する半結晶性熱可塑性ポリマーを含む。
【0042】
本発明により使用される組成物は、任意の混合装置、好ましくは押出機で各種の構成要素を溶融ブレンドすることによっても製造され得る。
【0043】
ポリマー組成物は通常、顆粒の形で回収される。
【0044】
ポリマー組成物
本発明により使用されるポリマー組成物は、可塑剤を含有するVDFホモポリマーであり得る。VDFホモポリマーに関する可塑剤の重量含有率は、10〜15%の、好ましくは10〜12%の拡張する範囲内に含まれる。
【0045】
本発明による別のポリマー組成物は、可塑剤および衝撃改質剤を含有するVDFホモポリマーであり得る。ポリマー組成物の総重量に関する可塑剤の重量含有率は、1%〜5%、好ましくは2%〜4%から選択される。ポリマー組成物の総重量に関する衝撃改質剤の重量含有率は、2%以上10%まで、好ましくは6%〜9%から選択される。
【0046】
本発明によるポリマー組成物は、VDFのホモポリマーまたはコポリマーも含有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】金属枠組み(3)を被覆するポリマー組成物(1)の層を含み、全体のアセンブリが外装(2)によって補強された、可撓性金属導管の断面図を示す。
【図2】3軸応力場を応力印加材料に与えることを可能にする引張疲労試験用の、軸対称試験試料片の形状を示す:湾曲切欠きを含むまたは曲率半径Rを有する縦軸z、各試験試料片は、最小直径aおよび最大直径dを含む。
【図3】試験試料片を備えたサーボ油圧試験装置を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
軸対称試験試料片の寸法の省略形の定義:
z−縦軸
a−最小半径
R−曲率半径
d−最大直径
【0049】
試験試料片
本発明による疲労寿命を決定するための試験試料片は、製造されたポリマー組成物から調製される。試験試料片は、製造されたポリマー組成物を射出成形することによって調製され得る。試験試料片は、押出し、例えばストリップまたはチューブの押出しと、続いての試験試料片の機械加工によっても調製され得る。特に、試験試料片は、ポリマー組成物のチューブの環状厚みから切り出される。
【0050】
各試験試料片は、縦軸zについて軸対称であり、曲率半径R、最小半径aおよび最大直径dを持つ湾曲切欠きを有する。
【0051】
試験試料片は、これらの3つの値a、dおよびRによって定義される。
【0052】
最小半径aと曲率半径との関係a/Rは、0.05〜10、好ましくは0.2〜1、さらに好ましくはなお0.4〜0.6である。
【0053】
最大直径dは、最小半径aの2倍の大きさであり、好ましくは2a+0.5R〜2a+2Rに及ぶ。
【0054】
試験試料片の作製では、曲率半径Rは、0.5mm〜10mm、好ましくは3mm〜5mmおよび通常4mmである;各試験試料片は、0.5mm〜5mm、好ましくは1.5mm〜2.5mmおよび通常2mmで変わる最小半径aを有し;および最大直径dは、2mm〜30mm、好ましくは6mm〜10mm、通常7mmから選択される。
【0055】
1軸引張応力を受けた切欠き試験試料片での応力状態は、切欠き区域において3軸であることがわかる(Bridgman P.W.Trans.Am.Soc.Met.1944,32,553)。切欠きの半径が小さくなればなるほど、3軸性は大きくなる。この形状を有する試験試料片によって、本発明によるプロセスの条件下で材料に対して、海底可撓性ホースの圧力シースもしくは中間シースまたは外部シース中のポリマー組成物が遭遇する応力条件を表す、あるレベルの3軸性応力を与えることが可能である。
【0056】
疲労試験
本発明による疲労試験は、試験試料片に縦軸zに沿った伸びからなる引張疲労試験を受けさせることにあり、正弦波信号は−15℃〜23℃、好ましくは−15℃〜5℃、好都合には−15℃〜−5℃に及ぶ温度にて、通常は−10℃にて0.05Hz〜5Hz、好ましくは0.5Hz〜2Hzに及ぶ、通常1Hzの周波数を有する。
【0057】
同じ引張サイクルの最大伸びは、切欠きRの曲率半径から開始する相対寸法として表され、0.05R〜1R、好ましくは0.075R〜0.4Rである。同じ引張サイクルの最小伸びは、0以上0.25Rまで、好ましくは0.08Rまでである。
【0058】
最大伸びは、0.2mm〜4mm、好ましくは0.3mm〜1.6mm、通常1.4mmから選択される。
【0059】
疲労試験の最小伸びは、サイクルの最小伸びと最大伸びとの比によって設定される。この比は、0以上0.8まで、好ましくは0.5まで、好都合には0.25まで変化し、通常は0.21である。
【0060】
疲労試験の結果は、すべての試験試料片の平均破壊サイクル数(NCF)である。各種のポリマー組成物は、この疲労試験の結果から分類および比較することができる:破壊サイクル数が大きければ大きいほど、ポリマー組成物は良好である。
【0061】
500超の、好ましくは1000超の、好都合には5000超の、さらに好ましくはなお10000超の、複数の試験試料片の平均破壊サイクル数(NCF)を有する組成物が選択される。
【0062】
複数は、平均破壊サイクル数(NCF)を計算するための測定値または試験試料片の数が少なくとも2、好ましくは2〜50、好都合には5〜40、通常10であることを意味すると理解される。
【0063】
ポリマー組成物の使用
本発明による決定プロセスによって選択されたポリマー組成物は、加圧および/または腐食性流体を輸送することを目的としたパイプまたは導管を製造するために使用され得る。
【0064】
可撓性金属導管は、1個以上の金属部品、また本発明による製造プロセスから生じるポリマー組成物を含む少なくとも1つの層、および場合によりポリマー組成物のポリマー材料とは異なるポリマー材料の1つ以上の層を含み得る。
【0065】
[実施例]
本発明は、各種のポリマー組成物の実施例によってここで例証され、各種のポリマー組成物の使用は本発明の主題である。
【0066】
使用される製品
KYNAR(登録商標)400HDCM800:ARKEMAによって販売される2峰性PVDFホモポリマー。本製品はDURASTRENGTH(登録商標)D200:T≒−40℃の軟質内層を有するARKEMAが販売するコア−シェル型衝撃改質剤およびDBS:セバシル酸ジブチル(可塑剤)を含有する。他の(市販品でない)ものは、Tg≒−60℃の軟質内層を有する、Rohm&Haasによって販売される衝撃改質剤であるEXL(登録商標)2650をDURASTRENGTHの代わりに含有する。
KYNAR(登録商標)50HDP900:DBSを含有するARKEMAによって販売される2峰性PVDFホモポリマー。
KYNAR FLEX(登録商標)3120−50:161℃〜168℃の融点を有する、90重量% VDFおよび10重量% HFPのコポリマー(ARKEMAが販売)。
【0067】
ポリマー組成物の比は重量で:
組成物A:89% KYNAR 50および11% DBS
組成物B:89.5% KYNAR 400および7.5%EXL 2650および3% DBS
組成物C:100% KYNAR FLEX 3120−50
組成物D:92% KYNAR 400および5% EXL 2650および3% DBS
組成物E:95% KYNAR 400および2% D200および3% DBSである。
【0068】
物質のキャラクタリゼーション方法の説明
延性−脆性遷移(DBT)温度の測定
延性−脆性遷移(DBT)温度の測定のために、ISO 179 1eA規格による試験から得られるプロトコルに従って、シャルピー衝撃測定を行った。本プロトコルは、切欠きはカミソリの刃を使用して作製され、したがって規格で推奨された0.25mmの値よりも小さい切欠き先端半径を有するという意味で、規格のプロトコルよりも厳密に調整された。使用したバーの厚さも、規格で推奨されたバーの厚さ(4mmに対して、通常6または7mm)よりも厚かった。試験は10本のバーに対して、DBTを含めるために5℃刻みに分割して行った。これは50%脆性破壊に相当する。基準として使用した衝撃速度は、ISO 179 1eAによって推奨された衝撃速度であった。
【0069】
疲労試験
本試験は、ポリマー組成物の所与の試料について、破壊サイクル数(NCF)、すなわちその最後に試料の破壊が発生するサイクルの回数を決定することにある。NCFが大きくなればなるほど、所与の試料の疲労試験の結果は良好となる。
【0070】
試験は−10℃の温度にて、4mmの切欠きの曲率半径(R4)および2mmの最小半径を有する軸対称試験試料片に対して、サーボ油圧試験装置、例えばMTS 810型を使用して行った。ジョー間の距離は10mmであった。試験試料片に与えられたのは:最大伸び1.4mmと、最小伸び0.3mmを生じた、最小伸びと最大伸びとの間の比0.21であり;正弦波信号は1Hzの周波数を有した。試験の結果は、10個の試験試料片について得た結果の平均である。10個の試験試料片で見られた対数平均は、NCF(平均破壊サイクル数)に相当する。
実施例: ポリマー組成物Cは、試験した10個の試験試料片について10000のNCFを有する。これはポリマー組成物の試験試料片の破壊前に、平均で10000回のサイクルがあることを意味する。
【0071】
高温クリープ
耐高温クリープ性は、ISO527規格に従った温度にてポリマー組成物の新たな試験試料片に対して、引張試験を行うことによって評価し、これらの試験試料片は温度にて試験前に20分間調整した。VDFのホモポリマーまたはコポリマーに基づくポリマー組成物について、これらの試験試料片の降伏強度を130℃にて測定する。本強度は、伸張前に試験試料片が耐えた公称最大引張応力に相当する。本強度が高くなればなるほど、ポリマーの耐クリープ性はより良好となる。

【0072】
上の表Iに示した結果は、シャルピー試験によるポリマー組成物A〜Eの分類が、本発明による疲労試験に基づいて行った分類とは異なることを示している。それゆえ新たなポリマー組成物の設計は、シャルピー試験または本発明による疲労試験のどちらが判定基準として選択されるかによって異なるであろう。一例として、組成物Cは組成物Eよりも高いDBTを有する。しかし後者は、組成物Cよりも低い、疲労時のNCF(本発明のプロセスに従って測定)を有する。それゆえ本発明による疲労試験によって、海底可撓性ホースに存在する実際の疲労条件に耐えるための、組成物Eと比較した組成物Cの利点を証明することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物の疲労寿命を評価するプロセスであって、以下の:
(i)ポリマー組成物を提供するステップと;
(ii)前記組成物から複数の切欠き軸対称試験試料片を製造するステップと;
(iii)前記試験試料片に、特に海底用途での可撓性パイプの圧力シースの応力条件をシミュレートする3軸応力をその中に誘起する、試験試料片の複数回の1軸負荷および除荷サイクルを含む引張疲労試験を受けさせるステップと;
(iv)前記ポリマー組成物について破壊サイクル数を決定するステップと;を含むプロセス。
【請求項2】
各試験試料片が縦軸zに関して軸対称であり、最大直径dおよび曲率半径Rを有する湾曲切欠きを有し、各試験試料片がその切欠き部に最小半径aを有し、a/R比は0.05〜10に及び、dは2aより大きく、好ましくは2a+0.5R〜2a+2Rに及ぶ、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
引張疲労試験が縦軸に沿った試験試料片の伸びからなり、正弦波信号は−15℃〜23℃、好ましくは−15℃〜5℃、好都合には−15℃〜−5℃に及ぶ温度にて0.05Hz〜5Hz、好ましくは0.5Hz〜2Hzに及ぶ周波数を有し、同じ引張サイクルの最大伸びは0.05R〜1R、好ましくは0.075R〜0.4Rから選択される、請求項1および請求項2のいずれかに記載のプロセス。
【請求項4】
同一の引張サイクルの最小伸びは、0以上0.25Rまで、好ましくは0.08Rまでである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
切欠きの曲率半径Rが0.5mm〜10mm、好ましくは3mm〜5mmで変化し;最小半径aが0.5mm〜5mm、好ましくは1.5mm〜2.5mmで変化して;最大半径dが2mm〜30mm、好ましくは6mm〜10mmで変化する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
縦軸zに沿った最大伸びが0.2mm〜4mm、好ましくは0.3mm〜1.6mmで変化する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
サイクルの最小伸びと最大伸びとの間の比が0から0.8まで、好ましくは0.5まで、好都合には0.25まで変化する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記破壊サイクル数が最低2個の試験試料片の、好ましくは2〜50個の、好都合には10個の試験試料片の平均を表す数である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
ポリマー組成物が130℃以下のガラス転移温度(T)を有する、少なくとも1つの半結晶性熱可塑性ポリマーを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
ポリマー組成物がフルオロポリマー、特にVDFのホモポリマーまたはコポリマーを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセスによって選択され、加圧および/または腐食性流体を輸送することを目的としたパイプまたは導管を製造するための、500を超える平均破壊サイクル数を有するポリマー組成物の使用。
【請求項12】
1個以上の金属部品と、また請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセスによって選択された、その破壊サイクル数が500を超えるポリマー組成物を含む少なくとも1つの層と、場合によりポリマー組成物のポリマー材料とは異なるポリマー材料の1つ以上の層とを含む、可撓性金属導管。
【請求項13】
特に海底用途を目的とする可撓性パイプの圧力シースの組成物となるポリマー材料の3軸応力をシミュレートするための、試験試料片の複数回の負荷および除荷サイクルを含む引張疲労試験をそれぞれ受ける、切欠き軸対称試験試料片の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−502267(P2012−502267A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525604(P2011−525604)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051691
【国際公開番号】WO2010/026356
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(511061246)テクニプ フランス エス.ア.エス. (1)
【Fターム(参考)】