説明

ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物

【課題】ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物を提供すること。
【解決手段】チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介して導入されたラジカル重合開始基を起点として、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーを重合させることで得られる、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物(A);
ラジカル重合開始基が、リビングラジカル重合開始基又は原子移動ラジカル重合開始基であるチタン酸塩化合物(A)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
チタン酸塩に高分子化合物が化学結合していることを特徴とするポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化、高性能化が進んでいる。それに伴い、集積回路におけるコンデンサも同様に小型化が求められており、静電容量の高密度化の検討が行われている。静電容量の高密度化には、チタン酸塩などの無機高誘電率粒子が添加された樹脂が用いられる。
例えば、熱可塑性樹脂を内層したプリント配線板に関して、特許文献1、2では、熱可塑性樹脂へ無機高誘電率粒子を充填することで高誘電率化する検討がなされているが、無機高誘電率粒子の充填量が多い場合、成形性が低下してしまう。
また、非特許文献1には、チタン酸バリウム添加誘電性ポリマー薄膜が記載されているが、チタン酸バリウムの添加量が増加すると粒子の凝集体が生成するため、成膜性が悪化してしまう。
そこで、無機高誘電率粒子の凝集を抑制するために、表面を被覆する手法が種々検討されているが、その多くは、低分子による表面処理であり、ベースとなる樹脂との親和性が低い場合がある。また、あらかじめ合成された高分子と無機粒子とを反応させることによる表面処理も知られているが、高分子反応のためその効率は低い傾向にある。従って、これらの手法では、得られる効果が必ずしも充分なものとはいえなかった。
【特許文献1】特開平5−57851号公報
【特許文献2】特開平5−57852号公報
【非特許文献1】小林芳男、今野幹男,B.5 チタン酸バリウムナノ粒子添加誘電性ポリマー薄膜の創製,有機・無機ナノ複合材料の新局面,エヌ・ティー・エス,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、樹脂へ高充填しても良好な成形性を保有し、且つ機械強度に優れている、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、チタン酸塩粒子にあらかじめ化学結合を介してラジカル重合開始基を導入し、該粒子とモノマーを反応させることで、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物粒子が得られることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、
[1]:チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介して導入されたラジカル重合開始基を起点として、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーを重合させることで得られる、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物(A);
[2]:ラジカル重合開始基が、リビングラジカル重合開始基又は原子移動ラジカル重合開始基であるチタン酸塩化合物(A)。
[3]:化学結合が、チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基
とを反応させることで形成されるチタン酸塩化合物(A)。
[4]:チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる、少なくとも一種類の官能基、
及び
(b)ラジカル重合開始基
を有する化合物とを反応させることで、チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)を取得し、得られた化合物とラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーを重合させることを特徴とするチタン酸塩化合物(A)の製造方法;
[5]:ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物(A)と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂へ高充填しても良好な成形性を保有し、且つ機械強度に優れている、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、チタン酸塩化合物(A)について説明する。
【0008】
チタン酸塩(1)は、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムからなるチタン酸塩の群から選ばれる、少なくとも一種類のチタン酸塩であれば、その結晶構造や大きさ、形状等は特に限定されない。
【0009】
通常、チタン酸塩(1)は、式(1)

(式中、Mは、Mg、Ca、Sr又はBaであり、Xは、0.1〜1.1の数を表す。)
で示されるチタン酸塩が挙げられ、その結晶構造や大きさ、形状等は特に限定されない。
【0010】
「ラジカル重合開始基」とは、光や熱、またはその他の電磁照射の条件下でラジカルを発生する官能基及び触媒等と反応してラジカルを発生する官能基であり、ラジカル重合の開始点となりうる官能基であれば、特に限定されない。例えば、アゾ基やパーオキシド基、非特許文献2に記載されているような、ヨウ素基など、さらには、非特許文献3に記載されているような、Nitroxide−Mediated Polymerization(NMP)の開始基となるニトロキシド基、非特許文献4に記載されているような、Reversible Addition−Fragmentation Polymerization(RAFT)の開始基となるチオエステル基、非特許文献5及び6に記載されているようなAtom Transfer Radical Polymerization(ATRP:原子移動ラジカル重合)の開始基となる、α−ハロエステル基、α−ハロケトン基、ハロゲン化スルホニル基、ベンジルハライド基などが挙げられ、生成するポリマー鎖の一次構造や鎖長を制御できるという観点から「リビングラジカル重合開始基」である、例えば、非特許文献2及び3、4、5、6に記載されている官能基が好ましく、さらに非特許文献5及び6に記載されているような「原子移動ラジカル重合開始基」である官能基がより好ましい。
【0011】
[非特許文献2]
Chem.Rev.2006,106,3936.
[非特許文献3]
Chem.Rev.2001,101,3661.
[非特許文献4]
Aust.J.Chem.2005,58,379.
[非特許文献5]
Chem.Rev.2001,101,2921.
[非特許文献6]
Chem.Rev.2001,101,3689.
【0012】
「リビングラジカル重合開始基」としては、特に限定されるわけではないが、例えば、ヨウ素基やニトロキシド基、チオエステル基、α−ハロエステル基、α−ハロケトン基、ハロゲン化スルホニル基、ベンジルハライド基などが挙げられる。
【0013】
「原子移動ラジカル重合開始基」としては、特に限定されるわけではないが、例えば、α−ハロエステル基、α−ハロケトン基、ハロゲン化スルホニル基、ベンジルハライド基などが挙げられる。
【0014】
「化学結合を介して導入されたラジカル重合開始基」における「化学結合」は、特に限定されるわけではなく、例えば、チタン酸塩(1)と(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基とを反応させることで形成される結合が挙げられ、好ましくは、チタン酸塩(1)とクロロシラン基、アルコキシシラン基、又はシラノール基とを反応させることで形成される結合が挙げられ、より好ましくはチタン酸塩(1)とアルコキシシラン基とを反応させることで形成される結合が挙げられる。尚、チタン酸塩(1)と反応させる官能基は一種類であってもよいし、二種類以上であってもよい。
【0015】
以下に、チタン酸塩(1)と(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基とを反応させることで形成される結合の例を概念図を用いて表わすが、これらに限定されるわけではない。
i)リン酸基の場合;

(Yは、ラジカル重合開始基を有する置換基、Zは、ヒドロキシル基又は置換されていてもよいリン酸エステル基を表わす。)

ii)カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基の場合;

(Yは、ラジカル重合開始基を有する置換基を表わす。)

iii)イソシアナート基の場合;

(Yは、ラジカル重合開始基を有する置換基を表わす。)

iv)クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基の場合;

(Yは、ラジカル重合開始基を有する置換基を表し、Z及びZは、同一又は相異なり、クロロ原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アルキル基又は置換されていてもよいシロキシ基を表わす。)
【0016】
「ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー」は、ラジカル重合により重合されるモノマーであれば、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、イソブテン、へキセン、ブタジエン、スチレンなどの炭素−炭素二重結合を有する炭化水素やメタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリドやN,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、4−ビニルピリジンなどが挙げられる。尚、これらのモノマーは一種類であってもよいし、二種類以上のものが重合されていてもよい。
【0017】
「ポリマー鎖」は、重合開始基を起点として、モノマーが10個以上重合されたものであれば特に限定されない。
【0018】
次に、チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、
及び
(b)ラジカル重合開始基
を有する化合物とを反応させることで、チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)
に関して述べる。
【0019】
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、及び(b)ラジカル重合開始基を有する化合物は特に限定されるわけではないが、例えば、
【0020】
4−クロロメチルフェニルホスホン酸、4−ブロモメチルフェニルホスホン酸、
2−クロロプロピオン酸、2−ブロモプロピオン酸、2−ヨードプロピオン酸、
2−クロロ−2−メチルプロピオン酸、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸、
【0021】
2−クロロプロピオニルクロリド、2−クロロプロピオニルブロミド、2−ブロモプロピオニルクロリド、2−ブロモプロピオニルブロミド、
2−クロロ−2−メチル−プロピオニルクロリド、2−クロロ−2−メチル−プロピオニルブロミド、2−ブロモ−2−メチル−プロピオニルクロリド、2−ブロモ−2−メチル−プロピオニルブロミド、
【0022】
トリクロロアセチルイソシアネート、
【0023】
2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリクロロシリル)ペンチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリクロロシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリクロロシリル)ブチル}、
【0024】
2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ブチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ペンチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(メチルジエトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(ジメチルエトキシシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、
4−{2−(トリメトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(トリエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(メチルジエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(ジメチルエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、
1−(クロロメチル)−4−(トリメトキシシリル)ベンゼン、1−(クロロメチル)−4−(トリエトキシシリル)ベンゼン、1−(ブロモメチル)−4−(トリメトキシシリル)ベンゼン、1−(ブロモメチル)−4−(トリエトキシシリル)ベンゼン、
【0025】
2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリヒドロキシシリル)ペンチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリヒドロキシシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリヒドロキシシリル)ブチル}、2−ブロモプロピオン酸{6−(トリヒドロキシシリル)へキシル}
等が挙げられ、
【0026】
2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ブチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ペンチル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(メチルジエトキシシリル)へキシル}、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(ジメチルエトキシシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリメトキシシリル)へキシル}、2−ヨード−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}、
4−{2−(トリメトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(トリエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(メチルジエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、4−{2−(ジメチルエトキシシリル)エチル}ベンゼンスルホニルクロリド、
1−(クロロメチル)−4−(トリメトキシシリル)ベンゼン、1−(クロロメチル)−4−(トリエトキシシリル)ベンゼン、1−(ブロモメチル)−4−(トリメトキシシリル)ベンゼン、1−(ブロモメチル)−4−(トリエトキシシリル)ベンゼン
等のアルコキシシリル基及びラジカル重合開始基を有する化合物が好ましい。
【0027】
チタン酸塩(1)と上記に示した(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、及び(b)ラジカル重合開始基を有する化合物との反応は、両者を接触させることにより実施される。
【0028】
接触させる際は、無溶媒でもよいが、通常、溶媒中で、両者を混合することにより実施される。溶媒としては、水、有機溶媒及び水と有機溶媒の混合溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert―ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒等が挙げられる。
【0029】
接触温度は、通常、−78〜200℃である。
必要に応じて、適当な添加物(例えば、酢酸などの酸やアンモニア水などの塩基等)の存在下に接触させてもよい。
尚、上記に示した(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、及び(b)ラジカル重合開始基を有する化合物の使用量は特に制限されない。
【0030】
得られた化合物は、例えば、濃縮やろ過、遠心分離することにより、取り出すことができる。取り出した化合物は、水や有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などで洗浄することでさらに精製してもよい。
【0031】
続いて、チタン酸塩(1)を
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、
及び
(b)ラジカル重合開始基
を有する化合物とを反応させることで、チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)を取得し、得られた化合物とラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーをラジカル重合させる工程に関して述べる。
【0032】
ラジカル重合としては、どのような重合方法であってもよいが、チタン酸塩表面に結合しているポリマー鎖の分子量が均一であることが好ましいことから、リビングラジカル重合が好ましく、非特許文献5及び6に記載されているような原子移動ラジカル重合がより好ましい。従って、原子移動ラジカル重合により反応可能なモノマーであれば特に限定はなく、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、4−ビニルピリジン、酢酸ビニル等が挙げられる。尚、これらのモノマーは一種類であってもよいし、二種類以上のものを用いてもよい。使用するモノマーの量は、特に限定されないが、化合物(2)に含まれる重合開始基に対して、通常、10モル倍から10000モル倍である。
【0033】
原子移動ラジカル重合に用いられる触媒としては、特に限定されないが、例えば、2価の銅、1価の銅、0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄、又は2価のニッケルの錯体が挙げられ、銅の錯体が好ましい。尚、これらの錯体は一種類であってもよいし、二種類以上のものを用いてもよい。
【0034】
銅の錯体は、塩化第二銅、臭化第二銅、塩化第一銅、臭化第一銅、又は銅粉などの銅化合物を用い、配位子を添加することにより得ることができる。
配位子としては、特に限定されないが、例えば、2,2−ビピリジル、その誘導体などのビピリジル系化合物、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’, N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミンなどが挙げられる。使用する配位子の量は、特に限定されないが、好ましくは、銅化合物の総量に対して、0.3モル倍〜5モル倍である。
【0035】
使用する銅化合物の総量は、化合物(2)に含まれる重合開始基に対して、通常0.0001〜100モル倍、好ましくは、0.001〜50モル倍である。
【0036】
原子移動ラジカル重合は、無溶媒で行ってもよいし、溶媒を使用してもよい。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert―ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテル等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒等が挙げられる。尚、これらの溶媒は一種類であってもよいし、二種類以上のものを用いてもよい。
【0037】
化合物(2)とモノマーを原子移動ラジカル重合させる温度は、通常−20℃〜200℃であり、好ましくは、0℃〜150℃である。
【0038】
重合終了後、未反応のモノマーや溶媒の留去、重合反応の懸濁液のろ過、又は懸濁液の遠心分離により、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物(A)と未反応のモノマーや溶媒とを分離することができる。得られたチタン酸塩化合物(A)は、適当な溶媒などで洗浄することでさらに精製してもよい。
【0039】
さらに、チタン酸塩化合物(A)と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物に関して述べる。
【0040】
樹脂の種類は、特に限定されないが、チタン酸塩化合物(A)におけるポリマー鎖と相溶するものが好ましく、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンが挙げられる。
【0041】
チタン酸塩化合物(A)と樹脂の割合は、特に限定されないが、通常、チタン酸塩化合物(A)におけるチタン酸塩の重量(すなわち、化学修飾されたポリマー鎖の重量を除いた重量)と樹脂の重量の割合は、1:99〜99:1の範囲である。
【0042】
チタン酸塩化合物(A)と樹脂の混合方法に関しても、特に限定されるわけではないが、例えば、直接混合する方法や混錬する方法、さらには、一旦溶媒を使用して混合させた後、溶媒を留去する方法等が挙げられる。
【0043】
尚、チタン酸塩化合物(A)と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形及びシート加工後の真空成形、圧縮成形などの方法を用いて成形加工することも可能である。

【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
[2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}の合成]
非特許文献7を参考にして合成した。
冷却装置を取り付けた反応容器に、室温で、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸−5−ヘキセン50.0g、トルエン625mLを加えた。得られた溶液へトリエトキシシラン184mLを滴下した。得られた混合物へ白金錯体(Aldrich製;platinum(0)−1,3−divinyl−1,1,3,3−tetramethyldisiloxane complex solution,0.10M in xylene)740μLを加えた後、室温で一晩攪拌した。その後、32℃で、反応溶液を濃縮し、さらに55℃で、3時間、減圧乾燥して、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}73.96gを得た。尚、ガスクロマトグラフィー分析により得られた面積百分率値は、91%であった。
[非特許文献7]
Macromolecules,2005,38,2137.
【0046】
[実施例2]
[チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)の合成;チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}の反応]
冷却装置を取り付けた反応容器に、室温で、チタン酸バリウム(BET比表面積6m/g(BET比表面積は、島津製作所製フローソーブII2300型によりBET1点法で測定した。))10.00g、エタノール35.2mL、28%アンモニア水21.1mLを加えた。得られた混合物を40℃で2時間攪拌した後、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)へキシル}3.52gをエタノール7.0mLに溶解させて得られた溶液を滴下した。滴下後、さらに、40℃で20時間攪拌した。その後、不溶部を遠心分離により回収し、エタノール100mLで2回、テトラヒドロフラン100mLで2回、クロロホルム100mLで2回洗浄した。得られた固体を60℃で、4時間、減圧乾燥して、チタン酸バリウムの表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物)8.93gを得た。
元素分析:C:0.3%、Br:0.12%
【0047】
[実施例3]
[チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)(チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物)からのメチルメタクリレートの原子移動ラジカル重合]
冷却装置を取り付けた反応容器に、室温で、実施例2で合成した「チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物;チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物」4.50g、臭化銅(I)1.94mg、銅紛1.77mg、アニソール2.20mL、N,N,N’,N’’, N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンのアニソール溶液0.202mL(0.40mol/L)、メチルメタクリレート4.33mLを加えて、室温で1分間攪拌し、さらに、90℃で8時間攪拌した。その後、不溶部を遠心分離により回収し、テトラヒドロフラン100mLで2回、クロロホルム100mLで2回洗浄した。得られた固体を60℃で、4時間、減圧乾燥して、ポリメチルメタクリレートで修飾されたチタン酸バリウム4.57gを得た。
元素分析:C:3.4%、Br:550ppm
【0048】
[実施例4]
[チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)(チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物)からのメチルメタクリレートの原子移動ラジカル重合]
冷却装置を取り付けた反応容器に、室温で、実施例2で合成した「チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物;チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物」4.00g、臭化銅(I)3.44mg、銅紛3.14mg、アニソール1.79mL、N,N,N’,N’’, N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンのアニソール溶液0.360mL(0.40mol/L)、メチルメタクリレート3.85mLを加えて、室温で1分間攪拌し、さらに、90℃で8時間攪拌した。その後、不溶部を遠心分離により回収し、テトラヒドロフラン100mLで2回、クロロホルム100mLで2回洗浄した。得られた固体を60℃で、4時間、減圧乾燥して、ポリメチルメタクリレートで修飾されたチタン酸バリウム4.38gを得た。
元素分析:C:8.9%、Br:340ppm
【0049】
[実施例5]
[チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)(チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物)からのスチレンの原子移動ラジカル重合]
冷却装置を取り付けた反応容器に、室温で、「チタン酸塩の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物;チタン酸バリウムと2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸{6−(トリエトキシシリル)ヘキシル}を反応させた化合物(元素分析:C:0.4%、Br:1300ppm)」10.00g、臭化銅(I)9.35mg、銅紛38.44mg、アニソール1.84mL、N,N,N’,N’’, N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンのアニソール溶液3.258mL(0.40mol/L)、スチレン11.21mLを加えて、室温で1分間攪拌し、さらに、90℃で4時間30分攪拌した。その後、不溶部を遠心分離により回収し、テトラヒドロフラン100mLで3回、クロロホルム100mLで3回洗浄した。得られた固体を60℃で、4時間、減圧乾燥して、ポリスチレンで修飾されたチタン酸バリウム14.01gを得た。
元素分析:C:27.7%、Br:490ppm
【0050】
[ガラス転移温度の測定]
【0051】
実施例3、4及びポリメチルメタクルレート(Aldrich製;Mw〜120,000)に関して、DSCを用いてガラス転移温度を測定した。(測定条件;昇温速度20℃/分)
【0052】
【表1】

ポリメチルメタクリレートで修飾されたチタン酸バリウムが、ポリメチルメタクリレート単独樹脂よりガラス転移温度が高くなり、耐熱性が向上していることが明らかである。
【0053】
[実施例6]
実施例5により得られたポリスチレンで修飾されたチタン酸バリウム4.79g、ポリスチレン(Aldrich製;Mw〜230,000)1.71gに添加し、小型混練機ミニラボ(ThermoHaake製)を用いて、200℃で20分間(回転数50rpm)溶融混練した。混練後、押し出し機により造粒し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、プレス成形機を用いて、温度200℃(予熱5分間、昇圧(15MPa)後3分間)でプレスした後、30℃で5分間冷却することで約100μm×150mm×150mmのプレスシートを得た。
得られたプレスシートを用い、引張試験を実施した。結果を表2に記載した。
【0054】
[比較例1]
実施例6において、ポリスチレンで修飾されたチタン酸バリウムの代わりに、チタン酸バリウム(BET比表面積6m/g(BET比表面積は、島津製作所製フローソーブII2300型によりBET1点法で測定した。))3.25g、ポリスチレン(Aldrich製;Mw〜230,000)3.25gを用いた以外は、実施例6と同様に実施した。
得られたプレスシートを用い、引張試験を実施した。結果を表2に記載した。
【0055】
[引張り試験の実施]
[引張試験条件]
引張試験条件;荷重フルスケール:20kgf、試験速度:5.0mm/min、初期試料長:40mm、環境温度:23℃、環境湿度:50%RH
【0056】
[引張試験結果]
【0057】
【表2】








ポリスチレンで修飾されたチタン酸バリウムが、破断点応力、破断点伸度ともに高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種類のチタン酸塩(以下、チタン酸塩(1)と略す場合もある。)の表面に化学結合を介して導入されたラジカル重合開始基を起点として、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーを重合させることで得られる、ポリマー鎖で化学修飾されたチタン酸塩化合物(A)(以下、チタン酸塩化合物(A)と略す場合もある。)。
【請求項2】
請求項1に記載のラジカル重合開始基が、リビングラジカル重合開始基である請求項1に記載のチタン酸塩化合物(A)。
【請求項3】
請求項1に記載のラジカル重合開始基が、原子移動ラジカル重合開始基である請求項1に記載のチタン酸塩化合物(A)。
【請求項4】
請求項1に記載の化学結合が、チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基
とを反応させることで形成される請求項1〜3のいずれかに記載のチタン酸塩化合物(A)。
【請求項5】
請求項1に記載の化学結合が、チタン酸塩(1)とアルコキシシリル基とを反応させることで形成される請求項1〜3のいずれかに記載のチタン酸塩化合物(A)。
【請求項6】
チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、
及び
(b)ラジカル重合開始基
を有する化合物とを反応させることで、チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)(以下、化合物(2)と略す場合もある。)。
【請求項7】
チタン酸塩(1)と
(a)リン酸基、カルボン酸基、酸ハライド基、酸無水物基、イソシアナート基、グリシジル基、クロロシラン基、アルコキシシリル基、シラノール基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の官能基、
及び
(b)ラジカル重合開始基
を有する化合物とを反応させることで、チタン酸塩(1)の表面に化学結合を介してラジカル重合開始基が導入された化合物(2)を取得し、得られた化合物(2)とラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーを重合させることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸塩化合物(A)の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のチタン酸塩化合物(A)と樹脂とを含むことを特徴とする樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−90272(P2010−90272A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261395(P2008−261395)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】