説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】
人体、環境にやさしい重合触媒を用いて、簡便かつ効率的に、ラクチドから開環重合によりポリ乳酸を製造する。
【課題解決手段】
A)下記一般式(1)
MgR・・・一般式(1)
(式中、R及びRは独立して炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を、Mgはマグネシウム金属原子を示す。)で表されるアルキルマグネシウム化合物と
B)下記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物、または下記一般式(3)で表されるカルシウム化合物
Mg(OR ・・・ 一般式(2)
Ca(OR ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基、アリール基、またはアシル基を示し、互いに同一または異なってよく、Rは互いに結合し環構造を形成してもよい。Mgはマグネシウム、Caはカルシウムを表す。)とをラクチドの開環重合触媒として用いることを特徴とするポリ乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸に代表される脂肪族ポリエステルは、優れた生分解性と生体適合性を示すことから、手術用縫合糸、注射薬用マイクロカプセル、骨片接合部材などの医薬、医療用分野で利用されている。中でも、ポリ乳酸は穀物や廃棄物を発酵させて得られる乳酸を原料とするため、従来の化石資源由来の合成ポリマーに替わる地球環境にやさしいグリーンプラスチックとして最も注目を集めており、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
ポリ乳酸の合成方法としては、乳酸を重縮合させる方法、またはラクチドを開環重合させる方法が広く知られている。前者の方法は平衡反応であり、反応に際し生成する副生成物である水を高温、減圧などの条件下で徹底的に除去しなければ実用的な高分子量のポリマーが得られない。一方、後者の方法は、副生成物を生成しないため高分子量のポリ乳酸の合成方法として有効である。
【0004】
開環重合によってポリ乳酸を工業的に製造するために有効な重合触媒として、オクチル酸スズ、アルミニウムイソプロポキサイドなどが広く知られている(非特許文献1)。
【0005】
オクチル酸スズは市販されており、種々の有機溶媒に可溶かつ空気中で安定であるなど取り扱いが容易である。また、触媒活性は非常に高く、一般的な溶融重合条件下(反応温度120−200℃)において数分〜数時間で重合が完了し、10万から100万の分子量のポリ乳酸を与える。
【0006】
しかしながら、オクチル酸スズは、FDA(Food and drug administration:アメリカ食品薬品局)に食品添加物として認められてはいるものの、得られたポリマーを医療用途などへ応用することを考慮すると、多くのスズ化合物に見られる毒性が懸念される。
【0007】
更には、得られたポリ乳酸中に残存するオクチル酸スズが、溶融成形(高温)時に、生成したポリ乳酸の解重合やエステル交換反応を引き起こすことが知られており、ポリ乳酸の熱安定性を低下させる要因となる。
【0008】
一方で、アルミニウムイソプロポキサイドは、オクチル酸スズ同様に、入手、取り扱いが容易であり、また、オクチル酸スズに見られるような溶融成形時の解重合のおそれがない。
【0009】
しかしながら、その触媒活性はオクチル酸スズに比べて極めて低く、一般的な溶融重合条件下(反応温度120−200℃)、反応時間数日においても得られるポリマーの分子量も10万以下と低いため実用的な使用は困難である(非特許文献2)。また、アルミニウム化合物においても、過剰摂取により、人体への影響が報告されているため、その毒性が懸念される。
【0010】
そのため、オクチル酸スズ同等の高い触媒活性を示し、かつ人体や環境にやさしい金属を用いた重合触媒が望まれており、最近は開環重合触媒としてマグネシウム化合物などを重合触媒として用いた例が報告されている。
【0011】
例えば、非特許文献3には、ジブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムクロリドを重合触媒として用いたラクチドの開環重合反応により、ポリ乳酸を製造する方法が開示されている。しかしながら、その触媒活性はオクチル酸スズに比べて極めて低く、一般的な溶融重合条件下(反応温度120℃)、反応時間数日においても得られるポリマーの分子量も2万前後と低いため実用的な使用は困難である。
【0012】
また、非特許文献4には、アミド−ビス(ピラゾリル)配位子を有するマグネシウム錯体を重合触媒として用い、ラクチドの開環重合反応によりポリ乳酸を製造する方法が開示されている。溶媒にテロラヒドロフランを用いる溶液重合で(反応温度20℃、反応時間1時間)、触媒活性は高いものの反応によって得られたポリ乳酸の重量平均分子量は約4万前後と低く、実用性に乏しい。また、触媒を別途調整する必要があり、コスト面、生産性の面で実用性に欠ける。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chemical Reviews Vol.104 No.12 2004 pp.6147−6176
【非特許文献2】Macromol. Symp. Vol.144 pp.289−302
【非特許文献3】Polymer Vol. 36 No.15 1995 pp.2995−3003
【非特許文献4】Polyhedron Vol. 26 2007 pp.3817−3824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のような事情を鑑み、本発明の課題は、人体および環境にやさしいグリーンな開環重合触媒でありながら、高い触媒活性を有するポリ乳酸製造用重合触媒を用いて、ポリ乳酸を短時間で高収率に製造し、毒性が少なく安全かつ熱安定性に優れるポリ乳酸組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、人体および環境にやさしいグリーンな開環重合触媒として、アルキルマグネシウム化合物と、マグネシウム化合物、またはカルシウム化合物からなる重合触媒を用いることにより、ラクチドの開環重合反応において、少ない触媒量で短時間に重合反応が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下にポリ乳酸の製造方法を提供する。
項1. ラクチドの開環重合反応において、
A)下記一般式(1)
MgR・・・一般式(1)
(式中、R及びRは独立して炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を、Mgはマグネシウム金属原子を示す。)で表されるアルキルマグネシウム化合物と
B)下記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物、または下記一般式(3)で表されるカルシウム化合物
Mg(OR ・・・ 一般式(2)
Ca(OR ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基、アリール基、またはアシル基を示し、互いに同一または異なってよく、Rは互いに結合し環構造を形成してもよい。Mgはマグネシウム、Caはカルシウムを表す。)とを開環重合触媒として用いることを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
項2. B)におけるマグネシウム化合物として、
マグネシウムメトキサイド、マグネシウムエトキサイド、マグネシウムジターシャリーブトキサイド、メトキシマグネシウムメチルカルボナート、マグネシウムアセチルアセトネート、マグネシウムビス(2−エチルへキサノエート)、アクリル酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、2-エチル酪酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、およびステアリン酸マグネシウムより選ばれる少なくとも一種の化合物を用いる項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
項3. B)におけるカルシウム化合物として、
カルシウムジメトキサイド、カルシウムエトキサイド、カルシウムジイソプロポキサイド、蟻酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ピルビン酸カルシウム、カルシウムジアセチルアセトネート、カルシウムジグリコラート、カルシウム2−エチルへキサノエート、カルシウムプロピオネート、カルシウムグルコネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)カルシウム、カルシウムパントテネート、カルシウムソルベート、トレオン酸カルシウム、ネオデカン酸カルシウム、およびステアリン酸カルシウムより選ばれる少なくとも一種の化合物を用いる項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
項4. 項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法によって得られるポリ乳酸を含有するポリ乳酸組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリ乳酸の製造方法を用いることにより、人体および環境にやさしいグリーンな金属化合物を開環重合触媒として用いて、少ない触媒量で短時間に重合反応が進行し、高い生産効率で安全性、熱安定性にも優れる高分子量のポリ乳酸を製造できる。
【0018】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で開環重合触媒として使用されるA)のアルキルマグネシウム化合物は、
MgR・・・一般式(1)
(式中、R及びRは独立して炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基、Mgはマグネシウム金属原子を示す。)で表される化合物である。
【0020】
上記一般式(1)中のR及びRで表されるアルキル基は、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1〜15の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基がさらに好ましい。また、式(1)中のR及びRで表されるアルキル基は、互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0021】
上記一般式(1)で表されるアルキルマグネシウム化合物としては、公知のアルキルマグネシウム化合物を制限無く使用できる。このようなアルキルマグネシウム化合物として、エチルブチルマグネシウム、ブチルペンチルマグネシウム、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジ-n-プロピルマグネシウム、ジイソプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジイソブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、およびジオクチルマグネシウムが好ましく。中でも、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジイソブチルマグネシウム、およびジブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウムがより好ましく、ジブチルマグネシウムが特に好ましい。これらは1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせても使用できる。
【0022】
本発明で開環重合触媒として使用されるB)のマグネシウム化合物、またはカルシウム化合物として、下記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物、または下記一般式(3)で表されるカルシウム化合物
Mg(OR ・・・ 一般式(2)
Ca(OR ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基、アリール基、またはアシル基を示し、互いに同一または異なってよく、Rは互いに結合し環構造を形成してもよい。Mgはマグネシウム、Caはカルシウムを表す。)を例示できる。これらの化合物は、それぞれを単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物として、具体的には、マグネシウムメトキサイド、マグネシウムエトキサイド、マグネシウムジターシャリーブトキサイド、メトキシマグネシウムメチルカルボナート、マグネシウムアセチルアセトネート、マグネシウムビス(2−エチルへキサノエート)、アクリル酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、2-エチル酪酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、およびステアリン酸マグネシウムなどを例示することができ、マグネシウムジメトキサイド、マグネシウムジエトキサイド、ステアリン酸マグネシウム、およびマグネシウムジアセチルアセトネートが好ましい。
【0024】
上記一般式(3)で表されるカルシウム化合物として、具体的には、カルシウムジメトキサイド、カルシウムエトキサイド、カルシウムジイソプロポキサイド、蟻酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ピルビン酸カルシウム、カルシウムジアセチルアセトネート、カルシウムジグリコラート、カルシウム2−エチルへキサノエート、カルシウムプロピオネート、カルシウムグルコネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)カルシウム、カルシウムパントテネート、カルシウムソルベート、トレオン酸カルシウム、ネオデカン酸カルシウム、およびステアリン酸カルシウムなどを例示することができ、カルシウムジメトキサイド、カルシウムエトキサイド、ステアリン酸カルシウム、およびカルシウムジアセチルアセトネートが好ましい。
【0025】
本発明で重合に使用することのできるラクチドは、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド、rac−ラクチドなどが挙げられる。反応には、これらを単独で、または2種以上を混合して用いても良い。また、ラクチドは合成乳酸または発酵より得られた乳酸を反応させることで得られるラクチドのいずれを反応に用いてもよい。ラクチドは、常温、常圧では固体状態であるが、90℃以上に加熱すると一部または全体が溶融状態となる。開環重合反応時のラクチドの状態に特に限定はないが、反応の均一性の観点から、溶融状態あるいは溶液状態であることが好ましい。溶融状態での重合には溶媒を使用しないため釜効率が高い。また、反応終了後の溶媒の除去が不要である。更に、溶液状態での重合に比べて反応速度が速い。一方、溶液状態での重合は低温での重合が可能となるため、熱的に不安定な触媒や添加物の存在下に重合を行うことが可能である。
【0026】
本発明において、開環重合反応は無溶媒で行ってもよく、反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの脂肪族飽和炭化水素類、メチレンクロリド、クロロホルムなどの含ハロゲン炭化水素類、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げることができ、重合温度に応じて適宜選択されるが、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、またはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの脂肪族飽和炭化水素類である。これらは1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用できる。有機溶媒を使用する場合の有機溶媒の使用量は、ラクチドの100重量部に対して、有機溶媒100〜1000重量部の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
触媒の使用量に関して、通常、ラクチド使用量に対して上記式(1)で表されるアルキルマグネシウム化合物は、0.00001〜5.0モル%の範囲内にあることが好ましく、0.00005〜1.0モル%の範囲内であることがより好ましく、0.0001〜1.0モル%の範囲内であることが特に好ましい。ラクチド使用量に対して、上記式(2)で表されるマグネシウム化合物、または上記式(3)で表されるカルシウム化合物は、0.00001〜5.0モル%の範囲内にあることが好ましく、0.00005〜1.0モル%の範囲内であることがより好ましく、0.0001〜1.0モル%の範囲内であることが特に好ましい。アルキルマグネシウム化合物とマグネシウム化合物、またはカルシウム化合物のモル比は、アルキルマグネシウム化合物の使用量に対してマグネシウム化合物、またはカルシウム化合物は、0.1〜10当量の範囲にあることが好ましく、0.1〜5当量の範囲にあることがより好ましい。
【0028】
反応温度は、特に限定されるものではないが、通常20℃〜200℃の範囲内にある。また、溶融状態のラクチドを重合する場合の温度は、100〜200℃の範囲が好ましく、120〜200℃がより好ましい。重合反応は通常撹拌下で行われる。反応時間は、通常1分〜12時間の範囲にあることが好ましく、10分〜8時間の範囲にあることがより好ましい。
【0029】
反応に用いる各成分の混合順序は特に限定されず、例えば、ラクチド、有機溶媒、マグネシウム化合物、またはカルシウム化合物、アルキルマグネシウム化合物を同時に反応容器中に添加し、反応を行っても良い。但し、溶融重合においては、反応の均一性の観点から、ラクチドを反応容器中に添加し加熱を行い、ラクチドが溶融状態になった時点でマグネシウム化合物、またはカルシウム化合物とアルキルマグネシウム化合物を添加することが好ましい。また、操作の簡便性を考慮すると、ラクチドとマグネシウム化合物、またはカルシウム化合物を反応容器中に添加し加熱を行い、ラクチドが溶融状態になった時点でアルキルマグネシウム化合物を添加することが好ましい。
【0030】
本発明に記載の開環重合反応によって得られるポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万である。
【0031】
本発明の製造方法で得られたポリ乳酸は、用途に応じて適宜必要な添加剤を加えて、ポリ乳酸組成物として用いてもよい。具体的には、ポリ乳酸組成物は本発明の製造方法で得られたポリ乳酸とともに、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、各種フィラー、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗かび剤、核形成剤、染料、顔料を含む着色剤を所望に応じて含有することができる。
【0032】
本発明の製造方法で得られたポリ乳酸を用いて、射出成形品、押出成形品、真空・圧空成形品、ブロー成形品、フィルム、シート不織布、繊維、布、他の材料との複合体、農業用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品またはその他の成形品を得ることができ、成形は常法により行うことができる。
【0033】
実施例
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
L−ラクチド10.0g(69mmol)、マグネシウムジアセチルアセトネート15.4mg(69μmol)、回転子をシュレンク菅に入れ、1時間真空乾燥後、窒素置換を行った。次いで、窒素雰囲気下で140℃に加熱し、L−ラクチドの溶融を確認後、1Mジブチルマグネシウム・ヘプタン溶液100μL(100μmol)を加え、重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0035】
[実施例2]
加熱温度を140℃から120℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0036】
[実施例3]
1Mジブチルマグネシウム・ヘプタン溶液の使用量を50μL(50μmol)に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0037】
[実施例4]
1Mジブチルマグネシウム・ヘプタン溶液の使用量を200μL(200μmol)に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0038】
[実施例5]
マグネシウムジアセチルアセトネート15.4mg(69μmol)をカルシウムジアセチルアセトネート16.5mg(69μmol)に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0039】
[実施例6]
L−ラクチドをD−ラクチドに変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0040】
[実施例7]
L−ラクチドをD−ラクチドに変更した点を除いて、実施例2と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0041】
[実施例8]
L−ラクチドをD−ラクチドに変更した点を除いて、実施例5と同様の手順で重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0042】
[比較例1]
L−ラクチド10.0g(69mmol)、回転子をシュレンク菅に入れ、1時間真空乾燥後、窒素置換を行った。次いで、窒素雰囲気下で140℃に加熱し、L−ラクチドの溶融を確認し、1Mジブチルマグネシウム/ヘプタン溶液100μL(100μmol)を加え、重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0043】
[比較例2]
L−ラクチド10.0g(69mmol)、マグネシウムジアセチルアセトネート15.4mg(69μmol)、回転子をシュレンク菅に入れ、1時間真空乾燥、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で140℃に加熱し、L−ラクチドの溶融を確認し、重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0044】
[比較例3]
L−ラクチド10.0g(69mmol)、カルシウムジアセチルアセトネート16.5mg(69μmol)、回転子をシュレンク菅に入れ、1時間真空乾燥、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で140℃に加熱し、L−ラクチドの溶融を確認し、重合反応を6時間行った。シュレンク菅底に重合体が生成した。
【0045】
[重合体の評価]
得られた重合体は放冷した後、クロロホルム100mLに溶解させ、メタノール1Lを用いて沈殿させ回収を行い、60度で3時間真空乾燥し、重量を測定して収量(収率)を求めた。また、得られた重合体は、テトラヒドロフランに溶解し、島津ゲルパーミエーションクロマトグラフィーシステムを用いて、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した。これらの評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の実施例から明らかなように、アルキルマグネシウム化合物と、マグネシウム化合物またはカルシウム化合物からなる重合触媒を用い、ラクチドの開環重合を実施することで、短時間で重合体収率、得られた重合体の分子量が共に高い値を示した。
【0048】
これに対し、アルキルマグネシウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物それぞれを単独で重合触媒に用いた比較例においては、得られた重合体の分子量が低く、かつ低収率であることが分かる。
【0049】
上記結果から、アルキルマグネシウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物それぞれを単独ではなく、アルキルマグネシウム化合物と、マグネシウム化合物またはカルシウム化合物からなる重合触媒を用いることで、短時間で重合体収率が高く、かつ、重合体の分子量が高いポリ乳酸を製造することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法を用いれば、衣料用、日用生活用、医薬品材料用、医療材料用、および農業、漁業、建築、土木などの産業資材用などに有効なポリ乳酸を効率よく、かつ容易に製造することが出来るので、産業界、および環境問題の解決に寄与するところが非常に大きい。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチドの開環重合反応において、
A)下記一般式(1)
MgR・・・一般式(1)
(式中、R及びRは独立して炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を、Mgはマグネシウム金属原子を示す。)で表されるアルキルマグネシウム化合物と
B)下記一般式(2)で表されるマグネシウム化合物、または下記一般式(3)で表されるカルシウム化合物
Mg(OR ・・・ 一般式(2)
Ca(OR ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基、アリール基、またはアシル基を示し、互いに同一または異なってよく、Rは互いに結合し環構造を形成してもよい。Mgはマグネシウム、Caはカルシウムを表す。)とを開環重合触媒として用いることを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
B)におけるマグネシウム化合物として、
マグネシウムメトキサイド、マグネシウムエトキサイド、マグネシウムジターシャリーブトキサイド、メトキシマグネシウムメチルカルボナート、マグネシウムアセチルアセトネート、マグネシウムビス(2−エチルへキサノエート)、アクリル酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、2-エチル酪酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、およびステアリン酸マグネシウムより選ばれる少なくとも一種の金属化合物を用いる請求項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
B)におけるカルシウム化合物として、
カルシウムジメトキサイド、カルシウムエトキサイド、カルシウムジイソプロポキサイド、蟻酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ピルビン酸カルシウム、カルシウムジアセチルアセトネート、カルシウムジグリコラート、カルシウム2−エチルへキサノエート、カルシウムプロピオネート、カルシウムグルコネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)カルシウム、カルシウムパントテネート、カルシウムソルベート、トレオン酸カルシウム、ネオデカン酸カルシウム、およびステアリン酸カルシウムより選ばれる少なくとも一種の金属化合物を用いる請求項1に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸の製造方法によって得られるポリ乳酸を含有するポリ乳酸組成物。

【公開番号】特開2011−111461(P2011−111461A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265839(P2009−265839)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】