説明

ポリ乳酸及びその製造方法

【課題】例えば甲殻類の殻等を原料として利用でき、食物と競合せずに製造できるポリ乳酸及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】第1分解工程と第2分解工程と重合工程とを行うことによりポリ乳酸を製造する。第1分解工程においては、キチンを含有する多糖類材料を含む培地に、キチン分解能を有する微生物を接種し、キチンを分解させてN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを得る。第2分解工程においては、N−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを含む培地に、N−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を接種し、N−アセチルグルコサミンを分解して乳酸を得る。重合工程においては、第2分解工程後に得られる乳酸を重合させてポリ乳酸を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キチンを含有する多糖類材料から製造できるポリ乳酸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、燃焼時のCO2の発生量が少なく、また燃焼時にNOx、SOx、ダイオキシン、塩化水素等の有害ガスを発生せず、さらにコンポスト又は土中等の自然環境下で生分解させることができるため、環境負荷の小さなプラスチック材料として注目を集めている。また、ポリ乳酸は、トウモロコシ等の食用植物を原料として製造することができる。
【0003】
しかし、トウモロコシ等の食用植物からポリ乳酸を製造すると、原料が食物と競合してしまう。その結果、食料価格の高騰化を招くおそれがあった。
したがって、食物以外の材料から有用なポリ乳酸を製造する方法が望まれていた。
【0004】
ところで、カニやエビ等の甲殻類の殻は、用途がほとんどなく、大量に廃棄されていた。近年、かかる甲殻類の殻等についてもその再利用方法が検討されてきた。
例えば甲殻類に含まれるキチンからオリゴ糖を製造する方法が開発されている(特許文献1参照)。また、キチン等の多糖類材料の表面を改質して酸化多糖類材料を得る方法が開発されている(特許文献2参照)。
しかしながら、大量に廃棄される殻などの有効利用のため、さらなる再利用方法が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平5−7496号公報
【特許文献2】特開2003−183302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、例えば甲殻類の殻等を原料として利用でき、食物と競合せずに製造できるポリ乳酸及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、キチンを含有する多糖類材料を含む培地に、キチン分解能を有する微生物を接種し、キチンを分解させてN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを得る第1分解工程と、
該第1分解工程後に得られるN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを含む培地に、N−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を接種し、N−アセチルグルコサミンを分解して乳酸を得る第2分解工程と、
第2分解工程後に得られる乳酸を重合させてポリ乳酸を得る重合工程とを有することを特徴とするポリ乳酸の製造方法にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリ乳酸にある(請求項4)。
【0009】
上記第1の発明の製造方法においては、上記第1分解工程と、上記第2分解工程と、上記重合工程とを行うことにより、キチンを含有する多糖類材料から、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及び/又はそのオリゴマーと乳酸を経てポリ乳酸を得ることができる。キチンを含有する多糖類材料としては、介形虫又は甲殻類の殻等を採用することができるため、本発明の製造方法によれば、従来のトウモロコシ等ように食物と競合せずにポリ乳酸を製造することができる。
【0010】
また、上記のごとく、上記多糖類材料として、無尽蔵に生息する介形虫、又は用途がほとんどなく大量に廃棄されていた甲殻類の殻等を採用することができるため、これらを有効利用することができる。
【0011】
以上のように、本発明によれば、例えば甲殻類の殻等を原料として利用でき、食物と競合せずに製造できるポリ乳酸及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記第1分解工程においては、キチンを含有する多糖類材料を含む培地に、キチン分解能を有する微生物を接種し、キチンを分解させてN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを得る。
上記多糖類材料として、甲殻類又は介形虫の殻を採用することが好ましい(請求項2)。
この場合には、従来大量に廃棄されていた甲殻類又は無尽蔵に生息する介形虫の殻を有効利用することができる。また、低コストで原料を調達できるため、ポリ乳酸の製造コストを低減することができる。甲殻類又は介形虫の殻としては、例えばこれらを粉砕した粉末を採用することができる。
また、上記多糖類材料としては、甲殻類又は介形虫の殻から抽出されたキチンを用いることもできる。
【0013】
また、上記第1分解工程の前に、上記多糖類材料をアルカリ及び酸にそれぞれ浸漬する前処理工程を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、キチンの分解率を向上させ、N−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーの収率を高くすることができる。アルカリとしては、例えば濃度20wt%以下、より好ましくは15wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下の水酸化ナトリウム水溶液(希水酸化ナトリウム水溶液)、水酸化カリウム水溶液(希水酸化カリウム水溶液)等を用いることができる。また、酸としては、例えば濃度20wt%以下、より好ましくは15wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下の塩酸(希塩酸)、硫酸(希硫酸)、硝酸(希硝酸)等を用いることができる。
【0014】
キチン分解能を有する微生物としては、例えばキチナーゼを分泌する微生物を用いることができる。具体的には、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニィフォルミス(Bacillus lichenifomis)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・アシドフィラス(Bacillus acidophilus)、ムコール・ルキシー(Mucor rouxii)、ムコール・ミィフィ(Mucor miehei)、アエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、ストレプトマイセス・オリエンタリス(Streptomyces orientaris)、ストレプトマイセス・フィリカタス(Streptomyces plicatus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・オリバシオビリディス(Streptomyces olivaceoviridis)、ストレプトマイセス・グリソイス(Streptomyces griseus)、セラチオ・マルシセンス(Serratia marcesens)、ビブリオ・アングイラリュム(Vibrio anguillarum)、シュードモナス・アエロギネサ(Pseudomonas aeruginasa)、コレトトリチューム・リンデムサニューム(Colletotrichum lindemuthan)、コレトトリチューム・ラジナリューム(Colletotrichum lagenarium)、及びノカディオフィスィス・アルバス(Nocardiopsis albus)等を採用することができる。微生物としては、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
上記第1分解工程においては、甲殻類の殻等の上記多糖類材料と、キチン分解能を有する微生物の成育に必要な各種栄養源とを含む培地に、微生物を接種し該微生物の至適条件で培養を行うことができる。
【0016】
上記第2分解工程においては、N−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを含む培地に、N−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を接種し、N−アセチルグルコサミンを分解して乳酸を得る。
上記第2分解工程においては、N−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーと、乳酸菌の生育に必要な各種栄養源とを含む培地に、乳酸菌を接種し、乳酸菌の至適条件で培養を行うことができる。これにより乳酸を得ることができる。
【0017】
また、キチン分解能を有する微生物、及びN−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を培養するための培地(培養液)としては、両者が生育できる栄養条件の培地を採用することもできるし、それぞれの菌が最適な栄養条件で生育できることなる培地を採用することもできる。両者が生育できる栄養条件の培地を用いる場合には、第1分解工程後に培地を変更することなく、第2分解工程を行うことができる。
【0018】
また、第1分解工程後には、該第1分解工程において用いたキチン分解能を有する微生物を滅菌により死滅させ、その後乳酸菌を接種(第2分解工程)することができる。また、滅菌を行わずに、第1分解工程後にそのまま乳酸菌を接種(第2分解工程)することもできる。
【0019】
次いで、重合工程においては、乳酸を重合させてポリ乳酸を得る。
乳酸からポリ乳酸を得る方法としては、本出願までに公知の方法を採用することができる。
具体的には、例えばラクチド法により、乳酸からポリ乳酸を得ることができる。
即ち、乳酸を加熱脱水重合することにより、低分子量のポリ乳酸(オリゴマー)を製造し、このオリゴマーを減圧下で加熱分解することにより乳酸の環状二量体であるラクチドを製造する。次いで、金属塩の触媒存在下でラクチドを重合させてポリ乳酸を製造する。
【0020】
また、直接重合法によりポリ乳酸を得ることもできる。
即ち、ジフェニルエーテル等の溶媒中で乳酸を減圧下で加熱し、水を取り除きながら重合させることにより、乳酸から直接ポリ乳酸を製造することができる。
また、ラクチド法、直接重合法以外にも、溶融法等によってポリ乳酸を得ることができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の実施例につき、説明する。
本例においては、第1分解工程と第2分解工程と重合工程とを行うことによりポリ乳酸を製造する。
第1分解工程においては、キチンを含有する多糖類材料を含む培地に、キチン分解能を有する微生物を接種し、キチンを分解させてN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを得る。
第2分解工程においては、N−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを含む培地に、N−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を接種し、N−アセチルグルコサミンを分解して乳酸を得る。
重合工程においては、第2分解工程後に得られる乳酸を重合させてポリ乳酸を得る。
【0022】
以下、詳細に説明する。
まず、多糖類材料として甲殻類の殻の粉砕物を準備し、この多糖類材料に対して次の前処理工程を行った。
即ち、多糖類材料を希水酸化ナトリウム水溶液と希塩酸水溶液にそれぞれ浸漬した。浸漬は、室温条件下で2〜3時間行った。
【0023】
次に、キチン分解能を有する微生物として、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)を準備した。この微生物が成育する最適な培地(液体培地)を調整し、この培地に対して、前処理工程後の多糖類材料を混合した。この多糖類材料を含む培地に、前培養したアスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)を接種し、培養した。これにより、培地中のキチンが分解されN−アセチルグルコサミンが生成する。
【0024】
次いで、液体培地をろ過し、不要な成分を除去し、さらに滅菌を行ってアスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)を死滅させた。
次に、この培地に、乳酸に必要な栄養源をさらに加えて、乳酸菌用の培養液を作製した。この培地に乳酸菌を接種し、緩やかな撹拌を行いつつ培養した。
【0025】
次に、培養液から乳酸を得るため、以下の要領で乳酸の精製を行った。即ち、培養液から菌を含む固形分を除いた後、分離濃縮型イオン交換膜を使用した電気透析を行った。これにより、得られた濃縮液をキレート樹脂と接触させた後、水分解膜により電気透析を行い乳酸を分離した。
【0026】
次に、以下のようにして、ラクチド法により乳酸からポリ乳酸を作製した。
具体的には、乳酸を加熱脱水重合し、低分子量のポリ乳酸(オリゴマー)を得た。この低分子量のポリ乳酸(オリゴマー)をさらに減圧下で加熱分解した。これにより、乳酸の環状二量体であるラクチドを得た。次いで、ラクチドを、金属塩の触媒存在下で重合させて、ポリ乳酸を得た。
以上のようにしてポリ乳酸を得た。
【0027】
このように、本例によれば、甲殻類の殻からポリ乳酸を製造することができ、食物と競合せずにポリ乳酸を製造することができる。また、従来ほとんど用途のなかった甲殻類の殻等を有効利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンを含有する多糖類材料を含む培地に、キチン分解能を有する微生物を接種し、キチンを分解させてN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを得る第1分解工程と、
該第1分解工程後に得られるN−アセチルグルコサミン及び/又はそのオリゴマーを含む培地に、N−アセチルグルコサミン分解能を有する乳酸菌を接種し、N−アセチルグルコサミンを分解して乳酸を得る第2分解工程と、
第2分解工程後に得られる乳酸を重合させてポリ乳酸を得る重合工程とを有することを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記多糖類材料として、甲殻類又は介形虫の殻を採用することを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記第1分解工程の前に、上記多糖類材料をアルカリ及び酸にそれぞれ浸漬する前処理工程を行うことを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリ乳酸。

【公開番号】特開2009−256445(P2009−256445A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106321(P2008−106321)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】