説明

ポリ乳酸含有樹脂組成物、ポリ乳酸含有樹脂フィルム及び樹脂繊維

【課題】柔軟性及び伸び特性に優れるとともに、ブリードアウトの発生を抑制でき、所望とする優れた柔軟性を得ることのできるポリ乳酸含有樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とする(メタ)アクリル樹脂(B)とを有し、(メタ)アクリル樹脂(B)は、分子量が30,000より大きく、ガラス転移点が10℃以下である(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)を含み、そしてポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)とが微細な相分離構造を形成しているように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸含有樹脂組成物に関し、さらに詳しく述べると、柔軟性及び伸び特性に優れたポリ乳酸含有樹脂組成物に関する。本発明はまた、かかるポリ乳酸含有樹脂組成物から形成されるポリ乳酸含有の樹脂フィルムもしくは樹脂繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、土に還ることが可能な生分解性のプラスチック材料として広く知られている。ポリ乳酸はまた、「石油由来」ではなく、育てることが可能な「植物由来」の再生可能な資源でもあるので、近年注目を集めている。さらに、ポリ乳酸は炭素循環型プラスチックとも呼ばれているが、これは、トウモロコシやジャガイモなどの植物から得られた乳酸を原料として製造され、また、使用の完了後、生分解もしくは焼却によって再び水と二酸化炭素に戻ることができるからである。
【0003】
ところで、ポリ乳酸は、透明性に優れ、室温における機械的強度は同じくエステル系のプラスチック材料であるポリエチレンテレフタレートに近く、しかも加熱成形性に優れるので、日常生活用途の汎用プラスチック材料への仲間入りが期待されている。しかし、ポリ乳酸は性能面で抱えている課題が依然として多いので、耐熱性、脆性、柔軟性等のいくつかの性能が改良されれば、工業的用途の展開を図るうえで大きな突破口になると考えられる。
【0004】
現在、上記のような課題を解決する方法として、ポリ乳酸に対して柔軟性を付与する方法がいくつか提案されている。
【0005】
一つの方法として、ポリ乳酸の骨格に他の脂肪族のエステル成分やエーテル成分、カーボネート成分を共重合によって導入し、柔軟性を付与する方法があるが、経済的観点からコストがかかりすぎる。
【0006】
別の方法として、低分子量の可塑剤(例えば、ポリエチレングリコール)をポリ乳酸に添加する方法もある。しかし、可塑剤を添加した場合には、その可塑剤が表面にブリードアウト(析出)し、ベタベタした粘着性表面が生じるという問題がある。
【0007】
これらの問題点を解決するため、ガラス転移点(Tg)の比較的低いポリマーをポリ乳酸に添加する方法が最近提案されている。具体的には、例えば特許文献1は、(a)ポリ乳酸と、(b)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分として含有し、ガラス転移点が10℃以下である重合体を含有してなり、重合体(b)の重量平均分子量が30,000以下であるポリ乳酸含有樹脂組成物を記載している。また、特許文献2は、(a)ポリ乳酸と、(b)次式(III)で表される構成単位を有するアクリル酸アルキルエステル系オリゴマー:
【0008】
【化1】

【0009】
(上式において、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を示す)を含むことを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物を記載している。しかしながら、これらの特許文献に記載されているポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸に添加されるアクリル重合体の分子量がそれほど高くないことに起因し、ブリードアウトを生じ易い。
【0010】
また、上記のようなポリ乳酸樹脂組成物において、アルキル基の炭素数が4以上でありかつ低いガラス転移点を有するアクリル酸アルキルエステル系ポリマーをポリ乳酸に対して添加したとすると、両者の混和性が低下し、粗大な相分離構造が顕著になる。結果、均質な混合物が得られず、オリゴマーのブリードアウト等が生じ、実使用に耐えることができない。
【0011】
【特許文献1】特開2003−286401号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−10842号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、柔軟性及び伸び特性に優れるとともに、ブリードアウトの発生を抑制でき、所望の柔軟性を付与することのできるポリ乳酸含有樹脂組成物を提供することである。
【0013】
また、本発明の別の課題は、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れたポリ乳酸含有の樹脂フィルムもしくは樹脂繊維を提供することである。
【0014】
本発明の上記した課題やその他の課題は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とする、分子量が30,000より大きく、ガラス転移点が10℃以下である(メタ)アクリル樹脂(B)とを有し、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)とが微細な相分離構造を形成していることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物である。
【0016】
ここで、本発明の一の態様のポリ乳酸含有樹脂組成物では、(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)を含む。また、本発明の別の態様のポリ乳酸含有樹脂組成物では、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)に加えて、ポリ乳酸と(メタ)アクリル重合体のブロック共重合体(C)を含む。
【0017】
さらに、本発明は、そのもう一つの態様において、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物をシート状に加工したことを特徴とするポリ乳酸含有樹脂フィルムにある。
【0018】
さらにまた、本発明は、そのもう一つの態様において、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物を繊維状に加工したことを特徴とするポリ乳酸含有樹脂繊維にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、第1のポリマー成分であるポリ乳酸(A)に(メタ)アクリル樹脂(B)を第2のポリマー成分として添加することで、ポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸に固有の性能である透明性、引張り強度等の機械的強度、加熱成形性などを損なうことなく、優れた柔軟性及び伸び特性を得ることができる。また、このポリ乳酸含有樹脂組成物において、(メタ)アクリル樹脂(B)は、柔軟性及び伸び特性を向上させる効果があるばかりでなく、樹脂組成物から染み出すこともないので、従来の技術で大きな問題であったブリードアウトの発生を抑制することができる。このポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)に(メタ)アクリル樹脂(B)が分散した相分離構造を有しているが、(メタ)アクリル樹脂(B)が(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)を含むか、もしくは、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を含むことで、微細な相分離構造を保つことができるので、上記柔軟性及びブリードアウトの抑制効果を安定に維持できる。
【0020】
さらに、本発明によれば、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物を原料として使用することで、透明性、引張り強度、柔軟性、伸び特性等の機械的強度などに優れた、植物由来の成分を主成分とする再生可能な樹脂フィルムや樹脂繊維を提供することができる。従来のポリ乳酸含有樹脂フィルムの使用は、柔軟性を必要とされない食品包装材などの用途に限られていたが、本発明による樹脂フィルムは柔軟性や伸び特性に優れるので、特に三次元追従性が求められるような各種の用途において有利に使用することができる。例えば、本発明のポリ乳酸含有樹脂フィルムは、それを基材として使用して、その基材の片面に粘着剤層を設け、必要ならば他方の面に印刷層、トップコート層などの任意の層を施すなどとして、壁材、装飾フィルムなどとして有利に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明によるポリ乳酸含有樹脂組成物ならびにポリ乳酸含有の樹脂フィルム及び樹脂繊維は、それぞれ、いろいろな形態で有利に実施することができる。以下、これらの形態のいくつかについて詳細に説明するが、本発明は、下記の形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明は、その1つの面において、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とし、かつガラス転移点(Tg)が10℃以下である(メタ)アクリル樹脂(B)とを有するポリ乳酸含有樹脂組成物(以下、第1のポリ乳酸含有樹脂組成物ともいう)にある。このポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)が微細な相分離構造を形成していることを特徴としている。この微細な相分離構造とは、いわゆる「海島構造」を有し、ポリ乳酸(A)のマトリックス(海)中に(メタ)アクリル樹脂(B)の微粒体(島)が略均一に分散された構造をもつか、さもなければ、それとは反対に、ポリ乳酸(A)の微粒体(島)が(メタ)アクリル樹脂(B)のマトリックス中に略均一に分散された構造をもつ。なお、「微粒体」とは、形状は特に限定されないが、約50μm以下の平均粒径を有する微細な粒子であり、好ましくは約25μm以下の平均粒径を有する微細な粒子であり、さらに好ましくは、約10μm以下、より好ましくは約1μm以下の平均粒径を有することができる。なお、ここでは、「平均粒径」とは、TEM(透過型電子顕微鏡)写真より各粒子の長径(長軸径)、すなわち最大長さを求め、その相加平均をとったものをいう。一般に相分離を生じるような添加剤をポリ乳酸に添加した場合、添加剤がブリードアウトしやすいが、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物のように、ポリ乳酸と添加剤が微細な相分離構造を形成する場合は、ブリードアウトを抑制できる。
【0023】
本発明の第1のポリ乳酸含有樹脂組成物において、第1のポリマー成分として使用されるポリ乳酸(A)は、特に限定されるものではない。ポリ乳酸(A)は、構成単位がL−乳酸のみからなるポリ(L−乳酸)、D−乳酸のみからなるポリ(D−乳酸)、L−乳酸単位とD−乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(D/L−乳酸)などを包含する。また、ポリ乳酸として、L−又はD−乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等とのコポリマーを使用することもできる。これらのポリ乳酸は、単独で使用してもよく、2種類以上のポリ乳酸を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明に用いるポリ乳酸(A)は、L−乳酸、D−乳酸、またはD/L−乳酸を直接脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドを開環重合する方法によっても製造することができる。開環重合は、高級アルコール、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基を有する化合物の存在下で行ってもよい。乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸コポリマーは、乳酸と上記ヒドロキシカルボン酸を脱水重縮合する方法により製造することができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドと上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状体を開環共重合する方法によっても製造することができる。なお、これらのポリ乳酸や下記のポリ乳酸の製造において、必要ならば、特開2003−286401号公報及び特開2004−10842号公報(前出)に記載された方法などを使用してもよい。
【0025】
本発明の実施において、必要ならば、ポリ乳酸(A)は、構成単位として、乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位を含む脂肪族ポリエステル樹脂、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールの脂肪族ポリエステル樹脂、乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂などを使用してもよい。かかるポリエステル樹脂の製造に用いる脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等及びこれらの無水物が挙げられる。これらの脂肪族多価カルボン酸は、酸無水物であっても、酸無水物との混合物であってもよい。
【0026】
また、脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0027】
乳酸単位、脂肪族多価カルボン酸単位及び脂肪族多価アルコール単位からなる脂肪族ポリエステル樹脂は、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー等を反応する方法や上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと、乳酸を反応する方法により製造できる。また、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールと乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類等を反応する方法によっても製造することができる。また、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールの脂肪族ポリエステル樹脂は、上記脂肪族多価カルボン酸及び上記脂肪族多価アルコールを反応する方法により製造できる。
【0028】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂の製造に用いる多官能多糖類としては、例えば、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、セロハン(登録商標)、ビスコースレーヨン、キュプラ等の再生セルロース、ヘミセルロース、デンプン、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、ペクチン、キチン、キトサン等及びこれらの混合物及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの多官能多糖類のうちで、特に酢酸セルロース、エチルセルロースが好ましい。
【0029】
乳酸単位及び多官能多糖類を含む脂肪族ポリエステル樹脂は、上記多官能多糖類と乳酸またはポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー等を反応する方法により製造することができ、また、上記多官能多糖類と乳酸の環状2量体であるラクチドや上記ヒドロキシカルボン酸の環状エステル類等を反応する方法によっても製造することができる。
【0030】
本発明の第1のポリ乳酸含有樹脂組成物には、上記した種々のポリ乳酸、換言すると、種々の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられるが、特にポリ乳酸のホモポリマー、乳酸どうしのコポリマー、乳酸と乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー(透明性が要求される場合、乳酸成分を重量比で50%以上含むものが好ましい)、乳酸と脂肪族多価カルボン酸及び脂肪族多価アルコールからなる脂肪族ポリエステル樹脂(透明性が要求される場合、乳酸成分が重量比で50%以上含むものが好ましい)等の乳酸成分を含むものが好適に用いられる。
【0031】
本発明の実施において、上記したようなポリ乳酸(A)は、ポリ乳酸含有樹脂組成物から成形される各種の成形物に所望の物性などに応じていろいろな分子量で使用することができる。すなわち、本発明に使用するポリ乳酸の分子量は、容器、フィルム、シート、板等の成形物に成形した場合、実質的に十分な機械的物性が得られ、かつ本発明に所望の上記したような効果が得られる限り、特に制限されるものではない。分子量が低いと得られる成形物の強度が低下し、分解速度が速くなり、反対に分子量が高いと加工性が低下し、成形が困難となることを考慮すると、本発明に使用するポリ乳酸の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した重量平均分子量で表して、約10,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは約50,000〜2,000,000の範囲であり、さらに好ましく約70,000〜1,000,000の範囲であり、最も好ましくは約90,000〜500,000の範囲である。ここで、本発明で最も重要視しているフィルム又はシートの形の成形物の場合、得られる成形物の伸び特性を考慮すると、ポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは約10,000以上であり、より好ましくは約50,000以上である。重量平均分子量の上限は、フィルム又はシートの成形加工が可能である範囲で特に限定されるわけではないけれども、通常約2,000,000以下である。したがって、フィルム又はシートの形の成形物を意図する場合、ポリ乳酸の重量平均分子量は、通常、約10,000〜2,000,000範囲である。
【0032】
本発明の第1のポリ乳酸含有樹脂組成物において、第2のポリマー成分として使用される(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とし、かつガラス転移点(Tg)が10℃以下であるアクリル樹脂である。特に(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする分子主鎖に、約2000以上の分子量を有するポリ乳酸がグラフト鎖(分岐鎖)として枝状に結合した(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)であることが好ましい。ポリ乳酸からなるグラフト鎖は、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の相分離構造が粗大化するのを防止する役割を奏することができる。
【0033】
(メタ)アクリル樹脂(B)において、その主成分として含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位は、いろいろなエステル構造を有することができるが、好ましくは、次式(I)によって表される。
【0034】
【化2】

【0035】
上式において、Rは、水素原子又はメチル基であり、そしてRは、約1〜12個の炭素原子、好ましくは約1〜8個の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基などである。これらのアルキル基は、必要ならば、任意の置換基で置換されていてもよい。
【0036】
(メタ)アクリル樹脂(B)の形成において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で使用してもよく、2種類以上を同時に使用してもよい。また、この(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とした分子主鎖には、必要に応じて、その他のビニルモノマーを共重合させてもよい。使用に好適な(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例は、以下に列挙するものに限定されないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステルなどを包含する。
【0037】
(メタ)アクリル樹脂(B)は、上記した通り、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、アクリルモノマーともいう)を主成分とする分子主鎖に、約2,000以上の分子量を有するポリ乳酸(以下、PLAマクロマーともいう)がグラフト鎖として枝状に結合した(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)の形で使用することが好ましい。グラフト鎖の形成に用いられるポリ乳酸は、その分子量が2,000以上の場合に、特に界面活性機能が高く、効果的に(メタ)アクリル樹脂(B)の本来の機能を引き出すことができる。
【0038】
(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)において、アクリルモノマーとPLAマクロマーの割合は、所望とするグラフト共重合体の組成や特性などに応じて広い範囲で変更することができるが、通常、約99:1〜50:50の範囲(重量比率)であることが好ましい。両者の割合が99:1を下回ると、得られるグラフト共重合体のポリ乳酸中における分散性が低下し、相分離構造の粗大化が生じ易くなる。反対に、両者の割合が50:50を上回ると、グラフト共重合体の合成が困難となる。
【0039】
(メタ)アクリル樹脂(B)、典型的には上記した(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)は、アクリルモノマーとPLAマクロマーから常用のグラフト重合法を使用して合成することができる。グラフト重合法に制限はなく、簡便な方法としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を一方の末端に有するPLAマクロマーを用意し、このPLAマクロマーを、主鎖成分であるアクリルモノマー((メタ)アクリル酸アルキルエステル)と共重合させる方法を挙げることができる。
【0040】
別の方法でも、(メタ)アクリル樹脂(B)を合成することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂(B)の主成分となるアクリルモノマーに例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)等のアクリルモノマーを共重合させ、側鎖に水酸基をもつ(メタ)アクリル樹脂を合成する。次いで、得られた(メタ)アクリル樹脂に例えばAl(Et)、Zn(Et)等の有機金属類又は例えばAl(OEt)等の金属アルキシド類を作用させた後、ジラクチドを配位アニオン重合させる。このようにして、所望とする(メタ)アクリル樹脂(B)を合成することができる。もちろん、これ以外の合成方法を使用してもよい。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂(B)は、アクリルモノマーとPLAマクロマーの種類や重量比率などに応じてその分子量を変更可能であるが、約30,000を超える分子量(GPCで測定した重量平均分子量)を有することが好ましい。(メタ)アクリル樹脂(B)の分子量は、さらに好ましくは、約50,000〜2,000,000の範囲である。アクリル樹脂の分子量が30,000以下になると、例えばポリ乳酸をアクリル樹脂の主鎖中に有しないアクリル重合体が増える結果、微細な相分離構造を維持しにくくなるといった問題が生じ、反対に2,000,000を上回ると、例えばアクリル重合体の粘度が高くなり、ポリ乳酸との混合自体が困難になるといった問題が生じる。
【0042】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、上記したポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)ならびにその他の成分(以下で詳細に説明する)を混合することによって調製することができる。混合方法は、特に限定されるものではなく、混合される成分の量や性質などを考慮して適切な混合方法を選択し、使用することができる。一例を示すと、溶媒を用いて混合する方法や、熱溶融させて混合する方法がある。
【0043】
上記したポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)は、ポリ乳酸含有樹脂組成物の調製においていろいろな配合比率で混合することができ、その配合比率が特に制限されるものではない。ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の配合比率は、約90:10〜30:70(重量混合比)の範囲が好ましく、さらに好ましくは、約90:10〜50:50の範囲である。ポリ乳酸(A)の配合比率が90%を超えると、成形物、特にフィルムやシートが硬くなったり脆くなったりする傾向がある。反対に(メタ)アクリル樹脂(B)の配合比率が70%を超えると、成形したフィルムやシートが軟化しすぎて、引張り強度が低下するおそれがある。したがって、使用用途に応じた配合設計を行うことが好ましい。(メタ)アクリル樹脂(B)は、好ましくは、上記した(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)である。また、この(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)とともに、以下に説明する(メタ)アクリル系単独重合体(B2)を使用してもよい。
【0044】
本発明は、そのもう1つの面において、ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とし、かつガラス転移点(Tg)が10℃以下である(メタ)アクリル樹脂(B)と、ポリ乳酸と(メタ)アクリル重合体の(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)とを有するポリ乳酸含有樹脂組成物(以下、第2のポリ乳酸含有樹脂組成物ともいう)にある。このポリ乳酸含有樹脂組成物において、第3のポリマー成分として使用される(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)は、ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の微細な相分離構造を安定に保つ役割を担い、また、ポリ乳酸含有樹脂組成物から(メタ)アクリル樹脂(B)が染み出すのを防ぐ効果がある。
【0045】
第2のポリ乳酸含有樹脂組成物において、第1のポリマー成分としてのポリ乳酸(A)は、上記した第1のポリ乳酸含有樹脂組成物において使用されるポリ乳酸(PLA)と同一であるかもしくはほぼ同一である。よって、ポリ乳酸(A)についての詳細な説明を省略する。
【0046】
第2のポリマー成分としての(メタ)アクリル樹脂(B)は、基本的には上記した第1のポリ乳酸含有樹脂組成物における(メタ)アクリル樹脂と同様、ポリ乳酸(A)との微細な相分離構造を形成することができ、したがって、ポリ乳酸(A)にほぼ均一に分散されている。(メタ)アクリル樹脂(B)は、例えば、50μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは1μm以下の平均粒径を有する微粒体であり、30,000を超える分子量を有している。
【0047】
(メタ)アクリル樹脂(B)は、上記した各種の(メタ)アクリル樹脂であることができるが、好ましくは、次式(II)によって表される(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位:
【0048】
【化3】

【0049】
(上式において、Rは、水素原子又はメチル基であり、そしてRは、約2〜12個の炭素原子、好ましくは約2〜8個の炭素原子を有するアルキル基、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基などであり、これらのアルキル基は、必要ならば、任意の置換基で置換されていてもよい)を主成分とする(メタ)アクリル系単独重合体である。(メタ)アクリル系単独重合体は、上記した(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)の場合と同様に、常用の重合法を使用して調製することができる。
【0050】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)は、ポリ乳酸と(メタ)アクリル重合体のいろいろなブロック共重合体を包含する。ここで、ポリ乳酸は、上記したポリ乳酸(A)(PLA)に同じであり、必要ならば、その他のタイプのポリ乳酸を使用してもよい。また、(メタ)アクリル重合体は、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステルやその他のアクリルモノマーに由来する任意の重合体である。
【0051】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)は、ポリ乳酸及び(メタ)アクリル重合体から常用のブロック重合法を使用して合成することができる。ブロック重合法に制限はなく、簡便な方法としては、例えば、ラジカル開始能を有するハロゲンで一方の末端を修飾したポリ乳酸(マクロイニシェーターともいう)を調製した後、そのマクロイニシェーターからアクリルモノマーのラジカル重合を開始させることで(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を合成することができる。なお、この重合方法は、ATRP法としても知られている。
【0052】
別の方法でも、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を合成することができる。例えば、水酸基をもつラジカル重合開始剤を用いて、末端に水酸基をもつ(メタ)アクリル樹脂を合成する。次いで、得られた(メタ)アクリル樹脂に、二官能性イソシナネートを等モル(官能基換算では、0.5等量)で作用させた後、ポリ乳酸を等モル量で作用させる。このようにして、所望とする(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を合成することができる。さもなければ、上記と同様にして末端に水酸基をもつ(メタ)アクリル樹脂を合成した後、得られた(メタ)アクリル樹脂に例えばAl(Et)、Zn(Et)等の有機金属類又は例えばAl(OEt)等の金属アルキシド類を作用させ、さらに続けてジラクチドを配位アニオン重合させことによっても、所望とする(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を合成することができる。もちろん、これ以外の合成方法を使用してもよい。
【0053】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)は、ポリ乳酸とアクリルモノマーの種類や重量比率などに応じてその分子量を変更可能であるが、約4,000以上の分子量(GPCで測定した重量平均分子量)を有することが好ましい。ブロック共重合体(C)の分子量は、さらに好ましくは、約8,000〜2,000,000の範囲である。ブロック共重合体(C)の分子量が4,000を下回ると、例えば微細な相分離構造を維持しにくくなるといった問題が生じ、反対に2,000,000を上回ると、例えば粘度が高く、ポリ乳酸(A)との混合自体が困難になるといった問題が生じる。
【0054】
また、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)の使用形態は、その相溶化剤としての機能に悪影響が出ない限り、特に限定されるものではない。ブロック共重合体(C)は、例えば、液体でも固体でもよい。
【0055】
本発明の第2のポリ乳酸含有樹脂組成物は、上記したポリ乳酸(A)、(メタ)アクリル樹脂(B)及び(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)ならびにその他の成分(以下で詳細に説明する)を混合することによって調製することができる。混合方法は、特に限定されるものではなく、混合される成分の量や性質などを考慮して適切な混合方法を選択し、使用することができる。一例を示すと、溶媒を用いて混合する方法や、熱溶融させて混合する方法がある。
【0056】
第2のポリ乳酸含有樹脂組成物において、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)は、第1のポリ乳酸含有樹脂組成物の調製の場合と同様に、いろいろな配合比率で混合することができ、その配合比率が特に制限されるものではない。ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の配合比率は、約90:10〜60:40(重量混合比)の範囲であり、好ましくは、約90:10〜50:50の範囲である。ポリ乳酸(A)の配合比率が90%を超えると、成形したフィルムやシートが硬くなったり脆くなったりする傾向があるので、避けることが望ましい。反対に(メタ)アクリル樹脂(B)の配合比率が40%を超えると、ポリ乳酸含有樹脂組成物から(メタ)アクリル樹脂(B)が染み出すのを防ぎきらなくなるおそれがある。
【0057】
また、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)と同様に(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)もいろいろな配合比率で混合することができ、その配合比率が特に制限されるものではない。本発明者らの知見によると、ブロック共重合体(C)の配合比率は、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)との関連において規定することが好ましい。ポリ乳酸(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の合計質量に対するブロック共重合体(C)の混合質量比は、好ましくは、約100:0.1〜100:10の範囲であり、さらに好ましくは、約100:0.1〜100:5の範囲である。ブロック共重合体(C)の配合比率が0.1PHRを下回ると、ブロック共重合体(C)の相溶化剤としての添加効果が薄くなり、(メタ)アクリル樹脂(B)の染み出しを防げなくなる。反対に10PHRを上回っても、ブロック共重合体(C)の相溶化剤としての添加効果がさらに高められることはない。
【0058】
本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)(第1のポリ乳酸含有樹脂組成物)又はポリ乳酸(A)、(メタ)アクリル樹脂(B)及び(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)(第2のポリ乳酸含有樹脂組成物)に加えて、1種類もしくは2種類以上の添加剤を任意に含有することができる。ポリ乳酸含有樹脂組成物に配合し得る添加剤は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、充填材(フィラー)、顔料、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、発泡剤、難燃剤などを包含する。これらの添加剤の具体例を示すと、充填材は、例えば炭酸カルシウム、クレー、カーボンブラック、耐衝撃性コア/シェル型粒子などであり、また、顔料は、例えば酸化チタン、メタリック顔料、パール顔料などである。これらの添加剤は、本発明の効果に悪影響が出ない範囲で、任意の量で配合することができる。
【0059】
本発明によるポリ乳酸含有樹脂組成物は、成形加工によるかもしくはその他の加工によりいろいろな形態をもった物品となすことができる。例えば、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)、さらには(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を添加剤とともに所要量で混合した後、例えばこれらの原料を溶媒に溶解して混合するかもしくは溶融混練して所要の組成をもったポリ乳酸含有樹脂組成物を調製した後、その樹脂組成物を射出成形法、押出ブロー成形法、押出延伸ブロー成形法、射出ブロー成形法、射出延伸ブロー成形法、2軸延伸法、熱成形法、圧縮成形法等によって成形物を製造することができる。また、インフレーション成形法、Tダイ成形法等によってフィルム状、シート状、板状の成形物を製造することができる。また、別法によれば、ポリ乳酸含有樹脂組成物を繊維状に加工してポリ乳酸含有繊維を製造することもできる。
【0060】
本発明では特に、成形物をフィルムあるいはシートの形で有利に提供することができる。ここで、フィルム及びシートは同義であり、本発明のポリ乳酸含有樹脂組成物由来の成形物が、通常、約5μm〜約3mmの厚さで成形された薄肉で矩形あるいはそれに類似する物品であることを意味する。本発明の樹脂フィルムあるいは樹脂シート(以下、「樹脂フィルム」という)は、必要に応じて、上記した厚さよりも大きいかもしくは小さい厚さを有していてもよい。また、樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、さもなければ、2層以上の多層構造であってもよい。
【0061】
本発明の樹脂フィルムは、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)、さらには(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)を上記した添加剤の存在もしくは不存在において溶融混練した後、得られた溶融混練物を任意の成形法によってフィルムに成形することによって有利に製造することができる。溶融混練法は、経済性や環境面の観点から好適であり、公知公用の混練技術、例えば、2軸混練機、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等で各原料を固体状で混合する方法を採用することができる。溶融混練時の温度は、広い範囲で変更することができるというものの、通常、約160℃もしくはそれ以上の温度である。次いで、得られた溶融混練物をフィルムに成形する。ここで使用する成形法は特に限定されないというものの、T−ダイ成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法などが好適である。得られた樹脂フィルムは、先に説明したように、柔軟性、伸び特性などに優れた基材として、多方面への応用が可能である。
【0062】
本発明の樹脂フィルムは、上述のような溶融混練法に代えて、溶液キャスト法でも有利に製造することができる。溶液キャスト法は、フィルムの成形に一般的に使用されているものと同様な手法に従って、ポリ乳酸(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)、さらにはブロック共重合体(C)を必要に応じて使用される添加剤と一緒に適当な溶媒に溶解し、得られた樹脂溶液を適当な基材の上にキャストし、乾燥することによって実施することができる。
【実施例】
【0063】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0064】
〔材料〕
実施例及び比較例においてポリ乳酸含有樹脂組成物を調製するため、下記のポリマーを出発原料として使用した。
【0065】
ポリマー(a):
PLA(ポリ乳酸)、重量平均分子量=140,000、LACEA(登録商標)H−100、三井化学社製;使用前に60℃の真空オーブン中で24時間以上乾燥させた。
【0066】
ポリマー(b):
poly−nBA(ポリアクリル酸n−ブチルエステル)、重量平均分子量=400,000;n−ブチルアクリレートモノマーの溶液重合を行い、シート状にコーティングした後に溶媒を除去した。
【0067】
ポリマー(c):
poly−nBA−g−PLA(ポリアクリル酸n−ブチルエステル−g−ポリ乳酸)、重量平均分子量=300,000;n−ブチルアクリレートモノマーとポリ乳酸マクロモノマーの溶液重合を行い、シート状にコーティングした後に溶媒を除去した。仕込み重量比は、n−ブチルアクリレート:ポリ乳酸マクロモノマー=80:20とした。なお、ポリ乳酸マクロモノマーは、下記の調製例1において調製したものを使用した。
【0068】
ポリマー(d):
PLA−b−poly−EA(ポリ乳酸−b−ポリアクリル酸エチルエステル)、重量平均分子量=120,000;下記の調製例2において調製したポリ乳酸マイクロイニシェーターを使用して、エチルアクリレートモノマーのラジカル重合を行い、シート状にコーティングした後に溶媒を除去した。調製方法の詳細は、下記の調製例3を参照されたい。
【0069】
調製例1
ポリ乳酸マクロモノマーの調製
窒素置換した200mlの二口フラスコに5.0gのポリ乳酸(LACEA H−100)を投入した後、予め乾燥させた100mlの1,4−ジオキサンを加えて溶解させた。続いて、予め蒸留した1mlのトリエチルアミンと1mlのアクリル酸クロリドを二口フラスコに投入し、室温で6時間にわたって攪拌した。1mlのエタノールを加えて5分間攪拌した後、得られた反応溶液を500mlのメタノール中に滴下し、ポリ乳酸マクロモノマーを沈殿させた。次いで、沈殿したポリ乳酸マクロモノマーを回収し、再沈殿による精製をさらに2回行い、真空オーブンで8時間乾燥させた。4.25gのポリ乳酸マクロモノマーが得られた。得られたポリ乳酸マクロモノマーについて、分子量測定ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定したところ、150,000であった。
【0070】
調製例2
ポリ乳酸マイクロイニシェーターの調製
窒素置換した200mlの二口フラスコに5.0gのポリ乳酸(LACEA H−100)を投入した後、予め乾燥させた100mlの1,4−ジオキサンを加えて溶解させた。続いて、予め蒸留した1mlのトリエチルアミンと過剰量(1ml)の2−ブロモプロピオニルブロミドを二口フラスコに投入し、室温で6時間にわたって攪拌した。1mlのエタノールを加えて5分間攪拌した後、得られた反応溶液を500mlのメタノール中に滴下し、ポリ乳酸マイクロイニシェーターを沈殿させた。次いで、沈殿したポリ乳酸マイクロイニシェーターを回収し、再沈殿による精製をさらに2回行い、真空オーブンで8時間乾燥させた。4.52gのポリ乳酸マイクロイニシェーターが得られた。得られたポリ乳酸マイクロイニシェーターについて、GPCにより標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定したところ、150,000であった。
【0071】
調製例3
ポリマー(d):PLA−b−poly−EAの調製
100mlの一口ナス形フラスコに、調製例2において調製した1.0gのポリ乳酸マイクロイニシェーター及び29mgの第一臭化銅を投入した。次いで、予めアルミナ濾過した10.0gのn−エチルアクリレートモノマー及び予めアルミナ濾過した10.0gの1,4−ジオキサンをフラスコに加え、減圧下に溶解させた。フラスコ内を窒素ガス雰囲気に戻した後、69mgのN,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を加え、減圧下、室温で30分間にわたって攪拌した。再びフラスコ内を窒素ガス雰囲気に戻した後、1.0gのメタノールを加えた。フラスコ内を減圧した後、60℃で66時間にわたってラジカル重合を行った。反応溶液を冷蔵庫に入れて冷却した後、イオン交換樹脂(商品名「DOWEX MSC−1」、ダウケミカル社製)を加え、30分間攪拌した。次いで、反応溶液をアルミナカラムで濾過し、ろ液を減圧下で乾燥させた。1.70gの生成物が得られた。この生成物は、目的としたPLA−b−p−nEAであることが確認された。得られたPLA−b−poly−EAについて、GPCにより標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定したところ、120,000であった。
【0072】
〔物性の測定及び評価試験〕
実施例及び比較例におけるポリ乳酸含有樹脂組成物及び樹脂フィルムを評価するため、ガラス転移点(Tg)の測定、ヤング率、上降伏点応力及び破断点伸び率の測定(引張り試験による)、そして染み出しテストを下記の手順で実施した。
【0073】
ガラス転移点(Tg)の測定
配合後のポリ乳酸含有樹脂組成物について、示差走査型熱量計(商品名「EXSTAR 6000」、セイコー電子工業社製)を使用してDSC法によりガラス転移点(Tg)を測定した。なお、今回のTgの測定は、ポリ乳酸含有樹脂組成物において相分離が発生しているか否かを判断することを目的としている。プロットされたTg曲線において、2点でTgが観測されれば、相分離していることが分かるからである。
測定条件の詳細は、下記の通りである。
【0074】
測定雰囲気:窒素気流下
測定方法:
試料の熱履歴を消去するために、試料の温度を室温より200℃まで昇温させ(昇温速度:10℃/分)、この温度を5分間維持した。次いで、20℃/分で、200℃から試料のTgより十分に低い温度(−60℃〜−80℃)まで降温させ、この温度を10分間維持した。この時、ポリ乳酸含有樹脂組成物が結晶化してないことを確認し、この温度から250℃まで10℃/分で昇温させ、この際にガラス転移点を測定した。
【0075】
引張り試験
作製した樹脂フィルムについて、引張り試験機(テンシロンRTC−1325A型、株式会社オリエンテック製)により、引張弾性率(ヤング率)、上降伏点応力及び破断点伸び率を測定した。
サンプルサイズ:短冊状(縦30mm×幅5mm×厚み約100μm)
測定条件:引張り速度300mm/分、チャック間距離20mm、測定温度=室温(25℃)
それぞれのサンプルについて3回の測定を行い、その平均値をもとめた。
【0076】
染み出し試験
本試験は、ポリ乳酸含有樹脂組成物からのアクリル樹脂(B)の染み出しの有無を評価するためのものである。作製した樹脂フィルム(サンプル)を指先で摘み、ベタツキの有無によりについて、アクリル樹脂(B)の染み出しを判断した。ベタツキがないことは、アクリル樹脂(B)が染み出していないことを意味する。
【0077】
比較例1
本例では、比較のため、ポリ乳酸の単独からなる樹脂フィルムを作製し、試験した。
【0078】
下記の第1表に記載するように、ポリマー(a)、すなわち、ポリ乳酸樹脂(LACEA H−100)のみを原料として使用した。ポリマー(a)をクロロホルムに溶解し、5重量%ポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液をキャストし、室温で24時間放置後、50℃の真空オーブン中で8時間乾燥させた。膜厚約100μmの樹脂フィルムが得られた。
【0079】
得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、ヤング率、上降伏点応力及び破断点伸び率を上記の手順で測定したところ、下記の第2表に記載するような測定結果が得られた。
【0080】
比較例2及び3
前記比較例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、下記の第1表に記載するように、ポリマー(a)の単独使用に代えて、ポリマー(a)及びポリマー(b)を異なる配合組成で使用して樹脂フィルムを作製し、試験した。
【0081】
得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、ヤング率、上降伏点応力及び破断点伸び率を上記の手順で測定したところ、下記の第2表に記載するような測定結果が得られた。
【0082】
さらに、比較例3において調製したポリ乳酸含有樹脂組成物を光学顕微鏡及び電子透過型顕微鏡(TEM)で観察した。光学顕微鏡による観察では、アクリル樹脂(B)はミリメートルオーダーで連続体をなして存在し、もはや略均一で微細な相分離構造とはいえない状態であった(図1の光学顕微鏡写真を参照されたい)。
【0083】
実施例1〜12
前記比較例1に記載の手法を繰り返したが、本例では、下記の第1表に記載するように、ポリマー(a)の単独使用に代えて、ポリマー(a)、ポリマー(b)、ポリマー(c)又はポリマー(d)を異なる配合組成で使用して樹脂フィルムを作製し、試験した。
【0084】
得られた樹脂フィルムから短冊状のサンプルを調製し、ヤング率、上降伏点応力及び破断点伸び率を上記の手順で測定したところ、下記の第2表に記載するような測定結果が得られた。なお、実施例2及び3については、上記の手順に従ってガラス転移点(Tg)の測定も実施し、次のような結果を得た:実施例2=−48.0/56.0℃、実施例3=−51.5/56.5℃。
すなわち、それぞれの実施例において、二点においてガラス転移点が観察され、ポリ乳酸とアクリル樹脂が相分離していることが明らかであった。
【0085】
さらに、実施例3において調製したポリ乳酸含有樹脂組成物を電子透過型顕微鏡(TEM)で観察したところ、ポリ乳酸(A)中にアクリル樹脂(B)の微粒体が分散した微細な相分離構造が作られていることを確認できた(図2のTEM写真を参照されたい)。また、TEM写真から異なる粒径(長軸径)の粒子数をカウントしたところ、
<100nm 113粒子
100〜200nm 36粒子
200〜500nm 23粒子
500〜1000nm 2粒子
1000〜1500nm 3粒子
1500〜2000nm 1粒子
であり、平均粒径は216nmであることがわかった。
【0086】
同様に、実施例12において調製したポリ乳酸含有樹脂組成物を電子透過型顕微鏡(TEM)で観察したところ、ポリ乳酸(A)中にアクリル樹脂(B)の微粒体が分散した微細な相分離構造が作られていることを確認できた(図3のTEM写真を参照されたい)。また、TEM写真から異なる粒径(長軸径)の粒子数をカウントしたところ、
<100nm 19粒子
100〜200nm 24粒子
200〜500nm 15粒子
500〜1000nm 14粒子
1000〜1500nm 1粒子
1500〜2000nm 2粒子
であり、平均粒径は449nmであることがわかった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
上記第2表の測定結果から理解できるように、ポリ乳酸〔ポリマー(a)〕にアクリル樹脂〔ポリマー(b)、ポリマー(c)又はポリマー(d)〕を配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(比較例2及び3、実施例1〜7及び実施例10〜12)では、ポリ乳酸の単独使用(比較例1)に比較して、良好なヤング率、上降伏点応力及び破断点伸び率を得ることができ、また、このことから、得られた樹脂フィルムに対して良好な柔軟性を付与できたと考察することができる。
【0090】
また、ポリ乳酸〔ポリマー(a)〕にアクリル樹脂〔ポリマー(c)〕を配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例1〜9)では、樹脂フィルムの表面にアクリル樹脂が染み出すことがなかった。また、ポリ乳酸〔ポリマー(a)〕にアクリル樹脂〔ポリマー(b)及びポリマー(d)〕を配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(実施例10〜12)でも、樹脂フィルムの表面にアクリル樹脂が染み出すことがなかった。
【0091】
これらの結果に対して、ポリ乳酸がグラフト化していないアクリル樹脂〔ポリマー(b)〕を配合したポリ乳酸含有樹脂組成物(比較例2及び3)では、相分離構造が大きいため、アクリル樹脂が表面に析出し、実使用に耐えなかった。
【0092】
これらの結果より、本実施例のポリ乳酸含有樹脂組成物は、ガラス転移点の測定結果から明らかなように、ポリ乳酸とアクリル樹脂が相分離しているが、図2及び図3の写真に示すように、この相分離構造が極めて微細な構造であるため、良好な柔軟性を示し、かつアクリル樹脂の染み出しもないことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】比較例3で調製したポリ乳酸含有樹脂組成物の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例3で調製したポリ乳酸含有樹脂組成物の電子透過型顕微鏡写真である。
【図3】実施例12で調製したポリ乳酸含有樹脂組成物の電子透過型顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とする(メタ)アクリル樹脂(B)とを有し、
前記(メタ)アクリル樹脂(B)は、分子量が30,000より大きく、ガラス転移点が10℃以下である(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)を含み、そして
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)とが微細な相分離構造を形成していることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位を主成分とする(メタ)アクリル樹脂(B)と、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)とを有し、
前記(メタ)アクリル樹脂(B)は、分子量が30,000より大きく、ガラス転移点が10℃以下であり、そして
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)とが微細な相分離構造を形成していることを特徴とするポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)は、50μm以下の平均粒径を有する微粒体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)が90:10〜50:50の重量混合比で混合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル構成単位は、次式(I):
【化1】

(上式において、Rは、水素原子又はメチル基であり、そしてRは、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基である)により表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系グラフト共重合体(B1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする分子主鎖に2,000以上の分子量を有するポリ乳酸が枝状に結合した(メタ)アクリル系グラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリ乳酸(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)の合計質量に対する前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(C)の混合質量比が、100:0.1〜100:10であることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物をシート状に加工したことを特徴とするポリ乳酸含有樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリ乳酸含有樹脂組成物を繊維状に加工したことを特徴とするポリ乳酸含有樹脂繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−186562(P2007−186562A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4475(P2006−4475)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】