説明

ポリ乳酸樹脂組成物、射出成形品の製造方法、射出成形品、及び電子機器用ホルダー

【課題】ポリ乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、製造工程の煩雑化、高コスト化を招くことなく、射出成形品の高温環境下における経時的な熱収縮が大きく抑制され、且つ良好な外観を有する射出成形品が形成され得るポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、及びABS樹脂を含有する。前記ポリ乳酸の割合が3〜40質量%の範囲、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜17質量%の範囲である。前記ポリ乳酸がD−乳酸単位を8〜15モル%の割合で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形に用いられるポリ乳酸樹脂組成物、前記ポリ乳酸樹脂組成物を用いる射出成形品の製造方法、前記ポリ乳酸樹脂組成物から形成される射出成形品、及び前記ポリ乳酸樹脂組成物から形成される電子機器用ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガスが発生する原因としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・発酵なども挙げられるが、石油資源に由来する物質の燃焼により発生する炭酸ガスの量は多く、現状の大気中の炭酸ガスによる温度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされているといっても過言ではない。更に、石油資源は有限な資源であり、将来的に枯渇することが予測される。
【0003】
一方、近年、カーボンニュートラルな材料として、成長過程で大気中の炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。植物資源を得る際には植物の植生によって大気中の炭酸ガスが吸収され、この植物資源で石油資源を代替することが試みられている。
【0004】
プラスチック材料の分野においても、従来の石油を基礎原料とする材料から、バイオマスを利用した材料への転換が試みられている。バイオマスを利用したプラスチック材料は、当初は生分解性プラスチックとして注目を集めていたが、最近ではカーボンニュートラルな植物系プラスチックとしての価値が見直されており、一部で実用化されている。代表的な植物系プラスチックの一種として、ポリ乳酸樹脂が挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形することにより、電子機器用ホルダー、電子機器の内部シャーシ部品、電子機器用筐体、電子機器用内部部品などの、種々の成形品を得ることが期待される。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸は耐久性に乏しく、特に射出成形品を得るという観点からは、高温環境下において射出成形品が経時的に熱収縮してしまい、長期の使用に耐え得ないことが問題となる。射出成形品の熱収縮は、射出成形品中のポリ乳酸の経時的な結晶化の進行によるものと考えられる。
【0006】
成形時に予めポリ乳酸の結晶化が充分に進行していれば、射出成形品の熱収縮がある程度抑制される。例えば特許文献1においては、ポリ乳酸樹脂射出成形体を得るにあたり、ポリ乳酸樹脂と、(a)C=Oと、NH及びOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物、(b)C=Oを分子内に有する環状化合物と、NH、S及びOから選ばれる官能基を分子内に有する環状化合物との混合物、(c)置換されていてもよく、金属を含んでいてもよいフタロシアニン化合物、及び(d)置換されていてもよいポルフィリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機顔料を含む有機結晶核剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、超臨界流体と接触させながら溶融混練し、続いてこの溶融物を射出成形することが開示されている。有機結晶核剤が使用されることで、成形時のポリ乳酸樹脂の結晶化が促進される。
【0007】
しかしながら、成形時に予めポリ乳酸の結晶化が充分に進行していても、射出成形品の熱収縮を充分に抑制することは困難である。更に、この場合、成形時の結晶化を促進するための核剤などの添加剤を要したり、成形サイクルが長くなったり、場合によっては結晶化しやすいステレオコンプレックス型ポリ乳酸などの特殊なポリ乳酸が必要となったりする。核剤が用いられる場合にはポリ乳酸の加水分解が促進されてしまうことで射出成形品の耐久性が低下してしまうという問題も生じる。このため、製造工程の煩雑化、製造効率の低下、高コスト化を招き、ポリ乳酸樹脂の普及の妨げとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−6041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、製造工程の煩雑化、高コスト化を招くことなく、射出成形品の高温環境下における経時的な熱収縮が大きく抑制されるポリ乳酸樹脂組成物、並びにこの射出成形用ポリ乳酸樹脂組成物から製造される射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、及びABS樹脂を含有し、前記ポリ乳酸の割合が3〜40質量%の範囲、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜17質量%の範囲であり、前記ポリ乳酸がD−乳酸単位を8〜15モル%の割合で含む。
【0011】
本発明に係るポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、及びABS樹脂を含有し、前記ポリ乳酸の割合が3〜40質量%の範囲、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜17質量%の範囲であり、前記ポリ乳酸が、100℃で2時間加熱されても結晶化しないポリ乳酸であってもよい。
【0012】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリ乳酸の割合が5〜40質量%の範囲であることも好ましい。
【0013】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が2〜17質量%の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリ乳酸の割合が23〜35質量%の範囲であり、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が3〜17質量%の範囲であることも好ましい。
【0015】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリ乳酸の割合が8〜15質量%の範囲であり、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が1〜17質量%の範囲であることも好ましい。
【0016】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ポリ乳酸の割合が3〜8質量%の範囲であり、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜3質量%の範囲であること
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ABS樹脂の含有量が、前記ポリ乳酸、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂、及び前記ABS樹脂の合計量に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物においては、前記ABS樹脂を構成するスチレン単位の割合が55〜70質量%の範囲、ブタジエン単位の割合が8〜23質量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物は、カルボジイミド化合物を更に含有することが好ましい。
【0019】
本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物は、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体を更に含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係ポリ乳酸樹脂組成物は、コアシェルゴムを更に含有することが好ましい。
【0021】
本発明に係る射出成形品の製造方法では、前記ポリ乳酸樹脂組成物を準備し、このポリ乳酸樹脂組成物を射出成形する。
【0022】
本発明に係る射出成形品は、前記ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形することにより形成される。
【0023】
本発明に係る電子機器用ホルダーは、前記ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形することにより形成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、ポリ乳酸を含有するポリ乳酸樹脂組成物が射出成形されることで、製造工程の煩雑化、高コスト化を招くことなく、高温環境下における経時的な熱収縮が大きく抑制されている射出成形品が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における電子機器用ホルダーの外観を示す斜視図である。
【図2】実施例において用いられたポリ乳酸A〜Eに100℃で2時間熱処理を施し、処理後のポリ乳酸A〜Eについて示差走査熱量測定をおこなった結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[ポリ乳酸樹脂組成物中の成分]
本実施形態によるポリ乳酸樹脂組成物が含有し得る成分について説明する。
【0027】
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸としては、乳酸の単独重合体と、乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸との共重合体とが挙げられる。ポリ乳酸は乳酸がポリマー化することで得られる。乳酸は、例えばトウモロコシなどの植物に由来するデンプンが発酵することで得られる。
【0028】
乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、乳酸の二量体であるラクトン等が挙げられる。
【0029】
乳酸と共重合可能な乳酸以外のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。これらのヒドロキシカルボン酸は、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0030】
ポリ乳酸は、実質的に下記式[化1]で表されるL−乳酸単位及びD−乳酸単位からなる。
【0031】
【化1】

【0032】
本実施形態において使用されるポリ乳酸は、D−乳酸単位の割合が、ポリ乳酸を構成する全単位(モノマー単位)に対して8〜15モル%の範囲であるポリ乳酸、100℃で2時間加熱されても結晶化しないポリ乳酸、或いはD−乳酸単位の割合がポリ乳酸を構成する全単位に対して8〜15モル%の範囲であり且つ100℃で2時間加熱されても結晶化しないポリ乳酸である。ポリ乳酸が結晶化しているか否かは、示差走査熱量測定(DSC)による測定結果から確認される。ポリ乳酸が結晶化している場合、示差走査熱量測定(DSC)によって160℃付近に融解による吸熱ピークが認められるが、結晶化していない場合にはこのような吸熱ピークは認められない。
【0033】
これらのようなポリ乳酸が用いられることが、射出成形品の熱収縮を抑制する上で重要である。これらのポリ乳酸は結晶化が非常に進行しにくいという特性を有する。このため、ポリ乳酸樹脂組成物から形成される射出成形品中でポリ乳酸の結晶化が進行しにくくなり、このためポリ乳酸の結晶化に起因する射出成形品の熱収縮が大きく抑制される。ポリ乳酸中のD−乳酸単位の割合は、上記のように8〜15モル%の範囲であることが好ましく、更に8〜13モル%の範囲であることが好ましく、更に8〜12モル%の範囲であることが好ましく、特に8.6〜11.6モル%の範囲であることが好ましい。
【0034】
ポリ乳酸中のD−乳酸単位の割合は、旋光度法により測定される。例えば測定対象であるポリ乳酸の1質量%トリクロロメタン溶液が調製され、この溶液中のポリ乳酸中のD−乳酸単位の割合が、デジタル旋光度計(例えばSHANGHAI CHANGFANG OPTICAL INSTRUMENT CO. , LTD.製、型番WZZ―2S)により、測定される。
【0035】
ポリ乳酸を構成する乳酸単位以外の単位の割合は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。ポリ乳酸を構成する乳酸以外の単位としては、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位、及びこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0036】
ポリ乳酸は、公知の方法で製造され得る。例えば、L−及びD−ラクチドが金属重合触媒の存在下、加熱されて開環重合することで製造される。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸が脱水縮合する直接重合法によっても、ポリ乳酸が製造される。
【0037】
重合反応は、従来公知の反応容器を用いて実施可能である。反応容器として、例えばヘリカルリボン翼等の高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器が単独で使用され、または複数が併用される。反応容器は回分式、連続式、半回分式のいずれでもよいし、これらの方式が組み合わされていてもよい。
【0038】
重合開始剤としてアルコールが用いられてもよい。このアルコールは、ポリ乳酸の重合を阻害せず且つ不揮発性であることが好ましい。アルコールとして、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどが用いられることが好ましい。
【0039】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られる、比較的低分子量の乳酸ポリエステルが、プレポリマーとして使用される。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に保持されることで予め結晶化されることが、融着防止の面から好ましい。この結晶化されているプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温されても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0040】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万の範囲であることが好ましく、10万〜30万の範囲であれば更に好ましい。この重量平均分子量は、溶媒(移動相)としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0041】
更に、ポリ乳酸の分子量が揃っていることが好ましく、すなわち分子量分布がブロードであったり分子量分布のピークが複数あったりはしないことが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が特に向上して、成形サイクルの短縮化が図られると共に、射出成形品にウエルドやフローマークが更に生じにくくなって射出成形品の外観が更に向上する。
【0042】
ポリ乳酸の、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(190℃ 2.16kg)は1〜16g/10分であることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性(流動性)が特に向上する。
【0043】
ポリ乳酸樹脂組成物全体に対するポリ乳酸の割合は3〜40質量%の範囲であり、特に5〜40質量%の範囲であることが好ましい。特に成形品の機械的強度向上の観点、並びに石油資源の使用量削減の観点からは、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量は20質量%以上であることが好ましく、更に25質量%以上であることが好ましい。一方、成形品の耐久性(耐加水分解性)を維持する観点からは、特にポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量は30質量%以下であることが好ましい。特にこのポリ乳酸の含有量が20〜35質量%の範囲であることが好ましい。
【0044】
また、ポリ乳酸の割合が23〜35質量%の範囲であることも好ましい。この場合、石油資源の使用量を大幅に削減しつつ、良好な機械的特性と耐久性とが維持されたポリ乳酸樹脂組成物が得られる。
【0045】
また、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量が8〜15質量%の範囲であることも好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が特に良好となり、成形品の外観不良が更に抑制され、また成形品の耐久性が更に良好になる。
【0046】
また、ポリ乳酸の割合が3〜8質量%の範囲であることも好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が著しく良好になり、成形品の外観不良が更に抑制され、また成形品の耐久性が著しく良好になる。
【0047】
このようなD−乳酸単位の割合が8〜15モル%であるポリ乳酸は融点が低いため、単独では射出成形用途には不向きであるが、本実施形態では後述するポリメタクリル酸メチル樹脂及びABS樹脂、或いは更にコアシェルゴムが使用されることで、射出成形用途に好適なポリ乳酸樹脂組成物が得られ、更に射出成形品にウエルド及びフローマークが生じにくくなると共に、高い耐衝撃性も維持され得る。
【0048】
これにより、例えば80℃の雰囲気下に48時間曝露された場合であっても、熱収縮が非常に小さい射出成形品を得ることも可能となる。
【0049】
(ポリメタクリル酸メチル樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物がポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)を含有することで、射出成形品の寸法安定性、耐衝撃性、耐熱性が向上する。
【0050】
ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)の一部又は全部は、ポリメタクリル酸メチル樹脂エラストマー(PMMA樹脂エラストマー)であってもよい。
【0051】
PMMA樹脂の、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(230℃ 3.8kg)が1.5g/10分以上であることが好ましい。さらにこのメルトフローレートが5g/10分以上であることが好ましい。このメルトフローレートが1.5g/10分以上であるとポリ乳酸樹脂組成物中でPMMA樹脂のポリ乳酸への相溶性が高まり、これにより射出成形品の外観が更に向上すると共に、耐衝撃性が更に向上する。
【0052】
PMMA樹脂の重量平均分子量は6万〜8万の範囲であることが好ましく、更に6万5千〜7万5千の範囲であることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物中でPMMA樹脂のポリ乳酸への相溶性が高まり、これにより射出成形品の外観が更に向上すると共に、耐衝撃性が更に向上する。この重量平均分子量は、溶媒(移動相)としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0053】
ポリ乳酸樹脂組成物中のPMMA樹脂の含有量は0.5〜17質量%の範囲であることが好ましく、更に2〜17質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が2質量%以上であると射出成形品の寸法安定性、耐衝撃製、耐熱性が特に向上する。またこの含有量が17質量%以下であるとポリ乳酸樹脂組成物の高い流動性が維持され、ポリ乳酸樹脂組成物の高い成形性と射出成形品の良好な外観が維持される。このPMMA樹脂の含有量は更に3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
【0054】
また、ポリ乳酸の割合が23〜35質量%の範囲である場合には、PMMA樹脂の含有量は3〜17質量%の範囲であることが好ましい。この場合、石油資源の使用量を大幅に削減しつつ、良好な機械的特性と耐久性とが維持されたポリ乳酸樹脂組成物が得られる。
【0055】
また、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量が8〜15質量%の範囲である場合には、PMMA樹脂の含有量は1〜17質量%の範囲であることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が特に良好となり、成形品の外観不良が更に抑制され、また成形品の耐久性が更に良好になる。
【0056】
また、ポリ乳酸の割合が3〜8質量%の範囲である場合には、PMMA樹脂の含有量は0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が著しく良好になり、成形品の外観不良が更に抑制され、また成形品の耐久性が著しく良好になる。
【0057】
(ABS樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物がABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)を含有することで、射出成形品の寸法安定性、耐衝撃性、耐熱性が維持されつつ、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性が向上し、射出成形品にウエルド及びフローマークが生じにくくなる。
【0058】
射出成形品の耐衝撃性等の機械的特性が充分に向上するためには、ABS樹脂を構成するスチレン単位の割合は72質量%以下であることが好ましく、更に70質量%以下であることが好ましく、特に62質量%以下であることが好ましい。更にスチレン単位の割合は40質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、特に58質量%以上であることが好ましい。すなわちスチレン単位の割合は40〜72質量%の範囲が好ましく、55〜70質量%の範囲であればより好ましく、58〜62質量%の範囲であれば更に好ましい。
【0059】
射出成形品のウエルド及びフローマークが充分に抑制されるためには、ABS樹脂を構成するブタジエン単位の割合は8〜23質量%の範囲であることが好ましく、8〜16質量%の範囲であれば更に好ましい。このようにブタジエンの割合が少ないABS樹脂が使用されると、射出成形品に熱処理が施されても、ABS樹脂中のブタジエン成分が射出成形品のマトリクスから絞り出されにくくなる。このためブタジエン成分が射出成形品の表面への浮き上がることで抑制されて、このような浮き上がりによるフローマークが抑制され、このため射出成形品の外観が良好に維持される。
【0060】
ABS樹脂中のアクリロニトリル単位の割合は、スチレン単位及びブタジエン単位の割合に依存するが、1.5〜30質量%の範囲であることが好ましく、15〜30質量%の範囲であれば更に好ましい。特にABS樹脂が実質的にアクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位のみから構成される場合にはアクリロニトリル単位の割合は15〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
ABS樹脂の構成単位には、アクリロニトリル単位、ブタジエン単位及びスチレン単位以外の構成単位が含まれていてもよい。例えばABS樹脂の構成単位には、メチルメタクリレート単位が含まれていてもよい。
【0062】
ABS樹脂中のアクリロニトリル単位、スチレン単位、ブタジエン単位、メチルメタクリレート単位等の構成単位の割合は、ABS樹脂のNMR測定結果、並びにABS樹脂のグラジエント・ポリマー溶出クロマトグラフィ(GPEC:gradient polymer elution chromatography)による測定結果に基づいて導出される。
【0063】
ABS樹脂の粒径は特に制限されないが、射出成形品の外観を長期に亘って良好に維持する観点からは、粒径が小さいほど好ましい。ABS樹脂の粒径が小さいと、射出成形品が高温下に長期間曝されても射出成形品に白化が生じにくくなる。このような白化の抑制は、ABS樹脂の粒径が小さいことで射出成形体中の成分が微細に分散すること、並びにスクイーズ効果が低減することによると、考えられる。射出成形体の白化が充分に抑制されるためにはABS樹脂の平均粒径は0.4μm以下であることが好ましく、更に0.35μm以下であることが好ましく、特に0.3μm以下であることが好ましい。この平均粒径の下限は特に制限されないが、0.1μm以上であることが好ましい。この平均粒径は、例えばABS樹脂の粒子を染色した上でその粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影し、撮影された画像を画像解析することで評価される。
【0064】
ABS樹脂の合成方法は特に制限されないが、乳化重合法又はバルク重合法で製造されることが好ましい。さらに、射出成形品に熱処理が施される場合の射出成形品の外観を改善するためには、乳化重合法で製造されたABS樹脂が用いられることが好ましい。
【0065】
このようなABS樹脂が用いられることで、ポリ乳酸樹脂組成物の射出成形時のウエルドやフローマークの発生が抑制され、射出成形品の外観が向上する。更にこのようなABS樹脂が使用されることで、射出成形品が着色される場合の発色性が優れる。
【0066】
射出成形品におけるウエルドやフローマークの発生が充分に抑制されるためには、ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びABS樹脂の合計量に対する割合が50質量%以上であることが好ましい。この範囲において、ポリ乳酸樹脂組成物の射出成形性が特に優れ、射出成形品におけるウエルドやフローマークの発生が著しく抑制される。ABS樹脂の含有量の上限は特に制限されず、ポリ乳酸樹脂組成物中の他の成分の含有量に応じて規制される。
【0067】
(カルボジイミド化合物)
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物を含有することも好ましい。この場合、これらの化合物が、ポリ乳酸のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを発揮し、これにより射出成形品の高温高湿環境下での耐久性が向上する。
【0068】
ポリカルボジイミド化合物としては、例えばポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられる。モノカルボジイミド化合物としては、例えばN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0069】
このようなカルボジイミド化合物としては、市販品が適宜使用され得る。カルボジイミド化合物の具体例としては、日清紡績株式会社製の商品名カルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド))、HCV−15CA等が挙げられる。
【0070】
カルボジイミド化合物が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中のカルボジイミド化合物の含有量は0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることで射出成形品の耐久性が更に向上し、5質量%以下であることで射出成形品の高い機械的強度が維持される。カルボジイミド化合物の含有量は更に3質量%以下であることが好ましい。
【0071】
カルボジイミド化合物が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物の調製時にポリ乳酸とカルボジイミド化合物のみが予め混合されることでマスターバッチが調製されると、カルボジイミド化合物が使用されることによる前記作用が特に効果的に発揮される。
【0072】
(メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体)
ポリ乳酸樹脂組成物は、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体を含有することが好ましい。この場合、射出成形品の耐衝撃性等の機械的特性が更に改善される。
【0073】
メタクリル酸アルキルとしては、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチルなどが挙げられる。アクリル酸アルキルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどが挙げられる。メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの重合モル比は40:60〜95:5の範囲であることが好ましい。メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体の量平均分子量は100万〜500万の範囲であることが好ましい。この重量平均分子量は、溶媒(移動相)としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められる、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0074】
このようなメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体の具体例としては、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンP530が挙げられる。
【0075】
メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物中のメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体の含有量は0.5質量%〜5質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1.0質量%以上、3.0質量%以下であることで、射出成形品の耐衝撃性が特に向上する。その理由は、前記範囲においてポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が充分に上昇し、これにより射出成形品の微細構造中に不定形な海島構造が形成され、これが射出成形品の耐衝撃性の向上をもたらすためと、考えられる。
【0076】
(コアシェルゴム)
ポリ乳酸樹脂組成物は、コアシェルゴムを含有してもよい。この場合、射出成形品の耐衝撃性等の機械的特性が更に向上する。コアシェルゴムは多層構造の重合体であって、重合体で構成される最内層(コア層)と、コア層を覆い且つコア層とは異種の重合体から構成される1以上の層(シェル層)とを有する。コアシェルゴムとしては、例えばゴム状重合体の存在下で、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体などの単量体が重合してなる樹脂が挙げられる。
【0077】
コアシェルゴムが用いられる場合の、そのポリ乳酸樹脂組成物全体に対する含有量に制限はないが、成形品の耐久性向上の観点からは、この含有量は特に1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であれば更に好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物の流動性を向上してポリ乳酸樹脂組成物の成形性、加工性、取り扱い性等を向上する観点からは、コアシェルゴムの含有量は12質量%以下であることが好ましい。
【0078】
コアシェルゴムについて、更に詳細に説明する。
【0079】
コアシェルゴムとして、Siを含有するコアシェルゴムが挙げられる。Siを含有するコアシェルゴムが使用される場合、成形品の難燃性が更に向上する。Siを含有するコアシェルゴムには、コア層がSiを含む重合体から構成されているポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのうちの、少なくとも一方が含まれていることが好ましく、特にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が含まれていることが好ましい。
【0080】
Siを含有するコアシェルゴムとして、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムなどが挙げられる。
【0081】
ポリ乳酸樹脂組成物がポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を含有すると、成形品の難燃性と耐衝撃性とが特に向上する。ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、次の(X)〜(Z)成分から得られる;
(X)ポリオルガノシロキサン粒子;
(Y)第1のビニル系単量体;
(Z)第2のビニル系単量体。
【0082】
(Y)成分は、下記(Y−1)成分のみからなり、或いは下記(Y−1)成分及び(Y−2)成分からなると共にこれらの成分を下記の割合で含む;
(Y−1)多官能性単量体100〜50質量%;
(Y−2)その他の共重合可能な単量体0〜50質量%。
【0083】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部を重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部を重合して得られる。前記の各成分の量は、(X)〜(Z)成分の合計量を100質量部とした場合の値である。
【0084】
(X)成分は、トルエン不溶分量((X)成分0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95質量%以下、さらには50質量%以下、特には20質量%以下であることが、成形品の難燃性、耐衝撃性の向上のために好ましい。
【0085】
(X)成分の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体粒子などが挙げられる。これらのうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0086】
(X)成分の一部又は全部は、ポリオルガノシロキサン以外の重合体を含む変性ポリオルガノシロキサンの粒子であってもよい。ポリオルガノシロキサン以外の重合体の具体例としては、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体などが挙げられる。(X)成分中のポリオルガノシロキサン以外の重合体の含有量は低い方が好ましく、特に含有量が5質量%以下であることが好ましい。特に(X)成分が実質的にポリオルガノシロキサンのみからなる粒子であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
【0087】
(X)成分の平均粒子径は特に制限されないが、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められる数平均粒子径が0.008〜0.6μmであることが好ましく、0.01〜0.2μmであれば更に好ましく、0.01〜0.15μmであれば特に好ましい。この数平均粒子径が小さすぎる場合は(X)成分の生産が困難であり、逆に大きすぎると成形品の難燃性を充分に向上することができないおそれがある。成形品の外観の向上のためには、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/数平均粒子径(%))が10〜100%の範囲であることが好ましく、20〜60%であれば更に好ましい。
【0088】
(X)成分の製造にあたってのモノマーの組み合わせとしては、オルガノシロキサンの単独重合;2官能シラン化合物の単独重合;オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との共重合;オルガノシロキサンとビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;2官能シラン化合物とビニル系重合性基含有シラン化合物との共重合;オルガノシロキサン、2官能シラン化合物及びビニル系重合性基含有シラン化合物、或いは更にこれらの化合物と3官能以上のシラン化合物の共重合等が、挙げられる。
【0089】
前記各化合物のうち、オルガノシロキサン又は2官能シラン化合物は、ポリオルガノシロキサン鎖の主骨格を構成する成分である。
【0090】
オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(a)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(b)、デカメチルシクロペンタシロキサン(c)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(d)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(e)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(f)等が挙げられる。
【0091】
2官能シラン化合物としては、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0092】
特に経済性及び成形品の難燃性向上の観点から、(X)成分の製造に使用されるモノマー中の、(b)成分、(a)〜(e)成分の混合物、又は(a)〜(f)成分の混合物の割合が、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。残余の部分は、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が0〜30質量%を占めることが好ましく、0〜20質量%を占めることが更に好ましい。
【0093】
ビニル系重合性基含有シラン化合物は、オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、3官能以上のシラン化合物などと共重合し、これにより共重合体の側鎖または末端にビニル系重合性基が導入される。このビニル系重合性基は、後述する(Y)成分または(Z)成分から形成されるビニル系(共)重合体と化学結合する際のグラフト活性点として作用する。更にこのビニル系重合性基含有シラン化合物は、ラジカル重合開始剤の存在下でグラフト活性点間をラジカル反応により架橋結合させ得る。すなわちビニル系重合性基含有シラン化合物は架橋剤としても機能し得る。ラジカル重合開始剤として、後述のグラフト重合において使用され得るものと同じものが使用できる。尚、ビニル系重合性基含有シラン化合物が架橋剤として機能する場合も、その一部はグラフト活性点として残るため、グラフトは可能である。
【0094】
ビニル系重合性基含有シラン化合物の具体例としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシランなどのビニルフェニル基含有シラン化合物;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有シラン化合物;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物などが、挙げられる。
【0095】
これらのなかでは(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物、ビニル基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物から選択される少なくとも一種を用いることが、経済性の点から好ましい。尚、前記ビニル系重合性基含有シラン化合物がトリアルコキシシラン型である場合には、次に示す3官能以上のシラン化合物の役割も有する。
【0096】
3官能以上のシラン化合物は、前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物などと共重合することにより、ポリオルガノシロキサンに架橋構造を導入して、(X)成分にゴム弾性を付与し得る。すなわち3官能以上のシラン化合物はポリオルガノシロキサンの架橋剤として用いられる。
【0097】
3官能以上のシラン化合物としては、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランなどの4官能、3官能のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。このうちテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシランの少なくとも一方が用いられることが、架橋効率の高さの点から好ましい。
【0098】
オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、および3官能以上のシラン化合物の重合時の使用割合は適宜決定される。特にオルガノシロキサンと2官能シラン化合物との合計量の割合が50〜99.9質量%であることが好ましく、60〜99.5質量%であれば更に好ましい。尚、オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との割合は、重量比で100/0〜0/100であることが好ましく、100/0〜70/30であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物の割合は0〜40質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であれば更に好ましい。3官能以上のシラン化合物の割合は0〜50質量%であることが好ましく、0〜39質量%であれば更に好ましい。ビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物とは、少なくとも一方が用いられることが好ましく、特にビニル系重合性基含有シラン化合物と3官能以上のシラン化合物のうちの少なくとも一方の割合が0.1%以上であることが好ましい。オルガノシロキサン及び2官能シラン化合物の使用割合が少なすぎると、成形品が脆くなる傾向がある。逆に多すぎてもビニル系重合性基含有シラン化合物および3官能以上のシラン化合物の量が少なくなりすぎて、これらを使用する効果が発現されにくくなる傾向にある。また、ビニル系重合性基含有シラン化合物あるいは前記3官能以上のシラン化合物の割合が少なすぎると、成形品の難燃性が充分に向上しないおそれがある。逆に多すぎても、成形品が脆くなる傾向がある。
【0099】
(X)成分は、上記モノマーの乳化重合により製造されることが好ましい。乳化重合は、例えば前記モノマーおよび水が乳化剤の存在下で機械的剪断により水中に乳化分散すると共に酸性状態となることで行なわれる。この場合、機械的剪断により数μm以上の乳化液滴が調製されると、重合後に得られる(X)成分の平均粒子径は乳化剤の量に応じて0.02〜0.6μmの範囲で制御される。また、(X)成分の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)が20〜70%の範囲に制御される。
【0100】
平均粒子径が0.1μm以下で且つ粒子径分布の狭い(X)成分が製造される場合、多段階の重合により(X)成分が製造されることが好ましい。例えば前記モノマー、水および乳化剤が機械的剪断により乳化されることで得られる数μm以上の乳化液滴からなるエマルションのうちの1〜20%が先に酸性状態で乳化重合し、得られた(X)成分がシードとなってその存在下で残りのエマルションが追加的に重合することが好ましい。これより得られる(X)成分は、乳化剤の量に応じて平均粒子径0.02〜0.1μmの範囲で、粒子径分布の変動係数が10〜60%の範囲に制御される。更に好ましい方法では、多段重合において、(X)成分がシードとなる代わりに、後述するグラフト重合時に用いられるビニル系単量体(例えばスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなど)が通常の乳化重合法により(共)重合してなるビニル系(共)重合体が用いられることで、前記と多段重合によりポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子が得られる。この場合、得られるポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子の平均粒子径は乳化剤量に応じて0.008〜0.1μmの範囲でかつ粒子径分布の変動係数が10〜50%の範囲に制御される。前記数μm以上の乳化液滴は、ホモミキサーなど高速撹拌機が使用されることで調製され得る。
【0101】
前記乳化重合では、酸性状態下で乳化能を失わない乳化剤が用いられる。具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される少なくとも一種を用いることが、エマルションの乳化安定性が比較的高いことから好ましい。更に、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルスルホン酸はモノマーの重合触媒としても作用するので特に好ましい。
【0102】
反応系の酸性状態は、この反応系に硫酸や塩酸などの無機酸やアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸が添加されることで達成される。反応系のpHは生産設備の腐食抑制や適度な重合速度の達成を考慮して1〜3に調整されることが好ましく、1.0〜2.5に調整されることがより好ましい。重合のための加熱は、適度な重合速度の達成のためは60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0103】
尚、酸性状態下では、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合が切断と生成の平衡状態にあり、この平衡は温度によって変化する。このため、ポリオルガノシロキサン鎖の安定化のためには、反応系に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液が添加されて反応系が中和されることが好ましい。更に前記の平衡は、低温になるほど生成側に寄り、高分子量または高架橋度の生成物が得られやすくなる。このため、高分子量または高架橋度の生成物が得られるためには、モノマーの重合が60℃以上で進行した後、反応系が室温以下に冷却されて5〜100時間程度保持されから反応系が中和されることが好ましい。
【0104】
このようにして得られる(X)成分は、例えば、オルガノシロキサンあるいは2官能シラン化合物、更にこれらにビニル系重合性基含有シラン化合物が加えられてこれらが重合する場合、通常はランダムな共重合によりビニル系重合性基を有する重合体となる。また、3官能以上のシラン化合物が共重合する場合、架橋による網目構造を有する共重合体が得られる。また、後述するグラフト重合時に用いられるようなラジカル重合開始剤によってビニル系重合性基間がラジカル反応により架橋する場合、ビニル系重合性基間の化学結合による架橋構造が形成され、かつ一部未反応のビニル系重合性基が残存する。
【0105】
(Y)成分は、(Y−1)成分からなり、或いは(Y−1)成分と(Y−2)成分とからなる。(Y−1)成分は分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能単量体であり、(Y)成分における割合は100〜50質量%である。(Y−2)成分は(Y−1)成分以外のビニル系単量体であり、(Y)成分における割合は0〜50質量%である。(Y)成分が使用されることで、成形品の難燃性及び耐衝撃性が向上する。
【0106】
(Y)成分における(Y−1)成分の割合が50質量%以上であること、並びに(Y)成分における(Y−2)成分の割合が50質量%以下であることで、成形品の耐衝撃性が更に向上する。(Y)成分における(Y−1)成分の割合は、特に100〜80質量%であることが好ましく、100〜90質量%であれば更に好ましい。(Y)成分における(Y−2)成分の割合は特に0〜20質量%であることが好ましく、0〜10質量%の範囲であれば更に好ましい。
【0107】
(Y−1)成分としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、フタル酸ジアリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの化合物のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。これらの中では、経済性および効果の点で特にメタクリル酸アリルが使用されることが好ましい。
【0108】
(Y−2)成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、パラブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0109】
(Z)成分は、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体と(A)成分や(D)成分との相溶性を確保し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の分散性向上に寄与する。
【0110】
(Z)成分としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリル等の、上記(Y−2)成分と同様の化合物が使用され得る。これらの化合物うち一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0111】
(Z)成分の溶解度パラメーターは、9.15〜10.15[(cal/cm1/2]であることが好ましく、9.17〜10.10[(cal/cm1/2]であればより好ましく、9.20〜10.05[(cal/cm1/2]であれば更に好ましい。溶解度パラメーターが前記範囲であると、成形品の難燃性が更に向上する。尚、溶解度パラメーターは、John Wiley&Son社出版「ポリマーハンドブック」1999年、第4版、セクションVII第682〜685頁)に記載のグループ寄与法でSmallのグループパラメーターを用いて算出される値である。
【0112】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分40〜90質量部の存在下で、(Y)成分0.5〜10質量部が重合し、更に、(Z)成分5〜50質量部が重合することで得られる。(X)〜(Z)成分の合計量は100質量部である。特に(X)成分の割合は60〜80質量部であることが好ましく、60〜75質量部であれば更に好ましい。(Y)成分の割合は1〜5質量部であることが好ましく、2〜4質量部であれば更に好ましい。(Z)成分の割合は15〜39質量部であることが好ましく、21〜38質量部であれば更に好ましい。
【0113】
(X)成分の割合が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。(Y)成分が少なすぎる場合、成形品の難燃化効果および耐衝撃性改良効果が低くなり、多すぎる場合は成形品の耐衝撃性改良効果が低くなる。(Z)成分が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも成形品の難燃化効果が低くなる。
【0114】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、公知のシード乳化重合により製造され得る。例えば、(X)成分のラテックス中で(Y)成分がラジカル重合し、更に、(Z)成分がラジカル重合することで、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が得られる。(Y)成分および(Z)成分は、いずれも1段階で重合しても2段階以上で重合してもよい。
【0115】
前記ラジカル重合にあたっては、ラジカル重合開始剤を熱分解することにより反応を進行させる方法、還元剤を使用するレドックス系で反応を進行させる方法など、適宜の方法が採用され得る。重合時の反応温度は30〜120℃が好ましい。
【0116】
ラジカル重合開始剤としては、反応性の高さから、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサンノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどの有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物などが、使用されることが好ましい。ラジカル重合開始剤の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100部に対して、0.005〜20部、さらには0.01〜10部であり、特に0.03〜5部であることが好ましい。
【0117】
一方、レドックス系で使用される還元剤としては、硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/エチレンジアミン酢酸塩などの混合物などが、挙げられる。
【0118】
ラジカル重合の際に連鎖移動剤が使用されてもよい。連鎖移動剤の具体例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。連鎖移動剤が使用される場合の使用量は、(Y)成分あるいは(Z)成分100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0119】
前記重合では、(X)成分がビニル系重合性基を含有する場合には(Y)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(Y)成分が(X)成分のビニル系重合性基と反応することにより、グラフトが形成される。(X)成分にビニル重合性基が存在しない場合、特定のラジカル開始剤、例えばt−ブチルパーオキシラウレートなどが用いられると、ケイ素原子に結合したメチル基などの有機基から水素が引き抜かれることで生成するラジカルによって(Y)成分が重合してグラフトが形成される。さらに(Z)成分がラジカル重合開始剤によって重合する際に、(Y)成分と同じように(X)成分と反応するだけでなく、(Y)成分によって形成された重合体中に存在する不飽和結合にも反応して(Z)成分によるグラフトが形成される。
【0120】
乳化重合等によって得られるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、ラテックスから分離されてもよく、分離されなくてもよい。ラテックスからポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を分離する方法としては、通常の方法、例えば、ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法が採用され得る。スプレー乾燥法が採用されてもよい。
【0121】
尚、(X)成分の存在下での(Y)成分および(Z)成分の重合時には、グラフト共重合体の枝にあたる部分(ここでは、(Y)成分および(Z)成分の重合体)が幹成分(ここでは(X)成分)にグラフトせずに枝成分だけで単独に重合して得られるいわゆるフリーポリマーも副生し、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体とフリーポリマーの混合物が得られる。この両者を併せてポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体という。
【0122】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、(X)成分に(Y)成分がグラフトし、さらに(Z)成分が(X)成分だけでなく(Y)成分によって形成された重合体にもグラフトしている構造を有するため、フリーポリマーの量が少なくなる。このポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体のアセトン不溶分量(ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1gをアセトン80mlに室温で48時間浸漬した場合のアセトン不溶分量)は、80%以上、さらには85%以上であることが、成形品の難燃性向上のために好ましい。
【0123】
このようなポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体は、市販品として入手可能である。市販されているポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体としては、例えば株式会社カネカ製の商品名カネエースMR01、カネエースMR02等が挙げられる。
【0124】
ポリ乳酸樹脂組成物がエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムを含有する場合、その含有量は3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
【0125】
エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、アクリル酸アルキル、シリル基末端ポリエーテル、及びグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体が挙げられる。このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムは、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)と、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との複合物であってもよい。この場合、アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体と、グリシジル基含有ビニル系化合物の重合体との全部若しくは一部が共重合していてもよい。
【0126】
このエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのコア層はアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体から構成され、シェル層はグリシジル基含有ビニル系化合物の重合体から構成される。この多層構造重合体は、例えばアクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体のラテックスにグリシジル基含有ビニル系化合物が添加されてグラフト重合することで得られる。
【0127】
(メタ)アクリル酸アルキルとシリル基末端ポリエーテルとの共重合体(シリコーンアクリル複合ゴム)の代表的な一例の構造式を下記式[化2]に示す。この構造式の左部分が(メタ)アクリル酸アルキルに由来する(メタ)アクリル酸アルキル単位であり、右側部分がシリル基末端ポリエーテルに由来するシリル基末端ポリエーテル単位である。
【0128】
【化2】

【0129】
グリシジル基含有ビニル系化合物の代表的な一例の構造式を下記式[化3]に示す。
【0130】
【化3】

【0131】
(メタ)アクリル酸アルキルとしては、具体的には、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル;メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸オクタデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸クロロメチル、メタアクリル酸2−クロロエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル;メタアクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタアクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。これらの化合物のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0132】
シリル基末端ポリエーテルとしては、末端にシリル基を有するポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリエーテルが用いられる。前記シリル基としては、具体的には、メチルシリル基、エチルシリル基、プロピルシリル基、ブチルシリル基などのアルキルシリル基、3−クロロプロピルシリル基、3,3,3−トリフルオロプロピルシリル基などのハロゲン化アルキルシリル基、ビニルシリル基、アリルシリル基、ブテニルシリル基などのアルケニルシリル基、フェニルシリル基、トリルシリル基、ナフチルシリル基などのアリールシリル基、シクロペンチルシリル基、シクロヘキシルシリル基などのシクロアルキルシリル基、ベンジルシリル基、フェネチルシリル基などのアリール−アルキルシリル基などが挙げられる。このようなシリル基末端ポリエーテルのうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0133】
グリシジル基含有ビニル系化合物としては、メタアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルまたは4−グリシジルスチレンなどが挙げられる。これらの化合物のうち一種のみが用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0134】
このようなエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムとしては、市販品が適宜使用され得る。その具体例としては、グリシジルメタクリレートをシェルに含有するコアシェル構造体である三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンS2200が挙げられる。
【0135】
ポリ乳酸樹脂組成物は、Siを含有するコアシェルゴム以外のコアシェルゴム、すなわちSiを含有しないコアシェルゴムを含有してもよい。Siを含有しないコアシェルゴムの例として、不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体が挙げられる。
【0136】
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体が使用される場合、不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体は、Siを含有するコアシェルゴムの機能の全部又は一部をSiを含有するコアシェルゴムに代わって発揮し得る。尚、この場合、コスト面でも有利となる。
【0137】
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体を得るために用いられる不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。ジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン等の、ガラス転移点が10℃以下のゴムが挙げられる。芳香族ビニルとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレン等の核置換スチレンが挙げられる。これら不飽和カルボン酸アルキルエステル、ジエン系ゴム、芳香族ビニルは、それぞれ1種または2種以上使用することができる。
【0138】
この不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の代表例として、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)が挙げられる。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体は、ブタジエン・スチレン重合体で構成されるコア層と、メタクリル酸メチル重合体で構成されるシェル層とを備える多層構造重合体であることが好ましい。
【0139】
ブタジエン・スチレン重合体の構造式を下記式[化4]に示す。この構造式の左側部分がブタジエンに由来するブタジエン単位であり、右側部分がスチレンに由来するスチレン単位である。
【0140】
【化4】

【0141】
シェル層を構成するメタクリル重合体の構造式を下記式[化5]に示す。
【0142】
【化5】

【0143】
不飽和カルボン酸アルキルエステル−ジエン系ゴム−芳香族ビニルグラフト共重合体の製造法としては、例えば塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種方法が挙げられる、特に、乳化重合法が好適である。このようにして得られるコアシェルタイプグラフトゴム状弾性体は、前記ジエン系ゴム成分を50質量%以上含有していることが好ましい。
【0144】
このようなメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体として、市販品が適宜使用されてもよい。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体の好適な具体例としては、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンC−223A、メタブレンC−323A、メタブレンC−215A、メタブレンC−201A、メタブレンC−202、メタブレンC−102、メタブレンC−140A、メタブレンC−132等、株式会社カネカ製の商品名カネエースM−600、ローム・アンド・ハース株式会社製の商品名パラロイドEXL−2638等が挙げられる。
【0145】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含有してもよい。この場合、射出成形品の耐久性が更に向上する。ポリ乳酸樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂の含有量は適宜設定されるが、特に1〜20質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であると成形品の耐久性が向上する。この含有量は更に10質量%以上であることが好ましい。またこの含有量が20質量%以下であれば樹脂成分全体に対するポリ乳酸樹脂の比率が下がりすぎず、ポリ乳酸樹脂の特徴である生分解性が充分に発揮されるようになる。
【0146】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば二価フェノールとカーボネート前駆体とが反応することで得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などが挙げられる。
【0147】
二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが、挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも成形品の靭性を向上させることができる点でビスフェノールA(BPA)が特に好ましい。
【0148】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステル、ハロホルメートなどが挙げられる。具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0149】
二価フェノールとカーボネート前駆体から界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂が製造される際には、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止のための酸化防止剤などが使用されてもよい。
【0150】
ポリカーボネート樹脂として、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにこの二官能性カルボン酸及び二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂などが用いられてもよい。また、ポリカーボネート樹脂として2種以上のポリカーボネート樹脂が用いられてもよい。
【0151】
分岐ポリカーボネート樹脂が使用される場合、ポリ乳酸樹脂組成物の溶融張力が増加し、それにより押出成形、発泡成形、ブロー成形等における成形加工性が改善する。その結果、寸法精度により優れる成形品が得られる。分岐ポリカーボネート樹脂を得るために使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。その他の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、及びこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0152】
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位の割合は、二価フェノールから誘導される構成単位とこの多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.03〜1モル%、好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。また、この分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、この分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0153】
一方、脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールが好適であり、例えば、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。さらに、ポリオルガノシロキサン単位を共重合したポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0154】
ポリカーボネート樹脂として、二価フェノール成分が異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等が2種以上用いられてもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等が2種以上用いられてもよい。
【0155】
ポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献及び特許公報などで良く知られている方法である。
【0156】
ポリカーボネート樹脂として、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネートが用いられてもよい。使用済みの製品としては防音壁、ガラス窓、透光屋根材、自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。殊に自動車ヘッドランプレンズや光記録媒体などは下記粘度平均分子量のより好ましい条件を満足するため好ましい態様として挙げられる。尚、上記のバージン原料とは、その製造後に未だ市場において使用されていない原料である。
【0157】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1×10〜5×10、より好ましくは1.4×10〜3×10、更に好ましくは1.8×10〜2.5×10である。粘度平均分子量が1.8×10〜2.5×10の範囲においては、ポリ乳酸樹脂組成物が特に良好な流動性と成形品の耐衝撃性との両立に優れる。最も好適には、粘度平均分子量が1.9×10〜2.4×10の範囲である。尚、この粘度平均分子量はポリカーボネート樹脂全体が満足すればよく、分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物がこの範囲を満足してもよい。
【0158】
粘度平均分子量の算出にあたっては、まず次式(a)にて算出される比粘度を、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解して調製される試料溶液についてのオストワルド粘度計による測定結果から求める。次に得られた比粘度から、次式(b)〜(d)を用いて粘度平均分子量Mを求める。
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t …(a)
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度) …(b)
[η]=1.23×10−40.83 …(c)
c=0.7 …(d)
(他の熱可塑性樹脂)
ポリ乳酸樹脂組成物中には、上記以外の種々の熱可塑性樹脂が含まれてもよい。例えばポリ乳酸樹脂組成物が、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(いわゆるPET−G樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂などの芳香族ポリエステル樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリカプロラクトン樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂に代表される熱可塑性フッ素樹脂;ポリエチレン樹脂、エチレン−(α−オレフィン)共重合体樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレン−(α−オレフィン)共重合体樹脂などを含有してもよい。ポリ乳酸樹脂組成物中には前記のような樹脂が一種のみ含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。このような種々の熱可塑性樹脂により、射出成形品の耐衝撃性が更に向上し得る。これらの熱可塑性樹脂が使用される場合、その含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物に対して3〜12質量%の範囲であることが好ましい。
【0159】
(充填材等)
ポリ乳酸樹脂組成物は充填材を含有してもよい。充填材としては、例えば、タルク、ワラストナイト、マイカ、クレー、モンモンリロナイト、スメクタイト、カオリン、ゼオライト(珪酸アルミニウム)、ゼオライトを酸処理及び加熱処理して得られる無水非晶質珪酸アルミニウムなどの無機充填材が挙げられる。特にタルク、ワラストナイトが好ましい。これらの充填剤のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0160】
タルクとしては、樹脂成形材料のフィラー材として一般的に使用されているタルクが挙げられる。市販されている適宜のタルクが使用可能である。タルクの平均粒径は、通常は0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)などを用いるレーザー回折散乱法により測定される値である。
【0161】
ポリ乳酸樹脂組成物中のタルクの含有量は特に制限されないが、1〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であれば成形品の引張り弾性率が向上し、この含有量が30質量%以下であればポリ乳酸樹脂組成物の混練時におけるスクリューへのタルクの食い込みが抑制されて、良好な加工性、成形性が維持される。このタルクの含有量は、好ましくは1〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは3〜8質量%の範囲である。この含有量が8質量%以下であると、複雑な形状の成形品を得る場合であってもウエルドやフローマークの発生が充分に抑制され、この含有量が3質量%以上であるとタルクの添加の効果が特に発揮される。
【0162】
ポリ乳酸樹脂組成物は着色剤として染料や顔料などを含有してもよい。染料としては、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、ジアミノスチルベン系蛍光染料などの、蛍光染料(蛍光増白剤を含む);ペリレン系染料;クマリン系染料;チオインジゴ系染料;アンスラキノン系染料;チオキサントン系染料;紺青等のフェロシアン化物;ペリノン系染料;キノリン系染料;キナクリドン系染料;ジオキサジン系染料;イソインドリノン系染料;フタロシアニン系染料などが挙げられる。蛍光染料のうちでは、耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、及びペリレン系蛍光染料が好適である。顔料としては、金属被膜または金属酸化物被膜を有する各種板状フィラーなどのメタリック顔料、カーボンなどが、使用可能である。
【0163】
ポリ乳酸樹脂組成物中の着色剤の含有量は、樹脂成分の合計量100質量部に対して、2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であれば更に好ましい。更に、着色剤の含有量は、樹脂成分の合計量100質量部に対して、0.00001質量部以上であれば好ましく、0.00005質量部以上であれば更に好ましく、0.5質量部以上であれば更に好ましい。
【0164】
(その他)
ポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の目的に反せず、その効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の、公知の添加剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸オクタデシル、及びビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル−フェニル)ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。これらの添加剤は、ポリ乳酸樹脂組成物の混練時に加えられても、成形時等に加えられてもよい。
【0165】
[ポリ乳酸樹脂組成物及び射出成形品]
ポリ乳酸樹脂組成物は、上記のようなポリ乳酸樹脂組成物の原料が任意の方法で混合、混練されることによって調製される。前記混合、混練にあたっては、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等が用いられるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。
【0166】
例えばポリ乳酸樹脂組成物の調製にあたって、ポリ乳酸樹脂組成物の原料をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、原料のうちの一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法が採用されてもよい。また、原料の一部を溶融混練機に供給した後、残りの原料を溶融押出機の途中から供給する方法が採用されてもよい。溶融混練に際しての加熱温度は、200〜260℃の範囲であることが好ましい。
【0167】
尚、原料中に液状の成分がある場合には、溶融押出機への液状の成分の供給の際に、いわゆる液注装置、液添装置等が使用されてもよい。このような液注装置や液添装置には加温装置が設けられていることが好ましい。そのため溶融押出機は、液体注入用の原料供給口を持つことが好ましい。例えば溶融押出機へ液状の成分が供給される際は、液状の成分が、ギアポンプ等の公知の液体運搬装置によって、通常の溶融押出機のバレルに形成されているフィード口から、押溶融押出機内の吐出圧以上の圧力で供給されることが好ましい。
【0168】
ポリ乳酸樹脂組成物が必要に応じてペレット状に成形されてもよい。例えば溶融押出機により押し出されたポリ乳酸樹脂組成物が直接切断されてペレット化され、或いはこのポリ乳酸樹脂組成物のストランドが形成された後、このストランドがペレタイザー等で切断されてペレット化されることで、ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物が得られてもよい。ペレット化に際して外部の埃などの影響が低減される必要がある場合には、溶融押出機の周囲の雰囲気が清浄化されることが好ましい。ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物の形状は、円柱、角柱、球状などの一般的な形状でよいが、より好適には円柱状である。円柱状のポリ乳酸樹脂組成物の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱状のポリ乳酸樹脂組成物の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0169】
ポリ乳酸樹脂組成物が射出成形されることで射出成形品が得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、二色成形、サンドイッチ成形、超高速射出成形などが採用されてもよい。
【0170】
ポリ乳酸樹脂組成物の射出成形にあたっては、適宜の射出成形装置が使用され得る。特に、射出時の金型のキャビティ表面温度が上記のように制御されるためは、電気式のヒータを備える金型が用いられることが好ましい。この場合、ポリ乳酸樹脂組成物の射出時に、電気式のヒータによってキャビティ表面の温度が正確且つ速やかに調整される。
【0171】
このようにして得られる射出成形品中のポリ乳酸は結晶化が進行しにくいため、射出成形品の高温環境下における経時的な熱収縮が大きく抑制される。しかも、射出成形時にポリ乳酸の結晶化を進行させる必要がないため成形サイクルが短くなると共に、射出成形品にウエルド及びフローマークが生じにくくなる。更に、この射出成形品は充分に高い耐久性、耐衝撃性、耐熱性等の、成形品に必要とされる特性を有するようになる。このため、射出成形品は、長期間の使用が想定される家電分野や建材、サニタリー分野など、広範囲の分野に使用され得る。
【0172】
射出成形品の特に好ましい具体例としては、携帯電話機、スマートフォン等の電子機器機用ホルダーの外装などの電子機器用筐体や、携帯電話機などの電子機器における内部シャーシ部品などの内部部品が挙げられる。
【0173】
図1に、射出成形品1の一例として、電子機器用ホルダー2を示す。電子機器用ホルダー2は卓上等において携帯電話機等の電子機器を保持固定する機能を有し、或いは更に電子機器内のバッテリーを充電するための充電器としての機能を併せ持つ。この電子機器用ホルダー2には、電子機器が載置される領域(載置領域3)と、この載置領域3の外縁から突出する保持リブ4とが形成されている。載置領域3上に載置される電子機器が更に保持リブ4によって支えられることで、電子機器が電子機器用ホルダー2に保持固定される。このため、電子機器用ホルダー2は、電子機器の形状及び寸法と合致するように形成される。電子機器用ホルダー2はこのような構造には限られず、電子機器を保持可能な適宜の構造を有していればよいが、そのために電子機器の形状及び寸法と合致するように形成される。
【0174】
このような電子機器用ホルダー2が高温に曝されることで経時的に熱収縮すると、電子機器用ホルダー2が変形してしまって、電子機器が保持固定されなくなってしまう。例えば、電子機器用ホルダー2が自動車内に放置されると長時間高温下に曝されることがあり、このような場合に熱収縮が生じてしまうと電子機器用ホルダーに電子機器が保持固定されなくなってしまう。しかしながら、電子機器用ホルダー2が本実施形態によるポリ乳酸樹脂組成物から射出成形により形成される射出成形品1であると、電子機器用ホルダー2に熱収縮が生じにくくなり、長期に亘る使用が可能となる。特に電子機器用ホルダー280℃の雰囲気下に48時間曝露された場合であっても熱収縮が充分に抑制されることが好ましい。更に、電子機器用ホルダー2が80℃の雰囲気下に48時間曝露された場合であって白化の発生が充分に抑制されることが好ましい。
【0175】
射出成形品には、各種の表面処理が施されてもよい。表面処理としては、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、めっき(電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなど)、塗装、コーティング、印刷などの、成形品の表面上に新たな層を形成する処理が挙げられる。表面処理の具体例としては、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、メタライジング(蒸着など)などが挙げられる。
【実施例】
【0176】
[製造例]
Lラクチド及びDラクチドの混合物を、金属重合触媒及びアルコールの存在下で、窒素雰囲気下、撹拌翼を備える反応機内で加熱することで反応させた後、反応機内を減圧して混合物中に残存するラクチドを除去した。更にこの混合物をチップ化することで、ポリ乳酸を調製した。このポリ乳酸の調製にあたり、LラクチドとDラクチドの配合比を変更することで、D−乳酸単位の割合が11.6モル%、重量平均分子量が10.9万、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(190℃ 2.16kg)が10.8g/10分のポリ乳酸(ポリ乳酸A)、並びにD−乳酸単位の割合が8.6モル%、重量平均分子量が11.4万、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(190℃ 2.16kg)が7.0g/10分のポリ乳酸(ポリ乳酸B)を得た。
【0177】
[実施例及び比較例]
各実施例及び比較例について、下記表に示す成分を用い、樹脂成分については予め乾燥処理を施した上で、これらの成分をタンブラーで10分間混合した。得られた混合物を二軸押出機で、ダイス付近温度190℃、投入口付近温度200℃の条件で押し出してストランドを得た。
【0178】
このストランドを速やかに冷却槽で冷却した後、カッターで切断して、長さ2〜4mmのペレット状の樹脂組成物を得た。
【0179】
この樹脂組成物を、除湿乾燥機にて80℃で4時間加熱することにより乾燥処理を施した後、100トン射出成形機及びISO準拠試験片金型(カラープレート、60mm×60mm×2mm、2個取り)を用い、シリンダーの温度をヘッド付近で230℃、材料投入口付近で220℃に設定すると共に、金型温度を70℃に設定して射出成形し、成形品を得た。
【0180】
[ポリ乳酸の結晶化評価]
各実施例及び比較例で使用したポリ乳酸A〜Eを100℃で2時間加熱した。加熱後のポリ乳酸の示差走査熱量測定(DSC)を行った。その結果を図2に示す。図中の符号Aはポリ乳酸Aについての結果を、Bはポリ乳酸Bについての結果を、Cはポリ乳酸Cについての結果を、Dはポリ乳酸Dについての結果を、Eはポリ乳酸Eについての結果を、それぞれ示す。この結果に示すように、ポリ乳酸D及びポリ乳酸Eでは160℃付近に融解による吸熱ピーク(図中の符号P)が認められたのに対し、ポリ乳酸A〜Cではこのような吸熱ピークは認められなかった。これにより、ポリ乳酸D及びポリ乳酸Eは加熱されることで結晶化したのに対して、ポリ乳酸A〜Cは加熱されても結晶化しないことが確認された。
【0181】
[成形サイクル評価]
各実施例及び比較例につき、樹脂組成物の射出成形時に一点ゲートの金型を用い、成形品の寸法を60mm×60mm×2mmとした。また、射出成形時の金型温度は70℃に設定した。この場合の金型への樹脂組成物の射出後、金型から成形品を変形が生じることなく取り出すことが可能となるまでに要した保持時間(冷却時間)を測定し、これを成形サイクルの指標とした。
【0182】
[外観評価]
各実施例及び比較例につき、樹脂組成物の射出成形時に2点ゲートの金型を用い、成形品の寸法を60mm×60mm×1mmとした。この場合の成形品中央部でのウエルドの有無を確認した。各実施例及び比較例において100個のサンプルについて試験をおこない、ウエルド又はフローマークが認められたサンプル数(不良数)で評価した。
【0183】
[熱安定性]
各実施例及び比較例において、成形品を得るにあたり、射出成形を200ショット連続しておこなった。この場合の、表面に汚れが認められる成形品の数を確認し、これを熱安定性の指標とした。
【0184】
[耐衝撃性評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品のノッチ付きのシャルピー衝撃値を、ISO 179に従って測定した。
【0185】
[耐熱性評価]
各実施例及び比較例における成形品の荷重たわみ温度を、ISO 75−1及び75−2に従って測定した。測定荷重は0.45MPaとした。
【0186】
[耐久性評価]
各実施例及び比較例で得られた成形品を60℃、95%RHの雰囲気下に曝露した後、この成形品の引張強度を、ISO 179に従って測定した。この試験を曝露時間を変化させて実行することで、曝露後の成形品の引張強度が曝露前の成形品の引張り強度の90%以下に達する最短の曝露時間を特定し、これを耐久性の指標とした。
【0187】
[寸法安定性評価]
各実施例及び比較例の成形に使用した金型の寸法(a)と、成形品の寸法(b)とを比較して、次の式により成形収縮率を算出した。
【0188】
{(b−a)/b}×100(%)
[80℃処理後の外観]
成形品を80℃の雰囲気下に48時間曝露する処理を施した。処理前の成形品と処理後の成形品の外観を目視で観察して比較した。
【0189】
その結果、外観に特に変化が認められない場合を○、処理後の成形体の表面に白化が生じた場合を×と評価した。
【0190】
[後収縮率]
成形品を80℃の雰囲気下に48時間曝露する処理を施した。処理前の成形品の寸法(a)及び処理後の成形品の寸法(b)から、次の式により成形収縮率を算出した。
【0191】
{(b−a)/b}×100(%)
[評価結果]
以上の評価試験の結果を、各実施例及び比較例における配合組成と共に下記表に示す。下記の結果のとおり、各実施例では、成形サイクルが短いにもかかわらず、後収縮が小さく、経時的な熱収縮の小さい射出成形品が得られた。
【0192】
【表1】

【0193】
【表2】

【0194】
【表3】

【0195】
【表4】

【0196】
【表5】

【0197】
表1に示される各成分の詳細は次の通りである。
・ポリ乳酸A:製造例で得られたポリ乳酸A、D−乳酸単位の割合11.6モル%、分子量分布には一つのピークのみが存在する。
・ポリ乳酸B:製造例で得られたポリ乳酸B、D−乳酸単位の割合8.6モル%、分子量分布には一つのピークのみが存在する。
・ポリ乳酸C:Nature Works LLC社製、商品名NatureWorks4060D、D−乳酸単位の割合12モル%、分子量分布には三つのピークが存在する。
・ポリ乳酸D:浙江省海正生物材料股▲ふん▼有限公司製、商品名REVODE101、D−乳酸単位の割合5モル%。
・ポリ乳酸E:浙江省海正生物材料股▲ふん▼有限公司製、商品名REVODE110、D−乳酸単位の割合3モル%。
・ABS樹脂A:アクリロニトリル単位割合23質量%、スチレン単位割合60質量%、ブタジエン単位割合17.5質量%、乳化重合による合成品、平均粒径0.30μm。
・ABS樹脂B:アクリロニトリル単位割合23質量%、スチレン単位割合60質量%、ブタジエン単位割合17.5質量%、乳化重合による合成品、平均粒径0.30μmおよび0.1μmの混合品。
・ABS樹脂C:アクリロニトリル単位割合23質量%、スチレン単位割合62質量%、ブタジエン単位割合14.5質量%、乳化重合による合成品、平均粒径0.30μm。
・ABS樹脂D:アクリロニトリル単位割合20.5質量%、スチレン単位割合69.0質量%、ブタジエン単位割合10.5質量%、バルク重合による合成品、平均粒径0.46μm。
・PMMA1:ポリメチルメタクリレート、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(230℃ 3.8kg)16g/10分、重量平均分子量7万、ISO 306に規定される荷重たわみ温度78℃。
・PMMA2:ポリメチルメタクリレート、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(230℃ 3.8kg)8.0g/10分、重量平均分子量8万、ISO 306に規定される荷重たわみ温度82℃。
・PMMA3:ポリメチルメタクリレート、ISO ASTM D1238に規定されるメルトフローレート(230℃ 3.8kg)1.8g/10分、重量平均分子量10万、ISO 306に規定される荷重たわみ温度87℃。
・カルボジイミド化合物A:ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)。
・カルボジイミド化合物B:ジイソプロピルフェニルカルボジイミド。
・エラストマー:メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体、三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンP530A。
コアシェルゴム:三菱レイヨン株式会社製の商品名メタブレンS2200。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、及びABS樹脂を含有し、
前記ポリ乳酸の割合が3〜40質量%の範囲、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜17質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸がD−乳酸単位を8〜15モル%の割合で含むポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸、ポリメタクリル酸メチル樹脂、及びABS樹脂を含有し、
前記ポリ乳酸の割合が3〜40質量%の範囲、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜17質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸が、100℃で2時間加熱されても結晶化しないポリ乳酸であるポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸の割合が5〜40質量%の範囲である請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が2〜17質量%の範囲である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリ乳酸の割合が23〜35質量%の範囲であり、
前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が3〜17質量%の範囲である請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリ乳酸の割合が8〜15質量%の範囲であり、
前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が1〜17質量%の範囲である請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリ乳酸の割合が3〜8質量%の範囲であり、
前記ポリメタクリル酸メチル樹脂の割合が0.5〜3質量%の範囲である請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
前記ABS樹脂の含有量が、前記ポリ乳酸、前記ポリメタクリル酸メチル樹脂及び、前記ABS樹脂の合計量に対して50質量%以上である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
前記ABS樹脂を構成するスチレン単位の割合が55〜70質量%の範囲、ブタジエン単位の割合が8〜23質量%の範囲である請求項1乃至8のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物
【請求項10】
カルボジイミド化合物を更に含有する請求項1乃至9のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項11】
メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとの共重合体を更に含有する請求項1乃至10のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
コアシェルゴムを更に含有する請求項1乃至11のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物を準備し、前記ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形する射出成形品の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形することにより形成される射出成形品。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形することにより形成される電子機器用ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144694(P2012−144694A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182203(P2011−182203)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】