説明

ポリ乳酸用造核剤及びポリ乳酸樹脂組成物

【課題】ポリ乳酸の結晶化を促進し、耐熱性や成形性を向上させることのできるポリ乳酸用造核剤及びそれを用いたポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ニコチン酸ヒドラジドとセバシン酸ジクロライドとを反応させて下記ジヒドラジド(II)を得る。このジヒドラジド(II)をポリ乳酸に少量添加した場合、優れた結晶化促進作用を示し、結晶化温度を上げる作用を奏する。このため、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性や成形性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の結晶化を促進し、耐熱性や成形性を向上させることのできるポリ乳酸用造核剤及びそれを用いたポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の見地から、自然環境中で微生物等により分解され得る生分解性樹脂が注目を集めており、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート等様々な生分解性樹脂が実用化されている。その中でも、ポリ乳酸は、強靭で硬質塩化ビニル樹脂と同等の硬度を持つ等、優れた機械的特性を有し、さらには透明性も有していることから、生分解性樹脂の中でも実用化が進んでいる。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は耐熱性が低く、例えば、包装容器として用いた場合には、熱湯を入れたり、電子レンジで暖めたりすることができないといった問題がある。このため、成形時における金型の冷却速度を遅くしたり、成形後にアニール処理を施したりして結晶化度を高め、耐熱性を向上させることがなされている。しかし、このような方法では、成型品に手間や時間がかかり、ひいては成型品の製造コストの高騰化を招来することとなる。
【0004】
このため、ポリ乳酸系樹脂に造核剤(結晶化剤と称されることもある)を添加し、ポリ乳酸の結晶化を促進させたり、結晶化温度を低下させたりして、上記問題を解決することが試みられている。このような造核剤としては、例えば乳酸カルシウム(特許文献1)、乳酸塩及び安息香酸塩(特許文献2)等が報告されている。しかし、これらの化合物は、結晶化の促進作用は低く、耐熱性や耐衝撃性の向上効果も小さいといわれている(特許文献3)。
【0005】
また、特許文献4にはポリグリコール酸及び/又はその誘導体を造核剤としてポリ乳酸に添加することによって、結晶化速度を速め、射出成型サイクルを短縮できるとしている。さらに、特許文献5〜7には、ポリ乳酸又は脂肪族ポリエステルに、芳香族又は脂肪族カルボン酸アミド化合物を混合することにより、結晶性、透明性及び耐熱性に優れた成形体が得られると記載されている。
【0006】
しかし、上記特許文献3の記載によれば、上記特許文献4〜7に記載された造核剤について、そのような効果が確認できなかったとしている。そして、新たな造核剤として、鎖状アミド、環状アミド、鎖状ヒドラジド及び環状ヒドラジドが優れた結晶化促進効果を示すことが記載されている。
【0007】
また、特許文献8では、アミド化合物やヒドラジド化合物を造核剤とし、フェノール系の酸化防止剤を併用することにより、結晶化温度125°C、結晶化熱量40J/g以上という結果を得ている。
【0008】
【特許文献1】特表平5−504731号公報(国際公開第90/001521号パンフレット)
【特許文献2】特表平6−504799号公報
【特許文献3】特開平8−193165号公報
【特許文献4】特開平4−220456号公報
【特許文献5】特開平9−278991号公報
【特許文献6】特開平10−87975号公報
【特許文献7】特開平11−5849号公報
【特許文献8】特開2004−352873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、ポリ乳酸の結晶化を促進し、耐熱性や成形性を向上させることのできるポリ乳酸用造核剤及びそれを用いたポリ乳酸樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、従来ポリ乳酸系樹脂の造核剤として知られているヒドラジン化合物について、特に優れた効果を有する構造上の要件について鋭意研究を行った。その結果、ニコチン酸ヒドラジド誘導体やイソニコチン酸ヒドラジド誘導体に、ポリ乳酸系樹脂の造核剤としの優れた効果があることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記(a)〜(d)の官能基を有する化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【化1】

【0012】
発明者らの試験結果によれば、上記(a)〜(d)の官能基を有する化合物をポリ乳酸に添加した場合、結晶化温度や結晶化熱量を顕著に高めることができ、耐熱性や成形性を向上させることができる。こうした効果は、上記(a)〜(d)の官能基におけるピリジン環をベンゼン環に置換した官能基を有する化合物(上記特許文献8にポリ乳酸系造核剤合物として記載されている)の効果よりも優れていた。この理由として、ピリジン環は塩基性の窒素を有しており、この窒素がポリ乳酸と水素結合を形成するため、結晶化温度が上昇するものと考えられる。
【0013】
また、本発明の第1の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、ニコチン酸ヒドラジドやイソニコチン酸ヒドラジドを原料とし、カルボン酸クロライドやイソシアネート等の親電子試薬と反応させることにより、容易かつ定量的に得ることができる。また、カルボン酸クロライド等の親電子試薬の構造を替えることによって、様々なバリエーションの化合物を得ることができる。
【0014】
本発明の第2の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記構造式(1)〜(4)のいずれかで示される化合物(ただし、式中Rは分枝してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示す)の少なくとも1種を含むものとした。
【化2】

【0015】
本発明の第3の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記構造式(5)〜(10)で示される化合物(ただし、式中nは1〜20の整数)の少なくとも1種を含むこととした。
【化3】

【0016】
本発明の第5の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記構造式(11)〜(17)で示される化合物の少なくとも1種を含むこととした。
【化4】

【0017】
本発明の第6の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記構造式(18)〜(27)で示される化合物(ただし、式中nは2〜10の整数)の少なくとも1種を含むこととした。
【化5】

【0018】
本発明の第7の局面のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、下記構造式(28)又は(29)で示される化合物(ただし、式中R,Xは水素又はアルキル基ハロゲン基、ニトロ基、メトキシ基を示す)の少なくとも1種を含むこととした。
【化6】

【0019】
本発明のポリ乳酸系樹脂用造核剤をポリ乳酸系樹脂に加えることにより、ポリ乳酸系樹脂の耐熱性及び成形性が優れたものとなる。すなわち、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、請求項1乃至7のポリ乳酸系樹脂用造核剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のポリ乳酸系樹脂用造核剤は、ポリ乳酸あるいはポリ乳酸系樹脂に添加して用いることができる。ポリ乳酸は、使用者が自ら合成してもよいが、入手のし易さから市販されているものを用いることも可能である。具体的には、Cargill−DOW社製のNature Works(登録商標)、トヨタ自動車(株)製のU’z(登録商標)、UCC社製のTONE(登録商標)、島津製作所(株)製のラクティ(登録商標)、ユニチカ( 株)製のテラマック(登録商標)、三井化学(株)製のレイシア(登録商標)、カネボウ合繊社製ラクトロン(登録商標)、三菱樹脂社製のエコロージュ(登録商標)、クラレ(株)社製のプラスターチ(登録商標)、東セロ(株)社製のパルグリーン(登録商標)等が挙げられる。
【0021】
また、ポリ乳酸とは、実質的にL−乳酸及び/又はD−乳酸がエステル結合で重合している高分子をいう。ここで「実質的」にとは、本発明の効果を損なわない程度範囲で、L−乳酸またはD−乳酸以外の他のモノマー単位を含んでいても良いという意味である。
【0022】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて副次的な添加物を加えて様々な改質を行うことが可能である。副次的な添加物の例としては、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、抗菌剤、安定剤、静電剤、核形成材、各種フィラー等その他の類似のものが挙げられる。
【0023】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
ジヒドラジド(I)の合成
【化7】

500mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド13.7g(0.10mol)とトリエチルアミン12.1g(0.12mol)、300mlのDMFを入れ、50mlのDMFに溶かしたサクシニルクロライド7.8g(0.050mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(I)の粗生成物を得た。(収量16.1g、収率 90%)再結晶はメタノールより行なった。(融点235℃)
【0024】
(実施例2)
ジヒドラジド(II)の合成
【化8】

500mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド11.0g(0.080mol)とトリエチルアミン9.7g(0.096mol)と250mlのDMFを入れ、50mlのDMFに溶かしたセバシン酸クロライド9.6g(0.040mol)を0°Cで滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応させ、反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(II)の粗生成物を得た(収量17.9g、収率95%)。再結晶はメタノールより行なった(融点217℃)。
【0025】
(実施例3)
ジヒドラジド(III)の合成
【化9】

500mlの三口フラスコにイソニコチン酸ヒドラジド11.0g(0.080mol)とトリエチルアミン9.7g(0.096mol)と、250mlのDMFとを入れ、50mlのDMFに溶かしたセバシン酸クロライド9.6g(0.040mol)を0°Cで滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(III)の粗生成物を得た。(収量17.3g、収率91%)再結晶はメタノールより行なった。(融点220℃)
【0026】
(実施例4)
ジヒドラジド(IV)の合成
【化10】

500mllの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド13.7g(0.10mol)とトリエチルアミン12.1g(0.12mol)、300mlのDMFを入れ、50mlのDMFに溶かしたテレフタロイルクロライド10.2g(0.050mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(IV)の粗生成物を得た。(収量17.3g、収率86%)再結晶はメタノールより行なった。(融点325℃)
【0027】
(実施例5)
ジヒドラジド(V)の合成
【化11】

300mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド5.5g(0.040mol)とトリエチルアミン4.9g(0.048mol)、150mlのDMFを入れ、50mlのDMFに溶かしたイソフタロイルクロライド4.1g(0.020mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(V)の粗生成物を得た。(収量7.1g、収率88%)再結晶はメタノールより行なった。(融点291℃)
【0028】
(実施例6)
ジヒドラジド(VI)の合成
【化12】

300mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド5.5g(0.040mol)とトリエチルアミン6.1g(0.060mol)、100mlのDMFを入れ、50mlのDMFに溶かしデカノイルクロライド7.6g(0.040mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ジヒドラジド(VI)の粗生成物を得た。(収量9.6g、収率82%)再結晶は水−メタノールより行なった。(融点117℃)
【0029】
(実施例7)
ヒドラジド(VII)の合成
【化13】

300mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド6.9g(0.050mol)とトリエチルアミン6.1g(0.060mol)と150mlのDMFとを入れ、50mlのDMFに溶かしたベンゾイルクロライド7.0g(0.050mol)を0°Cで滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ヒドラジド(VII)の粗生成物を得た。(収量11.8g、収率98%)再結晶はメタノールより行なった。(融点239℃)
【0030】
(実施例8)
ヒドラジド(VIII)の合成
【化14】

300mlの三口フラスコにイソニコチン酸ヒドラジド6.9g(0.050mol)とトリエチルアミン6.1g(0.060mol)と150mlのDMFとを入れ、50mlのDMFに溶かしたベンゾイルクロライド7.0g(0.050mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ヒドラジド(VIII)の粗生成物を得た。(収量11.5g、収率96%)再結晶はメタノールより行なった。(融点230℃)
【0031】
(実施例9)
ジヒドラジド(IX)の合成
【化15】

300mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド5.5g(0.040mol)とトリエチルアミン6.1g(0.060mol)、100mlのDMFを入れ、100mlのDMFに溶かしたニコチノイルクロライド塩酸塩7.1g(0.040mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ヒドラジド(IX)の粗生成物を得た。(収量7.6g、収率78%)再結晶はメタノールより行なった。(融点229℃)
【0032】
(実施例10)
ヒドラジド(X)の合成
【化16】

300mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド5.5g(0.040mol))とトリエチルアミン6.1g(0.060mol)、100mlのDMFを入れ、100mlのDMFに溶かしたイソニコチノイルクロライド塩酸塩7.1g(0.040mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ヒドラジド(X)の粗生成物を得た。(収量7.3g、収率75%)再結晶は水−メタノールより行なった。(融点227 ℃)
【0033】
(実施例11)
ヒドラジド(XI)の合成
【化17】

300mlの三口フラスコにイソニコチン酸ヒドラジド4.1g(0.030mol)とトリエチルアミン4.6g(0.045mol)、100mlのDMFを入れ、100mlのDMFに溶かしたイソニコチノイルクロライド塩酸塩5.3g(0.030mol)を0℃で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入した。生成した沈殿物をろ過し、ヒドラジド(XI)の粗生成物を得た。(収量 5.4g、収率75%)再結晶はメタノールより行なった。(融点266 ℃)
【0034】
(実施例12)
セミカルバジド(XII)の合成
【化18】

50mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド2.7g(0.020mol)と10mlのDMFを入れ、10mlのDMFに溶かしたヘキサメチレンジイソシアネート1.7g(0.010mol)を室温で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、生成した沈殿物をろ過し、セミカルバジド(XII)粗生成物を得た。(収量4.1g、収率92%)再結晶はメタノールより行なった。(融点207℃)
【0035】
(実施例13)
セミカルバジド(XIII)の合成
【化19】

50mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド2.7g(0.020mol)と10mlのDMFを入れ、10mlのDMFに溶かしたヘキサメチレンジイソシアネート2.5g(0.010moL)を室温で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、生成した沈殿物をろ過し、セミカルバジド(XIII)粗生成物を得た。(収量5.1g、収率96%)再結晶はメタノールより行なった。(融点249℃)
【0036】
(実施例14)
セミカルバジド(XIV)の合成
【化20】

50mlの三口フラスコにニコチン酸ヒドラジド1.4g(0.010mol)と5mlのDMFを入れ、5mlのDMFに溶かしたフェニルイソシアネート1.2g(0.010mol)を室温で滴下した。滴下終了後、そのままの温度で5時間反応した。反応終了後、生成した沈殿物をろ過し、セミカルバジド(XIV)粗生成物を得た。(収量2.4g、収率94%)再結晶はメタノールより行なった。(融点228℃)
【0037】
<ポリ乳酸樹脂組成物の調製>
(実施例1)
上記ジヒドラジド(I)をポリ乳酸に添加したポリ乳酸樹脂組成物を以下のようにして調製した。すなわち、ポリ乳酸(ユニチカ社製テラマックT−4000)を100°Cで4時間乾燥させた後、ポリ乳酸とジヒドラジド(I)とを98:2の重量割合で混合した。この混合物を190°Cで二軸の押出加熱混練機で溶融押出し、実施例1のポリ乳酸樹脂組成物とした。
【0038】
(実施例2〜実施例10)
実施例1と同様の方法によって、ヒドラジド(II)〜(XI)及びセミカルバジド(XII)〜(XIV)をポリ乳酸とを98:2の重量割合で混練し、実施例2〜実施例14のポリ乳酸樹脂組成物を調製した。
【0039】
(比較例1)
実施例1〜14で原料として用いたポリ乳酸に何も添加しないものを比較例1とした。
【0040】
<評 価>
1)示差走査熱量(DSC)の測定
上記実施例1〜実施例14のポリ乳酸樹脂組成物及び比較例1のポリ乳酸について、示差走査熱量計(セイコー電子製品番DSC200熱流束方式)を用いて示差走査熱量(DSC)の測定を行った。結果を表1及び図1〜5に示す。
【表1】

【0041】
図1に示すように、造核剤を添加していない比較例1のポリ乳酸樹脂では、結晶化温度を示すピークが認められないのに対し、実施例2、3,7,8の造核剤を添加したポリ乳酸樹脂組成物では、明瞭なピークが観察され、結晶化を促進する効果が確認された。また、DSC曲線を図示していない実施例1,4,5,6,9,10,11,12,13,14についても、明瞭な結晶化のピークが観察された。
また、実施例2,3,7,8の結晶化温度は、127.8℃〜137.4℃と特に高く、前述した従来のポリ乳酸系樹脂用造核剤の中で、最も高い結晶化温度を示した上記特許文献8の段落番号0096に記載されているポリ乳酸樹脂組成物のデータ(結晶化温度126℃、結晶化熱量−44)よりも優れていた。
以上の結果から、本発明のポリ乳酸用造核剤をポリ乳酸に添加すれば、ポリ乳酸の結晶化を促進し、耐熱性や成形性を向上させることができるということが分かった。
【0042】
2)温度−たわみ曲線の測定
本発明のポリ乳酸用造核剤をポリ乳酸に添加した板材について、温度−たわみ曲線を測定した。試験には、上記実施例2で製造したヒドラジド(II)及び、比較として市販のポリ乳酸用造核剤(日産化学株式会社製 PPA−Zn)を用い、以下の手順で試料を作製した。すなわち、ポリ乳酸(ユニチカ テラマックT−4000)を100℃で4時間乾燥してから、500gを測りとる。そして、ポリ乳酸用造核剤としてヒドラジド(II)を5g添加し、二軸押出機(テクノベル株式会社製 KZW15−30TGN)で200℃の押出温度で溶融押出し、ペレットを調製した。こうして得られたペレットを射出成型機(住友重工業株式会社製 SE18S)を用い、200℃の成型温度において金型成形し、80mm×10mm×4mmの板材を得た。また、ポリ乳酸用造核剤を添加していないポリ乳酸からなる板材も作製した。
【0043】
温度−たわみ曲線の測定は、荷重−たわみ測定装置(東洋精機製 3M-2)を用い、荷重たわみ温度(DTUL)は、JIS K7191−1,2(ISO75)により、低荷重法(0.45MPa)及びフラットワイズ法により測定した。なお、測定試料を前もって120℃で2分間アニーリングしてから行なった。結果を図6に示す。
この図から、ポリ乳酸用造核剤を添加していないポリ乳酸からなる板材では、58.5℃で荷重たわみ温度に達し、市販のポリ乳酸用造核剤(日産化学株式会社製 PPA−Zn)を添加した板材でも、荷重たわみ温度が105℃であったのに対し、実施例2で製造したヒドラジド(II)を添加した試験片は、140℃においても基準たわみ量に達せず、極めて耐熱性に優れていることが分かった。
【0044】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、包装材料、医療用材料、産業資材、工業用品、容器等の各種用途に使用することができる。具体的には、フィルム、シート、被覆紙、ブロー成形体、射出成形体、押出成形体、繊維、不織布、包装材等に利用できる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂用造核剤はポリ乳酸系樹脂組成物に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】比較例1(ポリ乳酸単独)のDSC曲線である。
【図2】実施例2のポリ乳酸樹脂組成物のDSC曲線である。
【図3】実施例3のポリ乳酸樹脂組成物のDSC曲線である。
【図4】実施例7のポリ乳酸樹脂組成物のDSC曲線である。
【図5】実施例8のポリ乳酸樹脂組成物のDSC曲線である。
【図6】温度−たわみ曲線の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)の官能基を有する化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とするポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化1】

【請求項2】
下記構造式(1)〜(4)のいずれかで示される化合物(ただし、式中Rは分枝してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示す)の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化2】

【請求項3】
下記構造式(5)〜(10)で示される化合物(ただし、式中nは1〜20の整数)の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2記載のポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化3】

【請求項4】
下記構造式(11)〜(17)で示される化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化4】

【請求項5】
下記構造式(18)〜(27)で示される化合物(ただし、式中nは2〜10の整数)の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化5】

【請求項6】
下記構造式(28)又は(29)で示される化合物(ただし、式中R,Xは水素又はアルキル基ハロゲン基、ニトロ基、メトキシ基を示す)の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂用造核剤。
【化6】

【請求項7】
請求項1乃至7のポリ乳酸系樹脂用造核剤の少なくとも1種を含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−144056(P2009−144056A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322932(P2007−322932)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】