説明

ポリ乳酸系共重合樹脂およびその製造方法

【課題】ガラス転移温度の向上したポリ乳酸系共重合体を得る。
【解決手段】フルオレン骨格を含有するポリ乳酸系共重合樹脂。好ましくはフルオレン骨格の含有量が1質量%以上であり、ガラス転移温度が60℃以上であり、また、数平均分子量が20,000以上である前記ポリ乳酸系共重合樹脂。また、フルオレン化合物と乳酸成分とを反応させることを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。フルオレン化合物の数平均分子量が5,000以下である前記ポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を含有するポリ乳酸系共重合樹脂およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に関連した京都議定書の発効や、炭酸ガス排出権取引が話題になるなど、地球温暖化に対する注目が高まり、炭酸ガスの排出に厳しい目が向けられるようになった。このような中、生分解性プラスチックの分野では、「カーボンニュートラル」という考え方が用いられるようになり、広まってきている。
【0003】
「カーボンニュートラル」の考え方は以下のようなものである。生物自身が合成する、または生物が生産する物質から合成される生分解性プラスチックにおいては、これが生分解されて発生する炭酸ガスと水は、元は大気中の炭酸ガスと土壌にあった水であるから、ライフサイクル全体でとらえれば、地表に存在する炭酸ガスの量を増やさず、したがって地球温暖化を促進しない。
【0004】
生分解性プラスチックのなかでもポリ乳酸は、再生可能な植物資源(トウモロコシやサツマイモなど)が原料であり、機械的特性、価格の面からも最も普及が期待されている。環境面では、生分解することから廃棄物問題が生じず、カーボンニュートラルな性質から地球温暖化防止に大きく寄与し、さらに、石油資源に由来しないため、石油由来成分を用いた合成樹脂の代替品として石油資源の節約にも貢献できる。
【0005】
一方、ポリ乳酸樹脂の特性に目を向けると、ポリ乳酸と同じポリエステル系の合成樹脂として広く普及しているポリエチレンテレフタレート(PET)ではガラス転移温度(Tg)が約78℃であるのに対して、ポリ乳酸のTgは分子量や共重合組成にもよるが概ね60℃未満であり、耐熱性に劣っている。このため、ポリ乳酸を使用した製品は、トラックや船舶での輸送の際に室内の温度が上がると、融着したり変形したりするという問題があった。
【0006】
ポリ乳酸の耐熱性を向上する方法としては、結晶化速度を向上させる方法、ステレオコンプレックスを用いる方法、Tgを向上する方法などが考えられる。結晶化速度の向上ではタルクなど結晶化を促進する核剤の添加が一般的である。しかしながら、樹脂が不透明になる、物性が低下するなどの問題点がある。ステレオコンプレックスを用いる場合にはポリD−乳酸が必要であるが、D−乳酸の生産量が少なく、高価で入手が困難であること、成型条件によっては耐熱性を向上できないなどの問題点がある。
【0007】
Tgを向上させる技術として、特許文献1には芳香族ヒドロキシカルボン酸アリールエステルと共重合する方法、特許文献2には、芳香族ポリカーボネートとの分解性共重合体、特許文献3および4には他の樹脂とのブレンド法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−338666号公報
【特許文献2】特開平9−216942号公報
【特許文献3】特開2003−64246号公報
【特許文献4】特開2000−7903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法ではTgの向上は十分ではなく、また、特許文献2では、反応が有機溶剤中で行われ、操作が煩雑で、大量生産には向かない。さらに、特許文献3および4の方法では、ポリ乳酸とブレンドされる他の樹脂は別々に合成され、後にブレンドされるので、手間がかかるうえ、ブレンドの条件によっては混合が不十分で性能が向上しない場合があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解決するものであり、広範囲に応用可能な、耐熱性の向上したポリ乳酸系樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、フルオレン骨格を有する化合物に着目し、これをポリ乳酸に共重合することによってTgが向上することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、第一に、下記式(1)で示されるフルオレン骨格を含有するポリ乳酸系共重合樹脂である。
【0013】
【化1】

【0014】
第二には、下記一般式(2)で示されるフルオレン化合物と乳酸成分とを反応させることを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法である。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(2)中、R〜Rは、同一または異なる置換基であり、少なくとも2つは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、ハロゲン基、ビニル基、アセチレン基およびイミノ基からなる群から選ばれる官能基を有する置換基である。
第三には、下記一般式(3)で示されるフルオレン化合物と乳酸成分とを反応させることを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法である。
【0017】
【化3】

【0018】
一般式(3)中、R’は、一般式(2)におけるR〜Rのいずれかの置換基が重縮合反応または付加反応した後の残基であり、Rは炭素数が1〜10の2価の残基を示す。また、m、nは、1≦m≦20,0≦n≦50、0.02≦m/(m+n)≦1を満たす整数である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリ乳酸系共重合樹脂は、従来のポリ乳酸に比べてTgが高められており、耐熱性の必要とされる広範な分野に応用が可能である。さらに、ポリ乳酸を使用していることから、カーボンニュートラルであるため地球温暖化防止に大きく寄与し、また、石油資源の節約にも貢献できるなど、産業上の利用価値はきわめて高い。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、本発明のポリ乳酸系共重合樹脂を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明のポリ乳酸系共重合体樹脂において、ポリ乳酸成分は、D−乳酸、L−乳酸、乳酸オリゴマー、L−またはD−ラクチドなどの乳酸成分によって導入される。乳酸オリゴマーとしては両末端基が水酸基および/またはカルボキシル基であることが好ましい。両末端水酸基のオリゴマーはジオール分子を開始剤としてラクチドを重合するか、ポリ乳酸をジオールで解重合することによって得られる。両末端カルボキシル基の乳酸オリゴマーはポリ乳酸をジカルボン酸で解重合することによって得られる。一方の末端が水酸基で他方の末端がカルボキシル基であるような乳酸オリゴマーは、乳酸を重縮合することによって得られる。ポリ乳酸成分におけるD/L比に関しては特に制限はない。
【0023】
本発明のポリ乳酸系共重合体樹脂は、フルオレン骨格を含有するものである。フルオレン骨格とは、下記(1)で示される構造をいう。
【0024】
【化4】

【0025】
本発明のポリ乳酸系共重合体樹脂は、前記フルオレン骨格が置換基を介して樹脂中に導入されたものである。フルオレン骨格の含有量は、Tgを上昇させるうえで、樹脂全体の1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上である。また、高分子量の樹脂を得るためには、フルオレン骨格の含有量は30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。樹脂中のフルオレン骨格の含有量は、たとえばNMR法によって定量することができる。
【0026】
フルオレン骨格を導入するためのフルオレン化合物としては、一般式(2)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0027】
【化5】

【0028】
〜Rは、同一または異なる置換基であり、少なくとも2つは反応性の官能基を有する置換基であることが好ましい。反応性の官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、ハロゲン基、ビニル基、アセチレン基、イミノ基等が挙げられる。これに対し、非反応性の官能基としては、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0029】
一般式(2)で示されるフルオレン化合物の具体例としては、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)、フルオレニルメタノールなどの水酸基を有する化合物、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルなどのエポキシ基を有する化合物、フルオレンカルボン酸、2,7−フルオレンジカルボン酸などのカルボキシル基を有する化合物、ビスアミノフェニルフルオレン、ビストルイジンフルオレンなどのアミノ基を有する化合物、フルベン、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートなどのビニル基を有する化合物のほか、フルオレン、フルオレノン、2,7−ジブロモフルオレン、ビストリレンフルオレンなどが挙げられる。
【0030】
官能基として水酸基を有する化合物はラクチドと重合することで、また、水酸基、エポキシ基やアミノ基、カルボキシル基を持つ化合物は乳酸と重合または乳酸オリゴマーとカップリング反応することで、それぞれポリ乳酸共重合樹脂を得ることができる。
【0031】
BPF、BCFまたはBPEFのような水酸基を有するフルオレン化合物については、ポリエステルとエステル交換反応または共重合反応により、式(3)で表されるようなフルオレン化合物とした後、これを乳酸成分と反応させて、本発明のポリ乳酸系共重合樹脂を得ることができる。
【0032】
式(3)で表されるフルオレン化合物は、ビスアミノフェニルフルオレン、ビストルイジンフルオレン、フルオレンジカルボン酸、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルなどをポリエステルのオリゴマーと付加反応または縮合反応させて得ることもできる。
【0033】
【化6】

【0034】
一般式(3)中、R’は、一般式(2)におけるR〜Rのいずれかの置換基が重縮合反応または付加反応した後の残基である。
【0035】
は炭素数が1〜10の2価の残基を示す。Rとしては、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられ、これらは脂環構造を有していてもよい。
【0036】
の具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどの炭素数が10までの直鎖状アルキレン基、イソプロピレン、(1,3)ブチレンなどの分岐状アルキレン基、シクロヘキシレンなどの環状アルキレン基、フェニレンなどのアリーレン基、キシリレンなどのアラルキレン基などがあげられる。
【0037】
また、m、nは1≦m≦20,0≦n≦50、0.02≦m/(m+n)≦1を同時に満たす整数である。さらに好ましくは1≦m≦10,0≦n≦25である。
【0038】
また、後述する鎖延長剤によりフルオレン化合物を連結して分子量を増大させてから乳酸成分と反応させることによっても本発明のポリ乳酸系共重合樹脂を得ることができる。
【0039】
さらに、フルベン、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートなどのビニル基を有する化合物は、官能基を有するアクリル誘導体モノマーなどと反応させて官能基を導入した後、乳酸と反応させることができる。
【0040】
また、官能基を有しないフルオレン化合物であっても、公知の手段、例えば、油溶性金属触媒を用いた液相空気酸化法やフリーデルクラフツ反応によるアルキル基導入後に酸化する方法、ハロゲン化の後にグリニャール試薬によりカルボキシル化する方法によりカルボキシル基、ハロゲン化後にアルカリ処理することで水酸基、ハロゲン化後にアンモニア処理することでアミノ基などや、他にはエポキシ基、ビニル基などの官能基を導入すれば、前記と同様にして乳酸成分との共重合が可能である。
【0041】
フルオレン化合物と乳酸成分とを反応させる際には、高分子量化させやすく、鎖延長剤を使用する場合に量が少なくて済むなどの理由から、フルオレン化合物の添加量を樹脂原料総量の50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。ここで、「樹脂原料」とは、フルオレン化合物と乳酸成分とを指す。
【0042】
フルオレン化合物は、乳酸成分と相溶性やTgを向上させる観点から、分子量または数平均分子量が15,000以下であることが好ましく、より好ましくは7,000以下、特に好ましくは、5,000以下である。
【0043】
なお、フルオレン化合物と乳酸成分との相溶性を向上させるために、ロジン系のラクトサイザー(荒川化学工業株式会社)やアクリル系のモディパー(日本油脂株式会社)などを相溶化剤として用いてもよい。
【0044】
フルオレン化合物とポリ乳酸との共重合は常法によって行われる。具体的には、ラクチドを原料とする場合には、重合温度は150〜230℃、触媒は低温重合用ポリエステル重合触媒(オクチルスズなど)、重合時間は10〜120分程度である。乳酸を原料とする場合には、有機溶剤の存在または非存在下で、重合温度50〜250℃、触媒に低温重合用ポリエステル重合触媒を用い、20hPa以下程度に減圧し、1〜50時間程度反応させる。カップリング反応では乳酸オリゴマーとフルオレン化合物を適当なカップリング剤を用いて連結し、ポリ乳酸共重合樹脂を得ることができる。カップリング剤としては2つ以上の官能基を持つ化合物が挙げられる。官能基としてはイソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、酸クロライド、酸無水物、ビニル基などが挙げられ、それぞれに適した反応条件でカップリング反応を行えばよい。
【0045】
本発明においては、ポリ乳酸系共重合樹脂の分子量を増大するために、製造の任意の段階で鎖延長剤を用いることができる。鎖延長剤としては水酸基と反応し得る2つ以上の官能基を持つイソシアネート、エポキシ、酸無水物、酸クロライドなどが挙げられる。Tg向上のためには芳香環を有する鎖延長剤が好適に用いられる。
【0046】
好ましい鎖延長剤としては、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネートなどのジイソシアネート、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタル酸、ジグリシジルイソフタル酸、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ジオキソテトラヒドロフラニルメチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、テトラフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、ターフェニルテトラカルボン酸無水物、シクロブタンテトラカルボン酸無水物、カルボキシメチルシクロペンタントリカルボン酸無水物などの酸無水物、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族カルボン酸およびその酸クロライドなどが挙げられ、なかでもジイソシアネートが反応性が高く、取り扱いが容易であることから特に好ましい。さらには、反応性が高く、Tgの低下を防ぐ効果が高いことから芳香族系ジイソシアネートが最も好適である。
【0047】
本発明のポリ乳酸系共重合樹脂の数平均分子量は20,000以上であることが好ましい。20,000以下ではTgが十分に高くならないことがある。数平均分子量は、好ましくは40,000以上であり、さらに好ましくは60,000以上である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0049】
数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とし、分子量はポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として換算した。
【0050】
ガラス転移温度(Tg)の測定には示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いた。Tgは60℃以上となることが好ましく、用途が拡大することから65℃以上となることがより好ましい。
【0051】
フルオレン骨格含有量は、試料をトリフルオロ酢酸に溶解してすぐにNMR装置(日本電子製Lambda300WB)を用いて測定周波数300MHzでプロトンNMR測定を行い、得られたスペクトルから各成分の存在比を算出した(測定結果は図1参照)。このとき、フルオレン骨格含有量は、フルオレン環上の置換基がすべて水素原子であるものとして算出した。
【0052】
<フルオレン化合物の製造例>
テレフタル酸(和光純薬工業社製)とエチレングリコール(EG)(和光純薬工業社製)をエステル化して得られたビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHET、分子量200)80gおよびビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)(大阪ガスケミカル社製)88gをガラス重合管に入れ、窒素気流下、260℃で1時間、攪拌した。EGに溶解した三酸化アンチモン(和光純薬工業社製)25mgを入れ、280℃に昇温、1時間かけて1hPaまで減圧した後1.5時間反応させて、無色透明のフルオレン化合物F1を得た。
【0053】
BHETおよびBPEFの添加量、減圧後の重合反応時間を表1記載の通りに変更した他は、上記と同様の操作を行って、フルオレン化合物F2〜F4を得た。
【0054】
フルオレン化合物F1〜F4の特性を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
<ポリ乳酸オリゴマーの製造例>
ヘキサンジオール3.5g、ラクチド150gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、加熱溶解した後、ジオクチル錫0.02gを加え、攪拌しながら180℃で1時間反応させた。30分間、5hPaにした後、得られたポリ乳酸を払い出した。GPCで測定したところ、得られたポリ乳酸の分子量は5,000であった。
【0057】
実施例1
ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)(大阪ガスケミカル社製)10gおよびラクチド(武蔵野化学研究所製)90gをガラス製重合管に入れ、窒素ガスで置換した後、攪拌しながら190℃まで加熱した。190℃になったところでオクチル錫0.02gを加えた。1時間後、重合反応が平衡に達した後、トリレンジイソシアネート(TDI)(ナカライテスク社製)4gを加えて30分間、攪拌した。真空ポンプを用いて5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0058】
実施例2
BPEFを20g、ラクチドを80g、TDIを8gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0059】
すなわち、BPEF20gおよびラクチド80gをガラス製重合管に入れ、窒素ガスで置換した後、攪拌しながら190℃まで加熱した。190℃になったところでオクチル錫0.02gを加え、1時間後、重合反応が平衡に達した後、TDI8gを加えて30分間、攪拌した。真空ポンプを用いて5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0060】
実施例3
BPEFの代わりにビスクレゾールフルオレン(BCF)を10g用い、TDIを5gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0061】
実施例4
BPEFの代わりにBCFを20g用い、TDIを10gとした以外は実施例2と同様にして重合物を得た。
【0062】
実施例5
はじめにBPEF20gをガラス重合管に入れ、窒素ガスで置換後攪拌しながら、190℃まで加熱した。ここにTDI4gを加えて30分間反応させてから、ラクチドを加え、溶解してからオクチル酸錫0.02gを加えた。1時間後、重合反応が平衡に達した後、TDIを4g添加して30分間反応させた。真空ポンプを用いて5hPaまで減圧して30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内の重合物を払い出して回収した。
【0063】
実施例6
BPEFの代わりにフルオレン化合物F1を20g用い、TDIを1.2gとした以外は実施例2と同様にして重合物を得た。
【0064】
実施例7
BPEFの代わりにフルオレン化合物F3を15gとし、ラクチドを85g、TDIの代わりにヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)(ナカライテスク社製)を1.8gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0065】
実施例8
BPEFの代わりに、フルオレン化合物F2を10g用い、TDIを0.2gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0066】
実施例9
BPEFの代わりに、フルオレン化合物F4を10g用い、TDIを0.3gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0067】
実施例10
BPEFの代わりに、フルオレン化合物F4を30g、ラクチドを70g、TDIの代わりにHMDIを1gとした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。
【0068】
実施例11
ビスアミノフェニルフルオレン(BAPF)(JFEケミカル社製)10gと予め調製したポリ乳酸オリゴマー(分子量5,000)90gをガラス重合管に入れ、窒素気流下、180℃で溶解した後、TDI5gを加えて30分間反応させた。30分間、真空ポンプで5hPaに減圧した後、得られた重合物を払い出した。
【0069】
実施例12
2,7−ジブロモフルオレン(JFEケミカル社製)50gを200mlのテトラヒドロフランに溶解した後、金属マグネシウム(和光純薬工業社製)4gを加えた。この溶液をドライアイス上に注ぎ、濾過して、エバポレーターで溶媒を留去し、2,7−フルオレンジカルボン酸(FDCA)を得た。FDCA5gと予め調製したポリ乳酸オリゴマー(分子量5,000)95gをガラス重合管に入れ、窒素気流下、180℃で溶解した後、HMDI3.5gを加えて30分間反応させた。30分間、真空ポンプで5hPaに減圧した後、得られた重合物を払い出した。
【0070】
比較例1
BPEFの代わりに1,6−ヘキサンジオール(HD)3gを用い、ラクチドを97gとし、実施例1と同様にして重合し、重合物を得た。
【0071】
比較例2(ポリ乳酸の合成)
ヘキサンジオール0.07g、ラクチド100gをガラス製重合管内に入れ、窒素気流下、加熱溶解した後、ジオクチル錫0.02gを加え、攪拌しながら180℃で1時間反応させた。30分間、5hPaにした後、得られたポリ乳酸を払い出した。GPCで測定したところ、得られたポリ乳酸の分子量は180,000であった。
【0072】
実施例および比較例で得られた共重合体の特性を表2にまとめた。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、各実施例では、フルオレン骨格を導入することで、ポリ乳酸と比較してTgが上昇した。また、(数平均)分子量が5,000以下のフルオレン化合物を用いたものは5,000を超えるものと比べてTgの上昇が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例2において製造したポリ乳酸系共重合樹脂のNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるフルオレン骨格を含有するポリ乳酸系共重合樹脂。
【化1】

【請求項2】
フルオレン骨格の含有量が1質量%以上である請求項1記載のポリ乳酸系共重合樹脂。
【請求項3】
ガラス転移温度が60℃以上である請求項1または2に記載のポリ乳酸系共重合樹脂。
【請求項4】
数平均分子量が20,000以上である請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸系共重合樹脂。
【請求項5】
下記一般式(2)で示されるフルオレン化合物と乳酸成分とを反応させることを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【化2】

一般式(2)中、R〜Rは、同一または異なる置換基であり、少なくとも2つは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、ハロゲン基、ビニル基、アセチレン基およびイミノ基からなる群から選ばれる官能基を有する置換基である。
【請求項6】
下記一般式(3)で示されるフルオレン化合物と乳酸成分とを反応させることを特徴とするポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【化3】

一般式(3)中、R’は、一般式(2)におけるR〜Rのいずれかの置換基が重縮合反応または付加反応した後の残基であり、Rは炭素数が1〜10の2価の残基を示す。また、m、nは、1≦m≦20,0≦n≦50、0.02≦m/(m+n)≦1を満たす整数である。
【請求項7】
フルオレン化合物の数平均分子量が5,000以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項8】
フルオレン化合物の添加量を樹脂原料総量の50質量%以下とする請求項5〜7いずれかに記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項9】
フルオレン化合物と乳酸成分とを反応させた後、鎖延長剤によりさらに高分子量化させることを特徴とする請求項5〜8いずれかに記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項10】
鎖延長剤が、イソシアネート、エポキシ、酸無水物および酸クロライドからなる群から選ばれる官能基を分子内に2個以上有する化合物である請求項9に記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。
【請求項11】
鎖延長剤がジイソシアネートである請求項10記載のポリ乳酸系共重合樹脂の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−112849(P2007−112849A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303484(P2005−303484)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】