説明

ポリ乳酸系延伸シート及びその製造方法、並びにポリ乳酸系延伸シートを成形してなる成形体

【課題】実用的な耐衝撃性と成形性とをバランスよく兼備するとともに、耐熱性と透明性も良好なポリ乳酸系延伸シート及びその製造方法、並びにそのポリ乳酸系延伸シートを成形してなる成形体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を少なくとも一軸延伸してなり、前記樹脂組成物における前記ポリ乳酸系樹脂(A)と前記メタクリレート系樹脂(B)との配合割合(A):(B)が75:25〜45:55(質量比)であり、得られる延伸シートの面配向度(ΔP)と配向緩和応力(ORS)の長手方向及び幅方向の平均値が、式(1):ΔP≧(4.6−0.072X)/1000及び式(2):ORS≦5.5MPaを満たすことを特徴とするポリ乳酸系延伸シート、及びこれを成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性及び成形性に優れたポリ乳酸系延伸シート及びその製造方法、並びにポリ乳酸系延伸シートを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性を有する各種ポリマーを含有したプラスチック製品を使用することは、環境保護の観点からも、植物由来原料の使用が石油資源節約の観点からも好ましいことが一般消費者にも認識されるようになり、工業製品にも生分解性ポリマー、植物由来ポリマーを原料とする試みが広く行なわれてきている。
【0003】
特にポリ乳酸は、植物由来かつ生分解性を有するポリマーであり、かつ、生分解性ポリマーの中でも、比較的高い融点と強靭性及び透明性を兼ね備えている点から、実用上優れたポリマーと認識されている。
しかしながら、ポリ乳酸は汎用の合成樹脂と比較して耐熱性が不足している。そのため、ポリ乳酸の耐熱性を改良する方法として、ポリ乳酸とその他の熱可塑性樹脂を混合することが種々報告されてきた。
【0004】
例えば、熱可塑性樹脂として、特定の分子量を有するポリメタクリレートを選択することによって、このポリメタクリレートとポリ乳酸とを均一に溶融混練することができ、結果として、耐熱性等を向上させたポリ乳酸含有樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に開示されているポリ乳酸含有樹脂組成物を延伸加工して得られるシートは、耐衝撃性に不足することがあり、包装体としての実用性に欠けるものであった。
【0005】
この問題点を改良するために、重量分子量が5万以上のポリ乳酸系樹脂とポリメタクリレートを配合したポリ乳酸系樹脂組成物を延伸加工してフィルムを成形した後、熱処理を行なうことによって、そのフィルムの結晶化度を上げると、そのフィルムの高温における剛性を維持できることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、この手法で得られたフィルムを、例えば、深絞り成形等の工程に供した場合には、その剛性の高さに起因して目的とする型再現性を有する成形体が得られ難く、また、その成形体は常温における耐衝撃性に不足することがあり、汎用ポリエステル製品と比較して取り扱い難い点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−171204号公報
【特許文献2】特開2005−036054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情を鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、実用的な耐衝撃性と成形性とをバランスよく兼備するとともに、耐熱性と透明性も良好なポリ乳酸系延伸シート及びその製造方法、並びにそのポリ乳酸系延伸シートを成形してなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸系樹脂とメタクリレート系樹脂とを特定割合で配合した樹脂組成物を、少なくとも1軸方向に延伸してなるシートの面配向度と配向緩和応力が特定の関係式を満たす場合に、耐熱性、耐衝撃性及び成形時の型再現性に優れるシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を少なくとも一軸延伸してなるポリ乳酸系延伸シートであって、
前記樹脂組成物における前記ポリ乳酸系樹脂(A)と前記メタクリレート系樹脂(B)との配合割合(A):(B)が75:25〜45:55(質量比)であり、得られる延伸シートの面配向度(ΔP)と配向緩和応力(ORS)の長手方向及び幅方向の平均値が、下記の式(1)及び(2)
ΔP≧(4.6−0.072X)/1000 (1)
ORS≦5.5MPa (2)
〔但し、上記の式(1)中のXは樹脂組成物中のメタクリレート系樹脂(B)の含有率(質量%)を表し、25≦X≦55である。〕
を満たすことを特徴とするポリ乳酸系延伸シート、及びこれを成形してなる成形体を提供するものである。
【0010】
更に、本発明は、上記特定の性能を有するポリ乳酸系延伸シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、従来のポリ乳酸系延伸シートの耐衝撃性や成形時の型再現性の問題を解決したものであり、汎用のポリエステル系延伸シートやスチレン系延伸シートと同程度の耐熱性、成形性及び強度を有するものである。従って、生分解性ポリマーを多量に含む本発明のポリ乳酸系シートを、各種汎用の包装体に使用することが可能となり、環境保護の観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例及び比較例に関して、メタクリレート系樹脂含有率(質量%)と面配向度(ΔP)の関係を示すグラフである。
【図2】実施例のシートORS平均値(MPa)と成形時の突起高さ(mm)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を少なくとも一軸延伸してなるシートである。
【0015】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)は、乳酸単量体単位を85質量%以上含有する重合体であって、ポリ乳酸、又は乳酸と他のヒドロキシカルボン酸、脂肪族環エステル、ジカルボン酸、ジオール類との共重合体、又は、乳酸単量体単位を85重量%以上含有するこれらの重合体の組成物である。
【0016】
乳酸は、L−乳酸とD−乳酸を混合して用いることもできるが、得られる延伸シートの耐熱性に優れる点から、L−乳酸とD−乳酸の何れか一方の異性体からなるものであることが好ましく、具体的には、D体含有率(原料として用いる乳酸全体質量に対するD−乳酸のモル割合)が2.0モル%以下又は98.0モル%以上であるものが好ましい。
【0017】
また、本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、種々の重合方法、例えば、乳酸からの直接重合法やラクチドを介する開環重合法等を用いることができる。
【0018】
本発明で用いられるメタクリレート系樹脂(B)は、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルの単独重合体、又は、これらのメタクリル酸エステルと他の単量体との共重合体である。
前記のメタクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、他のメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン類、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。
【0019】
メタクリレート系樹脂(B)は、上述のポリ乳酸系樹脂(A)の耐熱性の不足を改良するために併用するものである点から、メタクリレート系樹脂(B)単体としての耐熱性も優れていることが好ましく、例えば、ビカット軟化温度〔ASTM D1525(加重49N、昇温速度2℃/分)に準拠して測定した値〕が105℃以上であるものが好ましい。
更に、メタクリレート系樹脂(B)の重量平均分子量(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーを用いたポリスチレン換算値)は、樹脂の加工性及び強度の観点から、5万〜20万の範囲であることが好ましく、7〜15万の範囲であることが更に好ましい。
【0020】
また、メタクリレート系樹脂(B)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の種々の方法で得られたものを用いることができる。
【0021】
本発明では、ポリ乳酸系延伸シートは、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物において、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)との配合割合(A):(B)が75:25〜45:55(質量比)であることを必須とするものである。
ポリ乳酸系樹脂(A)の配合割合が75質量%を超えると、得られるポリ乳酸系延伸シートの耐熱性が実用レベルではなく、又、ポリ乳酸系樹脂(A)の配合割合が45質量%未満では、植物由来ポリマー、生分解性ポリマーとしての実用性に欠けることになる。
【0022】
又、本発明では、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを上記の配合割合で用いるものであるが、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤を併用しても良い。
各種添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、熱安定剤等が挙げられる。
【0023】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、上記の配合割合で混合した樹脂組成物を用い、これを少なくとも一軸延伸して得られるシートである。このシートの延伸方向は、長手方向又は幅方向の何れでも良いが、製造工程上、長手方向であることが好ましい。又、得られるシートの配向度を調整するためには、このシートを長手方向と幅方向の二軸延伸することが好ましい。
【0024】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、その面配向度(ΔP)と配向緩和応力(ORS)の長手方向及び幅方向の平均値が、下記の式(1)及び(2)
ΔP≧(4.6−0.072X)/1000 (1)
ORS≦5.5MPa (2)
〔但し、上記の式(1)中のXは樹脂組成物中のメタクリレート系樹脂(B)の含有率(質量%)を表し、25≦X≦55である。〕
を満たすことを必須とするものである。
これらの関係式を満たさないものは、延伸シートの耐衝撃性と成形性とのバランスに欠け、実用的でない。
【0025】
シートの面配向度(ΔP)とは、アッベ屈折率計等で測定されるシートの屈折率により定義される数値であり、シートの長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTD、厚み方向の屈折率をnZDとすると、下記の式(4)の関係式で表される。
ΔP=(nMD+nTD)/2−nZD (4)
【0026】
シートが不透明である等の理由で屈折率の測定が困難な場合は、他の手法により求めることが可能であり、その手法としては、例えば、X 線、赤外分光、ラマン分光等の手法が挙げられる。特に赤外分光法のATR法は、容易にシート表面の配向の状態を測定可能であるので好ましく使用することができる。この場合、あらかじめアッベ屈折率計等により屈折率の測定可能なシートを用いて、そのシートの面配向係数と、その他の手法によって測定した面配向度との相関関係を求めておき、目的のシートの面配向係数へ換算することにより、目的のシートの面配向度を求めることができる。
【0027】
上記の式(1)の関係式を満たさないシートは、特に耐衝撃性、強度の点で問題が生じやすくなる。
【0028】
又、シートの配向緩和応力(ORS)は、ASTM D1504に準拠し、乾式加熱によりシート温度120℃において発現する応力の最大値である。
上記の式(2)の関係式を満たさないシートは、特に成形時の型再現性の点で問題が生じやすくなる。
【0029】
これらORSの条件は、二軸延伸シートの場合、一延伸方向が満たされることで目的とするシートが得られる場合もあるが、種々の形状に比較的広い熱成形条件で成形することが容易である観点から、二延伸方向とも上記のORS条件を満たすことがより好ましい。
【0030】
更に、ポリ乳酸系延伸シートは、下記の式(3)で表される結晶化度が16J/g以下であることが、より成形性に優れ、特に深絞り成形体への応用も可能となる点から好ましい。
結晶化度=結晶融解熱量(ΔHm)−結晶化熱量(ΔHc) (3)
【0031】
尚、上記の式(3)における結晶融解熱量及び結晶化熱量は、以下のようにして求めたものである。
すなわち、JIS−K7122に準じて、示差走査熱量計により、試料約10mgを、30℃から200℃まで、昇温速度10℃/分、窒素ガス流量50ml/分の条件にて昇温して、DSC曲線を作成し、その描かれたDSC曲線における昇温時の結晶化発熱ピーク面積から結晶化熱量(ΔHc)を求め、結晶融解吸熱ピーク面積から結晶融解熱量(ΔHm)(J/g)を求めた。
【0032】
本発明のポリ乳酸系延伸シートの厚みについては、特に限定されるものではないが、成形体を加工する際の取り扱い容易性と、成形体としての強度及び透明性等の観点から、70〜500μmの範囲になるようにすることが好ましく、100〜300μmがより好ましい。
【0033】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、上記の各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合し、その溶液から溶媒を除去後、製膜して得ることも可能であるが、溶媒へ原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である溶融製膜法を採用することが好ましい。
溶融製膜法は、各成分を溶融混練することによりシートを製造する方法である。その溶融製膜方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸又は二軸押出機等の通常使用されている種々の混合機を用いて樹脂組成物を得た後、溶融混合樹脂をスリット状の口金に導き、冷却キャスティングドラム上にシート状に押出し、Tダイ法やタッチロールキャスト法等を用いてシートを得る方法等が挙げられる。これらの溶融製膜法の中でも生産性の観点から、単軸押出機又は二軸押出機を使用してシート化する方法が好ましく、混合性の点で二軸押出機を使用してシート化する方法が更に好ましい。
【0034】
また、樹脂の混合順序についても特に制限はなく、例えば、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とをドライブレンドした後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを溶融混練したマスターバッチを作製した後、このマスターバッチとポリ乳酸系樹脂(A)とを溶融混練した後、製膜する方法等が挙げられる。
また、必要に応じて、その他の添加剤を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂(A)とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製した後、このマスターバッチとポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを溶融混練する方法を用いても良い。
【0035】
また、各成分を溶融混練する時の温度は180℃〜260℃の範囲であることが好ましく、また、ポリ乳酸系樹脂(A)の劣化を防ぐ観点、及び、ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)の混練性の観点から、各成分を溶融混練する時の温度は200℃〜230℃の範囲であることがより好ましい。
【0036】
ポリ乳酸系延伸シートの延伸倍率は、少なくとも一方向において1.3〜8.0倍であり、好ましくは1.7〜6.0倍であり、より好ましくは1.5〜4.0倍である。
また、延伸温度は、上記の式(1)、(2)を満たすポリ乳酸系延伸シートが容易に得られる点から、70〜95℃の範囲である。
ポリ乳酸系延伸シートは、延伸後、延伸による配向が緩和するのを防ぐ観点、及び、結晶化の進行による成形性の低下を防ぐ観点から、延伸温度以下で冷却することが好ましく、20〜60℃で冷却することがより好ましい。
【0037】
ポリ乳酸系延伸シートの延伸条件の好ましい一例は、2.0〜2.5倍にロール延伸した後、2.0〜2.5倍にテンター延伸した210μmポリ乳酸系延伸シートを製造する場合、テンター延伸温度は70〜90℃であり、冷却温度は40〜60℃である。
また、延伸倍率を2.5倍から3.0倍に変更する場合、同一ORSのシートを得るには、大まかな目安として、延伸温度を2〜7℃上げるのが好ましい。
【0038】
また、得られるポリ乳酸系延伸シートに帯電防止性や防曇性等を付与するために、その表面を界面活性剤等で被覆する場合には、少なくともポリ乳酸系延伸シートの一表面に、適当な濃度に調整した界面活性剤等の水溶液を、スクィーズロールコーター、エアーナイフコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、グラビアロールコーター、バーコーター等の種々の方法により塗布した後、塗布した水溶液を乾燥する。また、特に被覆膜の均一性を向上させる観点からは、シート表面をコロナ処理した後、上記の方法で界面活性剤等を塗布するのが好ましい。コロナ処理の強度は、シートの表面を水との接触角が80〜30゜になるように調整するのが好ましく、より好ましくは接触角が70〜35°になるように調整する。シートの表面と水との接触角の好ましい上限は被覆膜の均一性を向上させるための値であり、好ましい接触角の下限は、シートをロール状に巻いた場合にブロッキングを防ぐための値である。
【0039】
上記で得られたポリ乳酸系延伸シートは、熱成形により成形体とすることができる。熱成形方法としては、熱板接触加熱成形法、真空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト成形法等が好ましく用いられる。成形体の厚みの均一性や、成形体の生産効率の観点からは熱板接触加熱成形法が特に好ましいが、特に透明性を重視する場合は間接加熱による真空成形法や真空圧空成形法を、また、深絞り成形を行う場合はプラグアシスト成形法を採用することも可能である。
これらの成形法を用いたポリ乳酸系延伸シートの成形体の成形は、シートロールを用い連続的に行っても良いし、カット版のシートを用い1ショット毎に成形しても良い。
以下、好ましい成形体製造条件の一例を挙げる。
【0040】
熱板接触加熱成形法により、本発明のポリ乳酸系延伸シートを成形する場合の好ましい熱板温度条件は、成形体の型再現性や成形サイクルの観点(下限)、及び、成形体の透明性やレインドロップの発生の観点(上限)から、熱板温度を樹脂混合物のビカット軟化温度+10〜50℃とし、より好ましくは+15〜40℃とし、更に好ましくは+20〜35℃とする。
また、加熱時間(シートを真空及び/又は圧空で熱板に接触させている時間と、これが終了しシートを金型へ伸ばすために真空及び/又は圧空になるまでの遅れ時間の合計)は、0.5〜15.0秒が好ましい。
【0041】
成形体の形状は、容器の蓋、トレー、フードパック、ブリスターパック、その他各種パック、ケース等、特に制限されないが、本発明のポリ乳酸系延伸シート及びその成形体の特徴である耐熱性、成形性、成形体の透明性、耐衝撃性の観点から、特に容器の蓋が好ましく、中でも食品包装容器の蓋が特に好ましい。
【0042】
本発明のポリ乳酸系延伸シートからなる成形体を食品包装容器の蓋として使用する場合、容器本体は、本発明のポリ乳酸系延伸シートから成型されたもののほか、ポリプロピレン系非発泡シート、ポリプロピレン系発泡シート、フィラー入りポリプロピレン系非発泡シート、ポリスチレン系発泡シート、ポリスチレン系非発泡無延伸シート、結晶化ポリエステル系シート、各種プラスチック積層シート、紙、パルプ、アルミ等から成形されたものも好ましく用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。特に断りのない限り、「部」「%」は質量基準である。
【0044】
尚、得られたシートの配向緩和応力、面配向度、結晶化度については、下記の方法によって測定した。更に、シートの物性値として耐熱性、成形時の型再現性、耐衝撃性、植物由来度を下記によって測定し、評価した。
【0045】
(1)配向緩和力(ORS)
ASTM D−1504に準じて、日理工業株式会社製OS測定器にて、乾式加熱によりシート温度120℃にて、シートに発現する応力の最大値を測定した。
【0046】
(2)面配向度(ΔP)
ナトリウム光源D線(波長589nm)を用いて、株式会社アタゴ製アッベ屈折計2Tにより、シートの長手方向の屈折率(nMD)、幅方向の屈折率(nTD)、厚み方向の屈折率(nZD)を測定し、下記の式(4)より面配向度(ΔP)を算出した。
ΔP=(nMD+nTD)/2−nZD (4)
【0047】
(3)結晶化度(ΔHm−ΔHc)
JIS−K7122に準じて、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製DSC−60)により、試料約10mgを、30℃から200℃まで、昇温速度10℃/分、窒素ガス流量50ml/分の条件にて昇温した。これにより描かれたDSC曲線における昇温時の結晶化発熱ピーク面積から結晶化熱量(ΔHc)を求め、結晶融解吸熱ピーク面積から結晶融解熱量(ΔHm)(J/g)を求め、下記の式(5)より結晶化度を算出した。
結晶化度=ΔHm−ΔHc(J/g) (5)
【0048】
(4)耐熱性
シートの耐熱性の評価は、100×100mmのシート試験片を、所定温度の熱風乾燥機中に10分間放置後、長手方向及び幅方向の収縮率を測定することにより行った。このシートの収縮率を2℃毎に測定し、長手方向と幅方向収縮率の平均値が2%に達する温度をシートの2%収縮温度(℃)として算出し、下記の基準で評価した。
【0049】
シートからなる成形体の耐熱性の評価は、後述する型再現性評価と同様の成形方法により、深さ27mm、開口部95mm×95mmの容器を成形し、得られた成形体を、所定温度の熱風乾燥機中に5分間放置後、外観を目視観察した。この目視観察を5℃毎に実施し、成形体がほとんど変形しない温度の上限値を成形体の耐熱温度(℃)として、下記の基準で評価した。
◎:シートの2%収縮温度(℃)、成形体の耐熱温度が、75℃以上
○:シートの2%収縮温度(℃)、成形体の耐熱温度が、60〜75℃未満
△:シートの2%収縮温度(℃)、成形体の耐熱温度が、50〜60℃未満
×:シートの2%収縮温度(℃)、成形体の耐熱温度が、0〜50℃未満
【0050】
(5)成形性(成形時の型再現性)
シートの成形性の評価は、直径5mmの丸穴の金型を使用して、シートの成形後に形成される突起の高さを測定し、これを突起高さ(mm)として、下記の基準で評価した。突起高さが高い程、成形時にシートが伸び易く、金型の形状を良好に再現できることを意味する。
ここで、シートの成形は、株式会社脇坂エンジニアリング製熱板圧空成形機HPT−100を用いて、熱板接触加熱成形法で、加熱時間1.2秒、成形遅れ時間1.5秒、成形時間2.0秒、加熱圧力0.1MPa、成形圧力0.4MPa、金型温度50℃にて行った。熱板温度を、シートにレインドロップと呼ばれる丸斑状の模様が発生しない上限温度とした。
◎:成形時の突起高さ(mm)が、2.0mm以上
○:成形時の突起高さ(mm)が、1.5〜2.0mm未満
△:成形時の突起高さ(mm)が、1.0〜1.5mm未満
×:成形時の突起高さ(mm)が、1.0mm未満
【0051】
(6)耐衝撃性
シートの耐衝撃性の評価は、株式会社上島製作所製デュポン衝撃試験機にて、先端半径6.5mmの半球状撃芯を用いて、JIS K7124、JIS K5400に準じて、シートの衝撃強度(J)を測定し、下記の基準で評価した。
シートからなる成形体の耐衝撃性の評価は、上述した型再現性評価と同様の成形方法により、深さ23mm、開口部169mm×112mmの天面部が平らな容器を成形し、得られた成形体天面部の衝撃強度(J)を測定し、下記の基準で評価した。
◎:衝撃強度(J)が、0.6J以上
○:衝撃強度(J)が、0.2〜0.6J未満
△:衝撃強度(J)が、0.1〜0.2J未満
×:衝撃強度(J)が、0.1J未満
【0052】
(7)植物由来度
ポリ乳酸系樹脂等の植物由来原料の含有量(質量%)を植物由来度として、下記の基準で評価した。
◎:植物由来度(質量%)が、70質量%以上
○:植物由来度(質量%)が、45〜70質量%未満
△:植物由来度(質量%)が、20〜45質量%未満
×:植物由来度(質量%)が、20質量%未満
【0053】
また、ポリ乳酸系樹脂、メタクリレート系樹脂としては、以下のものを用いた。
ポリ乳酸系樹脂A1:トヨタ自動車株式会社製PLA トヨタエコプラスチックU’zS−12
ポリ乳酸系樹脂A2:NatureWorksLLC製PLA 4032D
メタクリレート系樹脂B1:旭化成ケミカルズ株式会社製PMMA デルペット80N 、ビカット軟化温度109℃
メタクリレート系樹脂B2:旭化成ケミカルズ株式会社製PMMA デルペット80NH、ビカット軟化温度109℃
【0054】
[実施例1]
ポリ乳酸系樹脂(A1)とメタクリレート系樹脂(B1)を、直径30mmのスクリューを有する二軸押出機(日本製鋼所製 TEX30α−31.5BW−5V)に供給し、溶融、混練し、T−ダイよりシートを押し出して、そのシートをロールで冷却、再加熱した後、ロール群の速度差により、シートをシート流れ方向(MDとする)に2.0倍延伸した。さらに、テンターにより、シートをシート流れ方向に対して直交方向(TDとする)に2.0倍延伸して、厚みが0.18〜0.33mmのシートを得た。
ここで、延伸温度(テンター雰囲気温度)を77℃、冷却温度を51℃に設定し、表1に示す物性のシートを得た。
【0055】
[実施例2]
延伸温度を75℃、冷却温度を55℃とした以外は実施例1と同様に製膜し、表1に示す物性のシートを得た。
【0056】
[実施例3]
ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸系樹脂A2を用いた以外は実施例2と同様に製膜し、表1に示す物性のシートを得た。
【0057】
[実施例4]
冷却温度を70℃とした以外は実施例3と同様に製膜し、表1に示す物性のシートを得た。
【0058】
[実施例5]
メタクリレート系樹脂として、メタクリレート系樹脂B2を用い、冷却温度を54℃とした以外は実施例3と同様に製膜し、表1に示す物性のシートを得た。
【0059】
[実施例6]
延伸温度を72℃、冷却温度を56℃とした以外は実施例3と同様に製膜し、表1に示す物性のシートを得た。
【0060】
[実施例7]
メタクリレート系樹脂B1の配合割合を35質量%とし、延伸温度を78℃、冷却温度を54℃とした以外は実施例2と同様に製膜し、表2に示す物性のシートを得た。
【0061】
[実施例8]
メタクリレート系樹脂B1の配合割合を50質量%とし、延伸温度を80℃、冷却温度を53℃とした以外は実施例2と同様に製膜し、表2に示す物性のシートを得た。
【0062】
[実施例9]
延伸温度を90℃、冷却温度を56℃としとした以外は実施例8と同様に製膜し、表2に示す物性のシートを得た。
【0063】
[実施例10]
ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸系樹脂A2を用い、冷却温度を43℃とした以外は実施例8と同様に製膜し、表22示す物性のシートを得た。
【0064】
[実施例11]
シート流れ方向(MD)の延伸倍率を2.5倍とし、シート流れ方向に対して直交方向(TD)の延伸倍率を2.5倍と、冷却温度を63℃としした以外は実施例9と同様に製膜し、表2に示す物性のシートを得た。
【0065】
[実施例12]
ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸系樹脂A2を用い、延伸温度を82℃とした以外は実施例11と同様に製膜し、表2に示す物性のシートを得た。
【0066】
[比較例1]
メタクリレート系樹脂を無配合とし、延伸温度を70℃とし、冷却温度を70℃とした以外は実施例1と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、耐熱性に劣るものであった。
【0067】
[比較例2]
延伸倍率を1.0×1.0倍(無延伸)とした以外は比較例1と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、耐熱性に劣り、配向度が低く、耐衝撃性にも劣るものであった。
【0068】
[比較例3]
メタクリレート系樹脂B1の配合割合を15質量%とした以外は実施例2と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、耐熱性に劣るものであった。
【0069】
[比較例4]
延伸温度を85℃とし、冷却温度を53℃とした以外は実施例1と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性に劣るものであった。
【0070】
[比較例5]
冷却温度を100℃とした以外は実施例1と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、結晶化度が高く、型再現性に劣るものであった。
【0071】
[比較例6]
冷却温度を110℃とした以外は実施例3と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、結晶化度が高く、型再現性に劣るものであった。この比較例6のシートは成形不可であった。
【0072】
[比較例7]
延伸温度を80℃とし、冷却温度を58℃とした以外は実施例6と同様に製膜し、表3に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表3に示すとおり、結晶化度が高く、型再現性に劣るものであった。
【0073】
[比較例8]
延伸温度を83℃とし、冷却温度を58℃とした以外は実施例6と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、結晶化度が高く、型再現性に劣るものであった。
【0074】
[比較例9]
冷却温度を105℃とした以外は実施例7と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性に劣るものであった。
【0075】
[比較例10]
延伸温度を100℃とし、冷却温度を57℃とした以外は実施例9と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性に劣るものであった。
【0076】
[比較例11]
冷却温度を105℃とした以外は実施例9と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性に劣るものであった。
【0077】
[比較例12]
冷却温度を120℃とした以外は実施例9と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性に劣るものであった。
【0078】
[比較例13]
延伸倍率を1.0×1.0倍(無延伸)とした以外は実施例9と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、配向度が低く、耐衝撃性にも劣るものであった。
【0079】
[比較例14]
メタクリレート系樹脂B1の配合割合を75質量%とし、延伸温度を110℃とした以外は実施例9と同様に製膜し、表4に示す物性のシートを得た。得られたシートの物性は表4に示すとおり、植物由来度に劣るものであった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
耐衝撃性が良好であった実施例1〜12及び耐衝撃性が不足であった比較例2〜4、比較例9〜11の、メタクリレート系樹脂含有率(質量%)と面配向度(ΔP)の関係を示すグラフを図1に示す。
図1のグラフの結果から、面配向度(ΔP)がΔP≧(4.6−0.072X)/1000を満たすシートは、耐衝撃性が良好であることが確認された。
【0085】
また、実施例1〜12のシートORS平均値(MPa)と成形時の突起高さ(mm)の関係を示すグラフを図2に示す。
図2のグラフの結果から、ORS(MPa)が5.5MPa以下であれば、成形時の型再現性は良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリ乳酸系延伸シートは、優れた耐熱性、耐衝撃性、成形性を有し、成形用のポリ乳酸系延伸シートとして有用であり、熱成形容器、特に成形容器蓋材として好適に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を少なくとも一軸延伸してなるポリ乳酸系延伸シートであって、
前記樹脂組成物における前記ポリ乳酸系樹脂(A)と前記メタクリレート系樹脂(B)との配合割合(A):(B)が75:25〜45:55(質量比)であり、得られる延伸シートの面配向度(ΔP)と配向緩和応力(ORS)の長手方向及び幅方向の平均値が、下記の式(1)及び(2)
ΔP≧(4.6−0.072X)/1000 (1)
ORS≦5.5MPa (2)
〔但し、上記の式(1)中のXは樹脂組成物中のメタクリレート系樹脂(B)の含有率(質量%)を表し、25≦X≦55である。〕
を満たすことを特徴とするポリ乳酸系延伸シート。
【請求項2】
更に、下記の式(3)で表される結晶化度が16J/g以下である請求項1記載のポリ乳酸系延伸シート。
結晶化度=結晶融解熱量(ΔHm)−結晶化熱量(ΔHc) (3)
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂(A)のD体含有率が2.0モル%以下又は98.0モル%以上である請求項1又は2記載のポリ乳酸系延伸シート。
【請求項4】
前記メタクリレート系樹脂(B)のビカット軟化温度が105℃以上である請求項1〜3の何れか1項記載のポリ乳酸系延伸シート。
【請求項5】
延伸後のシートの厚みが70〜500μmである請求項1〜4の何れか1項記載のポリ乳酸系延伸シート。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載のポリ乳酸系延伸シートを成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項7】
ポリ乳酸系樹脂(A)とメタクリレート系樹脂(B)とを、それらの配合割合(A):(B)が75:25〜45:55(質量比)で混合した樹脂組成物を、少なくとも一方向において延伸倍率を1.3〜8.0倍、延伸温度を70〜95℃として延伸した後、延伸温度以下で冷却することを特徴とするポリ乳酸系延伸シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−270183(P2010−270183A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121235(P2009−121235)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(505056122)サンディック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】