説明

ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂とを用いて、実用上優れた物性バランスおよび成形品表面外観を示すポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂成分が、ポリ乳酸樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂および芳香族ポリカーボネート樹脂で構成されるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であって、樹脂成分100重量部中に、ポリ乳酸樹脂を5〜95重量部、ゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂を合計で95〜5重量部、芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一部として、光学ディスクから回収された回収芳香族ポリカーボネート樹脂を5重量部以上、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂との合計で50重量部より多く含む。植物系樹脂であるポリ乳酸樹脂の用途を広げ、カーボンニュートラルの理念の実践を促進するとともに、使用済みの光学ディスクのリサイクルで、環境負荷の低減に貢献することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂、好ましくは廃棄光学ディスクから回収された回収芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する、物性バランスおよび成形品表面外観に優れるポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと言って過言ではない。
【0003】
ところで、近年、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。即ち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、当初、これらは生分解性樹脂として注目を集めたが、最近では植物系プラスチックとしてその意義が見直されている。
【0005】
こうした生分解性樹脂の中にあって、物性と量産化の可能性からポリ乳酸樹脂(PLA)の実用化が期待されてきたが、ポリ乳酸樹脂では、既存の石油系プラスチックに比べて特に耐衝撃強度および耐熱性に劣るという欠点が有り、早くからその改良が望まれてきた。
【0006】
一般に、プラスチックの耐衝撃強度を改良する為には、ゴム質重合体をブレンドする方法が行われており、ポリ乳酸樹脂に対しても同様の取り組みが行われてきた。
【0007】
例えば、特許文献1「特開平9−316310号公報」、特許文献2「特開2001−123055号公報」には、変成オレフィン化合物を添加する方法が、特許文献3「特開平11−140292号公報」には、架橋ポリカーボネートを配合する方法が示されているが、いずれも既存の汎用プラスチックと比較すると、物性改良効果は十分とは言えない。
【0008】
特許文献4「特開2002−37987号公報」には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)へのグラフト重合体(AES樹脂)の配合が示されているが、アイゾット衝撃強度で示される耐衝撃強度の改良効果は十分とは言えない。
【0009】
特許文献5「特開2003−286396号公報」には、多層構造重合体として、グラフト重合体の配合効果が示されている。ここでは多層構造重合体の最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を含有する重合体と規定しており、具体的にはゴム質重合体にメタクリル酸メチルなどのグラフトした重合体を示唆している。この技術では、確かに改質効果は高く評価されるものの、これら改質剤はいずれも高価であるため、工業的な生産には不適当である。
【0010】
一方、本発明者らは、先に、廃棄光学ディスクの回収方法について研究を重ね、特許文献6「特開2003−200133号公報」に、その回収方法を提案し、この方法で純度の高いポリカーボネート樹脂を得ることに成功した。また、特許文献7「特開2004−262045号公報」に、廃棄光学ディスクを粉砕、分割することなくそのまま用いて流動性および得られる成形品の剛性、耐衝撃性、表面外観に優れるリサイクル樹脂組成物を得る技術を提案した。
【特許文献1】特開平9−316310号公報
【特許文献2】特開2001−123055号公報
【特許文献3】特開平11−140292号公報
【特許文献4】特開2002−37987号公報
【特許文献5】特開2003−286396号公報
【特許文献6】特開2003−200133号公報
【特許文献7】特開2004−262045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献6,7等に記載される方法で回収されたポリカーボネート樹脂と、植物系プラスチックであるポリ乳酸樹脂とを配合することにより、地球環境に対する負荷をより低減した熱可塑性樹脂を実現することができるが、そのためには、実用上十分な物性バランスや成形品の表面外観を確保し得る材料の設計が必要となる。
【0012】
本発明は、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂とを用いてなる熱可塑性樹脂であって、実用上優れた物性バランスおよび成形品表面外観を示すポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物と、このポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とを組み合わせることにより、物性バランスおよび成形品表面外観に優れたポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供できることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであって、以下を要旨とする。
【0014】
(1) ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とからなる樹脂成分を含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一部が光学ディスクから回収した回収芳香族ポリカーボネート樹脂であり、樹脂成分100重量部中に該回収芳香族ポリカーボネート樹脂を5重量部以上含有することを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
(2) (1)において、樹脂成分100重量部中に、ポリ乳酸樹脂5〜95重量部と、ゴム含有スチレン系樹脂および芳香族ポリカーボネート樹脂を合計で95〜5重量部含むことを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
(3) (1)または(2)において、樹脂成分100重量部中に、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂とを合計で50重量部より多く含むことを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、流動性、成形性に優れ、また、これを成形して得られる成形品の耐衝撃強度等の機械的強度、剛性、耐熱性等の物性バランスが良く、各種筐体や構造部材としての用途に適した素材である。
【0019】
本発明によれば、このように実用的なポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を提供することにより、植物系樹脂であるポリ乳酸樹脂の用途を広げ、カーボンニュートラルの理念の実践を促進するとともに、使用済みの光学ディスクのリサイクルを可能として、環境負荷のより一層の低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
[ポリ乳酸樹脂]
本発明の樹脂組成物に適用されるポリ乳酸樹脂は、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得る事ができる。
【0022】
ポリ乳酸樹脂にはL体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸樹脂としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で用いるポリ乳酸樹脂は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0023】
ポリ乳酸樹脂に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0024】
ポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0025】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0026】
このようなポリ乳酸樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0027】
なお、ポリ乳酸樹脂の具体例としては、例えば、市販品のトヨタ自動車(株)製「トヨタエコプラスチックU‘z」、三井化学(株)製「レイシア」、Nature Works社製「Nature Works」、三菱樹脂(株)製「エコロージュ」などが挙げられる。
【0028】
[ゴム含有スチレン系樹脂]
本発明で使用するゴム含有スチレン系樹脂とは、一般にABS、ASA、AES、HIPS、MBS等で表現されるゴム質重合体に硬質重合体をグラフト重合した樹脂を示す。
【0029】
また、本発明のグラフト重合体とは、単量体をゴム質重合体にグラフト重合させることにより得られるものであり、このグラフト重合に際しては、中にはゴム質重合体にグラフト重合していない単量体の重合物が生成する場合もあるが、本発明でいうグラフト重合体はこれらを含めてグラフト重合体とする。
【0030】
本発明で使用するゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムや、スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴム等が挙げられ、これらは1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっても良い。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。
【0031】
また、ゴム質重合体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1〜2μmが好ましく、0.2〜1.5μmである事がより好ましい。なお、ゴム質重合体の平均粒子径は、グラフト重合前であれば、光学的な方法で測定することができる。また、グラフト重合した後は、染色剤によりゴム質重合体を染色した後に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて平均粒子径を算出することができる。
【0032】
このようなゴム質重合体にグラフト重合させる硬質重合体には、芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体を用いることが好ましい。具体的な芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0033】
また、ゴム質重合体にグラフト重合させる硬質重合体には、芳香族ビニル系単量体を主成分として、その他の共重合可能な単量体を併用することができる。共重合可能な他の単量体としては、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物が挙げられ、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルが挙げられる。マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、特に、耐熱性や衝撃性などのバランスからアクリロニトリルを使用することが好ましい。また、場合により官能基により変性された単量体を含んでいてもよく、このような単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
なお、単量体の使用比率(重量比)としては、芳香族ビニル系単量体/その他の共重合可能な単量体として100/0〜60/40の範囲で用いることが好ましい。
【0035】
ゴム含有スチレン系樹脂中のゴム含有量は好ましくは5〜80重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは7〜30重量%の範囲となるように調整する。この範囲よりもゴム含有量が低い場合には、十分な耐衝撃性が得られず、また、この範囲より多くても耐衝撃強度の向上は望めず、分散性不良や、剛性などの機械的特性の低下を招くおそれがある。
【0036】
なお、ゴム含有スチレン系樹脂のゴム含有量は、赤外分光測定装置を使用することにより測定することができる。
【0037】
また、ゴム含有スチレン系樹脂のアセトン可溶分の重量平均分子量は、50,000〜600,000の範囲が好ましく、より好ましくは70,000〜400,000、さらに好ましくは100,000〜250,000の範囲である。アセトン可溶分の重量平均分子量がこの範囲より低い場合には、得られるポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性が不足し、また、この範囲を超えた場合にはポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が低下する。
【0038】
また、ゴム含有スチレン系樹脂のグラフト率((アセトン不溶分重量/ゴム質重合体重量−1)×100)は、15〜150重量%であることが好ましい。ゴム含有スチレン系樹脂のグラフト率が15重量%より低い場合には、ゴム質重合体の分散性の低下や、衝撃強度の低下を生じる。また、グラフト率が150重量%より高い場合には、耐衝撃強度や成形性が低下する傾向にある。なお、グラフトしている重合体は、ゴム質重合体の外部のみならず内部にオクルードした構造であっても良い。
【0039】
ゴム含有スチレン系樹脂としては、重合方法や成分組成の異なるゴム含有グラフト重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0041】
さらに、本発明で使用されるゴム含有スチレン系樹脂は、上記のグラフト重合体のみに限らず、耐熱性や流動性などの特性改良のため、上記のグラフト重合体に硬質重合体を配合したものであっても良い。この場合でも、ゴム含有グラフト重合体と硬質重合体からなるゴム含有スチレン系樹脂中のゴム含有量および、アセトン可溶分の重量平均分子量は、上述の範囲内にあることが好ましい。
【0042】
グラフト重合体に配合する硬質重合体に用いられる単量体成分としては、先のゴム含有グラフト重合体で紹介した芳香族ビニル系単量体を主成分とした単量体および、その他の単量体を使用することができる。
【0043】
この硬質重合体についても1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0044】
なお、これらゴム含有スチレン系樹脂は、市場などから回収された樹脂や製造や成形工程で発生した樹脂屑などを配合してもよい。
【0045】
[芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、好ましくは溶液粘度法による粘度平均分子量が、12,000〜30,000の分子量を示すものであり、1種以上のビスフェノール類とホスゲン又は炭酸ジエステルとの反応によって製造することができる。
【0046】
このビスフェノール類の具体例としては、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロアルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、或いはこれらのアルキル置換体、アリール置換体、ハロゲン置換体などが挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が、市場で容易に入手できる点から好ましい。
【0048】
本発明において用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、市販の音楽用CDやゲーム用CD、MD、MO、DVD等の光学ディスクから金属反射膜や、塗装膜を除去して回収された回収芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することが好ましく、このような回収芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、使用済みの光学ディスクや不良品の光学ディスクをリサイクルして環境負荷のより一層の低減を図ることができるだけでなく、このような光学ディスクに利用される分子量のポリカーボネート樹脂を使用することにより、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂との溶融混合性を高め、ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物に、優れた物性バランスおよび成形品表面外観を付与することができる。
【0049】
ここで処理する光学ディスクは、基板が芳香族ポリカーボネート樹脂よりなる光学ディスクの生産から販売後迄のあらゆる経路から発生するいわゆる不良品、返却品、回収品、更には使用済の光学ディスク等の不用になった光学ディスクである。
【0050】
この光学ディスクとしては、具体的には、再生専用方式のものではコンパクトディスク、ミニディスク、レーザーディスク等のROMディスクがあり、記録及び再生方式のものではCD−R、ライトワンスディスク等のDRAMディスクがあり、書き換え可能方式のものでは光磁気ディスク、相変化光ディスク等のE−DRAWの光ディスクが挙げられる。これらの光学ディスクには、片面記憶型及びDVD用の2枚貼り合せ型がある。
【0051】
このような光学ディスクから芳香族ポリカーボネート樹脂を回収するには、酸またはアルカリ処理等による化学的処理方法、サンドブラスト法等の機械的処理方法等により、光学ディスクから金属反射膜や、塗装膜を除去して、常法に従って樹脂を回収すれば良い。
【0052】
このようにして得られる回収芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で、12,000〜18,000であることが望ましい。
【0053】
なお、本発明において、粘度平均分子量とは、塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度[ηsp]を次式に挿入して求める(但し[η]は極限粘度)。
[ηsp]/c=[η]+0.45×[η]2c
[η]=1.23×10×M0.83
c=0.7(濃度)
【0054】
[樹脂成分の配合割合]
本発明に係る樹脂成分は、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とで構成される。
【0055】
ポリ乳酸樹脂の配合量は、樹脂成分、即ち、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂との合計100重量部中、5〜95重量部の範囲であるが、好ましくは30〜90重量部、より好ましくは50〜80重量部であり、残部がゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂であることが、カーボンニュートラルの観点や、物性バランスの点において好ましい。この範囲よりも、ポリ乳酸樹脂の配合量が少ないとポリ乳酸樹脂を有効利用する本発明の目的を達成し得ず、多いと耐衝撃性に優れたポリ乳酸系熱可塑性樹脂成形品が得られなくなる。
【0056】
また、ゴム含有スチレン系樹脂の配合量は、樹脂成分、即ち、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂との合計100重量部中、2〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜40重量部である。この範囲よりも、ゴム含有スチレン系樹脂の配合量が少ないと衝撃強度が得られない傾向にあり、多いと流動性や耐熱性などの特性が悪化し、さらに環境負荷への貢献が減少する。
【0057】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂の配合量は、樹脂成分、即ち、ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂との合計100重量部中、3〜93重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜65重量部である。この範囲よりも、芳香族ポリカーボネート樹脂の配合量が少ないと耐熱性が低下する傾向にあり、多いと流動性が得られない傾向にある。
【0058】
前述の如く、芳香族ポリカーボネート樹脂として光学ディスクから回収した回収芳香族ポリカーボネート樹脂を用いる場合、回収芳香族ポリカーボネート樹脂は芳香族ポリカーボネート樹脂の全量であっても良く、その一部であっても良いが、回収芳香族ポリカーボネート樹脂を樹脂成分100重量部中5重量部以上、特に10〜60重量部程度含むことが好ましく、また、上記配合範囲において、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂との合計が樹脂成分100重量部中50重量部以上となるように、好ましくは50〜98重量部となるように各成分を配合することが、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂とを用いることによる環境負荷の低減という本発明の効果を有効に得る上で好ましい。
【0059】
[その他の成分]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物には、ポリ乳酸樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂、および芳香族ポリカーボネートよりなる樹脂成分に、更に各種の添加剤やその他の樹脂を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0060】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の製造および成形]
本発明のポリ乳酸系熱可塑性性樹脂組成物をペレット化する方法としては、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤を配合することもできる。
【0061】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができるが、その成形法としては特に射出成形が好適である。
【0062】
得られる成形品の用途としては特に制限はない。例えば、コンピューター、プリンター、コピー機等のOA機器、更にモバイルコンピュータをはじめとする携帯情報機器や携帯電話のハウジングに好適に使用することができる。また、自動車関連では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、特に内装部品に好適に用いることができる。
【0063】
なお、本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の各成分を調製する際、或いはこれらの成分を混合、混練、成形する際などに発生する樹脂屑等は、そのままの状態もしくは、場合によって破砕して溶融再生処理に供することができる。この場合、成形中に回収することも可能であるが、別途回収しておいて、上述のペレットの製造工程において、原料として混合使用することも可能である。
【実施例】
【0064】
以下に、合成例、実施例、および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0065】
なお、以下において、「部」は「重量部」を意味するものとする。
重量平均分子量は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、溶媒;THF)を用いた標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、本文中に記載の方法にて算出した。
ゴム質重合体の平均粒子径は、日機装(株)製:Microtrac Model:9230UPAを用いて動的光散乱法により求めた。
なお、HIPSのゴム粒子径は、TEM観察により測定した。
単量体の重量組成比率は、(株)堀場製作所製:FT−IRを使用して求めた。
【0066】
[ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂:生分解性ポリマー(L体/D体=99/1(重量比)、重量平均分子量=142,000、融点=180℃)
【0067】
[ゴム含有スチレン系樹脂]
合成例1:グラフト重合体(G−1)の製造
以下の配合にて、乳化重合法によりゴム含有グラフト重合体を合成した。
〔配合〕
スチレン(ST) 35部
アクリロニトリル(AN) 15部
ポリブタジエンラテックス 50部(固形分として)
不均化ロジン酸カリウム 1部
水酸化カリウム 0.03部
ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM) 0.04部
クメンハイドロパーオキサイド 0.3部
硫酸第一鉄 0.007部
ピロリン酸ナトリウム 0.1部
結晶ブドウ糖 0.3部
蒸留水 190部
【0068】
オートクレーブに蒸留水、不均化ロジン酸カリウム、水酸化カリウムおよびポリブタジエンラテックス(平均粒子径0.31μm)を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままST、AN、t−DMおよびクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得たラテックスに酸化防止剤を添加し、その後硫酸により凝固させ、十分水洗後、乾燥してABSグラフト重合体(G−1)を得た。
【0069】
合成例2:グラフト重合体(G−2)の製造
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてポリブチルアクリレート(平均粒子径0.34μm)50部(固形分として)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてグラフト重合を行い、ASAグラフト重合体(G−2)を得た。
【0070】
合成例3:グラフト重合体(G−3)の製造
合成例1の原料配合において、ゴム質重合体としてエチレン−プロピレンゴム(平均粒子径0.48μm)50部(固形分として)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてグラフト重合を行い、AESグラフト重合体(G−3)を得た。
【0071】
[硬質重合体]
合成例4:硬質重合体(P−1)の製造
以下のように、懸濁重合法により硬質重合体を合成した。
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部、t−DM0.5部と、アクリロニトリル30部、スチレン70部からなるモノマー混合物を使用し、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で4時間反応した後、重合物を取り出し硬質重合体(P−1)を得た。
【0072】
合成例1,2,3で製造した各グラフト重合体(G−1〜3)と合成例4で製造した硬質重合体(P−1)について、下記のような配合比率で混合し、ゴム含有スチレン系樹脂を作成した。各ゴム含有スチレン系樹脂について、ゴム含有量、単量体の重量組成比率、グラフト率、およびアセトン可溶分の重量平均分子量を測定したところ、以下の通りであった。
【0073】
ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂);
グラフト重合体(G−1)/硬質重合体(P−1)=30/70
ゴム含有量=15.2重量%
AN/ST=28/72
グラフト率=52.3%
重量平均分子量(Mw)=163,000
【0074】
ゴム含有スチレン系樹脂(ASA樹脂);
グラフト重合体(G−2)/硬質重合体(P−1)=40/60
ゴム含有量=20.4重量%
AN/ST=29/71
グラフト率=57.7重量%
重量平均分子量(Mw)=155,000
【0075】
ゴム含有スチレン系樹脂(AES樹脂);
グラフト重合体(G−3)/硬質重合体(P−1)=40/60
ゴム含有量=20.2重量%
AN/ST=29/71
グラフト率=45.2重量%
重量平均分子量(Mw)=158,000
【0076】
また、ゴム含有スチレン系樹脂として、下記仕様のHIPS樹脂:PSジャパン(株)製「403R」を用いた。
ゴム含有量(SBR)=10重量%
ゴム質平均粒子径=1.2μm
ST=100%
グラフト率=70%
重量平均分子量(Mw)=205,000
【0077】
さらに、上記のゴム含有スチレン系樹脂(ASA樹脂)をシート成形したものを、再度粉砕して、回収ASA樹脂として用いた。
【0078】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)]
バージンPC樹脂−1:帝人化成(株)製:「パンライトL−1225L」(粘度平均分子量=15,000)
バージンPC樹脂−2:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製:「ユーピロンE−2000」(粘度平均分子量=25,000)
回収PC樹脂:市場より回収した音楽用CDを日本マルセル社製剥離液により塗装および蒸着膜を剥離した後、水洗し、乾燥後、透明なCD基板を得、これを粉砕機により粉砕したもの(粘度平均分子量=14,500)
【0079】
[ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造および評価]
上記の各成分を表1に示す配合割合で混合し、更に、造核剤としてセバシン酸ジ安息香酸ヒドラジドを0.5部、安定剤として日清紡(株)製「カルボジライト HMV−8CA」0.3部と共に混合した後、200〜240℃で2軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)にて溶融混合し、ペレット化することにより、熱可塑性樹脂組成物のペレットを作成した。
【0080】
これらの樹脂ペレットを2オンス射出成形機(東芝(株)製)で200〜250℃にて成形し、耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)、耐熱性(荷重たわみ温度)、流動性(メルトボリュームレート)を下記方法で測定した。
【0081】
シャルピー衝撃強さ(KJ/m):ISO 179(常温)
荷重たわみ温度(℃):ISO 75(測定荷重0.45MPa)
メルトボリュームレート(MVR:cm/10min):ISO 1133(230℃/98N)
【0082】
更に、100mm×100mm×3mm(厚み)の正方形状の成形品を成形し、その表面外観を目視観察し、下記基準で評価した。
○:良好
△:ゲート部に若干フローマーク発生
×:ゲート部に著しいフローマーク発生
【0083】
また、環境負荷低減度としてポリ乳酸樹脂および回収PCの合計配合量を示した。例えば、ポリ乳酸樹脂を50部、回収PCを10部配合した場合は、その樹脂組成物の環境負荷低限度は60である。本発明の趣旨より、この環境負荷低限度は50を超えることが望ましい。
【0084】
[実施例および比較例]
表1に実施例1〜11、および比較例1〜3の結果を示した。
【0085】
【表1】

【0086】
[考察]
表1から明らかなように、本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜11のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、耐熱性、流動性の物性バランスに優れ、成形品表面外観にも優れている。また、環境負荷低減度も50を超える。
【0087】
これに対して、比較例1のポリ乳酸樹脂単独のものは耐衝撃強度および耐熱性が著しく低い。比較例2では、ゴム含有スチレン系樹脂を含まないため、相溶性に劣り、目的の衝撃強度および表面外観が得られない。また、比較例3では、回収ポリカーボネート樹脂を含まないため、耐衝撃強度や流動性のバランスが悪いうえ、表面外観も悪いため実用性に乏しい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、優れた物性バランスおよび成形品表面外観を示すことから、例えば、コンピューター、プリンター、コピー機等のOA機器、更にモバイルコンピュータをはじめとする携帯情報機器や携帯電話のハウジングなど、自動車関連の用途では、トランク内の敷板、タイヤカバー、フロアボックスなど、車両・船舶などの特に内装部品など、市場のニーズに合わせて多彩な用途に使用することができ、その工業的有用性は非常に高い上に、環境負荷の低減にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂とゴム含有スチレン系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とからなる樹脂成分を含むポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物であって、該芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一部が光学ディスクから回収した回収芳香族ポリカーボネート樹脂であり、樹脂成分100重量部中に該回収芳香族ポリカーボネート樹脂を5重量部以上含有することを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、樹脂成分100重量部中に、ポリ乳酸樹脂5〜95重量部と、ゴム含有スチレン系樹脂および芳香族ポリカーボネート樹脂を合計で95〜5重量部含むことを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、樹脂成分100重量部中に、ポリ乳酸樹脂と回収芳香族ポリカーボネート樹脂とを合計で50重量部より多く含むことを特徴とするポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2007−321096(P2007−321096A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154956(P2006−154956)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】