説明

ポリ乳酸組成物

【課題】 応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることができる高度な延伸性及び柔軟性を有し、しかも線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に、急激な変形回復が起こらず長時間経過後にほぼ元の形状に回復する優れた遅延弾性回復特性を有することを可能とするポリ乳酸組成物を提供すること。
【解決手段】 ポリ乳酸と、エステル系可塑剤とを含有するポリ乳酸組成物であって、
前記エステル系可塑剤の含有量が16〜33wt%であること、及び、
応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放すると、応力解放後に測定される残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であること、
を特徴とするポリ乳酸組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸組成物に関し、より詳しくは、バンパー等の自動車部品の素材として好適なポリ乳酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、微生物や酵素の働きにより分解する性質、いわゆる生分解性を示し、人体に無害な乳酸や二酸化炭素と水になることから、医療用材料や汎用樹脂の代替物として注目されている。そして、このようなポリ乳酸を含有するポリ乳酸組成物においては、延伸性や柔軟性等の特性を持たせる研究開発が行われている。
【0003】
例えば、特開2003−313401号公報(特許文献1)においては、脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル中に可塑剤として配合されている10重量%以下のアルコールリグニン誘導体もしくは桂皮酸エステル誘導体とを含む脂肪族ポリエステル組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の脂肪族ポリエステル組成物の1種である10wt%以下のアルコールリグニン誘導体もしくは桂皮酸エステル誘導体を含有するポリ乳酸組成物は、その延伸性の点では未だ十分なものではなかった。
【0004】
また、ポリ乳酸に多量のエステル系可塑剤を含むポリ乳酸組成物が開示されている。例えば、特開2003−302956号公報(特許文献2)においては、脂肪族ポリエステル100重量部に対しグリセリン1〜10分子の縮合物と炭素数6〜18のカルボン酸との反応生成物である化合物(B)から選ばれた少なくとも1種の化合物10〜60重量部を含む脂肪族ポリエステル組成物が開示されている。また、特開平11−35808号公報(特許文献3)においては、重量平均分子量150〜30000のエーテルエステル系可塑剤を含む乳酸系ポリマー組成物が開示されている。さらに、特開2003−231798号公報(特許文献4)においては、主成分として、乳酸系樹脂67質量%〜96質量%と、常圧における沸点が220℃以上であるか、あるいは5Torr〜10Torrにおける沸点が170℃以上である可塑剤4質量%〜33質量%とを含む乳酸系樹脂組成物が開示されている。しかしながら、このような特許文献2〜4に記載のポリ乳酸組成物は延伸性や柔軟性は示すが、線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に急激な変形回復が起こらず長時間経過後にほぼ元の形状に回復する挙動を示す遅延弾性回復特性の点では未だ十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2003−313401号公報
【特許文献2】特開2003−302956号公報
【特許文献3】特開平11−35808号公報
【特許文献4】特開2003−231798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることができる高度な延伸性及び柔軟性を有し、しかも線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に、急激な変形回復が起こらず長時間経過後にほぼ元の形状に回復する優れた遅延弾性回復特性を有することを可能とするポリ乳酸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸にエステル系可塑剤を16〜33wt%含有させることにより、ポリ乳酸組成物が高度な延伸性及び柔軟性を有するとともに驚くべきことに優れた遅延弾性回復特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸と、エステル系可塑剤とを含有するポリ乳酸組成物であって、
前記エステル系可塑剤の含有量が16〜33wt%であること、及び、
応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放すると、応力解放後に測定される残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であること、
を特徴とするものである。
【0008】
上記本発明のポリ乳酸組成物としては、前記残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上でかつ応力解放後24時間後に33.3%以下であることが好ましく、応力解放後0.2分後に66.7%以上でかつ応力解放後1時間後に33.3%以下であることがより好ましい。
【0009】
また、上記本発明にかかる前記エステル系可塑剤としては、アルコールリグニン誘導体、桂皮酸エステル誘導体、クエン酸エステル誘導体及びグリセリンエステル誘導体からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましく、中でも桂皮酸エステル誘導体であることが特に好ましい。
【0010】
なお、本発明における残存変形量は以下の測定方法によって得られる値である。
【0011】
先ず、残存変形量の測定に用いる試験片について説明する。図1は、残存変形量の測定方法に用いるダンベル形の試験片の正面図である。ここで、図1中のlは試験片の全長、lは試験片の幅の広い平行部分(幅広部)の間の間隔、lは試験片の幅の狭い平行部分(幅狭部)の長さをそれぞれ示す。また、rは試験片の幅狭部と幅広部との間の曲線部の曲率半径、bは試験片の幅広部の幅、bは試験片の幅狭部の幅、hは試験片の厚さ、Lは標準間距離、Lはつかみ具間の初めの間隔をそれぞれ示す。
【0012】
このような試験片は、JIS K7113に記載の1号形ダンベル試験片に準ずるものであり、本発明において残存変形量の測定に用いる試験片のサイズは以下の通りである。
〈試験片のサイズ〉
:172mm、l:106mm、l:60mm、r:55.4mm、b:20mm、b:10mm、h:3.2mm、L:50mm、L:115mm
また、このような試験片は、ポリ乳酸組成物から射出成形により製造する。このような射出成形には、射出成形機(日精樹脂工業製:PS40E2ASE)を用いた。
【0013】
次に、このような試験片を用いて行う残存変形量の測定方法について説明する。なお、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させる方法としては延伸であっても曲げ変形であってもよいことから、残存変形量の測定方法について(i)延伸の場合と(ii)曲げ変形の場合とに分けて説明する。
【0014】
(i)延伸の場合における残存変形量の測定方法
このような残存変形量の測定を行うために、延伸を行うための装置としてインストロン万能試験機(インストロン社製:4302型万能試験機)を採用する。そして、前記装置にチャック間距離が115mmとなるように前記試験片の両端を付属の治具で保持する。次に、前記装置を用いて、チャック間距離が215mm(延伸長さ100mm)となるまで5mm/minの速度で試験片を延伸し、前記延伸装置を停止する。このような延伸の操作はJIS K7113で定められる「プラスチックの引張試験法」に準ずるものである。また、ひずみεは、下式(1):
ε(%)={(l−l)/l}×100 (1)
(式(1)中、lは試験前の試験片長さを示し、lは延伸停止時の試験片長さを示す。)
により求められる値である。本操作において延伸停止直後のひずみεは58.1%となる。
【0015】
次に、前述のようにして与えたひずみεが58.1%となるように延伸させた試験片を直ちに治具から取り外して応力を解放し、応力解放後0.2分経過後の試験片長さを測定する。その後、試験片を机上等に放置し続け、240時間(14400分)経過後の試験片長さを測定する。なお、前記経過時間は試験片を治具から取り外した時点(応力解放時)を0分として計測する。そして、残存変形量Xは、このようにして測定した試験片長さの値を用い、下式(2):
(%)={[(l−l)−(l−l)]/(l−l)}×100 (2)
(式(2)中、lは試験前の試験片長さを示し、lは延伸停止時の試験片長さを示し、lは応力解放後n分経過後の試験片長さを示す。)
によりを求める。このようにして本発明における残存変形量を測定することができる。なお、このような試験は全て温度23℃、相対湿度50%の条件下において行う。
【0016】
(ii)曲げ変形の場合における残存変形量の測定方法
このような残存変形量の測定を行うために、曲げ変形を行うための装置として支点間距離が50mmとなるような3点曲げ試験治具を取り付けたインストロン万能試験機(インストロン社製:4302型万能試験機)を採用する。そして、前記試験片を前記装置の支持台(2点)に置く。また、試験片には支持台の支点位置に対応する部分に標線を付けておく。次に、前記装置を用いて、試験片中央部に接している圧子を5mm/minの移動速度(たわみ量を時間で除した速度)で移動量が30mmになるまで試験片を曲げ変形させ、前記装置を停止する。このような曲げ変形の操作はJIS K7171で定められる「プラスチック−曲げ特性の試験方法」に準ずるものである。また、たわみ量とは通常、「支点間中央位置における試験片の上面又は下面が湾曲しているとき、初め(応力をかける前)の平面の位置から離れた距離」として定義されるが、ここでは圧子の移動量が大きく、標線位置が初めの平面の位置から大きく下側にずれてしまうため、ここでは前記導船間を結ぶ水平線の中心位置から、凹部位置(支点間中心位置)までの距離(単位:mm)である。従って本操作で与えられるたわみ量は通常の定義に従えば30mmであるが、ここでの定義に従えば16mmとなった。さらに、前記ひずみεは下式(3):
ε(%)=(6hl/L)×100 (3)
(式(3)中、hは試験片厚さを示し、Lは支点間距離を示し、lは装置停止時(応力解放時)のたわみ量を示す。)
により求められる値である。本操作において変形停止直後のひずみεは12.3%となる。上述の通り、たわみ量が極端に大きくなると試験片の標線位置が支持台の支点位置から外れて支点間の内側に移動することになるため、上記で定義されるひずみは見かけの値となる。例えば、試験片厚み3.2mm、支点間距離を50mmとした場合、たわみ量が約10mmよりも大きくなると標線位置が支持台の支点位置から外れることとなるが、たわみ量が10mmの場合におけるひずみが7.7%であるので試験片を線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させるためには充分に大きな曲げ変形であると言える。
【0017】
次に、前述のように与えたひずみεが12.3%となるまで曲げ変形させた試験片を直ちに支持台から取り外して応力を解放し、応力解放後0.2分経過時のたわみ量を測定する。その後、試験片を机上などに放置し続け、240時間(14400分)経過後のたわみ量を測定する。なお、前記経過時間は、試験片を支持台から取り外した時点を応力解放時(0分)として計測した経過時間である。そして、残存変形量Xは、測定したたわみ量の値を用い、下式(4):
=(l/l)×100 (4)
(式(4)中、lは装置停止時(応力解放時)のたわみ量を示し、lは応力解放後n分経過後のたわみ量を示す。)
により求める。このようにして本発明における残存変形量を測定することができる。なお、このような試験は全て温度23℃、相対湿度50%の条件下において行った。
【0018】
なお、本発明のポリ乳酸組成物が、高度な延伸性及び柔軟性を発揮するとともに優れた遅延弾性回復特性を発揮する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、ポリ乳酸が高度な延伸性及び柔軟性を発揮することが可能になる点に関しては、エステル系可塑剤により分子運動性が増加し、外力による巨視的な変形に対して微視的な変形の追随が可能になるためであると本発明者らは推測する。
【0019】
次に、優れた遅延弾性回復特性を発揮することが可能になる点に関しては、粘弾性模型としてよく登場するばね(弾性体)とダッシュポット(粘性体)の関係を思い浮かべ、ポリ乳酸分子をばね、エステル系可塑剤をダッシュポットに例えて考えるとわかりやすい。すなわち、16〜33wt%のエステル系可塑剤を含有させることによって、ポリ乳酸組成物の粘性が高められるため塑性的な変形が可能となり、且つ、その粘性の高さから急激な変形回復を困難とすることが可能となる。一方で、ポリ乳酸分子の弾性回復力が徐々にではあるが長時間継続して作用するため変形回復が可能になる。また、このような挙動が他の可塑剤と他の樹脂との組合せでなく、16〜33wt%のエステル系可塑剤とポリ乳酸との組合せにおいて認められるのは、両者の組合せが適切な相容性を有していることと、分子構造がらせん状であることやガラス転移温度が60℃付近にあることといったポリ乳酸の特性とが影響していると本発明者らは推測する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることができる高度な延伸性及び柔軟性を有し、しかも線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に、急激な変形回復が起こらず長時間経過後にほぼ元の形状に回復する優れた遅延弾性回復特性を有することを可能とするポリ乳酸組成物を提供することが可能となる。
【0021】
このように、本発明のポリ乳酸組成物においては線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることができるため、外力による損壊を防ぐことが可能となる。また、線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に急激な変形回復が起こると周囲に存在する物体を損壊してしまい易いが、本発明のポリ乳酸組成物においては応力を解放した直後には見かけ上、塑性変形したかの如く振舞って急激な変形回復が起こらないため、前述のような問題を十分に防止することができる.さらに、本発明のポリ乳酸組成物は長時間経過させた後において、弾性体と同様にほぼ元の形状に回復するため変形に伴う外観上の不具合を残存させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明にかかるポリ乳酸について説明する。本発明にかかるポリ乳酸は、L−乳酸由来のモノマー単位と、D−乳酸由来のモノマー単位のいずれか一方のみで構成されていてもよいし、また双方の共重合体であってもよい。また、前記ポリ乳酸がL−乳酸由来のモノマー単位とD−乳酸由来のモノマー単位との共重合体である場合、D−乳酸由来のモノマー単位又はL−乳酸由来のモノマー単位のうちの一方の含有割合は特に制限されないが、立体規則性の低下により結晶化が阻害されて得られるポリマー鎖が複雑に絡み合ってポリ乳酸組成物の遅延弾性回復特性をより向上させることができるという観点から、2〜98mol%の範囲にあることが好ましく、5〜95mol%の範囲にあることがより好ましく、15〜85mol%の範囲にあることが更に好ましい。
【0024】
また、L−乳酸由来のモノマー単位と、D−乳酸由来のモノマー単位との比率が異なる複数のポリ乳酸が任意の割合でブレンドされたものを用いてもよい。
【0025】
さらに、本発明にかかるポリ乳酸においては、得られるポリ乳酸組成物の遅延弾性回復特性の付与を阻害しない範囲であれば、乳酸又はラクチドに加えて、グリコリド、カプロラクトン等の他の重合性単量体をさらに重合させて共重合体としてもよく、また、他の重合性単量体の単独重合により得られるポリマーをポリ乳酸とブレンドしてもよい。なお、他の重合性単量体に由来する重合鎖がポリマー全量に占める割合は、モノマー換算で50mol%以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明にかかるポリ乳酸としては、得られるポリ乳酸組成物の遅延弾性回復特性の付与を阻害しない範囲であれば、分岐及び/又は架橋構造が含まれていてもよい。
【0027】
また、本発明にかかるポリ乳酸の重量平均分子量としては、30000以上であることが好ましく、100000以上であることがより好ましく、150000以上であることが特に好ましい。前記重量平均分子量が30000未満では、ポリ乳酸分子鎖同士の絡み合いが不十分となって遅延弾性回復特性が低下する傾向にある。
【0028】
このようなポリ乳酸の合成方法は特に制限されず、D−乳酸、L−乳酸の直接重合でもよく、乳酸の環状2量体であるD−ラクチド、L−ラクチド、meso−ラクチドの開環重合であってもよい。
【0029】
次に、本発明にかかるエステル系可塑剤について説明する。このようなエステル系可塑剤としては、アルコールリグニン誘導体、クエン酸エステル誘導体、グリセリンエステル誘導体、桂皮酸エステル誘導体、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。このようなエステル系可塑剤の中でも、均質な複合体の作製の観点から、桂皮酸エステル誘導体、クエン酸エステル誘導体及びグリセリンエステル誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0030】
このような桂皮酸エステル誘導体としては、シナモン等の成分として天然にも存在する桂皮酸(β−フェニルアクリル酸)とアルコールとのエステルであり、下記一般式(1):
【0031】
【化1】

【0032】
で表わされるものが好ましい。
【0033】
前記一般式中、Rは低級アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基及び置換基を有していてもよいアリールアルケニル基からなる群から選択される少なくとも一つの基であり、中でもアリールアルキル基又はアリールアルケニル基が好ましい。
【0034】
低級アルキル基としては、炭素数が1〜5のアルキル基が挙げられ、中でもメチル基、エチル基が好ましい。また、アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。さらに、アリールアルキル基としては、前記アリール基に前記低級アルキル基が置換したものが挙げられ、中でもフェニルメチル基が好ましい。また、アリールアルケニル基としては、前記アリール基に炭素数が1〜5の低級アルケニル基が置換したものが挙げられ、中でもフェニルプロペニル基が好ましい。
【0035】
さらに、アリール基、アリールアルキル基及びアリールアルケニル基の置換基としては、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基及びハロゲンからなる群から選択される少なくとも一つの基が挙げられ、中でも低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基が好ましい。なお、ここでいう低級アルキル基は前述のものと同様である。また、低級アルコキシ基としては炭素数が1〜5のアルコキシ基が挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましい。さらに、ハロゲンとしては塩素、フッ素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0036】
前記一般式中、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基及びハロゲンからなる群から選択される少なくとも一つの基であり、中でも低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基が好ましい。なお、ここでいう低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲンはいずれも前述のものと同様である。
【0037】
さらに、前記一般式中のnは0〜5の整数である。すなわち、Xで表わされる置換基は無くてもよく、また、フェニル基上の5個の水素が全てXで表わされる基で置換されていてもよい。なお、Xで表わされる置換基が存在する場合、全ての置換基が同一でも異なっていてもよく、それらの数は1〜2個が好ましく、また、置換位置はメタ位又はパラ位が好ましい。
【0038】
前記桂皮酸エステル誘導体として特に好ましいものは、下記構造式(2):
【0039】
【化2】

【0040】
で表わされる桂皮酸ベンジル(シンナム酸ベンジル)、又は、下記構造式(3):
【0041】
【化3】

【0042】
で表わされる桂皮酸シンナミル(シンナム酸シンナミル)である。
【0043】
また、前記クエン酸エステル誘導体としては、クエン酸モノアルキル、クエン酸ジアルキル、クエン酸トリアルキル、クエン酸アセチルモノアルキル、クエン酸アセチルジアルキル、クエン酸アセチルトリアルキル等が挙げられる。このようなクエン酸エステル誘導体の中でも、ポリ乳酸との相溶性を向上させて十分にブリードを防止するという観点から、クエン酸アセチルアルキルが好ましく、さらに前記アルキル置換基の炭素数が2以下(例えば、クエン酸アセチルトリエチル等)を用いることがより好ましい。このような炭素数が2を超えるとクエン酸エステル誘導体がブリードしてアウトして射出成形等で得られるポリ乳酸組成物を成形することが困難となる傾向にある。
【0044】
さらに、前記グリセリンエステル誘導体としては、モノグリセリンアルキレート、ジグリセリンアルキレート、トリグリセリンアルキレート、テトラグリセリンアルキレート、モノグリセリンアリーレート、ジグリセリンアリーレート、トリグリセリンアリーレート、テトラグリセリンアリーレート等が挙げられる。このようなグリセリンエステル誘導体の中でも、例えば、アルキル置換基を含有するグリセリンエステル誘導体(例えばモノグリセリンアルキレート、ジグリセリンアルキレート、トリグリセリンアルキレート、テトラグリセリンアルキレート等)である場合には、ポリ乳酸との相溶性を向上させて十分にブリードを防止するという観点から、前記グリセリンの重合度が2〜4であるグリセリンエステル誘導体(例えば、ジグリセリンテトラアセテート等)を用いることがより好ましい。このようなグリセリンの重合度が2〜4の範囲外にあるとグリセリンエステル誘導体がブリードしてアウトして射出成形等で得られるポリ乳酸組成物を成形することが困難となったり、均質な複合体が得られ難くなる傾向にある。
【0045】
さらに、このようなエステル系可塑剤の中でも、得られるポリ乳酸組成物を変形させて応力を解放させた場合に長時間経過後の残存変形量がより小さくなるという観点から、桂皮酸エステル誘導体を用いることが特に好ましい。なお、このようなエステル系可塑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、本発明のポリ乳酸組成物においては、前記エステル系可塑剤の含有量は16〜33wt%であることが必要である。このような含有量が16wt%未満では、線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させる前にポリ乳酸組成物が破断してしまうか、破断しないとしても、本発明が目的とする遅延弾性回復特性が得られない。他方、前記含有量が33wt%を超えると、エステル系可塑剤をブリードせずにポリ乳酸組成物に含有させることが困難であり、さらには得られるポリ乳酸の遅延弾性回復特性が低下する。
【0047】
さらに、このようなエステル系可塑剤の含有量としては、得られるポリ乳酸の遅延弾性回復特性をより向上させるという観点から、16〜25wt%程度であることがより好ましい。
【0048】
また、本発明のポリ乳酸組成物においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、結晶核剤、無機充填材、加水分解抑制剤、酸化防止剤、耐熱化剤、滑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、離型剤、顔料、着色剤、染料、抗菌剤等を添加してもよい。
【0049】
次に、本発明のポリ乳酸組成物について説明する。すなわち、本発明のポリ乳酸組成物は、前記ポリ乳酸と、前記エステル系可塑剤とを含有するポリ乳酸組成物であって、
前記エステル系可塑剤の含有量が16〜33wt%であること、及び、
応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放すると、応力解放後に測定される残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であること、
を特徴とするものである。
【0050】
このように本発明のポリ乳酸組成物は、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることが可能である。ここで、線形挙動とは応力がひずみに比例して増加することを意味する。プラスチック成形品では、前述の延伸によるひずみεが10%以上であるか、又は前述の曲げ変形によるひずみεが2%以上である状態であればほぼ例外なく線形挙動から外れた状態となり得る。本発明のポリ乳酸組成物はこのように高度な延伸性及び柔軟性を有している。
【0051】
また、本発明のポリ乳酸組成物は、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放すると、応力解放後に測定される残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であるという特性(遅延弾性回復特性)を有している。このように、本発明のポリ乳酸組成物は、線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放した場合に、見かけ上、塑性変形したかの如く振舞って急激な変形回復が起こることがなく、しかも長時間経過後には弾性体と同様にほぼ元の形状に回復するという遅延弾性回復特性を示す。
【0052】
このような残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%未満では、応力解放後に急激な変形回復をしてしまい、本発明が目的とする遅延弾性回復特性が得られない。そのため、残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%未満のポリ乳酸組成物を成形品とした場合には、急激な変形回復に伴って周囲に存在する物体を破損させることがある。また、前記残存変形量が応力解放後240時間後に33.3%を超えると、変形に伴う著しい外観上の不具合を残存させることになる。
【0053】
また、本発明のポリ乳酸組成物としては、実用上より望ましい遅延弾性特性が得られるという観点から、前記残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後24時間後に33.3%以下であることが好ましく、応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後1時間後に33.3%以下であることがより好ましい。また、前記応力解放後0.2分後における残存変形量としては、75%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0054】
なお、本発明において残存変形量を測定する際に、変形させる態様が延伸の場合には5mm/minの延伸速度で延伸させているが、本発明のポリ乳酸組成物としては、より高度な延伸性及び遅延弾性回復特性を発揮できるという観点から、延伸により変形させる際の延伸速度が10〜20mm/min以上においても、前記ひずみεが10%以上である状態とすることができ、かつ前記数値範囲にある遅延弾性回復特性を発揮できるポリ乳酸組成物であることが好ましい。
【0055】
また、本発明において残存変形量を測定する際に、変形させる態様が曲げ変形の場合には5mm/minのたわみ速度で曲げ変形させているが、本発明のポリ乳酸組成物としては、より高度な柔軟性及び遅延弾性回復特性を発揮できるという観点から、たわみ速度が10〜15mm/min以上であっても前記ひずみεが2%以上である状態とすることができるものが好ましい。
【0056】
さらに、本発明においては線形挙動から外れる状態よりも大きな変形を、延伸により変形させる場合にはひずみεが10%以上である状態と定義しているが、本発明のポリ乳酸組成物としては、より高度な延伸性を発揮できるという観点から、線形挙動から外れる状態よりも大きな変形として前記ひずみεを25%以上とすることができるポリ乳酸組成物が好ましく、50%以上とすることができるポリ乳酸組成物がより好ましい。また、本発明においては、線形挙動から外れる状態よりも大きな変形を前述の曲げ変形の場合にはひずみεが2%以上である状態と定義しているが、本発明のポリ乳酸組成物としては、より高度な柔軟性を発揮できるという観点から、前記ひずみεを4%以上とすることができるポリ乳酸組成物が好ましく、6%以上とすることができるポリ乳酸組成物がより好ましい。
【0057】
次に、本発明のポリ乳酸組成物を製造する方法を説明する。本発明のポリ乳酸組成物を製造する方法は特に制限されず、ポリ乳酸中に所定量の前記エステル系可塑剤を均一に混合せしめることが可能な方法を用いることができる。このようなポリ乳酸組成物を製造する好適な方法としては、例えば、前記ポリ乳酸と前記エステル系可塑剤とを溶媒中に溶解し、混合した後、溶媒を蒸発等によって除去することによってポリ乳酸組成物を製造する方法を挙げることができる。なお、溶媒としてはクロロホルム等の有機溶媒が好適に使用される。
【0058】
また、このようなポリ乳酸組成物を製造する好適な他の方法としては、前記ポリ乳酸と前記所定量のエステル系可塑剤を溶融混練法によって混合してポリ乳酸組成物を製造する方法を挙げることができる。このような方法を用いて本発明のポリ乳酸組成物を製造する際には、ポリ乳酸とエステル系可塑剤とを溶融する温度は160〜250℃程度であることが好ましい。このような温度が前記下限未満であると、ポリ乳酸組成物の溶融が不十分となり、ポリ乳酸とエステル系可塑剤とが均一に分散させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるポリ乳酸組成物の分子量が低下して延伸性や遅延弾性回復性等の特性が損なわれる傾向がある。また、上記溶融温度における保持時間は、特に制限されないが、0.1〜30分程度であることが好ましい。このような保持時間が上記下限未満であると、十分な流動性が得られないため成形加工性が低下したり、ポリ乳酸とエステル系可塑剤とが均一に分散しにくくなる傾向があり、他方、この保持時間が上記上限を超えると、得られるポリ乳酸組成物の分子量が低下して延伸性や遅延弾性回復性等の特性が損なわれる傾向がある。このようにして前記ポリ乳酸と前記所定量のエステル系可塑剤を溶融させた後に混合し、冷却することで本発明のポリ乳酸組成物を製造することができる。
【0059】
このようにして得られる本発明のポリ乳酸組成物は、各種の成形体として利用することができる。このような成形体の成形方法は特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等のいずれにも好適に使用することができる。また、前記成形体の形状、厚み等も特に制限されず、例えば、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリック等のいずれの形状のものとしてもよい。このような成形体としては、具体的には、バンパー、フェンダー、ドアパネル、マッドガード、ピラーカーニッシュ、スポイラー、サイドモール等の外板外装部品、インストルメントパネル、メーターパネル、ドアトリム、コンソールボックス、カップホルダー等の内装部品等の自動車部品等が挙げられる。また、このような成形体をシートとして使用する場合には、紙又は他のポリマーシートと積層し、多層構造の積層体として使用してもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例で得られたポリ乳酸組成物に関し、以下に示すように残存変形量の測定を行った。また、このような残存変形量の測定に際しては、線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させるために延伸試験又は曲げ変形試験を行った。以下において延伸試験を行った場合と、曲げ変形試験を行った場合とを分けて説明する。
【0061】
<延伸試験>
(実施例1)
先ず、ポリ乳酸(島津製作所製ラクティ#9030)と桂皮酸ベンジル(東京化成製)16.7wt%を二軸押出機(日本製鋼所製TEX30α)で溶融混練し、ポリ乳酸樹脂組成物を作製した.この組成物から射出成形機(日精樹脂工業製PS40E2ASE)を用いて、ポリ乳酸が非晶状態の図1に示す試験片を作製した。このような図1に示す試験片はJIS K7113に記載の1号形ダンベル試験片に準ずるものであり、そのサイズは以下の通りである。なお、図中の記号は前述の通りである。
【0062】
〈試験片のサイズ〉
:172mm、l:106mm、l:60mm、r:55.4mm、b:20mm、b:10mm、h:3.2mm、L:50mm、L:115mm
次に、このようにして得られた試験片を温度23℃、相対湿度50%の条件下に48時間以上放置した後、インストロン万能試験機にチャック間距離が115mmとなるように取り付け、5mm/minの速度でチャック間距離が215mm(延伸長さ:100mm、与えたひずみε:58.1%)になるまで延伸させる延伸試験を行った。その後、試験片をチャックから取り外して応力を解放し、応力解放後0.2分後、1時間後、24時間後、240時間後のそれぞれの試験片長さを測定し、前記式(2)を用いて応力解放後0.2分後、1時間後、24時間後、240時間後のそれぞれの残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2)
延伸速度を20mm/minとした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
桂皮酸ベンジルの添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(実施例4)
桂皮酸ベンジルの添加量を20wt%とし、延伸速度を20mm/minとした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0066】
(実施例5)
桂皮酸ベンジルの添加量を30wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。なお、得られた試験片は成形後、試験開始までの間にポリ乳酸の一部が結晶化して白濁した。
【0067】
(実施例6)
桂皮酸ベンジルの添加量を30wt%とし、延伸速度を20mm/minとした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0068】
(実施例7)
桂皮酸ベンジルの代わりに桂皮酸シンナミルを用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0069】
(実施例8)
桂皮酸ベンジルの代わりに桂皮酸シンナミルを用い、その添加量を20wt%とし、さらに、延伸速度を20mm/minとした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0070】
(実施例9)
桂皮酸ベンジルの代わりにクエン酸アセチルトリエチル(森村商事製シトロフレックスA−2)を用いた以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0071】
(実施例10)
桂皮酸ベンジルの代わりにジグリセリンテトラアセテート(理研ビタミン製リケマールPL710)を用いた以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
桂皮酸ベンジルの添加量を10wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまったため残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0073】
(比較例2)
桂皮酸ベンジルの添加量を15wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
桂皮酸ベンジルの添加量を15wt%とし、延伸速度を20mm/minとした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまい、残存変形量の測定を行うことができなかった。
【0075】
(比較例4)
桂皮酸ベンジルの添加量を35wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0076】
(比較例5)
桂皮酸ベンジルに代えてオレイン酸アミド(日本油脂製アルフローE−10)を用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまったため、残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0077】
(比較例6)
桂皮酸ベンジルに代えてエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂製アルフローH−50S)を用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまったため、残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0078】
(比較例7)
桂皮酸ベンジルに代えてステアリン酸カルシウム(日本油脂製カルシウムステアレート)を用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまったため、残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0079】
(比較例8)
桂皮酸ベンジルに代えて高密度ポリエチレンワックス(クラリアントジャパン製LICOWAX PE520)を用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片が破断してしまったため、残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0080】
(比較例9)
桂皮酸ベンジルに代えてヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド(川研ファインケミカル製WX−1)を用い、その添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして延伸試験を行った。しかしながら、チャック間距離が215mmとなる前に試験片は破断してしまったため、残存変形量の測定を行うことはできなかった。
【0081】
<曲げ変形試験>
(実施例11)
先ず、桂皮酸ベンジルの添加量を20wt%とした以外は実施例1と同様にして試験片を製造した。このようにして得られた試験片の中央付近に50mm間隔で2本の標線を付けた。次に、前記試験片を支持台の支点間距離を50mmとした3点曲げ試験治具を取り付けたインストロン万能試験機の支持台に支点上に標線が位置するように載せ、5mm/minの移動速度で圧子の移動量が30mm(与えたひずみε:12.3%)となるまで曲げ変形を与える曲げ変形試験を行った。その後、試験片を支持台から取り外して応力を解放し、応力解放後0.2分後、1時間後、24時間後、240時間後のそれぞれのたわみ量を測定して、応力解放後0.2分後、1時間後、24時間後、240時間後のそれぞれの残存変形量Xを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0082】
(実施例12)
移動速度を20mm/minとした以外は実施例11と同様にして曲げ変形試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0083】
(実施例13)
桂皮酸ベンジルに代えて桂皮酸シンナミルを用いた以外は実施例11と同様にして曲げ変形試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0084】
(実施例14)
桂皮酸ベンジルに代えて桂皮酸シンナミルを用い、たわみ速度を20mm/minとした以外は実施例11と同様にして曲げ変形試験を行い、残存変形量Xを求めた。得られた結果を表2に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表1及び表2に示す結果からも明らかなように実施例1〜14で得られた本発明のポリ乳酸組成物においては、優れた延伸性又は柔軟性を示し、さらには、残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であるという条件を満たすものであり、優れた遅延弾性回復挙動を示すことが確認された。
【0088】
また、表1に示す結果からも明らかなように実施例1〜10で得られた本発明のポリ乳酸組成物においては、ひずみ58.1%まで延伸させても破断されることはなく、優れた延伸性を示すことが確認された。さらに、表2に示す結果からも明らかなように実施例11〜14で得られた本発明のポリ乳酸組成物においては、ひずみ12.3%まで曲げ変形を加えても試験片が破断することなく、高度な延伸性を示すことが確認された。
【0089】
さらに、表1、表2の結果からも明らかなように、エステル系可塑剤を20wt%含有させた実施例3、4、7、8及び11〜14で得られたポリ乳酸組成物においては、応力解放後0.2分後の残存変形量がそれぞれ90%以上であり、弾性回復挙動を示さず応力解放直後の変形回復がより穏やかなものであることが確認された。さらに、桂皮酸ベンジルを20wt%含有させた実施例3、4及び11で得られたポリ乳酸組成物においては、応力解放後1時間後の残存変形量がそれぞれ7%以下となっているばかりか応力解放後24時間経過後にはほぼ元の長さまで回復しており、より高度な遅延弾性回復挙動を示すものであることが確認された。
【0090】
また、表1の結果からも明らかなように、エステル系可塑剤を30wt%含有させた実施例5及び6で得られた本発明のポリ乳酸組成物においては、状態がゴム状態に近づき応力解放直後に若干の弾性回復挙動を示していたが、応力解放後0.2分後の残留変形量が66.7%以上であり、急激な変形回復が起こらないことが確認された。一方、エステル系可塑剤を35wt%含有させた比較例4で得られたポリ乳酸組成物は、弾性回復挙動が強く応力解放後0.2分後の残留変形量が66.7以下であり、急激な変形回復が起こることが確認された。
【0091】
また、16wt%未満のエステル系可塑剤を含有させた比較例1〜3で得られたポリ乳酸組成物においては、延伸性が低下しているか、回復速度が低下していることが確認された。例えば、比較例2で得られたポリ乳酸組成物にあっては、240時間経過後の残存変形量が59%であった。また、比較例1で得られたポリ乳酸組成物に至っては延伸の途中で試験片が破断し延伸性が低いことが確認された。さらに、比較例3で得られたポリ乳酸組成物は比較例2で得られたポリ乳酸組成物と同様のものであるが変形速度を20mm/minとすると延伸途中で破断し、エステル系可塑剤の含有量が16wt%未満では、延伸性が十分なものではないことが確認された。
【0092】
さらに、エステル系可塑剤以外の可塑剤を用いた比較例5〜9においては、可塑剤とポリ乳酸との相容性が低く、延伸途中で試験片が破断してしまい、延伸性が十分でないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように、本発明によれば、応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させることができる高度な延伸性及び柔軟性を有し、しかも線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後に応力を解放した場合に、急激な変形回復が起こらず長時間経過後にほぼ元の形状に回復する優れた遅延弾性回復特性を有することを可能とするポリ乳酸組成物を提供することが可能となる。
【0094】
したがって、本発明のポリ乳酸組成物は、遅延弾性回復特性に優れ、エネルギーを吸収するがすぐには解放しないため衝突物に対しダメージを与えず、しかも徐々に元の形状に戻るため構造物自体の外観不具合を十分に解消することができるため、例えばバンパーのような構造物の素材等に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】残存変形量の測定に用いるダンベル形の試験片の正面図である。
【符号の説明】
【0096】
…試験片の幅の狭い平行部分(幅狭部)の長さ、l…試験片の幅の広い平行部分(幅広部)間の間隔、l…試験片の全長、r…試験片の幅狭部と幅広部との間の曲線部の曲率半径、b…試験片の幅狭部の幅、b…試験片の幅広部の幅、h…試験片の厚さ、L…標準間距離、L…つかみ具間の初めの間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、エステル系可塑剤とを含有するポリ乳酸組成物であって、
前記エステル系可塑剤の含有量が16〜33wt%であること、及び、
応力を加えて線形挙動から外れる状態よりも大きく変形させた後にその応力を解放すると、応力解放後に測定される残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後240時間後に33.3%以下であること、
を特徴とするポリ乳酸組成物。
【請求項2】
前記残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後24時間後に33.3%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項3】
前記残存変形量が応力解放後0.2分後に66.7%以上であり、かつ、応力解放後1時間後に33.3%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項4】
前記エステル系可塑剤がアルコールリグニン誘導体、桂皮酸エステル誘導体、クエン酸エステル誘導体及びグリセリンエステル誘導体からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のポリ乳酸組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265457(P2006−265457A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88531(P2005−88531)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】