説明

ポリ乳酸組成物

【課題】 本発明は、熱安定性、機械強度、および色相に優れたポリ乳酸を含有する組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、100重量部のポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒および0.001〜5重量部のイミン化合物からなる組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有する組成物に関する。さらに詳しくは、ポリ乳酸を含有し、良好な熱安定性を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの多くは軽く強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成型することが可能であるために、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。然しながら、プラスチックはその耐久性故に、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積することが問題となっている。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車をかけている。かかる現状に鑑み、微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。
生分解プラスチックの構造的特徴のひとつが、脂肪族カルボン酸エステル単位を繰り返し単位に持つことであり、それによって微生物による生分解性が容易となっている。その反面、熱安定性に乏しく、高温を要する工程、即ち溶融紡糸、射出成型、或いは溶融製膜等においては、分子量の経時劣化や色相悪化が課題であった。
【0003】
ポリ乳酸は生分解性プラスチックの中にあっては耐熱性に優れ、色相、機械強度を考慮に入れてもバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドに代表される石油系樹脂と比較すると、熱安定性に関しては未だ雲泥の差が見られる。
即ち、ポリ乳酸は、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型する際の加熱により、熱分解により分子量が低下したり、着色し易いという欠点があった。
【0004】
このような現状を打開すべく、熱安定性向上について、種々検討がなされてきた。例えば特許文献1および2には、ポリ乳酸に触媒失活剤として酸性リン酸エステル類またはキレート剤を添加し、ポリ乳酸の熱安定性向上させることが開示されている。然しながら、キレート剤はアミン類、カルボン酸類あるいはアミノ酸類等から選択されているため、酸性リン酸エステル類も含めてポリ乳酸の耐加水分解性を悪化させる原因となる。更に有機アミン類の多くは有害であり、変異原性を有するものが多く、環境負荷を低減するといった生分解性プラスチックの趣旨に沿わない。
【0005】
また特許文献3には、重合時のポリ乳酸の分子量が5万以上に達した時点でリン酸或いは亜リン酸化合物を添加し、熱安定性を向上させることが開示されている。しかし、特許文献1、2に記載の技術と同じ理由で、得られたポリ乳酸の耐加水分解性は良好ではない。またリン酸或いは亜リン酸化合物は、重合触媒を失活させるため、かかる低分子量体に対する添加は重合速度を低下せしめ、以降の重合においては高分子量体を得るために長時間を要し、エネルギーコストの増大と色相悪化を招く。
上述の如く、熱安定性と耐加水分解性の双方に優れたポリ乳酸組成物についての検討は不十分であった。
【特許文献1】特許第3487388号公報
【特許文献2】特開平10−36651号公報
【特許文献3】特許第2862071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱安定性に優れたポリ乳酸組成物を提供することを目的とする。また本発明は、熱安定性と耐加水分解性の双方に優れたポリ乳酸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリ乳酸中に残留する重合触媒の失活剤について鋭意検討を行った結果、イミン化合物が効率的に種々の重合触媒を捕捉失活することを見出し、本発明を完成した。また、イミン化合物は酸性度が低く組成物の耐加水分解性も良好である。
即ち本発明は、100重量部のポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒および0.001〜5重量部のイミン化合物からなる組成物である。
【0008】
また本発明は、ラクチドを金属重合触媒の存在下で重合しポリ乳酸を製造した後、該ポリ乳酸にイミン化合物を添加することからなるポリ乳酸を含有する組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、熱安定性に優れ、加熱時に分子量が低下し難く、また着色し難い。即ち、本発明の組成物は、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型といった180℃以上の加熱を要する工程における分子量低下や色相悪化が少ない。また本発明の組成物は、耐加水分解性に優れ、長期保存が可能である。本発明の組成物は、人体に悪影響を与え難いイミン化合物を失活剤として含有するため環境へ与える負荷も小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は、下記式で表されるL乳酸単位およびD乳酸単位から実質的になるポリマーである。ポリ乳酸はポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を包含する。
【0011】
【化1】

【0012】
ポリ−L−乳酸とは、L−乳酸単位を主として含む重合体であり、またポリ−D−乳酸とは、D−乳酸単位を主として含む重合体である。
ポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
ポリ−D−乳酸は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0013】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0014】
ポリ乳酸は、重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。
ポリ乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0015】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0016】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0017】
(金属重合触媒)
金属重合触媒は、アルカリ土類金属、希土類元素、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。
金属重合触媒は、上記金属のカルボン酸塩、アルコキシド、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、エノラート塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
金属重合触媒は、ポリ乳酸100重量部に対して0.001〜1重量部含有する。好ましくは、0.005〜0.1重量部である。金属重合触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく長期化するため好ましくない。逆に多すぎると開重合やエステル交換反応が加速されるため、得られる組成物の熱安定性が悪化する。
【0018】
(イミン化合物)
本発明で使用するイミン化合物は、その構造中に>C=N−を有し、且つ金属重合触媒に配位し得るヒドロキシ基またはシアノ基を含む下記式(1)で表わされる化合物である。
【0019】
【化2】

【0020】
式(1)で表わされるイミン化合物は、従来の触媒失活剤の様なブレンステッド酸や塩基ではないため、組成物の耐加水分解性を悪化させることなく熱安定性を向上させることが可能である。
式(1)におけるnの値は1〜4の整数であるが、2以上であればキレート配位子となり、触媒金属元素とより安定な錯体を形成出来るために好ましい。
Xは、単結合または炭素数1〜3の炭化水素基である。炭化水素基としてメチレン基、エチレン基などのアルキレン基が好ましい。
Yは、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基としてアルキル基、アルケニル基が挙げられる。脂環族炭化水素基としてシクロアルキル基が挙げられる。芳香族炭化水素基として置換若しくは非置換のフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これらの中でも水素およびメチル基が好ましい。
Wは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子またはリン原子である。
【0021】
脂肪族炭化水素基としてアルキル基、アルキレン基、アルカントリイル基、アルカンテトライル基が挙げられる。脂環族炭化水素基としてシクロアルキル基、シクロアルキレン基、シクロアルカントリイル基、シクロアルカンテトライル基が挙げられる。芳香族炭化水素基として置換若しくは非置換のフェニル基、フェニレン基、フェニルトリイル基、フェニルテトライル基、ナフチル基、ナフチレン基、ナフタレントリイル基、ナフタレンテトライル基が挙げられる。これらの中でも、メチレン基、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−シクロヘキサンジイル基、o−フェニレン基、m−フェニレン基が好ましく選択される。
Z基は、ヒドロキシ基またはシアノ基を表す。これらの基は、イミン化合物中の>C=NH基と共同して金属重合触媒を補足する。
イミン化合物は、Wが、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子またはリン原子の場合、Wを基点とする多脚型の構造となる。この場合、式(1)中のXは炭素数1〜3の炭化水素基である。この場合、炭化水素基としてメチレン基、エチレン基などのアルキレン基が好ましい。
【0022】
(nが2の場合)
nが2、Xが単結合、Yが水素原子、Zがヒドロキシ基の場合、式(1)の化合物は下記式(1−1)で表わされる。この場合、Wとして、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1〜6のアルキレン基、シクロヘキシレン基などのシクロアルキレン基、フェニレン基が例示できる。
【0023】
【化3】

【0024】
式(1−1)で表わされる化合物として、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−cis−シクロヘキサンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−trans−シクロヘキサンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−o−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−m−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
nが2、Xが単結合、Yが水素原子、Zがシアノ基の場合、式(1)の化合物は下記式(1−2)で表わされる。この場合、Wとして、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1〜6のアルキレン基、シクロヘキシレン基などのシクロアルキレン基、フェニレン基等が例示できる。
【0025】
【化4】

【0026】
式(1−2)で表わされる化合物として、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)プロパンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−cis−シクロヘキサンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−trans−シクロヘキサンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−o−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−m−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−p−フェニレンジアミン等が例示できる。
【0027】
(nが1の場合)
nが1、Xが単結合、Yがメチル基、Zがヒドロキシ基の場合、式(1)の化合物は下記式(1−3)で表わされる。この場合、Wとして、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基などの炭素数1〜6のアルキル基等が例示できる。
【0028】
【化5】

【0029】
式(1−3)で表わされる化合物として、N−メチルイミノメチルフェノール、N−エチルイミノメチルフェノール、N−イソプロピルイミノメチルフェノール、N−t−ブチルイミノメチルフェノールなどが例示できる。
(nが3の場合)
nが3、Xがアルキレン基、Yが水素原子、Zがヒドロキシ基、Wが窒素原子の場合、式(1)の化合物として、N,N,N−トリス(サリチリデン)トリアルキレンテトラミンが例示できる。
上記化合物のうち、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミンが特に好ましい。
【0030】
イミン化合物は、開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加混練することができる。チップ状に成型した後にエクストルーダーやニーダーで混練してもよい。イミン化合物の均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからイミン化合物を添加する方法も好ましい。一方固相重合法においては、重合終了時に得られる乳酸系ポリエステルの固体とイミン化合物を粉末混合しエクストルーダーやニーダーで混練する方法、イミン化合物の溶液を乳酸系ポリエステルの固体に塗布したものをエクストルーダーやニーダーで混練する方法、乳酸系ポリエステルの固体と、イミン化合物を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。
イミン化合物の添加量は、ポリ乳酸100重量部に対して0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。イミン化合物の添加量がポリ乳酸に対して少なすぎる場合、残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、金属重合触媒を充分失活することができない。また多すぎる場合、イミン化合物による組成物の可塑化や着色が著しくなる。
【0031】
本発明の組成物は、重量平均分子量(Mw)が10万〜50万の、色相と熱安定性に優れたものであり、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型に好適に用いることが可能である。
本発明の組成物には、その目的を損なわない範囲内で、通常の添加剤、すなわち紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、染料、顔料、抗菌・抗かび剤などを配合することができる。該組成物は、成形品として広く用いることができる。成形品としては、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空気成形品、ブロー成形品、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、電気・電子部品などがある。
【実施例】
【0032】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の参考例、実施例によって何ら限定されるものではない。
【0033】
(評価法)
(1)熱安定性試験
組成物10gをコック付きパイレックス(登録商標)製試験管に入れ、内部を窒素置換したものを260℃、10分間保持して熱安定性試験を実施した。熱安定性試験前後の組成物の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定し、それらの比較によって熱安定性を評価した。
(2)重量平均分子量(Mw)の測定
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、ポリ乳酸樹脂組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した。
(3)組成物中のラクチド含有量
組成物中のラクチド含有量は、重クロロホルム中、日本電子製核磁気共鳴装置JNM−EX270スペクトルメーターを使用し、ポリ乳酸由来の四重線ピーク面積比(5.10〜5.20ppm)に対するラクチド由来の四重線ピーク面積比(4.98〜5.05ppm)として算出した。
【0034】
<実施例1>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から0.01重量部の2−エチルヘキサン酸スズをトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、イミン化合物であるN、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン0.15重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮し、反応容器内から組成物を取り出した。得られた組成物のMwおよびラクチド含有量を表1に示す。
得られた組成物は、粉砕機を使用して粒状にし、その10gをコック付きパイレックス(登録商標)製試験管に入れた。次にパイレックス(登録商標)製試験管内部を窒素置換し、260℃、10分間の熱安定性試験を実施した。試験終了後、組成物を取り出し、Mwおよびラクチド含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0035】
<実施例2>
イミン化合物としてN,N,N−トリス(サリチリデン)トリメチレンテトラミン0.23重量部を使用した以外は実施例1と同様の操作で組成物を製造した。得られた組成物の熱安定性試験前後のMwとラクチド含有量を表1に記載する。
【0036】
<実施例3>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でD−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から0.01重量部の2−エチルヘキサン酸スズをトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。
重合終了後、反応容器の吐出口からストランド状のポリ−D−乳酸を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。得られたポリ−D−乳酸のペレット100重量部に対して0.3重量部のN,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンを良く混合させた後、池貝社製二軸エクストルーダーPCM−30を用い、230℃で混錬押し出しを行った。得られた組成物の熱安定性試験前後のMwとラクチド含有量を表1に示す。本発明の組成物は、加熱してもMwの変化が少なく、また加熱によるラクチドの生成量も少ない。
【0037】
<比較例1>
実施例3で得られた、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンを含まない時点のポリ−D−乳酸について熱安定性試験を行ったところ、熱安定性試験後のポリ−D−乳酸は脆く、該試験で使用したパイレックス(登録商標)製試験管に、分解生成物であるラクチドの結晶が付着していた。熱安定性試験後のMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の組成物は、熱安定性に優れるので、溶融成形して、糸、フィルム、各種成形品にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒および0.001〜5重量部のイミン化合物からなる組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸が、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属重合触媒が、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
イミン化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1記載の組成物。
【化1】

(式(1)中、nは1〜4の整数である。Xは、単結合または炭素数1〜3の炭化水素基である。Yは、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環族炭化水素基または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。Zは、ヒドロキシ基またはシアノ基である。Wは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の脂環族炭化水素基または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子またはリン原子である。)
【請求項5】
式(1)において、nは2、Xは単結合、Yは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、Zはヒドロキシ基またはシアノ基、Wは炭素数1〜6のアルキレン基、である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
式(1)において、nは2、Xは炭素数1〜3のアルキレン基、Yは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、Zはヒドロキシ基またはシアノ基、Wは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子またはリン原子である請求項4記載の組成物。
【請求項7】
イミン化合物が、N,N’−ビス(サリチリデン)アルキレンジアミンまたはN,N,N’−トリス(サリチリデン)トリアルキレンテトラミンである請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ラクチドを金属重合触媒の存在下で重合しポリ乳酸を製造した後、該ポリ乳酸にイミン化合物を添加することからなるポリ乳酸を含有する組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−70376(P2007−70376A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255424(P2005−255424)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】