説明

ポリ乳酸組成物

【課題】本発明の目的は、耐衝撃性、引張強度、破断伸度、モジュラスなどの力学的物性に優れた成形品となるポリ乳酸組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、融点が190℃以上のポリ乳酸(A)、融点が190℃未満のポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を含むポリ乳酸組成物、その製造方法および成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸組成物に関する。更に詳しくは、破断伸度の改善されたポリ乳酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
資源保全、環境保護の観点からバイオベースポリマーが注目を集め、特にポリ乳酸は、近年、原料であるL乳酸が発酵法により大量かつ安価に製造されるようになってきたこと、剛性が強いという優れた特徴を有すること等により、その利用分野の拡大が期待されている。しかし、ポリ乳酸は、従来の石油資源を原料とするポリマーに比べるとまだ実用に向けた物性上の課題がある。特に、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性などの向上が望まれている。
従来のポリ乳酸はL乳酸を主たる原料とするポリL乳酸であるが、これに対してポリL乳酸およびポリD乳酸を原料に含む、ステレオコンプレックスポリ乳酸が知られている(非特許文献1参照)。ステレオコンプレックスポリ乳酸は、従来のポリL乳酸に比べて格段に高い融点を持つ結晶性樹脂であり、従来のポリL乳酸より優れた特性が期待できる。しかし、ステレオコンプレックス結晶を再現性よく高度に発現させる技術はまだ完成されていない。
このような状況から、ポリ乳酸と他の樹脂を配合して、相互の特性を併せ持つ樹脂材料の開発が試みられており、破断伸度を向上させるために、ポリ乳酸、ポリオレフィンおよび相溶化剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしこの樹脂組成物は、ポリ乳酸とポリオレフィンの相溶性に限界があり、ポリ乳酸含有量の低い領域でのみ効果を有するという欠点がある。
【特許文献1】特開2008−038142号公報
【非特許文献1】Macromolecules 1987, 20, 904−906
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の目的は、耐衝撃性、引張強度、破断伸度、モジュラスなどの力学的物性に優れた成形品となるポリ乳酸組成物を提供することにある。また本発明の目的は、該ポリ乳酸組成物からなる成形品を提供することにある。さらに本発明の目的は、該ポリ乳酸組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、ポリ乳酸組成物からなる成形品の、耐衝撃性、引張強度、破断伸度、モジュラスなどの力学的物性を改良することについて鋭意検討した。その結果、耐熱性に優れたステレオコンプレックスポリ乳酸に、ポリL乳酸またはポリD乳酸と、カップリング剤とを添加した組成物からなる成形品は、優れた耐衝撃性などの力学的強度を有することを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち本発明は、融点が190℃以上のポリ乳酸(A)、融点が190℃未満のポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を含むポリ乳酸組成物である。また本発明は、該ポリ乳酸組成物からなる成形品である。さらに本発明は、融点が190℃以上のポリ乳酸(A)、融点が190℃未満のポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を溶融混練することを特徴とするポリ乳酸組成物の製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリ乳酸組成物は、耐衝撃性、引張強度、破断伸度、モジュラスなどの力学的物性に優れた成形品となる。本発明の製造方法によれば、耐衝撃性、引張強度、破断伸度、モジュラスなどの力学的物性に優れた成形品となるポリ乳酸組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
〈ポリ乳酸(A)〉
本発明に用いるポリ乳酸(A)は、融点が190℃以上のポリ乳酸であり、ステレオコンプレックスポリ乳酸などの結晶性のポリ乳酸を好適に用いることができる。ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL乳酸およびポリD乳酸から形成され、ポリL乳酸およびポリD乳酸は、それぞれ下記式(1)で表されるL乳酸単位およびD乳酸単位から実質的になる。
【0009】
【化1】

【0010】
ポリL乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のL乳酸単位から構成される。他の単位としては、D乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
ポリD乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のD乳酸単位から構成される。他の単位としては、L乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L乳酸単位、乳酸以外の単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
乳酸以外の単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0011】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0012】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL乳酸およびポリD乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成し得る。ポリL乳酸の重量平均分子量は、好ましくは15万〜25万である。ポリD乳酸の重量平均分子量は、好ましくは13万〜16万である。このように、重量平均分子量に差をつけることによって、ステレオコンプレックス化が容易となり、より高分子量の均一なステレオコンプレックスを形成し易くなる。
ポリL乳酸およびポリD乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0013】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0014】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0015】
ステレオコンプレックスポリ乳酸におけるポリL乳酸とポリD乳酸との重量比は、90:10〜10:90の範囲である。75:25〜25:75の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近いことが好ましい。
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは10万〜50万、より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL乳酸およびポリD乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を形成していることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。本発明で言うステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL乳酸とポリD乳酸とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。ポリ乳酸(A)は、重量平均分子量15万〜25万のポリL乳酸と重量平均分子量13万〜16万のポリD乳酸とからなることが好ましい。
【0017】
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL乳酸とポリD乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL乳酸とポリD乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0018】
あるいは、ポリL乳酸セグメントとポリD乳酸セグメントが結合している、ステレオブロックポリ乳酸も本発明のポリ乳酸成分に好適に用いることが出来る。ステレオブロックポリ乳酸はポリL乳酸セグメントとポリD乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL乳酸とポリD乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL乳酸とポリD乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法、など上記の基本的構成を持つ、ブロック共重合体であれば製造法によらず、用いることができる。しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
【0019】
本発明で用いるステレオコンプレックスポリ乳酸およびステレオブロックポリ乳酸は、そのステレオ化度(S)が、90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%である。ステレオ化度は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって下記式(A)によって決定することができる。
S=[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)] (A)
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
本発明で用いるポリ乳酸には、ステレオ化度を向上させるために特定の添加物を添加することが好ましい。そのような添加物としては、下記式(2)に示すリン酸金属塩が好ましい例として挙げることができる。
【0020】
【化2】

【0021】
式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。RおよびRは、同一または異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表す。Mとして、Na、K、Al、Mg、Caが挙げられ、特に、K、Na、Alを好適に用いることができる。nは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子のときは0を表し、Mがアルミニウム原子のときは1または2を表す。
【0022】
これらのリン酸金属塩は、ポリ乳酸成分に対して、好ましくは10ppmから2wt%、より好ましくは50ppmから0.5wt%、さらに好ましくは100ppmから0.3wt%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
また、ポリ乳酸組成物の耐熱性を向上させるために、さらにケイ酸カルシウムを添加することが好ましい。ケイ酸カルシウムとしては、例えば、六方晶を含むものを用いることができ、その粒子径は低いほうが好ましい。例えば、平均一次粒子径は0.2〜0.05μmの範囲であるとポリ乳酸組成物に適度に分散するので、ポリ乳酸組成物の耐熱性は良好なものとなる。また、添加量はポリ乳酸組成物を基準として、0.01から1wt%の範囲であることが好ましく、さらに好ましいのは0.05から0.5wt%の範囲である。多すぎる場合には、外観が悪くなりやすく、少なければ特段の効果を示さないので好ましくない。
【0023】
本発明においては、ポリ乳酸組成物中のポリ乳酸のカルボキシル末端基濃度が15eq/ton以下であることが好ましい。この範囲内にある時には、溶融安定性、湿熱耐久性が良好な組成物を得ることができる。15eq/ton以下にする場合には、具体的には、ポリエステルにおいて公知のカルボキシル末端基濃度の低減方法をいずれも採用することができ、例えば、末端封止剤の添加、具体的には、オキサゾリン類、エポキシ化合物等の添加や、モノカルボジイミド類、ジカルボジイミド類、ポリカルボジイミド類などの縮合剤の添加または、末端封止剤、縮合剤を添加せず、アルコール、アミンによってエステルまたはアミド化することもできる。
【0024】
〈ポリ乳酸(B)〉
本発明で用いる融点が190℃未満のポリ乳酸(B)は、上記式(1)で表されるL乳酸単位またはD乳酸単位から実質的になる。
ポリ乳酸(B)がポリL乳酸である場合には、L乳酸単位の含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%である。他の単位としては、D乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
ポリ乳酸(B)がポリD乳酸である場合には、D乳酸単位の含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%である。他の単位としては、L乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。他の単位の含有量は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
他の単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0025】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
これらのポリL乳酸、ポリD乳酸は、上述の融点が190℃以上のポリ乳酸(A)の項で記載したように公知の方法を採用することで製造することができる。ポリ乳酸(B)は、重量平均分子量15万〜25万のポリL乳酸であることが好ましい。またポリ乳酸(B)は、重量平均分子量15万〜25万のポリD乳酸であることが好ましい。
【0026】
〈カップリング剤(E)〉
本発明のカップリング剤はエチレンアクリレート共重合体であれば、いずれも採用することができるが、具体的には、DuPont社のBiomax100,120、Surlyn 1652E, PC−100、Fusabond A ME0−556等を例示することができる。エチレンアクリレート共重合体は、下記の条件
(i)アクリレート含有量が20重量%以上、
(ii)エチレンアクリレート含有量が90%以上、
(iii)190℃、21.2N荷重条件でのメルトインデックスが、10g/10分以上、
を一つ以上満たすものが好ましい。
【0027】
〈組成比〉
ポリ乳酸(B)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、好ましくは5〜800重量部、より好ましくは20〜200重量部、さらに好ましくは40〜100重量部である。カップリング剤(E)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、好ましくは5〜300重量部、より好ましくは10〜100重量部、さらに好ましくは15〜50重量部である。従って、本発明のポリ乳酸組成物は、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、ポリ乳酸(B)5〜800重量部、カップリング剤(E)5〜300重量部を含有することが好ましい。
ポリ乳酸(B)が、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、800重量部を超えると耐熱性が劣り。5重量部未満であると、耐衝撃性の改良効果が小さい。カップリング剤(E)が、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、300重量部超えると、モジュラスが低下し、5重量部未満では添加効果が少ない。
【0028】
本発明のポリ乳酸組成物を製造するにあたっては、ポリ乳酸(A)、ポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を均一に混合すればよく、溶融ブレンド、溶液ブレンドなど、均一に混合することができればあらゆる方法によってブレンドすることが可能である。特に、ニーダー、一軸式混練機、二軸式混練機、溶融反応装置などの中で溶融状態にて混練することが好ましい。溶融混練の場合にその温度は両乳酸成分が溶融する温度であれば良いが、樹脂の安定性などを加味すると、190℃から250℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。なお、本実施例中の各値は、以下の方法に従って求めた。
【0030】
(1)耐衝撃性:
ISO 179−1に従って、4mm圧 ノッチ付短冊状成形品のシャルピー衝撃強度を測定した。
(2)引張強度、破断伸度およびモジュラス:
ISO 527に従って、4mm厚短冊状成形品の引張強度、破断伸度およびモジュラスを測定した。
ポリ乳酸(A)、ポリ乳酸(B)、カップリング剤(E)として以下のものを用いた。
(1)ポリ乳酸(A)
合成例2で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸(A1)を用いた。
(2)ポリ乳酸(B)
ポリL乳酸(ネイチャーワークス社製の4042D、光学純度95%以上、重量平均分子量21万、融点150℃)を用いた。
(3)カップリング剤(E)
エチレン-アクリレート共重合体99%以上およびノルマルブチルアクリレート0.4%未満のDuPont社のBiomax Strong120を用いた。
【0031】
[合成例1]ポリD乳酸の調製
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度99%以上)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.006重量部、オクタデシルアルコール0.37重量部を加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、190℃で2時間反応し、その後エステル交換抑制剤(ジヘキシルホスホノエチルアセテートDHPA)0.01重量部を加えて後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD乳酸を得た。得られたポリD乳酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移点(Tg)60℃、融点は170℃であった。
【0032】
[合成例2]ステレオコンプレックスポリ乳酸(A1)の調製
合成例1で得られたポリD乳酸(重量平均分子量13万)と、ポリL乳酸(ネイチャーワークス社製の4042D、光学純度95%以上、重量平均分子量21万)とを、32mm径の二軸押出機(Coperion製、ZSK 32)を用い、シリンダー温度200℃〜250℃、回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、ステレオコンプレックスポリ乳酸(A1)を得た。ステレオコンプレックスポリ乳酸(A1)の融点は213℃、ステレオ化度は100%、重量平均分子量は16万であった。
【0033】
[比較例1]
合成例2で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸(A1)を射出成形機(ENGEL製 ES200/60 HLST)を用い、シリンダー温度200℃〜230℃ 金型温度120℃で射出成形を行い各種評価用の成形品を得た。
【0034】
[比較例2]
ポリL乳酸(ネイチャーワークス社製の4042D、光学純度95%以上、重量平均分子量21万、融点150℃)を32mm径の二軸押出機(Coperion製 ZSK 32)を用い、シリンダー温度200℃〜250℃ 回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、ポリ乳酸(B)を得た。得られたポリ乳酸(B)を射出成形機(ENGEL製 ES200/60 HLST)を用い、シリンダー温度200℃〜230℃ 金型温度30℃で射出成形を行い各種評価用の成形品を得た。
【0035】
[実施例1〜4、比較例3]
表1に示すように原料を配合し、32mm径の二軸押出機(Coperion製 ZSK 32)を用い、シリンダー温度200℃〜250℃ 回転数200rpmの条件で溶融混練を行い、ポリ乳酸組成物を得た。
得られたポリ乳酸組成物を射出成形機(ENGEL製 ES200/60 HLST)を用い、シリンダー温度200℃〜230℃、金型温度30℃または120℃で射出成形を行い各種評価用の成形品を得た。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が190℃以上のポリ乳酸(A)、融点が190℃未満のポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を含むポリ乳酸組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸(A)が、ステレオコンプレックス結晶を形成している請求項1に記載のポリ乳脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸(A)のステレオ化度が、90%以上である請求項2に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸(A)が、重量平均分子量15万〜25万のポリL乳酸と重量平均分子量13万〜16万のポリD乳酸とからなる請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸(B)が、重量平均分子量15万〜25万のポリL乳酸である請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸(B)が、重量平均分子量15万〜25万のポリD乳酸である請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項7】
カップリング剤(E)が、エチレンアクリレート共重合体である請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項8】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、ポリ乳酸(B)5〜800重量部およびカップリング剤(E)5〜300重量部を含有する請求項1に記載のポリ乳酸組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載のポリ乳酸組成物からなる成形品。
【請求項10】
融点が190℃以上のポリ乳酸(A)、融点が190℃未満のポリ乳酸(B)およびカップリング剤(E)を溶融混練することを特徴とするポリ乳酸組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−249460(P2009−249460A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97343(P2008−97343)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】