説明

ポリ電解質錯体を、可塑剤遮蔽体として用いる使用

ここに記載されているのは、ポリ電解質錯体、特にアニオン性ポリマーと、カチオン性ポリマーとから形成されているポリ電解質錯体を、可塑剤遮蔽体として用いる使用、並びに可塑剤含有基材、及び当該基材の製造方法であり、ここで前記可塑剤含有基剤は、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する少なくとも1つの層によって被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ電解質錯体、特にアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとから形成されたものを、可塑剤遮蔽体として用いる使用、並びに可塑剤含有基材、及び当該基材の製造に関し、ここで、前記可塑剤含有基材は、ポリ電解質錯体を少なくとも1種有する、少なくとも1つの層によって被覆されている。
【0002】
ポリマー膜に、又は他のポリマーから製造される材料に所望の可撓性を付与するために、これらの材料はしばしばいわゆる可塑剤を含有する。可塑剤とは、蒸発圧が低く、液状又は固体状の無反応な特定の有機物質であり、主にエステルのような性質を示し、化学反応無しで、好適にはその溶解性及び膨潤性によって、ただし、高ポリマー物質によって物理的な相互作用が起こることもなく、これによって均質な系を形成可能にするものである。可塑剤は、可塑剤によって製造された成形体又は被覆に、目的とする特定の物理特性を付与し、その特性とは例えば、凝固温度の低下、変形性の向上、弾性特性の向上、又は硬度の低下である。可塑剤は、プラスチック添加剤の一種である。可塑剤は、材料の加工性、可撓性、及び伸張性を改善するために、材料(例えば軟質PVC)に投入される。公知の典型的な可塑剤は例えば、(主に)直鎖状のC6〜C11アルコールとの、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、又はジカルボン酸ジエステルである。
【0003】
可塑化されたプラスチックの適用で特にしばしば現れる不所望の特性は、拡散工程、蒸発圧工程、及び対流工程をもたらすその移行性であり、これはとりわけ、プラスチックが他の液状又は固体状の物質と接触した際に顕著になる。この際に可塑剤が、他の物質中(たいていは他のポリマー物質である)に浸透する。可塑剤は溶解、腐食されるか、又は膨潤現象が、また最後にはプラスチック表面への接着が起こる。温度とともに、移行速度は著しく増大する。接着適用の場合、接着剤層への可塑剤の移行は、接着性の不所望な低下につながることがあり、特に高温下ではそうなる。可塑剤の移行は、食品包装の物理的安全性にとっても重要となる。
【0004】
自動車工業においてPVCシートは、可塑剤含分が最大50質量%(特にフタル酸エステル)で、ABS基材(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー)を工業的に被覆するために使用される。このために使用される接着剤は例えば、ポリエステルベースのポリウレタン分散体であり、この分散体を基材に吹き付け、乾燥させ、そして本来の接着のためにプレス機で加熱により活性化させる。望ましいのは、接着剤で既に予備被覆されたシートを用いることであり、これにより接着作業が非常に容易になる。ただし、このようなシートを貯蔵する際には、可塑剤がPVCシートから接着層へと移行することがあり、このことは後の接着性を著しく損なう。よって、可塑剤含有材料から、その表面での、又は接する層及び材料内への可塑剤移行性は、打ち消されるのが望ましい。よって本発明の課題は、可塑剤含有材料から、その材料の表面又は接する層及び材料内への可塑剤移行性をなくすことであった。
【0005】
ポリ電解質錯体は、可塑剤遮蔽体として有用性が高いことが判明した。よって本発明の対象は、ポリ電解質錯体を可塑剤遮蔽体として用いる使用である。ポリ電解質錯体は特に、少なくとも1種のアニオン性ポリマーと、少なくとも1種のカチオン性ポリマーとから形成されている。
【0006】
本発明の対象はまた、その表面が、ポリ電解質錯体を少なくとも1種有する少なくとも1つの層によって少なくとも部分的に被覆されている、可塑剤含有基材である。ポリ電解質錯体で製造された被覆は、可塑剤遮蔽特性が高い。
【0007】
「可塑剤遮蔽性」とは、被覆されていない基材よりも、可塑剤の侵入に対する基材表面の耐性が高められていることを言う。
【0008】
本発明の対象はまた、可塑剤遮蔽性を有する可塑剤含有生成物の製造方法であって、当該製造方法は、
(i)可塑剤含有材料から基材を用意する工程、及び
(ii)前記基材を完全に、又は部分的に1つ又は複数の層を備える工程、
を有し、前記層は、ポリ電解質錯体を少なくとも1種、有するものである。
【0009】
本方法の1つの態様では、ポリ電解質錯体による被覆を、事前に製造された少なくとも1種のポリ電解質錯体含有組成物によって行うことができる。事前に製造されたポリ電解質錯体含有組成物とは好適には、水中水エマルション重合によって製造可能な水性分散体である。
【0010】
本方法のさらなる実施態様では、ポリ電解質錯体による被覆は、ポリ電解質錯体を基材上で初めて形成することによって行うことができる。これは前記基材が、第一の被覆と、前記第一の被覆と直接接触する第二の被覆とを備えることによって行うことができ、ここで前記被覆の一方は少なくとも1種のアニオン性ポリマーを含有し、もう一方の被覆は少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含有し、前記ポリ電解質錯体をアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとから、基材上で初めて形成する。2つの被覆組成物は同時に、又は1つの作業工程で直接連続して塗布することができ、ここで被覆組成物の一方がアニオン性ポリマーを含有し、もう一方の被覆組成物が、カチオン性ポリマーを含有する。
【0011】
ポリ電解質とは、イオン性ポリマーである。ポリ電解質錯体とは、逆の電荷を帯びたイオン性ポリマー同士の反応生成物である。ポリ電解質錯体は通常、規定の化学量論組成を有する。すなわち、アニオン基とカチオン基との当量比が、この錯体中で1であるか、又は約1である。ポリ電解質錯体はまた、主にアニオン性に、又は主にカチオン性に帯電されていてもよい。本発明によればまた、このようなポリ電解質錯体の他に、カチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーがさらに過剰量で、つまり遊離した、錯体化されていない形で存在していてよい。
【0012】
アニオン性ポリマーとは、アニオン基を有するポリマーであり、特にカルボキシレート基、ホスフェート基、スルホネート基、又はスルフェート基を有する有機ポリマーである。また、反応媒体中に含まれている塩基によって中和されるものであるか、又はカチオン性ポリマーの塩基性基によってアニオン基へと変換されるものである限り、相応する酸を用いることができる。適切なアニオン性ポリマーは例えば、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なアニオン性モノマーをラジカル重合させることによって形成されるものである。これには、少なくとも1種のアニオン性モノマーと、1種又は複数種の様々な非イオン性の共重合可能なモノマーとからのコポリマーも含まれる。
【0013】
エチレン性不飽和のアニオン性モノマーとしては例えば、モノエチレン性不飽和C3〜C10の、又はC3〜C5のカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、イタコン酸、及びこれらの酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩が考慮される。使用するのが好ましいアニオン性モノマーには、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が含まれる。特に好ましいのは、アクリル酸ベース重合体の水性分散体である。これらのアニオン性モノマーは、単独でホモポリマーへと、又は相互に混合して共重合体へと重合させることができる。このための例は、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、又はアクリル酸とマレイン酸からの共重合体、アクリル酸とメタクリル酸からの共重合体、並びにメタクリル酸とマレイン酸からの共重合体である。
【0014】
しかしながらアニオン性モノマーの重合は、少なくとも1種の他のエチレン性不飽和モノマーの存在下で行うこともできる。これらのモノマーは非イオン性であってよく、又は、カチオン性電荷を有していてもよい。非イオン性コモノマーの例は、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−C1〜C3アルキルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、1〜20個のC原子を有する1価アルコールのアクリル酸エステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソブチルアクリレート、及びn−ブチルアクリレート、1〜20個のC原子を有する1価のアルコールのメタクリル酸エステル、例えばメチルメタクリレート、及びエチルメタクリレート、並びにビニルアセテート、及びビニルプロピオネートである。アニオン性モノマーと共重合可能な適切なカチオン性モノマーは、ジアルキルアミノエチルアクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノプロピルアクリレート、ジアルキルアミノプロピルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルアクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルイミダゾール、並びにそれぞれ酸で中和及び/又は四級化された塩基性モノマーである。カチオン性モノマーのための個々の例は、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、及びジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミド、及びジエチルアミノプロピルアクリルアミドである。これらの塩基性モノマーは、完全に、又は部分的にのみ中和若しくは第四級化されていてよい(例えばそれぞれ、1〜99%)。塩基性モノマーのための第四級剤として好ましくは、ジメチルスルフェートを使用する。しかしながらモノマーの四級化は、ジエチルスルフェート、又はアルキルハロゲン化物、例えば塩化メチル、塩化エチル、若しくは塩化ベンジルを用いて行うこともできる。カチオン性モノマーは最大で、生成する両性ポリマーが、アミノ基よりも過剰量の酸基を、又はアニオン性過剰電荷を有する量で使用する。酸過剰量若しくはアニオン性過剰電荷は、生成する両性ポリマー中で、例えば少なくとも5mol%、好適には少なくとも10mol%である。アニオン性ポリマーを製造する際に、コモノマーは例えば、生成するポリマーが水による希釈の際に、7.0超のpH値、20℃の温度で水溶性であり、かつアニオン性電荷を有する量で使用する。重合の際に使用するモノマー全体に対して、非イオン性及び/又はカチオン性のコモノマーの量は、例えば、0〜99質量%、好適には5〜75質量%であり、大抵は5〜25質量%の範囲内にある。
【0015】
好ましいコポリマーの例は、アクリル酸25〜99質量%と、アクリルアミド75〜1質量%からなる共重合体である。好適には、少なくとも1種のC3〜C5不飽和カルボン酸を、他のモノエチレン性不飽和モノマーの非存在下で重合させる。特に好ましいのは、アクリル酸の単独重合体であり、このポリマーは、他のモノマーの非存在下で、アクリル酸をラジカル重合させることにより得られる。
【0016】
1つの実施態様では、アニオン性ポリマーが、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を含有する。アクリル酸は好ましくは、AMPSと共重合させる。ここでAMPSの量は、モノマーの全量に対して、例えば0.1〜20mol%、又は0.1〜15mol%、又は0.5〜10mol%であり得る。
【0017】
この重合はさらに、少なくとも1種の架橋剤の存在下で実施できる。こうして、架橋剤の非存在下でアニオン性モノマーを重合させる際よりも、モル質量が高いコポリマーが得られる。その上、ポリマーに架橋剤を組み込むことにより、ポリマーの水への溶解性が減少する。重合して組み込んだ架橋剤の量に応じてポリマーは水不溶性になるが、水には膨潤性である。架橋剤として使用できるのは、エチレン性不飽和二重結合が少なくとも2つ、分子中で利用可能なあらゆる化合物である。架橋剤の例としては、トリアリルアミン、ペンタエリトリットトリアリルエーテル、ペンタエリトリットテトラアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジビニルエチレン尿素、アリル基を少なくとも2個有するアリルエーテル又はビニル基を少なくとも2個有するビニルエーテル(ここでこれらのエーテルは、多価アルコール(例えばソルビトール、1,2−エタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジエチレングリコール)、又は糖(例えば、ショ糖、グルコース、マンノース)から誘導されるエーテルである)、アクリル酸若しくはメタクリル酸によって完全にエステル化された、炭素数が2〜4の2価アルコール、例えばエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、分子量が300〜600のポリエチレングリコールのジアクリレート若しくはジメタクリレート、エトキシ化されたトリメチレンプロパントリアクリレート、又はエトキシ化されたトリメチレンプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタノールトリメタクリレート、ペンタエリトリットトリアクリレート、ペンタエリトリットテトラアクリレート、及びトリアリルメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。本発明による分散体の製造に際して架橋剤を用いる場合、使用する架橋剤の量はその都度、重合の際に使用するモノマー全体に対して、例えば0.0005〜5.0質量%、好適には0.001〜1.0質量%である。架橋剤として用いるのが好ましいのは、ペンタエリトリトットリアリルエーテル、ペンタエリトリットテトラアリルエーテル、N,N’−ジビニルエチレン尿素、少なくとも2つのアリル基を含有する、糖(例えばサッカロース、グルコース、又はマンノース)のアリルエーテル、及びトリアリルアミン、並びにこれらの化合物の混合物である。
【0018】
少なくとも1種のアニオン性モノマーの重合を、少なくとも1種の架橋剤の存在下で行う場合、好適にはアクリル酸及び/又はメタクリル酸から、架橋された共重合体を製造し、これはアクリル及び/又はメタクリル酸を、ペンタエリトリットトリアリルエーテル、ペンタエリトリットテトラアリルエーテル、N,N’−ジビニルエチレン尿素、少なくとも2つのアリル基を含有する、糖(例えばサッカロース、グルコース、又はマンノース)のアリルエーテル、及びトリアリルアミン、並びにこれらの化合物の混合物の存在下で重合させることにより行う。
【0019】
ポリ電解質錯体の形成に用いるカチオン性ポリマーは、好適には水溶性である。すなわち、水への溶解性が、20℃で少なくとも1g/lである。カチオン性ポリマーとは、カチオン基を有するポリマーであり、特に第四級アンモニア基を有する有機ポリマーである。また、第一級、第二級、又は第三級アミノ基を有するポリマーも、反応媒体中に含まれている酸によって中和されるものであるか、又はアニオン性ポリマーの酸基によってプロトン化されてカチオン基へと変換されるものである限り、使用できる。ここで、カチオン性ポリマーのアミノ基又はアンモニウム基は、置換基として、又はポリマー鎖の一部として存在し得る。これらの基はまた、芳香族又は非芳香族環系の一部でもあり得る。
【0020】
適切なカチオン性ポリマーは例えば、以下(a)〜(f)の群からなるポリマーである:
(a)ビニルイミダゾリウム単位含有ポリマー、
(b)ポリジアリルジメチルアンモニウムハロゲン化物、
(c)ビニルアミン単位含有ポリマー、
(d)エチレンイミン単位含有ポリマー、
(e)ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位及び/又はジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位を含有するポリマー、及び
(f)ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド単位及び/又はジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド単位を含有するポリマー。
【0021】
カチオン性ポリマーの例は、以下の通りである:
(a)ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのホモポリマー、及び/又はビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンからなるコポリマー、
(b)ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、
(c)ポリビニルアミン、
(d)ポリエチレンイミン、
(e)ポリジメチルアミノエチルアクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートとからのコポリマー、及びアクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとからのコポリマー、ここで塩基性モノマーは、鉱酸との塩の形で、又は四級化された形であってよく、及び
(f)ポリジメチルアミノエチルアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリルアミド、及びアクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリルアミドとからのコポリマー。
【0022】
塩基性モノマーはまた、鉱酸との塩の形で、又は第四級の形で存在しうる。カチオン性ポリマーの平均モル質量Mwは、少なくとも500である。この平均モル質量は例えば、500〜1,000,000の範囲、好適には1,000〜500,000の範囲、又は2,000〜100,000の範囲である。
【0023】
好適には、カチオン性ポリマーとして次のものを使用する:
(a)平均モル質量Mwがそれぞれ500〜500,000の、ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのホモポリマー、及び/又はビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとからのコポリマー、
(b)平均モル質量Mwが1,000〜500,000のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、
(c)平均モル質量Mwが500〜1,000,000のポリビニルアミン、及び
(d)平均モル質量Mwが500〜1,000,000のポリエチレンイミン。
【0024】
(a)で記載したビニルイミダゾリウムメトスルフェートと、N−ビニルピロリドンとからのコポリマーは、重合導入されたN−ビニルピロリドンを例えば10〜90質量%含有する。N−ビニルピロリドンの代わりにコモノマーとしては、エチレン性不飽和C3〜C5カルボン酸(例えば特にアクリル酸若しくはメタクリル酸)、又はこれらのカルボン酸と炭素数が1〜18の1価アルコールとのエステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、又はn−ブチルメタクリレートから成る群のうち少なくとも1種の化合物が使用できる。
【0025】
群(b)のポリマーとして好適には、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドが考慮される。適しているのはさらに、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジメチルアミノエチルアクリレートとからのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジメチルアミノエチルメタクリレートとからのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジエチルアミノエチルアクリレートとからのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジメチルアミノプロピルアクリレートとからのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジメチルアミノエチルアクリルアミドとからのコポリマー、及びジアリルジメチルアンモニウムクロリドと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとからのコポリマーである。ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの上記コポリマーは、例えば1〜50mol%、たいていは2〜30mol%、前記コモノマーを少なくとも1種、重合導入して含有する。
【0026】
ビニルアミン単位含有ポリマー(c)は、適宜コモノマーの存在下で、N−ビニルホルムアミドを重合させることにより、そしてこのポリビニルホルムアミドポリマーを加水分解して、ホルミル基を脱離させながらアミノ基を形成することにより得られる。このポリマーの加水分解度は、例えば1〜100%であり、たいていは60〜100%の範囲内にあり得る。平均モル質量Mwは、最大100万である。ビニルアミン単位含有ポリマーは例えば、商標Catiofast(R)としてBASF SEから販売されている。
【0027】
群(d)のエチレンイミン単位含有ポリマー、例えばポリエチレンイミンは、同様に市販製品である。これは例えばPolymin(R)という名称で、BASF SEから販売されている(例えばPolymin(R) SK)。このカチオン性ポリマーとは、エチレンイミンのポリマーであって、エチレンイミンを水性媒体中で少量の酸又は酸形成性化合物、例えばハロゲン化炭化水素(例えばクロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン又はエチルクロリド)の存在下で製造されるものであるか、又はエピクロロヒドリンとアミノ基含有化合物、例えばモノアミン及びポリアミン(例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミン)、又はアンモニアとからの縮合生成物である。これらのポリマーは例えば、モル質量Mwが500〜1,000,000、好適には1,000〜500,000である。
【0028】
このカチオン性ポリマーの群には、エチレンイミンを、第一級若しくは第二級アミノ基含有化合物にグラフトしたポリマー、例えばジカルボン酸とポリアミンとからのポリアミドアミンが含まれる。エチレンイミンでグラフトされたポリアミドアミンは、任意で更に二官能性架橋剤と反応させることができ、例えばエピクロロヒドリンと、又はポリアルキレングリコールのビス−クロロヒドリンエーテルと反応させることができる。
【0029】
群(e)のカチオン性ポリマーとして考慮されるのは、ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位、及び/又はジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位を含有するポリマーである。これらのモノマーは、遊離塩基の形で、しかしながら好適には鉱酸(例えば塩酸、硫酸若しくはリン酸)との塩の形で、また四級化された形で、重合の際に用いることができる。四級化剤としては、例えばジメチルスルフェート、ジエチルスルフェート、塩化メチル、塩化エチル、塩化セチル、又は塩化ベンジルが考慮される。これらのモノマーから、ホモポリマーも、またコポリマーも製造できる。コモノマーとして適しているのは例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピロリドン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、及びこれらのモノマーの混合物である。
【0030】
群(f)のカチオン性ポリマーは、ジメチルアミノエチルアクリルアミド単位、又はジメチルアミノエチルメタクリルアミド単位を含有するポリマーであり、このポリマーは塩基性モノマーを好適には、鉱酸との塩の形で、又は四級化された形で含有するものである。この際、これはホモポリマー、及びコポリマーであり得る。その例は、ジメチルスルフェートによって、若しくは塩化ベンジルによって完全に四級化されているジメチルアミノエチルアクリルアミドのホモポリマー、ジメチルスルフェート、塩化メチル、塩化エチル若しくは塩化ベンジルによって完全に四級化されているジメチルアミノエチルメタクリルアミドのホモポリマー、並びに、アクリルアミドと、ジメチルスルフェートで四級化されているジメチルアミノエチルアクリルアミドとからのコポリマーである。
【0031】
本発明による水性分散体を製造する際、好適には以下のカチオン性ポリマーを使用する:
(a)平均モル質量Mwがそれぞれ1,000〜100,000の、ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのホモポリマー、及び/又はビニルイミダゾリウムメトスルフェートと、N−ビニルピロリドンとからのコポリマー、
(b)平均モル質量Mwが2,000〜100,000のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、及び/又は
(c)平均モル質量Mwが1,000〜500,000のポリビニルアミン。このポリビニルアミンは好適には、硫酸又は塩酸との塩の形で使用する。
【0032】
カチオン性モノマーのみから構成されているこのようなポリマーの他に、カチオン性ポリマーとして両性ポリマーも、全体としてカチオン性電荷を有するという前提で、使用できる。この両性ポリマー中のカチオン性過剰電荷は、例えば少なくとも5mol%、好適には少なくとも10mol%であり、大抵は15〜95mol%の範囲内にある。カチオン性過剰電荷を有する両性ポリマーの例は、以下の通りである:
・アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びアクリル酸からなり、ジメチルアミノエチルアクリレートを、アクリル酸よりも少なくとも5mo%多く重合導入して含有するコポリマー、
・ビニルイミダゾリウムメトスルフェート、N−ビニルピロリドン、及びアクリル酸からなり、ビニルイミダゾリウムメトスルフェートを、アクリル酸よりも少なくとも5mol%多く重合導入して含有するコポリマー、
・N−ビニルホルムアミド、及びエチレン性不飽和C3〜C5カルボン酸(好適にはアクリル酸若しくはメタクリル酸)からなる加水分解されたコポリマーであって、ビニルアミン単位含分が、エチレン性不飽和カルボン酸単位よりも少なくとも5mol%多いもの、
・ビニルイミダゾール、アクリルアミド、及びアクリル酸からなるコポリマーであって、カチオン性に帯電しているビニルイミダゾールが、アクリル酸よりも少なくとも5mol%多く重合導入されて、そのpH値が選択されているもの。
【0033】
本発明の1つの実施態様では、ポリ電解質錯体の水性分散体を使用する。カチオン性ポリマー、及びアニオン性ポリマーは、しばしば水中で凝集、沈殿する傾向がある。本発明により使用可能なポリ電解質錯体の水性分散体は、安定的な凝集化されていない系であり、例えばいわゆる水中水エマルション重合により製造できる。ポリ電解質錯体は好適には、主にアニオン性に帯電している。ポリ電解質錯体の安定的な水性分散体は、考慮されるアニオン性モノマーを、任意で別のモノマーの存在下、水性媒体中で、カチオン性ポリマーの存在下でラジカル重合させることによって製造できる。非アニオン性の他のモノマーが、塩基性又はカチオン性のモノマーも含む場合、その量は生成するポリマー錯体が、アニオン電荷について過剰量であるように調整する(pH7、20℃で)。ポリ電解質錯体又はポリ電解質錯体の電荷密度測定は、D. Hoern, Progr. Colloid & Polymer Sei., Band 65, 251 -264 (1978)によって行うことができる。塩基性ポリマーは好適には、鉱酸又は有機酸(例えば蟻酸若しくは酢酸)との塩の形で、重合時に使用する。さもなくばこれらの塩は、いずれにしろ重合時に形成される。この重合は、pH値が<6.0で行われるからである。
【0034】
本発明の1つの実施態様では、アニオン性モノマーのアニオン基の数が、カチオン性ポリマー中のカチオン基の数を、少なくとも1mol%上回る量で、アニオン性モノマーを使用する(pH7、20℃で測定)。適切な製造方法は例えば、DE 10 2005 007 483に記載されている。
【0035】
ポリ電解質錯体の製造に使用するカチオン性ポリマーの量は好適には、アニオン性ポリマーのアニオン基1molあたり、又は重合時に使用されるアニオン性モノマー全体で、少なくとも1種のカチオン性ポリマーのカチオン基を例えば最大150mol%、又は最大100mol%、好適には1〜99mol%、又は2〜50mol%、使用する(pH7、20℃で測定)。カチオン基が100mol%未満で生じるポリ電解質錯体は、pH7、20℃で、主にアニオン性に帯電している。
【0036】
主にアニオン性に帯電したポリ電解質錯体の水性分散体であって、本発明により好ましいものは、エチレン性不飽和アニオンモノマーを水性媒体中で、少なくとも1種の水溶性カチオンポリマーの存在下でラジカル重合させることにより製造でき、ここで重合時に使用されるアニオン性モノマー全体の1molあたり、少なくとも1種のカチオン性ポリマーを、好適には0.5〜49mol%使用する。この重合は水性媒体中、6未満のpH値で、例えば0〜5.9の範囲、好適には1〜5の範囲、特に1.5〜3の範囲のpH値で行う。考慮されるpH値はたいてい、酸基含有ポリマーを遊離酸基の形で、重合時に用いることによって生じる。pH値は、(特に水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液のような)塩基を、アニオン性モノマーの酸基を部分的に中和するために添加することによって、上記範囲で変えることができる。しかしながら、アニオン性モノマーのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩から出発する限り、鉱酸又は有機酸(例えば蟻酸、酢酸、若しくはプロピオン酸)を、pH調整のために加える。
【0037】
この重合は、任意でさらに、少なくとも1種の連鎖移動剤の存在下で実施できる。そうすると、連鎖移動剤なしで製造したポリマーよりも、モル質量が低いポリマーが得られる。連鎖移動剤の例は、結合した形で硫黄を有する有機化合物、例えばドデシルメルカプタン、チオジグリコール、エチルチオエタノール、ジ−n−ブチルスルフィド、ジ−n−オクチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジイソプロピルジスルフィド、2−メルカプトエタノール、1,3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール、1,4−メルカプトブタノール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、及びチオ尿素、アルデヒド、有機酸、例えばギ酸、ギ酸ナトリウム、若しくはギ酸アンモニウム、アルコール、例えば特にイソプロパノール、並びにリン化合物、例えば次亜リン酸ナトリウムである。連鎖移動剤は、重合時に1種のみ、又は複数種、使用できる。重合時に連鎖移動剤を使用する場合、モノマー全体に対して例えば0.01〜5.0質量%、好適には0.2〜1質量%の量で使用する。連鎖移動剤は好適には、少なくとも1種の架橋剤と共に、重合時に使用される。連鎖移動剤と架橋剤の量比を変えることにより、生じる重合体のレオロジーが制御できる。連鎖移動剤及び/又は架橋剤は重合の際に、例えば水性重合媒体中へ装入可能であるか、又は前記モノマーと一緒に又は別個に、重合の進行に応じて重合バッチへと計量供給可能である。
【0038】
重合の際には通常、反応条件下でラジカルを形成する開始剤を用いる。適切な重合開始剤は例えば、過酸化物、ヒドロペルオキシド、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、レドックス触媒、及びアゾ化合物、例えば2,2−アゾビス(N,N−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、及び2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリドである。これらの開始剤は、重合の際に通常の量で用いる。好ましくはアゾ開始剤を、重合開始剤として使用する。しかしながらこの重合は高エネルギー放射線、例えば電子線により、又はUV光照射によって開始することもできる。
【0039】
アニオン性ポリマーを形成するための重合は、例えば非連続的に、アニオン性モノマーと少なくとも1種のカチオン性化合物(例えばカチオン性ポリマー)とを、重合帯域に装入し、重合開始剤を少しずつ、又は連続的に供給することによって行う。しかしながら半連続的な運転方法が好ましく、この場合、水及び重合開始剤を装入し、少なくとも1種のアニオン性モノマーと、少なくとも1種のカチオン性ポリマーとを、連続的に重合条件下で供給する。しかしながらまた、連続的に又は少しずつ、またモノマー供給、及びカチオン性ポリマーの供給とは別に、重合帯域に導入することもできる。また、まずモノマーの一部を例えば5〜10質量%、少なくとも1種のカチオン性ポリマーの相応する割合と一緒に重合帯域に装入し、重合を開始剤の存在下で開始し、モノマーの残部、カチオン性ポリマーの残部、及び開始剤の残部を、連続的に又は少しずつ供給する。重合は通常、あらゆる場合で酸素を遮断して、不活性ガス雰囲気下、例えば窒素又はヘリウム下で行う。重合温度は例えば、5〜100℃の範囲、好適には15〜90℃の範囲、大抵は20〜70℃の範囲である。重合温度は、その都度使用される開始剤に大きく依存する。
【0040】
被覆のために使用する溶液中、又は水性分散体中における電解質錯体の濃度は、好適には少なくとも1質量%、特に少なくとも5質量%、及び最大50質量%、又は最大60質量%である。水性分散体中でのポリ電解質錯体の含分は好ましくは、1〜40質量%、又は5〜35質量%、特に15〜30質量%である。
【0041】
ポリ電解質錯体の好ましい水性分散体は、pH値が好ましくは6.0未満、20℃の温度で粘度が100〜150,000mPas、又は200〜5,000mPasである(Brookfield粘度計により測定、20℃、20回転/分、4軸)。重合条件に依存して、またその都度使用されるモノマー、又はその都度使用されるモノマーと助剤(例えば連鎖移動剤)の組み合わせに依存して、ポリ電解質錯体のモル質量は、様々である。ポリ電解質錯体の平均モル質量Mwは、例えば1,000〜10,000,000、好適には5,000〜5,000,000、又は10,000〜3,000,000である。モル質量の測定は、光散乱法によって行う。分散されたポリ電解質錯体の平均粒径は、例えば0.1〜200μm、好適には0.5〜70μmである。平均粒径は例えば、光学顕微鏡、光散乱法、又はフリーズフラクチャー電子顕微鏡によって特定できる。
【0042】
本発明の実施態様は特に、以下のものから形成されるポリ電解質錯体の使用である:
・アクリル酸のホモポリマーと、ビニルイミダゾリウム含有ポリマー;
・アクリル酸のホモポリマーと、ビニルイミダゾリウム単位を有するホモポリマー;
・アクリル酸のホモポリマーと、ビニルイミダゾリウム単位を有するモノマーと、ビニルラクタム(特にビニルピロリドン)とからのコポリマー;
・2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を有するアクリル酸のコポリマーと、ビニルイミダゾリウム単位含有ポリマー;
・2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を有するアクリル酸のコポリマーと、ビニルイミダゾリウム単位を有するホモポリマー;
・2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を有するアクリル酸のコポリマーと、ビニルイミダゾリウム単位を有するモノマーと、ビニルラクタム(特にビニルピロリドン)とからのコポリマー。
【0043】
本発明の実施態様では、ポリ電解質錯体を形成するため、カチオン性ポリウレタンと、アニオン性ポリウレタンとの組み合わせを使用する。アニオン性ポリウレタンは、アニオン基を含有し、カチオン基を含有しないか、又はアニオン基もカチオン基も含有する(この場合、アニオン基の数が優位である)かのいずれかである。カチオン性ポリウレタンは、カチオン基を含有し、アニオン基を含有しないか、又はアニオン基もカチオン基も含有する(この場合、カチオン基の数が優位である)かのいずれかである。カチオン性ポリウレタンとアニオン性ポリウレタンは好適には、相互に分離して、水性分散体の形で使用し、ここでポリ電解質錯体は、少なくとも2種の異なる水性分散体を基材に塗布して形成される。
【0044】
カチオン性ポリウレタンは好適には、
a)ポリイソシアネート、好適には少なくとも1種のジイソシアネート、
b)ポリオール、好適には少なくとも1種のポリエステルジオール、又は少なくとも1種のポリエーテルジオール、及び任意で、
c)反応性基(例えばアルコール性ヒドロキシ基、第一級アミノ基、第二級アミノ基、及びイソシアネート基から選択される)を有するさらなる一価又は多価の化合物、
から構成されており、ここで少なくとも1種の合成成分が、1種又は複数種のカチオン性基を有する。
【0045】
アニオン性ポリウレタンは好適には、
a)ポリイソシアネート、好適には少なくとも1種のジイソシアネート、
b)ポリオール、好適には少なくとも1種のポリエステルジオール、又は少なくとも1種のポリエーテルジオール、及び任意で、
c)反応性基(例えばアルコール性ヒドロキシ基、第一級アミノ基、第二級アミノ基、及びイソシアネート基から選択される)を有するさらなる一価又は多価の化合物、
から構成されており、ここで少なくとも1種の合成成分が、1種又は複数種のアニオン性基を有する。
【0046】
適切なジイソシアネートは例えば、式X(NCO)2のものであり、ここでXは、4〜15個のC原子を有する脂肪族炭化水素基、6〜15個のC原子を有する脂環式炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基、又は7〜15個のC原子を有する芳香脂肪族炭化水素基である。このようなジイソシアネートの例は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1−イソシアナト−3,5,5−トリメチル−5−イソシアナトメチルシクロヘキサン(IPDI)、2,2−ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)−プロパン、トリメチルヘキサンジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトベンゼン、2,4−ジイソシアナトトルエン、2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4’−ジイソシアナト−ジフェニルメタン、2,4’−ジイソシアナト−ジフェニルメタン、p−キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ビス−(4−イソシアナト−シクロヘキシル)メタン(HMDI)の異性体、例えばトランス/トランス異性体、シス/シス異性体及びシス/トランス異性体、並びにこれらの化合物から成る混合物である。このようなジイソシアネートは、市販で入手可能である。これらのイソシアネートの混合物としては特に、ジイソシアナトトルエン及びジイソシアナト−ジフェニルメタンの各構造異性体の混合物が重要であり、殊に、2,4−ジイソシアナトトルエン80mol%と、2,6−ジイソシアナトトルエン20mol%との混合物が適している。さらに、芳香族イソシアネート(例えば2,4−ジイソシアナトトルエン及び/又は2,6−ジイソシアナトトルエン)と、脂肪族イソシアネート又は脂環式イソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート若しくはIPDI)との混合物が特に好ましく、ここで脂肪族イソシアネート対芳香族イソシアネートの好ましい混合比は1:9〜9:1、殊に1:4〜4:1である。
【0047】
ポリウレタンを合成するためには、ポリイソシアネート化合物として上述の化合物以外に、遊離イソシアネート基に加えて、別のキャップトイソシアネート基(例えばウレトジオン基)を有するイソシアネートも使用できる。
【0048】
ポリウレタンは好ましくは、その都度、少なくとも40質量%、特に好ましくは少なくとも60質量%、極めて好ましくは少なくとも80質量%が、ジイソシアネート、ポリエーテルジオール、及び/又はポリエステルジオールから合成されている。このポリウレタンは好ましくは、ポリエステルジオール若しくはポリエーテルジオール、又はこれらの混合物を、ポリウレタンに対して10質量%超、特に好ましくは30質量%超、殊に40質量%超、又は50質量%超、極めて好ましくは60質量%超の量で含有する。
【0049】
ポリエステルジオールとして考慮されるのは特に、比較的高分子量のジオールであり、その分子量が500超〜最大5,000g/mol、好適には約1,000〜3,000g/molのものである。ポリエーテルジオールは好適には、モル質量が240〜5,000g/molである。これは、数平均分子量Mnである。Mnは、末端基(OH価)の数を特定することによって得られる。
【0050】
ポリエステルジオールは、例えば、Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,4th edition,volume 19の第62頁〜第65頁から公知である。好ましくは、2価アルコールと2価カルボン酸との反応によって得られるポリエステルジオールを使用する。遊離ポリカルボン酸の代わりに、相応するポリカルボン酸無水物、若しくは低級アルコールの相応するポリカルボン酸エステル、又はこれらの混合物も、ポリエステルポリオール製造のために使用できる。ポリカルボン酸は、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、芳香族又は複素環式であってよく、任意で、例えばハロゲン原子によって置換されているか、かつ/又は不飽和であってよい。このための例として、以下のものが挙げられる:コルク酸、アゼライン酸、フタル酸、イソフタル酸、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラクロロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、二量体脂肪酸。好ましいのは、一般式HOOC−(CH2y−COOHのジカルボン酸(前記式中、yは1〜20の数であり、好ましくは2〜20の偶数である)、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、及びドデカンジカルボン酸である。
【0051】
ポリエステルジオールを製造するための二価アルコールとして考慮されるのは、例えばエチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、ブテン−1,4−ジオール、ブチン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ネオペンチルグリコール、ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、例えば1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2−メチル−プロパン−1,3−ジオール、メチルペンタンジオール、さらにジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、及びポリブチレングリコールである。好ましいのは、一般式HO−(CH2x−OHのアルコールである(前記式中、xは1〜20の数、好ましくは2〜20の偶数である)。このための例は、エチレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、オクタン−1,8−ジオール、及びドデカン−1,12−ジオールである。さらに好ましいのは、ネオペンチルグリコールである。
【0052】
ポリエステルジオール又はポリエーテルジオールに加えて任意で、例えば、ホスゲンと、ポリエステルポリオールのための合成成分として挙げた、過剰量の低分子量アルコールとの反応によって得られるポリカーボネートジオールも併用できる。任意で、ラクトンベースのポリエステルジオールを使用してもよく、これは、ラクトンの単独重合体又は混合重合体、好ましくは、適切な二官能性の開始剤分子にラクトンが付加した、末端ヒドロキシ基を有する付加生成物である。ラクトンとしては好ましくは、一般式HO−(CH2z−COOHの化合物から誘導されるもの[式中、zは1〜20の数であり、メチレン単位のH原子はC1〜C4−アルキル基で置換されていてもよい]が考慮される。その例は、e−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、g−ブチロラクトン、及び/又はメチル−e−カプロラクトン、並びにこれらの混合物である。適切な開始剤成分は例えば、先にポリエステルポリオールのための合成成分として挙げた低分子量の二価アルコールである。e−カプロラクトンの相応する重合体が、特に好ましい。低級のポリエステルジオール又はポリエーテルジオールも、ラクトンポリマー製造のための開始剤として使用することができる。ラクトンのポリマーの代わりに、ラクトンに相応するヒドロキシカルボン酸の相応する化学的に等価な重縮合物も使用できる。
【0053】
ポリエーテルジオールは特に、例えばBF3の存在下で、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、スチレンオキシド、若しくはエピクロロヒドリンをそれ自体で重合させることにより、又はこれらの化合物を任意で混合して、若しくは順次、反応性水素原子(例えばアルコール若しくはアミン)を有する開始成分、例えば水、エチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、又はアニリンに付加することにより、得ることができる。特に好ましいのは、分子量が240〜5,000、特に500〜4,500のポリプロピレンオキシドとポリテトラヒドロフランである。20質量%未満がエチレンオキシドからなるポリエーテルジオールが好ましい。
【0054】
任意で、ポリヒドロキシオレフィン、好ましくは2個の末端ヒドロキシ基を有するもの、例えばα,ω−ジヒドロキシポリブタジエン、α,ω−ジヒドロキシポリメタクリルエステル、又はα,ω−ジヒドロキシポリアクリルエステルを、モノマー(c1)として併用することもできる。このような化合物は、例えばEP−A622378から公知である。さらなる適切なポリオールは、ポリアセタール、ポリシロキサン、及びアルキド樹脂である。
【0055】
ポリエーテルジオールは好適には、ポリテトラヒドロフラン、及びポリプロピレンオキシドから選択されている。ポリエステルジオールは好ましくは、2価アルコールと2価カルボン酸との反応生成物、及びラクトンベースのポリエステルジオールから選択されている。
【0056】
ポリウレタンの硬度及び弾性率は、必要であれば、ジオールとして、ポリエステルジオールに加えて、若しくはポリエーテルジオールに加えてさらに、これらとは異なる、分子量が約60〜500g/mol、好ましくは62〜200g/molの低分子量モノマージオールを使用すれば、向上させることができる。低分子量のモノマージオールとしては特に、ポリエステルポリオール製造のために挙げた短鎖アルカンジオールの合成成分を使用し、ここで、C原子を2〜12個、及び偶数のC原子を有する非分枝状ジオール、並びにペンタン−1,5−ジオール、及びネオペンチルグリコールが好ましい。その例としては例えば、エチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、ブテン−1,4−ジオール、ブチン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ネオペンチルグリコール、ビス−(ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、例えば1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2−メチル−プロパン−1,3−ジオール、メチルペンタンジオール、さらにジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、及びポリブチレングリコールが考慮される。好ましいのは、一般式HO−(CH2x−OHのアルコールである(前記式中、xは1〜20の数、好ましくは2〜20の偶数である)。このための例は、エチレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、オクタン−1,8−ジオール、及びドデカン−1,12−ジオールである。さらに好ましいのは、ネオペンチルグリコールである。ポリエステルジオール若しくはポリエーテルジオールの割合は好ましくは、あらゆるジオールの全量を基準として、10〜100mol%であり、低分子量のモノマージオールの割合は、あらゆるジオールの全量を基準として 0〜90mol%である。特に好ましくは、ポリマージオール対モノマージオールの比は、0.1:1〜5:1、特に好ましくは0.2:1〜2:1である。
【0057】
ポリウレタンの水分散性を達成するために、ポリウレタンは、イソシアネート基を少なくとも1個、又はイソシアネート基に対して反応性の基を少なくとも1個と、さらに少なくとも1個の親水基又は親水基に変えられる基を少なくとも1個とを有するモノマーを、付加的に合成成分として含有することができる。以下の文章において、"親水基又は潜在的親水基"との用語は、"(潜在的)親水基"と省略する。(潜在的)親水基は、ポリマー主鎖の合成に利用されるモノマーの官能基よりもずっと緩慢に、イソシアネートと反応する。ポリウレタンの全合成成分の全量の中で(潜在的)親水基を有する成分の割合は、一般的に、(潜在的)親水基のモル量が、全てのモノマーの質量を基準として、30〜1,000mmol/kg、好ましくは50〜500mmol/kg、特に好ましくは80〜300mmol/kgになるように計量する。(潜在的)親水基は、非イオン性親水基、又は好ましくは(潜在的)イオン性親水基であり得る。非イオン性親水基としては特に、好ましくはエチレンオキシド繰返し単位5〜100個、特に10〜80個からなるポリエチレングリコールエーテルが挙げられる。ポリエチレンオキシド単位の含有率は、全てのモノマーの質量を基準として、一般的に0〜10質量%、好ましくは0〜6質量%である。非イオン性の親水基を有する好ましいモノマーは、エチレンオキシドを少なくとも20質量%有するポリエチレンオキシドジオール、ポリエチレンオキシドモノオール、並びにポリエチレングリコールと、末端にエーテル化されたポリエチレングリコール基とを有するジイソシアネートとからの反応生成物である。このようなジイソシアネート、並びにその製造法は、特許文献US−A3,905,929及びUS−A3,920,598に記載されている。
【0058】
アニオン性ポリウレタンは、合成成分としてアニオン基を有するモノマーを含有する。アニオン基は特に、アルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩の形での、スルホネート基、カルボキシレート基、及びホスホネート基である。カチオン性ポリウレタンは、合成成分としてカチオン基を有するモノマーを含有する。カチオン基は、特にアンモニウム基、とりわけプロトン化された第三級アミノ基、又は第四級アミノ基である。本発明の意味合いにおいてアニオン性又はカチオン性の基とは、潜在的アニオン基又は潜在的カチオン基であるとも理解され、これらは容易に中和反応、加水分解反応、又は第四級化反応によって前述のイオン性親水性基(つまり、例えばカルボン酸基又は第三級アミノ基)にすることができる。(潜在的)イオン性モノマーは、例えばUllmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie,4th edition,volume 19の第311頁〜第313頁に、及び例えばDE−A1495745に詳しく記載されている。
【0059】
(潜在的)カチオン性モノマーとしてはとりわけ、第3級アミノ基を有するモノマーが、特に実際上で重要であり、例えば:トリス−(ヒドロキシアルキル)−アミン、N,N−ビス(ヒドロキシアルキル)−アルキルアミン、N−ヒドロキシアルキル−ジアルキルアミン、トリス−(アミノアルキル)−アミン、N,N−ビス(アミノアルキル)−アルキルアミン、N−アミノアルキル−ジアルキルアミン、ここで、これらの第3級アミンのアルキル基及びアルカンジイル単位は、互いに無関係に、C原子1〜6個から成る。さらに、例えば、アミン窒素に結合された2個の水素原子を有するアミン(例えばメチルアミン、アニリン又はN,N’−ジメチルヒドラジン)のアルコキシ化によって、それ自体通常の方法で得られるような、好ましくは2個の末端ヒドロキシ基を有する、第3級窒素原子を有するポリエーテルが考慮される。このようなポリエーテルは一般的に、分子量が500〜6,000g/molである。これらの第三級アミンは、酸、好ましくは強い鉱酸、例えばリン酸、硫酸、ハロゲン化水素酸、又は強い有機酸を用いて、又は適した第四級化剤、例えばハロゲン化C1〜C6アルキルハロゲン化物又はベンジルハロゲン化物との、例えば臭化物又は塩化物との反応により、アンモニウム塩へ変換される。
【0060】
カチオン性ポリウレタンのための特に好ましい合成成分は、N,N−ビス(アミノアルキル)アルキルアミン、特にN,N−ビス(アミノプロピル)メチルアミンであり、またN,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アルキルアミン、特にN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアミンである。
【0061】
(潜在的)アニオン性基を有するモノマーとして通常考慮されるのは、アルコール性ヒドロキシ基を少なくとも1個、又は第1級若しくは第2級アミノ基を少なくとも1個有する、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族又は芳香族のカルボン酸及びスルホン酸である。好ましいのは、例えばUS−A3,412,054にも記載されているような、ジヒドロキシアルキルカルボン酸、特に3〜10個のC原子を有するものである。殊に、一般式(c1)
【化1】

[式中、
1及びR2はC1〜C4アルカンジイル(単位)であり、
3はC1〜C4アルキル(単位)である]
の化合物、特にジメチロールプロピオン酸(DMPA)が好ましい。さらに、相応するジヒドロキシスルホン酸及びジヒドロキシホスホン酸、例えば2,3−ジヒドロキシプロパンホスホン酸が適している。それ以外には、分子量が500超〜10,000g/molの、カルボキシレート基を少なくとも2個有するジヒドロキシ化合物が好適であり、この化合物はDE−A3911827から公知である。当該化合物は、重付加反応において2:1〜1.05:1のモル比で、ジヒドロキシ化合物と、テトラカルボン酸二無水物、例えばピロメリット酸二無水物若しくはシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物とを反応させることによって得られる。ジヒドロキシ化合物として特に適しているのは、鎖長延長剤として上述したモノマー、並びに前述のジオールである。
【0062】
特に好ましくは、アニオン性合成成分が、カルボキシ基を有する。カルボキシ基は、前述の脂肪族、環式脂肪族、芳香脂肪族、又は芳香族のカルボン酸によってポリウレタンに導入することができ、当該カルボン酸は、アルコール性ヒドロキシ基を少なくとも1個、又は第一級若しくは第二級アミノ基を少なくとも1個有するものである。好ましいのは、ジヒドロキシアルキルカルボン酸、特にC原子を3〜10個有するもの、特にジメチルプロピオン酸である。
【0063】
アニオン性ポリウレタンのための特に好ましい合成成分は、2,2−ビス−(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(ジメチロールプロピオン酸、DMPA)である。
【0064】
イソシアネートに対して反応性のアミノ基を有するさらなるアニオン性合成成分としては、アミノカルボン酸(例えばリシン、β−アラニン)、又は脂肪族ジ第1級ジアミンをα,β−不飽和カルボン酸又はスルホン酸に付加させた付加生成物(DE−A2034479に記載のもの)が考慮される。このような化合物は、例えば、式(c2)
2N−R4−NH−R5−X (c2)
に従い、
前記式中、R4及びR5は相互に独立して、C1〜C6アルカンジイル単位(好ましくはエチレン)であり、Xは、COOH又はSO3Hである。式(c2)の特に好ましい化合物は、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンカルボン酸、並びにN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、若しくは相応するアルカリ金属塩であり、ここでNaが対イオンとして特に好ましい。さらに特に好ましいのは、上記の脂肪族ジ第1級ジアミンを、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に付加させた付加生成物である(例えばDE−B1954090に記載のもの)。
【0065】
潜在的イオン性基を有するモノマーを用いる場合、当該モノマーのイオン形態への変換は、イソシアネート重付加の前、その間に、また好ましくはイソシアネート重付加の後に行うことができる。イオン性モノマーはしばしば、反応混合物に難溶性であるからである。中和剤は、例えば、アンモニア、NaOH、トリエタノールアミン(TEA)、トリイソプロピルアミン(TIPA)、又はモルホリン、もしくはその誘導体である。特に好ましくは、スルホネート基又はカルボキシレート基は、対イオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンとの塩の形で存在する。
【0066】
ポリウレタンの架橋又は連鎖延長のために、さらなる多価モノマーを用いることができる。それらは、一般的に、2価超の非フェノール性アルコール、2個以上の第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有するアミン、並びに1個以上のアルコール性ヒドロキシル基に加えて1個以上の第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有する化合物である。ある特定の分枝度又は架橋度の調節に使用可能な、2超の原子価を有するアルコールは例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、又は糖である。そのうえ、2個以上の第一級及び/又は第二級アミノ基を有するポリアミンと、ヒドロキシル基に加えて、イソシアネートに対して反応性のさらに別の基を有するモノアルコールアミンとが考慮され、これは例えば、1個以上の第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有するモノアルコール、例えばモノエタノールアミンである。ポリウレタンは、全合成成分の全量を基準として、イソシアネートに対して反応性のアミノ基を少なくとも2個有するポリアミンを、好ましくは1〜30mol%、特に好ましくは4〜25mol%含有する。同じ目的のために、2価超のイソシアネートも使用できる。市販の化合物は例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、又はヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットである。
【0067】
任意で併用される1価モノマーは、モノイソシアネート、モノアルコール、及びモノ第1級アミンとモノ第二級のアミンである。これらの割合は一般的に、モノマーの全体のモル量を基準として、最大10mol%である。これらの単官能性の化合物は通常、さらに別の官能基、例えばオレフィン基若しくはカルボニル基を有し、かつ、ポリウレタンの分散もしくは架橋又はさらに別の重合類似反応を可能にする官能基をポリウレタンに導入するのに利用される。このために、モノマー、例えばイソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(TMI)、及びアクリル酸若しくはメタクリル酸のエステル、例えばヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシエチルメタクリレートが考慮される。
【0068】
ポリウレタン化学の分野においてポリウレタンの分子量が、互いに反応性のモノマーの割合、並びに1分子当たりの反応性官能基の数の算術平均の選択によってどのように調節できるかは、一般的に公知である。これらの成分、並びにそれらの各モル量は通常、
Aをイソシアネート基のモル量とし、
Bをヒドロキシル基のモル量と、イソシアナートと付加反応において反応可能な官能基のモル量とからの合計とすると、
A:Bが0.5:1〜2:1、好ましくは0.8:1〜1.5、特に好ましくは0.9:1〜1.2:1であるように選択される。極めて特に好ましくは、比A:Bはできるだけ1:1に近い。使用されるモノマーは平均して、通常1.5〜2.5個、好ましくは1.9〜2.1個、特に好ましくは2.0個のイソシアネート基、若しくはイソシアネートと付加反応で反応可能な官能基を有する。
【0069】
ポリウレタン製造ための合成成分の重付加は、好ましくは最大180℃、より好ましくは最大150℃の反応温度で常圧下、又は原圧下で行う。ポリウレタン、若しくはポリウレタン水性分散体の製造は、当業者に公知である。
【0070】
ポリウレタンは、好ましくは水性分散体として存在し、かつ、この形態で使用される。
【0071】
アニオン性ポリウレタンは好ましくは、
a)ジイソシアネート、
b)モル質量が500〜5,000g/mol超のポリエステルジオール、及び/又はモル質量が240〜5,000g/molのポリエーテルジオール、
c)カルボン酸基を有するジオール、及び
d)任意で、a)〜c)とは異なる、アルコール性ヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基及びイソシアネート基から選択される反応性基を有する、さらなる別の1価化合物又は多価化合物
から合成されている。
【0072】
カチオン性ポリウレタンは好ましくは、
a)ジイソシアネート、
b)モル質量が500〜5,000g/mol超のポリエステルジオール、及び/又はモル質量が240〜5,000g/molのポリエーテルジオール、
c)第三級アミノ基を少なくとも1個と、ヒドロキシ基、第一級アミノ基、及び第二級アミノ基から選択される官能基を1個、2個、又は3個有する化合物、及び
d)任意で、a)〜c)とは異なる、アルコール性ヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基及びイソシアネート基から選択される反応性基を有する、さらなる別の1価化合物又は多価化合物
から合成されている。
【0073】
可塑剤遮蔽剤として用いるためには、少なくとも1種のアニオン性ポリマーと、少なくとも1種のカチオン性ポリマーとから成るポリ電解質錯体を、少なくとも1種の可塑剤を含有する基材の表面に塗布するか、又は前記ポリ電解質錯体を、当該表面で形成する。
【0074】
可塑剤とは、蒸発圧が低く、液状又は固体状の無反応な特定の有機物質であり、主にエステルのような性質を示し、化学反応無しで、好適にはその溶解性及び膨潤性によって、高ポリマー物質によって物理的な相互作用が起こることもなく、これによって均質な系を形成可能にするものである。可塑剤は、可塑剤によって製造された成形体又は被覆に、目的とする特定の物理特性を付与し、その特性とは例えば、凝固温度の低下、変形性の向上、弾性特性の向上、又は硬度の低下である。可塑剤は、プラスチック添加剤の一種である。可塑剤は、材料の加工性、可撓性、及び伸張性を改善するために、材料(例えば軟質PVC)に投入される。好ましい可塑剤は例えば、フタル酸エステル(例えばジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート;ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ブチルデシルフタレート、及びジペンチルフタレートからの混合エステル、ビス(2−メトキシエチル)フタレート、ジカプリルフタレートなど);(主に)直鎖状C6〜C11アルコールとのトリメリット酸エステル(例えばトリス(2−エチルヘキシル)トリメリテート);非環式の脂肪族ジカルボン酸エステル(例えばジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、デカンジ酸エステル又はアゼレート);非環式のジカルボン酸エステル(例えばジイソノニルシクロヘキサンジカルボン酸エステル)、リン酸エステル(例えばトリクレシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルクレシルホスフェート、ジフェニルオクチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(2−ブトキシエチル)ホスフェート;クエン酸エステル、乳酸エステル、エポキシ可塑剤、ベンゼンスルホンアミド、メチルベンゼンスルホンアミドなどである。特に好ましい可塑剤は、ジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、及びジノニルウンデシルフタレートである。
【0075】
可塑剤含有基剤は好適には、ポリ塩化ビニル(PVC、軟質PVC)製の材料である。すなわち、可塑剤含有軟質PVC製の基材は、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する遮蔽層を備える。ここで、基材の表面は少なくとも部分的に、ポリ電解質錯体を少なくとも1種有する少なくとも1つの層によって被覆される。好ましい実施態様においてこの基材は、可塑剤含有PVCシートである。このPVCシートは、片面又は両面が、好適には片面が、本発明によるポリ電解質錯体で被覆されている。
【0076】
本発明の好ましい態様において、ポリ電解質錯体の1成分は、アニオン性ポリマーであり、当該ポリマーは、アニオン性ポリウレタンから、また特定のモノマーから製造可能なポリマーから選択されており、この特定のモノマーは、モノエチレン性不飽和C3〜C10カルボン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、及びこれらの塩から成る群から選択されている。
【0077】
本発明の好ましい態様では、ポリ電解質錯体の1成分は、カチオン性ポリマーであり、このカチオン性ポリマーは、カチオン性ポリウレタン、ビニルイミダゾリウム単位含有ポリマー、ポリジアリルジメチルアンモニウムハロゲン化物、ビニルアミン単位含有ポリマー、エチレンイミン単位含有ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位含有ポリマー、ジアルキアルアミノアルキルメタクリレート含有ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド単位含有ポリマー、及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド単位含有ポリマーから選択されている。
【0078】
本発明の好ましい態様においてポリ電解質錯体は、アニオン性ポリウレタンと、カチオン性ポリウレタンとから、又はアクリル酸若しくはメタクリル酸を用いてラジカル重合させたポリマーと、アミノ基若しくは第四級アンモニウム基含有ポリマーとから形成される。
【0079】
本発明の1つの態様では、ポリ電解質を少なくとも1種含有する層は、さらに完全に、若しくは少なくとも部分的に、直接若しくは間接的に接着層によって被覆されている。この接着剤は好適には、熱で封止可能な接着剤、常温で封止可能な接着剤、粘着性接着剤、溶融接着剤、光線で架橋可能な接着剤、及び熱で架橋可能な接着剤である。本発明の対象は例えば、熱で封止可能な軟質PVCシートであり、このシートは外側に熱封止性の層を有し、かつ、軟質PVC製の担体材料と、熱封止性の層との間には、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する遮蔽層が存在する。本発明の対象は例えばまた、それ自体で接着性(selbstklebend)の軟質PVC接着バンドであり、ここで軟質PVC製の担体材料と、外部の粘着性接着層との間には、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する遮蔽層が存在する。
【0080】
本発明による方法の場合、可塑剤含有基材は好適には、少なくとも1種のポリ電解質錯体の水溶液又は水性分散体で被覆する。適切な基材は、特に可塑剤含有プラスチック部材、又は可塑剤含有ポリマーシートであり、特にPVCシートである。被覆に使用される溶液又は分散体は、さらに添加剤又は助剤を含有することができ、それは例えばレオロジー調整のための粘稠剤、濡れ助剤、又は結合剤である。
【0081】
その適用は例えば被覆機で、プラスチック製担体シートに被覆組成物を塗布することによって行うことができる。板状の材料を使用する限り、ポリマー分散体は通常タンクから、塗布ローラによって塗布し、エアブラシで均一にする。被覆を施与する別の可能性は例えば、逆グラビア法、スプレー法、又は回転ブレードによって行うことである。
【0082】
これらの被覆法以外に、印刷技術から公知の高圧法と低圧法が同様に、ポリ電解質錯体による遮蔽性被覆の製造に適している。カラー印刷段階における様々な色の代わりに、ここでは例えば様々なポリマーを、印刷塗布によって適用する。印刷法としては、当業者に公知のフレキソ印刷法が高圧法として、グラビア法が低圧法の例として、またオフセット印刷が、平面印刷の例として挙げられる。また近年のデジタル印刷、インクジェットによる印刷、電気フォトグラフィー、又はダイレクトイメージングも使用できる。
【0083】
1つの実施態様では、ポリ電解質錯体をその場で初めて、2つの被覆組成物を同時に又は1つの作業工程で直接連続して(例えばカスケード被覆により)施与することによって基材上に形成し、ここで被覆組成物の一方は、アニオン性ポリマーを少なくとも1種含有し、もう一方の被覆組成物はカチオン性ポリマーを少なくとも1種含有するものである。ここで好ましくは、まず少なくとも1種の第一の被覆組成物(第一級、第二級、若しくは第三級アミノ基を有するカチオン性ポリマーを少なくとも1種、又はカチオン性ポリウレタンを少なくとも1種含有するもの)を施与し、引き続き少なくとも1種の第二の被覆組成物(酸基を有するアニオン性ポリマーを少なくとも1種、又はアニオン性ポリウレタンを少なくとも1種、含有するもの)を塗布する。アミノ基を有するカチオン性ポリマーは例えば、以下のものから成る群から選択される単位を有するポリマーである:ビニルアミン、エチレンイミン、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノアルキルアルメタクリルアミド、及びこれらの混合物;特にポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリジメチルアミノエチルアクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートとからのコポリマー、アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとからのコポリマー。酸基を有するアニオン性ポリマーは例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びこれらの混合物から選択される単位を有するポリマーであり、特にアクリル酸のホモポリマー、及びアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーである。
【0084】
シートへの接着性をさらに改善させるために、担体シートは事前にコロナ処理にかけることができる。平面上材料に塗布される量は、例えばシート1平方メートル当たり1〜10g(ポリマー、固体)であり、好適には2〜7gである。平面状基材にポリ電解質錯体を施与した後、溶剤を蒸発させる。このためには例えば連続的な作業で、赤外線照射装置を備える乾燥路に、材料を通すことができる。この後、被覆され乾燥された材料を、冷却ローラによって運び、最後に巻取る。乾燥された被覆の厚さは、好適には1〜50μm、特に好ましくは2〜20μmである。
【0085】
ポリ電解質錯体で被覆された基材は、可塑剤の移行性に対して優れた遮蔽作用を示し、特に折れ目、たたみ部、及び角の範囲ではそうである。被覆された基材は、そのまま、例えば図形的構成要素(グラフィックアート)として、家具の被覆、又は自動車部品における成形部材の被覆(例えば扉内側のライニング)、充填材として、又は接着バンドとして使用できる。これらの被覆は、機械的特性が非常に良好であり、例えば良好なブロック性を示し、かつ亀裂形成がほとんど無い。
【0086】
特別な表面特性又は被覆特性(例えば良好な印刷性、さらに良好な封止性及びブロック性、良好な耐水性)を得るために、ポリ電解質錯体で被覆された基材を、所望の特性をさらにもたらすカバー層で上塗り被覆することが有利であり得る。ポリ電解質錯体で予備被覆された基材は、良好な上塗り被覆性を示す。さらに、上記で説明した方法のうち1つによって上塗り被覆可能であるか、又は連続的な方法で中間的な巻取り及び巻出し無しで、例えばシートを何重にも被覆できる。これによって可塑剤遮蔽層は系内の内側に存在するため、表面特性はカバー層により決まる。カバー層は、可塑剤遮蔽層に対して良好な接着性を有する。
【0087】
担体シートの厚さは一般的に、5〜100μmの範囲、好適には5〜40μmの範囲である。
【0088】
実施例
全てのパーセント値は、他に記載がない場合、質量値である。含有率のデータは、水溶液又は分散体中での含有率に関するものである。粘度の測定は、DIN EN ISO 3219に従って、23℃の温度で、回転粘度計を用いて行うことができる。
【0089】
使用物質:
Vinnapas(登録商標)EP 17:水性分散体、酢酸ビニルとエチレンから製造されるもの(固形分約60%)、Wacker社製
Borchigel(登録商標)L75N:疎水性に変性されたポリエーテルウレタンコポリマーをベースとする、非イオノゲン性粘稠剤(水中で50%のもの)
Lupraphen(登録商標)VP 9186:ポリエステルジオール(アジピン酸と1,4−ブタンジオールから得られるOH基末端のポリエステル)
Lupranol(登録商標)1000:質量平均分子量が2,000のポリプロピレングリコール
Lumiten(登録商標)I-SC:濡れ性助剤(スルホコハク酸エステル)。
【0090】
実施例1:カチオン性ポリウレタン分散体
カチオン性ポリウレタンの分散体を、水中で製造した。このポリウレタンは、OH価が45.8のLupraphen(登録商標)VP9186 0.3mol、トルエンジイソシアネート0.283mol、ヘキサメチレンジイソシアネート0.283mol、及びN−メチルジエタノールアミン0.25molから形成されており、pH値調整のために乳酸を含むものである。固体含分41.2%;K値が45.4:粘度が22mPas:pH4.6。
【0091】
実施例2:カチオン性ポリウレタン分散体
カチオン性ポリウレタンの分散体を、水中で製造した。このポリウレタンは、OH価が45.8のLupraphen(登録商標)VP9186 0.3mol、トルエンジイソシアネート0.263mol、イソホロンジイソシアネート0.263mol、及びN,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン0.21molから形成されており、pH値調整のために塩酸とリン酸を含むものである。固体含分41.7%;K値が44.8:粘度が29.7mPas:pH5.6。
【0092】
実施例3:アニオン性ポリウレタン分散体
アニオン性ポリウレタンの分散体を、水中で製造した。このポリウレタンは、OH価が56.0のLupranol(登録商標)1000 0.4mol、トルエンジイソシアネート1.0mol、及びジメチロールプロピオン酸0.6molから形成されていた。アンモニア水溶液で中和したのだが、その量は、ジメチロールプロピオン酸の酸基の90%が中和されるのに充分な量であった。固体含分33.8%:K値37.8;粘度1330mPas;pH7.1。
【0093】
実施例4:アニオン性ポリウレタン分散体
実施例3に準じて、アンモニアによる中和を酸基の60%が中和されるまで行った。固体含分39.8%、粘度119mPas;pH6.7。
【0094】
実施例5:アニオン性ポリウレタン分散体
実施例3に準じて、KOHによる中和を酸基の30%が中和されるまで行った。固体含分44.3%、粘度18.5mPas;pH6.6。
【0095】
実施例6:アニオン性ポリウレタン分散体
実施例5に準じて、KOHによる中和を酸基の60%が中和されるまで行った。固体含分37.6%、粘度178mPas;pH6.7。
【0096】
実施例7:アニオン性ポリウレタン分散体
実施例5に準じて、KOHによる中和を酸基の90%が中和されるまで行った。固体含分31.9%、粘度861mPas;pH7.1。
【0097】
実施例8:アニオン性ポリウレタン分散体
実施例3に準じて、アンモニアによる中和を酸基の30%が中和されるまで行った。固体含分41.6%、粘度8.9mPas:pH6.4。
【0098】
実施例9:カチオン性ポリウレタン分散体
カチオン性ポリウレタンの分散体を、水中で製造した。このポリウレタンは、OH価が44.8のLupraphen(登録商標)VP9186 0.3mol、トルエンジイソシアネート0.325mol、ヘキサメチレンジイソシアネート0.325mol、及びN,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミンから形成されており、pH値調整のために乳酸を含むものである。固体含分34.9%;粘度809mPas;pH6.7。
【0099】
接着剤組成物1
接着剤組成物を、接着剤分散体100質量部、Vinnapas(登録商標)EP 17 50質量部、Lumiten(登録商標)I-SC 0.1質量部、及びBorchigel(登録商標)L75N 1質量部から製造した。この接着剤分散体は、ポリウレタンを水に分散させたものである。このポリウレタンは、ポリエステルジオール(アジピン酸と、1,4−ブタンジオールとから得られる、末端がOH基のポリエステル)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、アミノエチルアミノエタンスルホン酸、及びアミノエチルアミノエタノールから合成されている。
【0100】
可塑剤移行性についての試験:
可塑剤移行性について試験するために、可塑剤(ジイソオクチルフタレート及びジイソブチルフタレート)を40〜50%の量で含有する軟質PVC製のシート(Benecke Kaliko社)を、接着剤組成物1で被覆した。層厚は、50μmであった(固体)。さらなるシートでは、まずアニオン性ポリマーから、又はカチオン性ポリマーから(それぞれ、層は16μm(固体))、又は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとから得られる本発明による二重層(それぞれ、層は16μm(固体))をシートに施与し、それから接着剤組成物1の乾燥後に施与した。接着剤で被覆したPVCシートは、室温で24時間、又は10日間40℃で貯蔵した。貯蔵時間の完了後、すべてのシートをプレス機で65℃で、圧力1.4N/mm2でABS成形部材にプレス加工した。出来上がった成形部材は、冷却後に剥離試験(Schaelversuch)にかける。このために成形部材を、100℃の周辺温度で90℃の角度で、幅5cmのシート片で引っ張り、シート片の剥離時にかかった力を測定する。10日間、40℃で貯蔵したシートが、24時間室温で貯蔵したシートよりも、剥離時の剥離力が明らかに下がっているのは、接着剤層への可塑剤の移行性を示しており、これにより接着性が明らかに下がっていることがわかる。
【0101】
この結果を表1にまとめる。
【表1】

【0102】
剥離強度について、高温下での貯蔵後に少なくとも15N/25mmという最小値が求められていたが、このことは本発明による実施例V5及びV6によってのみ達成される。本発明によらないV1〜V4では、高温下での貯蔵後に接着性の明らかな損失が、接着部破断により認められる。まず、本発明による実施例V5及びV6の比較的少ない接着強度は、ポリ電解質二重層内部の凝集破断に帰すると考えられるが、ポリ電解質錯体の二重層は時間とともに硬化し、それから接着強度に繋がり、このことは本発明によらない実施例では、達成できない。
【0103】
あり得る実施態様の更なる例は、カチオン性ポリウレタンと、アニオン性ポリウレタンとの組み合わせで表2のように被覆された軟質PVCシートである。
【表2】

【0104】
実施例17〜19:水中水エマルション重合により製造されるポリ電解質錯体の水性分散体
20質量%の分散体を製造するのに充分な量の水を装入し、65℃の反応温度に加熱し、開始剤の2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリドを(重合させるモノマーの全量に対して)0.1mol%添加する。引き続き、下記の表に記載の量でアクリル酸(AS)、水酸化アンモニウム溶液、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、任意で架橋剤を連続的に添加する。これに並行して、カチオン性ポリマーLuviquat(登録商標)FC 550(ビニルピロリドン/ビニルイミダゾリウムメトクロリドコポリマー)を、下記の表に記載の量で供給する。架橋剤としては、エチレングリコールジアクリレート(実施例B18)、トリメチロールプロパントリアクリレート(実施例B19)を使用する。
【0105】
分散体の固体含分は17質量%であった。ポリ電解質分散体は、2ヶ月超にわたって、安定的に分散したままである。
【表3】

【0106】
可塑剤遮蔽特性についてのスクリーニング試験
水中水エマルション重合により製造されたポリ電解質錯体の水性分散体B17〜B19を用いて、スクリーニング試験を紙の上で行い、可塑剤遮蔽体としての適性を評価し、可塑剤移行性の基準を視覚化した。このために、市販の印刷用紙(秤量80gのIMPEGA)の片面を、試験するポリ電解質錯体分散体で被覆し、1日、室温で乾燥させた。乾燥後の層厚は、14μmであった。この塗膜は可撓性であり、ゴムのように弾性であり、安定的で、脆くなく、粘着性ではない。被覆された試料を用いて、透過性試験を行う。純粋な可塑剤物質のフタル酸ジ−n−ブチルエステル(Palatinol(登録商標)C)を、被覆された紙の側(表側)に塗布する。この可塑剤は予備試験において、市販の他の可塑剤と比較して浸透性が最も強力であることが確認されたため、選択したものである。可塑剤の浸透は、被覆されていない紙の裏側が、濡れた染みの形に変色することによって、視覚的にわかる。下記の表に記載した時間が経った後、変色した箇所のパーセンテージ割合を、被覆されていない紙の裏側で測定した。記載された値は、変色した表面のパーセンテージ分にほぼ相当する。
【0107】
比較例としてのV7は、ZnOで架橋されたポリアクリル酸(Besela(登録商標)、アクリル酸2molに対してZnOが1mol)を用いて行い、被覆量は10g(固体)/m2であった。
【表4】

【0108】
これらの実施例は、優れた可塑剤遮蔽を示している。被覆されていない紙の場合、又は可塑剤遮蔽特性が不充分な塗膜で被覆された場合、紙は既に1時間後、又はそれよりも早く、100%の透過率を示すからである。本発明による被覆については、透過性は2日後であっても明らかに、5%未満である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ電解質錯体を、可塑剤遮蔽体として用いる使用。
【請求項2】
前記ポリ電解質錯体が、少なくとも1種のアニオン性ポリマーと、少なくとも1種のカチオン性ポリマーとから形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリ電解質錯体の1成分が、アニオン性ポリマーであり、
当該アニオン性ポリマーが、
アニオン性ポリウレタンから、及び
モノエチレン性不飽和C3〜C10カルボン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、及びこれらの酸の塩から成る群から選択されるモノマーから製造可能なポリマーから、
選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリ電解質錯体の1成分が、カチオン性ポリマーであり、
当該カチオン性ポリマーが、カチオン性ポリウレタン、ビニルイミダゾリウム単位含有ポリマー、ポリジアリルジメチルアンモニウムハロゲン化物、ビニルアミン単位含有ポリマー、エチレンイミン単位含有ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位含有ポリマー、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位含有ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド単位含有ポリマー、及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド単位含有ポリマーから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記ポリ電解質錯体が、
アニオン性ポリウレタンと、カチオン性ポリウレタンとから形成されているか、又は
アクリル酸若しくはメタクリル酸を用いてラジカル重合されたポリマーと、アミノ基若しくは第四級アンモニウム基含有ポリマーとから形成されている、
ことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記可塑剤が、フタル酸エステル、主に直鎖状のC6〜C11アルコールを有するトリメリット酸エステル、非環式の脂肪族ジカルボン酸エステル、非環式のジカルボン酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、エポキシ系可塑剤、ベンゼンスルホンアミド、メチルベンゼンスルホンアミド、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
可塑剤を含有する軟質PVC製の基材が、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する遮蔽層を備えていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
その表面が、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する少なくとも1つの層によって、少なくとも部分的に被覆されている、可塑剤含有基材。
【請求項9】
被覆された可塑剤含有PVCシートである、請求項8に記載の基材。
【請求項10】
ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する前記層が、さらに直接的又は間接的に接着剤層によって被覆されていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の基材。
【請求項11】
前記接着剤が、熱で封止可能な接着剤、常温で封止可能な接着剤、粘着性接着剤、溶融接着剤、光線架橋性接着剤、及び熱架橋性接着剤から選択されている、請求項10に記載の基材。
【請求項12】
熱で封止可能な軟質PVCシートとして、又はそれ自体で接着性の軟質PVC接着バンドとして存在することを特徴とする、請求項11に記載の基材。
【請求項13】
可塑剤遮蔽体を有する可塑剤含有製品の製造方法であって、
(i)可塑剤含有材料から基材を用意する工程、及び
(ii)前記基材に、ポリ電解質錯体を少なくとも1種含有する1つ又は複数の層を、完全に又は部分的に備え付ける工程、
を有する、前記製造方法。
【請求項14】
前記ポリ電解質錯体による被覆を、少なくとも1種の、事前に製造されたポリ電解質錯体含有組成物によって行うか、又は
前記ポリ電解質錯体による被覆を、前記ポリ電解質錯体を基材上で初めて形成することによって行う、
ことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
事前に製造されたポリ電解質錯体含有組成物が、水中水型エマルション重合で製造可能な水性分散体であり、かつ当該分散体のポリ電解質錯体含分が1〜40質量%であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基材が、第一の被覆と、第一の被覆と直接接触する第二の被覆とを備え、
ここでこれらの被覆の一方が、少なくとも1種のアニオン性ポリマーを含有し、もう一方の被覆が少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含有し、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとからから得られるポリ電解質錯体を、基材上で初めて形成することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
2つの被覆組成物を同時に、又は1つの作業工程で直接連続して塗布し、
ここで前記被覆組成物の一方が、アニオン性ポリマーを含有し、もう一方の被覆組成物が、カチオン性ポリマーを含有することを特徴とする、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2013−502331(P2013−502331A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525140(P2012−525140)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061759
【国際公開番号】WO2011/020769
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】