ポンプ制御装置
【課題】
多数のポンプ場がある複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、終末処理場に送水される下水流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供する。
【解決手段】
各ポンプの起動停止状態をランダムに設定し(ステップS1,S2)、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成し、このポンプ運転計画データにおける目的関数値を算出する。続いて、各エージェントの位置(探索点)を修正して(ステップS3)、変更されたポンプ運転計画データによる目的関数値が評価される(ステップS4)。以下修正・評価を繰り替えし、最適なポンプ運転計画が立案される。
多数のポンプ場がある複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、終末処理場に送水される下水流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供する。
【解決手段】
各ポンプの起動停止状態をランダムに設定し(ステップS1,S2)、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成し、このポンプ運転計画データにおける目的関数値を算出する。続いて、各エージェントの位置(探索点)を修正して(ステップS3)、変更されたポンプ運転計画データによる目的関数値が評価される(ステップS4)。以下修正・評価を繰り替えし、最適なポンプ運転計画が立案される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末処理場まで下水を輸送するため、複数箇所に配置されたポンプを統括して制御するポンプ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
終末処理場において効率よく下水を処理するためには、1日の下水流入量の変動が少ないことが望ましい。このように下水流入量の変動を少なくするために、現状では下水道の中間または終末に多数配置されるポンプ井に流入する下水流入量を予測し、この予測した下水流入量に基づいてポンプの起動停止を制御することで、終末処理場に流れ込む下水流入量の変動を小さくしている。
【0003】
このような下水流入量の変動抑制制御について図を参照しつつ説明する。図11は通常時の汚水流入量−時間特性図である。
一般的に汚水流入量は、生活排水によるものであるため、気象に関係なく時間により流入量が変化するという特徴がある。例えば、図11の通常時の汚水流入量−時間特性図で示すように、夕食時から就寝前までにかけて増加した汚水流入量が夜間は減少し、朝になるとまた汚水流入量が増大するというように、朝と夜とに流入ピークを持つというような特徴である。一方、雨水流入量は当然に降雨量により変化する。下水流入量は、これらのような特徴を有する汚水流入量・雨水流入量を合算したものである。
【0004】
下水流入量が下水処理場へ流入する際の変動抑制は、各下水ポンプ場において個別に制御されている。具体的には、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を高水位、中水位、低水位など複数の水位に定義し、時間帯ごとに規定水位になったらポンプを起動して下流の下水ポンプ場や終末処理場へ下水を送水する。例えば、下水流入量のピーク前の時間は高水位になるまではポンプ起動を抑制してポンプ井で下水を貯めて下水送水量が多くならないようにし、また、下水流入量のボトム前は低水位でもポンプ起動してポンプ井で下水を貯めないで下水送水量が少なくならないようにして、下流への下水の送水流量を平滑化している。
また、下水処理場の流量を平滑化する目的のほかに、雨天時は都市の浸水防止のため、降雨前に人間系(オペレータ)が判断して下水ポンプ場のポンプ井の水位をあらかじめ下げるようにポンプを先行起動する運転が行なわれている。
【0005】
上記したようなポンプ制御は下水ポンプ場単位で個別に行っていた。また、近年では下水ポンプ場個別の制御ではなく、複数の下水ポンプ場をまとめて制御する方法が開発されており、例えば特許文献1、2が開示されている。
【0006】
特許文献1(特開平11−190283号公報、発明の名称「広域汚水送水系統の制御装置」)に記載された従来技術は、下水処理場への汚水流入量の変動が小さくなるように分子限定法にて制御方法を計画する方法である。
また、特許文献2(特開2000−105609号公報、「広域汚水送水系統の制御装置」)に記載された従来技術は、下水処理場への汚水流入量の変動が小さくなるようにGA(遺伝的アルゴリズム)にて制御方法を計画する方法である。
【0007】
【特許文献1】特開平11−190283号公報 (段落番号0042〜0046)
【特許文献2】特開2000−105609号公報 (段落番号0020〜0028)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、下水ポンプ場個別にポンプ制御する方法では、各下水ポンプ場の送水量の変動が最小でも下流にある下水ポンプ場や終末処理場への下水流入量の変動が最小になるとは限らないという問題がある。この点について図を参照しつつ説明する。図12は、下水道モデルを説明する説明図である。
図12の下水道モデルでは5箇所の下水ポンプ場1〜5と終末処理場6から構成されている。例えば、図12の下水ポンプ場4では下流の下水ポンプ場3および上流の下水ポンプ場5の貯水量や送水量を考慮して運転する必要がある。仮に下水ポンプ場3のポンプ井が小さくて貯水能力が小さい場合、下水ポンプ場4だけの送水量平滑化だけを考えて制御を行なった場合には、下流下水ポンプ場3に送水しすぎて浸水させるおそれがある。これを解決する、つまり終末処理場の下水流入量の変動を最小化させるためには、個別下水ポンプ場だけの情報だけでなく下水ポンプ場すべてのポンプを考慮の上、ポンプ運転計画を立案して制御しなければならない。
【0009】
特許文献1、2に係る発明は、いずれも下水流入量を平滑化する目的の発明であり、上記のような問題は生じない。
しかしながら、特許文献1の従来技術は分子限定法を用いているため、下水ポンプ場の数が増えると指数関数的に計算量が増大する欠点がある。
また、特許文献2の従来技術では、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いているため、比較的短い時間でも実行可能解を見つけることができる利点があるものの、GAは局所探索能力が弱いため、最良の解を得るためには長い計算時間が必要である欠点がある。そのため特許文献2の従来技術では1日1回の計算を前提にしている。さらに、1日における算出回数が制限されるため、流入量予測値が外れたときには、計画どおりに制御を続けることができないという欠点がある。
【0010】
また、これら特許文献1,2の従来技術では、共に予測が容易で予測誤差があまり発生しない分流式(雨水と汚水とで管が分かれている)下水の汚水流入量のみを対象とするものであり、合流式(雨水と汚水とで管が共通である)下水は対象外である。さらに、分流式下水でも誤接続や地下からの浸透などの影響により雨天時には流量が増加する。つまり特許文献1、2の従来技術では実システムに適用した場合に雨天時は汚水流入量予測が外れ、計画どおりに制御できなくなるおそれがある。
【0011】
また、特許文献1,2の従来技術では、共に使用エネルギー量や環境負荷については考慮していない。近年、下水道を管理する自治体においても環境やコストに対する意識が高まっており、使用エネルギー量、運用費、環境負荷削減のニーズがある。ポンプを起動停止する制御を行うにあたり、ポンプ起動に伴う使用エネルギー量を少なくして、運用費(電気代やガソリン代など)を安くするとともに、CO2などの環境負荷が小さいことが望ましい。しかしながら、これら含めて制御を行なう方法は現状ではなかった。
【0012】
まとめると、
(1)終末処理場への下水流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、ポンプ運転計画を立案し、制御する、
(2)下水流入量予測が外れても影響されずに適切な計画立案と制御ができる、
(3)分流式、合流式が混在していても適用できる、
(4)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮(最小化)することができる、
という要件を満たすようなポンプ制御装置が求められていた。
【0013】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多数のポンプ場がある複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、終末処理場に送水される下水流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係るポンプ制御装置は、
処理場へ下水を送水する下水管路網に設置される複数のポンプを制御するポンプ制御装置において、
ポンプが稼働できる状態か否かを表したポンプ稼働可否データを収集するポンプ稼働可否データ収集手段と、
ポンプが稼働しているか非稼働かを表すポンプ稼働状態データを収集するポンプ稼働状態データ収集手段と、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
暦データ、気象データ、下水流入量データを用いて予測モデルを構築し、構築した予測モデルを用いて下水流入量予測データを生成する予測手段と、
ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成するポンプ運転計画手段と、
下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める下水モデルシミュレーション手段と、
下水量予測データからポンプ井での水位予測データを生成する水位予測データ算出手段と、
ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出するエネルギー量予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する運用費予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する環境負荷予測データ算出手段と、
これら水位予測データ、下水流入量予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する評価手段と、
を有し、
これらポンプ運転計画手段、下水モデルシミュレーション手段、水位予測データ算出手段、エネルギー量予測データ算出手段、運用費予測データ算出手段、環境負荷予測データ算出手段、評価手段を繰り返し機能させて算出した最適なポンプ運転計画データに基づいてポンプ運転を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るポンプ制御装置は、
請求項1に記載のポンプ制御装置において、
前記ポンプ運転計画手段は、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成する手段であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るポンプ制御装置は、
請求項1または請求項2に記載のポンプ制御装置において、
前記予測手段は、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係るポンプ制御装置は、
請求項3に記載のポンプ制御装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係るポンプ制御装置は、
請求項3または請求項4に記載のポンプ制御装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のような本発明によれば、多数のポンプなど複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、下水処理場に送水される下水の流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態のポンプ制御装置について図を参照しつつ説明する。図1は本形態のポンプ制御装置の構成図である。
ポンプ制御装置1は、入力手段10、出力手段20、記録媒体読書手段30、データ発信手段40、データ収集手段50、データ蓄積手段60、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、下水流入量予測手段100、ポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130を備えている。なお、分離手段80、モデル構築手段90、下水流入量予測手段100は予測手段200を構成している。
【0021】
入力手段10は、手入力を行うキーボードである。
出力手段20は、ディスプレイやプリンタなどであり、各種データ表示・印刷も行う。
記憶媒体読書手段30は、FD(Flexible Disc)、MO(Magnet Optical Disc)などの記憶媒体に対して情報の読み書きを行う装置である。
データ発信手段40は、ネットワーク2と接続するための手段であり、データ蓄積手段60から読み出した各種データを、データ発信手段40・ネットワーク2を経由して、外部へ情報の出力を行うことができるようになされている。
【0022】
データ収集手段50は、各下水ポンプ場や気象情報会社などからネットワーク2を介して各種データを取得する手段であり、さらにポンプ稼働可否データ収集手段51、ポンプ稼働状態データ収集手段52、気象データ収集手段53、暦データ収集手段54、水位データ収集手段55、ポンプ揚水量データ収集手段56を備える。
【0023】
ポンプ稼働可否データ収集手段51は、ポンプが稼働可能な状態であるか否かを二値データ(1か0か)で表したポンプ稼働可否データを収集する手段である。例えば、メンテナンス・故障等の理由で稼働できないようなポンプを判別できる。下水管網における全てのポンプから収集される。
【0024】
ポンプ稼働状態データ収集手段52は、ポンプが稼働中であるか非稼働であるかを例えば二値データ(1か0か)で表したポンプ稼働状態データを収集する手段である。同じく、下水管網における全てのポンプから収集される。
【0025】
気象データ収集手段53は、気象実績および気象予報についての気象データを収集する手段である。ここでいう気象データとは、例えば天候(晴、雨、曇、雪)、雨量、気温、湿度、日照量等の少なくともひとつを指している。
気象実績とは過去の記録であり、気象実績についての気象データは、各下水ポンプ場を経由せずに気象情報サービス会社からネットワーク2を介して配信される気象データや、また、各下水ポンプ場に独自で設置した雨量計・湿度計などの計測装置・センサから収集整理して各下水ポンプ場を経由して入力された気象データである。
気象予報とは未来の予報であり、気象予報についての気象データは、気象情報サービス会社から気象予報を受信して得たデータである。
このように気象データ収集手段53では、予測対象の下水ポンプ場の気象実績に係る気象データ、予測対象の下水ポンプ場の気象予報に係る気象データを収集する。
【0026】
暦データ収集手段54は、暦に関するデータを収集する手段である。
暦データは年月日時分などの日時データ、その日時の特徴を表す平日・休日・曜日・季節(春夏秋冬)などの特徴データである。
なお、暦データは入力手段10のキーボードなどの装置にて手入力しても良いし、計算により算出しても良い。
【0027】
水位データ収集手段55は、水位データを収集する手段である。
水位データは、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を表すデータである。
水位データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプ井にそれぞれ設置された多数の水位計から所定期間毎または常時入力される。従って水位データには下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
【0028】
ポンプ揚水量データ収集手段56は、ポンプ揚水量データを収集する手段である。
ポンプ揚水量データは、下水ポンプ場にあるポンプ井からのポンプによる揚水量を表すデータである。ポンプ揚水量データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプに設けられた流量計から所定期間毎または常時入力される。この場合も下水ポンプ場を識別する識別データが付加される。
これら下水ポンプ場毎のポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、暦データ、水位データおよび揚水量データをデータ蓄積手段60に保存し、日々更新してこれらデータを蓄積していく。これらは後述する学習・予測に使われる基礎データであり、必要時に何時でも取り出せるようにする。このデータ蓄積手段60では計測日時・曜日・季節が特定できる暦データを主キーとしてその日時におけるあるポンプ場のポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データおよび揚水量データが関連付けられて登録されてデータベース化されている。
【0029】
下水流入量データ算出手段70は、暦データから検索して各時間における各下水ポンプ場での水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、および、各時間の各下水ポンプ場での揚水量(送水量)データをデータ蓄積手段60から読み出し、これらデータに基づいて各時間における各下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する。下水流入量は雨水・汚水流入量の総和である。
【0030】
下水ポンプ場のポンプ井では、例えば、図2のポンプ井の説明図で示すように、通常は水位計が設置されているが、流入量計は設置されていることが少なく、水位からポンプ井内の下水流入量を算出する。
ポンプ井内のある時点の下水量をM1、ポンプ井内のある時点より一定時間前の下水量をM2、一定時間にポンプ井から揚水して送水したポンプ揚水量をP1、一定時間で上流側にあるポンプ井から送り出された上流ポンプ揚水量をP2とすると、下水流入量は以下のようになる。
【0031】
【数1】
【0032】
このような下水流入量は、ポンプからの揚水量を取り除き、純粋に外部から下水へ流入してくる量を表している。
ここに下水量M1はある時点におけるポンプ井の水位h1から算出した量、下水量M2はある時点からさらに一定時間前のポンプ井の水位h2から算出した量である。この下水量M1、M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式が用いられることが多い。最も簡単な例では単純比例関係であり、算出式は、M1=a×h1、M2=a×h2となる。
【0033】
なお、ポンプ井によっては複雑な算出式が必要になる場合もあるが、何れの場合でもある時点での水位を入力因子とする算出式である。
また、下水流入量から上流ポンプ揚水量(送水量)P2を除く理由であるが、上流ポンプ揚水量(送水量)P2は人為的な操作により変化するものであるため、ポンプ運転計画手段110やシミュレーション手段120にて利用するには上流下水ポンプ場からの上流ポンプ揚水量(送水量)P2を除いた下水流入量データの方が計算が便利だからである。図2における他の流入量M3が下水流入量として算出される。
なお、ポンプ稼働可否データが稼働不可を表していたり、また、ポンプ稼働状態データがポンプ非稼働を表している場合、上記のポンプ揚水量P1,上流ポンプ揚水量P2の値は0となる。
【0034】
もちろん、ポンプ井への流入量を計測する流量計がある場合には、数1を省略し、流量計からの下水流入量データを用いても良い。複数下水ポンプ場では、流量計がある箇所とない箇所とがある場合には併用しても良い。この流入量データ算出手段70によりある時点における下水流入量データが算出される。データ蓄積手段60では暦データを主キーとしてポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データ、揚水量データおよび下水流入量データが関連付けられて登録される。
【0035】
分離手段80は、下水流入量を雨水流入量と汚水流入量とに分離するため、下水流入量データを用いて雨水流入量データと汚水流入量データとを算出する手段である。
まず汚水流入量と雨水流入量との特徴について一部重複するが説明する。汚水流入量は生活排水による流入量であって気象により変動しないが、一方、雨水流入量は、降雨による流入量であり、降雨時もしくは降雨後一定期間内しか表れない。下水ポンプ場への流入量は、分流式下水道では配管が異なるため別々に流入するが、合流式下水道では混ざり合って流入することになる。よって合流式下水道において流入量予測を行なう場合には、汚水流入量データと汚水流入量データの性質が異なるため、高精度予測のためには汚水流入量データと雨水流入量データを明確に区別して予測する必要がある。雨水流入量データは、雨天時の下水流入量データから汚水流入量データを引いたものであるので、次式にて雨水流入量データを分離する。
【0036】
【数2】
【0037】
雨水流入量データと汚水流入量データとを合計するともとの下水流入量になる。また、分流式下水道では分離は不要となる。
【0038】
分離手法であるが、晴れている時間の下水流入量データは、雨水流入量データがないため、汚水流入量データにほぼ一致するものと考え、このような晴れている時間の汚水流入量データを時間ごと(0時、1時、2時、・・・、23時)に多数日にわたり取得し、さらに同時刻における多数の日の平均を取ることで、時間別の汚水流量データの平均データを算出する。これらを汚水流入量データとする。そして、時間ごとの下水流入量データから対応する時間の汚水流入量データを差し引けば、雨水流量データとなる。晴れの日では雨水流量データはほぼ0となるが、雨の日では雨水流量データが算出される。そして、これら汚水流入量データおよび雨水流入量データをデータ蓄積手段60に登録する。データ蓄積手段60では暦データを主キーとしてポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データ、揚水量データ、下水流入量データ、汚水流入量データおよび雨水流入量データが関連付けられて登録される。
【0039】
モデル構築手段90は、モデルを構築する手段である。図3はモデル構築手段の構造図である。モデル構築手段90は、詳しくは図3で示すように、汚水流入量予測モデル構築手段91、雨水流入量予測モデル構築手段92を備える。なお、雨水流入量予測モデル構築手段91、汚水流入量予測モデル構築手段92で用いられる学習用のデータはデータ蓄積手段60に登録された過去の実績値である。
【0040】
汚水流入量予測モデル構築手段91は、暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する手段である。構築された汚水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
雨水流入量予測モデル構築手段92は、気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子として雨水流入量予測モデルの構築する手段である。構築された雨水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
【0041】
このようなモデル構築手段90は、一定期間(例えば一ヶ月ごと)ごとに起動され、これら予測モデルを更新するようにする。なお、雨水流入量予測モデル・汚水流入量予測モデルとしては、RRL法や、ニューラルネットワーク、事例ベース推論、などによる予測するモデルを採用することができるが、最も好ましい予測モデルの詳細について以下説明する。
【0042】
まず、汚水流入量予測モデルについて説明する。このモデルは特に事例ベース推論によるモデルを採用することが好ましい。汚水流入量は、日々の変動が少ないことが知られており、過去の平均値をシステムに設定し、それを汚水予測値とすることが多い。しかし、人間が設定する方法では、季節が変わるごと、経年変化を起こすごとに再設定しなければならない問題がある。自動化する方法では、下水管清掃などに起因する特異データを識別しなければ適切な平均値を得ることができない。汚水流入量予測モデルでは、事例ベース推論にて、特異データを自動的に識別し、通常データのみで汚水予測するため、上記問題点を解決する。
【0043】
本発明の事例ベース推論による汚水流入量データ予測モデルでは、以下3点の条件より予め推論しておいて構築しておくモデルである。
(1)気象(晴天時)
(2)前後日の汚水流入量形状(相関係数で一定値以上)
(3)暦情報(曜日、期間など)
【0044】
(1)気象(晴天時)について
前述のように、下水流入量データは汚水流入量データと雨水流入量データの合算値である。しかしながら、下水への雨水流入量は雨天時にしかない流量であり、晴天時には雨水流入量は0になる。よって、事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、過去一定期間内のデータから、晴天時の下水流入量データのみを抽出し、それを汚水流入量データとする。
【0045】
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)について
ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。特異データの例について説明する。例えば、下水道管内の汚れ清掃を行なう場合、下水ポンプ場内の汚水を貯め、一気に送水して下水管内に付着した汚れを取る方法を採用している。このため図4の特異時の汚水流入量−時間特性図のように、清掃前では汚水流入量が無くなり、また清掃時に汚水流入量が尖塔状になり、一時的に汚水流入量が無くなったり多くなったりして通常の特性図と大きく異なる。またこのようなデータは毎日行なわれるものではなく、数ヶ月に数回程度の頻度でしかない。よって、特異データは前後日のデータと比較して汚水流入量の形状が大きく異なる特徴がある。例えば、図5の通常データと特異データの比較図で示すように、4日から5日までが特異データであって通常データと大きく異なっている。逆をいうと通常データは前後日の汚水流入量データが同じ形状をしている。この特徴を利用して、汚水流入量データが前後日と同じ形状のものを抽出する。
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで通常データのみ簡単に抽出できる。
【0046】
なお,相関係数とは、2つのデータの相関度合いを測る統計指標である。相関係数は−1≦r≦+1の値をとり、r>0のとき正相関、r<0のとき負相関、r=0のときに無相関であることを意味する。
前後日の汚水流入量の形状を判定するときには、例えば、毎時データを用いるときには、対象日の汚水流入量をx1,x2,・・・,x24(mm3/h)とし、前日の汚水流入量をy1,y2,...,y24(mm3/h)とすると、次式にて相関係数が算出される。
【0047】
【数3】
【0048】
この相関係数rが1に近いとき(例えば0.8以上)に同じ形状と判断し、それ以下のときに、対象日は特異データであると判断する。なお、ここでは前日データのみ比較したが、対象日と対象日の翌日とのデータを比較しても良い。
【0049】
(3)暦情報(曜日、期間など)
さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同じ曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量データは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
なお春夏秋冬(夏はシャワーで冬は風呂であり、この点で相違する)を分けて平均化すると、さらに予測精度が高まる。また、暦情報以外にも、湿度・温度が高いとシャワーし、湿度・温度が低いと浴槽にお湯をいれる風呂とするなど、湿度・温度なども影響されるため、気象データを追加することもできるが、季節からも判別できるため、特に気象データは追加しなくとも良い。
このように曜日や季節(春夏秋冬)により異なる場合もあるため、季節別・曜日別・温湿度別も考慮した汚水流入量データとしても良い。
【0050】
以下事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習について記す。
事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、前述のように、過去一定期間内のデータから、晴天時の汚水流入量のみを抽出し、それを汚水流入量データとする。ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。そこで、次に通常データのみ抽出する。
【0051】
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで簡単に抽出できる。さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量のデータは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
【0052】
このようにして構築した汚水流量予測モデルでは、汚水流入量は先に述べたがポンプの清掃のような時以外は、時間別にほぼ同じ値を取るため、特異データを統計的判定方法にて除外した上で過去の時間に対応する実績値である汚水流入量データのデータベース化し、時間データ(たとえば4月10日・水曜日・春・午後10時)を入力すると対応する汚水流入量データを読み出して汚水流入量予測データを生成するモデルとしたため、月日・曜日・季節・時間を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。
【0053】
続いてもう一つの雨水流入量予測モデルについて説明する。
雨水流入量予測モデルは、具体的にはニューラルネットワークによる予測モデルである。図6は雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
ニューラルネットワークによるモデルは、例えば、入力層、中間層、出力層の3層構造のパーセプトロンモデルなどであり、入力に対して所望の出力をするように学習できる。
なお、図6のニューラルネットワークは、多入力1出力のニューラルネットワークであるが、もちろん多入力多出力のニューラルネットワークを構築しても良い。
【0054】
ニューラルネットワークの入出力情報について説明する。学習段階で用いるニューラルネットワークの入力情報は、入力因子が過去の実績値であって気象データのうち特に雨量データを採用する。また出力因子が分離手段80により求められてデータ蓄積手段60に登録されたデータであって、過去の実績値である雨水流入量データであり、通常は数時間分のデータを用いる。
【0055】
これら雨量データと雨水流入量データとの間には、通常、非線形な関係があり、線形的予測手法である回帰分析では必ずしも良好な予測結果を得ることができないが、このニューラルネットワークでは、データを学習するだけで適切な予測モデルを構築することができる。
【0056】
なお、これらデータは通常は1時間単位のデータを用いるのが一般的であるが、10分単位のデータなど短い時間単位のデータを用いてもよい。また数時間の累積データにしてもよい。さらには各データの差分値や絶対量などの変換を行なっても良い。出力データとしては数分先から数時間先までの雨水流入量データである。通常は1時間先までの累積雨水流入量データを出力するように設計するが、ニューラルネットワークを多出力化し数時間先までのデータを一括で出力しても良い。また、データを加工し、現在からの差分値などにしても良い。
【0057】
本形態では説明の具体化のため、図6で示すように、時間を異ならせた複数の雨量データ(ある時点の雨量データ値、ある時点より1時間前の雨量データ、ある時点より1時間後の雨量データ)を入力因子とし、また、ある時点より1時間後の雨水流入量データを出力因子としている。
【0058】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの学習について説明する。ニューラルネットワークの学習では学習データを作成する必要がある。データ蓄積手段60により過去に蓄積した気象データに含まれる雨量データや、この雨量データに対応する雨水流入量データを時間別に収集し、上記ニューラルネットワークの入出力データセットを多数用意する。例えば、ある時点とある時点の一時間の前後の時刻の3点の雨量データを入力因子とし、また、ある時点から一時間先の雨水流入量データを出力因子とする入出力データセットである。このような入出力データセットを基準となる時点を異ならせて多数準備して、例えば周知のバックプロパゲーション法など周知の各種の学習アルゴリズムを用いてニューラルネットワークを構築する。
このようにして予測モデルが構築される。
【0059】
続いて下水流入量予測手段100では、これら汚水流入量予測モデルおよび雨水流入量予測モデルを用いて予測を行う。図7は予測手段の構造図である。予測手段100は、詳しくは図7で示すように、汚水流入量予測手段101、雨水流入量予測手段102、合算手段103を備えている。
【0060】
汚水流入量予測手段101は、予測対象日時の暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する手段である。汚水流入量は時間に依存しており、暦データを入力すれば、汚水流入量予測データを得られる。なお、出力因子は学習時では実績値に係る汚水流入量データであったが、予測時は将来値に係る汚水流入量予測データであり、相違している。
このような汚水流量予測モデルを用いる汚水流量予測手段では、月日・時間・曜日・季節を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。これは予め事例ベース推論にて、特異データが除去されており、通常時の汚水流入量データのみの平気値で予測値を出力するため、入力される暦データの月日・時間・曜日・季節に対応した汚水流入量データが出力され、従来技術での単なる平均値よりも大幅に予測精度が向上している。
【0061】
雨水流入量予測手段102は、予測対象時の予報である気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する手段である。入力される気象データは未来の気象データであり、予測対象日時の気象データを入力することにより、雨水流入量予測データが得られる。
【0062】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの予測について説明する。予測段階では、上記にて作成したニューラルネットワークモデルに対し、学習時と同じ入力項目のデータを与えると所望の予測値が出力される。なお、出力因子は学習時では雨水流入量データであったが、予測時は雨水流入量予測データとなり、相違する。
例えば、図6で示す雨水流入量予測モデルでは、ある時刻を現在とし、現在の雨量データと1時間前の雨量は、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される実績の雨量データが入力される。1時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。そして1時間先の雨水流入量予測データが出力される(図6では雨水流入量データとなっているが、予測時は雨水流入量予測データである)。
【0063】
なお、図6は1時間先の雨水流入量の説明図であるが、同じニューラルネットワークに対し、入力情報を変えることで1時間先よりさらに先の雨水流入量予測データを得ることができる。例えば、図6の1時間前・ある時点・1時間先という雨量データを、それぞれ現在・1時間先・2時間先の雨量データとすれば、2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。現在の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される雨量実績データが入力される。1時間先および2時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。これにより2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。
雨水流入量予測手段102はこのようなものである。
【0064】
合算手段103は、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する手段である。
このような下水流入量予測手段100では、通常は1時間単位で24時間先まで予測する。もちろん、時間間隔や期間については他でも良いが、後述する運転立案手段の時間間隔や期間と一致していることが望ましい。
このような予測手段100は、一定期間(例えば1時間ごと)ごとに起動され、下水流入量を予測する。
そして、データ蓄積手段60では未来の暦となる暦データに関連づけれて、汚水流入量予測データ、雨水流入量予測データ、下水流入量予測データが登録される。
【0065】
ポンプ運転計画手段110は、ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成する。通常は1時間単位で24時間先までのポンプ1台ごとの起動停止状態を計画する。例えば、あるポンプの起動状態が1、あるポンプの停止状態が0と表現する場合、(1、0 、0・・・)というデータとする。このポンプ運転計画データは、例えば1時間先のポンプ1は起動状態であることを意味し、ポンプ2、ポンプ3は停止状態であることを意味する。もちろん計画における時間間隔、期間はこれに固定されるものではなく、他の時間間隔や期間でも良い。なお、一番最初は適当な初期値(例えば全部稼働していることを表す(1、1 、1・・・))を24時間分付与すれば良い。ポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130と機能した後で再度ポンプ運転計画手段110が機能するがその場合、最初とは異なる処理をする。この処理を行うポンプ運転計画手段110を後述する。
【0066】
シミュレーション手段120は、詳しくは、図8で示すように、下水モデルシミュレーション手段121、水位予測データ算出手段122、エネルギー量予測データ算出手段123、運用費予測データ算出手段124、環境負荷予測データ算出手段125を備えている。各下水ポンプ場や任意地点の下水管水位、及びポンプ起動に伴うエネルギー量や運用費、環境負荷を、任意の時間間隔ごと設定された期間を通して算出する。
【0067】
下水モデルシミュレーション手段121は、下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める。先の下水流入量予測手段100により予想された各時間における各下水ポンプ場への下水流入量予測データと、ポンプ運転計画手段110により計画された各時間における各下水ポンプ場におけるポンプの運転によるポンプ揚水量P1、上流ポンプ揚水量P2である揚水量データに基づいて下水管網で下水がどのように流れるかをシミュレーションする。先の数1を各予測データに当てはめると、下水流入量予測データ=下水量予測データM1−下水量予測データM2+ポンプ揚水量データP1−上流ポンプ揚水量データP2となるが、このうち下水流入量予測データや、ポンプ揚水量データP1、上流ポンプ揚水量データP2が与えられるため、下水量予測データM1、下水量予測データM2がシミュレーションにより算出される。
【0068】
水位予測データ算出手段122は、下水量予測データからポンプ井での水位データを生成する。先に説明したように下水量予測データM1、M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式であり、例えば最も簡単な例では単純比例関係の算出式は、M1=a×h1、M2=a×h2となる。下水量予測データM1、M2はシミュレーション手段121から算出される、また係数aは既知のため、ポンプ井での下水の高さ水位予測データであるh1、h2が算出される。
【0069】
エネルギー量予測データ算出手段123は、ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出する手段である。通常エネルギー量予測データはポンプの起動時間Tに比例する量であり、係数をbとすると、エネルギー量予測データU=b×Tで表すことができる。Tは1時間となる。なお、単純な式で代用できない場合には、各ポンプの特性に合わせた式により算出する。例えば最小自乗法により実験的に時間とエネルギー量の関係を求めても良い。
【0070】
運用費予測データ算出手段124は、エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する。運用費予測データは、エネルギー量予測データにエネルギー単価係数をかけた値となり、エネルギー単価係数をcとすると、運用費予測データQ=c×Uで表すことができる。ここで、電動ポンプの電気料金に関しては季節や時間帯により料金が異なるため(深夜料金や昼料金など)季節や時間帯を考慮して算出する。エンジン式のポンプに関しては主にガソリン代になるため、購入時期に応じた単価をかける。
【0071】
環境負荷予測データ算出手段125は、エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する手段である。ここでいう環境負荷とは、主にCO2の算出を意味する。エネルギー量予測データにCO2の排出係数dをかけ、環境負荷予測データR=d×Uて算出する。
これら水位予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データは、データ蓄積手段60で登録される。
【0072】
評価手段130は、これら水位予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する手段である。
まず、水位予測データを用いて浸水の観点からポンプ運転計画を評価する。具体的には各下水ポンプ場の水位が以下の制約式を満たすか否かを監視する。
【0073】
【数4】
【0074】
例えば、水位上限値を上回るポンプ井が一つでもあるならば、浸水の危険があるため、運転計画は不良である。
この制約式を満たす場合は、ポンプ井において下水が少なすぎたり、また、多すぎたりということがなく、最低限の運用制約が守られており、実行可能なポンプ運転計画といえる。
【0075】
続いて、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する。この評価のため目的関数を使用する。目的関数は各種考えられるが、例えば次式が考えられる。
【0076】
【数5】
【0077】
この目的関数が最小であるときが最も評価が高いことを表しており、第1項では下水流入量の変動が少なくなれば値が小さくなり、第2項では運用費が少なくなれば値が小さくなり、第3項では環境負荷が小さくなれば値が小さくなることを表している。
なお、この式ではエネルギー量予測データが直接的には記載されていないが、エネルギー量予測データは先の説明から運用費予測データ・環境負荷予測データに含まれており、数5のように省略しても良いが、係数δを掛け合わせて評価関数第4項として含めても良い。
【0078】
上記した制約式・目的関数による評価関数を用いるメリットは、雨水・汚水のいずれを意識することなく単に下水として評価できる点である。
晴天時には雨水がなく汚水のみ流入する。このときには数4の制約式である水位の上限値に制限されることはほとんどなく、下水処理場に流れ込む流入量の変動が少なく、運用費等が少ない計画が立案される。
雨天時は、制約式の水位の上限に制限されうるが、制約を逸脱しない範囲にて目的関数が最小化される。つまり、都市を浸水させない範囲にて流量の変動が小さく運用費等が少ないポンプの運転計画が立案される。以下の目的関数により、先に掲げた
(1)下水処理場への流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、それら計画を立案し、制御する、
(3)分流式、合流式が混在していても適用できる、
(4)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮(最小化)することができる、
という要件を満たすようなポンプ制御装置となる。
【0079】
さらに(2)流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができるようにするため、この評価の結果に基づいて、再度ポンプ運転計画を行う。
計画手法としては、様々な方法が適用可能であるが、GA(遺伝的アルゴリズム)、PSOなどのメタヒューリスティック手法を用いるが、本形態ではPSOであるものとして説明する。
【0080】
PSO(Particle Swarm Optimization)の最大の特徴は、計算時間が短く、また計算途中であっても、実行可能な計画値が得られ、前述のとおり、一定時間ごとに計画を修正するのに適した方法と言える。
つまり、前述(2)の流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができるようにするためには、ポンプの運転計画を早く立案しなければならないのはいうまでもないが、万が一計算が終わらなかったとしても(例えば降雨状態が通常と異なり計算が収束しない、もしくは他のタスクの影響により計算が終わらなかったなど)、計算途中の計画値が制約式を違反しない実行可能解ならば、その値を用いて制御指令を出せることが望ましい。よって、本発明ではPSOを用いてポンプの運転計画を立案している。
【0081】
ここでPSOについて説明する。PSOのアルゴリズムは、簡略化した社会モデルのシミュレーションを通して開発された最適化手法であり、鳥の群れの動きを連続変数の2次元空間で表現することを通して開発された。例えば図9のPSOによる探索の概念図では各エージェント(上述した鳥)の位置(状態量)をx、y座標で表し、前記位置(状態量)の変化分に相当する速度(ベクトル)をVx(x方向の速度)、Vy(y方向の速度)で表現する。
これら位置と速度情報から、次時点の各エージェントの位置を更新することができる。この概念に基づき、以下のような最適化手法として実現できる。
【0082】
つまり、各エージェントは、各々の探索における目的関数のそれまでの個々の最良値(pbest)と、その位置(状態量)を示すx、y座標とを覚えている。また各エージェントは集団のそれまでの目的関数の最良値(gbest)を共有している。
そして、各エージェントは現在の自己のx、y座標と速度Vx、Vy及びpbest、gbestとの距離に応じてpbest、gbestの存在する位置に方向を変更しようとしている。この変更しようとする行動は速度を修正することで表現される。現在の速度とpbest及びgbestを用いて各エージェントの速度は次式により修正される。
【0083】
【数6】
【0084】
以上のPSOのアルゴリズムを、本問題へのコーディングする方法について説明する。
まず、制御対象であるポンプがn台、T断面のポンプの起動停止状態を計画する場合、PSOはn×T次元の問題となる。つまり、図9は2次元の例であるが、本問題ではn×T次元となる。つまり、1断面目(例えば1時間先)のポンプ1をx1軸、ポンプ2をx2軸、・・・、ポンプnをxn軸に割り当て、T断面目(例えば24時間先)のポンプnをxT軸に割り当てる。エージェントの位置Sは(x1、x2、・・・、xT)のベクトルで表現される。ポンプの起動状態が1、ポンプの停止状態が0と表現する場合、S(1、0、0・・・)は1断面目(例えば1時間先)のポンプ1は起動状態であることを意味し、ポンプ2、ポンプ3は停止状態であることを意味する。通常のPSOは各軸の中で連続量(例えば0〜1)の値をとるため、起動1、停止0の値に変換しなければならない。そこで、規定値(例えば0.5)以下はポンプ停止、規定値以上はポンプ起動とみなす。または、福山他による「電圧信頼度を考慮したParticle Swarm Optimizationによる電圧無効電力制御方式の検討」電気学会論文誌B 119巻12号(1999年12月)等で提案されている方法、または、J. Kennedy とR. Eberhartによる「A discrete binary version of the particle swarm optimization algorithm」、 Proc. of the IEEE conference on Systems、 Man、 and Cybernetics (SMC'97)、 pp.4104-4109、 1997で提案されている方法により、0または1の値を取る離散値として扱うこともできる。
【0085】
続いて、このようなポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130による動作を図10のポンプ運転計画最適化アルゴリズムのフローチャートで説明する。まず初期化を行う(ステップS1)。エージェントの数、上記数6の係数の値、探索回数を設定する。
【0086】
続いて、初期値の生成を生成する(ステップS2)。各ポンプの起動停止状態をランダムに設定する。先に説明したが、ポンプ運転計画手段110で最初は全て起動しているものとした。また、シミュレーション手段120、評価手段130により、この状態における各エージェントの目的関数値を算出しpbestとする。またpbestの最良値をgbestとする。ここで、目的関数は前述のシミュレータを用いて算出する。
【0087】
続いて、各エージェントの位置(探索点)の修正を行う(ステップS3)。各エージェントの位置を数式6を用いて修正する。つまりポンプ運転計画が変更される。
続いて、各エージェントの評価を行う(ステップS4)。
シミュレーション手段120、評価手段130により各エージェントの目的関数を算出する。またpbest、gbestを修正する。
【0088】
そして終了条件を満たすか否かについて判定し(ステップS5)、終了条件を満たすまでは繰り返し上記のステップS3、S4を繰り返し、終了条件を満たしたなら終了する。 終了条件は探索回数が最大探索関数に達したら終了する。
そして、最終的なポンプ運転計画値はgbestの位置Sにより表現されている。
【0089】
本発明の全ての処理は、一定時間ごとに起動され、計画値が随時修正される。例えば1時間や30分ごとに計画値を修正する。この機能により、たとえ下水流入量予測データに誤差が多少含まれていたとしても、現在の水位や下水流入量より計画を速やかに修正できるため、制御に対し大きな悪影響は起こらない。また、何らかの原因によりポンプが計画どおり起動できなかった場合、もしくは人間系により計画外の運転が行なわれたとしても、速やかに現状の状態を反映してポンプ運転の計画を修正することができる。この計画の修正機能により前述(2)を実現することができる。
【0090】
このようにして算出したポンプ運転計画データは、データ蓄積手段60に登録される。そして、出力手段20では、データ蓄積手段60に蓄積されたポンプ運転計画データを時系列的に表示する。表示されたポンプ運転計画データを運用者が修正したい場合には、入力手段10より修正値を入力することで実現できる。ここで、表示手段20、入力手段10は、1つの計算機の中にあることを想定しているが、図示しないネットワークに接続される他の計算機で実現しても良い。
【0091】
データ発信手段40は、1時間先から24時間先までの1時間毎のポンプ運転計画データを制御指令として各ポンプに別個指令を出す。このポンプ運転計画データは下水ポンプ場にあるローカル制御用コントローラへ入力されてポンプ運転計画データに沿ってポンプ制御を行う。なお、24時間先までポンプ制御が予定されているが、ポンプ運転計画の修正は1時間毎になされており、随時修正を行って、その時点で最適な制御とする。これにより下水の流れの平準化を図ることができる。
【0092】
以上、本発明について説明した。本発明を用いることで、以下のメリットを持つポンプの自動制御装置を構築することができる。
(1)下水処理場への流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、それら計画を立案し、制御する。
(2)複数の下水ポンプ場の計画を立案する
(3)流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができる。
(4)分流式、合流式が混在していても適用できる。
(5)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮することができる。
【0093】
また、分流式の場合は予測モデルを単独で稼働させ、また、合流式でも両者の予測モデルを併用することにより、従来よりも高精度な予測値を提供することができる。なによりも、従来では、一度決定した予測モデル、予測値は自動的に変更することはできなく、修正のためには人手により膨大な作業を必要としたが、本発明を適用することにより、自動的に予測モデルが更新されるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明を実施するための最良の形態のポンプ制御装置の構成図である。
【図2】ポンプ井の説明図である。
【図3】モデル構築手段の構造図である。
【図4】特異時の汚水流入量−時間特性図である。
【図5】通常データと特異データの比較図である。
【図6】雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
【図7】予測手段の構造図である。
【図8】シミュレーション手段の構造図である。
【図9】PSOによる探索の概念図である。
【図10】ポンプ運転計画最適化アルゴリズムのフローチャートである。
【図11】通常時の汚水流入量−時間特性図である。
【図12】下水道モデルを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1:ポンプ制御装置
10:入力手段
20:出力手段
30:記録媒体読書手段
40:データ発信手段
50:データ収集手段
51:ポンプ稼働可否データ収集手段
52:ポンプ稼働状態データ収集手段
53:気象データ収集手段
54:暦データ収集手段
55:水位データ収集手段
56:ポンプ揚水量データ収集手段
60:データ蓄積手段
70:下水流入量データ算出手段
80:分離手段
90:モデル構築手段
91:雨水流入量予測モデル構築手段
92:汚水流入量予測モデル構築手段
100:予測手段
101:汚水流入量予測手段
102:雨水流入量予測手段
103:合算手段
110:ポンプ運転計画手段
120:シミュレーション手段
121:下水モデルシミュレーション手段
122:水位予測データ算出手段
123:エネルギー量予測データ算出手段
124:運用費予測データ算出手段
125:環境負荷予測データ算出手段
130:評価手段
200:予測手段
2:ネットワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末処理場まで下水を輸送するため、複数箇所に配置されたポンプを統括して制御するポンプ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
終末処理場において効率よく下水を処理するためには、1日の下水流入量の変動が少ないことが望ましい。このように下水流入量の変動を少なくするために、現状では下水道の中間または終末に多数配置されるポンプ井に流入する下水流入量を予測し、この予測した下水流入量に基づいてポンプの起動停止を制御することで、終末処理場に流れ込む下水流入量の変動を小さくしている。
【0003】
このような下水流入量の変動抑制制御について図を参照しつつ説明する。図11は通常時の汚水流入量−時間特性図である。
一般的に汚水流入量は、生活排水によるものであるため、気象に関係なく時間により流入量が変化するという特徴がある。例えば、図11の通常時の汚水流入量−時間特性図で示すように、夕食時から就寝前までにかけて増加した汚水流入量が夜間は減少し、朝になるとまた汚水流入量が増大するというように、朝と夜とに流入ピークを持つというような特徴である。一方、雨水流入量は当然に降雨量により変化する。下水流入量は、これらのような特徴を有する汚水流入量・雨水流入量を合算したものである。
【0004】
下水流入量が下水処理場へ流入する際の変動抑制は、各下水ポンプ場において個別に制御されている。具体的には、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を高水位、中水位、低水位など複数の水位に定義し、時間帯ごとに規定水位になったらポンプを起動して下流の下水ポンプ場や終末処理場へ下水を送水する。例えば、下水流入量のピーク前の時間は高水位になるまではポンプ起動を抑制してポンプ井で下水を貯めて下水送水量が多くならないようにし、また、下水流入量のボトム前は低水位でもポンプ起動してポンプ井で下水を貯めないで下水送水量が少なくならないようにして、下流への下水の送水流量を平滑化している。
また、下水処理場の流量を平滑化する目的のほかに、雨天時は都市の浸水防止のため、降雨前に人間系(オペレータ)が判断して下水ポンプ場のポンプ井の水位をあらかじめ下げるようにポンプを先行起動する運転が行なわれている。
【0005】
上記したようなポンプ制御は下水ポンプ場単位で個別に行っていた。また、近年では下水ポンプ場個別の制御ではなく、複数の下水ポンプ場をまとめて制御する方法が開発されており、例えば特許文献1、2が開示されている。
【0006】
特許文献1(特開平11−190283号公報、発明の名称「広域汚水送水系統の制御装置」)に記載された従来技術は、下水処理場への汚水流入量の変動が小さくなるように分子限定法にて制御方法を計画する方法である。
また、特許文献2(特開2000−105609号公報、「広域汚水送水系統の制御装置」)に記載された従来技術は、下水処理場への汚水流入量の変動が小さくなるようにGA(遺伝的アルゴリズム)にて制御方法を計画する方法である。
【0007】
【特許文献1】特開平11−190283号公報 (段落番号0042〜0046)
【特許文献2】特開2000−105609号公報 (段落番号0020〜0028)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、下水ポンプ場個別にポンプ制御する方法では、各下水ポンプ場の送水量の変動が最小でも下流にある下水ポンプ場や終末処理場への下水流入量の変動が最小になるとは限らないという問題がある。この点について図を参照しつつ説明する。図12は、下水道モデルを説明する説明図である。
図12の下水道モデルでは5箇所の下水ポンプ場1〜5と終末処理場6から構成されている。例えば、図12の下水ポンプ場4では下流の下水ポンプ場3および上流の下水ポンプ場5の貯水量や送水量を考慮して運転する必要がある。仮に下水ポンプ場3のポンプ井が小さくて貯水能力が小さい場合、下水ポンプ場4だけの送水量平滑化だけを考えて制御を行なった場合には、下流下水ポンプ場3に送水しすぎて浸水させるおそれがある。これを解決する、つまり終末処理場の下水流入量の変動を最小化させるためには、個別下水ポンプ場だけの情報だけでなく下水ポンプ場すべてのポンプを考慮の上、ポンプ運転計画を立案して制御しなければならない。
【0009】
特許文献1、2に係る発明は、いずれも下水流入量を平滑化する目的の発明であり、上記のような問題は生じない。
しかしながら、特許文献1の従来技術は分子限定法を用いているため、下水ポンプ場の数が増えると指数関数的に計算量が増大する欠点がある。
また、特許文献2の従来技術では、GA(遺伝的アルゴリズム)を用いているため、比較的短い時間でも実行可能解を見つけることができる利点があるものの、GAは局所探索能力が弱いため、最良の解を得るためには長い計算時間が必要である欠点がある。そのため特許文献2の従来技術では1日1回の計算を前提にしている。さらに、1日における算出回数が制限されるため、流入量予測値が外れたときには、計画どおりに制御を続けることができないという欠点がある。
【0010】
また、これら特許文献1,2の従来技術では、共に予測が容易で予測誤差があまり発生しない分流式(雨水と汚水とで管が分かれている)下水の汚水流入量のみを対象とするものであり、合流式(雨水と汚水とで管が共通である)下水は対象外である。さらに、分流式下水でも誤接続や地下からの浸透などの影響により雨天時には流量が増加する。つまり特許文献1、2の従来技術では実システムに適用した場合に雨天時は汚水流入量予測が外れ、計画どおりに制御できなくなるおそれがある。
【0011】
また、特許文献1,2の従来技術では、共に使用エネルギー量や環境負荷については考慮していない。近年、下水道を管理する自治体においても環境やコストに対する意識が高まっており、使用エネルギー量、運用費、環境負荷削減のニーズがある。ポンプを起動停止する制御を行うにあたり、ポンプ起動に伴う使用エネルギー量を少なくして、運用費(電気代やガソリン代など)を安くするとともに、CO2などの環境負荷が小さいことが望ましい。しかしながら、これら含めて制御を行なう方法は現状ではなかった。
【0012】
まとめると、
(1)終末処理場への下水流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、ポンプ運転計画を立案し、制御する、
(2)下水流入量予測が外れても影響されずに適切な計画立案と制御ができる、
(3)分流式、合流式が混在していても適用できる、
(4)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮(最小化)することができる、
という要件を満たすようなポンプ制御装置が求められていた。
【0013】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多数のポンプ場がある複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、終末処理場に送水される下水流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係るポンプ制御装置は、
処理場へ下水を送水する下水管路網に設置される複数のポンプを制御するポンプ制御装置において、
ポンプが稼働できる状態か否かを表したポンプ稼働可否データを収集するポンプ稼働可否データ収集手段と、
ポンプが稼働しているか非稼働かを表すポンプ稼働状態データを収集するポンプ稼働状態データ収集手段と、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
暦データ、気象データ、下水流入量データを用いて予測モデルを構築し、構築した予測モデルを用いて下水流入量予測データを生成する予測手段と、
ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成するポンプ運転計画手段と、
下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める下水モデルシミュレーション手段と、
下水量予測データからポンプ井での水位予測データを生成する水位予測データ算出手段と、
ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出するエネルギー量予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する運用費予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する環境負荷予測データ算出手段と、
これら水位予測データ、下水流入量予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する評価手段と、
を有し、
これらポンプ運転計画手段、下水モデルシミュレーション手段、水位予測データ算出手段、エネルギー量予測データ算出手段、運用費予測データ算出手段、環境負荷予測データ算出手段、評価手段を繰り返し機能させて算出した最適なポンプ運転計画データに基づいてポンプ運転を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るポンプ制御装置は、
請求項1に記載のポンプ制御装置において、
前記ポンプ運転計画手段は、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成する手段であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るポンプ制御装置は、
請求項1または請求項2に記載のポンプ制御装置において、
前記予測手段は、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項4に係るポンプ制御装置は、
請求項3に記載のポンプ制御装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項5に係るポンプ制御装置は、
請求項3または請求項4に記載のポンプ制御装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のような本発明によれば、多数のポンプなど複雑な下水道に通流する下水を平準化させ、下水処理場に送水される下水の流入量の変動、使用エネルギー量、運用費用、環境負荷が最小になるように制御するポンプ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態のポンプ制御装置について図を参照しつつ説明する。図1は本形態のポンプ制御装置の構成図である。
ポンプ制御装置1は、入力手段10、出力手段20、記録媒体読書手段30、データ発信手段40、データ収集手段50、データ蓄積手段60、下水流入量データ算出手段70、分離手段80、モデル構築手段90、下水流入量予測手段100、ポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130を備えている。なお、分離手段80、モデル構築手段90、下水流入量予測手段100は予測手段200を構成している。
【0021】
入力手段10は、手入力を行うキーボードである。
出力手段20は、ディスプレイやプリンタなどであり、各種データ表示・印刷も行う。
記憶媒体読書手段30は、FD(Flexible Disc)、MO(Magnet Optical Disc)などの記憶媒体に対して情報の読み書きを行う装置である。
データ発信手段40は、ネットワーク2と接続するための手段であり、データ蓄積手段60から読み出した各種データを、データ発信手段40・ネットワーク2を経由して、外部へ情報の出力を行うことができるようになされている。
【0022】
データ収集手段50は、各下水ポンプ場や気象情報会社などからネットワーク2を介して各種データを取得する手段であり、さらにポンプ稼働可否データ収集手段51、ポンプ稼働状態データ収集手段52、気象データ収集手段53、暦データ収集手段54、水位データ収集手段55、ポンプ揚水量データ収集手段56を備える。
【0023】
ポンプ稼働可否データ収集手段51は、ポンプが稼働可能な状態であるか否かを二値データ(1か0か)で表したポンプ稼働可否データを収集する手段である。例えば、メンテナンス・故障等の理由で稼働できないようなポンプを判別できる。下水管網における全てのポンプから収集される。
【0024】
ポンプ稼働状態データ収集手段52は、ポンプが稼働中であるか非稼働であるかを例えば二値データ(1か0か)で表したポンプ稼働状態データを収集する手段である。同じく、下水管網における全てのポンプから収集される。
【0025】
気象データ収集手段53は、気象実績および気象予報についての気象データを収集する手段である。ここでいう気象データとは、例えば天候(晴、雨、曇、雪)、雨量、気温、湿度、日照量等の少なくともひとつを指している。
気象実績とは過去の記録であり、気象実績についての気象データは、各下水ポンプ場を経由せずに気象情報サービス会社からネットワーク2を介して配信される気象データや、また、各下水ポンプ場に独自で設置した雨量計・湿度計などの計測装置・センサから収集整理して各下水ポンプ場を経由して入力された気象データである。
気象予報とは未来の予報であり、気象予報についての気象データは、気象情報サービス会社から気象予報を受信して得たデータである。
このように気象データ収集手段53では、予測対象の下水ポンプ場の気象実績に係る気象データ、予測対象の下水ポンプ場の気象予報に係る気象データを収集する。
【0026】
暦データ収集手段54は、暦に関するデータを収集する手段である。
暦データは年月日時分などの日時データ、その日時の特徴を表す平日・休日・曜日・季節(春夏秋冬)などの特徴データである。
なお、暦データは入力手段10のキーボードなどの装置にて手入力しても良いし、計算により算出しても良い。
【0027】
水位データ収集手段55は、水位データを収集する手段である。
水位データは、下水ポンプ場にあるポンプ井内の下水の水位を表すデータである。
水位データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプ井にそれぞれ設置された多数の水位計から所定期間毎または常時入力される。従って水位データには下水ポンプ場を識別する識別データも付加される。
【0028】
ポンプ揚水量データ収集手段56は、ポンプ揚水量データを収集する手段である。
ポンプ揚水量データは、下水ポンプ場にあるポンプ井からのポンプによる揚水量を表すデータである。ポンプ揚水量データはネットワーク2を介して複数下水ポンプ場のポンプに設けられた流量計から所定期間毎または常時入力される。この場合も下水ポンプ場を識別する識別データが付加される。
これら下水ポンプ場毎のポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、暦データ、水位データおよび揚水量データをデータ蓄積手段60に保存し、日々更新してこれらデータを蓄積していく。これらは後述する学習・予測に使われる基礎データであり、必要時に何時でも取り出せるようにする。このデータ蓄積手段60では計測日時・曜日・季節が特定できる暦データを主キーとしてその日時におけるあるポンプ場のポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データおよび揚水量データが関連付けられて登録されてデータベース化されている。
【0029】
下水流入量データ算出手段70は、暦データから検索して各時間における各下水ポンプ場での水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、および、各時間の各下水ポンプ場での揚水量(送水量)データをデータ蓄積手段60から読み出し、これらデータに基づいて各時間における各下水ポンプ場のポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する。下水流入量は雨水・汚水流入量の総和である。
【0030】
下水ポンプ場のポンプ井では、例えば、図2のポンプ井の説明図で示すように、通常は水位計が設置されているが、流入量計は設置されていることが少なく、水位からポンプ井内の下水流入量を算出する。
ポンプ井内のある時点の下水量をM1、ポンプ井内のある時点より一定時間前の下水量をM2、一定時間にポンプ井から揚水して送水したポンプ揚水量をP1、一定時間で上流側にあるポンプ井から送り出された上流ポンプ揚水量をP2とすると、下水流入量は以下のようになる。
【0031】
【数1】
【0032】
このような下水流入量は、ポンプからの揚水量を取り除き、純粋に外部から下水へ流入してくる量を表している。
ここに下水量M1はある時点におけるポンプ井の水位h1から算出した量、下水量M2はある時点からさらに一定時間前のポンプ井の水位h2から算出した量である。この下水量M1、M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式が用いられることが多い。最も簡単な例では単純比例関係であり、算出式は、M1=a×h1、M2=a×h2となる。
【0033】
なお、ポンプ井によっては複雑な算出式が必要になる場合もあるが、何れの場合でもある時点での水位を入力因子とする算出式である。
また、下水流入量から上流ポンプ揚水量(送水量)P2を除く理由であるが、上流ポンプ揚水量(送水量)P2は人為的な操作により変化するものであるため、ポンプ運転計画手段110やシミュレーション手段120にて利用するには上流下水ポンプ場からの上流ポンプ揚水量(送水量)P2を除いた下水流入量データの方が計算が便利だからである。図2における他の流入量M3が下水流入量として算出される。
なお、ポンプ稼働可否データが稼働不可を表していたり、また、ポンプ稼働状態データがポンプ非稼働を表している場合、上記のポンプ揚水量P1,上流ポンプ揚水量P2の値は0となる。
【0034】
もちろん、ポンプ井への流入量を計測する流量計がある場合には、数1を省略し、流量計からの下水流入量データを用いても良い。複数下水ポンプ場では、流量計がある箇所とない箇所とがある場合には併用しても良い。この流入量データ算出手段70によりある時点における下水流入量データが算出される。データ蓄積手段60では暦データを主キーとしてポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データ、揚水量データおよび下水流入量データが関連付けられて登録される。
【0035】
分離手段80は、下水流入量を雨水流入量と汚水流入量とに分離するため、下水流入量データを用いて雨水流入量データと汚水流入量データとを算出する手段である。
まず汚水流入量と雨水流入量との特徴について一部重複するが説明する。汚水流入量は生活排水による流入量であって気象により変動しないが、一方、雨水流入量は、降雨による流入量であり、降雨時もしくは降雨後一定期間内しか表れない。下水ポンプ場への流入量は、分流式下水道では配管が異なるため別々に流入するが、合流式下水道では混ざり合って流入することになる。よって合流式下水道において流入量予測を行なう場合には、汚水流入量データと汚水流入量データの性質が異なるため、高精度予測のためには汚水流入量データと雨水流入量データを明確に区別して予測する必要がある。雨水流入量データは、雨天時の下水流入量データから汚水流入量データを引いたものであるので、次式にて雨水流入量データを分離する。
【0036】
【数2】
【0037】
雨水流入量データと汚水流入量データとを合計するともとの下水流入量になる。また、分流式下水道では分離は不要となる。
【0038】
分離手法であるが、晴れている時間の下水流入量データは、雨水流入量データがないため、汚水流入量データにほぼ一致するものと考え、このような晴れている時間の汚水流入量データを時間ごと(0時、1時、2時、・・・、23時)に多数日にわたり取得し、さらに同時刻における多数の日の平均を取ることで、時間別の汚水流量データの平均データを算出する。これらを汚水流入量データとする。そして、時間ごとの下水流入量データから対応する時間の汚水流入量データを差し引けば、雨水流量データとなる。晴れの日では雨水流量データはほぼ0となるが、雨の日では雨水流量データが算出される。そして、これら汚水流入量データおよび雨水流入量データをデータ蓄積手段60に登録する。データ蓄積手段60では暦データを主キーとしてポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、気象データ、水位データ、揚水量データ、下水流入量データ、汚水流入量データおよび雨水流入量データが関連付けられて登録される。
【0039】
モデル構築手段90は、モデルを構築する手段である。図3はモデル構築手段の構造図である。モデル構築手段90は、詳しくは図3で示すように、汚水流入量予測モデル構築手段91、雨水流入量予測モデル構築手段92を備える。なお、雨水流入量予測モデル構築手段91、汚水流入量予測モデル構築手段92で用いられる学習用のデータはデータ蓄積手段60に登録された過去の実績値である。
【0040】
汚水流入量予測モデル構築手段91は、暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する手段である。構築された汚水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
雨水流入量予測モデル構築手段92は、気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子として雨水流入量予測モデルの構築する手段である。構築された雨水流入量予測モデルはデータ蓄積手段60により蓄積保存される。
【0041】
このようなモデル構築手段90は、一定期間(例えば一ヶ月ごと)ごとに起動され、これら予測モデルを更新するようにする。なお、雨水流入量予測モデル・汚水流入量予測モデルとしては、RRL法や、ニューラルネットワーク、事例ベース推論、などによる予測するモデルを採用することができるが、最も好ましい予測モデルの詳細について以下説明する。
【0042】
まず、汚水流入量予測モデルについて説明する。このモデルは特に事例ベース推論によるモデルを採用することが好ましい。汚水流入量は、日々の変動が少ないことが知られており、過去の平均値をシステムに設定し、それを汚水予測値とすることが多い。しかし、人間が設定する方法では、季節が変わるごと、経年変化を起こすごとに再設定しなければならない問題がある。自動化する方法では、下水管清掃などに起因する特異データを識別しなければ適切な平均値を得ることができない。汚水流入量予測モデルでは、事例ベース推論にて、特異データを自動的に識別し、通常データのみで汚水予測するため、上記問題点を解決する。
【0043】
本発明の事例ベース推論による汚水流入量データ予測モデルでは、以下3点の条件より予め推論しておいて構築しておくモデルである。
(1)気象(晴天時)
(2)前後日の汚水流入量形状(相関係数で一定値以上)
(3)暦情報(曜日、期間など)
【0044】
(1)気象(晴天時)について
前述のように、下水流入量データは汚水流入量データと雨水流入量データの合算値である。しかしながら、下水への雨水流入量は雨天時にしかない流量であり、晴天時には雨水流入量は0になる。よって、事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、過去一定期間内のデータから、晴天時の下水流入量データのみを抽出し、それを汚水流入量データとする。
【0045】
(2)前後日の汚水流量形状(相関係数で一定値以上)について
ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。特異データの例について説明する。例えば、下水道管内の汚れ清掃を行なう場合、下水ポンプ場内の汚水を貯め、一気に送水して下水管内に付着した汚れを取る方法を採用している。このため図4の特異時の汚水流入量−時間特性図のように、清掃前では汚水流入量が無くなり、また清掃時に汚水流入量が尖塔状になり、一時的に汚水流入量が無くなったり多くなったりして通常の特性図と大きく異なる。またこのようなデータは毎日行なわれるものではなく、数ヶ月に数回程度の頻度でしかない。よって、特異データは前後日のデータと比較して汚水流入量の形状が大きく異なる特徴がある。例えば、図5の通常データと特異データの比較図で示すように、4日から5日までが特異データであって通常データと大きく異なっている。逆をいうと通常データは前後日の汚水流入量データが同じ形状をしている。この特徴を利用して、汚水流入量データが前後日と同じ形状のものを抽出する。
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで通常データのみ簡単に抽出できる。
【0046】
なお,相関係数とは、2つのデータの相関度合いを測る統計指標である。相関係数は−1≦r≦+1の値をとり、r>0のとき正相関、r<0のとき負相関、r=0のときに無相関であることを意味する。
前後日の汚水流入量の形状を判定するときには、例えば、毎時データを用いるときには、対象日の汚水流入量をx1,x2,・・・,x24(mm3/h)とし、前日の汚水流入量をy1,y2,...,y24(mm3/h)とすると、次式にて相関係数が算出される。
【0047】
【数3】
【0048】
この相関係数rが1に近いとき(例えば0.8以上)に同じ形状と判断し、それ以下のときに、対象日は特異データであると判断する。なお、ここでは前日データのみ比較したが、対象日と対象日の翌日とのデータを比較しても良い。
【0049】
(3)暦情報(曜日、期間など)
さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同じ曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量データは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
なお春夏秋冬(夏はシャワーで冬は風呂であり、この点で相違する)を分けて平均化すると、さらに予測精度が高まる。また、暦情報以外にも、湿度・温度が高いとシャワーし、湿度・温度が低いと浴槽にお湯をいれる風呂とするなど、湿度・温度なども影響されるため、気象データを追加することもできるが、季節からも判別できるため、特に気象データは追加しなくとも良い。
このように曜日や季節(春夏秋冬)により異なる場合もあるため、季節別・曜日別・温湿度別も考慮した汚水流入量データとしても良い。
【0050】
以下事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習について記す。
事例ベース推論による予測汚水流入量予測モデルの学習では、前述のように、過去一定期間内のデータから、晴天時の汚水流入量のみを抽出し、それを汚水流入量データとする。ただし、これら抽出条件では特異データを排除することができない。そこで、次に通常データのみ抽出する。
【0051】
ここで、抽出条件は、前後日の形状と比較して相関係数が一定値以上とすることで簡単に抽出できる。さらに、汚水流入量は、曜日により量や立ち上がり時間が若干異なる性質がある。よって、予測対象日と同曜日を抽出する。こうして条件に適合した汚水流入量のデータは、複数日抽出されることになるが、日々のばらつきをなくすため、平均化する。
【0052】
このようにして構築した汚水流量予測モデルでは、汚水流入量は先に述べたがポンプの清掃のような時以外は、時間別にほぼ同じ値を取るため、特異データを統計的判定方法にて除外した上で過去の時間に対応する実績値である汚水流入量データのデータベース化し、時間データ(たとえば4月10日・水曜日・春・午後10時)を入力すると対応する汚水流入量データを読み出して汚水流入量予測データを生成するモデルとしたため、月日・曜日・季節・時間を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。
【0053】
続いてもう一つの雨水流入量予測モデルについて説明する。
雨水流入量予測モデルは、具体的にはニューラルネットワークによる予測モデルである。図6は雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
ニューラルネットワークによるモデルは、例えば、入力層、中間層、出力層の3層構造のパーセプトロンモデルなどであり、入力に対して所望の出力をするように学習できる。
なお、図6のニューラルネットワークは、多入力1出力のニューラルネットワークであるが、もちろん多入力多出力のニューラルネットワークを構築しても良い。
【0054】
ニューラルネットワークの入出力情報について説明する。学習段階で用いるニューラルネットワークの入力情報は、入力因子が過去の実績値であって気象データのうち特に雨量データを採用する。また出力因子が分離手段80により求められてデータ蓄積手段60に登録されたデータであって、過去の実績値である雨水流入量データであり、通常は数時間分のデータを用いる。
【0055】
これら雨量データと雨水流入量データとの間には、通常、非線形な関係があり、線形的予測手法である回帰分析では必ずしも良好な予測結果を得ることができないが、このニューラルネットワークでは、データを学習するだけで適切な予測モデルを構築することができる。
【0056】
なお、これらデータは通常は1時間単位のデータを用いるのが一般的であるが、10分単位のデータなど短い時間単位のデータを用いてもよい。また数時間の累積データにしてもよい。さらには各データの差分値や絶対量などの変換を行なっても良い。出力データとしては数分先から数時間先までの雨水流入量データである。通常は1時間先までの累積雨水流入量データを出力するように設計するが、ニューラルネットワークを多出力化し数時間先までのデータを一括で出力しても良い。また、データを加工し、現在からの差分値などにしても良い。
【0057】
本形態では説明の具体化のため、図6で示すように、時間を異ならせた複数の雨量データ(ある時点の雨量データ値、ある時点より1時間前の雨量データ、ある時点より1時間後の雨量データ)を入力因子とし、また、ある時点より1時間後の雨水流入量データを出力因子としている。
【0058】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの学習について説明する。ニューラルネットワークの学習では学習データを作成する必要がある。データ蓄積手段60により過去に蓄積した気象データに含まれる雨量データや、この雨量データに対応する雨水流入量データを時間別に収集し、上記ニューラルネットワークの入出力データセットを多数用意する。例えば、ある時点とある時点の一時間の前後の時刻の3点の雨量データを入力因子とし、また、ある時点から一時間先の雨水流入量データを出力因子とする入出力データセットである。このような入出力データセットを基準となる時点を異ならせて多数準備して、例えば周知のバックプロパゲーション法など周知の各種の学習アルゴリズムを用いてニューラルネットワークを構築する。
このようにして予測モデルが構築される。
【0059】
続いて下水流入量予測手段100では、これら汚水流入量予測モデルおよび雨水流入量予測モデルを用いて予測を行う。図7は予測手段の構造図である。予測手段100は、詳しくは図7で示すように、汚水流入量予測手段101、雨水流入量予測手段102、合算手段103を備えている。
【0060】
汚水流入量予測手段101は、予測対象日時の暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する手段である。汚水流入量は時間に依存しており、暦データを入力すれば、汚水流入量予測データを得られる。なお、出力因子は学習時では実績値に係る汚水流入量データであったが、予測時は将来値に係る汚水流入量予測データであり、相違している。
このような汚水流量予測モデルを用いる汚水流量予測手段では、月日・時間・曜日・季節を入力すると対応する汚水流入量予測データを選択して出力する。これは予め事例ベース推論にて、特異データが除去されており、通常時の汚水流入量データのみの平気値で予測値を出力するため、入力される暦データの月日・時間・曜日・季節に対応した汚水流入量データが出力され、従来技術での単なる平均値よりも大幅に予測精度が向上している。
【0061】
雨水流入量予測手段102は、予測対象時の予報である気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する手段である。入力される気象データは未来の気象データであり、予測対象日時の気象データを入力することにより、雨水流入量予測データが得られる。
【0062】
続いて上記した雨水流入量予測モデルの予測について説明する。予測段階では、上記にて作成したニューラルネットワークモデルに対し、学習時と同じ入力項目のデータを与えると所望の予測値が出力される。なお、出力因子は学習時では雨水流入量データであったが、予測時は雨水流入量予測データとなり、相違する。
例えば、図6で示す雨水流入量予測モデルでは、ある時刻を現在とし、現在の雨量データと1時間前の雨量は、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される実績の雨量データが入力される。1時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。そして1時間先の雨水流入量予測データが出力される(図6では雨水流入量データとなっているが、予測時は雨水流入量予測データである)。
【0063】
なお、図6は1時間先の雨水流入量の説明図であるが、同じニューラルネットワークに対し、入力情報を変えることで1時間先よりさらに先の雨水流入量予測データを得ることができる。例えば、図6の1時間前・ある時点・1時間先という雨量データを、それぞれ現在・1時間先・2時間先の雨量データとすれば、2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。現在の雨量データは、下水ポンプ場もしくは気象情報サービス会社から配信される雨量実績データが入力される。1時間先および2時間先の雨量は、気象情報サービス会社から配信される予報の雨量データである。これにより2時間先の雨水流入量予測データを得ることができる。
雨水流入量予測手段102はこのようなものである。
【0064】
合算手段103は、生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する手段である。
このような下水流入量予測手段100では、通常は1時間単位で24時間先まで予測する。もちろん、時間間隔や期間については他でも良いが、後述する運転立案手段の時間間隔や期間と一致していることが望ましい。
このような予測手段100は、一定期間(例えば1時間ごと)ごとに起動され、下水流入量を予測する。
そして、データ蓄積手段60では未来の暦となる暦データに関連づけれて、汚水流入量予測データ、雨水流入量予測データ、下水流入量予測データが登録される。
【0065】
ポンプ運転計画手段110は、ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成する。通常は1時間単位で24時間先までのポンプ1台ごとの起動停止状態を計画する。例えば、あるポンプの起動状態が1、あるポンプの停止状態が0と表現する場合、(1、0 、0・・・)というデータとする。このポンプ運転計画データは、例えば1時間先のポンプ1は起動状態であることを意味し、ポンプ2、ポンプ3は停止状態であることを意味する。もちろん計画における時間間隔、期間はこれに固定されるものではなく、他の時間間隔や期間でも良い。なお、一番最初は適当な初期値(例えば全部稼働していることを表す(1、1 、1・・・))を24時間分付与すれば良い。ポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130と機能した後で再度ポンプ運転計画手段110が機能するがその場合、最初とは異なる処理をする。この処理を行うポンプ運転計画手段110を後述する。
【0066】
シミュレーション手段120は、詳しくは、図8で示すように、下水モデルシミュレーション手段121、水位予測データ算出手段122、エネルギー量予測データ算出手段123、運用費予測データ算出手段124、環境負荷予測データ算出手段125を備えている。各下水ポンプ場や任意地点の下水管水位、及びポンプ起動に伴うエネルギー量や運用費、環境負荷を、任意の時間間隔ごと設定された期間を通して算出する。
【0067】
下水モデルシミュレーション手段121は、下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める。先の下水流入量予測手段100により予想された各時間における各下水ポンプ場への下水流入量予測データと、ポンプ運転計画手段110により計画された各時間における各下水ポンプ場におけるポンプの運転によるポンプ揚水量P1、上流ポンプ揚水量P2である揚水量データに基づいて下水管網で下水がどのように流れるかをシミュレーションする。先の数1を各予測データに当てはめると、下水流入量予測データ=下水量予測データM1−下水量予測データM2+ポンプ揚水量データP1−上流ポンプ揚水量データP2となるが、このうち下水流入量予測データや、ポンプ揚水量データP1、上流ポンプ揚水量データP2が与えられるため、下水量予測データM1、下水量予測データM2がシミュレーションにより算出される。
【0068】
水位予測データ算出手段122は、下水量予測データからポンプ井での水位データを生成する。先に説明したように下水量予測データM1、M2の算出式は、ポンプ井の水位を入力因子とする回帰式であり、例えば最も簡単な例では単純比例関係の算出式は、M1=a×h1、M2=a×h2となる。下水量予測データM1、M2はシミュレーション手段121から算出される、また係数aは既知のため、ポンプ井での下水の高さ水位予測データであるh1、h2が算出される。
【0069】
エネルギー量予測データ算出手段123は、ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出する手段である。通常エネルギー量予測データはポンプの起動時間Tに比例する量であり、係数をbとすると、エネルギー量予測データU=b×Tで表すことができる。Tは1時間となる。なお、単純な式で代用できない場合には、各ポンプの特性に合わせた式により算出する。例えば最小自乗法により実験的に時間とエネルギー量の関係を求めても良い。
【0070】
運用費予測データ算出手段124は、エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する。運用費予測データは、エネルギー量予測データにエネルギー単価係数をかけた値となり、エネルギー単価係数をcとすると、運用費予測データQ=c×Uで表すことができる。ここで、電動ポンプの電気料金に関しては季節や時間帯により料金が異なるため(深夜料金や昼料金など)季節や時間帯を考慮して算出する。エンジン式のポンプに関しては主にガソリン代になるため、購入時期に応じた単価をかける。
【0071】
環境負荷予測データ算出手段125は、エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する手段である。ここでいう環境負荷とは、主にCO2の算出を意味する。エネルギー量予測データにCO2の排出係数dをかけ、環境負荷予測データR=d×Uて算出する。
これら水位予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データは、データ蓄積手段60で登録される。
【0072】
評価手段130は、これら水位予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する手段である。
まず、水位予測データを用いて浸水の観点からポンプ運転計画を評価する。具体的には各下水ポンプ場の水位が以下の制約式を満たすか否かを監視する。
【0073】
【数4】
【0074】
例えば、水位上限値を上回るポンプ井が一つでもあるならば、浸水の危険があるため、運転計画は不良である。
この制約式を満たす場合は、ポンプ井において下水が少なすぎたり、また、多すぎたりということがなく、最低限の運用制約が守られており、実行可能なポンプ運転計画といえる。
【0075】
続いて、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する。この評価のため目的関数を使用する。目的関数は各種考えられるが、例えば次式が考えられる。
【0076】
【数5】
【0077】
この目的関数が最小であるときが最も評価が高いことを表しており、第1項では下水流入量の変動が少なくなれば値が小さくなり、第2項では運用費が少なくなれば値が小さくなり、第3項では環境負荷が小さくなれば値が小さくなることを表している。
なお、この式ではエネルギー量予測データが直接的には記載されていないが、エネルギー量予測データは先の説明から運用費予測データ・環境負荷予測データに含まれており、数5のように省略しても良いが、係数δを掛け合わせて評価関数第4項として含めても良い。
【0078】
上記した制約式・目的関数による評価関数を用いるメリットは、雨水・汚水のいずれを意識することなく単に下水として評価できる点である。
晴天時には雨水がなく汚水のみ流入する。このときには数4の制約式である水位の上限値に制限されることはほとんどなく、下水処理場に流れ込む流入量の変動が少なく、運用費等が少ない計画が立案される。
雨天時は、制約式の水位の上限に制限されうるが、制約を逸脱しない範囲にて目的関数が最小化される。つまり、都市を浸水させない範囲にて流量の変動が小さく運用費等が少ないポンプの運転計画が立案される。以下の目的関数により、先に掲げた
(1)下水処理場への流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、それら計画を立案し、制御する、
(3)分流式、合流式が混在していても適用できる、
(4)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮(最小化)することができる、
という要件を満たすようなポンプ制御装置となる。
【0079】
さらに(2)流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができるようにするため、この評価の結果に基づいて、再度ポンプ運転計画を行う。
計画手法としては、様々な方法が適用可能であるが、GA(遺伝的アルゴリズム)、PSOなどのメタヒューリスティック手法を用いるが、本形態ではPSOであるものとして説明する。
【0080】
PSO(Particle Swarm Optimization)の最大の特徴は、計算時間が短く、また計算途中であっても、実行可能な計画値が得られ、前述のとおり、一定時間ごとに計画を修正するのに適した方法と言える。
つまり、前述(2)の流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができるようにするためには、ポンプの運転計画を早く立案しなければならないのはいうまでもないが、万が一計算が終わらなかったとしても(例えば降雨状態が通常と異なり計算が収束しない、もしくは他のタスクの影響により計算が終わらなかったなど)、計算途中の計画値が制約式を違反しない実行可能解ならば、その値を用いて制御指令を出せることが望ましい。よって、本発明ではPSOを用いてポンプの運転計画を立案している。
【0081】
ここでPSOについて説明する。PSOのアルゴリズムは、簡略化した社会モデルのシミュレーションを通して開発された最適化手法であり、鳥の群れの動きを連続変数の2次元空間で表現することを通して開発された。例えば図9のPSOによる探索の概念図では各エージェント(上述した鳥)の位置(状態量)をx、y座標で表し、前記位置(状態量)の変化分に相当する速度(ベクトル)をVx(x方向の速度)、Vy(y方向の速度)で表現する。
これら位置と速度情報から、次時点の各エージェントの位置を更新することができる。この概念に基づき、以下のような最適化手法として実現できる。
【0082】
つまり、各エージェントは、各々の探索における目的関数のそれまでの個々の最良値(pbest)と、その位置(状態量)を示すx、y座標とを覚えている。また各エージェントは集団のそれまでの目的関数の最良値(gbest)を共有している。
そして、各エージェントは現在の自己のx、y座標と速度Vx、Vy及びpbest、gbestとの距離に応じてpbest、gbestの存在する位置に方向を変更しようとしている。この変更しようとする行動は速度を修正することで表現される。現在の速度とpbest及びgbestを用いて各エージェントの速度は次式により修正される。
【0083】
【数6】
【0084】
以上のPSOのアルゴリズムを、本問題へのコーディングする方法について説明する。
まず、制御対象であるポンプがn台、T断面のポンプの起動停止状態を計画する場合、PSOはn×T次元の問題となる。つまり、図9は2次元の例であるが、本問題ではn×T次元となる。つまり、1断面目(例えば1時間先)のポンプ1をx1軸、ポンプ2をx2軸、・・・、ポンプnをxn軸に割り当て、T断面目(例えば24時間先)のポンプnをxT軸に割り当てる。エージェントの位置Sは(x1、x2、・・・、xT)のベクトルで表現される。ポンプの起動状態が1、ポンプの停止状態が0と表現する場合、S(1、0、0・・・)は1断面目(例えば1時間先)のポンプ1は起動状態であることを意味し、ポンプ2、ポンプ3は停止状態であることを意味する。通常のPSOは各軸の中で連続量(例えば0〜1)の値をとるため、起動1、停止0の値に変換しなければならない。そこで、規定値(例えば0.5)以下はポンプ停止、規定値以上はポンプ起動とみなす。または、福山他による「電圧信頼度を考慮したParticle Swarm Optimizationによる電圧無効電力制御方式の検討」電気学会論文誌B 119巻12号(1999年12月)等で提案されている方法、または、J. Kennedy とR. Eberhartによる「A discrete binary version of the particle swarm optimization algorithm」、 Proc. of the IEEE conference on Systems、 Man、 and Cybernetics (SMC'97)、 pp.4104-4109、 1997で提案されている方法により、0または1の値を取る離散値として扱うこともできる。
【0085】
続いて、このようなポンプ運転計画手段110、シミュレーション手段120、評価手段130による動作を図10のポンプ運転計画最適化アルゴリズムのフローチャートで説明する。まず初期化を行う(ステップS1)。エージェントの数、上記数6の係数の値、探索回数を設定する。
【0086】
続いて、初期値の生成を生成する(ステップS2)。各ポンプの起動停止状態をランダムに設定する。先に説明したが、ポンプ運転計画手段110で最初は全て起動しているものとした。また、シミュレーション手段120、評価手段130により、この状態における各エージェントの目的関数値を算出しpbestとする。またpbestの最良値をgbestとする。ここで、目的関数は前述のシミュレータを用いて算出する。
【0087】
続いて、各エージェントの位置(探索点)の修正を行う(ステップS3)。各エージェントの位置を数式6を用いて修正する。つまりポンプ運転計画が変更される。
続いて、各エージェントの評価を行う(ステップS4)。
シミュレーション手段120、評価手段130により各エージェントの目的関数を算出する。またpbest、gbestを修正する。
【0088】
そして終了条件を満たすか否かについて判定し(ステップS5)、終了条件を満たすまでは繰り返し上記のステップS3、S4を繰り返し、終了条件を満たしたなら終了する。 終了条件は探索回数が最大探索関数に達したら終了する。
そして、最終的なポンプ運転計画値はgbestの位置Sにより表現されている。
【0089】
本発明の全ての処理は、一定時間ごとに起動され、計画値が随時修正される。例えば1時間や30分ごとに計画値を修正する。この機能により、たとえ下水流入量予測データに誤差が多少含まれていたとしても、現在の水位や下水流入量より計画を速やかに修正できるため、制御に対し大きな悪影響は起こらない。また、何らかの原因によりポンプが計画どおり起動できなかった場合、もしくは人間系により計画外の運転が行なわれたとしても、速やかに現状の状態を反映してポンプ運転の計画を修正することができる。この計画の修正機能により前述(2)を実現することができる。
【0090】
このようにして算出したポンプ運転計画データは、データ蓄積手段60に登録される。そして、出力手段20では、データ蓄積手段60に蓄積されたポンプ運転計画データを時系列的に表示する。表示されたポンプ運転計画データを運用者が修正したい場合には、入力手段10より修正値を入力することで実現できる。ここで、表示手段20、入力手段10は、1つの計算機の中にあることを想定しているが、図示しないネットワークに接続される他の計算機で実現しても良い。
【0091】
データ発信手段40は、1時間先から24時間先までの1時間毎のポンプ運転計画データを制御指令として各ポンプに別個指令を出す。このポンプ運転計画データは下水ポンプ場にあるローカル制御用コントローラへ入力されてポンプ運転計画データに沿ってポンプ制御を行う。なお、24時間先までポンプ制御が予定されているが、ポンプ運転計画の修正は1時間毎になされており、随時修正を行って、その時点で最適な制御とする。これにより下水の流れの平準化を図ることができる。
【0092】
以上、本発明について説明した。本発明を用いることで、以下のメリットを持つポンプの自動制御装置を構築することができる。
(1)下水処理場への流入量の変動を最小化させるため、複数の下水ポンプ場の情報を考慮し、それら計画を立案し、制御する。
(2)複数の下水ポンプ場の計画を立案する
(3)流量予測値が外れても適切な計画立案と制御ができる。
(4)分流式、合流式が混在していても適用できる。
(5)使用エネルギー量、運用費、環境負荷を考慮することができる。
【0093】
また、分流式の場合は予測モデルを単独で稼働させ、また、合流式でも両者の予測モデルを併用することにより、従来よりも高精度な予測値を提供することができる。なによりも、従来では、一度決定した予測モデル、予測値は自動的に変更することはできなく、修正のためには人手により膨大な作業を必要としたが、本発明を適用することにより、自動的に予測モデルが更新されるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明を実施するための最良の形態のポンプ制御装置の構成図である。
【図2】ポンプ井の説明図である。
【図3】モデル構築手段の構造図である。
【図4】特異時の汚水流入量−時間特性図である。
【図5】通常データと特異データの比較図である。
【図6】雨水流入量を予測するニューラルネットワークの構成図である。
【図7】予測手段の構造図である。
【図8】シミュレーション手段の構造図である。
【図9】PSOによる探索の概念図である。
【図10】ポンプ運転計画最適化アルゴリズムのフローチャートである。
【図11】通常時の汚水流入量−時間特性図である。
【図12】下水道モデルを説明する説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1:ポンプ制御装置
10:入力手段
20:出力手段
30:記録媒体読書手段
40:データ発信手段
50:データ収集手段
51:ポンプ稼働可否データ収集手段
52:ポンプ稼働状態データ収集手段
53:気象データ収集手段
54:暦データ収集手段
55:水位データ収集手段
56:ポンプ揚水量データ収集手段
60:データ蓄積手段
70:下水流入量データ算出手段
80:分離手段
90:モデル構築手段
91:雨水流入量予測モデル構築手段
92:汚水流入量予測モデル構築手段
100:予測手段
101:汚水流入量予測手段
102:雨水流入量予測手段
103:合算手段
110:ポンプ運転計画手段
120:シミュレーション手段
121:下水モデルシミュレーション手段
122:水位予測データ算出手段
123:エネルギー量予測データ算出手段
124:運用費予測データ算出手段
125:環境負荷予測データ算出手段
130:評価手段
200:予測手段
2:ネットワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理場へ下水を送水する下水管路網に設置される複数のポンプを制御するポンプ制御装置において、
ポンプが稼働できる状態か否かを表したポンプ稼働可否データを収集するポンプ稼働可否データ収集手段と、
ポンプが稼働しているか非稼働かを表すポンプ稼働状態データを収集するポンプ稼働状態データ収集手段と、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
暦データ、気象データ、下水流入量データを用いて予測モデルを構築し、構築した予測モデルを用いて下水流入量予測データを生成する予測手段と、
ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成するポンプ運転計画手段と、
下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める下水モデルシミュレーション手段と、
下水量予測データからポンプ井での水位予測データを生成する水位予測データ算出手段と、
ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出するエネルギー量予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する運用費予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する環境負荷予測データ算出手段と、
これら水位予測データ、下水流入量予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する評価手段と、
を有し、
これらポンプ運転計画手段、下水モデルシミュレーション手段、水位予測データ算出手段、エネルギー量予測データ算出手段、運用費予測データ算出手段、環境負荷予測データ算出手段、評価手段を繰り返し機能させて算出した最適なポンプ運転計画データに基づいてポンプ運転を行うことを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ制御装置において、
前記ポンプ運転計画手段は、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成する手段であることを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポンプ制御装置において、
前記予測手段は、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のポンプ制御装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のポンプ制御装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項1】
処理場へ下水を送水する下水管路網に設置される複数のポンプを制御するポンプ制御装置において、
ポンプが稼働できる状態か否かを表したポンプ稼働可否データを収集するポンプ稼働可否データ収集手段と、
ポンプが稼働しているか非稼働かを表すポンプ稼働状態データを収集するポンプ稼働状態データ収集手段と、
気象実績及び気象予報についての気象データを収集する気象データ収集手段と、
暦についての暦データを収集する暦データ収集手段と、
ポンプ井内の下水の水位についての水位データを収集する水位データ収集手段と、
ポンプ井の下水のポンプ揚水量(送水量)についての揚水量データを収集するポンプ揚水量データ収集手段と、
ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データ、暦データ、気象データ、水位データおよびポンプ揚水量データを蓄積するデータ蓄積手段と、
暦データ、水位データ、ポンプ稼働可否データ、ポンプ稼働状態データおよび揚水量データに基づいてポンプ井への下水流入量である下水流入量データを算出する下水流入量データ算出手段と、
暦データ、気象データ、下水流入量データを用いて予測モデルを構築し、構築した予測モデルを用いて下水流入量予測データを生成する予測手段と、
ポンプ稼働可否データに基づいて稼働可能なポンプを全て選択し、これらポンプについて稼働か非稼働かを表したポンプ運転計画データを生成するポンプ運転計画手段と、
下水流入量予測データおよびポンプ運転計画データに基づいて下水モデルにおける下水ポンプ場のポンプ井での下水量予測データをシミュレーションにより求める下水モデルシミュレーション手段と、
下水量予測データからポンプ井での水位予測データを生成する水位予測データ算出手段と、
ポンプの起動時間に比例するエネルギー量予測データを算出するエネルギー量予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する運用費予測データを算出する運用費予測データ算出手段と、
エネルギー量予測データに比例する環境負荷予測データを算出する環境負荷予測データ算出手段と、
これら水位予測データ、下水流入量予測データ、エネルギー量予測データ、運用費予測データ、環境負荷予測データを用いてポンプ運転計画を評価する評価手段と、
を有し、
これらポンプ運転計画手段、下水モデルシミュレーション手段、水位予測データ算出手段、エネルギー量予測データ算出手段、運用費予測データ算出手段、環境負荷予測データ算出手段、評価手段を繰り返し機能させて算出した最適なポンプ運転計画データに基づいてポンプ運転を行うことを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ制御装置において、
前記ポンプ運転計画手段は、PSO(Particle Swarm Optimization)を用いてポンプ運転計画データを生成する手段であることを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポンプ制御装置において、
前記予測手段は、
下水流入量データを分離して汚水流入量データと雨水流入量データとを算出する分離手段と、
暦データを入力因子とし、また、汚水流入量データを出力因子とするような汚水流入量予測モデルを構築する汚水流入量予測モデル構築手段と、
気象データを入力因子とし、また、雨水流入量データを出力因子とするような雨水流入量予測モデルを構築する雨水流入量予測モデル構築手段と、
予測に必要な暦データを汚水流入量予測モデルに入力して汚水流入量予測データを生成する汚水流入量予測手段と、
予測に必要な気象データを雨水流入量予測モデルに入力して雨水流入量予測データを生成する雨水流入量予測手段と、
生成した汚水流入量予測データと雨水流入量予測データとを合算して下水流入量予測データを生成する合算手段と、
を有することを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のポンプ制御装置において、
前記汚水流入量予測モデルは、
特異データが除去された上で、暦データと汚水流入量データとが連関して登録され、暦データが入力されると対応する汚水流入量データが抽出されることで予測する事例ベース推論による予測モデルであることを特徴とするポンプ制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のポンプ制御装置において、
前記雨水流入量予測モデルはニューラルネットワークによる予測モデルであることを特徴とするポンプ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−4097(P2006−4097A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178619(P2004−178619)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】
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