説明

ポンプ装置

【課題】インペラ軸を支持する転がり軸受に対し、当該軸受の潤滑状態を良好に維持し続けることが可能な潤滑性能に優れた軸受用保持器を組み込むことで、長期に亘って安定して高精度に運転し続けることが可能なポンプ装置を提供する。
【解決手段】所定方向に延出したインペラ軸Sと、インペラ軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受2,4,6と、転がり軸受を潤滑するための潤滑油52を蓄える油浴54とを備えたポンプ装置であって、少なくとも1つの転がり軸受において、軌道輪20,22間に回転可能に組み込まれた保持器26は、その材料として多孔質焼結材が用いて形成され、その表面及び内部に所定の気孔を有し、その一部が常に潤滑油と接触可能に位置付けられており、回転に伴って、潤滑油が油浴から気孔へ流入され、気孔から油浴へ流出されて循環し、気孔内と油浴内の潤滑油の間の熱交換を促進させることで、軸受を冷却している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置に関し、特に、潤滑性能について優れた軸受用保持器が組み込まれた転がり軸受によって、インペラ軸が支持されたポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体や気体などを吸入、排出及び循環等させるためのポンプ装置として、その用途や機能、構造などに応じて水中ポンプ、タービンポンプ、真空ポンプ、高圧ポンプ及びプロセスポンプなど各種のタイプが知られている。このうち、プロセスポンプは、例えば、石油精製プラントなどにおいて、精油などを送出するためのポンプ装置として用いられている。
【0003】
かかるプロセスポンプには、例えば、精油などを吸入して送出させる羽根車(インペラ)が先端部に取り付けられた主軸(インペラ軸)が備えられており、当該主軸は、転がり軸受によって回転自在に支持されている。この場合、プロセスポンプは、精油などを安定的に且つ継続的に送出等させるべく、インペラ軸を長期に亘って精度よく回転させ続ける必要がある。このため、転がり軸受に対し、その内部、例えば、軌道輪の軌道面と転動体の転動面とが摩擦されることにより生じる摩耗の低減や、焼付きの防止を目的として、潤滑が行われている。
【0004】
ここで、軸受の潤滑方法には、主として、潤滑剤として各種のグリースを用いるグリース潤滑と、潤滑剤として各種の潤滑油を用いる油潤滑の2通りがあり、グリース潤滑には、例えば、潤滑剤の漏洩を抑制することができ、軸受及びその周辺構造を簡略化できるという特長がある。これに対し、油潤滑には、例えば、潤滑剤の流動性や装置に対する冷却効果が高く、グリース潤滑よりも潤滑性能に優れているという特長がある。
一般的に、上述したようなプロセスポンプにおいては、軸受の潤滑方法として、グリース潤滑よりも潤滑性能に優れた油潤滑が採用される場合が多い。さらに、このような油潤滑において、その潤滑性能や潤滑効率をより向上させるべく、従来から各種の方策が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、油潤滑時における軸受の潤滑性能を向上させるための軸受用保持器の構成が、一例として開示されている。かかる保持器は、その材料として多孔質のポリアミド成形体が適用されており、当該ポリアミド成形体を加熱加工して円筒状に成形し、これを切削加工して構成されている。なお、この場合、ポリアミド成形体、すなわち保持器は、その気孔率が10〜50%の範囲内の所定値となるように設定されている。
このような構成の保持器によれば、潤滑剤(一例として、潤滑油)の含浸性が高められ、気孔内に大量の潤滑油を滞留させることができる。このため、かかる保持器を転がり軸受に対して組み込むことで、当該転がり軸受の潤滑性能を向上させることが可能となる。
【特許文献1】特開2000−110838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、潤滑剤としての潤滑油は、その温度の上昇に伴って性能の変化や劣化が生じるため、当該潤滑油を使用する際には、使用時に想定される温度範囲を考慮する必要がある。このため、例えば、アメリカ石油学会(API:America Petroleum Institute)における規格などにより、各種潤滑油を適正に使用可能な温度範囲が規定されており、当該潤滑油は、かかる規定温度範囲内で使用することが重要となる。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたポリイミド製保持器の場合、保持器の気孔内に一旦含浸された潤滑油は、長期に亘って当該気孔内に残留し続けてしまう。この場合、かかる保持器の気孔内に残留した潤滑油は、気孔の外部と接触する(例えば、プロセスポンプの内気にさらされる)機会が少なく、放熱が充分に行われないため、その温度が上昇してしまう。特に、ポリイミドは、その気孔内に熱がこもり易いという性質をもつため、温度上昇した潤滑油が気孔内に残留した場合、保持器の温度が上昇したまま容易に低下しないという不都合を招いてしまう。
【0008】
上述したプロセスポンプのように、例えば、精油などを吸入して送出させるポンプ装置の場合、その安全性を確保するためには、過度の温度上昇を回避する必要があり、特許文献1に開示された保持器による潤滑方法では、装置に対する冷却効果の観点において、十分な潤滑性能を得ることができない。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、インペラ軸を支持する転がり軸受に対し、当該軸受の潤滑状態を良好に維持し続けることが可能な潤滑性能に優れた軸受用保持器を組み込むことで、長期に亘って安定して高精度に運転し続けることが可能なポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明に係るポンプ装置は、所定方向に延出し、その延出端部に羽根車が取り付けられたインペラ軸と、当該インペラ軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、当該転がり軸受を潤滑するための潤滑油を蓄える油浴とを備えている。この場合、少なくとも1つの転がり軸受において、転動体を回転自在に保持するとともに、軌道輪間に回転可能に組み込まれた保持器は、その材料として多孔質焼結材が用いて形成され、その表面及び内部に所定の気孔を有しているとともに、その一部が常に潤滑油と接触可能に位置付けられている。このような構成により、当該保持器の回転に伴って、当該潤滑油が油浴から気孔へ流入されるとともに、気孔から油浴へ流出されて循環し、気孔内の潤滑油と油浴内の潤滑油との間の熱交換を促進させることで、転がり軸受を冷却している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インペラ軸を支持する転がり軸受に対し、その潤滑状態を良好に維持し続けることが可能な潤滑性能に優れた軸受用保持器を組み込むことで、ポンプ装置を長期に亘って安定して高精度に運転し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るポンプ装置について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明に係るポンプ装置としては、例えば、水中ポンプ、タービンポンプ、真空ポンプ、高圧ポンプ及びプロセスポンプなど各種のタイプを適用することができるが、ここでは、一例として、プロセスポンプを適用した場合を想定し、以下、その構成について説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係るプロセスポンプが示されており、係るプロセスポンプには、一例として、インペラ軸Sの延出方向(同図の左右方向)に沿って、その基端(同図の右端)から延出端(同図の左端)の方向へ、オイル室L、モータ部M及びポンプ部Pが順に配設されている。すなわち、この場合、プロセスポンプには、インペラ軸Sの基端側(同図の右端側)にオイル室Lが設けられ、インペラ軸Sの延出端側(同図の左端側)にポンプ部Pが設けられているとともに、当該オイル室Lとポンプ部Pに挟まれてモータ部Mが設けられている。
【0014】
なお、インペラ軸Sは、オイル室Lからモータ部Mを経てポンプ部Pまでを貫通する所定の長さを成して、基端(同図の右端)から延出端(同図の左端)まで直線状に延出しており、その延出端(同図の左端)には、ポンプ部P内の液体や気体などを吸入、排出及び循環させるための複数の羽根56を有する羽根車50が取り付けられている。
【0015】
図1に示す構成において、オイル室Lには、インペラ軸Sを回転自在に支持する複数(3つ)の転がり軸受2,4,6が収容されているとともに、これらの軸受2,4,6を潤滑するための潤滑油52を蓄える油浴54が設けられている。この場合、オイル室Lには、2つのアンギュラ玉軸受2,4と1つの深溝玉軸受6の合計3つが収容されており、2つのアンギュラ玉軸受2,4は、インペラ軸Sの基端側(同図の右側)に外嵌され、当該アンギュラ玉軸受2,4によって、アキシアル荷重が負荷されている。なお、2つのアンギュラ玉軸受2,4は、その背面同士を接触させて組み合わせた背面組合せ形(DB形)の軸受として構成されている。
これに対し、深溝玉軸受6は、インペラ軸Sの延出端側(同図の左側)に外嵌され、当該深溝玉軸受6によって、ラジアル荷重が負荷されている。
【0016】
また、オイル室Lには、所定量の潤滑油54が封入され、油浴54へ蓄えられている。この場合、潤滑油54は、油浴54に蓄えられた状態の液面52sが、アンギュラ玉軸受2,4及び深溝玉軸受6の配設位置まで達し、当該軸受2,4,6の構成部材(後述する内外輪、転動体(玉)及び保持器)の一部と常に接触することが可能な高さとなる所定量だけ、オイル室L内に封入されている。これにより、アンギュラ玉軸受2,4及び深溝玉軸受6を常に潤滑することができる。
【0017】
なお、かかるプロセスポンプにおいて、モータ部Mには、インペラ軸Sを回転させるための電動機(例えば、モータ(図示しない))が収容されており、ポンプ部Pには、羽根車50が収容されている。
【0018】
また、図2(a),(b)には、インペラ軸Sを回転自在に支持するアンギュラ玉軸受2,4が示されており、当該2つのアンギュラ玉軸受2,4は、それぞれ相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪(内輪20及び外輪22)と、当該内外輪20,22に形成された軌道面20r,22r間に転動自在に組み込まれた複数の転動体(玉)24と、当該転動体(玉)24を1つずつ回転自在に保持する保持器26とを備えている。この場合、内輪20は、インペラ軸Sとともに回転する回転輪として構成されており、外輪22は、常時非回転状態に維持される静止輪として構成されている。
【0019】
図2(a)に示す構成において、内輪20は、一例として、その外周面の一方側(同図の右側)が他方側(同図の左側)に比べて肉薄となるように溝肩(軌道面20rの肩部)を落とした、いわゆる片側カウンタボアの形状を成している。なお、この場合、内輪20のカウンタボア20cは、外輪22の内周面に対する距離が所定距離のまま変化せず、一定を成す平坦面状に形成されている。
【0020】
これに対し、外輪22は、一例として、その内周面の一方側(内輪20のカウンタボア20cとは反対側(図2(a)の左側))が、他方側(同図の右側)に比べて肉薄となるように溝肩(軌道面22rの肩部)を落とした、いわゆる片側カウンタボアの形状を成している。なお、この場合、外輪22のカウンタボア22cは、内輪20の外周面に対する距離が所定距離のまま変化せず、一定を成す平坦面状に形成されている。
【0021】
なお、内輪20及び外輪22のカウンタボア20c,22cの形状や大きさなどは、例えば、内外輪20,22の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、上述した図2(a)に示す構成の他、内輪20のカウンタボア20cは、外輪22の内周面に対する距離が軸受の外側へ向かうに従って徐々に拡がる傾斜面状を成して形成してもよいし、同様に、外輪22のカウンタボア22cは、内輪20の内周面に対する距離が軸受の外側へ向かうに従って徐々に拡がる傾斜面状を成して形成してもよい。
また、図2(a)に示す構成においては、内輪2及び外輪4をともに片側カウンタボアの形状を成すように構成しているが、内輪2若しくは外輪4のいずれか一方のみを片側カウンタボアの形状を成すように構成してもよい。
【0022】
かかるアンギュラ玉軸受2,4には、複数の転動体(玉)24が、1つずつ回転自在に所定間隔を成して保持器26によって保持された状態で、内外輪20,22の軌道面20r,22r間に組み込まれている。これにより、各転動体(玉)24は、その転動面が相互に接触することなく、軌道面20r,22r間を転動することができる。この結果、各転動体(玉)24が相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や、焼付きなどを防止することができる。
【0023】
なお、この場合、各転動体(玉)24は、接触角が所定の大きさ(例えば、15°〜40°程度)に設定されて軌道面20r,22r間にそれぞれ組み込まれている。ここで、接触角とは、転動体(玉)24が内外輪20,22(軌道面20r,22r)とそれぞれ接触する2つの点を相互に結んだ作用線(図示しない)が、軸受の中心軸(図示しない)に垂直な平面(ラジアル平面)との間に成す所定の角度のことをいう。
【0024】
ここで、かかるアンギュラ玉軸受2,4において、その内外輪20,22の軌道面20r,22r間に組み込む転動体(玉)24の数は、例えば、軸受2,4の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。一例として、図2(b)に示す構成においては、11個の転動体(玉)24を内外輪20,22の軌道面20r,22r間に組み込んでいる。
【0025】
また、かかるアンギュラ玉軸受2,4には、いずれか一方側(図2(a)の右側)が他方側(同図の左側)よりも小径のテーパ円筒状を成す本体部26mを有し、当該本体部26mのテーパ円周面に沿って所定間隔で形成された複数のポケット26p内に転動体(玉)24を1つずつ回転自在に保持する保持器26が備えられており、当該保持器26は、各転動体(玉)24を1つずつポケット26p内にそれぞれ保持した状態で、内外輪2,4に組み込まれている。
【0026】
図2(a)及び図3(a)〜(c)に示す構成において、保持器26は、一例として、その軸方向の幅(図2(a)の左右方向の距離)が、軸受2,4(内外輪20,22)の軸方向の幅(同図の同方向の距離)よりも小さな所定の寸法に設定されており、そのテーパ円周面に転動体(玉)24と同数(同図に示す構成では、11個)のポケット26pが等間隔で形成されている。この場合、保持器26は、ポケット26pがテーパ円周面を切削加工により形成された、もみ抜き型の保持器として構成されている。
【0027】
また、図2(a)に示す構成において、保持器26は、一例として、本体部26mの内周面26a及び外周面26bが内外輪20,22にいずれも接触せず、転動体(玉)24によってのみ回転案内される転動体案内型として構成されている。ただし、保持器26の案内方式は、これに限定されず、例えば、本体部26mの内周面26aを内輪20の溝肩(軌道面20rの肩部)に接触させて回転案内する内輪案内型であってもよいし、本体部26mの外周面26bを外輪22の溝肩(軌道面22rの肩部)に接触させて回転案内する外輪案内型であってもよい。
いずれの場合においても、保持器26は、各転動体(玉)24を1つずつポケット24p内にそれぞれ保持した状態で、転動体(玉)24とともに内外輪20,22間を回転することができる。
【0028】
本実施形態において、保持器26は、その材料として多孔質焼結材を用いて形成され、その表面及び内部に所定(多数)の気孔を有している。この場合、保持器26の製造に使用される具体的材料は、特に限定されず、例えば、軸受2,4の使用形態や製造上の条件などによって設定される、保持器26に対する強度、耐熱性及び耐食性などの要件に応じて、任意の材料を適用すればよい。例えば、保持器26の材料として、製造後の保持器26の表面及び内部に所定(多数)の気孔を形成することが可能な各種の合成樹脂、セラミック及び金属などを適宜選択して適用することができる。
【0029】
そして、これらの材料(多孔質材)を、例えば、加熱及び加圧して成形し、加熱焼結を施した成形体を所定形状に加工することで、保持器(多孔質保持器)26を形成することができる。なお、図2(a)及び図3(a)〜(c)に示す構成においては、保持器26として、いわゆるもみ抜き型のタイプを一例として適用しているが、その形式(形状)はこれに限定されず、例えば、転動体の種類などに応じて、打ち抜き型、冠型、波型及び合わせ型など、各種のタイプを適用することができる。
【0030】
また、図1に示すように、かかる保持器26は、その一部(同図のインペラ軸Sに対して油浴54側に位置する部分)が常に潤滑油52と接触可能となるように位置付けられている。別の捉え方をすれば、かかる保持器26を内外輪20,22間に組み込んだアンギュラ玉軸受2,4は、当該保持器26の一部(同上)が常に油浴54に蓄えられた潤滑油52の液面52sよりも下側に位置する、すなわち、当該潤滑油52の中に沈み込んだ状態となるようにインペラ軸Sに対して外嵌されている。
【0031】
これにより、保持器26は、アンギュラ玉軸受2,4の内輪20とともに回転し、その回転時に、その一部が常に油浴54に蓄えられた潤滑油52の中へ沈み込み、当該潤滑油52と接触する。本実施形態において、保持器26は、その表面及び内部に所定(多数)の気孔を有しているため、潤滑油52の中へ沈み込み、当該潤滑油52と接触した際、当該潤滑油52が油浴54から気孔へ流入されるとともに、気孔から油浴54へ流出される。そして、保持器26の回転に伴って、このような潤滑油52の気孔内外への流入出が繰り返される。したがって、保持器26の回転中、すなわち、アンギュラ玉軸受2,4(内輪20)の回転中、常に、油浴54に蓄えられた潤滑油52を循環させることができる。
【0032】
この結果、気孔内に流入した潤滑油52が長期に亘って残留せず、気孔内の潤滑油52と油浴54内の潤滑油52との間の熱交換を促進させることができ、潤滑油52の温度上昇を有効に抑制することができる。これにより、アンギュラ玉軸受2,4を有効に冷却することができ、当該アンギュラ玉軸受2,4を長期に亘って高精度に回転させることができ、ひいては、プロセスポンプを長期に亘って安定して運転し続けることができる。
【0033】
なお、保持器26に対し、どの程度の気孔を設けるか、すなわち、気孔率(気孔の含有率)をどの程度に設定するかは、例えば、潤滑油の量や種類、潤滑の要件などに応じて任に決定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、図3(a)〜(c)には、本実施形態に係る3つの保持器(もみ抜き型の多孔質保持器)26がそれぞれ示されている。図3(a)には、気孔率(α)を50%よりも大きな所定値に設定した場合(α>50%)、同図(b)には、気孔率(α)を50%に設定した場合(α=50%)、同図(c)には、気孔率(α)を0%よりも大きく、50%よりも小さな所定値に設定した場合(0%<α<50%)の構成がそれぞれ一例として示されている。
【0034】
ここで、保持器26において、気孔内外へ流入出される潤滑油52の量は、設定された気孔率(α)に伴って変動し、気孔率(α)を大きく設定すれば、気孔内外へ流入出される潤滑油52の量も多くなる。なお、保持器26の気孔内から潤滑油52が流出される場合、当該潤滑油52には、保持器26の回転に伴って発生する遠心力が作用され、かかる潤滑油52がアンギュラ玉軸受2,4の外部方向(図1(a)の上方向及び下方向)へ向けて飛散される。
【0035】
この場合、当該飛散量は、保持器26の気孔率(α)が大きくなるに従って多くなり、オイル室L内における潤滑油52の流動量が大きくなる。すなわち、オイル室L内における潤滑油52の流動性を活性化させるとともに促進させることができる。この結果、潤滑油52をオイル室Lの内気58や内面60へ積極的に接触させることで、これらとの間における熱交換を促進させることができ、潤滑油52の温度上昇を有効に抑制することができる。
【0036】
なお、図1(a)及び図2(a)に示す構成において、アンギュラ玉軸受2,4には、軸受内部を密封するための密封部材(接触型のシール、非接触型のシールやシールドなど)が設けられていない。このため、潤滑油52を保持器26の気孔内外へ容易に流入出させることができるとともに、潤滑油52を容易にオイル室L内へ飛散させることができる。この結果、オイル室Lの内気58や内面60へ接触する潤滑油52の量を増やすことができ、潤滑油52とオイル室Lの内気58や内面60との間における熱交換をさらに促進させることができる。
【0037】
このように、保持器26の気孔率(α)を調整することにより、保持器26の回転数当たりの潤滑油52の流動量を、熱交換による温度上昇の抑制効果を最適に保つことが可能な所定量に調整することができる。すなわち、保持器26の気孔率(α)を調整することにより、単位時間当たりの潤滑油52の冷却量を容易に調整することができる。また、別の捉え方をすれば、保持器26の気孔率(α)を調整することにより、油浴54に蓄えられた潤滑油52の温度とアンギュラ玉軸受2,4の温度との差を小さくすることができる。
【0038】
この結果、潤滑油52の潤滑性能の劣化を有効に防止することができ、アンギュラ玉軸受2,4が潤滑不良や潤滑不足になることがなく、その潤滑状態を良好に維持し続けることができる。
なお、油浴54自体の温度の調整は、従来からの方法(例えば、空冷や水冷など)を適用して行えばよい。この場合、アンギュラ玉軸受2,4の温度上昇が抑制され、その発熱も抑制されているため、油浴54自体の温度を容易に調整することができる。
【0039】
なお、上述した本実施形態においては、2つのアンギュラ玉軸受2,4の双方に対し、保持器(多孔質保持器)26を組み込んだが、いずれか一方の軸受(図1の右側のアンギュラ玉軸受2若しくは左側のアンギュラ玉軸受4)にのみ、かかる保持器(多孔質保持器)26を組み込んでもよい。
【0040】
例えば、図1の左側のアンギュラ玉軸受4にのみ、かかる保持器(多孔質保持器)26を組み込み、同図の右側のアンギュラ玉軸受2には、その材料として多孔質焼結材ではない素材(例えば、軸受鋼など)を用いて形成され、その表面及び内部に所定の気孔を有さない保持器を組み込んでもよい。この場合、アンギュラ玉軸受2(図1の右側の軸受)に組み込まれた保持器は、アンギュラ玉軸受4(同図の左側の軸受)に組み込まれた保持器(多孔質保持器)26よりも、その強度を容易に大きくすることができ、結果として、両軸受2,4に対して保持器(多孔質保持器)26を組み込んだ場合よりも、軸受2,4自体の強度を大きくすることができる。
これにより、2つのアンギュラ玉軸受2,4に対し、インペラ軸Sに取り付けられた羽根車50によってアキシアル荷重が作用された場合であっても、当該アキシアル荷重をより確実に負荷することができる。
【0041】
また、上述した本実施形態においては、2つのアンギュラ玉軸受2,4の双方に対し、同一の気孔率に設定された保持器(多孔質保持器)26を組み込んだが、異なる気孔率に設定された保持器26を各軸受2,4に対してそれぞれ組み込んでもよい。この場合、保持器26は、例えば、軸受2,4に対して負荷されるアキシアル荷重の大きさなどに応じて、その際に必要な所定の強度を有するように、気孔率を所定の値に設定して形成すればよい。
【0042】
なお、2つのアンギュラ玉軸受2,4において、上述したように双方で構成の異なる保持器を組み込む場合(材質が異なる保持器を組み込む場合、及び気孔率が異なる保持器を組み込む場合)、油浴52側へ位置する軸受(図1においては、左側に位置するアンギュラ玉軸受4)に対し、保持器(多孔質保持器)26を組み込むか、より気孔率の大きな保持器26を組み込むことが好ましい。これにより、2つのアンギュラ玉軸受2,4に対して作用するアキシアル荷重をより確実に負荷することができるとともに、保持器(多孔質保持器)26が有する潤滑油52の熱交換促進効果、及びこれに伴う潤滑油52の温度上昇抑制効果(潤滑油52の冷却効果)を確実に且つ有効に発揮させることができる。
【0043】
また、上述した本実施形態においては、2つのアンギュラ玉軸受2,4に対し、保持器(多孔質保持器)26を組み込んだが、これに加えて、若しくは、これに代えて、深溝玉軸受6に対し、同様の保持器(多孔質保持器)26を組み込んでもよい。なお、上述した本実施形態においては、深溝玉軸受6の軸受構成について特に言及しなかったが、かかる深溝玉軸受6には、相対回転可能に対向配置された一対の軌道輪(内輪及び外輪)と、当該軌道輪間に転動可能に組み込まれた複数の転動体(玉)と、当該転動体(玉)を1つずつ回転可能に保持する保持器とが備えられている。
【0044】
さらに、上述した本実施形態においては、2つのアンギュラ玉軸受2,4及び1つの深溝玉軸受6によってインペラ軸Sを回転自在に支持したが、インペラ軸Sを回転自在に支持する転がり軸受は、これらの軸受及び組合せに限定されない。例えば、インペラ軸Sを回転自在に支持する転がり軸受としては、全てがアンギュラ玉軸受であってもよいし、全てが深溝玉軸受であってもよい。また、インペラ軸Sを回転自在に支持する転がり軸受として、例えば、複列のアンギュラ玉軸受、複列の深溝玉軸受、並びに、転動体として各種のころ(円筒ころ、円すいころ及び球面ころなど)が用いられた単列及び複列のころ軸受を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係るポンプ装置の構成例を示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るポンプ装置のインペラ軸を回転自在に支持するための転がり軸受の構成例を示す図であって、(a)は、断面図、(b)は、同図(a)の矢印A方向から見た平面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る多孔質焼結材を用いて形成され、所定の気孔率(α)を有する転がり軸受用保持器の全体構成例を示す図であって、(a)は、α>50%に設定された保持器を示す斜視図、(b)は、α=50%に設定された保持器を示す斜視図、(c)は、0<α<50%に設定された保持器を示す斜視図。
【符号の説明】
【0046】
2,4 転がり軸受(アンギュラ玉軸受)
6 転がり軸受(深溝玉軸受)
20,22 軌道輪
24 転動体(玉)
26 保持器
50 羽根車
52 潤滑油
54 油浴
S インペラ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延出し、その延出端部に羽根車が取り付けられたインペラ軸と、当該インペラ軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、当該転がり軸受を潤滑するための潤滑油を蓄える油浴とを備えたポンプ装置であって、
少なくとも1つの転がり軸受において、転動体を回転自在に保持するとともに、軌道輪間に回転可能に組み込まれた保持器は、その材料として多孔質焼結材が用いて形成され、その表面及び内部に所定の気孔を有しているとともに、その一部が常に潤滑油と接触可能に位置付けられており、当該保持器の回転に伴って、当該潤滑油が油浴から気孔へ流入されるとともに、気孔から油浴へ流出されて循環し、気孔内の潤滑油と油浴内の潤滑油との間の熱交換を促進させることで、転がり軸受を冷却していることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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