説明

ポート及び医療用容器

【課題】液状物の泡立ちを防止しながら液状物を医療用容器へ大きな流量で注入することができ、また、シートを傷付けることがないポートを提供する。
【解決手段】ポート50は、液状物が通過する通液孔51を備える管状部52と、管状部の一端側の外周面上に形成された、医療用容器のシートが貼り合わされるシール部55とを備える。管状部のシール部が設けられた側の端又はその近傍に、通液孔を二分割する架橋部60が形成されている。管状部の中心軸に沿って見たとき、架橋部の長手方向は、シール部の長軸方向と平行である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器本体に対して液状物の注入又は取り出しを行うためのポートに関する。また、本発明は、経腸栄養法や静脈栄養法などを行う際に患者に投与する液状物を収納するための医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
経口によらずに患者に栄養や薬剤を投与する方法として経腸栄養法や静脈栄養法が知られている。経腸栄養法では、患者の鼻腔から胃又は十二指腸にまで通されたチューブを介して栄養剤、流動食、又は薬剤などの液状物が投与される。また、静脈栄養法では、患者の静脈に挿入された輸液ラインを介してブドウ糖などの栄養成分や薬剤成分を含む液状物(一般に「輸液」と呼ばれる)が投与される。
【0003】
経腸栄養法や静脈栄養法を行う場合、通常、作業室で調整した液状物を医療用容器に充填し、これを患者がいる病室に搬送して液状物を患者に投与する。
【0004】
経腸栄養法や静脈栄養法を行う際に使用される医療用容器としては、可撓性を有する2枚のシートの周囲を、筒状のポートを挟んでヒートシールして袋状に形成した容器が知られている(例えば特許文献1参照)。液状物は、ポートを介して容器内に注入される。容器内に注入した液状物の量を測定するために、容器を構成するシートとして透明又は透光性を有する材料を用い、このシートに目盛りを付することは一般的に行われている。
【0005】
特許文献1に開示されたような従来の容器にそのポートから液状物を注入すると、容器内で液状物が泡立つという問題がある。容器内に多数の泡が発生すると、容器に所望する量の液状物を注入しようとすると泡がポートから溢れ出る、容器内に注入した液状物の量をシートに付した目盛りを用いて正確に測定することができない、等の問題が生じる。
【0006】
点滴筒内での液状物(輸液)の泡立ちを防止する方法が特許文献2,3に記載されている。
【0007】
特許文献2には、図6Aに示すような、円錐状の流液面912と、流液面912を縦に分割する複数の畝状の分離壁914とを備えた分流器910が記載されている。分流器910は、図6Bに示すように、円筒状の点滴筒900内に配置される。点滴筒900内において上方から滴下した液状物は、分流器910の頂点911に落下し、複数の分離壁914によって分離され、流液面912に沿って流れ、流液面912の下端に達した後、点滴筒900の内壁面に沿って流れ、点滴筒900の底部に溜まった液状物の液面(図示せず)に到達する。このように、点滴筒900内に分流器910を設けることにより、滴下した液状物が点滴筒900の底部に溜まった液状物の液面に直接落下することがないので、点滴筒900内で液状物が泡立つのを防止できる。
【0008】
特許文献3には、図7に示すように、上側に導入針934を備え、下側に点滴芯935を備えたキャップ933を、筒状の本体932の上端に装着した点滴筒930が記載されている。本体932内に挿入された点滴芯935の側壁には液状物の導入孔937が形成されている。液状物は、導入孔938より導入針934に流入し、点滴芯935の導入孔937より横向きに噴出し、滑らかな曲線を描いて本体932の内壁面に着地し、内壁面に沿って流れ、本体932の底部に溜まった液状物の液面に到達する。このように、本体932内に、側壁に導入孔937が形成された点滴芯935を設けることにより、液状物が、本体932の底部に溜まった液状物の液面に直接落下したり、本体932の内壁面に激しく衝突したりすることがないので、点滴筒900内で液状物が泡立つのを防止できる。
【特許文献1】特開2006−199303号公報
【特許文献2】実開昭61−151743号公報
【特許文献3】実開平6−11745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に記載された点滴筒内の泡立ち防止方法を、特許文献1に開示されたような医療用容器に適用しようとすると以下のような問題が生じる。
【0010】
特許文献2の分流器910は、頂点911に落下した液状物を等方的に分離して、円筒状の点滴筒900の内壁面に導く。しかしながら、一般に、医療用容器の内壁面は円筒面ではない。従って、特許文献2の分流器910を医療用容器内に配置しても、分流器910で等方的に分離された液状物の多くは、流液面912の下端に達した後、容器の内壁面に沿って流れることなく、容器内に溜まった液状物の液面に直接落下してしまう。従って、泡立ちを防止することはできない。
【0011】
また、特許文献3の点滴芯935を医療用容器内に設けると、例えば医療用容器を落下させた場合、点滴芯935の先端が容器を構成するシートを傷付けてシートが破れてしまう可能性がある。また、点滴芯935の側壁に形成した導入孔937の開口径が小さいので、液状物の大きな流量が得られず、液状物の医療用容器への注入作業に長時間を要する。
【0012】
本発明は、上記の従来の問題を解決し、液状物を医療用容器へ注入する際に液状物の泡立ちを防止することができ、更に、大きな流量で液状物を医療用容器へ注入することができ、また、容器に落下等の衝撃が加わってもシートを傷付けることがないポート及び医療用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のポートは、可撓性を有するシートが袋状に貼り合わされてなる容器本体に取り付けられて、前記容器本体内に液状物を注入し又は前記容器本体内に収納された液状物を取り出すためのポートであって、前記液状物が通過する通液孔を備える管状部と、前記管状部の一端側の外周面上に形成された、前記シートが貼り合わされるシール部とを備える。前記管状部の前記シール部が設けられた側の端又はその近傍に、前記通液孔を二分割する架橋部が形成されている。前記管状部の中心軸に沿って見たとき、前記架橋部の長手方向は、前記シール部の長軸方向と平行である。
【0014】
本発明の医療用容器は、可撓性を有するシートが袋状に貼り合わされてなる容器本体と、前記容器本体内に液状物を注入し又は前記容器本体内に収納された液状物を取り出すためのポートとを備えた医療用容器であって、前記ポートが上記の本発明のポートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポートの管状部のシール部が設けられた側の端又はその近傍に、通液孔を二分割する架橋部が形成されており、架橋部の長手方向がシール部の長軸方向と平行である。従って、ポートに流入した液状物は、架橋部で2つの分流に分割された後、容器本体のシートの内壁面に沿って流れる。即ち、ポートから、シートの内壁面上を流れずに、容器本体の下部に溜まった液状物の液面に直接落下する液状物はほとんどない。よって、容器本体内で液状物の泡立ちを防止することができる。
【0016】
更に、架橋部が通液孔を塞ぐ面積は小さく、架橋部を設けても、液状物が通過するための流路を十分に確保することができる。従って、大きな流量で液状物を医療用容器へ注入することができる。
【0017】
また、架橋部が、特許文献3の点滴芯935のような鋭利な先端を有している必要はないので、医療用容器を落下させる等によりシートが架橋部や架橋部の近傍のポートの部分に衝突しても、シートが傷付けられ破れてしまうなどのトラブルが発生することはほとんどない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記の本発明のポートにおいて、前記架橋部は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側に向いた衝突面を備えた板状部を有することが好ましい。これにより、架橋部が液状物に対して付与する、管状部の中心軸に対して直交する方向の速度成分の大きさを大きくすることができる。従って、架橋部で2つの分流に分割された後、容器本体のシートの内壁面に沿って流れる液状物の量をより多くすることができるので、泡立ちを一層防止することができる。
【0019】
前記架橋部は、前記板状部の略中央に、前記流れ方向の上流側に向かって立設された分割部を更に有することが好ましい。これにより、板状部の衝突面上で液状物がよどんだり、液状物が衝突面に衝突することで泡立ったりするのを防止することができる。
【0020】
この場合、前記分割部が、前記流れ方向の上流側で細く、下流側で太い楔形状を有することが好ましい。これにより、液状物が衝突面に衝突する際の泡立ちを更に少なくすることができる。
【0021】
前記架橋部の前記長手方向と垂直な面に沿った前記架橋部の断面形状は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側で細く、下流側で太い末広がり形状を有していても良い。この場合も、液状物が架橋部に衝突する際の泡立ちを少なくすることができる。
【0022】
前記管状部の前記中心軸を含み且つ前記架橋部の前記長手方向に垂直な面に沿った断面図において、前記管状部の前記中心軸に垂直な方向における前記架橋部の寸法が最大となる最大幅部は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の前記管状部の下流側端よりも、前記流れ方向の下流側に位置していることが好ましい。これにより、容器本体のシートの内壁面に沿って流れる液状物の量をより多くすることができるので、泡立ちを一層防止することができる。
【0023】
前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側とは反対側に向いた前記架橋部の面(下面)は、滑らかな凸曲面を有することが好ましい。これにより、ポートを下側にして容器本体内の液状物をポートから流出させる際に、液状物が架橋部の下面上に残留するのを防止できる。また、架橋部の下面が容器本体のシートに接触しても、シートが傷付けられ破れてしまうなどのトラブルの発生を一層低減できる。
【0024】
本発明の上記の医療用容器において、前記容器本体を構成する2枚のシートが、前記シール部を、その短軸方向に挟んで貼り合わされていることが好ましい。これにより、ポートに流入した液状物は、架橋部で2つの分流に分割された後、それぞれ2枚のシートに向かって進む。従って、多くの液状物はシートの内壁面上を流れる。よって、容器本体内で液状物の泡立ちを一層防止することができる。
【0025】
以下、本発明を具体的な実施形態を示しながらより詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態にかかる医療用容器(以下、単に「容器」という)1の概略構成を示した正面図である。本実施形態の容器1は、容器本体10と、容器本体10内に液状物を注入し又は容器本体10内に収納された液状物を取り出すためのポート50とを備えている。
【0027】
容器本体10は、柔軟で可撓性を有する同一寸法の2枚のシート12a,12bを重ね合わせて、その周縁のシール領域11にて接合してなる袋状物(いわゆるパウチ)である。ポート50が容器本体10のシール領域11に取り付けられて、容器本体10の内外を連通させている。13は、ポート50に対向する辺に沿って設けられた、繰り返して開閉が可能な線状ファスナであり、線状ファスナ13を開くと、容器本体10の内部に通じる開口が形成される。シール領域11内には、容器1を吊り下げるための開口(貫通孔)16、後述する栄養セット80を構成するチューブ81(図4参照)を挿入してチューブ81を保持させるための開口(貫通孔)15a,15b、2本の指を挿入することで線状ファスナ13を開口させた状態で容器1を保持するための開口(貫通孔)17a,17bがそれぞれ形成されている。
【0028】
容器本体10を構成するシート12a,12bの材質は特に限定されず、通常は、2層以上の複合シートが使用される。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチック材料の中から互いに異なる材料を選択してなる内層及び外層を含む複合シートを用いることができる。この複合シートに、バリア層として酸化アルミニウムやシリカなどの薄膜を形成してもよい。容器本体10内の液状物の量などを確認することができるように、2枚のシートのうちの少なくとも一方は透明又は半透明であることが好ましい。一般的なヒートシール法にて2枚のシートをシールする場合、各シートの相手方のシートと対向する面にはヒートシール層が設けられる。
【0029】
図2Aはポート50の斜視図、図2Bはポート50の側面図、図2Cはポート50の下面図、図2Dはポート50の下側から見た斜視図、図2Eは、図2Bの2E−2E線に沿ったポート50の矢視断面図である。ポート50は、液状物が通過するための通液孔51が形成された円筒形状の管状部52と、管状部52の一端側の外周面上に設けられたシール部55と、管状部52の他端側の外周面上に形成されたキャップ装着部56とを備えている。シール部55とキャップ装着部56との間の管状部52の外周面には、把持部58が形成されている。図示したように、管状部52の中心軸53(図2E参照)と平行な方向をZ軸とし、Z軸と直交し、且つ、互いに直交する二軸をX軸及びY軸とする。ポート50を通って容器本体10に流入する液状物の流れ方向の上流側(キャップ装着部56側)を「上流側」又は「上側」と呼び、該流れ方向の下流側(シール部55側)を「下流側」又は「下側」と呼ぶ。上記の図2Eは、管状部52の中心軸53を含み、Y軸と平行な面に沿ったポート50の断面図である。
【0030】
シール部55は底面が略菱形である四角柱形状を有している。底面の略菱形の2本の対角軸のうち、長い方の対角軸(長軸)55L(図2C参照)はX軸と平行であり、短い方の対角軸(短軸)55S(図2C参照)はY軸と平行である。ポート50のシール部55を容器本体10を構成する2枚のシート12a,12bの周縁間に挟んだ状態で2枚のシート12a,12bの周縁をシール(例えば、ヒートシール、超音波シール)することで、シール領域11を形成するのと同時にポート50と容器本体10とを接合し一体化することができる(図1参照)。このとき、2枚のシート12a,12bは、シール部55をY軸方向に挟んで貼り合わされる。
【0031】
キャップ装着部56は、栄養セットの一端が接続されるキャップに形成された雌ネジと螺合する雄ネジからなる。但し、キャップ装着部56はこれに限定されず、キャップと係合してキャップを装着することができる周知の形状で構成することができる。
【0032】
管状部52の下流側端又はその近傍に、通液孔51を二等分割する架橋部60が形成されている。図2Cに示すように、Z軸と平行な方向に沿って見たとき、架橋部60の長手方向は、シール部55の底面の略菱形の長軸55Lの方向(X軸方向)と平行である。
【0033】
図2Eに示すように、X軸と垂直な面に沿った架橋部60の断面形状は、上流側に向いた衝突面62を備えた板状部61と、板状部61の略中央に上流側に向かってZ軸と平行に立設されたリブ状の分割部63とを備えた略逆T字形状を有している。分割部63は、Z軸方向において、上流側で細く(薄く)、下流側で太い(厚い)略楔形状を有している。
【0034】
ポート50は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニルコポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリアセタール等の容器本体10に比べて相対的に硬い材料からなり、例えば射出成型にて一体的に製造することができる。
【0035】
以上のように構成された本実施形態の容器1に液状物を注入する方法を以下に説明する。
【0036】
例えばポート50の把持部58を2本の指で把持したり、または、ポート50を略U字状の治具に挿入して保持するなどして、容器1を、ポート50を上側にして懸吊する。そして、ポート50の通液孔51から経腸栄養法や静脈栄養法などで使用される液状物を注入する。注入は、漏斗を通液孔51に挿入したり、または、液状物を貯蔵した容器に接続されたチューブを通液孔51に挿入したりして行うと、液状物をこぼすことなく行うことができる。
【0037】
図3は、ポート50に流入する液状物の流れを示した断面図である。ここでは、ポート50の通液孔51に挿入された漏斗やチューブの図示を省略している。通液孔51に流入した液状物70は、管状部52の下流側端近傍に設けられた架橋部60の分割部63の上流側端65に衝突し、Y軸方向に2つの分流71a,71bに分割される。次いで、2つの分流71a,71bは、板状部61の上流側に向いた衝突面62に衝突し、互いに遠ざかる方向にその進行方向が変えられて、板状部61から離れた後は、放物線に沿って落下して、容器1を構成するシート12a,12bの内壁面に衝突し、シート12a,12bの内壁面上を流れて、容器本体10の下部に溜まった液状物の液面(図示せず)に到達する。
【0038】
容器1に所定量の液状物の注入した後、図4に示すようにポート50の先端のキャップ装着部56にキャップ90を取り付ける。キャップ90には、ポート50のキャップ装着部56の雄ねじと螺合する雌ねじ(図示せず)が形成されている。更に、キャップ90に可撓性を有するチューブ81を含む栄養セット80を接続する。図4に示した栄養セット80は、キャップ90に設けられた筒状体91に外挿されるゴムチューブ82をチューブ81の一端に備え、点滴筒83及び流量を調整するためのクランプ84をチューブ81の途中に備え、雄コネクタ85をチューブ81の他端に備えている。その後、容器本体10のシール領域11内に形成された開口16を利用して、ポート50を下方に向けて容器1を吊り下げる。栄養セット80の雄コネクタ85を患者に接続する。クランプ84を開くと、重力を利用して容器本体10に充填された液状物を栄養セット80を介して患者に投与することができる。
【0039】
本実施形態では、ポート50の架橋部60の長手方向が、シール部55を挟むシート12a,12bが対向する方向(Y軸方向)と直交しているので、図3に示すように、架橋部60で2分割された液状物の分流71a,71bはそれぞれシート12a,12bに向かう。従って、ポート50から、シート12a,12bの内壁面上を流れずに、容器本体10の下部に溜まった液状物の液面に直接落下する液状物はほとんどない。よって、容器本体10内で液状物の泡立ちを防止することができる。
【0040】
また、図2Cから明らかなように、架橋部60が管状部52の通液孔51の下端の開口を塞ぐ面積は小さく、液状物の分流71a,71bが通過するための流路は十分に確保されている。従って、架橋部60を設けたことによる液状物の流量の低下は少なく、容器1に液状物を注入する際に、液状物の実用上十分な流量を確保できる。更に、架橋部60を含むポート50の下側端には、図7に示した点滴芯935の先端のような鋭利な突起は存在しないから、容器1を落下する等してポート50の下流側端がシート12a,12bの内壁面に衝突しても、シート12a,12bが傷付けられ破れてしまうなどのトラブルはほとんど発生しない。
【0041】
図2Eに示すように、管状部52の下流側端縁52a,52bは、架橋部60を尾根(稜線)とする山状となるように、所定角度で互いに交差し且つX軸と平行な2つの仮想の傾斜面Sa,Sbに沿って形成されている。傾斜面Sa,SbのY軸に対する角度θa,θbは、例えばいずれも30°に設定することができる。この結果、管状部52の中心軸53を含みX軸と垂直な面に沿った断面図(即ち、図2E)において、架橋部60のY軸方向における寸法(幅)が最大となる部分(即ち、最大幅部、本実施形態では板状部61が相当する)66は、前記断面図における管状部52の下流側端52a0,52b0よりも、下流側に位置している。従って、図2Bに示すように、Y軸と平行な方向に沿って見たとき、管状部52の下流側端縁52a,52b(図2Bでは下流側端縁52bは見えない)が曲線状に切れ上がり、架橋部60の板状部61の一部及び分割部63の一部を見ることができる。これにより、図3に示すように、液状物の分流71a,71bは、架橋部60を離れた後、シート12a,12bに衝突する可能性が高くなる。本実施形態と異なり、管状部52の中心軸53を含みX軸と垂直な断面図において、架橋部60の最大幅部66(即ち、板状部61)が、管状部52の下流側端52a0,52b0よりもより上流側に位置すればするほど、シート12a,12bに衝突する液状物の量が少なくなり、ポート50の管状部52の下端から容器本体10の下部に溜まった液状物の液面に直接落下する液状物の量が多くなり、泡の発生量が増大する。
【0042】
ポート50に設けられる架橋部の形状は上記の実施形態に限定されず、種々に変更可能である。例えば、架橋部はZ軸と平行に上流側に向かって立設された分割部63(図2E参照)を有していなくても良い。即ち、図5Aに示すように上流側に向いた平面状の衝突面62Aを備えた板状部61Aから構成された架橋部60Aや、図5Bに示すように上流側に向いた円筒面状の衝突面62Bを備えた板状部61Bから構成された架橋部60Bであっても良い。あるいは、図5C及び図5Dに示すように、上流側で細く、下流側で太い末広がり形状の架橋部60C,60Dであっても良い。図5Cに示した架橋部60Cと図5Dに示した架橋部60Dとは、液状物を分流する一対の斜面64a,64bが、前者がほぼ平面であるのに対して、後者が滑らかな凹面である点で相違する。66A,66B,66C,66Dは、架橋部60A,60B,60C,60Dの最大幅部をそれぞれ示す。
【0043】
ポート50に流入する液状物70が衝突する架橋部の表面形状は、第1に、液状物が架橋部に衝突することによって発生する気泡が少ないこと、第2に、より多くの液状物が容器1を構成するシート12a,12bの内壁面に衝突するように液状物の進行方向を変えることができること、等を考慮して決定されることが好ましい。液状物が架橋部に衝突することによって発生する気泡を少なくするためには、以下のような構成を採ることができる。例えば、図2Eの架橋部60、図5Cの架橋部60C、及び図5Dの架橋部60Dの各上流側端65,65C,65Dはなるべく尖鋭であることが好ましい。また、これら上流側端65,65C,65Dから最大幅部66,66C,66Dまでが滑らかな曲面で繋がれていることが好ましい。また、図2Eにおいて、分割部63が、上流側で細く、下流側で太い略楔形状を有していたり、衝突面62が、XY面と平行ではなく、分割部63から離れるにしたがって下側に変位した傾斜面であったりすることは、有利であることが多い。
【0044】
架橋部60,60A,60B,60C,60Dの最大幅部66,66A,66B,66C,66DのY軸方向の寸法は、通液孔51を流れる液状物の粘度や流量(流速)等を考慮して決定することが好ましい。最大幅部の寸法が大きくなればなるほど、液状物の分流71a,71bが通過するための流路が狭くなるので、液状物の大きな流量が得られにくくなる。逆に、最大幅部の寸法が小さくなればなるほど、流路が広くなるので液状物の大きな流量が得られるが、シート12a,12bの内壁面に衝突せずにポート50から容器本体10の下部に溜まった液状物の液面に直接落下する液状物の量が多くなるので、泡立ち防止効果が低下する。
【0045】
架橋部60,60A,60B,60C,60Dの上流側とは反対側に向いた面(下面)68,68A,68B,68C,68Dは、滑らかな凸曲面(例えば、略円筒面、略球面など)を有することが好ましい。これにより、液状物が充填された容器1をポート50を下方に向けて吊り下げて、液状物を患者に投与する際に、液状物が下面68,68A,68B,68C,68D上に残留するのを防止できる。また、容器1を落下する等して下面68,68A,68B,68C,68Dがシート12a,12bの内壁面に衝突しても、シート12a,12bが傷付けられ破れてしまうなどのトラブルの発生を防止できる。
【0046】
上記の実施形態は一例に過ぎず、本発明はこの実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
【0047】
例えば、上記の実施形態の容器本体10では、同一形状の2枚のシートが袋状に接合されていたが、本発明はこれに限定されず、容器本体を構成するシートの数、形状、及びその組み合わせ方に限定はない。例えば、3枚以上のシートが袋状に接合されていても良く、また、容器本体の平面視形状は長方形である必要もない。更に、シール領域11内に形成された開口の端縁形状、位置、数などは適宜変更することができる。あるいは、シール領域11内に開口が形成されていなくても良い。また、容器本体が線状ファスナ13を有していなくても良い。
【0048】
容器1を吊り下げた状態において容器本体10内の液状物の量を目視にて判別するための目盛りが容器本体10に印刷などで設けられていても良い。この場合、本発明によれば液状物の泡立ちが少ないので、液状物の量を正確に計測することができる。
【0049】
容器本体に対するポート50の配置は上記の実施形態に限定されない。例えば、平面視形状が長方形である容器本体の4つのコーナーのうちの1つにポート50を取り付けても良い。この場合、容器1を吊り下げるための開口16は、ポート50が取り付けられたコーナーと対角位置にあるコーナーに設けることが好ましい。これにより、ポート50の開口を重力方向に沿って下向きにして吊り下げることができるので、容器本体10内の液状物を重力を利用して流出させることができる。
【0050】
また、1つの容器本体に対して2以上のポート50を設けても良い。
【0051】
ポート50の形状も用途等に応じて適宜変更することができる。例えば、管状部52に形成される通液孔51の内面形状は、上記の実施形態のような円筒面である必要はなく、例えば多角柱面(例えば、四角柱面、六角柱面など)であっても良い。把持部58を省略したり、ボート50を治具に係止しやすくするために、管状部52の外周面に適宜凸部や凹部を形成しても良い。シール部55の形状も上記の実施形態に限定されず、例えば底面が略楕円形の柱状形状を有していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の利用分野は特に制限はないが、経腸栄養法や静脈栄養法などを行う際に使用される医療用容器及びこれに用いられるポートとして好ましく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる医療用容器の概略構成を示した正面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の一実施形態にかかるポートの斜視図である。
【図2B】図2Bは、本発明の一実施形態にかかるポートの側面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の一実施形態にかかるポートの下面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の一実施形態にかかるポートの下側から見た斜視図である。
【図2E】図2Eは、図2Bの2E−2E線に沿った本発明の一実施形態にかかるポートの矢視断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態にかかる医療用容器において、ポートに流入する液状物の流れを示した断面図である。
【図4】図4は、栄養セットが接続された本発明の一実施形態にかかる医療用容器の概略構成を示した正面図である。
【図5A】図5Aは、本発明にかかるポートに設けられる架橋部の別の例の、その長手方向に垂直な面に沿った断面図である。
【図5B】図5Bは、本発明にかかるポートに設けられる架橋部の更に別の例の、その長手方向に垂直な面に沿った断面図である。
【図5C】図5Cは、本発明にかかるポートに設けられる架橋部の更に別の例の、その長手方向に垂直な面に沿った断面図である。
【図5D】図5Dは、本発明にかかるポートに設けられる架橋部の更に別の例の、その長手方向に垂直な面に沿った断面図である。
【図6A】図6Aは、従来の点滴筒用分流器の斜視図である。
【図6B】図6Bは、図6Aに示した分流器が収納された点滴筒の部分拡大断面図である。
【図7】図7は、従来の別の点滴筒を示した側面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 医療用容器(容器)
10 容器本体
11 シール領域
12a,12b シート

50 ポート
51 通液孔
52 管状部
52a,52b 管状部の下流側端縁
52a0,52b0 管状部の下流側端
53 管状部の中心軸
55 シール部
55L シール部の長軸
55S シール部の短軸
56 キャップ装着部
58 把持部
60,60A,60B,60C,60D 架橋部
61,61A,61B 板状部
62,62A,62B 衝突面
63 分割部
65,65C,65D 上流側端
66,66A,66B,66C,66D 架橋部の最大幅部
68,68A,68B,68C,68D 架橋部の下面
70 液状物
71a,71b 液状物の分流
80 栄養セット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシートが袋状に貼り合わされてなる容器本体に取り付けられて、前記容器本体内に液状物を注入し又は前記容器本体内に収納された液状物を取り出すためのポートであって、
前記液状物が通過する通液孔を備える管状部と、
前記管状部の一端側の外周面上に形成された、前記シートが貼り合わされるシール部とを備え、
前記管状部の前記シール部が設けられた側の端又はその近傍に、前記通液孔を二分割する架橋部が形成されており、
前記管状部の中心軸に沿って見たとき、前記架橋部の長手方向は、前記シール部の長軸方向と平行であることを特徴とするポート。
【請求項2】
前記架橋部は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側に向いた衝突面を備えた板状部を有する請求項1に記載のポート。
【請求項3】
前記架橋部は、前記板状部の略中央に、前記流れ方向の上流側に向かって立設された分割部を更に有する請求項2に記載のポート。
【請求項4】
前記分割部が、前記流れ方向の上流側で細く、下流側で太い楔形状を有する請求項3に記載のポート。
【請求項5】
前記架橋部の前記長手方向と垂直な面に沿った前記架橋部の断面形状は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側で細く、下流側で太い末広がり形状を有する請求項1に記載のポート。
【請求項6】
前記管状部の前記中心軸を含み且つ前記架橋部の前記長手方向に垂直な面に沿った断面図において、前記管状部の前記中心軸に垂直な方向における前記架橋部の寸法が最大となる最大幅部は、前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の前記管状部の下流側端よりも、前記流れ方向の下流側に位置している請求項1に記載のポート。
【請求項7】
前記容器本体に流入する前記液状物の流れ方向の上流側とは反対側に向いた前記架橋部の面は、滑らかな凸曲面を有する請求項1に記載のポート。
【請求項8】
可撓性を有するシートが袋状に貼り合わされてなる容器本体と、前記容器本体内に液状物を注入し又は前記容器本体内に収納された液状物を取り出すためのポートとを備えた医療用容器であって、前記ポートが請求項1〜7のいずれかに記載のポートであることを特徴とする医療用容器。
【請求項9】
前記容器本体を構成する2枚のシートが、前記シール部を、その短軸方向に挟んで貼り合わされている請求項8に記載の医療用容器。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−136619(P2009−136619A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318660(P2007−318660)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】