説明

マイクロアレイ上で多数の遺伝子発現を分析することにより、siRNAを細胞にトランスフェクトした効果を調べる方法と装置

【課題】siRNAをトランスフェクトされたとき、三次元の複雑な制御システムである細胞内で起こる変化を容易に解釈できるようにするツールと方法の提供。
【解決手段】二次元表面に分布したスポット上に存在する信号の強度を定量することによって得られる限られた数のデータを分析する。特定のRNAiの存在が細胞の主要な生存機能に及ぼす効果と、トランスフェクトすることによって、または細胞内にRNAiが存在することによって起こりうる副作用または有害な効果を観察することができる。少なくとも5つの細胞生存機能と3つの有害な機能に属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質を備えるアレイを使用して細胞の三次元状態の変化を明らかにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、siRNAをトランスフェクトしたときに細胞に起こる遺伝子発現の変化を分析する分野に関する。本発明により、特定のRNAiが存在していることが細胞の主要な生存機能に及ぼす効果を観測することと、siRNAをトランスフェクトしたときに生じたり、細胞内にRNAiが存在していることによって生じたりする可能性のある副作用または有害な効果を観測することができる。本発明は、特に、1つの細胞の全体的状態の変化を定量的に測定する方法とキットに関する。本発明は、特に、細胞の三次元状態の変化を測定する方法であって、少なくとも5つの細胞生存機能と3つの有害な機能に属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質を含んでいて、その機能を少なくとも20種類の遺伝子またはタンパク質によって表面上に代表させてあるアレイを、トランスフェクトされた特定の細胞に由来するサンプルと接触させる操作を含んでおり、細胞サンプルがスポットに結合することによって得られたパターンが、細胞の状態変化を示している方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21〜23ntの二本鎖RNA(dsRNA)分子(短いRNA、siRNA)が、コグネイトRNA転写産物の配列特異的な開裂を通じて標的遺伝子を沈黙させることができるという発見により、RNA干渉(RNAi)メカニズムに基づいた技術が、遺伝子の機能を分析したり、治療効果を得たりするのに急速に採用されるようになった(Jackson他、Nat. Biotechnol.、第21巻(6)、2003年、635〜637ページ;Semizarov他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第100巻(11)、2003年、6347〜6352ページ;Chi他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第100巻(11)、2003年、6343〜6346ページ)。
【0003】
細胞内にsiRNAをトランスフェクトする方法がいくつかの提案されている。アメリカ合衆国特許第6,506,559号には、dsRNAを生きた細胞に導入し、その細胞内で標的遺伝子の発現を抑制する方法が説明されている。抑制は、RNAの二本鎖領域のヌクレオチド配列と標的遺伝子の一部のヌクレオチド配列が同じという点で、配列特異的である。
【0004】
WO 02/44321には、標的となるmRNAを効果的に開裂させるための、19〜25ヌクレオチドからなり、3'末端が張り出している化学合成した二本鎖siRNAが提示されている。
【0005】
WO 03/006477には、遺伝子サイレンシングを誘導する別の方法が開示されている。ここには遺伝子操作したdsRNA前駆体が提示されていて、それが細胞内で発現すると、その細胞によってその前駆体が処理されて、siRNAが作り出される。そしてそのsiRNAが、その細胞自身のRNAi経路を利用して標的となる遺伝子を選択的に沈黙させる。
【0006】
アメリカ合衆国特許出願第20020173478号と第20030084471号には、RNAiを哺乳動物(その中には、ヒト細胞やヒト細胞系も含まれる)の細胞に適用できることが示してあると同時に、ヒト患者に投与するための分子が提案されている。
【0007】
RNAi経路の活性を変化させる別のいろいろな方法も報告されている。WO 01/29058には遺伝子が提示されていて、その遺伝子の発現産物がRNAiのメディエータとして関与する。RNAiは、遺伝子の発現を抑制するのに保存された一群の細胞因子を必要とする。これらの因子は、RNAi経路の構成要素(例えばRDE-1、RDE-4)であり、干渉に必要な活性を提供する。その活性は、多くのタイプの細胞で、欠如していたり、RNAiを誘導するのには十分でなかったりすることがある。
【0008】
RNAiを応用する上で非常に重要な1つの仮定は、siRNAが細胞に及ぼす効果が特異的であるというものである。すなわち、その効果が、標的遺伝子の特異的ノックアウトに限定されていることである。
【0009】
siRNAによって誘導される遺伝子サイレンシングの効果と特異性に焦点を絞った論文が3つ出版されている。遺伝子サイレンシングは高密度アレイ上で実施され、単一の遺伝子に対するさまざまなsiRNAをトランスフェクトした細胞でその遺伝子の広範な発現プロファイルが得られた。
【0010】
Jacksonら(Nat. Biotechnol.、第21巻(6)、2003年、635〜637ページ)は、21,000個のヒト・プローブを含む高密度マイクロアレイ上で遺伝子の発現プロファイルを得ることにより、培養したヒト細胞においてsiRNAによる遺伝子サイレンシングの特異性の特徴を明らかにした。転写産物のプロファイルから、標的特異的ではなくてsiRNA特異的な特徴が明らかになった。それは、例えば、siRNAと一致する連続したヌクレオチドをわずか11個しか含んでいない非標的遺伝子の直接的なサイレンシングである。この結果は、siRNAが、配列があまり類似していない標的とも交差反応する可能性のあることを示している。
【0011】
Semizarovら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第100巻(11)、2003年、6347〜6352ページ)は、12,000個の遺伝子とESTを含むマイクロアレイ上の遺伝子発現プロファイルを利用し、siRNAの特異性を明らかにした。3つの異なる標的について、同じ標的遺伝子の異なる領域に対するいくつかのsiRNAが設計された。そのsiRNAが細胞に及ぼす効果がDNAマイクロアレイを用いて比較され、遺伝子発現のシグネチャーが得られた。siRNAの設計条件とトランスフェクション条件を最適化すると、同じ標的に対する異なるsiRNAのシグネチャーは互いに非常に密接に相関するのに対し、異なる遺伝子のシグネチャーは互いに相関しないことがわかった。この結果は、siRNAが、標的遺伝子のノックアウトに関する極めて特殊なツールであることを示している。そこでsiRNAを媒介とした遺伝子サイレンシングが、遺伝子の機能と薬剤の標的を評価することを目的とした大規模スクリーニングのための信頼性のある方法として確立する。
【0012】
Chiら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第100巻(11)、2003年、6343〜6346ページ)は、ユニジーンのデータに基づいて36,000個の遺伝子に対応する43,000個のエレメントを含むマイクロアレイでゲノム全体の発現プロファイルを調べることにより、一時的または安定的に発現しているmRNAの遺伝子サイレンシングがsiRNAによって誘導されるときに極めて遺伝子特異的であることと、検出可能な副作用は生じないことを示した。
【0013】
これら3つの研究では、RNAiによる遺伝子サイレンシングの副作用が研究されていない。
【0014】
siRNAを媒介としたRNAiをゲノミクスの有効なツールとして利用する際の重要な1つの仮定は、標的遺伝子のノックアウトが、RNAとタンパク質の両方のレベルで特異的であるというものである。文献に見られる多くの報告には、siRNAの特異性が極めて大きいことが記載されている。これは、siRNA配列とほぼ完全に一致している必要があることを示している。しかしsiRNAによって誘導される遺伝子サイレンシングについて公にされているたいていの分析では、標的とする遺伝子に加えてほんの1個か数個の遺伝子しか調べていない。siRNA配列と一部が一致する転写産物との交差ハイブリダイゼーションにより、標的遺伝子に加え、望まない転写産物のサイレンシングを反映した表現型が選択される可能性がある。
【0015】
遺伝子のスクリーニングにsiRNAを利用する際の潜在的な1つの問題点は、siRNAが必ずしも完全に標的特異的ではないことである。“標的を外れる”副作用がいくつか報告されている。それは、たいていの場合、意図していない標的とsiRNAが部分的に一致していることに原因がある。たとえRNAiが標的以外に及ぼす効果はわずかであるにせよ、例えばアンチセンスRNA法とは異なり、siRNAによって生じたとされる表現型を、同じ転写産物に対する他の独立なsiRNAを用いて確認せねばならないことがしばしばある。興味の対象である遺伝子を必要なだけ抑制するのに効果があると考えられる多数の配列があるという理由によっても作業量は増える(Scacheri他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第101巻(7)、2004年、1892〜1897ページ)。望む効果を得るにはいくつかのRNAiを調べる必要がある。そのことを目的として、多重RNAiスクリーニングが開発されている。アメリカ合衆国特許出願第2004/0214181号では、支持体上に固定化された複数のRNAi配列を含むアレイを用い、有効なほとんどの配列をスクリーニングすることが提案されている。
【0016】
siRNAの存在により、望まない効果、または非特異的な効果が生じる可能性もある。siRNAは、一部が相補的なmRNAの集合を非特異的に沈黙させることができる。最近のある報告において、siRNAが特定の遺伝子を沈黙させるというよく知られている能力に加え、哺乳動物の遺伝子発現に関する広範な非特異的な効果も存在していることが示されている。興味深いことに、いくつかの遺伝子では発現が増大したのに対し、他の遺伝子では発現が低下した(Persengiev他、RNA、第10巻、2004年、12〜18ページ)。RNAiの有効性は、dsRNAによって開始される元々の免疫応答によって制限されていた。長いdsRNAはIFN型応答を誘導し、その結果としてPKR経路によるタンパク質の翻訳が抑制され、RNアーゼLが活性化される。この応答により、遺伝子の発現が全体的に抑制され、細胞の生理状態が顕著に変化する。しかしsiRNAはIFN型応答を誘導するには短すぎるとはいえ、哺乳動物の細胞においてsiRNAによって誘導される遺伝子サイレンシングの特異性を系統的に調べることはこれまでなされてこなかった。例えばsiRNAが別の抗ウイルス・メカニズムを発動させて細胞の生理状態を顕著に変化させることができるかどうかはわかっていないし、外来性siRNAを導入することにより、内在性miRNAが影響を受ける可能性があるかどうかや、miRNAが制御する遺伝子のプロセシングおよび調節が影響を受ける可能性があるかどうかもわかっていない(Chi他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第100巻(11)、2003年、6343〜6346ページ)。
【0017】
最近のある報告において、siRNAが特定の遺伝子を沈黙させるというよく知られている能力に加え、哺乳動物の遺伝子発現に関する広範な非特異的な効果も存在していることが示された。観察された非特異的効果は、dsRNAが、PKR(例えば、細胞接着、代謝、サイトカインによるシグナル伝達、細胞外マトリックス)以外の経路を通じて遺伝子の発現に影響を与える可能性があることを示している(Persengiev他、RNA、第10巻、2004年、12〜18ページ)。この非特異的効果は、siRNAを媒介とした機能喪失実験を設計する際に考慮すべきである。
【0018】
siRNAは、長い(30bp超)dsRNAを導入した後に起こるのと同様の抗ウイルス応答、すなわち(プロテインキナーゼRの活性化と、それに続くEIF2aのリン酸化による)タンパク質の合成阻止と(RNアーゼLの活性化による)RNAの非特異的分解を通じた応答を開始させることにより、非特異的な遺伝子サイレンシングを誘導することもできる。
【0019】
他の非特異的効果は、IFN応答遺伝子の誘導に関係しているが、IFN様効果は、IFNが存在しているときと正確に同じではない場合がある(Bridge他、Nat. Genet.、第34巻(3)、2003年、263〜264ページ)。他の非特異的効果は、多数の関連した細胞経路や関連していない細胞経路におけるアポトーシス経路(例えばp53やp21)機能とも関係している。そこでこれらの遺伝子は、siRNAを媒介として標的以外に対して及ぼされる直接的または間接的な効果の非常に感度のよい検出器として機能する可能性がある(Scacheri他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第101巻(7)、2004年、1892〜1897ページ)。
【0020】
RNAiの効果を研究するために3000を超える高密度のチップを利用するという方法は、大量のデータを取り扱う必要があり、しかもその一部は答えるべき疑問とは関係がないという問題に直面している。そのため、高価かつ複雑なこのツールは、スクリーニングの目的にはあまり適していない。高密度のチップは、アレイが複雑になって個々のプローブを最適化することが難しいため、遺伝子の測定の定量化にも問題がある。
【0021】
さらに、市販されている高密度DNAマイクロアレイは数千個の捕獲プローブを搭載しているため、それだけ大量の配列を合成することになり、その配列を精製し、定量し、固体支持体上に固定するのは非常にコストがかかる。したがってこの“高密度”DNAマイクロアレイは、基礎分野の研究者にとっては、さまざまな組織がいろいろな段階で正常な成長または異常な成長をするときにその組織内で調節される潜在的に新しいmRNAを同定する手段になりうるが、日常の研究活動で定型的な分析をするのに使用できるツールが欲しいという研究者の要望に十分に応えるだけのデータ/価格比は提供できない。
【0022】
細胞内にRNAiが存在することによる非特異的な副作用を検出するための定量的研究を低密度マイクロアレイで実施でき、しかも主要な細胞機能の研究とは無関係にその研究ができるということは、これまでに報告されたことも、言及されたこともない。
【0023】
したがって、細胞内にRNAiが存在していることによって誘導される副作用を検出するとともに、所定のRNAiが存在していることによって1つの遺伝子が抑制された後の多数の遺伝子間の複雑な調節関係を理解する方法と手段が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の問題は、細胞にsiRNAをトランスフェクトした効果を、特異的なRNAi効果と非特異的なRNAi効果を測定することによって測定および/または定量する方法とツールを提供することで解決された。この方法は、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分をアレイと接触させるステップと、捕獲分子に関する信号の強度を検出および/または定量するステップと、トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、結合イベントのパターンおよび/または強度が、トランスフェクトされた細胞内にsiRNAが存在することによる潜在的に有害な非特異的副作用を示している。
【0025】
本発明により、細胞内でのsiRNAのトランスフェクション効果を、1回のアッセイで特異的なRNAi効果と非特異的なRNAi効果を測定することによって測定および/または定量する方法とツールも提供される。この方法は、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子と、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達/受容体、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子という細胞生存機能のうちの少なくとも4つに属する、またはそれらを示す少なくとも1つの核酸またはタンパク質とが基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分をアレイと接触させるステップと、捕獲分子に基づく信号の強度を検出および/または定量するステップと、トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、結合イベントのパターンおよび/または強度が、siRNAが存在しているために細胞の生存機能に関する特定の遺伝子の発現が抑制されたことの効果と、トランスフェクトされた細胞内にsiRNAが存在することによる潜在的に有害な非特異的副作用の効果を示している。
【0026】
実際、本発明では、上記の主要な細胞生存機能のうちの少なくとも4つに関係する遺伝子の発現またはその遺伝子の産物と相関関係のある限られた数のシグナルの強度をアレイの二次元表面上で分析することにより、細胞内で起こる変化を定量的に概観することができる。少なくとも4つの生存機能をこのように全体評価することにより、不可欠なこれら機能の関係を、相互間で、または他の特定の機能と結びつけて再構成できることがわかった。
【0027】
本発明では、siRNAが標的とする遺伝子を検出するための捕獲分子を含むアレイを用いることが好ましい。
【0028】
表の簡単な説明
【0029】
表1には、siRNAをトランスフェクトした細胞で非特異的効果機能を測定するためにアレイ上に存在している93個の遺伝子のリストを示してある。この表は、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの経路について、経路ごとにまとめたものである。
【0030】
表2は、アレイ上の274個の遺伝子を、標的とする非特異的機能(アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答)と、生存機能(細胞接着、細胞周期、細胞のシグナル伝達/受容体、細胞構造、染色体プロセシング、増殖因子/サイトカイン、中間代謝、細胞外マトリックス、酸化代謝、タンパク質代謝、転写)に従って分類したものである。この表には、他のカテゴリー(細胞分化、循環、脂質代謝、腫瘍形成、腫瘍抑制、ストレス応答、プロテアソーム、ハウスキーピング遺伝子)に属するいくつかの遺伝子も掲載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
定義
【0032】
本発明では、“生存機能”または“細胞生存機能”という用語は、細胞の生存、分化、増殖にとって不可欠な細胞機能を意味する。そのような生存機能の具体例は、一般に、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質の代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子を含むグループの中から選択される。
【0033】
“発現した遺伝子”という表現は、ゲノムDNAのうちで、mRNAに転写された後にペプチドまたはタンパク質に翻訳される部分である。発現した遺伝子の測定は、このプロセス中にいずれかの分子について行なわれ、最も一般的には、mRNAの検出か、ペプチドまたはタンパク質の検出がなされる。検出は、タンパク質の特定の性質(例えばそのタンパク質の酵素活性)に基づいて行なうこともできる。
【0034】
“RNAi非特異的効果機能”という表現は、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答(例えばいくつかの増殖因子やサイトカイン)に関係する細胞機能である。これらの機能に関係する遺伝子のリストを表1に示してある。
【0035】
“発現した遺伝子”という表現は、ゲノムDNAのうちで、mRNAに転写され、場合によってはその後翻訳されて(ポリ)ペプチドまたはタンパク質になる領域である。本発明によれば、発現した遺伝子の測定は、いずれかの分子について、特にmRNAの検出、あるいは(ポリ)ペプチドまたはタンパク質の検出を通じて行なわれる((ポリ)ペプチドとタンパク質は、今後は同じ意味で用いる)。測定は、タンパク質の特定の性質(例えばそのタンパク質の酵素活性)に基づいて行なうこともできる。
【0036】
“核酸、アレイ、プローブ、標的核酸、実質的に結合する、特異的にハイブリダイズする、バックグラウンド、定量する”といった表現は、WO 97/27317に記載されており、その内容が参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。特に、“アレイ”という用語は、支持体上に固定化された所定数の捕獲プローブを意味する。最も一般的なアレイは、単一の支持体上の所定の位置にある複数の捕獲プローブからなる(その支持体は、捕獲プローブが結合する基板である場合とそうでない場合がある)。しかし複数の支持体上に存在する捕獲プローブも、異なる標的分子が個々に検出および/または定量されるのであれば、アレイと考えられる。
【0037】
特に、“特異的にハイブリダイズする”という表現は、ある分子が、ストリンジェント条件下で、多成分混合物(例えば細胞のDNAまたはRNAのすべて)の中に存在している特定のヌクレオチド配列と優先的に結合する、または二本鎖を形成する、またはハイブリダイズすることを意味する。“ストリンジェント条件”という表現は、あるプローブが標的配列と優先的にハイブリダイズし、他の配列とはそれよりも少ない割合でハイブリダイズするか、まったくハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェント条件は配列によって異なるため、状況が異なると違ってくることになる。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。
【0038】
一般に、ストリンジェント条件は、所定のイオン強度とpHにおける特定の配列の融点(Tm)よりも約5℃低い温度になるようにする。Tmは、(所定のイオン強度、pH、核酸濃度のもとで)標的配列と相補的なプローブの50%が平衡状態において標的配列とハイブリダイズする温度である(標的配列はTmにおいて一般に過剰に存在しているため、平衡状態においてプローブの50%が占有される)。一般に、ストリンジェント条件とは、塩の濃度が、pH7.0〜8.3においてNaイオンの濃度にして少なくとも約0.01〜1.0Mであり、温度が、短いプローブ(例えば10〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃である条件である。ストリンジェント条件は、不安定化剤(例えばホルムアミド)を添加して実現することもできる。
【0039】
“ヌクレオチド三リン酸”という用語は、DNAまたはRNAに存在するヌクレオチドを意味する。したがってこの用語には、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシルが塩基として含まれていて、糖の部分はデオキシリボースまたはリボースであるヌクレオチドが含まれる。一般的な塩基であるアデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシルのうちの1つと塩基対を形成できる修飾された他の塩基も用いることができる。修飾されたそのような塩基としては、例えば8-アザグアニンとヒポキサンチンがある。
【0040】
この明細書では、“ヌクレオチド”という用語は、核酸(DNAまたはRNA)に存在するヌクレオシドと、その核酸の塩基の両方を意味する。その中には、上記の通常の塩基や修飾された塩基を含むヌクレオチドも含まれる。
【0041】
ヌクレオチドやポリヌクレオチドなどには、糖-リン酸骨格が修飾および/または置換された類似種が含まれるが、その糖-リン酸骨格のハイブリダイゼーション特性が破壊されていないことが条件となる。例えば骨格は、同等な合成ペプチド(ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる)で置換することができる。
【0042】
この明細書に記載した1つ以上の遺伝子と相補的な“ポリヌクレオチド”配列とは、ストリンジェント条件下でその遺伝子のヌクレオチド配列の少なくとも一部とハイブリダイズできるポリヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドには、特別な条件で使用できるオリゴヌクレオチドも含まれる。ハイブリダイズ可能なそのようなポリヌクレオチドは、一般に、ヌクレオチドのレベルでその遺伝子と配列が少なくとも約75%一致する。その遺伝子との一致は、約80%または約85%であることが好ましく、約90%、または約95%、またはそれ以上であることがより好ましい。ポリヌクレオチドは、一般に、長さが15〜30塩基の短い配列、あるいはより長い30〜100塩基または100〜300塩基の配列からなる。
【0043】
“捕獲プローブ”という用語は、所定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに特異的に結合することのできる分子に関係する。ポリヌクレオチドの結合は、2つのポリヌクレオチド間の塩基対形成を通じて起こる。そのときの一方のポリヌクレオチドは固定化された捕獲プローブであり、他方は検出される標的である。ポリヌクレオチドの結合は、所定のポリペプチドまたはタンパク質を捕獲するためのポリペプチドに対して特異的な抗体を用いると最もうまくいく。捕獲プローブとしては、抗体の一部を用いること、または抗体の一部(一般に可変領域)が組み込まれた組み換えタンパク質を用いることができ、ペプチドを特異的に認識できるタンパク質さえ、捕獲プローブとして使用できる。本発明の意味での“捕獲プローブ”という用語は、支持体の表面上にその場で化学的に合成する遺伝子、またはその支持体の表面に載せる遺伝子、またはさまざまな長さの部分遺伝子(例えば10〜150ヌクレオチド)を意味する。さらに、この用語は、支持体上に付着または吸着しているポリペプチドまたはその断片、または特定のポリペプチドに対する抗体も意味する(ポリペプチドと抗体は同じ意味で用いる)。
【0044】
“単一捕獲ヌクレオチド種”という表現は、塩基対形成ハイブリダイゼーションによって所定の配列を検出するための、関連した複数のヌクレオチドからなる組成物である。ヌクレオチドは、化学的に合成されるか、酵素を用いて合成されるが、合成は必ずしも完全ではなく、主要な配列は、より短い関連した他の配列や、ヌクレオチドが1個または数個だけ異なる配列によって汚染されている。本発明のための単一ヌクレオチド種の重要な性質は、所定の遺伝子に属する所定の配列を捕獲するのにその種全体を使用できることである。
【0045】
“ハイブリダイズした核酸”は、一般に、サンプル核酸に付着させた1つ以上の“標識”を検出することによって検出される。標識は、当業者によく知られている多数ある手段(例えばWO 99/32660に詳しく記載されており、その内容が参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)のうちの任意の手段で組み込むことができる。
【0046】
siRNA分子を細胞に導入したときに標的遺伝子の選択的遺伝子サイレンシングを超えて起こる広範かつ複雑な副作用を理解するため、本発明により、関係するカギとなる遺伝子の発現の違いを分析する方法とツールが提供される。より詳細には、本発明により、アポトーシス、インターフェロン型応答、DNA修復/合成に関する経路または活性にRNAiが及ぼす副作用を明らかにすることができる。
【0047】
本発明により、siRNAを用いた治療が原因で遺伝子が特異的に抑制されたことの影響を受けるいくつかの経路の遺伝子を分析する方法とツールも提供される。本発明により、限られた数のデータを用い、RNAiの影響を受ける重要な経路の視覚化と、siRNA特異的作用の視覚化がなされる。より詳細には、本発明により、分析するそれぞれの生体条件下で少なくとも4つの細胞生存機能に起こる変化に基づき、細胞の全体的な状態/性能がわかる。
【0048】
本発明の一実施態様により、所定の遺伝子を抑制する効率を向上させるsiRNAの配列をよりよく設計することが可能になる。
【0049】
本発明の別の一実施態様により、非特異的副作用を示さないsiRNAをスクリーニングすることができる。より詳細には、siRNAが興味の対象である遺伝子以外の遺伝子と反応して間違った陽性結果が生じることを避けられる。
【0050】
信頼性のある簡単な研究ツールまたは診断ツールを提供するためには、所定の限られたツールを用いて3つの非特異的効果機能(アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答)に関係するさまざまな細胞機能を調べる必要があることや、それと合わせて細胞生存機能とハウスキーピング遺伝子の定量を行なう必要があることことは、従来のどの文献にも記載されていない。
【0051】
別の一実施態様で本発明の発明者によって提供されるのは、特定の細胞のアポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答のうちの少なくとも2つの機能に起こる変化を考慮するとともに、少なくとも4つの生存機能に起こる変化に基づいて細胞の全体的な状態/性能を分析するツールである。
【0052】
本発明の別の一実施態様によれば、本発明の方法を実施するためのキットも提供される。この方法とキットは、細胞が置かれている特定の条件下で起こる遺伝子発現の変化を分析するのに適している。
【0053】
したがって、細胞の状態/性能の描像を得るためには、細胞のすべての遺伝子/遺伝子産物を調べる必要はなく、細胞に対するRNAiの非特異的効果機能に関係するほんのいくつかの遺伝子または遺伝子産物だけを調べればよく、場合によってはそれに加えて細胞の生存機能に関係する遺伝子を調べればよいことが見いだされた。分析すべき主要な非特異的効果機能と、生存に特徴的な遺伝子についてこれから説明する。3つの非特異的効果機能に関係する主要な遺伝子のリストを表1に示してあり、非特異的効果機能と生存機能の両方に関する全遺伝子のリストを表2に示してある。
【0054】
A)非特異的効果機能
【0055】
1.アポトーシス
【0056】
生は死を必要とする。望ましくない細胞の除去は、胚発生、変態、組織の代謝回転にとっても、免疫系が発達して機能する上でも、極めて重要である。そのため哺乳動物の成長は、細胞の増殖と分化によってだけでなく、細胞の死によっても厳格に調節されている。成長の間または組織の代謝回転の間に起こる細胞死は、プログラムされた細胞死と呼ばれ、そのほとんどはアポトーシスを通じて進行する。アポトーシスは、物理的または化学的な媒体によって起こる突発的な細胞死の間に起こる壊死とは形態で区別される。アポトーシスの間、侵された細胞の細胞質は凝縮し、核も凝縮し、断片化する。アポトーシスの最終段階では、細胞自身が断片化し(アポトーシス小体)、近くにいるマクロファージや顆粒球によって食べられる。
【0057】
アポトーシス、すなわちプログラムされた細胞死は、多彩な刺激(例えば、FASなどの細胞表面受容体、ストレスに対するミトコンドリアの応答、細胞傷害性T細胞から放出されるさまざまな因子)がトリガーとなる。アポトーシスは、不要な細胞、老化した細胞、損傷を受けた細胞の除去を、Bcl-2ファミリーのアポトーシス促進タンパク質または抗アポトーシス・タンパク質同士の相互作用によって調節するシステムからなる。アポトーシス促進タンパク質であるBax、Bad、Bid、Bik、Bimは、抗アポトーシス・タンパク質であるBcl-2やBcl-XLの疎水性BH3結合ポケットにフィットするα-螺旋BH3死ドメインを備えており、両者がフィットするとBcl-2やBcl-XLの生存促進活性を阻止するヘテロ二量体が形成される。したがってアポトーシス促進タンパク質と抗アポトーシス・タンパク質の相対量が、プログラムされた死に対する細胞の感受性を決める。アポトーシス促進タンパク質は、ミトコンドリアの膜表面で作用してミトコンドリアの膜貫通電位を低下させ、シトクロムcが漏れ出すのを促進する。dATPの存在下ではシトクロムcがApaf-1と複合体を形成してApaf-1を活性化する。活性化したApaf-1は下流のカスパーゼ(例えばカスパーゼ-9)と結合し、そのカスパーゼをタンパク質分解活性のある形態にする。するとカスパーゼ・カスケードが開始されてアポトーシスに至る。
【0058】
カスパーゼには、一群のシステイン・プロテアーゼが含まれ、そのうちの多くがアポトーシスに関与している。カスパーゼは、タンパク質分解カスケードにおいてアポトーシスの信号を運んで他のカスパーゼを開裂させて活性化させる。するとその活性化したカスパーゼが細胞標的を分解し、細胞を死に至らしめる。活性化させるカスパーゼとしては、カスパーゼ-8とカスパーゼ-9がある。カスパーゼ-8は、FADDと相互作用する死ドメインを有する受容体に応答して活性化される最初のカスパーゼである。ミトコンドリアのストレス経路は、ミトコンドリアからシトクロムcが放出されることによって始まり、そのシトクロムcがApaf-1と相互作用して自己開裂を引き起こし、カスパーゼ-9を活性化させる。エフェクター・カスパーゼ、カスパーゼ-3、カスパーゼ-6、カスパーゼ-7は、アクチベータ・カスパーゼの下流にあり、さまざまな細胞標的を開裂させる。細胞傷害性T細胞から放出されるタンパク質であるグランザイムBとパーフォリンは、膜貫通孔を形成し、おそらく開裂を通じてアポトーシスを開始させることにより、標的細胞内でアポトーシスを誘導する。カスパーゼとは独立で、グランザイムBを媒介としたアポトーシスのメカニズムが提案されている。
【0059】
本発明によれば、アポトーシスにおけるチェックポイント遺伝子であることがわかった25個の遺伝子(またはタンパク質)を、アポトーシス経路の好ましい代表として選択された。それは、BAD、BAX、BCL2、BCLX、BID、CASP2、CASP3、CASP7、CASP8、CASP9、ABL1、ADAM17、CASP1、CASP10、CYCS、E2F1、FADD、FASN、GSTT1、IGF2、IGFBP4、JUN、LTA、MAPK1、MAPK3であり、表1にリストにしてある。
【0060】
2.インターフェロン型応答
【0061】
病原性ウイルスの感染に対する生体の最初の応答の1つは、抗ウイルス・サイトカイン(例えばタイプIのインターフェロン(インターフェロン-α/β))、インターロイキン、他の炎症促進性サイトカインやケモカインの合成である。インターフェロンはウイルス感染に対する最初の防御線であり、ウイルスの複製を制限するとともに、ウイルス性病原体が存在することを免疫応答の適応アームに伝達する環境を細胞内に作り出す。インターフェロンは、局所環境内の細胞を刺激し、抗ウイルス活性、抗増殖活性、免疫調節活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子でインターフェロンによって刺激されるもののネットワークを活性化する。
【0062】
インターフェロンγによってシグナルが伝達されると、ヘテロ二量体インターフェロンγ受容体を通じて抗ウイルス応答と腫瘍抑制が刺激される。シグナル伝達は、インターフェロンγが対応する受容体と結合することによって開始され、受容体関連JAK2チロシンキナーゼを活性化して、インターフェロン応答遺伝子を活性化するSTAT転写因子をリン酸化する。タンパク質の折り畳みの調節または変化に関する分子シャペロンは、インターフェロン・シグナル伝達経路のさまざまな要素と相互作用する。インターフェロンによるシグナル伝達を調節する1つのシャペロンは、hTid-1である。hTid-1は、DnaJファミリーのシャペロンのメンバーであり、しかも別の分子シャペロンである熱ショック・タンパク質Hsp70の補シャペロンでもある。hTid-1は、JAK2に結合させる2ハイブリッド・スクリーニングにおいて見いだされた。hTid-1は、インターフェロンγ受容体とも相互作用する。さらに、hTid-1とJAK2は、Hsp70とも相互作用する。インターフェロンを細胞に添加したとき、hTid-1が過剰発現するとインターフェロンγによって転写活性が抑制され、Hsp70がこれらタンパク質から解離する。これは、リガンドが活性化する前はHsp70がJAK2を不活性な立体配座にしていて、アゴニストの存在下でHsp70が放出されると、JAK2および下流経路の活性化が可能になることを示している。
【0063】
インターフェロンの1つの作用は、感染した標的細胞のアポトーシス誘導の一部を、ミトコンドリアに依存したメカニズムを通じて行なうことである。インターフェロンによって伝達されるシグナルとHsp70が相互作用すると、このミトコンドリア・アポトーシス経路が変化する可能性がある。この経路は、感染した細胞または形質転換された細胞のアポトーシスがインターフェロンを媒介として起こるときにおそらくある役割を演じている。Hsp70と相互作用するHTLV-1 Taxタンパク質は、ミトコンドリアによって誘導されるアポトーシスを阻止し、インターフェロンを媒介とした細胞防御から保護する。
【0064】
本発明によれば、アポトーシスにおけるチェックポイント遺伝子であることがわかった37個の遺伝子(またはタンパク質)を、インターフェロン型応答経路の好ましい代表であるとして選択した(表1)。それは、B2M、C2、CNP、DUSP1、ENO1、ENPP1、FCER1G、G1P3、GEM、HLA-C、IFIT2、IFITM1、IFITM2、IFNAR1、IRF1、JAK1、JAK2、KLK3、MET、MX1、MYC、NRG1、NYREN18、OAS1、OAS2、OAS3、PLA2G1B、PML、PRAME、SH2D1A、SLC1A2、SPP1、STAT1、TAP1、TNFSF10、UBE2L6、WARSである。
【0065】
3.DNA複製/修復
【0066】
あらゆる種においてmDNAの複製は非常によく調節されており、極めて正確なプロセスである。細胞内では、複製を行なう上で多数のタンパク質が極めて重要な役割を果たしている。複製における中心的な役割はさまざまなDNAポリメラーゼが演じており、DNAポリメラーゼにより、新しいDNA鎖を一度にヌクレオチド1個ずつ合成するという仕事がなされる。ポリメラーゼα(ラギング鎖レプリカーゼ)は、プライマーゼ活性を持っており、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性のプルーフ・リーディングを行なわない。ポリメラーゼδ(リーディング鎖レプリカーゼ)は、プライマーゼ活性を欠いているが、3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を持っている。増殖細胞核抗原(PCNA)は処理特性を向上させる。DNAポリメラーゼは、RNAプライミング(プライマー・ギャップ)のために染色体の5'末端の先端を複製することができない。染色体の末端、すなわちテロメアは、テロメラーゼと呼ばれるポリメラーゼによって合成される短い反復配列からなる。テロメラーゼは逆転写酵素であり、テロメア型反復を染色体の末端すなわちテロメアに新たに付加することで、“末端複製の問題”によって起こるテロメアの喪失を補償する。テロメラーゼは、触媒性サブユニットであるTERT(テロメラーゼ逆転写酵素)とRNA要素であるTerc(テロメラーゼRNA)を含んでいる。Tercは、新しいテロメア型反復を付加するときにテロメラーゼが鋳型として利用する配列を含んでいるため、酵素活性にとって不可欠である。テロメラーゼによってテロメアの長さが維持されることは、染色体の安定性と細胞の生存にとって不可欠であり、その長さ維持が、腫瘍形成と老化の両方で重要な役割を果たしている。反復されているテロメアが失われることは、複製の老化と因果関係で結びついている。そのことは、テロメラーゼという酵素が過剰発現することでテロメアが伸長したり維持されたりした結果として、二倍体と明らかに正常な核型とを有する体細胞の不死化が起こることで証明される。実験的証拠は、短いテロメアの蓄積によって老化が起こることと、複製の老化は、最初のテロメアが臨界的な最小閾値の長さに到達することによって始まるのではないことを示している。これらの観察結果は、テロメラーゼに依存したDNA修復経路またはテロメラーゼとは独立のDNA修復経路による短いテロメアの修復は限定的であることと整合性がある。テロメアが修復されないと、老化が加速するとともに、遺伝子の不安定性が起こって悪性トランスフォーメーションが容易になる可能性がある。
【0067】
複製の間に起こるエラーや、DNAポリメラーゼによって訂正されるエラーとは異なり、複製後に起こる塩基に対する損傷はさまざまであり、細胞の一生を通じて起こる。DNAを損傷させる媒体としては、DNAの中にピリミジン二量体を生成させるUV照射がある。UV光によって誘導される損傷は光生成物を作り出し、それがシクロブタン(チミン-チミン)二量体を形成する。
【0068】
遺伝情報の正確な伝達は、主に、DNAが非常に忠実に複製されることと、染色体が正確に分離して娘細胞に均等に分布することに依存している。それに加え細胞は、多彩な損傷に対処する必要がある。損傷としては、自発的なDNA損傷(例えば反応性酸化種によって起こる損傷)や、誘導されるDNA損傷(UVやイオン化照射線、遺伝子に対する毒性のある種に曝露されることによる損傷)がある。遺伝情報を非常に忠実に伝達するため、細胞は、DNA損傷チェックポイント経路と呼ばれる複雑な調節ネットワークを進化させてきた。この経路は、DNAの複製中に起こる可能性があるDNAの損傷が存在しているときに活性化される。DNAに損傷があることは、センサーが認識する必要がある。センサーは、シグナル伝達経路のネットワークを通じ、下流にある一連のエフェクター分子にシグナルを伝達する。DNAの損傷源が何であり、細胞のタイプが何であり、細胞周期のどの段階であり、損傷がどこに起こったかに応じ、細胞は、異なったやり方でそのDNAの損傷に対応することができる。そのやり方とは、(1)その損傷を除去するためにDNAの修復を開始させる、あるいは(2)一時的に細胞周期の進行を停止させる、あるいは(3)その損傷が不可逆的である場合には、細胞死を誘導して傷んだ細胞を除去する、というものである。DNA損傷チェックポイント経路に先天的な欠陥または後天的な欠陥があると、ゲノムが不安定になり、がんの発症または進行が大いに促進される(Christmann他、Toxicology、第193巻、2003年、3〜34ページ;Sancar他、Annu. Rev. Biochem.、第73巻、2004年、39〜85ページ)。DNA損傷チェックポイント経路は、センサーと、トランスデューサと、エフェクターとからなるシグナル伝達経路(または互いに相互作用する経路のネットワーク)として記述することができる。しかし保存された4つのタンパク質が、DNA損傷センサーの潜在的な候補である。なぜならそのタンパク質はDNAと相互作用し、DNA損傷応答経路の活性化に不可欠だからである(O'Connell他、Trends Cell. Biol.、第10巻(7)、2000年、296〜303ページに概説)。シゾサッカロミセス・ポンベでは、そのうちの3つ(Rad9、Hus1、Rad1)が、スライディング・クランプ・タンパク質である増殖細胞核抗原(PCNA)と相同性のあるヘテロ三量体複合体(9-1-1複合体)を形成する。PCNAは十分に大きなリングを形成するため、二本鎖DNAの上を滑る。PCNAとの類推から、9-1-1複合体がDNAの上を滑り、DNA損傷に関するゲノムを連続的に走査することが示唆されている。4番目の保存されたチェックポイント要素は、複製因子C(RFC)のサブユニットと相同性のあるRad17(やはりシゾサッカロミセス・ポンベでの名称を用いる)である。RFCはDNAの上にPCNAを組み立てるという提案がなされているため、Rad17は、9-1-1複合体の上流で作用し、9-1-1複合体をDNAにロードするのを助けると考えられている(図0-1)。さらに、修復複合体は、DNAの損傷の感知と伝達に関係している。シゾサッカロミセス・ポンベでは、修復複合体Mre11-Rad50-Xrc2(ヒトMRE11-RAD50-NBS1)は、二本鎖が切断した部分のDNAの末端に結合する。
【0069】
初期DNA損傷応答の一環として、大きなホスファチジルイノシトール-3-OHキナーゼ・ファミリー(PI3-K)の2つのメンバー(シゾサッカロミセス・ポンベのRad3/hATRとシゾサッカロミセス・ポンベのTel1/hATM)が活性化され、DNAの損傷部位に向かう。これらのDNA損傷チェックポイント・キナーゼは、DNA損傷シグナルの主要なトランスデューサであると考えられている(Abraham、Genes & Dev.、第15巻、2001年、2177〜2196ページに概説がある)。DNAに損傷があるとPI3-Kが活性化され、その活性化したPI3-Kが、複数のDNA修復タンパク質とDNA損傷チェックポイント・タンパク質をリン酸化することによってシグナル伝達経路をスタートさせる。そのタンパク質の中には、“下流”のプロテインキナーゼであるCds1/hCHK2とChk1/hCHK1(シゾサッカロミセス・ポンベ/ヒトでの名称)がある。そのキナーゼは、細胞周期の途中のどこで損傷が起こったかにより、異なった形で細胞周期の進行に影響を与える(Matsuoka他、Science、第282巻、1998年、1893〜1897ページ;Brown他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、1999年、3745〜3750ページ;Chaturvedi他、Oncogene、第18巻、1999年、4047〜4054ページ)。
【0070】
DNAの損傷に応答した細胞周期の遅延は、一群のCdkキナーゼの抑制性リン酸化が維持されることによって主に調節される。Cdkが活性化して細胞周期の進行が始まるためには、ホスファターゼであるCdc25によって脱リン酸化される必要がある(Nurse、International Journal of Cancer、第71巻、1997年、707〜708ページ;Morgan D.O.、Nature、第374巻、1995年、131〜134ページ)。DNAが損傷すると、Cdc25が不活化する。この不活化の一部は、Cds1/CHK2とChk1/CHK1に依存したCdc25のリン酸化と、それに続く14-3-3への結合によってCdc25が細胞質に保持されることによって起こる(Peng他、Science、第277巻(5331号)、1997年、1501〜1505ページ;Dalal他、Mol. Cell. Biol.、第19巻、1999年、4465〜4479ページ;Yang他、EMBO J.、第18巻、1999年、2174〜2183ページ)。哺乳動物の細胞では、細胞周期の進行がCdc25に依存して遅延する以外に、腫瘍抑制タンパク質p53の活性化によってG1の停止が延長される(Levine A.J.、Cell、第88巻、1997年、323〜331ページ)。p53は配列特異的な転写調節因子であり、細胞周期の進行とアポトーシスに関係するさまざまな遺伝子の転写を誘導する(Gottifredi他、Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol.、第65巻、2000年、483〜488ページ)。p53の転写活性は、主としてその代謝回転速度によって調節されている(Vogelstein他、Nature、第408巻、2000年、307〜310ページ;Kastan他、Cancer Research、第51巻、1991年、6304〜6311ページに概説)。DNA損傷チェックポイントが活性化することによってp53の安定性が大きくなると、Cdkキナーゼの活性を抑制することによって作用する細胞周期インヒビター(例えばp21)の転写が上方調節される。
【0071】
DNAが損傷したことに対する応答には、細胞周期の遅延やアポトーシスだけではなく、DNA修復の制御も含まれる。たいていのDNA修復経路は、構成的に活性化されるが、DNA損傷応答経路とDNA修復の間をつなぐ多数の調節メカニズムが報告されている(LeeとKim、Mol. Cells、第13巻(2)、2002年、15〜166ページ;D'AmoursとJackson、Nat. Rev. Mol. Cell Biol.、第3巻、2002年b、317〜327ページ;Venkitaraman A.R.、Cell、第108巻、2002年、171〜182ページ;Bartek他、Nat. Rev. Mol. Cell Biol.、第2巻、2001年、877〜886ページ)。例えばヌクレオチドの除去修復に関与するp48遺伝子は、転写がp53によって上方調節される(Hwang他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第96巻、1999年、424〜428ページ)。こうした結果を合わせて考えると、DNAの損傷によって複雑なシグナル伝達経路が活性化され、細胞周期の遅延、アポトーシス、DNA修復が始まることがわかる。
【0072】
本発明では、31個の遺伝子(またはタンパク質)を、DNAの複製プロセスと修復プロセスを特徴づける適切な遺伝子であるとしてアレイで分析する(表1)。それは、ADPRT、CROC1A、FHIT、GADD153、PLK、POLA2、RRM1、TERT、TOP2、TRF1、TYMS、BCL6、BRCA1、BRCA2、ERCC1、ERCC2、ERCC3、FEN1、GADD45A、MLH1、MSH2、PRKDC、RAD50、RAD51、RAD52、TNFRSF10B、TNFRSF4、TNFRSF6、UNG、XPA、XRCC1である。
【0073】
細胞生存機能
【0074】
1.細胞接着
【0075】
細胞と細胞の間、および細胞と細胞外マトリックスの間の直接的相互作用は、多細胞生物が成長したり機能したりする上で極めて重要である。細胞-細胞相互作用の中には一時的なものがある。それは例えば、免疫系の細胞同士の相互作用や、白血球を炎症組織に向かわせる相互作用である。他の場合には、安定な細胞-細胞結合が組織内で細胞を組織化するのに重要な役割を果たしている。例えばいくつかの異なる安定な細胞-細胞結合が、上皮細胞シートを維持して機能させる上で極めて重要である。
【0076】
結合を形成するには、まず最初に細胞が接着せねばならない。次いで、かさばる細胞骨格が、接着を直接媒介する分子の周囲に組み立てられなくてはならない。その結果、明確な構造(デスモソーム、ヘミデスモソーム、隔膜で隔てられた接合)ができる。しかし細胞が接合していく初期段階では、細胞骨格が組み立てられる前に、特に胚組織において、細胞が互いに接着してもそのように特徴的な構造を明確には示さないことがしばしばある。単純な多くの組織(例えばたいていの上皮組織)は前駆細胞に由来し、その前駆細胞の子孫は、細胞外マトリックス、または他の組織、またはその両方に接着することにより、離れていかないようにされる。しかし細胞は、蓄積するにつれ、単に無秩序な積層として受動的に積み重なるのではなく、選択的な接着を行なってその接着を徐々に調節することにより、組織構造体を能動的に維持する。したがって異なる胚組織の細胞が人工的に混合されると、より正常な接着構造が自発的に回復することがしばしばある。
【0077】
細胞-細胞接着は選択的プロセスであり、細胞は特定のタイプの他の細胞とだけ接着する。このような選択的細胞-細胞接着は、細胞接着分子と呼ばれる膜貫通タンパク質によって媒介される。細胞接着分子は、セレクチン、インテグリン、免疫グロブリン(Ig)、カドヘリンという4つの大きなグループに分類される。
【0078】
セレクチンは、白血球と内皮細胞または血小板の間の一時的な相互作用を媒介する。セレクチン・ファミリーには3つのメンバーが存在している。すなわち、白血球で発現するL-セレクチンと;内皮細胞で発現するE-セレクチンと;血小板で発現するP-セレクチンである。セレクチンは、細胞表面の炭水化物を認識する。セレクチンの重要な役割の1つは、循環している白血球が炎症部位に移動している間に白血球と内皮細胞の相互作用を開始させることである。セレクチンは、白血球が内皮細胞に最初に接着するときの媒介となる。その後、より安定な接着が形成される。そのときには、白血球の表面にあるインテグリンが細胞間分子(ICAM)と結合する。ICAMというのは、内皮細胞の表面に発現するIgスーパーファミリーのメンバーである。しっかりと付着した白血球は、内皮細胞間を移動することによって毛細血管の壁に侵入し、その下にある組織に入ることができる。
【0079】
細胞を細胞外マトリックスに付着させる上で重要な主な細胞表面受容体は、インテグリンである。サブユニットの組み合わせで形成された20種類を超えるインテグリンがこれまでに同定されている。インテグリンは、細胞外マトリックスの複数の要素(例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン)に存在する短いアミノ酸配列と結合する。
【0080】
インテグリンは、細胞を細胞外マトリックスに付着させることに加え、細胞骨格のアンカーとしても機能する。その結果として得られる細胞骨格と細胞外マトリックスの結合は、細胞-マトリックス接合の安定性にとって重要である。インテグリンと細胞骨格の間の異なったタイプの相互作用が、2種類の細胞-マトリックス接合(フォーカル・アドヒージョンとヘミデスモソーム)で見いだされている。フォーカル・アドヒージョンでは、多彩な細胞(線維芽細胞も含む)が細胞外マトリックスに付着する。
【0081】
脊椎動物の胚のさまざまな組織から解離した細胞は、混合されると、同じ組織からの細胞と選択的に再び会合する。脊椎動物におけるこの組織特異的認識プロセスは、主として、カドヘリンと呼ばれるCa2+依存性細胞-細胞接着タンパク質のファミリーが媒介する。このタンパク質は、隣接した細胞上の膜貫通カドヘリン・タンパク質同士のホモフィリックな相互作用によって細胞を互いにくっつける。細胞をくっつけておくには、カドヘリンが表層細胞骨格に付着する必要がある。たいていの動物細胞もCa2+依存性細胞-細胞接着系を備えており、その系には、主として免疫グロブリン・スーパーファミリーのメンバー(例えば神経細胞接着分子N-CAM)が関与している。1種類の細胞でさえ、他の細胞(および細胞外マトリックス)との接着には複数の分子メカニズムを利用しているため、胚発生に見られる細胞-細胞接着の特異性は、多数の異なる接着系が合わさった結果であるに違いない。その接着系のあるものは特別な細胞接合に関係し、他のものは関係しない。
【0082】
本発明では、10個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞接着経路を特徴づける遺伝子であるとしてアレイで分析する(表2)。それは、CATB1、CDH1、CDH11、CDH13、ICAM1、ITGA5、ITGA6、ITGB1、TSP1、TSP2である。
【0083】
2.細胞周期
【0084】
細胞分裂は基本的なプロセスであり、あらゆる生物は細胞分裂によって成長、修復、生殖を行なう。単細胞生物では、細胞分裂が1回起こるごとに生物の数が2倍になる。多細胞生物では、新しい生物を作ったり、破損や老化によって失われた細胞やプログラム死した細胞を置換したりするのに多数回の細胞分裂が必要とされる。
【0085】
増殖中の細胞では、細胞周期は4つの期からなる。ギャップ1(G1)は、有糸分裂とDNA複製に挟まれた期間であり、細胞増殖を特徴とする。G1の制限点(R)においてなされる決断によって細胞は増殖サイクルに移行する。この決断を伝える条件が整っていない場合、細胞は細胞周期から抜け出してG0に入る。G0は非増殖期であり、そこでは成長、分化、アポトーシスが起こる。DNAの複製は、合成(S)期において起こる。その後、第2のギャップ期(G2)が続き、そこでは細胞が成長するとともに、細胞分裂の準備がなされる。有糸分裂と2つの娘細胞の生成は、M期で起こる。
【0086】
細胞周期の4つの期の通過は、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)を調節するサブユニットとして機能するサイクリン・ファミリーによって制御される。細胞周期のG1期-S期-G2期を順番に通過することを調節しているさまざまなサイクリン/cdk複合体の活性は、細胞周期の特定の期において適切なサイクリンが合成されることによって制御されている。その後サイクリン/cdk複合体は、その複合体のカギとなる残基(その残基は、主にcdkサブユニットに位置する)のリン酸化と脱リン酸化が順番に起こることによって活性化される。
【0087】
前期G1のサイクリン/cdk複合体は、サイクリンDアイソフォームにcdk2、cdk4、cdk6のいずれかが結合したものである。G1において細胞周期を抑制できるタンパク質がいくつか存在している。DNAが損傷すると、p53が細胞内に蓄積され、p21を媒介としたサイクリンD/cdkの抑制が誘導される。Mdm2は、核の輸出/p53の不活化を容易にし、抑制性フィードバック・ループの一部となってp21を媒介としたG1の停止を不活化する。同様に、TGF-β受容体が活性化されると、p15によるサイクリンD/cdkの抑制が誘導される一方で、サイクリックAMPはp27を通じてサイクリンD/cdk複合体を抑制する。サイクリンD/cdk複合体が抑制されると、網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質が低リン酸化状態になり、転写因子E2Fに強く結合してその活性を抑制する。
【0088】
制限点からS期への移行は、サイクリンD/cdk複合体が活性化されてRbをリン酸化することによって始まる。リン酸化されたRbがE2Fから解離するとE2Fは自由な状態になり、DNAの複製を開始する。サイクリンE/cdk2が後期G期の間に蓄積され、S期への移行を開始させる。S期では全ゲノムが複製される。サイクリンB/cdc2の合成と蓄積もS期において開始されるが、この複合体はトレオニン14-チロシン15の位置がリン酸化されて不活性になる。サイクリンA/cdk2がS期の間に蓄積され、それが活性化されることによってG2期への移行が始まる。このG2期は、サイクリンB/cdc2の蓄積、DNA複製の抑制、細胞増殖、新しいタンパク質の合成を特徴とする期である。
【0089】
G2期から有糸分裂(M期)への移行は、Cdc25を媒介としたサイクリンB/cdc2複合体(MPF)の活性化(脱リン酸化)によって開始される。G期からM期への移行に必要なサイクリンB/cdc2の活性化は、現在のところ細胞周期において特徴が最もよくわかっているステップである。サイクリンB/cdc2は、トレオニン160のリン酸化と、トレオニン14-チロシン15の脱リン酸化によって活性化される。トレオニン160は、サイクリン活性化キナーゼ活性化キナーゼ(CAKAK)によってサイクリン活性化キナーゼ(CAK)が活性化された後に、KAKによってリン酸化される。しかしこの複合体は、Wee1キナーゼを触媒としてトレオニン15がリン酸化されているために不活性な状態を維持する。サイクリンB/cdc2の活性化は、ホスファターゼであるCdc25がトレオニン15を脱リン酸化したときに開始される。このCdc25の活性は、リン酸化の活性化と抑制の両方によって制御される。Chk1(損傷したDNAを持つ細胞のG2を停止させるチェックポイント活性化キナーゼ)によってセリンがリン酸化されると、Cdc25が不活化する一方で、M期活性化キナーゼによるリン酸化で正のフィードバックが生まれ、サイクリンB/cdc2複合体が急速に活性化される。
【0090】
MPFは、ラミンとヒストン1をリン酸化する触媒となり、細胞分裂よりも前のイベント(例えば紡錘体の形成、クロマチンの凝縮、核エンベロープとオルガネラ(ゴルジ体や小胞体)の断片化)の調節に関与する。中期から後期への移行は、MPFの不活化とサイクリンBの分解によって開始される。すると染色分体の分離が誘導されて染色分体が紡錘体の極へと移動した後、分裂装置が消失し、核膜が再び形成されて核が再び出現する。細胞質分裂の間に細胞質が分裂し、その結果として得られる娘細胞がG1期に入る。
【0091】
細胞がG0〜G1期からS期に移行するとき、一連のサイクリン依存性キナーゼが活性化される。血清増殖因子を静止期の細胞に添加すると、サイクリンD1遺伝子の転写が促進される。するとサイクリンD1は、すでに存在しているcdk4と会合し、活性な複合体を形成する。この複合体と関係するキナーゼ活性は、網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)上の特定の部位をリン酸化することができるため、pRbが不活化され、サイクリンEの転写がE2Fによって活性化される。サイクリンE遺伝子の活性化は、cdkインヒビターであるp16によって阻止することができる。サイクリンEは、存在しているcdk2と会合し、この活性な複合体が、いくつかの標的タンパク質群の機能を調節する。第1に、サイクリンE/cdk2複合体はE2F/p107複合体と会合し、サイクリンA遺伝子の発現を活性化させる。サイクリンE/cdk2複合体はサイクリンD1と協働し、pRbのリン酸化も促進する。サイクリンAはcdk2と会合してキナーゼ複合体を形成し、DNAの複製開始に関与する下流の標的をリン酸化する。
【0092】
本発明では、32個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞の生存機能である細胞周期経路の優れた代表であるとして選択した(表2)。それは、ATM、CAV1、CCNA1、CCNB1、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CCNF、CCNH、CDK2、CDK4、CDK6、DHFR、GRB2、MDM2、MKI67、p16、p21、p27、p35、p53、p57、PCNA、RB1、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、S100A4、S100A8、TK1である。
【0093】
3.増殖因子とサイトカイン
【0094】
増殖因子は、細胞表面の受容体と結合するタンパク質であり、その主な機能は、細胞の増殖および/または分化を活性化させることである。多くの増殖因子は非常に万能であり、多数の異なるタイプの細胞において細胞分裂を刺激するのに対し、他の増殖因子は特定のタイプの細胞に対する特異性を持つ。
【0095】
サイトカインは、増殖因子のユニークなファミリーである。サイトカインは主として白血球から分泌され、液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を刺激するとともに、食細胞も活性化させる。リンパ球から分泌されるサイトカインはリンホカインと呼ばれるのに対し、単球またはマクロファージから分泌されるサイトカインはモノカインと呼ばれる。サイトカインの大きなファミリーは、身体のさまざまな細胞から産生される。リンホカインの多くはインターロイキン(IL)としても知られている。なぜならリンホカインは、白血球から分泌されるだけでなく、白血球の細胞応答にも影響を与えるからである。特に、インターロイキンは、造血起源の細胞を標的とする増殖因子である。
【0096】
EGFは、あらゆる増殖因子と同様、応答する細胞の表面にある高親和性で低容量の特定の受容体と結合する。EGFは、中胚葉起源と外胚葉起源の両方の細胞を増殖させる効果、中でもケラチノサイトと線維芽細胞を増殖させる効果を有する。EGFは、ある種の癌と毛の小胞細胞に対して負の増殖効果を及ぼす。EGFに対する増殖関連の応答としては、核の原がん遺伝子(例えばFos、Jun、Myc)の発現誘導がある。
【0097】
PDGFに応答して増殖する効果は、多くのタイプの間充織細胞に及ぶ。PDGFに対する他の増殖関連の応答としては、細胞骨格の再配置や、ポリホスホイノシトールの代謝増大などがある。PDGFも、EGFと同様、核に局在している多数の原がん遺伝子(例えばFos、Jun、Myc)の発現を誘導する。
【0098】
増殖因子のFGFファミリーには少なくとも19種類の異なるメンバーがある。ヒトの疾患に関する研究と、マウスで遺伝子をノックアウトした研究から、FGFの主要な役割が、哺乳動物の骨格系と神経系の成長にあることがわかる。さらに、FGFファミリーのいくつかのメンバーは、初期胚において中皮を分化させる強力な誘導因子である。非増殖効果としては、下垂体細胞と卵巣細胞の機能調節がある。
【0099】
TGF-βは、多くのタイプの間充織細胞と上皮細胞を増殖させる効果を有する。TGF-βは、所定の条件下において、内皮細胞、マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球に対して抗増殖効果を示す。そのような効果として、免疫グロブリンの分泌低下や、造血の抑制、筋形成の抑制、脂肪細胞化の抑制、副腎皮質でのステロイド産生の抑制がある。TGF-βファミリーのいくつかのメンバー(特にTGF-βとアクチビンA)は、初期胚において中胚葉を分化させる強力な誘導因子である。
【0100】
TGF-αの主な供給源は癌であるが、活性化されたマクロファージとケラチノサイト(に加えて、おそらく他の上皮細胞も)もTGF-αを分泌する。正常な細胞集団では、TGF-αは強力なケラチノサイト増殖因子である。ミュラー管抑制物質(MIS)もTGF-β関連タンパク質であり、骨増殖調節因子の骨誘導因子(BMP)ファミリーのメンバーも同様である。
【0101】
IGF-Iは、インスリンと構造上関係のある増殖因子である。IGF-Iは、成長ホルモン(GH)に対する細胞の応答に関係する主要なタンパク質である。すなわちIGF-Iは、GHに応答して産生された後、特に骨の増殖に関する細胞活性を誘導する。
【0102】
IL-1の主要な機能は、抗原に応答するT細胞の活性化を促進することである。IL-1によってT細胞が活性化すると、IL-2とIL-2受容体によるT細胞産生が増大し、すると今度は自己分泌ループの中でT細胞がより活性化する。IL-1は、T細胞によるインターフェロンγ(IFN-γ)の発現も誘導する。2つの異なるIL-1タンパク質が存在していて、IL-1-aおよびIL-1-bと名づけられている。両者はアミノ酸レベルでの相同性が26%である。IL-1は主としてマクロファージから分泌されるが、好中球、内皮細胞、平滑筋、グリア細胞、星状細胞、B細胞、T細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトからも分泌される。これらのさまざまな細胞によるIL-1の産生は、細胞を刺激することによってのみ起こる。IL-1は、T細胞への効果に加え、非リンパ様細胞における増殖を誘導することもできる。
【0103】
活性化したT細胞によって産生されて分泌されるIL-2は、クローンT細胞の増殖において中心となるインターロイキンである。IL-2は、B細胞、マクロファージ、ナチュラル・キラー(NK)細胞にも効果を及ぼす。IL-2の産生は、主としてCD4+ヘルパーT細胞によって起こる。ヘルパーT細胞とは異なり、NK細胞はIL-2受容体を構成的に発現し、IL-2に応答してTNF-α、IFN-γ、GM-CSFを分泌する。すると今度はマクロファージが活性化される。
【0104】
IL-6は、マクロファージ、繊維芽細胞、内皮細胞、活性化したヘルパーT細胞によって産生される。IL-6は、(多くの免疫応答において)IL-1およびTNF-α(OKαか何かがここでは欠けているように思われる)と相乗的に作用する。特に、IL-6は、肝臓における急性期応答の主要な誘導因子である。IL-6は、B細胞の分化も増大させ、その結果として免疫グロブリンの産生も増大させる。IL-6は、IL-1、IL-2、TNF-αとは異なり、サイトカインの発現は誘導しない。したがってIL-6の主な効果は、他のサイトカインに対する免疫細胞の応答を増大させることである。
【0105】
IL-8は、白血球と線維芽細胞に誘因作用を及ぼすタンパク質ファミリーに属するインターロイキンであり、このファミリーは今も数が増え続けている。IL-8は、単球、好中球、NK細胞によって産生され、好中球、好塩基球、T細胞の誘因物質となる。さらに、IL-8は好中球を活性化させて脱顆粒化する。
【0106】
TNF-αは、IL-1と同様、主要な免疫応答調節サイトカインであり、主に活性化したマクロファージによって産生される。TNF-αは、他の増殖因子と同様、核の数多い原がん遺伝子の発現と、いくつかのインターロイキンの発現を誘導する。
【0107】
TNF-βは、多くの異なったタイプの細胞を殺す能力を持つことと、他のタイプの細胞で最終分化を誘導する能力を持つことを特徴とする。TNF-βに対する重要な1つの非増殖性応答は、血管内皮細胞の表面に存在するリポタンパク質リパーゼの抑制である。TNF-βが合成される主な部位はTリンパ球であり、その中でも特に、細胞傷害性Tリンパ球(CTL細胞)と呼ばれる特別なクラスのT細胞である。TNF-βの発現は、IL-2の増大と、抗原とT細胞受容体の相互作用とによって誘導される。
【0108】
IFN-α、IFN-β、IFN-ωは、I型インターフェロンとして知られている。これらは、インターフェロンの抗ウイルス活性に主として関係している。それに対してIFN-γは、II型インターフェロン、すなわち免疫インターフェロンである。IFN-γは抗ウイルス活性を持ってはいるが、I型インターフェロンよりもこの機能の活性が顕著に少ない。IFN-γは、主にCD8+T細胞から分泌される。ほとんどすべての細胞がIFN-γの受容体を発現し、表面でクラスIのMHCタンパク質の発現を増大させることによってIFN-γとの結合に応答する。するとヘルパーT(CD4+)細胞に対する抗原の提示が促進される。IFN-γは、クラスIIの細胞上でのクラスIIのMHCタンパク質の提示も増やすことで、細胞がT細胞に抗原を提示する能力を増大させる。
【0109】
CSFは、成人の骨髄の特定の万能幹細胞の増殖を促進するサイトカインである。顆粒球-CSF(G-CSF)は、顆粒球系列の細胞に対して増殖効果を及ぼすことに特化している。マクロファージ-CSF(M-CSF)は、マクロファージ系列の細胞専用である。顆粒球-マクロファージ-CSF(GM-CSF)は、リンパ系細胞の両方のクラスに対して増殖効果がある。(主にT細胞から分泌される)IL-3は、マルチ-CSFとしても知られている。なぜなら幹細胞を刺激してあらゆる形態の造血細胞を産生させるからである。
【0110】
本発明では、24個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞の生存機能である増殖因子とサイトカインの適切な代表であるとして選択した(表2)。それは、BMP2、CSF1、CTGF、FGF2、FGF8、IGF1、IGFBP2、IGFBP3、IGFBP5、IL8、IL10、IL11、IL15、IL1A、IL1B、IL4、IL6、MEK1、MEK2、TNFA、VEGF、VEGFB、VEGFC、VEGFDである。
【0111】
4.細胞のシグナル伝達/受容体
【0112】
これは、所定の細胞の表面に分泌または発現して他の細胞が発現する受容体と結合する多彩なシグナル伝達分子によって実現される。その結果、ヒトのように複雑な生体を作り上げている独立した多数の細胞の機能が統合され、調節される。
【0113】
たいていのシグナル伝達分子は、対応する受容体に結合すると、一連の細胞内反応が開始され、細胞の挙動のほとんどあらゆる側面(例えば代謝、運動、増殖、生存、分化)が調節される。この分野でさらに興味深いのは、細胞の正常な増殖と生存を制御しているシグナル伝達経路が破綻した結果として多くのがんが発生するという事実である。
【0114】
細胞は、その細胞が置かれている環境内の重要なシグナルにただちに応答できるようになっている必要がある。そのシグナルは、細胞外流体(ECF)に含まれる化学物質であることがしばしばある。ECFには、a)多細胞生物の体内の離れた位置からのECF(ホルモンによる内分泌シグナル伝達)や;b)近くの細胞からのECF(サイトカインによるパラ分泌刺激)のほか;c)その細胞自身が分泌するECF(=自己分泌刺激)さえある。
【0115】
細胞は、隣接する分子の表面にある分子にも応答する可能性がある(例えば接触を抑制する)。
【0116】
シグナル伝達分子が開始させることができるのは、a)細胞の代謝(例えば肝細胞がアドレナリンを検出したときに増大するグリコーゲン分解)における素早い変化;b)細胞膜(例えば作用電位の供給源)を通過する電荷の素早い変化;c)核内での遺伝子発現(転写)の変化である。
【0117】
シグナル伝達分子の2つのカテゴリー(ステロイドと一酸化窒素)は、細胞の中に拡散してそこで内部受容体と結合する。
【0118】
他のシグナル伝達分子(例えばタンパク質)は、細胞表面に提示された受容体と結合する。その具体例は膜貫通タンパク質であり、細胞外にある部分はシグナル伝達分子との結合部位(リガンド)を備えており;細胞内にある部分はサイトゾル内のタンパク質を活性化するため、場合によっては核内の遺伝子の転写がいろいろなやり方で制御される。
【0119】
このようなシグナル伝達分子として、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、サイトカイン受容体、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、JAK-STAT経路、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)受容体、腫瘍壊死因子α受容体、NK-κB経路、抗原のためのT細胞受容体(TCR)がある。
【0120】
本発明では、15個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞の生存機能である細胞のシグナル伝達と受容体経路の適切な代表であるとして選択した(表2)。それは、CSF1R、EGFR、ESR2、FGFR、IGF1R、IL11RA、NCK1、NCOR1、NCOR2、PGR、PLAUR、TBXA2R、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3である。
【0121】
5.染色体プロセシング
【0122】
真核細胞では、遺伝材料は、DNAとタンパク質からなる複雑な構造体として核の中に局在している。この構造は、クロマチンと呼ばれる。それぞれの細胞では、約2メートルあるDNAが核の中に含まれている。DNAは、極めて稠密になっている必要があることに加え、タンパク質群と相互作用して複製、修復、組み換えが可能になるよう、容易にアクセスできる必要がある。クロマチンの基本ユニットはヌクレオソームと呼ばれ、DNAとヒストンとで構成されている。この基本単位が、核内のDNAの稠密さの第1レベルを構成している。この構造が規則的に繰り返されてヌクレオフィラメントを形成する。このヌクレオフィラメントは、さらに進んだ稠密さのレベルを採用することができる。クロマチンは、真正クロマチンとヘテロクロマチンに分けられる。ヘテロクロマチンは、細胞周期を通じて同じ構造を保持するのに対し、真正クロマチンは、間期にはそれほど稠密ではないように見える。
【0123】
ヒストンH3、H4、H2A、H2Bは、非常によく保存されている基本的なタンパク質である。これらのタンパク質は数多い翻訳後修飾の標的であり、その修飾によってDNAへのアクセス可能性や、ヌクレオソームとのタンパク質/タンパク質相互作用が影響を受ける可能性がある。
【0124】
DNAを組み立ててクロマチンにするには、2つの二量体H2A-H2B(2)を固定した四量体(H3-H4)2ヒストンを新たに合成することから始める。この新たに合成したヒストンは、特異的に修飾される。最もよく保存されている修飾は、ヒストンH4のリシン5と12のアセチル化である。成熟ステップでは、ヌクレオソームとヒストンの間に新たに組み込まれた規則的な間隔を脱アセチル化できるようにするのにATPが必要とされる。アセチル化状態は、2つのアンタゴニストの活性、すなわちヒストン-アセチルトランスフェラーゼ(HAT)の活性とヒストン-デアセチラーゼ(HDAC)の活性が平衡していることによって生じる。
【0125】
クロマチンは変化させることができ、それは、DNAレベル(メチル化)とヒストン・レベル(翻訳後修飾、ヒストン3の変異体であるCENPAなどの変異体が存在する)においてである。こうした修飾により、構造の違いと、クロマチンの活性の違いを誘導することができる。例えばCENPAは、動原体領域と関係がある。
【0126】
シャペロン・ヒストンは、ヒストンとの複合体の形成を促進する。例えばCAF-1(クロマチン組立因子1)は、アセチル化されたヒストンH3およびH4と反応し、クロマチンの組立とDNAの複製に関与する。CAF-1とPCNA(増殖細胞核抗原)の相互作用により、クロマチン組立体の間の分子結合とともに、DNAの複製および修復プロセスが確立する。
【0127】
本発明では、6個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞の生存機能である染色体プロセシングの代表として選択した(表2)。それは、CENPF、H2B/S、H3FF、H4FM、KNSL5、KNSL6である。
【0128】
6.中間代謝
【0129】
大半の細胞にとっての即時的なエネルギー源はグルコースであるが、炭水化物や脂肪が、そしてタンパク質さえもが、ある種の細胞においては、あるいは場合によっては、エネルギー源(ATP)として使用される可能性がある。ヒトがエネルギーを得る元になる食事の炭水化物は、複合体の形態(例えば二糖、ポリマーであるデンプン(アミロースとアミロペクチン)、グリコーゲン)で体内に入る。消化可能な炭水化物を代謝する第1ステップは、高次ポリマーからより単純な可溶性の単糖形態への変換である。この単糖は腸壁を通じて輸送され、組織に到達する。得られるグルコースやそれ以外の単純な炭水化物は、腸壁を通じて輸送され、肝門静脈に達した後、肝臓の間充織細胞やそれ以外の組織に輸送され、そこで脂肪酸やアミノ酸やグリコーゲンに変換されるか、細胞のさまざまな触媒経路によって酸化される。グルコースの酸化は、解糖として知られている。グルコースは酸化されて乳酸またはピルビン酸になる。好気的条件下におけるたいていの組織での主要な生成物はピルビン酸であり、その経路は好気的解糖として知られている。
【0130】
グルコース + 2ADP + 2NAD+ + 2Pi→ 2ピルビン酸 + 2ATP + 2NADH + 2H+
【0131】
例えば激しい運動を長時間続けているときのように酸素が欠乏したとき、多くの組織における主要な解糖生成物は乳酸であり、このプロセスは嫌気的解糖として知られている。
【0132】
グルコースを好気的解糖によりピルビン酸にするには、このプロセスを活性化する2当量のATPが必要とされ、その結果として4当量のATPと2当量のNADHが生じる。したがって1モルのグルコースを2モルのピルビン酸に変換すると、ATPとNADHがそれぞれ正味で2モル生じる。
【0133】
解糖に関与する主要な酵素は、ヘキソキナーゼ、ホスホヘキソースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ-1、アルドラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼである。
【0134】
食事の脂肪を利用するには、まず最初に腸から吸収される必要がある。脂肪分子は油であるため、腸の水性環境では本質的に不溶性である。食事の脂肪の可溶化(乳化)は、肝臓で合成されて胆嚢から分泌される胆汁塩によって実現される。次に、乳化した脂肪は、膵リパーゼ(リパーゼとホスホリパーゼA2)によって分解することができる。これらの酵素は膵臓から腸に分泌されて、食事のトリアシルグリセロールから、脂肪酸と、モノアシルグリセロールとジアシルグリセロールの混合物とを生成させる。膵リパーゼによる生成物が腸の粘膜細胞から吸収された後、トリアシルグリセロールの再合成が起こる。次に、トリアシルグリセロールは、キロミクロンと呼ばれるリポタンパク質複合体(脂質とタンパク質の複合体)の中で可溶状態にされる。肝臓で合成されたトリアシルグリセロールはパッケージングされてVLDLになり、血液中に直接放出される。腸からのキロミクロンは、リンパ系を通じて血液の中に放出されてさまざまな組織に到達し、その組織に貯蔵されたり、その組織において酸化を通じてエネルギーを生み出したりする。
【0135】
脂肪酸は、まず細胞質で活性化された後、ミトコンドリアで酸化される必要がある。活性化の触媒は、脂肪アシル-CoAリガーゼ(アシル-CoAシンターゼまたはチオキナーゼとも呼ばれる)である。
【0136】
脂肪酸 + ATP CoA → アシル-CoA + PPi + AMP
【0137】
脂肪酸の酸化は、ミトコンドリアで起こる。脂肪酸の酸化プロセスは、β-酸化と呼ばれている。なぜならこのプロセスは、脂肪アシル-CoA分子のβ-炭素位置が酸化されて2-炭素ユニットが順番に除去されることによって起こるからである。脂肪酸の酸化により、炭素原子1個当たりで炭水化物の酸化よりもはるかに多いエネルギーが生まれる。脂肪酸の酸化に関与する主要な酵素は、アシル-CoAシンターゼ、エノイル-CoAヒドラターゼ、3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ、チオラーゼである。
【0138】
誰しも、脂肪酸の合成経路は酸化経路の逆であると予想するであろう。しかしそれでは、2つの経路が別の細胞内コンパートメントに分かれているとしても、その2つの経路を別々に調節することは不可能であろう。脂肪酸の合成は細胞質の中で起こるのに対し、酸化はミトコンドリアで起こる。別の大きな違いは、ヌクレオチド補因子の利用である。脂肪の酸化には、FADH+とNAD+の還元が関係する。脂肪の合成には、NADPHの酸化が関係する。脂肪の酸化と合成の両方で、活性化した炭素中間体であるアセチル-CoAが利用される。しかし脂肪の合成におけるアセチル-CoAは一時的に存在し、マロニル-CoAなどの酵素複合体に結合する。マロニル-CoAの合成は、脂肪酸の合成に必要な第1のステップであり、この反応の触媒となる酵素(アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC))は、脂肪酸の合成を調節する主要な要素である。
【0139】
あらゆる組織は、非必須アミノ酸の合成、アミノ酸のリモデリング、非アミノ酸炭素骨格からアミノ酸や窒素を含む他の誘導体への変換に関する能力を幾分か有する。しかし肝臓は、体内における窒素代謝の主要な部位である。食事が過剰であるとき、アミノ酸に含まれる潜在的に毒性のある窒素は、アミノ基転移、脱アミノ化、尿素形成を通じて除去される。それに対して炭素骨格は、一般に、糖新生を通じて炭水化物として保存されるか、脂肪酸の合成経路を通じて脂肪酸として保存される。この点に関し、アミノ酸は3つのカテゴリーのいずれかに分類される。すなわち、糖新生アミノ酸、またはケト原性アミノ酸、または糖新生かつケト原性のアミノ酸である。糖新生アミノ酸は、正味のピルビン酸またはTCAサイクル中間体(例えばα-ケトグルタル酸、オキサロ酢酸)を産生させるアミノ酸である。これらはすべて、糖新生を通じてグルコースになる前駆体である。リシンとロイシンを除くすべてのアミノ酸は、少なくとも部分的に糖新生アミノ酸である。リシンとロイシンは、ケト原性だけを持つアミノ酸であり、アセチル-CoAまたはアセトアセチル-CoAだけを生成させる。そのどちらも、正味のグルコースを産生させることはできない。イソロイシン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、チロシンからなる少数のアミノ酸群は、グルコースと脂肪酸両方の前駆体を産生させるため、糖新生とケト原性であることを特徴とする。最後に、アミノ酸は可能な第3の運命を有することを認識しておく必要がある。飢餓のとき、還元された炭素骨格はエネルギーを生み出すのに使用され、その結果として酸化されてCO2およびH2Oになる。
【0140】
本発明では、6個の遺伝子(またはタンパク質)を、中間代謝経路の適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、CKB、ETFB、G6PD、GLB1、ODC、PKM2である。
【0141】
7.細胞外マトリックス
【0142】
細胞外マトリックス(ECM)は、哺乳動物の組織内に見られる細胞を取り囲むとともに、その細胞を支持している複雑な構造体である。ECMは、結合組織と呼ばれることもしばしばある。ECMは、主要な3つのクラスの生体分子からなる。
1.繊維性構造タンパク質:コラーゲンやエラスチン。
2.特殊化したタンパク質:例えばフィブリリン、フィブロネクチン、ラミニン。
3.プロテオグリカン:タンパク質のコアからなり、二糖ユニットが繰り返された長い鎖がそのコアに付着して、ECMの極端に複雑な長い高分子量要素を形成している。
【0143】
さまざまなタイプの細胞外マトリックス同士の違いは、成分の割合が違っていることから生じる。
【0144】
細胞外マトリックスの主要な構造タンパク質はコラーゲンである。コラーゲンは、動物の組織に最も豊富に存在しているタンパク質である。コラーゲンには少なくとも12のタイプがある。タイプI、II、IIIは最も豊富であり、似た構造のフィブリルを形成する。タイプIVのコラーゲンは、二次元の網状組織を形成し、基底板の主成分である。コラーゲンは主に線維芽細胞によって合成されるが、上皮細胞もコラーゲンを合成する。
【0145】
結合組織も弾性繊維を含んでいる。弾性繊維は、規則的に引っ張られてその後元の形状に戻る器官に特に豊富である。弾性繊維は、主に、エラスチンと呼ばれるタンパク質からなる。エラスチンは、共有結合によって架橋してネットワークになる。架橋したエラスチン鎖のこのネットワークはゴム紐のように振る舞い、張力下では引き伸ばされ、その張力から開放されると元に戻る。
【0146】
フィブロネクチンの役割は、細胞をさまざまな細胞外マトリックスと結合させることである。フィブロネクチンは、細胞をあらゆるマトリックスと結合させるが、ラミニンが接着分子として関与するタイプIVだけは例外である。フィブリリンは、細胞外マトリックスの非コラーゲン性ミクロフィブリルの重要な構成要素である。ECMには、マトリックス・メタロプロテイナーゼ(MMP)が含まれる。
【0147】
本発明では、16個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞外マトリックスの適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、BSG、COL6A2、FN1、MMP1、MMP9、MMP11、MMP12、MMP13、MMP14、MMP15、MMP2、MMP3、MMP7、OPN、TIMP1、TIMP2である。
【0148】
8.細胞構造
【0149】
(細胞内)細胞骨格
【0150】
細胞外シグナル(例えば増殖因子)に対する細胞の応答には、細胞の運動と形状の変化が含まれることがしばしばある。例えば増殖因子によって誘導される細胞運動(と細胞増殖)の変化は、傷の治癒や胚発生などのプロセスで極めて重要な役割を演じている。特に、多くのタイプの細胞運動は、細胞膜の下にあるアクチン・フィラメントが組立と分解を繰り返すことに基づいている。したがってアクチン細胞骨格のリモデリングは、増殖因子やそれ以外の細胞外刺激に対する多くの細胞の応答にとってカギとなる要素である。
【0151】
アクチン・フィラメントとそれ以外の細胞骨格タンパク質からなるネットワークが細胞膜の下に存在していて細胞の形状を決めている。アクチンの束も細胞膜に結合し、細胞-細胞接触や細胞-基層接触が起こる領域に細胞を固定する。
【0152】
膜細胞骨格には以下のタンパク質が含まれる:ミクロフィラメント(アクチン/ミオシン)、スペクトリン(α、β)、ジストロフィン、アンキリン、アデューシン、ミオシン、トロポミオシン、デマチン、グリコフォリン、フィブロネクチン受容体、テーリン、ビンクリン、α-アクチニン、フィンブリン、ビリン、ミオシンI、スペクトリン、フィラミン、ケラチン、ビメンチン、サイトケラチン。
【0153】
微小管は、チューブリンの可逆的重合によって形成される。微小管は動的不安定性を示し、チューブリンの重合後にGTPが加水分解される結果として連続的な組立・分解サイクルを繰り返す。
【0154】
内部細胞骨格には以下の要素が含まれる:チューブリン(微小管)、アクチン(ミクロフィラメント)、ストレスファイバー(ミクロフィラメント、ミオシン、α-アクチニン、トロポミオシン、カルデスモン)、ビンクリン、テーリン、動原体、中心体、紡錘極体、中心粒、セントラクチン、ペリセントリン。
【0155】
中間フィラメントは、さまざまなタイプの細胞で発現する50種類を超えるタンパク質のポリマーであり、細胞の出所を同定できることがしばしばある。中間フィラメントは細胞の運動には関係していないが、細胞と組織を物理的に支持する。中間フィラメント(IF)には、ケラチン、サイトケラチン、ネスチン、ビメンチン、デスミン、グリア繊維酸性タンパク質、ペリフェリン、ラミンなどがある。中間フィラメント関連タンパク質(IFAP)には、エピネミン、フィラグリン、プレクチン、ペリフェリン、レスチン、ラミンなどがある。
【0156】
アクチン結合タンパク質(ABP)には、フラグミン、β-アクチニン、ゲルソリン、ビリン、ブレビン、セベリン、フィラミン、スペクトリン、フォドリン、α-アクチニン、ゲラクチン、ファシン、ビンクリン、テーリン、フィンブリン、タウ、プロフィリン、キャッピング・タンパク質などがある。
【0157】
本発明では、7個の遺伝子(またはタンパク質)を、細胞構造タンパク質の適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、CDC42、EMS1、GSN、ON、PAK、SM22、TB10である。
【0158】
9.タンパク質の代謝(合成/分解)
【0159】
タンパク質の合成
【0160】
翻訳は、RNAによって指示されるポリペプチドの合成である。このプロセスは、3つのクラスのRNAをすべて必要とする。ペプチド結合の形成に関する化学は比較的単純であるが、ペプチド結合を形成する能力を獲得するまでのプロセスは極めて複雑である。個々のアミノ酸を正しく付加するための鋳型はmRNAであり、さらにtRNAとrRNAの両方がこのプロセスに関与する。tRNAは、rRNAとリボソーム・タンパク質からなるリボソームの中に、活性化したアミノ酸を運び込む。リボソームは、mRNAと組み合わさり、活性化したtRNAが正しくアクセスできるようにする。リボソームには、ペプチド結合を形成する際の触媒となるのに必要な酵素活性が備わっている。小さなサブユニットと大きなサブユニットの両方がmRNA上で組み立てられ、アミノ酸を伴ったtRNAが存在していると、タンパク質の合成を始められるようになる。
【0161】
翻訳は、秩序だった順番で進行する。まず最初に、正確かつ効率的に開始され、次いで鎖の延長が起こり、最後に正確かつ効率的に終了せねばならない。これら3つのプロセスすべてで、特定のタンパク質が必要とされる。そのうちのあるものはリボソームと関係しており、あるものはリボソームとは独立であるが、一時的にリボソームと関係する可能性がある。
【0162】
翻訳の開始には、開始メチオニン残基をあらゆるタンパク質に組み込むのに用いられる特別な開始因子tRNA(tRNAmet)が必要とされる。翻訳を始めるには、AUGコドンを認識する必要がある。開始コドンAUGを取り囲んでいる特別な配列文脈が、リボソームによる識別を助ける。この文脈は、たいていのmRNAではA/GCCA/GCCAUGA/Gである。翻訳の正確な開始に必要な特別な非リボソーム関連タンパク質は、開始因子と呼ばれる。
【0163】
開始因子eIF-1とeIF-3は、リボソームの40Sサブユニットに結合して60Sサブユニットへの結合を促進する。リボソームの再結合を妨げると、開始前複合体を形成することができる。開始前複合体を形成するための第1ステップは、GTPをeIF-2に結合させて二重複合体を形成することである。eIF-2は、a、b、gという3つのサブユニットで構成されている。次に、二重複合体は、活性化した開始tRNA(met-tRNAmeti)と結合して三重複合体を形成する。この三重複合体が今度は40Sサブユニットと結合し、43S開始前複合体を形成する。この開始前複合体は、eIF-3およびeIF-1が40Sサブユニットと以前に会合していることで安定化される。真核生物のmRNAのキャップ構造は、特定のeIFと結合した後、開始前複合体と会合する。キャップの結合は、開始因子eIF-4Fによって完成する。この因子は、実際には、eIF-4E、eIF-4A、eIF-4Gという3つのタンパク質の複合体である。eIF-4Eは24kDaのタンパク質であり、キャップ構造を物理的に認識してキャップ構造に結合する。eIF-4Aは46kDaのタンパク質であり、ATPと結合してATPを加水分解し、RNAヘリカーゼ活性を示す。リボソームのサブユニットがmRNAにアクセスできるためには、mRNAの二次構造がほどける必要がある。eIF-4Gは、mRNAが43S開始前複合体に結合するのを助ける。mRNAが開始前複合体上に適切に並んで開始因子met-tRNAmetが開始コドンAUGに結合すると(eIF-1によって促進されるプロセス)、60Sサブユニットが複合体と会合する。60Sサブユニットが会合するには、開始前複合体にまず最初に結合するeIF-5の活性が必要とされる。80S開始複合体の形成を促進するのに必要なエネルギーは、eIF-2に結合するGTPの加水分解によって得られる。GDPが結合した形態のeIF-2は、次にeIF-2Bに結合し、eIF-2上でGTPがGDPと交換されるのを促進する。GTPが交換されると、eIF-2BはeIF-2から解離する。これは、eIF-2サイクルと名づけられている(下に示したダイヤグラムを参照のこと)。このサイクルは、真核生物において翻訳が起こる上で絶対に必要である。GTP交換反応は、eIF-2のaサブユニットがリン酸化することの影響を受ける可能性がある。この段階で、開始因子met-tRNAmetはリボソームの1つの部位(ペプチド部位という意味でP部位と呼ばれている)の内部でmRNAと結合する。アミノ酸を伴ったtRNAがやって来て結合するリボソーム内の他の部位は、アミノ酸部位という意味でA部位と呼ばれている。
【0164】
伸長プロセスは、開始プロセスと同様、特別な非リボソーム・タンパク質を必要とする。ポリペプチドの伸長はサイクル方式で起こるため、アミノ酸添加の完全な1つのサイクルが終わったとき、A部位は空になり、mRNAの次のコドンに指示されてやって来るアミノアシル-tRNAを受け入れる準備ができる。これは、やって来るアミノ酸がペプチド鎖に付着するだけでなく、リボソームもmRNA上を次のコドンの方に移動せねばならないことを意味する。やって来るそれぞれのアミノアシル-tRNAは、eEF-1a-GTP複合体によってリボソームのところまで運ばれる。正しいtRNAがA部位に配置されると、GTPが加水分解され、eEF-1a-GTP複合体が解離する。別のトランスロケーション・イベントのためには、GDPがGTPと交換される必要がある。それは、eEF-2Bを触媒としてeEF-2で起こるGTPの交換と同様、eEF-1bgによって実行される。P部位でtRNAと結合するペプチドは、A部位内のアミノアシル-tRNAにおいてアミノ基に移される。この反応は、ペプチジルトランスフェラーゼを触媒とする。このプロセスは、ペプチド転移反応と呼ばれている。伸長したペプチドは、今やA部位内のtRNA上に位置している。次のアミノアシル-tRNAを受け入れるためには、A部位が空いている必要がある。ペプチジル-tRNAをA部位からP部位に移動させるプロセスは、トランスロケーションと呼ばれている。トランスロケーションは、GTPの加水分解と結びついているeEF-2を触媒とする。トランスロケーション・プロセスにおいて、リボソームはmRNAに沿って移動し、その結果としてmRNAの次のコドンがA部位の下に存在するようになる。トランスロケーションの後、eEF-2はリボソームから解放される。するとこのサイクルを再び開始することができる。
【0165】
開始および伸長と同様、翻訳の終止にも、終結因子であると同定された特別なタンパク質因子が必要とされる。終止のためのシグナルは、mRNAに存在する終止コドンである。UAG、UAA、UGAという3つの終止コドンが存在している。eRFが、GTPとともにリボソームのA部位に結合する。eRFがリボソームに結合することによってペプチジルトランスフェラーゼ活性が刺激され、ペプチジル基がアミノアシル-tRNAではなく水に移される。その結果としてアミノ酸を伴っていなくてP部位に残されたtRNAは、GTPの加水分解に伴って除去される。その後、不活性なリボソームが対応するmRNAを放出し、80S複合体が解離して40Sサブユニットと60Sサブユニットになることで、次の翻訳の準備が整う。
【0166】
タンパク質の分解
【0167】
細胞内のタンパク質のレベルは、合成速度だけでなく、分解速度によっても決定される。細胞内のタンパク質の半減期には数分から数日という幅があり、タンパク質が分解する速度の違いは、細胞調節の重要な側面である。素早く分解される多くのタンパク質は調節分子(例えば転写因子)として機能する。そのタンパク質の素早い代謝回転は、外部刺激に応答してそのレベルを素早く変化させるために必要である。他のタンパク質は、特定のシグナルに応答して素早く分解され、細胞内酵素活性の別の調節メカニズムを提供する。
【0168】
真核細胞においてタンパク質を選択的に分解する主要な経路では、ユビキチンが、タンパク質を素早く分解するための細胞質タンパク質と核タンパク質を標的としたマーカーとして使用されている。ユビキチンはアミノ酸が76個のポリペプチドであり、あらゆる真核生物で非常によく保存されている。タンパク質は、リシン残基の側鎖のアミノ基にユビキチンを結合させることにより、分解の標的となる。次に別のユビキチンが付加されてマルチユビキチン鎖を形成する。このようにポリユビキチン化されたタンパク質は、プロテアソームと呼ばれる大きなマルチサブユニット・プロテアーゼ複合体によって認識されて分解される。ユビキチンはこのプロセスで放出されるため、別のサイクルにおいて再利用することができる。ユビキチンの結合と、ユビキチンで印を付けられたタンパク質の分解の両方に、ATPの形になったエネルギーが必要であることに注意されたい。
【0169】
タンパク質の分解に関与するいくつかの酵素を挙げると、トリプシン、トリプシンインヒビター、キモトリプシン、プロタンパク質コンベルターゼ、カテプシン、カリクレイン(ホルモン処理)、カルパイン、メタロプロテイナーゼ、ヒポスタシン、グランザイム、エラスターゼ、C1インヒビターである。
【0170】
本発明では、6個の遺伝子(またはタンパク質)を、タンパク質代謝の適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、ADAM1、CANX、CTSB、CTSD、CTSL、EIF-4Eである。
【0171】
10.酸化代謝
【0172】
酸化ストレスは、3つある因子のうちの1つの結果として細胞に作用する。その3つ因子とは、1)酸化物質の発生増加、2)抗酸化保護の低下、3)酸化による損傷の修復失敗である。細胞の損傷は、反応性酸素種(ROS)によって誘導される。ROSは、フリーラジカル、または酸素原子を含む反応性アニオン、または酸素原子を含んでいて、フリーラジカルを発生させることができるか、フリーラジカルによって化学的に活性化される分子である。その具体例は、ヒドロキシル基、スーパーオキシド、過酸化水素、ペルオキシナイトライドである。生体内の主なROS供給源は好気的呼吸であるが、ROSは、ペルオキシソームによる脂肪酸のβ酸化、ミクロソームのシトクロムP450による生体異物の代謝、病原体またはリポ多糖による食作用、アルギニンの代謝、組織特異的酵素によっても発生する。通常の状態では、ROSは、スーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオン(GSH)ペルオキシダーゼのいずれかの作用によって細胞から除去される。細胞に対する主な損傷は、ROSによって巨大分子(例えば膜脂質内の多不飽和脂肪酸、必須タンパク質、DNA)の変化が誘導されることで生じる。さらに、酸化ストレスとROSは、アルツハイマー病、パーキンソン病、がん、老化などの疾患状態に関与していることがわかっている。
【0173】
本発明では、4個の遺伝子(またはタンパク質)を、酸化代謝の適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、SOD2、MSRA、GPX、GSTP1である。
【0174】
11.転写
【0175】
多細胞生物の分化した多くのタイプの細胞において遺伝子の発現を調節するという複雑な仕事は、主に、多数の異なった転写調節タンパク質の作用が組み合わさることによって実現される。さらに、DNAをクロマチンの中に包み込んでメチル化するという修飾を行なうと、真核生物の遺伝子発現の制御がより複雑になる。
【0176】
インビトロ系が開発され、一般的ないくつかの転写因子の特徴が明らかにされたにもかかわらず、真核細胞におけるポリメラーゼII転写メカニズムに関しては多くのことがわからないまま残されている。
【0177】
転写/転写因子としては、
- RNAポリメラーゼ、転写因子、アクチベータ/リプレッサー
- STAT=転写シグナル変換・活性化因子、PIAS=活性化したSTATのタンパク質インヒビター
- ホメオボックス/フォークヘッド・モチーフ・タンパク質、TATA結合タンパク質(TBP)、SOX=SRY関連遺伝子のファミリー(発生に関与する転写因子をコードしている)。Sox遺伝子ファミリーは、胚で発現する多数の遺伝子からなり、その遺伝子は、HMGボックスとして知られるアミノ酸が79個のDNA結合ドメインを持つことを通じて互いに関係している。
【0178】
ポリコウム・グループ(PcG)のタンパク質は、ショウジョウバエにおいて、Hox/ホメオティック遺伝子の転写が抑制された状態を、発生の間を通じて安定かつ遺伝可能な方式で維持する上で重要な因子として初めて報告された。ショウジョウバエのPcGタンパク質に関係する脊椎動物の遺伝子は、最近ますます多く同定されている。
【0179】
本発明では、13個の遺伝子(またはタンパク質)を、転写経路の適切な特徴を備えているとしてアレイで分析する(表2)。それは、DP1、DP2、E2F2、E2F3、E2F4、EGR1、EGR3、JUND、MAX、MYBL2、TFAP2A、TFAP2B、TFAP2Cである。
【0180】
非特異的効果機能または生存機能と関係するいくつかの遺伝子以外のいくつかの遺伝子も、特定の細胞機能に関する役割(細胞分化、循環、脂質代謝、腫瘍生成、腫瘍抑制、ストレス反応、プロテアソーム、ハウスキーピング遺伝子)を担っているため、検出用チップの上に組み込むことが好ましい。なおその機能のうちのいくつかは、RNAiの存在によって影響を受ける可能性がある。組み込むことが好ましい遺伝子は、SPRR1B、PAI1、PAI2、PLAU、TPA、VWF、ANX1、APOJ、COX2、c-myc、FES、FOS、RAF1、SHC、PSMD11、UBE2C、AOP2、HMOX、HSP27、HSP40、HSP70、HSP90-a、HSP90-b、JNK1、JNK2、JNK3、BIN1、ING1、TGFBR2、RPL13A、ALDOA、K-ALPHA-1、ACTB、PPIE、GAPD、HK1、HPRT1、MDH1、YWHAZ、RPS9、SDS、TFRCである。
【0181】
好ましい一実施態様では、本発明のアレイは、トランスフェクトされたsiRNAが標的とする遺伝子を検出するための捕獲分子も含んでいる。
【0182】
好ましい一実施態様では、信号を検出し、場合によってはその強度を定量するステップを、単一捕獲ヌクレオチド種について実行し、および/またはアレイ上での定量値としては、3回の実験データの平均値を採用する。
【0183】
別の好ましい一実施態様では、検出する核酸またはタンパク質の数は、少なくとも50種類かつ最大で2999種類であり、より好ましいのは1000種類である。好ましい一実施態様では、本発明のアレイは、異なる51種類以上かつ1000種類未満の捕獲分子を含んでいる。
【0184】
特別な一実施態様では、“RNAiチップ副作用”は、表2に示したリストに載っている少なくとも20種類、好ましくは50種類、さらに好ましくは100種類の遺伝子または全遺伝子を検出するための捕獲分子を備えている。アレイにより、3つの非特異的効果機能と他の11の生存機能に属する274個の異なる遺伝子を同時に分析することができる。各遺伝子の検出は3回行なう。各遺伝子の存在に関する数値は3つの値の平均値であり、その平均値と合わせて標準偏差も計算する。次に、所定の濃度での分析に内標準を追加して各数値を補正する。その後、アレイ内のバリー絵ションに対するオプションとして、ハウスキーピング遺伝子の補正も行なう。このプロセスを通じ、テスト実験に含まれる遺伝子について、対照の状態または比較サンプルと比較した絶対値が得られる。所定の実験条件での有意な変化を調べる遺伝子を表2に示してある。
【0185】
本発明の好ましい一実施態様では、3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも2個、好ましくは5個の遺伝子が別々に発現している細胞状態を本発明の方法を利用して比較するが、この方法は、所定の生物条件にある細胞または組織のトランスクリプトームを、参照物または対照の状態と比較するステップをさらに含んでいる。
【0186】
別の好ましい一実施態様では、少なくとも4つの細胞生存機能の少なくとも2個、好ましくは5個の遺伝子を、非特異的効果機能の少なくとも5個の遺伝子とともに別々に発現させる。
【0187】
別の好ましい一実施態様では、アレイは、少なくとも20種類、好ましくは51種類以上の異なる捕獲分子を備えており、3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも1種類の捕獲分子、好ましくは少なくとも5種類の捕獲分子が割り当てられている。
【0188】
別の好ましい一実施態様では、アレイは、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも5種類、好ましくは20種類の異なる捕獲分子を備えており、3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも5種類の異なる捕獲分子が割り当てられている。
【0189】
好ましい一実施態様では、アレイ上の3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも1個の遺伝子で表わされる。細胞の生存機能としては、上記定義を満たす任意の機能が可能である。さらに、好ましい一実施態様では、アレイ上の生存機能のそれぞれは、表2の少なくとも5個の遺伝子、より好ましくは表2からの少なくとも20個の遺伝子で表わされる。
【0190】
別の好ましい一実施態様では、11ある生存機能のそれぞれについて、少なくとも1つの遺伝子が、その機能の調節活性に影響を与える遺伝子である。
【0191】
調べる細胞としては任意の原核細胞または真核細胞が可能であるが、心筋細胞、内皮細胞、感覚ニューロン、運動ニューロン、CNSニューロン、星状細胞、グリア細胞、シュワン細胞、マスト細胞、好酸球、平滑筋細胞、骨格筋細胞、周皮細胞、リンパ球、腫瘍細胞、単球、マクロファージ、泡沫マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、メラノサイト、ケラチノサイト、滑膜細胞/滑膜線維芽細胞、上皮細胞からなるグループの中から選択した細胞であることが好ましい。
【0192】
使用するアレイとしては、従来からある任意の“バイオチップ構造体”が可能である。バイオチップ構造体とは、支持体、または支持体上に存在する基板で、その上に捕獲分子が結合するものを意味する。検出法を利用して標的を見る領域は、局所領域である。それは、その標的に特異的な捕獲分子の領域である。
【0193】
一実施態様では、アレイは、捕獲分子としてポリヌクレオチドおよび/またはペプチドを備えており、抗体またはそれと関係するタンパク質が、固体基板上に存在するタンパク質に対する特異的親和性を有する。
【0194】
捕獲分子は、その捕獲分子を含む溶液を基板表面または支持体のいろいろな領域に物理的に堆積させることによってその基板表面または支持体に結合させることが好ましい。別の一実施態様では、捕獲分子を基板上の所定の位置においてその場で合成する。別の一実施態様では、捕獲分子は基板上の所定の位置に存在している。
【0195】
本発明の好ましい一実施態様によれば、捕獲分子は、アレイ上で検出および/または定量されるそれぞれの遺伝子専用の長いポリヌクレオチドである。長い捕獲分子とは、長さが15〜1000ヌクレオチド(例えば15〜200、または15〜150、または15〜100ヌクレオチド)の捕獲プローブを意味する。その長い捕獲分子は支持体に固定されるが、支持体は、その捕獲分子に対応するcDNAとハイブリダイズできて、その捕獲分子を同定し、定量できるのであれば、任意の固体支持体でよい。固体支持体の表面に結合する捕獲ヌクレオチド配列の量は、その固体支持体の面積1cm2につき3フェムトモルを超える量である。
【0196】
好ましい一実施態様では、トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分は、RNA転写産物であるか、そのRNA転写産物からの核酸である。mRNA転写産物からの核酸とは、その核酸を合成するのにmRNA転写産物またはその部分配列が最終的に鋳型として機能する核酸を意味する。したがってmRNAから逆転写されたcDNA、cDNAから転写されたRNA、cDNAから増幅されたDNA、増幅されたDNAから転写されたRNAは、すべてmRNA転写産物に由来し、そのような産物が検出されるということは、サンプル中に元の転写産物が存在していること、および/または豊富であることを意味する。cDNAを直接検出できることが好ましく、それが可能であれば、データ・マイニングや結果の解釈をより簡単に行なえる。アレイ上に存在するポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション・パターンをそれぞれの遺伝子について明らかにすることによって遺伝子を検出する手段として、断片化したcDNAまたはRNAを利用してもよい。
【0197】
別の一実施態様では、捕獲プローブは、対応するmRNAの3-ポリ(A+)領域の近傍にある遺伝子のcDNAと結合する。mRNAの逆転写は、そのmRNAの3'-ポリ(A+)領域で始まり、常に完了するとは限らない。すると実際には完全とは言えないcDNAの集合が得られる。ハイブリダイゼーションの効率を改善するには、mRNAの3'末端に近い領域に対して特異的な捕獲配列を設計することが好ましかろう。
【0198】
捕獲プローブの配列は、他の遺伝子との交差反応が回避されるように選択することが好ましい。したがって遺伝子同士の相同性が大きくて(50%超)捕獲プローブと標的cDNAの間で交差反応が起こりうる領域は、好ましい種にはならない。
【0199】
遺伝子の変異体も、特異的な捕獲プローブを用いてアレイ上で特別に検出して定量することができる。組織によっては、多数のmRNAが同一の遺伝子から転写される。そのような変異体は、配列が多少とも重複していることがしばしばある。すべての変異体が診断、予後予測、将来予測の指標として潜在的に同じ重要性を持っているわけではない場合、または特定のいくつかの変異体だけを検出することが好ましい場合には、捕獲プローブは、そのようなマーカーに対して特異的なものを選択せねばならない。
【0200】
一実施態様によれば、本発明の方法は、全RNAまたは全mRNAからの逆転写によって得られたcDNAについて実施することができる。そのため、全RNAを組織から抽出し、約0.1〜100μgの量を使用して直接標識し、アレイ上でのハイブリダイゼーションを行なう。この量は、0.1〜50μgであることが好ましく、0.1〜20μgであることがより好ましく、0.1〜10μgであることがさらに好ましく、0.1〜2μgであることがそれ以上に好ましい。mRNAも同様にして処理することができる。そのとき、複製してcDNAにするのに、はるかに少ない量を用いる。RNAの増幅を、T7ポリメラーゼに基づく方法、PCR法、ローリング・サークル法、あるいはこれら以外の方法で行なう場合、増幅の程度によっては全RNAまたは全mRNAが0.1μgよりも少ない量でも検出が可能だが、一般に検出が可能になる量は、T7ポリメラーゼによる増幅だと数百μgであり、PCR法、ローリング・サークル法ではそれよりも多くなる。極端なケースでは、1個の細胞または数個の細胞をレーザー検出法で検出することが可能である。しかし増幅による方法では、異なる遺伝子が異なる効率で増幅されるため、増幅状態の異なる遺伝子に入り込む誤りを補正する必要がある。
【0201】
別の好ましい一実施態様によれば、検出および/または定量する元のヌクレオチド配列は、3'末端または5'末端の逆転写によるRNA配列である。その検出および/または定量には、コンセンサス・プライマーと、可能であればストッパー配列とを使用する。複製された配列または増幅された配列は、元の配列をあらかじめより小さな部分に切断することなく検出される。
【0202】
好ましい一実施態様によれば、サンプルの状態と対照の状態を、2つの同等なアレイを備えた同じ支持体上で分析する。別の一実施態様では、調べるサンプルと対照は、遺伝子を分析するための同じ捕獲分子を備えた複数のアレイ上で分析する。
【0203】
好ましい一実施態様によれば、細胞内で発現した遺伝子のアレイ上での測定は定量的になされ、データの変動係数は80%未満である。この値は、25%未満になることや、15%未満になることさえある。
【0204】
本発明は、上記の方法を実施するための手段と媒体を備えた診断用および/または予後予測用キットにも関する。
【0205】
好ましい一実施態様によれば、細胞にsiRNAをトランスフェクトしたことの効果を非特異的RNAi効果を明らかにすることによって測定および/または定量するためのキットであって、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイと、場合によっては緩衝液および標識とを含むキットが提供される。
【0206】
本発明の別の好ましい一実施態様によれば、細胞にsiRNAをトランスフェクトしたことの効果を非特異的RNAi効果を明らかにすることによって測定および/または定量するためのキットであって、アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子と、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達/受容体、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子という細胞生存機能のうちの少なくとも4つに属する、またはそれらを示す少なくとも1つの核酸またはタンパク質とが基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイと、場合によっては緩衝液および標識とを含むキットが提供される。
【0207】
あるいは本発明の方法とキットを利用し、特に細胞をsiRNAが存在しているという特別な状態にしたときに起こる遺伝子発現の変化を調べることもできる。したがって、このようにすると、例えば所定の生理的イベントにおける特定の遺伝子の役割を明らかにすることができる。生理的イベントとしては、例えば、ストレス、加齢、幹細胞の分化、造血、神経機能の状態、糖尿病、肥満、形質転換プロセス(発癌など)、タンパク質の代謝、循環系疾患(アテローム性動脈硬化症など)がある。
【0208】
別の一実施態様では、トランスフェクトされるsiRNAの配列を、本発明の方法とキットを利用してよりよく設計し、所定の遺伝子の抑制効率を向上させる。
【0209】
別の一実施態様では、本発明の方法とキットを利用し、非特異的な副作用が存在しないsiRNAをスクリーニングする。さらに詳しく述べるならば、興味の対象である遺伝子以外の遺伝子にsiRNAが到達して誤った陽性結果を出さないようにする。言い換えると、本発明により、特定の遺伝子または経路に高効率で効果を及ぼすsiRNAをスクリーニングすることができる。また本発明により、副作用の少ないsiRNAをスクリーニングすることができる。
【0210】
好ましい一実施態様では、siRNAの効果を変化させることのできる薬剤を、本発明の方法とキットを利用してスクリーニングする。この方法は、細胞をその薬剤に曝露するステップと;3つの非特異的効果機能のうちの少なくとも2つのそれぞれに関係する少なくとも1つの遺伝子の発現レベルと、少なくとも3つの生存機能と関係する表2に示した他の少なくとも10種類の遺伝子の発現レベルを検出するステップとを含んでいる。
【0211】
別の一実施態様では、細胞にsiRNAをトランスフェクトしたことの効果を変化させうる薬剤を、本発明の方法とキットを利用してスクリーニングする。この方法は、トランスフェクトされた細胞を薬剤に曝露するステップと;3つの非特異的効果機能のうちの少なくとも2つのそれぞれに関係する少なくとも1つの遺伝子の発現レベルと、少なくとも3つの生存機能と関係する表2に示した他の少なくとも10種類の遺伝子の発現レベルを検出するステップと;トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを、少なくとも1つの参照細胞と比較するステップを含んでいる。参照細胞は、トランスフェクトされていない細胞で薬剤と接触させたものでも、トランスフェクトされた細胞で薬剤と接触させなかったものでもよい。
【0212】
本発明は、複数の生体分子(例えばサイトカイン、成長ホルモン、あるいは細胞に影響を与える任意の生体分子からなるグループ)の中から選択した薬剤の存在下でRNAiの効果を追跡するのに特に役立つ。このグループには、薬、毒性分子、植物または動物から抽出した化合物、有機合成(コンビナトリー・ケミストリーも含む)によって得られる化合物なども含まれる。
【0213】
本発明による別の一実施態様には、siRNAをトランスフェクトされた細胞の発現レベルを同定する情報と、表1と表2に示した3つの非特異的効果機能のそれぞれおよび11ある細胞生存機能に関係する遺伝子と、情報を見るためのユーザー・インターフェイスとを含むデータベースを備えたコンピュータ・システムも含まれる。本発明には、配列情報(例えば表1と表2に示した1つ以上の遺伝子の配列情報)と、さまざまなsiRNAをトランスフェクトされた細胞に関する遺伝子発現情報とを含むリレーショナル・データベースが含まれる。データベースには、所定のsiRNA配列に関係する情報(例えばその配列情報と関係のある遺伝子について記述した情報)も含めることができる。データベースには、さまざまな要素(例えば配列データベース、遺伝子発現データベース)が含まれるように設計することができる。そのようなデータベースを構成する方法は広く知られており、例えばアメリカ合衆国特許第5,953,727号(参考としてその全体がこの明細書に含まれているものとする)がある。別の一実施態様では、ある機能に関連して検出される遺伝子は、転写レベルで調節される。
【0214】
アレイ上で検出されるこの明細書に記載した遺伝子は、公開データベース(すなわち、http://www.geneontology.org/の遺伝子存在論プロジェクト)で由来を知ることができる。
【0215】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明がこの実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0216】
遺伝子発現の検出:siRNA(Bcl-2)を細胞にトランスフェクトした効果の具体例
【0217】
Bcl-2遺伝子に関係したsiRNAの調製
【0218】
T7 RiboMAX Express RNAi系(プロメガ社、マディソン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)を用いてdsRNAを調製した。
【0219】
クローニングしたBcl-2遺伝子を特異的プライマー(5'-AGCACAGAAGATGGGAACAC-3'と、5'-CAGCCACCTCTTAAAAGTATC-3')を用いて増幅した。一方のプライマーは、5'-TAATACGACTCACTATAGGN(プライマー)-3'のタイプのT7プロモータを備えている。
【0220】
得られるアンプリコンは1つの鎖にT7プロモータを備えていたため、この鎖の転写が可能であった。転写は、RiboMAX Expressを製造者が提案しているようにして用い、T7鎖配列のそれぞれを転写酵素とともにインキュベートすることによって行なった。反応は37℃にて30分間にわたって行なわせた。転写後、RNアーゼを含まないDNアーゼで消化させることによってDNA鋳型を除去する。濃度と体積が同じ2本のRNA鎖を70℃にて10分間にわたってインキュベートすることにより、その2本のRNA鎖をアニーリングした。次に1本鎖RNAを消化するRNアーゼとともにインキュベートすることにより、その1本鎖RNAを除去した。次に冷たい(-70℃)エタノール中での沈澱によって2本鎖RNAを精製し、アンビオン社(オースチン、テキサス州、アメリカ合衆国)のサイレンサーsiRNAカクテル・キットを用いて消化させることのできる溶液中でその2本鎖RNAを遠心分離した後に回収した。次に、1マイクログラムのRNAにつき1UのRNアーゼIIIを用いて二本鎖RNAを消化させ、37℃にて1時間にわたってインキュベートした。1時間消化させた後、二本鎖RNAは、30bp未満の小さな断片になった。断片の大部分は12〜15bpであった。
【0221】
トランスフェクション
【0222】
siRNAを96ウエルのプレートのウエルに移し、CHO細胞を、アンビオン社(オースチン、テキサス州、アメリカ合衆国)のsiポート・アミン・トランスフェクション剤とともに、その会社が提供した実験プロトコルを用いてそのウエルに移した。そのときトランスフェクション剤はプレートの面積1cm2につき3μlの濃度にし、細胞の密度は1cm2につき105個にした。対照となる細胞は、トランスフェクトされていない細胞を同じ条件でインキュベートしたものであった。
【0223】
2日後、細胞のmRNAを回収し、Bcl-2遺伝子の発現レベルを本発明のマイクロアレイで調べた。
【0224】
Bcl-2をコードしているmRNAのレベルは、RT-PCRによると、Bcl-2配列に特異的なsiRNAを含むウエルにおいてトランスフェクトされた細胞のほうが、トランスフェクトされていない細胞よりも低かった。
【0225】
マイクロアレイ上での遺伝子発現の検出
【0226】
1.RNAの抽出
【0227】
ファーストトラック・カラム(インヴィトロジェン社)を用いてポリ(A+)RNA(mRNA)を抽出した。ポリ(A+)RNAをRNアーゼを含まない水の中に再び懸濁させた。
【0228】
RNAの濃度と純度は、調製物のアリコートをTE(10mMのトリス-HCl(pH8)、1mMのEDTA)の中に希釈し、吸光度を260nmと280nmで測定することによって明らかにした。
【0229】
A260の値からRNAの濃度を評価できるのに対し、比A260/A280は、RNAの純度の指標を与えてくれる。使用するRNAに関しては、その比は1.8〜2でなくてはならない。
【0230】
RNA調製物の全体的品質は、変性1%アガロース・ゲル上での電気泳動によって明らかにした(Sambrook他編、1989年、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第2版、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社)。
【0231】
2.cDNAの合成
【0232】
1μlのポリ(A+)RNAサンプル(0.5μg/μl)を、2μlのオリゴ(dT)12〜18(0.5μg/μl、ロッシュ社)と、3.5μlのH2Oと、よく性質のわかった3種類の合成ポリ(A+)RNAからなる3μlの溶液と混合した。3種類の合成ポリ(A+)RNAは、続く分析ステップの間に入り込む実験的変動の定量と評価を助ける内標準として用いた。70℃で10分間、次いで氷の上で5分間にわたってインキュベートした後、反応混合物を9μl添加した。反応混合物は、4μlの逆転写緩衝液5×(ギブコBRL社)と、1μlのRNAsinリボヌクレアーゼ阻害剤(40U/ml、プロメガ社)と、2μlの10×dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTP(それぞれ5mM、ロッシュ社)と、dCTP(800μM、ロッシュ社)と、ビオチン-11-dCTP(800μM、NEN社)からなる)とで構成した。
【0233】
5分間にわたって室温にした後、1.5μlのスーパースクリプトII(200U/ml、ギブコBRL社)を添加し、42℃にて90分間にわたってインキュベートした。スーパースクリプトの添加とインキュベーションをもう一度繰り返した。次にこの混合物を15分間にわたって70℃にし、1μlのリボヌクレアーゼH(2U/μl)を添加して20分間にわたって37℃にした。最後に、3分間の変性ステップを95℃で実施した。ビオチニル化されたcDNAを-20℃に維持した。
【0234】
3.ビオチニル化されたcDNAの(ビオチニル化されたcDNAを用いた)ハイブリダイゼーション
【0235】
ビオチニル化されたcDNAのハイブリダイゼーションに用いるアレイは、274種類の遺伝子(表2)と、異なるいくつかの対照(その中には、検出用の正と負の対照、ハイブリダイゼーション用の正と負の対照、3つの異なる内標準が含まれる)とを備えており、対照はすべて、そのマイクロアレイ上で分析する遺伝子の間に分配されていろいろな位置に存在している。アレイは、siRNAの特異的な効果(オンのBcl-2標的遺伝子)を明らかにするのに用いるBcl-2捕獲プローブを備えている。アポトーシス経路、DNA修復/合成経路、IFN型応答経路に属する93個の遺伝子を使用し、siRNAの非特異的な効果(オフのBcl-2標的遺伝子)を明らかにする。
【0236】
各スポットは、単一ポリヌクレオチド種である捕獲プローブで覆った。そのスポットにより、表1に含まれる特定の1つの遺伝子に対応する1つの標的ポリヌクレオチドが特異的に結合できる。すべての配列を遺伝子特異的であるように設計し、ヒトcDNAクローンを用いてその配列を調製した。
【0237】
ハイブリダイゼーション・チェンバーはバイオザイム社(ランドグラアフ、オランダ国)からのものであった。ハイブリダイゼーション混合物は、ビオチニル化されたcDNA(標識したcDNAの合計量)と、6.5μlのハイブリバッファA(エッペンドルフ社、ハンブルク、ドイツ国)と、26μlのハイブリバッファB(エッペンドルフ社、ハンブルク、ドイツ国)と、6μlのH2Oと、2μlの正のハイブリダイゼーション用対照とで構成した。
【0238】
ハイブリダイゼーションは、60℃にて一晩かけて行なった。その後、洗浄用緩衝液(エッペンドルフ社、ハンブルク、ドイツ国)を用いてマイクロアレイを2分間ずつ4回洗浄した。
【0239】
次にマイクロアレイを、Cy3と共役したIgG抗ビオチン(ジャクソン・イムノ・リサーチ・ラボラトリーズ社、#200-162-096)を1000倍に希釈したものとともに、室温にて45分間にわたってインキュベートした。
【0240】
洗浄用緩衝液を用いてマイクロアレイを2分間ずつ4回洗浄し、蒸留水を用いて2分間ずつ2回洗浄した後、N2流の中で乾燥させた。
【0241】
4.スキャニングとデータ解析
【0242】
レーザー共焦点スキャナー“スキャンアレイ”(パッカード社、アメリカ合衆国)を用い、ハイブリダイズしたマイクロアレイを10μmの解像度で走査した。アッセイのダイナミック・レンジを最大にするため、同じアレイを光電子増倍管(PMT)の設定を変えて走査した。画像を取得した後、走査した16ビットの画像をソフトウエア“ImaGene4.0”(バイオディスカバリー社、ロスアンゼルス、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)に取り込んだ。このソフトウエアは、信号の強度を定量化するために使用した。Delonguevilleらが記載している方法(Biochem. Pharmacol.、第64巻(1)、2002年、137〜149ページ)に従って参照アレイと比較することにより、データ・マイニングと、テストにおいて有意に発現した遺伝子の決定を行なった。簡単に説明すると、スポットの強度をまず最初に局所的バックグラウンドを考慮して補正し、次いでテスト・アレイと参照アレイの比を計算した。異なる実験ステップにおける差を説明するため、異なるハイブリダイゼーションから得られたデータを2通りの方法で規格化する。まず最初に、参照する内標準とテスト・サンプルの強度比から計算した因子を用いて値を補正する。マイクロアレイ上の異なる位置に3つの内標準プローブが存在していることで、局所的バックグラウンドの測定と、規格化の際に考慮することになるマイクロアレイの均一さの評価が可能になる(Schuchhardt他、Nucleic Acids Res.、第28巻、2000年、E47ページ)。しかし対照である内標準を用いてmRNAサンプルの品質を明らかにすることはできないため、ハウスキーピング遺伝子の発現レベルに基づいて規格化するという第2ステップを行なった。このプロセスには、発現が顕著に変化するとは考えられない一群のハウスキーピング遺伝子の平均強度を計算する操作が含まれる。規格化した一群のハウスキーピング遺伝子の偏差を利用し、変動幅の予想値を得る。すると得られる比の有意さを調べるための信頼区間の予想値が得られる(Chen他、J. Biomed. Optics、第2巻、1997年、364〜374ページ)。95%信頼区間の外に出る比率が処理によって有意に変化したことが明らかになった。
【0243】
【表1】

【0244】
【表2】

【0245】
【表3】

【0246】
【表4】

【0247】
【表5】

【0248】
【表6】

【0249】
【表7】

【0250】
【表8】

【0251】
【表9】

【0252】
【表10】

【0253】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内でのsiRNAのトランスフェクション効果を測定および/または定量する方法であって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分を前記アレイと接触させるステップと、
捕獲分子に基づく信号の強度を検出および/または定量するステップと、
トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、
結合イベントのパターンおよび/または強度が、トランスフェクトされた細胞内にsiRNAが存在することによる潜在的に有害な非特異的副作用を示している方法。
【請求項2】
アレイが、トランスフェクトされたsiRNAの標的となる遺伝子を検出するための捕獲分子も備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
信号を検出し、場合によってはその強度を定量するステップを、単一の捕獲ヌクレオチド種について実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アレイ上での定量値として、3回の実験データの平均値を採用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アレイが、50種類超かつ1000種類未満の異なる捕獲分子を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アレイが、表2に示したリストに載っている少なくとも20種類、好ましくは50種類、さらに好ましくは100種類の遺伝子または全遺伝子を検出するための捕獲分子を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも1種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも5種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも20種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも1個の遺伝子で表わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも20個の遺伝子で表わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
11の生存機能のそれぞれに関する少なくとも1個の遺伝子が、その機能の調節活性に影響を与える遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
トランスフェクトされる細胞の選択を、心筋細胞、内皮細胞、感覚ニューロン、運動ニューロン、CNSニューロン、星状細胞、グリア細胞、シュワン細胞、マスト細胞、好酸球、平滑筋細胞、骨格筋細胞、周皮細胞、リンパ球、腫瘍細胞、単球、マクロファージ、泡沫マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、メラノサイト、ケラチノサイト、滑膜細胞/滑膜線維芽細胞、上皮細胞からなるグループの中から行なう、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
アレイが捕獲分子を備えており、その捕獲分子は、固体基板上に存在するポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
アレイが、タンパク質に対する特異的親和性を有する抗体または関連するタンパク質を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
捕獲分子を基板上に物理的堆積法で堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
捕獲分子を基板上の所定の位置においてその場で合成する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
捕獲分子が、アレイ上で検出および/または定量されるそれぞれの遺伝子専用のポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
上記ポリヌクレオチドの長さが15〜1000ヌクレオチドである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
基板の表面に結合する捕獲ヌクレオチド配列の量が、その基板の表面積1cm2当たり3フェムトモルを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分が、RNA転写産物であるか、そのRNA転写産物からの核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
上記RNA転写産物に由来する核酸がcDNAである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
サンプルの状態と対照の状態を、2つの同等なアレイを備えた同じ基板上で分析する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
調べるサンプルと対照を、遺伝子を分析するための同じ捕獲分子を備えた複数のアレイ上で分析する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
細胞内で発現する遺伝子のアレイ上での測定が定量的であり、データの変動係数が80%未満である、あるいは25%未満または15%未満でさえある、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
細胞内でのsiRNAのトランスフェクション効果を測定および/または定量する方法であって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子と、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達/受容体、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子という細胞生存機能のうちの少なくとも4つに属する、またはそれらを示す少なくとも1つの核酸またはタンパク質とが基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分を前記アレイと接触させるステップと、
捕獲分子に基づく信号の強度を検出および/または定量するステップと、
トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、
結合イベントのパターンおよび/または強度が、siRNAが存在しているために細胞の生存機能に関する特定の遺伝子の発現が抑制されたことの効果と、トランスフェクトされた細胞内にsiRNAが存在することによる潜在的に有害な非特異的副作用の効果を示している方法。
【請求項30】
アレイが、トランスフェクトされたsiRNAの標的となる遺伝子を検出するための捕獲分子も備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
信号を検出し、場合によってはその強度を定量するステップを、単一の捕獲ヌクレオチド種について実行する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
アレイ上での定量値として、3回の実験データの平均値を採用する、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
アレイが、50種類超かつ1000種類未満の異なる捕獲分子を備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
アレイが、表2に示したリストに載っている少なくとも20種類、好ましくは50種類、さらに好ましくは100種類の遺伝子または全遺伝子を検出するための捕獲分子を備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも1種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも5種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも20種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも1個の遺伝子で表わされる、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項29に記載の方法。
【請求項41】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項29に記載の方法。
【請求項42】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも20個の遺伝子で表わされる、請求項29に記載の方法。
【請求項43】
11の生存機能のそれぞれに関する少なくとも1個の遺伝子が、その機能の調節活性に影響を与える遺伝子である、請求項29に記載の方法。
【請求項44】
トランスフェクトされる細胞の選択を、心筋細胞、内皮細胞、感覚ニューロン、運動ニューロン、CNSニューロン、星状細胞、グリア細胞、シュワン細胞、マスト細胞、好酸球、平滑筋細胞、骨格筋細胞、周皮細胞、リンパ球、腫瘍細胞、単球、マクロファージ、泡沫マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、メラノサイト、ケラチノサイト、滑膜細胞/滑膜線維芽細胞、上皮細胞からなるグループの中から行なう、請求項29に記載の方法。
【請求項45】
アレイが捕獲分子を備えており、その捕獲分子は、固体基板上に存在するポリヌクレオチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項46】
アレイが、タンパク質に対する特異的親和性を有する抗体または関連するタンパク質を備えている、請求項29に記載の方法。
【請求項47】
捕獲分子を基板上に物理的堆積法で堆積させる、請求項29に記載の方法。
【請求項48】
捕獲分子を基板上の所定の位置においてその場で合成する、請求項29に記載の方法。
【請求項49】
捕獲分子が、アレイ上で検出および/または定量されるそれぞれの遺伝子専用のポリヌクレオチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項50】
上記ポリヌクレオチドの長さが15〜1000ヌクレオチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項51】
基板の表面に結合する捕獲ヌクレオチド配列の量が、その基板の表面積1cm2当たり3フェムトモルを超える、請求項29に記載の方法。
【請求項52】
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分が、RNA転写産物であるか、そのRNA転写産物からの核酸である、請求項29に記載の方法。
【請求項53】
上記RNA転写産物に由来する核酸がcDNAである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
サンプルの状態と対照の状態を、2つの同等なアレイを備えた同じ基板上で分析する、請求項29に記載の方法。
【請求項55】
調べるサンプルと対照を、遺伝子を分析するための同じ捕獲分子を備えた複数のアレイ上で分析する、請求項29に記載の方法。
【請求項56】
細胞内で発現する遺伝子のアレイ上での測定が定量的であり、データの変動係数が80%未満である、あるいは25%未満または15%未満でさえある、請求項29に記載の方法。
【請求項57】
siRNAの効果を変化させることのできる薬剤をスクリーニングする方法であって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子と、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達/受容体、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子という細胞生存機能のうちの少なくとも4つに属する、またはそれらを示す少なくとも1つの核酸またはタンパク質とが基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、
siRNAをトランスフェクトされた細胞を薬剤に曝露するステップと、
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分を前記アレイと接触させるステップと、
上記3つの非特異的効果機能のうちの少なくとも2つのそれぞれに関係する少なくとも1つの遺伝子の発現レベルと、少なくとも3つの生存機能と関係する表2に示した他の少なくとも10種類の遺伝子の発現レベルを検出するステップと、
薬剤に曝露したトランスフェクトされた細胞の発現レベルを、薬剤に曝露しなかったトランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを含む少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、
結合イベントのパターンおよび/または強度が、siRNAが存在しているために細胞の生存機能に関する特定の遺伝子の発現が抑制されることに薬剤が及ぼす効果を示している方法。
【請求項58】
アレイが、トランスフェクトされたsiRNAの標的となる遺伝子を検出するための捕獲分子も備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
信号を検出し、場合によってはその強度を定量するステップを、単一の捕獲ヌクレオチド種について実行する、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
アレイ上での定量値として、3回の実験データの平均値を採用する、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
アレイが、50種類超かつ1000種類未満の異なる捕獲分子を備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
アレイが、表2に示したリストに載っている少なくとも20種類、好ましくは50種類、さらに好ましくは100種類の遺伝子または全遺伝子を検出するための捕獲分子を備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項63】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも1種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項57に記載の方法。
【請求項64】
アレイが、少なくとも20種類、好ましくは50種類超の異なる捕獲分子を備えていて、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれについて少なくとも5種類の捕獲分子が割り当てられている、請求項57に記載の方法。
【請求項65】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項66】
アレイが、上記3つの非特異的効果機能のそれぞれに関する少なくとも5種類の異なる捕獲分子と、少なくとも4種類の細胞生存機能に関する少なくとも20種類の異なる捕獲分子とを備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項67】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも1個の遺伝子で表わされる、請求項57に記載の方法。
【請求項68】
アレイ上の上記3つの非特異的効果機能が、1つの機能につき表1からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項57に記載の方法。
【請求項69】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも5個の遺伝子で表わされる、請求項57に記載の方法。
【請求項70】
アレイ上の上記細胞生存機能が、表2からの少なくとも20個の遺伝子で表わされる、請求項57に記載の方法。
【請求項71】
11の生存機能のそれぞれに関する少なくとも1個の遺伝子が、その機能の調節活性に影響を与える遺伝子である、請求項57に記載の方法。
【請求項72】
トランスフェクトされる細胞の選択を、心筋細胞、内皮細胞、感覚ニューロン、運動ニューロン、CNSニューロン、星状細胞、グリア細胞、シュワン細胞、マスト細胞、好酸球、平滑筋細胞、骨格筋細胞、周皮細胞、リンパ球、腫瘍細胞、単球、マクロファージ、泡沫マクロファージ、樹状細胞、顆粒球、メラノサイト、ケラチノサイト、滑膜細胞/滑膜線維芽細胞、上皮細胞からなるグループの中から行なう、請求項57に記載の方法。
【請求項73】
アレイが捕獲分子を備えており、その捕獲分子は、固体基板上に存在するポリヌクレオチドである、請求項57に記載の方法。
【請求項74】
アレイが、タンパク質に対する特異的親和性を有する抗体または関連するタンパク質を備えている、請求項57に記載の方法。
【請求項75】
捕獲分子を基板上に物理的堆積法で堆積させる、請求項57に記載の方法。
【請求項76】
捕獲分子を基板上の所定の位置においてその場で合成する、請求項57に記載の方法。
【請求項77】
捕獲分子が、アレイ上で検出および/または定量されるそれぞれの遺伝子専用のポリヌクレオチドである、請求項57に記載の方法。
【請求項78】
上記ポリヌクレオチドの長さが15〜1000ヌクレオチドである、請求項57に記載の方法。
【請求項79】
基板の表面に結合する捕獲ヌクレオチド配列の量が、その基板の表面積1cm2当たり3フェムトモルを超える、請求項57に記載の方法。
【請求項80】
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分が、RNA転写産物であるか、そのRNA転写産物からの核酸である、請求項57に記載の方法。
【請求項81】
上記RNA転写産物に由来する核酸がcDNAである、請求項57に記載の方法。
【請求項82】
サンプルの状態と対照の状態を、2つの同等なアレイを備えた同じ基板上で分析する、請求項57に記載の方法。
【請求項83】
調べるサンプルと対照を、遺伝子を分析するための同じ捕獲分子を備えた複数のアレイ上で分析する、請求項57に記載の方法。
【請求項84】
細胞内で発現する遺伝子のアレイ上での測定が定量的であり、データの変動係数が80%未満である、あるいは25%未満または15%未満でさえある、請求項57に記載の方法。
【請求項85】
細胞内でのsiRNAのトランスフェクション効果を、非特異的なRNAi効果を決定することによって測定および/または定量するためのキットであって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイと、
場合によっては緩衝液および標識とを含むキット。
【請求項86】
細胞内でのsiRNAのトランスフェクション効果を、特異的なRNAi効果と非特異的なRNAi効果を決定することによって測定および/または定量するためのキットであって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子と、細胞接着、細胞周期、増殖因子、サイトカイン、細胞のシグナル伝達/受容体、染色体プロセシング、中間代謝、細胞外マトリックス、細胞構造、タンパク質代謝、酸化代謝、転写、ハウスキーピング遺伝子という細胞生存機能のうちの少なくとも4つに属する、またはそれらを示す少なくとも1つの核酸またはタンパク質とが基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイと、
場合によっては緩衝液および標識とを含むキット。
【請求項87】
非特異的な副作用が存在しないsiRNAをスクリーニングする方法であって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分をアレイと接触させるステップと、
捕獲分子に基づく信号の強度を検出および/または定量するステップと、
トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、
結合イベントのパターンおよび/または強度が、トランスフェクトされた細胞内にsiRNAが存在することによる有害な非特異的副作用を示している方法。
【請求項88】
siRNA配列の設計を改善する方法であって、
アポトーシス、DNA修復/合成、インターフェロン型応答という3つの非特異的効果機能のそれぞれに属するか、その各機能を代表する核酸またはタンパク質に対して特異的な最大で2999種類の異なる捕獲分子が基板上に固定されていて、そのうちの少なくとも20種類の異なる核酸またはタンパク質を検出できるアレイを用意するステップと、
配列および/または長さが異なるさまざまなsiRNAを細胞にトランスフェクトするステップと、
トランスフェクトされた細胞に由来するサンプル成分を前記アレイと接触させるステップと、
捕獲分子に基づく信号の強度を検出および/または定量するステップと、
トランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを、さまざまなsiRNAをトランスフェクトされた細胞のトランスクリプトームまたはプロテオームを含む少なくとも1つの参照物または対照の状態と比較するステップとを含んでおり、
結合イベントのパターンおよび/または強度の違いが、所定のsiRNAの効果を示している方法。

【公開番号】特開2006−174827(P2006−174827A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−328797(P2005−328797)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(501186645)エッペンドルフ アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】