説明

マイクロカプセルの製造方法

【課題】本発明の課題は、簡便に製造でき、潜熱蓄熱材を高濃度で内包可能なマイクロカプセルの製造方法および該方法により得られたマイクロカプセルを提供する。
【解決手段】内包物(潜熱蓄熱材)をポリマー壁材、ナイロン膜、重合膜で被覆することで内包物質を高濃度で含有可能にするマイクロカプセル化技術。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便に製造でき、潜熱蓄熱材を高濃度で内包可能なマイクロカプセルの製造方法および該方法により得られたマイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは目的とする内包物質を内包する容器である。従来より、内包物を固定化するには壁材となる物質を用いて内包する手法が用いられる。しかし、潜熱蓄熱材というような内包物の特性を十分に発揮するためには、内包物の高濃度での固定化が望まれている。
【0003】
また、架橋性ポリマーに被覆された潜熱蓄熱材(パラフィンワックスや脂肪酸)(特開2002-114973(特許文献1)、特開2003−138249(特許文献2))の報告がなされているが、いずれも内包物の高含有化や操作性の点で問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−114973号公報
【特許文献2】特開2003−138249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡便に製造でき、潜熱蓄熱材を高濃度で内包可能なマイクロカプセルの製造方法および該方法により得られたマイクロカプセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、目的の内包物を内包するマイクロカプセルを製造する方法であって、クロライド系重合性反応性物質、目的の内包物を溶解した有機溶媒相と水溶性分散安定剤を含む蒸留水からなる水相を混合する工程と、前記溶液をホモミキサーあるいはホモジナイザーを用いて乳化・分散させO/Wエマルションを調整する工程と、前記乳化・分散させた溶液中の溶媒にアミン系重合性反応性物質を含むアルカリ水溶液を添加し、温度を下げることにより界面重合反応をさせて内包物の界面にナイロン膜を形成させる工程と、イソシアネート基や二重結合を有する重合反応性物質を含む数nm〜10μmの分散液滴よりなるO/Wエマルションを添加し、界面重合反応したナイロン膜の表面に付着させる工程と、前記溶液を加温することで、カプセルに付着したエマルション内のイソシアネート基や二重結合を有する重合性反応物質を界面重合あるいはラジカル重合反応を行わせることで、前記のナイロン膜表面に重合膜を形成させる工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
なお、前記内包物が、潜熱蓄熱材として利用可能なパラフィンワックス、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明により、界面重合法によりナイロン膜を有するマイクロカプセルを作成し、そのナイロン膜の表面にイソシアネート基や二重結合を有する重合反応性物質を含むnm〜10μmのO/Wエマルションを付着させ、このエマルション中の重合反応物質を重合させることによりナイロン膜表面に重合膜を形成させことができた。内包物をナイロン膜、重合膜で被覆することで内包物を高濃度で含有可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に従い潜熱蓄熱材を内包するマイクロカプセルを製造する各工程、並びに、得られたマイクロカプセルの特徴と構造および用途に沿って本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明の内包物質である潜熱蓄熱材としては、パラフィンワックス、C6〜C18の炭素差を有する飽和脂肪酸(カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ペンタデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸)、C6〜C18の炭素鎖を有する不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ヒラゴ酸、タリリン酸)が挙げられる。この潜熱蓄熱材の1種類あるいは数種類を混合して使用する。
【0011】
水溶性分散安定剤は、ポリオキシエチレンが付加したトリあるいはジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンが付加したアルコールエーテル、ポリオキシエチレンが付加したソルビタンオレエート等のツイーン系界面活性剤、ソルビタンオレエート等のスパン系界面活性剤、レシチン、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、デキストリン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース)、多価アルコール(グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4―ブタンジオール、マルチトール、キシリトール等)及び多価金属化合物(マグネシウム化合物、カルシウム化合物、亜鉛化合物、カドミニウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、銅化合物、鉄化合物、クロム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物)が挙げられる。水溶性分散安定剤は、少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。また、ラジカル重合開始剤としてα,α−アゾビスイソブチロニトリルやアゾビスシクロヘキサンカルボニトリルのようなアゾ化合物やクメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルのような過酸化物を例示することができる。少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。
【0012】
クロライド系重合性反応性物質としては、マロニルジクロライド、琥珀酸クロライド、グルタルジクロライド、アジポイルジクロライド、セバコイルジクロライド、塩化フマリン、塩化フマリル、塩化イタコニル、テレフタル酸クロライド、トリメソイルクロライド等が挙げられる。少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。
【0013】
アミン系重合性反応性物質としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2−メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。
【0014】
イソシアネート基を有する重合性反応物質としては、フェニルイソシアネート、トリレンイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が用いられる。少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。
【0015】
二重結合を有する重合反応物質として、スチレン、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、クロロスチレン、スチレンメチルスチレン、エチルスチレン、メトキシスチレン、ニトロスチレン、アミノスチレン、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸シクロヘキシル、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、ビニルフェニルエーテル、ビニルメチルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、が挙げられる。少なくとも単独でもしくは2種類以上併せて用いられる。
【0016】
マイクロカプセル製造法に関して、水相(連続相)として、蒸留水に水溶性分散安定剤0.01〜10wt%(W/W)溶解させたものを用意する。次に有機相(分散相)として、内包物質1〜95wt%(W/W)、クロライド系重合性反応性物質を0.01〜10wt%(W/W)溶解させたものを用意する。連続相となる水相を重合反応器に加えた。反応容器に上記で調整した有機相を投入し、0〜10℃下10〜1,000 rpmで1〜20分間撹拌してO/Wエマルションを調製した。引き続き、アミン系重合性反応性物質0.01〜10wt%(W/W)を含む1〜10M水酸化ナトリウム水溶液(1〜100ml)を徐々に加え、0〜10℃下10〜1,000 rpmで1〜20分間撹拌することで界面重合反応を行いナイロン膜を形成させた。引き続き0〜10℃下10〜1,000 rpmで撹拌をしながら、イソシアネート基や二重結合を有する重合反応性物質を含む数nm〜10μmの分散液滴よりなるO/Wエマルションを添加し、界面重合反応したナイロン膜の表面に付着させた。その後、加温(15〜100℃)することで、カプセルに付着したエマルション内のイソシアネート基や二重結合を有する重合性反応物質を界面重合あるいはラジカル重合反応を行わせることで、ナイロン膜表面にさらに重合膜を形成させた。ここで、内包物質を取り囲みナイロン膜、重合膜が被覆した状態が形成される。
【0017】
このマイクロカプセルの構造は、外観が球状であり、内部が単核状の構造をしている(図1)。粒子径は1〜1000μmと自由に制御可能である。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
水相(連続相)として、蒸留水300 mlに分散安定剤としてのアラビアゴム2wt%溶解させたものを用意する。次に有機相(分散相)として、カプリン酸94wt%、セバコイルクロリドを2wt%とトリメソイルクロリドを4wt%溶解させたものを用意する。連続相となる上記のアラビアゴム水溶液を重合反応器に加えた。反応容器に上記で調整した有機相を投入し、10℃下100 rpmで2分間撹拌してO/Wエマルションを調製した。引き続き、エチレンジアミン8wt%を加えた8M水酸化ナトリウム水溶液(20ml)を徐々に加え、10℃下100rpmで10分間撹拌することで界面重合反応を行いナイロン膜を形成させた。引き続き10℃下300 rpmで撹拌をしながら、ジビニルベンゼンと2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)を含む2μmのの分散液滴よりなるO/Wエマルションを添加し、界面重合反応したナイロン膜の表面に付着させた。その後、反応系内を40℃にすることで、ラジカル重合反応を行わせることで、ナイロン膜表面にさらに重合膜を形成させ、500μmのマイクロカプセルを得た。内包物質の含有量(率)を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2
水相(連続相)として、蒸留水300 mlに分散安定剤としてのアラビアゴム2wt%溶解させたものを用意する。次に有機相(分散相)として、カプリン酸94wt%、セバコイルクロリドを2wt%とトリメソイルクロリドを4wt%溶解させたものを用意する。連続相となる上記のアラビアゴム水溶液を重合反応器に加えた。反応容器に上記で調整した有機相を投入し、10℃下100 rpmで2分間撹拌してO/Wエマルションを調製した。引き続き、エチレンジアミン8wt%を加えた8M水酸化ナトリウム水溶液(20ml)を徐々に加え、10℃下100rpmで10分間撹拌することで界面重合反応を行いナイロン膜を形成させた。引き続き10℃下300 rpmで撹拌をしながら、フェニルイソシアネートとトリレンイソシアネートを含む2μmのO/Wエマルションを添加し、界面重合反応したナイロン膜の表面に付着させた。その後、反応系内を40℃にすることで、ラジカル重合反応を行わせることで、ナイロン膜表面にさらに重合膜を形成させ、500μmのマイクロカプセルを得た。内包物質の含有量(率)を表2に示す。
【0022】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】マイクロカプセルの全体図と断面図の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の内包物を内包するマイクロカプセルを製造する方法であって、
クロライド系重合性反応性物質と目的の内包物からなる有機溶媒相と水溶性分散安定剤を含む蒸留水からなる水相を混合する工程と、
前記溶液をホモミキサーあるいはホモジナイザーを用いて乳化・分散させO/Wエマルションを調整する工程と、
前記乳化・分散させた溶液中の溶媒にアミン系重合性反応性物質を含むアルカリ水溶液を添加し、温度を下げることにより界面重合反応をさせて内包物の界面にナイロン膜を形成させる工程と、
イソシアネート基や二重結合を有する重合反応性物質を含む数nm〜10μmの分散液滴よりなるO/Wエマルションを添加し、界面重合反応したナイロン膜の表面に付着させる工程と、
前記溶液を加温することで、カプセルに付着したエマルション内のイソシアネート基や二重結合を有する重合性反応物質を界面重合あるいはラジカル重合反応を行わせることで、前記ナイロン膜表面に重合膜を形成させる工程と、
を有することを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記内包物が、潜熱蓄熱材として利用可能なパラフィンワックス、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−244935(P2007−244935A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68225(P2006−68225)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】