説明

マイクロサテライトマーカーを用いるイネ品種識別方法

【課題】 極めて識別精度の高い特定のマイクロサテライトマーカーを用いて、近縁のジャポニカ種のイネ品種を識別する方法を提供すること。
【解決手段】 イネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、イネ染色体上に存在するAT、TA、AG、GA、TC、CT、(TA+GA)、ATT、AAT、TTA、又はACATの繰り返し配列を含むマイクロサテライトマーカーの1種又は複数種をPCRにより増幅し、増幅産物を電気泳動により検出することを特徴とする、イネ品種を識別する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロサテライトマーカーを用いる迅速簡便かつ高精度なイネ品種識別方法に関する。
【0002】
食糧法の施行に伴って、精米の品種、産地、産年を包装に表示することが義務づけられている。その一方、米の品種間及び産地間価格差の増大により、流通米の偽装表示が問題となっており、種子生産段階から集荷及び検査段階までのトレーサビリティ体制の確立のため、イネ品種を正確に識別することが求められる。これまでイネ品種を識別する方法として、最も古典なものには、品種固有の形態特性(イネの草型、交配させた場合の稔実性、米の粒型)やアイソザイムのパターンを調べる方法があるが、多くの時間や労力がかかる上、精度も低い。また、DNA解析技術の著しい発展により、ゲノムDNAの多型性に基づくイネ品種の識別法が開発され、例えば、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法などが知られている。しかしながら、RFLP法のように制限酵素多型による方法では、制限酵素認識部位以外での1塩基〜数塩基レベルの変化を判別できないため、インディカ種とジャポニカ種の識別や、インディカ種同士あるいはジャポニカ種同士でも遠縁のイネ品種の識別にはある程度有効ではあるものの、近縁のイネ品種間の識別には不十分である。特に日本において栽培されているジャポニカ種に分類される極めて多数の品種は、数種の在来品種をベースとした極近縁の品種間の交配によって育成されてきたものであるために類縁度が極めて高く、その識別は容易ではない。また、AFLP法やRAPD法では、操作が煩雑であり、増幅反応温度やDNA濃度などのPCR条件の設定によりバンドの位置が変わるなど再現性の点でも問題がある。
【0003】
一方、マイクロサテライトと呼ばれる、数塩基の配列の繰り返し配列(SSR:simple sequence repeats)は、近縁品種間においても多型頻度が高く、品種識別のためのマーカーに適しているとされている。最近の報告では、イネ染色体上には全部で2740個のマイクロサテライトマーカーがマップされており、平均して157kbpに1つ存在するとされている(非特許文献1)。実際、イネ染色体上のマイクロサテライトマーカーを用いてジャポニカ種を中心とするイネ品種を識別する試みも行われているが(特許文献1〜3等)、それらは日本で栽培・流通されるイネ品種のごく一部にすぎない。また、マイクロサテライト法は、反復配列間の微細な相違を検出するためにシーケンス用精密電気泳動装置が必要であるなど、コストや時間がかかるという欠点もある。よって、電気泳動のみで簡便に多型を検出することを可能にする、より識別精度が高い多様なマーカーの提供が望まれる。
【背景技術】
【0004】
【特許文献1】特開平10−57073号
【特許文献2】特開2003−319782号
【特許文献3】特開2004−65251号
【非特許文献1】S.R.McCouch et al., ら、DNA RESEARCH 9, 199-207 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、極めて識別精度の高い特定のマイクロサテライトマーカーを用いて、近縁のジャポニカ種のイネ品種を識別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、既存のデータベースに登録されたイネのマイクロサテライトマーカーの中に、近縁のジャポニカ種のイネ品種間でもその増幅バンド位置に顕著な差が現れる特定のマイクロサテライトマーカーを選定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) イネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、イネ染色体上に存在するAT、TA、AG、GA、TC、CT、(TA+GA)、ATT、AAT、TTA、又はACATの繰り返し配列を含むマイクロサテライトマーカーの1種又は複数種をPCRにより増幅し、増幅産物の電気泳動パターンを解析することを特徴とする、イネ品種を識別する方法。
【0008】
(2) マイクロサテライトマーカーが、下記のマイクロサテライトマーカーからなる群から選択される1種又は複数種である、(1)に記載の方法。
RM8047,RM8068,RM3740,RM1313,RM8144,RM8128,RM3096,RM5301,RM2468,RM2634,
RM3762,RM1342,RM5916,RM3542,RM3850,RM8017,RM8030,RM4108,RM3029,RM1338,
RM3033,RM2346,RM3525,RM5172,RM1350,RM1373,RM7076,RM2187,RM2431,RM5709,
RM6909,RM4777,RM4554,RM2357,RM4332,RM4608,RM2615,RM4128,RM2008,RM4584,
RM4098,RM1973,RM1364,RM1959,RM2125,RM2655,RM3819,RM4955,RM5434,RM8020,
RM8019,RM4595,RM4413,RM5122,RM5704,RM3625,RM3083,RM4862,RM2191,RM5926,
RM4585,RM1227,RM2197
【0009】
(3) マイクロサテライトマーカーが、下記の全てのマイクロサテライトマーカーのセットである、(1)に記載の方法。
RM8017、RM2346、RM2615、RM5926、RM8019、RM1959、RM5434、RM2197、RM3850、RM4413、
RM4584、RM5301
【0010】
(4) 識別されるイネ品種が、下記のイネ品種の少なくとも1種を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
「コシヒカリ」、「きらり宮崎」、「あきたこまち」、「ヒノヒカリ」、「ユメヒカリ」、「ミナミヒカリ」、「黄金錦」、「ほほえみ」、「黄金晴」、「ミナミニシキ」、「かりの舞」、「ミズホ」、「宮崎もち」、「峰の雪もち」、「日向もち」、「クスタマモチ」、「いわともち」、「ミヤタマモチ」、「ちほのかおり」、「はなかぐら」、「ヒヨクモチ」、「山田錦」、「ニシホマレ」、「ツクシホマレ」、「レイホウ」、「ひみこもち」、「モチミノリ」、「どんとこい」、「サイワイモチ」、「あきげしき」、「さきひかり」、「なつのたより」、「コガネマサリ」、「ミネアサヒ」、「ナンゴクモチ」、「夢いずみ」、「バンバンザイ」、「はえぬき」、「キヌヒカリ」、「いでゆもち」、「はなさつま」、「いただき」、「ハクトモチ」、「こいごころ」、「若水」、「ハナエチゼン」、「むつほまれ」、「ゆめあかり」、「つがるロマン」、「きらら397」、「ほしのゆめ」、「あさひの夢」、「ハツシモ」、「あいちのかおり」、「日本晴」、「祭り晴」、「ふさおとめ」、「ササニシキ」、「ひとめぼれ」
【0011】
(5) イネ品種の識別が、交配品種における親品種の判定、変異個体の判定を含む、(1)又は(2)記載の方法。
【0012】
(6) 配列番号2n−1(nは1〜63の整数を表す)に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2n(nは1〜63の整数を表す)で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーセットから選ばれる少なくとも1組のプライマーセットを含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法に用いるイネ品種識別用プライマーセット。
【0013】
(7) (6)に記載のイネ品種識別用プライマーセットを含むキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、日本で広く栽培・流通されているジャポニカ種のイネ品種を迅速簡便かつ高精度に識別する方法が提供される。
【0015】
本発明の方法は、イネ品種の識別を特別な装置を用いずに迅速簡便かつ正確に行うことができるので、種子生産段階から集荷及び検査段階までのイネに対するトレーサビリティ体制の強化を図るのに非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の方法は、イネ種子より抽出したDNAを鋳型とし、イネ染色体上に存在する特定のマイクロサテライトマーカーの1種又は複数種の組合せをPCRにより増幅し、増幅産物の電気泳動パターンを解析することを特徴とする。ここで、マイクロサテライトとは、2〜10塩基、好ましくは2〜4塩基の繰り返し配列を含むDNAを言う。
【0017】
本発明の方法に用いるマイクロサテライトマーカーとしては、AT、TA、AG、GA、TC、CT、(TA+GA)、ATT、AAT、TTA、又はACATの繰り返し配列を含むDNAが好ましい。ここで、(TA+GA)はTAとGAがランダムに繰り返されることを示す。また、上記配列の繰り返しの数としては、10〜50回であることが好ましい。
【0018】
このようなマイクロサテライトマーカーとして、具体的には、以下のマイクロサテライトマーカーが挙げられる。
RM8047,RM8068,RM3740,RM1313,RM8144,RM8128,RM3096,RM5301,RM2468,RM2634,
RM3762,RM1342,RM5916,RM3542,RM3850,RM8017,RM8030,RM4108,RM3029,RM1338,
RM3033,RM2346,RM3525,RM5172,RM1350,RM1373,RM7076,RM2187,RM2431,RM5709,
RM6909,RM4777,RM4554,RM2357,RM4332,RM4608,RM2615,RM4128,RM2008,RM4584,
RM4098,RM1973,RM1364,RM1959,RM2125,RM2655,RM3819,RM4955,RM5434,RM8020,
RM8019,RM4595,RM4413,RM5122,RM5704,RM3625,RM3083,RM4862,RM2191,RM5926,
RM4585,RM1227,RM2197
【0019】
上記の各マイクロサテライトマーカーのイネ染色体上の位置、繰り返し配列、繰り返し数(長さ)については後記表2に示すとおりであり、その情報は既存のデータベース(例えば、http://dev.gramene.org/)から入手可能である。
【0020】
本発明の方法で用いるマイクロサテライトマーカーは、識別すべき品種、識別すべき品種の数、識別の目的によって、上記の全てのマイクロサテライトマーカーを用いずとも、そのうちの1種であっても、また複数種の組合せであってもよい。例えば、被検対象が「ササニシキ」であると表示されているときにその真偽を判定する場合は、RM4862の1種を用いればよく、「コシヒカリ」の真偽の判定には、RM1350及びRM2187の2種を用いればよく、「ヒノヒカリ」の真偽に判定には、RM1364、RM2197、及びRM5926の3種を用いればよい。但し、識別すべき品種の対象地域において、作付けされている品種の種類によっては、いずれか1種のマイクロサテライトマーカーを用いることで対応可能である。また、被検対象が未知の場合にその品種を何であるかを判定する場合は、RM8017、RM2346、RM2615、RM5926、RM8019、RM1959、RM5434、RM2197、RM3850、RM4413、RM4584、RM5301の12種をセットとして用いればよい。
【0021】
本発明の方法では、イネ種子からDNAを抽出し、上記マイクロサテライトマーカーをPCR法にて増幅させ、得られた増幅産物の分子量(繰り返し配列の長さ)の差によって、その品種を識別する。
【0022】
マイクロサテライトマーカーを増幅するためのプライマーとしては、各マイクロサテライトマーカーを挟んで両側(フォワード、リバース)に位置する塩基配列に相補的な10〜40bp、好ましくは20〜30bpの連続したオリゴヌクレオチドを用いることができる。プライマーの設計は、市販のソフトウェア(例えば、GENETYX;ソフトウェア開発株式会社)を用いて行えばよい。本発明の方法に用いるプライマーセットは、具体的には、配列番号2n−1(nは1〜63の整数を表す)に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号2n(nは1〜63の整数を表す)で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーセットから選ばれる少なくとも1組のプライマーセットを含む。
【0023】
上記のプライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットには、上記プライマーセットを少なくとも含むものであればよく、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬(プライマーを除く)、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【0024】
本発明のマイクロサテライトマーカーを用いるイネ品種の識別方法の具体的手順について以下に説明する。まず、被検試料となるイネ本体及びイネ種子からDNAを抽出する。イネ種子は、籾、玄米、精米のいずれであってもよく、また、1種のイネ品種の種子に限定されず、2種以上のイネ品種の種子を混合したものであってよい。
【0025】
本発明の方法において識別しうるイネ品種には、少なくとも以下のイネ品種が含まれる。
「コシヒカリ」、「きらり宮崎」、「あきたこまち」、「ヒノヒカリ」、「ユメヒカリ」、「ミナミヒカリ」、「黄金錦」、「ほほえみ」、「黄金晴」、「ミナミニシキ」、「かりの舞」、「ミズホ」、「宮崎もち」、「峰の雪もち」、「日向もち」、「クスタマモチ」、「いわともち」、「ミヤタマモチ」、「ちほのかおり」、「はなかぐら」、「ヒヨクモチ」、「山田錦」、「ニシホマレ」、「ツクシホマレ」、「レイホウ」、「ひみこもち」、「モチミノリ」、「どんとこい」、「サイワイモチ」、「あきげしき」、「さきひかり」、「なつのたより」、「コガネマサリ」、「ミネアサヒ」、「ナンゴクモチ」、「夢いずみ」、「バンバンザイ」、「はえぬき」、「キヌヒカリ」、「いでゆもち」、「はなさつま」、「いただき」、「ハクトモチ」、「こいごころ」、「若水」、「ハナエチゼン」、「むつほまれ」、「ゆめあかり」、「つがるロマン」、「きらら397」、「ほしのゆめ」、「あさひの夢」、「ハツシモ」、「あいちのかおり」、「日本晴」、「祭り晴」、「ふさおとめ」、「ササニシキ」、「ひとめぼれ」
【0026】
抽出に用いるイネ種子は、粒のままでよいが、適当な粉砕機にして粉末化して抽出してもよい。また、抽出に供するイネ種子の数は、1粒から数粒でよく、1粒でも可能である。
【0027】
イネ種子からのDNAの抽出方法としては公知の方法で行うことができる。DNA抽出方法として、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等が挙げられるが、なかでもCTAB法が好ましい。
【0028】
DNAの抽出後、クロロホルム/イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール/クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱などの精製処理を行ってもよい。クロロホルム/イソアミルアルコール処理は、例えば以下のようにして行う。まず、DNA抽出液にクロロホルム/イソアミルアルコールを加えて攪拌し、遠心分離し、得られる上清にDNA沈澱液を加えてさらにDNAを沈澱させる。その後、遠心分離を行って得られたDNA沈澱物を1M NaClにて抽出し、イソプロパノール、エタノールによる洗浄、沈澱の後、TE緩衝液に溶解してDNA試料を得る。
【0029】
次に、上記の操作で得られたDNA試料を鋳型とし、マイクロサテライトマーカーを前記のプライマー(セット)を用いてPCR法により増幅する。PCR法は、公知の手法に従って行えばよく、例えば、鋳型となるDNAに耐熱性DNAポリメラーゼ及びプライマーを添加し、約90〜96℃の変性、約40〜70℃のアニーリング、約70〜75℃の伸長の3工程を20〜60サイクル繰り返す。
【0030】
その後、PCR増幅産物を電気泳動に供し、その電気泳動パターン、すなわち分子量の大きさ(バンドの位置)を解析することよってイネ品種を識別することが可能となる。電気泳動方法としては、アガロースゲル、変性及び非変性のアクリルアミドゲルを用いる方法のいずれでもよい。バンドの検出はエチジウム染色により行うが、蛍光色素(FAM,NED,HEX等)を付加したプライマーを用いた場合は、蛍光発色を指標として行ってもよい。
【0031】
本発明の方法を実施するにあたり、上記のイネ品種と、その品種が有するマイクロサテライトマーカーの多型の型とを関連付けたデータベース(後記表3参照)を作成し、被検イネの種子から抽出したDNAを、データベースに含まれるマイクロサテライトマーカーの多型に関して分析し、分析されたマイクロサテライトマーカーの多型の型を前記データベースと照合してもよい。上記のイネ品種と、その品種が有するマイクロサテライトマーカーの多型の型とを関連付けたデータベースとしては、品種毎のレコードに、各サテライトマーカーの多型の型を格納したデータベースが挙げられる。
【0032】
また、本明細書において、「イネ品種の識別」には、イネ品種がいずれの品種であるかを特定するのみならず、交配品種における親品種の判定及び交配種の確認、変異個体の判定を含む広い概念である。ここで、親品種の判定とは、被検イネが交配品種である場合に、その親品種を特定する、あるいは、親品種への従属度を推定することなどをいい、交配種の確認とは、目的とする交配が正しく行われ、交配によって得られた個体かどうかを確認することをいう。また、変異個体の判定とは、該個体が異品種の混入した個体であるか、自然交雑個体か突然変異個体かを判定することなどをいう。判定は、上記のイネ品種における各マイクロサテライトマーカーの多型の型(電気泳動のバンドパターンに応じて分類した識別のための型であって、例えば4種の断片長がある場合は、a、b、c、dと記号化。後記表3参照)と、被検イネ試料における各マイクロサテライトマーカーの多型の型を比較することによって行う。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
被検対象として下記表1に示す59品種を用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
上記の各品種の白米一粒からCATB法によりDNAを抽出した。まず、白米1粒を破砕し、1.5×CTAB buffer (1.5% CTAB, 75 mMトリス塩酸(pH8.0), 15mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム, 1.05M NaCl) 500μlを加え、56℃にて20分間撹拌した。次に、CIAA (クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)500μlを加え、室温にて20分間攪拌し、遠心分離(15,000rpm、20分)を行った。上層(CTAB-DNA層)を採取して新しいチューブに移し、70℃に加熱した10% CTAB溶液(10% CTAB, 0.7M NaCl)50μlを加えた後、CIAA 500μlを加え、室温にて20分間攪拌し、遠心分離(15,000rpm、20分)を行った。上層(CTAB-DNA層)を採取して新しいチューブに移し、CTAB沈殿buffer (1% CTAB, 50mMトリス塩酸(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0))750μlを加えて転倒混和し、遠心分離(15,000rpm、5分)を行い、上澄みを捨てた。残ったDNAペレットに、1M NaCl 200μl、RNaseA(10mg/ml)5μlを加えて56℃にて2〜3時間静置した後、-20℃に冷却した99.5% EtOH 400μl(溶液の2倍量)を加え、転倒混和し、遠心分離(15,000rpm、分)行い、上澄みを捨てた。残ったDNAペレットに70%EtOH 1mlを加え、7分間浸漬し、上澄みを捨てる操作を2回繰り返し、さらに、99.5%EtOH 1mlを加え、5分間浸漬し、上澄み捨てた。残渣を、風乾し、1/10 TE (1mM トリス塩酸(pH8.0), 0.1mM EDTA)10μlを加えて完全に溶かし、これを鋳型DNAとして使用した。
【0037】
マイクロサテライトマーカーとして下記表2に示すマーカー(No.1〜63)を用いた。また、これらのマイクロサテライトマーカーを増幅するためのプライマーとして、各マーカーの両端の約20塩基をプライマーとして用いた。各プライマー配列(フォワード、リバース)を下記表2及び配列番号1〜126に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
PCR反応液10μl[組成:鋳型DNA 1μl, 10×緩衝液(100mM Tris-HCl, 500mM KCl, 15mM MgCl2) 1μl, dNTPs (2.5mM) 1μl, プライマー(10μM) 1μl, Taqポリメラーゼ(5U/μl) 0.1μl, 蒸留水5.9μ1]を調製し、GeneAmp PCR System 9700(アプライドシステムズ社)を用いてPCRを行った。PCRの条件は、94℃5分熱変性、(94℃1分、55℃1分、72℃2分)×35サイクル、72℃5分とした。
【0040】
PCR終了後、3%アガロースゲルにて電気泳動(200V, 約1.5時間)を行い、アガロースゲルをエチジウムプロマイド溶液に30分間浸し、UV照射装置でアガロールゲルの撮影を行った。例として、マーカーRM8017,RM1350, RM5916, RM2197, RM4554, RM4413を用いたとき場合のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図1及び2に示す。対象とした59品種は、各マーカー(No.1〜63)を用いるPCR増幅産物のバンド位置によって、マーカー毎に1〜4種(aのみ、aとb、aとbとc、aとbとcとd)のパターンに分類された(表3)。表中のa、b、c、dは、バンドを区別するための記号である。例えば、マーカーNo.1のRM8047において、「a」と表示されている品種(例えば、「コシヒカリ」、「きらり宮崎」など)は同一位置にバンドが現れたことを示し、「b」と表示されている品種(例えば、「あきたこまち」、「ヒノヒカリ」など)は「a」とは異なる位置にバンドが現れたことを示す。また、a、b、c、dは、同一のマーカーを用いた場合に現れる異なるバンドを区別するための記号であるから、異なるマーカーの欄に表示されているa、b、c、dとは関係がない。
【0041】
【表3】



【0042】
(実施例2) 特定の品種の識別
(1)「ササニシキ」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM4862をPCR増幅して得られる増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図3に示す。59品種中、「ササニシキ」のみが約150bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM4862を一種用いることによって、「ササニシキ」を識別することが可能であるといえる。
【0043】
(2)「ツクシホマレ」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM8128をPCR増幅して得られる増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図4Aに示す。59品種中、「ツクシホマレ」のみが約160bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM8128を一種用いることによって、「ツクシホマレ」を識別することが可能であるといえる。
【0044】
同様にして、マーカーRM4554をPCR増幅しても、図4Bに示すように、59品種中、「ツクシホマレ」のみが約200bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM4554を一種用いることによっても、「ツクシホマレ」を識別することが可能であるといえる。
【0045】
(3)「きらり宮崎」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM2468をPCR増幅して得られる増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図5に示す。59品種中、「きらり宮崎」のみが約130bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM2468を一種用いることによって、「きらり宮崎」を識別することが可能であるといえる。
【0046】
(4)「若水」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM3525をPCR増幅して得られる増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図6に示す。59品種中、「若水」のみが約160bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM3525を一種用いることによって、「若水」を識別することが可能であるといえる。
【0047】
(5)「きらら397」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM2431をPCR増幅して得られる増幅産物のアガロースゲル電気泳動図を図7に示す。59品種中、「きらら397」のみが約160bp付近にバンドが見られた。よって、マーカーRM2431を一種用いることによって、「きらら397」を識別することが可能であるといえる。
【0048】
(6)「コシヒカリ」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM1350及びRM2187をPCR増幅し、得られた増幅産物をアガロースゲル電気泳動に供した。図8Aに示すように、RM1350を用いた場合約150bp付近にバンド(以下aバンド)が現れる品種は「コシヒカリ」、「ほほえみ」、「ミネアサヒ」、「あいちのかおり」、「祭り晴」、「ササニシキ」の6品種であった。また、図8Bに示すように、RM2187を用いた場合約200bp付近にバンド(以下aバンド)が現れる品種は「コシヒカリ」、「どんとこい」、「なつのたより」、「キヌヒカリ」、「いただき」、「むつほまれ」の6品種であった。すなわち、RM1350及びRM2187のどちらのマーカーを用いた場合においても、aバンドが現れる品種は59品種中「コシヒカリ」のみであった。よってこの2種のマーカーを用いることで、「コシヒカリ」を識別することが可能であるといえる。
【0049】
但し、RM1350及びRM2187のいずれのマーカーを用いた場合でもaバンドが現れる品種は少ないことから、それぞれのマーカーを単独で用いた場合でも「コシヒカリ」の識別が可能な場合がある。例えば、RM1350を用いた場合は「コシヒカリ」以外のaバンドが現れる5品種、「ほほえみ」、「ミネアサヒ」、「あいちのかおり」、「祭り晴」、「ササニシキ」が混ざる可能性が無ければRM1350のみを単独で用いることで「コシヒカリ」と証明することが可能である。また、RM2187についても同様である。
【0050】
(7)「ヒノヒカリ」の識別
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、マーカーRM1364、RM2197及びRM5926をPCR増幅した。図9Aに示すように、RM1364を用いた場合約140bp付近にバンド(以下aバンド)が現れる品種は「ヒノヒカリ」、「コシヒカリ」、「きらり宮崎」、「あきげしき」、「さきひかり」、「キヌヒカリ」、「こいごころ」、「ハナエチゼン」、「ふさおとめ」、「ひとめぼれ」の10品種であった。また、図9Bに示すように、RM2197を用いた場合約180bp付近にバンド(以下bバンド)が現れる品種は「ヒノヒカリ」を含め35品種であった。さらに、図9Cに示すように、RM5926を用いた場合約140bp付近にバンド(以下aバンド)が現れる品種は「ヒノヒカリ」を含め35品種であった。すなわち、RM1364、RM2197及びRM5926のマーカーを用いた場合、そのバンドパターンがRM1364「a」、RM2197「b」、及びRM5926「a」をとりうる品種は59品種中ヒノヒカリのみである。よってこの3種のマーカーを用いることで、59品種から「ヒノヒカリ」を識別することが可能であるといえる。
【0051】
(実施例3) 品種の不明なイネの特定
前記表1に示す59品種のイネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、RM8017、RM2346、RM2615、RM5926、RM8019、RM1959、RM5434、RM2197、RM3850、RM4413の12種のマーカーをそれぞれ対応するプライマーセットを用いてPCR増幅した。得られた増幅産物のアガロースゲル電気泳動図のバンドパターンをコシヒカリのバンド(全てaバンドとする)を基準として、a〜dの4パターンに分けた。結果を表4に示す。上記の12種のマーカーをセットとして用いることにより、まったく品種の不明なイネ試料がある場合にも、1回の操作により少なくとも59品種のいずれに該当するかを決定することが可能である。
【0052】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】マーカーRM8017,RM1350, RM5916のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)をそれぞれ示す。
【図2】マーカーRM2197, RM4554, RM4413のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)をそれぞれ示す。
【図3】マーカーRM4862(「ササニシキ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図4A】マーカーRM8128(「ツクシホマレ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図4B】マーカーRM4554(「ツクシホマレ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図5】マーカーRM2468(「きらり宮崎」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図6】マーカーRM3525(「若水」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図7】マーカーRM2431(「きらら397」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図8A】マーカーRM1350(「コシヒカリ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図8B】マーカーRM2187(「コシヒカリ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図9A】マーカーRM1364(「ヒノヒカリ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図9B】マーカーRM2197(「ヒノヒカリ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。
【図9C】マーカーRM5926(「ヒノヒカリ」識別用マーカー)のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動写真(3%アガロースゲル, 200V-90分泳動,サイズマーカー100bp ladder)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ種子から抽出したDNAを鋳型とし、イネ染色体上に存在するAT、TA、AG、GA、TC、CT、(TA+GA)、ATT、AAT、TTA、又はACATの繰り返し配列を含むマイクロサテライトマーカーの1種又は複数種をPCRにより増幅し、増幅産物の電気泳動パターンを解析することを特徴とする、イネ品種を識別する方法。
【請求項2】
マイクロサテライトマーカーが、下記のマイクロサテライトマーカーからなる群から選択される1種又は複数種である、請求項1に記載の方法。
RM8047,RM8068,RM3740,RM1313,RM8144,RM8128,RM3096,RM5301,RM2468,RM2634,
RM3762,RM1342,RM5916,RM3542,RM3850,RM8017,RM8030,RM4108,RM3029,RM1338,
RM3033,RM2346,RM3525,RM5172,RM1350,RM1373,RM7076,RM2187,RM2431,RM5709,
RM6909,RM4777,RM4554,RM2357,RM4332,RM4608,RM2615,RM4128,RM2008,RM4584,
RM4098,RM1973,RM1364,RM1959,RM2125,RM2655,RM3819,RM4955,RM5434,RM8020,
RM8019,RM4595,RM4413,RM5122,RM5704,RM3625,RM3083,RM4862,RM2191,RM5926,
RM4585,RM1227,RM2197
【請求項3】
マイクロサテライトマーカーが、下記の全てのマイクロサテライトマーカーのセットである、請求項1に記載の方法。
RM8017、RM2346、RM2615、RM5926、RM8019、RM1959、RM5434、RM2197、RM3850、RM4413、
RM4584、RM5301
【請求項4】
識別されるイネ品種が、下記のイネ品種の少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
「コシヒカリ」、「きらり宮崎」、「あきたこまち」、「ヒノヒカリ」、「ユメヒカリ」、「ミナミヒカリ」、「黄金錦」、「ほほえみ」、「黄金晴」、「ミナミニシキ」、「かりの舞」、「ミズホ」、「宮崎もち」、「峰の雪もち」、「日向もち」、「クスタマモチ」、「いわともち」、「ミヤタマモチ」、「ちほのかおり」、「はなかぐら」、「ヒヨクモチ」、「山田錦」、「ニシホマレ」、「ツクシホマレ」、「レイホウ」、「ひみこもち」、「モチミノリ」、「どんとこい」、「サイワイモチ」、「あきげしき」、「さきひかり」、「なつのたより」、「コガネマサリ」、「ミネアサヒ」、「ナンゴクモチ」、「夢いずみ」、「バンバンザイ」、「はえぬき」、「キヌヒカリ」、「いでゆもち」、「はなさつま」、「いただき」、「ハクトモチ」、「こいごころ」、「若水」、「ハナエチゼン」、「むつほまれ」、「ゆめあかり」、「つがるロマン」、「きらら397」、「ほしのゆめ」、「あさひの夢」、「ハツシモ」、「あいちのかおり」、「日本晴」、「祭り晴」、「ふさおとめ」、「ササニシキ」、「ひとめぼれ」
【請求項5】
イネ品種の識別が、交配品種における親品種の判定、変異個体の判定を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
配列番号2n−1(nは1〜63の整数を表す)に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2n(nは1〜63の整数を表す)で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるプライマーセットから選ばれる少なくとも1組のプライマーセットを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるイネ品種識別用プライマーセット。
【請求項7】
請求項6に記載のイネ品種識別用プライマーセットを含むキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate


【公開番号】特開2007−37468(P2007−37468A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225794(P2005−225794)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】