説明

マイクロチップ、微小粒子分取装置及び送流方法

【課題】微小粒子に与えるダメージが少なく、更に、密閉されたマイクロチップの流路内において、微小粒子の移動方向を高速及び高精度で、かつ安全に制御し得るマイクロチップ、微小粒子分取装置及び送流方法を提供する。
【解決手段】マイクロチップ1に、微小粒子を含む液が通流する液体流路2と、空気、二酸化炭素又は不活性ガスなどの気体が通流する気体流路3とを設ける。そして、液体流路2から吐出する微小粒子を含む液滴を、分岐領域5に誘導する場合は、気体流路3から気体は噴射せず、分岐流路6に誘導したい場合にのみ、気体流路3から微小粒子を含む液に向けて気体を噴射し、キャビティー4における液滴の移動方向を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞及びマイクロビーズ等の微小粒子を回収する際使用されるマイクロチップ、このマイクロチップが搭載され得る微小粒子分取装置、並びにこのマイクロチップにおける送流方法に関する。より詳しくは、複数の微小粒子が混在している溶液中から、目的とする微小粒子を分離して回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野における微細加工技術を応用し、シリコン及びガラス等の無機材料又はプラスチック等の高分子材料からなる基板内に、微細な流路や化学的及び生物学的分析を行うための領域を形成したマイクロチップが開発されている。このようなマイクロチップは、少量の試料で測定可能であり、また、低コストで作製することができ、使い捨ても可能であることから、フローサイトメトリー、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器及び医療現場における小型の電気化学センサー等、様々な分野で利用され始めている。
【0003】
また、分析領域で分析した結果に基づいて、マイクロチップ上で、細胞やマイクロビーズなどの微小粒子を分別・回収する技術も提案されている(特許文献1〜4参照)。例えば、特許文献1に記載のマイクロチップでは、微小粒子を分別・回収するための分別流路の入り口付近に交番電界を発生させ、反発性誘電泳動力により、微小粒子を分別している。また、特許文献2に記載のセルソーターチップでは、微小粒子を含む液と接触する位置に電解質を含むゲルからなるゲル電極を設け、電気泳動的な力を利用して微小粒子を分別している。
【0004】
一方、特許文献3に記載の細胞分析分離装置では、超音波又は静電力により、微小粒子を所定の分岐流路に誘導し、分離している。また、特許文献4には、微小粒子の浸入を阻止すべき分岐流路にレーザ光を照射し、液体中で衝撃波を発生することで、微小粒子の移動方向を制御する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【特許文献2】特開2006−220423号公報
【特許文献3】特開2004−85323号公報
【特許文献4】特開2003−344260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来のマイクロチップには、以下に示す問題点がある。特許文献1〜4に記載されているような従来の分離・回収方法では、微小粒子を液体の流れる方向とは異なる向きに移動させるため、微小粒子に対して大きな作用力を付与しなければならない。このため、回収対象の微小粒子がダメージを受けやすく、特に、微小粒子が細胞などの生体材料である場合は、回収対象の細胞などが死んでしまうという問題点がある。
【0007】
また、特許文献1〜4に記載されている方法では、流路内を連続的に通流する液体中の微小粒子の移動方向を変えているため、その影響で上流でも流れに乱れが生じ、微小粒子の解析精度や回収精度が低下するという問題点もある。更に、電界や磁界により微小粒子の移動方向を制御する方法を適用した場合、マイクロチップの構成が複雑になるという問題点もある。
【0008】
更に、従来のフローサイトメトリーで用いられているJet in Air方式では、細胞などの微小粒子を、大気中で分取・回収するため、微小粒子を含むエアロゾルが発生しやすい。このため、微小粒子同士がコンタミネーションしたり、エアロゾルに含まれる生体材料(微小粒子)によって測定者が病気感染したりする可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、微小粒子に与えるダメージが少なく、更に、密閉されたマイクロチップの流路内において、微小粒子の移動方向を高速及び高精度で、かつ安全に制御し得るマイクロチップ、微小粒子分取装置及び送流方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマイクロチップは、微小粒子を含む液が通流する流路と、前記流路から吐出する前記微小粒子を含む液に向けて気体を噴射する気体噴射部と、を備える。
このマイクロチップは、気体噴射部から微小粒子を含む液に向けて気体を噴射することにより、微小粒子にダメージを抑えつつ、その移動方向を正確に制御することができる。
また、このマイクロチップは、前記流路から前記微小粒子を含む液滴が導入される空洞領域と、該空洞領域に連通する複数の分岐領域と、有していてもよく、その場合、前記気体により前記空洞領域における前記液滴の移動方向を変更し、任意に選択される一の分岐領域に前記液滴を誘導することができる。
更に、少なくとも一側方から前記流路に合流し、該流路内に気体を導入する気体導入部が設けられている場合は、前記気体導入部から導入される気体によって、前記流路内を通流する液体を分断して液滴化することもできる。
更にまた、前記気体の流量及び/又は圧力を調整することにより、前記微小粒子の移動方向を任意に制御することもできる。
【0011】
本発明に係る微小粒子分取装置は、前述したマイクロチップを搭載し得るものである。
この微小粒子分取装置では、気体により微小粒子の移動方向を制御しているため、微小粒子に与えるダメージが少ない。また、微小粒子の移動方向を高速、高精度かつ安全に制御することが可能である。
【0012】
一方、本発明に係るマイクロチップにおける送流方法は、マイクロチップ内に形成された流路内を通流している微小粒子を含む液に対して、気体を噴射することにより、前記微小粒子の移動方向を制御する。
この送流方法では、前記微小粒子を含む液を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化してもよい。
また、前記微小粒子を含む液滴を、前記気体により任意に選択される一の領域に誘導し、分取することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、気体を吹き付けることにより微小粒子の移動方向を制御しているため、微小粒子の移動方向を高速かつ高精度に制御することができ、更に、微小粒子に与えるダメージも少ない。また、マイクロチップ内の密閉空間において微小粒子を分取し、回収することが可能であるため、微小粒子同士のコンタミネーションや、エアロゾルなどによる測定者への汚染がなく、微小粒子が生体材料などの場合でも、安全かつ衛生的に作業することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0015】
先ず、本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップについて説明する。図1は本実施形態のマイクロチップの構成を模式的に示す平面図である。図1に示すように、本実施形態のマイクロチップ1には、微小粒子を含む液が通流する液体流路2と、空気や二酸化炭素、あるいは、窒素などの不活性ガスなどの気体が通流する気体流路3とが設けられている。
【0016】
液体流路2の上流には、微小粒子が分散されたサンプル液が導入されるサンプル液導入流路21と、シース(鞘)液を導入するためのシース液導入流路22とが形成されている。そして、サンプル液の周囲をシース液で囲み、層流を形成した状態で、液体流路2に流入するようになっている。これにより、サンプル液中の微小粒子は、シース液に囲まれた状態で、1個ずつ通流するようになり、その通流方向に対して略1列に並んでいるように配置される。
【0017】
このような層流を形成する方法としては、例えば、サンプル液導入流路21を微小管により形成し、シース液導入流路22内を通流するシース液の中心部に、サンプル液を導入する方法が挙げられる。サンプル液導入流路21及びシース液導入流路22をこのような構成にすることで、複雑な流路を形成しなくても容易に層流を形成することができる。
【0018】
また、サンプル液導入流路21とシース液導入流路22とが合流する位置、又はそれよりも下流側に、下流側になるに従い流路幅が小さくなる絞込み部23を設けてもよい。このように、合流後に流路幅を絞り込む構成にすると、サンプル液導入流路21の幅を微小粒子よりも十分に大きくすることができるため、微小粒子の目詰まりを防止することができる。更に、このような絞込み部23を設けることで、サンプル液及びシース液が層流を形成している状態で、その通流幅を任意の大きさに調節することが可能となるため、測定光の照射精度を向上させることもできる。
【0019】
なお、サンプル液導入流路21及びシース液導入流路22は、図1に示す構成に限定されるものではなく、サンプル液とシース液とで上述したような層流を形成することができればよく、種々の構成を適用することが可能である。
【0020】
一方、液体流路2及び気体流路3の下流側端部には、キャビティー(空洞領域)4が設けられており、液体流路2及び気体流路3は、その内部を通流する液及び気体の通流方向が、キャビティー4において交差するように配設されている。即ち、本実施形態のマイクロチップ1においては、液体流路2から吐出された微小粒子を含む液又は液滴に、気体流路3から噴射された気体が当たるようになっている。
【0021】
また、キャビティー4の内部は、気体流路3から噴射される気体で満たされている。そして、液体流路2を通流してきた微小粒子を含む液は、このキャビティー4に流入する際に液滴化され、キャビティー4内においては、微小粒子を含む液滴の状態で移動する。このように、液体流路2の終端位置において、微小粒子を含む液又液滴に気体を吹き付けることで、この気体噴射が、液体流路2の上流部の流れに与える影響を少なくすることができる。なお、キャビティー4の表面は、この液滴の状態が維持されるように、撥水加工が施されていることが望ましい。
【0022】
更に、キャビティー4には、分岐領域5と分岐領域6とがそれぞれ連設されており、これら分岐領域5,6は、一方が目的とする微小粒子を貯留する回収液貯留部となり、他方がそれ以外の微小粒子を含む廃液を貯留する廃液貯留部となる。分岐領域5,6は、例えば、図1に示すように、液体流路2の通流方向と同軸上に分岐領域5を形成し、この分岐領域5よりも気体流路3の終端(気体噴出口)から遠い位置に分岐領域6を形成することができる。
【0023】
この場合、気体流路3からの気体噴射の有無で、微小粒子を含む液滴の移動方向を調節することができる。具体的には、液滴を分岐領域5に誘導したいときは、気体流路3から気体が噴射されないようにし、分岐領域6に誘導したい液滴にのみ気体を吹き付ければよい。
【0024】
また、分岐領域5,6には、内部に貯留された微小粒子や液を取り出すための孔又は開口部と、気体流路3から噴射された気体を逃がすための排気口が設けられていることが望ましい。この排気口から、気体流路3から噴射された気体を排気することにより、キャビティー4内の圧力上昇を防止することができる。
【0025】
なお、上述したマイクロチップ1を形成する材料としては、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、PDMS(polydimethylsiloxane)、ガラス及びシリコン等が挙げられるが、加工性に優れ、成形装置を使用して安価に複製することができることから、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン等の高分子材料で形成することが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態のマイクロチップ1の動作について、微小粒子分取装置に搭載して使用する場合を例にして、説明する。図2は本実施形態のマイクロチップ1を用いた微小粒子の分取方法を模式的に示す断面図である。なお、図2はマイクロチップ1の厚さ方向に垂直な断面である。
【0027】
本実施形態のマイクロチップ1が搭載される微小粒子分取装置は、少なくとも、サンプル液導入流路21にサンプル液を導入するためのサンプル液供給部と、シース液導入流路22にシース液を導入するためのシース液供給部と、気体流路3に所定の条件で気体を導入可能な気体供給部と、液体流路2内を通流する微小粒子を検出する検出部と、を備えていればよい。
【0028】
このような微小粒子分取装置にマイクロチップ1を搭載し、複数の微小粒子10a,10bを含むサンプル液から、目的とする微小粒子10aを回収する場合、先ず、サンプル液導入流路21及びシース液導入経路22を、それぞれサンプル液供給部及びシース液供給部に設けられた送液ポンプに連結する。そして、この送液ポンプを介してサンプル液導入流路21にサンプル液を、シース液導入経路22にシース液を、それぞれ供給する。
【0029】
これにより、絞込み部23において、サンプル液の周囲をシース液が取り囲み、所定の幅の層流が形成される。このとき、サンプル液とシース液との間にわずかな圧力差を生じさせることにより、サンプル液中に含まれる複数の微小粒子10a,10bを略1列に並べることができる。
【0030】
次に、検出部により、液体流路2に流入した微小粒子10a,10bを検出し、目的とするものであるか否かを判別する。その方法は、特に限定されるものではなく、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムで利用されている方法を適用することができる。例えば、液体流路2を通流する層流に励起光となるレーザ光を照射すると、微小粒子10a,10bがレーザ光を横切るように1個ずつ通過する。その際、レーザ光により励起されて各微小粒子から発せられた蛍光及び/又は散乱光を、検出することにより、各微小粒子の種類等を判別することが可能である。
【0031】
次に、図2に示すように、検出部での判別結果に基づいて、層流7中の微小粒子10a及び微小粒子10bを、それぞれ分岐領域6又は分岐領域5に誘導する。例えば、分岐領域6を回収対象の微小粒子10aを貯留する回収液貯留部とし、分岐領域5をそれ以外の微小粒子を含む廃液を貯留する廃液貯留部とした場合、微小粒子10aが吐出されるときにのみ、気体流路3から空気、二酸化炭素、あるいは、窒素などの不活性ガスを、所定の流速及び流量で噴射する。これにより、微小粒子10aを含む液滴9aは、気体流路3から噴射された気体に誘導され、分岐領域6に向かってキャビティー4内を移動する。
【0032】
一方、微小粒子10bが吐出されるとき、又は微小粒子を含まない液滴が吐出されるときは、気体流路3からの気体噴射は行わない。これにより、微小粒子10bを含む液滴9b及び微小粒子を含まない液滴は、いずれも分岐領域5に向かってキャビティー4内を移動することとなる。即ち、本実施形態のマイクロチップ1を使用した分取方法では、気体流路3からの気体噴射の有無により、微小粒子10a,10bの移動方向を制御することができる。
【0033】
なお、気体流路3から気体を噴射するタイミングは、例えば、検出部から液体流路2の下流側端部(液滴吐出部)までの距離と、液体流路2を通流する液(層流7)の流速から算出することができる。また、本実施形態においては、分岐領域6が回収液貯留部として機能し、回収対象の微小粒子10aを含む液滴に気体を吹き付けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、分岐領域5を回収液貯留部としてもよい。その場合、回収対象の微小粒子10aを含む液滴が吐出するときは、気体流路3からの気体噴射は行わず、その他の液滴が吐出するときに気体を噴射する。この方法は、サンプル液に含まれる回収対象の微小粒子の割合が多いときなどに有効である。
【0034】
上述の如く、本実施形態のマイクロチップ1においては、目的とする微小粒子10aに向けて気体を噴射することにより、その移動方向を制御しているため、電界又は磁界により微小粒子の移動方向を制御していた従来のマイクロチップに比べて、微小粒子に与えるダメージを少なくすることができる。
【0035】
また、電界により微小粒子を含む液滴の移動方向を制御する場合は、液滴を高精度で荷電する必要があるが、本実施形態のマイクロチップ1では、液滴に対して荷電など処理は不要である。このため、本実施形態のマイクロチップ1は、構成を簡素化することができ、更に、単純な構成であっても、微小粒子の移動方向を高速かつ高精度に制御することができる。その結果、従来のマイクロチップに比べて、低コストで、高速・高精度分取を実現することができる。
【0036】
更に、本実施形態のマイクロチップ1では、その内部の密閉空間において、微小粒子10aを分取し、回収することが可能であるため、微小粒子同士のコンタミネーションや、生体材料を含むエアロゾルなどによる測定者への汚染の心配がない。このため、微小粒子が生体材料などの場合でも、安全かつ衛生的に作業することができる。
【0037】
なお、本実施形態のマイクロチップ1では、内部に気体流路3を形成して、この気体流路3から微小粒子に気体を噴射しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、気体流路3の代わりに、微細管を使用することもできる。これにより、微小粒子を含む液又は液滴に、気体を噴射する位置など噴射条件をより簡便に調整することができる。
【0038】
また、図1に示すマイクロチップでは、液体流路2及び気体流路3が、通流方向が直交する位置に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、通流方向が交差する角度は、液滴を移動させたい方向により任意に設定することが可能である。
【0039】
更に、本実施形態のマイクロチップ1では、回収液貯留用の分岐領域6に、乾燥防止用のゲルを充填することもできる。幹細胞などの希少細胞は、その分取個数が数万個に1個から数百万個に1個と極めて少ない。このため、分岐領域6に分取できたとしても、測定時間が長い場合などには、乾燥により細胞が死んでしまうことがある。また、細胞の乾燥を防ぐために、分岐領域6に生理食塩水を充填すると、回収液中に含まれる個数が少ないため、細胞を取り出しにくいという問題がある。更に、このような希少細胞は、分取速度を上げると流路や分取領域の側壁に衝突し、ダメージを受けるという問題もある。
【0040】
そこで、回収液貯留用の分岐領域6に、乾燥防止用のゲルを充填しておくことにより、分取した細胞の乾燥を防止できると共に、細胞が分岐領域の側壁などに衝突することも防止できる。また、この回収液貯留用の分岐領域6の上面を開口し、分取操作終了後にゲルごと回収することにより、確実にかつ簡便に分取細胞を回収することが可能となる。この場合、ゲルを充填後、回収するまでの間は、フィルムなどにより開口を塞いでおくことで、ゲルの乾燥を防止することができる。
【0041】
このような乾燥防止用ゲルとしては、回収対象の細胞の種類及び特性に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地や一般に使用されている細胞用ゲルなどを用いることができる。
【0042】
また、細胞などの微小粒子を磁気抗体などで修飾しておくと、分岐領域6に分取された回収対象の微小粒子10aを、磁力などを利用して特定位置に集めることが可能となる。これにより、分取個数が極めて少ない場合でも、効率的に目的とする微小粒子を回収することができる。
【0043】
一方、本実施形態のマイクロチップ1では、分岐領域が2個しか設けられていないが、本発明はこれに限定されるものではなく、3以上の分岐領域を設けることもできる。例えば、回収対象の微小粒子が複数種ある場合には、回収液貯留用の分岐領域を対応する数だけ設けることで、微小粒子を種類毎に分別し、回収することが可能となる。図3は本実施形態の変形例のマイクロチップの構成を示す平面図である。なお、図3においては、図1に示すマイクロチップ1の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0044】
図3に示すように、本変形例のマイクロチップ11では、キャビティー4に、3つの分岐流路5,6a,6bが連設されている。そして、これら分岐領域5,6a,6bのうち、液体流路2の通流方向と同軸上に形成された分岐領域5が廃液貯留部として機能し、分岐領域5よりも気体流路3の下流側端部(気体噴出口)から遠い位置に形成された分岐領域6a,6bが、回収液貯留部として機能する。
【0045】
このマイクロチップ11では、検出部での判別結果に基づいて、気体流路3から噴射する気体の流量又は圧力を調整することにより、微小粒子が移動する方向を制御することができる。具体的には、微小粒子を分岐領域6aに誘導する場合は、分岐領域6bに誘導する場合よりも、気体流路3から噴射する気体の流量を減らすか、又は圧力を小さくすればよい。これにより、微小粒子を種類毎に分取することができる。なお、本変形例のマイクロチップ11における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態のマイクロチップ1と同様である。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップについて説明する。図4は本実施形態のマイクロチップの一部を示す拡大断面図である。なお、図4においては、図1に示す第1の実施形態のマイクロチップ1の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。前述した第1の実施形態のマイクロチップ1では、液体流路2の下流側端部、即ち、キャビティー4に吐出する際に液滴が形成されるが、本発明はこれに限定されるものではなく、液体流路2内で液滴を形成してもよい。
【0047】
図4に示すように、本実施形態のマイクロチップ31では、検出部と液体流路32の下流側端部の間に、1対の気体導入部34a,34bが設けられている。そして、このマイクロチップ31では、気体導入部34a,34bから所定のタイミングで気体を導入することにより、サンプル液とその周囲を通流するシース液とで構成される層流が分断され、液滴化される。これにより、液体流路32内で、微小粒子10a又は微小粒子10bを含む液滴が形成される。
【0048】
なお、図4においては、液体流路32の両側に気体導入部34a,34bを設けているが、本発明はこれに限定されるものではなく、気体導入部は流路32の側方に少なくとも1個設けられていればよい。
【0049】
この微小粒子10a,10bを含む液滴9a,9bは、前述した第1の実施形態と同様に、検出部での判別結果に基づいて気体流路33から噴射される気体により、その移動方向が制御される。具体的には、液体流路32と連通する2本の分岐流路35,36を設けると共に、その通流方向が液体流路32と同軸の分岐流路35の端部には廃液貯留領域37を形成し、その通流方向が気体流路33と同軸の分岐流路36には回収液貯留領域38を形成する。
【0050】
そして、液体流路32から回収対象の微小粒子10aを含む液滴9aが吐出されたときは、気体流路33から空気、二酸化炭素、あるいは、窒素などの不活性ガスなどの気体を噴射し、液滴9aを回収液貯留領域38に連通する分岐流路36に誘導する。一方、液体流路32の端部から回収対象外の微小粒子10bを含む液滴9bが吐出されたときは、気体流路33からの気体噴射は行わず、液滴9bを廃液貯留領域37に連通する分岐流路35に誘導する。
【0051】
なお、本実施形態のマイクロチップ31では、微小粒子を含む液滴9a,9bを、分岐流路35,36に誘導する構成としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図1に示すマイクロチップ1と同様に、液体流路32の下流側端部にキャビティーを設けて、気体流路から噴射される気体に誘導されて、液滴が所定の分岐領域に移動するようにしてもよい。また、前述した第1の実施形態の変形例のマイクロチップのように、3以上の分岐流路を設け、気体噴射の強弱又は方向を調節することなどにより、液滴の移動距離又は移動方向などを制御することもできる。
【0052】
本実施形態のマイクロチップ31のように、液体流路32を通流している途中で、微小粒子を含む液滴を形成する構成とすることにより、微小粒子を含む液を、任意のタイミングで分断し、液体流路32内に液滴を形成することが可能となる。これにより、液滴に含まれる微小粒子の数を任意に設定することが可能となる。更には、気体の導入により強制的に液を分断して液滴化しているため、安定した液滴を形成することができる。
【0053】
なお、本実施形態のマイクロチップ31における上記以外の構成及び効果は、前述した第1のマイクロチップと同様である。
【0054】
また、本発明のマイクロチップは、細胞、微生物及び生体高分子物質等の生体関連微小粒子、並びに各種合成微小粒子等を回収する際に適用することができる。例えば、細胞としては、血球系細胞等の動物細胞及び植物細胞が挙げられる。また、微生物としては、大腸菌等の細菌類、タバコモザイクウイルス等のウイルス類、イースト菌等の菌類等が挙げられる。更に、生体高分子物質としては、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)等が挙げられる。
【0055】
一方、合成微小粒子としては、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレート等の有機高分子材料からなる微小粒子、ガラス、シリカ、磁性材料等の無機材料からなる微小粒子、金コロイド、アルミニウム等の金属材料からなる微小粒子等が挙げられる。なお、一般に、これらの微小粒子の形状は球形であるが、本発明の微小粒子の回収方法は、非球形のものにも適用可能であり、その大きさ及び質量も特に限定されるものではない。
【0056】
更に、本発明のマイクロチップは、密閉空間で微小粒子の分取が可能であるため、臨床向けの再生医療のための細胞分取に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの構成を示す平面図である。
【図2】図1に示すマイクロチップ1を用いた微小粒子の分取方法を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の変形例に係るマイクロチップの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの構成の一部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1、11、31 マイクロチップ
2、32 液体流路
3、33 気体流路
4 キャビティー
5、6、6a、6b 分岐領域
7 層流
8 気体
9a、9b 液滴
10a、10b 微小粒子
21 サンプル液導入流路
22 シース液導入流路
23 絞込み部
34a、34b 気体導入部
35、36 分岐流路
37 廃液貯留領域
38 回収液貯留領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む液が通流する流路と、
前記流路から吐出する前記微小粒子を含む液に向けて気体を噴射する気体噴射部と、
を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
更に、前記流路から前記微小粒子を含む液滴が導入される空洞領域と、
該空洞領域に連通する複数の分岐領域と、を有し、
前記気体により前記空洞領域における前記液滴の移動方向を変更し、任意に選択される一の分岐領域に前記液滴を誘導する請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
少なくとも一側方から前記流路に合流し、該流路内に気体を導入する気体導入部を有し、
前記気体導入部から導入される気体によって、前記流路内を通流する液体を分断して液滴化する請求項1又は2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記気体の流量及び/又は圧力を調整することにより、前記微小粒子の移動方向を制御する請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロチップが搭載された微小粒子分取装置。
【請求項6】
マイクロチップ内に形成された流路内を通流している微小粒子を含む液に対して、気体を噴射することにより、前記微小粒子の移動方向を制御する送流方法。
【請求項7】
前記微小粒子を含む液を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化する請求項6に記載の送流方法。
【請求項8】
前記微小粒子を含む液滴を、前記気体により任意に選択される一の領域に誘導し、分取する請求項7に記載の送流方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−38866(P2010−38866A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205375(P2008−205375)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】