説明

マイクロチップアセンブリ

【課題】
液面水平度と液高を均一化し、測定誤差を生じることがなく正確に測定でき、試料液の蒸発を最小限に抑え、比較的長い時間を要する試料の測定にも適用でき、更に試料液の回収や洗浄も容易にできるマイクロチップセンブリを提供すること。
液体試料の蒸発や液面の均一性が課題となっている微量測定の代替デバイスを実現する。
【解決手段】
穴を有する硬質のベースプレートと、ベースプレートの上面に設置された穴を有するチップアダプタと、この穴を塞ぐようにチップアダプタの上面に設置された高い光透過性の材料からなる透明板と、この透明板の上面に設置され、下面に上方に向かう凹陥部とこの凹陥部に連なる複数の試料液注入孔を有するマイクロチップとからなり、前記透明板にマイクロチップを載置することによって前記透明板の上面とマイクロチップの凹陥部との間で試料液を充填するマイクロキャビティを形成したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の液体試料の吸光度を光学的に測定するのに好適なマイクロチップアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロプレートを用いて微量の液体試料を光学的に測定する技術は種々提案されているが、何れも液体試料の粘性やマイクロプレート素材の親水性、表面張力などにより液面の水平度あるいは液の高さ(光路長)が不均一になり、この結果、測定結果にバラツキが生じ、正確に測定することができないものであった。
【0003】
これらの問題点を解決する方法として、例えば下記特許文献1が提案されている。
この特許文献1には、対向するキュベット表面3と5間に形成したマイクロキュベット7に試料液を表面張力によって保持されるようにした発明が記載されている。
【0004】
この発明は、液体体積8の保持には効果が期待できるものと推測されるが、この種光学的な測定装置として求められる高価な試料の回収、比較的長い時間を要する測定、マイクロチップの洗浄などに関しては充全なものとなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−85958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、前記特許文献1では、試料液を横方向に開放しているマイクロキュベット8注入するようにしているので、高価、あるいは貴重な液体試料の回収を行うことができないこと、マイクロキュベット8の外周部が開放されているので、マイクロキュベット8内の微量試料液が短時間で蒸発し、時間を要する測定には不向きでるという問題点を有している。
【0007】
前記課題に着目し、本発明は、液面水平度と液高を均一化し、測定誤差を生じることがなく正確に測定でき、試料液の蒸発を最小限に抑え、比較的長い時間を要する試料の測定にも適用でき、更に試料液の回収や洗浄も容易にできるマイクロチップセンブリを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、穴を有する硬質のベースプレートと、ベースプレートの上面に設置された穴を有するチップアダプタと、この穴を塞ぐようにチップアダプタの上面に設置された高い光透過性の材料からなる透明板と、この透明板の上面に設置され、下面に上方に向かう凹陥部とこの凹陥部に連なる複数の試料液注入孔を有するマイクロチップとからなり、前記透明板にマイクロチップを載置することによって前記透明板の上面とマイクロチップの凹陥部との間で試料液を充填するマイクロキャビティを形成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は前記のように構成したので、液面水平度と液高が均一化され、正確に測定でき、試料液の蒸発を最小限に抑えられるので比較的長い時間を要する試料の測定にも適用でき、更に試料液の回収や洗浄も容易にできるマイクロチップアセンブリを提供することができるものである。
【0010】
補足説明すれば、前記マイクロチップアセンブリは、光路長が正確に規定された流路構造を有し、一つまたはそれ以上のマイクロ流路が設けられ、ごく少量の体積の規定された光路長でその試料液の濃度を光学的に正確に測定できるものである。このマイクロチップアセンブリは、市販されている標準的なマイクロプレートと同一寸法の設置面積とすれば、マイクロプレートリーダを用いての微量試料測定のアダプタとしても広く利用できる効果を副次的に有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例のマイクロプレートサセンブリの要部構成を示す断面図。
【図2】同上のマイクロプレートサセンブリの蓋を閉じた状態の全体の外観斜面図。
【図3】同上の蓋を開いた状態の外観斜面図。
【図4】同上の蓋を閉じた状態の平面図。
【図5】図4におけるC−C断面図。
【図6】一つのマイクロプレートの平面図。
【図7】図6のVII−VII断面図。
【図8】図6の下面図あるいは図7の右側面図。
【図9】図8に示したマイクロ流路パターンの拡大図。
【図10】本発明構成において試料液を供給あるいは回収するときの状態図
【図11】図10の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の一実施例の構成を図に基づいて説明する。
図1は本発明の要部構成を示す断面図、図2乃至図5は全体を示す図である。
図において、1はマイクロプレートアセンブリの全体を示す。2は金属、セラミックス、あるいはこれらと同等の硬さを有するプラスチックなどの材料から形成されるベースプレートで、照射光17を通すのに充分な大きさの長穴2Aを設けている。この例では2つの長穴を平行に設けている。尚、この長穴2Aは後述するマイクロチップに相当する数の穴をそれぞれ設けても良い。ベースプレート2には前記長穴2Aの周囲に所望の深さの凹陥部2Bを形成している。
【0013】
前記ベースプレート2の凹陥部1Bの上面には、照射光17を通すのに充分な大きさで前記穴2Aよりは若干小さい幅のスリット10Aを有するチップアダプタ10を載置している。このスリット10Aは後述する8個のマイクロチップ11を上方から臨める長さである。
【0014】
チップアダプタ10の上面には、中央部に深い凹陥部10Aを形成し、この凹陥部10Aの外周に連接し浅い凹陥部10Bを図示のように形成している。これらの凹陥部のうち内側の深い凹陥部10Aの上面には硬質で光透明性の高い石英ガラス板9を載置し固定している。この石英ガラス板9の板厚は凹陥部10Aの上面と一致する厚さとし、連接石英ガラス板9を凹陥部10Aに載置固定したとき浅い凹陥部10Bの底面と一致するようにしている。尚、この石英ガラス板9は、必ずしも石英ガラスでなくとも良く、性状が同一あるいは近似している材料であれば代替できる。
【0015】
11は前記石英ガラス板9と浅い凹陥部10Bの底面に跨って載置するPDMSチップである。PDMSとは、日本名「ポリジメチルシロキサン」で英名「Polydimethylsiloxane」であり、この業界ではマイクロチップ、マイクロ流体チップ、マイクロチャネルなどに広く使用されている。以下、PDMSチップ11を単にマイクロチップと称する。本一実施例で使用したものは、硬度が40(IRHD)程度の硬質なシリコーン樹脂と同等の材質で、石英ガラスと同等の極めて高い光透過率を有するものである。
【0016】
13はこのPDMSチップ11の上面に熱融着によって接合したマイクロチップと同じ材質の試料液注入管で、マイクロチップ11の下面の凹陥部と前記石英ガラス9とで形成されるマイクロキャビティ20に試料液14を導入するのに用いられる。尚、このマイクロチップ11の構成については後述する。
【0017】
3はブロック4に設けられた軸8によって開閉自在に設けられた蓋で、マイクロチップ11をチップアダプタ10上にセットした後にその浮き上がりを防止するために設けられる。この蓋3はマイクロチップ11を前記石英ガラス9の上面に適度な圧力で押圧し、前記マイクロキャビティ20から液漏れが生じないように機能させるものである。5は蓋3を閉めるためのつまみネジで、前記ベースプレート2に設けたスペーサ15に螺合させる。この蓋3には前記マイクロチップ11が上方から望めるようにマイクロチップ11の数と同じ16個の穴3Aが設けられている。6は確実な測定を可能にするために、ベースプレート2に設けた測定基準穴である。
【0018】
図2はつまみネジ5をスペーサ15に螺合して蓋3をベースプレート2に固定した状態を示す。この蓋3は金属あるいはプラスチックで形成されており、蓋を閉めることにより自己の弾力によりマイクロチップ11は石英ガラス板9の上面に適度な圧力で押圧接触されマイクロキャビティ20の水密あるいは気密性が保たれる。
【0019】
蓋3を図3のように開けば、マイクロチップ11を取り出すことができ、洗浄を簡単に行うことができる
図4は蓋3を閉じた状態の上面図、図5はその断面図である。
【0020】
次に、図6乃至図9に基づいて、マイクロチップ11の構成を更に詳細に説明する。
マイクロチップ11は前述のようにPDMSあるいはシリコーン樹脂などの材料で厚さ1ミリメートルの板材料から構成される。これらの材料は、光透過率が極めて高く、可撓性、且つ密着性が良いので、密封性が要求されるマイクロキャビティ20を形成するためには好適である。
【0021】
板体で形成されるマイクロチップ11の中央部の下面には上方に向かう凹陥部11Aを形成する。この凹陥部11Aは、前述のように、前記石英ガラス板9との間に液溜まりとなるマイクロキャビティ20を形成する。凹陥部11Aを形成したときに必然的に形成される凹陥部の底はマイクロチップの天板21となる。この天板21は光透過性を高めるために出来るだけ薄くするのが良い。本発明の一実施例では、この厚さは0.2ミリメートルとした。
【0022】
前記凹陥部11Aは図8、図9に示したように、直線及び角のない長円形となし、言い換えれば天板21も同様の形状としたものである。この天板21の長手方向の両端部にはそれぞれ試料液注入孔23を穿設している。
この試料液注入孔23からピペットなどにより試料液を注入し、測定に供するものである。この試料液注入孔23は試料液の蒸発を抑えるために出来るだけ小径とするのが良く
本一実施例では1ミリメートルとした。
【0023】
19は、前記天板21の試料液注入孔23の周縁に設けた試料注入管で、マイクロチップ11と同一の材料で構成され、誘導加熱による熱融着によって図7のように設けられている。この試料注入管19は、試料液注入孔23が比較的高い剛性を有する場合は必ずしも必要としない。但し、試料注入管19が蓋3の穴3Aから上方に臨めるように構成すればピペットによる試料液の注入が迅速且つ確実に行えることは容易に理解できよう。
又、前記のようにマイクロキャビティ20を図9のように形成したので試料液の流れがスムースになり、液の群がなくなり、迅速且つ均一に試料液の注入を行うことができる。
【0024】
次に、試料液の注入、回収方法について、図10及び図11に基づいて説明する。
12は試料液が充填されているピペットであり、ピペット12の先端を前記一方の試料注入管19に挿入し、ピペットを操作して試料液を押し出せば、試料液はマイクロキャビティ20内に充填される。このとき他方の試料注入管19は空気抜きとなり、試料液はスムース且つ迅速に注入できる。
この状態で上方から照射光17を照射すれば試料液の吸光度などの種々の物性を測定することができる。30は試料液を通過した光を受ける検出器である。
【0025】
図11は試料液を注入している拡大図であり、ピペットを操作して吸引操作すれば試料液をマイクロキャビティから抜き取ることができ、高価且つ貴重な試料液を回収することができる。
【0026】
更に補足的に説明すれば次のとおりである。
すなわち、マイクロチップアセンブリ1は、図2に示されるように、石英ガラス板9が設置されたチップアダプタ10にマイクロチップ11を貼り付け、そのチップアダプタ10をベースプレート2のガイドピン7の位置に設置し、蓋3を閉め、ツマミねじ5を締め付ければ、マイクロチップアセンブリとして使用できる。
【0027】
マイクロチップアセンブリ1は、図6に示されるように、ピペット12により液体試料を注入口13からマイクロチップ11のマイクロキャビティ20が満たされる容量の3μLを注入し、図7に示すように光学的測定を開始する。
【0028】
測定が終了した液体試料は、図6に示すように、ピペット12により注入口13から吸引し、回収することが可能となる。
【0029】
マイクロチップ11は、その底面のマイクロキャビティ20が開放されているので、チップアダプタ10、石英ガラス板9、試料注入管19を備えたマイクロチップ11のユニットをベースプレート2から外し、石英ガラス板9とマイクロチップ11を分離してエタノールに浸せば洗浄することができる。その後、水分を乾燥させれば石英ガラス板9やマイクロチップ11を繰り返し使用することが可能となり、経済性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のマイクプレートアセンブリは、マイクロプレートリーダを用いての対象物質の濃度測定や蛍光測定の用途に適用することができる。
尚、本発明は一実施例の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変形例も考えられ、これらをも含むものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1・・・マイクロチップアセンブリ
2・・・ベースプレート
3・・・蓋
4・・・ブロック
5・・・ツマミねじ
6・・・測定基準穴
7・・・ガイドピン
8・・・軸
9・・・石英ガラス板
10・・・チップアダプタ
11・・・マイクロチップ
12・・・ピペット
13・・・試料注入口
14・・・試料液
15・・・スペーサ
17・・・照射光
18・・・ウエルピッチ
19・・・試料液注入管
20・・・マイクロキャビティ
21・・・天板
22・・・側壁
23・・・穴
24・・・マイクロ流路パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴を有する硬質のベースプレートと、ベースプレートの上面に設置された穴を有するチップアダプタと、この穴を塞ぐようにチップアダプタの上面に設置された高い光透過性の材料からなる透明板と、この透明板の上面に設置され、下面に上方に向かう凹陥部とこの凹陥部に連なる複数の試料液注入孔を有するマイクロチップとからなり、前記透明板にマイクロチップを載置することによって前記透明板の上面とマイクロチップの凹陥部との間で試料液を充填するマイクロキャビティを形成したものであるマイクロチップアセンブリ。
【請求項2】
穴の開いた金属板の上に石英ガラス板を乗せ、その上にマイクロ流路底面全体が開放で、且つ透明色のPDMSチップを穴の開いた金属板の位置に対向して貼り付け、PDMSチップ上面には浮き上がり防止用の蓋を被せた一体化構造を特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項3】
実質的に平行な面が形成関係にある石英ガラスとPDMSチップ間に液体試料を注入し、流路内を満たすことによって保持されて、それによって吸光度を測定するための光路を提供する液体試料が測定状態となることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項4】
PDMSチップ流路は角がなく全て曲面に保形されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項5】
PDMSチップ流路は、極めて小径の試料液注入口2箇所のみが開放されたものである記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項6】
PDMSチップの素材は透明色のシリコーンゴム製で紫外域から近赤外域の広い波長帯域での高い透過率特性を特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項7】
PDMSチップのサンプル注入口には、穴の開いたシリコーンゴムを貼り付けた二層構造とすることで、ピペットチップとの勘合性を高め、且つ微量液体試料の注入位置が容易に判別できることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項8】
測定後の液体試料回収がピペットチップで吸引することにより、容易に行えることを特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。
【請求項9】
一つのPDMSチップに流路を複数形成し、同時に多数の微量液体試料の測定が行えるように構成したことを特徴とする請求項1記載のマイクロチップアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−214984(P2011−214984A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83113(P2010−83113)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591084827)コロナ電気株式会社 (2)
【Fターム(参考)】