説明

マイクロチップ及び微小粒子分析装置

【課題】サンプル液層流を流路の中心に集束させて送液することができ、かつ、成形が容易なマイクロチップの提供。
【解決手段】第一の導入流路11と、第一の導入流路11を挟んで配設され、それぞれ第一の導入流路11に側方から合流する第二の導入流路21,22と、第一の導入流路11及び第二の導入流路21,22に連通し、これらの流路から送流される流体が合流して通流する合流流路12と、が形成され、合流流路12に、第一の導入流路11に対する第二の導入流路21,22の挟み込み方向における流路幅が、流体の送流方向に従って次第に大きくなるように形成したテーパ部122が設けられているマイクロチップを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及び微小粒子分析装置に関する。より詳しくは、配設された流路内において、細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析するためのマイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や高効率化、集積化あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能なことから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「微小粒子含有溶液導入流路と、当該流路の少なくとも一方の側部に配置されたシース流形成流路と、を有する微小粒子分別マイクロチップ」が開示されている。この微小粒子分別マイクロチップは、さらに「導入された微小粒子を計測するための微小粒子計測部位と、該微小粒子計測部位の下流に設置された微小粒子を分別回収するための2以上の微小粒子分別流路と、微小粒子計測部位から微小粒子分別流路への流路口付近に設置された微小粒子の移動方向を制御するための2以上の電極」を有するものである。
【0007】
この特許文献1に開示される微小粒子分別マイクロチップは、微小粒子含むサンプル液を導入するための微小粒子含有溶液導入流路と2つのシース流形成流路とからなる「三叉流路」によって、流体層流の形成を行うものである(当該文献「図1」参照)。
【0008】
図17に、従来の三叉流路の流路構造(A)と、これにより形成されるサンプル液層流(B)を示す。この三叉流路では、(A)中、実線矢印方向に流路101を通流するサンプル液層流を、点線矢印方向から流路102,102に導入されるシース液層流によって左右から挟み込むことで、(B)に示すようにサンプル液層流を流路中央に送液することができる。なお、図17(B)中、サンプル液層流は実線で、流路構造は点線で示している。
【0009】
このような三叉流路によれば、サンプル液層流をシース液層流で左右から挟み込むことにより、挟み込む方向(図17中、Y軸方向)に関しては、流路内の任意の位置にサンプル液層流を偏向させて送液することができる。しかし、流路の上下方向(図17中、Z軸方向)に関しては、サンプル液層流の送液位置を制御することはできなかった。すなわち、従来の三叉流路では、Z軸方向に縦長のサンプル液層流しか形成することができなかった。
【0010】
従って、従来の三叉流路を備えるマイクロチップでは、例えば、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて光学分析を行う場合、流路の上下方向(深さ方向)における微小粒子の送流位置にばらつきが生じていた。このため、送流位置によって微小粒子の通流速度に差が生じ、検出信号のばらつきが大きくなり、分析精度が低下するという問題があった。
【0011】
特許文献2には、シース液層流が送液されている流路の中心に位置して設けられた開口から、サンプル液をシース液層流の中心に導入することにより、サンプル液層流をシース液層流で取り囲まれた状態として送液する流路構造が開示されている(当該文献、図2・3参照)。この流路構造によれば、サンプル液をシース液層流の中心に導入することができるため、流路の深さ方向における微小粒子の送流位置のばらつきをなくして、高い分析精度を得ることができる。
【0012】
図18に、シース液層流の中心にサンプル液を導入するために採用される従来の流路構造(A)と、これにより形成されるサンプル液層流(B)を示す。この流路構造では、シース液層流は、(A)中、矢印T方向から流路102,102にそれぞれ導入され、流路103に送液される。そして、矢印S方向に流路101へ送液されるサンプル液を、開口104から、流路103を送液されるシース液層流の中心に導入することができる。これによって、図18(B)に示すように、サンプル液層流を流路103の中心に集束させて送液することが可能である。なお、図18(B)中、サンプル液層流は実線で、流路構造は点線で示している。
【0013】
一方で、特許文献2では、このような流路構造においては、シース液層流中にサンプル液層流を導入する際に、サンプル液層流に乱れが生じ、サンプル液層流が偏平な安定した層流にならない場合があることが指摘されている(当該文献、4頁、右欄12〜46行目参照)。なお、ここで「偏平な層流」とは、図18中、流路の深さ方向(Z軸方向)に集束された層流を意味し、「偏平でない層流」とは、流路の深さ方向に拡散し、広がった層流を意味している。
【0014】
当該文献には、サンプル液層流とシース液層流の合流部の層流の乱れ(ウェイク)を抑制するため、サンプル液層流が導入される流路の開口に一対の板状突起(当該文献、第10図、符号18参照)等を設けることが提案されている。この板状突起18は、サンプル液層流が導入される流路の開口壁からサンプル液層流の流れ方向に延在され、開口から流出してくるサンプル液を案内するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−107099号公報
【特許文献2】特公平7−119686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献2に開示される板状突起18によれば、開口から流出してくるサンプル液を案内して、サンプル液を安定した、流路の深さ方向に集束された層流として流路に流すことが可能とされている。
【0017】
しかしながら、サンプル液層流が導入される流路の開口にこのようなガイド構造を設ける場合には、流路構造が複雑となる。また、マイクロチップ上にこのような流路構造を形成するためには、3枚以上の基板の貼り合わせが必要となる。そのため、各基板への流路構造の形成や基板の貼り合わせに高い精度が要求され、マイクロチップの製造コストが高くなるという問題がある。
【0018】
そこで、本発明は、サンプル液層流を流路の中心に集束させて送液することができ、かつ、成形が容易なマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題解決のため、本発明は、第一の導入流路と、第一の導入流路を挟んで配設され、それぞれ第一の導入流路に側方から合流する第二の導入流路と、第一及び第二の導入流路に連通し、これらの流路から送流される流体が合流して通流する合流流路と、が形成され、合流流路に、第一の導入流路に対する第二の導入流路の挟み込み方向における流路幅が、流体の送流方向に従って次第に大きくなるように形成したテーパ部が設けられているマイクロチップを提供する。このマイクロチップには、さらに、前記合流流路に、前記第一の導入流路及び前記第二の導入流路を含む平面に対する垂直方向における流路深さが、流体の送流方向に従って次第に小さくなるように形成したテーパ部を設けてもよい。
本発明は、また、第一の導入流路と、第一の導入流路を挟んで配設され、それぞれ第一の導入流路に側方から合流する2つの第二の導入流路と、第一及び第二の導入流路に連通し、これらの流路から送流される流体が合流して通流する合流流路と、が形成され、合流流路に、前記第一の導入流路及び前記第二の導入流路を含む平面に対する垂直方向における流路深さが、流体の送流方向に従って次第に小さくなるように形成したテーパ部が設けられているマイクロチップを提供する。
これらのマイクロチップにおいて、前記第一の導入流路の流路深さは、前記第二の導入流路の流路深さよりも小さく形成され、前記合流流路への第一の導入流路の連通口は、第二の導入流路の流路深さ方向の略中央位置に設けられる。
また、前記合流流路への第一の導入流路の連通口は、前記第二の導入流路のそれぞれの流路壁を含む領域に開口されることが好ましい。
これらのマイクロチップには、さらに、流路幅が流体の送流方向に従って次第に大きくなるように形成された前記テーパ部の送流方向下流に、流路幅が送流方向に従って次第に再度小さくなるように形成した縮流部を設けることができる。
本発明は、さらに、これらのマイクロチップが搭載され、前記合流流路の前記縮流部の下流に、前記第一の導入流路から送流される流体中に含まれる微小粒子の検出部が構成されている微小粒子分析装置をも提供する。
【0020】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。
また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、サンプル液層流を流路の中心に集束させて送液することができ、かつ、成形が容易なマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図2】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの合流流路12の断面を説明する模式図である。(A)は図1中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図を示す。
【図3】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの連通口111の構成を説明する模式図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの連通口111の構成(A)と図18に示す従来の流路構造の開口104(B)を説明する模式図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップのテーパ部122の変形例を説明する模式図である。上段は上面図、下段は断面図を示す。
【図6】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図7】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの合流流路12の断面を説明する模式図である。(A)は図6中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図を示す。
【図8】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップのテーパ部123の変形例を説明する模式図である。上段は上面図、下段は断面図を示す。
【図9】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップのテーパ部123の流路深さ方向におけるテーパ角度を説明する模式図である。上段は上面図、下段は断面図を示す。
【図10】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップのテーパ部123と縮流部121の変形例を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図11】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図12】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの合流流路12の断面を説明する模式図である。(A)は図11中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図を示す。
【図13】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップのテーパ部122,123の変形例を説明する模式図である。上段は上面図、下段は断面図を示す。
【図14】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップのテーパ部123と縮流部121の変形例を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図15】本発明に係るマイクロチップの成形方法を説明する図であり、チップを構成する基板の上面模式図である。
【図16】本発明に係るマイクロチップの成形方法を説明する図であり、チップの断面模式図である。(B)は、(A)中P−P断面に対応する。
【図17】従来の三叉流路の流路構造(A)と、これにより形成されるサンプル液層流(B)を説明する模式図である。
【図18】シース液層流の中心にサンプル液を導入するために採用される従来の流路構造(A)と、これにより形成されるサンプル液層流(B)を説明する模式図である。
【図19】図18に示した従来の流路構造を説明する模式図である。(A)は上面図、(B)は断面図を示す。
【図20】図18に示した従来の流路構造中における流体の流速ベクトル場を説明する模式図である。(A)は図19中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図を示す。
【図21】図18に示した従来の流路構造中における流体の流速ベクトル場を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

1.従来の流路構造における流体の流速ベクトル場
2.本発明の第一実施形態に係るマイクロチップ
3.第一実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
4.本発明の第二実施形態に係るマイクロチップ
5.第二実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
6.本発明の第三実施形態に係るマイクロチップ
7.第三実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
8.本発明に係るマイクロチップの成形方法
9.本発明に係る微小粒子分析装置

【0024】
1.従来の流路構造における流体の流速ベクトル場
図18に示した、シース液層流の中心にサンプル液を導入するために採用される従来の流路構造では、シース液層流中にサンプル液層流を導入する際に、サンプル液層流に乱れが生じ、サンプル液層流が流路の中心に収束されないという問題があった。
【0025】
すなわち、図19に示すように、流路102,102にそれぞれ導入されて流路103を通流するシース液層流Tの中心に、開口104からサンプル液層流Sを導入した場合、サンプル液層流Sが、流路の深さ方向(Z軸方向)に拡散してしまうことがあった。このようにサンプル液層流Sが流路の中心に収束されないと、サンプル液層流Sに含まれる微小粒子の送流位置が流路の深さ方向においてばらつくため、微小粒子の検出信号にもばらつきが生じ、分析精度が低下する。
【0026】
本発明者らは、従来の流路構造で生じていたサンプル液層流の乱れの要因を明らかにするため、流路構造中における流体の流速ベクトル場(流れ場)を数値計算した。その結果、サンプル液層流とシース液層流の合流後に生じる渦状の流れ場が、サンプル液層流の乱れを引き起こしていることを明らかにした。
【0027】
図19・図20を参照して、従来の流路構造中における流体の流速ベクトル場について説明する。図20は従来の流路構造の断面模式図であり、(A)は図19中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図に対応する。
【0028】
サンプル液層流Sを、開口104から、流路103を送液されるシース液層流Tの中心に導入すると、その直後より、流路の深さ方向中央に、速い流速ベクトルが出現する(図20(A)中、矢印参照)。この速い流速ベクトルは、合流したサンプル液層流S及びシース液層流Tが流路の深さ方向中央に集中し、早く流れようとするために生じると考えられる。
【0029】
さらに、流路101及び流路102,102からの流れ場が合流し、ひとつの流れ場に発達する過程で、この流路の深さ方向中央に生じた速い流速ベクトルが、図20(B)に示すようにZ軸正方向あるいは負方向に旋回する流れ場となり、やがて図20(C)に示すような渦状の流れ場に発達する。そして、この流れ場によって、サンプル液層流SがZ軸正方向及び負方向に引き伸ばされて、流路の深さ方向に拡散されていることが分かった。また、この渦状の流れ場によるサンプル液層流Sの変形は、流路102,102から送液されるシース液の流量に依存して大きくなることも明らかとなった。
【0030】
また、本発明者らは、流速ベクトル場(流れ場)の数値計算の結果、シース液層流の中心にサンプル液層流を導入するための開口付近で生じる遅い流れ場が、サンプル液層流の乱れを引き起こしていることも明らかにした。
【0031】
図21に、図18に示した、シース液層流の中心にサンプル液を導入するために採用される従来の流路構造の開口104付近で生じる遅い流れ場を模式的に示す(図中、矢印参照)。
【0032】
開口104付近では、流路102,102から送液されるシース液と、開口104から吐出されるサンプル液との合流に伴って、シース液層流T及びサンプル液層流Sとの間に剪断力が生じる。この剪断力によって、開口104付近には、遅い流速ベクトルが生じ、流れが澱んだ不安定な流れ場が形成される。そして、この澱んだ流れ場によって、サンプル液層流Sが不安定になり、流路の深さ方向に拡散されていることが分かった。また、この澱んだ流れ場によるサンプル液層流Sの変形は、開口104から吐出されるサンプル液の流量が小さい程、大きくなることも明らかとなった。
【0033】
2.本発明の第一実施形態に係るマイクロチップ
本発明に係るマイクロチップは、上述のようなサンプル液層流とシース液層流の合流後に生じる渦状の流れ場を抑制し、サンプル液層流の乱れを生じさせない流路構造を設けたことを第一の特徴とする。さらに、本発明に係るマイクロチップは、上述のようなシース液層流の中心にサンプル液層流を導入するための開口付近で生じる澱んだ流れ場を抑制し、サンプル液層流の乱れを生じさせない流路構造を設けたことを第二の特徴とする。
【0034】
図1は、本発明の第一実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を示す模式図である。図1(A)はマイクロチップの上面図、(B)は断面図である。
【0035】
図中、符号11は、第一の流体(以下、「サンプル液」という)が導入される第一の導入流路(以下、「サンプル液導入流路11」という)を示す。符号21,22は、サンプル液導入流路11を挟んで配設され、それぞれサンプル液導入流路11に側方から合流し、第二の流体(以下、「シース液」という)が導入される第二の導入流路(以下、「シース液導入流路21,22」という)を示す。また、符号12は、サンプル液導入流路11及びシース液導入流路21,22に連通し、これらの流路から送液されるサンプル液及びシース液が合流して通流する合流流路を示す。
【0036】
サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部には、シース液層流Tが通流する合流流路12の中心にサンプル液を導入するための連通口111が設けられている。サンプル液導入流路11のZ軸方向における流路深さは、シース液導入流路21,22の流路深さよりも小さく形成されており、連通口111は、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の略中央位置に設けられている。また、連通口111は、合流流路12の流路幅方向(Y軸方向)においても略中央位置に設けられている。
【0037】
この連通口111から、サンプル液層流Sをシース液層流Tの中心に導入することにより、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態として送液することができる(次に説明する図2も参照)。なお、連通口111が設けられる位置は、合流流路12内に、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態で送液可能な限りにおいて、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の中央位置のみならず、その近傍とできる。同様に、連通口111の合流流路12の流路幅方向における位置も、中央位置のみならず、その近傍としてよい。
【0038】
図中、符号122は、図20で説明したサンプル液層流とシース液層流の合流後に生じる渦状の流れ場を抑制するために機能するテーパ部を示す。テーパ部122は、合流流路12において、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍に設けられる。テーパ部122は、サンプル液導入流路11に対するシース液導入流路21,22の挟み込み方向(Y軸方向)における流路幅が、送液方向に従って次第に拡がり、大きくなるように形成されている。
【0039】
図1・2を参照して、合流流路12における流体の流速ベクトル場と、テーパ部122の機能について説明する。図2は合流流路12の断面模式図である。図2(A)は図1中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図に対応する。
【0040】
サンプル液層流Sを、開口111から、合流流路12を通流するシース液層流Tの中心に導入すると、その直後より、流路の深さ方向中央に速い流速ベクトルが出現する(図2(A)中、点線矢印参照)。この速い流速ベクトルは、既に説明したように、合流したサンプル液層流S及びシース液層流Tが流路の深さ方向中央に集中し、早く流れようとするために生じる。
【0041】
テーパ部122において、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅がY軸方向に拡げられると、流路の深さ方向中央に生じた速い流速ベクトルに対して逆向きの流れ場(図2(B)中、実線矢印参照)が発生する。テーパ部122は、この逆向きの流れ場を発生させることにより、流路の深さ方向中央に生じた流れ場を相殺し、渦状の流れ場へ発達するのを抑制する。その結果、サンプル液層流Sは、渦状の流れ場によってZ軸方向に引き伸ばされることなく、流路の中心に収束された状態に維持される(図2(B)・(C)参照)。
【0042】
図中、符号121は、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅をY軸及びZ軸方向に絞り込むために機能する縮流部を示す。縮流部121は、合流流路12において、テーパ部122の下流に設けられる。縮流部121は、流路幅が送液方向に従って次第に再度狭まり、小さくなるように形成されている。また、縮流部121は、流路深さも、流路幅が送液方向に従って次第に狭まり、小さくなるように形成されている。すなわち、縮流部121の流路壁は、送液方向に従ってY軸及びZ軸方向に狭窄するように形成されており、縮流部121は、送液方向(X軸正方向)に対する垂直断面の面積が次第に小さくなるように形成されている。この形状によって、縮流部121は、合流後のサンプル液層流Sとシース液層流Tの層流幅を、Y軸及びZ軸方向に絞り込んで送液させる。
【0043】
図3・4は、連通口111の構成を示す模式図である。サンプル液導入流路11のZ軸方向における流路深さは、シース液導入流路21,22の流路深さよりも小さく形成されており、連通口111は、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の略中央位置に設けられている(図3参照)。さらに、連通口111は、付近で生じる澱んだ流れ場を抑制するため、シース液導入流路21及びシース液導入流路22の流路壁211,221を含む領域に開口されている。
【0044】
図4を参照して、より具体的に説明する。まず、図4(B)を参照して、従来の流路構造(図18参照)の開口104の構成を説明する。従来の流路構造では、流路102,102から送液されるシース液と、開口104から吐出されるサンプル液との合流に伴ってシース液層流T及びサンプル液層流Sとの間に生じる剪断力によって、開口104付近に流れが澱んだ不安定な流れ場(図中、斜線領域)が形成されていた(図21も参照)。
【0045】
この場合、サンプル液は、開口104から、流れが澱んだ不安定な流れ場に吐出されることとなる。そのため、サンプル液層流Sは、流路102,102から送液される流れの速いシース流と接触する前に不安定な状態となり、流路の深さ方向に拡散してしまうこととなる。
【0046】
これに対して、本実施形態に係るマイクロチップの連通口111は、シース液導入流路21及びシース液導入流路22の流路壁211,221を含む領域に開口されているため、連通口111から吐出されるサンプル液が、シース液導入流路21,22から送液される流れの速いシース流に直接に接触する。そのため、サンプル液層流Sは、通口111からの吐出直後からシース流によって加速され、安定して流路の中心に収束された状態に維持され、深さ方向に拡散することがない。
【0047】
なお、ここで説明した連通口111の形状は、サンプル液導入流路11の連通口111側端が、シース液導入流路21及びシース液導入流路22の流路壁211,221によって切欠かれた形状ということもできる。連通口111の形状は、シース液導入流路21,22の流路壁211,221による切欠のため、図4中、符号Wで示す流路幅が、符号Cで示す切欠後流路幅よりも小さく形成されるものである。
【0048】
3.第一実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
図1では、テーパ部122を、合流流路12において、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部である連通口111の下流に設ける場合を説明した。しかし、テーパ部122を設ける位置は、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍であれば、図1に示す位置に限定されない。
【0049】
図5に、テーパ部122の変形例を示す。図上段はテーパ部122の上面模式図、下段は断面模式図を示している。テーパ部122は、例えば図5(A)に示すように、Y軸方向における流路幅が拡がり始める起点が、連通口111よりも上流に位置するように設けてもよい。また、テーパ部122は、図5(B)に示すように、Y軸方向における流路幅が拡がり始める起点が、連通口111と一致する位置に設けてもよい。なお、図5(C)は、図1と同様に、Y軸方向における流路幅が拡がり始める起点を連通口111よりも下流に位置させ、テーパ部122を連通口111の下流に設けた場合を示す。
【0050】
4.本発明の第二実施形態に係るマイクロチップ
図6は、本発明の第二実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を示す模式図である。図4(A)はマイクロチップの上面図、(B)は断面図である。
【0051】
図中、符号11は、サンプル液が導入されるサンプル液導入流路を示す。符号21,22は、サンプル液導入流路11を挟んで配設され、それぞれサンプル液導入流路11に側方から合流し、シース液が導入されるシース液導入流路21,22を示す。また、符号12は、サンプル液導入流路11及びシース液導入流路21,22に連通し、これらの流路から送液されるサンプル液及びシース液が合流して通流する合流流路を示す。
【0052】
サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部には、シース液層流Tが通流する合流流路12の中心にサンプル液を導入するための連通口111が設けられている。
【0053】
サンプル液導入流路11のZ軸方向における流路深さは、シース液導入流路21,22の流路深さよりも小さく形成されており、連通口111は、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の略中央位置に設けられている。また、連通口111は、合流流路12の流路幅方向(Y軸方向)においても略中央位置に設けられている。
【0054】
この連通口111から、サンプル液層流Sをシース液層流Tの中心に導入することにより、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態として送液することができる(次に説明する図7も参照)。なお、連通口111が設けられる位置は、合流流路12内に、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態で送液可能な限りにおいて、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の中央位置のみならず、その近傍とできる。同様に、連通口111の合流流路12の流路幅方向における位置も、中央位置のみならず、その近傍としてよい。
【0055】
図中、符号123は、図20で説明したサンプル液層流とシース液層流の合流後に生じる渦状の流れ場を抑制するために機能するテーパ部を示す。テーパ部123は、合流流路12において、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍に設けられる。テーパ部123は、サンプル液導入流路11及びシース液導入流路21,22を含む平面(XY平面)に垂直方向(Z軸方向)における流路深さが、送流方向に従って次第に狭まり、小さくなるように形成されている。
【0056】
図6・7を参照して、合流流路12における流体の流速ベクトル場と、テーパ部123の機能について説明する。図7は合流流路12の断面模式図である。図7(A)は図6中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図に対応する。
【0057】
サンプル液層流Sを、開口111から、合流流路12を通流するシース液層流Tの中心に導入すると、その直後より、流路の深さ方向中央に速い流速ベクトルが出現する(図7(A)中、点線矢印参照)。この速い流速ベクトルは、既に説明したように、合流したサンプル液層流S及びシース液層流Tが流路の深さ方向中央に集中し、早く流れようとするために生じる。
【0058】
テーパ部123において、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅がZ軸方向に狭められると、流路の深さ方向中央に生じた速い流速ベクトルに対して逆向きの流れ場(図7(B)中、実線矢印参照)が発生する。テーパ部123は、この逆向きの流れ場を発生させることにより、流路の深さ方向中央に生じた流れ場を相殺し、渦状の流れ場へ発達するのを抑制する。その結果、サンプル液層流Sは、渦状の流れ場によってZ軸方向に引き伸ばされることなく、流路の中心に収束された状態に維持される(図7(B)・(C)参照)。
【0059】
図中、符号121は、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅をY軸及びZ軸方向に絞り込むために機能する縮流部を示す。縮流部121の構成及び作用は、第一実施形態に係るマイクロチップと同様であるので、ここでは説明を省略する。また、連通口111の構成及び作用も、第一実施形態に係るマイクロチップと同様である。
【0060】
5.第二実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
図6では、テーパ部123を、Z軸方向における流路深さが狭まり始める起点を連通口111の位置に一致させて設ける場合を説明した。しかし、テーパ部123を設ける位置は、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍であれば、図6に示す位置に限定されない。
【0061】
図8に、テーパ部123の変形例を示す。図上段はテーパ部123の上面模式図、下段は断面模式図を示している。テーパ部123は、例えば図8(A)に示すように、Z軸方向における流路深さが狭まり始める起点が、連通口111よりも上流に位置するように設けてもよい。また、図8(C)に示すように、Z軸方向における流路深さが狭まり始める起点が、連通口111よりも下流に位置するように設けてもよい。なお、図8(B)は、図6と同様に、Z軸方向における流路深さが狭まり始める起点を連通口111の位置に一致させて設けた場合を示す。
【0062】
テーパ部123の流路深さ方向におけるテーパ角度(図9中、符号θz参照)は、テーパ部23の機能が発揮される限りにおいて自由に設定され得る。テーパ角度θzは、サンプル導入流路11へのシース液導入流路21,22の合流角度(図9(A)中、符号θy参照)よりも大きく設定することで、渦状の流れ場の発生を抑制する効果を高めることができる。また、合流流路12の流路幅が送液方向に従って次第に狭まり、小さくなるように形成されている場合には、合流流路12の絞り角(図9(B)中、符号θy参照)よりも、テーパ角度θzを大きくすることで、十分な渦状の流れ場の抑制効果を得ることができる。
【0063】
図6では、テーパ部123と縮流部121とを不連続に構成する場合を説明したが、テーパ部123と縮流部121は、図10に示すように連続していてもよいものとする。
【0064】
6.本発明の第三実施形態に係るマイクロチップ
図11は、本発明の第三実施形態に係るマイクロチップに形成された流路構造を示す模式図である。図11(A)はマイクロチップの上面図、(B)は断面図である。
【0065】
図中、符号11は、サンプル液が導入されるサンプル液導入流路を示す。符号21,22は、サンプル液導入流路11を挟んで配設され、それぞれサンプル液導入流路11に側方から合流し、シース液が導入されるシース液導入流路21,22を示す。また、符号12は、サンプル液導入流路11及びシース液導入流路21,22に連通し、これらの流路から送液されるサンプル液及びシース液が合流して通流する合流流路を示す。
【0066】
サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部には、シース液層流Tが通流する合流流路12の中心にサンプル液を導入するための連通口111が設けられている。
【0067】
サンプル液導入流路11のZ軸方向における流路深さは、シース液導入流路21,22の流路深さよりも小さく形成されており、連通口111は、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の略中央位置に設けられている。また、連通口111は、合流流路12の流路幅方向(Y軸方向)においても略中央位置に設けられている。
【0068】
この連通口111から、サンプル液層流Sをシース液層流Tの中心に導入することにより、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態として送液することができる(次に説明する図12も参照)。なお、連通口111が設けられる位置は、合流流路12内に、サンプル液層流Sをシース液層流Tで取り囲まれた状態で送液可能な限りにおいて、シース液導入流路21,22の流路深さ方向の中央位置のみならず、その近傍とできる。同様に、連通口111の合流流路12の流路幅方向における位置も、中央位置のみならず、その近傍としてよい。
【0069】
図中、符号122,123は、図20で説明したサンプル液層流とシース液層流の合流後に生じる渦状の流れ場を抑制するために機能するテーパ部を示す。テーパ部122,123は、合流流路12において、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍に設けられる。テーパ部122は、サンプル液導入流路11に対するシース液導入流路21,22の挟み込み方向(Y軸方向)における流路幅が、送液方向に従って次第に拡がり、大きくなるように形成されている。また、テーパ部123は、サンプル液導入流路11及びシース液導入流路21,22を含む平面(XY平面)に垂直方向(Z軸方向)における流路深さが、送流方向に従って次第に狭まり、小さくなるように形成されている。本実施形態に係るマイクロチップでは、テーパ部122,123は、合流流路12において一部重複する領域に構成されている。
【0070】
図11・図12を参照して、合流流路12における流体の流速ベクトル場と、テーパ部122,123の機能について説明する。図12は合流流路12の断面模式図である。図12(A)は図11中P−P断面図、(B)はQ−Q断面図、(C)はR−R断面図に対応する。
【0071】
サンプル液層流Sを、開口111から、合流流路12を通流するシース液層流Tの中心に導入すると、その直後より、流路の深さ方向中央に速い流速ベクトルが出現する(図12(A)中、点線矢印参照)。この速い流速ベクトルは、既に説明したように、合流したサンプル液層流S及びシース液層流Tが流路の深さ方向中央に集中し、早く流れようとするために生じる。
【0072】
テーパ部122において、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅がY軸方向に拡げられ、かつ、テーパ部123において、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅がZ軸方向に狭められると、流路の深さ方向中央に生じた速い流速ベクトルに対して逆向きの流れ場(図12(B)中、実線矢印参照)が発生する。テーパ部122,123は、この逆向きの流れ場を発生させることにより、流路の深さ方向中央に生じた流れ場を相殺し、渦状の流れ場へ発達するのを抑制する。その結果、サンプル液層流Sは、渦状の流れ場によってZ軸方向に引き伸ばされることなく、流路の中心に収束された状態に維持される(図12(B)・(C)参照)。
【0073】
図中、符号121は、合流後のサンプル液層流S及びシース液層流Tの層流幅をY軸及びZ軸方向に絞り込むために機能する縮流部を示す。縮流部121の構成及び作用は、第一実施形態に係るマイクロチップと同様であるので、ここでは説明を省略する。また、連通口111の構成及び作用も、第一実施形態に係るマイクロチップと同様である。
【0074】
7.第三実施形態に係るマイクロチップの流路構造の変形例
図11では、テーパ部122を、合流流路12において、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部である連通口111の下流に設ける場合を説明した。しかし、テーパ部122を設ける位置は、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍であれば、図11に示す位置に限定されない。
【0075】
また、図11では、テーパ部123を、Z軸方向における流路深さが狭まり始める起点を連通口111の位置に一致させて設ける場合を説明した。しかし、テーパ部123を設ける位置は、サンプル液導入流路11のシース液導入流路21,22との合流部の近傍であれば、図11に示す位置に限定されない。
【0076】
さらに、図11では、テーパ部122のY軸方向における流路幅が拡がり始める起点よりも、テーパ部123のZ軸方向における流路深さが狭まり始める起点を上流に設ける場合を説明した。しかし、テーパ部122の起点とテーパ部123の起点の位置は、異なっていてもよく、同一であってもよい。同様に、図11では、テーパ部122のY軸方向における流路幅が拡がり終わる終点と、テーパ部123のZ軸方向における流路深さが狭まり終わる終点とを、一致する位置に設ける場合を説明したが、テーパ部122の終点とテーパ部123の終点の位置は、異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0077】
図13に、テーパ部122,123の変形例を示す。この変形例では、テーパ部122のY軸方向における流路幅が拡がり始める起点及びテーパ部123のZ軸方向における流路深さが狭まり始める起点の位置を、ともに連通口111に一致させて設けている。また、テーパ部122の終点とテーパ部123の終点の位置も一致させて設けている。
【0078】
また、図11では、テーパ部123と縮流部121とを不連続に構成する場合を説明したが、テーパ部123と縮流部121は、図14に示すように連続していてもよいものとする。
【0079】
8.本発明に係るマイクロチップの成形方法
本発明に係るマイクロチップの材質は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。マイクロチップを用いた分析を光学的に行う場合には、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材質を選択することが好ましい。
【0080】
マイクロチップの光透過性を維持するため、その表面には光ディスクに用いられる、いわゆるハードコート層を積層することが望ましい。マイクロチップの表面、特に光学検出部表面に指紋等の汚れが付着すると、透過光量が減少して、光学分析精度が低下するおそれがある。マイクロチップの表面に透明性及び防汚性に優れたハードコート層を積層することで、このような分析精度の低下を防止できる。
【0081】
ハードコート層は、通常使用されるハードコート剤を用いて製膜でき、例えば、フッ素系又はシリコン系防汚添加剤等の指紋付着防止剤を添加したUV硬化型ハードコート剤等を使用して製膜できる。特開2003−157579号公報には、ハードコード剤として、活性エネルギ線によって重合しうる重合性官能基を2個以上有する多官能性化合物(A)、メルカプト基を有する有機基と加水分解性基または水酸基とがケイ素原子に結合しているメルカプトシラン化合物で表面修飾された平均粒径1〜200nmの修飾コロイド状シリカ(B)、および、光重合開始剤(C)を含む活性エネルギ線硬化性組成物(P)が開示されている。
【0082】
マイクロチップに配設されるサンプル導入流路11、シース液導入流路21,22、テーパ部122,123及び縮流部121を含む合流流路12等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。そして、サンプル導入流路11等を形成した2枚の基板を貼り合せることで、マイクロチップを形成することができる。基板の貼り合せは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の公知の手法により行うことができる。
【0083】
図15・図16を参照して、本発明に係るマイクロチップの成形方法を説明する。図15は、本発明に係るマイクロチップを構成する基板の上面模式図を示す。また、図16は、本発明に係るマイクロチップの断面図を示す。図16(B)は、(A)中P−P断面に対応する。
【0084】
まず、基板aに対して、シース液導入流路21,22の一部と合流流路12の一部を形成する(図15(A)参照)。基板aには、サンプル導入流路11にサンプル液を供給するためのサンプル液供給口3と、シース液導入流路21,22にシース液を供給するためのシース液供給口4、合流流路12からサンプル液及びシース液を排出するための排出口5も形成される。次に、基板bに対して、サンプル導入流路11、シース液導入流路21,22の一部と合流流路12の一部を形成する(図15(B)参照)。
【0085】
続いて、図16に示すように基板aと基板bを熱圧着等によって貼り合せることによって、マイクロチップを成形する。このとき、サンプル液導入流路11がシース液導入流路21,22の流路深さ方向の略中央に位置するように、基板a,bに異なる深さでシース液導入流路21,22を形成しておく。
【0086】
以上のように、本発明に係るマイクロチップは、サンプル導入流路11等を形成した基板a,bを貼り合わせることによって成形することができる。このため、上述の特許文献2に開示される、サンプル液層流が導入される流路の開口にガイド構造を設けたマイクロチップと異なり、基板2枚のみの貼り合わせによって製造できる。従って、各基板への流路構造の形成や基板の貼り合わせが容易で、マイクロチップの製造コストを抑えることが可能である。
【0087】
9.本発明に係る微小粒子分析装置
本発明に係る微小粒子分析装置には、上記したマイクロチップが搭載され得る。この微小粒子分析装置は、微小粒子の特性を分析し、その分析結果に基づいて微小粒子の分別を行う微小粒子分取装置としても応用可能である。
【0088】
この微小粒子分析装置は、マイクロチップの合流流路12において、テーパ部122あるいは123と縮流部121の下流に、サンプル導入流路11から送流されるサンプル液中に含まれる微小粒子を検出するための検出部(図15中、符号D参照)が構成されている。
【0089】
本発明に係るマイクロチップでは、テーパ部122,123によって、サンプル液層流Sを合流流路12の中心に収束された状態として送液し、流路の深さ方向における微小粒子の送流位置のばらつきと、これに起因する微小粒子の通流速度差をなくすこと可能とされている(図2等参照)。従って、テーパ部122,123の下流に検出部Dを構成し、微小粒子の検出を行うことで、微小粒子の通流速度差に基づく検出信号のばらつきを排除して、高い精度で微小粒子の検出を行うことができる。
【0090】
さらに、本発明に係るマイクロチップでは、縮流部121によって、サンプル液層流Sとシース液層流Tの層流幅を、流路幅方向及び深さ方向に絞り込んで送液することが可能とされている。サンプル液層流Sとシース液層流Tの層流幅を絞り込むことで、サンプル液層流S中に微小粒子を一列に配列させることができ、かつ、流路の深さ方向における微小粒子の送流位置のばらつきと、これに起因する微小粒子の通流速度差をさらに小さくすることができる。従って、縮流部121の下流に検出部Dを構成し、微小粒子の検出を行うことで、微小粒子を一つ一つ検出し、かつ、微小粒子の通流速度差に基づく検出信号のばらつきを最大限に排除して検出を行うことができる。
【0091】
検出部Dは、光学検出系、電気的検出系又は磁気的検出系として構成できる。これらの検出系は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムと同様に構成することができる。
具体的には、光学検出系は、レーザー光源と、微小粒子に対しレーザー光を集光・照射するための集光レンズなどからなる照射系と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光をダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等を用いて検出する検出系と、によって構成される。微小粒子から発生する光の検出は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって行うことができる。
また、電気的検出系又は磁気的検出系は、検出部Dの流路に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。
【0092】
検出部Dにおいて検出された微小粒子から発生する光や抵抗値、磁化等は、電気信号に変換され、全体制御部に出力される。なお、検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよい。
【0093】
全体制御部は、この電気信号に基づいて、微小粒子の光学特性を測定する。この光学特性測定のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光等が採用される。
【0094】
また、本発明に係る微小粒子分析装置に、上記特許文献1に開示されるような微小粒子分別流路と、微小粒子分別流路への流路口付近に設置された微小粒子の移動方向を制御する電極を設け、全体制御部により微小粒子の特性を分析し、その分析結果に基づいて微小粒子の分別を行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るマイクロチップは、成形が容易であり、サンプル液層流を流路の中心に集束させて送液することができる。そのため、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて微小粒子の特性を分析する場合、流路の深さ方向における微小粒子の送流位置のばらつきをなくして、高い分析精度を得ることができる。従って、本発明に係るマイクロチップは、細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0096】
11 第一の導入流路(サンプル導入流路)
111 連通口
12 合流流路
121 縮流部
122,123 テーパ部
21,22 第二の導入流路(シース液導入流路)
3 サンプル液供給口
4 シース液供給口
5 排出口
a,b 基板
D 検出部
S サンプル液層流
T シース液層流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の導入流路と、
第一の導入流路を挟んで配設され、それぞれ第一の導入流路に側方から合流する第二の導入流路と、
第一及び第二の導入流路に連通し、これらの流路から送流される流体が合流して通流する合流流路と、が形成され、
合流流路に、第一の導入流路に対する第二の導入流路の挟み込み方向における流路幅が、流体の送流方向に従って次第に大きくなるように形成したテーパ部が設けられているマイクロチップ。
【請求項2】
前記合流流路に、前記第一の導入流路及び前記第二の導入流路を含む平面に対する垂直方向における流路深さが、流体の送流方向に従って次第に小さくなるように形成したテーパ部が設けられている請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第一の導入流路の流路深さは、前記第二の導入流路の流路深さよりも小さく形成され、
前記合流流路への第一の導入流路の連通口は、第二の導入流路の流路深さ方向の略中央位置に設けられている請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記合流流路への第一の導入流路の連通口は、前記第二の導入流路のそれぞれの流路壁を含む領域に開口されている請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項5】
流路幅が流体の送流方向に従って次第に大きくなるように形成された前記テーパ部の送流方向下流に、流路幅が送流方向に従って次第に再度小さくなるように形成した縮流部を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロチップが搭載され、
前記合流流路の前記縮流部の下流に、前記第一の導入流路から送流される流体中に含まれる微小粒子の検出部が構成されている微小粒子分析装置。
【請求項7】
第一の導入流路と、
第一の導入流路を挟んで配設され、それぞれ第一の導入流路に側方から合流する2つの第二の導入流路と、
第一及び第二の導入流路に連通し、これらの流路から送流される流体が合流して通流する合流流路と、が形成され、
合流流路に、前記第一の導入流路及び前記第二の導入流路を含む平面に対する垂直方向における流路深さが、流体の送流方向に従って次第に小さくなるように形成したテーパ部が設けられているマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−179945(P2011−179945A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43968(P2010−43968)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】