説明

マイクロニードル、マイクロニードル集合体及びその製造方法

【課題】
薬剤の経皮投与のために好適な、折れにくくしかも屈曲しにくいマイクロニードルおよびその集合体、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
フィルムによって成型されることを特徴とするマイクロニードルであって、該フィルムが、示差走査熱量測定(DSC)により得られる、昇温過程(昇温速度:2℃/分)における結晶化エンタルピーΔHccが0〜10mJ/mgであり、かつ厚さ200μmのフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱したときの濁度変化が30%〜99%であることを特徴とするマイクロニードル及びマイクロニードル集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を経皮投与するためのマイクロニードル又はマイクロニードル集合体、特に樹脂製のマイクロニードル又はびマイクロニードル集合体に関するものである。また、該マイクロニードル又はマイクロニードル集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に経口投与できない薬剤は注射によって投与される。注射器を用いた投与は皮膚の損傷が大きく、痛みを伴う。それに対しパッチ剤のような経皮投与は簡便であり、さらに薬剤を局所的に送達させるための薬剤送達の制御が可能である。また、薬剤の副作用を軽減もしくは回避することもできると言われている。しかし、経皮パッチを用いた場合は薬効発現に時間がかかり、投薬できる薬剤の種類も大きく制限される。
【0003】
そのように薬効発現に時間がかかり、投与薬剤の種類が限定されるという障害を乗り越える技術が開発されている。イオントフォレシス(iontophoresis)は、投薬したい皮膚周辺部に電圧を印加し、帯電した薬物を電気化学的ポテンシャルにより能動的に経皮吸収させる方法である。ソノフォレシス(sonophoresis)は、超音波を水溶液等の媒体を介して皮膚に印加し薬物の経皮吸収性を高める技術である。エレクトロポレーション(electroporation)は、高電圧を細胞膜に印加し可逆的に小孔を形成させることで薬剤を導入する方法である。イオントフォレシスでは薬物吸収の効率を上げるために電流値を上げることができるが、皮膚への刺激が懸念される。ソノフォレシスとエレクトロポレーションは皮膚のバリア作用を直接的に低下させるため、皮膚の損傷やそれに伴う障害、感染に対するバリア機能の回復などについて懸念される。いずれの方法を用いても適応できる薬剤は限定される。すなわち、イオントフォレシスは水溶液中で薬剤は帯電している必要があり、ソノフォレシスとエレクトロポレーションは皮膚との反応性が低く、薬剤の分子量は小さくなくてはならないなどの制限がある。
【0004】
薬剤の経皮投与において、薬剤送達の障害となっているものは皮膚の表層にある角質層であることが知られている。近年、その障害を克服するために角質層を回避して薬剤を送達させる、マイクロニードルやマイクロブレードの開発が盛んに行われている(特許文献1及び2参照)。
【0005】
マイクロニードルは、一般に長さが数百μmで、かつ直径が数十μmの微小な針であり、アスペクト比の大きいマイクロ構造体である。
【0006】
マイクロニードルは、薬剤送達や体液サンプリングのためのデバイスとしての利用が知られている。マイクロニードルは皮膚の上層の角質層を十分に貫通できるが痛点までは届かない程度の長さを有する。そのため適用時に皮膚貫通に伴う痛みを感じなくてよいという利点がある。マイクロニードルの直径が数十μm程度と小さいために、皮膚への損傷は注射針やマイクロブレードを適用したときよりもはるかに小さい。
【0007】
マイクロニードルが注射の代替となることが可能であることについては、いくつかの報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0008】
従来のマイクロニードルは、光リソグラフィーを利用した方法(特許文献3参照)や、ディープ反応性イオンエッチングを利用した方法(特許文献4参照)などにより製造する方法が提案されている。
【0009】
マイクロニードルに用いられる素材の多くは金属またはシリコンである(非特許文献1参照)。金属製またはシリコン製のマイクロニードルは剛性に優れるため、数十ミクロンの太さのマイクロニードルでも角質層を貫通するために必要な剛性の確保が容易である。しかし、該マイクロニードルは靭性に問題がある。マイクロニードル適用時に生体内でマイクロニードルの先端の一部が破損したり、マイクロニードルが根元から折れたりすることで、体内に金属やシリコンが留置する危険性がある。
【0010】
ポリアミドやポリエステルなどの樹脂を材料とするマイクロニードルも提案されている(特許文献5参照)。樹脂を用いて作製したマイクロニードルは金属製あるいはシリコン製マイクロニードルと比較して安全性の高い可能性がある。なぜならば、樹脂は金属と比較して靭性に優れるため、樹脂製マイクロニードルは折れにくいという性質を持つためである。
【特許文献1】特表2002−517300号公報
【特許文献2】特表2000−512529号公報
【特許文献3】特表2004−526581号公報
【特許文献4】特表2004−538106号公報
【特許文献5】特表2003−501161号公報
【非特許文献1】D. V. McAllisterら、「Microfabricated needleds for transdermal delivery of macromolecules and nanoparticles:Fablication methods and transport studies」、Proceedings of the National Academy of Sciences、2003年、vol.100、no.24、p.13755−13760
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マイクロニードルは、適応時に無痛であり、皮膚への損傷が小さいという特徴を有する投薬デバイスである。また、樹脂製のマイクロニードルは金属製と比較して靭性に優れるため、折れにくいという長所がある。
【0012】
しかしながら、樹脂の剛性は金属やシリコンと比較して小さいため、従来の樹脂製マイクロニードルは屈曲して皮膚に刺さらないことが起こりやすいという問題があった。
【0013】
樹脂の剛性の低さを補うためにマイクロニードルを太くすることは適切ではない。なぜならマイクロニードルを太くすると、適応時に無痛であり、皮膚への損傷が小さいという特徴を失う可能性があるからである。
【0014】
また、樹脂の中でも比較的剛性の大きい樹脂は、一般に成型性が十分ではない。そのため剛性の大きい樹脂を用いてマイクロニードルのようなアスペクト比の大きいものを作製することは困難である。
【0015】
したがって、従来の技術では、靭性及び剛性に優れた、折れにくく、しかも屈曲しにくい樹脂製のマイクロニードルを実現することはできなかった。
【0016】
本発明は、薬剤の経皮投与のために好適な、折れにくくしかも屈曲しにくいマイクロニードルおよびその集合体、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成からなる。
【0018】
本発明は、フィルムによって成型されるマイクロニードル及びマイクロニードル集合体であり、該フィルムは示差走査熱量測定(以下、DSCともいう)により得られる、昇温速度2℃/分での昇温過程における結晶化エンタルピーΔHccが0〜10mJ/mgであり、かつ厚さ200μmのフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱したときの濁度変化が30%から99%であることを特徴とする。
【0019】
本発明のマイクロニードルは、好ましくは、高さが10μm〜1000μm、突起幅が1μm〜300μmである多角柱形状もしくは円柱形状、または高さが10μm〜1000μm、底部幅が1μm〜300μm、先端幅が0μm〜100μmの多角錐台形状もしくは円錐台形状である。
【0020】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法は、インプリント加工を用いて成型することを特徴とする。好ましくは、インプリント加工時のフィルムの温度はガラス転移温度Tg+30℃〜Tg+80℃である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、薬剤の経皮投与時に折れずに、かつ屈曲することなく皮膚を穿孔する樹脂製マイクロニードルを得ることができる。さらに本発明の製造方法によれば、かかるマイクロニードルを容易に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、機械的強度が強く、屈曲しにくいマイクロニードル及びマイクロニードル集合体について鋭意検討し、特定の物性を有するフィルムを成型することによって上記課題を解決し、本発明に到達したものである。
【0023】
すなわち、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体は、フィルムによって成型されるものであり、該フィルムは、示差走査熱量測定により得られる、昇温速度2℃/分での昇温過程における結晶化エンタルピーΔHccが0〜10mJ/mgであり、かつ厚さ200μmのフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱したときの濁度変化が30%〜99%であることを特徴とする。
【0024】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体は、示差走査熱量測定により得られる、昇温過程(昇温速度:2℃/分)における結晶化エンタルピーΔHccが0〜10mJ/mgであることを特徴とするフィルムから成型されることを特徴とする。より好ましくは0〜5mJ/mg、さらに好ましくは0〜3mJ/mgである。ここでいう結晶化エンタルピーΔHccとは、JIS K7122(1999)に準じて求められる値であり、昇温速度2℃/分で走査した時に得られる示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化に伴う発熱ピークの面積より求められる値である。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムにおいて、結晶化エンタルピーΔHccがこの範囲より大きいと、表面に賦形する際の昇温時にフィルムを構成する樹脂が素早く結晶化して、賦形する際にフィルムの変形が起こりにくくなる。そのため、高アスペクト比のマイクロニードルの賦形時に金型への樹脂の充填が不十分となって転写精度が低下したり、面内に圧力不均衡が生じて転写の面内均一性が低下したりする等の理由のため好ましくない。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムにおいて、結晶化エンタルピーΔHccを本発明の範囲とすることによって、アスペクト比の大きい形状を良好に成型することができる。
【0025】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、厚さ200μmのフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱したときの濁度変化が30%〜99%であることを特徴とする。好ましくは40%〜99%、さらに好ましくは50%〜99%である。ここでいう、ガラス転移温度Tgとは、JIS K7122(1999)に準じて求められる値であり、昇温速度2℃/分で走査した時に得られるDSC曲線において、ベースラインから外れた屈曲部分で傾きが最大となる点の温度である。
【0026】
また、濁度とは光源(好適には標準光源、JIS Z−8720参照)より入射光が試料を通る間に、入射光束から外れて散乱透過した光量の百分率(Ht)をいい、下記の関係式で得られる。
Ht=100×(Td/Tt)
ここで、Tdは拡散透過率、Ttは全光線透過率であり、直線透過率をTpとすると、下記の関係式で表わされる。
Tt=Td+Tp
本発明でいう濁度変化とは、200μm厚のフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱した後の濁度から加熱前の濁度を引いた値のことを示す。
【0027】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムにおいて、濁度変化が上述の範囲以下であると、良好に成型することは可能であるが、成型後のマイクロニードルの剛性が不十分になり、屈曲しやすくなる恐れがある。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムにおいて、濁度変化を本発明の範囲とすることによって、成型工程中に成型性を低下させることなく結晶化を進行させることが可能となり、その結果、成型性を保ったまま従来では得ることができなかった高い剛性を有し、屈曲しにくいマイクロニードルを得ることができる。
【0028】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムのガラス転移温度Tgは、40〜160℃の範囲であるのが好ましい。より好ましくは60〜150℃である。ガラス転移温度Tgがこの範囲を下回ると、高アスペクト比のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の成型の離型時にパターンが変形したり、また、離型できたとしても、形状が経時変化することがあるため好ましくない。また、この範囲を上回ると、賦形温度が高くエネルギー的に非効率であり、またフィルムの加熱/冷却時の体積変動が大きくなりフィルムが金型に噛み込んで離型できなくなったり、また離型できたとしてもマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の転写精度が低下したり、部分的にニードルが欠けて欠点となる等の理由により好ましくない。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムにおいて、フィルムのガラス転移温度Tgをこの範囲とすることで良好な転写性、離型性を得ることができる。
【0029】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムには、電磁波照射により硬化する成分、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基などの置換基を有する化合物等を添加しても構わない。この場合、成型したマイクロニードル及びマイクロニードル集合体に電磁波を照射して硬化させることで、機械強度を向上させることができる。
【0030】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、本発明の効果が失われない範囲内で、各種の添加剤を加えることができる。添加配合することができる添加剤の例としては、例えば、有機微粒子、無機微粒子、分散剤、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、重合禁止剤、離型剤、増粘剤、pH調整剤、無機塩、有機塩などが挙げられる。
【0031】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、樹脂単体からなるシートであってもかまわないし、複数の樹脂層からなる積層体であってもよい。積層体である場合、単体シートと比べて、成型性と機械的強度の両立をより高めることができる。このように該フィルムが複数の樹脂層からなる積層体である場合は、フィルム全体としての結晶化エンタルピーΔHcc、ガラス転移温度Tg、200μmのフィルムをTg+70℃まで加熱したときの濁度変化のそれぞれが前述の要件を満たすことが好ましいが、フィルム全体としては前述の要件を満たしていなくても、少なくとも前述の要件を満たす層が表層に形成されていればよく、この場合容易に表面を賦形することができる。
【0032】
また、本発明マイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、一軸、または二軸方向に延伸されていても構わない。しかしながら、用いる材料によっては、高倍率の延伸によって配向結晶化が進む結果、成型性が低下する場合もあるため、物性値の変化に併せて適宜制御しながら延伸を行うことが好ましい。
【0033】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムの厚さは、インプリント加工時の成型性、また成型したマイクロニードルの取扱性の観点から100μm〜500μmが好適であり、200μm〜500μmがフィルムの成型性の観点からさらに好ましい。
【0034】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、熱可塑性樹脂を主たる成分として構成されているものが好ましい。熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの中で共重合するモノマー種の多様性、およびそれによって材料物性の調整が容易であるなどの理由から、特にポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂またはこれらの混合物から選ばれる熱可塑性樹脂を主として形成されていることが好ましい。
【0035】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムが熱可塑性樹脂を主たる成分としているものとしては、該熱可塑性樹脂が50重量%以上から成ることが好ましい態様として挙げられ、さらに90重量%以上からなることが好ましい。
【0036】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、上記熱可塑性樹脂のなかでも特にポリエステル樹脂を主たる成分としてなる樹脂組成物であるのがより好ましい。ポリエステル樹脂は共重合するモノマー種の多様性、およびそれによって材料物性の調整が容易であるなどの理由から、好適に用いることができる。特にジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とジオールの共重合物が好適に用いられる。
【0037】
かかるジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸、またはこれらジカルボン酸のエステル誘導体などが代表例として挙げられるが、これらに限定されない。分子中に二つのカルボキシル基を有する化合物であれば適宜選択して使用することができる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。また、これらのジカルボン酸に、L−ラクチド、D−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、その誘導体またはこれらオキシ酸類が複数個縮合した化合物等を縮合または付加した化合物も好ましく用いられる。
【0038】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3−ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香族ジオール類等が代表例として使用することができ、またこれらジオールの任意の複数個が縮合してエーテル化したジオール化合物も用いることができるが、これらに限定されない。分子中に二つのヒドロキシル基を有する化合物であれば適宜選択して使用することができる。また、これらのジオールは単独で用いても、必要に応じて複数種類用いても構わない。
【0039】
ここで、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるポリエステル樹脂としては、上述のジカルボン酸成分と、ジオール成分を適宜選択して、共重合させることにより得られるが、上述の物性を満たすためには、上述のジカルボン酸成分、およびジオール成分の中で、嵩高い骨格や、折れ曲がり骨格などを有し、秩序構造を乱すことが可能なものを少なくとも含むように共重合させることで得ることができる。
【0040】
例えば、ポリエステル樹脂として、成型性と剛性の観点から、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とする共重合体が好ましく用いられる。
【0041】
この場合、秩序構造を乱すことが可能な共重合成分のジカルボン酸成分の例としては、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸、またはこれらジカルボン酸のエステル誘導体などが代表例として挙げられるがこれらに限定されない。分子中に二つのカルボキシル基を有する化合物であれば適宜選択して使用することができる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0042】
また、秩序構造を乱すことが可能な共重合成分のジオール成分の例としてのとしては、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(フェノキシエタノール)フルオレンなどの芳香族ジオール類、またはこれらジオールの任意の複数個が縮合してエーテル化したジオール化合物などを用いることができる。
【0043】
このような秩序構造を乱すことが可能なカルボン酸成分は、全カルボン酸成分100mol中に5〜90mol、ジオール成分は全ジオール成分100mol中に5〜90mol含むことが好ましいが、実際に使用するカルボン酸成分またはジオール成分の種類にあわせてそれぞれ適切な量を含むことがより好ましい。より好ましい例としては、エチレングリコールとテレフタル酸の共重合体であるポリエチレンテレフタレートを基本とした場合において、秩序構造を乱すことが可能なモノマーとして、ジオール成分のシクロヘキサンジメタノールを用いた場合では、全ジオール成分100mol中に10〜40molを含むのが好ましい。また、ジオール成分のスピログリコールを用いた場合では、全ジオール成分100mol中に5〜20molを含むのが好ましい。また、秩序構造を乱すことが可能なモノマーとして、カルボン酸成分のイソフタル酸を用いた場合は、全カルボン酸成分100mol中に20〜50molを含むのが好ましい。また、カルボン酸成分である2,5−ナフタレンカルボン酸を用いた場合には、全カルボン酸成分100mol中に10〜30molまたは70〜90molを含むのが好ましい。上述の範囲を満たさないと、成型されたマイクロニードルの剛性が不十分で皮膚穿孔が困難となったり、逆に剛性が高くなりすぎて針状突起を精密に成型することができない可能性があるため好ましくない。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるポリエステル樹脂において、秩序構造を乱すことが可能なモノマーの割合を上述の範囲とすることによって、成型性と、針状突起の剛性を両立することができる。
【0044】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムを構成する樹脂は、例えば上述のジカルボン酸とジオールを適宜選択して共重合させることによって得ることができ、そのための重合方法としてはエステル交換法、直接重合法、溶液重合法、界面重合法など、公知の技術を用いることができる。
【0045】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムを構成する樹脂には、本発明の効果が失われない範囲内で、重合時もしくは重合後に各種の添加剤を加えることができる。添加配合することができる添加剤の例としては、例えば、有機微粒子、無機微粒子、分散剤、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、無機塩、有機塩などを使用することができる。
【0046】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を成型するために用いるフィルムは、上述のポリエステル樹脂をシート化することによって得られるフィルムである。その製造方法の例としては、上述のポリエステル樹脂を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。その他の方法として、シート形成用材料を溶媒に溶解させ、その溶液を口金からキャストドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して膜状とし、次いでかかる膜層から溶媒を乾燥除去させてシート状に加工する方法(溶液キャスト法)等も採用することができる。
【0047】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体は、フィルムを成型することによって得ることができる。その製造方法の具体的な例としては、インプリント加工が挙げられる。インプリント加工とは、被加工材に鋳型を加熱しながら押しつけることにより、被加工材の表面形状を加工する方法であり、より詳細には次の通りである。
【0048】
フィルムと、転写すべきニードル形状を反転した凹凸を有する鋳型とを、フィルムのガラス転移温度Tg以上融点Tm未満の温度範囲内に加熱し、フィルムと鋳型を接近させ、そのまま所定圧力でプレス、所定時間保持する。次にプレスした状態を保持したまま降温する。最後にプレス圧力を解放して鋳型からフィルムを離型する。
【0049】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法としては、上述の平版鋳型をプレスする方法(平版プレス法)の他に、表面に凹凸を形成したロール状の鋳型を用いて、ロール状のフィルムに成形し、ロール状の成形体を得るロールtoロールの連続成形であってもよい。ロールtoロール連続成形の場合、生産性点で平版プレス法より優れている。
【0050】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、加熱温度、およびプレス温度T1はTg+15℃〜Tg+80℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくはTg+30℃〜Tg+80℃の範囲内である。この範囲に満たないと、フィルムが十分に軟化しないため、マイクロニードルの高さが設計したものよりも低く転写されることがある。またこの範囲を上回ると、鋳型とフィルムが密着し、離型時にマイクロニードルが伸びてマイクロニードルの高さが設計した高さ以上になり、機械的強度が低下する可能性がある。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、加熱温度およびプレス温度T1をこの範囲とすることで、良好な転写精度を得ることができる。
【0051】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、プレス圧力は用いるフィルムに依存するが、0.5MPa〜20MPaが好ましい。より好ましくは1MPa〜10MPaである。この範囲に満たないと、マイクロニードルの高さが設計したものよりも低く転写されることがある。またこの範囲を超えると、鋳型とフィルムが密着し、離型時にマイクロニードルが伸びてマイクロニードルの高さが設計した高さ以上になり、機械的強度が低下する可能性がある。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、プレス圧力をこの範囲とすることで、良好な転写精度を得ることができる。
【0052】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、プレス圧力保持時間は、用いるフィルムにより依存するが、10秒〜10分が好ましい。この範囲に満たないとマイクロニードルの高さが設計したものよりも低く転写されることがある。またこの範囲を超えると、鋳型とフィルムが密着し、離型時にマイクロニードルが伸びてマイクロニードルの高さが設計した高さ以上になり、機械的強度が低下する可能性がある。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、保持時間をこの範囲とすることで、良好な転写精度と機械的強度を得ることができる。
【0053】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、プレス圧力開放温度T2は25℃〜Tg+20℃の温度範囲内で、プレス温度T1より低いのが好ましい。より好ましくはTg−20℃〜Tg+20℃である。この範囲を上回ると、圧力解放時の樹脂の流動性が高いため、ニードルが変形するなどして転写精度が低下したりするために好ましくない。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法においては、プレス圧力開放温度T2をこの範囲とすることによって、良好な転写精度を得ることができる。
【0054】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法において、離型温度T3は25〜T2℃の温度範囲内であることが好ましい。より好ましくは20〜T2−20℃の温度範囲である。この範囲を上回ると、離型時の樹脂の流動性が高いため、ニードルが変形したりして精度が低下するため好ましくない。本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法においては、離型時の温度をこの範囲とすることによって、パターン精度よく離型することができる。
【0055】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法に用いる鋳型の横断面図を図1(a)〜(d)に例示する。図1の横断面にて観察される鋳型凸部11の形状としては、矩形(図1(a))、台形(図1(b))、これらが変形したもの(図1(c)、(d))、およびこれらの混在したもの等が好ましく用いられるが、これら以外の形状も用いることができる。すなわち、横断面図において鋳型凸部11の側面が、ほぼシート面に対して垂直な図1(a)等の他にも、図1(b)〜(d)のような形態も含まれる。図1では隣接する鋳型凸部11間に平坦部が形成されている例を示したが、隣接する鋳型凸部11間が平坦でなくてもよく、さらには隣接鋳型凸部11の裾が連結していてもよい。また、鋳型凹部12の形状についても、上記鋳型凸部11と同様に、矩形、台形、三角形、釣鐘型、またはこれらが変形したもの等の形状を好ましく用いることができる。
【0056】
図2(a)〜(e)は、それぞれ、鋳型をその面と平行に切断した場合の断面における、鋳型凸部11と鋳型凹部12との配置を模式的に示す断面図である。図2(a)〜(e)のように鋳型凹部12の形状が、略三角形、略四角形、略六角形、その他多角形、円、楕円、星形等から選ばれる形状を有していてもよい。図2(a)は鋳型凹部12の断面が円形状である場合、図2(b)は三角形状である場合、図2(c)、(e)は四角形状である場合、図2(d)は六角形状である場合を、それぞれ例示するものである。この鋳型凹部12は、図2で示した場合のように整列していてもよく、またランダムに配列していたり、異なる形状が混在していてもよい。
【0057】
ここで、凹部12の幅は、図1(a)の場合、凹部幅tの長さでもって表される。なお、図1(b)等のようにその長さ単位が位置により異なる場合は入口幅t1と底部幅t2とその平均値taの3種類の値でもって表す。
【0058】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法に用いる鋳型は凹部幅t(もしくはta)が1μm〜300μm、好ましくは20μm〜80μm、より好ましくは40μm〜60μm、深さHが10μm〜1000μm、好ましくは50μm〜200μm、より好ましくは75μm〜150μm、また鋳型凹部12のアスペクト比H/tは0.1〜25であり、好ましくは1〜15である。
【0059】
また、凹部12の断面がテーパーを有する場合は、入口幅t1、底部幅t2の好ましい範囲としては、入口幅t1は、1〜300μm、より好ましくは20〜80μm、より好ましくは40〜60μmである。また底部幅t2が1〜100μm、より好ましくは1〜40μm、最も好ましくは、1〜10μmである。また、深さHが10μm〜1000μm、好ましくは50μm〜200μm、より好ましくは75μm〜150μmである。
【0060】
ここで、鋳型の凹部幅tは、図1(a)図示したように、鋳型凹部12の単位長さである。図2(a)の様に鋳型凹部12が円形の場合はその直径を、楕円の場合はその短径を、図2(b)〜(c)の様に三角形・四角形などの多角形の場合はその外接円の直径を、凹部幅tとすればよい。
【0061】
また、この鋳型凹部12の配列において、鋳型凹部12の密度、すなわち単位面積あたりの鋳型凹部12の数は、1平方センチメートル当たり1個から1000個であることが好ましい。また、この鋳型凹部12の配列において、鋳型凸部11の面積と鋳型凹部12の面積比率は任意である。
【0062】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の製造方法に用いる鋳型は、切削加工、レーザー加工、サンドブラスト法、エッチング加工、フォトリソグラフィー法など等の公知の技術により作製することができるが、以下に説明するLIGA法によって作製することが形状再現性、マイクロニードル表面の平滑性の観点から特に好ましい。LIGA法は、ドイツ語のリソグラフィー(Lithographie)、電気めっき(Galvanoformung)、成形(Abformung)から由来する略語であり、放射光を利用してより高い精度でより高いアスペクト比の微細構造体を作製するためのリソグラフィーを用いた精密加工技術である。このLIGA法を用いて鋳型を作製する方法は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の表面にシンクロトロン放射光を選択的に照射して、照射部を分解した後、現像してPMMAの型を作製する。次いで、その型を元に電鋳した後に、PMMAの型を溶解させて鋳型を得る方法である。ここで用いる露光光源であるシンクロトロン放射光としては、波長0.6nm以下のものが好ましい。この範囲を上回ると、PMMAへの加工深さに限界が生じ、設計した形状に加工できない可能性がある。
【0063】
上述方法による鋳型作製において、鋳型凹部12の断面形状を矩形ではなく、台形などのテーパーをもつ形状とするためには、PMMAへの露光時にマスクを移動させればよい。例えば、特許文献 特許第3380878号公報に開示されている方法を用いることができる。
【0064】
鋳型の材質としては、電鋳複製に用いられる金属であれば特に限定されないが、耐久性に優れるニッケルを主たる成分とすることが特に好ましい。
【0065】
鋳型は上述の材質をそのまま用いても構わないが、易滑性を付与するため、鋳型の表面を表面処理剤で処理するのが好ましい。表面処理による金型の表層の接触角としては、好ましくは80°以上、より好ましくは100°以上である。
【0066】
表面処理の方法としては、表面処理剤を金型表面に化学結合を用いて固定する方法(化学吸着法)や、表面処理剤を金型表面に物理的に吸着させる方法(物理吸着法)等が挙げられる。この中で、表面処理効果のくり返し耐久性、および成形品への汚染防止の観点から化学吸着法により表面処理するのが好ましい。
【0067】
化学吸着法に用いられる表面処理剤の好ましい例としては、フッ素系シランカップリング剤が挙げられる。これを用いた表面処理方法としては、有機溶剤(アセトン、エタノール)中での超音波洗浄、硫酸等の酸、過酸化水素等の過酸化物の溶液中での煮沸洗浄、などの洗浄方法により金型の表面を洗浄した後、フッ素系シランカップリング剤で処理する。その処理方法の一例として、フッ素系シランカップリング剤をフッ素系溶剤に溶解させた溶液に金型を浸漬することが挙げられる。浸漬時には、溶液を加熱することも好ましく行われる。
【0068】
本発明のマイクロニードルとは、表面に一本の針状突起を有するフィルムであるのに対し、本発明のマイクロニードル集合体とは、表面に2本以上の針状突起を有するフィルムである。
【0069】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の横断面図を図3に示す。図3の横断面にて観察される針状突起32の形状としては、矩形(図3(a))、台形(図3(b))、これらが変形したもの(図3(c)、(d))、およびこれらの混在したもの等が好ましく用いられるが、これら以外の形状も用いることができる。すなわち、横断面図において針状突起32の側面が、ほぼシート面に対して垂直な図3(a)等の他にも、図3(b)〜(d)のような形態も含まれる。ここで、皮膚を容易に穿孔できるように図3(b)〜(d)のようなテーパーを持つ形状であることが好適である。また、図3では隣接する成型品凸部間に平坦部が形成されている例を示したが、隣接する成型品凸部間が平坦でなくてもよく、さらには隣接成型品凸部の裾が連結していてもよい。また、成型品凹部の形状についても、上記金型凸部と同様に、矩形、台形、三角形、釣鐘型、またはこれらが変形したもの等の形状を好ましく用いることができる。
【0070】
図4(a)〜(e)は、それぞれ、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体のその面と平行に切断した場合の断面における、針状突起32と凹部31との配置を模式的に示す断面図である。図4(a)〜(e)のように針状突起32の形状が、略三角形、略四角形、略六角形、その他多角形、円、楕円、星形等から選ばれる形状を有していてもよい。図4(a)は針状突起32の断面が円形状である場合、図4(b)は三角形状である場合、図4(c),(e)は四角形状である場合、図4(d)は六角形状である場合を、それぞれ例示するものである。この針状突起32は、図示した場合のように整列していてもよく、またランダムに配列していたり、異なる形状が混在していてもよい。
【0071】
ここで、針状突起32の幅は、図3(a)の場合、突起幅S’の長さでもって表される。なお、図3(b)等のようにその長さ単位が位置により異なる場合は先端幅S’1と底部幅S’2とその平均値S’aの3種類の値でもって表す。
【0072】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の針状突起32の形状は、突起幅S’(もしくはS’a)が1μm〜300μm、好ましくは20〜80μm より好ましくは40〜60μm、高さH’が10μm〜1000μm、好ましくは50μm〜200μm より好ましくは75μm〜150μmである。また、針状突起32のアスペクト比H’/S’は0.1〜25、好ましくは1〜15である。
【0073】
より好ましくは皮膚を容易に穿孔できるように針状突起は図3(b)〜(d)のようなテーパーを持つ形状であることが好適であり、その場合の針状突起32の先端幅S’1、底部幅S’2の好ましい範囲としては、先端幅S’1が1〜100μm、より好ましくは1〜40μm、最も好ましくは、1〜10μmである。また底部幅S’2は、1〜300μm、より好ましくは20〜80μm、より好ましくは40〜60μmである。
【0074】
ここで、針状突起の突起幅S’は、図3(a)図示したように、針状突起32の単位長さである。図4(a)の様に針状突起32が円形の場合はその直径を、楕円の場合はその短径を、図4(b)〜(c)の様に三角形・四角形などの多角形の場合はその外接円の直径を、針状幅S’とすればよい。
【0075】
本発明のマイクロニードル集合体のマイクロニードル密度、すなわち単位面積あたりのマイクロニードルの本数の割合は、1平方センチメートル当たり1本〜1000本が好ましい。上述の範囲を超えると密になったマイクロニードルの束は、点というよりむしろ面として皮膚を押すようになり、皮膚を穿孔する確率が低下し、皮膚を穿孔することが難しくなるため好ましくない。本発明のマイクロニードル集合体において、マイクロニードル密度を上述の範囲とすることによって、良好に皮膚を貫通することが可能となる。
【0076】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体は血液などの生物学的体液のサンプリングのための穿孔器具として用いることができる。サンプリングを行うためには、サンプリングしたい体液のある部位にマイクロニードルもしくはマイクロニードル集合体の針状突起を1分間〜5分間押し当てて皮膚を穿孔し、穿孔部位から排出される体液を回収すればよい。押し当てる力は針状突起の剛性及び皮膚の弾力性の観点から、針状突起1本当たりに0.1gf〜5gfの範囲内の力がかかるようにするのが好適であり、0.3gf〜2.0gfの範囲内の力がさらに好適である。この範囲を下回ると皮膚が十分に穿孔されない可能性がある。また、この範囲を上回ると針状突起が穿孔中に変形し、針状突起を皮膚から引き抜く際に皮膚に損傷を与える可能性がある。
【0077】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を用いると、体内に薬剤を導入することが可能である。薬剤を導入する方法としては、針状突起32に薬剤を付着させた後、その針状突起側を皮膚に押しつけることで、皮膚の上層の角質層を貫通させることによって行うことができる。薬剤を付着させたマイクロニードルもしくはマイクロニードル集合体を押し当てる力は針状突起の剛性及び皮膚の弾力性の観点から、針状突起1本当たりに0.1gf〜5gfの範囲内の力がかかるようにするのが好適であり、0.3gf〜2.0gfの範囲内の力がさらに好適である。この範囲を下回ると皮膚が十分に穿孔されず、薬剤が皮下に浸透しない可能性がある。また、この範囲を上回ると針状突起が穿孔中に変形し、針状突起を皮膚から引き抜く際に皮膚に損傷を与える可能性がある。
【0078】
用いることができる薬剤の例としては抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗腫瘍薬、鎮痛薬、麻酔薬、抗鬱剤、抗関節炎剤、食欲抑制薬、タンパク質、ペプチド、ワクチン(DNAワクチンを含む)、アジュバンド等があげられるが、これらに限定されず使用することができる。
【0079】
また、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の針状突起32に薬剤を付着させる方法としては、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を形成した後に薬剤を付着させる方法や、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を形成するためのフィルム中に混合、塗設および/または含浸(膨潤)させた後に、マイクロニードル及びマイクロニードル集合体を形成する方法等があげられるが、いずれの方法でも構わないし、またこれらに限定されず針状突起に薬剤を付着させることができる方法を任意に用いることができる。前者の本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を形成した後に薬剤を付着させる方法の例としては、本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体上に薬剤を塗布し、表面に薬剤の塗膜を形成および/または薬剤を針状突起中に膨潤させる方法(コーティング法)、薬剤の液面に本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の針状突起32の先端を浸し、針状突起の先端表面に薬剤の塗膜を形成および/または薬剤を針状突起32先端中に膨潤させる方法(スタンプ法)等があげられるがこれらに限定されない。
【0080】
本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の針状突起は、鍼灸治療における鍼灸針として用いることができる。治療において針状突起を押し当てる力は針状突起の剛性及び皮膚の弾力性の観点から、針状突起1本当たりに0.1gf〜5gfの範囲内の力がかかるようにするのが好適であり、0.3gf〜2.0gfの範囲内の力がさらに好適である。この範囲を下回ると皮膚が十分に穿孔されない可能性がある。また、この範囲を上回ると針状突起が穿孔中に変形し、針状突起を皮膚から引き抜く際に皮膚に損傷を与える可能性がある。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0082】
(特性の評価方法)
A.結晶化エンタルピーΔHcc及びガラス転移温度Tg
結晶化エンタルピーΔHcc及びガラス転移温度Tgは、JIS K7122(1999)に従って、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置「ロボットDSC−RDC220」を、データ解析にはディスクセッション「SSC/5200」を用いて求めた。サンプルパンに各シートを5mgずつ秤量し、昇温速度は2℃/分で走査した。結晶化エンタルピーΔHccは結晶化の発熱ピークの面積より求めた。ガラス転移温度Tgは昇温速度2℃/分で走査した時に得られるDSC曲線において、ベースラインから外れた屈曲部分で傾きが最大となる点の温度から求めた。
【0083】
B.濁度
スガ試験機(株)製、全自動直読ヘーズコンピューターHGM−2DPを用い、濁度測定を行った。
【0084】
C.形状観察
鋳型及び成型品の表面を日立ハイテクノロジーズ(株)製走査型電子顕微鏡S−4800(形式名)を用い1000及び80倍で写真を撮影した。成型品については観察前に白金を蒸着させた。
【0085】
D.皮膚穿孔試験
試験は次のような手順で行った。8週齢のヘアレスマウスの背部の皮膚を摘出し、ステージ上にしわがないように伸ばした状態で固定した。次にマイクロニードル集合体を皮膚の上にマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚側になるようにのせ、さらにその上に300gの分銅を静かに置いた。その状態で一分放置した後、分銅を取り除き、マイクロニードル集合体を皮膚から外し、皮膚の表面全体をエバンスブルー2%水溶液(シグマアルドリッチ(株))で染色した。次に皮膚表面の染色された細胞を取り除くために、粘着テープを皮膚表面に貼って剥がすという作業(テープストリッピング)を2回行った。テープストリッピングによって表面全体の染色部位を取り除いた後、点状に青く染まっている斑点数を数え、穿孔できた数とした。皮膚を穿孔できた針状突起の割合(穿孔確率)(%)を下記式にて求めた。
穿孔確率(%)=(穿孔部分の数/針状突起数)×100
また、穿孔試験後のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の形状を走査型電子顕微鏡によって観察し、穿孔によって屈曲した針状突起の本数を数え、変形しているマイクロニードルの本数の割合(変形確率)(%)を下記式にて求めた。
変形確率(%)=(屈曲した針状突起の数/針状突起数)×100
針状突起が変形している条件は、針状突起の先端から底部を結ぶ直線と、フィルムの鉛直方向がなす角度が30°以上であることとした。
【0086】
(鋳型)
実施例、比較例において用いた鋳型の形状は以下の通りである。
【0087】
図5(a)は作製した鋳型(鋳型1)の概略図であり、鋳型には合計400個の円錐台状の穴が形成されている。図5(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、入口幅t1は60μmであり、底部幅t2は10μm、凹部の平均幅taは35μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図5(c)は鋳型1を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図5(d)は金によるマスキング部分の詳細な形状を表わしている。
【0088】
図6(a)は作製した鋳型(鋳型2)の概略図であり、鋳型には合計100個の円錐台状の穴が形成されている。図6(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、入口幅t1は60μmであり、底部幅t2は10μm、凹部の平均幅taは35μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図6(c)は鋳型2を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図6(d)は金によるマスキング部分の詳細な形状を表わしている。
【0089】
図7(a)は作製した鋳型(鋳型3)の概略図であり、鋳型には合計400個の円錐台状の穴が6角形状をなすように配列して形成されている。図7(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、入口幅t1は60μmであり、底部幅t2は10μm、凹部の平均幅taは35μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図7(c)は鋳型3を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図7(d)は金によるマスキング部分の詳細な形状を表わしている。
【0090】
図8(a)は作製した鋳型(鋳型4)の概略図であり、鋳型には合計400個の三角柱状の穴が形成されている。図8(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、凹部の幅t(三角形の外接円の直径)は60μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図8(c)は鋳型4を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図8(d)は金によるマスキング部分の詳細な形状を表わしている。
【0091】
図9(a)は作製した鋳型(鋳型5)の概略図であり、鋳型には合計400個の六角柱状の穴が形成されている。図9(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、凹部の幅t(六角形の外接円の直径)は60μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図9(c)は鋳型5を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図9(d)はマスクのマスキング部分の詳細な形状を表わしている。
【0092】
図10(a)は作製した鋳型(鋳型6)の概略図であり、鋳型には合計400個の円柱状の穴が形成されている。図10(b)は鋳型の凹部を含む部分の断面図であり、凹部の深さHは100μm、凹部の幅tは60μmであった。また金型の寸法は縦2.2cm、横2.2cm、厚さ2.0mmであった。図10(c)は鋳型6を作製するのに用いたマスクの概略図であり、図10(d)は金によるマスキング部分の詳細な形状を表わしている。

(参考例)
鋳型の作製は次のように行った。露光光源には波長を0.6nm以下にしたシンクロトロン放射光を用い、露光時間は1時間、露光量は15.4アンペア・分とした。また、鋳型1〜3の作製については露光中はマスクを放射光の進行方向に対し垂直な平面内で回転移動(駆動直径25μm、回転速度 1回転/秒)させることで、円柱の側面部において露光量を連続的に変化させテーパーをつけた。マスクのメンブレンにはベリリウム、マスキング材には金を用いた。露光後はPMMAを現像した。現像液は、2−(−ブトキシエトキシ)エタノールを60体積%、テトラヒドロ−1,4−オキサジンを20体積%、アミノエタノールを5体積%、及び純水を15体積%混合したものを用いた。また現像時間は2時間とした。ニッケルによる電鋳を行った後にPMMAを溶媒で溶解させて鋳型を得た(試料1〜6)。
【0093】
次に鋳型にフッ素樹脂コートを施した。コート剤はオプツールDSX(ダイキン化学工業(株)製 固形分20%溶液)をフッ素系溶剤(ダイキン化学工業(株)製デムナムソルベント)によって固形分0.2%に希釈したものを用いた。

(実施例1)
140℃で2時間乾燥させたシクロヘキサンジメタノール25mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを押出機内で280℃で加熱溶融し、口金から25℃のキャストドラム上に押し出して冷却し厚さ200μmのフィルムを作製した(試料100)。
【0094】
このフィルムの結晶化エンタルピーΔHccを測定したところ0.0mJ/mgであった。また、加熱処理前の濁度は0.8%であり、140℃で30分間加熱したときの濁度は91.7%で、濁度変化は90.9%であった。またこのフィルムのガラス転移温度Tgを測定したところ、78.7℃であった。
【0095】
加熱・冷却機能のあるプレス機の下部プレート上に鋳型の凹凸面が上にくるように鋳型1をステージに置き、その上に一辺3cmの正方形に切り出したフィルム(試料100)を置いた。次に上下のプレートを140℃まで加熱し、温度が140℃に達した後、そのまま5分間保持した。次いで140℃を保ったまま、上部プレートを下降させ、上下のプレートにより鋳型とフィルムを5.5MPaの圧力でプレスした。4分間後、プレス圧力を維持したまま、上下のプレートを10分間かけて60℃になるまで冷却した。60℃まで冷却した後、プレスを解放し、フィルムを剥がすことなく鋳型をステージから降ろして20分間空冷した。冷却後フィルムを鋳型から離型し、マイクロニードル集合体を得た。同様の方法にてマイクロニードル集合体を計11個作製した(試料101〜111)。
【0096】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料101)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が10μm、底部幅S’2が60μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。観察時に撮影した写真を図11及び図12に示す。
【0097】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料102〜111)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は78.4%であった。
【0098】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料102〜111)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は7.1%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例2)
140℃で2時間乾燥させたスピログリコール8mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを押出機内で280℃で加熱溶融し、口金から25℃のキャストドラム上に押し出して冷却し厚さ200μmのフィルムを作製した(試料200)。
【0099】
このフィルムの結晶化エンタルピーΔHccを測定したところ0.0mJ/mgであった。また、加熱処理前の濁度は0.5%であり、140℃で30分間加熱したときの濁度は82.3%で、濁度変化は81.8%であった。またこのフィルムのガラス転移温度Tgを測定したところ、81.2℃であった。
実施例1の手順に従って、試料200及び鋳型1を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料201〜211)。
【0100】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料201)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が10μm、底部幅S’2が61μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0101】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料202〜211)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は76.1%であった。
【0102】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料202〜211)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は7.4%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料200を用いて作製した作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例3)
140℃で2時間乾燥させたイソフタル酸20mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを押出機内で280℃で加熱溶融し、口金から25℃のキャストドラム上に押し出して冷却し厚さ200μmのフィルムを作製した(試料300)。
【0103】
このフィルムの結晶化エンタルピーΔHccを測定したところ1.2mJ/mgであった。また、加熱処理前の濁度は4.1%であり、140℃で30分間加熱したときの濁度は96.3%で、濁度変化は92.2%であった。またこのフィルムのガラス転移温度Tgを測定したところ、71.3℃であった。
【0104】
実施例1の手順に従って、試料300および鋳型1を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料301〜311)。
【0105】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料301)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が10μm、底部幅S’2が60μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0106】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料302〜311)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は76.8%であった。
【0107】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料302〜311)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は10.2%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料300を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例4)
実施例1の手順に従って、試料100及び鋳型2を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料112〜122)。
【0108】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料112)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が9μm、底部幅S’2が60μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0109】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料113〜122)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は70.0%であった。
【0110】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料113〜122)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は6.7%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例5)
実施例1の手順に従って、試料100及び鋳型3を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料123〜133)。
【0111】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料123)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が10μm、底部幅S’2が60μm、高さH’が98μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0112】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料123〜133)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は79.9%であった。
【0113】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料123〜133)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は7.0%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例6)
実施例1の手順に従って、試料100及び鋳型4を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料134〜144)。
【0114】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料134)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、突起幅S’が59μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0115】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料135〜144)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は70.1%であった。
【0116】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料135〜144)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は4.6%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例7)
実施例1の手順に従って、試料100及び鋳型5を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料145〜155)。
【0117】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料144)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、突起幅S’が58μm、高さH’が100μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0118】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料145〜155)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は69.7%であった。
【0119】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料145〜155)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は1.0%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(実施例8)
実施例1の手順に従って、試料100及び鋳型6を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料156〜166)。
【0120】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料156)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、突起幅S’が59μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0121】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料157〜166)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は68.0%であった。
【0122】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料157〜166)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は2.6%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、試料100を用いて作製したマイクロニードル集合体の針状突起が皮膚穿孔に十分な剛性を有することが明らかになった。

(比較例1)
140℃で2時間乾燥させたシクロヘキサンジメタノール66mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを押出機内で280℃で加熱溶融し、口金から25℃のキャストドラム上に押し出して冷却し厚さ200μmのフィルムを作製した(試料400)。
【0123】
このフィルムの結晶化エンタルピーΔHccを測定したところ0.0mJ/mgであった。また、加熱処理前の濁度は1.2%であり、140℃で30分間加熱したときの濁度は8.8%で、濁度変化は7.6%であった。またこのフィルムのガラス転移温度Tgを測定したところ、71.9℃であった。
【0124】
実施例1の手順に従って、試料400および鋳型1を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料401〜411)。
【0125】
作製したマイクロニードル集合体の一つ(試料401)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、マイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。また、マイクロニードル集合体を構成するマイクロニードルの形状は、先端幅S’1が10μm、底部幅S’2が60μm、高さH’が99μmであり、鋳型の形状が正確に転写されていることがわかった。
【0126】
次いで、得られたマイクロニードル集合体(試料402〜411)を用いて皮膚穿孔試験を行った。その結果を表1に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均穿孔確率は15.2%であった。
【0127】
また、穿孔試験後のマイクロニードル集合体(試料402〜411)の針状突起の変形確率を求めた。その結果を表2に示す。10回の皮膚穿孔試験による、平均変形確率は73.9%であった。また観察の結果、穿孔によって破損したマイクロニードルは見つからなかった。以上より、加熱による濁度変化が30%未満であるフィルム(試料400)を用いた場合、作製したマイクロニードル集合体の針状突起の剛性が皮膚穿孔のためには十分ではない可能性があることがわかった。

(比較例2)
140℃で2時間乾燥させたシクロヘキサンジメタノール5mol%共重合ポリエチレンテレフタレートを押出機内で280℃で加熱溶融し、口金から25℃のキャストドラム上に押し出して冷却し厚さ200μmのフィルムを作製した(試料500)。
【0128】
このフィルムの結晶化エンタルピーΔHccを測定したところ29.8mJ/mgであった。また、加熱処理前の濁度は3.2%であり、140℃で30分間加熱したときの濁度は93.4%で、濁度変化は90.2%であった。またこのフィルムのガラス転移温度Tgを測定したところ、73.1℃であった。
【0129】
実施例1の手順に従って、ただしプレス圧は10MPaとして、試料500及び鋳型1を用いてマイクロニードル集合体を作製した(試料501)。
【0130】
作製したマイクロニードル集合体(試料501)について走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、高さが50μmに満たないマイクロニードル集合体が成型されていることを確認した。
【0131】
以上より、結晶化エンタルピーΔHcc10mJ/mgを越えるフィルム(試料400)は成型性が低く、針状突起をインプリント加工によって作製することが困難であることがわかった。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1(a)〜(d)は、いずれも本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の作製に用いる鋳型を示す横断面図であり、横断面における凸部11の形状を模式的に例示するものである。
【図2】図2(a)〜(e)は、いずれも本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の作製に用いる鋳型の面と平行な断面における断面図であり、凸部11の形状を模式的に例示するものである。
【図3】図3(a)〜(d)は、いずれも本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体を示す横断面図であり、横断面における針状突起32の形状を模式的に例示するものである。
【図4】図4(a)〜(e)は、いずれも本発明のマイクロニードル及びマイクロニードル集合体の面と平行な断面における断面図であり、針状突起32の形状を模式的に例示するものである。
【図5】図5(a)、(b)は実施例1,2,3及び比較例1,2において使用した鋳型(鋳型1)の概略図であり、図5(c)、(d)は鋳型(鋳型1)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図6】図6(a)、(b)は実施例4において使用した鋳型(鋳型2)の概略図であり、図6(c)、(d)は鋳型(鋳型2)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図7】図7(a)、(b)は実施例5において使用した鋳型(鋳型3)の概略図であり、図7(c)、(d)は鋳型(鋳型3)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図8】図8(a)、(b)は実施例6において使用した鋳型(鋳型4)の概略図であり、図8(c)、(d)は鋳型(鋳型4)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図9】図9(a)、(b)は実施例7において使用した鋳型(鋳型5)の概略図であり、図9(c)、(d)は鋳型(鋳型5)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図10】図10(a)、(b)は実施例8において使用した鋳型(鋳型6)の概略図であり、図10(c)、(d)は鋳型(鋳型6)を作製するために用いたマスクの概略図である。
【図11】実施例1で作製したマイクロニードル集合体(試料101)を構成する12本の走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例1で作製したマイクロニードル集合体(試料101)を構成する1本のマイクロニードルの走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0135】
11 鋳型の凸部
12 鋳型の凹部
S 鋳型凸部の幅
H 鋳型凸部の高さ
t 鋳型凹部の幅
31 マイクロニードル及びマイクロニードル集合体の凹部
32 針状突起
S’ 針状突起の幅
H’ 針状突起の高さ
t’ マイクロニードル及びマイクロニードル集合体の凹部の幅
501 円錐台形状の穴
502 金による円形のマスキング部分
601 円錐台形状の穴
602 金による円形のマスキング部分
701 円錐台形状の穴
702 金による円形のマスキング部分
801 三角柱状の穴
802 金による正三角形状のマスキング部分
901 六角柱状の穴
902 金による正六角形状のマスキング部分
1001 円柱状の穴
1002 金による円形のマスキング部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムによって成型されるマイクロニードルであって、該フィルムが、示差走査熱量測定により得られる昇温速度2℃/分における結晶化エンタルピーΔHccが0〜10mJ/mgであり、かつ厚さ200μmのフィルムをガラス転移温度Tg+70℃で30分間加熱したときの濁度変化が30%〜99%であることを特徴とするマイクロニードル。
【請求項2】
フィルムがポリエステル系樹脂を主たる成分とすることを特徴とする請求項1記載のマイクロニードル。
【請求項3】
高さが10μm〜1000μm、突起幅が1μm〜300μmの多角柱形状であることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードル。
【請求項4】
高さが10μm〜1000μm、突起幅が1μm〜300μmの円柱形状であることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードル。
【請求項5】
高さが10μm〜1000μm、底部幅が1μm〜300μm、先端幅が1μm〜100μmの多角錐台形状であることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードル。
【請求項6】
高さが10μm〜1000μm、底部幅が1μm〜300μm、先端幅が1μm〜100μmの円錐台形状であることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロニードルを含むマイクロニードル集合体。
【請求項8】
マイクロニードル密度が1平方センチメートル当たり1本〜1000本であることを特徴とする請求項7記載のマイクロニードル集合体。
【請求項9】
インプリント加工を用いて成型する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロニードルまたは請求項7または8に記載のマイクロニードル集合体の製造方法。
【請求項10】
インプリント加工を用いて成型するための鋳型が、波長0.6nm以下のシンクロトロン放射光を露光光源として使用するLIGA法によって作製されていることを特徴とする請求項9記載のマイクロニードルまたはマイクロニードル集合体の製造方法。
【請求項11】
インプリント加工時のフィルムの温度(プレス温度)がガラス転移温度Tg+30℃〜Tg+80℃であることを特徴とする請求項9または10に記載のマイクロニードルまたはマイクロニードル集合体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−130030(P2007−130030A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323033(P2005−323033)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】