説明

マイクロパーティクル

治療上有効量のトレチノインおよびエチルセルロースを含んでなる実質的に多孔性のマイクロパーティクル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレチノインのマイクロパーティクルに関する。
【背景技術】
【0002】
(オール−E)−3,7−ジメチル−9−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキサン−1−イル)−2−4,6,8−ノナテトラエン酸としても知られるトレチノイン(化学名称:オールトランスレチノイン酸)は、尋常性座瘡治療の薬物として最も一般的に用いられている。米国では、局所投与用としてクリーム、ジェルおよび溶液の形態で商業的に入手可能である。これら組成物の多くは、活性成分が急速に放出されるため繰り返し適用する必要がある。この反復適用の必要の問題を解決するため、徐放性組成物が開発されている。そのような組成物の1つに、米国で承認された、トレチノインの制御されたデリバリーのためのレチン−A−マイクロ(登録商標)局所ジェルがある。
【0003】
商品名レチン−A−マイクロ(登録商標)(トレチノインジェル)は、0.1重量%または0.04重量%含有のマイクロスフェア製剤である。この製剤は、内部に活性成分を保持したポア(pores)のネットワークを有するポリマービーズからなるジェルベースのビークルであり、活性成分の放出時間がコントロールされている。このようなポリマービーズは、表面に適用できるジェル、クリーム、ローション、軟膏、液体等の媒体に入れられている。活性成分はその後、圧力、拡散または揮発によって放出される。この送達ビークルは、マイクロカプセル化されたまたはジェルの送達ビークルと比較して機械的安定性が向上している。ビーズのポアネットワークは、浸透圧のショックを受けず、製造時の取り扱いが容易である。いくつかのこのようなポリマービーズが従来技術として記載されている(例えば、米国特許第5,145,675号;同第4,690,825号および同第5,955,109号(「109特許」)。
【0004】
米国特許第5,955,109号は、以下を含んでなる、レチノイン酸を皮膚に送達するための局所用組成物を開示する:
(a)反応性の官能基を含まず、架橋密度が20%〜80%である、モノエチレン性不飽和のモノマーおよびポリエチレン性不飽和のモノマーの架橋したコポリマーからなる固体粒子であって、該粒子が該粒子の外部に開口したポアの連続した折り畳みのネットワークを含み、形状が球形であって、平均粒径が1ミクロン〜約100ミクロンであり、ポアの全容量が約0.001cc/g〜約40cc/gであり、表面積が約1m2/g〜約500m2/gであり、平均孔径が約0.001ミクロン〜約3.0ミクロンである、固体粒子、および
(b)皮膚修復の促進に有効な量の、該ポア内部に保持されたトレチノイン酸を含んでなる含浸剤であって、該ポア内部の該レチノイン酸の保持が、フリーのレチノイン酸の同量の適用と比較して、皮膚修復促進活性を損失することなく組成物の刺激性を減少させる、含浸剤。
米国特許‘109に従って形成したポアは、相互に連結し粒子表面へ開いており、特定の条件下で保持されているレチノイン酸の外部への完全な拡散を可能にする。‘109特許は放出を徐放化するための有効な手段を開示しているけれども、マイクロパーティクルの製造プロセスは2段階で非常に煩雑である。‘109に開示の製造法は、モノマーのポリマー化とポアを形成するためのポロゲンの使用という別々のプロセスを必要とする。レチノイド含浸剤は予め乾燥した多孔質ポリマービーズのポア内部に存在させることができる。さらに、ポリマー形成における架橋は、ポアサイズ制御の主な手段である。該特許はスチレンおよびジビニルベンゼン、ステアリン酸ビニルおよびジビニルベンゼン、4−ビニルピリジンおよびジメタクリル酸エチレングリコール(これらはすべて合成ポリマーである)のコポリマー化の使用を教示する。そのようなポリマーは、自然界に存在するポリマー(例えばエチルセルロースのような半合成ポリマー)と比較して特に精選されたものというわけではない。合成ポリマーではなく、天然に存在するまたは化学的に修飾された天然のポリマー、例えばエチルセルロースのようなセルロース誘導体、を利用することは望ましい。
【0005】
PCT公開番号WO2006/133131(以下、「PCT公報‘131」とする)において、エチルセルロースの使用が検討されている。この出願は、疎水性ポリマーと可塑剤、およびその中に含有される生物的に活性なまたは不活性な試薬を含んでなる、実質的に無孔性のポリマーマイクロパーティクルの使用を開示する。PCT公報‘131は、マイクロパーティクルのためのポリマーとしてのエチルセルロースの使用を開示するけれども、このマイクロパーティクルは実質的に無孔性であって粒子の孔径は数ナノメーター〜約1ミクロンの大きさであり、全孔容積は約0.000552cm3/gである。この‘131公報は、懸濁剤として約0.5%のポリビニルアルコールを開示する。本発明者により、このように高い量のポリビニルアルコールが、泡立ち、フィルターの目詰まり等の製法上のいくつかの問題につながることが見出された。また、‘131公報に開示されているような懸濁剤のより高い量での使用は、マイクロパーティクルの全製造プロセスの過度の遅れにつながる。さらに、‘131公報は、平均孔径約1ミクロン以下であるマイクロパーティクルの製造において可塑剤の使用を開示している。
【0006】
米国特許第5,725,869号のクレームには、以下を含んでなる、直径約3〜約300ミクロンの、スポンジに似た、でこぼこした多孔性の表面と多孔性の内部構造によって特徴付けられる多孔性スポンジ状マイクロスフェアの製造法が記載されている:
(a)ポリマーおよびフタル酸エステル、リン酸エステル、クエン酸塩、セバシン酸エステル、グリセリン、トリアセチンおよびアセチル化されたモノグリセリドからなる群から選択される可塑剤の溶液を含んでなる有機相を調製し;
(b)1以上の乳化剤の水溶液を含んでなる水相を調製し;
(c)該有機相と水相を乳化条件下で混合して、水相中の有機相のエマルジョンを形成し;および
(d)溶媒を蒸発させて、該スポンジに似た、でこぼこした多孔性の表面と多孔性の内部構造を有する多孔性スポンジ状マイクロスフェアを形成する。
この特許は、マイクロパーティクルの製造中の可塑剤の使用を教示している。しかしながら、本発明者らは、可塑剤を使用したマイクロパーティクルの製造中に分散相に存在する水が高濃度であり、洗浄する間に可塑剤がマイクロパーティクルから流れ出るために、完成したマイクロパーティクルに可塑剤が保持される可能性が多少存在することを観察している。可塑剤を高い量で使用すると、完成したマイクロパーティクルは互いに接着して凝集し収量が低くなる。本発明者は、可塑剤を使用せずに製造した場合、実質的に多孔性のマイクロパーティクルを90%に達する良好な収率で得られることを見出した。
【0007】
天然に存在するポリマーを用いることにより環境にやさしいマイクロパーティクルを製造することを目的として、本発明者らは、トレチノインをエチルセルロースの使用によって形成したマイクロパーティクルに取り込ませて、該マイクロパーティクルがトレチノインを徐放的に放出させることができることを見出した。このような粒子を、例えばジェルなどの慣用のビークルに取り込ませたときに、その製剤はまた、皮膚に対する刺激がなく、商業的に入手可能なマイクロパーティクル調製物(即ち、レチンAマイクロ(登録商標))による座瘡等の皮膚疾患を治療するのに有効であるという観点から適したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的
本発明の目的は、天然のまたは半合成由来のポリマーを含んでなるマイクロパーティクルを提供することである。
本発明のさらなる目的は、局所適用した場合に、トレチノイン酸の所望の持続性のまたは制御された放出を可能にするような孔サイズを有する実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供することである。
本発明の目的は、所要時間が非常に短く、約5〜10kgのバッチサイズまでスケールアップすることが可能な、実質的に多孔性のマイクロパーティクルを製造する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、トレチノインを含有する、実質的に多孔性の、球形のマイクロパーティクルを再生可能な方法で製造するために使用することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明は、トレチノインおよびエチルセルロースの治療上有効量を含んでなる実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供する。
本発明は、好ましくは、実質的に多孔性のマイクロパーティクルであって、該マイクロパーティクルが可塑剤を含まないマイクロパーティクルを提供する。
本発明はさらに、実質的に多孔性のマイクロパーティクルであって、該マイクロパーティクルの平均孔径が、約2ミクロン〜20ミクロンの範囲である、マイクロパーティクルを提供する。
本発明はまた、実質的に多孔性のマイクロパーティクルであって、エチルセルロースとトレチノインの比が約99.0:1.0〜約50:50の範囲である、マイクロパーティクルを提供する。
本発明はさらに、実質的に多孔性のマイクロパーティクルであって、トレチノイン量が約1重量%である、マイクロパーティクルを提供する。
本発明は、実質的に多孔性のマイクロパーティクルであって、ジクロロメタン等の揮発性溶媒の使用によってポアが形成される、マイクロパーティクルを提供する。
本発明の別の態様では、本発明はさらに、以下のステップを含んでなる実質的に多孔性のマイクロパーティクルの製造法を提供する。
i)トレチノイン およびエチルセルロースをジクロロメタン等の有機溶媒に溶解する
ii)懸濁剤を含んでなる水相を調製する
iii)ステップi)の溶液をステップii)の溶液に、攪拌しながら、またはホモジナイザーを用いて加える
iv)場合より減圧下で、所望の間隙率のマイクロパーティクルの形成に適当なスピードにてエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を留去する。
さらに、本発明は可塑剤の使用を必要としない製造法を提供する。
【0010】
本発明は以下のように要約することができる:
A.治療上有効量のトレチノインおよびエチルセルロースを含有してなる実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
B.エチルセルロースとトレチノインの比率が約99.0:1.0〜約50:50の範囲である、Aに記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
C.トレチノイン量が約1重量%である、Aに記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
D.孔が、ジクロロメタン等の揮発性溶媒の使用によってin situで形成する、Aに記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
E.以下のステップ:
i)トレチノイン およびエチルセルロースをジクロロメタン等の有機溶媒に溶解すること;
ii)懸濁剤を含んでなる水相を調製すること;
iii)ステップi)の溶液をステップii)の溶液に、攪拌しながら、またはホモジナイザーを用いて加えること;
iv)場合より減圧下で、所望の間隙率のマイクロパーティクルの形成に適当なスピードにてエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を留去すること
を含んでなる実質的に多孔性のマイクロパーティクルの製造法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は実施例1に従って製造したマイクロパーティクルの走査電子顕微鏡像である。
【図2】図2は実施例2に従って製造したマイクロパーティクルの走査電子顕微鏡像である。
【図3】図3は実施例3に従って製造したマイクロパーティクルの走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な記載
本発明は、治療上有効量のトレチノインおよびエチルセルロースを含有してなる実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供する。
【0013】
トレチノインは、レチノイン酸のすべてのトランス型に用いられる用語であるが、9,10−シス型および13−シス型等、このクラス内の他の酸も包含する。
【0014】
「マイクロパーティクル」なる語は、「マイクロスフェア」なる語を包含し、本発明では同じ意味で用いられる。
【0015】
本発明での一実施形態によれば、マイクロパーティクルは、トレチノインまたはその製薬的に許容し得る塩を含有する。マイクロパーティクルに存在するトレチノインの量は、約0.01%w/w〜約10.0%w/w、好ましくは、約0.05%w/w〜約5%w/w、より好ましくは約0.1%w/w〜約2%w/wの範囲である。
【0016】
本発明は、実質的に多孔性の性質のマイクロパーティクルを提供する。本発明の一実施形態では、「実質的に多孔性の」マイクロパーティクルは、平均孔径が2ミクロン以上、好ましくは5ミクロン以上、そして最も好ましくは約12ミクロン〜約20ミクロンである。孔径と全空隙率は水銀膨張計により測定するが、他のいずれかの適当な方法を用いてもよい。
【0017】
本発明によれば、マイクロパーティクルの平均粒子サイズは、約15ミクロン〜約80ミクロン、好ましくは25ミクロン〜約75ミクロンの範囲である。本明細書において用いられる「平均粒子サイズ」なる語は平均の粒子サイズを意味する。マイクロパーティクルのサイズは、Malvern粒径分析、篩過、光散乱光学顕微鏡法、画像解析、沈降法および当業者に知られている他の方法等、粒子サイズの測定および表現の慣用的方法を用いて測定することができる。粒子サイズ分布の情報は、Malvern粒度分布測定から作成することができるようなD10、D50およびD90等の値から得ることができる。本明細書において用いられるD90は、そのサイズよりも小さい粒子が粒子の90%体積を占めるようなサイズとして定義され、本明細書において用いられるD50は、そのサイズよりも小さい粒子が粒子の50%体積を占めるようなサイズとして定義される。本明細書において用いられるD10は、そのサイズよりも小さい粒子が粒子の10%体積を占めるようなサイズとして定義される。マイクロパーティクルのD90は約30ミクロン〜約70ミクロンの範囲である。一実施形態では、本発明のマイクロパーティクルの粒子サイズは、D50<23.353およびD90<53.798であり、比表面積は約0.425m2/gmである。
【0018】
本発明のマイクロパーティクルは、球形、縦長状、および楕円形等を含む任意の形状のものであってよい。本発明の一実施形態では、マイクロパーティクルは実質的に球形のものである。図1〜図3は、本発明の種々の実施形態に従って調製したマイクロパーティクルのSEM(走査電子顕微鏡)像を示す。SEM像は球形および実質的に多孔性のマイクロパーティクルを示す。一実施形態では、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者は、その粒子が、実質的に均一な多孔性の球形であることに起因して、適当なビークル中に取り込まれたマイクロパーティクルからの薬物の放出がより均一になると考えている。さらにそのような組成物からの薬物の放出は、マイクロパーティクルのサイズとその表面積を変更することによりコントロールすることができる。比表面積は、任意の適当な方法、例えば、Malvern 光散乱粒子サイズ測定、BET等により測定することができる。
【0019】
本発明は、治療上有効量のトレチノインおよびエチルセルロースを含有してなる、実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供する。好ましくは、本発明は、マイクロパーティクルが可塑剤を含まない、実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供する。一般に、本発明のマイクロパーティクルの平均孔径は約2ミクロン〜20ミクロンである。本発明は、孔がジクロロメタン等の揮発性溶媒の使用によって in situ で形成する、実質的に多孔性のマイクロパーティクルを提供する。
【0020】
本発明によれば、エチルセルロースをマイクロパーティクルのためのポリマーとして使用する。エチルセルロースはセルロースのポリマー骨格を有し、天然に存在するポリマーである。この分子は無水グルコース単位の繰り返し構造を有する。エチルセルロースは数多くの粘度のものが製造され市販されている。エチルセルロースで最も一般的に用いられているグレードのものとして、ダウ・ケミカル社(米国)がETHOCEL(登録商標)の販売名で販売しているものがある。ETHOCELポリマーは、最も有用なエトキシ含量の範囲をカバーする2種類のタイプ(スタンダードおよびメディアム)が製造されている。「スタンダード」ポリマーは、48.0〜49.5%のエトキシ含量であり;「メディアム」ポリマーは45.0〜47.0%のエトキシル含量である。スタンダードおよびメディアムエトキシタイプは制御された適用に有用な特級グレードや工業グレードのものが入手可能である。特級グレードは製薬上の要求を満たすように設計されている。本発明のマイクロパーティクルに使用することができるエチルセルロースのグレードの例としては、約4cps〜約350cpsの粘度を有するエチルセルロースが挙げられる。好ましくは、約4cps〜約100cpsの範囲の粘度を有するエチルセルロースを用いる。最も好ましくは、使用することができるグレードとして、ETHOCEL Std.4 PREMIUM、ETHOCEL Std.7 PREMIUM、ETHOCEL Std.10 PREMIUM、ETHOCEL Std.14 PREMIUM、ETHOCEL Std.20 PREMIUM、ETHOCEL Std.45、ETHOCEL Std. 100、ETHOCEL Std.200およびETHOCEL Std. 300が挙げられるがこれに限定されない。エチルセルロースポリマーは、単独で、または送達ビークルによって取り込まれたときにマイクロパーティクルからのトレチノインの放出を効果的に制御するため2種類以上のグレードを組み合わせて、使用することができる。好ましくは、本発明のマイクロパーティクルにおけるエチルセルロースは、約30%w/w〜約99%w/w、より好ましくは約50%w/w〜約98%w/w、最も好ましくは約70%w/w〜約97%w/wの範囲で用いる。
【0021】
本発明のマイクロパーティクルにおけるエチルセルロースとトレチノインの比を変更してトレチノインの制御された放出が達成させることができる。本発明の一実施形態では、エチルセルロースとトレチノインの比を約50:1から約99:1、好ましくは約75:1から約95:1の間で変更する。
【0022】
本発明のマイクロパーティクルはさらに、当分野で公知の酸化防止剤、保存料等の適当な添加剤を含有することができる。好ましくは、ブチル化されたヒドロキシルトルエンを酸化防止剤として用い、マイクロパーティクルの約0.01%w/wから約5%w/wの量で存在する。
【0023】
本発明の一実施形態では、マイクロパーティクルは、トレチノイン、エチルセルロースおよびブチル化ヒドロキシルトルエンを含んでなる。より好ましくは、マイクロパーティクルは、マイクロパーティクルの重量パーセントで、約0.1%〜約2%のトレチノイン、約50%〜約98%のエチルセルロースおよび約0.01%〜約5%のブチル化ヒドロキシルトルエンを含んでなる。
【0024】
本発明者によって、マイクロパーティクルの製造中に可塑剤を用いれば、分散相に存在する水の濃度が高く、洗浄中に可塑剤がマイクロパーティクルから流れ出るので、完成したマイクロパーティクルの中に可塑剤が保持される可能性が多少存在することが観察されている。可塑剤の使用量が多いほど、完成するマイクロパーティクルが互いに粘着して凝集し収率が低下する。本発明者らは、可塑剤を使用せずにマイクロパーティクルを製造した場合に、実質的に多孔性のマイクロパーティクルが90%に至る良好な収率で得られ、製造プロセスが工業的に実現可能である、即ちマイクロパーティクルが時間とエネルギーの最適な利用により約5〜10kgのバッチサイズで製造可能である、ことを見出した。
【0025】
本発明によれば、トレチノインの新規のマイクロパーティクルは、送達ビークル中に入れることができる。局所投与のためにトレチノインのマイクロパーティクルを分散させるのに使用することができる送達ビークルは、生体適合性であり適用部位に対して炎症を起こさないものである。送達ビークルは、分散したマイクロパーティクルと混合せず伸展性に優れたものである。ビークルはジェル、軟膏、クリーム、ペースト等の形態であってよい。送達ビークル中のマイクロパーティクルの量は、全ビークル組成物の約1%w/w〜約20%w/w、より好ましくは約5.0%w/w〜約15.0%w/wであってよい。
【0026】
マイクロパーティクルからのトレチノインの所望のコントロールされた放出を達成する意味においても、また局所用ビークルに入れて皮膚に適用したときの分散性、付着性および感覚の観点からも、マイクロパーティクルの粒子サイズは重要であることは留意すべきである。本発明の一実施形態では、本発明者は、マイクロパーティクルのD90が約30ミクロン〜約70ミクロンの範囲の、本発明に従って製造したマイクロパーティクルは、トレチノイン放出のコントロールの達成とは別に、外見および局所適用後の感覚などの化粧品効果の観点から満足のいく結果を示したことを見出した。
【0027】
本発明のマイクロパーティクルを入れることができる送達ビークルの例としては、カーボポール等のアクリル酸系ポリマー、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、キトサン、ポビドン、ポリエチレンオキシド、ポロクサマー、ベントナイト、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の単独またはその組み合わせが挙げられるがこれに限定されない。本発明の組成物において用いることができる好ましいゲル化剤としては、カルボマー等のアクリル酸系ポリマーが挙げられる。カルボマーは一般にカーボポールと呼ばれている。カルボマーは、ペンタエリトリトールのアリルスクロースまたはアリルエーテルのいずれかで架橋されたアクリル酸の合成高分子ポリマーである。乾燥体で計算して56〜68%のカルボン酸(−COOH)基を含む。送達ビークル用に様々なグレードで商業的に入手可能であるカーボポールとしては、カルボマー910、カルボマー934、カルボマー934P、カルボマー940、カルボマー941、カルボマー974P、カルボマー971P、カルボマー981、カルボマー1342およびそれらの混合物が挙げられるがこれに限定されない。好ましくは、デリバリービークルを用いることができるカルボマーの量は、本発明のマイクロパーティクルを含んでなる送達ビークルの全重量の約0.01%w/w〜約10%w/w、より好ましくは約0.1%w/w〜約8%w/w、最も好ましくは0.5%w/w〜約5%w/wの範囲である。一実施形態では、発明者は意外にも、マイクロパーティクルをアクリル酸ベースのジェルに入れた場合に、トレチノインの放出がpH依存性であることを見出した。
【0028】
送達ビークルには界面活性剤を添加してもよい。本発明の送達ビークルの組成物において使用することができる適当な界面活性剤としては、ジステアリン酸PPG−20メチルグルコースおよびシクロメチコンおよびジメチコンコポリオールが挙げられる。ジステアリン酸PPG−20メチルグルコースは、送達ビークル中で使用した場合に保湿剤または皮膚潤滑剤として作用し、送達ビークルの重量の約0.1%w/w〜約10.0%w/w、より好ましくは約1.0%w/w〜約7.0%w/wの範囲で存在する。本発明の一実施形態では、送達ビークルは、乳化剤としてシクロメチコンおよびジメチコンコポリオールを約0.1%w/w〜約10.0%w/w、好ましくは約1.0%w/w〜約6.0%w/wの範囲で含有する。
【0029】
送達ビークルはさらに、保存剤、酸化防止剤、乳白剤、乳化剤、柔軟剤、保湿剤、透過促進剤、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤、安定化剤、親水性の液体およびその他局所適用に適当な組成物の製造について当分野で知られている適当な製薬的に許容し得る添加剤等の適当な添加剤を含有してもよい。
【0030】
保存剤は所望により送達ビークル入れることができ、そのような保存剤の例としては、パラ−ヒドロキシ安息香酸のアルキルエステル(メチルパラベンおよびプロピルパラベン等)、ベンゾエート、ヒダントイン誘導体、プロピオン酸塩、ソルビン酸、ベンジルアルコール、イミダゾリジニル尿素、デヒドロ酢酸ナトリウムおよび様々な4級アンモニウム化合物が挙げられるがこれに限定されない。好ましくは、保存剤は、マイクロパーティクルの約0.01%w/w〜約2%w/wの範囲の量で使用することができる。
【0031】
本発明のマイクロパーティクルを含有してなる送達ビークルに使用することができる酸化防止剤は、非反応性で局所適用に安全なものである。適当な酸化防止剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸(ビタミンC)、没食子酸プロピルおよびアルファ−トコフェロール(ビタミンE)が挙げられるが、他の酸化防止剤も使用できる。好ましくはブチル化ヒドロキシトルエンを酸化防止剤として用い、送達ビークル組成物の約0.01%w/w〜約5%w/wの範囲の量で用いる。
【0032】
送達ビークルに使用することができる親水性液としては、水、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールおよび他の高級アルコールや種々の比率のそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
所望により架橋機能を有することができる、pH調整剤(一般に中和剤)、例えば第3級アミン(トリエタノールアミンまたはトロールアミン、トロメタミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン等);NaOH溶液等を送達ビークルに添加することができる。好ましいpH調整剤は、トロールアミンであり、約0.05%w/w〜約2.0%w/wの範囲の量で送達ビークルに存在する。送達ビークルのpHは、約4.0〜約6.0の範囲のpHに調整することができる。
【0034】
一実施形態では、送達ビークルは、同じまたは異なる量のトレチノインを有するマイクロパーティクルを含有させて、適用部位に対する治療上有効量のトレチノインの放出を調整するようにする。
【0035】
本発明の別の実施形態では、本発明はさらに、以下のステップ:
i)トレチノインおよびエチルセルロースをジクロロメタン等の有機溶媒に溶解すること;
ii)懸濁剤を含んでなる水相を調製すること;
iii)ステップi)の溶液をステップii)の溶液に、攪拌しながら、またはホモジナイザーを用いて加えること;
iv)場合より減圧下で、所望の間隙率のマイクロパーティクルの形成に適当なスピードにてエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を留去すること
を含んでなる、実質的に多孔性のマイクロパーティクルの製造方法を提供する。
さらに、本発明は可塑剤の使用を必要としない製造法を提供する。
【0036】
さらに、本発明は、以下のステップ:
i)トレチノイン およびエチルセルロースを有機溶媒に溶解すること;
ii)懸濁剤を含んでなる水相を調製すること;
iii)ステップi)の溶液をステップii)の溶液に、攪拌しながら、またはホモジナイザーを用いて加えること;
iv)場合より減圧下で、所望の間隙率のマイクロパーティクルの形成に適当なスピードにてエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を留去すること
を含んでなる、実質的に多孔性のマイクロパーティクルの製造方法に関する。
本発明のマイクロパーティクルは、当分野で知られている任意の技術によって製造することができる。最も一般的に用いられている技術としては、溶媒留去、コアセルベーション相分離、スプレー乾燥、スプレー凝固、超臨界流体抽出等が挙げられる。
【0037】
マイクロパーティクルの製造プロセス中に、様々な懸濁剤を溶液、懸濁液またはエマルジョンに添加することができる。懸濁剤として使用することができる、カチオン性、アニオン性および非イオン性の化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられるがこれに限定されない。このような化合物の濃度は、エマルジョンを安定化するのに十分な濃度である。ポリビニルアルコールは、マイクロパーティクルの約0.005%w/w〜約5.00%w/w、好ましくは約0.05%w/w〜約1.50%w/w、より好ましくは約0.01%w/w〜約0.5%w/wの範囲の量で存在し得る。
【0038】
本発明のマイクロパーティクルの製造に使用することができる有機溶媒の例としては、塩化メチレン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等およびそれらの混合物が挙げられるがこれに限定されない。使用することができるエチルセルロースと溶媒の比率は約1:3〜約1:30、好ましくは約1:7〜約1:20、より好ましくは約1:5〜約1:10である。
【0039】
好ましい一実施形態では、マイクロパーティクルの製造に溶媒留去法を用いる。この実施形態では、懸濁剤を水溶液に溶解する。トレチノインおよびエチルセルロースをジクロロメタン等の有機溶媒に溶解する。トレチノインを含有する有機相を、約200rpm〜2500rpm、好ましくは300rpm〜2000rpm、より好ましくは350rpm〜1500rpmの範囲の速度で攪拌を続けながら水相に加える。減圧下または非減圧下でエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を蒸発させる。このエマルジョンの攪拌スピードは、約10rpm〜1000rpm、好ましくは約50rpm〜750rpmおよび最も好ましくは90rpm〜500rpmである。
【0040】
本発明者は、意外にも、有機溶媒の蒸発速度がマイクロパーティクルの間隙率に影響を及ぼすことを見出した。一実施形態において、1時間あたりの蒸発速度が、有機溶媒(例えば、ジクロロメタン)全量の7.5%〜45%であるとき、形成した粒子は実質的に事実上多孔性であることを見出した。一般に、ジクロロメタン等の揮発性溶媒の蒸発速度は、ポリビニルアルコール等の懸濁剤の濃度によって影響を受ける。懸濁剤の濃度が高いほど粘度は高くなり、したがって、揮発性溶媒の蒸発速度は低くなり、間隙率の低いマイクロパーティクルの形成につながる。本発明のマイクロパーティクルの多孔性の性質は、非多孔質のマイクロパーティクルに比べて大きな表面積を可能にすることであることに注意すべきである。したがって、非多孔質のマイクロパーティクルのそれと比較して、薬物の高い量が作用部位での治療効果を発揮するのに利用可能であるので、必要とする薬物添加量が少なくて済む。粒子の多孔性の性質は、粒子のコアマトリックスからの薬物放出のコントロールにおいて役立つ。
【0041】
乳化プロセスによるマイクロパーティクルの調製は、静的ミキサー、ブレンダー、マグネティック・バー攪拌、オーバー・ヘッド・スターラー、ホモジナイザー等が挙げられるがこれに限定されない当業者に知られた慣用の装置で実施される。製薬分野で慣用の他の装置もまた利用可能である。
【0042】
このようにして形成したマイクロパーティクルは、標準的なメッシュシーブを用い、または遠心分離したのち、水性のまたは他の適当な媒質で洗浄し、空気乾燥することにより単離することができる。単離したマイクロパーティクルは、室温にて吸引乾燥するか、または凍結乾燥(フリーズドライイング)により乾燥することができる。製薬分野で慣用の他の濃縮および乾燥方法もまた使用することができる。
【0043】
本発明のマイクロパーティクルの実質的に多孔性の性質は、本明細書に示すとおり、走査電子顕微鏡写真により画像化することができる。また、マイクロパーティクルは、マイクロパーティクル単独でのトレチノインの放出をチェックするためにin vitro溶解試験に付した。マイクロパーティクルは単独でトレチノインの放出を示すことが観察された。
出願人は、いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、本発明のマイクロパーティクルの実質的な多孔性の性質によると考えており、さもなければトレチノインは水に不溶であるのでトレチノインは放出される。マイクロパーティクル単独での in vitro 放出について、以下の実施例5に記載する。一般的には、フランツ拡散セルを用いたが、マイクロパーティクルのインビトロ放出プロファイルを測定する他の任意の適当な方法も使用することができる。
【0044】
本発明の水性ジェル基剤中のトレチノインマイクロスフェアジェルの生物学的同等性を現在FDAで承認されている製剤(レチンAマイクロ(登録商標))と比較し、SDラットモデルを使用した。即ち、局所的トレチノインは、Pアクネによる炎症耳の厚さを用量依存的に減少する。この実験では、ジェル製剤およびレチンAマイクロ(登録商標)中の等価濃度のトレチノイン(0.1%w/w)を、15〜19日目まで動物の耳に適用した。別の日に炎症耳の厚さを測定し、1日目と比較した炎症の減少を測定してPアクネによる炎症耳に対するトレチノインの効果を評価した。実施例7に記載するように、得られた炎症の減少は、製剤またはレチンAマイクロ(登録商標)製剤のいずれかにおいてもトレチノインによる炎症におけるその等価な活性を示す。
【0045】
in vitro 拡散セルの受容媒体は、普通であれば拡散試験が24時間ではなく僅か数時間に制限されるような高い量の揮発性溶媒を含んでなる。しかし、インビボ効果の試験では、マイクロパーティクルがトレチノインを1日1回だけの適用で済むよう放出することがわかった。このことは、販売名レチンAマイクロ(登録商標)で入手可能なFDAで承認された市販の局所用ジェルでの生物学的等価性、以下の実施例7に記載した生物学的等価性の結果から明かである。
【0046】
当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、数多くの修飾が行うことが可能であることは理解できよう。したがって、以下の実施例は、単に説明のためのものであり、本発明の範囲の限定であると解釈されないことは明らかに理解される。
【0047】
実施例1
【表1】

特定量のトレチノインをジクロロメタンに溶解した。ブチル化ヒドロキシルトルエンをこの薬物溶液に加えた。エチルセルロースを上記溶液に加え、完全に溶解するまで振盪した。別の容器に、ポリビニルアルコールを特定量の精製水に加えた。薬物溶液を、ポリビニルアルコールを含有するこの水溶液に200mL/分のデリバリー速度で加え、480rpmにてホモジナイズした。この混合物を480rpm、−100Mm Hgの減圧下、37℃にて8時間攪拌した。攪拌を終了した後、得られたスラリーを2〜20μmのガラスファイバー製濾紙で濾過し、減圧乾燥した。この粒子サイズおよびマイクロパーティクルの具体的な表面積をMalvern Mastersizer 2000を用いて決定した。マイクロパーティクルはD10<8.426μm、D50<23.353μmおよびD90<53.798μmの粒子サイズ分布を有する。水銀膨張系を用いて測定したパーティクルの全空隙率は35.55%であった。平均孔径は12.601μmであった。非表面積は0.425m2/gであった。実施例1に従って製造したマイクロパーティクルの多孔性の性状を図1(倍率3588倍の走査電子顕微鏡下の1個のパーティクルの画像を示す)に示す。
【0048】
実施例2
【表2】

特定量のトレチノインをジクロロメタンに溶解した。ブチル化ヒドロキシルトルエンをこの薬物溶液に加えた。エチルセルロースをこの薬物溶液に添加し、完全に溶解するまで振盪した。別の容器に、ポリビニルアルコールを特定量の精製水に溶解した。この薬物溶液を、ポリビニルアルコールを含有するこの水溶液に、200ml/分の送達速度にて加え、1000rpmでホモジナイズした。この混合物を、−100Mm Hgの減圧下、37℃にて、1000rpmで8時間攪拌した。攪拌が終了したら、得られたスラリーを2〜20μmのグラスファイバー濾紙で濾過し、真空乾燥した。
マイクロパーティクルの大きさをMalvern Mastersizer 2000で測定した。マイクロパーティクルの粒度分布は、D10<4.133μm、D50<15.028μmおよびD90<30.043μmであった。パーティクルの全空隙率を水銀膨張計で測定した結果52.12%であった。平均孔径は3.53μmであった。比表面積は0.724m2/gであった。実施例2に従って製造したマイクロパーティクルの多孔性の性状を図2(倍率3947倍の走査電子顕微鏡下の1個のパーティクルの画像を示す)に示す。
【0049】
実施例3
【表3】

特定量のトレチノインをジクロロメタンに溶解した。ブチル化ヒドロキシルトルエンをこの薬物溶液に加えた。エチルセルロースをこの薬物溶液に添加し、完全に溶解するまで振盪した。別の容器に、ポリビニルアルコールを特定量の精製水に溶解した。この薬物溶液を、ポリビニルアルコールを含有するこの水溶液に、300ml/分の送達速度にて加え、480rpmでホモジナイズした。この混合物を、−100Mm Hgの減圧下、37℃にて、480rpmで8時間攪拌した。攪拌が終了したら、得られたスラリーを2〜20μmのグラスファイバー濾紙で濾過し、真空乾燥した。
マイクロパーティクルの粒子サイズおよび比表面積をMalvern Mastersizer 2000を用いて測定した。マイクロパーティクルの粒度分布は、D10<9.919μm、D50<34.35μmおよびD90<76.351μmであった。比表面積は0.334m2/gであった。実施例3に従って製造したマイクロパーティクルの多孔性の性状を図3(倍率3146倍の走査電子顕微鏡下の1個のパーティクルの写真画像を示す)に示す。水銀膨張計によって測定したパーティクルの全空隙率は43.9366%であった。平均孔径は15.965μmであった。
【0050】
実施例4
【表4】

EDTA二ナトリウムおよびソルビン酸を精製水(予め60±5℃に加熱した)に溶解した。溶液を室温に冷却した。トレチノインマイクロスフェアをステップ2の混合物に分散し、2時間攪拌した。カーボポール974Pを、攪拌しながらステップ3の混合物に分散し均一の分散液を得た。グリセリンをステップ4の混合物に加えた。ブチル化ヒドロキシトルエンをプロピレングリコール(予め60±5℃に加熱した)に攪拌しながら溶解した。ジステアリン酸PPG−20メチルグルコースエーテルをステップ6の混合物に加えた。ステップ7の混合物をステップ5の分散液に攪拌しながら加えた。シクロメチコンおよびジメチコンコポリオールをステップ8の混合物に加えた。トロメタミンをステップ9の混合物に加えて中和した。最終重量を精製水で調整した。最終混合物のpHは5.5であった。
トレチノインマイクロスフェア1%w/wおよびトレチノインマイクロスフェアジェル0.1%w/wの両方について安定性を試験した。マイクロパーティクルおよびマイクロパーティクルで分散させたジェルは、保存時の良好な物理的および化学的安定性を示している。
【表5】

【0051】
実施例5
マイクロパーティクルを実施例2と同様の手順で製造した。製造したマイクロパーティクルの平均孔径は3.7174μsであり、D10 4.133μs、D50 15.028μsおよびD90 30.043μs、比表面積は0.724cm2/gであった。
このマイクロパーティクルを1%ポリビニルアルコールに分散し、インビトロ溶解試験に付した。インビトロ放出法では、一般に合成メンブレンを取り付けたフランツセルシステム等のオープンチャンバー拡散セルシステムを用いた。
懸濁したマイクロパーティクルサンプルを、拡散セルのオープンドナーチャンバーの上側に置き、サンプリング液をレセプターセルのメンブレンの反対側に置く。
局所的な物質からのおよびメンブレンを介した薬物の拡散を、順次回収したレセプター液のサンプルをアッセイすることによりモニターする。レセプター相から取り出したアリコートは、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)または他の解析方法によって薬物含量について解析することができる。単位面積あたりの薬物放出量(mcg/cm2)を時間の平方根に対してプロットすると直線が得られ、直線の傾きは放出速度を示す。
メンブレンシステムは、Supor 450、孔サイズ0.45μ、直径47mm、レセプター相:50%イソプロピルアルコール(IPA)溶液+1%ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)をレセプター相として用いた。
マイクロパーティクル単独およびマイクロパーティクルが懸濁したジェルからのトレチノインのin-vitro放出は以下のとおりである。
【表6】

【0052】
実施例6
本発明の水性ジェル基剤中のトレチノインマイクロスフェアジェルの、現在FDAで承認されている製剤(レチンAマイクロ(登録商標))と比較した生物学的同等性を評価するために、SDラットモデルを使用した。即ち、局所的トレチノインは、Pアクネによる炎症耳の厚さを用量依存的に減少する。この実験では、ジェル製剤およびレチンAマイクロ(登録商標)中の等価濃度のトレチノイン(0.1%w/w)を、15〜19日目まで動物の耳に適用した。別の日に炎症耳の厚さを測定し、1日目と比較した炎症の減少を測定してPアクネによる炎症耳に対するトレチノインの効果を評価した。得られた炎症の減少は、製剤またはレチンAマイクロ(登録商標)製剤のいずれかにおいてもトレチノインによる炎症におけるその等価な活性を示す。
【表7】

【0053】
実施例7
トレチノインマイクロスフェアジェルおよびそのプラセボを1回用量をNZWラビットに投与した後、皮膚刺激性について評価した。0.5mLのトレチノインマイクロスフェアジェルおよびそのプラセボを、右脚および左脚の後外側の約6cm2の領域にそれぞれ適用し、ガーゼパッチと非刺激性のテープで覆った。投与から4時間後に、ガーゼを外し、残存する試験物質を生理食塩水で洗い流した。紅斑、痂皮/浮腫および応答の症状について、パッチを外してから1、24、48、72時間後のスコアをすべての動物について記録した。
【表8】

いずれのスコア区間でも、トレチノインマイクロスフェアジェルおよびそのプラセボにおいて、適用部位における紅斑、浮腫または壊死の形態での組織反応は観察されなかった。
【0054】
眼投与による炎症を評価するために、トレチノインマイクロスフェアジェルおよびそのプラセボの1回用量をNZWラビットに点眼した。0.1mLのトレチノインマイクロスフェアジェルおよびそのプラセボを各ラビットの右目と左目に投与した。点眼に際し、下側の瞼を軽く数秒間持ってジェルがこぼれるのを防いだ。1時間後、残ったジェルを通常の生理食塩水で目から洗い流した。洗浄直後(投与後1時間)、投与後24、48および72時間後に、眼炎症の症状がないかラビットを試験した。
【表9】

1/3のラビットで、1時間後に右目の結膜に若干の充血が明かに認められたが、48時間後には消失した。1/3のラビットで、1時間後に見た目には分からない程度の結膜血管が認められたが、48時間後には消失した。プラセボを投与した左目からはどのラビットも異常は認められなかった。虹彩または角膜の障害は、いずれのラビットにおいても観察されなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効量のトレチノインおよびエチルセルロースを含有してなる実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項2】
マイクロパーティクルが可塑剤を含まない、請求項1記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項3】
マイクロパーティクルの平均孔径が約2ミクロン〜20ミクロンの範囲である、請求項1記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項4】
エチルセルロースとトレチノインの比が約99.0:1.0〜約50:50の範囲である、請求項1記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項5】
トレチノインを約1重量%まで含有する、請求項1記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項6】
孔が、ジクロロメタン等の揮発性溶媒の使用により in situ で形成する、請求項1記載の実質的に多孔性のマイクロパーティクル。
【請求項7】
以下のステップを含んでなる、実質的に多孔性のマイクロパーティクルの製造方法:
i)トレチノインおよびエチルセルロースをジクロロメタン等の有機溶媒に溶解する;
ii)懸濁剤を含んでなる水相を調製する;
iii)ステップi)の溶液をステップii)の溶液に、攪拌しながら、またはホモジナイザーを用いて加える;
iv)場合より減圧下で、所望の間隙率のマイクロパーティクルの形成に適当なスピードにてエマルジョンを攪拌することにより有機溶媒を留去する。
【請求項8】
可塑剤の使用と必要としない、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
懸濁剤の量が、マイクロパーティクルの約0.01%w/w〜約0.5%w/wである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
有機溶媒の1時間あたりの蒸発速度が、有機溶媒全量の7.5%〜45%である、請求項7記載の製造方法。
【請求項11】
有機溶媒の留去中の攪拌スピードが350rpm〜1500rpmの範囲である、請求項7記載の製造方法。

【公表番号】特表2012−500843(P2012−500843A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524529(P2011−524529)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000469
【国際公開番号】WO2010/023689
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(507310592)サン・ファーマ・アドバンスド・リサーチ・カンパニー・リミテッド (10)
【Fターム(参考)】