説明

マイクロビーズ検査用のセル及びマイクロビーズの解析方法

【課題】マイクロビーズの重なりを防止可能な検査用のセルを提供する。
【解決手段】本発明のマイクロビーズの検査用セル1は、支持基板11とカバー21との間の距離が、マイクロビーズ7の厚みDよりは長く、かつ、マイクロビーズ7の厚みDの2倍よりは短くなっており、マイクロビーズ7は重なり合うことなく、収容空間39に配置される。したがって、本発明のマイクロビーズ検査用セル1は、各マイクロビーズ7の撮像が正常に行われ、解析精度が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査用セルに関する。より詳しくは、マイクロビーズの解析に用いる検査用セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、核酸やタンパク等を対象とした生化学分析において、「マイクロビーズ」と称される粒子状担体が用いられている。例えば、核酸分析においては、ターゲット核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有するプローブ核酸鎖を表面に固相化したマイクロビーズを用い、ターゲット核酸鎖をプローブ核酸鎖との相互作用に基づいて分離することが行われている。また、タンパク分析では、ターゲットタンパクに対する抗体を表面に固相化したマイクロビーズを用いて、同様にターゲットタンパクを分離することが行われている。
【0003】
マイクロビーズ表面に捕捉、分離されたターゲット核酸鎖あるいはターゲットタンパクは、これらを予め蛍光物質で標識しておくことによって光学的に検出することができる。また、ビーズ表面の蛍光強度を測定すれば、分離されたターゲット物質を定量することもできる。ターゲット物質が核酸鎖である場合には、ターゲット核酸鎖とプローブ核酸鎖の相互作用によって形成されるハイブリッド鎖間に取り込まれて蛍光を発するインターカレータを用いて、分離されたターゲット核酸鎖を光学的に検出することも行われている。
【0004】
マイクロビーズの光学的検出法の一例について説明すると、先ず、マイクロビーズを分散させた分散液を測定基板上に配置し、測定基板の分散液が配置された面上にカバーガラスを配置して測定用のセルとする。そのセル上の光源から光を照射し、セル上に配置したCCDやCMOS等の撮像手段により、マイクロビーズの透過像や蛍光像を撮影する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−270946号公報
【特許文献2】特表2005−504275号公報
【特許文献3】特表2008−505321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロビーズは直径及び厚みがミクロンオーダー(数〜数百μm)と微細な物が多く、検出効率を高めるため、分散液中のマイクロビーズの濃度を高くすると、マイクロビーズが測定基板上で重なり合い、重なり合ったマイクロビーズが正常に撮像できないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、マイクロビーズの重なりを防止し、解析精度の高い検査用セルを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、略平行に対向した上面及び下面とこれらの面に連続する側面とからなる柱体形状に成形され、上面及び下面の少なくとも一方に識別パターンが形成されたマイクロビーズの検査に用いられるマイクロビーズ検査用セルであり、当該セルは、支持基板と、支持基板と対向配置されたカバーと、を有する。その支持基板とカバーとの間の空間で、マイクロビーズが配置される収容空間が形成され、支持基板とカバーとの間の距離は、マイクロビーズの厚みよりも大きく、かつ、マイクロビーズの厚みの2倍よりも小さくされている。
支持基板とカバーのいずれか一方又は両方にはピラーを形成することができる。そのピラーの高さを、マイクロビーズの厚みよりも高く、かつ、マイクロビーズの厚みの2倍よりも低くし、更に、ピラーに、マイクロビーズの上面の直径と下面の直径のうち、少なくとも一方の直径よりも小さい切り欠きを1以上形成することが望ましい。
ピラーを収容空間を取り囲むように形成し、カバーに、収容空間を外部空間に接続する貫通孔を形成することもできる。この場合、切り欠きと対面して配置される吸収部材を設けることが望ましく、更に、支持基板に、収容空間と対面する部分が他の部分よりも高く突き出された載置部を形成し、支持基板の、載置部よりも低い縁部分に、吸収部材を配置することが望ましい。
また、収容空間を外部空間に接続する供給口と排出口とを設けることができる。この場合、ピラーを、供給口と排出口の間に配置し、収容空間を、供給口側の供給空間と排出口側の排出空間とに分ける。その供給空間に、排出口に向かって膨出された膨出部分を設けることが望ましい。
支持基板の収容空間と対面する部分の少なくとも一部に反射鏡を配置することもできる。
また、本発明は、略平行に対向した上面及び下面とこれらの面に連続する側面とからなる柱体形状に成形され、上面及び下面の少なくとも一方に識別パターンが形成されたマイクロビーズの解析方法をも包含する。本発明の検査方法は、支持基板とカバーとを、マイクロビーズの厚みよりも長く、かつ、マイクロビーズの厚みの2倍よりも小さい距離離間して対向配置させ、支持基板とカバーとの間の収容空間に、マイクロビーズを配置する収容工程と、収容空間のマイクロビーズを撮像する撮像工程とを含む。
収容工程においては、収容空間を供給部と排出部に接続し、供給部と排出部の間に圧力差を発生させ、マイクロビーズが分散された分散液を、収容空間に引き込むことが望ましい。また、収容工程においては、供給部と排出部の間の流路に振動力を伝達させ、分散液を攪拌させることがより望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、マイクロビーズが重なり合うことなく、各マイクロビーズを正常に撮像できるから、ターゲット物質の分析を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)、(b):本発明に用いる支持基板とカバーを説明する断面図。
【図2】(a)、(b):本発明第1例の検査用セルを組み立てた状態の平面図と断面図。
【図3】本発明のピラーの第一例を説明する平面図。
【図4】本発明のピラーの第二例を説明する平面図。
【図5】本発明のピラーの第三例を説明する平面図。
【図6】本発明のピラーの第四例を説明する平面図。
【図7】マイクロビーズの一例を説明する斜視図。
【図8】本発明のピラーと貫通孔の位置関係の他の例を説明する平面図。
【図9】(a)、(b):反射鏡を設けなかった場合の撮影画像、(c)、(d):反射鏡を設けた場合の撮影画像。
【図10】本発明第2例の検査用セルの模式的な平面図。
【図11】仕切ピラーを説明するための模式的な平面図(その1)。
【図12】仕切ピラーを説明するための模式的な平面図(その2)。
【図13】仕切ピラーを説明するための模式的な平面図(その3)。
【図14】検査装置の一例を説明する模式図。
【図15】供給口の一例を説明する拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の第1例、第2例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
【0012】
A.第1例
1.検査用セル
1a.支持基板
1b.カバー
1c.ピラー
1d.組立状態
2.検査方法
2a.検査対象物(マイクロビーズ)
2b.検査工程の具体的手順
B.第2例
1.検査用セル
1a.支持基板
1b.カバー
1c.ピラー
1d.組立状態
2.検査方法
2a.検査対象物(マイクロビーズ)
2b.検査工程の具体的手順
【0013】
A.第1例
1.検査用セル
図1(a)、(b)の符号1は本発明のマイクロビーズ検査用セルの一例を示しており、以下「検査用セル」と称する。検査用セル1は、支持基板11と、カバー21と、ピラー31とを有する。支持基板11とカバー21は分離可能であり、図1(a)は分離状態の支持基板11の断面図、図1(b)は分離状態のカバー21の断面図である。
【0014】
1a.支持基板
支持基板11の平面形状は特に限定されず、長方形、正方形、円形、楕円径等があるが、ここでは長方形の板である。支持基板11の中央部分(ここでは長手方向の中央部分)は、縁部分19よりも高く突き出され、後述するカバー21が載せられる載置部18となっている。
【0015】
載置部18には反射鏡15が配置されている。反射鏡15は特に限定されず、例えば、アルミニウム、銀、ステンレス鋼等の反射性金属材料を、めっき、蒸着、スパッタリング等で成膜した反射性金属膜で構成される。反射鏡15の配置場所も特に限定されず、支持基板11が透明であれば、反射鏡15を載置部18に埋め込んでもよいし、載置部18のカバー21が載置される面(表面)とは反対側の裏面に配置してもよいが、反射鏡15は載置部18の表面に配置することが望ましい。
【0016】
反射鏡15を載置部18の表面に配置する場合、後述する分散液に対する濡れ性を高めるために、分散液と親和性(例えば親水性)の高い透明な樹脂膜を、反射鏡15表面に形成してもよい。この場合、樹脂膜表面及び反射鏡15表面での反射光による干渉縞等が発生しないよう、樹脂膜の材料及び膜厚を設計することが望ましい。反射鏡15は載置部18全体を覆うように配置してもよいし、後述するように、マイクロビーズを撮影する撮像領域だけに配置してもよい。
【0017】
1b.カバー21
カバー21は透明な板であって、その中央部分に、カバー21を表面から裏面まで貫通する貫通孔25が供給口として形成されている。カバー21の平面形状は、矩形(正方形、長方形を含む)、円形(正円、楕円を含む)等、特に限定されないが、ここでは矩形になっている。
【0018】
1c.ピラー
支持基板11とカバー21のいずれか一方又は両方には、表面から突出するピラー31が固定されている。ここでは、ピラー31はカバー21の表面に突設されている。ピラー31の平面形状は特に限定されないが、図3〜6に示すようにリング状であって、1又は複数の切り欠き35が形成されている。ピラー31のリング形状は図3、4のように円(正円、楕円を含む)であってもよいし、図5、6のように矩形(正方形、長方形を含む)であってもよいし、三角形や5角形以上の多角形であってもよい。
【0019】
また、ピラー31は、図4、6のように、リング状のピラー31に1以上の切り欠き35を形成したものでもよいし、図3、5のように、複数のピラー部材33を並べて形成してもよい。複数のピラー部材33でピラー31を形成する場合、ピラー部材33の間隔を空けて配置し、ピラー部材33間の隙間で切り欠き35を構成する。この場合、一部のピラー部材33を支持基板11に固定し、他のピラー部材33をカバー21に固定してもよく、後述する組立状態でピラー31の全体形状がリング状になるようにしてもよい。
【0020】
支持基板11、カバー21及びピラー31の材質は特に限定されないが、例えば、ガラス、石英、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMSなど)により形成できる。その材質は、検出手段から照射されるレーザー光に対して透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差が少ない材質とすることが望ましい。
【0021】
特に、その材質として、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、COC(シクロオレフィンコポリマー樹脂)がより望ましく、これらの材質は安価なため、検査用セル1全体の製造コストを抑え、検査用セル1を使い捨て(ディスポーザル)にできる。
【0022】
支持基板11、カバー21、及びピラー31の少なくとも表面に露出する部分は、後述する分散液との濡性が高い材質で構成することが望ましい。載置部18、貫通孔25、ピラー31等の成形は、ガラス製基板のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。
【0023】
1d.組立状態
カバー21を支持基板11に載置する時の向きは予め決められており、カバー21を決められた向きで支持基板11の載置部18上に配置し、組立状態とする。ピラー31の平面形状は、そのリング内周が、カバー21及び載置部18の平面形状外周と同一かそれよりも小さく、組立状態では、ピラー31が、載置部18とカバー21とで挟まれ、そのリング内側の空間が、カバー21と載置部18とで塞がれ、後述するマイクロビーズが収容される収容空間39となる。
【0024】
また、ピラー31のリング内周は、カバー21の貫通孔25よりも大きく、貫通孔25はカバー21の中央部分に位置するから、組立状態では、ピラー31はカバー21の貫通孔25よりも外側の縁部分と接触し、貫通孔25は収容空間39の上部に位置する。すなわち、組立状態では、収容空間39は貫通孔25及びピラー31の切り欠き35によって、外部空間に接続されている。
【0025】
図2(a)は組立状態の平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A切断線断面図である。組立状態では、必要であれば、位置ずれ防止の目的で、固定部材45等でカバー21を支持基板11に固定してもよい。支持基板11の平面形状はカバー21よりも大きくされ、載置部18よりも外側の縁部分19の一部又は全部がカバー21の縁よりも外側にはみ出すようになっている。
【0026】
カバー21から露出した縁部分19にはシート状の吸収部材41を配置することが望ましい。縁部分19の吸収部材41が配置される場所は予め決められており、その場所では、縁部分19がカバー21だけではなく固定部材45等他の部材からも露出し、吸収部材41の配置が妨げられない。なお、吸収部材41の配置場所は特に限定されず、カバー21の下面の縁に段差、または面取りを入れることで、吸収部材41を挟みこんでも良い。
【0027】
後述するように、液相を毛細管力で吸収させる場合は、吸収部材41を載置部18と縁部分19の境界の段差に可能な限り近接、すなわち吸収部材41を段差に接触させることが望ましい。吸収部材41が配置される縁部分19と、載置部18との境界が、カバー21の縁よりも内側に位置する場合、吸収部材41の厚さを、縁部分19表面からカバー21表面までの高さよりも薄くすれば、吸収部材41がカバー21と縁部分19の間の隙間に入りこみ、その境界部分の段差と接触する。
【0028】
その境界がカバー21の縁と面一の場合は、縁部分19表面からカバー21表面までの高さよりも吸収部材41が厚くても、吸収部材41が段差に接触する。しかし、吸収部材41をカバー21と縁部分19の間の隙間に入れた方が、吸収部材41が安定配置されるのでより好ましい。いずれの場合も、吸収部材41の厚みを、縁部分19表面から載置部18表面までの高さよりも厚くし、載置部18とカバー21との間の隙間に、吸収部材41を対面させることが望ましい。
【0029】
2.検査方法
2a.検査対象物(マイクロビーズ)
本発明の検査用セル1の検査対象物としては、表面に、識別パターンが形成され、検出対象物質に親和性を有する物質が固相化されたマイクロビーズを用いる。図7にマイクロビーズの一例を示す。
【0030】
マイクロビーズ7は、略平行に対向した上面71及び下面72とこれらの面に連続する側面73とからなる柱体形状に成形されている。ここでは、上面71及び下面72を上方視円形として、マイクロビーズ7全体を円柱形状とした場合を例に説明するが、本発明で用いられるマイクロビーズは、三角柱形状や四角柱形状あるいはその他の多角柱形状であってよい。ただし、後述する方法に従って識別パターンを含む透過像を取得するため、上面71及び下面72が略平行に対向する柱体形状に成形されていることが必要である。
【0031】
マイクロビーズ7の厚みH及び上面71(あるいは下面72)の径D(直径)は、適宜設定され得るが、厚みHを径Dより小さく設定してマイクロビーズ7全体を盤形状とすることが好ましい。
【0032】
マイクロビーズ7の上面71及び下面72の少なくとも一方(図7では上面71)には、個々のビーズを画像識別するためのパターンが形成されるコード領域111が設けられている。上面71のコード領域111以外の領域は、識別パターンが形成されていない非コード領域112とされている。コード領域111は、下面72あるいは上面71と下面72の両方に設けてもよい。
【0033】
識別パターンは特に限定されないが、例えば、コード領域111に、マイクロビーズ7の上面71から下面72まで貫通する貫通孔が形成され、その貫通孔で識別パターンが構成される。貫通孔の形成された数及び/又は場所の違いにより、マイクロビーズ7を識別することが可能である。
【0034】
コード領域111内に形成する貫通孔は、0以上25以下の任意数であってよく、25箇所から選択される任意の位置に形成される。このように、マイクロビーズ7では、貫通孔の形成数及び形成位置を任意に設定することで、各ビーズのコード領域111に異なるパターンを形成することができる。そして、このパターンを画像識別手段により検出することによって、最大で2の25乗の種類のマイクロビーズ7を識別することが可能とされている。
【0035】
なお、ここで説明した識別パターンは一例に過ぎない。本発明に用いられるマイクロビーズ7に形成される識別パターンは、従来公知の画像識別手段によって識別可能な形状であれば、具体的な形や大きさ等は限定されない。
【0036】
マイクロビーズ7の表面には、検出対象物質に親和性を有する物質が固相化されている。以下、検出対象物質を「ターゲット物質」と、検出対象物質に親和性を有する物質を「プローブ物質」というものとする。
【0037】
マイクロビーズ7の表面には、プローブ物質が固相化されている。プローブ物質は、ターゲット物質に応じて、所定の塩基配列の核酸や所定のアミノ酸配列のタンパク又はペプチド、あるいは糖鎖等の化合物とされる。プローブ物質は、マイクロビーズ7表面のうち、コード領域111及び非コード領域112の双方を含む上面71と側面73に少なくとも固相化されており、これらに加えて下面72に固相化されていてもよい。なお、識別パターンを下面72にも形成する場合には、下面72についてもコード領域及び非コード領域の両方にプローブ物質が固相化されていてよい。
【0038】
プローブ物質は、ターゲット物質を核酸とする場合には、ターゲット核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有する核酸鎖とされる。これにより、サンプル中のターゲット核酸鎖を、プローブ物質とのハイブリダイズ(二本鎖)形成によってマイクロビーズ7上に捕捉し、分離することができる。なお、この場合のプローブ物質の塩基数(長さ)は任意であり、ターゲット核酸鎖の塩基配列の少なくとも一部に相補的な塩基配列を有し、所定のハイブリダイゼーション反応条件下で二本鎖形成が可能な限りにおいて、塩基数は特に限定されない。通常、プローブ物質の塩基数は、数塩基〜数十塩基であり、好ましくは10塩基〜30塩基程度である。
【0039】
また、プローブ物質は、ターゲット物質をタンパクとする場合には、ターゲットタンパク(例えば、レセプタータンパク)と相互作用し得るペプチド(例えば、リガンドタンパクの一部アミノ酸配列)や抗体等とされる。これにより、サンプル中のターゲットタンパクを、プローブ物質との相互作用によってマイクロビーズ7上に捕捉し、分離することができる。
【0040】
ターゲット物質を捕捉したマイクロビーズ7は、プローブ物質とターゲット物質との相互作用に基づいて蛍光を発するようになる。この蛍光は、例えば、ターゲット物質に標識された蛍光物質や、プローブ物質とターゲット物質との間に取り込まれたインターカレータから発せられるものとできる。本発明に係るマイクロビーズ解析方法は、これらの蛍光を検出すると同時に、各マイクロビーズ7に形成された識別パターンを画像識別手段によって識別することで、複数種類のターゲット物質を同時に分析する。
2b.検査工程の具体的手順
(i)反応手順
まず、マイクロビーズ7を、ターゲット物質を含むサンプルと混合し、ビーズ表面に固相化されたプローブ物質とターゲット物質とを相互作用させ、ビーズ表面にターゲット物質を捕捉する。
【0041】
マイクロビーズ7とサンプルの混合は、ターゲット物質を蛍光物質で標識した後に行うか、ターゲット物質とプローブ物質の相互作用によって形成される複合体に取り込まれて蛍光を発するインターカレータの存在下で行う。
【0042】
(ii)保持手順
次に、マイクロビーズ7を回収し、必要に応じて洗浄を行ってマイクロビーズ7に吸着したターゲット物質以外の物質(夾雑物)を取り除いた後、マイクロビーズ7を液相に分散させ、分散液を作成する。なお、ここで使用される液相は、マイクロビーズ7と同じ屈折率の液体であることが好ましいが、上記反応手順で用いられる緩衝液や純水を使用してもよい。より好ましくは、上記反応手順で用いられる緩衝液や、それよりも塩濃度が高い緩衝液であり、そのような緩衝液を用いれば、マイクロビーズ7に捕捉されたターゲット物質が変性又は解離しにくい。
【0043】
カバー21の貫通孔25は、直径が前記マイクロビーズ7の上面71及び下面72の径Dよりも大きくなっている。しかも、カバー21は分散液の液相に対して濡れ性が高くなるような材質で構成されており、組立状態の検査用セル1の貫通孔25に分散液を注入すると、マイクビーズ7は液相と一緒に、貫通孔25を通って収容空間39に注入される。
【0044】
収容空間39が密閉されている場合、分散液は注入されにくく、収容空間39に気泡(空気)が残ることがある。また、入りきらない分散液は、貫通孔25上に凸レンズのように盛り上がって残る場合がある。図3〜6で示したように、本発明では、ピラー31に切り欠き35が形成されているので、空気は切り欠き35から押し出される。従って、分散液は収容空間39に注入され易く、収容空間39が分散液で満たされ、分散液が貫通孔25上に残ることもない。
【0045】
この検査用セル1上でのマイクロビーズ7の方向付けは、マイクロビーズ7の厚みHを、上面71(あるいは下面72)の径Dより小さく設定してマイクロビーズ7全体を盤形状とすることで行われる。すなわち、マイクロビーズ7は上面71及び下面72がカバー21及び載置部18の表面と平行配置されるよう方向付けされている。
【0046】
ピラー31(ピラー部材33)の高さは、マイクロビーズ7の厚みDよりは大きく、かつ、その厚みDの2倍よりは小さくされている。すなわち、収容空間39では、支持基板11(載置部18)からカバー21までの高さは、マイクロビーズ7の厚みDよりは大きく、かつ、その厚みDの2倍よりは小さくなるから、マイクロビーズ7は重なり合うことなく、収容空間39に配置される。
【0047】
ピラー31の切り欠き35(ピラー部材33間の間隔)は、マイクロビーズ7の上面71又は下面72のうち、少なくとも一方の面の径Dよりも小さくなっている。従って、分散液の液相は空気と一緒に切り欠き35を通って押し出されても、マイクロビーズ7は切り欠き35を通過せずに、収容空間39に残る。
【0048】
なお、大きさ及び/又は形状の異なるマイクロビーズを、同一の検査用セル1で検査する場合、カバー21の貫通孔25は、最も大きいマイクロビーズの径Dよりも大きくし、切り欠き35は最も小さいマイクロビーズの径Dよりも小さくし、ピラー31の高さは最も大きいマイクロビーズの厚みHよりも大きくし、かつ、最も小さいマイクロビーズの厚みHの2倍よりも小さくすることが望ましい。
【0049】
また、支持基板11とカバー21のうち、ピラー31が固定されている側を交換すれば、大きさ及び/又は形状の異なる検査対象物の検査用セルを組み立てることができる。
【0050】
分散液の注入時には、上述した吸収部材41を、載置部18とカバー21との間の隙間と対面し、かつ、載置部18と縁部分19との段差と接触又は隣接するように配置しておくことが望ましい。吸収部材41は、紙、不織布、スポンジ等の材料がシート状に成形されてなり、毛細管構造を有する。
【0051】
一般に、マイクロビーズ7は径Dが40μm、高さHが10μm程度と小さい。載置部18とカバー21との間の距離は、高さHの2倍未満、即ち20μm未満程度であるから、その隙間は液相に毛細管力が働く程に狭い。従って、分散液の液相は、毛細管力により、切り欠き35と、載置部18とカバー21との間の隙間を通って、吸収部材41側へ移動し、吸収される。
【0052】
カバー21と載置部18との隙間は狭いため、収容空間39の容積は数μl程しかないが、吸収部材41により多量の分散液が注入され、しかも、マイクロビーズ7は切り欠き35から流出しないから、収容空間39に配置されるマイクロビーズ7の量が多くなる。しかも、注入効率が高くなることで、収容空間39に気泡も残りにくくなる。吸収部材41への吸収効率をより高めるためには、ピラー31の切り欠き35が形成された部分が、吸収部材41と対面するよう、吸収部材41の配置場所を設定することが望ましい。
【0053】
上述したように、マイクロビーズ7は、略平行に対向する2つの面(上面71及び下面72)のいずれかが載置部18表面に接触するように方向付けされ、保持される。この方向にマイクロビーズ7を保持することで、検査用セル1のカバー21側の面に対向して配設された画像取得手段(不図示)により、上面71及び/又は下面72のコード領域に形成された識別パターンを撮像することが可能となる。
【0054】
(iii)検出手順
(a)識別パターンの検出
検査用セル1にマイクロビーズ7を液相に懸濁された状態で収容されたものを用いる。液相が乾燥により失われるおそれがある場合には、適宜液相を追加滴下し、ビーズが常時液相中に含まれた状態になるようにする。検査用セル1のカバー21側の面上に光源を配置し、カバー21を通して収容空間39のマイクロビーズ7に光源からの光を照射する。不図示の画像取得手段を、カバー21を透過した光が入射する位置に配置しておき、当該画像取得手段によって、マイクロビーズ7の透過像及び蛍光像を撮像する。本発明の検査用セル1では、マイクロビーズ7の重なりが防止されるため、撮像領域にあるマイクロビーズ7を全て正常に撮像できる。
【0055】
このとき、収容空間39に空気(気泡)が残っていると、空気層による光の干渉で干渉縞が発生し、貫通孔25上に凸レンズのように分散液が盛り上がっていると、その分散液により集光され、いずれの場合も撮像が不鮮明となる。上述したように、ピラー31に切り欠き35が形成しておけば、収容空間39の空気残留も、貫通孔25上の分散液の残留のいずれも防止されるから、鮮明な透過像及び蛍光像を得ることができる。
【0056】
マイクロビーズ7は上面71又は下面72のいずれかが載置部18表面に接触するように方向付けされているから、画像取得手段により撮像される透過像に確実に識別パターンが含まれるようにできる。載置部18に反射鏡15を配置しておけば、マイクロビーズ7から載置部18側へ向う光が画像取得手段側へ反射されるから、画像取得手段に入射する検出光量が増加する。その結果、透過像及び蛍光像が鮮明になり、S/N比を大きくして解析手段への信号出力を高めることが可能となる。
【0057】
図9(a)、(b)は反射鏡を設けないガラス製の支持基板11を用いた場合の蛍光像、図(c)、(d)はアルミニウム製の反射鏡15を設けた場合の蛍光像であり、図9(a)、(c)はマイクロビーズ7のプローブ物質と非相補的なターゲット物質を作用させたもの(ミスマッチ)、図9(b)、(d)はマイクロビーズ7のプローブ物質と相補的なターゲット物質を作用させたもの(フルマッチ)である。反射鏡15によりミスマッチ、フルマッチの差が顕著になっており、S/N比が向上することがわかる。
【0058】
(b)蛍光の検出
画像取得手段で撮像された蛍光像は、蛍光検出手段に出力される。蛍光検出手段は、この蛍光像の所定領域からの蛍光を検出して、蛍光強度を電気的信号に変換して解析手段に出力する。
【0059】
他方、画像取得手段で撮像された透過像は、画像識別手段に出力される。画像識別手段は、透過像から識別パターンを検出し、電気的信号として解析手段に出力する。識別パターンの検出は、汎用の画像解析プログラム又はこれを適宜改良したものを用いて行うことができる。
【0060】
上述したように、本発明の検査用セル1は、マイクロビーズ7が重なり合わないため、撮像領域にある全てのマイクロビーズ7の撮像が可能であり、ターゲット物質の分析を高精度に行うことが可能である。
【0061】
なお、マイクロビーズ7を撮像する領域(撮像領域)と、検査用セル1の部材(ピラー31、貫通孔25等)の位置関係は特に限定されない。例えば、図8に示すように、貫通孔25を撮像領域5の外側に設けることもできる。この場合、貫通孔25上に分散液が残ったとしても、撮像に影響を与えない。貫通孔25を撮像領域5の外に設ける場合、撮像領域5を貫通孔25と切り欠き35との間に配置すれば、分散液が注入される際に、撮像領域5の気泡が押し流され、余分な液相と一緒に切り欠き35から排出される。
【0062】
撮像領域5が載置部18の一部分である場合、反射鏡15は載置部18全部に設ける必要はなく、少なくとも撮像領域5と対面する部分に設ければよい。載置部18は縁部分19と面一にしてもよいが、反射鏡15を設ける場合、反射鏡15の厚み分だけ載置部18が厚くなるので、載置部18を縁部分19よりも厚くした方が、反射鏡15の設置が容易である。
【0063】
以上は、収容空間39を取り囲むピラー31に切り欠き35を形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。以下に、本発明の第2例の検査用セルと、その検査用セルを用いた検査方法について説明する。
【0064】
B.第2例
1.検査用セル
図10の符号の2は本発明第2例のマイクロビーズ検査用セルを示しており、第1例の検査用セル1と同じ構造の部材には同じ符号を付して説明する。
【0065】
1a.支持基板
支持基板11は特に限定されず、図1(a)に示したものと同じ構造、同じ形状、同じ材質のものを用いることができるが、第2例においては、支持基板11の一部を載置部18として縁部分19よりも高くしなくてもよい。
【0066】
第2例においても、支持基板11に反射鏡15を設けることができる。この反射鏡15の設置場所は特に限定されないが、少なくともマイクロビーズ7が集まる領域(撮影領域)に設置することが望ましい。
【0067】
1b.カバー
カバー21も特に限定されず、図1(b)に示したものと同じ構造、同じ形状、同じ材質のものを用いることができる。しかし、第2例においては、カバー21に貫通孔を形成する場合、その数は2個以上が望ましく、1以上の貫通孔をマイクロビーズ7の供給口65a、他の1以上の貫通孔を液相の排出口65bとすることができる。
【0068】
1c.ピラー
ピラーも特に限定されず、図1〜6、8に示したものと同じ構造、同じ形状、同じ材質、同じ製造方法、同じ配置のものを用いることができるが、第2例においては、切り欠きを有するピラー61を、収容空間39を横断するように形成し、該ピラー61により、収容空間39を供給口65aに接続された供給空間39aと、排出口65bに接続された排出空間39bに分割する。なお、このピラー61の他に、収容空間39を封止するリング状のピラー64を形成することが望ましい。以下、収容空間39を取り囲むピラー64を封止ピラーと称し、収容空間39を分けるピラー61を仕切ピラーと称して区別する。
【0069】
ピラー61、64の設置場所も特に限定されない。ピラー61、64は支持基板11とカバー21のいずれか一方又は両方に形成され、後述するように、検査用セル2を組み立てた状態で、封止ピラー64の内側の空間(収容空間39)が、仕切ピラー61で二分されればよい。
【0070】
封止ピラー64と仕切ピラー61の高さは同じであっても、異なってもよいが、高い方のピラー61、64の高さを、マイクロビーズ7の厚みHよりよりも大きくし、かつ、その厚みHの2倍よりも小さくすることが望ましい。
【0071】
1d.組立状態
組立状態では、第1例と同様に、ピラー61、64がカバー21と支持基板11に挟まれ、封止ピラー64のリング内側の空間が、支持基板11とカバー21と封止ピラー64で封止される。カバー21と支持基板11はピラー61、64の高さ分離間する。すなわち、カバー21と支持基板11は、マイクロビーズ7の厚みHよりも大きく、かつ、その厚みHの2倍よりも小さい距離だけ離間し、封止ピラー64のリング内側の空間は、マイクロビーズ7が収容可能な収容空間39となる。
【0072】
上述した供給口65aと排出口65bは、互いに離間し、同じ収容空間39に接続されている。なお、供給口65aと排出口65bはカバー21の貫通孔に限定されず、供給口65aと排出口65bのいずれか一方又は両方を、封止ピラー64及び/又は支持基板11に形成した貫通孔で構成してもよい。更に、配管等を収容空間39に引き込み、その配管の一端で供給口65a及び/又は排出口65bを構成することもできる。
【0073】
仕切ピラー61は、封止ピラー64のリング内側であって、供給口65aと排出口65bの間に位置し、収容空間39を、供給口65a側の供給空間39aと、排出口65b側の排出空間39bとに二分する。
【0074】
図11〜13は供給口65a、排出口65b、仕切ピラー61の位置関係を模式的に示す平面図である。仕切ピラー61は、封止ピラー64のリングに亘って形成されたピラー部材62の列からなる。1つの列を構成するピラー部材62同士は互いに離間し、ピラー部材62の間の空間で切り欠き63が構成される。従って、切り欠き63により供給空間39aと排出空間39bとが接続される。
【0075】
なお、細長のピラー部材62に1乃至複数の切り欠き63を形成して、仕切ピラー61としてもよい。また、仕切ピラー61の形状も特に限定されず、ピラー部材62の列は、直線状(図11)、折線状(図12)、曲線状(図13)等でもよい。また、仕切ピラー61を構成するピラー部材62の列は1列であってもよいし、2列以上でもよい。
【0076】
2.検査方法
2a.検査対象物
第2例の検査用セル2の検査対象物は特に限定されず、第1例の検査用セル1と同様のマイクロビーズ7を用いることができる。
【0077】
2b.検査工程の具体的手順
(i)反応手順
反応手順も特に限定されず、第1例の検査用セル1の場合と同様の手順で、マイクロビーズ7にターゲット物質を捕捉させることができる。
【0078】
(ii)保持手順
供給口65aと排出口65bを、直接、又はシリコーンチューブやテフロン(登録商標)チューブのような配管51、52を介して供給部56と排出部58にそれぞれ接続する。供給部56は、例えばエッペンチューブのような容器を有し、その容器にマイクロビーズ7の分散液55を収容しておく。
【0079】
供給部56と排出部58のいずれか一方又は両方は、圧力制御手段を有している。排出部58の圧力制御手段は、シリンジ、吸引ポンプのような減圧手段である。供給部56の圧力制御手段は、シリンジ、加圧ポンプのような加圧手段である。
【0080】
収容空間39は仕切ピラー61で供給空間39aと排出空間39bに分けられるが、仕切ピラー61には切り欠き63が形成されているから、供給空間39aと排出空間39bは切り欠き63により互いに接続されている。加圧手段による供給部56の加圧、及び/又は、減圧手段による排出部58の減圧を行い、供給部56と排出部58の間に圧力差を形成すると、圧力差により分散液55が供給部56から排出部58へ向かい、供給空間39aに分散液55が供給される。
【0081】
仕切ピラー61の列を構成するピラー部材62同士の距離と、列末端のピラー部材62から封止ピラー64までの距離は、マイクロビーズ7の径Dよりも小さい。すなわち、ピラー61、64の切り欠き63はマイクロビーズ7の径Dよりも小さいから、分散液55の液相は切り欠き63を通過しても、マイクロビーズ7は切り欠き63を通過せずに供給空間39aに留まり、供給空間39aのマイクロビーズ7密度が高くなる。
【0082】
ここで、マイクロビーズ7の径Dとは、上面71又は下面72の少なくとも一方の径Dである。上面71と下面72の径が異なる場合、大径の方の面よりも切り欠き63が小さければ、マイクロビーズ7を供給空間39aに留めることができる。
【0083】
第2例の検査用セル2においても、収容空間39の高さはマイクロビーズ7の厚みHよりも大きく、かつ、その厚みHの2倍よりも小さいので、マイクロビーズ7の密度が高くなっても、マイクロビーズ7同士が重ならない。
【0084】
ピラー部材62の列は1列であってもよいが、2列以上を設けることが望ましい。ピラー部材62の列が複数列の場合、1列においてピラー部材62が破損、欠落しても、他の列によりマイクロビーズ7の流出が防止される。
【0085】
ピラー部材62の列の形状は特に限定されないが、図12、13のように、ピラー部材62の列を排出口65bに向かって突き出るようにし、供給空間39aを排出口65bに向かって膨出させれば、その膨出部分にマイクロビーズ7が集中的に溜まり、密度が高くなる。
【0086】
供給空間39aの膨出部分を、供給口65aと排出口65bの間に設け、供給口65aと膨出部分と排出口65bを直線上に並べれば、マイクロビーズ7をより効率的に膨出部分に溜めることができる。このような膨出部分を撮像領域とすれば、マイクロビーズ7の撮像をより効率良く行うことが可能である。
【0087】
マイクロビーズ7を供給空間39aに収容後、撮像前に、洗浄液を供給空間39aへ供給し、マイクロビーズ7を洗浄してもよい。洗浄液は分散液55と同じ供給部56から供給してもよいし、分散液55とは異なる供給部から供給してもよい。分散液55から洗浄液へ供給を切り替える際に、エアートラップ等の気体混入防止手段を設け、空気等の気体の供給空間39aへの進入を防止することが望ましい。
【0088】
洗浄液及び/又は分散液55の供給を停止した後、第1例の検査用セル1と同様の「検査手順」で、識別パターンの検出と、蛍光の検出を行うことができる。第2例の検査用セル2においても、マイクロビーズ7が重なり合わないため、撮像領域にある全てのマイクロビーズ7の撮像が可能であり、ターゲット物質の分析を高精度に行うことが可能である。
【0089】
分散液55や洗浄液の供給中又は供給後であって、マイクロビーズ7の撮像開始前に、分散液55に、振動、攪拌、乱流等を連続又は断続的に発生させ、マイクロビーズ7の目詰まりを防止することが望ましい。以下に、目詰まり防止手段と、検査用セル2を組み合わせた検査装置について説明する。
【0090】
図14は検査装置6の一例の模式図である。検査装置6は、制御装置71と、振動手段75とを有しており、検査用セル2を検査装置6に組み込んだ状態では、振動手段75が検査用セル2に接触し、制御装置71が供給部56と排出部58にそれぞれ接続されている。
【0091】
制御装置71は、供給部56と排出部58の圧力制御手段(加圧手段、減圧手段)に制御信号を送り、分散液55の供給を開始、又は停止させる。供給部56から排出部58までの途中の流路(配管51、52等)に送液圧の検出器を設置してもよい。その場合、制御装置71は、検出器からの検出信号に基づき圧力制御手段への制御信号を決定し、分散液55の送液量、送液速度を決められた値に維持することができる。
【0092】
検査装置6に洗浄液の供給部76を設けてもよい。この場合、洗浄液の供給部76と検査用セル2の間と、分散液55の供給部56と検査用セル2との間に、切替バルブのような切替手段78を設ける。制御装置71は予め設定されたタイミングで、切替手段78を切り替え、検査用セル2へ送る液体の種類を変更する。
【0093】
振動手段75は、偏芯モーター、圧電素子、ボイスコイルモーター、超音波振動子等の振動素子を有している。制御装置71は、分散液55及び/又は洗浄液の供給中、又は、供給停止後に振動素子を振動させる。振動手段75は検査用セル2の一部又は全部に直接又は間接的に接触している。
【0094】
振動力は検査用セル2に伝達され、収容空間39内の分散液55及び/又は収容空間39に向かう分散液55に攪拌・乱流がおこる。攪拌・乱流により、マイクロビーズ7の沈殿や目詰まりが防止されるので、マイクロビーズ7が撮像領域に到達する確率が高くなる。
【0095】
なお、分散液55の攪拌・乱流は、振動手段75以外の手段により発生させてもよい。例えば、制御装置71により、供給部56の加圧手段、及び/又は排出部58の減圧手段のいずれか一方又は両方の圧力制御手段(加圧手段、減圧手段)を制御し、分散液55の送液を制御することで、攪拌・乱流を発生させてもよい。具体的には、圧力制御手段による圧力差を制御することで、断続的(パルス状)に分散液を送液し、攪拌・乱流を発生させることができる。
【0096】
この検査装置6に蛍光検出手段と画像取得手段とを組合せれば、マイクロビーズ7の収容、マイクロビーズ7の洗浄、識別パターンの判定、蛍光の検出まで全て自動に行うことができる。また、検出用セル2を取り替えれば、検査装置6を繰り返し、異なるセルに対しても使用することができる。
【0097】
なお、第1例、第2例の検査用セル1、2において、供給口65a(貫通孔25)が、カバー21の表面から裏面まで同径、又は、収容空間39に近い程小径(逆テーパ)であると、マイクロビーズ7が供給口65a下端の角部分に引っかかり、詰まりやすくなる。従って、図15に示すように、供給口65a(貫通孔25)は、収容空間39に近い側程大径のテーパ形状とすることが望ましい。
【0098】
支持基板11とカバー21のいずれか一方又は両方に、表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、マイクロビーズ7の非特異的な吸着を抑制させるための表面処理や、分散液導入をスムーズにするための親水処理もしくは疎水処理等がある。特に、分散液55の液相が水又は親水性溶媒の場合は、分散液の通路の内壁を構成する表面(配管51、52の内壁面、カバー21の表面、支持基板11の表面)を、親水処理しておけば、分散液55の導入が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る検査用セル1は、マクロビーズ7の重なりを防止し、ターゲット物質に標識された蛍光物質等からの蛍光を高精度に検出できるため、マイクロビーズを用いた各種生化学分析の一層のハイスループット化・高速化に寄与し得る。
【符号の説明】
【0100】
1、2 マイクロビーズ検査用セル
7 マイクロビーズ
11 支持基板
15 反射鏡
21 カバー
25 貫通孔
31、61 ピラー
35、63 切り欠き
56 供給部
58 排出部
61 仕切ピラー
64 封止ピラー
65a 供給口
65b 排出口
75 振動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行に対向した上面及び下面とこれらの面に連続する側面とからなる柱体形状に成形され、上面及び下面の少なくとも一方に識別パターンが形成されたマイクロビーズの検査に用いられ、
支持基板と、
前記支持基板と対向配置されたカバーと、を有し、
前記支持基板と前記カバーとの間の空間で、前記マイクロビーズが配置される収容空間が形成され、
前記支持基板と前記カバーとの間の距離は、前記マイクロビーズの厚みよりも大きく、かつ、前記マイクロビーズの厚みの2倍よりも小さくされたマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項2】
前記支持基板と前記カバーのいずれか一方又は両方にはピラーが形成され、
前記ピラーの高さは、前記マイクロビーズの厚みよりも高く、かつ、前記マイクロビーズの厚みの2倍よりも低く、
前記ピラーには、前記マイクロビーズの前記上面の直径と前記下面の直径のうち、少なくとも一方の直径よりも小さい切り欠きが1以上形成された請求項1記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項3】
前記ピラーは前記収容空間を取り囲むように形成され、
前記カバーには、前記収容空間を外部空間に接続する貫通孔が形成された請求項2記載のマクロビーズ検査用のセル。
【請求項4】
前記切り欠きと対面して配置される吸収部材を有する請求項3記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項5】
前記支持基板には、前記収容空間と対面する部分が他の部分よりも高く突き出された載置部が形成され、
前記支持基板の、前記載置部よりも低い縁部分に、前記吸収部材が配置される請求項4記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項6】
前記収容空間を外部空間に接続する供給口と、排出口と、を有し、
前記ピラーは、前記供給口と前記排出口の間に位置し、
前記ピラーにより、前記収容空間が、前記供給口側の供給空間と、前記排出口側の排出空間とに分けられる請求項2記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項7】
前記供給空間は、前記排出口に向かって膨出された膨出部分を有する請求項6記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項8】
前記支持基板の前記収容空間と対面する部分の少なくとも一部には反射鏡が配置された請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載のマイクロビーズ検査用のセル。
【請求項9】
略平行に対向した上面及び下面とこれらの面に連続する側面とからなる柱体形状に成形され、上面及び下面の少なくとも一方に識別パターンが形成されたマイクロビーズの解析方法であって、
支持基板とカバーとを、前記マイクロビーズの厚みよりも長く、かつ、前記マイクロビーズの厚みの2倍よりも小さい距離離間して対向配置させ、
前記支持基板と前記カバーとの間の収容空間に、前記マイクロビーズを配置する収容工程と、
前記収容空間の前記マイクロビーズを撮像する撮像工程と、を含むマイクロビーズの解析方法。
【請求項10】
前記収容工程は、前記収容空間を供給部と排出部に接続し、前記供給部と前記排出部の間に圧力差を発生させ、前記マイクロビーズが分散された分散液を、前記収容空間に引き込む請求項9記載のマイクロビーズの解析方法。
【請求項11】
前記収容工程は、前記供給部と前記排出部の間の流路に振動力を伝達させ、前記分散液を攪拌させる請求項10記載のマイクロビーズの解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−145276(P2011−145276A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154877(P2010−154877)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】