説明

マイクロホン装置

【課題】感度調整が容易で、特性ばらつきの少ないマイクロホン装置を提供する。
【解決手段】マイクロホン装置をコンデンサ部の第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子と、接地端子とを、別途導出し、これらコンデンサ電極端子と、接地端子との間に感度調整電圧を印加することで感度調整を可能にした点を特徴とするもので、所望の感度のマイクロホン装置を実現可能とするものである。
また、同一構成で実装状態の膜スチフネスを測定できる、マイクロホン装置を実現可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン装置にかかり、特にその感度調整機能を具備したマイクロホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型電気音響変換器は、静電エネルギを仲介として、音を電気信号に変換したり、逆に、電気信号を音に変換したりする電気音響変換器である。エレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM)やエレクトレットコンデンサスピーカは、この静電型電気音響変換器に分類される。
【0003】
ECMは、小型化が可能であり、携帯電話に広く用いられている。従来のECMは、図12に示すように、音孔115を有するケース117内に、金属導体等の振動板111と、エレクトレット膜113が形成された固定電極112と、回路素子が搭載されたプリント基板118とが配置されており、振動板111と固定電極112との間隔がスペーサ114で保持され、また、固定電極112とプリント基板118との間に背気室16が形成されている。
【0004】
エレクトレット膜は、通常、FEP(フッ化エチレンプロピレン樹脂)を用いて形成され、与えられた電荷を保持し続ける。このECMでは、振動板111が音圧によって振動すると、振動板111と固定電極112とで構成される平板コンデンサの静電容量が変化し、この容量変化が電圧変化に変換されてECMから出力される。高分子フィルムであるFEPは、半永久的に電荷を保持する特性を持つが、高温に晒されると電荷保持特性が劣化する傾向がある。そのため、ECMは、半田のリフローでの実装を行うことが困難である。
【0005】
近年、リフロー可能な耐熱ECMを実現するため、シリコン基板に半導体プロセスで用いられている超精密加工技術を適用して、超小型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクロホンを製造する技術が開発されている。
【0006】
図4は、MEMSマイクロホン20の一例を示している。シリコン基板上には、半導体製造技術を用いて多数のマイクロホンチップが同時に作られ、最終的に個々に分割される。図4は、分割された1つのマイクロホンチップの側面図を示している。このMEMSマイクロホン20は、シリコン基板21上に、第1の絶縁層22を介して、振動膜電極23とエレクトレット膜24とを有しており、また、その上に、第2の絶縁層25を介して、音孔27が形成された固定電極26を有している。また、振動膜電極23の背面には、シリコン基板21をエッチングして、背気室28が形成されている。
【0007】
振動膜電極23は、導電性のポリシリコンで形成され、エレクトレット膜24は、窒化シリコン膜やシリコン酸化膜で形成され、また、固定電極26は、導電性のポリシリコンとシリコン酸化膜やシリコン窒化膜とを積層して形成されている。
【0008】
このMEMSマイクロホン20では、振動膜電極23が音圧によって振動すると、振動膜電極23と固定電極26とで構成される平板コンデンサの静電容量が変化し、電圧変化として取り出される。
【0009】
ところで、マイクロホンやスピーカの製造現場では、感度が極めて重要な課題となっているが、温度や湿度などの環境変化によって感度は変動し易く、特に、半田リフローなどの高温工程を経た場合には、感度にばらつきが生じ易い。
【0010】
さらに、MEMSマイクロホンの製造・アセンブリ工程では金属キャップをはんだ固着する場合、はんだ溶融時に高温となるため、温度による基板の膨張収縮が発生する。このためMEMSチップへ、膨張収縮のストレスが加わりMEMSチップの特性が微少ではあるが変化する。
【0011】
同様に、表面実装デバイスであるMEMSマイクロホンがユーザー基板(回路基板)に実装された場合にも、相互の基板の膨張収縮の相互干渉からMEMSチップへ膨張収縮の応力が加わりMEMSチップの特性が微少ではあるが変化することが認められている(非特許文献2)。
【0012】
【非特許文献1】日経マイクロデバイス 2007年July P94−95
【非特許文献2】IEEE 1998 P288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記実装時における応力変化は、振動膜へのストレスとなり、振動膜のスチフネスが変化し、感度の変化を引き起こすことになる。
また、温度や湿度の影響で感度が変化することがあり、感度調整は重要な課題となっている。
【0014】
従って、マイクロホンの設計において、金属キャップの固着工程、あるいは回路基板への実装工程における振動膜のスチフネスの変化を考慮し、設計を行う必要がある。
そこで、製造工程中及びマイクロホン装置の製造工程での振動膜のスチフネス品質の確認や制御のため、あるいはユーザー側での表面実装時の特性変化すなわち振動膜のスチフネスの変化をモニター計測することが求められる。
このような状況の中で、製造後に結果として生じた感度ばらつきを補正することは深刻な問題となっている。
【0015】
そして、製造後に、感度調整を行うことが可能であれば、感度にばらつきを生じたマイクロホン装置の品質向上をはかり、感度が一様で特性ばらつきの少ないマイクロホン装置を提供することが可能となる。
【0016】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、感度調整が容易で、特性ばらつきの少ないマイクロホン装置を提供することを目的とする。
特に、金属キャップなどの封止体で封止した後、あるいは回路基板への実装工程における振動膜のスチフネスを測定するとともに、ばらつきがあれば感度調整の可能なマイクロホン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで本発明では、マイクロホン装置をコンデンサ部の第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子と、接地端子とを、別途導出し、これらコンデンサ電極端子と、接地端子との間に感度調整電圧を印加することで感度調整を可能にした点を特徴とするもので、他は実際に使用するのと同様に作成し、たとえば感度測定を行うに際し、これらの電極端子間に測定端子を接続して、膜スチフネス測定を行うことができ、マイクロホンとしての使用時には、コンデンサ電極端子と、接地端子との間に感度調整電圧を印加するかあるいは、同一の電極パッドに接続するなどの方法で共通接続することで、感度調整を行い、所望の感度のマイクロホン装置を実現可能とするものである。
【0018】
すなわち本発明のマイクロホン装置は、第1の電極としての振動膜と、前記振動膜に固着された誘電体膜と、前記第1の電極に対向して配設された第2の電極とを具備したマイクロホンで構成されたコンデンサ部と、前記コンデンサ部の前記第1の電極に接続され、前記コンデンサ部からの信号を増幅する増幅器とが容器内に実装され、前記コンデンサ部の第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子と、前記増幅器に接続される電圧供給端子と、接地端子と、前記増幅器からの出力端子とを具備したことを特徴とする。
この構成により、従来共通接続していたコンデンサ電極端子と、接地端子との間に、感度調整電圧を印加することで、本来のマイクロホン装置の構成を変更することなく、感度調整電圧のみで感度調整が可能であり、これは、実装後のマイクロホン装置、さらには回路基板上に面実装した状態での感度ばらつきの低減をはかることができる。
【0019】
また本発明では、上記マイクロホン装置において、前記コンデンサ部、前記増幅器は、容器内に収納され、前記電圧供給端子と、前記出力端子と、前記コンデンサ電極端子と前記接地端子が、前記容器から導出されたものを含む。
この構成により、コンデンサ電極端子と前記接地端子との間に印加する電圧を調整するだけで、感度を調整することが可能である。したがって、実装後に、温度や湿度などに起因する感度ばらつきを補償したりするなど、高精度の感度調整が可能となる。
【0020】
また本発明では、上記マイクロホン装置において、前記コンデンサ電極端子は、感度制御電圧印加入力端子であるものを含む。
【0021】
また本発明では、上記マイクロホン装置において、前記コンデンサ部および増幅器は、同一の基板の第1の面上に搭載され、前記コンデンサ電極端子、前記電圧供給端子、前記接地端子および前記出力端子が、前記基板の第2の面に、面実装端子として配設されたものを含む。
この構成によれば、容易にコンデンサ電極端子と、接地端子との間に可変電圧を印加することができ、感度調整が容易である。
【0022】
また、従来共通接続していたコンデンサ電極端子と、接地端子とを別途独立して導出しただけで、本来のマイクロホン装置の構成を変更することなく、コンデンサ電極端子と、接地端子との間に調整電圧を印加することで、感度調整が可能であり、これは、実装後のマイクロホン装置、さらには回路基板上に面実装した状態でのマイクロホン装置の感度調整を実現することができる。また、マイクロホン装置として使用するそのものについて非破壊で、実装状態に極めて近い膜スチフネス測定を実現しうる。従って、マイクロホン装置の設計に、この測定結果をフィードバックするようにすれば、極めて高精度の特性制御を実現することが可能となる。
【0023】
また本発明では、上記マイクロホン装置において、前記コンデンサ電極端子、前記電圧供給端子、前記接地端子および前記出力端子は、同一の端子形状をなし、2行2列に配列されたものを含む。
この構成によれば、実装に際し、容易に面実装可能であり、コンデンサ電極端子と接地端子との間で電圧を調整する際にも接続が極めて容易である。
【0024】
また本発明では、上記マイクロホン装置において、前記コンデンサ電極端子と前記接地端子とが隣接配置されたものを含む。
この構成によればコンデンサ電極端子と接地端子との間で電圧を調整する際に接続が極めて容易である。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、マイクロホン装置の感度調整を、コンデンサ電極端子と前記接地端子との間の印加電圧を調整するだけでマイクロホン装置の感度を調整することが可能である。また、実装工程における感度ばらつきについても、実装後の状態に応じて感度制御印加電圧を調整するだけで、真に一様な感度をもつマイクロホン装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態におけるマイクロホン装置の構成を概略的に示す図である。
本実施の形態では、マイクロホン装置を、コンデンサ部を構成するMEMSマイクロホンチップMの第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子と、接地端子とを、別途導出した点を特徴とするもので、他は実際に使用するのと同様に作成し、感度調整に際しては、これらコンデンサ電極端子と、接地端子との間に所望の電圧を印加することで、感度調整が容易に実現する。
【0027】
このマイクロホン装置は、図1(a)にマイクロホン装置を含んだ構成図、図2にマイクロホン装置の上面図、側面図および下面図、図3にこのマイクロホン装置の内部構成、図4にMEMSチップの断面図を示すように、通例のコンデンサ部を構成するMEMSマイクロホン(チップ)Mとこれに接続され、増幅器を構成するCMOSアンプAとが実装用の回路基板100上に搭載され、メタルキャップ101で封止されたものである。このマイクロホン装置の等価回路図は、図1(a)の波線部11に示すようにコンデンサ部MとCMOSアンプAとが接続され、コンデンサ部の第2の電極であるコンデンサ電極端子Eと、CMOSアンプAの接地端子Eとが、それぞれコンデンサ電極パッドP、接地パッドPとして独立して取り出されて、外部端子を構成している。これに対し、通常のマイクロホン装置は図1(b)に示すように、コンデンサ部の第2の電極であるコンデンサ電極端子Eと、CMOSアンプAの接地端子Eとが、内部回路あるいは回路基板上で共通接続され、接地端子Eとして取り出されている。詳細については後述するが、図1(a)に示したようにコンデンサ電極端子Eと、CMOSアンプAの接地端子Eとを別途取り出し、コンデンサ電極パッドPと、接地パッドPとの間に感度調整部の可変電圧VRで構成された感度制御電圧を接続して感度可変マイクロホンとして用いる。
【0028】
すなわち本発明のマイクロホン装置は、振動膜23である第1の電極と、この第1の電極に対向して配設された固定電極26としての第2の電極とを具備したマイクロホンで構成されたコンデンサ部(図4参照)と、前記コンデンサ部の前記第1の電極に接続され、前記コンデンサ部からの信号を増幅する増幅器Aとがメタルキャップ101からなる容器内に実装され、図2(a)乃至(c)にその外観図(上面図、側面図、下面図)を示すように、前記コンデンサ部の第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子Eと、前記増幅器Aに接続される電圧供給端子Eと、接地端子Eと、前記増幅器Aからの出力端子Eとが前記容器から導出され、回路基板100の裏面側にそれぞれパッド(コンデンサ電極パッドPと、電圧供給パッドPと、接地パッドPと、前記増幅器(CMOSアンプ)Aからの出力パッドPを形成している。
【0029】
そしてこのマイクロホン装置の内部は、図3(a)および(b)に示すように、コンデンサ部MとCMOSアンプAとが回路パターンを形成したプリント配線基板(回路基板)100上に実装され、メタルキャップ101で封止されており、この回路基板100の裏面側には上述した4つのパッドすなわち、コンデンサ電極パッドPと、電圧供給パッドPと、接地パッドPと、出力パッドPが形成されている。
【0030】
このシリコンマイクロホン用チップMは、図4に示すように、シリコン基板21と、この表面に形成された多結晶シリコン膜からなり、コンデンサの一極として機能する第1の電極としての振動膜23と、エレクトレット膜(エレクトレット化対象の膜)24としての酸化シリコン膜と、酸化シリコン膜からなるスペーサ部25と、コンデンサの他極として機能する固定電極26とシリコン基板21をエッチングすることで形成される背気室28とを有する。固定電極26には、複数の音孔(音波を振動膜23に導くための開口部)27が設けられている。なお、参照符号Gはエアギャップ、Hは電気的接続のためのコンタクトホールを示す。
【0031】
マイクロホンを構成する振動膜23、固定電極26、無機誘電体膜24は、シリコンの微細加工技術と、CMOS(相補型電界効果トランジスタ)の製造プロセス技術とを利用して製造され、いわゆるMEMS素子を構成する。
【0032】
このマイクロホン装置を用いて、感度調整部の可変電圧VRで構成された感度制御電圧を変化させたときのマイクロホン出力電圧を測定した結果を図5に示す。この図からも明らかなように、コンデンサ電極パッドPと、接地パッドPとの間に接続される可変電圧VRからなる電圧調整部を接続して、印加電圧を変化させた結果、感度を可変にすることができることがわかる。
【0033】
したがって、完成後にこの電圧制御によって感度ばらつきを調整するのが極めて容易となる。また、使用時に感度を変更したい場合にも電圧制御のみで極めて容易に所望の感度を得ることができる。
【0034】
次に図5を用いてこの感度制御電圧によって、マイクロホン装置の感度が変化することを数式的に説明する。
ここでは、振動膜に固着された誘電体膜が永久電荷を保持しているエレクトレット型のMEMSマイクロホン装置を用いる。
マイクロホンの感度はよく知られているように、
【0035】
【数1】

であらわされる。
それぞれの記号は以下に示すとおりである。
v[dBV]:マイクロホン出力電圧
P[Pa]:規定音圧
dis[m]:振動膜面積
[N/m]:振動膜スチフネス
[N/m]:背気室スチフネス
[m]:エアギャップ長
BIAS[v]:エレクトレット電圧
[F]:MEMSチップ容量
in[F]:CMOSアンプ入力容量
G[V/V]:CMOSアンプ増幅度
【0036】
図5で感度制御電圧が0[V](コンデンサ電極端子と接地端子を短絡した状態)でマイクロホン出力電圧が有限の値(ここでは、約9[mV/Pa]=−41[dBV/Pa])となっているのは、永久電荷によるEBIAS[V]の電圧が与えられているのと等価なことを示している。
従って、コンデンサ電極端子と接地端子に図1(a)の構成で示すような外部の感度調整部の可変電圧VRを通して±Vcの電圧を加えると図5に示されるように、マイクロホン出力電圧が変化する。
たとえば、+5[V]を印加した場合は約9[mV/Pa]から約4「mV/Pa」へ変化し、―5[V]
を印加した場合は約9[mV/Pa]から約15「mV/Pa」へ変化する。
数式的には、
【0037】
【数2】

と表され、マイクロホン出力電圧が感度制御電圧Vcで調整できることとなる。
【0038】
(実施の形態2)
なお、前記実施の形態1のマイクロホン装置を用いて、膜スチフネス測定を行いたい場合には、これらの電極端子間に測定端子を接続するようにし、膜スチフネス測定を実装状態で実現する。なおこの装置は膜スチフネス測定装置としても適用可能である。
【0039】
この膜スチフネス測定装置は、測定対象が例えばMEMSマイクロホンの振動板である場合、図6及び図7(a)に示すように、MEMSマイクロホン装置20を収容する真空容器30と、測定周波数を変えながら真空中に置かれたMEMSマイクロホン20の入出力応答特性を測定する応答測定部40と、周波数−入出力応答特性曲線から振動板の共振周波数を求めてMEMSマイクロホン20の膜スチフネスを算出するスチフネス算出部51と、周波数−入出力応答特性曲線などを表示する表示部52とを備えている。図7(a)はこの膜スチフネス測定装置を示す等価回路図である。
【0040】
真空容器30は、内部にMEMS マイクロホン装置20をセットする載置台を備え、また、真空容器外部からMEMSマイクロホン装置20への通電を可能にする端子機構を備えている。MEMSマイクロホン装置20は、MEMSチップ(M)がCMOSアンプ(A)に接続され、さらに、マイクロホン装置の外部端子に所定の配線接続がなされる回路基板とそれらを覆うキャップで構成されたマイクロホン装置20の状態で載置台にセットされ、前記端子機構は、各導電部に通電できるように接続される。
【0041】
スチフネス算出部51は、入出力応答特性測定部40が測定した周波数−入出力応答特性曲線から振動板の共振周波数を求め、この共振周波数を(数3)に代入してMEMSマイクロホン装置20の振動板のスチフネスを算出する。
【数3】

ここで、
f0:振動膜の共振周波数 [Hz]
s0:膜強さ(スチフネス) [N/m]
m0:振動膜の質量 [kg]
【0042】
このように、この測定装置では、(数3)に代入するための共振周波数を、MEMSマイクロホン装置20の入出力応答特性の測定結果から求めている。
【0043】
入出力応答特性測定を実行する入出力応答特性測定部40は、図7(a)に示すように、MEMSマイクロホン装置20の励振源である交流電圧源61及び直流電圧源62に接続され、入力及び出力のそれぞれの電圧を測定する電圧計と、入力及び電圧の位相差を測定する位相測定計を備えている。なお、直流電圧源62は、必要に応じて設置する。膜スチフネス測定時のマイクロホン装置の等価回路図は、図7(a)に示すようにコンデンサ部MとCMOSアンプAとが接続され、コンデンサ部の第2の電極であるコンデンサ電極端子Eと、CMOSアンプAの接地端子Eとが、それぞれコンデンサ電極パッドP、接地パッドPとして独立して取り出されて、外部端子を構成している。
【0044】
MEMSチップの一方の入力端に励振電圧を加えると、CMOSアンプの入力端にはMEMSチップの容量とCMOSアンプの入力容量とで分割された電圧が生じる
この電圧がCMOSアンプのゲイン倍(G倍)で増幅された出力電圧がCMOSアンプ出力端に発生する。
【0045】
この入出力電圧の特性はインピーダンス分圧比とゲインで表される。
【数4】

【0046】
次に、このVもしくはV/VinがMEMSチップの電気容量と機械インピーダンスの特性で表されることを説明する。
MEMSマイクロホン20の音響系の機械インピーダンスは、図7(b)に示す電気的な等価回路で表すことができる。
【0047】
ここで、Aは図3に示すMEMSマイクロホンのキャップ101と基板100で構成される機械インピーダンスであり、r1とm1はキャップの孔の機械インピーダンスでC1はキャップと基板で構成される気室のコンプライアンス(即ち、スチフネスの逆数)である。また、Bは図4に示す、振動板(振動膜電極23+エレクトレット膜24)の機械インピーダンスであり、m0は振動板の質量、c0(=1/so)は振動板のコンプライアンス、r0は振動板自身の機械抵抗である。rsは振動板と固定電極で構成される薄流体層の機械抵抗である。
また、r2とm2は振動板の放射インピーダンス、C2は薄流体層のコンプライアンスであり、C3は背気室28と図4の基板で構成される気室の空気コンプライアンスである。
【0048】
このように、空気中にあるMEMSチップ20は、振動板の機械インピーダンスの他に、空気による機械インピーダンスを有しているため、MEMSマイクロホン装置20の入出力応答特性を空気中で測定する場合は、振動板そのものの機械インピーダンス影響を測定することが極めて困難である。
【0049】
この振動板の前部気室や背気室28の空気に起因するコンプライアンスc1、c2、c3は、次の(数5)で表される。
【数5】

C:音響コンプライアンス[m/N]
γ:空気の体積比熱 [J/m3K]
V:気室の容積 [m3]
P0:気圧 [N/m2]
である。
【0050】
この測定装置では、MEMSマイクロホン装置20が真空中に配置されているから、C(=c1、c2、c3)の値は極めて大きい値となり、短絡状態となる。従って、真空容器内のコンデンサ部の等価回路は、振動板自身の機械インピーダンスのみで代表されることになる。
このコンデンサ部の可逆式は、次式(数6)(数7)のように表される(川村雅恭著「電気音響工学概論」株式会社昭晃堂発行、参照)。
【0051】
【数6】

【数7】

V1 : 励振源の交流電圧 [V]
Zm : 被測定振動板の機械インピーダンス
: 励振源の直流電圧 [V]
A : 力係数
ε0 : 真空の誘電率 8.85E-12[F/m]
S : コンデンサ部の面積 [m2]
Cm : コンデンサ部の電気容量 [F]
d0 : エアギャップ間隔 [m]
V : 振動板の速度 [m/sec]
sn : 負スチフネス [N/m]
【0052】
ここで、被測定振動板の機械インピーダンスは、
【数8】

【0053】
また、力係数は、
【数9】

【0054】
また、コンデンサ部の容量は、
【数10】

で表される。
【0055】
また、負スチフネスは、
【数11】

で表される。
【0056】
この(数6)は、振動板の機械的な力の関係に着目した式であり、(数7)は、振動板の電気的な関係に着目した式である。
この測定装置では、MEMSマイクロホン20の振動板を励振源で駆動しているため、外力Fは0であり、(数6)は(数12)のように表される。
【数12】

【0057】
そのため、(数7)は、(数12)を用いて次式(数13)のように変形することができる。
【数13】

【0058】
従って、MEMSチップのインピーダンスは、次式(数14)のようになる。
【数14】

【0059】
このインピーダンスは、図8に示すように、電気容量Cmと振動板機械インピーダンスとが並列に配置された等価回路のインピーダンスに相当している。
このことから、V/Vinは以下のように表されるCMOSアンプの入力インピーダンスは
【数15】

【数16】

となり、振動膜の共振周波数f0と共振のするどさQの関数として表され、位相情報とゲイン共振情報をもった入出力応答曲線がえられる。
【0060】
また、図7(a)の測定回路において、交流電圧Eiの周波数を所定の周波数帯域の各周波数に順次切り替えながら測定することにより、図9および図10に示す周波数−入出力応答曲線aおよび周波数−位相曲線bが得られる。図10は図9の周波数−入出力応答曲線の要部拡大図に周波数−位相曲線を付加したものである。
【0061】
例えば、図9に示した周波数−入出力応答曲線は、表示部52に表示される。
スチフネス算出部51は、この曲線から、反共振点の周波数と共振点の周波数とをサーチし、2周波数の平均を取ることにより共振周波数f0を求め、この値を(数1)に代入してMEMSマイクロホン20の振動板のスチフネスを算出する。
【0062】
あるいは、スチフネス算出部51は、周波数−入出力応答曲線の共振−反共振部の曲線部分と、ゲイン一定曲線との交点を求め、その値を(数1)に代入して振動板のスチフネスを算出する。
【0063】
また、例えば、図9に示した周波数−位相曲線が表示部52に示される。スチフネス算出部51は、この曲線のピークを共振周波数f0として求め、この値を(数1)に代入してMEMSマイクロホン20の振動板のスチフネスを算出する。
【0064】
このように、この膜スチフネス測定方法では、マイクロホン装置の図9に示す周波数―入出力応答曲線a―位相曲線bから共振周波数を求めているため、安価に測定することができる。また、MEMSマイクロホンのようにスチフネスの高い振動板が対象である場合でも、再現性の有る測定結果を短時間で得ることができる。
【0065】
また、測定対象物を真空中に配置して入出力の応力測定を行っているため、振動板の周囲の空気による影響を排除することができ、振動板のみの入出力応答を正確に測定することができる。
【0066】
このときの真空レベルは、10−1〜10−2Torr程度で良く、真空ポンプにより短時間で設定することができる。
また、この測定装置では、入出力応答測定部が、ゲインの絶対値|G|と位相角度とを測定しているため、図7の等価回路でのインピーダンス測定と同等の、正確な測定結果を得ることができる。
【0067】
また、この測定装置では、直流電圧源62から供給される直流電圧Ebを調整することにより、(数14)の力係数Aを変えて、入出力応答の値を適切な大きさに設定することができる。
【0068】
また、入出力応答の測定は、市販の周波数応答測定器を用いても行っても良い。
【0069】
また、表示部52及びスチフネス算出部51は、パーソナルコンピュータ(PC)の機能を用いて実現することができる。この場合、PCから入出力応答測定部40に測定周波数の帯域を指定し、入出力応答測定部40が指定された周波数帯域を走査して入出力測定結果をPCに出力すると、PCの画面にゲインの絶対値|G|と位相角度とが表示されるようにすることができる。
【0070】
そして、このようにして、膜スチフネスを測定し、図11に示すように、半田などにより、コンデンサ電極パッドPとグランドパッドPとを外部電圧調整部を介して接続することで、所望の感度のマイクロホン装置として用いることができる。
【0071】
なお、前記実施の形態では、MEMSマイクロホン装置を用いた場合について説明したが、本発明は、その他の静電型電気音響変換器を対象とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のマイクロホン装置によれば、感度調整が実装後に実現できるため、高精度の感度制御が可能となり、MEMSマイクロホンやエレクトレットコンデンサマイクロホン、に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1で用いられるマイクロホン装置を示す図、(a)は本発明の実施の形態1のマイクロホン装置の等価回路図、(b)は通常のマイクロホン装置の等価回路図、
【図2】本発明の実施の形態で用いられるマイクロホン装置を示す図、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は下面図
【図3】本発明の実施の形態で用いられるマイクロホン装置の内部構成を示す図
【図4】MEMSチップの断面図
【図5】本発明の実施の形態1におけるマイクロホン装置の感度制御電圧と出力電圧との関係を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における膜スチフネス測定装置の概要を示す図
【図7】同装置を示す図、(a)は膜スチフネス測定装置の等価回路を示す図、(b)はMEMSマイクロホンの機械インピーダンスの等価回路を示す図
【図8】本発明の実施の形態における膜スチフネス測定回路の等価回路を示す図
【図9】本発明の実施の形態における膜スチフネス測定方法で測定される周波数−インピーダンス曲線を示す図
【図10】本発明の実施の形態における膜スチフネス測定方法で測定される周波数−位相曲線を示す図
【図11】本発明の実施の形態におけるマイクロホン装置を示す図
【図12】従来例のエレクトレットコンデンサマイクロホンの構成を示す図
【符号の説明】
【0074】
111 振動板
112 固定電極
113 エレクトレット膜
114 スペーサ
115 音孔
116 背気室
117 ケース
118 プリント基板
20 MEMSマイクロホン
21 シリコン基板
22 絶縁層
23 振動膜電極
24 エレクトレット膜
25 第2の絶縁層
26 固定電極
27 音孔
28 背気室
30 真空容器
40 入出力応答測定部
51 スチフネス算出部
52 表示部
61 交流電圧源
62 直流電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極としての振動膜と、前記振動膜に固着された誘電体膜と、前記第1の電極に対向して配設された第2の電極とを具備したマイクロホンで構成されたコンデンサ部と、
前記コンデンサ部の前記第1の電極に接続され、前記コンデンサ部からの信号を増幅する増幅器と、
前記コンデンサ部の第2の電極に接続されるコンデンサ電極端子と、前記増幅器に接続される電圧供給端子と、接地端子と、前記増幅器からの出力端子と
を具備したマイクロホン装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロホン装置であって、
前記コンデンサ部、前記増幅器は、容器内に収納され、
前記電圧供給端子と、前記出力端子と前記コンデンサ電極端子と前記接地端子が、前記容器から導出されたマイクロホン装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロホン装置であって、
前記コンデンサ電極端子は、感度制御電圧印加入力端子であるマイクロホン装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のマイクロホン装置であって、
前記コンデンサ部および増幅器は、同一の基板の第1の面上に搭載され、
前記コンデンサ電極端子、前記電圧供給端子、前記接地端子および前記出力端子が、前記基板の第2の面に、面実装端子として配設されたマイクロホン装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロホン装置であって、
前記コンデンサ電極端子、前記電圧供給端子、前記接地端子および前記出力端子は、同一の端子形状をなし、2行2列に配列されたマイクロホン装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のマイクロホン装置であって、
前記コンデンサ電極端子と前記接地端子とが隣接配置されたマイクロホン装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のマイクロホン装置であって、
前記振動膜に固着された誘電体膜が永久電荷を保持する膜であるマイクロホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−118264(P2009−118264A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289990(P2007−289990)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】