説明

マイクロポンプの構造

【課題】小型で構成が簡単なマイクロポンプを提供する。
【解決手段】マイクロポンプは、(a)ゴム弾性を有する絶縁体の膜の周辺部を支持することにより、周辺部の内側に形成されたダイヤフラム部25と、(b)ダイヤフラム部25の面を面方向に拘束することなく該両面にそれぞれ接する一対の電極26,28と、(c)ダイヤフラム部23に隣接して配置され、ダイヤフラム部23の変形に連動して容積が変化する流路12dとを備える。マイクロポンプは、電極26,28間に電圧が印加されるとダイヤフラム部25の面積が変化して流路12dの容積が変化することにより、流路12d内の流体を搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロポンプの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
微小領域で化学反応を起こし、搬送・分離・検出等の機能デバイスをチップ上で実現するマイクロチップの開発が進められている。
【0003】
マイクロチップは、遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニングなどの化学、生化学、薬学、医学、獣医学分野のみならず、化学工業、環境測定などの幅広い用途に使用できる。マイクロチップ内のマイクロチャンネルや反応容器では流体、主に薬液やサンプル等の液体を扱うが、そのためには流体の流れや移送を制御する流体制御素子、すなわちマイクロポンプ等が必要になる。
【0004】
従来、マイクロポンプは、多くのタイプのものが開発されており、非メカニカルポンプとメカニカルポンプに分けられる。一般的には、後者のメカニカルポンプの方が、流体の電気的性質に作用されず、汎用性に優れているとされている。
【0005】
メカニカルポンプには、高い発生応力が得られる圧電材料を用いたアクチュエータによって駆動するものがある。この種のものは、低電圧で駆動でき、周波数応答性が高い。
【0006】
また、特許文献1には、マイクロポンプなどの使用を目的として吐出圧力を高めるためのダイヤフラムポンプが開示されている。このマイクロポンプは、圧電材料を用いてダイヤフラムを駆動している。
【特許文献1】特開2005ー188355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電材料は通常セラミックスのため小型化が難しく、無機材料であるため大変形に不向きであるため、圧電材料を用いたマイクロポンプは、小型化、高性能化が困難である。また、特許文献1のダイヤフラムポンプは構造が複雑である。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み、小型で構成が簡単なマイクロポンプを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成したマイクロポンプを提供する。
【0010】
マイクロポンプは、(a)ゴム弾性を有する絶縁体の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成されたダイヤフラム部と、(b)前記ダイヤフラム部の両面を面方向に拘束することなく該両面にそれぞれ接する一対の電極と、(c)前記ダイヤフラム部に隣接して配置され、前記ダイヤフラム部の変形に連動して容積が変化する流路とを備える。マイクロポンプは、前記電極間に電圧が印加されると前記ダイヤフラム部の面積が変化して前記流路の容積が変化することにより、前記流路内の流体を搬送する。
【0011】
上記構成によれば、ゴム弾性を有する絶縁体の膜(例えば、絶縁体のエラストマーの膜)により形成されるダイヤフラム部は、電極間に電圧が印加されて電極間に引き合う力が作用すると、電極は電極が接するダイヤフラム部の両面を面方向には拘束しないため、ダイヤフラム部は電極間の圧縮された部分が圧縮方向に垂直な方向に伸び、面積が変化する。例えば、ダイヤフラム部又はダイヤフラムと一体に変形する部分が流路の壁面の一部となるように構成し、ダイヤフラム部の面積の変化に追随して流路の容積が変化する。マイクロポンプは、このような流路の容積変化を利用することで、流路内の流体を搬送することができる。
【0012】
上記構成によれば、小型で構成が簡単なマイクロポンプが実現できる。
【0013】
好ましくは、前記ダイヤフラム部と前記流路との間に、ゴム弾性を有する第2の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成された第2のダイヤフラム部を備える。前記ダイヤフラム部と前記第2のダイヤフラム部との間に、前記一対の電極の一方となる導電性を有する流動体が密閉される。前記ダイヤフラム部の前記流路とは反対側の面に、前記一対の電極の他方となる導電性を有する流動体が粘着されている。
【0014】
この場合、導電性を有する流動体(例えば、導電性グリース)を密封したり、粘着することで、ダイヤフラム部の両面を面方向に拘束することなく該両面に接する電極を簡単に構成することができる。
【0015】
なお、第2のダイヤフラム部を構成する第2の膜は、導電性を有していてもよいが、ダイヤフラム部と同じ膜(絶縁体の膜)を用いると、構成要素を共通化することができるので、第2のダイヤフラム部とダイヤフラム部とが同じ膜であることが好ましい。
【0016】
好ましくは、前記ダイヤフラム部は、絶縁体のエラストマーの膜に予め引張りひずみを加えた状態で該膜の周辺部を支持することにより、該周辺部の内側に形成される。前記ダイヤフラム部の厚みは100μm以下である。前記ダイヤフラム部は、前記一対の電極に印加される電圧により、前記電極間において電界が50V/μm以上となる。
【0017】
エラストマーはゴム弾性を有するが、そのままでは剛性が弱いため、予め引張りひずみをかけて厚みを薄くすることで、剛性も向上し実効的な電界も増加するため、ダイヤフラム部の駆動力を大きくすることができる。ダイヤフラム部の厚みは100μm以下、電界が50V/μm以上となるようにすると、ポンプ駆動に必要な良好なマクスウェル応力を得ることができ、流体を搬送することができる。
【0018】
好ましくは、前記ダイヤフラム部の大きさは、直径3mm以下である。前記ダイヤフラム部を構成する前記エラストマーは、予め、150%以上500%未満の引張りひずみが加えられている。
【0019】
ダイヤフラム部の直径が大きすぎたり、エラストマーの引張りひずみが小さすぎたりすると、ダイヤフラム部の剛性が低下し、発生力低下を招くが、上記の場合、ダイヤフラム部の面積変化と張力とが大きくなり、流体の搬送が可能な駆動力を得ることができる。
【0020】
好ましくは、前記ダイヤフラム部を構成する前記エラストマーの比誘電率が4以上である。
【0021】
この場合、ダイヤフラム部に発生する力は、比誘電率に比例し、比誘電率の値が4以上の材料を用いることで、ポンプ駆動に必要な良好なマクスウェル応力を得ることができる。
【0022】
好ましくは、前記流路に2つの弁が設けられる。前記流路において、前記弁の間に隣接して前記ダイヤフラム部が配置される。前記弁は、PDMS(Polydimethylsiloxane)を用いて、前記流路と一体にモールディングにより形成される。
【0023】
この場合、光硬化性樹脂であるPDMSを鋳型に流し込み硬化させることにより、マイクロポンプや弁を容易に作製することができる。PDMSは、流路の壁面形状を保持するとともに、弁となる部分が弾性変形する程度の剛性を有する。PDMSは透明であるため、流路を流れる流体を外部から光を利用して観察することができる。
【0024】
好ましくは、前記弁は、前記流路の幅が異なる部分の境界付近に、前記流路の壁面から1μm以上、10μm以下の隙間を設けて形成される。
【0025】
この場合、流路と弁とが同じ材質であるため、接触による摩擦や吸着力が大きくなるが、流路の壁面と弁との間に隙間を設けることにより、マイクロポンプは安定な動作が可能となる。流路の壁面と弁との間の隙間が1μm以上であれば、加工精度にばらつきがあっても、弁が流路の壁面と接触しないように作製することができる。一方、流路の壁面と弁との間の隙間が10μm以下であれば、隙間からの流体の漏れは、実用上問題にならない。
【0026】
また、本発明は、以下のように構成したアクチュエータを提供する。
【0027】
アクチュエータは、(a)ゴム弾性を有する絶縁体の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成されたダイヤフラム部と、(b)前記ダイヤフラム部の両面を面方向に拘束することなく該両面にそれぞれ接する一対の電極とを備える。アクチュエータは、前記電極間に電圧が印加されたときの前記ダイヤフラム部のたわみを駆動に利用する。
【0028】
上記構成において、ゴム弾性を有する絶縁体の膜で形成されたダイヤフラム部は、電極間に電圧が印加されて変形してたわむ。ダイヤフラム部のたわみによる変位は、マイクロポンプのダイヤフラムの駆動に限らず、例えば、流路の開閉、スイッチの接離などの駆動に利用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、小型で構成が簡単なマイクロポンプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図10を参照しながら説明する。
【0031】
<実施例1> マイクロポンプを備えたマイクロチップ10について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0032】
図1の断面図に示すように、マイクロチップ10は、一方の開口12xから供給された液体が、マイクロチャンネル(流路)12a〜12gを流れ、他方の開口12yから排出されるようになっている。
【0033】
マイクロチャンネルの中間部分12dの底面には、図において上下方向に昇降するダイヤフラム21が設けられ、その前後には弁12s,12tが設けられ、液体が一方向(図において左から右)に流れるようになっている。
【0034】
マイクロチャンネル12a〜12gや開口12x,12yが形成された流路基板12の下側には、断面円形の貫通穴15,17が形成された一対の2枚の基板14,16が、貫通穴15,17同士が連通するように対向して配置されている。基板14,16の間には、粘着性を有するエラストマーの2枚のシート22,24が面方向に引っ張った状態で挟持されている。2枚のシート22,24は、それぞれ隣接する基板14,16の貫通穴15,17内に略半球状に膨出するダイヤフラム部23,25が形成され、ダイヤフラム部23,25の間に略球状の空間内に、導電性を有する導電性グリース26が充填され密封されている。導電性グリース26は、粘着性があり自由に変形するグリースに、例えばカーボンのような導電性を有する材料が混合されたものであり、導電性を有する。
【0035】
2枚のシート22,24の間には、片面に導電膜32が形成された薄板30が挟持されている。薄板30及び導電膜32は、基板14,16よりも外側に突出し、導電膜32は外部電源40の一方の端子に接続される。薄板30及び導電膜32には、基板14,16の貫通穴15,17よりも小さい貫通孔31,33が形成され、薄板30及び導電膜32が基板14,16の貫通穴15,17より内側に入り込み、シート22,24の間に充填されている導電性グリース26は、導電膜32に接し、外部電源40の一方の端子に電気的に接続されるようになっている。
【0036】
一対の基板14,16のうち、マイクロチャンネル12a〜12gに対向する基板14には、マイクロチャンネル12a〜12gに対向する面に樹脂のカバー層20が形成されている。カバー層20は、基板14の貫通穴15にも形成され、基板14の貫通穴15に形成された部分はダイヤフラム部23に接合し、ダイヤフラム部23と一体に移動してダイヤフラム21を構成する。
【0037】
一対の基板14,16のうち、マイクロチャンネル12a〜12gとは反対側の基板16には、マイクロチャンネル12a〜12gと反対側の面に、片面に導電膜36が形成された薄板34が、貼り付けられている。薄板34及び導電膜36は、基板16よりも外側に突出し、導電膜36には外部電源40の他方の端子が接続される。
【0038】
基板16の貫通穴17の両端は、シート24のダイヤフラム部25と導電膜36とで塞がれ、貫通穴17の内部には、隙間29ができる程度に導電性グリース28が配置されている。導電性グリース29は、ダイヤフラム部25に全体的に接触するとともに、導電膜36に接触し、外部電源40の他方の端子に電気的に接続されている。導電性グリース29は、粘着性があり自由に変形するグリースにカーボン粉末が混合されたものであり、導電性を有する。
【0039】
図1の線II−IIに沿って切断した断面図である図2に示すように、基板12には、マイクロチャンネル12a〜12gと一体に、弁12s,12tが形成されている。弁12s,12tは、幅が広いマイクロチャンネル12c,12fと幅が狭いマイクロチャンネル12b,12eとの境界付近において、幅が狭いマイクロチャンネル12b,12eに連通する開口を覆うように形成されている。弁12s,12tは、マイクロチャンネル12c,12fの壁面に固着しないように、マイクロチャンネル12c,12fの壁面との間に隙間を設けて形成されている。
【0040】
すなわち、図3の要部拡大図に示すように、幅が広いマイクロチャンネル12c,12fの段差面には、弁12s,12tとの接触面積を減らす、幅が狭いマイクロチャンネル12b,12eに連通する開口に沿って筋状に延在する突起、すなわち突条12kが形成されている。
【0041】
例えば、図2及び図3において、幅が広いマイクロチャンネル12c,12fの幅(図のいて上下方向の寸法)は100μ、幅が狭いマイクロチャンネル12b,12eの幅は50μm、弁12s,12tの厚さ(図において左右方向の寸法)は10μmである。
【0042】
突条12kと弁12s,12tとの間には隙間S1が形成され、弁12s,12tとマイクロチャンネル12c,12fの壁面との間には隙間S2が設けられている。また、図3の線IV−IVに沿って切断した要部拡大断面図である図4に示すように、マイクロチャンネル12c,12fの底面20aと弁12s,12tの下端12p,12qとの間には隙間S3が設けられている。
【0043】
これらの隙間S1,S2,S3の大きさは、それぞれ、1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。マイクロチャンネル12c,12fの壁面と弁12s,12tとが同じ材質であるため、接触による摩擦や吸着力が大きくなるが、マイクロチャンネル12c,12fの壁面と弁12s,12tとの間に隙間S1,S2,S3を設けることにより、マイクロポンプは安定な動作が可能となる。隙間S1,S2,S3の大きさが1μmであれば、加工精度にばらつきがあっても、弁12s,12tがマイクロチャンネル12c,12fの壁面に接触しないように作製することができる。隙間S1,S2,S3の大きさが10μm以下であれば、隙間S1,S2,S3からの流体の漏れは、実用上問題にならない。
【0044】
次に、マイクロポンプの動作について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0045】
図5(a)に示すように、シート52の両面に電極54,56が接するように配置し、図5(b)に示すように、電極54,56を電源50に接続して電圧を印加すると、電極54,56の電荷により引き合う力が作用する。この力によって、シート54は、電極54,56間に挟まれた部分が圧縮される。このとき、電極54,56が導電性を有する導電性グリースのようにシート54の面に接触しながら自由に変形するものであれば、シート54は電極54,56によって面方向の変形が拘束されないので、電極54,56による圧縮で厚みが小さくなり、矢印58で示すように面方向に伸びる。
【0046】
図6(a)に示すように、導電性グリース26,28間に電圧を印加すると、導電性グリース26,28間に挟まれたダイヤフラム部25が伸びる。このとき、他方のダイヤフラム部23は張力が作用した状態であり、ダイヤフラム部23,25の間に導電性グリース26が密封されているので、上側のダイヤフラム23が縮む。これによって、矢印50で示すように、マイクロチャンネル12dの壁面の一部を構成するダイヤフラム21が下降し、マイクロチャンネル12dの容積が増え、マイクロチャンネル12d内に流体が吸引される。この吸引によって、弁12s,12tはマイクロチャンネル12d側にたわむので、幅の相対的に広いマイクロチャンネル12cと幅が相対的に狭いマイクロチャンネル12bとの境界付近に設けられた上流側の弁12sは開き、幅が相対的に狭いマイクロチャンネル12eと幅の相対的に広いマイクロチャンネル12fとの境界付近に設けられた下流側の弁12tは閉じ、矢印52で示すように、上流側からマイクロチャンネル12d内に流体が流れ込む。
【0047】
導電性グリース28は、基板16の貫通穴17に隙間29が形成される程度に充填され、ダイヤフラム部25が伸びたときでも隙間29が形成され、ダイヤフラム部25が自由に変形できるようにする。
【0048】
次いで、導電性グリース26,28に電圧を印加するのを止めると、図6(b)に示すように、下側のダイヤフラム部25が伸びた状態から縮み、上側のダイヤフラム部23が縮んだ状態から伸び、矢印54で示すように、ダイヤフラム12が上昇し、マイクロチャンネル12d内から流体が吐出される。このときには、上流側の弁12sが閉じ、下流側の弁12tが開き、矢印56で示すように、マイクロチャンネル12d内の流体が下流側に流れ出る。
【0049】
次に、マイクロチップ10の作製例について、図7〜図9を参照しながら説明する。
【0050】
図7(a)に示すように、シート60の両端を治具で挟み、矢印64で示すように引っ張る。このとき、一方向(X方向)に引っ張った後、さらにこれと直角方向(Y方向)に引張り、面方向に張力を加えた状態で保持する。シート60には、エラストマーのシート、例えば『3M VHB 粘着フィルム(adhesive film)』を用い、元の寸法からX,Y方向に500%ずつ引張り、厚さを25μmにする。3M VHB 粘着フィルムは、比誘電率が4.7のエラストマーである。
【0051】
シート60には、比誘電率が4以上のエラストマーを用いることが好ましい。シート60により形成されるダイヤフラム部に発生する力は、シート60の材料が示す比誘電率に比例し、比誘電率の値が4以上の材料を用いることで、ポンプ駆動に必要な良好なマクスウェル応力を得ることができる。
【0052】
次いで、図7(b)に示すように、シート60の片面に、貫通穴15,17が形成された基板14,16を貼り付け、基板14,16からはみ出たシート60を切断する。例えば、基板14には厚さ0.5mmの透明なアクリル板を用い、基板16には厚さ1.0mmの透明なアクリル板を用いる。各基板14,16には、直径1.5mmの貫通穴15,17を形成する。
【0053】
次いで、図7(c)に示すように、基板14,16のシート60を貼り付けていない面に、貫通穴15,17を覆うように吸引治具70を取り付け、矢印72に示すように吸引し、シート60が基板14,16の貫通穴15,17を覆う部分23,25に、凹み23x,25xを形成する。例えば、大気圧との差圧が0.1Paとなるように吸引する。
【0054】
次いで、図7(d)に示すように、凹み23x,25xに導電性グリース26を充填し、シート22,24同士が対向するように配置した基板14,16の間に、片面に導電膜32が形成された薄板30を配置し、薄板30及び導電膜32の貫通穴31,33の位置と凹み23x,25xの位置とを揃えて重ね合わせ、接合する。例えば、薄板30として厚さ100μmのOHPシート(ポリエステルシート)を用い、その片面に、導電膜32としてAlを蒸着する。
【0055】
次いで、図8(e)に示すように、一方の基板14の上面と貫通穴15に樹脂を塗布してカバー層20とダイヤフラム21とを形成するとともに、他方の基板16の貫通穴17に導電性グリース28を充填する。例えば、PDMS(Polydimethylsiloxane)をスピンコートし、加熱して硬化させることにより、基板14上に厚さ30μmのカバー層20を形成する。
【0056】
次いで、図8(f)に示すように、上面に導電膜36が形成された薄板34に、他方の基板16の下面側を重ね、接合し、導電性グリース28が充填された他方の基板16の貫通穴17を塞ぐ。
【0057】
次いで、図8(g)に示すように、一方の基板14の上面に形成されたカバー層20の上に、予めマイクロチャンネル12a〜12g、弁12s,12t、開口12x,12yが形成された基板12を重ね、基板12をカバー層20に接合する。これによって、マイクロチップが完成する。例えば、基板12は、カバー層20と同じ材料PDMSで形成することにより、基板12とカバー層20とを接触させるだけで接合することができる。なお、カバー層20と基板12とでは、PDMSに添加する硬化剤の量を変えて、それぞれの用途に応じた特性を得るようにする。
【0058】
マイクロチャンネル12a〜12g、弁12s,12t、開口12x,12yが形成された基板12は、図9に示すように作製する。
【0059】
すなわち、図9(a)に示すように、ベース80上に、図4に示す弁12s,12tの下端12p,12qとマイクロチャンネル底面20aとの間の隙間S3に対応して、底上部82を、弁12s,12tの下端12p,12q及びその近傍に対応する位置に形成する。底上部82は、例えば、光硬化性樹脂であるSU−8(microchem社製)を塗布し、底上部82となる部分に平行光を露光した後に加熱して、平行光の透過部分を硬化さ、現像液を用いて非透過部分を除去する。これによって、例えば3μmの高さの底上部82を形成する。
【0060】
次いで、図9(b)に示すように、マイクロチャンネル12a〜12gの空間に対応する流路部分84を作製する。流路部分84は、例えばSU−8を用い、平行光を露光した後に加熱、現像して、50μmの高さに形成する。
【0061】
次いで、図9(c)に示すように、ベース80上に樹脂88を流し込み、底上部82及び流路部分84の形状を、樹脂88に転写する。樹脂88を流し込む前又は流し込んだ後に開口12x,12yに対応する位置に円柱状の部材86を挿入し、円柱状の部材86を挿入したままの状態で、樹脂88を硬化させる。
【0062】
例えば、樹脂88には、PDMSを用いる。PDMSは、透明な光硬化性樹脂であるので、鋳型に流し込み硬化させることにより、マイクロポンプを容易に作製することができる。PDMSは、マイクロチャンネル12a〜12gの形状を保持するとともに、弁12s,12tが弾性変形する程度の剛性を有する。PDMSは透明であるため、マイクロチャンネルを流れる流体を外部から光を利用して観察することができる。
【0063】
次いで、樹脂88のみを取り出すことにより、図9(d)に示すように基板12が完成する。
【0064】
次に、マイクロチップ10に作製したマイクロポンプの特性について、図10〜図12のグラフを参照しながら説明する。
【0065】
図10(a)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧(Voltage)と、ダイヤフラム部23の変位(Displacement)の関係を示す。ダイヤフラム部23の変位は、導電性グリース26にAg粒子を混合し、基板12側からレーザー変位計を用い、導電性グリース26からの反射光により測定した。なお、Ag粒子を導電性グリース26に混合しても、ポンプ特性に変化は見られなかった。灰色の△は予めX、Y方向に200%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用いた場合、灰色の□は予めX、Y方向に300%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用いた場合、黒色の◆は予めX、Y方向に400%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用いた場合を示す。予め与える引張りひずみが150%以上であれば、電圧に応じて変位が変化し、マイクロポンプを駆動できることが分かる。予め与える引張りひずみが500%以上では、引張りひずみを大きくしても、電圧と変位との関係が変らなくなり、引張りひずみを予め与えることによる効果が飽和する。
【0066】
図10(b)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧(Voltage)の周波数(Frequency)とダイヤフラム部23の変位(Displacement)の関係を示す。灰色の△は予めX、Y方向に200%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用い、2.4kVの電圧を印加した場合、灰色の□は予めX、Y方向に300%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用い、2.7kVの電圧を印加した場合、黒色の◆は予めX、Y方向に400%ずつの引張りひずみを与えたエラストマーのシート60を用い、3.3kVの電圧を印加した場合を示す。
【0067】
図11(a)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧の周波数と、流速(Flow rate;黒い◆)及び背圧(Blocked pressure;灰色の□)の関係を示す。導電性グリース26,28間に印加する電圧の周波数が10Hz〜100Hz程度の範囲内で、良好に駆動することができることが分かる。
【0068】
図11(b)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧の大きさと、流速(Flow rate;黒い◆)及び背圧(Blocked pressure;灰色の□)の関係を示す。電圧を大きくするほど、駆動力が大きくなることが分かる。
【0069】
図12(a)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧の周波数と、出力(Power;黒い◆)及び効率(Efficency;灰色の□)の関係を示す。出力は流体を搬送するときのエネルギーである。効率は、電圧印加による入力した電気エネルギーに対し、出力として得られる流体の搬送エネルギーの割合である。周波数が10Hz〜100Hz程度の範囲内では効率よく駆動することができることが分かる。
【0070】
図12(b)は、導電性グリース26,28間に印加する電圧の周波数と、ダイヤフラム部23の変位との関係を示す。黒色は背圧がない場合、灰色は背圧が3.5kPaの場合を示す。いずれの場合も、マイクロポンプで搬送する流体は水である。
【0071】
図10(a)及び図11(b)から、導電性グリース26,28間に印加する電圧が1kV以上であれば、流体を搬送することができる。このとき、ダイヤフラム部25の厚さは20μm程度であるので、ダイヤフラム部25に印加される電界が50V/μm以上であれば、流体を搬送することができる。
【0072】
<実施例2> 実施例2のマイクロポンプについて、図13の要部断面図を参照しながら説明する。
【0073】
実施例2のマイクロポンプは、実施例1と略同様に構成されている。実施例1と同様の構成部分には同じ符号を用い、以下では相違点を中心に説明する。
【0074】
実施例2のマイクロポンプは、カバー層20xとダイヤフラム部23との間に、導電性グリース27を充填している。ダイヤフラム部23に接する導電性グリース27は不図示の配線によって電源部に電気的に接続されている。電源部は、導電膜36を介して、ダイヤフラム部25に接する導電性グリース28にも電気的に接続されている。ダイヤフラム部23,25の間に充填された導電性グリース26は、導電膜32を介して、接地されている。電源部は、±Vの交流電圧を印加するが、−V〜0の負の電圧はダイヤフラム部23に接する導電性グリース27のみに印加し、0〜+Vの正の電圧はダイヤフラム部25に接する導電性グリース28に印加する回路を含んでいる。これによって、±Vの交流電圧の半周期ごとに、ダイヤフラム部23,25が交互に伸縮するので、同じ交流電圧を印加した場合、ダイヤフラム21xの変位量は、ダイヤフラム部25のみが伸縮する実施例1の場合の2倍となり、ダイヤフラム21xの駆動周波数はダイヤフラム部25のみが伸縮する実施例1の場合の半分となる。
【0075】
<まとめ> 以上に説明したように、マイクロポンプは、駆動源としてエラストマー材料の伸縮を用いている。一般に市販されているエラストマーは剛性が弱いが、予め引張りひずみをかけて厚みを薄くすることで、剛性も向上し実効的な電界も増加するため、マイクロポンプの駆動力を大きくすることができる。エラストマーは絶縁性が高いので、高い電圧を印加することができ、マイクロポンプの高出力化を図ることができる。
【0076】
電極に導電性グリースを用いることにより、エラストマーは、面方向の変形が拘束されないため、面方向に大きく変形することができる。また、エラストマーを2層構造とすることで、安定に導電性グリースを封じ込めることができる。
【0077】
本発明のマイクロポンプは、高電圧を必要とするが、ポンプ自体の構造は小型化が可能である。
【0078】
ポンプとして機能させるためには、流路のバルブ機能を付与する必要があるが、PDMSに型を転写して、マイクロチャンネル12a〜12gと弁12s,12tとを一体化して作製することにより、工程の簡略化と信頼性の高いマイクロバルブの作製が可能である。
【0079】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0080】
電極には導電性グリース以外を用いてもよい。例えば、ダイヤフラム部23,25の間には、導電性グリース以外の導電性を有する流動体を密閉してもよい。
【0081】
また、ダイヤフラム部の周囲を連続的に支持する代わりに、2箇所以上を間欠的に支持してもよい。ダイヤフラム部の平面形状は円形に限らず、三角形、矩形、多角形、非対称形など、任意の形状とすることができる。
【0082】
ダイヤフラム部の昇降は、マイクロポンプ以外の駆動に利用することができる。例えば、ダイヤフラム部の昇降によって、流路が開閉されるようにしたり、スイッチが接離するようにしたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】マイクロチップの断面図である。(実施例1)
【図2】図1の線II−IIに沿って切断した断面図である。(実施例1)
【図3】図2の要部拡大断面図である。(実施例1)
【図4】図3の線IV−IVに沿って切断した断面図である。(実施例1)
【図5】シートの伸縮の説明図である。(実施例1)
【図6】マイクロポンプの動作の説明図である。(実施例1)
【図7】マイクロチップの作製工程の説明図である。(実施例1)
【図8】マイクロチップの作製工程の説明図である。(実施例1)
【図9】マイクロチップの作製工程の説明図である。(実施例1)
【図10】マイクロポンプの特性を示すグラフである。(実施例1)
【図11】マイクロポンプの特性を示すグラフである。(実施例1)
【図12】マイクロポンプの特性を示すグラフである。(実施例1)
【図13】マイクロポンプの要部拡大断面図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0084】
12a〜12g マイクロチャンネル(流路)
12s,12t 弁
20 カバー層
21 ダイヤフラム
22 シート(膜)
23 ダイヤフラム部(第2のダイヤフラム部)
22 シート(膜)
25 ダイヤフラム部
26 導電性グリース(電極)
28 導電性グリース(電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム弾性を有する絶縁体の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成されたダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の両面を面方向に拘束することなく該両面にそれぞれ接する一対の電極と、
前記ダイヤフラム部に隣接して配置され、前記ダイヤフラム部の変形に連動して容積が変化する流路と、
を備え、
前記電極間に電圧が印加されると前記ダイヤフラム部の面積が変化して前記流路の容積が変化することにより、前記流路内の流体を搬送することを特徴とする、マイクロポンプ。
【請求項2】
前記ダイヤフラム部と前記流路との間に、ゴム弾性を有する第2の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成された第2のダイヤフラム部を備え、
前記ダイヤフラム部と前記第2のダイヤフラム部との間に、前記一対の電極の一方となる導電性を有する流動体が密閉され、
前記ダイヤフラム部の前記流路とは反対側の面に、前記一対の電極の他方となる導電性を有する流動体が粘着されていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記ダイヤフラム部は、絶縁体のエラストマーの膜に予め引張りひずみを加えた状態で該膜の周辺部を支持することにより、該周辺部の内側に形成され、
前記ダイヤフラム部の厚みは100μm以下であり、
前記ダイヤフラム部は、前記一対の電極に印加される電圧により、前記電極間において電界が50V/μm以上となることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロポンプ。
【請求項4】
前記ダイヤフラム部の大きさは、直径3mm以下であり、
前記ダイヤフラム部を構成する前記エラストマーは、予め、150%以上500%未満の引張りひずみが加えられていることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載のマイクロポンプ。
【請求項5】
前記ダイヤフラム部を構成する前記エラストマーの比誘電率が4以上であることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載のマイクロポンプ。
【請求項6】
前記流路に2つの弁が設けられ、
前記流路において、前記弁の間に隣接して前記ダイヤフラム部が配置され、
前記弁は、PDMS(Polydimethylsiloxane)を用いて、前記流路と一体にモールディングにより形成されることを特徴とする、請求項1〜5に記載のマイクロポンプ。
【請求項7】
前記弁は、前記流路の幅が異なる部分の境界付近に、前記流路の壁面から1μm以上、10μm以下の隙間を設けて形成されていることを特徴とする、請求項6に記載のマイクロポンプ。
【請求項8】
ゴム弾性を有する絶縁体の膜の周辺部を支持することにより、前記周辺部の内側に形成されたダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の両面を面方向に拘束することなく該両面にそれぞれ接する一対の電極と、
を備え、
前記電極間に電圧が印加されたときの前記ダイヤフラム部のたわみを駆動に利用することを特徴とする、アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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