マイクロマニピュレータおよびその駆動方法
【課題】微小対象物をソフトに把持したり、微小部位を正確に切断したりすることが容易に行なえるマイクロマニピュレータを提供する。
【解決手段】マイクロマニピュレータ1が先端部分に高分子アクチュエータ11および操作具10を備えた少なくとも一本以上のピペット4と、リード線9を介して高分子アクチュエータ11と電極8間へ電圧を印加する電圧印加装置とから構成され、ピペット4が液中にある前記微小対象物3を、高分子アクチュエータ11の伸縮を利用して、把持、移動または切断などの操作を行なえるようにした。
【解決手段】マイクロマニピュレータ1が先端部分に高分子アクチュエータ11および操作具10を備えた少なくとも一本以上のピペット4と、リード線9を介して高分子アクチュエータ11と電極8間へ電圧を印加する電圧印加装置とから構成され、ピペット4が液中にある前記微小対象物3を、高分子アクチュエータ11の伸縮を利用して、把持、移動または切断などの操作を行なえるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡視野下において微細作業を行なうマイクロマニピュレータとその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から直接触れることのできない微細な対象物を間接的に操作する装置としてマイクロマニピュレータが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
マイクロマニピュレータ101は、図9に示すように微細な対象物を観察するための顕微鏡102と、微粒子や微生物などの微細対象物103を操作するピペット104と、ピペット104を目的位置へ移動および微作動させるための電磁式駆動装置105と、ピペット104を電磁式駆動装置105に固定しているアーム106からなる。本構成によれば、顕微鏡による観察下において、例えば図示しないジョイスティックにより、モータなどの電磁式駆動装置105が駆動することで、ピペット104は位置決めされ、微細対象物は把持されたり、移動されたり、切断されたりしている。
【0003】
また、従来の高分子アクチュエータを利用したデバイスは、イオン交換樹脂成形体を用いている(例えば、特許文献1参照)。イオン交換樹脂成形体は電圧が印加されると屈曲変位する。イオン交換樹脂成形体はピペット先端に取り付けられ、操作具は首ふりの動作をするものである。
【非特許文献1】計測と制御、「細胞微細操作」Vol.23、No.9、P32−38
【特許文献1】特開平11−198069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のマイクロマニピュレータは、ピペットが電磁駆動装置により動作されているが、ピペット先端と電磁駆動装置間にはアームがあるために、ピペット重量等によりアームは撓みを生じ、位置決めした場所に微小対象物がない等、操作性が低下するという問題が生じていた。
また、電磁駆動装置の位置決め制御により、ピペットは微小対象物に接触するが、微小対象物への接触力は制御されないため、微小対象物が破損するという問題が生じていた。
【0005】
また、イオン交換樹脂成形体を用いた高分子アクチュエータは、大きな屈曲動作が可能であるが、伸縮動作については十分でなく、それゆえ伸縮動作が求められる用途に対しては不向きであるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
微粒子や微生物などの微小対象物を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡観察下で前記微小対象物を把持又は移動又は切断など操作するピペットと、前記ピペットを把持したアームと、前記アームに連結し、前記ピペットを移動させるための電磁式駆動装置とを備えたマイクロマニピュレータにおいて、先端部分に高分子アクチュエータおよび操作具を備え、溶液中に配置された少なくとも一本以上のピペットと、溶液中に配置された電極と、前記高分子アクチュエータおよび前記電極の両方にリード線を通じて電圧を印加する電圧印加装置とからなるものである。
請求項2に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、導電性高分子からなるものである。
請求項3に記載の発明は、前記導電性高分子が、ポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類からなるものである。
請求項4に記載の発明は、前記ピペットの先端に具備された前記高分子アクチュエータの外周に,前記電極が形成されたものである。
請求項5に記載の発明は、前記電極の形状が,網目状であるものである。
請求項6に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、前記高分子アクチュエータの外周面に伸縮動作を案内するガイドを具備したものである。
請求項7に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、前記高分子アクチュエータおよび前記電極間へ電圧が印加された際に伸縮し、微小対象物の把持、移動または切断等が行われるものである。
請求項8に記載の発明は、前記高分子アクチュエータと前記溶液中の電極間の電位差が、正または負の極性になるように切り替えることで、前記高分子アクチュエータの伸縮を制御するものである。
請求項9に記載の発明は、前記電圧印加装置の制御方法が、前記高分子アクチュエータが伸縮する際の電流値の変化を検出し、該検出値をもとにフィードバック制御し、印加電圧を生成するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によると、ピペット先端に操作具および高分子アクチュエータが備えられ、操作具は、高分子アクチュエータの伸縮動作により微小対象物へ位置決めされるので、アームの撓み量は関係なく、微小対象物の操作性が向上する。
請求項2および3に記載の発明によると、導電性高分子にポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類が用いられたことで、高分子アクチュエータは、大きな伸縮動作が得られ、把持や移動や切断に適した動きを操作具に与えられる。
請求項4に記載の発明によると、電極が高分子アクチュエータの外周に形成され,ピペット,操作具と共に一体としたことで,操作性を大幅に向上させることができる。
請求項5に記載の発明によると、高分子アクチュエータの外周に形成させた電極の形状を網目状としたことで,電極面積が大きくなり,高分子アクチュエータの伸縮がスムーズになり,操作性がより向上する。
請求項6に記載の発明によると、高分子アクチュエータがガイドにより案内されることより、操作具の動きがより安定し、精度良い動作が可能である。
請求項7から9に記載の発明によると、高分子アクチュエータの伸長または収縮する際の電流値の変化からフィードバック制御されたことで、微小対象物は破損されることなく操作される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明のマイクロマニピュレータ1の全体像を模式的に示している。
1はマイクロマニピュレータ、2は顕微鏡、3は微小対象物、4はピペット、5は電磁式駆動装置、6はアーム、7は電圧印加装置、8は電極、9はリード線である。
本発明のマイクロマニピュレータ1は、微細な対象物を観察するための顕微鏡2と、液中に有る微粒子や微生物などの微小対象物3を操作するピペット4と、ピペット4を近傍へ位置決めする電磁式駆動装置5と、ピペット4を電磁式駆動装置5に固定しているアーム6と、液中に配置された電極8と、電圧印加装置7と電極8間を接続するリード線9とから構成されている。
次にピペット4の先端は、図2に示すように操作具10と高分子アクチュエータ11とから構成されている。
操作具10は、セラミックス、プラスチック、金属などの材質からなり、その先端は尖った形状やナイフ形状などからなり、用途や目的に応じて材質、形状が選択される。
高分子アクチュエータ11は、ポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子であり、内部にはマイナスイオンがドープされている。また、高分子アクチュエータ11と操作具10とは螺子止め、もしくは接着等の手段によって接合され、ピペット4の内部を通っているリード線9と電気的に接合されている。
【0010】
次に微小対象物3を把持する動作について図1、図3と図4を用いて説明する。操作者は顕微鏡2により微小対象物3を観察し、2つある電磁式駆動装置5をそれぞれ駆動し、各電磁式駆動装置5のアーム6に固定されたピペット4を微小対象物3の近傍まで移動させる。
次に、電圧印加装置7により電圧が高分子アクチュエータ11と電極8間に印加され、操作具10は、図3に示すように高分子アクチュエータ11の伸長により微小対象物3を把持し、また収縮により微小対象物3を放すように動作する。操作具10により把持された微小対象物3は、電磁式駆動装置5により目的の位置まで移動される。
次に、高分子アクチュエータ11の動作原理について図4を用いて説明する。高分子アクチュエータ11は高分子アクチュエータ11と電極8間に印加された電圧で生じる還元または酸化により伸長または収縮する。
高分子アクチュエータ11が収縮する場合について説明する。高分子アクチュエータ11は、電極8に対してマイナスの電圧を印加されることにより還元される。これにより、高分子アクチュエータ11中にドープされていたマイナスイオンが放出され、高分子アクチュエータ11は収縮する。
高分子アクチュエータ11が伸長する場合について説明する。高分子アクチュエータ11は電極8に対してプラスの電圧を印加されることにより酸化される。これにより、溶液中のマイナスイオンが取り込まれ、高分子アクチュエータ11は伸長する。
このように高分子アクチュエータ11が、電極8を基準としてプラスまたはマイナスの電圧を印加されることにより、高分子アクチュエータ11は伸長または収縮する。
次に高分子アクチュエータ11の把持力の制御方法について説明する。把持力は、図5に示されるように電圧印加装置7で制御される。
電圧印加装置7は、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮による電流変化をフィードバック電圧に置換する電流検出回路13と、フィードバック電圧から高分子アクチュエータ11の発生力を制御する力制御回路14と、力制御回路14の電圧指令にしたがって動作する電圧発生回路15とから構成されている。
高分子アクチュエータ11の伸長または収縮による電流値の変化量は、抵抗12で検出され、電流検出回路13でフィードバック電圧に変換する。このフィードバック電圧値をもとに、力制御回路14で高分子アクチュエータ11の発生力が算出され、力指令との差分値が電圧印加指令として電圧発生装置15に与えられる。電圧発生回路15において電圧印加指令に応じた電圧が生成され、高分子アクチュエータ11と電極8間へ電圧が印加される。
このように高分子アクチュエータ11の発生力が制御されることにより、微小対象物3は破損することなく、把持操作される。
【0011】
本発明が非特許文献1と異なる部分は、ピペット4の先端に高分子アクチュエータ11を備え、また、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮を検出する電流検出用の抵抗12を備え、高分子アクチュエータ11の発生力を制御するようにした部分である。
また、本発明が特許文献1と異なる部分は、高分子アクチュエータ11の高分子の材質にポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子を用い、大きな伸縮動作が得られるようにした部分である。
なお、本実施例では2本のピペット4を備えたマイクロマニピュレータ1について説明したが、これに限定されるものではなく、ピペット4は1本でもよいし、必要に応じて3本以上用いられてもよい。
また、導電性高分子はポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレン等も用いることもできる。また操作具10の形状も刃状としてもよいし、薬液を注入できるような注射針のように加工したものを用いても良い。
また、電圧印加装置7の制御方法は力制御について述べたが、高分子アクチュエータ11の伸縮による電流値の変化を変形量として用いても良く、高分子アクチュエータ11の位置制御方法としても良い。
さらに、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮は電流値の変化から求められたが、ひずみゲージが高分子アクチュエータ11表面に貼られる等、直接高分子アクチュエータ11の変位が求められる方法でも良い。
【実施例2】
【0012】
次に、本発明の第2実施例を説明する。図6は、第2実施例におけるピペット4の詳細構成を示す断面図である。第2実施例が、第1実施例と異なる点は、ガイド16が高分子アクチュエータ11を移動方向に案内するように形成されている部分である。ガイド16は樹脂やセラミックなどの材質からなり、ピペット4に固定され、高分子アクチュエータ11の外周面に、空隙を介して配置されている。
なお、動作については実施例1と同様であるので省略する。本実施例では、ガイド16が設けられたことで、水平に配置された際の高分子アクチュエータ11の撓み量が補正されることや、伸長または収縮の直線性が高められることにより、微小対象物3を把持する際の力制御や位置決め制御が精度良く行われる。
【実施例3】
【0013】
次に、本発明の第3実施例を説明する。図7は、第3の実施例におけるピペット4の先端構成を示す断面図である。第1および第2の実施例と異なる点は、電極8は,高分子アクチュエータ11を取り巻くように,その外周に沿って形成されており,その形状は網目状に形成されている部分である。また,電極8はリード線9により,電圧印加装置7につながっている。
ここで、電極8の形状は筒状などでも良いが,網目状の方が,電極面積が増加し,高分子アクチュエータの伸縮がスムーズになり,操作性がより向上する。
尚、動作については実施例1と同様であるので省略する。微小対象物3を把持する動作については,電極8がピペット,操作具と共に一体となっているので,操作性が大きく向上する。
【実施例4】
【0014】
次に、本発明の第3実施例を説明する。図8は、第4実施例におけるピペット4の先端構成を示す断面図である。第3の実施例と異なる点は、ピペット4の先端は,操作具10と高分子アクチュエータ11と電極8とガイド16から構成されており、ガイド16が高分子アクチュエータ11と電極8の間に形成されている部分である。ガイド16は,樹脂やセラミックなどの電気絶縁性の材質からなり,ピペット4に固定され,高分子アクチュエータ11の外周面,また,電極8の内周面に,空隙を介して配置されている。
なお,動作については実施例1と同様であるので省略する。本実施例では,ガイド16が設けられたことで,水平に配置された際の高分子アクチュエータ11の撓み量が補正されることや,伸長または収縮の直線性が高められることにより,微小対象物3を把持する際の力制御や位置決め制御が精度良く行われる。また,高分子アクチュエータ11と電極8が接触して短絡するのを防止する事ができるので,信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
超小型化が可能であり、軽量であるので、医療関連や半導体製造関連用途のマイクロマシンとして適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマイクロマニピュレータの全体図
【図2】第1実施例を示すマイクロマニピュレータのピペットの断面図
【図3】第1実施例における高分子アクチュエータの動作を示す模式図
【図4】第1実施例におけるマイクロマニピュレータの伸縮の動作を示す模式図
【図5】第1実施例における高分子アクチュエータの制御回路を示す構成図
【図6】第2実施例を示すマイクロマニピュレータのピペットの断面図
【図7】第3の実施例を示すピペットの先端構成を示す断面図
【図8】第4実施例におけるピペットの先端構成を示す断面図
【図9】従来のマイクロマニピュレータの全体図
【符号の説明】
【0017】
1 マイクロマニピュレータ
2 顕微鏡
3 微小対象物
4 ピペット
5 電磁式駆動装置
6 アーム
7 電圧印加装置
8 電極
9 リード線
10 操作具
11 高分子アクチュエータ
12 抵抗
13 電流検出回路
14 力制御回路
15 電圧発生回路
16 ガイド
101 従来のマイクロマニピュレータ
102 顕微鏡
103 微小対象物
104 ピペット
105 電磁式駆動装置
106 アーム
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡視野下において微細作業を行なうマイクロマニピュレータとその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から直接触れることのできない微細な対象物を間接的に操作する装置としてマイクロマニピュレータが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
マイクロマニピュレータ101は、図9に示すように微細な対象物を観察するための顕微鏡102と、微粒子や微生物などの微細対象物103を操作するピペット104と、ピペット104を目的位置へ移動および微作動させるための電磁式駆動装置105と、ピペット104を電磁式駆動装置105に固定しているアーム106からなる。本構成によれば、顕微鏡による観察下において、例えば図示しないジョイスティックにより、モータなどの電磁式駆動装置105が駆動することで、ピペット104は位置決めされ、微細対象物は把持されたり、移動されたり、切断されたりしている。
【0003】
また、従来の高分子アクチュエータを利用したデバイスは、イオン交換樹脂成形体を用いている(例えば、特許文献1参照)。イオン交換樹脂成形体は電圧が印加されると屈曲変位する。イオン交換樹脂成形体はピペット先端に取り付けられ、操作具は首ふりの動作をするものである。
【非特許文献1】計測と制御、「細胞微細操作」Vol.23、No.9、P32−38
【特許文献1】特開平11−198069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のマイクロマニピュレータは、ピペットが電磁駆動装置により動作されているが、ピペット先端と電磁駆動装置間にはアームがあるために、ピペット重量等によりアームは撓みを生じ、位置決めした場所に微小対象物がない等、操作性が低下するという問題が生じていた。
また、電磁駆動装置の位置決め制御により、ピペットは微小対象物に接触するが、微小対象物への接触力は制御されないため、微小対象物が破損するという問題が生じていた。
【0005】
また、イオン交換樹脂成形体を用いた高分子アクチュエータは、大きな屈曲動作が可能であるが、伸縮動作については十分でなく、それゆえ伸縮動作が求められる用途に対しては不向きであるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
微粒子や微生物などの微小対象物を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡観察下で前記微小対象物を把持又は移動又は切断など操作するピペットと、前記ピペットを把持したアームと、前記アームに連結し、前記ピペットを移動させるための電磁式駆動装置とを備えたマイクロマニピュレータにおいて、先端部分に高分子アクチュエータおよび操作具を備え、溶液中に配置された少なくとも一本以上のピペットと、溶液中に配置された電極と、前記高分子アクチュエータおよび前記電極の両方にリード線を通じて電圧を印加する電圧印加装置とからなるものである。
請求項2に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、導電性高分子からなるものである。
請求項3に記載の発明は、前記導電性高分子が、ポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類からなるものである。
請求項4に記載の発明は、前記ピペットの先端に具備された前記高分子アクチュエータの外周に,前記電極が形成されたものである。
請求項5に記載の発明は、前記電極の形状が,網目状であるものである。
請求項6に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、前記高分子アクチュエータの外周面に伸縮動作を案内するガイドを具備したものである。
請求項7に記載の発明は、前記高分子アクチュエータが、前記高分子アクチュエータおよび前記電極間へ電圧が印加された際に伸縮し、微小対象物の把持、移動または切断等が行われるものである。
請求項8に記載の発明は、前記高分子アクチュエータと前記溶液中の電極間の電位差が、正または負の極性になるように切り替えることで、前記高分子アクチュエータの伸縮を制御するものである。
請求項9に記載の発明は、前記電圧印加装置の制御方法が、前記高分子アクチュエータが伸縮する際の電流値の変化を検出し、該検出値をもとにフィードバック制御し、印加電圧を生成するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によると、ピペット先端に操作具および高分子アクチュエータが備えられ、操作具は、高分子アクチュエータの伸縮動作により微小対象物へ位置決めされるので、アームの撓み量は関係なく、微小対象物の操作性が向上する。
請求項2および3に記載の発明によると、導電性高分子にポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類が用いられたことで、高分子アクチュエータは、大きな伸縮動作が得られ、把持や移動や切断に適した動きを操作具に与えられる。
請求項4に記載の発明によると、電極が高分子アクチュエータの外周に形成され,ピペット,操作具と共に一体としたことで,操作性を大幅に向上させることができる。
請求項5に記載の発明によると、高分子アクチュエータの外周に形成させた電極の形状を網目状としたことで,電極面積が大きくなり,高分子アクチュエータの伸縮がスムーズになり,操作性がより向上する。
請求項6に記載の発明によると、高分子アクチュエータがガイドにより案内されることより、操作具の動きがより安定し、精度良い動作が可能である。
請求項7から9に記載の発明によると、高分子アクチュエータの伸長または収縮する際の電流値の変化からフィードバック制御されたことで、微小対象物は破損されることなく操作される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明のマイクロマニピュレータ1の全体像を模式的に示している。
1はマイクロマニピュレータ、2は顕微鏡、3は微小対象物、4はピペット、5は電磁式駆動装置、6はアーム、7は電圧印加装置、8は電極、9はリード線である。
本発明のマイクロマニピュレータ1は、微細な対象物を観察するための顕微鏡2と、液中に有る微粒子や微生物などの微小対象物3を操作するピペット4と、ピペット4を近傍へ位置決めする電磁式駆動装置5と、ピペット4を電磁式駆動装置5に固定しているアーム6と、液中に配置された電極8と、電圧印加装置7と電極8間を接続するリード線9とから構成されている。
次にピペット4の先端は、図2に示すように操作具10と高分子アクチュエータ11とから構成されている。
操作具10は、セラミックス、プラスチック、金属などの材質からなり、その先端は尖った形状やナイフ形状などからなり、用途や目的に応じて材質、形状が選択される。
高分子アクチュエータ11は、ポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子であり、内部にはマイナスイオンがドープされている。また、高分子アクチュエータ11と操作具10とは螺子止め、もしくは接着等の手段によって接合され、ピペット4の内部を通っているリード線9と電気的に接合されている。
【0010】
次に微小対象物3を把持する動作について図1、図3と図4を用いて説明する。操作者は顕微鏡2により微小対象物3を観察し、2つある電磁式駆動装置5をそれぞれ駆動し、各電磁式駆動装置5のアーム6に固定されたピペット4を微小対象物3の近傍まで移動させる。
次に、電圧印加装置7により電圧が高分子アクチュエータ11と電極8間に印加され、操作具10は、図3に示すように高分子アクチュエータ11の伸長により微小対象物3を把持し、また収縮により微小対象物3を放すように動作する。操作具10により把持された微小対象物3は、電磁式駆動装置5により目的の位置まで移動される。
次に、高分子アクチュエータ11の動作原理について図4を用いて説明する。高分子アクチュエータ11は高分子アクチュエータ11と電極8間に印加された電圧で生じる還元または酸化により伸長または収縮する。
高分子アクチュエータ11が収縮する場合について説明する。高分子アクチュエータ11は、電極8に対してマイナスの電圧を印加されることにより還元される。これにより、高分子アクチュエータ11中にドープされていたマイナスイオンが放出され、高分子アクチュエータ11は収縮する。
高分子アクチュエータ11が伸長する場合について説明する。高分子アクチュエータ11は電極8に対してプラスの電圧を印加されることにより酸化される。これにより、溶液中のマイナスイオンが取り込まれ、高分子アクチュエータ11は伸長する。
このように高分子アクチュエータ11が、電極8を基準としてプラスまたはマイナスの電圧を印加されることにより、高分子アクチュエータ11は伸長または収縮する。
次に高分子アクチュエータ11の把持力の制御方法について説明する。把持力は、図5に示されるように電圧印加装置7で制御される。
電圧印加装置7は、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮による電流変化をフィードバック電圧に置換する電流検出回路13と、フィードバック電圧から高分子アクチュエータ11の発生力を制御する力制御回路14と、力制御回路14の電圧指令にしたがって動作する電圧発生回路15とから構成されている。
高分子アクチュエータ11の伸長または収縮による電流値の変化量は、抵抗12で検出され、電流検出回路13でフィードバック電圧に変換する。このフィードバック電圧値をもとに、力制御回路14で高分子アクチュエータ11の発生力が算出され、力指令との差分値が電圧印加指令として電圧発生装置15に与えられる。電圧発生回路15において電圧印加指令に応じた電圧が生成され、高分子アクチュエータ11と電極8間へ電圧が印加される。
このように高分子アクチュエータ11の発生力が制御されることにより、微小対象物3は破損することなく、把持操作される。
【0011】
本発明が非特許文献1と異なる部分は、ピペット4の先端に高分子アクチュエータ11を備え、また、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮を検出する電流検出用の抵抗12を備え、高分子アクチュエータ11の発生力を制御するようにした部分である。
また、本発明が特許文献1と異なる部分は、高分子アクチュエータ11の高分子の材質にポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子を用い、大きな伸縮動作が得られるようにした部分である。
なお、本実施例では2本のピペット4を備えたマイクロマニピュレータ1について説明したが、これに限定されるものではなく、ピペット4は1本でもよいし、必要に応じて3本以上用いられてもよい。
また、導電性高分子はポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレン等も用いることもできる。また操作具10の形状も刃状としてもよいし、薬液を注入できるような注射針のように加工したものを用いても良い。
また、電圧印加装置7の制御方法は力制御について述べたが、高分子アクチュエータ11の伸縮による電流値の変化を変形量として用いても良く、高分子アクチュエータ11の位置制御方法としても良い。
さらに、高分子アクチュエータ11の伸長または収縮は電流値の変化から求められたが、ひずみゲージが高分子アクチュエータ11表面に貼られる等、直接高分子アクチュエータ11の変位が求められる方法でも良い。
【実施例2】
【0012】
次に、本発明の第2実施例を説明する。図6は、第2実施例におけるピペット4の詳細構成を示す断面図である。第2実施例が、第1実施例と異なる点は、ガイド16が高分子アクチュエータ11を移動方向に案内するように形成されている部分である。ガイド16は樹脂やセラミックなどの材質からなり、ピペット4に固定され、高分子アクチュエータ11の外周面に、空隙を介して配置されている。
なお、動作については実施例1と同様であるので省略する。本実施例では、ガイド16が設けられたことで、水平に配置された際の高分子アクチュエータ11の撓み量が補正されることや、伸長または収縮の直線性が高められることにより、微小対象物3を把持する際の力制御や位置決め制御が精度良く行われる。
【実施例3】
【0013】
次に、本発明の第3実施例を説明する。図7は、第3の実施例におけるピペット4の先端構成を示す断面図である。第1および第2の実施例と異なる点は、電極8は,高分子アクチュエータ11を取り巻くように,その外周に沿って形成されており,その形状は網目状に形成されている部分である。また,電極8はリード線9により,電圧印加装置7につながっている。
ここで、電極8の形状は筒状などでも良いが,網目状の方が,電極面積が増加し,高分子アクチュエータの伸縮がスムーズになり,操作性がより向上する。
尚、動作については実施例1と同様であるので省略する。微小対象物3を把持する動作については,電極8がピペット,操作具と共に一体となっているので,操作性が大きく向上する。
【実施例4】
【0014】
次に、本発明の第3実施例を説明する。図8は、第4実施例におけるピペット4の先端構成を示す断面図である。第3の実施例と異なる点は、ピペット4の先端は,操作具10と高分子アクチュエータ11と電極8とガイド16から構成されており、ガイド16が高分子アクチュエータ11と電極8の間に形成されている部分である。ガイド16は,樹脂やセラミックなどの電気絶縁性の材質からなり,ピペット4に固定され,高分子アクチュエータ11の外周面,また,電極8の内周面に,空隙を介して配置されている。
なお,動作については実施例1と同様であるので省略する。本実施例では,ガイド16が設けられたことで,水平に配置された際の高分子アクチュエータ11の撓み量が補正されることや,伸長または収縮の直線性が高められることにより,微小対象物3を把持する際の力制御や位置決め制御が精度良く行われる。また,高分子アクチュエータ11と電極8が接触して短絡するのを防止する事ができるので,信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
超小型化が可能であり、軽量であるので、医療関連や半導体製造関連用途のマイクロマシンとして適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマイクロマニピュレータの全体図
【図2】第1実施例を示すマイクロマニピュレータのピペットの断面図
【図3】第1実施例における高分子アクチュエータの動作を示す模式図
【図4】第1実施例におけるマイクロマニピュレータの伸縮の動作を示す模式図
【図5】第1実施例における高分子アクチュエータの制御回路を示す構成図
【図6】第2実施例を示すマイクロマニピュレータのピペットの断面図
【図7】第3の実施例を示すピペットの先端構成を示す断面図
【図8】第4実施例におけるピペットの先端構成を示す断面図
【図9】従来のマイクロマニピュレータの全体図
【符号の説明】
【0017】
1 マイクロマニピュレータ
2 顕微鏡
3 微小対象物
4 ピペット
5 電磁式駆動装置
6 アーム
7 電圧印加装置
8 電極
9 リード線
10 操作具
11 高分子アクチュエータ
12 抵抗
13 電流検出回路
14 力制御回路
15 電圧発生回路
16 ガイド
101 従来のマイクロマニピュレータ
102 顕微鏡
103 微小対象物
104 ピペット
105 電磁式駆動装置
106 アーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子や微生物などの微小対象物を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡観察下で前記微小対象物を把持又は移動又は切断など操作するピペットと、前記ピペットを把持したアームと、前記アームに連結し、前記ピペットを移動させるための電磁式駆動装置とを備えたマイクロマニピュレータにおいて、
先端部分に高分子アクチュエータおよび操作具を備え、溶液中に配置された少なくとも一本以上のピペットと、溶液中に配置された電極と、前記高分子アクチュエータおよび前記電極の両方にリード線を通じて電圧を印加する電圧印加装置とからなることを特徴とするマイクロマニピュレータ。
【請求項2】
前記高分子アクチュエータは、導電性高分子からなることを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項3】
前記導電性高分子は、ポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類からなることを特徴とする請求項2に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項4】
前記ピペットの先端に具備された前記高分子アクチュエータの外周に,前記電極が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項5】
前記電極の形状が,網目状であることを特徴とする請求項4に記載のマクロマニピュレータ。
【請求項6】
前記高分子アクチュエータは、前記高分子アクチュエータの外周面に伸縮動作を案内するガイドを具備したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項7】
請求項1記載のマイクロマニピュレータに用いられる高分子アクチュエータの駆動方法であって、前記高分子アクチュエータは、前記高分子アクチュエータおよび前記電極間へ電圧が印加された際に伸縮することを特徴とするマイクロマニピュレータの駆動方法。
【請求項8】
前記高分子アクチュエータと前記電極間の電位差が、正または負の極性になるように切り替えることにより、前記高分子アクチュエータの伸縮が制御されることを特徴とする請求項7に記載のマイクロマニピュレータの駆動方法。
【請求項9】
前記電圧印加装置の制御方法は、前記高分子アクチュエータが伸縮する際の電流値の変化を検出し、該検出値をもとにフィードバック制御し、印加電圧を生成することを特徴とする請求項7に記載のマイクロマニピュレータの駆動方法。
【請求項1】
微粒子や微生物などの微小対象物を観察する顕微鏡と、前記顕微鏡観察下で前記微小対象物を把持又は移動又は切断など操作するピペットと、前記ピペットを把持したアームと、前記アームに連結し、前記ピペットを移動させるための電磁式駆動装置とを備えたマイクロマニピュレータにおいて、
先端部分に高分子アクチュエータおよび操作具を備え、溶液中に配置された少なくとも一本以上のピペットと、溶液中に配置された電極と、前記高分子アクチュエータおよび前記電極の両方にリード線を通じて電圧を印加する電圧印加装置とからなることを特徴とするマイクロマニピュレータ。
【請求項2】
前記高分子アクチュエータは、導電性高分子からなることを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項3】
前記導電性高分子は、ポリピロール、ポリアニリンの少なくとも一種類からなることを特徴とする請求項2に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項4】
前記ピペットの先端に具備された前記高分子アクチュエータの外周に,前記電極が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項5】
前記電極の形状が,網目状であることを特徴とする請求項4に記載のマクロマニピュレータ。
【請求項6】
前記高分子アクチュエータは、前記高分子アクチュエータの外周面に伸縮動作を案内するガイドを具備したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項7】
請求項1記載のマイクロマニピュレータに用いられる高分子アクチュエータの駆動方法であって、前記高分子アクチュエータは、前記高分子アクチュエータおよび前記電極間へ電圧が印加された際に伸縮することを特徴とするマイクロマニピュレータの駆動方法。
【請求項8】
前記高分子アクチュエータと前記電極間の電位差が、正または負の極性になるように切り替えることにより、前記高分子アクチュエータの伸縮が制御されることを特徴とする請求項7に記載のマイクロマニピュレータの駆動方法。
【請求項9】
前記電圧印加装置の制御方法は、前記高分子アクチュエータが伸縮する際の電流値の変化を検出し、該検出値をもとにフィードバック制御し、印加電圧を生成することを特徴とする請求項7に記載のマイクロマニピュレータの駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−178386(P2006−178386A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105580(P2005−105580)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
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