説明

マイクロマニピュレータ及びマイクロハンドリング装置

【課題】 被処理物の着脱の制御を正確かつ再現性良く行え、小型化可能なマイクロマニピュレータ及びこれを備えたマイクロハンドリング装置を提供する。
【解決手段】 被処理物を保持するためのカラス製キャピラリー101と、ガラス製キャピラリー101に取り付けられた焦電体102と、焦電体102を加熱するランプ照射系103とを有し、ガラス製キャピラリー101に被処理物を吸着させる際及びガラス製キャピラリー101から被処理物を脱落させる際の少なくとも一方において、焦電体102が発生させる焦電気を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマニピュレータに関し、特に、微小な処理物、具体的には1×10-93以下の体積を有する被処理物に対して搬送処理を施すための微小器具を備えたマイクロマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小器具としてガラス製のキャピラリーを使用し被処理物の粘性及び固有静電力によって被処理物の着脱を行う方法が用いられていた。
【0003】
しかし、この方法には以下に示すような欠点があった。
(1)被処理物の着脱が正確ではない。
(2)再現性が乏しい。
(3)作業性が悪い。
(4)被処理物を破損、又は消失する恐れがある。
【0004】
特に、被処理物が微小試料である場合には、ハンドリングされる微小試料は分析用検体(製品の不良解析の為に透過型電子顕微鏡や顕微FT−IRに供される検体)であるがゆえに、上記の問題の発生はあってはならない。例えば、特許文献1に記載の発明のように、マニピュレータを試料の保持に用いる場合には、上記の各問題は正確な測定の妨げとなる。
【0005】
従来のマイクロマニピュレータに用いられているガラス製微小器具は、非常に容易に作成できるものであるが、着脱の制御性は備えていない。
【0006】
このような問題を解決するための従来技術としては特許文献2に開示される「マイクロマニピュレータ」がある。特許文献2に開示される発明は、静電力を利用したマイクロマニピュレータである。
【特許文献1】特開平8−43325号公報
【特許文献2】特開平5−208387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
静電力を利用したマイクロマニピュレータは、着脱の制御性の点では有効であるものの、以下の欠点は未解決のままである。
・ガラス製のキャピラリーを使用すると被処理物の着脱が偶然性に左右される。
・被処理物の着脱時の正確性が低い。
・被処理物の着脱時の再現性が悪い。
・繰り返し操作による作業性の悪い。
・繰り返し操作による試験体の破損や消失。
【0008】
さらに、特許文献2に記載の発明には、
・図2に示すように外部電源16(直流電源18及び切り換えスイッチ19)を使用してガラスキャピラリーの極性を制御するため、金属キャピラリー13bに接触する導電体17が必要となるため操作性が低下する。
・装置が大型化する。
・コストが増加する。
という欠点がある。
【0009】
このように、従来は、被処理物の着脱の制御を正確かつ再現性良く行え、小型化可能なマイクロマニピュレータ及びこれを備えたマイクロハンドリング装置は提供されていなかった。
【0010】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、被処理物の着脱の制御を正確かつ再現性良く行え、小型化可能なマイクロマニピュレータ及びこれを備えたマイクロハンドリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の態様として、被処理物を保持するための絶縁性微小器具と、該絶縁性微小器具に取り付けられた少なくとも一つの焦電体素子と、該焦電体素子を加熱する加熱手段とを有し、絶縁性微小器具に被処理物を吸着させる際及び絶縁性微小器具から被処理物を脱落させる際の少なくとも一方において、焦電体素子が発生させる焦電気を用いるマイクロマニピュレータを提供するものである。
【0012】
上記本発明の第1の態様においては、焦電体素子を2以上備え、該焦電体素子の少なくとも一つは、絶縁性微小器具を正に帯電させ、他の焦電体素子は絶縁性微小器具を負に帯電させることが好ましい。これに加えて、加熱手段は、焦電体素子を個別に加熱可能であることがより好ましい、
【0013】
本発明の第1の態様の上記のいずれの構成においても、焦電体素子がジルコン酸チタン酸鉛系材料からなることが好ましい。また、絶縁性微小器具及び焦電体素子と加熱手段とのそれぞれを、直交三軸の各方向へ移動させる機構を有することが好ましい。また、加熱手段は、焦電体素子に光を照射することにより該焦電体素子を加熱することが好ましい。
【0014】
上記本発明の第1の態様の、加熱手段が焦電体素子に光を照射することにより該焦電体素子を加熱する構成においては、加熱手段が発する光を焦電体素子に集光する集光手段を有することがより好ましい。また、加熱手段は、赤色光を発するLEDであることがより好ましい。
【0015】
また、上記目的を達成するため、本発明は、第2の態様として、請求項1から8のいずれか1項記載のマイクロマニピュレータを少なくとも二つ備え、一のマイクロマニピュレータに吸着させた被処理物を他のマイクロマニピュレータに受け渡す際に、焦電体素子が発生させる焦電気を用いることを特徴とするマイクロハンドリング装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被処理物の着脱の制御を正確かつ再現性良く行え、小型化可能なマイクロマニピュレータ及びこれを備えたマイクロハンドリング装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔発明の原理〕
マイクロマニピュレータに静電力を用いること自体は被処理物の着脱の制御性を向上させる上で有効であるので、本発明においてもこれを利用する。本発明ではこの他に、
・外部電源の代わりに焦電体の焦電効果によって絶縁性微小器具の先端の極性を制御する。
・焦電体とは非接触で焦電気を効率よく発生させるために光照射を行う。
・光照射の光を効率的に焦電体に当てるために光を集光させる。
・焦電効果に優れた材料(ジルコン酸チタン酸鉛系の材料など)を焦電体に用いる。
ことによってマイクロマニピュレータを構成する。
また、これらのマイクロマニピュレータを2本以上備え、微小物質(被処理物)をハンドリングする。
これにより、正確かつ再現性良くマイクロマニピュレータで保持し、マイクロマニピュレータから脱落させ、マイクロマニピュレータ同士でハンドリングすることが可能となる。
【0018】
以下、上記原理に基づく本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1(a)に、本実施形態に係るマイクロマニピュレータの要部の構成を示す。絶縁性微小器具は、ガラス製キャピラリー101及び焦電体102を有する。焦電体102は、ガラス製キャピラリー101の先端部の極性を制御するための部材であり、ガラス製キャピラリー101に周知の接合方法によって接合されている。
また、絶縁性微小器具と間隔を空けて、ランプ照射系103が設けられている。ランプ照射系103は、焦電体102の焦電効果を促進するためのものであり。発光源としてのLED、LEDが発した光を焦電体102に集光するための光学系(レンズやミラーなどで構成される)を備えている。なお、光源は、LEDに限定されることはなく、LDを用いても良いが、LEDを用いた方が製造コストを低減できる。LEDを用いる場合には赤色発光LEDを用いると、焦電体102における吸光率が高くなり、光として照射したエネルギーが効率良く熱に変換されるため好ましい。
【0019】
本実施形態に係るマイクロマニピュレータは、この他に絶縁性微小器具(ガラス製キャピラリー101及び焦電体102)を作業空間内で移動させるキャピラリー駆動機構(例えば、直交三軸の各方向に移動させる機構)とランプ照射系103を作業空間内で移動させるランプ駆動機構(例えば、直交三軸の各方向に移動させる機構)を備えているが、これらは公知の構成を適用可能であるので説明は省略する。
【0020】
本実施形態に係るマイクロマニピュレータの動作について説明する。まず、負に帯電させた直径3μmのポリスチレン球をガラス製キャピラリーから脱落させる動作について説明する。なお、ここでは焦電体102が発生させる焦電気はガラス製キャピラリー101を負に帯電させるものとする。
公知のマイクロマニピュレータに、本実施形態に係るマイクロマニピュレータの絶縁性微小器具をとりつける。次に、キャピラリー駆動機構を駆動して絶縁性微小器具を移動させ、ガラス製キャピラリー101の先端をポリスチレン球に接近させる。すると、帯電したポリスチレン球が発する静電力によってガラス製キャピラリー101が分極し、ポリスチレン球101がガラス製キャピラリー101に吸着する。
その後、キャピラリー駆動機構を駆動して、絶縁性微小器具を所定の位置に移動させる。そして、ランプ駆動機構を駆動して、LEDが発する光が焦電体102を照射する位置にランプ照射系103を移動させる。LEDを駆動して焦電体102に光を照射すると、焦電体102の表面には焦電効果によって負の電荷が発生する。焦電体102の表面に発生した負の電荷は、ガラス製キャピラリー101の先端部を負に帯電させるため、ポリスチレン球とガラス製キャピラリーとの間に斥力が生じ、ポリスチレン球はガラス製キャピラリーから脱落する。
【0021】
なお、図1(b)に示すように、ガラス製キャピラリー101に焦電体102を二つ(102a,102b)設けても良い。
この場合には、焦電体102a及び102bの一方は正の電荷の焦電気を発生させ、他方は負の電荷の焦電気を発生させるようにし、焦電体102a及び102bに個別に光を照射できるようにすると良い。このようにすれば、被処理物の正負どちらに帯電していてもガラス製キャピラリー101に吸着させ、脱落させることが可能となる。
また、焦電体102a及び102bがともに同じ極性の焦電気を発生させるようにしてもよい。このようにすれば、被処理物の重量に応じて焦電気の強さを変えられる。例えば、被処理物が軽ければ焦電体102a及び102bの一方のみに光を照射してガラス製キャピラリー101を帯電させ、重ければ焦電体102a及び102bの両方に光を照射してガラス製キャピラリー101を帯電させることができる。
【0022】
次に、負に帯電させた直径3μmのポリスチレン球をハンドリングする際の動作について説明する。なお、この動作では負の焦電効果を有する(焦電気によってガラス製キャピラリー101を負に帯電させる)焦電体を備えたガラス製キャピラリーと正の焦電効果を有する(焦電気によってガラス製キャピラリー101を正に帯電させる)焦電体を備えたガラス製キャピラリーとを用いるため、前者を第1の絶縁性微小器具と称し、後者を第2の絶縁性微小器具と称するものとする。なお、各絶縁性微小器具の構成は、図1(a)に示した構成と同様である。ただし、図1(b)に示した構成の絶縁性微小器具を二つ用いても良い。また、各絶縁性微小器具は、それぞれキャピラリー駆動機構を備えており、それぞれは独立して作業空間内の任意の位置に配置可能である。
【0023】
公知のマイクロマニピュレータに、第1の絶縁性微小器具をとりつける。次に、キャピラリー駆動機構を駆動して第1の絶縁性微小器具を移動させ、ガラス製キャピラリー101の先端をポリスチレン球に接近させる。すると、帯電したポリスチレン球が発する静電力によってガラス製キャピラリー101が分極し、ポリスチレン球101がガラス製キャピラリー101に吸着する。
次に、ポリスチレン球が吸着している第1の絶縁性微小器具に、第2の絶縁性微小器具を接近させる。
【0024】
その後、ランプ照射系103を駆動し、第1及び第2の絶縁性微小器具の焦電体に光を照射する。第1の絶縁性微小器具では、焦電効果によって焦電体102の表面に負の電荷が発生する。焦電体102の表面に発生した負の電荷は、ガラス製キャピラリー101の先端部を負に帯電させるため、ポリスチレン球とガラス製キャピラリーとの間に斥力が生じる。
一方、第2の絶縁性微小器具では、焦電効果によって焦電体102の表面に正の電荷が発生する。焦電体102の表面に発生した正の電荷は、ガラス製キャピラリー101の先端部を正に帯電させるため、ポリスチレン球とガラス製キャピラリーとの間に引力が生じる。
これにより、ポリスチレン球は、第1の絶縁性微小器具から第2の絶縁性微小器具へと移動する。
【0025】
なお、ここでは、第1及び第2の絶縁性微小器具の焦電体に対して同時に光を照射したが、まず第1の絶縁性微小器具の焦電体にのみ光を照射してポリスチレン球を脱落させ、次いで、第2の絶縁性微小器具の焦電体に光を照射してポリスチレン球を第2の絶縁性微小器具のガラス製キャピラリーに吸着させても良い。
【0026】
このように、本実施形態にかかるマイクロマニピュレータは、被処理物を正確かつ再現性よく保持し、脱落させることができる。また、本実施形態にかかるマイクロマニピュレータを複数個用いることにより、非処理物を正確にハンドリングすることができる。
【0027】
なお、上記実施形態は本発明の好適な実施の一例であり、本発明はこれに限定されることはない。
例えば、上記各実施形態においてはガラス製キャピラリーを用いる構成を例に説明したが、被処理物を保持するためのキャピラリー(微小器具)はガラス製に限定されることはなく、他の絶縁性材料を用いても良い。
また、上記各実施形態においては、ガラス製キャピラリーに焦電体が一つ又は二つ設けられた構成を例としたが、焦電体を三つ以上設けても良い。
このように本発明は様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好適な実施の形態にかかるマイクロマニピュレータの構成を示す図である。
【図2】従来のマイクロマニピュレータの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
101 ガラス製キャピラリー
102、102a、102b 焦電体
103 ランプ照射系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を保持するための絶縁性微小器具と、該絶縁性微小器具に取り付けられた少なくとも一つの焦電体素子と、該焦電体素子を加熱する加熱手段とを有し、前記絶縁性微小器具に前記被処理物を吸着させる際及び前記絶縁性微小器具から前記被処理物を脱落させる際の少なくとも一方において、前記焦電体素子が発生させる焦電気を用いるマイクロマニピュレータ。
【請求項2】
前記焦電体素子を2以上備え、該焦電体素子の少なくとも一つは、前記絶縁性微小器具を正に帯電させ、他の焦電体素子は前記絶縁性微小器具を負に帯電させることを特徴とする請求項1記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記焦電体素子を個別に加熱可能であることを特徴とする請求項2記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項4】
前記焦電体素子がジルコン酸チタン酸鉛系材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項5】
前記絶縁性微小器具及び前記焦電体素子と前記加熱手段とのそれぞれを、直交三軸の各方向へ移動させる機構を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記焦電体素子に光を照射することにより該焦電体素子を加熱することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項7】
前記加熱手段が発する光を前記焦電体素子に集光する集光手段を有することを特徴とする請求項6記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項8】
前記加熱手段は、赤色光を発するLEDであることを特徴とする請求項6又は7記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項記載のマイクロマニピュレータを少なくとも二つ備え、一の前記マイクロマニピュレータに吸着させた前記被処理物を他の前記マイクロマニピュレータに受け渡す際に、前記焦電体素子が発生させる焦電気を用いることを特徴とするマイクロハンドリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−116648(P2006−116648A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306560(P2004−306560)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】