説明

マイクロ・ナノ構造体及びその製造方法

【課題】FEDなどの用途への使用が期待できる新規なマイクロ・ナノ構造体、及び自己組織化を利用したマイクロ・ナノ構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】銅酸化物からなり、外径に対する長さの比であるアスペクト比が1.5以上で、半導体特性を有し、内部が中空なナノチューブであることを特徴とするマイクロ・ナノ構造体。及び、低真空中で金属銅の表面に高エネルギービームを照射して、励起した銅原子と低真空中に残留する酸素原子とを結合させつつ、自己組織化によって、内部が中空なナノチューブを製造することを特徴とするマイクロ・ナノ構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子的、光学的な用途が期待されるナノチューブであるマイクロ・ナノ構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子や分子を堆積して特別構造の結晶表面や人工格子などのマイクロ・ナノ物質を、ボトムアップ方式で作成する場合において、適当な条件のもとでは自己組織化が進行する。自己組織化を利用すると基板表面のわずかな原子が堆積した突起を基にして針状の結晶を成長させて金属のミクロワイヤーを作成したり、また基板上の円孔や凹みをその後の結晶成長で埋めることなくそのまま保存したりすることができる。
【0003】
このような自己組織化を利用したマイクロ・ナノ構造体として、本願発明者の一人の発明に係る特許文献1に開示されたものがある。このものは、Cu、Al等の金属材料を塑性変形などさせて集合組織を形成し、これにArイオンビームを照射して、集合組織の優先面を基として特定の方位に突起を成長、形成したものである。この突起は集合組織の優先方位の方向に突出しているので、当該マイクロ・ナノ構造体を、各種デバイスや機能材料へ応用することが期待できる。例えば、特定波長の光や電磁波に対するマイクロ・ナノフィルターや導波路、微細な半導体回路、高効率触媒、電子エミッター等に応用することが期待できる。
【0004】
このようなマイクロ・ナノ構造体の各種デバイスや機能材料等への適用範囲をさらに広げ、これを実現するためには、新規なマイクロ・ナノ構造体ならびにその製造方法を提供する必要がある。
【特許文献1】特開2005−262373号公報 (図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、各種の電子的用途への使用が期待できる新規なマイクロ・ナノ構造体、及び自己組織化を利用したマイクロ・ナノ構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明のマイクロ・ナノ構造体は、銅酸化物からなり、外径に対する長さの比であるアスペクト比が1.5以上で、内部が中空なナノチューブであることを特徴とするものである。この発明において、ナノチューブを、半導体特性を有するものとすることができるし、また、銅酸化物を、CuOとCuOとの何れか一種、又は双方からなるものとすることができる。
【0007】
また、マイクロ・ナノ構造体の製造方法は、低真空中で金属銅の表面に高エネルギービームを照射して、励起した銅原子と低真空中に残留する酸素原子とを結合させつつ、自己組織化によって、内部が中空なナノチューブを製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマイクロ・ナノ構造体は、アスペクト比が大きく先端が細いので、形態が特異であることに基づき、半導体材料、電気接点材料、触媒材料等の導電的特性、又は半導体的特性を活かした多岐の用途への使用が期待される。また、本発明に係るマイクロ・ナノ構造体は、CuOの持つバンドギャップ値Eg2.0eVという半導体特性の利用、ナノチューブ化による金属・絶縁体化、ナノチューブの内部に元素、化合物を入れることによる特性の自由な調整を行い得る可能性がある。
【0009】
また、本発明に係るマイクロ・ナノ構造体の製造方法は、上記したような広範な用途が期待されるマイクロ・ナノ構造体を、効率的に形成することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明のマイクロ・ナノ構造体について説明する。
図1〜5に、本発明にかかるナノチューブを例示する。これらのナノチューブは、アモルファス炭素フィルムが蒸着され、且つ複数の貫通孔が設けられた銅製ディスクを、10−4Pa程度(即ち、10−3〜10−5Pa)の低真空下に導き、この貫通孔に加速電圧5〜9kV、照射時間60〜1200secの条件で、Arイオンビームを照射したときに形成されたものであって、図は透過電子顕微鏡(TEM)像である。これらのナノチューブは内部が中空である。ナノチューブの生成する部位は、Arイオンビームの照射面ではなく、非照射面との近傍であり、非照射面近傍に形成されていることから、スパッタ粒子または原子群が飛散集合し、ある特定の成長しやすい面方向に成長する自己組織化によって、ナノチューブが形成されたものと考えられる。
【0011】
図1に示すナノチューブは、加速電圧5kV、照射時間600secの条件にて生成されたものである。このナノチューブは、図示のように先端に丸い穴を有しており、内部が中空である。外径は約40nm、長さ約500nmであって、外径に対する長さの比、即ちアスペクト比は約12.5である。
【0012】
図2に示すナノチューブは、加速電圧9kV,照射時間1200secの条件にて生成されたものである。このナノチューブは先端が丸く閉じられており、また内部は中空である。
【0013】
次に、ナノチューブをTEMのディフラクションパターンより同定した結果を示す。
図3に示すものは加速電圧5kV、照射時間1800secの条件において生成した内部中空のナノチューブである。ディフラクションパターンがデバイリングであるので、このナノチューブは多結晶である。ナノロッドを核としてこの上にArイオンビームの照射によりスパッタされた粒子が堆積し、そのスパッタ粒子が集まり多結晶膜が生成しているためと推定される。
【0014】
図4には、加速電圧9kV,照射時間300secの条件において生成されたナノチューブである。ディフラクションパターンより、このナノチューブはCuOからなる単結晶であることが確かめられた。
【0015】
また、図5には、加速電圧7kV,照射時間300secの条件において生成されたナノチューブである。面間隔から同定した結果、このナノチューブはCuOからなることが確かめられた。また、ディフラクションパターンがスポットであることから単結晶である。
【0016】
以上のようなナノチューブの成長状態を図6〜9に示す。図6には、加速電圧5、7、9kVにおけるナノチューブの平均長さに及ぼすArイオンビーム照射時間の影響を示す。加速電圧7kV,照射時間900secにおいて特異的に大きな成長がみられるが、ナノチューブの平均長さは全体としてやや長くなっているものと認められる。
【0017】
図7にはナノチューブの平均直径に及ぼす照射時間の影響を示す。照射時間を長くした場合ナノチューブの平均直径はやや大きくなっているといえる。
【0018】
ナノチューブの平均長さ及び平均直径は以上のような状態で変化するが、図8に示すように、ナノチューブのアスペクト比(長さ/直径の比)には、大きな変化はない。なお、ナノチューブのアスペクト比は、1.5以上を必要とする。アスペクト比が、1.5未満では電子放出特性等において十分な効果を発揮することができず、利用価値が低いからである。
【0019】
図9には、ナノチューブの本数密度の照射時間に伴う変化を示す。全体として照射時間の延長につれて密度が低下しているが、この低下は、特にナノチューブの太径化につながっているものと解される。
【0020】
なお、本発明において照射せしめられるビームは、Arイオンビームに限定されるものではなく、ナノチューブを成長させうる高エネルギービームであればよく、例えば、Arイオンビームのほか、このイオンビームと同等の衝撃とスパッタ効率を金属銅の内壁に与えることが可能な電子線、レーザービーム、X線、γ線、中性子線、粒子ビーム等を用いることができる。
【0021】
また、かかる高エネルギービームとして、Arイオンビームの如きイオンビームを用いる場合にあっては、加速電圧としては、3〜10kV程度、ビーム電流としては、0.5〜1.5mA程度を採用することができる。
【0022】
さらに、高エネルギービームを照射せしめる際の、金属銅の平面に対する照射角度については、上述したビームの照射条件や、ビームが照射される金属銅の形状等を総合的に勘案して、適当な角度が設定されることとなるが、その角度が小さすぎると、金属銅に対して効率良くエネルギーを供給することが難しいところから、一般には、銅板面に対して5〜30°の照射角度にて、実施されることとなる。なお、貫通孔の内壁に対する照射角は40〜80°である。
【0023】
以上のようなナノチューブは、適当な条件のもとで初めに一つのパターンを与えると以後はそのとおりに組織が成長するという自己組織化を利用して成長、形成させることができる。また、自己組織化が妨げられて初めのパターンに関係なく一様に結晶を成長させるような、拡散型成長といわれる負の自己組織化を利用して、成長、形成させることもできる。
【0024】
以上に説明したように、本発明に係るマイクロ・ナノ構造体は、形態が特異であることに基づき、半導体材料、電気接点材料、触媒材料等の導電的特性、又は半導体的特性を活かした多岐の用途への使用が期待される。例えば、ショットキー障壁型太陽電池、CuO/ZnO太陽電池、ガスセンサー、バイオセンサー、光感受性電極、Liイオン電池負極、超微細半導体構成要素などの用途が候補として挙げられる。
また、本発明に係るマイクロ・ナノ構造体の製造方法は、優れた特性を有するマイクロ・ナノ構造体を、金属銅の表面に効率的に形成することができるという有利な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】加速電圧5kV、照射時間600secの条件にて生成したナノチューブを示すTEM像である。
【図2】加速電圧9kV、照射時間1200secの条件にて生成したナノチューブを示すTEM像である。
【図3】加速電圧5kV、照射時間1800secの条件にて生成したナノチューブのTEM像とディフラクションパターンを示す図である。
【図4】加速電圧9kV、照射時間300secの条件にて生成したナノチューブのTEM像とディフラクションパターンを示す図である
【図5】加速電圧7kV、照射時間300secの条件にて生成したナノチューブのTEM像とディフラクションパターンを示す図である。
【図6】照射時間に伴うナノチューブの平均長さの変化を示すグラフである。
【図7】照射時間に伴うナノチューブの平均直径の変化を示すグラフである。
【図8】照射時間に伴うナノチューブのアスペクト比の変化を示すグラフである。
【図9】照射時間に伴うナノチューブの本数密度の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅酸化物からなり、外径に対する長さの比であるアスペクト比が1.5以上で、内部が中空なナノチューブであることを特徴とするマイクロ・ナノ構造体。
【請求項2】
ナノチューブは、半導体特性を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ・ナノ構造体。
【請求項3】
銅酸化物は、CuOとCuOとの何れか一種、又は双方からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ・ナノ構造体。
【請求項4】
低真空中で金属銅の表面に高エネルギービームを照射して、励起した銅原子と低真空中に残留する酸素原子とを結合させつつ、自己組織化によって、内部が中空なナノチューブを製造することを特徴とするマイクロ・ナノ構造体の製造方法。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−94686(P2008−94686A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280932(P2006−280932)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】