説明

マイクロ反応システム用サンプリングデバイス

排出口(4)および排出口(4)側方付近に配備された吸込ライン(9)を具備するマイクロ反応システム(3)用のサンプリングデバイスであって、排出口(4)から排出される物質(13)の吸収のための吸込ライン(9)内で減圧が生じうるものである。排出口(4)は、キャピラリの形式で設計され、吸込ライン(9)の開口に対して位置合わせをすることができる。排出口(4)から排出される物質(13)用の流出口(14)、および吸込ライン(9)用の通路口(8)を具備するハウジングは、排出口(4)の回りに配備される。吸込ライン(9)は、磁気バルブ(11)を介して真空ライン(12)に接続される収集容器(10)に進入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応に関わる物質のための排出口を具備するマイクロ反応システム用サンプリングデバイスに関する。
【0002】
マイクロ反応器およびマイクロ反応システムの絶え間ない開発およびさらなる小型化により、現在化学反応は最小限の試薬の使用で実行されうる。とくに多数回の反応および分析を実行する際に、小型化されたマイクロ反応システムは、必要な物質量、および必要な反応持続時間の両方の点について、労力およびコストを減少させることができる。さらに、質量流量を減らすことにより化学プロセス制御が簡略化され、化学反応を実行する際の安全性を顕著に高めることができる。
【0003】
マイクロ反応システムを介する試薬の流れ、または進行する化学反応を妨げ、あるいは止めることなく、連続的に操作されるマイクロ反応システムから少量のサンプルを取り出すことが必要になることが多い。この目的のために、マイクロ反応システム内部の適切な箇所に配置され、バルブによって制御可能な排出口を設けることが通常おこなわれる。排出口の設計およびこの排出口を制御するバルブの設計に応じて、マイクロ反応システムに接続される空洞であって、その中ではマイクロ反応システムがおこなわれず、または異なった、通常制御不可能な状況下でのみおこなわれる空洞が形成される。デッドスペースと称される、このような空洞の存在が、マイクロ反応システムにおいて化学反応に悪影響を与えることがあり、さらに、取り出されたサンプルの量が専らまたは部分的に排出口の領域に存するデッドスペースから取り出されたときの評価の有効性を損ねることがある。
【0004】
さらに、バルブを用いることで、1つのマイクロ反応を完了した後であって、次のマイクロ反応の開始の前に、該次のマイクロ反応が汚染されるのを防ぐために、接続されるバルブを含めてマイクロ反応システムを入念に洗浄するために複雑なリンス処理をおこなう必要がある。バルブによる排出口の漏洩防止のシールもまた同様に顕著な設計の複雑化をもたらすことになる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、サンプルをマイクロ反応システムから確実に取り出すことを可能にするとともに、サンプリング用の排出口領域のデッドスペースを可能な限り除去し、そしてマイクロ反応システム内でおこなわれる化学反応に対する害を減少させた、サンプリングデバイスを設計することである。
【0006】
この目的は、本願発明により達成される。本願発明において、開口吸込ラインは排出口側方付近に配備され、排出口から排出される物質の吸収のための吸込ライン内で減圧が生じうる。ここでいう排出口は、マイクロ反応システムの出口であって、化学反応に関わった物質の完全な出口としてのもの、あるいはマイクロ反応システム内部の適切な箇所において十分に小さく、この箇所で連続的に排出される物質量がマイクロ反応システムでおこなわれる反応を著しく害しないように設計されるものである。したがって、排出口とそれに接続されるマイクロ反応システムとの間にバルブを配備する必要がなく、これは、排出口領域のデッドスペースが最小限のものでよい、あるいは全くなくともよい実用的な設計が可能であることを意味する。
【0007】
ある特定の時に排出口から排出される物質量が、それ以上使用されないか、あるいは代替的にサンプルとしてさらなる評価のために送られるかは、排出口近傍に配備された吸込ラインによって制御可能である。適切な減圧が吸込ラインで生じれば、ある特定の時に排出口から排出される物質量は、吸込ライン内に吸い込まれる。吸込ラインに減圧が生じないと、排出口から排出される物質量は、影響を受けることなく吸込ラインを超えて落下し、吸込ラインの下方で収集される。好適な設計、またはサンプルとしてさらなる評価に使用される物質に対する、それ以上使用されない物質の混合の比率に応じて、吸込ラインで吸収される物質量、または吸込ライン下方でそれを超えて落下する物質のいずれかをさらなる使用のために送ることができる。
【0008】
排出口から排出される物質用の流出口および吸込ライン用の通路口を具備するハウジングを排出口の回りに配備することが好適に提供される。ハウジングは、第一に排出口の回りの領域を望ましくない制御不能の環境上の影響から保護し、第二に単純な手段で吸込ラインの排出口に対する配置を正確かつ再構築可能にすることができる。排出される物質を吸込ラインに直接接触させることなく吸込ラインの開口を排出口に近づけて配置すると、排出口から排出される物質量の完全な吸収を確実にするために吸込ライン内で必要とされる最低限の減圧が減少する。
【0009】
本発明の思想の一態様によれば、排出口に対する吸込ラインの開口の配置が変更可能であることが提供される。この方法によれば、吸込ラインにおける所定の減圧で、排出口領域吸でそれにより引き起こされる引込効果は、使用物質および反応生成物の潜在的に異なる性質、たとえば異なる粘性または揮発性を考慮して調節することができる。
【0010】
本発明の思想の一態様によれば、吸込ラインが、真空ラインにバルブを介して接続される収集容器に進入することが提供される。したがって、たとえば連続的な減圧の場合、マイクロ反応システムは、排出口を介して完全に空になり、排出される物質量は、リンスされてバルブを介して収集容器に送られる。マイクロ反応システムを完全に空した後に、洗浄剤でさらにリンスが必要な場合、反応に関わったすべての物質は、収集容器内、たとえば市販の洗浄ボトル内に配置される。この収集容器は、その処分または反応生成物のさらなる使用を容易にするためにサンプリングデバイスから単純に分離、除去が可能である。
【0011】
収集容器および収集容器に進入する吸込ライン内の減圧は、収集容器への真空ラインに配備されたバルブによって単純な方法で制御されうる。真空ラインは、直接真空ポンプにつながったものか、あるいはとくに大きな化学研究室に導入されているような多数の接続部を具備する真空システムの一部である。収集容器および吸込ラインは、バルブ制御に応じて最小限の遅れをともなう吸収のために十分な減圧を形成し、または補償することができるように、十分に小さい内容積を有する。
【0012】
排出口から排出される物質量の連続的な吸収の有利な動作モードにおいては、バルブの簡単な封止により吸込動作を阻害することによって、所望のいずれの時においてもサンプルを取り出すことができ、排出口から排出される物質量は、吸込ラインを超えて排出口下方に設けられたサンプル収容器に落下する。取り出されるサンプル量は、排出される物質が吸収されない時間により決定することができる。
【0013】
排出口がキャピラリの形式で設計されることが好適に提供される。キャピラリは、第一にマイクロ反応システムからの排出の際に少量の物質量であっても正確な計測を容易にし、第二にマイクロ反応システム内で起こる反応が、排出口に近接の圧力状態の変化により影響を受けることを実質的に防ぐ。ここでのキャピラリの内径は、確実に排出物質を完全に吸収するため十分に小さくなるように、また一方でキャピラリ内の圧力差の増大によって物質の連続的な排出が危険にさらされることがないよう有利に選択できる。適当なキャピラリによって、とくに物質を確実に排出口から細かい自由噴流で排出することができる。
【0014】
サンプリングデバイスが排出口領域において加熱可能であることが有利に提供される。容易に揮発する溶媒、たとえばジクロロメタンまたはエーテルを使用するとその溶媒の蒸発のエンタルピーのために排出口において氷形成が起こることが分かっている。動作時のこの望ましくない欠点は、サンプリングデバイスを排出口領域で温めることによって容易に防ぐことができる。
【0015】
本発明の思想の一態様によれば、電気加熱デバイスまたはヒートカップリングを加熱のために設けることが提供される。制御可能なヒートワイヤの形態の電気加熱デバイスは、たとえばキャピラリの形式の排出口領域に単純な手段で有利に適合させることができる。
【0016】
本発明の思想の一態様によれば、雰囲気の湿気に置き換わる保護ガス雰囲気が生じ、排出口領域において維持されうることが提供される。保護ガス雰囲気は、冷えた排出口における望ましくない氷生成を防ぐために、加熱デバイスの代わりに、または加熱デバイスに加えて使用される。さらに、保護ガス雰囲気によって、排出口から排出される物質の汚染を実質的に防ぐことも可能である。
【0017】
圧縮空気ラインの開口を、排出空気ラインの開口の反対側でかつ排出口の側方付近に配備し、圧縮空気ラインの開口を通じて流出するガスによって、排出口から排出される物質を吸込ラインの開口の方向に吹き飛ばすために、圧縮空気ラインに過剰圧を生じさせうることが有利に提供される。この方法では、排出される物質が、過剰圧で排出されるガス、吸込動作の補助により吸込ラインの開口の方向に吹き飛ばされ、好ましくない条件、または排出空気ラインまたは圧縮空気ライン内が周囲圧力から比較的低い圧力差にある場合でも、すべての排出物質の完全かつ確実な吸収が保証される。
【0018】
本発明の思想の一態様によれば、使用されるガスは、実質的に化学的に不活性な保護ガスである。したがって、一緒に吸込ラインに吸い込まれる物質をともなった流出ガスの望ましくない反応が防がれる。保護ガスを使用すると、物質の排出口領域で生じる保護ガス雰囲気もまた影響を受けない状態に維持される。
対応する吸込システムの設計では、物質を、空気または不活性のガスのみを介して、真空器を使うことなくキャピラリから収集チューブに吹き飛ばすことができる。
サンプリングデバイスを実質的に、または完全に化学的耐性物質から形成することができることが好適に提供される。
【0019】
本発明の実施例は、下記に詳細に説明され、図面に示される。
【0020】
図面に示されるサンプリングデバイス1は、チューブ2を介してマイクロ反応システム3に接続される。反応が完了すると、マイクロ反応システム3はサンプリングデバイス1を通じて完全に空になる。排出口4は、キャピラリの形式で設計される。チューブ2は、キャピラリの形式で、接続部分5を介して排出口4に取外し可能に接続される。この方法では、異なるサンプリングデバイス1をともなう複数のマイクロ反応システム3が、所望のいずれの組合せにより使用可能である。そのため、たとえば使用する物質に応じて割り当てられたサンプリングデバイス1を特定の応用に適するマイクロ反応システム3と組み合わせることができ、または洗浄されるマイクロ反応システム3もしくは洗浄されるサンプリングデバイス1を、できる限り連続的な動作となるように単純に交換することができる。
【0021】
キャピラリの形式で設計された排出口4は、スリーブ形状のハウジング6の内部に移動可能に配備される。チューブ2の接続部分5およびキャピラリ形式の排出口4はともに、ネジ山を介して嵌合しハウジング基部6に対するキャピラリの開放端の長さ方向の動きを補助するハウジングの縁(housing lid)7内に固定される。
ハウジング6は、キャピラリ形状の排出口4に隣接する通路開口8を具備し、これを介して吸込ライン9がハウジング6の内部に突出する。吸込ライン9は、磁気バルブ11を介して真空ラインに接続される洗浄ボトル10に進入する。
磁気バルブ11を開放すると、洗浄ボトル10および吸込ライン9内に減圧が形成され、排出口4から排出される物質13が吸込ライン9に吸い込まれて洗浄ボトル10に収集される。
【0022】
反応生成物からサンプルを取り出すために、磁気バルブ11が閉止され、それにより所定の時間で吸込ライン9内の減圧が取り除かれる。その結果排出口4から排出される物質量13は吸込ラインに吸い込まれず、その代わりにハウジング6の基部の流出口14を介して排出され、サンプル収容器(図示なし)に収集される。
真空器のスイッチオンまたはスイッチオフが持続する間にわたり、吸収される物質量13または流出口14を通じて排出される物質量13は、それぞれ正確に計測することができるため、このサンプリングデバイスを計測システムとしても使用可能であることがわかる。
【0023】
圧縮空気ライン15の開口は、吸込ライン9の開口の反対側であってキャピラリ形状の排出口4の側方付近に配備される。圧縮空気ライン内のガスが過剰の圧力を有する場合、このガスは、圧縮空気ライン15の開口を通じて流出し、排出口4から排出される物質を吸込ライン9の開口の方向に吹き飛ばす。吸込ライン9内に排出される物質の吸収は、真空と同時に、圧縮空気ライン内で生じる加圧によって補助される。加圧された使用ガスは、排出物質を方向付けて吹き飛ばすための空気または不活性ガスであることが有利である。
排出口4から排出される物質に適切な加圧をおこなうと、ここで説明されるデバイスを、重要な変更を加えることなく圧力水頭として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のサンプリングデバイスを説明するための図である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応に関わる物質の排出口を具備するマイクロ反応システム用のサンプリングデバイスであって、吸込ライン(9)の開口が排出口(4)側方付近に配備され、排出口(4)から排出される物質(13)の吸収のための吸込ライン(9)内で減圧が生じうることを特徴とする、前記サンプリングデバイス。
【請求項2】
排出口(4)から排出される物質(13)の流出口(14)、および吸込ライン(9)の通路口(8)を具備するハウジング(6)が、排出口(4)の回りに配備されることを特徴とする、請求項1に記載のサンプリングデバイス。
【請求項3】
排出口(4)に対する吸込ライン(9)の開口の配置が変更可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載のサンプリングデバイス。
【請求項4】
吸込ライン(9)が、バルブ(11)を介して真空ライン(12)に接続される収集容器(10)に進入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のサンプリングデバイス。
【請求項5】
排出口(4)がキャピラリの形式で設計されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のサンプリングデバイス。
【請求項6】
サンプリングデバイス(1)が、排出口(4)の領域において加熱可能であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のサンプリングデバイス。
【請求項7】
電気加熱器またはヒートカップリングが、加熱のために提供されることを特徴とする、請求項6に記載のサンプリングデバイス。
【請求項8】
雰囲気湿度に置き換わる保護ガス雰囲気が生じ、排出口(4)の領域において維持されうることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のサンプリングデバイス。
【請求項9】
圧縮空気ライン(15)の開口が、排出空気ライン(9)の開口の反対側に、排出口(4)側方付近に配備され、ガスの過剰圧を圧縮空気ライン(15)に生じさせることができ、排出口(4)から排出される物質(13)を圧縮空気ライン(15)の開口を介したガス流出によって吸込ライン(9)の開口の方向に吹き飛ばすことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のサンプリングデバイス。
【請求項10】
使用されるガスが、化学的に実質的に不活性の保護ガスであることを特徴とする、請求項9に記載のサンプリングデバイス。
【請求項11】
サンプリングデバイス(1)が、実質的または完全に、化学的耐性物質から形成されうることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のサンプリングデバイス。

【公表番号】特表2007−506538(P2007−506538A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517992(P2006−517992)
【出願日】平成16年6月5日(2004.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006094
【国際公開番号】WO2005/003733
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】