説明

マイクロ波アンテナ

【課題】誘電体の厚みにより速度差があること等を利用して、1個のアンテナにて180度以上の広い範囲の指向性が得られるようにする。
【解決手段】本体10のアンテナ開口12の前面を覆うように誘電体14を設け、この誘電体14には、開口12の中央部の位置に、薄肉表面部15aを付けた開口15又は完全な開口17を形成する。この誘電体開口は、一方向に長い形状とし、短手方向Fbでは、誘電体14の厚さを略同一とし、誘電体14のアンテナ開口端側縁部24eの外側角を曲面に形成すると共に、この縁部24eから本体10の側面に延出させた延出部24hを設けることで、広い角度で均一な利得となる指向性とし、長手方向Faでは、誘電体14を凸レンズ形に形成することで、指向性を鋭くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波アンテナ、特に広い角度に亘って指向性が均一となるアンテナの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図11には、ダイポールアンテナの構成が示されており、このアンテナは、接地導体1に対し1/4波長の長さのダイポールアンテナ2を設けたもので、図11(A),(B)の破線70に示されるように、360度の範囲の指向性が得られる。
【0003】
図12には、複数のアンテナ(素子)を配置したオムニアンテナが示されており、図12(A)は、基板3上に4個のアンテナ素子(パッチアンテナ)4を一方向へ並べたもので、破線71の指向性が得られる。また、図12(B)は、基板5上に形成したアンテナ素子4の向きを変えて配置したもので、破線72で示される広い範囲の指向性が得られる。即ち、単体のアンテナでは、半値幅が90度程度となるが、複数のアンテナ素子4の向きを変えることにより、180度以上の範囲がカバーできることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−10407号公報
【特許文献2】特開2002−368532号公報
【特許文献3】特開平09−321533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マイクロ波アンテナを用いる各種の検出では、1個のアンテナでその前方(又はセンサ前方)の180度に近い範囲を良好な利得で検知することが望まれる。
しかしながら、図11のダイポールアンテナは、360度の指向性が得られるが、利得が低く、不要な後方までの感度がある。
また、図12のオムニアンテナは、複数のアンテナ素子4を配置し、その方向を変えたりするため、給電部や機構が複雑になり、また全体の形状も大きくなるという問題がある。
【0006】
一方、従来では、アンテナの指向性を変えるために、誘電体からなる電波レンズが用いられており、例えば上記特許文献1では、平面アンテナの鉛直線に対し斜め方向に向かう指向性が得られている。
【0007】
また、図13に示されるように、例えば凸レンズ形の電波レンズ5の場合は、広がりを持つ電波に対し周辺部では誘電体が薄いため、速度の遅れによる位相遅れは少ないが、中央部では誘電体が厚いため、速度の遅れによる位相遅れが大きくなる。そこで、この位相遅れを電波レンズ5の厚みで調整し、レンズ出力部で位相が略平行になるようにすることで、電波の広がりが少ない鋭い指向性を得ることができる。逆に、凹レンズ形の電波レンズの場合は、指向性を広げることができる。
【0008】
しかしながら、上記のようなレンズ形状の電波レンズを用いても、十分に広い範囲の指向性が得られていない。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、誘電体の厚みにより速度差があること等を利用して、1個のアンテナにて180度以上の広い範囲の指向性が得られるマイクロ波アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係るマイクロ波アンテナは、アンテナ開口の前面を覆うように略同一の厚さの誘電体を設け、この誘電体には、上記アンテナ開口の中央部の位置に所定形状の開口又は薄肉表面部を付けた開口を形成し、広角度の指向性が得られるようにしたことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記アンテナ開口が形成された本体の側面に、上記誘電体のアンテナ開口端側縁部から延出させた延出部を設けると共に、上記誘電体の上記縁部の外側角を曲面に形成したことを特徴とする。
請求項3の発明は、上記誘電体開口を一方向に長い形状とし、この誘電体開口の長手方向に垂直な方向において、上記誘電体の厚さを略同一とし、上記誘電体のアンテナ開口端側縁部の外側角を曲面に形成する構成としたことを特徴とする。この場合、誘電体開口の長手方向において、上記誘電体を凸レンズ形に形成する構成としてもよい。
【0011】
上記請求項1の構成によれば、例えば略同じ厚さの平板状誘電体の略中央に、開口又は薄肉表面部を付けた開口(誘電体開口)が設けられるが、この誘電体開口の部分とその他の部分とで電波の速度差が生じ、この速度差により電波の伝搬が誘電体の面方向(アンテナ開口面方向)に沿って広がるので、誘電体の端方向(前方を見て左右方向)への電波強度が現れ、180度以上の広い角度の指向性が得られる。なお、上記薄肉表面部はアンテナ内への漏水を防止するために設けられる。
【0012】
上記請求項2の構成によれば、本体の側面に配置された誘電体の延出部まで電波が伝播すると共に、誘電体縁部外側角の曲面を介して電波が伝搬することになり、この結果、誘電体の端方向への電波の広がりが大きくなると共に、利得が均一となる(電波の伝搬距離が均一で円みのある)指向性が得られる。
【0013】
上記請求項3の構成によれば、誘電体開口の長手方向に垂直な方向において、180度以上の広い角度範囲で利得の均一な指向性が得られ、また誘電体開口の長手方向においては、鋭くなる指向性が得られることになる。なお、長手方向において誘電体を凸レンズ形に形成すれば、長手方向での指向性を更に鋭くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマイクロ波アンテナによれば、ダイポールアンテナのように、低い利得とすることなく、またオムニアンテナのように、給電部や機構を複雑にすることなく、1個のアンテナにより180度以上の広い範囲の指向性が得られるという効果がある。
【0015】
上記請求項2の発明によれば、180度以上の更に広い範囲において円みのある均一な利得の指向性が得られ、上記請求項3の発明によれば、到達距離が長くかつ広い角度の指向性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例に係るマイクロ波アンテナの構成を示し、図(A)は薄肉表面部を残した誘電体開口の長手方向に垂直な方向(短手方向)の(中央部)断面図、図(B)は長手方向の(中央部)断面図、図(C)は貫通孔からなる誘電体開口の短手方向の(中央部)断面図である。
【図2】第1実施例のマイクロ波アンテナの全体斜視図で、図(A)は組立図、図(B)は分離図である。
【図3】第1実施例の指向性を示し、図(A)は誘電体開口の短手方向の指向性図、図(B)は誘電体開口の長手方向の指向性図である。
【図4】第1実施例のマイクロ波アンテナの電界強度分布[図(A)]と、指向性[図(B)]を示す図である。
【図5】誘電体を設けない状態のアンテナの電界強度分布[図(A)]と、指向性[図(B)]を示す図である。
【図6】平板の誘電体を配置したアンテナの電界強度分布[図(A)]と、指向性[図(B)]を示す図である。
【図7】開口のある平板誘電体を配置したアンテナの電界強度分布[図(A)]と、指向性[図(B)]を示す図である。
【図8】図7の誘電体板の幅を広げたときの指向性[図(A)]と、誘電体板の幅を狭くしたときの指向性[図(B)]を示す図である。
【図9】第1実施例のマイクロ波アンテナで電波が前方へ進む様子を示す電界強度分布図である。
【図10】第2実施例のマイクロ波アンテナの構成を示す斜視図である。
【図11】従来のダイポールアンテナの構成及び指向性を示す図である。
【図12】従来のオムニアンテナの構成を示し、図(A)は複数のアンテナ素子を平面上に配置した例の図、図(B)は複数のアンテナ素子を立体的に配置した例の図である。
【図13】従来の凸状電波レンズでの電波の伝搬及び指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2には、本発明の第1実施例に係るマイクロ波アンテナの構成が示されており、図1(A),(B)及び図2は、薄肉表面部を残した開口の例、図1(C)は貫通孔の開口の例である。実施例は、例えば矩形導波管に接続されるホーンアンテナであり、直方体形状の本体10には、矩形導波管に接続される伝送線路−導波管変換部11と、開口面積が徐々に広くなるホーン状の開口12が設けられる。この本体10の開口12の前面(図の上側)を塞ぐように、誘電体14が配置されており、図1(A)に示されるように、この誘電体14の中央(アンテナ開口の中央部の位置)に、薄肉表面部15aを残すように凹部とした開口15が設けられる。
【0018】
この開口15は、図1(A),(B)に示されるように、一方向に長くなっており(両端まで貫通する形になる)、この長手方向をFa,これに垂直な方向を短手方向Fbとすると、図2(B)にも示されるように、この長手方向Faを伝送線路−導波管変換部11の矩形開口(又はホーン開口)の短辺11bの方向に一致させ、短手方向Fbを伝送線路−導波管変換部11の矩形開口の長辺11aの方向に一致させた配置となるように構成される。
【0019】
上記誘電体14は、図1(A)のように、開口15の短手方向Fb(の断面)において、開口15を除いて全体的に同じ厚さとされ、この誘電体14には、アンテナ開口端側縁部14eから本体10の側面まで延出させた延出部14hが設けられると共に、上記縁部14eの外側角が曲面に形成される。また、図1(B)に示されるように、開口15の長手方向Fa(の断面)においては、誘電体14を凸レンズ形に形成し、鋭い指向性が得られるようにしている。
【0020】
図1(C)には、第1実施例の誘電体開口を貫通孔とした例が示されており、図示されるように、この例では、誘電体14の中央(アンテナ開口の中央部の位置)に、貫通孔からなる開口17が設けられる。この開口17は、図1(B)の開口15のように両端まで貫通しておらず、この開口17の形状は、例えば矩形(長方形、長孔形状)とされ、その短手方向Fbを伝送線路−導波管変換部11の矩形開口の長辺11aの方向に一致させ、長手方向Faを伝送線路−導波管変換部11の矩形開口の短辺11bの方向に一致させる。その他の誘電体14等の構成は、上記と同様となる。
【0021】
即ち、上記開口15,17は、その他の場所との速度差を生じさせ、誘電体14の面方向に電波を伝搬させる役目をしており、貫通した完全な開口が好ましいが、アンテナを屋外等で使用する場合には、アンテナ(又はセンサ)内への水の浸入を防ぐ防水対策が必要である。この防水対策のために、図1(A),(B)で示した誘電体開口15においては、薄肉表面部(防水薄壁)15aを付けており、この薄肉表面部15aは防水を果たす最小限の厚さでよく、開口15から誘電体14の表面部に伝播される表面波を阻害しない程度の薄さとすることが好ましい。
【0022】
図3には、第1実施例のアンテナで得られる指向性(指向特性)が示されており、第1実施例の構成によれば、誘電体開口15の長手方向に垂直な短手方向Fbでは、開口15とその他の部分との電波伝搬の速度差により、電波が誘電体14の面方向に沿って広がるため、図3(A)の破線73に示されるように、180度以上の広い角度の指向性が得られ、また縁部14eの外側角の曲面により電波の伝搬距離が均一となり、利得が均一となる(円みのある)指向性が得られている。一方、誘電体開口15の長手方向Faでは、開口15による速度差はなく、かつ誘電体14の凸レンズ形状により電波の伝搬を中心軸方向へ集中させるので、図3(B)の破線73のように鋭い指向性が得られる。
【0023】
次に、図4乃至図9に基づき、他の構成との比較で実施例にて得られる電界強度分布及び指向性を説明する。
図4は、第1実施例の電界強度分布及び指向性であり、第1実施例では、図4(A)に示されるように、電界強度分布がアンテナ前方に略半円状に広がることになり、図4(B)に示されるように、略180度の範囲で一定の強度が得られている。
【0024】
図5は、本体10の前面に誘電体を設けない場合の電界強度分布及び指向性であり、この場合は、図5(A)のように、電界強度が本体10の前方に集中しており、図5(B)のように、約50度の範囲の指向性しか得られない。
図6は、本体10の前面に、平板状の誘電体19を置いた場合の電界強度分布及び指向性であり、誘電体19の厚みが電波の1/2波長付近の場合は、図6(A)のように、誘電体の影響はほとんどなく、誘電体がない場合に比べて、電界強度分布及び指向性[図6(B)]が若干変化する程度である。
【0025】
図7は、本体10の前面に、平板状の誘電体19の中央に開口(切り欠き)20を設けた場合の電界強度分布及び指向性であり、この場合は、開口20の速度差により誘電体19内の開口面と平行な方向の電波の伝搬が発生し、図7(A)の電界強度分布に示されるように、電波が誘電体板に沿って広がることにより、図7(B)のように、誘電体19の端面方向に指向性が現れる。この指向性は、誘電体19の端面までの長さで様々に変わるが、端面に電波が集中するため、特定方向の指向性が強くなり、少し歪んだ利得の特性となる。
【0026】
図8は、図7(A)の誘電体19の幅を広げた場合[図(A)]と狭めた場合[図(B)]の指向性であり、図7(A)よりも広げた場合は、図8(A)のように、180度以上の指向性が得られ、狭めた場合は、図8(B)のような指向性となる。
【0027】
図9は、第1実施例の構成で、図(A)から(C)へ電波が前方へ進んでゆく様子を示したものであり、g1 に示されるように、電波は開口17(15)を先に進みかつこの開口17内ではその中心の電波が先に進み、またその結果、g2 に示されるように、誘電体14内の電波は誘電体14の面方向(前面と平行な方向)への伝搬が発生し、誘電体14に沿って広がる。更に、g3 に示されるように、本体10の側面まで延出部14hを延出させたことで、電波はその延出部14hに沿って伝搬し、また縁部14eの外側角を曲面に形成したことで、特定方向への強い放射が緩和され、その結果として、図4のように、180度以上の広い角度に亘って均一な放射特性(利得)が得られることになる。
【0028】
また、実施例では、図1(B)で説明したように、開口15の長手方向Faにおいては、誘電体14を凸レンズ形に形成し、図3(B)のように指向性を鋭くしている。即ち、送受のアンテナを個別に配置する場合、送信波が受信アンテナに混入し、受信感度を劣化させることが生じるが、実施例のように、指向性を鋭くすることで、受信アンテナへの送信波の混入を防止することができる。また、送受を一体化させた小型アンテナ(又はセンサ)では、広角度指向性のアンテナを配置して送受のアイソレーションを高めることが困難になるが、本願発明では送受のアイソレーションを高めたアンテナが実現可能となる。
【0029】
図10には、送受一体型のマイクロ波アンテナ第2実施例の構成が示されており、この第2実施例は、誘電体開口の長手方向Faに図1の構成のアンテナを2個並べたものである。即ち、図10に示されるように、本体20には、伝送線路−導波管変換部11を有するホーン状の開口22a,22bが設けられ、この本体20の開口22a,22bを塞ぐように、箱状の誘電体24が配置されており、この誘電体24では、図10(B)のように、それぞれのアンテナ開口22a,22bの中央部の位置に、薄肉表面部25a,26aを付けた凹部(4辺の角を丸くした長方形)の開口25が設けられる。
【0030】
また、上記誘電体24は、短手方向Fbにおいて、開口25,26を除いて全体的に同じ厚さとされ、この誘電体24には、曲面外側角の縁部24eを介して延出部24hが設けられる。更に、長手方向Faにおいては、アンテナ開口22a,22bのそれぞれの上方の誘電体24の部分が凸レンズ形に形成される。
【0031】
このような第2実施例の構成においても、図3と同様の指向性となり、短手方向Fbでは広い角度において均一な利得の指向性、長手方向Faでは鋭い(狭い)指向性が得られることになり、小型アンテナでも、送受のアイソレーションが高いものを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上記実施例によれば、簡単な構成で、180度以上の広い角度で利得の均一なアンテナが得られ、センサに組み込んで壁面に設置する場合は、側面方向の死角をなくすことができ、電柱等に取り付ける場合は、2個で360度全周がカバーできるという利点がある。また、通信装置への応用においても、小型ハブ局等に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
10,20…本体、
11…伝送線路−導波管変換部、
12,22a,22b…アンテナ開口、
14,24…誘電体、
14e,24e…縁部、
14h,24h…延出部、
15,25,26…誘電体開口、
15a,25a,26a…薄肉表面部、
Fa…誘電体開口の長手方向、
Fb…誘電体開口の短手方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ開口の前面を覆うように略同一の厚さの誘電体を設け、
この誘電体には、上記アンテナ開口の中央部の位置に所定形状の開口又は薄肉表面部を付けた開口を形成し、広角度の指向性が得られるようにしたマイクロ波アンテナ。
【請求項2】
上記アンテナ開口が形成された本体の側面に、上記誘電体のアンテナ開口端側縁部から延出させた延出部を設けると共に、上記誘電体の上記縁部の外側角を曲面に形成したことを特徴とする請求項1記載のマイクロ波アンテナ。
【請求項3】
上記誘電体開口を一方向に長い形状とし、
この誘電体開口の長手方向に垂直な方向において、上記誘電体の厚さを略同一とし、上記誘電体のアンテナ開口端側縁部の外側角を曲面に形成する構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ波アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−110503(P2013−110503A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252517(P2011−252517)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】