説明

マイクロ波加熱炉、多孔質体、軟磁性圧粉コア材料

【課題】シングルモードタイプの加熱炉において、リング状の大型試料を加熱(焼結、焼鈍)する際の加熱ムラを抑制する。
【解決手段】被加熱体5が収容される内部空間を有する加熱部13と、前記内部空間へマイクロ波を照射するマグネトロン1とを備えたマイクロ波加熱炉において、前記加熱部13は、金属製の円筒形状の外側導体3と、前記内部空間を介して前記外側導体3の内部に設けられた金属製の円柱又は円筒形状の内側導体4とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱炉及びこの炉により製造される多孔質体、軟磁性圧粉コア材料に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波加熱は従来、電子レンジに代表されるように、水分を含む食品の急速加熱・急速乾燥に主に用いられてきた。これまで、電子レンジにより加熱できるのは、誘電体のみと考えられてきたが、近年、金属なども粉末であれば加熱できることが解ってきた。マイクロ波による金属粉末加熱のメカニズムは主として、誘導加熱と磁性損失と磁気共鳴によるものである。通常の電子レンジタイプの炉の場合、金属粉末の加熱では、マイクロ波加熱の特徴である高速加熱ができないことがある。これは、大部分の金属粉末はマイクロ波の磁場によって加熱されやすく、電子レンジに代表されるマルチモードタイプの炉では、炉内の電磁界分布がランダムで、試料に充分な磁場が印加されない場合があるためである。
【0003】
一方、シングルモードタイプの炉では、炉内で特定の電磁界モードのみのマイクロ波を伝搬させる。そのため、炉内に強電界域あるいは強磁界域を作ることができ、殆どの金属粉末を高速に加熱することができる。シングルモードタイプの炉は、金属粉末の加熱において極めて有用なツールである。しかしながら、一般に使用可能なマイクロ波の周波数は2.45GHzであるため、従来のシングルモードタイプの炉は小型のサンプルの処理にしか対応できない。例えば特許文献1には、1000MHz前後の周波数の低いマイクロ波源を用いることで、より広いワークゾーンを確保できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−45789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記特許文献のものでは、大型試料を加熱しようとして1000MHz前後の炉を使用する場合、設備も大規模化する。しかも単純に設備を大きくしても、大型試料が同程度の強度の電磁界域に収まるように電磁界の強度分布を広げることは困難である。特に複雑な形状であるリング状の試料を大型化する場合に、強い電磁場域から試料の一部がはみ出ることで加熱ムラが生じ易いという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、リング状の大型試料を加熱する際の加熱ムラを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
被加熱体が収容される内部空間を有する加熱部と、前記内部空間へマイクロ波を照射するマグネトロンとを備えたマイクロ波加熱炉において、前記加熱部は、金属製の円筒形状の外側導体と、前記内部空間を介して前記外側導体の内部に設けられた金属製の円柱又は円筒形状の内側導体とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リング状の大型試料を加熱する際の加熱ムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】マイクロ波加熱炉の概略図。
【図2】マイクロ波の電波モードの電界(磁界)分布図。
【図3】炉内の試料(被加熱体)の構造図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
導波管によって導波される電磁界は、TEM(transverse electromagnetic)モード、TE(transverse electric)モード、TM(transverse magnetic)モードに分けることができる。マイクロ波の伝搬方向をz方向とすると、各モードにおける電界Ezと磁界Hzは次のようになる。
TEMモード:Ez=Hz=0
TEモード:Ez=0,Hz≠0
TMモード:Ez≠0,Hz=0
【0011】
従来のシングルモードタイプの炉では、一般に矩形導波管を用い、例えばTE10モードにより形成される強磁界域あるいは強電界域を試料の加熱に利用する。例えば断面積80mm×80mmの導波管で形成される強磁界域あるいは強電界域を利用すると、加熱ムラを抑制しながら処理できる試料の大きさはおよそ20mm×20mm×20mm程度である。
【0012】
本発明では、従来、マイクロ波の伝送方法として利用されている同軸ケーブルのケーブル内に分布する電磁界を加熱炉として応用する。同軸ケーブルは従来、受信アンテナなどの信号の送電線などに用いられ、加熱炉などの大出力のエネルギ送電に用いられることは無い。一般の同軸ケーブルは、中心導線の周りにそれを支持するポリエチレンなどの絶縁物で覆われ、さらにその外部が導体で覆われている。
【0013】
本発明では、例えば2.45GHzのシングルモードタイプの定在波炉で、外側導体3と内側導体4の各々の中心軸が同軸となるようにこれらの導体を配置することで、内側導体4に対して軸対称に発生する強磁界域あるいは強電界域の何れかを試料の加熱に利用する。電磁界の強度分布は軸対称になり、リング状の試料であっても電磁界が集中するトロイダル状の領域に試料を収容することができるので、加熱ムラを抑制しつつ迅速に加熱することができる。試料を大きくする場合は、外側導体3と内側導体4の径方向寸法を調節することで、試料が同程度の電磁界域に配置されるように調節することができる。これによれば、従来の矩形導波管を用いたシングルモード炉では処理できなかった複雑なリング状の大型試料であっても加熱ムラを抑制しつつ迅速に加熱することができる。
【0014】
なお、本発明において、リング状とは試料が必ずしも周方向につながっていなくてもよく、試料の中心軸を通る断面で試料を切断した際の試料の断面積が場所によって異なっていても良い。また、加熱とは、粉体を成型するための焼結や、成型体の歪みを除去する焼鈍等を示す。
【0015】
加熱炉の概略を図1に示す。本加熱炉のマイクロ波供給源は2.45GHzのマグネトロン1である。加熱部13は外側導体3、内側導体4、反射体6等から構成される。マグネトロン1から加熱部13まで、マイクロ波をTM又はTEMモードで伝送する。マグネトロン1から発振されたマイクロ波は、接続導波管2を経由し、加熱部13に供給される。一般に、情報通信に使用される同軸ケーブルは円筒形状の外側導体がφ5mm程度、内部導体がφ1.5mm程度であるが、本発明の炉は、外側導体3がφ100mm以上の外径を有する。円筒形状の外側導体3の内部に、外側導体3よりも径の小さい円柱又は円筒形状の内側導体4が設けられ、両者の間は試料(被加熱体)5を設置するため自由空間となっている。外側導体3と内側導体4は共に金属製であり、電気的に絶縁されている。内側導体4はアタッチメントとして、処理する試料5の寸法によりその径を任意に変更することが可能である。外側導体3の内径Dと内側導体4の外径dの比(内径D/外径d)は、試料5の支持冶具8や断熱材スペース、炉内電磁界分布を勘案し、1.05〜3.33の範囲で与えられる。
【0016】
TE、TM、TEMモードの電界(磁界)分布を図2(a)〜(c)に示す。(a)TEモードと(b)TMモードについては、Z軸に沿って導体中央を切断した断面の電界(磁界)分布を示し、(c)TEMモードについては、導体の斜視図における電界(磁界)分布を示す。図中の破線内が最も電界(磁界)の強度が高い。電界と磁界とは導体中の同じ位置で強度が大きくならず、Z方向にいくらかシフトするが、強度分布は同様の傾向を示す。加熱炉内では、マイクロ波の電波モードはTMモードあるいはTEMモードとする。TEモードでは、内側導体の近傍の電磁界の強度が大きくなり、外側導体に近づくほど強度が弱くなるので、試料5に効率的にマイクロ波を照射することができない。TM又はTEMモードにすることで電磁界の分布はトロイダル状になり、外側導体3と内側導体4間の試料5を強電場あるいは強磁場域に置くことができる。
【0017】
炉内の電磁界分布は、試料5および断熱材10、炉壁の誘電率、電気抵抗等に影響を受ける。マイクロ波を照射すると、試料5および断熱材10、炉壁の誘電率も変化するため、炉内の電磁界分布も変化する。電磁界分布が変化した場合、試料5が所望の強電界域あるいは強磁界域から外れ、効率的な加熱ができない場合がある。この場合、炉終端部の反射体6を、筒形状の加熱部13の軸方向に移動させる。これにより、炉内の空間の体積を増減させて電磁界分布も移動させることができ、試料5を強電界域あるいは強磁界域に置くことができる。反射体6の移動ストロークは、炉内に形成される定在波の1/8以上、好ましくは1/4波長以上とすることで、ほぼ実用的な加熱温度範囲において電磁界分布が変化しても、その分布を補正することが可能となる。
【0018】
マイクロ波中では、熱電対は先端に電界集中して放電しやすいため、マイクロ波プロセスでの温度測定に熱電対は不適である。マイクロ波プロセスでは、放射温度計により試料5の温度が測定される。反射体6には、放射温度計測用ポート9が設けられている。反射体6は炉の中心軸を回転軸として、円周方向に自由に回転できるように構成されることで、試料5の任意の位置の温度を計測することができる。なお、粉末を焼結したい場合は後述するように試料5を容器として試料内に粉末をセットする。炉の設置方向を反射体6が炉上部になる方向に設置すると、粉末をこぼさずに粉末表面の温度を放射温度計で直接測定することができる。
【0019】
炉は同心円状であり、電磁界も同心円状に発生させることができるため、例えば、圧粉コア材料などのリング状の製品を効率的に加熱することができる。特に、非晶質材などでは加熱により結晶化した際、電界あるいは磁界の振動方向に対して配向するように組織を制御することが可能である。
【0020】
一般に強磁性体に電磁界が印加されると、渦電流損失とヒステリシス損失による発熱が生じるが、GHz帯の電磁界では磁壁の移動が追随しないため、ヒステリシス損失の影響は非常に小さくなる。しかし、GHz帯であっても材料系と周波数によっては、磁気共鳴が生じ発熱する場合がある。磁気共鳴周波数は材料の微細構造の影響を受ける。特にひずみが加わり結晶構造の対称性が大きく変化した個所では、磁気共鳴が集中し、局所加熱が起きる可能性がある。鉄系の圧粉コア材料をプレス成形した後に、ひずみ除去するために本発明の炉を用いると、上記のようなヒータ加熱とは異なるメカニズムにより製品が加熱されるため、従来のヒータ加熱よりも優れた磁気特性を発現する。
【0021】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
本実施例では、鋳鉄粉末の多孔質体を焼結した。粉末の平均粒径を150μm程度とした。炉の外側導体3の内径をφ100mmとし、内側導体4の外径をφ70mmとした。ここで試料(被加熱体)5は、断熱材10と、断熱材10上面の溝に充填された鋳鉄粉末11と、蓋12から構成される。断熱材10はCを0.5%含む低密度Al23で形成され、外径φ95mm/内径φ65mm×厚さ20mmである。この上面に、外径φ85mm、内径φ75mm、深さ7mmの溝が形成され、この溝に鋳鉄粉末11をタッピングにより充填した。溝に充填された鋳鉄粉末11の見掛け密度はおよそ3g/mm3である。粉末を焼結する場合は、試料5と支持冶具8とが粉末の支持部材となる。
【0023】
図3は炉内の試料5の構造を説明する図であり、粉末を試料5内に充填し、試料5を炉内にセッティングした状態を示す。鋳鉄粉末11を充填した断熱材10には、断熱材10と同材質の断熱材を蓋12として載せた。試料温度を放射温度計で測定する際に、放射温度計の視野を確保するため、蓋12には約30°間隔で放射温度計測用の貫通穴7を設けた。
【0024】
焼結条件は、雰囲気をN2ガス、目標温度を1050〜1060℃とした。また、初期マイクロ波出力を1kWとし、加熱状況を見ながら出力を調整した。試料5には強電場が印加されるよう初期位置を反射体の初期位置を調整した。温度の測定は放射温度計により行い、設定放射率は1.0とした。加熱処理中、温度上昇が緩慢になった場合は反射体6を移動し、昇温速度が最大となるよう制御した。1000℃以上に加熱されたとき、反射体6を周方向に回転させ、12点の試料位置で温度を測定し、温度差が±20℃程度であることを確認した。また、比較のため、同様の断熱材にセッティングした鋳鉄粉末を通常のマルチモード炉により焼結した。
【0025】
焼結時の加熱時の昇温状況と、焼結結果を表1に示す。一般のマルチモード炉での加熱と比較すると、本実施例の炉は1.0kWの低い出力でも目標温度に達し、一般のマルチモード炉の約5倍の加熱速度を得た。本実施例の炉で焼結したリングは、焼結による収縮が殆どなく、ほぼ充填した形状のまま焼結させることができた。加熱後の試料は充分ハンドリングでき、リング全周にわたり良好な焼結状態であった。一方、マルチモード炉で焼結した試料では加熱ムラが激しく、試料の一部は溶融により凝集し、リング状の製品が得られなかった。本実験により、本実施例の炉は低出力でかつ効率的に粉末を焼結することができることが確認された。
【0026】
マイクロ波で粉末を焼結させると、粉末の接触部分のみ反応するため、焼結させても体積が減少しにくい。つまり、粉末間の空隙が残ったままの多孔質焼結体を生成することができるので、その焼結体に金属等を含侵させる場合は含侵率を高めることができる。
【0027】
【表1】

【実施例2】
【0028】
本実施例では、鉄系の圧粉コアを焼鈍した。試料原料は純鉄粉末とし、その表面にリン酸コートを施し、圧粉成形圧を1200MPaとして外径φ80mm/内径φ60mm×厚さ5mmの圧粉コアを作製した。作製した軟磁性圧粉コア材料は、本実施例の炉と通常のヒータ加熱炉により焼鈍処理をし、それぞれ磁性特性を評価した。
【0029】
焼鈍条件は、雰囲気を大気中、ヒータ加熱では目標温度を550℃、保持時間を10minとした。マイクロ波加熱では目標温度500℃、保持時間0minとした。マイクロ波加熱では放射温度計で温度を測定し、放射率は1.0とした。本実施例のマイクロ波で加熱する際は、断熱材10は使用せず、SiO2製の支持冶具8の上に圧粉コアを直接置いた。圧粉コアには強磁場が印加されるよう初期位置を調整した。マイクロ波の出力は約500Wとし、目標温度に到達後に直ちに出力を切り炉を冷却した。本実施例の炉の外側導体の内径はφ100mmとし、内部導体の外径はφ70mmとした。コア材料は、鉄系結晶材料または非晶質材料、あるいは結晶と非晶質が混ざりあったものでも良い。
【0030】
マイクロ波およびヒータ加熱後の各圧粉コアの(400Hzにおける)磁気特性評価結果を表2に示す。渦電流損(渦損)の比較では、マイクロ波加熱とヒータ加熱に大きな差は認められないが、ヒステリシス損(ヒス損)の比較では、マイクロ波加熱の方が損失は小さかった。マイクロ波を用いて磁場中で加熱すると、従来のヒータ加熱と異なるメカニズムで加熱されるため、ひずみ除去効果が発揮される。また、本実施例の炉を使用した場合、焼鈍処理に要する時間は約3分程度であり、ヒータ加熱の1/10以下であり、処理工程の短縮においても有効である。
【0031】
【表2】

【符号の説明】
【0032】
1 マグネトロン
2 接続導波管
3 外側導体
4 内側導体
5 試料(被加熱体)
6 反射体
7 貫通穴
8 支持冶具
9 放射温度計測用ポート
10 断熱材
11 鋳鉄粉末
12 蓋
13 加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱体が収容される内部空間を有する加熱部と、前記内部空間へマイクロ波を照射するマグネトロンとを備えたマイクロ波加熱炉において、
前記加熱部は、金属製の円筒形状の外側導体と、前記内部空間を介して前記外側導体の内部に設けられた金属製の円柱又は円筒形状の内側導体とを備えることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項2】
請求項1において、前記内側導体の中心軸は、前記外側導体の中心軸と同軸となるように配置されることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項3】
請求項1において、前記外側導体の内径Dと前記内側導体の外径dとのD/d比が1.05〜3.33であることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項4】
請求項1において、前記マグネトロンと反対側になる前記加熱部の端部に反射体を備え、前記反射体が前記加熱部の軸方向に移動可能であることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項5】
請求項1において、入力される前記マイクロ波がTMモード又はTEMモードであることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項6】
請求項1において、前記加熱部は、アルミナ又はシリカを主成分とする支持冶具を備えることを特徴とするマイクロ波加熱炉。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロ波加熱炉で焼結され、密度が90%以下であることを特徴とするリング状の多孔質体。
【請求項8】
請求項1に記載のマイクロ波加熱炉で焼鈍されたことを特徴とするリング状の軟磁性圧粉コア材料。
【請求項9】
請求項7において、前記軟磁性圧粉コア材料が、結晶、非晶質、結晶と非晶質との混合物の何れかであることを特徴とするリング状の軟磁性圧粉コア材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−93148(P2013−93148A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233506(P2011−233506)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】