説明

マイクロ波加熱調理装置

【課題】被加熱調理具の材質、肉厚、形状等に制約されず、被加熱調理具を効率的に加熱して調理することを可能にする。それぞれの用途に応じた各種被加熱調理具を効率的に加熱することができ、該被加熱調理具の加熱手段として汎用化して低コスト化する。制御手段を簡易化することができ、装置自体を低コスト化する。
【解決手段】上面が開口した有底形状で、金属材からなるシールドケースと、該シールドケース内にマイクロ波を出力するマイクロ波発振手段と、シールドケースの上面開口部内に装着される被加熱調理具と、少なくとも被加熱調理具の底面に取付けられ、シールドケース内に出力されるマイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材とを備える。マイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材により被加熱調理具を所要の温度に加熱して調理可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油揚げ用調理装置としての調理用油槽、ホットプレート等の調理用鉄板、調理用湯かん具等の各種被加熱調理具をマイクロ波で所望の温度に加熱するマイクロ波加熱調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1及び2に示すように電磁誘導原理による誘導加熱を利用して鍋釜等の底面にジュール熱を発生させて調理する電磁誘導加熱調理装置が知られている。該電磁誘導加熱調理装置は、熱効率が高い、空気を汚さない、加熱コイルに印加する高周波電流を制御することにより加熱温度レンジ幅が広い等の特徴を有しているが、使用する被加熱調理具の材質(ステンレス鋼、鉄、鉄琺瑯等)、肉厚、形状等が制限されるため、使い勝手悪い問題を有している。
【0003】
また、被加熱調理具の加熱面に加熱コイルを近接した状態で組み込む必要があり、電磁誘導加熱器具自体、例えばコンロ用、炊飯器用、湯沸し用等のように専用の調理装置として構成する必要がある。このため、それぞれの用途に応じた電磁誘導加熱調理装置を揃える必要がある。
【0004】
更に、加熱コイルに印加する高周波電流を高精度で制御する必要があるため、制御手段が複雑化して器具自体が高コスト化する問題を有している。
【特許文献1】特開平6−29082号公報
【特許文献2】特開2008−117722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、従来の電磁誘導加熱調理装置が被加熱調理具の材質、肉厚、形状等に制約され、それ以外の被加熱調理具では、加熱できなかったり、加熱効率が悪く、効率的に調理できない点にある。また、従来は、それぞれの用途に応じた専用の電磁誘導加熱調理装置とする必要があり、全体としては、高コスト化する点にある。更に、従来の電磁誘導加熱調理装置は、加熱コイルに印加される高周波電流を制御手段が高い精度で制御する必要があり、制御手段が複雑化して高スト化する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上面が開口した有底形状で、金属材からなるシールドケースと、該シールドケース内にマイクロ波を出力するマイクロ波発振手段と、シールドケースの上面開口部内に装着される被加熱調理具と、少なくとも被加熱調理具の底面に取付けられ、シールドケース内に出力されるマイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材とを備え、マイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材により被加熱調理具を所要の温度に加熱して調理可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、被加熱調理具の材質、肉厚、形状等に制約されず、被加熱調理具を効率的に加熱して調理することができる。また、それぞれの用途に応じた各種被加熱調理具を効率的に加熱することができ、該被加熱調理具の加熱手段として汎用化して低コスト化することができる。更に、制御手段を簡易化することができ、装置自体を低コスト化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、マイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材により被加熱調理具を所要の温度に加熱して調理可能にすることを最良の形態とする。
【実施例1】
【0009】
以下に本発明の実施形態を示す図に従って説明する。
図1に示すように、マイクロ波加熱調理装置1のシールドケース3は、後述するマイクロ波を反射して外部への漏洩を規制する鉄板、ステンレス鋼板等の金属材料で箱型に形成され、上面に後述する被加熱調理具11が嵌め込み可能な大きさの開口部3aを有している。また、各側板3bの上端には、外側へ所定の幅で延出して調理テーブル5(図中、一点鎖線で示す。)するフランジ3cがそれぞれ設けられている。各フランジ3cには、透孔3dが長手方向に適宜の間隔をおいて形成され、調理テーブル5に形成された開口段差部5aに長手方向へ適宜の間隔をおいて取付けられた各ねじ7が挿通されることにより固定される。
【0010】
そして各フランジ3cの上面には、シールドケース3の側板3bの長手方向長さに一致する長さで、長手直交方向断面が横向きV字形に折り曲げられた板ばね等からなるシールド板9が配置される。該シールド板9には、各ねじ5に一致する間隔をおいた複数の透孔9aが形成され、各透孔9aを挿通するそれぞれのねじ7により取付けられる。
【0011】
シールドケース3の下部には、マイクロ波発振手段11が配置される。該マイクロ波発振手段11は、マイクロ波数帯域(2〜10GHz)のマイクロ波を、例えば0.5〜5kWで出力するマグネトロンや、レーザダイオード及び多段増幅器から構成される半導体マイクロ波発振手段等により構成され、該マイクロ波発振手段11には、開口部3aの領域全体にマイクロ波を出力するように配置された複数個のマイクロ波出力部材13が接続される。
【0012】
マイクロ波としては、電波法等により、工業用、科学用、医療用等の用途に割当てられた、例えば2.45GHz帯域が好適であるが、上記周波数及び出力に限定されるものではなく、周波数に関しては、約1〜20GHzの範囲で適宜選択することができる。
【0013】
また、マイクロ波出力部材13としては、上面に出力されるマイクロ波の1/4波長以上の幅からなる多数のスリットが形成されたマイクロ波導波管、アンテナ(図は、マイクロ波出力部材をアンテナとした例を示す。)等であればよい。そしてそれぞれのマイクロ波出力部材13は、後述するマイクロ波吸収板19の下面全体にマイクロ波を出力する。
【0014】
シールドケース3の開口部3a内には、例えばホットプレートとして使用する調理用鉄板、フライヤーとして使用する調理用油槽、調理用湯かん槽等の被加熱調理具15が、挿嵌するように取付けられる。図に示す被加熱調理具15としては、フライヤーとして使用する調理用油槽を示し、これに符号15を付す。
【0015】
該調理用油槽15は、上面が開口し、所定の深さで、平面が四角形状からなり、各側板の上部には、シールドケース3のフランジ3cに係止可能なフランジ15aがそれぞれ設けられ、各フランジ15aには、ねじ5が挿通される孔15bが形成される。そして調理用油槽15は、孔15bから突出したねじ5の上部にナット17を噛合わせてシールド板7を弾性変形させた状態で調理用テーブル5に取付けられる。
【0016】
上記調理用油槽15における底板15cの下面には、マイクロ波吸収板19が、底板15cに設けられた係止部15dにより底板15cの下面に密着するように取付けられる。該マイクロ波吸収板19は、底板15cに一致する大きさで、適宜厚さの方形体形状からなる磁性体により構成される。該マイクロ波吸収板19は、フェライト板やパーマロイ板、酸化スラグ等の各種磁性体を所定の割合で含有してパネル状に焼成されたセラミックスからなる。
【0017】
マイクロ波吸収板19は、以下のように製造される。
先ず、平均粒子径が約0.5〜3μmに微粉砕されたNi−Zn又はMn−Znを添加したフェライト(Fe23)、鉄ニッケル合金(Fe−Ni)を主成分とする金属系軟質磁性体(パーマロイ)又は酸化スラグ等の磁性材と粘土と、必要に応じてブチル−フタレート(DBP)又はジ−フタレート(DOP)等の可塑剤及びステリン酸等の熱可塑性バインダーを、混合比は60〜75:40〜25vol%で、攪拌及び混合する。上記のように混合された磁性材料を所定の厚さのパネル状に成形したした後に、約1000〜1350℃で焼成してフェライト分子が焼結したセラミックスとする。なお、可塑剤、バインダー等は、焼成に伴って気化して除去される。
【0018】
調理用油槽15には、油温を検知する温度センサー21が取付けられ、該温度センサー21により検知された温度に基づいてマイクロ波発振手段11を発振駆動させる。
【0019】
図2に示すように、制御手段23には、電源手段25が接続された電源駆動回路29、温度センサー21、温度設定手段27がそれぞれ接続される。電源手段25には、マイクロ波発振手段11が接続される。また、温度設定手段25は、例えば可変抵抗器等により構成され、調理用油槽15内の油温を、調理材料に適した温度に設定するように調整される。
【0020】
次に、上記のように構成されたマイクロ波加熱調理装置1の作用を説明する。
先ず、温度設定手段27により調理材料の調理に適した油温を設定した後、電源スイッチ(図示せず)をON操作してマイクロ波発振手段11を発振駆動させる。これによりマイクロ波出力部材13から所定出力のマイクロ波をマイクロ波吸収板19に向かって出力し、該マイクロ波吸収板19による電磁波吸収作用により発熱させる。即ち、マイクロ波吸収板19は、出力されたマイクロ波を、含有された磁性体による磁気損失及び電界損失により熱エネルギーに変換して吸収することにより発熱させられる。そして発熱したマイクロ波吸収板19により調理用油槽15を加熱することにより内部の調理油を加熱させる。(図3参照)
【0021】
なお、マイクロ出力部材13から出力されるマイクロ波は、直接、マイクロ波吸収板19に吸収させるほか、シールドケース3内を反射しながらマイクロ波吸収板19に吸収される。その際、シールドケース3内を反射するマイクロ波は、シールドケース3のフランジ3cと調理用油槽15のフランジ15aの隙間が漏出する恐れがあるが、両者間に金属材からなる板ばねのシールド板9を設け、該シールド板9の弾性変形により各フランジ3c・15aに密着させることによりマイクロ波の漏出を規制している。
【0022】
上記加熱に伴って温度センサー21により検知される油温が所定の温度以上の場合には、制御手段23は、マイクロ波発振手段11の発振駆動を停止させる。調理油による調理材料の調理の進展、または自然放熱により調理油の油温が温度設定手段27により設定された油温以下になった場合、制御手段23は、マイクロ波発振手段211に対して電源電圧を印加してマイクロ波を発振駆動させる。これにより上記作用によるマイクロ波吸収板19の発熱により調理用油槽15を加熱して調理油を昇温させる。マイクロ波の出力時間に対する調理用油槽底部及び油温の昇温状態を図4に示す。該温度データは、マイクロ波の周波数:2.45GHz、マイクロ波発振手段の出力:500Wの場合を示す。
【0023】
本実施例は、調理用油槽15の底面に取付けられたマイクロ波吸収板19によるマイクロ波吸収作用により調理油を加熱して所定の温度に昇温させることができ、マイクロ波吸収板19が一体に取付けられた被加熱調理具を交換するのみで、各種調理を行うことができる。また、温度センサー21により検知される油温に基づいてマイクロ波発振手段11を発振制御することにより調理油の油温をほぼ一定に保つことができ、制御手段を簡易化して装置自体を低コスト化することができる。
【0024】
上記説明は、被加熱調理具として調理用油槽15を装着した例を説明したが、被加熱調理具としては、図5に示すように肉類を焼いたりする際に使用する調理用鉄板51、または、例えばおでん等の調理材料を湯かんしたりする調理用湯かん具、炊飯器、湯沸し器等であってもよく、これらに限定されるものではない。いずれの場合であっても、これらの被加熱調理具は、底面又は必要に応じて側面にマイクロ波吸収板19を必着した状態で取付けたものとすることにより、マイクロ波加熱調理装置1において被加熱調理具のみを交換することにより共通して加熱することができる。
【0025】
また、上記説明は、調理用油槽15の底面にマイクロ波吸収板19を密着するように取付ける構成としたが、本発明にあっては、被加熱調理具の底面の他に、側面にマイクロ波吸収板を取付けた構成であってもよい。
【0026】
更に、上記説明は、被加熱調理具15の底面に一枚状のマイクロ波吸収板19を、密着した状態で取付ける構成としたが、被加熱調理具15の底面に複数枚のマイクロ波吸収板を適宜の間隔をおいて設ける構成であってもよい。この場合にあっては、それぞれのマイクロ波吸収板19に対し、P波及びS波をそれぞれ出力するようにマイクロ波出力部材13を配置することにより、各マイクロ波出力部材13から出力されるマイクロ波相互が干渉するのを規制して各マイクロ波吸収板19を効率的に発熱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マイクロ波加熱調理装置の中央縦断面図である。
【図2】制御手段の電気的ブロック図である。
【図3】マイクロ波の出力状態を示す説明図である。
【図4】出力時間に対する調理用油槽及び油温の温度上昇関係を示すグラフである。
【図5】被加熱調理具の変更例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 マイクロ波加熱調理装置
3 シールドケース
3a 開口部
3b 側板
3c フランジ
3d 透孔
5 調理テーブル
5a 開口段差部
7 ねじ
9 シールド板
11 マイクロ波発振手段
13 マイクロ波出力部材
15 被加熱調理具
15a フランジ
15b 孔
15c 底板
15d 係止部
17 ナット
19 マイクロ波吸収板
21 温度センサー
23 制御手段
25 電源手段
27 温度設定手段
29 電源駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した有底形状で、金属材からなるシールドケースと、
該シールドケース内にマイクロ波を出力するマイクロ波発振手段と、
シールドケースの上面開口部内に装着される被加熱調理具と、
少なくとも被加熱調理具の底面に取付けられ、シールドケース内に出力されるマイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材と、
を備え、マイクロ波の電波吸収作用により発熱するマイクロ波吸収部材により被加熱調理具を所要の温度に加熱して調理可能にしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項2】
請求項1において、マイクロ波発振手段は、シールドケースの内部及び外部のいずれかに設けたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項3】
請求項1において、被加熱調理具は、調理用油槽、調理用鉄板及び湯かん槽の少なくともいずれかとしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項4】
請求項1において、被加熱調理具には、該調理具の温度を検知する温度センサーを設け、該温度センサーからの信号に基づいてマイクロ波発振手段を出力制御して被加熱調理具をほぼ一定に温度に保つことを可能にしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項5】
請求項1において、マイクロ波吸収部材は、フェライト、パーマロイ、酸化スラグの少なくともいずれかを含有したセラミックスとしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項6】
請求項1において、シールドケースの対向する側板の上部には、適宜幅で水平方向へ延出するフランジを設け、調理用テーブルに形成された開口部周縁にフランジを係止して取付け可能にしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項7】
請求項6において、被加熱調理具は、側端部をフランジ上面に位置させて取付け可能にしたマイクロ波加熱調理装置。
【請求項8】
請求項7において、被加熱調理具とシールドケースのフランジ間には、長手直交方向断面が横向きV字形に折り曲げられた金属板ばねを介して取付け可能にとしたマイクロ波加熱調理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−56010(P2010−56010A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221695(P2008−221695)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(505384483)株式会社巧 (9)
【出願人】(508323355)有限会社カネ鉄商会 (5)
【Fターム(参考)】