説明

マイクロ波吸収陶器用釉薬及びマイクロ波吸収陶器

【課題】 リチウム−鉄系複合酸化物を含有したマイクロ波吸収陶器に用いられるマイクロ波吸収用釉薬であって、マイクロ波吸収陶器の釉薬の固化層に焼成の際にクラック(亀裂)が生じない釉薬及び釉薬固化層にクラックがなく水洩れしないマイクロ波吸収陶器を提供する。
【解決手段】 蛙目粘土80重量%に希土類元素を含む鉄化合物を含有するマグネタイトを10重量%、リチウム酸化物を含有したペタライトを10重量%の割合で混練した陶土を用いて、成形・乾燥・素焼してその素焼半製品に、ペタライト70重量%,カオリン20重量%,石灰石5重量%,酸化亜鉛5重量%の成分のマイクロ波吸収陶器用釉薬を塗布して1200〜1300℃で本焼成してマイクロ波吸収陶器を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ等のマイクロ波を照射する加熱装置によって、陶器自体を直接に100℃前後の高温に加熱できるマイクロ波吸収陶器の為の釉薬、及び釉薬固化層にクラックが発生しないマイクロ波吸収陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、食材・加工食品・調理品を加熱するために広く使用されている、マイクロ波を照射して水分・液体を加熱する電子レンジ等の加熱装置を用い、直接陶器自体をマイクロ波で加熱できる特殊なマイクロ波吸収陶器を開発した。その特殊陶器の技術は、特開2006−248853号公報として知られている。
このマイクロ波吸収陶器は釉薬を表面に塗布しなければ素焼状態であり、防水性がなく、水漏れを生じる。
しかしながら、このマイクロ波吸収陶器の素焼に、陶器に通常使用されている長石の多い釉薬を塗布して本焼成すると、固化した釉薬層に貫入(亀裂,クラック)が多数入ってしまい、このまま使用すると水漏れしていまい、防水性の食器・鍋・容器等としては、使用できにくいものであった。
【特許文献1】特開2006−248853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、上記のマイクロ波吸収陶器の問題点を解消し、マイクロ波吸収陶器の釉薬として使用しても釉薬層に貫入(クラック)が生じにくいマイクロ波吸収陶器用釉薬を提供し、又同釉薬を用いたマイクロ波吸収陶器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) ペタライトを60重量%以上含有することを特徴とする、マイクロ波吸収陶器用釉薬
2) ペタライト以外の成分としてカオリンと石灰石と酸化亜鉛とを混入した、前記1)記載のマイクロ波吸収陶器用釉薬
3) リチウム−鉄系複合酸化物を含有した陶土、又は焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する鉄化合物とリチウム化合物とを含有した陶土を成形して素焼し、同素焼の表面の一部又は全部に、前記1)又は2)記載のマイクロ波吸収陶器用釉薬を塗布して焼成して製造されるマイクロ波吸収陶器
4) 陶土中に、さらに希土類元素を含有させた、前記3)記載のマイクロ波吸収陶器
にある。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、釉薬としてペタライトが60重量%以上含有する釉薬を用いることによって、マイクロ波吸収陶器の素焼に塗布した釉薬で焼成しても、釉薬固化層に貫入(クラック)が生じることがなくなり、釉薬固化層が防水層として機能し、防水性があるマイクロ波吸収陶器として実用性あるものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のマイクロ波吸収陶器用釉薬の成分としては、ペタライトを70重量%前後にし、これにカオリンを20重量%混入し、残りに石灰石,酸化亜鉛を混入するのが好ましい。ペタライトの重量割合が60重量%より下がると貫入(亀裂,クラック)が生じるようになってくる。
【0007】
本発明のマイクロ波吸収陶器の陶土としては、陶土の主原料の粘土(普通陶土)にリチウム−鉄系複合酸化物を最初から添加させた陶土を使用するか、又は焼成時にリチウム−鉄系複合酸化物を形成する鉄化合物とリチウム化合物とを混在させて添加させた陶土を使用する。この陶土には、希土類元素(Pr,Nd,Dy)を含有させ、更に炭化珪素粒子を0.5〜15質量%の割合で含有することが好ましい。
【0008】
本発明のマイクロ波吸収陶器を製造するために使用される材料としては、コージェライト,ムライト,ペタライト,チタン酸アルミニウム,アルミナ等のセラミックス粉体、あるいはこれらのセラミックスの複合粉末、さらには陶器用陶土、各種粘土鉱物が挙げられ、粒径が0.1mm以下、例えば5μm以下の粉末状で使用される。これらの材料は、焼成後にSiO2 ,Al2 3 ,TiO2 ,MgO,Li2O等の酸化物形態をとる。また、陶器材料としては、鉛,クロム,ニッケル,亜鉛,銅等の有害成分を含有しないか、含有しても焼成後にあってこれらの有害金属酸化物が陶器中に0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下のものであれば使用することができる。
【0009】
焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する材料としては、鉄成分としては市販の水酸化鉄{Fe(OH)2 ,Fe(OH)3 ,FeOOH}、酸化鉄(FeO,Fe2 3 ,Fe3 4 )、また、焼成により除去される陰イオンを含有する鉄化合物が挙げられ、また、リチウム成分としては、炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、リン酸リチウム等が挙げられる。粉末状である場合、粒径としては0.1mm以下、例えば5μm以下のものが挙げられる。
【0010】
上記の鉄化合物は焼成によりFe2 3 に、また、リチウム化合物はLi2 Oとなるので、鉄化合物とリチウム化合物は、焼成後にあってLi2 OがFe2 3 に対して、0.1〜10質量%、好ましくは1〜8質量%となるように混合されるとよい。Li2 Oの含有量が10質量%より多いと焼成体の熱膨張率が上昇したり、リチウム−鉄系複合酸化物の形成に寄与しないLi2 Oが焼成後においても残存するという問題がある。混合方法としては、粉末−粉末,粉末−溶液,溶液−溶液のいずれの形態でもよく、特に限定されない。
【0011】
陶器材料としてペタライトを使用する場合には、ペタライトは焼成後にあってLi2 Oの形態で3〜5質量%含有するので、リチウム化合物を添加する必要はなく、鉄化合物の添加だけでよい。
【0012】
また、希土類元素(Pr,Nd,Dy)を3質量%〜5質量%含有するマグネタイト(Fe3 4 )は磁性材料廃棄物としてその有効利用が求められているが、本発明における鉄化合物原料として利用することができる。希土類元素(Pr,Nd,Dy)を含有させると、希土類元素に由来する酸化物はそれ自体マイクロ波を吸収して自己発熱性の機能を発揮するので、より、発熱性に優れるものとできる。
【0013】
また、本発明の陶土に対して、粒径範囲が0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5μmの炭化珪素粉末を、焼成に際して0.5質量%〜15質量%、好ましくは0.5質量%〜10質量%の割合で添加し、焼成するとよい。炭化珪素としてはβ型でもよいが、α型とするとよい。粒径が0.1μm未満であると自己発熱性が低下し、10μmを超えると成形性が悪化し、また、マイクロ波吸収陶器の強度向上に資することができない。また、炭化珪素の添加量として0.5質量%より少ないと強度向上に資することができず、15質量%より多いと釉薬との接着性が低下するので好ましくない。炭化珪素は、それ自体マイクロ波を吸収して自己発熱性の機能を発揮することが知られているが、本発明においては、焼成に際して、陶器材料粒子と接する炭化珪素粒子の表面が酸化されてガラス緻密層を形成し、マイクロ波吸収陶器の強度の向上に寄与させることができる。また、炭化珪素粒子内部は未酸化状態で残るためにマイクロ波吸収性を維持させることができ、また、炭化珪素粒子の含有量を少なくすることにより、釉薬との接着性に影響を与えないものとできる。
【0014】
本発明の陶土に対する焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する材料の配合割合は、両者とも酸化物基準で、陶器材料に対して焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する材料を0.5質量%〜50質量%の割合、好ましくは1質量%〜40質量%とするとよい。リチウム−鉄系複合酸化物を形成する材料の配合量が50質量%より多いと、マイクロ波による急激な自己発熱と熱膨張の上昇等の問題がある。
【0015】
配合物は、水、バインダー、さらに分散剤と共に十分に混合され、成形材料とされ、押し出し成形、プレス成形等により皿状,板状,パイプ状,ハニカム状,スポンジ状の成形物とされる。
【0016】
陶土の焼成温度として800〜1500℃、好ましくは1200〜1450℃とするとよく、また、焼成時間は0.5〜3時間、好ましくは1〜2時間とするとよい。
【0017】
また、焼成でリチウム−鉄系複合酸化物を形成するには、陶器材料にリチウム化合物と鉄化合物を混合する場合を説明したが、焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する材料、例えば鉄化合物とリチウム化合物とを混合し、予め1000℃で仮焼し、リチウム−鉄系複合酸化物を生成させてもよく、得られたリチウム−鉄系複合酸化物は0.1mm以下の粒径に粉砕され、陶土中に配合に供されてもよい。
【0018】
本発明のマイクロ波吸収用陶器においては、後述するX線分析の結果から明らかなように、焼成によってLiFe5 8 ,LiFeO2 ,Li5 FeO4 等の形態のリチウム−鉄系複合酸化物が形成され、その詳細な理由は不明であるが、マイクロ波吸収性を奏するものである。また、後述する予備試験で示すように、リチウム酸化物の含有量が多くなるにつれ、その発熱量が増大する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例を具体的に説明する。
本実施例のマイクロ波吸収陶器用釉薬としては、下記の表1の成分配合のものを使用した。
【0020】
【表1】

【0021】
次に、マイクロ波吸収陶土として、下記の成分配合のものを使用した。
(1)蛙目粘土・・・80重量%(普通陶土)
(2)マグネタイト・・・10重量%(希土類元素を含む鉄化合物含有)
(3)ペタライト・・・10重量%(リチウム酸化物含有)
【0022】
まず、上記マイクロ波吸収陶土を充分混練した後所定形状に成形して乾燥させ、800〜1200℃で素焼し、次に素焼した半製品に、上記表1の釉薬を塗布して、1200〜1300℃で本焼成をして製作した。
【0023】
製作されたマイクロ波吸収陶器の表面の釉薬層には貫入(クラック)は認められなかった。
又、本マイクロ波吸収陶器を水・液体を入れずに電子レンジで加熱させたら、陶器表面温度は75〜95℃程に昇温した。又、この製造された製品に水・液体を入れて加熱しても高温に加熱でき、且つ水洩れは認められなかった。
【0024】
以上の様に、本発明の釉薬を用いて焼成することで、マイクロ波吸収陶器を水洩れ、液体が浸みることなく陶器自体を加熱することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のマイクロ波吸収陶器製品は調理用鍋、保温性のよい食器、保温性のよい保温容器として使用できる他に、水・液体を含まない物品の加熱容器としても使用でき、工業用の応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペタライトを60重量%以上含有することを特徴とする、マイクロ波吸収陶器用釉薬。
【請求項2】
ペタライト以外の成分としてカオリンと石灰石と酸化亜鉛とを混入した、請求項1記載のマイクロ波吸収陶器用釉薬。
【請求項3】
リチウム−鉄系複合酸化物を含有した陶土、又は焼成によりリチウム−鉄系複合酸化物を形成する鉄化合物とリチウム化合物とを含有した陶土を成形して素焼し、同素焼の表面の一部又は全部に、請求項1又は2記載のマイクロ波吸収陶器用釉薬を塗布して焼成して製造されるマイクロ波吸収陶器。
【請求項4】
陶土中に、さらに希土類元素を含有させた、請求項3記載のマイクロ波吸収陶器。

【公開番号】特開2008−100875(P2008−100875A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285162(P2006−285162)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表した刊行物 刊行物名:日本経済新聞 第39面 2006年(平成18年)10月7日発行 刊行物名:長崎新聞 第7面 2006年(平成18年)10月7日発行
【出願人】(505091813)アサヒ陶研有限会社 (3)
【出願人】(598177256)有限会社田中珍味 (2)
【Fターム(参考)】