説明

マイクロ流体チップ、マイクロ流体チップセット及び核酸分析キット

【課題】複数種類の遺伝子が所定量発現したか否かの判定が、高感度、高精度で簡単にできるマイクロ流体チップ、マイクロ流体チップセット及び核酸分析キットを提供すること。
【解決手段】試薬30,31,32は、標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸と、標的核酸及び内部標準核酸に共通のプライマーと、標的核酸及び内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、標的核酸の増幅産物に結合した場合と内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、を含んでいる。ウェル16毎に、ウェル16に含まれるプライマー及び蛍光プローブが異なる。内部標準核酸の量は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液をウェル16に導入した場合に、ウェル16に導入される反応液に含まれる標的核酸の量と同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップ、マイクロ流体チップセット及び核酸分析キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多数の遺伝子の発現を一度に解析するために、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)が注目されている。DNAチップを用いた核酸検出・定量法は、DNAの相補性に基づくハイブリダイゼーション反応を利用した核酸検出・定量法である。DNAチップは、平面基板上に多種類のDNA断片(プローブDNA)が固定されているのが特徴で、具体的な使用方法としては、研究又は検査対象の細胞に含まれる発現遺伝子を蛍光色素で標識し、平面基板上のDNA断片と結合させ、その箇所を専用の装置で蛍光輝度を測定することにより、サンプル中の遺伝子発現量を定量する方法が挙げられる。
【0003】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、DNAチップには、いくつかの課題がある。
【0004】
第1に、感度についての課題が挙げられる。DNAチップの検出能力(感度)は低発現の遺伝子に対して十分ではない。
【0005】
第2に、精度についての課題が挙げられる。DNAチップで低発現の遺伝子を検出するためには、検体量を十分に確保する必要がある。検体量が少なくて反応に十分でない場合には、その遺伝子に対しPCR(ポリメラーゼ連鎖反応;Polymerase Chain Reaction)やIVT(in-vitro transcription)などの増幅反応を行って、検体中の核酸量を増やす必要がある。PCRは、標的核酸及び試薬を混合したものをPCR用のチューブ(反応容器)に入れ、サーマルサイクラーという温度制御装置で、例えば55℃、72℃、94℃の3段階の温度変化を数分の周期で繰り返し反応させるもので、酵素(DNAポリメラーゼ)の作用により温度サイクル1回あたり、標的核酸だけを約2倍に増幅することができる。この増幅処理は、検体に含まれる遺伝子量の比が変わってしまうため、定量精度が低下するという問題が指摘されている。
【0006】
また、標的核酸とよく似た配列を有する核酸がプローブに間違って結合すること(クロスハイブリダイゼーション)によっても精度が低下する。さらに、プローブの配列によって、特定の遺伝子の結合がバイアスされる可能性が指摘されている。同様に、標的核酸を蛍光標識することも精度に影響することが考えられる。
【0007】
第3に、再現性についての課題が挙げられる。DNAチップはプラットホーム(DNAチップ製品)が異なると、結果が異なる。様々な要因があるが、プローブの長さや配列が異なることが最大の原因と考えられている。
【0008】
臨床検査において用いられる、遺伝子発現を高精度、高感度に解析する手法として、リアルタイムPCRの絶対定量法や競合PCR法がある。これらの手法で定量を行い、その結果に基づいて注意深くキャリブレーションを行えば、DNAチップの感度及び精度の問題の一部を改善することができる。しかし、リアルタイムPCRの絶対定量法は、少なくとも5点のデータから検量線を作成する必要があり、競合PCR法も、複数の検量線を作成する必要がある。この作業は煩雑で、非常に手間と時間がかかる。さらに、キャリブレーション自体も煩雑な作業であった。そのため、これらの手法を多種類の遺伝子に適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sorin Draghici et.al.、"Reliability and reproducibility issues in DNA microarray measurement"、TRENDS in Genetics Vol.22 No.2 February 2006、P101-109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、複数種類の遺伝子が所定量発現したか否かの判定が、高感度、高精度で簡単にできるマイクロ流体チップ、マイクロ流体チップセット及び核酸分析キットを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るマイクロ流体チップは、
検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用するマイクロ流体チップであって、
複数の反応容器を含み、
前記反応容器は、
前記標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、前記標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸と、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸に共通のプライマーと、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、前記標的核酸の増幅産物に結合した場合と前記内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、
を含み、
前記反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれる前記プライマー及び前記蛍光プローブの種類は互いに異なり、
前記内部標準核酸の量は、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液を前記反応容器に導入した場合に、前記反応容器に導入される前記反応液に含まれる前記標的核酸の量である参照量と同じである。
【0012】
本発明によれば、反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なるため、複数種類の遺伝子の発現を簡単に精度良く判定できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0013】
また、本発明によれば、内部標準核酸の量は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液を反応容器に導入した場合に、反応容器に導入される反応液に含まれる標的核酸の量である参照量と同じであるため、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0014】
(2)このマイクロ流体チップは、
前記参照量は、前記参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量の少なくとも一方であってもよい。
【0015】
これにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体の少なくとも一方における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0016】
(3)このマイクロ流体チップは、
前記参照量が、前記参照検体を、前記健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器と、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器と、
を含んでいてもよい。
【0017】
これにより、1つのマイクロ流体チップで、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0018】
(4)このマイクロ流体チップは、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器と、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器と、
を含んでいてもよい。
【0019】
これにより、1つのマイクロ流体チップで、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、病気の第1進行状態の個体から採取した検体及び病気の第2進行状態の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0020】
(5)本発明に係るマイクロ流体チップセットは、
前記複数の反応容器の少なくとも一部として、前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器を含む、上述のマイクロ流体チップと、
前記複数の反応容器の少なくとも一部として、前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器を含む、上述のマイクロ流体チップと、
を含む。
【0021】
本発明によれば、判定の基準となる参照量を用途に応じて容易に選択できるマイクロ流体チップセットを実現できる。
【0022】
(6)本発明に係る核酸分析キットは、
検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用する核酸分析キットであって、
マイクロ流体チップと、
前記標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、前記標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸を含む液体である内部標準試薬と、
を含み、
前記マイクロ流体チップは、複数の反応容器を含み、
前記反応容器は、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸に共通のプライマーと、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、前記標的核酸の増幅産物に結合した場合と前記内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、
を含み、
前記反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれる前記プライマー及び前記蛍光プローブの種類は互いに異なり、
前記内部標準核酸のモル濃度は、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体に含まれる前記標的核酸のモル濃度である参照モル濃度と同じである。
【0023】
本発明によれば、反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なるため、複数種類の遺伝子の発現を簡単に精度良く判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0024】
また、本発明によれば、内部標準核酸のモル濃度は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体に含まれる標的核酸のモル濃度と同じであるため、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0025】
(7)この核酸分析キットは、
前記参照モル濃度は、前記参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度の少なくとも一方であってもよい。
【0026】
これにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体の少なくとも一方における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0027】
(8)この核酸分析キットは、
前記内部標準試薬として、
前記参照モル濃度が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である前記内部標準核酸を含む第1の内部標準試薬と、
前記参照モル濃度が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である前記内部標準核酸を含む第2の内部標準試薬と、
を含んでいてもよい。
【0028】
これにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、病気の第1進行状態の個体から採取した検体及び病気の第2進行状態の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100の基板10を模式的に示す平面図。
【図2】図1のA−A線の断面を模式的に表した図。
【図3】第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図。
【図4】図3のB−B線の断面を模式的に表した図。
【図5】マイクロ流体チップ100のウェル16近傍の断面を拡大して示す模式図。
【図6】図6(A)は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aを模式的に示す平面図、図6(B)は、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bを模式的に示す平面図。
【図7】図7(A)〜図7(C)は、変形例に係るマイクロ流体チップ101,101a,101bを模式的に示す平面図。
【図8】マイクロ流体チップ100のリザーバー15に被検液80を導入した状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図。
【図9】ローラー90によって、マイクロ流体チップ100のウェル16を密閉する様子を模式的に示した図。
【図10】第4実施形態に係るマイクロ流体チップセット200を模式的に示す平面図。
【図11】第5実施形態に係る核酸分析キット300を模式的に示す図。
【図12】第6実施形態に係る核酸分析キット300aを模式的に示す図。
【図13】図13(A)及び図13(B)は、変形例に係る核酸分析キット301及び301aを模式的に示す図
【図14】標的核酸及び内部標準核酸の配列例。
【図15】図14に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応するプライマーの配列例。
【図16】図14に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応する蛍光プローブの配列例。
【図17】標的核酸及び内部標準核酸の他の配列例。
【図18】図17に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応するプライマーの配列例。
【図19】図17に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応する蛍光プローブの配列例。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0031】
1.マイクロ流体チップ
1−1.第1実施形態に係るマイクロ流体チップの構成
第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100は、測定対象となる検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用するマイクロ流体チップであって、複数の反応容器を含む。以下に説明する例では、マイクロ流体チップ100は、基板10とカバー20とを有し、基板10に反応容器となる複数のウェル16が設けられている。
【0032】
なお、以下の説明において、「平面視において」、「平面的に見て」及び「平面的に見た」という場合は、基板10の第1面11に直交する方向から見た場合のことを指すものとする。
【0033】
1−1−1.基板
図1は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100の基板10を模式的に示す平面図である。図2は、図1のA−A線の断面を模式的に表した図である。
【0034】
基板10は、マイクロ流体チップ100の基体となる板状の部材である。基板10は、図2に示すように、互いに表裏の関係を有する第1面11及び第2面12を有する。基板10の形状は、板状であり、基板10の第1面11のウェル領域14の高さ及びウェル領域14を囲む基板の面の高さが、ウェル開口16の開口面の高さと一致すれば特に限定されない。基板10の厚み(第1面11及び第2面12の間の距離)も特に限定されないが、取り扱いの容易さや、破損しにくさの点で、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。基板10の平面的に見た外形形状については、特に限定されず、矩形、円形などとすることができる。本実施形態では、基板10の平面的に見た形状が長方形である例を示す。
【0035】
基板10の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックス(登録商標)ガラス)、及び有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。マイクロ流体チップ100を、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、基板10は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、基板10はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0036】
さらに、基板10の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、Co又はCuの酸化物、Si、Ti、Ta、Zr又はCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。基板10の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、後述するウェル16等をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、基板10の材質を透明なものとすることができる。またなお、基板10の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0037】
基板10が無機材料で形成される場合には、フォトリソグラフィー法を用いたドライエッチングなどを行って、成形、加工することができる。また、基板10が樹脂を主成分として形成される場合には、鋳型成形、射出成形又はホットエンボス加工などの方法によって、成形、加工することができる。
【0038】
1−1−2.リザーバー領域及びウェル領域
図1に示すように、基板10には、平面視において、リザーバー領域13及びウェル領域14が設けられる。リザーバー領域13及びウェル領域14は、互いに隣り合って設けられる。リザーバー領域13及びウェル領域14は、隣接して設けられてもよい。また、リザーバー領域13及びウェル領域14は、複数設けられてもよい。リザーバー領域13及びウェル領域14は、平面視において、後述するカバー20の固着領域21の内側に設けられる。基板10におけるリザーバー領域13及びウェル領域14の設けられる位置は、基板10に遠心力等の慣性力が印加された際に、リザーバー領域13からウェル領域14に向かう方向に当該慣性力が作用することができる限り特に限定されない。リザーバー領域13及びウェル領域14の平面的に見た形状は、特に限定されず、矩形、円形等とすることができる。
【0039】
1−1−3.カバー
図3は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図である。図4は、図3のB−B線の断面を模式的に表した図である。
【0040】
なお、以下の説明において、「敷設」とは、基板10の第1面11にカバー20が敷かれた状態のことを指し、「固着」とは、基板10の第1面11に敷設されて固定されている状態を指す。すなわち、「敷設」との文言は、カバー20と基板10の第1面11とが、固着(固定)されている場合と固着されていない場合とを含む意味で用いている。したがって、カバー20が敷設され、固着領域21を有する状態とは、基板10とカバー20との間に間隙を形成することが容易な部分と、基板10とカバー20とが分離しにくい部分とがある状態であり、後者の基板10とカバー20とが分離しにくい部分を、固着された固着領域21と表現するものとする。
【0041】
カバー20は、基板10の第1面11側に敷設される。カバー20は、フィルム又はシート状の形状を有する。カバー20の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上5mm以下とすることができる。カバー20の平面的に見た外形形状は、基板10の平面的に見た外形形状と一致していてもいなくてもよい。図3の例では、カバー20の平面的に見た外形形状は、基板10の平面的に見た外形形状と一致している。カバー20は、静的な状態では基板10に接しているが、マイクロ流体チップ100に遠心力などの慣性力が印加された場合には、基板10とカバー20との間に間隙が形成される程度の可撓性ないしは弾性を有する。また、カバー20は、基板10に接した状態で、基板10に設けられるウェル16(後述する)の開口16aを塞ぎ、ウェル16を独立した空間(反応容器)とすることができる。カバー20は、基板10に押しつけられる場合などに、ウェル16の開口16a付近において撓みにくくウェル16の容積に大きな変化を生じない程度の弾性を有することが好ましい。このようなカバー20の弾性の程度は、カバー20の厚み、ウェル16の開口16aの大きさ、及び基板10に当接される際の押圧などを考慮して、材質を選ぶことにより適宜設計されることができる。
【0042】
カバー20の材質としては、遠心力等の慣性力によって撓むことができる程度の弾性を有するものが挙げられ、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂及び各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。マイクロ流体チップ100を、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、カバー20は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。カバー20の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。またなお、カバー20はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0043】
また、カバー20の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、Co又はCuの酸化物、Si、Ti、Ta、Zr又はCrの炭化物などの黒色物質を配合することができる。カバー20の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。さらに、後述するウェル16をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、カバー20の材質を透明なものとすることができる。カバー20は、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、プレス成形などの方法によって、成形、加工することができる。
【0044】
カバー20は、一方の表面20aが基板10に向かうように敷設される。すなわち、表面20aが基板10の第1面11に面するように設けられる。カバー20の表面20aは、接着性を有してもよい。表面20aが接着性を有する場合には、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されるときに、表面20aと第1面11とが剥離できる程度の接着力とすることが好ましい。ただし、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力を印加し終えた後はこの限りではなく、表面20aと第1面11とが離れにくいように接着(固着)する程度の接着力を有してもよい。
【0045】
カバー20の表面20aは、接着力を有さなくてもよい。このような場合には、第1面11に表面20aを固着させるために、接着剤を利用することや、熱融着を行うことができる。また、表面20aは、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有してもよい。このような表面20aとしては、多孔質となっているものを例示することができる。このような方法であれば、加圧させるだけなので、固着させる際に熱が発生することがなく、マイクロ流体チップ100の温度の上昇を抑制することができ、液体等に与える熱の影響を抑制することができる。このような表面20aを有するカバー20の具体例としては、商品名:LightCycler 480 Sealing Foil・型名:04 729 757 001・ロシュ・ダイアグノスティクス社製、商品名:ポリオレフィン マイクロプレートシーリングテープ・型名:9793・3M社製、商品名:アンプリフィケーションテープ96・型名:232702・Nunc社製などを例示することができる。
【0046】
さらに、表面20aは、潜在的な接着力を有してもよい。すなわち、表面20aは、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加される前までは接着力を有さず、慣性力が印加された後の所望の時点で、エネルギー線(例えば、紫外線、電子線など)を照射することによって接着力を発揮できるものであってもよい。
【0047】
また、表面20aと基板10の第1面11とを固着させる方法としては、超音波溶着法を利用してもよい。例えば、固着させたい領域の形状に対応する形状の治具をカバー20の基板10に対して固着させたい部分に押しつけて超音波振動させ、カバー20と基板10とを溶着(固着)させてもよい。このようにすれば、基板10とカバー20とを超音波照射によって溶着(固着)させるため、試料に対する加熱を抑えることができ、試料に与えるダメージを少なくすることができる。例えば、ウェル16に含まれる試薬の活性を低下させることも抑制できる。さらに、固着領域21を超音波溶着法によって形成した場合は、溶着による基板10とカバー20との接合力は、例えば加圧による方法などと比較して比較的強いため、ウェル領域14からの液体の漏れをより確実に防止することができる。
【0048】
カバー20は、基板10と固着された固着領域21を有する。固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13及びウェル領域14を囲むように配置される。すなわち、平面的に見て、固着領域21の内側に、リザーバー領域13及びウェル領域14が配置される。固着領域21は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されても、敷設されたカバー20と基板10とが剥離しにくい領域である。敷設されているカバー20の固着領域21以外の領域は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されると、表面20aと第1面11とが剥離することができる。固着領域21では、カバー20の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー20と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0049】
固着領域21の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に間隙が形成されるときに、当該間隙を内部に形成する袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。これにより、基板10とカバー20との間で、リザーバー領域13及びウェル領域14を基板10の第1面11側で連通させるとともに、液体を両領域の間で流通させることができる。
【0050】
既に述べたが、慣性力は、リザーバー領域13側からウェル領域14側へ向かうようにマイクロ流体チップ100に印加される。そのため、固着領域21は、少なくともウェル領域14を囲む位置では連続して設けられる。したがって、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、慣性力により、液体が固着領域21の外側に、ウェル領域14側から漏れ出さないようになっている。また、固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13及びウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続していることができる。このようにすれば、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、液体が固着領域21の外側に漏れ出さないようにすることができる。なお、固着領域21は、リザーバー領域13側においては、連続していない部分を有することができる。このような部分を有する場合には、当該連続していない部分を、カバー20と基板10との間の間隙に内圧が生じた場合の通気孔として機能させることができる。さらに、固着領域21が平面視において、基板10のリザーバー領域13及びウェル領域14を取り囲んで環状に連続している場合には、カバー20に、リザーバー領域13側の適宜な位置に図示せぬ孔を設けることにより、当該孔を、カバー20と基板10との間の間隙に内圧が生じた場合の通気孔として機能させることができる。なお、通気孔は、リザーバー15及びウェル16に導入される液体の漏れが生じない位置及び大きさで設けることが好ましい。
【0051】
固着領域21を形成するには、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を固着領域21の形状に塗布して、カバー20を敷設することによって、固着領域21を形成することができる。また、例えば、カバー20の表面20aがカバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、固着領域21の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して、固着領域21を形成することができる。また、例えば、固着領域21の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって、固着領域21を形成することもできる。
【0052】
1−1−4.リザーバー
基板10のリザーバー領域13には、第1面11に開口を有するリザーバー15が形成される。リザーバー15は、リザーバー領域13内に複数形成されてもよい。リザーバー15の平面的に見た形状は、円形、矩形等とすることができる。リザーバー15は、第1面11側及び第2面12側の双方向に被検液(測定対象となる検体を含む液体)を流通させることができる貫通孔として形成されていてもよい。この場合、被検液を第2面12側からリザーバー15へ導入することができる。
【0053】
1−1−5.ウェル
基板10のウェル領域14には、基板10の第1面11側に開口16aを有するウェル16が形成される(図1ないし図4参照)。図5は、マイクロ流体チップ100のウェル16近傍の断面を拡大して示す模式図である。
【0054】
ウェル16は、ウェル領域14に複数形成されている。ウェル16は、基板10の第1面11側に開口16aを有した容器状の形状を有する。ウェル16は、内部に被検液を保持することができる。また、ウェル16内において、被検液の反応を行うことができる。すなわち、ウェル16は、反応容器としての機能を果たす。
【0055】
ウェル16の形状は、容器状であれば、特に限定されず、多様な形態を採ることができる。例えば、ウェル16の形状は、円柱、角柱、円錐台及び角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。本実施形態ではウェル16の形状として、図1ないし図5に示すような円柱状(平面視において円形であって、断面視において矩形である形状)の形状を有する場合について説明する。
【0056】
ウェル16の開口16aは、カバー20によって塞がれることができる。これにより、ウェル16は、独立した密閉容器となることができる。このようにウェル16を独立して密閉することにより、他のウェル16の内容物との混合やコンタミネーションを抑制することができる。ウェル16は、カバー20がウェル16の開口16aの周囲に敷設されて固着されると、独立した密閉容器となることができる。
【0057】
ウェル16内には、予め、検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用するための試薬が配置されている。配置される試薬の状態は、固体あるいは液体であることが好ましい。図5に示す例では、マイクロ流体チップ100に設けられた複数のウェル16のうち、ウェル160には試薬30、ウェル161には試薬31、ウェル162には試薬32が配置されている。
【0058】
試薬30,31,32として、乾燥等に対して安定性の高いものを用いる場合には、ウェル16内で乾燥されてもよく、図5に示すように、例えば、ウェル16の内壁面に塗布されて乾燥された状態で配置されてもよい。このように試薬30,31,32をウェル16の内壁面に塗布する方法としては、例えば、インクジェット方式の印刷に用いられる液体噴射ヘッド等により、試薬30,31,32を塗布する方法が挙げられる。
【0059】
ウェル16内において試薬30,31,32が配置される位置は、特に限定されないが、開口16aから遠い位置であるほど、試薬30,31,32が、導入された液体とともにウェル16の外に流出する可能性が小さくなる点でより好ましい。
【0060】
ウェル16(反応容器)に含まれる試薬30,31,32は、標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸と、標的核酸及び内部標準核酸に共通のプライマーと、標的核酸及び内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、標的核酸の増幅産物に結合した場合と内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、を含んでいる。
【0061】
また、ウェル16(反応容器)のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なっている。例えば、図5に示されている試薬30及び試薬31が互いに異なる場合、これらの試薬を含むウェル160及びウェル161が、それぞれ第1の反応容器及び第2の反応容器に対応する。なお、この説明は、他の任意の2つのウェル(反応容器)についても成立する。これにより、1つのマイクロ流体チップ100で複数種類の遺伝子の発現を判定できる。
【0062】
また、ウェル16(反応容器)ごとにプライマー及び蛍光プローブの種類が異なる場合には、ウェル16(反応容器)ごとに異なる遺伝子が増幅されるので、例えばクロスコンタミネーションのような、他の遺伝子の影響を抑制することができる。
【0063】
さらに、マイクロ流体チップ100が、同じ種類のプライマー及び蛍光プローブを含む複数のウェル16(反応容器)を含む場合、当該複数のウェル16(反応容器)に含まれる内部標準核酸の量が互いに異なってもよい。これにより、1種類の遺伝子について、1つのマイクロ流体チップ100で多条件の遺伝子発現状態との比較が簡単にできる。
【0064】
また、試薬30,31,32に含まれる内部標準核酸の量は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液を反応容器16に導入した場合に、反応容器16に導入される反応液に含まれる標的核酸の量である参照量と同じである。例えば、内部標準核酸のコピー数が、参照検体の反応液を反応容器16に導入した場合に、反応容器16に導入される標的核酸のコピー数と同じであってもよい。また例えば、内部標準核酸の反応容器16の体積当たりのモル濃度が、参照検体に含まれる標的核酸のモル濃度と同じであってもよい。参照検体の反応液は、例えば、参照検体に含まれるmRNAを逆転写したcDNAを含む液体であってもよい。
【0065】
ここで「同じ」の範囲は、完全同一のみならず、要求される判定精度を満たせる程度の誤差を含んだ範囲内であればよい。例えば、反応容器内16の内部標準核酸の量で決まる1本の検量線で定量可能な範囲内としてもよい。
【0066】
参照検体は、遺伝子が所定量発現したか否かの判定の目的に応じて選択される検体であり、例えば、遺伝子が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である。参照検体を基準としたときの標的核酸の測定値は、参照すべき状態からの差異を直接的に表現しているため、参照量との差異を絶対量として知ることができるという特徴がある。また、このため、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いた結果と比較しやすいという特徴がある。
【0067】
このような参照検体としては、例えば、健康な個体から採取した検体を代表する検体及び病気の個体から採取した検体を代表する検体の少なくとも一方であってもよい。健康な個体から採取した検体を代表する検体は、健康な1つの個体から採取した検体であってもよいし、健康な複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。同様に、病気の個体から採取した検体を代表する検体は、病気の1つの個体から採取した検体であってもよいし、病気の複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。なお、上述の「個体」は、ヒトであっても、ヒト以外の動物や植物であってもよい。
【0068】
このような参照検体を選択して、試薬30,31,32に含まれる内部標準核酸の量を設定すること、すなわち、参照量を、参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量の少なくとも一方と同じにすることにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体の少なくとも一方における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0069】
このように、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100によれば、反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なるため、複数種類の遺伝子が所定量発現したか否かの判定が簡単にできるマイクロ流体チップを実現できる。
【0070】
また、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100によれば、内部標準核酸の量は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液を反応容器に導入した場合に、反応容器に導入される標的核酸の量と同じであるため、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0071】
PCRの原理においては、2つのプライマーDNA(フォワードプライマー及びリバースプライマー)を用いて目的の核酸を増幅する。そのため第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100にPCRの原理を適用することで、1種類のプローブDNAを使用するDNAチップ(DNAマイクロアレイ)に比べて特異性が高く、測定の信頼性が高いものとなる。また、PCRによる核酸増幅を行うので、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)では不可能だった低発現の遺伝子についても定量することができる。
【0072】
また、遺伝子の発現量を定量する方法として、共通のプライマーで増幅できる既知量の内部標準核酸を添加し、共増幅する競合PCR法がある。競合PCR法は、標的核酸に由来する増幅産物量と、内部標準核酸に由来する増幅産物量とを比較することにより、標的核酸を定量する方法である。
【0073】
競合PCR法の原理を用いると、標的核酸と内部標準核酸とは、蛍光プローブによる蛍光反応以外は同じ性質とみなせるので、両核酸の増幅速度は等しいとみなせる。したがって、標的核酸と内部標準核酸を1つの反応容器で共増幅させた場合の増幅産物の比率は、増幅前の両者の比率を反映する。そのため、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を使って競合PCR法の原理を用いると、既知量の内部標準核酸を用いることにより、定量可能な範囲(標的核酸の量と内部標準核酸の量が近い範囲;1本の検量線で定量できる範囲)においては定量精度が高く、複数の検量線を引くなどの煩雑な作業を要することなく絶対定量も可能になる。これにより、低コストで、遺伝子の発現量を絶対定量することができる。
【0074】
また、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を用いた反応は、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)のような固体表面での反応ではなく、ウェル16内での均質な液体の中の反応であるため、反応の効率と精度が高いものとなる。さらに、1つのウェル16内では1種類の増幅反応が行われるため、クロスハイブリダイゼーションによる定量精度の低下が起こらない。
【0075】
1−2.第2実施形態に係るマイクロ流体チップの構成
図6(A)は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aを模式的に示す平面図である。また、マイクロ流体チップ100aのウェル16近傍の断面を拡大した様子は、図5と同様である。第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aは、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と比べて、ウェル16(反応容器)内に配置されている試薬30,31,32に含まれる内部標準核酸の量の基準となる参照検体が異なる。したがって、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0076】
第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aは、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)と、参照量が、参照検体を、病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)と、を含んでいる。
【0077】
図6(A)に示す例では、マイクロ流体チップ100aの基板10には、平面視において、健康領域41と病気領域42とが設けられている。健康領域41に配置されているウェル16は、参照量が、参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)であり、病気領域42に配置されているウェル16は、参照量が、参照検体を、病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)である。
【0078】
病気が進行し、遺伝子の発現量が健康な場合の発現量から変化したときには、発現量は正常な状態とは大きく異なるため、発現量が健康な状態及び病気の状態のいずれの状態に近いかについて、競合PCR法の原理を用いて判定する場合の判定精度が低下する可能性がある。そのため、病気の状態で現れる遺伝子の発現状態を調べたデータベースに基づいて、内部標準核酸の量を新たに病気の状態を代表する値に設定することにより、判定精度を保つことができる。
【0079】
なお、発現量が健康な状態及び病気の状態のいずれの状態に近いかについての判定精度を高める観点からは、参照検体となる各状態の検体を代表する検体は、1つの個体から採取した検体よりも、複数の検体から採取した個体から統計的手法により導出された仮想的な検体とすることが好ましい。
【0080】
このように、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aによれば、参照量が、参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)と、参照量が、参照検体を、病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)と、を含んでいることにより、1つのマイクロ流体チップで、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0081】
1−3.第3実施形態に係るマイクロ流体チップの構成
図6(B)は、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bを模式的に示す平面図である。また、マイクロ流体チップ100aのウェル16近傍の断面を拡大した様子は、図5と同様である。第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bは、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と比べて、ウェル16(反応容器)内に配置されている試薬30,31,32に含まれる内部標準核酸の量の基準となる参照検体が異なる。したがって、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0082】
第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bは、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)と、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)と、を含んでいる。
【0083】
図6(B)に示す例では、マイクロ流体チップ100aの基板10には、平面視において、第1進行状態領域51と第2進行状態領域52とが設けられている。第1進行状態領域51に配置されているウェル16は、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)であり、第2進行状態領域52に配置されているウェル16は、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)である。
【0084】
病気の進行やタイプによって、遺伝子に様々な発現状態が予測される場合には、内部標準核酸の量を複数設定しておくことにより、標的核酸の定量精度を保つことができる。
【0085】
なお、複数存在する病気の進行状態のうち、任意に選択した2つの進行状態が、それぞれ病気の第1進行状態、病気の第2進行状態に対応する。また、病気の第1進行状態の検体を代表する検体は、病気の第1進行状態の1つの個体から採取した検体であってもよいし、病気の第1進行状態の複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。同様に、病気の第2進行状態の検体を代表する検体は、病気の第2進行状態の1つの個体から採取した検体であってもよいし、病気の第2進行状態の複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。なお、発現量が病気のいずれの進行状態に近いかについての判定精度を高める観点からは、各状態の検体を代表する検体は、1つの個体から採取した検体よりも、複数の検体から採取した個体から統計的手法により導出された仮想的な検体とすることが好ましい。
【0086】
このように、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bによれば、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1の反応容器)と、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2の反応容器)と、を含んでいることにより、1つのマイクロ流体チップで、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、病気の第1進行状態の個体から採取した検体及び病気の第2進行状態の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0087】
1−4.変形例
上述した第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100a及び第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bにおいては、ウェル16(反応容器)ごとに、ウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量の少なくとも一方が異なっている例について説明したが、ウェル16(反応容器)が、複数のウェル16(反応容器)を含む反応容器群を構成し、反応容器群のうち、第1の反応容器群に属するウェル16(反応容器)と第2の反応容器群に属するウェル16(反応容器)とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量の少なくとも一方が互いに異なっていてもよい。換言すれば、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量が同一であってもよい。
【0088】
図7(A)〜図7(C)は、変形例に係るマイクロ流体チップ101,101a,101bを模式的に示す平面図である。図7(A)に示すマイクロ流体チップ101は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100の変形例、図7(B)に示すマイクロ流体チップ101bは、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100aの変形例、図7(C)に示すマイクロ流体チップ101bは、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100bの変形例である。
【0089】
図7(A)に示す例では、ウェル16(反応容器)が、それぞれ10個のウェル16(反応容器)を含む反応容器群61,62,63,64及び65を構成している。例えば、図7(A)に示されている反応容器群61に属するウェル16(反応容器)と反応容器群62に属するウェル16(反応容器)とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量の少なくとも一方が互いに異なる場合、反応容器群61及び反応容器群62が、それぞれ第1の反応容器群及び第2の反応容器群に対応する。なお、この説明は、他の任意の2つの反応容器群についても成立する。
【0090】
図7(A)に示す例では、反応容器群61,62,63,64及び65ごとに、反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっている。換言すれば、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量は、同一となっている。
【0091】
図7(B)に示す例では、ウェル16(反応容器)が、それぞれ5個のウェル16(反応容器)を含む反応容器群611,612,613,614,615,621,622,623,624及び625を構成している。このうち、反応容器群611,612,613,614及び615は、健康領域41に配置され、反応容器群621,622,623,624及び625は、病気領域42に配置されている。すなわち、反応容器群611,612,613,614及び615に属するウェル16(反応容器)と反応容器群621,622,623,624及び625に属するウェル16(反応容器)とに含まれる内部標準核酸の量は、互いに異なっている。また、図7(B)に示す例では、反応容器群611,612,613,614及び615ごとに反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっており、さらに、反応容器群621,622,623,624及び625ごとに反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっている。図7(B)に示す例においても、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量は、同一となっている。
【0092】
図7(C)に示す例では、ウェル16(反応容器)が、それぞれ5個のウェル16(反応容器)を含む反応容器群631,632,633,634,635,641,642,643,644及び645を構成している。このうち、反応容器群631,632,633,634及び635は、第1進行状態領域51に配置され、反応容器群641,642,643,644及び645は、第2進行状態領域52に配置されている。すなわち、反応容器群631,632,633,634及び635に属するウェル16(反応容器)と反応容器群641,642,643,644及び645に属するウェル16(反応容器)とに含まれる内部標準核酸の量は、互いに異なっている。また、図7(C)に示す例では、反応容器群631,632,633,634及び635ごとに反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっており、さらに、反応容器群641,642,643,644及び645ごとに反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっている。図7(C)に示す例においても、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量は、同一となっている。
【0093】
このように、反応容器群ごとに、同一条件のウェル16(反応容器)を複数含むことにより、ウェル16(反応容器)ごとの誤差が判定結果に反映されにくくなり、判定の信頼性が向上する。また、誤って1つのウェル16(反応容器)に気泡や異物が混入した場合にも、同一の反応容器群に属する他のウェル16(反応容器)の結果を用いて判定を行うことができる。
【0094】
また、反応容器群ごとに、ウェル16に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量の少なくとも一方が異なっていることにより、1つのマイクロ流体チップで、複数種類の遺伝子、又は複数条件を対象として、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かをさらに高感度、高精度に判定できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0095】
1−5.被検液の充填方法
次に、被検液をウェル16(反応容器)に充填する方法について、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を例にとり説明する。なお、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ100a及び第3実施形態に係るマイクロ流体チップ100b、並びに変形例に係るマイクロ流体チップ101,101a及び101bについても、同様の方法により被検液をウェル16(反応容器)に充填することができる。
【0096】
以下の例では、カバー20の表面20aが、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有しているものとする。また、以下の例では、カバー20の固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13及びウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続しているものとする。また、以下の例では、カバー20は、透明な材質で形成されているものとする。なお、この例では、ウェル16の形状は円柱形であって、底面の直径がおよそ1mm、深さがおよそ0.5mmであるものを例示する。さらに、この例では、基板10及びカバー20の平面的に見た外形形状は、長方形であって、長辺が約7.5cm、短辺が約2.5cmであるものを例示する。
【0097】
まず、標的核酸を含む被検液80を調製する。被検液80において、測定対象となる標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液等の生体試料から抽出されたRNAから逆転写したcDNA等が挙げられる。より具体的には、例えば、前述した生体試料に含まれる細胞から抽出されたmRNAから逆転写したcDNAが挙げられる。被検液80の量は、ウェル16の全体の容積に応じて適宜決定されるが、例えば複数のウェル16の総容積と同じか又は前記総容積より多いことが好ましく、複数のウェル16により確実に被検液80を充填できる点で、複数のウェル16の総容積より多いことがより好ましい。
【0098】
次に、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に被検液80を導入する。例えば、カバー20を装着する前に被検液80を導入してもよいし、カバー20のリザーバー15に対応する領域に孔を形成したマイクロ流体チップ100にあっては、カバー20が装着された後に、該孔から被検液80を導入してもよい。さらに、リザーバー15に対応する領域の少なくとも一部についてカバー20を剥離して被検液80を導入してもよい。なお、この時点では、マイクロ流体チップ100のウェル16内には、被検液80は導入されていない。
【0099】
次に、マイクロ流体チップ100に、リザーバー領域13側からウェル領域14側に向かう慣性力を作用させる。図8は、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に被検液80を導入した状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図である。
【0100】
本実施形態では、慣性力は遠心機によって発生される。遠心機の回転軸Rは、マイクロ流体チップ100のリザーバー領域13から見て、ウェル領域14と反対側に配置される。遠心機を運転して、マイクロ流体チップ100に慣性力(遠心力)が発生すると、図8に示すように、リザーバー15の中の被検液80が、回転軸Rから遠ざかる方向、すなわちウェル領域14に向かう方向に加速度G(図中矢印)を受ける。そして加速度を受けている状態では、基板10とカバー20との間に間隙が生じ、被検液80は、ウェル領域14に向かって該間隙内を移送される。なお、このときの間隙の大きさ(厚み)は、特に制限はないが、図8では、間隙の大きさが非常に小さい例を示している。そして、基板10のウェル領域14に形成されたウェル16の開口16aから、慣性力でウェル16内の空気と入れ替わることによって被検液80がウェル16に導入される。ウェル16に導入された被検液80は、ウェル16内に予め配置された試薬30等と混合される。
【0101】
なお、図8に示す例では、遠心機の回転軸Rに対して、垂直な方向に沿ってマイクロ流体チップ100の平面(例えば基板10の第1面11)が配置されて回転されている様子を示しているが、マイクロ流体チップ100の遠心機の回転軸Rに対する配置は、容器200の内部の被検液80が、遠心力によって、リザーバー15からウェル16へ向かうことができる範囲で任意である。このような配置は、リザーバー15の形状や、基板10のウェル16の配置などによって、適宜に設定することができる。
【0102】
次に、遠心機を停止し、慣性力の印加を止める。この状態では、被検液80がウェル16内に充填されている。また、例えば、被検液80の体積が、ウェル16の合計の容積よりも大きい場合などには、被検液80は、ウェル16内、並びに、基板10及びカバー20の間の間隙に存在している。いずれの場合であっても、カバー20の外側から、ローラー、スキージ、ブレード等の治具によって、カバー20を基板10に押さえつけることによって、カバー20をマイクロ流体チップ100に密着させてウェル16を密閉することができ、ウェル16内に被検液80を封入することができる。すなわち、被検液80が基板10及びカバー20の間の間隙に存在していない状態では、カバー20を基板10に押さえつけることによって、ウェル16が密閉され、被検液80が基板10及びカバー20の間の間隙に存在している状態では、余分の被検液80をリザーバー領域13側に押し戻しつつ、ウェル16が密閉されることができる。これにより、基板10とカバー20とが接する面は、すべて接着されることができる。また、標的核酸が所定量発現したか否かの判定結果に影響を及ぼさない程度の容量精度で、ウェル16内に被検液80を封入することができる。
【0103】
図9は、ローラー90によって、マイクロ流体チップ100のウェル16を密閉する様子を模式的に示した図である。図9に示す例では、カバー20の表面を、マイクロ流体チップ100を基準とした相対的な位置においてリザーバー15から遠い側から近い側へ(図9における白抜き矢印方向へ)と移動するローラー90によって、基板10及びカバー20の間の間隙に存在する過剰の被検液80をリザーバー15から容器200に戻しつつ、ウェル16を密閉する様子を示している。
【0104】
このようにして、マイクロ流体チップ100のウェル16内に、正確な容量の被検液80を導入することができる。マイクロ流体チップ100に複数のウェル16が形成されている場合も同様であり、該複数のウェル16は、上記操作の結果、それぞれ独立した密閉空間となり、所望の量の被検液80を精密に分注することができる。これにより、ピペットでは困難な微小量の被検液80であっても、正確かつ簡単にウェル16に分注することができる。これにより、分注作業に費やす時間とコストを抑制することができる。
【0105】
なお、ウェル16に被検液80を導入した後に標的核酸を分析する方法については、「4.核酸の分析方法」の項で説明する。
【0106】
2.第4実施形態に係るマイクロ流体チップセット
図10は、第4実施形態に係るマイクロ流体チップセット200を模式的に示す平面図である。第4実施形態に係るマイクロ流体チップセット200は、マイクロ流体チップ100cとマイクロ流体チップ100dを含んでいる。マイクロ流体チップ100c及びマイクロ流体チップ100dのウェル16近傍の断面を拡大した様子は、ともに図5と同様である。マイクロ流体チップ100c及びマイクロ流体チップ100dは、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と比べて、ウェル16(反応容器)内に配置されている試薬30,31,32に含まれる内部標準核酸の量の基準となる参照検体が異なる。したがって、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0107】
マイクロ流体チップ100cは、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)を含むマイクロ流体チップである。図10に示すように、マイクロ流体チップ100cの基板10には、平面視において、第1進行状態領域51が設けられている。第1進行状態領域51に配置されているウェル16は、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)である。
【0108】
マイクロ流体チップ100dは、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)を含むマイクロ流体チップである。図10に示すように、マイクロ流体チップ100dの基板10には、平面視において、第2進行状態領域52が設けられている。第2進行状態領域52に配置されているウェル16は、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)である。
【0109】
このように、第4実施形態に係るマイクロ流体チップセット200は、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第1条件の反応容器)を含むマイクロ流体チップ100cと、複数の反応容器の少なくとも一部として、参照量が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量であるウェル16(第2条件の反応容器)を含むマイクロ流体チップ100dと、を含むことにより、判定の基準となる参照量を容易に選択できるマイクロ流体チップセットを実現できる。
【0110】
なお、マイクロ流体チップ100c及びマイクロ流体チップ100dにおいても、「1−4.被検液の充填方法」の項で説明した方法により被検液を充填することができる。したがって、ピペットでは困難な微小量の被検液であっても、正確かつ簡単にウェル16に分注することができる。
【0111】
また、ウェル16に被検液を導入した後に標的核酸を分析する方法については、「4.核酸の分析方法」の項で説明する。
【0112】
3.核酸分析キット
3−1.第5実施形態に係る核酸分析キット
図11は、第5実施形態に係る核酸分析キット300を模式的に示す図である。第5実施形態に係る核酸分析キット300は、検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用する核酸分析キットであって、マイクロ流体チップ100eと、標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸を含む液体である内部標準試薬110と、を含む。図11に示す例では、内部標準試薬110は、蓋付き容器150に収容されている液体である。また、マイクロ流体チップ100eは、複数のウェル16(反応容器)を含んでいる。
【0113】
図11には、マイクロ流体チップ100eを模式的に示す平面図が表されている。また、マイクロ流体チップ100eのウェル16近傍の断面を拡大した様子は、図5と同様であり、再び参照して説明する。マイクロ流体チップ100eは、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と比べて、ウェル16(反応容器)内に配置されている試薬30,31,32が異なる。したがって、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0114】
マイクロ流体チップ100eのウェル16に配置されている試薬30,31,32は、標的核酸及び内部標準核酸に共通のプライマーと、標的核酸及び内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、標的核酸の増幅産物に結合した場合と内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、を含んでいる。
【0115】
また、ウェル16(反応容器)のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なっている。例えば、図5に示されている試薬30及び試薬31が互いに異なる場合、これらの試薬を含むウェル160及びウェル161が、それぞれ第1の反応容器及び第2の反応容器に対応する。なお、この説明は、他の任意の2つのウェルについても成立する。これにより、1つのマイクロ流体チップ100eで複数種類の遺伝子の発現を判定できる。
【0116】
また、ウェル16(反応容器)ごとにプライマー及び蛍光プローブの種類が異なる場合には、ウェル16(反応容器)ごとに異なる遺伝子が増幅されるので、例えばクロスコンタミネーションのような、他の遺伝子の影響を抑制することができる。
【0117】
また、内部標準試薬110に含まれる内部標準核酸のモル濃度は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体に含まれる標的核酸のモル濃度である参照モル濃度と同じである。
【0118】
ここで「同じ」の範囲は、完全同一のみならず、要求される判定精度を満たせる程度の誤差を含んだ範囲内であればよい。また、ユーザー自身がマニュアル等の指示に従って、予め定められた割合で内部標準試薬110を希釈したり、予め定められた割合で内部標準試薬110と被検液とを混合したりすることにより、内部標準試薬110がウェル16(反応容器)に導入された時点で、内部標準核酸のモル濃度が参照モル濃度と同じになるように調整されてもよい。これにより、参照モル濃度が容易に選択できるようになる。また、参照モル濃度の選択自由度が大きくなる。
【0119】
参照検体は、遺伝子が所定量発現したか否かの判定の目的に応じて選択される検体であり、例えば、遺伝子が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である。参照検体を基準としたときの標的核酸の測定値は、参照すべき状態からの差異を直接的に表現しているため、参照モル濃度との差異を絶対量として知ることができるという特徴がある。また、このため、DNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いた結果と比較しやすいという特徴がある。
【0120】
このような参照検体としては、例えば、健康な個体から採取した検体を代表する検体及び病気の個体から採取した検体を代表する検体の少なくとも一方であってもよい。健康な個体から採取した検体を代表する検体は、健康な1つの個体から採取した検体であってもよいし、健康な複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。同様に、病気の個体から採取した検体を代表する検体は、病気の1つの個体から採取した検体であってもよいし、病気の複数の個体から採取した検体から統計的手法により導出された仮想的な検体であってもよい。なお、上述の「個体」は、ヒトであっても、ヒト以外の動物や植物であってもよい。
【0121】
このような参照検体を選択して、内部標準核酸のモル濃度を設定すること、すなわち、参照モル濃度を、参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度の少なくとも一方と同じにすることにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、健康な個体から採取した検体及び病気の個体から採取した検体の少なくとも一方における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる。
【0122】
第5実施形態に係る核酸分析キット300は、被検液と内部標準試薬110とを混合した混合液を調整した後に、当該混合液をウェル16(反応容器)に導入することにより、検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用されることができる。
【0123】
このように、第5実施形態に係る核酸分析キット300によれば、反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は互いに異なるため、複数種類の遺伝子の発現を簡単に精度良く判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0124】
また、第5実施形態に係る核酸分析キット300によれば、内部標準核酸のモル濃度は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体に含まれる標的核酸のモル濃度と同じであるため、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0125】
なお、マイクロ流体チップ100eにおいても、被検液と内部標準試薬110とを混合した混合液を調整した後に、当該混合液をリザーバー15に導入し、「1−4.被検液の充填方法」の項で説明した方法により当該混合液をウェル16(反応容器)に充填することができる。したがって、ピペットでは困難な微小量の当該混合液であっても、正確かつ簡単にウェル16に分注することができる。
【0126】
なお、ウェル16に被検液と内部標準試薬110とを混合した混合液を導入した後に標的核酸を分析する方法については、「4.核酸の分析方法」の項で説明する。
【0127】
3−2.第6実施形態に係る核酸分析キット
図12は、第6実施形態に係る核酸分析キット300aを模式的に示す図である。第6実施形態に係る核酸分析キット300aは、検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用する核酸分析キットであって、マイクロ流体チップ100eと、標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸を含む液体である内部標準試薬として、第1の内部標準試薬111及び第2の内部標準試薬112とを含む。図12に示す例では、第1の内部標準試薬111及び第2の内部標準試薬112は、それぞれ蓋付き容器151及び蓋付き容器152に収容されている液体である。
【0128】
第1の内部標準試薬111は、参照モル濃度が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である内部標準核酸を含んでいる。すなわち、第1の内部標準試薬111に含まれる内部標準核酸のモル濃度は、病気の第2進行状態の個体を代表する検体に含まれる標的核酸のモル濃度と同じである。
【0129】
第2の内部標準試薬112は、参照モル濃度が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である内部標準核酸を含んでいる。すなわち、第2の内部標準試薬112に含まれる内部標準核酸のモル濃度は、病気の第2進行状態の個体を代表する検体に含まれる標的核酸のモル濃度と同じである。
【0130】
ここで「同じ」の範囲は、完全同一のみならず、要求される判定精度を満たせる程度の誤差を含んだ範囲内であればよい。また、ユーザー自身がマニュアル等の指示に従って、予め定められた割合で第1の内部標準試薬111又は第2の内部標準試薬112を希釈したり、予め定められた割合で被検液と第1の内部標準試薬111又は第2の内部標準試薬112とを混合したりすることにより、第1の内部標準試薬111又は第2の内部標準試薬112がウェル16(反応容器)に導入された時点で、内部標準核酸のモル濃度が参照モル濃度と同じになるように調整されてもよい。これにより、参照モル濃度が容易に選択できるようになる。また、参照モル濃度の選択自由度が大きくなる。
【0131】
第6実施形態に係る核酸分析キット300aは、第1の内部標準試薬111又は第2の内部標準試薬112と被検液とを混合した混合液を調整した後に、当該混合液をウェル16(反応容器)に導入することにより、検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用されることができる。
【0132】
このように、第6実施形態に係る核酸分析キット300aは、参照モル濃度が、参照検体を、病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である内部標準核酸を含む第1の内部標準試薬111と、参照モル濃度が、参照検体を、病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である内部標準核酸を含む第2の内部標準試薬112と、を含むことにより、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、病気の第1進行状態の個体から採取した検体及び病気の第2進行状態の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0133】
なお、1つのマイクロ流体チップ100eにおいて、第1の内部標準試薬111を用いるウェル16(反応容器)と第2の内部標準試薬112を用いるウェル16(反応容器)とを使い分けてもよい。これにより、1つのマイクロ流体チップ100eを用いて、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、病気の第1進行状態の個体から採取した検体及び病気の第2進行状態の個体から採取した検体における標的核酸の発現量と同程度か否かを高感度、高精度に判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0134】
3−3.変形例に係る核酸分析キット
上述した第5実施形態に係る核酸分析キット300及び第6実施形態に係る核酸分析キット300aにおいては、ウェル16(反応容器)ごとに、ウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっている例について説明したが、ウェル16(反応容器)が、複数のウェル16(反応容器)を含む反応容器群を構成し、反応容器群のうち、第1の反応容器群に属するウェル16(反応容器)と第2の反応容器群に属するウェル16(反応容器)とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が互いに異なっていてもよい。換言すれば、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類、並びに、内部標準核酸の量が同一であってもよい。
【0135】
図13(A)及び図13(B)は、変形例に係る核酸分析キット301及び301aを模式的に示す図である。図13(A)に示す核酸分析キット301は、第5実施形態に係る核酸分析キット300の変形例、図13(B)に示す核酸分析キット301aは、第6実施形態に係る核酸分析キット300aの変形例である。
【0136】
図13(A)及び図13(B)に示す例では、ウェル16(反応容器)が、それぞれ10個のウェル16(反応容器)を含む反応容器群61,62,63,64及び65を構成している。例えば、図13(A)及び図13(B)に示されている反応容器群61に属するウェル16(反応容器)と反応容器群62に属するウェル16(反応容器)とに含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が互いに異なる場合、反応容器群61及び反応容器群62が、それぞれ第1の反応容器群及び第2の反応容器群に対応する。なお、この説明は、他の任意の2つの反応容器群についても成立する。
【0137】
図13(A)及び図13(B)に示す例では、反応容器群61,62,63,64及び65ごとに、反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっている。換言すれば、同一の反応容器群に属するウェル16(反応容器)に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類は、同一となっている。
【0138】
このように、反応容器群ごとに、同一条件のウェル16(反応容器)を複数含むことにより、ウェル16(反応容器)ごとの誤差が判定結果に反映されにくくなり、判定の信頼性が向上する。また、誤って1つのウェル16(反応容器)に気泡や異物が混入した場合にも、同一の反応容器群に属する他のウェル16(反応容器)の結果を用いて判定を行うことができる。
【0139】
また、反応容器群ごとに、ウェル16に含まれるプライマー及び蛍光プローブの種類が異なっていることにより、1つのマイクロ流体チップで、複数種類の遺伝子を対象として、測定対象となる検体における標的核酸の発現量が、基準となる参照検体における標的核酸の発現量と同程度か否かをさらに高感度、高精度に判定できる核酸分析キットを実現できる。
【0140】
4.核酸の分析方法
次に、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100を用いた核酸の分析方法の一例について説明する。以下では、ウェル16(反応容器)内に被検液が導入された後の工程について説明する。なお、上述した他の実施形態に係るマイクロ流体チップ、マイクロ流体チップセット及び核酸分析キットを用いた場合にも、同様の方法により核酸を分析することができる。
【0141】
以下に説明する核酸の分析方法では、検体に含まれるmRNAを逆転写したcDNAを含む被検液を調整する工程と、複数のウェル16(反応容器)内で核酸増幅反応(例えば、PCR)を行う工程と、各々のウェル16(反応容器)内において、増幅された核酸の一部に結合した蛍光プローブが発する蛍光強度を測定する工程と、各々のウェル16(反応容器)内で測定された蛍光強度及び各々のウェル16(反応容器)内に配置された(又は導入された)内部標準核酸の量に基づいて、被検液に含まれる標的核酸の量を推定することにより検体に含まれるmRNAの量を推定する工程と、を含む。
【0142】
第1実施形態に係るマイクロ流体チップ100のウェル16(反応容器)内には、試薬30,31,32として、既知量の内部標準核酸、プライマー及び蛍光プローブが配置されている。よって、ウェル16(反応容器)内で核酸増幅反応を行う工程では、ウェル16(反応容器)内に予め配置された内部標準核酸と、ウェル16(反応容器)に導入された被検液に含まれる標的核酸とがともにウェル16(反応容器)内で増幅される。
【0143】
核酸増幅反応では、例えば、標的核酸及び内部標準核酸の両方に蛍光プローブが結合することができ、さらに、蛍光プローブがどちらか一方と結合した際に蛍光の消光が発生するようにしておくことができる。この状態にて、各々のウェル16(反応容器)から生じる蛍光強度を測定する。次いで、各々のウェル16(反応容器)について測定された蛍光強度及び各々のウェル16(反応容器)内に配置された内部標準核酸の量に基づいて、被検液に含まれる標的核酸の量を推定することができる。そして、推定された標的核酸の量に基づいて、検体に含まれるmRNAの量を推定することができる。
【0144】
各々のウェル16(反応容器)について測定された蛍光強度と、後述する式(1)を用いて標的核酸の量を推定するために、予めポジティブコントロール及びネガティブコントロールのデータを用意する。
【0145】
まず、ポジティブコントロールとして、標的核酸TGTのみを含むウェルを用意する。このウェルにおいては、核酸増幅反応において得られるすべての増幅産物が標的核酸TGTを増幅したものであり、この場合の蛍光変化量をFtとする。この標的核酸TGTは、予め用意したものを用いることもできる。
【0146】
1つのマイクロ流体チップで複数種類の核酸について分析する場合には、標的核酸の種類ごとにポジティブコントロール用のウェルを用意する。なお、内部標準核酸の量によって、標的核酸の量を変える必要はない。
【0147】
次に、ネガティブコントロールとして、内部標準核酸CPTのみを含むウェルを用意する。このウェルにおいては、すべての増幅産物が内部標準核酸CPTを増幅したものであり、この場合の蛍光変化量をFcとする。
【0148】
なお、上述の「標的核酸TGTのみを含むウェル」及び「内部標準核酸CPTのみを含むウェル」は、実際に核酸の分析に用いるマイクロ流体チップの一部のウェルであってもよいし、同種である他のマイクロ流体チップのウェルであってもよい。
【0149】
ウェル内に標的核酸TGT及び内部標準核酸CPTの両方が存在する場合には、両方の増幅産物ができるため、そのときの蛍光変化量Fを以下の式(1)で表すことができる。
【0150】
F=Ft・X/(X+C)+Fc・C/(X+C)
=〔C・(Fc−Ft)/(X+C)〕+Ft ・・・・・(1)
【0151】
上記式(1)における蛍光変化量Fは、蛍光プローブが発する蛍光強度そのものでもよいし、あるいは、(i)核酸増幅反応の前に測定された蛍光強度と、核酸増幅反応の後に測定された蛍光強度との比(蛍光変化量)、または、(ii)核酸増幅後に増幅産物及び蛍光プローブが解離する温度まで加熱した状態(核酸増幅反応後において蛍光プローブが増幅された核酸から解離している第1の状態)で測定された蛍光強度と、蛍光プローブが結合している温度(核酸増幅反応後において蛍光プローブが増幅された核酸の一部に結合している第2の状態)で測定された蛍光強度との比(蛍光変化量)であってもよい。
【0152】
上記式(1)において、Cはウェル16(反応容器)における内部標準核酸CPTの量(ウェル16(反応容器)内のコピー数)、Xはウェル16(反応容器)における標的核酸TGTの量(ウェル16(反応容器)内のコピー数)である。
【0153】
したがって、ポジティブコントロールとネガティブコントロールの蛍光輝度から求めたFtとFc、及び内部標準核酸の量Cを上記式(1)に代入すると、蛍光変化量Fから標的核酸の量Xを求めることができる。なお、蛍光強度の測定から標的核酸の量(又は検体に含まれるmRNAの量)を推定するまでの工程を、蛍光検出装置と、これによる蛍光検出結果に基づいて標的核酸の量(又は検体に含まれるmRNAの量)を推定する演算を行うプログラムとを組み合わせて行うこともできる。
【0154】
蛍光プローブは、PCRによって増幅された標的核酸の一部に結合し、標的核酸と内部標準核酸とを識別して蛍光変化を示すものであればよく、例えば、Taqman probe(登録商標)、Hyb probe(登録商標)、Molecular Beacon(登録商標)、Q−Probe(登録商標)等を用いることができる。Q−Probeは、標識した蛍光色素にグアニン塩基が近づくと、発する蛍光が減少するという「蛍光消光現象」を利用して目的の遺伝子を検出するプローブである。
【0155】
Q−Probeは蛍光標識されたシトシンを末端に有し、目的遺伝子に特異的に結合するような配列に設計されており、Q−Probeが目的遺伝子と結合すると、グアニンの影響を受けて蛍光が減少する。この現象を利用して内部標準核酸と標的核酸とを区別するためには、内部標準核酸が、Q−Probeの蛍光標識末端塩基に対応する塩基としてグアニンを有する場合には、標的核酸は、Q−Probeの蛍光標識末端塩基に対応する塩基がグアニン以外の塩基であることが必要である。これにより、Q−Probeが標的核酸及び内部標準核酸をともに共増幅した際、内部標準核酸とQ−Probeとがハイブリダイズすると、標識蛍光色素の蛍光発光が減少(消光)する一方、標的核酸とQ−Probeとがハイブリダイズすると、標識蛍光色素の蛍光発光は減少しない。なお、上記の説明については標的核酸と内部標準核酸とを入れ替えても成立する。従って、Q−Probeが標的核酸又は内部標準核酸のどちらと結合した際に蛍光の消光が発生するかを選択することができる。
【0156】
このように、上述した核酸の分析方法により、マイクロ流体チップ100の複数のウェル16(反応容器)を用いて、1つの検体から多種類の遺伝子についての遺伝子発現量や、複数の発現状態と比較した遺伝子発現量を分析できる。
【0157】
また、ウェル16(反応容器)内での反応が液体中で行われること、及び、核酸増幅反応により増幅した後に発現量を分析することにより、DNAチップと比べて高い再現性が得られる。
【0158】
さらに、核酸増幅反応と蛍光強度の測定結果を演算することで遺伝子の発現量を分析できるため、簡単な装置で分析が実現できる。
【0159】
5.実施例
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0160】
本実施例では、蛍光プローブとしてQ−Probe(Kurata et al., Nucleic acids Research, 2001, vol.29, No.6 e34)を用いた場合を例にとり、マイクロ流体チップ100を用いて競合PCR法により検体に含まれるmRNAを逆転写したcDNAを標的核酸として定量する方法について説明する。
【0161】
Q-Probeは、結合した核酸に含まれるグアニンと相互作用して著しく蛍光が消光する。よって、標的核酸及び内部標準核酸の両方にQ-Probeが結合できるようにし、さらに、Q-Probeがどちらか一方と結合した際に蛍光の消光が発生するようにしておくことにより、既知の内部標準核酸の量に対する標的核酸の相対量を推定することができる。
【0162】
標的核酸及び内部標準核酸はJ−Bio21(株)から購入した。本実施例においては、標的核酸として、ヒトβアクチン遺伝子及びヒトアルブミン遺伝子を用いた。また、バッファーとして、10mM Tris−HClバッファー(pH:8.3)と、KCl:50mM、MgCl2:1.5mMの混合液を使用した。
【0163】
図14は、標的核酸及び内部標準核酸の配列例である。図14に示す例では、標的核酸はヒトβアクチン遺伝子である。また、図14に示す配列例は、標的核酸及び内部標準核酸のセンス鎖を表している。また、図15は、図14に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応するプライマーの配列例、図16は、図14に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応する蛍光プローブの配列例である。
【0164】
図14に示される標的核酸及び内部標準核酸の配列の下線を引いた部分相補的な関係となるアンチセンス鎖の部分に、図16に示される蛍光プローブ(Q−Probe)が結合する。標的核酸と内部標準核酸とを比較すると、図14に示されるように、蛍光プローブの結合部分(下線部分)の直後が、標的核酸は「cc」、内部標準核酸は「aa」となっている点で相違し、他の配列は同一である。したがって、Q-Probeは標的核酸と結合した際に、蛍光プローブの結合部分(下線部分)の直後のシトシン(c)と相補的な関係となるアンチセンス鎖のグアニンと反応するため、蛍光が消光する。
【0165】
本実施例においては、マイクロ流体チップ100のウェル16(反応容器)内に、図14に示される配列を有する内部標準核酸、図15に示される配列を有するプライマー及び図16に示される配列を有する蛍光プローブ(Q−Probe)を、ウェル16(反応容器)内に試薬として配置した。Q−Probe(J−Bio21(株)から購入)は、BODIPY FL(Molecular probes社製)を用いて蛍光標識したものを使用した。
【0166】
図17は、標的核酸及び内部標準核酸の他の配列例である。図17に示す例では、標的核酸はヒトアルブミン遺伝子である。また、図17に示す配列例は、標的核酸及び内部標準核酸のセンス鎖を表している。また、図18は、図17に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応するプライマーの配列例、図19は、図17に示される標的核酸及び内部標準核酸に対応する蛍光プローブの配列例である。
【0167】
図17に示される標的核酸及び内部標準核酸の配列の下線を引いた部分に、図19に示される蛍光プローブ(Q−Probe)が結合する。標的核酸と内部標準核酸とを比較すると、図17に示されるように、蛍光プローブの結合部分(下線部分)の直前が、標的核酸は「gg」、内部標準核酸は「aa」となっている点で相違し、他の配列は同一である。したがって、Q-Probeは標的核酸と結合した際に、蛍光プローブの結合部分(下線部分)の直前のグアニン(g)と反応するため、蛍光が消光する。
【0168】
本実施例においては、マイクロ流体チップ100のウェル16(反応容器)内に、図17に示される配列を有する内部標準核酸、図18に示される配列を有するプライマー及び図19に示される配列を有する蛍光プローブ(Q−Probe)を、ウェル16(反応容器)内に試薬として配置した。Q−Probe(J−Bio21(株)から購入)は、BODIPY FL(Molecular probes社製)を用いて蛍光標識したものを使用した。
【0169】
上述した方法と同様の方法により、マイクロ流体チップ100のウェル16を2つの反応容器群に分け、それぞれ2つの遺伝子ヒトβアクチン遺伝子及びヒトアルブミン遺伝子に対応するように反応容器群ごとに異なるプライマー及び蛍光プローブを配置した。また、内部標準核酸の量は、標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体(検体1とする)の反応液をウェル16(反応容器)に導入した場合に、ウェル16(反応容器)に導入される標的核酸の量である参照量に調整して各々のウェル16に配置した。参照検体中の各遺伝子の発現量は、予めリアルタイムPCR法により測定して求めたものであり、表1に示される。
【0170】
続いて、サンプル(検体2)から抽出した標的核酸を含む被検液をPCR反応に適するように調製し、ウェル16(反応容器)に充填し、サーマルサイクラー(Master Cycler(Eppendorf社))でPCRを行った。蛍光測定は、室温で増幅反応の前後に測定し、その比を蛍光変化量として算出した。
【0171】
表1は、上述した条件においてヒトβアクチン遺伝子及びヒトアルブミン遺伝子について競合PCR法により定量した結果である。記号は前述の式(1)に対応して示している。参照検体(検体1)の定量RT−PCRの測定結果より、参照量を、βアクチン遺伝子については5000copy/μl、アルブミン遺伝子については100copy/μlに設定した。
【0172】
【表1】

【0173】
表1の結果から、サンプル(検体2)中の標的核酸の量は、2種類とも適切に定量できていることが分かる。
【0174】
内部標準核酸の量を、サンプルの種類によらず一定にすると、サンプル中の標的核酸の量が内部標準核酸の量と著しく異なる場合(目安として10分の1以下又は10倍以上)には、十分な定量精度が確保できない。通常、遺伝子の種類によって発現量は大きく異なるため、全ての遺伝子を一定濃度の内部標準核酸との競合PCR法で定量することは困難である。表1の結果から、参照量を予め設定したことで、発現量が100倍以上異なる2種類の遺伝子の両方について、1つのマイクロ流体チップ100を用いて精度良く定量ができたことが分かる。
【0175】
このように、本実施例によれば、標的核酸の発現量を事前に予想して内部標準核酸の量を設定することにより、期待された範囲内の発現量であれば、標的核酸の発現量を精度よく定量することができる。また、発現量が大きく異なる複数の遺伝子について、1つのマイクロ流体チップで定量することができる。
【0176】
6.本発明の適用例
本発明によれば、例えば、病院などで診断対象者(患者)から検体を採取し、遺伝子の発現状態を分析できる。例えば、内部標準核酸の量を健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量とすれば、診断対象者の遺伝子の発現状態が健康な状態の発現状態と比較してどれだけ差異があるかを容易に判定することができる。また例えば、内部標準核酸の量を特定の病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量とすれば、診断対象者の遺伝子の発現状態が特定の病気の状態の発現状態と比較してどれだけ差異があるかを容易に判定することができる。これにより、遺伝子発現量に基づいた病気の診断が可能になる。なお、病気であるか否かの判定基準は、統計データなどに基づいて、医学的に決定される。
【0177】
また、上述の方法によれば、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールを予め用意しておくことにより、遺伝子発現量の定量も可能になる。病気の程度によって、1通りの参照量では定量できないほどに遺伝子発現量が変化する場合には、1つのマイクロ流体チップに内部標準核酸の量が異なるウェル(反応容器)を設けたり、内部標準核酸の量が異なる複数のマイクロ流体チップを用いたりすることにより、遺伝子発現量の定量が可能になる。
【0178】
健康な状態の発現状態と比較して、定量できないほどに遺伝子発現量が変化している場合であっても、病気か否かの最初のスクリーニングとして使用することが可能である。この場合、必要に応じてオーバーレンジとなった遺伝子について、内部標準核酸の量を変えて再検査することにより、より精度の高い診断が可能となる。
【0179】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0180】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0181】
10 基板、11 第1面、12 第2面、13 リザーバー領域、14 ウェル領域、15 リザーバー、16 ウェル、16a 開口、20 カバー、20a 表面、21 固着領域、30,31,32 試薬、41 健康領域、42 病気領域、51 第1進行状態領域、52 第2進行状態領域、61,62,63,64,65 反応容器群、80 被検液、90 ローラー、100,100a,100b,100c,100d,100e,100f,101,101a,101b マイクロ流体チップ、110 内部標準試薬、111 第1の内部標準試薬、112 第2の内部標準試薬、150,151,152 蓋付き容器、160,161,162 ウェル、200 マイクロ流体チップセット、300,300a,301,301a 核酸分析キット、611,612,613,614,615,621,622,623,624,625,631,632,633,634,635,641,642,643,644,645 反応容器群、R 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用するマイクロ流体チップであって、
複数の反応容器を含み、
前記反応容器は、
前記標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、前記標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸と、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸に共通のプライマーと、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、前記標的核酸の増幅産物に結合した場合と前記内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、
を含み、
前記反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれる前記プライマー及び前記蛍光プローブの種類は互いに異なり、
前記内部標準核酸の量は、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体の反応液を前記反応容器に導入した場合に、前記反応容器に導入される前記反応液に含まれる前記標的核酸の量である参照量と同じである、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記参照量は、前記参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量の少なくとも一方である、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記参照量が、前記参照検体を、前記健康な個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器と、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器と、
を含む、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器と、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器と、
を含む、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第1条件の反応容器を含む、請求項1に記載のマイクロ流体チップと、
前記参照量が、前記参照検体を、前記病気の第2進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表する量である第2条件の反応容器を含む、請求項1に記載のマイクロ流体チップと、
を含む、マイクロ流体チップセット。
【請求項6】
検体に含まれる標的核酸の増幅、及び、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定に使用する核酸分析キットであって、
マイクロ流体チップと、
前記標的核酸と共通のプライマーで増幅可能な核酸であって、前記標的核酸とは異なる配列を有する核酸である、既知量の内部標準核酸を含む液体である内部標準試薬と、
を含み、
前記マイクロ流体チップは、複数の反応容器を含み、
前記反応容器は、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸に共通のプライマーと、
前記標的核酸及び前記内部標準核酸の増幅産物の一部に結合し、前記標的核酸の増幅産物に結合した場合と前記内部標準核酸の増幅産物に結合した場合とで異なる蛍光変化を示す蛍光プローブと、
を含み、
前記反応容器のうち、第1の反応容器と第2の反応容器とに含まれる前記プライマー及び前記蛍光プローブの種類は互いに異なり、
前記内部標準核酸のモル濃度は、前記標的核酸が所定量発現したか否かの判定の基準となる検体である参照検体に含まれる前記標的核酸のモル濃度である参照モル濃度と同じである、核酸分析キット。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸分析キットにおいて、
前記参照モル濃度は、前記参照検体を、健康な個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度及び病気の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度の少なくとも一方である、核酸分析キット。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分析キットにおいて、
前記内部標準試薬として、
前記参照モル濃度が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である前記内部標準核酸を含む第1の内部標準試薬と、
前記参照モル濃度が、前記参照検体を、前記病気の第1進行状態の個体から採取した検体とした場合を代表するモル濃度である前記内部標準核酸を含む第2の内部標準試薬と、
を含む、核酸分析キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−239742(P2011−239742A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116081(P2010−116081)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】