説明

マイクロ流体デバイス、微生物夾雑物検出システム、並びに、微生物夾雑物の検出方法

【課題】エンドトキシン(リポ多糖)等の微生物夾雑物の検出を高感度かつ簡便・迅速に行える技術を提供する。
【解決手段】マイクロ流体デバイスは、気体導入部7、気体移動流路8、試料導入部10、試料移動流路11、光学セル12、を有する。試料移動流路11には血球溶解物等含有試薬26と発光合成基質28が設置され、光学セル12には発光用試薬(発光酵素)27が設置されている。試料導入部10に導入された液体試料は、気体導入部8から導入された気体の圧力により試料移動流路11を移動し、血球溶解物等含有試薬と発光合成基質を順次溶解し、光学セル12内で生物発光又は化学発光を発する。当該発光により、試料中のエンドトキシンを検出する。ルシフェリンとルシフェラーゼによる生物発光が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス、微生物夾雑物検出システム、並びに、微生物夾雑物の検出方法に関し、さらに詳細には、生物発光又は化学発光を利用して液体試料中の微生物夾雑物の存在又は量を決定するためのマイクロ流体デバイス、当該マイクロ流体デバイスを備えた微生物夾雑物検出システム、並びに、当該マイクロ流体デバイスを用いた微生物夾雑物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物汚染(例えば、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、酵母、真菌、および糸状菌)は、重篤な疾患の原因となり得るものであり、場合によっては人を死に至らしめることもある。そのため、製薬産業、医療デバイス産業、および食品産業における製造業者は、厳しい基準を満たすために、各製品が基準を超える微生物夾雑物を含まないことを確認しなければならない。これらの産業では、特定の基準、例えば、日本では日本薬局方によって課される基準、米国では米国食品医薬品局(USFDA)又は環境保護局によって課される基準を満たす必要があり、微生物夾雑物の存在に関して、高感度かつ高精度な試験が求められる。例えば、USFDAは、医薬品および侵襲性医療デバイスの特定の製造業者に、自社製品が、検出可能なレベルのグラム陰性細菌のエンドトキシン(リポ多糖)を含まないことを確証するように求めている。
【0003】
エンドトキシンの測定方法として、カブトガニの血球細胞抽出物(LAL)を用いたリムルス試験が広く行われている。リムルス試験には、ゲル化反応(凝固反応)を利用したゲル化法と比濁法、および合成発色基質を用いる発色法(比色法)が知られている。
【0004】
リムルス試験におけるゲル化は、以下のカスケード反応により起こる。まず、エンドトキシンとLALとが接触すると、LAL中のファクターCが活性化される。活性化されたファクターCはLAL中のファクターBを活性化し、さらに活性化されたファクターBはLAL中の凝固酵素(Clotting enzyme)を活性化する。そして、活性化された凝固酵素によってコアグローゲン(Coagulogen)がコアグリン(Coagulin)に変換され、コアグリンが重合してゲルを形成する。前記したゲル化法と比濁法は、本カスケード反応によるゲル形成がエンドトキシン濃度に依存することに基づいている。
一方、発色法では、凝固酵素の基質として発色合成基質を用いる。例えば、発色合成ペプチド基質を用い、遊離した発色物質の量を吸光度により測定する。
【0005】
特許文献1には、LAL試薬と合成発色基質を組み合わせた発色法を構成する試薬を内蔵したカートリッジが開示されている。このカートリッジを用いることで、その場でエンドトキシン測定結果を得る「ポイント・オブ・ケア検査」を実現することが可能とされている。しかしながら、この技術は発色法に基づくため、高感度測定には不向きである。
【0006】
一方、合成発色基質の代わりに、ルシフェリンが結合した合成基質及びルシフェラーゼによる生物発光を組み合わせて高感度化を図る技術が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この技術では、高感度測定は可能になるものの、試料とLAL試薬の混合工程、合成基質の添加工程、発光試薬の添加工程の各工程が求められ、少なくとも2〜3回のピペット操作が必要である。そのため、反応液への外部のエンドトキシンの混入が起こるおそれがあり、高感度測定には不向きであると共に、操作も煩雑である。
【0007】
なお、LAL中の凝固酵素の活性化は、βグルカンとLALとが接触することによっても起こる。これは、LAL中のファクターGがβグルカンによって活性化されることによるものである。すなわち、活性化されたファクターGが凝固酵素を活性化する。
【0008】
またβグルカンとペプチドグリカンの検出技術として、SLP法が知られている。SLP法は、カイコの体液抽出成分に含まれるフェノール酸化酵素がβグルカンあるいはペプチドグリカンにより活性化される現象を利用したものである。
【0009】
また一方、微量の液体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスが開発されている。例えば、手で容易に取り扱い得る大きさの基板内に、液体試料等を搬送するためのマイクロ流路が形成され、必要に応じて、試料の導入部、試薬類の保持部、反応室等が設けられたマイクロ流体デバイスが知られている(特許文献3)。さらに、マイクロ流体デバイスのマイクロ流路(微細流路)等に微量の流体を送るための駆動源となるマイクロポンプが知られている。例えば、光照射により気体を発生する光応答性ガス発生材料を利用したマイクロポンプが知られている(特許文献4)。ここでマイクロポンプとは、マイクロ流路等に微量の流体を送るための駆動源であり、マイクロ流体デバイスに実装できる小さなポンプを指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2007−501020号公報
【特許文献2】国際公開第2009/063840号
【特許文献3】特許第4177884号公報
【特許文献4】国際公開第2009/113566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、エンドトキシン、βグルカン、ペプチドグリカン等の微生物夾雑物の検出において、高感度でかつ簡便・迅速な測定技術が求められている。このような現状に鑑み、本発明は、エンドトキシン測定等の微生物夾雑物の検出をより高感度でかつ簡便・迅速に行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、液体試料を血球溶解物又は昆虫の体液由来成分に接触させて液体試料中の微生物夾雑物と血球溶解物又は昆虫の体液由来成分とを反応させ、液体試料中における微生物夾雑物の存在又は量を決定するためのマイクロ流体デバイスであって、試料導入口と、光学セルと、前記試料導入口と前記光学セルを連通するマイクロ流路とを備え、試料導入口から導入された液体試料は、マイクロ流路を通って光学セルへ到達可能であり、マイクロ流路内には、血球溶解物又は昆虫の体液由来成分を少なくとも含有する血球溶解物等含有試薬が配置され、マイクロ流路内又は光学セル内には、所定の基質と反応して生物発光又は化学発光を発生させる発光用試薬が配置され、試料導入口から導入された液体試料がマイクロ流路を通って光学セルに到達する際に、液体試料が前記血球溶解物等含有試薬と前記発光用試薬に接触してこれらを溶解し、当該溶解物が発する生物発光又は化学発光を前記光学セルにて検出可能であることを特徴とするマイクロ流体デバイスである。
【0013】
本発明は液体試料中における微生物夾雑物の存在又は量を決定するためのマイクロ流体デバイスに関するものである。本発明のマイクロ流体デバイスは、試料導入口と、光学セルと、試料導入口と光学セルを連通するマイクロ流路とを備えている。また、マイクロ流路内には、血球溶解物又は昆虫の体液由来成分(以下、「血球溶解物等」と称することがある。)を少なくとも含有する「血球溶解物等含有試薬」が配置され、マイクロ流路内又は光学セル内には、所定の基質と反応して生物発光又は化学発光を発生させる「発光用試薬」が配置されている。試料導入口から導入された液体試料がマイクロ流路を通って光学セルに到達する際に、液体試料が血球溶解物等含有試薬と発光用試薬に接触してこれらの試薬を溶解し、当該溶解物が発する生物発光又は化学発光を光学セルにて検出可能である。本発明のマイクロ流体デバイスによれば、エンドトキシン等の微生物夾雑物の検出を簡便かつ迅速に行うことができる。さらに、本発明のマイクロ流体デバイスによれば、生物発光又は化学発光を利用することができるので、微生物夾雑物の検出を高感度で行える。
【0014】
血球溶解物等含有試薬と発光用試薬は、マイクロ流路内の同一の場所に配置されてもよく、異なる場所に配置されてもよい。同一の場所に配置する場合には、両試薬を混合した状態で配置することもできる。
【0015】
「マイクロ流路」とは、流路を流れる液体に所謂マイクロ効果が発現する形状寸法に形成されている微細な流路をいう。具体的には、流路を流れる液体が、表面張力と毛細管現象との影響を強く受け、通常の寸法の流路を流れる液体とは異なる挙動を示す形状寸法に形成されている微細な流路である。マイクロ流路の内径は、一般に0.02μm〜2mm程度である。
「マイクロ流体デバイス」とは、マイクロ流路を有するデバイスをいう。デバイスの例としては、基板が挙げられる。
【0016】
「血球溶解物」と「昆虫の体液由来成分」には、本来の生物由来のものの他に、化学合成や遺伝子組換え技術により作製された、血球溶解物あるいは昆虫の体液由来成分の「同等物」も含まれる。
【0017】
血球溶解物等含有試薬の下流側に発光用試薬が配置されている構成が好ましい(請求項2)。
【0018】
請求項3に記載の発明は、発光用試薬は、光学セル内に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイスである。
【0019】
かかる構成により、発光寿命が短い場合であっても、高感度かつ正確に生物発光を検出できる。
【0020】
マイクロ流路内の第一領域に、血球溶解物等含有試薬が配置され、マイクロ流路内であって第一領域の下流側にある第二領域に、発光基質を遊離する発光合成基質が配置され、マイクロ流路内であって第二領域の下流側にある第三領域又は光学セル内に、発光用試薬が配置され、発光用試薬には前記発光基質と反応する発光酵素が含まれていてもよい(請求項4)。
【0021】
血球溶解物等含有試薬には発光基質を遊離する発光合成基質が混合されており、発光用試薬には前記発光基質と反応する発光酵素が含まれていてもよい(請求項5)。
【0022】
発光合成基質はルシフェリン又はその誘導体を遊離可能なものであり、発光酵素はルシフェラーゼである構成が好ましい(請求項6)。ここで「ルシフェリンの誘導体」とは、ルシフェリンと同様に、ルシフェラーゼと反応することにより生物発光を発するルシフェリンと構造類似の化合物をいう。
【0023】
微生物夾雑物は、エンドトキシン、βグルカン、又はペプチドグリカンである構成が好ましい(請求項7)。
【0024】
血球溶解物は、カブトガニの血球抽出成分である構成が好ましい(請求項8)。
【0025】
昆虫の体液由来成分は、カイコの体液抽出成分である構成が好ましい(請求項9)。
【0026】
マイクロ流路の断面形状は、縦横比1:4から4:1の略四角形であり、断面積が1mm2以下である構成が好ましい(請求項10)。
【0027】
請求項11に記載の発明は、マイクロ流路には、導入された液体試料の攪拌を補助する攪拌補助手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスである。
【0028】
かかる構成により、血球溶解物等含有試薬と発光用試薬を、液体試料に対して効率的に溶解させることができる。
【0029】
攪拌補助手段は、流路の折り曲げ、流路の分岐及び合流、流路断面積の変化、流路内面の粗面化、及び障害物の設置からなる群より選ばれた少なくとも1つであることが好ましい(請求項12)。
【0030】
本発明のマイクロ流体デバイスは、平板状であってもよい(請求項13)。
【0031】
請求項14に記載の発明は、マイクロ流路には、マイクロ流路内を液体試料が移動するための駆動源が接続される駆動源接続口が設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスである。
【0032】
本発明のマイクロ流体デバイスは、マイクロ流路内を液体試料が移動するための駆動源が接続される駆動源接続口を有している。例えば、駆動源接続口にポンプ等を接続して加圧あるいは吸引することにより、液体試料をマイクロ流路内で自由に移動させることができる。なお、駆動源接続口の設置位置は特に限定はなく、マイクロ流路の上流側末端、下流側末端、途中位置のいずれでもよい。駆動源接続口の数は、1個でもよいし、複数個でもよい。
【0033】
請求項15に記載の発明は、気体供給手段をさらに備え、駆動源接続口からマイクロ流路に気体を供給可能であることを特徴とする請求項14に記載のマイクロ流体デバイスである。
【0034】
本発明のマイクロ流体デバイスは、気体供給手段をさらに備えている。そのため、気体供給手段から供給される気体による圧力を、液体試料がマイクロ流路を移動する際の推進力として利用することができる。気体の発生・供給方法については特に限定はなく、例えば、ポンプ、シリンジ、ピペット、光応答性ガス発生材等を用いて行うことができる。
【0035】
請求項16に記載の発明は、駆動源接続口を複数備え、複数の箇所からマイクロ流路に気体を供給可能であることを特徴とする請求項15に記載のマイクロ流体デバイスである。
【0036】
かかる構成により、マイクロ流路内における液体試料の移動をより細かく制御できる。例えば、移動方向(上流側から下流側、下流側から上流側)を変えることも容易となる。
【0037】
請求項17に記載の発明は、気体供給手段は、光応答性ガス発生材からなることを特徴とする請求項15又は16に記載のマイクロ流体デバイスである。
【0038】
本発明のマイクロ流体デバイスでは、気体供給手段が光応答性ガス発生材からなるので、光を照射するだけで気体を発生させることができる。そのため、操作がさらに簡単である。
【0039】
光応答性ガス発生材はフィルム状又はテープ状であり、駆動源接続口に貼付されている構成が好ましい(請求項18)。
【0040】
請求項19に記載の発明は、請求項1〜18のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスと、発光検出器を備えたことを特徴とする微生物夾雑物検出システムである。
【0041】
本発明は微生物夾雑物検出システムに係るものであり、本発明のマイクロ流体デバイスと、発光検出器を備えている。本発明は微生物夾雑物検出システムによれば、液体試料中の微生物夾雑物を、より簡便かつ迅速に検出することができる。
【0042】
請求項20に記載の発明は、請求項1〜18のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスを用いて液体試料中の微生物夾雑物の存在又は量を決定することを特徴とする微生物夾雑物の検出方法である。
【0043】
本発明は微生物夾雑物の検出方法に係るものであり、上記した本発明のマイクロ流体デバイスを用いるものである。本発明によれば、液体試料中の微生物夾雑物を、正確かつ簡便・迅速に検出することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のマイクロ流体デバイスによれば、エンドトキシン、βグルカン、ペプチドグリカン等の微生物夾雑物を高精度かつ簡便・迅速に検出することができる。
【0045】
本発明の微生物夾雑物検出システムについても同様であり、エンドトキシン、βグルカン、ペプチドグリカン等の微生物夾雑物を高精度かつ簡便・迅速に検出することができる。
【0046】
本発明の微生物夾雑物の検出方法についても同様であり、エンドトキシン、βグルカン、ペプチドグリカン等の微生物夾雑物を高精度かつ簡便・迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを表す正面図である。
【図2】図1のマイクロ流体デバイスの分解斜視図である。
【図3】基板本体の正面図である。
【図4】図1のA−A断面図である。
【図5】(a)は全体流路の内部構造を表す断面斜視図、(b)は(a)の流路部分のみを模式的に表す斜視図である。
【図6】光応答性ガス発生フィルムの積層構造を表す断面図である。
【図7】試料移動流路の断面形状を表す説明図である。
【図8】(a)〜(d)はマイクロ流体デバイスの使用方法を説明する説明図である。
【図9】(e)〜(h)はマイクロ流体デバイスの使用方法を説明する説明図である。
【図10】マイクロ流体デバイスと光照射装置を表す斜視図である。
【図11】マイクロ流体デバイスと発光検出器を表す斜視図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係るマイクロ流体デバイスを表し、(a)はマイクロ流体デバイスの正面図、(b)は基板本体の正面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係るマイクロ流体デバイスの全体流路を表す正面図である。
【図14】複数の気体導入口を設けた実施形態を表す模式図である。
【図15】液溜部の構成を表す概略図である。
【図16】試料移動流路に屈折路を設けた例を表す模式図である。
【図17】試料移動流路に分岐点と合流点を設けた例を表す模式図である。
【図18】(a)〜(c)は試料移動流路に流路断面積の変化を付与した例を表す模式図である。
【図19】(a)、(b)は試料移動流路の流路内面を粗面化した例を表す模式図である。
【図20】試料移動流路に障害物を設けた例を模式的に表す図であり、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明するマイクロ流体デバイス1は、通常、正面(図1)が鉛直方向における上向きとなる姿勢(基本姿勢)で用いられる。以下の記載において、上下方向は基本姿勢における方向を基準とする。すなわち、基本姿勢において、保護層5が上側、光応答性ガス発生フィルム3が下側となる。また左右方向については図1の姿勢を基準とする。例えば、液体試料の移動方向については左側が上流、右側が下流となり、液体試料は左から右に向かって移動する。
また、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の大きさや厚みについては一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しないことがある。
【0049】
本発明の第一実施形態に係るマイクロ流体デバイス1は、液体試料中のエンドトキシン(微生物夾雑物)を検出するためのものである。マイクロ流体デバイス1は、図1,図2に示すように、全体形状が平板状の基板であり、基本的に、光応答性ガス発生フィルム(気体供給手段)3と、基板本体2と、保護層5がこの順に積層された構造を有している。詳細には、基板本体2の一方の面(下面)に光応答性ガス発生フィルム3、他方の面(上面)に保護層5がそれぞれ設けられている。
【0050】
基板本体2は、図3に示すように、長方形状の板体であり、合成樹脂やガラスで構成されている。基板本体2のサイズは、例えば、縦10〜50mm程度、横50〜200mm程度、厚み3〜8mm程度であるが、これに限定されるものではない。基板本体2には、全体流路6が形成されている。全体流路6は直線状の微細な流路であり、気体導入部7、気体導入流路8、試料導入部10、試料移動流路11、光学セル12、および開放流路15を有する。全体流路6の詳細な構成については後述する。
基板本体2には気体導入口(駆動源接続口)20が設けられており、全体流路6の気体導入部7に連通している(図4,図5)。
【0051】
光応答性ガス発生フィルム(気体供給手段)3は、基板本体2の一方の面(下面)に設けられている。光応答性ガス発生フィルム3は、基板本体2と略同じ長方形状のフィルムであり、図6に示すように、ガス発生層17と基材層18とが積層された2層構造を有する。そして、ガス発生層17が基板本体2に接触するように基板本体2に貼付されている。
ガス発生層17は、光応答性ガス発生材を含むものであり、その厚みは20〜200μm程度である。光応答性ガス発生材は、「ガスを発生する材料」と、粘接着性を有するバインダー樹脂とで構成されている。すなわち、ガス発生層17は粘着剤を含んでおり、基板本体2に簡単に貼付できる。基材層18はポリエチレンテレフタレート(PET)からなる支持体であり、その厚みは20〜100μm程度である。基材層18は光透過性であり、外部から照射された光は基材層18を通過してガス発生層17に届く。
なお図6以外の図では、光応答性ガス発生フィルム3の積層構造は省略している。
【0052】
ガス発生層17における光応答性ガス発生材を構成する「ガスを発生する材料」の例としては、アゾ化合物、アジド化合物、ポリオキシアルキレン樹脂、などが挙げられる。さらに、特許文献4に記載されているような、光酸発生剤(スルホン酸オニウム塩、ベンジルスルホン酸エステル、ハロゲン化イソシアヌレート、ビスアリールスルホニルジアゾメタン等)と酸刺激ガス発生剤(炭酸塩及び/又は重炭酸塩等)の組み合わせ、光塩基発生剤(コバルトアミン系錯体、カルバミン酸o−ニトロベンジル、オキシムエステル、カルバモイルオキシイミノ基含有化合物等)と塩基増殖剤(Flu3、Flu4等)の組み合わせ、などが挙げられる。
光応答性ガス発生材には、さらに光増感剤を含ませてもよい。
【0053】
なお、本実施形態では光応答性ガス発生フィルム3は基板本体2の裏面全体に貼付されているが、気体導入口20を覆う部分のみに貼付する構成としてもよい。
【0054】
保護層5は、基板本体2の光応答性ガス発生フィルム3が設けられた面とは逆の面(上面)に設けられている。保護層5の形状は基板本体2と略同じ長方形状であり、その厚みは0.1mm程度である。保護層5はPET樹脂に粘着材を塗工して作製されたものであり、無色透明かつ透光性である。保護層5は全体流路6を保護するとともに上から覆い、気体による加圧で液体試料が試料移動流路11内を移動可能な状態にする。
保護層5には試料導入口21が設けられており、全体流路6の試料導入部10に連通している(図4,図5)。
【0055】
前述のように、マイクロ流体デバイス1には全体流路6が形成されている。図2〜図5に示すように、全体流路6は、基板本体2の保護層5側の面に形成された直線状の溝と保護層5の裏面(下面)とで構成された、断面形状が略長方形状の筒状流路である。全体流路6は、気体導入部7、気体導入流路8、試料導入部10、試料移動流路11、光学セル12、および開放流路15を有している。気体導入部7、気体導入流路8、試料導入部10、試料移動流路11、光学セル12、および開放流路15は、上流から下流に向かってこの順番に並び、互いに連通して全体流路6を構成している。
【0056】
全体流路6は、マイクロ流体デバイス1の正面視において、マイクロ流体デバイス1の長辺に対して平行に1個配されている。全体流路6の上流側(図1,図3,図4における左側)の端部は基板1の上流側(左側)短辺までは至っておらず、一方、下流側(図1,図3,図4における右側)の端部はマイクロ流体デバイス1の下流側(右側)短辺まで至っており、外部に開放している(開放端16)。すなわち、全体流路6の長さはマイクロ流体デバイス1の長辺の長さよりも少し短い。
【0057】
気体導入部7は、全体流路6の上流側最端部又はその近傍に位置している。気体導入部7は、液体試料に圧力を付与する気体が導入される部位である。気体導入部7は、基板本体2に設けられた気体導入口(駆動源接続口)20と連通している。
【0058】
気体導入流路8は、気体導入部7の下流側に位置する流路である。気体導入部7と試料導入部10は、気体導入流路8を介して繋がっている。
【0059】
試料導入部10は、気体導入流路8の下流側に位置している。試料導入部10は、液体試料が導入される部位である。試料導入部10は保護層5に設けられた試料導入口21と連通している。試料導入口21を通じて導入された液体試料は、試料導入部10に導入される。
【0060】
試料移動流路11は、試料導入部10の下流側に位置している。試料移動流路11は、試料導入部10に導入された液体試料が移動する流路である。試料移動流路11の断面形状は、図7に示すような略長方形状である。断面の縦横比(流路の深さHと幅Wの比)については特に限定はないが、好ましくは、H:Wが1:4〜4:1、より好ましくは1:3〜3:1、さらに好ましくは1:2〜2:1、最も好ましくは1:1(H=W,正方形)である。断面積については、マイクロ流路としての機能を発揮できる面積であれば特に限定はないが、好ましくは1mm2以下、より好ましくは0.8mm2以下、さらに好ましくは0.6mm2以下である。縦(深さH)と横(幅W)の長さは、一般的には0.5μm〜2000μm(2mm)程度であり、好ましくは100μm〜600μm程度、より好ましくは200μm〜400μm程度である。
【0061】
なお、本発明において試料移動流路の断面積と形状は一定である必要はなく、後述する図16に示す実施形態のように、断面積と形状が変化している場合もある。この場合には、試料移動流路の全長の80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上において、前記した断面の縦横比、断面積、および縦と横の長さの範囲を満たすことが好ましい。
【0062】
試料移動流路11の断面形状(溝の形状)については長方形状以外でもよく、半円状、V字状、などでもよい。
【0063】
試料移動流路11の中央からやや上流の位置(第一領域22)に、血球溶解物等含有試薬26が配置されている(図4)。血球溶解物等含有試薬26は凍結乾燥品等の固形物であり、第一領域22の底面及び/又は側面を層状に覆っている。本実施形態においては、血球溶解物等含有試薬26として、カブトガニの血球抽出物(LAL)が採用されている。
【0064】
また試料移動流路11の中央からやや下流の位置(第二領域23)に、発光合成基質28が配置されている(図4)。発光合成基質28は凍結乾燥品等の固形物であり、第二領域23の底面及び/又は側面を層状に覆っている。発光合成基質28としては、LAL中の活性化凝固酵素の作用によってルシフェリン(又はその誘導体)を遊離することができる合成基質、例えば、ベンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリンである。ベンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリンによれば、活性化凝固酵素によってアミノルシフェリンが遊離される。
【0065】
なお、発光合成基質28の他の例としては、Leu−Gry−Arg−アミノルシフェリン、Ile−Glu−Gly−Arg−アミノルシフェリンが挙げられる。さらに、これらのN末端は保護基で保護されていてもよい。当該保護基としては、N−スクシニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ベンゾイル基、p−トルエンスルホニル基、などが挙げられる。
【0066】
光学セル12は、試料移動流路11の下流側に位置している。光学セル12は試料移動流路11と連通しており、試料移動流路11を移動してきた液体試料は、そのまま光学セル12に導入される。光学セル12は、液体試料の光学的変化を検出するための「窓」である。
【0067】
試料導入口21と光学セル12とは、試料導入部10と試料移動流路11を介して連通している。換言すれば、試料導入部10と試料移動流路11とが1つのマイクロ流路を形成しており、当該マイクロ流路が試料導入口21と光学セル12とを連通している。
【0068】
光学セル12内には発光用試薬27が配置されている(図4)。発光用試薬27は凍結乾燥品等の固形物であり、光学セル12の底面及び/又は側面を層状に覆っている。本実施形態においては、発光用試薬27として、ルシフェラーゼ(発光酵素)とATPとの混合物が採用されている。
なお、図2,図3,図5では、血球溶解物等含有試薬26と発光用試薬27の図示を省略している。
【0069】
光学セル12の下流側は、開放流路15と開放端16を通じて外部に開放している。
【0070】
全体流路6を基板本体2に形成する方法としては、切削加工、レーザー加工、光造形、射出成形、インプリント等の公知の方法を採用することができる。
なお、全体流路6は直線状でなくてもよい。
【0071】
続いて、マイクロ流体デバイス1を用いて、液体試料中のエンドトキシン検出を行う手順について、図8と図9を参照しながら説明する。
【0072】
まず、エンドトキシン検出の対象となる液体試料29を、試料導入口21からマイクロピペット等を用いて導入する。これにより、液体試料29が試料導入部10に配置される(図8(a))。液体試料29の導入量は、試料移動流路11の内壁と隙間なく接触して流路面(断面)を塞ぎ、気体による圧力を受けて試料移動流路11を移動できる液滴を形成可能な量であればよい。例えば、試料移動流路11の断面形状が1mm四方の正方形であれば、1mm3(1μL)程度(一辺1mmの立方体の液滴を形成)あれば十分である。
また試料導入口21については、保持層5に予め設けておいてもよいし、液体試料29の導入前に針等を用いて孔を形成させて設けてもよい。液体試料29が試料導入部10に配置されたことを確認した後、試料導入口21をカバーテープ33で塞ぐ。
【0073】
次に、光応答性ガス発生フィルム3の気体導入口20に対応する位置に、光(紫外線)を照射する。前述のとおり、光応答性ガス発生フィルム3の基材層18は光透過性であり、下から照射された光は基材層18を通過してガス発生層17に届く。このとき、気体導入口20の近傍で気体が発生し、気体導入口20に導入される。これにより、試料導入部10に配置された液体試料29に対して気体による圧力が付与され、液体試料29が試料移動流路11に入り、下流側に向かって移動する(図8(b))。液体試料29の移動の開始と停止は、例えば、光照射をオンオフすることにより制御することができる。照射時間の長短で制御してもよい。光照射をパルス的に繰り返して微調整することもできる。
【0074】
液体試料29が試料移動流路11の第一領域22(血球溶解物等含有試薬26が設置されている)に到達したら、気体の供給を停止して液体試料29の移動を停止させる(図8(c))。これにより、液体試料29が血球溶解物等含有試薬26を覆う形となり、血球溶解物等含有試薬26が液体試料29に溶解する。この状態で、一定時間保持する。この際、液体試料29を第一領域22上で前後に動かして、溶解と混合を促進させてもよい。液体試料29の前後移動は、例えば、光照射と開放端16からの加圧とを繰り返すことにより、行うことができる。
血球溶解物等含有試薬26が液体試料29に溶解すると、液体試料29中に存在するエンドトキシンが血球溶解物等含有試薬26中のLALとカスケード反応を起こして凝固酵素を活性化する。
凝固酵素を確実に活性化するために、必要に応じて、第一領域22を所定温度(例えば37±1℃)にインキュベートする。インキュベートは、例えば、第一領域22を含む部分を上下から面状ヒーターやペルチェ素子で挟んだり、マイクロ流体デバイス1全体を恒温器内に入れて行うことができる。
【0075】
液体試料29を一定時間保持して凝固酵素の活性化を完了させた後、再び光応答性ガス発生フィルム3に対する光照射を行い、気体を発生させる。これにより、液体試料29(活性化された凝固酵素を含んでいる)が下流側に向かって再び移動する(図8(d))。この工程でも、液体試料29の移動の開始と停止は、光照射のオンオフや照射時間の長短で制御することができ、光照射をパルス的に繰り返して微調整することもできる。
【0076】
液体試料29が試料移動流路11の第二領域23(発光合成基質28が設置されている)に到達したら、気体の供給を停止して液体試料29の移動を停止させる(図9(e))。これにより、液体試料29が発光合成基質28を覆う形となり、発光合成基質28が液体試料29に溶解する。この状態で、一定時間保持する。この際、液体試料29を第二領域23上で前後に動かして、溶解と混合を促進させてもよい。液体試料29の前後移動は、例えば、光照射と開放端16からの加圧とを繰り返すことにより、行うことができる。
発光合成基質28が液体試料29に溶解すると、活性化された凝固酵素が発光合成基質たるベンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリンに作用し、アミノルシフェリンが遊離される(ルシフェリン遊離反応)。
ルシフェリン遊離反応を確実に行うために、必要に応じて、第二領域23を所定温度(例えば37±1℃)にインキュベートする。インキュベートは、例えば、第二領域23を含む部分を上下から面状ヒーターやペルチェ素子で挟んだり、マイクロ流体デバイス1全体を恒温器内に入れて行うことができる。
【0077】
液体試料29を一定時間保持してルシフェリン遊離反応を完了させた後、再び光応答性ガス発生フィルム3に対する光照射を行い、気体を発生させる。これにより、液体試料29(遊離アミノルシフェリンを含んでいる)が移動を再開し、光学セル12に向かう(図9(f))。
【0078】
液体試料29が光学セル12(発光用試薬27が設置されている)に到達したら、気体の供給を停止して液体試料29の移動を停止させる(図9(g))。これにより、液体試料29が発光用試薬27を覆う形となり、光学セル12内で発光用試薬27が液体試料29に溶解する。
発光用試薬27が液体試料29に溶解すると、液体試料29中に存在する遊離アミノルシフェリンが、発光用試薬27中のルシフェラーゼ(発光酵素)及びATPと反応して生物発光を発する。
【0079】
最後に、光学セル12内で生じた生物発光を、発光検出器36によって検出する(図9(h))。得られた発光強度の値から、液体試料29中のエンドトキシン量を算出する。
【0080】
なお生物発光や化学発光は一般に発光寿命が短いため、本実施形態のように発光用試薬27を発光セル12内に設置し、発光後すみやかに発光測定ができる構成とすることが好ましい。ただし、本発明はこの構成に限定されるものではなく、発光用試薬27を試料移動流路11内に設置してもよい。例えば、発光セル12の少し上流の位置(第三領域)に発光用試薬27を設置し、発光反応開始後、速やかに光学セル12に液体試料29を移動させる構成としてもよい。
【0081】
マイクロ流体デバイス1に光照射する工程(図8(b)、図8(d)、図9(f))において、図10に示すようなカートリッジ式の光照射装置30を用いることで、光照射を容易に行うことができる。光照射装置30は、マイクロ流体デバイス1が挿入及び保持されるデバイス挿入部31と、マイクロ流体デバイス1に光(紫外線)を照射する発光部32とを有している。デバイス挿入部31のサイズはマイクロ流体デバイス1がちょうど収まるサイズであり、基本姿勢のマイクロ流体デバイス1を上流側(図1の左側)からスライドさせながら挿入する。
発光部32には複数の発光ダイオード35が配されており、図示しないスイッチによってオンオフ可能である。発光ダイオード35は紫外線LED(UV−LED)であり、紫外線を発することができる。マイクロ流体デバイス1をデバイス挿入部31にセットした状態において、発光部32の発光ダイオード35の位置は、気体導入口20の真下となる。そのため、光応答性ガス発生フィルム3の気体導入口20に対応する位置に対して確実に光(紫外線)を照射することができる。
【0082】
また、光学セル12からの生物発光を検出する工程(図9(h))において、図11に示すようなカートリッジ式の発光検出器36を用いることで、発光測定を容易に行うことができる。発光検出器36はいわゆるルミノメーターであり、その側面にデバイス挿入口37を備えている。デバイス挿入口37にマイクロ流体デバイス1を開放端16側(図1の右側)から挿入し、光学セル12部分を発光検出器36内に入れる。光学セル12から発せられる生物発光は、発光検出器36が備える発光検出系により検出・解析され、結果が表示部38に表示される。
【0083】
上記した実施形態において、第一領域22(血球溶解物等含有試薬26が設置されている)と第二領域23(発光合成基質28が設置されている)の位置は、第一領域22が上流、第二領域23が下流となる限りにおいて自由である。例えば、第一領域22を試料導入部10に設定してもよい。すなわち、試料導入部10に血球溶解物等含有試薬26を設置してもよい。この構成によれば、液体試料29の導入と同時に血球溶解物等含有試薬26が溶解し、凝固酵素の活性化が始まる。
【0084】
上記した実施形態において、光応答性フィルム3の基板本体2への貼付は、液体試料29の導入直前に行ってもよいし(用時調製)、予め行っておいてもよい。
【0085】
上記した実施形態では、光応答性ガス発生フィルム3を利用したマイクロポンプによって、液体試料29を移動させた。しかし、本発明はこの構成に限定されるものではなく、光応答性ガス発生フィルム3を用いない実施形態も可能である。例えば、第一実施形態における気体導入口20に、光応答性ガス発生フィルム3以外の駆動源を接続してもよい。例えば、光応答性ガス発生フィルム3に代えて、シリンジポンプ、ダイヤフラム式等の1〜1000μL/分程度の送液能力を有するポンプを気体導入口20に接続してもよい。
【0086】
光応答性ガス発生フィルム3を用いず、さらに気体導入口20と気体導入部7を設けない実施形態も可能である。例えば、図12に示す第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス51は、全体流路56が試料導入部10、試料移動流路11、光学セル12、及び開放流路15からなり、気体の導入に関係する構成(気体導入部7、気体移動流路8、気体導入口20)を有しない。マイクロ流体デバイス51では、開放端16にマイクロポンプ等の駆動源を接続して加圧又は吸引することにより、液体試料29を移動させることができる。
【0087】
上記した実施形態では、第一領域22に血球溶解物等含有試薬26、第二領域23に発色合成基質28、光学セル12に発光用試薬27が設置されていたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。図13に示す第三実施形態に係るマイクロ流体デバイスの全体流路66では、試料移動流路11の略中央に第一領域22が設定されており、第二領域は設定されていない。そして本実施形態では、第一領域22に血球溶解物等含有試薬26が配置されているが、この血球溶解物等含有試薬26には発光合成基質28が混合されている。換言すれば、本実施形態では、血球溶解物等含有試薬26がLALとベンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリンとの混合物である。
第三実施形態のその他の構成は、第一実施形態と同じである。例えば、発光セル12には、発光用試薬27(ルシフェラーゼとATPの混合物)が設置されている。
第三実施形態によれば、凝固酵素の活性化とルシフェリン遊離反応とを1つの系で同時に行うことができ、操作を簡略化できる。
第三実施形態に係るマイクロ流体デバイスは、図8,9と同様の手順で使用することができる。
【0088】
さらに、血球溶解物等含有試薬26、発光合成基質28、及び発光用試薬27の混合物(すなわち、全ての試薬の混合物)を一箇所に設置してもよい。
【0089】
上記した第一実施形態では、気体導入口20とそれに対応する気体導入部7が各1個のみ設けられているが、気体を複数個所から導入できる構成としてもよい。図14に示す実施形態では、試料移動流路11に第一領域22、第二領域23、第三領域25がそれぞれ設定されている。そして、第一領域22に血球溶解物等含有試薬26(LAL)、第二領域に発光合成基質28(ベンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリン)、第三領域25に発光用試薬27(ルシフェラーゼとATPの混合物)が、それぞれ設置されている。本実施形態では、一番上流にある気体導入口20に加えて、領域ごとに個別の気体導入口が設けられている。すなわち、第一領域22に連通する第一気体導入口52、第二領域23に連通する第二気体導入口53、第三領域25に連通する第三気体導入口55が、それぞれ設けられている。
本実施形態では、各領域にある液体試料を下流に移動させる際には、その領域に連通する個別の気体導入口から気体を導入することができる。すなわち、第一領域22にて凝固酵素の活性化反応が終了した後、第一気体導入口52から気体を導入して液体試料を下流に移動させることができる。同様に、第二領域23にてルシフェリン遊離反応が終了した後、第二気体導入口53から気体を導入して液体試料を下流に移動させることができる。同様に、第三領域25にて発光反応が終了した後、第三気体導入口55から気体を導入して液体試料を下流に(光学セル12に向けて)移動させることができる。本実施形態によれば、光応答性ガス発生フィルムによる圧力付与を領域ごとに個別に行うことができ、液体試料の移動がより確実である。
【0090】
また、液体試料29の導入量を正確にするための構成として、図15に示す構成が挙げられる。図15に示す実施形態では、試料導入部が一定容量の液溜部41で構成されている。液溜部41には試料導入ライン(試料導入口)42と試料排出ライン43が接続されている。本実施形態では、試料導入ライン42から液体試料29を液溜部41に導入していき、液溜部41が満たされた後、余剰の液体試料29は試料排出ライン43へ溢れ出る。これにより、液溜部41に一定体積の液体試料29を量り取ることができる。その後、気体移動流路8側から気体を供給することにより、一定体積の液体試料29は試料移動流路11を移動し始める。
【0091】
上記した実施形態では、液体試料29が血球溶解物等含有試薬26、発光合成基質28、発光用試薬27を順次溶解し、各種の反応が行われる。したがって、これらの試薬を溶解した液体試料29が試料移動流路11内でできるだけ効率的に攪拌・混合されることが好ましい。以下に、液体試料29の攪拌・混合を促進させるための構成(攪拌補助手段)について、図16〜図20を参照しながら順次説明する。これらの構成は、いずれも液体試料29が試料移動流路11内を移動する際に効果を発揮するものである。図16〜図20において、液体試料29は左から右に移動する。
【0092】
図16に示す例は、試料移動流路11に屈折路を設けたものである。本実施形態では、流路の屈折部分45(曲がり角)で液体試料29が壁面に衝突することにより、攪拌・混合が促進される。
【0093】
図17に示す例は、試料移動流路11に分岐点46と合流点47を設けたものである。本実施形態では、分岐点46においては液体試料29が流路の壁面に衝突することにより、攪拌・混合が促進される。また合流点47においては、液体試料29同士が衝突することにより、攪拌・混合が促進される。
【0094】
図18に示す例は、流路断面積の変化である。本実施形態では、流路断面積が途中で変化することにより、流路内で流速の差が生じ、液体試料29に剪断力が働く。これにより、液体試料29の攪拌・混合が促進される。図18(a)は流路の片側の幅を広げた例である。図18(b)は、図18(a)の構成を複数備えた例である。図18(c)は流路の両側の幅を広げた例である。流路の幅に代えて、流路の深さを変化させてもよい。
【0095】
図19は、流路内面を粗面化した例である。本実施形態では、流路内面を鮫肌状などに加工することにより、液体試料29自身がよく転がり、攪拌・混合が促進される。図19(a)は規則的な鮫肌状に加工した例である。図19(b)は流路内をうねるような鮫肌状に加工した例であり、壁面への衝突効果が加味される。
【0096】
図20は、流路内に障害物を形成した例である。すなわち、流路内の底面と天面を繋ぐ柱状物48を複数備えており、液体試料29が柱状物48にぶつかることにより、攪拌・混合が促進される。
【0097】
図16〜図20に示した各構成(攪拌補助手段)については、1つのみを採用してもよいし、複数を組み合わせて採用してもよい。
【0098】
上記した実施形態では、マイクロ流体デバイス1個に対して1個の全体流路6が設けられているが、全体流路6の数については特に限定はなく、2個以上でもよい。
【0099】
また上記したマイクロ流体デバイス1,51、全体流路6、気体導入部7、気体移動流路8、試料導入部10、試料移動流路(マイクロ流路)11、光学セル12等のサイズについては、これらに限定されるものではなく、全体流路6の数、試料移動流路(マイクロ流路)11のサイズ、液体試料29の量、血球溶解物等含有試薬26の量、発光用試薬27の量、光学セル12のサイズ等によって適宜設定することができる。
【0100】
マイクロ流体デバイス1と発光検出器36とを組み合わせることにより、エンドトキシン検出システム(微生物夾雑物検出システム)40を構築することができる(図11)。エンドトキシン検出システム40を用いることにより、エンドトキシンの検出をより簡便・迅速に行うことができる。
【0101】
上記した実施形態では、ルシフェリンとルシフェラーゼの組み合わせによる生物発光を利用しているが、他の生物発光・化学発光の系を利用してもよい。例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドとルミノール、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドとイソルミノール、ペルオキシダーゼとルミノール、ペルオキシダーゼとイソルミノール、などの各組み合わせによる生物発光・化学発光を利用することができる。
【0102】
上記した実施形態では、微生物夾雑物としてエンドトキシンを検出する例を示したが、βグルカンやペプチドグリカンの検出も同様の実施形態をもって検出することができる。
【0103】
上記した実施形態では、血球溶解物等含有試薬26に含まれる血球溶解物としてカブトガニの血球抽出成分(LAL)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、生体由来成分から単離精製されたファクターC等(ファクターC、ファクターG、凝固酵素等)や遺伝子組換え技術によって作製された組換えファクターC等を適宜使用して作製した「LALの同等物」を用いることができる。また、βグルカンあるいはペプチドグリカン測定用として、血球溶解物に代えてカイコの体液抽出成分を使用することができる。カイコの体液抽出成分についても、生体由来成分から単離精製されたフェノール酸化酵素や組換え型のフェノール酸化酵素を用いて作製した「カイコの体液抽出成分の同等物」を用いることができる。
【0104】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0105】
図1に示すマイクロ流体デバイス1を用い、図8、図9に示す手順で液体試料中のエンドトキシン検出を行った。マイクロ流体デバイス1の基板本体2として、縦20mm×横150mm×厚み5mmのアクリル基板を用い、切削加工により全体流路6を形成して作製した。試料移動流路(マイクロ流路)11の断面形状は、縦横比1:1の正方形とした。縦(深さ)と横(幅)の長さについては、1mm四方、3mm四方、4.7mm四方の3種類とした。
【0106】
リムルス試薬(LAL)、エンドトキシン標準液(大腸菌0111:B4由来エンドトキシン)、およびパイロジェンフリー水は、エンドトキシン測定試薬QCL−1000(ロンザ社)に付属のものを使用した。べンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリン(発光合成基質)とルシフェラーゼ(発光酵素)は、Proteasome-GloTM Assay(プロメガ社)に付属のものを使用した。
【0107】
液体試料として、0.05EU/mLのエンドトキシン溶液を調製して用いた。液体試料の導入量(体積)は、液体試料の液滴が略立方体となる量、すなわち、1mm四方の流路に対して1μL、3mm四方の流路に対して27μL、4.7mm四方の流路に対して100μLとした。
【0108】
光応答性ガス発生フィルム3は、アクリル系のバインダー樹脂にアゾ化合物を加え、これをPETフィルムに塗工することにより作製した。
保護層5は、PETフィルムに粘着材を塗工することにより作製した。
【0109】
血球溶解物等含有試薬26として、2μLのリムルス試薬を用いた。発光合成基質23として、2μLの150μM べンゾイル−Leu−Arg−Arg−アミノルシフェリン溶液(1mM MgClを含む100mM Tris−Cl(pH8.0)に溶解)を用いた。発光用試薬27として、10μM ATPを含むルシフェラーゼ(0.1mM MgClと20mMCaCl2を含む10mM Tris−Cl(pH7.5)に溶解)混合溶液2μLを用いた。血球溶解物等含有試薬26を第一領域22に、発光合成基質23を第二領域23に、発光用試薬27を光学セル12にそれぞれ置き、凍結乾燥させた。
【0110】
試料導入口21から液体試料を導入し、試料導入口21をカバーテープ33で塞いだ。光応答性ガス発生フィルム3に紫外線を照射して気体を発生させ、気体導入口20から気体を導入し、液体試料の移動を開始した。液体試料を第一領域22に到達させて血球溶解物等含有試薬26を溶解し、37℃で5分間保持した(凝固酵素の活性化反応)。
再び気体導入口20から気体を導入し、液体試料を移動させた。液体試料を第二領域23に到達させて発光合成基質23を溶解し、37℃で2分間保持した(ルシフェリン遊離反応)。
再び気体導入口20から気体を導入し、液体試料を移動させた。液体試料を光学セル12に到達させて発光用試薬27を溶解した(発光反応)。速やかに、その発光強度を顕微鏡下(M165 ライカ社)でCCDカメラ(AxioCam HRm、カールザイス社)を用いて観察し、各流路によるにおける反応物の発光強度を定性的に比較した。
【0111】
〔比較例〕
比較例として試験管を用いてエンドトキシン測定を行った。試験管に設置された乾燥LAL試薬(リムルスHS-Jシングルテストワコー、和光純薬社)に液体試料(0.05EU/mL)1000μL加えた。37℃で5分間反応させた後、1.65mMの発光合成基質を100μL添加し、2分間反応させた。その後、100μLの発光試薬(ルシフェーラーゼ及びATPを含む)を添加し、顕微鏡下で発光強度を観察した。
【0112】
その結果、流路断面が1mm四方の場合に最も強い発光が観察された(評価A)。流路断面が3mm四方の場合には、発光強度が少し低下した(評価B)。流路断面が4.7mm四方の場合と比較例の場合には、発光強度がかなり低くなった(評価C)。
【符号の説明】
【0113】
1 マイクロ流体デバイス
3 光応答性ガス発生フィルム(気体供給手段)
10 試料導入部(マイクロ流路)
11 試料移動流路(マイクロ流路)
12 光学セル
16 開放端(駆動源接続口)
20 気体導入口(駆動源接続口)
21 試料導入口
22 第一領域
23 第二領域
25 第三領域
26 血球溶解物等含有試薬
27 発光用試薬
28 発光合成基質
29 液体試料
36 発光検出器
40 エンドトキシン検出システム(微生物夾雑物検出システム)
42 試料導入ライン(試料導入口)
45 屈折部分
46 分岐点
47 合流点
48 柱状物(障害物)
51 マイクロ流体デバイス
52 第一気体導入口(駆動源接続口)
53 第二気体導入口(駆動源接続口)
55 第三気体導入口(駆動源接続口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を血球溶解物又は昆虫の体液由来成分に接触させて液体試料中の微生物夾雑物と血球溶解物又は昆虫の体液由来成分とを反応させ、液体試料中における微生物夾雑物の存在又は量を決定するためのマイクロ流体デバイスであって、
試料導入口と、光学セルと、前記試料導入口と前記光学セルを連通するマイクロ流路とを備え、
試料導入口から導入された液体試料は、マイクロ流路を通って光学セルへ到達可能であり、
マイクロ流路内には、血球溶解物又は昆虫の体液由来成分を少なくとも含有する血球溶解物等含有試薬が配置され、
マイクロ流路内又は光学セル内には、所定の基質と反応して生物発光又は化学発光を発生させる発光用試薬が配置され、
試料導入口から導入された液体試料がマイクロ流路を通って光学セルに到達する際に、液体試料が前記血球溶解物等含有試薬と前記発光用試薬に接触してこれらを溶解し、当該溶解物が発する生物発光又は化学発光を前記光学セルにて検出可能であることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
血球溶解物等含有試薬の下流側に発光用試薬が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
発光用試薬は、光学セル内に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
マイクロ流路内の第一領域に、血球溶解物等含有試薬が配置され、
マイクロ流路内であって第一領域の下流側にある第二領域に、発光基質を遊離する発光合成基質が配置され、
マイクロ流路内であって第二領域の下流側にある第三領域又は光学セル内に、発光用試薬が配置され、
発光用試薬には前記発光基質と反応する発光酵素が含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
血球溶解物等含有試薬には発光基質を遊離する発光合成基質が混合されており、発光用試薬には前記発光基質と反応する発光酵素が含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
発光合成基質はルシフェリン又はその誘導体を遊離可能なものであり、発光酵素はルシフェラーゼであることを特徴とする請求項4又は5に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
微生物夾雑物は、エンドトキシン、βグルカン、又はペプチドグリカンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
血球溶解物は、カブトガニの血球抽出成分であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
昆虫の体液由来成分は、カイコの体液抽出成分であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
マイクロ流路の断面形状は、縦横比1:4から4:1の略四角形であり、断面積が1mm2以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
マイクロ流路には、導入された液体試料の攪拌を補助する攪拌補助手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
攪拌補助手段は、流路の屈折、流路の分岐及び合流、流路断面積の変化、流路内面の粗面化、及び障害物の設置からなる群より選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項11に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
平板状であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
マイクロ流路には、マイクロ流路内を液体試料が移動するための駆動源が接続される駆動源接続口が設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
気体供給手段をさらに備え、駆動源接続口からマイクロ流路に気体を供給可能であることを特徴とする請求項14に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
駆動源接続口を複数備え、複数の箇所からマイクロ流路に気体を供給可能であることを特徴とする請求項15に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
気体供給手段は、光応答性ガス発生材からなることを特徴とする請求項15又は16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
光応答性ガス発生材はフィルム状又はテープ状であり、駆動源接続口に貼付されていることを特徴とする請求項17に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスと、発光検出器を備えたことを特徴とする微生物夾雑物検出システム。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスを用いて液体試料中の微生物夾雑物の存在又は量を決定することを特徴とする微生物夾雑物の検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−132879(P2012−132879A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287397(P2010−287397)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】