説明

マイクロ流体素子、マイクロ流体素子を用いた分析方法及びマイクロ流体素子の製造方法

【課題】 第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることができ、フローサイトメトリー等に好適に用いることができるマイクロ流体素子を提供する。
【解決手段】 主流路102と、主流路102に第1の流体供給流路104を介して連通し、重力を用いて主流路102に第1の流体を供給するための第1の供給口108と、主流路102に第2の流体供給流路106,106を介して連通し、重力を用いて主流路102に第2の流体を供給するための第2供給口110,110を含む流体回路100を有するマイクロ流体素子10であって、
流体回路100は、第1の供給口108と第2の供給口110,110との高低差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路104から絞られた状態で主流路102に供給するように構成されていることを特徴とするマイクロ流体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体素子、マイクロ流体素子を用いた分析方法及びマイクロ流体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療分野においては、赤血球、白血球、血小板、CD4陽性Tリンパ球などの数を測定したり、各種のたんぱく質、ホルモン、抗原抗体などのさまざまなパラメータを測定したりするために、血球測定器、顕微鏡、フローサイトメーターなどの大掛かりで高価な分析装置が用いられている。
このため、これらの測定を従来より安価、迅速、高感度に行うために、また、分析サンプルや試薬の量を大幅に低減するために、μ−TAS(マイクロ/微細トータル分析システム)を用いることが検討され、このμ−TASを実現するためのマイクロ流体素子が従来より提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図11は、特許文献1に開示された従来のマイクロ流体素子を説明するために示す図である。従来のマイクロ流体素子900は、図11に示すように、主流路905と、主流路905に連通し、粒子912,913を含有する第1の流体909を主流路905に供給するための第1の流体供給流路902と、第1の流体供給流路902の両側面側から主流路905に連通し第2の流体910,911を主流路905に供給するための2本の第2の流体供給流路903,904とを含む流体回路901を有している。
このため、従来のマイクロ流体素子900によれば、第1の流体供給流路902及び第2の流体供給流路903,904の流量を制御することによって、第1の流体909に含有される粒子912,913を1個ずつ主流路の断面を通過させることができ、フローサイトメトリーに好適に用いることができる。
また、従来のマイクロ流体素子900によれば、主流路905の一方の側面に磁石908を配置することにより、粒子912,913のうち磁性染色された粒子912と磁性染色されていない粒子913とを分離することができ、これらの粒子912,913をその後の種々の分析に好適に用いることができるようになる。
【0004】
【特許文献1】特表2002−503334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のマイクロ流体素子900においては、第1の流体として少量の粒子を含む流体を用いた場合には、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることができるが、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合には、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが困難となるという問題があった。また、従来のマイクロ流体素子900においては、第1の流体や第2の流体を主流路に供給するためにマイクロシリンジなどのような複雑な駆動機構(特許文献1の図4参照。)が必要であるという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易なマイクロ流体素子を提供することを第1の目的とする。
また、第1の流体や第2の流体を主流路に供給するための複雑な駆動機構を必要としないマイクロ流体素子を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく鋭意努力を重ねた結果、ア)流体回路として、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するように構成されている流体回路を用いたり、イ)第1の流体供給流路として、主流路の断面積よりも小さい断面積を有する流体供給流路を用いたりすることにより、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易になることを見出し、本発明の第1の目的が達成されるに至った。
また、流体回路として、重力を用いて第1の流体及び第2の流体を主流路に供給する流体回路を用いたため、第1の流体や第2の流体を主流路に供給するための複雑な駆動機構を不要にできることを見出し、本発明の第2の目的が達成されるに至った。
【0008】
(1)本発明のマイクロ流体素子は、主流路と、この主流路に第1の流体供給流路を介して連通し、重力を用いて前記主流路に第1の流体を供給するための第1の流体溜と、前記主流路に第2の流体供給流路を介して連通し、重力を用いて前記主流路に第2の流体を供給するための第2の流体溜とを含む流体回路を有するマイクロ流体素子であって、前記流体回路は、前記第1の流体溜と前記第2の流体溜との高低差又は容量差を用いて、前記第1の流体供給流路においてよりも細く絞られた状態で前記第1の流体を前記主流路に供給するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
このため、本発明のマイクロ流体素子によれば、流体回路として、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するように構成されている流体回路を用いることとしたため、第1の流体に含まれる粒子は主流路中で分散され易くなる。その結果、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易になり、本発明の第1の目的が達成される。
また、本発明のマイクロ流体素子によれば、流体回路として、重力を用いて第1の流体及び第2の流体を主流路に供給する流体回路を用いたため、第1の流体や第2の流体を主流路に供給するための複雑な駆動機構を不要にすることができ、本発明の第2の目的が達成される。
【0010】
本発明のマイクロ流体素子においては、第1の流体溜及び第2の流体溜を主流路と同じ平面内に設けることができる。この場合、マイクロ流体素子を傾けて配置したり垂直に立てて配置したりすることによって、第1の流体溜や第2の流体溜を主流路よりも高い位置に配置することができるため、第1の流体溜や第2の流体溜が重力を用いて主流路に第1の流体や第2の流体を供給することができるようになる。
【0011】
この場合、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するために、第1の流体溜と第2の流体溜との高低差を用いる場合には、第2の流体溜を第1の流体溜よりも高い位置に配置することが好ましい。これによって、より多量の第2の流体が主流路に供給されるようになるため、第1の流体を第1の流体供給流路からさらに細く絞られた状態で主流路に供給することができるようになる。
一方、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するために、第1の流体溜と第2の流体溜との容量差を用いる場合には、第2の流体溜の容量を第1の流体溜の容量よりも大きくすることが好ましい。これによって、より多量の第2の流体が主流路に供給されるようになるため、第1の流体を第1の流体供給流路からさらに細く絞られた状態で主流路に供給することができるようになる。
【0012】
本発明のマイクロ流体素子においては、第1の流体溜及び第2の流体溜を、第1の流体供給流路に第1のキャピラリを接続し、第2の流体供給流路に第2のキャピラリを接続することによって形成することができる。この場合、第1のキャピラリの流体面及び第2のキャピラリの流体面を主流路よりも高い位置に配置することによって、第1の流体溜や第2の流体溜が重力を用いて主流路に第1の流体や第2の流体を供給することができるようになる。第1のキャピラリや第2のキャピラリの上流側端部には第1の流体を溜めるための流体溜や第2の流体を溜めるための流体溜が設けられてもよい。
【0013】
この場合、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するために、第1の流体溜と第2の流体溜との高低差を用いる場合には、第2のキャピラリにおける流体面を第1のキャピラリにおける流体面よりも高い位置に配置することが好ましい。これによって、より多量の第2の流体が主流路に供給されるようになるため、第1の流体を第1の流体供給流路からさらに細く絞られた状態で主流路に供給することができるようになる。
一方、第1の流体を第1の流体供給流路から絞られた状態で主流路に供給するために、第1の流体溜と第2の流体溜との容量差を用いる場合には、第2のキャピラリの容量を第1のキャピラリの容量よりも大きくすることが好ましい。これによって、より多量の第2の流体が主流路に供給されるようになるため、第1の流体を第1の流体供給流路からさらに細く絞られた状態で主流路に供給することができるようになる。
【0014】
(2)上記(1)に記載のマイクロ流体素子においては、前記第1の流体供給流路は、前記主流路の断面積よりも小さい断面積を有することが好ましい。
このように構成することにより、主流路において第1の流体をさらに細く絞ることが容易になるため、第1の流体に含まれる粒子は主流路中でさらに分散され易くなる。このため、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)に記載のマイクロ流体素子においては、前記主流路に供給される前記第2の流体の流量は、前記主流路に供給される前記第1の流体の流量よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。
このように構成することにより、より多量の第2の流体が主流路に供給されることにより、主流路において第1の流体をさらに細く絞ることが容易になるため、第1の流体に含まれる粒子は主流路中でさらに分散され易くなる。このため、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロ流体素子においては、前記第2の流体供給流路は、前記第1の流体供給流路の両側面側から前記主流路に連通する2本の流体供給流路であることが好ましい。
このように構成することにより、第1の流体は、第1の流体供給流路の両側面側から主流路に供給される2本の第2の流体の流れに挟まれて効率よく細く絞られることとなるため、第1の流体に含まれる粒子がさらに分散され易くなる。このため、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0017】
(5)上記(4)に記載のマイクロ流体素子においては、前記流体回路は、前記主流路の前記第2の流体供給流路と連通する側面とは異なる側面から前記主流路に連通し、前記主流路に前記第2の流体をさらに供給するための2本の第3の流体供給流路をさらに含むことが好ましい。
このように構成することにより、2本の第3の流体供給流路から供給される第2の流体の流れによって、第1の流体に含まれる粒子がさらに分散され易くなる。このため、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合に、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0018】
(6)本発明のマイクロ流体素子は、主流路と、この主流路に連通し、前記主流路の断面積よりも小さい断面積を有し、前記主流路に第1の流体を供給するための第1の流体供給流路と、前記第1の流体供給流路の両側面側から前記主流路に連通し、前記主流路に第2の流体を供給するための2本の第2の流体供給流路とを含む流体回路を有することを特徴とする。
このため、本発明のマイクロ流体素子によれば、第1の流体供給流路として、主流路の断面積よりも小さい断面積を有する流体供給流路を用いることとしたため、第1の流体に含有される粒子は主流路中で分散され易くなる。その結果、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易になり、本発明の第1の目的が達成される。
【0019】
上記(6)に記載のマイクロ流体素子においては、前記第1の流体供給流路は、前記主流路の断面積の2/3以下の断面積を有することが好ましい。
このように構成することにより、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
この観点からいえば、第1の流体供給流路は、主流路の断面積の1/3以下の断面積を有することがより好ましい。
【0020】
(7)上記(6)に記載のマイクロ流体素子においては、前記マイクロ流体素子は、使用状態において、重力又は遠心力により前記第1の流体及び前記第2の流体が前記主流路に供給されるように構成されていることが好ましい。
このように構成することにより、第1の流体や第2の流体を移動させるための複雑な駆動機構を不要にすることができ、本発明の第2の目的が達成される。
【0021】
(8)上記(6)に記載のマイクロ流体素子においては、前記マイクロ流体素子は、前記第2の流体を加圧する加圧手段をさらに有し、この加圧手段により前記第1の流体及び前記第2の流体が前記主流路に供給されるように構成されていることが好ましい。
このように構成することによっても、第1の流体や第2の流体を移動させるための複雑な駆動機構を不要にすることができ、本発明の第2の目的が達成される。
この場合、加圧手段としては、加圧により第2の流体溜の容積を減少させるように構成された加圧手段を好適に用いることができる。
【0022】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のマイクロ流体素子においては、前記主流路の下流側端部には、流体の排出口、流体のリザーバ又は流体の吸引手段が設けられていることが好ましい。
このように構成することにより、主流路から流体が円滑に排出され、主流路中における流体の円滑な流れを形成することができる。
【0023】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のマイクロ流体素子においては、前記流体回路には、前記第2の流体が予め充填されていることが好ましい。
このように構成することにより、第1の流体供給流路に第1の流体を供給することにより、すぐに第1の流体に含まれる粒子の分析を始めることができる。また、流体回路中に入り込んで欲しくない気泡の入り込みを極力排除することができる。
【0024】
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のマイクロ流体素子においては、前記第1の流体供給流路の幅及び深さはともに200μm以下であることが好ましい。
このように構成することにより、種々の用途に用いられるμ−TASを好適に実現することができる。
【0025】
(12)上記(1)又は(6)に記載のマイクロ流体素子においては、前記マイクロ流体素子は、基板と、この基板の上方に形成され前記流体回路を含む流体回路形成層と、この流体回路形成層の上方に形成された被覆層とを有することが好ましい。
【0026】
(13)上記(1)又は(6)に記載のマイクロ流体素子においては、前記マイクロ流体素子は、表面に前記流体回路を含む基板と、この基板の上方に形成された被覆層とを有することが好ましい。
【0027】
このため、上記(12)又は(13)に記載した本発明のマイクロ流体素子によれば、上記(1)又は(6)に記載された効果を有するマイクロ流体素子を基板を用いて構成することができるため、製造し易く、かつ、使用し易いマイクロ流体素子となる。
【0028】
(14)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロ流体素子においては、前記第2の流体供給流路は、前記第1の流体供給流路の周囲から前記主流路に連通する流体供給流路であることが好ましい。
このように構成することにより、第1の流体は、第1の流体供給流路の周囲から主流路に供給される第2の流体の流れに挟まれて効率よく細く絞られることとなるため、第1の流体に含まれる粒子がさらに分散され易くなる。このため、上記(4)又は(5)に記載のマイクロ流体素子の場合と同様に、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0029】
(15)本発明のマイクロ流体素子を用いた分析方法は、上記(1)〜(14)のいずれかに記載のマイクロ流体素子を用いて、前記主流路を流れる第1の流体中に含まれる所定の粒子の数又はパラメータを測定することを特徴とする。
【0030】
このため、本発明のマイクロ流体素子を用いた分析方法によれば、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易になり、主流路を流れる第1の流体中に含まれる所定の粒子の数及び/又はパラメータを迅速に精度よく測定することが可能になる。
【0031】
(16)上記(15)に記載のマイクロ流体素子を用いた分析方法においては、前記第1の流体として、血液、血液を含む液体又は細胞を含む液体を用いることが好ましい。
このような方法とすることにより、血液中に含まれる粒子(例えば、赤血球、白血球、血小板、CD4陽性Tリンパ球など。)や液体に含まれる細胞の数や各種パラメータ(例えば、形状、大きさ、変形能、色、吸収スペクトル、蛍光スペクトル、磁性など。)についての分析を従来より安価、迅速、高感度に、かつ、分析サンプルや試薬の量を従来より大幅に低減した状態で行うことが可能になる。
【0032】
(17)上記(16)に記載のマイクロ流体素子を用いた分析方法においては、前記第2の流体として、生理食塩水又は緩衝溶液を用いることが好ましい。
このような方法とすることにより、第1の流体に含まれる粒子に与える影響を極力少なくすることができる。
【0033】
(18)本発明のマイクロ流体素子の製造方法は、上記(12)に記載のマイクロ流体素子を製造するための方法であって、前記基板の上方に樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層に前記流体回路に対応する溝を形成して前記流体回路形成層とする工程と、前記流体回路形成層の上方に被覆層を形成する工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0034】
(19)本発明のマイクロ流体素子の製造方法は、上記(13)に記載のマイクロ流体素子を製造するための方法であって、前記基板の表面に前記流体回路に対応する溝を形成する工程と、前記基板の上方に被覆層を形成する工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0035】
このため、上記(18)又は(19)に記載した本発明のマイクロ流体素子の製造方法によれば、上記(1)又は(6)に記載のマイクロ流体素子を、公知の平板基板加工プロセスを用いることによって、容易に製造することができる。
【0036】
(20)上記(18)又は(19)に記載のマイクロ流体素子の製造方法においては、前記基板の裏面側に裏面層を形成する工程と、前記被覆層を形成する工程の前に、前記第1の流体供給流路の上流側端部、前記第2の流体供給流路の上流側端部及び前記主流路の下流側端部に貫通孔を形成する工程とをさらに含み、前記貫通孔を形成する工程の後に、前記被覆層を形成する工程を実施することにより、前記貫通孔を、前記第1の流体を供給するための第1の供給口、前記第2の流体を供給するための第2の供給口及び流体を排出するための流体の排出口とすることが好ましい。
このような方法とすることにより、第1の流体供給流路における第1の供給口、第2の流体供給流路における第2の供給口及び主流路における流体の排出口を、比較的簡単な方法で製造することができる。
この場合、裏面層として、有機樹脂を用いることによって、第1の供給口、第2の供給口及び排出口にマイクロシリンジを刺し入れたりキャピラリを挿入したりすることが容易にできるようになり、第1の流体及び第2の流体の供給並びに流体の排出を円滑に行うことが可能になる。
【0037】
(21)上記(20)に記載のマイクロ流体素子の製造方法においては、前記被覆層を形成する工程の後に、前記第1の流体供給流路、前記第2の流体供給流路及び前記主流路並びに前記第1の供給口、前記第2の供給口及び前記流体の排出口に前記第2の流体を充填した状態で、前記第1の供給口、前記第2の供給口及び前記流体の排出口の開口部をテープ部材で塞ぐ工程をさらに備えることが好ましい。
このような方法とすることにより、マイクロ流体素子の使用状態において、第2の供給口に充填されている第2の流体を適宜第1の流体に置き換えるとともに、第1の供給口、第2の供給口及び流体の排出口の開口部を塞いでいるテープ部材に空気孔を開けることにより、マイクロ流体素子における良好な流体の流れを実現することができるため、臨床検査現場でマイクロ流体素子を容易に使用することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明のマイクロ流体素子、マイクロ流体素子を用いた分析方法及びマイクロ流体素子の製造方法を、図に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0039】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。図1(a)は実施形態1に係るマイクロ流体素子を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は実施形態1に係るマイクロ流体素子を模式的に示す平面図であり、図1(c)は図1(b)のA−A断面における断面図である。
図2は、実施形態1に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。図2(a)は実施形態1に係るマイクロ流体素子における流体回路部分の平面図であり、図2(b)は図2(a)のB−B断面における断面図である。
【0040】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10は、図1及び図2に示すように、カバーガラスからなる基板20と、基板20上に形成された熱硬化性のポリイミド樹脂(ニッカン工業社製ニカフレックス)からなり流体回路を有する流体回路形成層30と、流体回路形成層30上に形成された熱硬化性のポリイミド樹脂(同上)からなる被覆層40と、基板20の裏面側に形成された透明樹脂(同上)からなる裏面層50とを有する。基板20の厚さは230μm、流体回路形成層30の厚さは45μm、被覆層40の厚さは45μm、裏面層50の厚さは90μmである。流体回路100は、流体回路形成層30を構成するポリイミド樹脂にレーザ加工法によって溝(溝の深さは45μm)を掘ることにより形成されている。
【0041】
流体回路100は、図1及び図2に示すように、主流路102と、主流路102に第1の流体供給流路104を介して連通し、重力を用いて主流路102に第1の流体を供給するための第1の流体溜としての第1の供給口108と、主流路102に第2の流体供給流路106を介して連通し、重力を用いて主流路102に第2の流体を供給するための第2の流体溜としての第2の供給口110,110とを含んでいる。
【0042】
図3は、実施形態1に係るマイクロ流体素子の使用方法を説明するために示す図である。図3(a)は使用方法1を説明するために示す図であり、図3(b)は使用方法2を説明するために示す図である。使用方法1は、マイクロ流体素子を垂直に立てることによって、第1の流体及び第2の流体を主流路に供給するようにした使用方法であり、使用方法2は、キャピラリをマイクロ流体素子に接続し、これらのキャピラリにおける各流体面をマイクロ流体素子よりも高い位置に配置することによって、第1の流体及び第2の流体を主流路に供給するようにした使用方法である。
【0043】
流体回路100は、使用方法1においては、図1(a)及び図3(a)に示すように、第1の流体溜としての第1の供給口108と第2の流体溜としての第2の供給口110,110との高低差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路102から絞られた状態で主流路102に供給することとしている。
また、流体回路100は、使用方法2においては、図1(a)及び図3(b)に示すように、第1の流体供給流路104に第1の供給口108を介して第1のキャピラリ116を接続し、第2の流体供給流路106,106に第2の供給口110,110を介して第2のキャピラリ118,118を接続することによって第1の流体溜及び第2の流体溜を形成し、第1のキャピラリ116における流体面と第2のキャピラリ118,118における流体面との高低差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路104から絞られた状態で主流路102に供給することとしている。
【0044】
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、図3(a)及び図3(b)に示すように、流体回路として、第1の流体溜と第2の流体溜との高低差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路104から絞られた状態で第1の流体を主流路102に供給するように構成された流体回路100を用いているため、第1の流体に含まれる粒子は主流路102中で分散され易くなる。このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路104の断面を通過させることが容易になる。
また、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、流体回路として、重力を用いて第1の流体及び第2の流体を主流路102に供給する流体回路100を用いているため、第1の流体や第2の流体を主流路102に供給するための複雑な駆動機構を不要にすることができる。
【0045】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図1(a)に示すように、第1の供給口108及び第2の供給口110,110は主流路102と同じ平面内に設けられている。
従って、実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、このマイクロ流体素子10を傾けて配置したり垂直に立てて配置(図3(a)参照、)したりすることによって、第1の流体溜としての第1の供給口108や第2の流体溜としての第2の供給口110,110を主流路102よりも高い位置に配置することとしている。このため、第1の流体や第2の流体は重力によって主流路102に供給されるようになる。
【0046】
また、実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図3(b)に示すように、
第1の流体供給流路104に第1の供給口108を介して第1のキャピラリ116を接続し、第2の流体供給流路106,106に第2の供給口110,110を介して第2のキャピラリ118,118を接続することによって第1の流体溜及び第2の流体溜を形成し、第1のキャピラリ116の流体面及び第2のキャピラリ118,118の流体面を主流路102よりも高い位置に配置することとしている。このため、第1の流体や第2の流体は重力によって主流路102に供給されるようになる。
【0047】
上記したように、実施形態1に係るマイクロ流体素子10は、図3(a)又は図3(b)に示すように、重力により第1の流体及び第2の流体が主流路102に供給されるように構成されている。
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、第1の流体や第2の流体を移動させるための複雑な駆動機構を不要にすることができる。
【0048】
図3に示すように、第1の供給口108、第2の供給口110,110、第1のキャピラリ116及び第2のキャピラリ118,118への流体の供給は、例えば、マイクロシリンジSを用いることができる。
また、図3(a)に示すように、マイクロ流体素子10の使用前には、第1の供給口108、第2の供給口110,110及び排出口112にはテープ部材114を貼り付けておき、マイクロ流体素子10を使用する際には、これらのテープ部材114を剥がしたり、これらのテープ部材114にニードルNで孔を開けたりすることも好ましい。これにより、第1の供給口108や第2の供給口110,110にマイクロシリンジを用いて第1の流体や第2の流体を容易に供給することができるようになる。また、主流路102から流体を円滑に排出させることができるようになり、主流路102中における流体の円滑な流れを形成することができるようになる。
なお、実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、主流路102からの流体を吸引する手段(例えばマイクロシリンジなど)を設けたり、排出口の容量を大きくして流体のリザーバとしたりすることも好ましい。これによっても、主流路102から流体が円滑に排出され、主流路102中における流体の円滑な流れを形成することができる。
また、図3(b)において、第1のキャピラリ116及び第2のキャピラリ118として、柔軟性のあるキャピラリを用いることもできる。
【0049】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、マイクロ流体素子10を傾ける角度や第1の流体供給流路104及び第2の流体供給流路106に接続されるキャピラリの高さなどを変化させることにより、主流路102を流れる第1の流体の流れ方や第1の流体に含まれる粒子の分離のされ方を制御することができる。
【0050】
主流路102は、図2(a)に示すように、45μmの深さ、150μmの横幅、約20mmの流路長を有するとともに、直線状の平面形状を有している。第1の流体供給流路104は、45μmの深さ、50μmの横幅、約20mmの流路長を有するとともに、直線状の平面形状を有している。第2の流体供給流路106は、45μmの深さ、50μmの横幅、約33mmの流路長を有するとともに、途中で折れ曲がった平面形状を有している。
第1の流体供給流路104と主流路102とは直線状に配置されている。2本の第2の流体供給流路106,106は、主流路102に対してそれぞれが45度の角度(±45度)で連通している。
【0051】
流体回路100は、図1(a)及び図2(a)に示すように、主流路102の下流側端部に形成された流体の排出口112をさらに含んでいる。
この流体の排出口112は、320μmの深さ及び600μmの直径を有している。また、上記した第1の供給口108は、320μmの深さ及び600μmの直径を有しており、上記した第2の供給口110,110は、320μmの深さ及び600μmの直径を有している。
【0052】
図4は、実施形態1に係るマイクロ流体素子の部分断面図である。図4(a)は図2のB−Bに沿った部分断面図であり、図4(b)は図2のB−Bに沿った部分断面図であり、図4(c)は図2のB−Bに沿った部分断面図であり、図4(d)は図2のB−Bに沿った部分断面図である。
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図4(a)〜図4(d)に示すように、第1の流体供給流路104は、主流路102の断面積(6750平方マイクロメートル)よりも小さい断面積(2250平方マイクロメートル(主流路102の断面積の1/3である。))を有する。
【0053】
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、第1の流体供給流路104が主流路102の断面積よりも小さい断面積を有するため、主流路102において第1の流体をさらに細く絞ることが容易になる。このため、第1の流体として粒子を含む流体を用いた場合に、第1の流体に含まれる粒子は主流路中で分散され易くなる。その結果、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102の断面を通過させることが容易になる。
【0054】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、主流路102に供給される第2の流体の流量は、主流路102に供給される第1の流体の流量よりも大きくなるように構成されている。
このため、より多量の第2の流体が主流路102に供給されることにより、主流路102において第1の流体をさらに細く絞ることが容易になるため、第1の流体に含まれる粒子は主流路102中でさらに分散され易くなる。その結果、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0055】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図1〜図4に示すように、第2の流体供給流路として、第1の流体供給流路104の両側面側から主流路102に連通する2本の流体供給流路106,106を用いている。
このため、第1の流体は、第1の流体供給流路104の両側面側から主流路102に供給される2本の第2の流体の流れに挟まれて効率よく細く絞られることとなるため、第1の流体に含まれる粒子がさらに分散され易くなる。その結果、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102の断面を通過させることがさらに容易になる。
【0056】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、主流路102中における第1の流体の流れは、主流路102に供給される第1の流体の供給量及び主流路102に供給される第2の流体の供給量によって制御可能である。
【0057】
図5は、実施形態1に係るマイクロ流体素子における第1の流体の流れを説明するために示す図である。図5(a)は流体回路の部分斜視図であり、図5(b)は流体回路を第1の流体が流れる様子を示す図であり、図5(c)は流体回路を第1の流体が流れる様子を示す別の図である。なお、図5(c)は図5(b)における符号Cで示される部分を拡大して示している。また、図5及び後述する図6においては、第1の流体としてヒトの血液を用い、第2の流体として生理食塩水を用いた場合を示している。
【0058】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図5(b)に示すように、主流路102中における第1の流体の流れを、第2の流体による2本のシース流で挟むことによって、細く絞られた流れとすることができる。
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、第2の流体の流量をさらに大きくする(又は第1の流体の流量をさらに少なくする)ことによって、主流路102中における第1の流体の流れをさらに細く絞られた流れとすることができる。この場合、図5(c)に示すように、赤血球が1個ずつ主流路102の断面を通過するような流れにすることも容易である。
【0059】
図6は、実施形態1に係るマイクロ流体素子10の使用状態における重力の影響を示す図である。図6(a)は実験No.1における血液の流れの様子を示す図であり、図6(b)は実験No.2における血液の流れの様子を示す図であり、図6(c)は実験No.3における血液の流れの様子を示す図である。
【0060】
実験No.1においては、表1に示すように、第1の流体供給流路104に接続された第1のキャピラリ116の高さを200mmとし、第2の流体供給流路106,106に接続されたキャピラリ118,118の高さを200mmとしている。実験No.2においては、第1の流体供給流路104に接続された第1のキャピラリ116の高さを200mmとし、第2の流体供給流路106,106に接続された第2のキャピラリ118,118の高さを300mmとしている。実験No.3においては、第1の流体供給流路104に接続された第1のキャピラリ116の高さを200mmとし、第2の流体供給流路106,106に接続された第2のキャピラリ118,118の高さを400mmとしている。
【0061】
【表1】

【0062】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図6(a)〜図6(c)に示すように、第2の流体供給流路106,106に接続される第2のキャピラリ118,118の高さを変化させることにより、主流路102を流れる第1の流体としての血液の流れ方や第1の流体に含まれる粒子としての赤血球の分離のされ方を制御することができる。そして、図6(c)に示すように、第1の流体供給流路104に接続された第1のキャピラリ116の高さを200mmとし、第2の流体供給流路106,106に接続された第2のキャピラリ118,118の高さを400mmとした場合には、血液に含まれる赤血球の1個1個がきれいに分離され、第1の流体として多量の粒子(赤血球)を含む血液を用いた場合にも、血液に含有される赤血球を1個ずつ主流路102の断面を通過させることができる。
【0063】
図7は、実施形態1に係るマイクロ流体素子の使用状態における重力の影響を示す図である。表1に示す実験No.毎に、血液の流速及び血液の流れ幅(横幅)を解析して一つのグラフにまとめたものである。図7において、血液の流速は、血液に含まれる赤血球が主流路を流れる速さを測定することにより求めた。また、血液の流れ幅は、血液が主流路を流れる様子を顕微鏡で撮影することにより求めた。
【0064】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、図7に示すように、第2の流体供給流路106,106に接続される第2のキャピラリ118,118の高さを変化させることにより、血液の流速や血液の流れ幅を制御することができる。
すなわち、第1の流体供給流路104に接続される第1のキャピラリ116の高さに比べて第2の流体供給流路106,106に接続される第2のキャピラリ1118,118の高さを高くすれば高くするほど、血液の流速を速くして血液の流れ幅を狭くすることができる。
なお、実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、第1の流体供給流路104に接続される第1のキャピラリ116の高さを変化させることによっても、血液の流速や血液の流れ幅を制御することができる。
【0065】
実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、流体回路100には、第2の流体が予め充填されている。
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子10によれば、第1の流体供給流路104に第1の流体を供給することにより、すぐに第1の流体に含まれる粒子の分析を始めることができる。また、流体回路100中に入り込んで欲しくない気泡の流体回路中への入り込みを極力排除することができる。
【0066】
図8は、実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法を説明するために示す図である。図8(a)は上記した使用方法1における分析方法を示し、図8(b)は上記した使用方法2における分析方法を示す。図8中、符号Mは光センサなどの分析装置を示す。
【0067】
実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法は、図8(a)又は図8(b)に示すように、実施形態1に係るマイクロ流体素子10を用いて、主流路102を流れる第1の流体中に含まれる所定の粒子の数又はパラメータを測定することとしている。
【0068】
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法によれば、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102の断面を通過させることが容易になり、主流路102を流れる第1の流体中に含まれる所定の粒子の数又はパラメータを迅速に精度よく測定することが可能になる。
【0069】
実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法においては、第1の流体として、例えば、血液、血液を含む液体又は細胞を含む液体を用いることができる。
このような方法とすることにより、血液中に含まれる粒子(例えば、赤血球、白血球、血小板、CD4陽性Tリンパ球など。)や液体中に含まれる細胞の数や各種パラメータ(例えば、形状、大きさ、変形能、色、吸収スペクトル、蛍光スペクトル、磁性など。)についての分析を、従来より安価、迅速、高感度に、かつ、極めて少ない分析サンプルや試薬を用いて行うことが可能になる。
【0070】
実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法においては、第2の流体として、生理食塩水又は緩衝溶液を用いることができる。
このような方法とすることにより、第1の流体(血液、血液を含む液体又は細胞を含む液体)に与える影響を極力少なくすることができる。
【0071】
図9は、実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法を示す図である。図9(a)〜図9(d)は、その工程図である。図9中、符号Lはレーザ加工装置を示し、符号Rはラミネート加工機のローラを示す。
【0072】
実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法は、実施形態1に係る上記したマイクロ流体素子10を製造するための方法である。そして、基板20の上方に樹脂層30aを形成する工程(図9(a)参照。)と、樹脂層30aに流体回路100に対応する溝を形成して流体回路形成層30を形成する工程(図9(b)参照。)と、流体回路形成層30の上方に被覆層40を形成する工程(図9(c)参照。)とをこの順序で含んでいる。
【0073】
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法によれば、実施形態1に係るマイクロ流体素子10を、公知の平板基板加工プロセスを用いることによって容易に製造することができる。
なお、実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法においては、流体回路形成層30を形成する工程において、レーザ加工装置(Exitech社製 PS2000(発振機はLAMBDA
PHYSIK社製 LPX200i-AK)Lを用いて波長248nmのパルスを繰り返し照射することにより、樹脂層30aに流体回路100に対応する溝を形成している(例えば、特開2002−283293号公報参照。)。
【0074】
実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法においては、基板20の裏面側に裏面層50を形成する工程(図9(a)参照。)と、被覆層40を形成する工程の前に、第1の流体供給流路104の上流側端部、2本の第2の流体供給流路106,106の上流側端部及び主流路102の下流側端部に貫通孔120を形成する工程(図1(a)及び図9(b)参照。)とをさらに含んでいる。そして、この貫通孔を形成する工程の後に、被覆層を形成する工程を実施することにより、貫通孔120を、第1の流体供給流路104における第1の供給口108、第2の流体供給流路106,106における第2の供給口110,110及び主流路102における流体の排出口112としている。
このため、実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法によれば、第1の流体供給流路104における第1の供給口108、第2の流体供給流路106,106における第2の供給口110,110及び主流路102における流体の排出口112を比較的簡単な方法で製造することができる。
【0075】
実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法においては、被覆層40を形成する工程の後に、第1の流体供給流路104、第2の流体供給流路106,106及び主流路102並びに第1の供給口108、第2の供給口110,110及び流体の排出口112に第2の流体を充填した状態で、第1の供給口108、第2の供給口110,110及び流体の排出口112の開口部をテープ部材114で塞ぐ工程をさらに備えることとしてもよい。
このような方法とすることにより、このマイクロ流体素子の使用状態において、第2の供給口110,110に充填されている第2の流体を適宜第1の流体に置き換えるとともに、第1の供給口108、第2の供給口110,110及び流体の排出口112の開口部を塞いでいるテープ部材114の一部に空気孔を開けることにより、このマイクロ流体素子における良好な流体の流れを実現することができる。このため、臨床検査現場でこのマイクロ流体素子をさらに容易に使用することができるようになる。
【0076】
なお、実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法においては、基板20に樹脂層30a及び裏面層50を形成したり被覆層40を形成したりするのには、ラミネート加工機(KOKUYO社製 KLM-HA110)を用いている(例えば、特開2002−283293号公報参照。)。
【0077】
[実施形態2]
図10は、実施形態2に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。図10(a)は、実施形態2に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図であり、図10(b)は、実施形態2の変形例に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。
【0078】
実施形態2に係るマイクロ流体素子10Bは、図10(a)に示すように、主流路102Bと、主流路102Bに連通し、主流路102Bの断面積よりも小さい断面積を有し、主流路102Bに第1の流体を供給するための第1の流体供給流路104Bと、第1の流体供給流路104Bの周囲から主流路102Bに連通し、主流路102Bに第2の流体を供給するための第2の流体供給流路106Bとを含む流体回路100Bを有している。
【0079】
このため、実施形態2に係るマイクロ流体素子10Bによれば、実施形態1に係るマイクロ流体素子10の場合と同様に、第1の流体供給流路として、主流路102Bの断面積よりも小さい断面積を有する第1の流体供給流路104Bを用いることとしたため、第1の流体に含まれる粒子は主流路102B中で分散され易くなる。このため、実施形態2に係るマイクロ流体素子10Bによれば、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102Bの断面を通過させることが容易になる。
【0080】
実施形態2の変形例に係るマイクロ流体素子10Cは、図10(b)に示すように、主流路102Cと、主流路102Cに連通し、主流路102Cの断面積よりも小さい断面積を有し、主流路102Cに第1の流体を供給するための第1の流体供給流路104Cと、第1の流体供給流路104Cの周囲から主流路102Cに連通し、主流路102Cに第2の流体を供給するための第2の流体供給流路106Cとを含む流体回路100Cを有している。
【0081】
このため、実施形態2の変形例に係るマイクロ流体素子10Cによっても、実施形態1に係るマイクロ流体素子10の場合と同様に、第1の流体供給流路として、主流路102Cの断面積よりも小さい断面積を有する第1の流体供給流路104Cを用いることとしたため、第1の流体に含まれる粒子は主流路102C中で分散され易くなる。このため、実施形態2も変形例に係るマイクロ流体素子10Cによれば、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路102Cの断面を通過させることが容易になる。
【0082】
以上、本発明のマイクロ流体素子、マイクロ流体素子を用いた分析方法及びマイクロ流体素子の製造方法を、上記した各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記した各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0083】
(1)実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、流体回路として、第1の流体溜と第2の流体溜との高低差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路104から絞られた状態で主流路102に供給するように構成されている流体回路100を用いたが、本発明はこれに限られず、流体回路として、第1の流体溜と第2の流体溜との容量差を用いて、第1の流体を第1の流体供給流路104から絞られた状態で主流路102に供給するように構成されている流体回路を用いてもよい。
これによっても、第1の流体に含まれる粒子は主流路中で分散され易くなるため、第1の流体として多量の粒子を含む流体を用いた場合にも、第1の流体に含有される粒子を1個ずつ主流路の断面を通過させることが容易になる。
【0084】
第1の流体溜と第2の流体溜との間で容量差をつけるには、図1(a)に示す第2の流体溜としての第2の供給口110,110の容量を第1の流体溜としての第1の供給口108の容量よりも大きくすればよい。この場合、第1の流体及び第2の流体を主流路に供給する駆動力として重力を用いることにより、第1の流体や第2の流体を主流路に供給するための複雑な駆動機構を不要にすることができるという効果も得られる。
【0085】
(2)実施形態1に係るマイクロ流体素子10は、流体回路100を、基板20の上方に形成された樹脂層30a(後に流体回路形成層30となる。)に形成しているが、本発明はこれに限られず、基板の表面に流体回路を形成するようにしてもよい。
【0086】
(3)実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法は、基板20の上方に樹脂層30aを形成する工程と、樹脂層30aに流体回路に対応する溝を形成して流体回路形成層30を形成する工程と、流体回路形成層30の上方に被覆層40を形成する工程とをこの順序で含む製造方法であるが、本発明はこれに限られず、基板の表面に流体回路に対応する溝を形成する工程と、溝が形成された基板の上方に被覆層を形成する工程とをこの順序で含む製造方法であってもよい。
【0087】
(4)実施形態1に係るマイクロ流体素子10においては、第2の流体供給流路として、第1の流体供給流路104の両側面側から主流路102に連通する2本の第2の流体供給流路106,106を用いているが、本発明はこれに限られず、第2の流体供給回路として、第2の流体供給流路106,106に加えて、主流路102の第2の流体供給流路106,106と連通する側面とは異なる側面から主流路102に連通するさらに2本又はそれ以上の第3の流体供給流路をさらに含むものとしてもよい。
【0088】
(5)実施形態1に係るマイクロ流体素子10は、重力により第1の流体及び第2の流体が主流路に供給されるように構成されているが、本発明は、加圧により第1の流体及び第2の流体が主流路に供給されるように構成されていてもよい。この場合、第1の供給口108及び第2の供給口110,110に対応する位置に加圧突起を設け、この加圧突起を押すことにより第1の流体及び第2の流体を主流路102に供給することができる。
【0089】
(6)実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法においては、第1の流体として多量の粒子(赤血球)を含有するヒトの血液を用いたが、本発明は、それには限られず、血液を含む液体や細胞を含む液体を用いることができる。さらには、第1の流体として、粒子を含まない流体を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施形態1に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。
【図2】実施形態1に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。
【図3】実施形態1に係るマイクロ流体素子の使用方法を説明するために示す図である。
【図4】実施形態1に係るマイクロ流体素子の部分断面図である。
【図5】実施形態1に係るマイクロ流体素子における第1の流体の流れを説明するために示す図である。
【図6】実施形態1に係るマイクロ流体素子の使用状態における重力の影響を示す図である。
【図7】実施形態1に係るマイクロ流体素子の使用状態における重力の影響を示す図である。
【図8】実施形態1に係るマイクロ流体素子を用いた分析方法を説明するために示す図である。
【図9】実施形態1に係るマイクロ流体素子の製造方法を示す図である。
【図10】実施形態2に係るマイクロ流体素子を説明するために示す図である。
【図11】従来のマイクロ流体素子を説明するために示す図である。
【符号の説明】
【0091】
10,10B,10C…マイクロ流体素子、20…基板、30…流体回路形成層、30a…樹脂層、40…被覆層、50…裏面層、100,100B,100C…流体回路、102,102B,102C…主流路、104,104B,104C…第1の流体供給流路、106,106B,106C…第2の流体供給流路、108…第1の供給口、110…第2の供給口、112…流体の排出口、114…テープ部材、116…第1のキャピラリ、118…第2のキャピラリ、900…従来のマイクロ流体素子、901…流体回路、902…第1の流体供給流路、903,904…第2の流体供給流路、905…主流路、906…第2の流体排出流路、907…第1の流体排出流路、908…磁石、909…第1の流体、910,911…第2の流体、912,913…粒子、L…レーザ加工装置、M…分析装置、N…ニードル、R…ラミネート加工機のローラ、S…マイクロシリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流路と、
この主流路に第1の流体供給流路を介して連通し、重力を用いて前記主流路に第1の流体を供給するための第1の流体溜と、
前記主流路に第2の流体供給流路を介して連通し、重力を用いて前記主流路に第2の流体を供給するための第2の流体溜とを含む流体回路を有するマイクロ流体素子であって、
前記流体回路は、前記第1の流体溜と前記第2の流体溜との高低差又は容量差を用いて、前記第1の流体を前記第1の流体供給流路から絞られた状態で前記主流路に供給するように構成されていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体素子において、
前記第1の流体供給流路は、前記主流路の断面積よりも小さい断面積を有することを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマイクロ流体素子において、
前記主流路に供給される前記第2の流体の流量は、前記主流路に供給される前記第1の流体の流量よりも大きくなるように構成されていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体素子において、
前記第2の流体供給流路は、前記第1の流体供給流路の両側面側から前記主流路に連通する2本の流体供給流路であることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項5】
請求項4に記載のマイクロ流体素子において、
前記流体回路は、前記主流路の前記第2の流体供給流路と連通する側面とは異なる側面から前記主流路に連通し、前記主流路に前記第2の流体をさらに供給するための2本の第3の流体供給流路をさらに含むことを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項6】
主流路と、
この主流路に連通し、前記主流路の断面積よりも小さい断面積を有し、前記主流路に第1の流体を供給するための第1の流体供給流路と、
前記第1の流体供給流路の両側面側から前記主流路に連通し、前記主流路に第2の流体を供給するための2本の第2の流体供給流路とを含む流体回路を有することを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロ流体素子において、
前記マイクロ流体素子は、使用状態において、重力又は遠心力により前記第1の流体及び前記第2の流体が前記主流路に供給されるように構成されていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項8】
請求項6に記載のマイクロ流体素子において、
前記マイクロ流体素子は、前記第2の流体を加圧する加圧手段をさらに有し、
この加圧手段により前記第1の流体及び前記第2の流体が前記主流路に供給されるように構成されていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロ流体素子において、
前記主流路の下流側端部には、流体の排出口、流体のリザーバ又は流体の吸引手段が設けられていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロ流体素子において、
前記流体回路には、前記第2の流体が予め充填されていることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のマイクロ流体素子において、
前記第1の流体供給流路の幅及び深さはともに200μm以下であることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項12】
請求項1又は6に記載のマイクロ流体素子において、
前記マイクロ流体素子は、基板と、この基板の上方に形成され前記流体回路を含む流体回路形成層と、この流体回路形成層の上方に形成された被覆層とを有することを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項13】
請求項1又は6に記載のマイクロ流体素子において、
前記マイクロ流体素子は、表面に前記流体回路を含む基板と、この基板の上方に形成された被覆層とを有することを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体素子において、
前記第2の流体供給流路は、前記第1の流体供給流路の周囲から前記主流路に連通する流体供給流路であることを特徴とするマイクロ流体素子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のマイクロ流体素子を用いて、前記主流路を流れる前記第1の流体中に含まれる所定の粒子の数又はパラメータを測定することを特徴とするマイクロ流体素子を用いた分析方法。
【請求項16】
請求項15に記載のマイクロ流体素子を用いた分析方法において、
前記第1の流体として、血液、血液を含む液体又は細胞を含む液体を用いることを特徴とするマイクロ流体素子を用いた分析方法。
【請求項17】
請求項16に記載のマイクロ流体素子を用いた分析方法において、
前記第2の流体として、生理食塩水又は緩衝溶液を用いることを特徴とするマイクロ流体素子を用いた分析方法。
【請求項18】
請求項12に記載のマイクロ流体素子を製造するための方法であって、
前記基板の上方に樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層に前記流体回路に対応する溝を形成して前記流体回路形成層とする工程と、
前記流体回路形成層の上方に被覆層を形成する工程とをこの順序で含むことを特徴とするマイクロ流体素子の製造方法。
【請求項19】
請求項13に記載のマイクロ流体素子を製造するための方法であって、
前記基板の表面に前記流体回路に対応する溝を形成する工程と、
前記基板の上方に被覆層を形成する工程とをこの順序で含むことを特徴とするマイクロ流体素子の製造方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載のマイクロ流体素子の製造方法において、
前記基板の裏面側に裏面層を形成する工程と、
前記被覆層を形成する工程の前に、前記第1の流体供給流路の上流側端部、前記第2の流体供給流路の上流側端部及び前記主流路の下流側端部に貫通孔を形成する工程とをさらに含み、
前記貫通孔を形成する工程の後に、前記被覆層を形成する工程を実施することにより、前記貫通孔を、前記第1の流体を供給するための第1の供給口、前記第2の流体を供給するための第2の供給口及び流体を排出するための流体の排出口とすることを特徴とするマイクロ流体素子の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載のマイクロ流体素子の製造方法において、
前記被覆層を形成する工程の後に、前記第1の流体供給流路、前記第2の流体供給流路及び前記主流路並びに前記第1の供給口、前記第2の供給口及び前記流体の排出口に前記第2の流体を充填した状態で、前記第1の供給口、前記第2の供給口及び前記流体の排出口の開口部をテープ部材で塞ぐ工程をさらに備えたことを特徴とするマイクロ流体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図11】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−17562(P2006−17562A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194980(P2004−194980)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(800000079)株式会社山梨ティー・エル・オー (11)
【出願人】(391017849)山梨県 (19)
【Fターム(参考)】