説明

マクロファージ活性化阻害剤

下記の一般式(1)
【化1】


(式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、Rは下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。)
【化2】


(式中、RはC1〜4のアルキル基である。)
で表される化合物は、マクロファージの活性化を阻害することができる。従って、一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するマクロファージ活性化阻害剤は、細菌やウイルスなどの病原体の感染に起因する疾患を予防、改善または治療のための薬剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージ活性化阻害剤、感染症治療剤、IV型アレルギー性疾患の治療剤、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を改善するための治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やウイルスなどの病原体は、生体内に侵入してインフルエンザや黄色ブドウ球菌感染症などの感染症を引き起こすことが知られており、これらの感染症を予防・治療すべく、従来、様々な予防剤や治療剤が開発されている(特開平8−12574号公報、特開平10−251148号公報、特開平10−231247号公報)。
【0003】
近年、これらの感染症はマクロファージの活性化が伴うことが明らかとなっており、このマクロファージの活性化を抑制・阻害することができる薬剤は、感染症の治療剤として有用であると考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、細菌やウイルスなどの病原体の感染に起因する疾患や、アレルギーなどの免疫性疾患を予防、改善または治療するのに有用な、マクロファージ活性化阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、マクロファージの活性化を阻害する薬剤を提供すべく鋭意研究した結果、式(1a)で表される化合物(以下、この化合物を「(±)−DHM2EQ」と称する。)が、LPS(リポ多糖:lipopolysaccharide)により刺激したマクロファージの活性化を強く阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係るマクロファージ活性化を阻害する阻害剤は、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【化1】

【0007】
式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。
【0008】
は下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。
【化2】

【0009】
式中、RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0010】
また、前記化合物は(±)−DHM2EQ(下記の式(1a))または下記の式(1b)で表される化合物(以下、この化合物を「(±)−DHM3EQ」と称する。)であることが好ましく、下記の式(2)であることが特に好ましく、L体(+)の化合物を含有しないものが最も好ましい。
【化3】

【化4】

【0011】
また、本発明に係るマクロファージ活性化を阻害する阻害剤は、マクロファージの活性化に起因する疾患を予防、改善または治療することを特徴とする。
【0012】
前記感染症は、細菌の感染に起因するものであってもよいが、ウイルスの感染に起因するものであってもよい。
【0013】
また、本発明に係るマクロファージ活性化を阻害する阻害剤は、前記マクロファージの活性化が、リポ多糖、IFN−γ、及びIL−1βからなるグループから選ばれるいずれかの因子に起因することを特徴とする。
【0014】
なお、マクロファージとは、貪食能を有する単球由来の大型細胞のことをいい、例えば、遊走性マクロファージ(free macrophage)、血液単球(blood monocyte)、肺胞マクロファージ(alveolar macrophage)、腹腔マクロファージ(peritoneal macrophage)、炎症部位肉芽腫マクロファージ(inflammatory granuloma macrophage)、定着性マクロファージ(fixed macrophage)、クッパー細胞、中枢神経系の小膠細胞(microglia cell)、皮下その他の結合組織にみられる組織球、脾臓・骨髄・リンパ節洞における細網内皮およびリンパ球間隙に突起を延ばしている樹枝状マクロファージ(dendritic macrophage)、血管外膜細胞(adventitial cell)、中枢神経系の髄膜や脈管周囲のマクロファージ(meningeal and perivascular macrophage)などがある。
【0015】
本発明に係る感染症治療剤は、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【化5】

【0016】
式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。
【0017】
は下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。
【化6】

【0018】
式中、RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0019】
また、前記化合物は(±)−DHM2EQ(下記の式(1a))または(±)−DHM3EQ(下記の式(1b))であることが好ましく、下記の式(2)であることが特に好ましく、実質的にL体(+)の化合物を含有しないものが最も好ましい。
【化7】

【化8】

【0020】
本発明に係るIV型アレルギー性疾患の治療剤は、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【化9】

【0021】
式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。
【0022】
は下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。
【化10】

【0023】
式中、RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0024】
また、前記化合物は(±)−DHM2EQ(下記の式(1a))または(±)−DHM3EQ(下記の式(1b))であることが好ましく、下記の式(2)であることが特に好ましく、実質的にL体(+)の化合物を含有しないものが最も好ましい。
【化11】

【化12】

【0025】
本発明に係る、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を改善するための治療剤は、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【化13】

【0026】
式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。
【0027】
は下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。
【化14】

【0028】
式中、RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0029】
また、前記化合物は(±)−DHM2EQ(下記の式(1a))または(±)−DHM3EQ(下記の式(1b))であることが好ましく、下記の式(2)であることが特に好ましく、実質的にL体(+)の化合物を含有しないものが最も好ましい。
【化15】

【化16】

【0030】
関連文献とのクロスリファレンス
なお、本願は、2003年8月6日付けで出願した日本国特願2003−288280号に基づく優先権を主張する。この文献を本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1は、(±)−DHM2EQが、IFN−γ及びLPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生を抑制する効果を示す図である。
【0032】
図2は、(±)−DHM2EQが、IFN−γ及びLPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生を抑制する効果を示す図である。
【0033】
図3は、(±)−DHM2EQが、LPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のiNOS発現を抑制する効果を示す図である。
【0034】
図4は、(±)−DHM2EQが、LPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のIL−1β産生を抑制する効果を示す図である。
【0035】
図5は、(±)−DHM2EQが、LPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のIL−6産生を抑制する効果を示す図である。
【0036】
図6は、(±)−DHM2EQが、IL−1βにより活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のTNF−α産生を抑制する効果を示す図である。
【0037】
図7は、(±)−DHM2EQが、IFN−γ及びLPSによって活性化されたマクロファージ由来J774.1細胞のNO産生を抑制する効果を示す図である。
【0038】
図8は、(±)−DHM2EQが、LPSで処理したRAW264.7細胞におけるCOX−2の発現を抑制する効果をウエスタンブロッティングにより調べた結果を示す図である。
【0039】
図9は、(±)−DHM2EQが、LPS刺激によって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞の大腸菌の貪食を抑制する結果を示す図である。
【0040】
図10は、(±)−DHM2EQが、IL−1β刺激によって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞の大腸菌の貪食を抑制する結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis(Ed.),Molecular cloning,a laboratory manual(3rd edition),Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York(2001);F.M.Ausubel,R.Brent,R.E.Kingston,D.D.Moore,J.G.Seidman,J.A.Smith,K.Struhl(Ed.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0042】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0043】
ウイルスや細菌などの病原体の感染により、単核球細胞(例えば、マクロファージ、単球(末梢血単球などを含む)、好酸球など)は活性化され、炎症性サイトカイン(例えば、TNF−α、IL−1β、IL−1α、IL−8、IL−10など)や、ケモカイン(MCP−1、RANTES)、iNOS、COX−2などを産生する。これらの産生は、細菌の構成成分であるLPSが単核球細胞を刺激することや、ウイルス感染により活性化されたT細胞から分泌されるIFN−γなどのマクロファージ活性化因子により、NF−κBの活性化を介して誘導されることが知られている。
【0044】
そこで、本発明者らは、NF−κBの活性化阻害剤である(±)−DHM2EQがマクロファージの活性化を阻害するのではないかと考え、LPS及びIFN−γにより刺激された活性化マクロファージ細胞に対する(±)−DHM2EQの影響を調べたところ、(±)−DHM2EQはマクロファージの活性化の指標であるiNOSの発現、NO産生、IL−1βの分泌、TNF−αの分泌を阻害した。また、(±)−DHM2EQが、LPSやIL−1βにより刺激された活性化マクロファージ細胞のCOX−2産生や貪食作用を阻害することを明らかにした。こうして(±)−DHM2EQは、マクロファージの活性化阻害作用を有することが明らかとなった。従って、(±)−DHM2EQは、マクロファージ活性化阻害剤として有用である。
【0045】
ところで、マクロファージの活性化に伴って産生される炎症性サイトカイン(例えば、TNF−α、IL−1β、IL−1α、IL−8、IL−10など)や、ケモカイン(MCP−1、RANTES)、iNOS、COX−2などは、各種感染症、IV型アレルギー性疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病を含む神経変性疾患や多発性硬化症、脳虚血後の後遺症としての神経変性疾患、AIDSなどの免疫不全症、動脈硬化症、歯周病、潰瘍性大腸炎やCrohn病を含む炎症性腸疾患、2型糖尿病、固形癌などの腫瘍(腫瘍の進展も含む)、呼吸器疾患、肺疾患、自己免疫疾患SLE(全身性エリトマトーデス)などの疾患や、細菌感染によるアトピー性疾患(アトピー性皮膚炎など)の重症化のメディエーター(mediator)となることが知られている。従って、マクロファージの活性化を阻害する(±)−DHM2EQは、上記のようなマクロファージの活性化に起因する疾患や、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化などの予防、改善、または治療するための薬剤としても有用である。
【0046】
また、前記感染症は、細菌、ウイルス、寄生虫などの病原体の感染に起因するものであればどのようなものでもよく、細菌としては、例えば、グラム陰性菌、グラム陽性菌などが挙げられ、ウイルスとしては、例えば、HTLV−1(human T−cell lymphotropic virus type 1)、インフルエンザウイルス、エイズウイルス(HIV;Human Immunodeficiency Virus)、ヘルペスウイルス(例えば、EBウイルス(Epstein−Barr Virus)など)、サイトメガロウイルス、B型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトパルボウイルス、コロナウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群;Severe Acute Respiratory Syndrome)ウイルス、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)、ニパウイルス(nipah virus)、C型肝炎ウイルス、肺炎ウイルス、アデノウイルス、コクサキーウイルス(coxsackie virus)などが挙げられる。
【0047】
マクロファージは、iNOSによって、多量かつ高濃度のNOを産生することが知られている。従って、(±)−DHM2EQは、過剰NOによってもたらされる疾患、例えば、腫瘍(転移を含む)、動脈硬化、エイズ、Helicobacter pylori感染などの感染症、敗血症や、慢性関節リウマチ・多発性硬化症・皮膚炎・歯周病・ぜんそく・炎症のほか、心移植による拒絶、アルツハイマー病、心筋梗塞、1型糖尿病の自己免疫疾患などに対して予防、改善、または治療するための薬剤としても有用である。
【0048】
また、TNF−αなどの炎症性サイトカインは筋芽細胞の筋細胞への分化を阻害し(FASEB J.15,1169−80,2001)、デュシェンヌ(Duchenne)型を含む筋ジストロフィーの原因になることが知られている。従って、(±)−DHM2EQは、マクロファージの活性化に起因した筋ジストロフィーなどの予防、改善、または治療するための薬剤としても有用である。
【0049】
さらに、(±)−DHM2EQは、骨髄で起きる赤血球が活性化されすぎたマクロファージ(hemophagocyte食血細胞)により破壊される疾患である血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome)や、脳のマクロファージであるミクログリアなどの活性化がマヒを含む運動機能障害を引き起こす脳梗塞や、病変部に微生物の感染と活性化マクロファージの凝集がみられる腸疾患(proliferative enteropathy)などに対して予防、改善、または治療するための薬剤としても有用である。
【0050】
===一般式(1)で表される化合物の製造方法===
一般式(1)で表される化合物は、wipfらの合成法(Synthesis,12号,1549−561頁,1995年)に準じて製造することができる。
【0051】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、下記の反応工程式に基づいて製造することができる。
下記の反応工程式において、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。また、Xはハロゲン原子であり、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素原子が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【化17】

【0052】
工程(a):N−(2−アルカノイルオキシベンゾイル)−2,5−ジメトキシアニリンの調製
2,5−ジメトキシアニリンを溶媒(例えば、ピリジンなど)に溶解させ、−78〜50℃、好ましくは氷冷下で、式(3)のO−アルカノイルサリチロイルハライドの酢酸エチル溶液を加えて、攪拌しながら反応させる。水を加えて反応を停止させた後、酢酸エチルを加え、塩酸、水、重曹水、水で順次洗浄し、乾燥後、減圧濃縮、及び真空乾燥することにより式(4)で示されるN−(2−アルカノイルオキシベンゾイル)−2,5−ジメトキシアニリンが得られる。この化合物は精製せず、次の工程に使用できる。
【0053】
工程(b):3−(O−アルカノイルサリチロイルアミド)−4,4−ジアルコキシ−2,5−シクロヘキサジエノンの調製
上記で得られた式(4)の化合物をROH(例えば、メタノール、エタノールなど)に溶解させ、−20〜50℃、好ましくは氷冷下で、ジアセトキシヨードベンゼンを加え、室温で攪拌しながら反応させる。減圧濃縮後、酢酸エチルを加え、重曹水、食塩水で順次洗浄し、酢酸エチル層を減圧濃縮して得られた残渣をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、式(5)で示される3−(O−アルカノイルサリチロイルアミド)−4,4−ジアルコキシ−2,5−シクロヘキサジエノンが得られる。
【0054】
工程(c):5,6−エポキシ−4,4−ジアルコキシ−3−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンの調製
式(5)の化合物を溶剤(例えば、テトラヒドロフラン、メタノールなど)に溶解させ、−20〜50℃、好ましくは氷冷下で、過酸化水素水及び水酸化ナトリウムを加え、攪拌しながら反応させる。反応液に酢酸エチルを加え、塩酸溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、食塩水で順次洗浄し、大気中で乾燥した後、真空乾燥する。残存する原料化合物を除去するため、残渣をアセトンに溶解させ、p−トルエンスルホン酸を加え、室温で攪拌して原料化合物を分解する。溶剤を減圧留去して得られた残渣に酢酸エチルを加え、水で洗浄する。酢酸エチル層を乾燥して得られた残留物をカラムクロマトグラフィーで精製して、式(6)で示される5,6−エポキシ−4,4−ジアルコキシ−3−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンが得られる。
【0055】
工程(d):5,6−エポキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセン−1,4−ジオンの調製
式(6)の化合物を溶剤(例えば、塩化メチレンなど)に溶解させ、氷冷下で無機酸または有機酸(例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体など)を加え、攪拌しながら反応させる。反応液に溶剤(例えば、酢酸エチルなど)を加え、水で洗浄し、溶剤層を濃縮した後、得られた残渣をメタノールで洗浄して式(7)で示される5,6−エポキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセン−1,4−ジオンが得られる。
【0056】
工程(e):5,6−エポキシ−4−ヒドロキシ−3−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンの調製
式(7)の化合物を、溶媒(例えば、メタノール、エタノール、THFなど)に懸濁し、−78〜50℃、好ましくは氷冷下で、還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウムなど)を加えて反応させる。反応液に溶剤(例えば、酢酸エチル、塩化メチレンなど)を加え、塩酸、水で順次洗浄し、溶剤層を乾燥後、減圧濃縮して、メタノールで懸濁、攪拌、洗浄して、式(8)で示される5,6−エポキシ−4−ヒドロキシ−3−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンが得られる。
【0057】
工程(f):3,3−ジアルコキシ−4,5−エポキシ−6−ヒドロキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミドシクロヘキセンの調製
式(6)の化合物をメタノールなどの溶剤と重曹水混合溶媒に溶解し、−78〜50℃、好ましくは氷冷下で、還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウムなど)を加え、攪拌しながら反応させる。反応液に溶剤(例えば、酢酸エチルなど)を加え、塩酸、水で順次洗浄し、溶剤層を乾燥後、減圧濃縮、真空乾燥し、カラムクロマトグラフィーなどで精製して、式(9)で示される3,3−ジアルコキシ−4,5−エポキシ−6−ヒドロキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミドシクロヘキセンを得る。
【0058】
工程(g):5,6−エポキシ−4−ヒドロキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンの調製
式(9)の化合物を溶剤(例えば、アセトンなど)に溶解させ、p−トルエンスルホン酸を加え、室温で攪拌しながら反応させる。反応液に溶剤(例えば、酢酸エチルなど)を加え、水で洗浄し、溶剤層を乾燥し、減圧濃縮して、精製して、式(10)の5,6−エポキシ−4−ヒドロキシ−2−アルカノイルサリチロイルアミド−2−シクロヘキセノンを得ることができる。
【0059】
なお、式(3)のO−アルカノイルサリチロイルハライドとして、O−アセチルサリチロイルクロリドを用い、工程(b)において式(4)の化合物を溶解させる溶媒として、メタノールを用いることにより、(±)−DHM2EQ(式(1a))及び(±)−DHM3EQ(式(1b))を製造することができる。
【0060】
===式(2)で表される化合物の調製===
近年、本発明者らは、(±)−DHM2EQより(−)−DHM2EQの方がより優れたNF−κBの活性化阻害作用を有することを見出している。従って、(−)−DHM2EQは(±)−DHM2EQより優れたマクロファージ活性化阻害作用を有すると考えられる。このことから、(±)−DHM2EQよりマクロファージ活性化阻害効果の強い(−)−DHM2EQは、マクロファージの活性化に起因する疾患や、過剰NOによってもたらされる疾患や、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化などの予防、改善、または治療するための薬剤としてより有用であると考えられる。また、(−)−DHM2EQは、(±)−DHM2EQより副作用が少ないことも期待できる。以下(−)−DHM2EQ(式(2))の調製について説明する。
【0061】
式(2)で表される化合物は、下記の反応式に示すように、(±)−DHM2EQ(式(1a))のフェノール性水酸基を一旦シリル基で保護し、その化合物(11)をキラルカラムにより式(12)で表される化合物と式(13)で表される化合物とに分割し、次いで式(12)で表される化合物を脱保護することにより式(2)で表される化合物((−)−DHM2EQ)を得ることができる(Bioorg.Med.Chem.Lett.10,865−869,2000)。なお、式(13)で表される化合物も上記と同様に脱保護することにより式(14)で表される化合物((+)−DHM2EQ)を得ることも可能である。
【化18】

【0062】
また、式(2)で表される化合物((±)−DHM2EQ)は、一般式(15)
【化19】

【0063】
で表される基で置換された多糖の芳香族カルバメート誘導体を有効成分とする分離剤を用いて(−)−DHM2EQ(D体のDHM2EQ)と(+)−DHM2EQ(L体−DHM2EQ)とに直接、光学分割することにより得ることもできる。
【0064】
多糖の芳香族カルバメート誘導体としては、一般式(15)中の置換基(−R、−R、−R、−R、及び−R)が、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜14の芳香族基、ハロゲン原子などにより構成される多糖の芳香族カルバメート誘導体を挙げることができるが、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)などが好ましく、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)が特に好ましい。前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子などである。
【0065】
なお、前記(±)−DHM2EQの光学分割は、一般式(15)で表される基で置換された多糖の芳香族カルバメート誘導体を有効成分とする分離剤が充填された光学活性カラム、例えば、DAICEL CHIRALPAK AD(10mm i.d.x250mm)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより行うことが好ましい。なお、移動相としては、例えば、0.1〜0.9v/v%の酢酸を添加したメタノールを用いることができる。
【0066】
このようにして得られた(−)−DHM2EQ及び(+)−DHM2EQは、それぞれの施光度をJASCO DIP−360旋光計で測定することにより、光学純度を算出することができる((−)−DHM2EQは[α]20−241°(c0.1 MeOH)であり、(+)−DHM2EQは[α]20+239°(c0.1 MeOH)である。)。
【0067】
本発明に係るマクロファージ活性化阻害剤は、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものであればどのようなものでもよいが、前記化合物が、(±)−DHM2EQや(±)−DHM3EQであることが好ましく、(−)−DHM2EQであることが特に好ましい。なお、本発明に係る、感染症治療剤、IV型アレルギー性疾患の治療剤、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を改善するための治療剤も、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものであればどのようなものでもよいが、前記化合物が、(±)−DHM2EQや(±)−DHM3EQであることが好ましく、(−)−DHM2EQであることが特に好ましい。
【化20】

【0068】
式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、アルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブタノイル基、並びにこれらの異性体基が挙げられ、特にアセチル基が好ましい。
【0069】
は下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。
【化21】

【0070】
式中、RはC1〜4のアルキル基であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびこれらの異性体基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0071】
また、本発明に係るマクロファージ活性化阻害剤は、(+)−DHM2EQが含有せず、(−)−DHM2EQまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものが最も好ましい。なお、本発明に係る、感染症治療剤、IV型アレルギー性疾患の治療剤、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を改善するための治療剤も、(+)−DHM2EQが含有せず、(−)−DHM2EQまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものが最も好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について詳細に述べる。
【0073】
[実施例1]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生の抑制>
マクロファージでは、LPSなどのリポ多糖やIFN−γなどのインターフェロンにより、iNOSの発現が誘導され、NO産生が起こることが知られている。そこで、マクロファージ由来の培養細胞を用いて、LPS、IFN−γを併用した時のNO産生に対する(±)−DHM2EQの影響を検討した。
【0074】
なお、産生されたNOは、細胞外へ排出され、培地中に溶けこんでNOイオンとなって存在しているので、Griess試薬を培地に添加することにより呈色反応させ、吸光度(OD570)を測定することにより、産生されたNO量を求めた。そして、異なる濃度の(±)−DHM2EQに対して産生されたNOの各量を、マクロファージ活性化因子無添加のサンプル(コントロール)のOD570を100%としたときの相対値で比較した。その結果を図1に示す。
【0075】
RAW264.7細胞においては、LPSとIFN−γを添加すると(±)−DHM2EQ処理なしでコントロールに比べて3倍程度のNO産生の上昇が見られた。そして、(±)−DHM2EQで処理すると、添加した(±)−DHM2EQ濃度依存的にNO産生が抑制され、10μg/mlの(±)−DHM2EQによって、NO産生はほぼコントロールレベルにまで抑制された。
【0076】
[実験方法]
96ウェルプレート(Costar:Acton,MA)に4×10細胞/mlに調製した細胞懸濁液を200μlずつ蒔き、ここに、0、1、3、10μg/mlに希釈した(±)−DHM2EQを添加し、37℃、5%COの条件で2時間培養後にIFN−γ(最終濃度100ng/ml)及びLPS(最終濃度10μg/ml)を添加し、その後18時間培養した。ここにGriess試薬を100μl添加し、約10分間反応させ、マイクロプレートリーダーを用いて、OD570を測定した。
【0077】
[実施例2]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生の抑制>
また、LPS、IFN−γを併用した時のマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生の(±)−DHM2EQによる抑制をin situで観察するために、DAF−2DA(diamino fluorescein−2 diacetate;第一化学薬品)を用いて、細胞内のNOを直接観察した。その結果を図2に示す。
【0078】
LPS、IFN−γを添加しないコントロール(A)に比べ、LPS、IFN−γを添加し、(±)−DHM2EQを添加しないもの(B)は、細胞内でNO産生が増強したが、LPS、IFN−γを添加し、10μg/mlの(±)−DHM2EQを添加したもの(C)は、コントロールレベルにまでNO産生が抑制された。このことは、特定の細胞において、NO産生が抑制されるのではなく、培養細胞全体として、一様にNO産生が抑制されることを示す。
【0079】
[実験方法]
まずRAW264.7細胞を6×10細胞/mlの濃度で500μlずつチャンバースライドに蒔き、37℃、5%COの条件で1日間培養後、(±)−DHM2EQを添加し、2時間培養した。その後、IFN−γ(最終濃度100ng/ml)及びLPS(最終濃度10μg/ml)を添加して6時間培養し、培養液をDAF−2DAが添加されたPBS(リン酸塩緩衝液;8g/l NaCl,0.2g/l KCl,0.916g/l NaHPO,0.2g/l KHPO)に交換し、さらに2時間培養した後、蛍光顕微鏡で蛍光画像を観察した。
【0080】
[実施例3]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来RAW264.7細胞でのiNOS発現の抑制>
実施例1及び2により、(±)−DHM2EQが、活性化されたRAW264.7細胞のNO産生を抑制することが明らかになった。細胞内でNOは酵素iNOSによって生じるため、この抑制がiNOSの発現抑制によるのかどうかを調べたところ、図3に示すように、(±)−DHM2EQはその処理濃度依存的にiNOSの発現を抑制することが明らかとなった。
【0081】
[実験方法]
まず100mm dishに4×10細胞/mlとなるように細胞を蒔き、一晩培養後、最終濃度0,1,3,10μg/mlとなるように(±)−DHM2EQを添加し、2時間後にLPS(最終濃度10μg/ml)を添加して24時間刺激した。その後、細胞懸濁液を集めて遠心器で分離し、調製したlysis buffer(50mM Tris−HCl:pH8.0,1%NP−40,20mM EDTA,100mM NaVO,0.1mg/mlロイペプチン,1mM PMSF)65μlで細胞を溶解した。そして、細胞溶解液の上清をとりわけて、それぞれのタンパク濃度を測定し、所定重量のタンパク質を煮沸し、これをサンプルとした。これをSDS−PAGEにかけ、ゲルからnitro cellulose membraneに転写した後、抗iNOS抗体(Santa Cruz)と反応させ、続いてヒツジ由来抗rabbit IgG抗体(Amarsham)と反応させた。その後、ECL発色法により発色させ、フィルム(富士フィルム)に感光させて検出した。
【0082】
[実施例4]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来RAW264.7細胞からのIL−1β分泌の抑制>
次に、(±)−DHM2EQによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞における別のマクロファージ活性化のマーカーであるIL−1βの分泌に対する(±)−DHM2EQの影響を調べた。その結果、図4に示すように、(±)−DHM2EQはその処理濃度依存的にIL−1β産生を抑制することが明らかとなった。
【0083】
[実験方法]
48ウェルプレートにRAW264.7細胞を4×10細胞/mlの濃度で500μlずつ蒔き、37℃で1日間培養した。その後、(±)−DHM2EQ(最終濃度1,3,10μg/ml)を添加して2時間培養した後、LPS(最終濃度10μg/ml)を添加して24時間刺激した。刺激後、細胞の上清を500μlずつ回収し、15000rpmで2分間遠心し、不溶性画分を除去してサンプルとした。
【0084】
IL−1βの分泌量はmouse IL−1β ELISA assay kit(R&D Systems;Minneapolis,U.S.)を用いて調べた。まず、mouse IL−1β抗体(ポリクローナル抗体)があらかじめ固定化されている96ウェルマイクロプレートに反応用緩衝液を50μl添加し、ここに上記サンプルを50μlいれて軽くタッピングした後、プレートを付属のシールで遮光状態にしたまま室温で2時間静置反応させた。次に、1ウェルあたり5回ずつ、洗浄用緩衝液400μlを入れ、上清を吸引除去し、さらにペーパータオルにたたきつけて上清を完全に除去するという操作を繰り返した。次に、HRP(horse radish peroxydase)標識されたmouse IL−1β 2次抗体を1ウェルあたり100μl加え、さらに2時間室温でインキュベート後、同様に、ウェルを5回ずつ洗浄した。その後、発色液を100μlずつ加え、30分間インキュベートし、その後反応停止液を100μl入れ、マイクロプレートリーダーで波長450nmにおけるOD値を測定した。その後、mouse IL−1β ELISA assay kitに付属のmouse IL−1β standardを用いて作成した検量線により、IL−1βの濃度を算出した。
【0085】
[実施例5]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来RAW264.7細胞からのIL−6分泌の抑制>
また、LPSにより活性化されたマクロファージにおける別のマクロファージの活性化マーカーであるIL−6の分泌に対する(±)−DHM2EQの影響をIL−6 ELISA assay kit(Techne;Minneapolis,U.S.)を用いて実施例4の実験方法と同様に調べた。なお、LPS(最終濃度10μg/ml)によるRAW264.7細胞の刺激は24時間で行った。また、検量線はIL−6 ELISA assay kitに付属のIL−6 standardにより作成した。その結果、図5に示すように、(±)−DHM2EQはその処理濃度依存的にIL−6産生を抑制することが確認された。
【0086】
[実施例6]
<IL−1β刺激により活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞からのTNF−α分泌の抑制>
次に、IL−1β刺激により活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞における別のマクロファージ活性化マーカーであるTNF−αの分泌に対する(±)−DHM2EQの影響を実施例5の実験方法と同様に調べた。なお、本実施例においては、LPSの代わりにIL−1β(最終濃度10ng/ml)でRAW264.7細胞を6時間刺激した。その結果、図6に示すように、(±)−DHM2EQはその処理濃度依存的にTNF−α産生を抑制することが確認された。
【0087】
[実施例7]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージ由来J774.1細胞からのNO産生の抑制>
活性化された他種のマクロファージ由来J774.1細胞株におけるNO産生に対する(±)−DHM2EQの影響を実施例1に記載の方法と同様に調べた。その結果、図7に示すように、(±)−DHM2EQ処理なしでコントロール(活性化処理なし)に比べて1.5倍程度のNO産生の上昇が見られたが、(±)−DHM2EQ処理濃度依存的にNO産生を抑制することがわかった。10μg/mlの(±)−DHM2EQではコントロールレベルまでNO産生が抑制されていた。このように、(±)−DHM2EQの細胞におけるNO産生抑制作用はRAW264.7細胞に限らず、他種のマクロファージにおいても同様に認められることが分かった。
【0088】
[実施例8]
<(±)−DHM2EQによるCOX−2の発現阻害効果>
炎症性刺激や増殖因子によって活性化されたマクロファージにより、プロスタグランジンの合成酵素であるCOX−2が産生され、炎症、がん細胞の増殖、がんの発生、血管新生、腫瘍転移など様々な病態に関与することが知られている。また、最近では、自己免疫疾患SLE(全身性エリトマトーデス)において、COX−2の発現の増加に伴い、自己応答性T細胞がアポトーシスに対する耐性を獲得することが知られている(Nature medicine 10,411−415,2004)。そこで、(±)−DHM2EQを用いることにより、マクロファージの活性化を阻害し、COX−2の産生を抑制できるのではないかと考え、LPS刺激により活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞におけるCOX−2の産生に対する(±)−DHM2EQの影響を調べた。その結果、図8に示すように、(±)−DHM2EQはその濃度依存的にCOX−2の産生を抑制することが明らかとなった。このことから、(±)−DHM2EQは、マクロファージの活性化に伴って発現が誘導されるCOX−2により引き起こされる疾患の予防、改善、または治療するための薬剤としても有用であると考えられる。
【0089】
[実験方法]
DMEM培地の入った100mm dish(Coaster:Acton,MA)にRAW264.7細胞を4×10細胞/dishとなるように蒔き、5%CO,37℃で一晩培養した。その後、(±)−DHM2EQ(最終濃度1,3,10μg/ml)を添加して2時間培養し、LPS(最終濃度10μg/ml)を添加して24時間刺激した。その後、細胞を回収し、lysis buffer(50mM Tris−HCl:pH8.0,1%NP−40,20mM EDTA,100mM NaVO4,0.1mg/mlロイペプチン,1mM PMSF)65μlで溶解し、SDS−PAGEを行った。
【0090】
その後、PVDF膜を用いてウェスタン・ブロッティングを行った。一次抗体は抗COX−2抗体(Santa Cruz社製:300倍希釈)を用い、二次抗体はロバ抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz社製:3000倍希釈)を用い、検出はECL(Enhanced Chemiluminescence)によって行った。
【0091】
[実施例9]
<(±)−DHM2EQによるマクロファージの食作用阻害効果>
マクロファージは、細菌感染に際して、外来異物として、細菌又はその一部を取り込み、加水分解酵素などを含むリソソーム内で異物を消化することにより、生体の防御機構を担う。この際の異物を取り込む作用は貪食(phagocytosis)といわれ、マクロファージの活性化の指標となる。そこで、LPS又はIL−1β刺激により活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞の貪食能を指標にして、マクロファージ活性化に対する(±)−DHM2EQの影響を調べた。図9に示すように、マクロファージ由来RAW264.7細胞による大腸菌(E.Coli)の貪食は、LPS刺激により顕著に亢進したが、(±)−DHM2EQにより前処理した場合には、その処理濃度依存的に貪食作用が抑制されることが明らかになった。特に、10μg/mlの(±)−DHM2EQで前処理した場合には、LPSや(±)−DHM2EQで処理していないコントロールと同程度まで貪食作用を抑制することがわかった。また、図10に示すように、IL−1β刺激によって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞に対しても、10μg/mlの(±)−DHM2EQで前処理することにより、IL−1βや(±)−DHM2EQで処理していないコントロールと同程度まで大腸菌(E.Coli)の貪食作用を抑制することが明らかになった。
【0092】
[実験方法]
RAW264.7細胞を4×10細胞/mlの濃度で500μlずつチャンバースライドに蒔き、一晩培養後、(±)−DHM2EQを添加し、2時間インキュベートした。インキュベート後、LPS(最終濃度1μg/ml)を添加して10分間インキュベートし、PBS 750μlで2回洗浄した。その後、PBSを除去し、直ちに蛍光標識大腸菌(Molecular probes,U.S.)の溶液(蛍光標識大腸菌1mgを5mlのPBSで希釈した溶液)を250μlずつ加え、さらに2時間室温でインキュベートした。インキュベート後、PBS 750μlで2回洗浄し、蛍光顕微鏡及び位相差顕微鏡でマクロファージ由来RAW264.7細胞の貪食能を調べた。また、IL−1βを用いた活性化においてはLPSの代わりにIL−1β(最終濃度10ng/ml)を添加する他は上記と同様の方法でマクロファージ由来RAW264.7細胞の貪食能を調べた。図9及び図10に示すように、LPS又はIL−1βで刺激したマクロファージは、蛍光標識大腸菌を取り込むため、細胞が蛍光で標識され、形状は大きく平らになり、刺激をしない場合、及びDHM2EQで処理した場合、形状は小さく球状になり、蛍光は細胞外に観察された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、細菌やウイルスなどの病原体の感染に起因する疾患や、アレルギーなどの免疫性疾患を予防、改善または治療するのに有用な、マクロファージ活性化阻害剤を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、マクロファージ活性化を阻害する阻害剤。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、Rは下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。)
【化2】

(式中、RはC1〜4のアルキル基である。)
【請求項2】
前記化合物が下記の式(1a)または式(1b)であることを特徴とする請求項1に記載の阻害剤。
【化3】

【請求項3】
前記化合物が下記の式(2)であることを特徴とする請求項1に記載の阻害剤。
【化4】

【請求項4】
マクロファージの活性化に起因する疾患を予防、改善または治療することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項5】
前記疾患が感染症であることを特徴とする請求項4に記載の阻害剤。
【請求項6】
前記感染症が細菌の感染に起因することを特徴とする請求項5に記載の阻害剤。
【請求項7】
前記細菌がグラム陰性菌であることを特徴とする請求項6に記載の阻害剤。
【請求項8】
前記感染症がウイルスの感染に起因することを特徴とする請求項5に記載の阻害剤。
【請求項9】
前記ウイルスがインフルエンザであることを特徴とする請求項8に記載の阻害剤。
【請求項10】
前記疾患がIV型アレルギー性疾患であることを特徴とする請求項4に記載の阻害剤。
【請求項11】
病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を予防、改善または治療することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項12】
前記マクロファージの活性化が、リポ多糖、IFN−γ、及びIL−1βからなるグループから選ばれるいずれかの因子に起因することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項13】
下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する感染症治療剤。
【化5】

(式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、Rは下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。)
【化6】

(式中、RはC1〜4のアルキル基である。)
【請求項14】
前記化合物が下記の式(1a)または式(1b)であることを特徴とする請求項13に記載の感染症治療剤。
【化7】

【請求項15】
前記化合物が下記の式(2)であることを特徴とする請求項13に記載の感染症治療剤。
【化8】

【請求項16】
下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するIV型アレルギー性疾患の治療剤。
【化9】

(式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、Rは下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。)
【化10】

(式中、RはC1〜4のアルキル基である。)
【請求項17】
前記化合物が下記の式(1a)または式(1b)であることを特徴とする請求項16に記載のIV型アレルギー性疾患の治療剤。
【化11】

【請求項18】
前記化合物が下記の式(2)であることを特徴とする請求項16に記載のIV型アレルギー性疾患の治療剤。
【化12】

【請求項19】
下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、病原体の感染によるアトピー性疾患の重症化を改善するための治療剤。
【化13】

(式中、Rは水素原子またはC2〜4のアルカノイル基であり、Rは下記の式(A)から(G)のいずれかで表される基である。)
【化14】

(式中、RはC1〜4のアルキル基である。)
【請求項20】
前記化合物が下記の式(1a)または式(1b)であることを特徴とする請求項19に記載の治療剤。
【化15】

【請求項21】
前記化合物が下記の式(2)であることを特徴とする請求項19に記載の治療剤。
【化16】


【国際公開番号】WO2005/013966
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512956(P2005−512956)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011260
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(305026884)株式会社シグナル・クリエーション (2)
【Fターム(参考)】