説明

マグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体およびその製造方法

【課題】Mg、Sn、Siの金属からなる単相で優れた性能特性を備えた化学式で示されるMgSi0.50Sn0.50の金属間化合物の焼結体を簡単に製造する。
【解決手段】Si粉末にドーパントとしてSbまたはBi粉末を混合させた混合物と、MgとSiとを用いて固−液相反応をさせて固溶体を合成した後、該固溶体の粉末をホットプレスして目的とする焼結体を得ることで、ゼーベック係数αと比抵抗ρについてキャリア濃度nの制御によってコントロールできる熱電性能に優れた単相の焼結化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子等の半導体として用いることができるマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体およびその製造方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)、スズ(Sn)の金属からなる固溶体を焼結して製造した金属間化合物として、一般化学式
MgSi1−XSn
であらわされるものが知られている。そしてこの金属間化合物において、X=0.4〜0.6の範囲のものが熱電特性に優れることが既に報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−133202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが前記範囲の金属間化合物の焼結体の中には単相のものができていなかったが、短時間の焼結反応で安定した熱電半導体として利用できる単相の金属間化合物の焼結体を簡単に生成することが要求される。さらにはこれら金属間化合物の焼結体の熱電半導体としての特性がさらに向上することも要求されており、これらに本発明が解決しようとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSi1−XSn :但しX=0.4〜0.6
で示される固溶体を合成し、該固溶体を焼結して金属間化合物の焼結体を製造するにあたり、前記固溶体はドーパントが添加された原料から合成されていることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項2の発明は、ドーパントはアンチモンであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項3の発明は、アンチモンの添加量は5000ppm以上であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる請求項2記載の金属間化合物の製造方法である。
請求項4の発明は、ドーパントはビスマスであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項5の発明は、ビスマスの添加量は1000ppm以上であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる請求項4記載の金属間化合物の製造方法である。
請求項6の発明は、ビスマスの添加量は2500ppm以上7500ppm以下であることを特徴とする請求項4または5記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項7の発明は、ドーパントは粉末とし、該粉末のドーパントを珪素粉末に混合することで原料に添加されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項8の発明は、ドーパント粉末が混合された珪素粉末の一部を反応容器の底に均一状に敷き、その上に粒状となったスズの一部を均一状に敷き、その上に塊状のマグネシウムを均一状に並べた後、残りのドーパント粉末が混合された珪素粉末、残りのスズを順次上に敷いたものを加熱して液−固相反応させて固溶体を合成するようにしたことを特徴とする請求項7記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法である。
請求項9の発明は、原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSi1−XSn :但しX=0.4〜0.6
で示される固溶体を合成し、該固溶体を焼結して金属間化合物の焼結体を製造するにあたり、前記固溶体はドーパントが添加された原料から合成されていることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
請求項10の発明は、ドーパントはアンチモンであることを特徴とする請求項9記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
請求項11の発明は、アンチモンの添加量は5000ppm以上であることを特徴とする請求項10記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
請求項12の発明は、ドーパントはビスマスであることを特徴とする請求項9記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
請求項13の発明は、ビスマスの添加量は1000ppm以上であることを特徴とする請求項12記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
請求項14の発明は、ビスマスの添加量は2500ppm以上7500ppm以下であることを特徴とする請求項12または13記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1または9の発明とすることにより、マグネシウム、珪素、そしてスズを原料とした一般化学式
MgSi1−XSn :但しX=0.4〜0.6
で示される金属間化合物の焼結体について、ドーパントを添加しても単相でしかも安定しかつ半導体特性が優れたものを容易に製造することができる。
請求項2または10の発明とすることにより、ドーパントをアンチモンとしたものを簡単に製造することができる。
請求項3または11の発明とすることにより、ドーパントをアンチモンとし、ゼーベック係数、比抵抗をキャリア濃度の制御によってコントロールした焼結体を得ることができ、必要とする半導体特性のものを容易に製造できる。
請求項4または12の発明とすることにより、ドーパントをビスマスとしたものを簡単に製造することができる。
請求項5または13の発明とすることにより、ドーパントをビスマスとし、ゼーベック係数、比抵抗をキャリア濃度の制御によってコントロールした焼結体を得ることができ、必要とする半導体特性のものを容易に製造できる。
請求項6または14の発明とすることにより、優れた半導体特性のものを容易に製造することができる。
請求項7の発明とすることにより、ドーパントの均一的な混合が容易となる。
請求項8の発明とすることにより、マグネシウム、珪素、そしてスズにドーパントとしてアンチモンを混合させた固溶体の合成がムラなく均一的にできることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、そしてスズ(Sn)の金属間化合物の焼結体であって、一般化学式
MgSi1−XSn
で表され、この場合に
X=0.4〜0.6
の範囲のものである。これらの金属間化合物の焼結体を生成するにあたりドーパントを含有した状態で固溶体を製造し、このものを焼結することにより前記目的とするマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体を製造する。ドーパントとしては5A族のアンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)に代表されるが、1A族のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等、3A族のスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、1B族の銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、3B族のホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、5A族のリン(P)、砒素(As)を例示することができる。そしてドーパントをアンチモンとした場合、その添加量は5000ppm以上、ビスマスとした場合、その添加量は1000ppm以上であることが実験の結果、確認されている。特にビスマスは、医薬品の材料となるものもあって毒性が低く、本発明を実施するためのドーパントとして好適である。
【0007】
前記目的とする金属間化合物の製造方法としては、予め秤量した珪素とドーパント(アンチモンやビスマス)の粉末(微粉末)をよく混ぜて混合物を作製し、この混合物の一部をボード(例えばカーボンボード)にうっすらと均平状に敷く。その上に、粒状(例えば約1〜2mm)のスズの一部をうっすらと敷く。さらにその上に、魂状(例えば約5mm角の立方体形状や2〜4mmの柱状)をした全てのマグネシウムを一面に均一となるように並べる。その後、残りの珪素とドーパントの混合物を均一となるようにふりかけ、最後に残りのスズを均一となるようにふりかける。このように処理する(図1参照)ことにより、マグネシウムが、珪素、スズ、そしてドーパントによって包み込まれるようにしてボードに入れられる。このようにして処理された混合物を電気炉に入れて固溶体を作製する。そして得られた固溶体を粉砕(例えば乳鉢にて粉砕)し、該得られた粉末を所要形状に成型した後、焼結することで目的とする単相の前記金属間化合物の焼結体が生成する。
【実施例1】
【0008】
<MgSi0.50Sn0.50の焼結体の製造 その1>
純度99.9%のMgを約5mm角の立方体形状に成形したものと、純度99.9999%のSi微粉末と、純度99.999%のSnを1〜2mmの粒状にしたものと、純度99.9%のSbの数十μmの粉状のものを用意する。これらの配合比は、モル比でMg:Si:Sn=2.05:0.50:0.50となるように秤量し、さらにSbについては、0、5000、7500、10000、15000ppm(=1000000×Sb/Mg+Si+Sn)となるようにそれぞれ秤量する。そしてこれら秤量したものの合計が10gとなるようにする。これらのうち、まず、SiとSbとを予め良く混合した後、これら混合したもののうちの約0.8gをカーボンボードの底にうっすらと均一状に敷く。次いでその上にSnの約0.8gをうっすらと均一状に敷き、その上に全てのMg(約5.0g)を一面に均一状に並べる。しかる後、残りのSiとSbとの混合物(約1.6g)を均一状にふりかけ、さらにその上に残りのSn(約1.6g)を均一状にふりかける。このようにして全ての材料が仕込まれたカーボンボードを電気炉に入れ、0.1MPaのアルゴン−3%H雰囲気下で830℃、4時間の液−固相反応による合成をして固溶体を生成した。
該生成した固溶体を粉砕し、粒径が38〜75μmの範囲となるように分級し、これをホットプレスにより焼結して目的とする金属間化合物の焼結体を得た。ホットプレスの条件としては、0.2MPaのアルゴン雰囲気下で、焼結温度770℃、80MPaで5時間の焼結を行い、直径16mm、厚さ5mmのタブレット状の目的化合物の焼結体を得た。
【0009】
前記得られた焼結体について、X線回折した結果を図2に示す。これらの結果から、添加したSb、さらにはSb化合物のピークは観測されなかった。さらに図3は(220)面の拡大図を示す。これは前記特許文献1の図12において示されるMgSnとMgSiの(220)面の値の丁度あいだに単一でシャープなピークとなっていることから、単相のMgSi0.50Sn0.50になっていることが確認される。
【0010】
そこで次に、これら作製した試料(焼結体)について熱電特性を測定し、その結果を図4の表図に示す。尚、αはゼーベック係数(μV/K)、κは熱伝導率(W/mK)、ρは比抵抗(Ωm)、nはキャリア濃度(1/m)、Zは性能指数(1/K)である。図5にSb添加量に対するゼーベック係数αと比抵抗ρとの関係を示す。ゼーベック係数αは、全ての添加量(無添加も含む)で負の値を示しており、このことからn型伝導を示すことが確認された。そしてゼーベック係数αは、Sbを無添加の−384.5μV/Kから添加量7500ppmの−120.8μV/Kまで直線的に減少しているが、添加量7500ppm以上ではその減少率が小さくなっていることが確認される。また比抵抗ρもゼーベック係数αと同様の傾向を示し、やはりn型伝導を示している。
【0011】
このようにSb添加量が7500ppmを境としてゼーベック係数αと比抵抗ρの変化率が変化する原因を知るため、キャリア濃度nとゼーベック指数α、比抵抗ρとの関係を調べた。蓋しゼーベック係数αと比抵抗ρはキャリア濃度nに依存するからである。図6の(A)にSb添加量とキャリア濃度nとの関係を、同図の(B)にキャリア濃度nとゼーベック係数αおよび比抵抗ρとの関係を示す。図6(A)によると、Sbの添加量が7500ppmまではキャリア濃度nが直線的に増加しているが、添加量が7500ppm以上では増加率が極端に小さくなり、Sbによるキャリア生成率が小さくなっていることが確認された。そこで、キャリア濃度nの関数としてゼーベック係数αと比抵抗ρとをプロットしなおすと、図6(B)からゼーベック係数αおよび比抵抗ρはキャリア濃度nと略直線の関係にあることが確認され、このことからSb添加によるキャリア濃度nの制御によりゼーベック係数αと比抵抗ρとが制御できることが確認された。
【0012】
次に、室温における熱伝導率κとキャリア濃度nとの関係を図7に示す。これによると、熱伝導率κは、キャリア濃度nの増加に伴って増加しており、キャリア濃度nが2.4×1026(1/m)のときに、Sb無添加試料の2.4×1024(1/m)と比べて約1.5倍と大きくなっている。これをキャリア成分κelとフォノン成分κphとに分けたものを図7に示すが、これによるとキャリア濃度nの増加と共にキャリア成分κelは増加しているが、フォノン成分κphは僅かに減少している。そしてトータルの熱伝導率κtotal(=κel+κph)の増加は主にキャリア成分κelの増加によることが明らかである。
【0013】
以上の結果から、Sb添加に対する性能指数Zは、無添加の0.2×10−3(1/K)からSb添加量7500ppmのものまでが増加し、それ以上の添加量ではわずかに減少している。つまりキャリア濃度nは1.35×1026(1/m)で最大となり、その値は0.74×10−3(1/K)と大きな値を示した(図8参照)。
【0014】
次に、熱電特性の温度依存性について調べた。図9にゼーベック係数αの温度依存性を示す。Sb無添加のものでは、温度の上昇と共に増加し、約430K付近で極大値を示し、その後、減少している。これに対し、Sb添加量が7500ppmと10000ppmとは、測定範囲内において極大値は観測されず、直線的に増加した。これによってSb添加量の増加に伴って極大値を取る温度が高温側にシフトしていることが確認され、これは真性領域に入る温度が高温側に変化しているためである。
【0015】
図10に比抵抗ρの温度依存性を示す。Sb添加量が5000ppmの試料の比抵抗ρは半導体的変化を示し、約600K以上で真性領域になり、直線的に減少している。これに対し、Sb添加量が7500ppmと10000ppmのものは、測定範囲内で温度上昇に伴い単調に増加しており、これはキャリア濃度nが1026台とかなり高いために縮退状態になっているためであると考えられる。したがって、ゼーベック係数αと比抵抗ρの温度依存性がSb添加量5000ppmと7500ppmとで異なるのは、7500ppm以上のSb添加で縮退状態になっているためであることが分かる。
【0016】
図11(A)、(B)に半導体的な特性を示すSbの5000ppm添加試料と7500ppm添加試料の熱伝導率κ、キャリア成分κel、フォノン成分κphの温度依存性を示す。κ値はレーザフラッシュ法で測定した熱拡散率と室温の比熱から計算した。熱伝導率の変化は共に温度上昇に伴って小さくなり、約600Kで極小値を示し、それ以上では急激に大きくなっている。この熱伝導率の増加原因を検討するため熱伝導機構の解析を行った。前述したように、
κ=κel+κph
で表される。またWiedeman−Franz(ウィーデマン−フランツ)則により、κel
κel=LT/ρ L:ローレンツ数
と表せるから、測定値のκから計算で求めたκelを差し引いてκphを求めた。キャリア成分κelはSb添加量が5000ppmよりも7500ppmの方が大きい値を示しており、フォノン成分κphは、極小値を示す温度以下ではともに1/Tに比例していたが、該温度以上では急激に大きくなっており、これはバイポーラ(電子と正孔)による成分の増加によるものと考えられる。
【0017】
図12に熱電特性の温度依存性から求めた無次元性能指数ZTを示す。Sb添加量が5000ppm、7500ppmの試料共に温度上昇に伴って大きくなり、7500ppm添加の試料は約600KでZT=1.2と大きな値を示していることが確認された。
【0018】
図13に、中温域で熱電性能を発揮する代表的なn型熱半導体と、今回作製したSb添加をしたMgSi0.50Sn0.50の性能指数Zの温度依存性を示す。MgSi0.50Sn0.50にSbを添加したものは、同じ系であるMgSi0.60Ge0.40(Sb添加)のものよりも大きな値を示している。また市販化されているPbTeとほぼ同等か若干高い値を示している。
【0019】
これらの結果から、作製した焼結体は全て単相で、Sb単体やSb化合物は観測されなかった。Sb添加量の増加に伴ってキャリア濃度が増加するが、その増加率はSb添加量が7500ppmを境に変化した。これはSb添加量が7500ppm以上では縮退しているからと考えられる。またゼーベック係数αと比抵抗ρは、キャリア濃度nの制御でコントロールできることが確認された。性能指数Zが最も大きくなるSb添加量は7500ppmであり、約600Kで最大値1.88×10−3(1/m)を示した。
【実施例2】
【0020】
<MgSi0.50Sn0.50の焼結体の製造 その2>
純度99.9%のMgを約5mm角の立方体形状に成形したものと、純度99.9999%のSi微粉末と、純度99.999%のSnを1〜2mmの粒状にしたものと、純度99.9%のBiの数十μmの粉状のものを用意する。これらの配合比は、モル比でMg:Si:Sn=2.05:0.50:0.50となるように秤量し、さらにBiについては、0、1000、2500、5000、7500、10000、15000ppm(=1000000×Bi/Mg+Si+Sn)となるようにそれぞれ秤量する。そしてこれら秤量したものの合計が10gとなるようにする。これらのうち、まず、SiとBiとを予め良く混合した後、これら混合したもののうちの約0.8gをカーボンボードの底にうっすらと均一状に敷く。次いでその上にSnの約0.8gをうっすらと均一状に敷き、その上に全てのMg(約5.0g)を一面に均一状に並べる。しかる後、残りのSiとBiとの混合物(約1.6g)を均一状にふりかけ、さらにその上に残りのSn(約1.6g)を均一状にふりかける。このようにして全ての材料が仕込まれたカーボンボードを電気炉に入れ、0.1MPaのアルゴン−3%H雰囲気下で830℃、4時間の液−固相反応による合成をして固溶体を生成した。
該生成した固溶体を粉砕し、粒径が38〜75μmの範囲となるように分級し、これをホットプレスにより焼結して目的とする金属間化合物の焼結体を得た。ホットプレスの条件としては、0.2MPaのアルゴン雰囲気下で、焼結温度770℃、80MPaで5時間の焼結を行い、直径16mm、厚さ5mmのタブレット状の目的化合物の焼結体を得た。
【0021】
得られた焼結体についてX線回折した結果を図14、15に示す。この回折結果図によると、ドーパントとしてSbを用いた場合と同様、何れのものも添加したBiおよびBi化合物のピークは観測されないと共に、MgSnとMgSiの(220)面の値のあいだに単一でシャープなピークがあることが観測され、これらのことから、単相のMgSi0.50Sn0.50の焼結体が生成され、そしてBiは生成した焼結体の化合物中に固溶したものであることが確認される。
【0022】
そこで、これら得られた焼結体について熱電特性を測定した。その結果を図16に示す。これらの結果から、Sbを添加したものと同様、n型伝動を示すことが確認される。そのうちの性能指数Z(1/K)についてドーパントとしてSb、Biの添加量を変化させてそれぞれ製造したMgSi0.50Sn0.50の性能指数Zの関係を図17に示す。これによるとBiの添加量に対する性能指数Zの変化は、無添加の2×10−4(1/K)のものに対し、Bi添加量が1000ppmのもので既に6×10−4(1/K)と高くなり、2500ppmで最高の性能指数7.1×10−4(1/K)を示し、それ以上の添加量で僅かずつ減少している傾向が確認された。これらのことからドーパントとしてビスマスを用いた場合についても、生成した焼結体であるMgSi0.50Sn0.50は、単相でしかも安定した半導体特性があることが確認される。
【0023】
さらに性能指数ZについてBiとSbとを比較したところ、Biは、Sbに対して少ない添加量のところで高い性能指数Zを示しており、このことからMgSi0.50Sn0.50を製造するドーパントとしては、Biの方が、少ない添加量でよいだけでなく、毒性の点についても問題が少ないこともあってSbよりも優れていることが確認される。
またさらに、図18に、Biをドーパントとして2500、5000、7500ppm添加してそれぞれ製造したMgSi0.50Sn0.50の性能指数Zについて、温度変化させたときのグラフ図を示す。これによると、5000ppm添加したものは、絶対温度約600度Kのとき1.8×10−3以上という優れた半導体特性を示すことが確認されるが、他の二者についてもそれなりに優れた半導体特性を示すことが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】MgSi0.50Sn0.50の固溶体を製造するに際し、原料のセット状態を示す概略図である。
【図2】Sb添加量を変化させて製造したMgSi0.50Sn0.50の金属間化合物焼結体のX線回折パターン図である。
【図3】図2の(220)面部位のX線回折パターン図の拡大図である。
【図4】Sbを添加して作製した試料の熱電特性値を示す表図である。
【図5】Sb添加量とゼーベック係数α、比抵抗ρとの関係を示すグラフ図である。
【図6】(A)、(B)はSb添加量とキャリア濃度nとの関係、キャリア濃度nとゼーベック係数α、比抵抗ρの関係を示すグラフ図である。
【図7】キャリア濃度nと熱伝導率との関係を示すグラフ図である。
【図8】Sb添加量と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図9】ゼーベック係数αの温度依存性を示すグラフ図である。
【図10】比抵抗ρの温度依存性を示すグラフ図である。
【図11】(A)、(B)はSb添加量が5000ppm、7500ppmの試料の熱伝導率κの温度依存性を示すグラフ図である。
【図12】Sb添加量が5000ppm、7500ppmの試料の無次元性能指数ZTの温度依存性を示すグラフ図である。
【図13】中温域での性能指数Zと温度との関係を示すグラフ図である。
【図14】Bi添加量を変化させて製造したMgSi0.50Sn0.50の金属間化合物焼結体のX線回折パターン図である。
【図15】図14の(111)から(220)面部位のX線回折パターン図の拡大図である。
【図16】Biを添加して作製した試料の熱電特性値を示す表図である。
【図17】SbおよびBiの添加量を変化させた場合の焼結体の性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図18】Biをドーパントとして2500、5000、7500ppm添加してそれぞれ製造したMgSi0.50Sn0.50の性能指数Zと温度との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSi1−XSn :但しX=0.4〜0.6
で示される固溶体を合成し、該固溶体を焼結して金属間化合物の焼結体を製造するにあたり、前記固溶体はドーパントが添加された原料から合成されていることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項2】
ドーパントはアンチモンであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項3】
アンチモンの添加量は5000ppm以上であることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる請求項2記載の金属間化合物の製造方法。
【請求項4】
ドーパントはビスマスであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項5】
ビスマスの添加量は1000ppm以上であることを特徴とする請求項4記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項6】
ビスマスの添加量は2500ppm以上7500ppm以下であることを特徴とする請求項4または5記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項7】
ドーパントは粉末とし、該粉末のドーパントを珪素粉末に混合することで原料に添加されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項8】
ドーパント粉末が混合された珪素粉末の一部を反応容器の底に均一状に敷き、その上に粒状となったスズの一部を均一状に敷き、その上に塊状のマグネシウムを均一状に並べた後、残りのドーパント粉末が混合された珪素粉末、残りのスズを順次上に敷いたものを加熱して液−固相反応させて固溶体を合成するようにしたことを特徴とする請求項7記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の製造方法。
【請求項9】
原料のマグネシウム、珪素、スズを液−固相反応せしめて一般化学式
MgSi1−XSn :但しX=0.4〜0.6
で示される固溶体を合成し、該固溶体を焼結して金属間化合物の焼結体を製造するにあたり、前記固溶体はドーパントが添加された原料から合成されていることを特徴とするマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。
【請求項10】
ドーパントはアンチモンであることを特徴とする請求項9記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。
【請求項11】
アンチモンの添加量は5000ppm以上であることを特徴とする請求項10記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。
【請求項12】
ドーパントはビスマスであることを特徴とする請求項9記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。
【請求項13】
ビスマスの添加量は1000ppm以上であることを特徴とする請求項12記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。
【請求項14】
ビスマスの添加量は2500ppm以上7500ppm以下であることを特徴とする請求項12または13記載のマグネシウム、珪素、スズからなる金属間化合物の焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−146283(P2007−146283A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243251(P2006−243251)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月28日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】