説明

マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源を用いる代謝障害のハイスループットスクリーニング

マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源(例えば、MALDI)を使用する代謝障害のハイスループットスクリーニングおよび分析のための方法およびキットが提供される。代謝障害は、アミノ酸、有機酸または脂肪酸酸化の障害であり得る。一群の障害を高速度で分析することができる。本発明の方法およびキットは、代謝障害の新生児スクリーニング(NBS)のために特に有用である。本発明の方法はさらに、イオン源によって生じたイオンをダンピングガスにより衝突ダンピング/冷却することを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年1月31日に出願された米国仮特許出願第61/025,052号からの優先権を主張し、この出願の内容は本明細書において参考として援用される。
【0002】
本明細書中で使用される節見出しは構成目的のためだけであり、記載される主題を限定するものとして決して解釈してはならない。
【0003】
本発明は、代謝障害をサンプルにおいて検出するための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0004】
生物学的障害についてのスクリーニング、特に、これらの障害についての新生児スクリーニング(NBS)が現在、特定の障害スクリーニングに依存する様々な方法を使用して行われる。NBSのためのアミノ酸およびアシルカルニチンの分析が現在、タンデム質量分析法と連結されるエレクトロスプレーイオン化(ESI−MS/MS)を使用して一部の実施者によって行われる。質量分析法と連結される液体クロマトグラフィーもまたこれまで、NBSのために、特に、いくつかの有機酸分析のために使用されている。本出願人の教示により、多数の代謝障害(例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害など)を、現時点において典型的に実施される方法よりも著しく高い分析速度で分析するための手段が提供され、具体的には、そのような分析速度での、先天性の代謝異常の分析が提供される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願人の教示におけるこれらの特徴および他の特徴が本明細書中に示される。
【0006】
本発明の1つの局面が、下記の工程を含む、生物学的サンプルを代謝障害について分析するための方法を提供することである:(a)生物学的サンプルを提供する工程、および、(b)サンプルを、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源によって分析する工程。分析する工程はマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法を含むことができる。本発明の方法はさらに、イオン源によって生じたイオンをダンピングガスにより衝突ダンピング/冷却することを含むことができる。衝突ダンピング/冷却する工程は直交MALDI(oMALDI)が可能である。代謝障害は新生児の代謝障害であり得る。代謝障害は、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害からなる群から選択され得る。そのような障害は、とりわけ、フェニルケトン尿症(PKU)、高フェニルアラニン血症、メープルシロップ尿症(MSUD)、ホモシスチン尿症、シトルリン血症(I型およびII型)、アルギニン血症、アルギニノコハク酸血症(ASA)、チロシン血症(I型およびII型)、ホモシトルリン尿症、高オルニチン血症、高アンモニア血症(HHH)、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)欠損症、ビオプテリン欠損症、プロリン血症(prolinemia)、高メチオニン血症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)欠損症、超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(VLCAD)欠損症、短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(SCAD)欠損症、多種アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MAD)欠損症、長鎖3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(LCHAD)欠損症、中/短鎖L−3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(M/SCHAD)欠損症、三官能性タンパク質欠損症(TFP)、I型およびII型のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損症(CPT−I、CPT−II)、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)欠損症、カルニチン輸送体欠損症、カルニチン取り込み欠陥、短鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(SKAT)欠損症、中鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(MCKAT)欠損症、2,4−ジエノイルCoAレダクターゼ欠損症、グルタル酸血症II型(GA−II)、3−メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(3−MCC)欠損症、グルタル酸血症I型(GA−I)、メチルマロン酸血症(MMA)、プロピオン酸血症(PA)、イソ吉草酸血症(IVA)、マロン酸尿症(MA)、多種カルボキシラーゼ欠損症(MCD)、2−メチル−3−ヒドロキシブチリル(hydroxybutyrl)CoAデヒドロゲナーゼ(MHBD)欠損症、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルCoAリアーゼ(HMG)欠損症、2−メチルブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(2MBCD)欠損症、3−メチルグルタコン酸尿症(MGA)、イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(IBD)欠損症、β−ケトチオラーゼ欠損症(BKT)ならびにエチルマロン酸脳症(EE)からなる群から選択することができる。
【0007】
上記で記載される方法において、生物学的サンプルを提供する工程は、サンプルを誘導体化し、ターゲット表面にスポットすることを含むことができる。サンプルを誘導体化することはブチルエステル形態への誘導体化を含むことができる。生物学的サンプルを提供する工程は、生物学的サンプルをCHCAとおよそ1:1で混合することを含むことができる。
【0008】
上記で記載される方法において、生物学的サンプルは、誘導体化されていないアミノ酸またはアシルカルニチンが可能であり、かつ、工程(a)は、(i)誘導体化されていないサンプルをUV物質と混合すること、および、(ii)誘導体化されていないサンプルをターゲット表面にスポットすることを含むことができる。
【0009】
上記で記載される方法において、サンプルを分析する工程は、タンデムマススペクトロメーター、三連四重極マスアナライザーまたはイオン・トラップ・マススペクトロメーターを含むことができる。本発明の方法はさらに、多重(multiple)反応モニタリングを含むことができる。本発明の方法はさらに、サンプルを質量分析法によって分析する前に、液体クロマトグラフィーの工程を含むことができる。さらに、生物学的サンプルは、全血、血液成分、凍結血液、血液スポット、血清、血漿、生理学的体液、生理学的組織、口内スワブ、毛髪、脳脊髄液、ガラス体液または羊水などから選ぶことができる。最後に、分析する工程は正イオンモードまたは負イオンモードでの分析を含むことができる。
【0010】
上記で記載される方法において、サンプルを分析する工程は一群の生物学的サンプルの分析を含むことができる。そのような分析は、離散的モードの操作、ラスターリングモード(rastering mode)の操作、または、パターンラスターモード(pattern raster mode)の操作によって行うことができる。さらに、生物学的サンプルを提供する工程は、生物学的サンプルを、一群の生物学的サンプルをもたらすためにターゲット表面にスポットすることを含むことができ、かつ、少なくとも1つのスポットが、少なくとも2つの生物学的障害について同時に分析される生物学的サンプルを含む。
【0011】
本発明の別の局面が、下記の工程を含む、生物学的障害についての一群の生物学的サンプルの多重化された分析のための方法を提供することである:(a)一群の生物学的サンプルを提供する工程、(b)一群の生物学的サンプルをターゲット表面にスポットする工程、および、(c)一群の生物学的サンプルを、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源によって分析する工程。
【0012】
本発明の別の局面が、(i)マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源による分析のための、代謝障害の分析種を含む生物学的サンプル、または、代謝障害の分析種を含むことが疑われる生物学的サンプルを採取、調製および/または分析するための試薬;および、(ii)マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源による分析のためのサンプルを採取、調製および/または分析するための説明書の1つ以上を含む、代謝障害を分析するためのキットを提供することである。代謝障害は新生児の代謝障害であり得る。さらに、本発明のキットは、一群の代謝障害を分析するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、下記において記載される図面が例示目的のためだけであることを理解する。図面は、本出願人の教示の範囲を限定することが決して意図されない。
【図1】図1は、誘導体化されたアシルカルニチンに対するシグナルについての例示的なデータを示す、85.1Daのプリカーサーイオンについての質量スペクトルである。
【図2】図2は、誘導体化されたアミノ酸に対するシグナルについての例示的なデータを示す、102.0Daのニュートラルロスについての質量スペクトルである。
【図3】図3は、誘導体化された遊離型カルニチン(C0)、アセチルカルニチン(C2)およびステアロイルカルニチン(C18)に対するシグナルの例示的なMRM質量スペクトルである。
【図4】図4は、誘導体化されたアミノ酸(フェニルアラニン(Phe)およびチロシン(Tyr))に対するシグナルの例示的なMRM質量スペクトルである。
【図5】図5は、非修飾型カルニチンについての誘導体化されていない内部標準物(C0−D9)、ブチリルカルニチンについての誘導体化されていない内部標準物(C4−D3)およびパルミトイルカルニチンについての誘導体化されていない内部標準物(C16−D3)に対するシグナルの例示的なMRM質量スペクトルである。
【図6】図6は、141.1Daのプロダクト質量を使用する、ヘキサノイルカルニチン(C6)およびその内部標準物(C6−D3)に対するシグナルの例示的なMRM質量スペクトルである。
【図7】図7は、誘導体化されていないアミノ酸(トリプトファン)に対するシグナルの例示的なMRM質量スペクトルである。
【図8】図8は、乾燥血液スポット(DBS)から測定される例示的なアシルカルニチン濃度を示すチャートである。
【図9】図9は、乾燥血液スポットから得られるアシルカルニチン濃度測定値の例示的な再現性を示すチャートである。
【図10】図10は、乾燥血液スポットから測定される例示的なアミノ酸濃度を示すチャートである。
【図11】図11は、乾燥血液スポットから得られるアミノ酸濃度測定値の例示的な再現性を示すチャートである。
【図12】図12は、乾燥血液スポットから得られる19個のアシルカルニチンイオン対についてのMRM測定値の相対的強度を示す例示的な質量スペクトルである。は、同位体標識された内部標準物を示す。
【図13】図13は、イソロイシン(Ile)ブチルエステルの多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(188.0→86.2)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図14】図14は、へキサノイルカルニチン(C6)ブチルエステルのMRM遷移イオン(316.0→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図15】図15は、アセチルカルニチン(C2)ブチルエステルのMRM遷移イオン(218.0→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図16】図16は、アセチルカルニチン(C2)ブチルエステルのMRM遷移イオン(218.0→103.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図17】図17は、アルギニン(Arg)ブチルエステルのMRM遷移イオン(231.1→69.9)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図18】図18は、オクタノイルカルニチン(C8)ブチルエステルのMRM遷移イオン(344.1→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図19】図19は、シトルリン(Cit)ブチルエステルのMRM遷移イオン(232.1→113.1)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図20】図20は、メチオニン(Met)ブチルエステルのMRM遷移イオン(206.1→103.9)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図21】図21は、オルニチン(Orn)ブチルエステルのMRM遷移イオン(189.2→69.9)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図22】図22は、フェニルアラニン(Phe)ブチルエステルのMRM遷移イオン(222.1→120.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図23】図23は、チロシン(Tyr)ブチルエステルのMRM遷移イオン(238.0→136.1)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図24】図24は、バリン(Val)ブチルエステルのMRM遷移イオン(174.1→72.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。それぞれのピークが、異なるレーザー出力を使用して得られた。
【図25】図25は、重水素化された非修飾型カルニチン(C0)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(171.2→103.1)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図26】図26は、重水素化されたアセチルカルニチン(C2)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(207.2→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図27】図27は、重水素化されたプロピオニルカルニチン(C3)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(221.2→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図28】図28は、重水素化されたブチリルカルニチン(C4)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(235.3→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図29】図29は、重水素化されたイソバレリルカルニチン(C5)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(255.3→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図30】図30は、重水素化されたオクタノイルカルニチン(C8)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(291.3→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図31】図31は、重水素化されたミリストイルカルニチン(C14)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(381.3→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図32】図32は、重水素化されたパルミトイルカルニチン(C16)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(403.3→85.0)に対するシグナルの質量スペクトルである。4つ一組のピークにより、異なる分析種濃度が表される。
【図33】図33は、アスパラギン(Asn)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(133.2→73.8)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【図34】図34は、ヒスチジン(His)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(156.2→110.4)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【図35】図35は、プロリン(Pro)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(116.2→70.2)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【図36】図36は、セリン(Ser)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(106.0→60.4)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【図37】図37は、トレオニン(Thr)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(120.4→74.2)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【図38】図38は、トリプトファン(Trp)の多重反応モニタリング(MRM)遷移イオン(205.4→188.2)に対するシグナルの質量スペクトルである。最初のピークが分析種に起因し、2番目のピークがMALDIマトリックスのバックグラウンドに起因する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本出願人の教示が様々な実施形態と併せて記載されるが、本出願人の教示がそのような実施形態に限定されることは意図されない。これに反して、本出願人の教示は、当業者によって理解されるように、様々な代替、改変および均等物を包含する。
【0015】
近年、数多くの報告が、新生児スクリーニングを特に先天性の代謝異常について行うために質量分析法を使用することの利点に関してなされている。エレクトロスプレー三連四重極質量分析法によって、NBSのために現在使用される2つの主要なスキャン機能が、プリカーサーイオンスキャンおよびニュートラルロススキャンである。これらのスキャンモードは典型的には、ある種のクラスの化合物に関して示される共通した化学反応を利用するために、または、特定のサンプル調製技術を利用するために用いられる。これら2つのスキャンモードに関して、マススペクトロメーターは、特定の質量範囲にわたってスキャンするために設定され、しかし、分析速度が三連四重極マススペクトロメーターのスキャン速度によって制約され、その結果、サンプル処理能が制限される。NBSの実施者には、分析速度をデータの質および結果の質とバランスさせることが要求され、また、スキャンを速くし過ぎることは、データおよび結果の質を損ない得る。より近年には、限られた数のNBS実施者が、いくつかの疾患状態についての高速分析を行うために、具体的には、生物学的疾患(例えば、代謝障害など)についての高速分析を行うために、三連四重極マススペクトロメーターの多重反応モニタリング(MRM)モードの操作を用いている。これらの実施者はまた、実施者の方法開発において、また、MRMモードの操作によってもたらされる定量的または半定量的な測定に加えて、さらなる疾患評価のために、他の三連四重極モードの操作(例えば、プロダクトイオンスキャン、ニュートラルロススキャン、プリカーサーイオンスキャンおよびシングル四重極スキャンなど)を用いた。
【0016】
本出願人の教示は、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源を使用することによる、代謝障害(これには、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害が含まれるが、これらに限定されない)についての分析を含む。例えば、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源は、三連四重極マスアナライザーと連結されるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、具体的には、定量的または半定量的な分析を提供するためのそのようなマスアナライザーのMRMモードの操作と連結されるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を含むことができる。代替では、マススペクトロメーターに連結されるレーザー脱離イオン源は、MALDIマトリックスの必要性を除くために特別に設計されている、それにもかかわらず、依然として、表面からの分析種の十分な脱離およびイオン化をもたらす任意のターゲット表面を含むことができる。本出願人の教示は、代謝障害(例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害など)についての新生児スクリーニングにおいて特に有用である。NBSの場合、そのような分析は、特定の疾患状態に対する予防目的または診断目的のためのものであり得る。分析は、特定の代謝障害(例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害など)を思わせる特定の分析種の検出および定量によって達成することができる。
【0017】
当業者には知られているように、代謝障害には、アミノ酸障害、脂肪酸酸化(FAO)障害および有機酸障害が含まれ得るが、代謝障害はこれらに限定されない。アミノ酸障害には、例えば、フェニルケトン尿症(PKU)および他の高フェニルアラニン血症、メープルシロップ尿症(MSUD)、ホモシスチン尿症、シトルリン血症(I型およびII型)、アルギニン血症、アルギニノコハク酸尿症(ASA)、チロシン血症(I型およびII型)、ホモシトルリン尿症、高オルニチン血症、高アンモニア血症(HHH)、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)欠損症、ビオプテリン欠損症、プロリン血症、高メチオニン血症および脳回転状網膜脈絡膜萎縮が含まれ得るが、アミノ酸障害はこれらに限定されない。MS/MSによるアミノ酸障害についてのスクリーニングでは通常、アミノ酸に対する定量的または半定量的な測定を行うことが伴う。
【0018】
当業者には知られているように、FAO障害には、例えば、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)欠損症、超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(VLCAD)欠損症、短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(SCAD)欠損症、多種アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MAD)欠損症、長鎖3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(LCHAD)欠損症、中/短鎖L−3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(M/SCHAD)欠損症、三官能性タンパク質欠損症(TFP)、I型およびII型のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損症(CPT−I、CPT−II)、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)欠損症、カルニチン輸送体欠損症、カルニチン取り込み欠陥、短鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(SKAT)欠損症、中鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(MCKAT)欠損症、2,4−ジエノイルCoAレダクターゼ欠損症ならびにグルタル酸血症II型(GA−II)が含まれ得るが、FAO障害はこれらに限定されない。MS/MSによる脂肪酸障害についてのスクリーニングでは通常、アシルカルニチンに対する定量的または半定量的な測定を行うことが伴う。非修飾型カルニチンはアシルカルニチンではなく、しかし、当業者が理解するように、用語「アシルカルニチン」の使用には、測定をNBSのために行うことの関連においては、多くの場合、非修飾型カルニチンが真のアシルカルニチンと一緒に含まれる。そのようなことが、この議論では当てはまる。
【0019】
当業者には知られているように、有機酸障害には、例えば、3−メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(3−MCC)欠損症、グルタル酸血症I型(GA−I)、メチルマロン酸血症(MMA)、プロピオン酸血症(PA)、イソ吉草酸血症(IVA)、マロン酸尿症(MA)、多種カルボキシラーゼ欠損症(MCD)、2−メチル−3−ヒドロキシブチリル(hydroxybutyrl)CoAデヒドロゲナーゼ(MHBD)欠損症、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルCoAリアーゼ(HMG)欠損症、2−メチルブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(2MBCD)欠損症、3−メチルグルタコン酸尿症(MGA)、イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(IBD)欠損症、β−ケトチオラーゼ欠損症(BKT)およびエチルマロン酸脳症(EE)が含まれ得るが、有機酸障害はこれらに限定されない。
【0020】
本出願人の教示は、ターゲットプレート(例えば、MALDIプレート)上のサンプルのレーザー脱離の使用、それに続く、質量分析法分析によるバイオマーカーのハイスループット定量を含む。MALDIは、サンプルがMALDIマトリックス(UV光吸収化合物)と一緒にされ、ターゲット表面の特定の場所に置かれ、その後、一連のレーザーパルスによって脱離およびイオン化させられ、これにより、アブレーションプルームを形成させるイオン化技術である。MALDIの場合、アブレーションプルームが、(目的とする分析種を含む)サンプルからの粒子と、MALDIマトリックスからの粒子とから構成される。アブレーションプルームまたはその一部がその後、質量分析法分析に供される。いくつかの一般に使用されるMALDIマトリックスの例には、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(これは多くの場合、α−CHCAまたはCHCAとして示される)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)および3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸(シナピン酸)がある。他のMALDIマトリックスを使用することができ、これらは本発明の範囲に含まれる。マススペクトロメーターに連結されるレーザー脱離イオン源が、MALDIマトリックスの必要性を除くために特別に設計されているターゲット表面を含む場合、サンプルがターゲット表面の特定の場所に同様に置かれ、一連のレーザーパルスにより、アブレーションプルームの形成を伴う脱離およびイオン化がもたらされる。この場合、アブレーションプルームは、(目的とする分析種を含む)サンプルからの粒子から構成され、だが、ターゲット表面から遊離した粒子を含み得る。このMALDIマトリックス非含有アブレーションプルームまたはその一部がその後、質量分析法分析に供される。
【0021】
本発明の方法は、MALDIプルームにおける分析種イオンを衝突冷却するためのダンピングガスの使用を伴うことができる。例えば、本発明の方法は、直交MALDI、すなわち、「oMALDITM」(Applied Biosystems/MDS Sciexの商標)を伴うことができる(これは、Manitoba大学のグループによって導入されたものであり、米国特許第6,331,702号に記載される)。oMALDIは、レーザーアブレーションプロセスを質量分析法検出プロセスから切り離す技術であり、MALDI−TOF装置において典型的に使用される高連結方法とは異なる方法である。oMALDIでは、レーザーアブレーションにより、高周波(RF)イオンガイド内の比較的高い圧力の領域で衝突冷却されるイオンのプルームが生じる。この領域におけるダンピングガスとの衝突により、サンプルに突き当たるレーザー光のパルスから生じるイオンのパルスが準連続イオンビームに変換される。このイオンビームは、イオンビームがいくつかの「スキャンモード」のいずれか1つによって分析されるマススペクトロメーターの中に導かれる。標的イオンの定量を最も容易に可能にするスキャンモードがMRMである。
【0022】
このシステムは、三連四重極(タンデム)マスアナライザーのMRMモードの操作を含むことができる。MRMモードの操作では、最初の質量分析用四重極が、特定の「プリカーサー」イオンを、最初の質量分析用四重極を通過するイオンから選択するように設定され、2番目の質量分析用でない四重極が、プリカーサーイオンの制御された解離を生じさせるために使用され、3番目の四重極(第2の質量分析用四重極)が、プリカーサーイオンの特定のフラグメントイオン(または「プロダクト」イオン)のみを選択するように設定される。プリカーサーおよびプロダクトの組合せがMRMイオン対として示される。
【0023】
この教示において、MRMデータをいくつかの異なる様式で取得することができ、この場合、その違いは、レーザーが、例えば、使用されるアブレーションモードに依存して、ターゲットプレート上のサンプルとどのように相互作用させられるかにおいてである。「ラスター」アブレーションモードでは、レーザービームが1つ以上のサンプルを直線幅で横切ることを伴う。この「ラスターリング」を達成するために、レーザービームが、目的とするサンプルスポットに先立って、サンプル以外の場所に発射され、その後、ターゲットプレートを、新しいサンプルをレーザー照射点に提示するために連続して移動させることができる。このことは、レーザー脱離点がターゲットプレートのサンプル部分/非サンプル部分の交互列と遭遇することを意味する。得られるMRMデータは、サンプルスポット間におけるゼロシグナルのベースラインの領域が挟まれる、サンプルと遭遇した非ゼロシグナルによる、マススペクトロメーターの分析時間の関数として1秒あたりのイオンカウント数によって示される一連のイオンシグナル「ピーク」を含有する。レーザー出力、レーザービーム下におけるターゲットプレート移動速度、モニターされている分析種の数、および、サンプル組成に依存して、1つのサンプルについてのデータを、このモードのアブレーションについてはおよそ0.25秒〜5秒で、(1つまたはいくつかのMRMイオン対をモニターして)取得することが典型的であり得る。
【0024】
「離散的」モードの操作において、レーザーが非発射状態にある場合、ターゲットプレートをレーザー照射点の下に置くことができ、その後、レーザーを特定の期間にわたって作動させることができる。レーザーが発射されていない間、マススペクトロメーターは、(イオンが全く生じないので)ゼロのシグナルを記録する。レーザーが発射を開始するとき、レーザービームが物質をこの特定の場所から脱離させ、これにより、MRMシグナル「ピーク」を生じさせる。MRMシグナルの強度がゼロから上昇し、急速に最大になり、その後、MRMシグナルの強度が、サンプルがターゲットプレート上のその特定の場所からなくなるにつれて低下する。レーザーを止めることによるか、または、サンプルがその特定の場所から完全に消費され、イオンを生じさせるためのサンプルがもはや存在しなくなるまでレーザーを発射することを許すことによるかのどちらかによって、MRMシグナルのレベルがゼロのベースラインレベルに戻る。レーザーの発射を止めた後、サンプルプレートを、新しいサンプル場所を次回のアブレーションのために提示するように移動させることができる。レーザー出力、サンプル組成、および、レーザーが発射される時間の長さに依存して、1つのサンプルについてのデータをこのモードのアブレーションについては十分に1秒未満で取得することが典型的であり得る。
【0025】
他のアブレーションモードでは、サンプルスポットを何らかのパターンに従って移動させ、その結果、連続的に発射されるレーザーがサンプルスポットの至る所でパターンを生じさせるようにすることが伴う。この「パターンラスター」モードでは、サンプルスポット内におけるパターンの形態および速度に依存して、数秒から数分までのイオンの一定した流れが生じる。1つ以上のサンプルスポットをそのようなモードにおいて含むことができ、この場合、適切な調整が、1つのサンプルスポットから次のサンプルスポットに移動するときに伴う。マススペクトロメーターによる方法を、マススペクトロメーターのスキャンタイプを組み合わせることを含めてでさえ、数多くの異なる測定を行うために組み立てることができる。パターンラスターは、この技術(例えば、プリカーサースキャンまたはニュートラルロススキャン)によるMRM分析のために典型的に使用されるアブレーション時間よりも長いアブレーション時間を要求する測定のために有用である。
【0026】
本出願人の教示は、本適用のための標準的なタンデム質量分析法と比較して、サンプル分析の極めて速い速度を提供し、これにより、代謝障害を検出するために使用される先行技術の質量分析法よりもはるかに強力な技術を提供する。MS/MSによってスクリーニングされる障害についての分析速度におけるこの増大は、非常に多数のバイオマーカーについてのスクリーニングを、先行技術および他の最新技術の時間枠と同じ時間枠で、または、先行技術および他の最新技術の時間枠よりも短い時間枠で可能にするために使用することができる。本出願人の方法における速度はまた、特定のバイオマーカーについての極めて速い「ファーストパス(first pass)」スクリーニングを可能にする。1組のバイオマーカーのうちのいずれか1つが、起こり得る障害を意味するレベルで検出されるならば、より詳細かつ特異的なスクリーニングを行うことができる。このことは、再度ではあるが、現在のMS/MS新生児スクリーニングパネルと比較した場合、使用され得るバイオマーカーの数を増大させる。本出願人の教示の別の利点が、サンプルがサンプルプレート上に「凍結」されることであり、このことは、液体サンプル堆積物がサンプルプレート上で結晶化した後、サンプルが固体形態で存在し、したがって、いつでも分析され得ることを意味し、また、様々な手法により、同じ生物学的サンプルに対するより詳細なスクリーニングを直ちに行うことができることを提供する。サンプルプレート上でのサンプルの「凍結」された局面によりまた、サンプルの便利なプレート上での貯蔵および輸送が提供され得る。代謝障害(例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害など)についてスクリーニングするための、先例を見ない分析速度に加えて、MALDI−MRM方法は非常に少量のサンプルを消費するだけである。ターゲットプレートへのサンプル堆積量は典型的には1μlの程度であり、多数回の単一ラスターの試みを、それぞれの試みを前回の試みに隣接させることにより、同じ乾燥サンプルスポットの全域で行うことができる。このことは、サンプルがプレート(例えば、MALDIプレート)に堆積させられると、サンプルは整列して「凍結」され、したがって、特定のサンプルに関連する何らかの他の測定について得られる結果に依存して再測定され得ることを意味する。代替として、サンプルスポットをターゲットプレート上に形成するために要求される少ないサンプル体積のために、同じ生物学的サンプルをプレート上に数回スポットすることができ、これにより、異なる分析が異なるサンプル場所に対して行われる。
【0027】
サンプルは、分析種を含有する物質、または、分析種を含有することが疑われる物質である。サンプルは、本明細書中に記載される方法によって分析され得る任意のサンプルであり得る。例えば、サンプルは、血液、血清、血漿または尿が可能であり、しかし、サンプルはこれらに限定されない。
【0028】
上記で述べられたように、生物学的サンプルは任意の生物学的サンプルが可能であり、例えば、生物学的サンプルは、新生児の踵穿刺から得られる乾燥血液スポット(DBS)が可能である。当業者に知られているように、生物学的サンプルはまた、全血または血液成分(例えば、血清または血漿)が可能であり、しかし、生物学的サンプルはこれらに限定されない。「生理学的体液&生理学的組織」と一般に呼ばれる他の生物学的サンプルには、より具体的には、少数の例を挙げると、口内スワブ、毛髪、脳脊髄液、ガラス体液、羊水、凍結血液または乾燥血液スポット(DBS)が含まれ得る。
【実施例】
【0029】
本出願人の教示の様々な局面を下記の実施例に照らしてさらに理解することができ、しかし、下記の実施例は、本出願人の教示の範囲を限定するものとして決して解釈してはならない。
【0030】
実施例1。ChromsystemsTM(ドイツ)新生児スクリーニングキット、ならびに、いくつかの市販されているアシルカルニチンおよびアミノ酸が、生物学的障害についてのハイスループットスクリーニングに適用可能な今までにない測定を行うためのMALDI−MRM方法の有用性を明らかにするために使用されている。
【0031】
ChromsystemsTMNBSキットは、13個のアシルカルニチン、12個のアミノ酸、および、これらのそれぞれについての同位体標識(重水素化)された内部標準物を含有する。キットにおける13個のアシルカルニチンは、非修飾型カルニチン(C0)、アセチルカルニチン(C2)、プロピオニルカルニチン(C3)、ブチリルカルニチン(C4)、イソバレリルカルニチン(C5)、ヘキサノイルカルニチン(C6)、オクタノイルカルニチン(C8)、デカノイルカルニチン(C10)、グルタリルカルニチン(C5DC)、ドデカノイルカルニチン(C12)、ミリストイルカルニチン(C14)、パルミトイルカルニチン(C16)およびステアロイルカルニチン(C18)である。アシルカルニチンについての略号または記号は一般に、それらの炭素含有アルキル鎖の長さに由来する。キットにおける12個のアミノ酸は、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、ロイシン(Leu)、アルギニン(Arg)、シトルリン(Cit)、グルタミン酸(Glu)、オルニチン(Orn)、メチオニン(Met)、バリン(Val)、アスパラギン酸(Asp)、アラニン(Ala)およびグリシン(Gly)である。ChromsystemsTM調節キットが、ChromsystemsTM新生児スクリーニングキットとともに供給され、これは、上記の13個のアシルカルニチン、12個のアミノ酸、および、これらのそれぞれについての重水素化された内部標準物を含有する(これらの化合物のそれぞれが酪酸エステル形態に誘導体化されている)。ブチル化アシルカルニチンおよび多くのブチル化アミノ酸は、それらの誘導体化されていない対応物よりも56Da大きい質量を有する。アスパラギン酸およびグルタミン酸のブチル化形態は2つの酸基を含有しており、それらの誘導体化された形態についての質量を、それらの誘導体化されていない対応物と比較して、112Daの差で増大させる。
【0032】
図面を参照して、図1は、85.1Daのプリカーサーイオンについての三連四重極質量スペクトルを示す。三連四重極マススペクトロメーターが実施例1を通して使用された。これは、質量分析法による新生児スクリーニングにおけるアシルカルニチンの検出および定量または半定量のためにNBS実施者によって典型的に使用されるスキャンタイプである。スペクトルは2つのピークをそれぞれのアシルカルニチン標識体のもとで示し、最初のピークがアシルカルニチン分析種であり、2番目のピークが、数ダルトンより大きいその重水素化された内部標準物である。MALDIサンプルスポットは、ChromsystemsTMキットとともに供給される調節ミックスに由来するアリコートを含有した。この調節ミックスは、上記の13個のアシルカルニチンおよび12個のアミノ酸の生物学的内因レベルよりもいくらかか高い濃度を含有する。ブチル化アシルカルニチンのすべてが、タンデムマススペクトロメーターの衝突セルにおける適正に制御された解離に供されたとき、85Daの質量の特徴的なフラグメントイオンをもたらす。このスペクトルを生じさせるために、MALDIプレートは、サンプルスポットを覆うパターンラスターを行って、レーザービームによるアブレーションのための新鮮なサンプルの連続した供給をもたらすように、高繰り返し率レーザー(1000Hz)アブレーション点のもとで動かされた。第2の質量分析用四重極が、どのプリカーサーイオン質量が85.1Daのフラグメントを生じさせたかを示すために、最初の分析用四重極を質量範囲全域にわたってスキャンさせながら、85.1Daの質量のイオンのみを通過させるために設定された。
【0033】
図2は、ChromsystemsTM調節ミックスに由来するアリコートを含有するMALDIサンプルスポットから同様に取得されたものであり、102.0Daのニュートラルロスについての質量スペクトルを示す。これは、質量分析法による新生児スクリーニングにおけるいくつかのアミノ酸の検出および定量または半定量のためにNBS実施者によって典型的に使用されるスキャンタイプである。スペクトルは2つのピークを8個のアミノ酸標識体のそれぞれのもとで示し、最初のピークがアミノ酸であり、2番目のピークが、数ダルトンより大きいその重水素化された内部標準物である。このスペクトルを生じさせるために、タンデムマススペクトロメーターの2つの分析用四重極が102.0Da離されてロックされ、その後、両方が質量範囲にわたってスキャンされ、レーザーが、1つのサンプルスポットを覆うパターンラスターを行うように命令された。
【0034】
アミノ酸のピークが、マススペクトロメーターの衝突セルにおけるギ酸ブチルの解離的喪失から生じる。ChromsystemsTMキットにおけるアミノ酸のうちの4つが、102Daの中性フラグメントの喪失を含まなかった分子的フラグメンテーションパターンのために、このタンデムマススペクトロメーターでは102のスキャンのニュートラルロスによって測定されなかった。フラグメント化したとき、オルニチンおよびシトルリンは、119Daの総減少のために、ギ酸ブチルのフラグメントだけでなく、アンモニアを失う。グリシンが56Da(ブテン)の喪失によりフラグメント化し、アルギニンは通常、56Daまたは161Daのフラグメントの喪失によってモニターされる。当業者には知られているように、MRMは通常、これらの分析種の定量のために用いられる。他のピークがニュートラルロススペクトルにおいて存在するが、これらは、目的とする分析種に関連していない。同じことが、アシルカルニチン分析のためのプリカーサーイオンスキャンについて当てはまる。アミノ酸との比較において、アシルカルニチンはMALDIによって非常に効率的にイオン化し、調節ミックスにおける高濃度物についてのスペクトルを際立たせるシグナルをもたらし、したがって、それ以外のピークは、図1に示されるスケールについては明白ではない。
【0035】
MALDI−MS−MSに関して、スクリーニングをニュートラルロススキャンおよびプリカーサーイオンスキャンの使用によって行うことができ、しかし、分析速度はMRMの使用の場合よりも遅く、また、目的とする分析種の定量的または半定量的な測定は、質がMRMの使用の場合よりも低い。ニュートラルロススキャンおよびプリカーサーイオンスキャンでは、かなりの時間が、質量範囲全域をスキャンするために要求され、また、さらなる時間が、高品質の定量結果または半定量結果をもたらすスペクトルを得るために十分な回数、これらのスキャンを繰り返すために要求される。これらのスキャンタイプのために要求される時間は、時間のかかるパターンラスターをサンプルアブレーションのために余儀なくさせる。ニュートラルロススキャンおよびプリカーサーイオンスキャンは、使用中の特定のスキャン機能により検出され得る目的とする分析種のプロフィル全体の非常に有用な定性的「スナップショット」をもたらすことができる。しかしながら、MRMの選択性および特異性は、目的とするイオンから生じる識別可能なフラグメントイオンを生物学的性質の妨害から、また、可能性のあるMALDIマトリックスの妨害から分離することができることをもたらし得る。すなわち、MRMスキャンは、特定の分析種に「照準を合わせて」、それらの分析種についての高品質の定量的測定または半定量的測定を行うために使用することができ、これにより、他のスキャンタイプのより定性的な方法よりも少ない偽陽性および偽陰性をもたらす。そのような標的化された分析における定量的または半定量的な測定のために、MRMスキャンは著しい速度上の利点を提供することができる。
【0036】
先天性の代謝異常についての新生児スクリーニングにおいて、(生後間もない)新生児の踵に対する穿刺が典型的には、乾燥血液スポット(DBS)になるために血液が乾燥させられる「ろ紙」または血液スポットカードへの血液の少量のサンプリングを得るために使用される。DBSの小区分物がろ紙から打ち抜かれ、分析種の抽出を含むことができ、また、アシルカルニチンおよびアミノ酸の内部標準物の添加を含むことができるサンプル調製プロトコルに供される。この後には誘導体化を続けることができる。例えば、誘導体化は、ブチルエステルへの誘導体化が可能である。ブチルエステルへの誘導体化は、アシルカルニチンおよびアミノ酸に対するNBS測定のための目的とする化合物のイオン化を改善することができ、ブチルエステルへの誘導体化はまた、特にいくつかのアミノ酸については共通したMS−MSフラグメンテーション機構ももたらす。打ち抜かれた乾燥血液ディスクにおける血液体積は可変であり、このことは、当業者が理解し得るように、乾燥血液スポットから行われるスクリーニングが通常、定量的ではなく、むしろ、半定量的であることを意味する。図3は、ChromsystemsTMキットとともに供給されるDBSコントロールに由来する3つの誘導体化されたアシルカルニチンの測定について得られる典型的なMRMデータを示す。マススペクトロメーターが、アシルカルニチンの共通する85.1Daのフラグメントを含んだMRMイオン対を記録するために設定された。図におけるMRM軌跡に対応するイオン対が、218.2/85.1(非修飾型カルニチン、C0)、260.2/85.1(アセチルカルニチン、C2)および484.4/85.1(ステアロイルカルニチン、C18)である。データが、1000Hzの速度でのレーザー発射および1.5mm/sの速度でのサンプルスポット全域のラスターリングにより、同じDBSに由来する12個のサンプルスポットから取得された。マススペクトロメーターが、10個のイオン対(5つのアシルカルニチンおよびそれらの5つの内部標準物)を測定するために設定された。だが、視覚的明瞭さのために、3つのイオン対のみが図に示される。レーザー出力、サンプルスポット全域でのレーザーラスター速度、および、それぞれのイオン対についてのMRM滞留時間が、目的とする特定の測定のための分析的に許容され得る数のデータポイントを含有するMRMシグナルピークをもたらすために調節される。この例示における10個のMRMイオン対については、5つのアシルカルニチンの半定量的分析のために、7ミリ秒のMRM滞留時間が使用され、12個のサンプルが40秒未満で処理された。1つのサンプルスポットに対応する個々のMRMピークが、半値全幅でおよそ1.2秒の幅である。以前に記載された離散的アブレーションモードは、2つ〜6つのイオン対を測定することに適しており、この場合、MRM滞留時間が5ms〜20msであり、1個のサンプルの総分析時間が数百ミリ秒である。このような高繰り返し率レーザーは、この今までにない質量分析法分析速度を可能にするアブレーション速度およびイオン流束速度を可能にする。
【0037】
図4は、ChromsystemsTMキットとともに供給されるDBSコントロールに由来する2つの誘導体化されたアミノ酸の測定について得られる典型的なMRMデータを示す。図におけるMRM軌跡に対応するイオン対が222.1/120.0(フェニルアラニン、Phe)および238.3/136.1(チロシン、Tyr)であり、これらのイオン対は、フェニルケトン尿症(PKU)についてのスクリーニングのための主要な分析種を構成する。データが、1000Hzの速度でのレーザー発射および4.5mm/sの速度でのサンプルスポット全域のラスターリングにより、同じDBSに由来する12個のサンプルスポットから取得された。マススペクトロメーターが、4個のイオン対(2つのアミノ酸およびそれらのそれぞれの内部標準物)を測定するために設定された。だが、視覚的明瞭さのために、2つのイオン対のみが図に示される。この例示における4個のMRMイオン対については、2つのアミノ酸の半定量的分析のために、7ミリ秒のMRM滞留時間が使用され、12個のサンプルがおよそ12秒で処理された。1つのサンプルに対応する個々のMRMピークが、半値全幅で第2の幅のおよそ1/3である。
【0038】
先天性の代謝異常についての新生児スクリーニングのために、目的とする分析種をブチルエステルに誘導体化することが要求されない。近年では、誘導体化されていないアシルカルニチンおよびアミノ酸の使用によりスクリーニングする実施者の報告の数がますます増大している。誘導体化されていないアシルカルニチンについては、MS−MSの衝突セルでの解離は、共通した85Daのフラグメントイオンをもたらし続け、これにより、85Daのマススペクトロメータースキャンのプリカーサーの継続した使用を可能にするか、または、MRMが代替として使用され得る。以前に述べられたように、ブチルエステル形態に誘導体化されたアミノ酸は、すべてではないが、多くが、ギ酸ブチル(102Da)の喪失による共通したMS−MSフラグメンテーション経路をもたらす。誘導体化がない場合、アミノ酸の測定のために用いられる一般的なスキャン機能がない;この場合には、MRMが通常、使用される。図5は、3つの誘導体化されていないアシルカルニチン内部標準物の測定について得られる典型的なMRMデータを、171.2/103.1のイオン対(C0−D9、非修飾型カルニチンの場合)、235.3/85.1のイオン対(C4−D3、ブチリルカルニチンの場合)および403.3/85.1のイオン対(C16−D3、パルミトイルカルニチンの場合)により示す。マススペクトロメーターが、Cambridge Isotopes(Maryland、米国)新生児スクリーニングキットに含まれる8個の誘導体化されていないアシルカルニチンの同位体標識(重水素化)された標準物について、8個のMRMイオン対を測定するために設定された。だが、視覚的明瞭さのために、3つのイオン対のみが図に示される。Cambridge Isotopesキットから測定されたそれ以外の誘導体化されていない同位体標識されたアシルカルニチンが、アセチルカルニチン(C2)、プロピオニルカルニチン(C3)、イソバレリルカルニチン(C5)、ヘキサノイルカルニチン(C6)およびミリストイルカルニチン(C14)に対応した。「[K]」は、キットにおける説明書のプロトコルに従うことによって生じた濃度を示す。一連の希釈物を作製した。例えば、[K2]/2は、希釈が1/2の濃度に対してであったことを意味する(それぞれの濃度についてのアリコートがMALDIマトリックスとの混合の後でターゲットプレートにスポットされた)。データが、レーザーを0.5mm/sでラスターリングし、かつ、20msのMRM滞留時間を使用し、これにより、標準曲線を作製することによって、ターゲットプレート上の標準物の様々な濃度に対応する4つ一組のサンプルスポットから取得された。非修飾型カルニチンについては、103Daのフラグメントが、通常の85Daのフラグメントよりも大きい強度のイオンシグナルおよび良好な検出限界をもたらしたことが見出された。特定のプロダクトイオンを選ぶこの自由度により、MRM法の利点が、フルスキャン法(例えば、プリカーサースキャンなど)と比較して例示される。
【0039】
図6は、ChromsystemsTMキットとともに供給されるDBSコントロールに由来する誘導体化されたヘキサノイルカルニチン(C6)およびその内部標準物(C6−D3)の測定について得られた典型的なMRMデータを示す。マススペクトロメーターが、通常の85Daのフラグメントではなく、むしろ、141.1Daのフラグメントに対応したMRMイオン対を記録するために設定された。85Daのフラグメントは、著しく増大したシグナルをもたらしたが、サンプルマトリックスおよびMALDIマトリックスからの増大したバックグラウンドシグナルにより、より不良なシグナル対ノイズ比が生じ、このことは結果として、より不良な分析結果をもたらした。MRMを測定のために使用したとき、システムは、マススペクトロメーターの特定のスキャン機能を順応させるために妥協した条件のもとで操作する代わりに、それぞれの分析種について最適化することができる。
【0040】
図7は、誘導体化されていないアミノ酸(トリプトファン(Trp))についての典型的なMRMデータを示す。MALDI−MRM技術を使用して調べられた誘導体化されていないアミノ酸により、20個の主要なアミノ酸が構成され、これらの誘導体化されていないアミノ酸には、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、ロイシン(Leu)、アルギニン(Arg)、グルタミン酸(Glu)、メチオニン(Met)、バリン(Val)、アスパラギン酸(Asp)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、アスパラギン(Asn)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、リシン(Lys)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)およびトリプトファン(Trp)が含まれる。
【0041】
ChromsystemsTMキットに由来する乾燥血液スポットコントロールが、乾燥血液スポットにおける具体的なアシルカルニチンおよびアミノ酸の濃度を示す文書とともに提供された。ChromsystemsTMの文書によれば、これは、乾燥血液からのアシルカルニチンおよびアミノ酸の半定量的決定のための分析手法の正確さおよび精密さのモニタリングを可能にする。乾燥血液スポットコントロールは、それらがあたかも新生児スクリーニング患者サンプルであったかのように、分析種の抽出および誘導体化を含めて、サンプル調製全般に供された。ChromsystemsTMキットには2組のDBSコントロールが存在した(レベルIおよびレベルII)。両方の組のコントロールがアシルカルニチンおよびアミノ酸についての内部標準物を含有し、レベルIIのコントロールがより高いレベルの分析種(アシルカルニチンおよびアミノ酸)を含有した。MALDI−MRM技術を使用して、それぞれの乾燥血液スポットについて、アシルカルニチン分析種およびアミノ酸分析種についてのシグナルが測定され、それらのそれぞれの内部標準物に対する比率が、内部標準物の既知濃度を仮定して、乾燥血液スポットコントロールに存在する分析種の濃度を計算するために使用された。
【0042】
図8は、MALDI−MRM方法を使用してChromsystemsTMDBSコントロールから測定されるアシルカルニチンの濃度を示す。図8における表は、レベルIおよびレベルIIの乾燥血液スポットについて、類似する区分を含む。これらの区分のそれぞれにおいて、「FQ測定」と題される欄は、MALDI−MRM方法を使用して測定される濃度を示し、「Chromsystems」の見出しのもとでの欄は、ChromsystemsTMキットにおける文書によって与えられるような平均予想値ならびに許容可能な範囲の下限および上限を示す。MALDI−MRM技術を使用して測定される濃度はすべてが、許容可能な範囲に含まれ、すべてが目標値の23%以内であった。図8における測定値は、同じ乾燥血液スポットに由来するサンプルスポットに対する12回の同一測定の平均値であった。図9は、%CV(平均値によって除される標準偏差を100倍したもの)によって与えられるような、12回のアシルカルニチンMALDI−MRM測定の再現性が良好であることを示す。
【0043】
図10は、MALDI−MRM方法を使用してChromsystemsTMDBSコントロールから測定されるアミノ酸の濃度を示す。図10における表は、図8における表と同じ形式のものであり、欄は同じ意味を有する。図10における表に示される7つのアミノ酸については、測定された濃度が、レベルIの乾燥血液スポットコントロールについての許容可能な範囲をともにわずかに外れたロイシンおよびアルギニンを除くすべての分析種について、許容可能な範囲にあった。キットにおける他の5つのアミノ酸について測定された濃度はChromsystemsTMキットについての許容可能な範囲の範囲外であった。乾燥血液スポットからのすべてのアミノ酸濃度測定は、現行キットおよび言及された誘導体化スキームに関しては「許容可能な」値をもたらさなかったが、代謝疾患についてのハイスループットスクリーニングのためのMALDI−MRM技術の有用性が明らかにされている。さらなる日常的実験により、本出願人らは、これらのアミノ酸についての許容可能な濃度を測定するための努力を推し進める。これは、本発明の方法は、現行の最新技術の方法論と比較して、分析速度におけるそのような今までにない好都合な増大を提供するからである。そのような努力には、当業者が理解するように、異なる誘導体化スキーム(特に、アミノ酸についての誘導体化スキーム)が含まれ得る。図11は、12回の同一のアミノ酸MALDI−MRM測定の再現性が優れていることを示す。
【0044】
実際には、生物学的スクリーニングのために潜在的に注目されるアシルカルニチンは70を越えており、しかし、同位体標識された内部標準物をすべてのアシルカルニチンについて入手することができない。等しい長さの鎖長を有するアシルカルニチンは、当業者には知られているように、類似する質量分析法応答をもたらすので、内部標準物が存在しないそのようなアシルカルニチンの半定量が、これらの分析種を同じ鎖長の重水素化された内部標準物に対して参照することによって行われる。図12は、レーザーが、7msのMRM滞留時間により、サンプルスポットを1.5mm/sで横切り、これにより、全幅半値で1.2秒の幅のMRMピークを生じさせたとき、19個のイオン対がモニターされたアシルカルニチンのMRMファーストパススクリーニングの結果を示す。図12において、MRMピークは、以前のようなマススペクトロメーターの分析時間の関数としてのイオンシグナルとして示されていない。この場合には、MRMイオン対のピーク高さが互いに対してプロットされ、イオン対の質量が水平軸に示される。これらのイオン対のうちの11個がアシルカルニチン分析種に対応し、これらのイオン対のうちの8個が(星印によって示される)内部標準物に対応する。C5OH、C14:1およびC16OHについての半定量的結果が典型的には、対応する等しい鎖長(それぞれ、C5、C14およびC16)の内部標準物に対するこれらのアシルカルニチンの比率を取ることによってもたらされる。ファーストパススクリーニング(例えば、図12に例示されるファーストパススクリーニングなど)に含まれるアシルカルニチンは、好ましくはデータ取得後直ちに分析することができ、そして、結果が疾患の存在の可能性を示唆するならば、より特異的なMALDI−MRM方法をさらなるスクリーニング詳細および評価のためのより具体的な一組の分析種について行うことができる。これらなどのスキームは、多数のサンプルの全体的なスクリーニング速度におけるさらなる増大に寄与し得る。
【0045】
上記で明らかにされたように、本発明の方法は、使用することが簡便かつ容易であり得る。本発明の方法は、(1)生物学的サンプルを提供すること(これは、分離および/または誘導体化の何らかの形態を含むことができる)、(2)サンプルを表面(例えば、MALDIプレート)に置くこと(これは、サンプルをUV光吸収物質(例えば、MALDIマトリックス)と混合することを含んでもよく、または、含まなくてもよい)、および、(3)サンプルを、マススペクトロメーターに連結されるレーザー脱離イオン源(例えば、MALDI)によって分析することを含む。
【0046】
本出願人の教示はまた、液体クロマトグラフィー(LC)の微量物をターゲットプレートに置くこと、および、それに続く、レーザー脱離イオン源を使用する分析を含むことができ、この場合、イオンがダンピングガスによりダンピング/冷却され、その後、マスアナライザー(例えば、oMALDI)および本出願人の方法を使用して分析される。LCは、ターゲット(例えば、MALDI)プレートにおけるスポッティングの前に、同じ質量の分析種の異性体分離および同重体分離をもたらすために非常に有用であり得る。LC分離、時間で順序づけられるLC溶出液をターゲット(例えば、MALDI)プレートに置くこと、および、それに続く、MALDI(または、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源の別の方法)による分析のこの組合せは、LC−MALDIとして示される。代謝スクリーニング適用において、LC−MALDIは、ロイシン/イソロイシン/ヒドロキシプロリンおよびグルタミン/リシンの異性体分離および同重体分離を定量目的のためにもたらすことができる。ロイシン測定が単独で役立ち得る場合が、高ロイシン血症(hyperleucinemia)と、MSUDとを区別する際においてである。LC−MALDIにより、これらの分析種などの分析種の分離をその後、サンプルプレート上に「凍結」することができ、実施者が選択するどのような有用な様式であっても、そのような様式で調べることができ、この場合、同じLC微量物を数回調べることが可能である。このことは、LC溶出液が、LCカラムから出るときにマススペクトロメーターの中に送られ、分析が1回限り(one timed)の通過で行われるだけであるESI−MS−MSとは対照的である。
【0047】
LC微量物をターゲットプレートに置き、続いて、分析を本出願人の技術により行うことは、LC/MS/MSを同じサンプルについて単に行うことよりも速くはないが、本出願人の方法における速度は、多数のLC堆積システムが並行して稼動され、これにより、本出願人の方法による分析のための数多くのスポットされたターゲットプレートがもたらされるとき、増大したサンプル処理能を可能にし得る。より多くのサンプルを高速MALDI−MRM分析のために提供するためのこの多重化は、サンプル処理能を大きく増大させる。本出願人の教示によりまた、より多数の分析種を、取得速度が増大したことのために分析することができることに起因して、(例えば、同じサンプルスポットからの2つ以上の分析種の分析を含めて)増大した多重化する可能性が提供され得る。
【0048】
さらに、特定のサンプルを1つ以上の生物学的障害について分析することができる。例えば、サンプルを、同じサンプルスポットから(アシルカルニチンの測定によって)アミノ酸障害および脂肪酸酸化障害について分析することができる。同じサンプルスポットからの2つ以上の障害の分析は、マススペクトロメーターが、別個に、しかし、交互配置様式での同じマススペクトロメーター方法の範囲内においてアミノ酸およびアシルカルニチンについて分析するが、これら2つの分析種の間における時間遅延がミリ秒範囲であり得るという点で、「同時」であると見なすことができる。実際、ターゲート表面(例えば、MALDIプレート)全体の分析は、容易かつ大きな速度で分析され得る異なるサンプルの数のために、多重システムであると見なすことができる。
【0049】
本出願人の教示により、イオン源から生じるイオンがダンピングガスにより衝突ダンピング/冷却され、マスアナライザーにおいて分析され得るレーザー脱離イオン源の使用が提供され得る。したがって、本出願人の教示には、生物学的障害(これには、代謝障害、例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害などが含まれるが、これらに限定されない)を分析するために、ハイブリッド四重極/直線イオン・トラップ・タンデムマススペクトロメーターを含めて、タンデム三連クアド(quad)マスアナライザーまたはイオントラップとの組合せでのoMALDIの使用が含まれ得る。MRMを三連四重極マスアナライザーで利用することができる。イオントラップスキャンによってもたらされる選択性および特異性のより大きな程度を利用する方法が開発され得るので、ハイブリッド四重極/直線イオントラップ型の装置は、三連クアドマスアナライザーでのoMALDIの代替法、および、LC−MALDIの代替法を提供する。
【0050】
本出願人の教示には、正イオンモードまたは負イオンモードでのバイオマーカーの分析が含まれ得る。
【0051】
本出願人の教示は、患者におけるバイオマーカーのレベルを正常な個体におけるレベルに対して比較することにおいて使用することができる。これは、同じサンプルスポットからのいくつかの分析種についてのMRMピーク面積を測定し、これらの分析種の比率を計算し、これらの比率を、「正常」な、障害でない事例を表すことが知られている対応する比率に対して比較することによって達成することができる。これらの比率の1つ以上が内部標準物を伴うことができる。「正常」な比率が、多くの個体(健康者および疾患状態にある個体)のスクリーニングの結果として先行技術において設定されている。
【0052】
本出願人の教示から、ターゲット表面(例えば、MALDIプレート)が、1名または複数の患者に由来するサンプルと、コントロールサンプルとを含み得ることが明らかにされ得る。同じ患者についての1つ以上のサンプルスポットをプレートに存在させることができる。すべての調製物が同じであった反復サンプルスポットを存在させることができる。このことは、プレート上の1つのサンプルスポットが十分な材料でない場合について、数多くの障害についてのスクリーニングを容易にする。この場合には、アミノ酸およびアシルカルニチンがプレート上の同じサンプルスポットから分析されるかもしれず、また、同じMS方法を使用してでさえ分析されるかもしれない(すなわち、アミノ酸およびアシルカルニチンのための異なるマススペクトロメーター方法が必要ない)。いくつかの異なる調製物のそれぞれに由来する、同じ患者についての1つ(または複数)のサンプルスポットを同様にプレートに存在させることができる(例えば、脂肪酸酸化障害について1つ、アミノ酸障害について1つ)。例えば、同じ患者について、プレート上のスポットは、(その調製による)アミノ酸障害について3つ、および、(異なる調製による)有機酸障害について2つであり得る(すべてのスポットが、患者から得られた同じ1つの血液サンプルに由来する)。
【0053】
したがって、本出願人の教示から、MALDIプレートにおけるサンプルスポッティング場所の適切な判断による選択、または、同じサンプルの反復スポッティングにより、特定の障害または一連の障害についての今までにない高速分析が提供され得ることが明らかにされ得る。例えば、いくつかの場合には、異なるサンプル調製物を、1人の患者に由来する1つ以上の乾燥血液スポットから調製することができる。例えば、アミノ酸およびアシルカルニチンについての分析を同じサンプルスポットから行う場合、ならびに、アミノ酸およびアシルカルニチンについての分析を同じマススペクトロメーター方法の範囲内においてさえ行う場合には、メタノール抽出を典型的には使用することができ、その後、ブタノール性HClによる誘導体化を続けることができる。当業者には知られているように、NBSの一部の実施者によって行われるさらなる工程では、おそらくは他の化学試薬または溶媒によるさらなる抽出および/または誘導体化が伴い得る。これらの様々なサンプル調製をMALDI−MS−MSシステムから離れて「オフライン」で行うことができ、また、ESI−MS−MSによる分析方法を使用するときには、マススペクトロメーターシステムへの多数のサンプル注入が要求され得る。本出願人の方法は、これらのさまざまな異なるサンプル調製物が、それらの作業流れに対して最も好都合であると実施者が見出すどのような順序であっても、同じMALDIプレートにスポットされることを可能にし得る。このことは、1秒あたり1つまたは2つのイオン対の割合によって単にもたらされる全体的な分析速度を超える、さらに著しい増大した全体的な分析速度をもたらすことができる。
【0054】
oMALDI−MS−MSの速度増大を示すための比較は、正確には、どのような疾患が分析されているかに依存し得る。ESI−MS−MSによる最も速い障害スクリーニングでは、マススペクトロメーターシステムへの1回のサンプル注入における、1つの血液スポットからのいくつかの障害についてのスクリーニングが伴う。この様式では、サンプル注入および(サンプルの持ち越しを防止するための)システム洗浄のための「オーバーヘッド(overhead)」時間を、それぞれのサンプル注入について1つの障害のための分析と比較して最小限に抑えることができる。マルチスクリーニング法において、ESI−MS−MSの最新技術では、1つのサンプルがおよそ120秒毎に処理され得ることが(下記の文献から)示される(ChaceおよびKalas、Clin.Biochem.、38、296−309(2005);Chaceら、Clin.Chem.、49(11)、1797−1817(2003))。比較目的のために、下記は、容易に達成できるサンプル処理能速度でのMALDI−MRMによる、合計で25個の分析種について、13個のアシルカルニチンおよび12個のアミノ酸の分析についての一例である。標準的なESI−MS−MS分析では通常、25個未満の分析種がモニターされることが特筆される。これら25個の分析種のそれぞれがそれ自身の内部標準物を要求する最悪の場合、oMALDI−MS−MS技術では、これら50個の化合物を10個の化合物からなる5つの群にグループ分けすることができ、システムはサンプルスポットあたり10個の化合物を分析することができる。速度がサンプルスポットあたり2秒である場合、oMALDI−MS−MS分析では、全分析を完了するためにおよそ10秒が要求され、これは、最新技術のESI−MS−MS分析よりもおよそ10倍高速である。非常に標的化された分析、例えば、PKUについての分析などを、図4から示されるように、oMALDI−MS−MS技術により、十分に1秒未満で行うことができる。
【0055】
本出願人の教示によりまた、生物学的障害の分析における使用のためのキット、具体的には、生物学的障害についての新生児スクリーニングにおける使用のためにキットが提供され得る。生物学的障害は、代謝障害、例えば、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害などが可能であり、しかし、これらに限定されない。本発明のキットは、下記の1つ以上を含むことができる:サンプル採取のために必要とされる試薬および付属物(例えば、ニードル、DBSろ紙、穴あけ器)、サンプル調製のために要求される試薬、例えば、サンプルの分離または誘導体化のために要求される試薬(純粋な試薬および溶媒、フィルター、カラム、液体クロマトグラフィー(LC)緩衝液、回収チューブ、MALDIマトリックス、他のUV光吸収化合物)、分析種(標識されていない標準物および標識された内部標準物)、ならびに、ターゲット表面、例えば、MALDIプレート、または、MALDIマトリックスの必要性を除き、それにもかかわらず、依然として、表面からの十分な脱離およびイオン化をもたらす意図的に設計された表面処理を伴うプレート、あるいは、おそらくは、コントロールまたは標準的な事前にスポットされたMALDIプレート、スクリーニング目的のための容易なデータ分析のためのソフトウエア、サンプルの採取、調製および分析のための説明書、同様にまた、イオンがダンピングガスによりダンピング/冷却され、その後、マスアナライザーを使用して分析されるMALDI−MS−MSまたは他のレーザー脱離イオン源の使用のための説明書。
【0056】
実施例2:効率的なイオン生成および分析をMALDI MS/MSにより達成するために、目的とする分析種についての有用な誘導体化プロトコルを確立すること。
【0057】
アミノ酸およびアシルカルニチンの分析のために、2つの文献の方法(Chaceら、Clin.Chem.、39(1)、66−71(1993);Chaceら、Clin.Chem.、41(1)、62−68(1995);Chaceら、Clin.Chem.、42(3)、349−355(1996))から改変された誘導体化方法が有用であることが見出された。プロトコルでは、サンプルをブタノールHClにより誘導体化することが伴い、方法が、MALDIプレートへのスポッティングに先立つMALDIマトリックスとの混合によって、MALDIスポッティングのためのサンプル調製を含むように拡張された。具体的には、方法は下記の工程を含むことができ、だが、これらの工程は、当業者には知られているように、変更、代用または省略することができる:
a)アミノ酸およびアシルカルニチンの内部標準物を一緒に混合して、0.1MのHClにおいて1mg/mlの最終濃度にし、50%MeOHにより連続希釈する。混合物をNの穏やかな流れのもとで乾燥する。
【0058】
b)50ulの3MブタノールHClをそれぞれのチューブに加え、65℃で15分間インキュベーションする。
【0059】
c)チューブをNの穏やかな流れのもとで乾燥する。
【0060】
d)沈殿物を50%アセトニトリル+0.1%ギ酸に懸濁する。さらなる連続希釈物を必要に応じて調製する。
【0061】
e)CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)のMALDIマトリックスと1:1で混合し、0.75ulをMALDIプレートにスポットする。
【0062】
最も一般的な誘導体が、ブタノールによるカルボン酸基のエステル化によって形成される。誘導体化されたサンプルが、例えば、「アミノ酸のブチルエステル誘導体」として示される。MS−MS条件下において、このようなブチルエステルは102Da(ギ酸ブチル)のフラグメント化質量をもたらし、このフラグメント化質量を特定のMS−MSスキャンタイプ(102Daのニュートラルロス)において使用することができる。いくつかのアミノ酸(システイン、リシン、ホモシステインおよびトリプトファン)では、サンプル調製プロセスに対する特別な改変が要求される(還元剤の添加が、ジスルフィド形成を防止するために要求される)(Mageraら、Clin.Chem.、45(9)、1517−1522(1999);Accinniら、J.Chromatogr.B.、785、219−226(2003))。
【0063】
図13〜図24はいくつかの分析種のMRM遷移イオンスペクトルを示す。この予備的データが、MRMモードで稼動する三連四重極マススペクトロメーターでのoMALDIを使用することによって取得された。
【0064】
実施例3。分析することができる一群の分析種を決定すること。
【0065】
本出願人の教示により、ほとんどが著しい分析速度の改善のためであるが、たぐいまれな様々なスクリーニング能力が提供され得る。例えば、ファーストパススクリーニングを行うために、特定の疾患状態についての可能性のある指標として作用する1つまたは2つの主要な分析種を1秒または2秒で容易に分析することができる。したがって、次の工程の必要性がその結果から示されることがあるか、または示されないことがある非常に速いファーストパススクリーニングを提供する方法を適用することが可能である。スペクトルのやや逆の目的において、スクリーニングの意図が、疾患が存在するか否かの決定を行うことであるならば、より多くの分析種をその特定の疾患状態についてモニターすることができる。すべての場合においては、全く異なる分析技術により試験することが、疾患についてのすべての陽性結果を確認するために非常に推奨される。
【0066】
下記の一群の分析種を障害に基づいて一緒にグループ化することができ、同じスポットにおいて、または、スポットの同じ列において、または、スポットの同じプレートにおいて分析することができる。
【0067】
下記の例では、同じ1つの血液スポットから作製される3つのサンプルスポットが検討され、この例は、グループ化が、質量分析法および本出願人の教示によって検出可能な障害のいくつかについてスクリーニングを行うためにどのように行われ得るかの一例である。多くの他のグループ化が、当業者に知られているように可能である。最大で10個のMRMイオン対がこの例示の目的のために使用される。サンプルスポットは有限のサイズであり、また、ラスターリングが、データに対する半定量化を正当に行うことができるためのMRMピーク全域の十分なデータポイントを依然として得ながら、シグナルがラスター期間を通じて一定のままであるように行われる。異なる例では、10個を越えるMRMイオン対を容易に使用することができる。
【0068】
下記のグループ化において、ISは内部標準物を意味し、C2、C3、C4、C5、C6、C8、C10の意味については、前記本文を参照のこと。
a)グループ1:アミノ酸障害群
分析種:
Phe、Tyr、Leu、Val、Met、および、対応する標識された内部標準物
障害:
PKU(フェニルケトン尿症):PheおよびTyr
MSUD(メープルシロップ尿症):LeuおよびVal
ホモシスチン尿症:Met
b)グループ2:脂肪酸酸化障害群
分析種:
C4、C5、C6、C8、C10、および、対応する標識された内部標準物
障害:
MCAD(中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症):C6、C8、C10
SCAD(短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症):C4
GA−II(グルタル酸血症、II型):C4、C5、C6、C8、C10
c)グループ3:有機酸障害群
分析種:
C2、C3、C4、C5、および、対応する標識された内部標準物
障害:
PA(プロピオン酸血症):C2、C3
MMA(メチルマロン酸血症):C2、C3
IVA(イソ吉草酸血症):C2、C3、C5
IBD(イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症):C4
上記の障害群は、本出願人の教示に従って、合計でおよそ5秒で、いくつかの異なる疾患についてスクリーニングするための方法を例示するための例として役立つ。多くの他の疾患群またはスクリーニングを行うことができる。また、前記議論の多くは、誘導体化されたアミノ酸およびアシルカルニチンを伴ったが、本出願人の教示に記載される技術はまた、誘導体化されていないアミノ酸およびアシルカルニチンの分析に対して適用することができる。
【0069】
例えば、図25〜図32は、非修飾型カルニチンだけでなく、いくつかの誘導体化されていないアシルカルニチンのMRM遷移イオンのスペクトルを示す。図33〜図38は、いくつかの誘導体化されていないアミノ酸のMRM遷移イオンのスペクトルを示す。図33〜図38において、スペクトルは、分析種由来のシグナル、ならびに、MALDIマトリックスブランク由来のシグナルを示す。
【0070】
C2、C3、C4、C5、C6、C8およびC10を含む一群が分析された。他の組合せもまた分析することができる。
【0071】
実施例4:アシルカルニチンの擬似スクリーニング(pseudo−screen)。
【0072】
本出願において示されるデータは原理の証拠としてアシルカルニチンのほんの一部を含むだけであるが、他のアシルカルニチンがNBSにとって重要である(例えば、ヒドロキシアシルカルニチン)。同位体標識された内部標準物は一般に、これらの他のアシルカルニチンについては入手できないので、それらは今後、oMALDIによって分析されなければならない。しかしながら、それらが溶液中において帯電するという事実は、アシルカルニチンと同様に、それらがoMALDI技術によって問題なくイオン化されることを示している。
【0073】
図12は、ファーストパススクリーニングの目的のために2秒未満で行うことができるアシルカルニチンの擬似スクリーニングの一例を示す。当業者には知られているように、11個のアシルカルニチンについてのこの分析、および、8個の内部標準物に対する参照により、質量分析法によって検出可能な障害についてスクリーニングするためのより大きい範囲のアシルカルニチンの幅広い十分な適用範囲がもたらされる。障害がサンプルスポットに存在したならば、障害は、いくつかの異常をこの一組のアシルカルニチンの測定された量において生じさせると考えられる。異常に対して「注意が向けられ(flagged)」、より詳細な分析が、おそらくは全く同じサンプルスポットに対して、しかし、確かなことには、同じ乾燥血液スポットに由来するMALDIサンプルスポットに対して行われる。図12におけるMRMデータには、2つのヒドロキシアシルカルニチン(C5OHおよびC16OH)についてのスクリーニングが含まれた。このアシルカルニチン擬似スクリーニングに含まれる的確な分析種は、目標とされた異なるスクリーニングのために、当業者によって変えることができる。同じことが、スクリーニングに含まれる分析種の的確な数について当てはまる。
【0074】
実施例5.大規模スクリーニング
本出願人の教示は、例えば、25個の分析種および25個以下の対応する内部標準物を使用するスクリーニングを組み立てるために使用することができる。例えば、スクリーニングでは、ChromsystemsTMキットにおける13個のアシルカルニチンおよび12個のアミノ酸のすべてと、それらのそれぞれの内部標準物とを含むことができる。そのようなスクリーニングを、NBSのための目的とするアミノ酸およびアシルカルニチンの大部分をモニターする目的のために5秒未満で、1つのMALDIサンプルスポットを横切る1回のレーザー通過の使用によって達成することができる。ターゲットプレートを、0.5mm/s近くのより遅い速度で移動させるために設定することができ、また、7msのMRM滞留時間は、許容され得るデータ品質を提供するためのMRMピーク全域の十分なデータポイントをもたらす。分析種の異常な測定された濃度を、より詳細なスクリーニングを開始するために使用することができる。そのようなスクリーニングでは、50個未満の総イオン対を含むことができ、また、当業者には知られているように、そのような大規模スクリーニングでは、生物学的測定の目的のために要求されるアシルカルニチンおよびアミノ酸の任意のミックスを含むことができる。
【0075】
当業者には知られているように、代謝障害の分析は、新生児だけでなく、成人について行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的サンプルを代謝障害について分析するための方法であって、
(a)生物学的サンプルを提供すること、および
(b)該サンプルを、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源によって分析すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記分析する工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン源によって生じたイオンをダンピングガスにより衝突ダンピング/冷却することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記衝突ダンピング/冷却する工程が直交MALDI(oMALDI)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記代謝障害が新生児の代謝障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記代謝障害が、アミノ酸障害、脂肪酸酸化障害および有機酸障害からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記障害が、フェニルケトン尿症(PKU)、高フェニルアラニン血症、メープルシロップ尿症(MSUD)、ホモシスチン尿症、シトルリン血症(I型およびII型)、アルギニン血症、アルギニノコハク酸血症(ASA)、チロシン血症(I型およびII型)、ホモシトルリン尿症、高オルニチン血症、高アンモニア血症(HHH)、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)欠損症、ビオプテリン欠損症、プロリン血症、高メチオニン血症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)欠損症、超長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(VLCAD)欠損症、短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(SCAD)欠損症、多種アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MAD)欠損症、長鎖3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(LCHAD)欠損症、中/短鎖L−3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(M/SCHAD)欠損症、三官能性タンパク質欠損症(TFP)、I型およびII型のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損症(CPT−I、CPT−II)、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)欠損症、カルニチン輸送体欠損症、カルニチン取り込み欠陥、短鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(SKAT)欠損症、中鎖3−ケトアシルCoAチオラーゼ(MCKAT)欠損症、2,4−ジエノイルCoAレダクターゼ欠損症、グルタル酸血症II型(GA−II)、3−メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(3−MCC)欠損症、グルタル酸血症I型(GA−I)、メチルマロン酸血症(MMA)、プロピオン酸血症(PA)、イソ吉草酸血症(IVA)、マロン酸尿症(MA)、多種カルボキシラーゼ欠損症(MCD)、2−メチル−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(MHBD)欠損症、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルCoAリアーゼ(HMG)欠損症、2−メチルブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(2MBCD)欠損症、3−メチルグルタコン酸尿症(MGA)、イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(IBD)欠損症、β−ケトチオラーゼ欠損症(BKT)ならびにエチルマロン酸脳症(EE)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的サンプルを提供する工程が、該サンプルを誘導体化し、ターゲット表面にスポットすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルを誘導体化することがブチルエステル形態への誘導体化を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生物学的サンプルを提供する工程が、該生物学的サンプルをCHCAとおよそ1:1で混合することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記生物学的サンプルが、誘導体化されていないアミノ酸またはアシルカルニチンであり、かつ、工程(a)が、(a)誘導体化されていないサンプルをUV物質と混合すること、および、(b)該誘導体化されていないサンプルをターゲット表面にスポットすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルを分析する工程が、タンデムマススペクトロメーター、三連四重極マスアナライザーまたはイオントラップマススペクトロメーターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
多重反応モニタリングをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルを質量分析法によって分析する前に、液体クロマトグラフィーの工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生物学的サンプルが、全血、血液成分、凍結血液、血液スポット、血清、血漿、生理学的体液、生理学的組織、口内スワブ、毛髪、脳脊髄液、ガラス体液または羊水から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分析する工程が正イオンモードまたは負イオンモードでの分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプルを分析する工程が一群の生物学的サンプルの分析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記分析が、離散的モードの操作、ラスターリングモードの操作、または、パターンラスターモードの操作によって行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的サンプルを提供する工程が、該生物学的サンプルを、一群の生物学的サンプルをもたらすためにターゲット表面にスポットすることを含み、かつ、少なくとも1つのスポットが、少なくとも2つの生物学的障害について同時に分析される生物学的サンプルを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
生物学的障害についての一群の生物学的サンプルの多重化された分析のための方法であって、
(a)一群の生物学的サンプルを提供すること、
(b)該一群の生物学的サンプルをターゲット表面にスポットすること、および
(c)該一群の生物学的サンプルを、マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源によって分析すること
を含む、方法。
【請求項21】
代謝障害を分析するためのキットであって、
(i)マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源による分析のための、代謝障害の分析種を含む生物学的サンプル、または、代謝障害の分析種を含むことが疑われる生物学的サンプルを採取、調製および/または分析するための試薬;および
(ii)マスアナライザーに連結されるレーザー脱離イオン源による分析のためのサンプルを採取、調製および/または分析するための説明書
の1つ以上を含む、キット。
【請求項22】
前記代謝障害が新生児の代謝障害である、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
一群の代謝障害を分析するための、請求項21に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公表番号】特表2011−511276(P2011−511276A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544549(P2010−544549)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000126
【国際公開番号】WO2009/094784
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】