説明

マスカント工具

【課題】 異なる形状の製品にも対応できると共に、表面処理を施したくない製品の内径部を簡便で安価にマスクできるマスカント工具を提供する。
【解決手段】 本発明は、筒状部材である製品10を表面処理する際に該表面処理が不要な領域をマスキングするマスカント工具において、製品10の筒内に挿入される筒状の弾性部材21と、弾性部材21の孔部に挿入され、弾性部材21の外表面を製品10の筒内に押し付ける棒状部材22とを備える。また、弾性部材は、第1の弾性部材と第2の弾性部材を含み、棒状部材は、第1の棒状部材と第2の棒状部材を含む。そして、第1の棒状部材は一端部に孔部を有し、該孔部は第2の棒状部材の一端部と係合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理を施したくない部品の内径部をマスクするマスカント工具に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ、塗装等の表面処理を行う場合、ワークに表面処理の不要なねじ孔、リーマ孔、スプライン孔等がある場合、当該表面処理に先立って予め孔部をマスクするマスク法が必要となる。
【0003】
図1は従来のマスク方法を説明するための図である。図1に示すように、製品1のマスク箇所であるマスカント部Mにマスク剤を塗り着けることにより表面処理を施したくない製品1の内径部をマスクするようにしている。また、図2は従来の他のマスク方法を説明するための図である。図2では、製品1の内径部につながるすべての孔をゴム栓4a〜4dにより差し込むことで、表面処理を施したくない製品1の内径部をマスクするようにしている。また他のマスク法として特許文献1〜特許文献3に記載の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1の方法では、被処理部品に部分的にめっき層を形成するにあたり、めっき層を形成させたくない部分を熱伸縮性テトラフルオロエチレン製チューブで覆い、加熱することによって該部分に該チューブを密着させるようにしている。また、特許文献2のマスカント工具では、製品に表面処理を施す際に当該製品の内径部に表面処理が施されないようにマスクすべき内径部に連なる両端面にフッ素ゴム製パッキンを装着し、このパッキンのそれぞれの端面を覆うように上型と下型とで構成される締め具を重ね、当該締め具の上型と下型とを締め付けるようにしている。
【0005】
また特許文献3のマスキング装置では、表面処理に際し、表面処理不要な孔部の内周面形状に同一の外周面形状を成し、かつ軸心に形成された貫通孔を有する筒状の軟質樹脂材からなるマスキング治具を芯材部により外方に押圧することにより貫通孔をマスクするようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−228787号公報
【特許文献2】特開2004−217957号公報
【特許文献3】特開2000−160386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図1で示した方法では、製品1へのマスク剤を塗る時間及びその乾燥時間がかかるという問題があった。また、図2のようにゴム栓を差し込む方法では、ゴム栓が緩んで表面処理剤が浸入するという問題があった。さらに、特許文献1に記載の方法では、チューブを加熱する時間が必要であった。また、特許文献2に記載のマスカント工具では、製品の内径部の形状が複雑なものに適用させるためには構造が複雑になり、さらには製品の内径部の形状が違うものには適用することができないという問題がある。また、特許文献3に記載のマスキング装置では、同一の外周面形状のマスキング治具を用いているため外周面形状が異なる製品に対しては適用することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に解決するために、表面処理剤が浸入することなく、異なる形状の製品にも対応できると共に、表面処理を施したくない製品の内径部を簡便で安価にマスクできるマスカント工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、筒状部材を表面処理する際に該表面処理が不要な領域をマスキングするマスカント工具において、前記筒状部材の筒内に挿入される筒状の弾性部材と、前記弾性部材の孔部に挿入され、前記弾性部材の外表面を前記筒状部材の筒内に押し付ける棒状部材とを備える。本発明によれば、マスク部をマスク部形状に合致させた形状で形成できるため、マスク部材を製品のマスク部に密着固持されることができる。このため、マスク部は表面処理剤に触れない(浸入しない)ため表面処理剤の影響を受けることがなくなる。これにより操縦系統の支柱や、ロッド、チューブ等の部品の表面処理作業において、非表面処理部を確実にマスクすることができる。また弾性部材を用いることにより筒状部の形状が異なる製品に対しても対応することができる。また弾性部材と棒状部材を製品の筒状部材内に挿入するだけであるため簡便にマスクできる。さらに、弾性部材と棒状部材という簡単な構成であるためマスカント工具を安価に提供することができる。
【0010】
前記弾性部材は、外径が前記筒状部材の内径よりも小さいことを特徴とする。前記棒状部材は、外径が前記弾性部材の内径よりも大きいことを特徴とする。前記弾性部材は、全長が前記筒状部材の全長よりも長いことを特徴とする。これにより表面処理剤を筒状部材の内側へ浸入させないようにできる。前記棒状部材は、全長が前記弾性部材の全長よりも長いことを特徴とする。
【0011】
前記弾性部材は、第1の弾性部材と第2の弾性部材を含み、前記棒状部材は、第1の棒状部材と第2の棒状部材を含むことを特徴とする。前記第1の棒状部材は一端部に孔部を有し、該孔部は前記第2の棒状部材の一端部と係合されることを特徴とする。これにより第1の棒状部材と第2の棒状部材の位置合わせが容易となる。
【0012】
前記弾性部材は、シリコン製チューブであることを特徴とする。弾性部材にシリコン製のものを利用することにより表面処理剤に影響されないようにできる。前記棒状部材は、フッ素樹脂により形成されていることを特徴とする。棒状部材にフッ素樹脂製のものを利用することにより表面処理剤に影響されないようにできる。前記棒状部材は、端部の少なくとも一方が面取りされていることを特徴とする。これにより弾性部材へ挿入し易くなる。前記筒状部材は、円筒形状をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面処理剤が浸入することなく、異なる形状の製品にも対応できると共に、表面処理を施したくない製品の内径部を簡便で安価にマスクすることができるマスカント工具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図3は、製品とマスク箇所を説明するための図である。製品10は筒内11と覗き孔12、13を有する。製品10を表面処理する際に該表面処理が不要な領域であるマスカント部Mをマスキングする必要がある。図4は、本発明の第1実施例によるマスカント工具を説明するための図であり、製品10へマスカント作業を行っている様子を示している。
【0015】
マスカント工具20は、筒状部材である製品10の表面処理する際に、表面処理が不要な領域をマスキングするものである。このマスカント工具20は、弾性部材21と棒状部材22とを備える。弾性部材21は、中空形状で製品10の筒内に挿入されるものであり、例えば円筒状のシリコン製チューブにより構成されている。また、弾性部材21は、外径が製品10の内径よりも例えば5%〜10%小さく、全長が製品10の全長よりも長く形成されているのが好ましい。
【0016】
棒状部材22は、円柱形状で、弾性部材21の孔部21aに挿入され、弾性部材21の外表面を製品10の筒内に押し付けるものであり、例えばフッ素樹脂により構成されている。また、棒状部材22は、外径が弾性部材21の内径よりも例えば10%〜35%大きく形成されており、全長が弾性部材21の全長よりも長く形成されているのが好ましい。棒状部材22の両端は、弾性部材21へ挿入し易いように曲面面取りがされている。
【0017】
次に、マスカント作業について説明する。図5は、製品10へマスカント作業が行われた図を示している。マスカント作業は、まず、製品10の筒内11へ弾性部材21を挿入する。このとき弾性部材21は、製品10の両端面位置より外部側へ2〜3mm出ている。次に弾性部材21の内径部21aへ棒状部材22を挿入する。製品10へ棒状部材22と弾性部材21が取付けられて密着する。弾性部材21は、製品10に密着し、また端部から2〜3mmはみ出ているために表面処理剤を製品10の筒内11へ浸入させないようにできる。
【0018】
次に、本発明の第2実施例について説明する。図6は、本発明の第2実施例によるマスカント工具を説明するための図であり、製品30へのマスカント作業を示している。筒状部材である製品30は、片端部の内径が異なる形状を持つ。
【0019】
このマスカント工具40は、第1の弾性部材41と、第2の弾性部材42と、第1の棒状部材43と、第2の棒状部材44とを備える。このマスカント工具40は、第1実施例と異なる点は、弾性部材を第1の弾性部材41と第2の弾性部材42の二つに分割し、棒状部材を第1の棒状部材43と第2の棒状部材44の二つに分割している点である。
【0020】
第1の弾性部材41と第2の弾性部材42は、中空形状で製品30の筒内に挿入されるものであり、例えば円筒状のシリコン製チューブにより構成されている。第1の棒状部材43と第2の棒状部材44は、第1及び第2の弾性部材41、42のそれぞれの円筒内に挿入され、第1及び第2の弾性部材41、42の外表面を製品30内の筒内に押し付けるものであり、例えばフッ素樹脂製のバーにより構成されている。
【0021】
第1の棒状部材43は、外径が3段階に変化するよう形成されており、外径が一番小さい第1部分43aは、外径が製品30の小さい径の部分より5〜20%程度小さく形成されている。外径が中間の第2部分43bは、外径が第1の弾性部材41の内径より10%〜35%程度大きく形成されている。外径が大きい第3部分43cは、外径が製品30の内径より5%〜15%程度小さく形成されている。第3部分43cの一端部には、穴部43dが形成されている。
【0022】
第2の棒状部材44は、外形が二段階に変化するよう形成されており、外径が小さい第1部分44aは第1の棒状部材43の穴部43dへ組込まれる大きさに形成されている。第2部分44bは、第2の弾性部材41の内径より10%〜35%大きく形成されている。第1の棒状部材43の孔部43dには第2の棒状部材44の一端部(第1部分44a)が係合される。
【0023】
マスカント工具40を用いたマスカント作業について説明すると、製品30の大きい内径30a側から第1の弾性部材41を組入れ、次に第1の棒状部材43を第1の弾性部材41内へ組入れ、次に第2の弾性部材42を組入れ、さらに第2の棒状部材44の一端部(第1部分44a)を第1の棒状部材43の穴部43dに案内して組入れる。このような構成とすることで、第1及び第2の棒状部材43、44の位置合わせが容易となる。
【0024】
製品30は、第1及び第2の弾性部材41、42が第1及び第2の棒状部材43、44の挿入によって密着されるためマスカント部が表面処理剤に影響されない。例えばマスカント領域が大きい製品の場合には第1実施例のマスカント工具20を装着する際に非常に大きな力が必要となり作業性が悪い。そこで、第2実施例に示したマスカント工具40のような構成を採る事で、表面処理剤が浸入する可能性のある箇所のみをマスクすることで作業性が改善される。なお、本発明は耐表面処理剤の観点からシリコン製チューブおよびフッ素樹脂バーを用いたが、同様の効果がある場合はこれに限定しない。
【0025】
図7は、本発明の第2実施例によるマスカント工具を利用してマスクをした製品の使用例を示す図である。この製品30の内部には、ナット31、ボルト32、Oリング33、スプリング34、部品35、Cリング36、Oリング37からなる精密部材が挿入される。このような製品は寸法精度が要求されるため、例えば、製品全体を表面処理剤に浸けるような方法を採る事はできない。このため、表面処理が不要な製品30の内径部にはマスカント工具40で表面処理剤の浸入を防ぐことが必要となる。なお、製品30の内部を確認するための覗き穴38はマスクする必要はない。
【0026】
上記各実施例に係るマスカント工具によれば、マスク部をマスク部形状に合致させた形状で形成できるため、マスク部材を製品のマスク部に密着固持されることができる。このため、マスク部は表面処理剤に触れないため表面処理剤の影響を受けることがなくなる。これにより操縦系統の支柱や、ロッド、チューブ等の部品の表面処理作業において、表面処理が不要な領域を確実にマスクすることができる。また弾性部材を用いることにより筒状部の形状が異なる製品に対しても対応することができる。また弾性部材と棒状部材を製品の筒状部材内に挿入するだけであるため簡便にマスクできる。さらに、弾性部材と棒状部材という簡単な構成であるためマスカント工具を安価に提供することができる。
【0027】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。上記実施例で用いた製品は円筒形状のものを用いて説明したが本発明のマスカント工具は、円筒形状の製品に限らず筒状の部材であれば外径はどのような形状の製品に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来のマスク方法を説明するための図である。
【図2】従来の他のマスク方法を説明するための図である。
【図3】製品とマスク箇所を説明するための図である。
【図4】本発明の第1実施例によるマスカント工具を説明するための図である。
【図5】製品へマスカント作業が行われた図を示している。
【図6】本発明の第2実施例によるマスカント工具を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施例によるマスカント工具を利用してマスクをした製品の使用例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10、30 製品
20、40 マスカント工具
21 弾性部材
22 棒状部材
41 第1の弾性部材
42 第2の弾性部材
43 第1の棒状部材
44 第2の棒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材を表面処理する際に該表面処理が不要な領域をマスキングするマスカント工具において、
前記筒状部材の筒内に挿入される筒状の弾性部材と、
前記弾性部材の孔部に挿入され、前記弾性部材の外表面を前記筒状部材の筒内に押し付ける棒状部材と、を備えることを特徴とするマスカント工具。
【請求項2】
前記弾性部材は、外径が前記筒状部材の内径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のマスカント工具。
【請求項3】
前記棒状部材は、外径が前記弾性部材の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマスカント工具。
【請求項4】
前記弾性部材は、全長が前記筒状部材の全長よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項5】
前記棒状部材は、全長が前記弾性部材の全長よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項6】
前記弾性部材は、第1の弾性部材と第2の弾性部材を含み、前記棒状部材は、第1の棒状部材と第2の棒状部材を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項7】
前記第1の棒状部材は一端部に孔部を有し、該孔部は前記第2の棒状部材の一端部と係合されることを特徴とする請求項6に記載のマスカント工具。
【請求項8】
前記弾性部材は、シリコン製チューブであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項9】
前記棒状部材は、フッ素樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項10】
前記棒状部材は、端部の少なくとも一方が面取りされていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のマスカント工具。
【請求項11】
前記筒状部材は、円筒形状をなすことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載のマスカント工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119650(P2008−119650A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308734(P2006−308734)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】