説明

マスクブランク用基板、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法

【課題】研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去することのできるマスクブランク用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の主表面に対して研削を行う工程と、研削が行われた前記基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程と、前記火炎を接触させる工程を行った後に、前記基板の主表面に対して研磨を行う工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、並びにそのマスクブランク用基板を用いるマスクブランク及び転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のマスクブランク用基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものである。転写用マスクの金属薄膜等に微細パターンを設ける際には、フォトリソグラフィー法が用いられている。転写用マスクは、通常、透明なマスクブランク用基板上に遮光膜が形成されたマスクブランクから作られる。微細パターンを有する転写用マスクを得るために、マスクブランク用基板には、高平坦度及び高平行度が要求されている。また、マスクブランク用基板上に欠陥(傷や異物等)があると、それを用いて製造される転写用マスクにも欠陥が存在することになり、微細パターンの形成の際に欠陥を引き起こしてしまう。したがって、マスクブランク用基板には、欠陥がないことが要求されている。
【0003】
従来のマスクブランク用基板として、例えば、特許文献1には、エッチング処理後、精密研磨工程を含む後処理工程を経て得られたマスクブランクス用ガラス基板において、前記ガラス基板の主表面の表面粗さが二乗平均平方根粗さ(RMS:Root Mean Square)で0.2nm以下であることを特徴とするマスクブランクス用ガラス基板が開示されている。また、特許文献1には、マスクブランクス用ガラス基板の製造方法として、ガラス基板の主表面上に残存する欠陥を顕在化させる工程を有するマスクブランクス用ガラス基板の製造方法において、前記欠陥を顕在化させる工程後に、精密研磨を含む後処理工程を行うことを特徴とする製造方法が開示されている。また、特許文献1には、ガラス基板の主表面上に残存する欠陥を顕在化させる工程は、主表面をエッチング処理することにより行うことが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ガラスディスクの表面を研削する装置として、下側定盤と、この下側定盤の中心部に設けられた太陽歯車と、下側定盤の外縁に設けられた内歯車と、外周部に前記太陽歯車及び前記内歯車に噛合する歯部を有しガラスディスクを保持する円板状のキャリアと、下側定盤に対向する上側定盤とを有する両面研削装置が開示されている。特許文献2に記載の両面研削装置を用いると、前記キャリアに前記ガラスディスクを保持させ、このキャリアの外周部の歯部を前記太陽歯車及び前記内歯車に噛合させ、前記太陽歯車及び前記内歯車の少なくともいずれか一方を回転駆動することにより、これら定盤と前記キャリアに保持されたガラスディスクとを相対的に摺動させる処理を行い、ガラスディスクの研削を行うことができる。
【0005】
また、特許文献3には、マスクブランクス用基板の研磨装置として、上下に対向して設けられた上定盤及び下定盤と、太陽歯車と、この太陽歯車の外方に同心円状に配置される内歯歯車と、被研磨加工物を保持するとともに、前記太陽歯車及び前記内歯歯車と噛み合う遊星歯車形状のキャリアを備えた研磨装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、石英ガラス加工品の寸法修正方法が開示されている。具体的には、特許文献4には、寸法修正すべき石英ガラス加工品を石英ガラス溶接棒に対して所定距離だけ離間して配置し、バーナーの可燃ガス火炎を該石英ガラス溶接棒の端部に放射して該石英ガラス溶接棒を加熱し石英を昇華してガス状石英とし、このガス状石英をバーナーの可燃ガス火炎の放射方向に飛ばすことによって該石英ガラス加工品の寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積せしめた後、該付着堆積した不透明な石英堆積層を加熱して溶着した透明な石英ガラス層とし当該石英ガラス加工品の寸法修正を行うようにしたことを特徴とする石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−54285号公報
【特許文献2】特開2007−90452号公報
【特許文献3】特許第3974535号公報
【特許文献4】特開2002−326828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マスクブランク用基板は、高い平坦性、高い平滑性、さらに傷等の欠陥のないものに仕上げるため、通常、合成石英ガラスインゴットからマスクブランク用基板の形状に切り出す工程(切り出し工程)の後に、研削(ラッピング)工程及び研磨(ポリッシング)工程が複数段階に分けて行われる。
【0009】
研削工程は、切り出した基板の主表面、端面及び面取り面に対して研削を行う工程である。研削工程は、所定の板厚寸法に整え、平坦度を良化させる目的で行われる。
【0010】
研磨工程は、研削工程後の基板の主表面、端面及び面取り面に対して研磨を行う工程である。研磨工程は、研削工程によって得られた平坦度を維持・向上させつつ、基板の主表面の平滑性をさらに向上させることを目的として行われる。主表面の研磨は、一般的に両面研磨装置を用いて両面同時に行われる。研磨工程においては、段階的に研磨砥粒の粒径を小さくしながら複数段階にわたって研磨加工が行われる。例えば、平均粒径が0.3〜3μmの酸化セリウムの研磨砥粒による粗研磨及び精密研磨を行った後、平均粒径が300nm以下のコロイダルシリカ等による研磨砥粒による精密研磨が1〜2段階行われる。この結果、表裏2つの主表面が所定値以下の平坦度及び表面粗さを有し、かつ主表面に表面欠陥(凸状欠陥又は凹状欠陥)のないマスクブランク用基板が製造される。
【0011】
研磨工程で研磨されたマスクブランク用基板に対しては、表面欠陥等の欠陥検査が行われる。この欠陥検査において基板の主表面に許容値以上のサイズの表面欠陥が発見されたマスクブランク用基板は、通常、不合格品として、研磨工程まで戻され、再度、主表面が研磨されることになる。表面欠陥は、凸状欠陥と凹状欠陥に大きく分けられる。凹状欠陥を取り除く研磨の場合、平行度や平坦度を維持するには、主表面を局所的にではなく全体的に取り除いていかなければならないため、必要な研磨取り代が多くなる。また、何度も精密研磨の段階に戻されたマスクブランク用基板であって、規定値の基板の厚さよりも薄くなってしまった場合には、マスクブランク用基板としての使用が不可となり、廃棄される。
【0012】
近年、半導体装置のさらなる微細化の要求のため、マスクブランク用基板の平行度、平坦度、表面粗さ及び表面欠陥に対する要求も高まっている。特に、表面欠陥に関しては、そのマスクブランク用基板を用いて製造されるマスクブランクのグレードによって、許容される欠陥サイズが定められ、その定められたサイズ以上の表面欠陥の存在は許容されない。最先端の半導体デバイスを製造するために使用されるマスクブランク用基板の場合、許容されうる表面欠陥のサイズは非常に厳しい。
【0013】
基板の主表面の研削を行う研削工程では、基板の主表面に接触する上下定盤の研削面は、通常、金属やダイヤモンド固定砥粒等の硬度の高い材質で形成されている。このため、研磨工程に比べて、基板の主表面に対する研削面の当たりが強く、基板の主表面近傍に内部クラック等の欠陥が発生しやすい。しかしながら、研削工程後の基板は、すりガラス状の表面状態になるので、研削工程後に基板を検査しても内部クラックを発見することは容易ではない。また、研磨工程において、内部クラックが発生している主表面からの厚さ方向の寸法を見込んで、その内部クラックを除去する研磨を行おうとすると、研磨取り代(主表面からの厚さ方向の研磨寸法)を大きく取ることが必要になる。研磨取り代を大きくするためには、研磨時間を長くすることが必要となる。研磨時間が長くなると、基板の主表面の外周縁の縁だれ量が大きくなりやすいという問題が生じる。「縁だれ」とは、研磨の際、基板を回転させるため、基板の中心部と比べて中心部から遠い部分の研磨速度が速くなることにより、中心部から遠い部分の研磨量が大きくなってしまうことをいう。縁だれは、円形の基板と比べて、矩形の基板の場合に、特に問題となる。
【0014】
特許文献1には、基板の内部クラック発生の問題を解決するために、研磨取り代を多く取らない代わりに、研削工程後の基板に対して、水酸化ナトリウム等の基板をエッチングする特性を有する溶液に基板を浸漬させて内部クラックを顕在化させる処理を行ってから精密研磨を行い、欠陥検査をして、欠陥検査時に内部クラックの存在する基板が合格品として流出することを防ぐことを含む、基板の製造方法が記載されている。この製造方法によると、内部クラックの存在する基板が流出することは抑制できるが、歩留まりの低下が生じるという問題がある。
【0015】
特許文献4には、寸法修正すべき部位にガス状石英を付着堆積させる技術を用いる石英ガラス加工品の寸法修正方法が記載されている。しかしながら、ガス状の石英を付着堆積させる技術を、マスクブランク用基板の欠陥部分に適用すると、欠陥の周囲にも石英が堆積し、平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことは避けられない。欠陥のサイズは、μmオーダーのものが多く非常に小さいため、欠陥以外の部分に余分に堆積した石英を除去するための研磨工程が必要になってしまう。欠陥は、研磨工程において、研磨砥粒が固化したもの等の異物が、加工圧力印加状態で回転運動を行っている定盤上の研磨布と基板の主表面との間に侵入してしまい、主表面を傷つけることによって生じる場合が多い。余分に堆積した石英を除去する研磨工程を行うことによって、マスクブランク用基板に新たな表面欠陥の発生リスクが生じるという問題がある。さらに、一般的に内部クラック等の欠陥の幅は非常に小さく、底部にまでガス状石英を堆積させることは非常に難しい。したがって、マスクブランク用基板の表面欠陥を修正するために、特許文献4に開示された発明を用いることは困難である。
【0016】
そこで、本発明は、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去することのできるマスクブランク用基板の製造方法を得ることを目的とする。また、本発明は、研削工程においてマスクブランク用基板に内部クラック等の欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、基板の製造の歩留まり改善効果、及び内部クラックの存在する基板が合格品として流出することを抑制する効果の両方を同時に得ることを目的とする。
【0017】
また、内部クラックのある基板を用いて製造されたマスクブランクから転写用マスクを作製する際、エッチングガス、エッチング液、洗浄薬液等がクラックを拡大させ、基板主表面近傍の一部が脱落してしまうことがあるが、本発明は、このような問題を抑制することを目的とする。
【0018】
また、内部クラックのある基板を用いて製造された転写用マスクを使うと、転写用マスク洗浄の際、洗浄薬液によりクラックが拡大して、転写用マスクの基板主表面近傍の一部が脱落することがあるが、本発明は、このような問題を抑制し、転写用マスクの寿命を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、マスクブランク用基板の製造の際、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去するための様々な方法を検討した。その結果、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させることにより、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去することができることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0020】
本発明は、下記の構成1〜4であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法、下記の構成5であるマスクブランクの製造方法、及び下記の構成6である転写用マスクの製造方法である。
【0021】
(構成1)
対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の主表面に対して研削を行う工程と、研削が行われた前記基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程と、前記火炎を接触させる工程を行った後に、前記基板の主表面に対して研磨を行う工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0022】
(構成2)
前記基板は、合成石英ガラスからなることを特徴とする構成1に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0023】
(構成3)
前記火炎は、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0024】
(構成4)
前記火炎を接触させる工程は、前記基板の主表面を軟化させ、前記基板の主表面近傍に存在する内部クラックを除去することを特徴とする構成1〜3のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0025】
(構成5)
本発明は、構成1〜4のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0026】
(構成6)
本発明は、構成5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【0027】
次に、本発明のマスクブランク用基板の製造方法の構成1〜4について説明する。
【0028】
本発明は、構成1にあるように、対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記基板の主表面に対して研削を行う工程と、研削が行われた前記基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程と、前記火炎を接触させる工程を行った後に、前記基板の主表面に対して研磨を行う工程とを有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0029】
構成1にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、研削が行われた前記基板の主表面に対して、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させて、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去する。「基板の軟化点」とは、基板を構成する基板材料の軟化点のことであり、その基板材料の粘性率(粘度)をη(poise)とした場合、log η=7.6を満たす粘性率になるときの温度をいう。なお、粘性率(粘度)の測定は貫入法を用いて行うことができる。また、必要に応じて、ビーム曲げ法又は球引き上げ法等の測定法を用いて粘度測定を行うことができる。また、基板の「主表面」とは、図3に例示するように、基板周縁部(端面72及び面取面73のことであり、端面72及び面取面73のことを「側面」ともいう。)を除く表面のことをいう。すなわち、基板の「主表面」とは、図3において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
【0030】
本発明者は、マスクブランク用基板の内部クラック等の欠陥が存在する部分(表面欠陥部分)に、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させると、欠陥近傍の部分を含む基板材料が軟化し、内部クラック等の欠陥を除去するように基板材料を流動させることができ、その結果、欠陥を除去することができることを見出したのである。なお、本明細書において、この欠陥を除去するための火炎を用いた処理のことを、「火炎処理」という。本発明の製造方法では、内部クラック等の欠陥を除去するために、合成石英ガラスのような基板材料を付着させる必要はなく、マスクブランク用基板に対して所定の燃焼温度以上の火炎を接触させることによって、内部クラック等の欠陥の周囲の基板材料を軟化させ、わずかに流動させることにより欠陥を除去することができる。また、欠陥として凹状欠陥の表面欠陥が存在する場合にも、基板材料が表面の凹状欠陥部分を埋めるように流動させることにより表面欠陥を平坦化することができる。また、表面欠陥として凸状欠陥が存在する場合にも、基板材料が表面欠陥部分から広がるように流動させることにより表面欠陥を平坦化することができる。
【0031】
研削を行う工程(研削工程)において内部クラック等の欠陥が発生することが多いため、この火炎を接触させる工程(火炎処理工程)は、研削工程の後に行う。火炎処理工程は、基板の平坦度の悪化が後の工程で問題とならない程度で行うことができる。基板の平坦度の悪化が大きくなければ、火炎処理工程の後に研磨を行う工程(研磨工程)を行うことにより、火炎処理工程で生じた平坦度の悪化を修正することができる。火炎処理工程の後の研磨工程は、従来通りの研磨時間で行うことができる。
【0032】
なお、必要に応じて、各工程の順序を適宜、入れ替えることも可能である。例えば、火炎処理工程は、研削工程の後に研磨工程を行った後で、行うこともできる。より平坦な基板表面に対して火炎処理を行うことが、内部クラック等の欠陥除去に対してより効果的である場合があるからである。研磨工程の後に火炎処理工程を行う場合には、火炎処理工程の後に、再度、研磨工程を行うことが、より平坦な表面を得ることができるため、好ましい。
【0033】
本発明によれば、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去することのできるマスクブランク用基板の製造方法を得ることができる。すなわち、本発明によると、基板に対して火炎処理という簡便な処理を行うことにより、基板の内部クラック等の欠陥を除去することができる。さらに、火炎処理により、基板の凹状欠陥及び凸状欠陥などの表面欠陥の修正を行うことも可能である。そのため、本発明によれば、研削工程においてマスクブランク用基板に内部クラック等の欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供することができる。この結果、基板の製造の歩留まり改善効果、及び内部クラックの存在する基板が合格品として流出することを抑制する効果の両方を同時に得ることができる。
【0034】
内部クラックのある基板を用いて製造されたマスクブランクから転写用マスクを作製する際、エッチングガスやエッチング液がクラックを拡大させ、基板主表面近傍の一部が脱落してしまうことがある。基板の脱落した部分が転写パターンの露光光を透過する透過部の場合、露光光の乱反射や位相欠陥が生じる。また、基板の脱落した部分の上面にパターン形成用の薄膜が残されている部分(遮光膜、位相シフト膜、光半透過膜等)の場合、基板の脱落部分とともに薄膜が脱落してしまうことでパターン欠陥(白欠陥)が発生してしまう。本発明の火炎処理工程を有する製造方法によりマスクブランク用基板を製造するならば、内部クラック等の欠陥を除去することができるので、マスクブランクから転写用マスクを作製する際のこれらの問題を抑制することができる。
【0035】
内部クラックのある基板を用いて製造された転写用マスクを使うと、転写用マスク洗浄の際、洗浄薬液によりクラックが拡大して、転写用マスクの基板主表面近傍の一部が脱落することがある。この基板の一部の脱落が発生すると、前記と同様の理由から露光光の乱反射や位相欠陥、パターン欠陥が発生してしまう。本発明の火炎処理工程を有する製造方法によりマスクブランク用基板を製造するならば、内部クラック等の欠陥を除去することができるので、転写用マスクの基板の一部が脱落するという問題を抑制することができる。そのため、本発明の製造方法を用いてマスクブランク用基板を製造するならば、そのマスクブランク用基板を用いて製造された転写用マスクの寿命を、従来のものと比較して長くすることができる。
【0036】
また、構成2にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記基板は、合成石英ガラスからなることを特徴とすることが好ましい。
【0037】
構成2にあるように、基板の材料として合成石英ガラスを用いることが好ましい。合成石英ガラスは化学的に安定で、他の工業材料と比較して熱膨張係数が極めて小さいなどの特徴を有する。また、合成石英ガラスは、FPD製造用途の転写用マスクで使用される超高圧水銀灯の露光光に対する光透過性も高い。さらには、合成石英ガラスは、半導体デバイス製造用途の転写用マスクで使用されるKrFエキシマレーザ(波長:約248nm)やArFエキシマレーザ(波長:約193nm)の露光光に対する光透過性も高い。これらのことからもわかるように、マスクブランク用基板の材料として、合成石英ガラスを好適に用いることができる。
【0038】
また、構成3にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記火炎は、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とすることが好ましい。
【0039】
構成3にあるように、火炎は、1600℃以上の燃焼温度であることが好ましい。合成石英ガラスの軟化点は、その種類によるものの一般的に1600℃以上であるので、1600℃以上の燃焼温度の火炎を用いることにより、表面欠陥の周囲の合成石英ガラスをわずかに流動させ、表面欠陥を平坦化することができる。なお、合成石英ガラスの流動を確実にするためには、火炎は、1700℃以上の燃焼温度であることがより好ましく、1800℃以上の燃焼温度であることがさらに好ましい。また、火炎の燃焼温度の上限は、合成石英ガラスに対して悪影響を及ぼさない程度の温度であることが好ましく、例えば、2800℃以下、好ましくは2500℃以下、より好ましくは2300℃以下である。
【0040】
また、構成4にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法において、前記火炎を接触させる工程は、前記基板の主表面を軟化させ、前記基板の主表面近傍に存在する内部クラックを除去することを特徴とすることが好ましい。
【0041】
構成4にあるように、火炎を接触させる工程は、基板の主表面を軟化させ、基板の主表面近傍に存在する内部クラックを除去することを特徴とすることが好ましい。マスクブランク用基板の内部クラック等の欠陥が存在する部分(表面欠陥部分)に、基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎が接触すると、欠陥近傍の部分を含む基板材料が軟化し、内部クラック等の欠陥を除去するように基板材料を流動させることができるのである。
【0042】
次に、本発明のマスクブランクの製造方法の構成5について説明する。
【0043】
本発明は、構成5にあるように、構成1〜4のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0044】
構成5にあるように、上記構成1〜4のいずれか1つのマスクブランク用基板の製造方法では、火炎処理によって表面欠陥を容易に修正することにより、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板を得ることができる。そのため、構成1〜4のいずれか1つのマスクブランク用基板にパターン形成用の薄膜を成膜したマスクブランクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランク用基板へのパターン形成用薄膜の成膜は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0045】
次に、本発明の転写用マスクの製造方法の構成6について説明する。
【0046】
本発明は、構成6にあるように、構成5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【0047】
構成6にあるように、本発明による構成5のマスクブランクの製造方法は、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。そのため、構成5のマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した転写用マスクも、低コストかつ高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、研削工程後の基板の主表面近傍に発生する内部クラック等の欠陥を除去することのできるマスクブランク用基板の製造方法を得ることができる。そのため、本発明によれば、研削工程においてマスクブランク用基板に内部クラック等の欠陥が発生した場合でも、簡便にかつ基板の平坦度及び表面粗さに悪影響を及ぼすことなくマスクブランク用基板の欠陥を修正することのできる、低コストかつ高い歩留まりのマスクブランク用基板の製造方法並びにマスクブランク及び転写用マスクの製造方法を提供することができる。この結果、基板の製造の歩留まり改善効果と、内部クラックの存在する基板が合格品として流出することを抑制する効果の両方を同時に得ることができる。また、従来、内部クラックを除去するための研磨工程である粗研磨工程や精密研磨工程では、研磨砥粒に酸化セリウムや酸化ジルコニウムなどが用いられることが多い。本発明を用いることで、粗研磨工程や精密研磨工程を行わない、あるいは研磨時間を短縮することができ、これらの研磨砥粒の使用量を抑制あるいは使用しないことができる。その結果、研磨工程でのレアアースやレアメタルの使用量を抑制あるいは使用しないことができる。
【0049】
また、内部クラックのある基板を用いて製造されたマスクブランクから転写用マスクを作製すると、エッチングガスやエッチング液がクラックを拡大させ、基板主表面近傍の一部が脱落してしまうことがある。本発明により、このような問題を防止することができるので、マスクブランクから転写用マスクを作製する際の基板の一部が脱落することに起因する諸問題を抑制することができる。
【0050】
また、内部クラックのある基板を用いて製造された転写用マスクを使うと、転写用マスク洗浄の際、洗浄薬液によりクラックが拡大して、転写用マスクの基板主表面近傍の一部が脱落することがあるが、本発明により、このような問題を抑制することができるので、転写用マスクの寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】マスクブランクを火炎処理している様子の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のマスクブランク用基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【図3】本発明の製造方法に用いることのできるマスクブランク用基板を示す模式図である。
【図4】本発明の製造方法に用いることのできる火炎処理装置の一例の概略構成図である。
【図5】マスクブランクを用いて転写用マスクを製造する工程の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
<マスクブランク用基板1の製造方法の説明>
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法について説明する。以下、合成石英ガラスをマスクブランク用基板1の材料として用いる場合を例に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0053】
本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、図2に示す工程、すなわち、切り出し工程(S101)、研削工程(S102)、火炎処理工程(S103)、研磨工程(S104)及び欠陥検査(S105)を有することができる。また、本発明のマスクブランク用基板1の製造方法は、必要に応じて、側面(端面及び面取面)部分鏡面研磨工程及び欠陥顕在化工程等を有することができる。
【0054】
なお、研削工程と研磨工程との間などの各工程の間に、次工程に前工程に使用した例えば砥粒等の影響を及ぼさないようにするために、基板に付着した砥粒等を除去するための洗浄工程を適宜設けることができる。
【0055】
(1)切り出し工程(S101)
まず、合成石英ガラスのインゴットから、シート形状の合成石英ガラス(シートガラス)を切り出す。次に、合成石英ガラスからなるシートガラスから研削砥石で切り出して、所定の形状の長方形状の基板1を得ることができる。なお、長方形状の寸法は用途により異なる。また、この工程において、基板1の端面72に面取り加工を施して面取面73を形成し、図3に示すような形状にすることができる。
【0056】
(2)研削(ラッピング)工程(S102)
研削工程(ラッピング工程)では、基板1の形状を整えるとともに、主表面71を研削加工する。研削加工では、両面研削装置とアルミナ砥粒とを用いて加工を行い、基板の寸法精度及び形状精度を所定のものとする。研削工程は、例えば特許文献2に記載された両面研削装置に準じた装置を用いて行うことができる。両面研削装置の上側及び下側の各定盤は、例えば、球状黒鉛含有鋳鉄等の剛性の高い材料を用い、基板との摺接面に複数の溝を格子状に形成した構成などが挙げられる。また、複数の溝を格子状に形成する代わりに、ダイヤモンド固定砥粒を多数配置されたダイヤモンドシートを上側及び下側の各定盤に貼り付け、基板主表面に当接する構成としてもよい。この研削工程では、基板1の表裏の両主表面71の研削は、上述の両面研削装置を用いて従来と同様の条件で行われる。
【0057】
(3)火炎処理工程(S103)
研削工程後の基板1に対して、火炎処理を行う。研削工程では、研磨工程と異なり、堅牢な定盤(下側定盤123及び上側定盤122)と、基板とが接しながら基板1の主表面71の研削が行われる(研磨工程の場合、上側・下側定盤の各定盤面に貼り付けられた樹脂製の研磨パッドを介して基板1の主表面と当接する)ため、研削工程後の基板1の主表面71近傍には内部クラック等の欠陥5が発生することが多い。そこで、本発明の製造方法では、基板1の主表面71を火炎処理することにより、基板1の主表面71近傍に発生した内部クラック等の欠陥5を除去する。具体的には、火炎処理工程では、基板1の主表面71近傍に火炎52を照射して、火炎52が基板1に接するようにして加熱することによって、火炎52を照射した部分の基板を軟化又は溶解させて内部クラック等の欠陥5を除去するように流動させ、内部クラックのない状態に復元する。本発明の製造方法が火炎処理工程を有することにより、基板の製造の歩留まり改善効果、及び内部クラックの存在する基板1が合格品として流出することを抑制する効果の両方を同時に得ることができる。また、火炎処理のためには大規模な設備の必要はないため、簡易かつ低コストで内部クラック等の欠陥5の除去を行うことができる。
【0058】
図1に、基板1の内部クラック等の欠陥5を火炎処理している様子の一例の断面模式図を示す。基板1の内部クラック等の欠陥5は、火炎照射装置50から照射する火炎52によって加熱されることで火炎処理される。基板1の内部クラック等の欠陥5が存在する部分を特定することは容易ではないので、火炎処理工程では、基板1の主表面71の全面にわたって火炎処理を行うことが好ましい。大きな火炎52を基板1の主表面71の全面に対して均一に照射することは容易ではない。また、基板の内部温度まで軟化点以上の高温になると、基板形状自体が変形する恐れもある。そのため、比較的小さな火炎52を発生する装置を用い、局所的に火炎52を照射しながら基板1の主表面71全面を走査すること、すなわち走査火炎処理を行うことにより、基板1の主表面71全面の処理を均一に行い、基板1の内部クラック等の欠陥5を除去することができる。また、走査火炎処理の際に火炎52を適切な温度及び大きさにすることによって、基板1を必要以上に加熱することを抑えつつ、内部クラック等の欠陥5を除去することができる。
【0059】
火炎処理を行うための火炎照射装置50としては、引火性ガス105を燃焼することによって火炎52を発生するバーナー等を用いることができる。火炎照射装置50に用いる引火性ガス105としては、メタン、プロパン、ブタン及びアセチレン等の炭化水素、水素並びに酸素及び水素の混合気体等から選択して用いることが好ましい。より高温で火炎処理を行うことができるため、ブタン又は水素と、酸素との混合気体の引火性ガス105を用いることがより好ましい。
【0060】
本発明の製造方法に用いる火炎処理において、火炎52の部分の温度は、基板1の材料の軟化点により異なる。基板1の材料が合成石英ガラスの場合には、火炎52の部分の温度は、好ましくは1600℃以上、より好ましくは1700℃以上、さらに好ましくは1800℃以上である。このような温度範囲の火炎52を内部クラック等の欠陥5が存在する基板1の部分と接触させることにより、火炎52が接触した部分の基板1の温度が火炎52の温度と同程度となる。その結果、内部クラック等の欠陥5が存在する部分が軟化し流動し、内部クラック等の欠陥5の除去を行うことができる。なお、基板1の火炎処理を行った部分は、それ以外の部分に比べて、OH基の濃度分布が変化する傾向がある。
【0061】
火炎処理の際の火炎照射装置50と基板1との間の距離は、火炎52の発生が妨げられず、基板1の主表面71に対する火炎52の接触し、内部クラック等の欠陥5の除去が有効に行われる範囲で適宜選択することができる。火炎処理の際の火炎照射装置50と基板1の主表面71との間の距離は、基板1の主表面71に対する火炎52の接触を妨げられずに内部クラック等の欠陥5の除去を有効に行う点から、1mm〜50mmとすることが好ましく、2mm〜20mmとすることがより好ましい。
【0062】
基板1の加熱を抑えつつ、内部クラック等の欠陥5を火炎処理するために、比較的小さな火炎52を発生する装置を用い、基板1の主表面71に局所的に火炎52を照射しながら基板1の主表面71全面を走査する処理(走査火炎処理)を行うことにより、内部クラック等の欠陥5の火炎処理を行うことが好ましい。図4に、走査火炎処理を行うための火炎処理装置100の概略構成図を示す。走査火炎処理の際には、光学顕微鏡等によって基板1の主表面71を観察しながら火炎52を照射することもできる。走査火炎処理をする場合、内部クラック等の欠陥5に対する火炎52の照射径は、0.1mm〜10mmとすることが好ましく、0.2mm〜5mmとすることがより好ましく、0.5mm〜4mmとすることがより好ましい。
【0063】
図4に示す火炎処理装置100では、ステージコントローラ112及びステージ102を用いることにより基板1を移動して、基板1の主表面71全面に火炎52が照射するように火炎52の照射位置を走査することができる。引火性ガス105の流量等を制御することにより火炎52を制御するための火炎制御部104と、ステージコントローラ112に接続された火炎処理制御部114とを設けた火炎処理装置100を用いることにより、走査火炎処理の際の火炎52の照射位置の走査を自動的に行うことができる。
なお、図1や図4では、基板1を概ね水平に配置し、火炎52を上方から主表面71に当てるような位置関係としているが、これに限定する必要はない。例えば、基板1を斜め、あるいは垂直に立て、火炎52を斜め上方あるいは、横方向から主表面71に当てるような配置としてもよい。また、下側の主表面71が露出するように基板1を概ね水平に支持し、下方から火炎52を下側の主表面71に当てるような配置としてもよい。これらのような位置関係とすることで、火炎照射装置50の先端開口部分の温度上昇を低減でき、先端開口部分に使用する金属材料に求められる耐熱性のスペックを下げることも可能となる。
【0064】
(4)欠陥顕在化工程
火炎処理によって基板1中の内部クラック等の欠陥5の除去が行われたことを確認するために、本発明の製造方法は、内部クラック等の欠陥5を顕在化する欠陥顕在化工程を有することが好ましい。欠陥顕在化工程としては、特許文献1に記載の欠陥顕在化の方法を用いることができる。欠陥顕在化工程により内部クラック等の欠陥5の除去が完全ではないことが確認された場合には、再度、火炎処理をすることによって、欠陥5の除去を完全に行うことができる。また、顕在化された欠陥5の大きさが大きいため、火炎処理等によっては欠陥5の除去が不可能と判断された場合には、再度、研削工程を行うことができる。欠陥5が修復不可能な欠陥の場合には、その基板1を廃棄することができる。なお、欠陥5の大きさは、次の研磨工程で除去可能な大きさ、例えば深さ0.05mm程度より小さい大きさであれば、その存在を許容することができる。
【0065】
具体的には、欠陥顕在化工程は、次のようにして行うことができる。すなわち、基板1中の内部クラック等の欠陥5の顕在化は、基板1の主表面71をエッチング処理することにより行うことができる。エッチング処理により、効果的に主表面71上に残存する欠陥を顕在化させることができるとともに、洗浄効果を有することができる。
【0066】
欠陥5の顕在化のためのエッチング処理に用いられるエッチング方法は、乾式(ドライ)エッチング、湿式(ウェット)エッチングのどちらの方法も用いることができる。
【0067】
このエッチング処理によって、内部クラック等の欠陥5は拡大される。例えば、エッチングがウェットエッチングの場合、基板1の表面から中心方向に延びる内部クラック等の欠陥5は、等方的にエッチングされるので、基板1の表面のエッチング量と合わさって、欠陥5の中心方向の深さは大きく変化しないが、クラック等の欠陥5の面内方向の大きさ(幅)が大きくなる。そのため欠陥5の発見が容易となる。また、通常、エッチング処理の後に、基板1の主表面71の鏡面化のための精密研磨を行う。したがって、研磨工程の後に行われる欠陥検査の際、研磨工程により基板1の主表面71は超平滑な状態となる。そのため、エッチング処理によりある大きさ(幅)を持った欠陥5は、研磨工程後の平滑な表面状態において特に検出が容易である。
【0068】
また、研磨工程前にエッチング処理を行うと、基板1の表面の凹凸が比較的滑らかになるため、鏡面化するための研磨工程の負荷を抑えることができ、基板1の側面の形状も良好になる。また、研磨工程の負荷を抑えることにより、研磨時間を短縮することができるので、基板1の主表面71の周縁部の縁だれ量を小さくすることができる。
【0069】
なお、クラックとは、基板1の表面より深さ方向に延びている亀裂状態のものをいう。クラックは、研削工程で形成されることが多く、基板1の表面にはほとんど幅を持っていないので、検出することはほとんど不可能である。なお、本発明において問題となるクラックは、中でも研磨工程後に残存しているクラック、つまり、研磨工程で除去できない程度の深いクラックをいう。研磨工程で除去できる深さ程度の浅いクラックであれば、研磨工程での除去が可能だからである。
【0070】
クラック等の欠陥5の顕在化のためのエッチング処理は、アルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)などの水溶液やこれらの混合水溶液であることが好ましい。
【0071】
クラック等の欠陥5の顕在化のためのエッチング処理は、基板1の主表面71を0.01〜0.2μm除去するものであることが好ましい。
【0072】
0.01μm未満の場合、研磨工程後に行われる欠陥検査において、クラックの有無を判別することが困難となるので好ましくなく、また、0.2μmを超える場合、基板1のエッチングによる表面粗さ、表面形状(平坦度)が悪化するので好ましくない。
【0073】
なお、クラック等の欠陥5の顕在化のためのエッチング処理におけるエッチング速度は、0.2nm/分〜2.0nm/分であることが好ましい。エッチング速度が0.2nm/分未満の場合には潜在的欠陥の顕在化の程度が小さいので好ましくなく、エッチング速度が2nm/分を超える場合には基板1の腐蝕が早いため、表面粗さ、表面形状(平坦度)が悪化するので好ましくない。好ましくは、0.3nm/分〜0.7nm/分のエッチング速度であることが望ましい。
【0074】
(5)側面鏡面研磨工程
研削工程の後に、基板1の側面である端面72及び面取面73を研磨し、鏡面加工する側面鏡面研磨工程を含むことが好ましい。側面鏡面研磨工程における研磨は、研磨剤を用いて、ブラシ等により行うことができる。側面鏡面研磨工程において使用する研磨剤に含まれる研磨砥粒としては、基板1に対して研磨能力を奏する研磨砥粒であれば、特に制限なく使用することができる。研磨砥粒としては、例えば、酸化セリウム(CeO)砥粒、及びコロイダルシリカ砥粒などを挙げることができ、特に、酸化セリウム研磨砥粒を用いることが好ましい。研磨砥粒の粒径については、適宜選択することができるが、例えば、0.5〜3μm程度の粒径とすることが好ましい。また、側面鏡面研磨工程では、研磨砥粒を含む研磨剤に水(純水)などの液体を加え、この研磨剤をスラリーとして用いることが好ましい。
【0075】
(6)研磨工程(S104)
次に、研磨工程(S104)により、上述の研削工程(S102)で得られた基板1の平坦度を維持しつつ、研削工程の際に形成された傷や歪みを除去する。研磨工程は、さらに基板1の主表面71の鏡面化を目的として行われる。通常、研磨工程においては、傷や歪みの除去と、鏡面化とは別々の研磨により行う。したがって、研磨工程では複数回の研磨を行うことが一般的である。
【0076】
研磨工程は、公知の方法で行うことができる。例えば、研磨工程は、特許文献2に記載の研磨装置を用いて行うことができる。研磨液としては、微細な研磨粒子を液体中に分散させたものが一般的に用いられる。研磨粒子は、例えば、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、コロイダルシリカなどであり、被研磨加工物Wの材質、加工表面粗さなどに応じて適宜選択される。これらの研磨粒子は、水、酸性溶液、アルカリ性溶液などの液体中に分散され、研磨液とされる。
【0077】
上述の研磨工程までの製造工程によって、マスクブランク用基板1を製造することができる。
【0078】
(7)欠陥検査(S105)
次に、欠陥検査(S105)によって、研磨工程により得られたマスクブランク用基板1の平坦度、表面粗さ並びに内部クラック等の欠陥5の有無を検査する。従来の製造工程によって得られたマスクブランク用基板1は、高い平坦性及び高い平滑性を有するが、少なくない頻度で内部クラック等の欠陥5が存在することが知られている。許容される内部クラック等の欠陥5のサイズは、マスクブランク用基板1から製造されるマスクブランク10及び転写用マスクの用途により異なる。ただし、内部クラックを有するマスクブランク用基板1から製造されたマスクブランクを用いて、転写用マスクを作製すると、エッチングガスやエッチング液がクラックを拡大させ、基板主表面近傍の一部が脱落してしまうことがある。また、内部クラックを有するマスクブランク用基板1を用いて製造された転写用マスクを使うと、転写用マスク洗浄の際、洗浄薬液によりクラックが拡大して、転写用マスクの基板主表面近傍の一部が脱落することがある。したがって、転写用マスクの長寿命化のためには、微小であっても内部クラックが存在しないことが好ましい。そのため、内部クラック等の欠陥5は、欠陥検査より前に、欠陥顕在化工程によって顕在化させておくことが好ましい。
【0079】
内部クラック等の欠陥5は、光学顕微鏡を用いた表面検査装置により、寸法、形状及び位置を測定することができる。また、このほかにもレーザー散乱光方式の欠陥検査装置やコンフォーカル光学系の欠陥検査装置なども適用可能である。例えば、FPD製造用途のマスクブランク用基板1の場合、凹状の内部クラック等の欠陥5では、幅が1μmよりも大きなサイズのものは許容されないと判定する場合が多い。この欠陥検査では、マスクブランク用基板1を検査した結果、主表面71が所定以上の平坦度及び表面粗さを有し、かつ、検出された内部クラック等の欠陥5の中で許容されないサイズがないものを良品のマスクブランク用基板1として選定する作業をまず行う。良品のマスクブランク用基板1については、洗浄後、パターン形成用の薄膜を成膜する工程等が行われる。
【0080】
次に、主表面71が平坦度及び表面粗さのうち少なくともいずれかが所定値を満たさないマスクブランク用基板1は、修正可能な段階の研磨工程まで戻されて再研磨される。一方、平坦度及び表面粗さがともに所定条件を満たしているが、許容されないサイズの内部クラック等の欠陥5が存在するマスクブランク用基板1に対しては、再度、火炎処理工程を行うことができる。また、再研磨及び再度の火炎処理工程により、平坦度及び表面粗さの修復又は内部クラック等の欠陥5の除去が不可能と判断されたマスクブランク用基板1は、廃棄される。
【0081】
<マスクブランク用基板1の説明>
本発明の製造方法によって得られるマスクブランク用基板1は、その用途に応じて高い平坦度を有し、さらに高い平行度を有するものであることが好ましい。例えば、マスクブランク用基板1は、図3に示すように互いに対向して設けられた一組の主表面71と、該主表面と直交する2組の端面72と、前記主表面71と端面72とによって挟まれた面取面73を有する角型(方形状)の基板である。半導体デバイス製造用途のマスクブランク用基板1の場合は、一般に、その大きさが約152mm×約152mm×約6.35mmである。このマスクブランク用基板1の場合は、主表面の中心を基準とした142mm角内の領域での平坦度が例えば0μmを超え0.5μm以下であることが必要とされ、好ましくは0.3μm以下であることが望まれる。また、表面粗さについては、自乗平方根平均粗さRqで0.25nm以下である必要がある。
【0082】
また、FPD製造用途のマスクブランク用基板1の場合は、その大きさが多岐にわたり、330mm×450mm以上であり、例えば、500mm×800mm、厚さ10mmの形状、800mm×920mm、厚さ10mmの形状、1220mm×1400mm、厚さ13mmの形状、1400mm×1600mm、厚さ15mmの形状、2140mm×2400mm、厚さ15mmの形状などがある。このマスクブランク用基板1の場合は、主表面71(好ましくは両主表面71)の平坦度(マスクブランク用基板1の主表面71において、端面から30mmを除いた内側の領域の平坦度を指す。よって、面取面73は必然的に除かれる。)が、小型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm未満)では0μmを超え5μm以下、大型のマスクブランク用基板1(330mm×450mm以上)では0μmを超え30μm以下の高い平坦度を有する基板である。また、表面粗さについては、平均表面粗さRaで0.2nm以下、さらに好ましくは0.15nm以下である。
【0083】
<マスクブランク10及び転写用マスクの説明>
次に、本発明のマスクブランク10及び転写用マスクの製造方法の実施の形態を説明する。
【0084】
本発明は、上述の本発明のマスクブランク用基板1上に、転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜を有するマスクブランク10の製造方法である。本発明の製造方法では、上述の本発明のマスクブランク用基板1上に一つ又は二つ以上のパターン形成用薄膜を成膜する。
【0085】
転写パターンを形成するためのパターン形成用薄膜は、半導体デバイス製造用途のマスクブランク10の場合と、FPD製造用途のマスクブランク10の場合で大きく相違する。マスクブランク用基板1上にパターン形成用薄膜を成膜する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定する必要はない。マスクブランク10のパターン形成用薄膜に対して、公知のフォトリソグラフィー法により所定の微細パターンを形成することによって、転写用マスクを得ることができる。
【0086】
半導体デバイス製造用途のマスクブランク10の場合、パターン形成用の薄膜には、例えば、遮光膜、ハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜がある。遮光膜は、露光光に対して高い遮光性能を有する薄膜である。遮光膜は、露光光をほとんど透過しない(一般に透過率が約0.1%以下)。この遮光膜が適用されたマスクブランク10は、バイナリマスクブランクともいわれる。また、このマスクブランク10から作製された転写用マスクは、バイナリマスクともいわれる。
【0087】
光半透過膜の1種であるハーフトーン型位相シフト膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜20%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。このハーフトーン型位相シフト膜をパターニングした位相シフト部と、位相シフト部が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、位相シフト部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、位相シフト部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにすることができる。この結果、境界部における光強度をほぼゼロとし、境界部のコントラスト、すなわち解像度を向上させることができる。
【0088】
ハーフトーン型位相シフト膜以外の光半透過膜としては、パターン転写を行うレジスト膜が感光されない程度の所定の透過率で露光光を透過させる薄膜であるが、薄膜を透過した露光光に、薄膜のない部分を透過した露光光との間で位相差を生じないように調整されている薄膜であるものもある。このタイプの光半透過膜が適用されたマスクブランク10は、エンハンサマスクを作製する際に使用されることが多い。ハーフトーン型位相シフト膜、光半透過膜ともに、露光光に対して所定の透過率を有しているため、露光装置での転写対象物のレジスト膜への露光時に重ね露光を行うと、レジスト膜が感光してしまう場合がある。このため、ハーフトーン型位相シフト膜や光半透過膜の上に遮光帯を形成するための遮光膜を積層させた膜構成とする場合が多い。
【0089】
一方、FPD製造用途のマスクブランク10の場合、このマスクブランク10から作製された転写用マスクは、超高圧水銀灯を光源(露光光)とする露光装置で使用されることが一般的である。超高圧水銀灯の露光光は、ArFエキシマレーザー等のような単一波長の光ではなく、多色光になる。超高圧水銀灯の露光光は、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)の3つの波長で特に光強度が強い光である。このような多色光では、位相シフト効果は得られにくいため、ハーフトーン型位相シフト膜はFPD製造用途のマスクブランク10ではほとんど使用されない。半導体デバイス製造用途のマスクブランク10と同様、パターン形成用の薄膜に遮光膜が適用されたマスクブランク10(バイナリマスクブランク)は使用されている。
【0090】
FPD製造用途の転写用マスクには、透過率の異なる複数のパターン形成用薄膜にそれぞれ転写パターンが形成された構成の多階調マスクがある。この多階調マスクを用いて、転写対象物のレジスト膜に転写露光を行い、現像処理を行うと、レジスト膜に、レジストが全て溶解した抜け領域と、ある程度の膜厚が溶解している領域と、ほとんど溶解していない領域が形成される。よって、複数のパターンがレジスト膜に形成されていることになる。このようなレジストパターンは、まず、レジストが全て溶解している抜け領域とその他のレジストが残っている残存領域とからなる第1のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜をパターニングすることができる。次に、レジスト膜をある程度の溶解している領域のレジストが消滅するまでレジスト膜を全面で所定膜厚だけ除去する処理を行う。これによって、最初の段階でレジストがほとんど溶解していない領域以外の領域は、レジストが全て溶解した抜け領域となっており、第2のパターンができる。この第2のパターンをマスクとして、レジスト膜の下の薄膜に第1のパターンとは異なるパターンを形成することができる。このようなプロセスを使用することで、本来2枚の転写用マスクが必要なところを、1枚の多階調マスクで済むことになる。
【0091】
多階調マスクを作製する方法としては、パターン形成用薄膜の成膜と、パターン形成のエッチング処理とを繰り返して多階調マスクを完成させる方法がまず挙げられる。そのほかに、あらかじめ、マスクブランク用基板1上に光半透過膜(1段又は2段以上)と遮光膜を積層した構造の多階調マスクブランク10を製造し、この多階調マスクブランク10に対してエッチング処理を行い、多階調マスクを完成させる方法がある。
【0092】
なお、前記以外のパターン形成用の薄膜としては、エッチングマスク(ハードマスク)膜やエッチングストッパー膜がある。
【0093】
パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、クロムを主成分とする材料がまず挙げられる。クロムを主成分とする材料には、クロム単体のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加したクロム化合物がある。
【0094】
また、パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、遷移金属及びケイ素を主成分とする材料(遷移金属シリサイドを主成分とする材料)も適用可能である。遷移金属シリサイドを主成分とする材料には、遷移金属シリサイド単体のほか、遷移金属シリサイドに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加した遷移金属シリサイド化合物がある。遷移金属シリサイドの遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が適用可能である。
【0095】
このほか、パターン形成用薄膜に適用可能な材料としては、タンタルを主成分とする材料が挙げられる。タンタルを主成分とする材料には、タンタル単体のほか、タンタルに酸素、窒素、炭素、水素、ホウ素等の元素を添加したタンタル化合物がある。
【0096】
遮光膜の場合、高い遮光性を有するため、露光光に対する反射率が高くなる傾向がある。これを抑制するために、遮光膜を遮光性能の高い金属や遷移金属シリサイドの含有量が多い遮光層の上に反射率を抑制するための反射防止層を形成した積層構造とする場合が多い。さらに、遮光膜の基板側の反射率も抑制する必要がある場合は、基板と遮光層の間にさらに裏面反射防止層を形成した積層構造とする場合もある。反射防止層や裏面反射防止層の材料としては、金属や遷移金属シリサイドに酸素や窒素を含有した金属化合物材料や遷移金属シリサイド化合物材料が好適である。これに対し、遮光層は、高い遮光性能を有する必要があるため、金属材料や遷移金属シリサイドあるいは、酸素や窒素が極力少ない金属化合物や遷移金属シリサイド化合物材料を用いることが好ましい。
【0097】
このハーフトーン型位相シフト膜等の光半透過膜に適用可能な材料としては、前記のクロム化合物、タンタル化合物、遷移金属シリサイド化合物が挙げられる。特に、透過率等を調整するため、酸素や窒素を含有する前記化合物が好ましい。
【実施例】
【0098】
次に、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明する。
【0099】
(実施例1)
マスクブランク用基板1の製造は、(1)切り出し工程、(2)研削工程、(3)火炎処理工程、(4)研磨工程及び(5)欠陥検査の各工程によって行った。以下、各工程を詳細に説明する。
【0100】
(1)切り出し工程
合成石英ガラスインゴットから、平板上に切り出した合成石英ガラスを用意した。次に、合成石英ガラスからなるシートガラスから研削砥石で切り出して、正方形の基板1を得た。切り出す基板1の大きさは、最終的に約152mm×約152mm、厚さ約6.35mmのマスクブランク用基板1を得ることができるように、基板研磨取り代等を考慮した大きさとした。
【0101】
次いで、砥石を用いて研削することにより、合成石英ガラス基板1の側面に所定の面取り加工を施し、端面72及び面取面73を形成した。
【0102】
(2)研削工程
次に、得られた合成石英ガラス基板1の主表面71を研削加工した。研削加工では、前記の遊星歯車機構を有する両面研削装置を用いて、アルミナ砥粒を含む研削液を用いて加工を行い、合成石英ガラス基板1の寸法精度と形状精度を所定とした。遊星歯車機構の上側定盤2及び下側定盤は、球状黒鉛含有鋳鉄からなるものを使用した。
【0103】
得られた合成石英ガラス基板1の寸法は、一辺が約152mmの正方形の形状で、板厚は6.4mmであることを確認した。
【0104】
合成石英ガラス基板1の表面形状を観察したところ、主表面71の表面粗さはRmaxで2μm、Raで0.3μm程度であった。
【0105】
次に、合成石英ガラス基板1の端面72を研削して外形寸法を整えた後、面取面73も研削した。表面粗さを観察したところ、端面72及び面取面73ともにRmaxで14μm、Raで0.5μmであった。
【0106】
(3)火炎処理工程
研削工程後の合成石英ガラス基板1に対して、その主表面71全面に火炎処理を施した。火炎処理は下記の条件で、走査火炎処理により行った。
・火炎温度: 2200℃
・火炎照射装置50と基板1との距離: 15mm
・火炎径: 3mm
・火炎走査速度: 0.6mm/分
・引火性ガスの種類: ブタンと酸素との混合気体
【0107】
(4)研磨工程
次に、火炎処理工程によって火炎処理を行った基板1に対して、研磨工程を施した。なお、この研磨工程は、一回又は複数の研磨工程からなることができる。また、所定の研磨の後、所定の洗浄を行うための洗浄工程を有することができる。また、主表面71に対する最終の研磨工程の前に、端面72及び面取り面73に対して鏡面加工する側面鏡面研磨工程を行われる。ここでは、酸化セリウム研磨砥粒(平均粒径1μm)を用い、ブラシを端面72及び面取り面73に接触させて鏡面研磨を行った。
【0108】
研磨工程は、特許文献2に記載の両面研磨装置を用いて行った。ポリシャとして超軟質ポリシャを用い、以下の研磨条件で実施した。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径100nm)砥粒に水を加えた遊離砥粒
研磨布:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)、厚さ2mm
【0109】
上記研磨工程を終えた基板1を、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0110】
上記研磨工程を終えた基板1を、アルカリ(NaOH)、硫酸に順次浸漬して、洗浄を行った。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。さらに、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。以上の工程により、マスクブランク用基板1を得た。
【0111】
(5)欠陥検査
次に、得られた基板1の平坦度、表面粗さ並びに内部クラック等の欠陥5の有無及びその位置を検査した。内部クラック等の欠陥5の有無は、特許文献1に記載のエッチング処理を用いる方法によって、内部クラック等の欠陥5を顕在化することにより評価した。ここで、マスクブランク用基板1に求められる平坦度は0.5μm以下とし、表面粗さは算術平均粗さRaで0.1μm以下とした。
【0112】
以上のようにして得られたマスクブランク用基板1について、内部クラック等の欠陥5の顕在化のためのエッチング処理後、内部クラック等の欠陥5は存在しないことを確認した。また、この基板1について、主表面71の平坦度と表面粗さを測定したところ、良品のマスクブランク用基板1として使用可能なレベルで修正することができていた。
【0113】
(6)マスクブランク10の製造
次に、上記のマスクブランク用基板1上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなるハーフトーン型位相シフト膜(パターン形成用薄膜)2を成膜した。
【0114】
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=12at%:88at%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N:He=8:72:100)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.0kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、アニール処理として加熱処理を施した。具体的には、加熱炉を用いて、大気中で加熱温度を550℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。なお、このMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.1%、位相差が184度となっていた。
【0115】
次に、ハーフトーン型位相シフト膜2上に、クロム系材料からなる遮光膜(パターン形成用薄膜)3を成膜した。
具体的には、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:CO:N:He=22:39:6:33)で、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.7kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrOCN膜を30nmの膜厚で形成した。続いて、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N=83:17)で、ガス圧0.1Pa、DC電源の電力を1.7kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrN膜を4nmの膜厚で形成した。さらに、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:CO:N:He=21:37:11:31)で、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.8kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrOCN膜を14nmの膜厚で形成した。以上により、基板1側から、CrOCN膜、CrN膜、CrOCN膜の3層積層構造のクロム系材料の遮光膜3を形成した。以上の工程により、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク(マスクブランク)10を得た。
【0116】
次に、上記の位相シフトマスクブランク10を用いてハーフトーン型位相シフトマスク15を作製した。図5は、位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスク15を製造する工程を示す断面模式図である。まず、マスクブランク10上に、レジスト膜4として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した(同図(a)参照)。レジスト膜4の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。
【0117】
次に上記マスクブランク10上に形成されたレジスト膜4に対し、電子線描画装置を用いて位相シフトパターンのパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4aを形成した(同図(b)参照)。
【0118】
次に、上記レジストパターン4aをマスクとして、遮光膜3(Cr系遮光膜)のエッチングを行って遮光膜パターン3aを形成した(同図(c)参照)。ドライエッチングガスとして、Cl及びOの混合ガスを用いた。
【0119】
次に、上記遮光膜パターン3aをマスクとして、ハーフトーン型位相シフト膜2(MoSiN膜)のエッチングを行って位相シフトパターン2aを形成した(同図(d)参照)。ドライエッチングガスとして、SF及びHeの混合ガスを用いた。
【0120】
次に、マスクブランク10上に、レジスト膜4として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を同様に形成し、電子線描画装置を用いて遮光帯のパターン描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターン4bを形成した(同図(e)参照)。
【0121】
次に、上記レジストパターン4bをマスクとして、遮光膜パターン3a(Cr系遮光膜)のエッチングを行って遮光膜パターン(遮光帯)3bを形成した。ドライエッチングガスとして、Cl及びOの混合ガスを用いた。
【0122】
次に、残存するレジストパターンを剥離して、位相シフトマスク15を得た(同図(f)参照)。位相シフトマスク15は、問題なく使用可能であった。また、位相シフト膜の透過率、位相差はマスクブランク10の製造時と比べ、ほとんど変化はなかった。
【0123】
この位相シフトマスク15を用い、ArFエキシマレーザーを光源とする露光装置で、転写対象物のレジスト膜に対して位相シフトパターンの露光転写を行った。転写対象物のレジスト膜に対して現像処理を行ったところ、火炎処理を行ったマスクブランク用基板1を用いて位相シフトマスク15(転写用マスク)を作製しても、正常にレジストパターンが形成されていることが確認できた。
【0124】
(比較例1)
火炎処理工程を行わなかった以外は、実施例1と同様に、マスクブランク用基板1を100枚、製造した。研磨工程後の欠陥検査において、100枚中3枚のマスクブランク用基板1に内部クラックを発見した。したがって、内部クラックの存在しないマスクブランク用基板1を得るためには、その製造工程において火炎処理を行うことが必要であることが明らかとなった。
【0125】
内部クラックが存在するマスクブランク用基板1から製造されたマスクブランクを用いて転写用マスクを作製した場合、エッチングガスやエッチング液がクラックを拡大させ、基板主表面近傍の一部が脱落してしまう可能性が高い。基板の脱落した部分が転写パターンの露光光を透過する透過部の場合、露光光の乱反射や位相欠陥が生じてしまう。特に、露光光の位相差によって、転写パターンのエッジ強調効果を実現する位相シフトマスクやエンハンサマスクの場合は、露光転写に致命的な問題が生じる。また、バイナリ型の転写用マスクの場合でも、許容されない問題である。一方、基板の脱落した部分の上面にパターン形成用の薄膜(遮光膜、位相シフト膜、光半透過膜等)が残されている部分の場合、基板の脱落部分とともに薄膜が脱落してしまうことでパターン欠陥(白欠陥)が発生してしまう。パターン欠陥は、転写用マスクの種類を問わず、露光転写には許容されない問題である。
【0126】
さらに、転写用マスク洗浄の際、洗浄薬液等によりクラックが拡大して、転写用マスクの基板の一部が剥がれることがあるので、転写用マスクの寿命が短くなることは確実である。したがって、比較例1の内部クラックが存在するマスクブランク用基板1を用いた転写用マスクは、生産ラインでの使用が困難であることが明らかである。
【符号の説明】
【0127】
1 マスクブランク用基板(合成石英ガラス基板)
2 ハーフトーン型位相シフト膜(パターン形成用薄膜)
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜(パターン形成用薄膜)
3a、3b 遮光膜パターン
4 レジスト膜
4a、4b レジストパターン
5 欠陥
10 マスクブランク
15 位相シフトマスク
50 火炎照射装置
52 火炎
71 主表面
72 端面
73 面取面
100 火炎処理装置
102 ステージ
104 火炎制御部
105 引火性ガス
112 ステージコントローラ
114 火炎処理制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主表面を有する基板からなるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記基板の主表面に対して研削を行う工程と、
研削が行われた前記基板の主表面に対して、前記基板の軟化点以上の燃焼温度の火炎を接触させる工程と、
前記火炎を接触させる工程を行った後に、前記基板の主表面に対して研磨を行う工程と
を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板は、合成石英ガラスからなることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
前記火炎は、1600℃以上の燃焼温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記火炎を接触させる工程は、前記基板の主表面を軟化させ、前記基板の主表面近傍に存在する内部クラックを除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上にパターン形成用の薄膜を成膜する工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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